説明

ボールバルブ

【課題】シートリングを弁体に接離させるタイプのボールバルブを粉粒体の空気輸送に用いたときに懸念されるシートリングと弁体間の隙間からの粉粒体の洩れ出しを防止し、洩れた粉粒体が弁体の摺動隙間などに噛み込む現象をなくすることを課題としている。
【解決手段】弁体4に押し付けて弁体外周の摺動隙間を封鎖するシートリング5を有し、そのシートリング5を弁体4から離反させて弁部の開閉操作を行なうボールバルブに、弁体4とその弁体から離反させたシートリング5との間に生じる隙間の外周を取り巻いて外部から供給された空気を前記隙間に向けて噴射するパージ環8を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、弁体に押し付けたシートリングを弁部の開閉時に弁体から離反させてバルブの操作トルクを低減させる所謂無摺動式のボールバルブ、詳しくは、粉粒体の空気輸送路(パイプライン)の切り換え用としての適正を高めたボールバルブに関する。
【背景技術】
【0002】
弁室に挿入された弁体(ボール)にシートリングを押し付けて弁体外周の摺動隙間を封鎖し、弁室とポートの前記摺動隙間を介した連通を遮断するボールバルブ(メタルタッチボールバルブと称されている)の中に、弁部を開閉するときにシートリングを弁体から離反させてバルブの操作トルクを低減させるものがある(例えば、下記特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1に開示されたボールバルブは、シートリングをピストン構造にして弁体への押しつけと弁体からの引き離しを流体圧で行うようにしている。シートリングに対して相反する向きに流体圧を加える2つの圧力室をシートリングの外周に形成しており、片方の圧力室に流体圧が導入されたときにシートリングが弁体に押し付けられ、他方の圧力室に流体圧が導入されるとシートリングが弁体から離反する。
【0004】
なお、シートリングを弁体から離反させても弁体が支持された部分での摺動は起こる。従って、上記構造のボールバルブは、厳密に言えば無摺動バルブとは言えないが、ここでは説明の便宜上これを無摺動バルブと称する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実公平7−10139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記構造の無摺動ボールバルブは、開閉操作がなされるときにシートリングが弁体から離反する。メタルタッチボールバルブは、粉粒体の空気輸送設備に多用されているが、粉粒体の空気輸送においては、シートリングが弁体から離反すると両者の間に生じる隙間から輸送中の粉粒体が洩れ出して摺動隙間などに噛み込むことが懸念され、そのために、粉粒体の空気輸送では無摺動式ボールバルブの使用が躊躇されていた。
【0007】
この発明は、シートリングを弁体に接離させるタイプのボールバルブを粉粒体の空気輸送に用いたときに懸念されるシートリングと弁体間の隙間からの粉粒体の洩れ出しを防止して、洩れた粉粒体が弁体の摺動隙間などに噛み込む現象をなくすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、この発明は、弁室内の弁体に押し付けて弁体外周の摺動隙間を封鎖するシートリングを有し、そのシートリングを前記弁体から離反させて弁部の開閉操作を行なうボールバルブに、弁体とその弁体から離反させた前記シートリングとの間に生じる隙間の外周を取り巻いて外部から供給された空気を前記隙間に向けて噴射するパージ環を設けた。
弁室はバルブボディの内部に設けられ、その弁室に前記パージ環を弁体の動きを妨げないように配置する。
【0009】
かかるボールバルブは、具体的な形態として以下に列挙するものが考えられる。
(1)弁室と入口側のポートとの間にのみ前記シートリングを備え、そのシートリングが弁体に突き合わされる位置の外周に前記パージ環を設置したもの。
(2)弁室と入口側のポートとの間及び弁室と出口側のポート(その数をnとする。nは1を含む整数)との間にそれぞれ前記シートリングを備え、各シートリングが前記弁体に突き合わされる位置の外周にそれぞれ前記パージ環を設置したもの。
(3)前記シートリングとバルブボディとの間に前記シートリングに対して流体圧を作用させる圧力室を有し、その圧力室に導入される流体の圧力を受けて前記シートリングが少なくとも弁体から離反する方向に推進するようにしたもの。
(4)ポートを3つ以上備える多方弁として構成したもの。ここで言う多方弁は、接続の切り換えがなされるポートが3つ以上ある3方弁や4方弁などである。
【0010】
弁体に対するシートリングの押し付けも、流体圧をシートリングに作用させて行うことができる。この場合には、シートリング1個当たりに2つの圧力室を設け、それぞれの圧力室に導入される流体圧の導入状況を切り換えて相反する方向への推力をシートリングに選択的に生じさせるようにしておく。
【0011】
弁体に対するシートリングの押し付けは、弾性体の力で行うこともできる。シートリングを圧力室に導入される流体圧で推進させて弁体から離反させるときに弾性体が圧縮されるようにしておけば、圧力室が除圧されたときの弾性体の弾性復元力でシートリングを弁体に押し付けることができる。
【発明の効果】
【0012】
この発明のボールバルブは、弁室内に空気を噴き出すパージ環を備えており、シートリングが弁体を離反させたときに弁体とシートリングとの間に生じる隙間に向けて空気を噴射することができる。
【0013】
その空気が前記隙間からバルブ内の通路に流入し、その気流によって前記隙間から輸送用の空気とともに漏れ出そうとする通路内の粉粒体が通路に押し戻される。そのために、輸送中の粉粒体の前記隙間からの洩れが防止され、洩れ出た粉粒体が摺動隙間などに噛み込む事態が起こり難くなる。これにより、本出願が改善の対象にしている無摺動式ボールバルブを粉粒体の空気輸送設備に使用することが可能になる。
【0014】
なお、具体的形態として上に列挙したボールバルブの作用、効果などは、後に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明のボールバルブの一例を、ポートの軸心と平行、かつ、弁体の軸心にも平行な面に沿って切断して示す断面図
【図2】図1のボールバルブの部分破断左側面図
【図3】図1のIII−III線に沿った位置の断面図
【図4】パージ環を図3のIV−IV線に沿って見た図
【図5】この発明のボールバルブの他の例を、ポートの軸心と平行、かつ、弁体の軸心にも平行な面に沿って切断して示す断面図
【図6】この発明のボールバルブのさらに他の例を、ポートの軸心と平行、かつ、弁体の軸心と直角な面に沿って切断して示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面の図1〜図6に基づいてこの発明のボールバルブの実施の形態を説明する。図1〜図4は第1形態を表している。この第1形態のボールバルブ1は、2方弁として構成されたものであって、バルブボディ2、ボンネット3、弁体(ボール)4、シートリング5、シート受け6、トルクアクチュエータ7及びこの発明を特徴づけるパージ環8を組み合わせている。
【0017】
バルブボディ2は、弁室9とその弁室を間にして同一軸線上に設けられた2つのポート10−1,10−2を有しており、弁室9に弁体4が挿入されている。
【0018】
弁体4は、ポート10−1、10−2を連通させる弁孔11と、その弁孔の軸心と直交した線上かつ、弁孔の中心を基準にして180°ずれた位置に配置される2つの支軸12−1,12−2を有している。
【0019】
支軸12−1は、ボンネット3に組み付けた軸受13−1よって、支軸12−2は、バルブボディ2に組み付けた軸受13−2によって、それぞれ支持され、支軸12−1の延長部が入力部としてボンネット3の外部に引き出され、そこに、トルクアクチュエータ7の出力軸が連結されている。図1の14−1,14−2は、スラスト軸受である。
【0020】
シートリング5は、ポート10−1側に組み込まれている。このシートリング5は、弁室
9を臨む側を小径、反対側を大径にしたピストン兼用のリングとして構成され、ポート10−1に摺動自在に挿入されている。
【0021】
ポート10−1の開口部にはシート受け6がねじ込まれており、このシート受け6によってシートリング5がポート10−1内に保持される。
【0022】
なお、シートリング5は、小径部と大径部の外周がそれぞれOリングでシールされ、さらに、大径部の内周と大径部の内側に挿入されたシート受け6の先端の小径部との間の界面もOリングでシールされている。これにより、シートリング5の外周の段差面が臨む位置とシートリング5の大径側の端面が臨む位置に、それぞれ気密に封止された圧力室15−1と15−2が作り出されている。
【0023】
それ等の圧力室15−1,15−2には、電磁弁(図示せず)経由で空気圧などの流体圧が導入される。弁体4が閉弁姿勢になっているときに圧力室15−2に流体圧を導入するとシートリング5が前進して弁体4に押し付けられ、弁体4とシートリング5間の摺動隙間が無くなってポート10−1、10−2の前記摺動隙間を介した連通が断たれる。
【0024】
また、圧力室15−2を除圧して圧力室15−1に流体圧を導入すると、シートリング5が弁体4から離反し、低トルクでの弁体4の回転操作が可能になる。
【0025】
図示のトルクアクチュエータ7は、空気圧で駆動される。空気の導入状態を切り換えることで駆動の方向が反転し、弁体4を開弁位置から閉弁位置に、あるいはそれとは逆に回転させる。
【0026】
パージ環8は、中空パイプの内周側に、小さな噴射孔(図示せず)を適当な間隔をあけて多数設けたものになっている。噴射孔は、周方向に連続したスリットや周方向に間欠的に配置されるスリットなどであってもよく、小孔に限定されない。
【0027】
このパージ環8は、弁室9内に、弁体4とその弁体から離反させたシートリング5との間に生じる隙間g(図3参照)の外周を取り巻くように設置される。バルブボディ2には、空気導入口16を設けてあり、外部から供給される空気がその導入口16からパージ環8に流入し、パージ環8の噴射孔から前記隙間gに向けて噴射される。
【0028】
以上のように構成された図1のボールバルブ1は、粉粒体の空気輸送設備に含まれるパイプライン(図示せず)の中の、粉粒体が輸送用の空気と一緒に上から下に向けて流される部分(起立配管部や傾斜配管部など)に、ポート10−1が上(入口)、ポート10−2が下(出口)となる向きに組み込まれる。
【0029】
このボールバルブ1は、シートリング5を弁体4から離反させて開閉状態を切り換える。そのときに、弁体4とシートリング5間に図4に示した隙間gができる。粉粒体を空気流に載せて輸送しているときにその隙間gができると粉粒体が輸送用の空気とともに隙間から洩れ出ようとする。そこで、パージ環8から空気を噴き出させて隙間gからの洩れを防止する。
【0030】
図1のボールバルブ1は、ポート10−1を上、ポート10−2を下にし、ポート10−1からポート10−2に向けて粉粒体を通過させるので、シートリング5とパージ環8は入口側にのみ設けており、出口側にはそのシートリングとパージ環が存在しない。
【0031】
粉粒体を上から下に向けて輸送するときには、図1のように、出口となる側にはシートリングやパージ環が無い方がむしろ都合が良い。出口となる側にシートリングやパージ環が無ければ弁室の内部に粉粒体を滞留させる空間ができないので、弁体とシートリング間に生じた隙間から粉粒体が万一洩れ出ても、洩れた粉粒体は出口に流れるからである。
【0032】
図5は、第2形態のボールバルブであって、出口となるポート10−2側にも、ポート10−1側に設けたものと同様のシートリング5とシート受け6とパージ環8とシートリング5に推力を付与する圧力室15−1,15−2を設けている。
【0033】
この第2形態のボールバルブ1は、組み付けの方向性がなく、ポート10−1、10−2のどちらを入口に設定しても同じ機能が発揮されるため、誤組み付けが起こらない。
【0034】
この第2形態のボールバルブ1は、パイプラインに組み付けるときの姿勢が制限されないため、パイプラインの起立配管部、傾斜配管部、水平配管部のどこにでも組み付けることができる。また、粉粒体が下から上に向って輸送される箇所にも設置することができる。
【0035】
図6は、3方弁として構成された第3形態のボールバルブである。この第3形態のボールバルブ1は、バルブボディ2にポートが3つ設けられている。そのポート10−1〜10−3のうち、ポート10−1が入口、ポート10−2,10−3が分岐出口として使用される。
【0036】
ポート10−1〜10−3のそれぞれに、図1のボールバルブのポート10−1側に設けたものと同様のシートリング5と、シート受け6と、パージ環8と、シートリング5に推力を付与する圧力室15−1,15−2を設けている。
【0037】
図6のボールバルブ1は、分岐角度45°のバルブとして構成されており、弁体4を図の位置から67.5°時計回りの方向に回転させるとポート10−2,10−3がポート10−1から切り離され、弁体4をそこからさらに67.5°(図6の位置から135°)時計回りの方向に回転させるとポート10−1がポート10−3に連通する。
【0038】
その接続の切り換えを、各シートリング5を弁体4から離反させて行う。また、そのときに、パージ環8から空気を噴出させ粉粒体の洩れを防止する。
【0039】
なお、この発明は、分岐角度60°の3方弁や、ポート数がより多い4方弁などにも適用することができる。
【0040】
また、弁体4に対するシートリング5の押し付けは、弾性体の力で行うこともできる。例えば、図1の圧力室15−2を大気室に置き換え、その大気室に皿ばねなどの弾性体を組み込んでその弾性体がシートリング5を流体圧で推進させて弁体4から離反させるときに圧縮されるようにしておけば、圧力室15−1が除圧されたときに弾性体の弾性復元力でシートリング5を弁体5に押し付けることができる。
【0041】
このほか、図示のボールバルブは、シートリング5がいずれも金属で形成されているが、弁体4との接触部がゴムなどの弾性体で形成されたシートリングを備えたボールバルブもこの発明の適用対象になる。
【0042】
また、図示のボールバルブは、いずれも、バルブボディ2とボンネット3がステンレス鋳鋼で、弁体4、シートリング5、シート受け6、パージ環8がステンレス鋼でそれぞれ形成されているが、これ等の構成要素の材料がステンレスであることは必須の要件ではない。
【符号の説明】
【0043】
1 ボールバルブ
2 バルブボディ
3 ボンネット
4 弁体
5 シートリング
6 シート受け
7 トルクアクチュエータ
8 パージ環
9 弁室
10−1〜10−3 ポート
11 弁孔
12−1,12−2 支軸
13−1,13−2 軸受
12−1,12−2 支軸
15−1,15−2 圧力室
16 空気導入口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁室(9)内の弁体(4)に押し付けて弁体外周の摺動隙間を封鎖するシートリング(5)を有し、そのシートリング(5)を前記弁体(4)から離反させて弁部の開閉操作を行なうボールバルブにおいて、
前記弁室(9)に、前記弁体(4)とその弁体から離反させた前記シートリング(5)との間に生じる隙間(g)の外周を取り巻いて外部から供給された空気を前記隙間(g)に向けて噴射するパージ環(8)を設けたことを特徴とするボールバルブ。
【請求項2】
前記弁室(9)と入口側のポート(10−1)との間にのみ前記シートリング(5)を備え、そのシートリング(5)が前記弁体(4)に突き合わされる位置の外周に前記パージ環(8)を設置した請求項1に記載のボールバルブ。
【請求項3】
前記弁室(9)と入口側のポート(10−1)との間及び前記弁室(9)と出口側のポート(10−2〜10−n)との間にそれぞれ前記シートリング(5)を備え、各シートリング(5)が前記弁体(4)に突き合わされる位置の外周にそれぞれ前記パージ環(8)を設置した請求項1に記載のボールバルブ。
【請求項4】
前記シートリング(5)とバルブボディ(2)との間に前記シートリング(5)に対して流体圧を作用させる圧力室(15)を有し、
その圧力室(15)に導入される流体の圧力を受けて前記シートリング(5)が少なくとも前記弁体(4)から離反する方向に推進するようにした請求項1〜3のいずれかに記載のボールバルブ。
【請求項5】
前記ポート(10)を3つ以上備える多方弁として構成した請求項1〜4のいずれかに記載のボールバルブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−17826(P2012−17826A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−156847(P2010−156847)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【出願人】(591063051)日本ボールバルブ株式会社 (5)
【Fターム(参考)】