説明

ポジ型感光性ポリイミド樹脂組成物

【課題】
i線(365nm)露光で感度がよく、高解像度であり、アルカリ水溶液現像が可能で、良好なレリーフパターンが形成できるポジ型感光性ポリイリミド樹脂組成物を提供する。
【解決手段】
ジアミン成分として特定のフェニレンジアミン誘導体の塩を使用し、酸成分として脂環族テトラカルボン酸二無水物を使用し、これらの成分を−0.20Volt以上、0.34Volt以下の標準酸化還元電位を有する還元剤の存在下でイミド化反応させることによって得られるポリイミド樹脂、及び感光性化合物を含有するポジ型感光性ポリイミド樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、i線(365nm)において高い透過率を有するヒドロキシ基含有透明ポリイミド樹脂と感光性化合物を含有するポジ型感光性ポリイミド樹脂組成物、及びこのポジ型感光性樹脂組成物を使用して得られる、電気または電子絶縁材料(特に半導体素子の保護膜及びフレキシブル液晶ディスプレー(LCD)用プラスチック)として有用なポリイミドレリーフパターンの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体素子の表面保護膜、層間絶縁膜、バッファーコートには、優れた耐熱性と電気特性、機械特性等を併せ持つポリイミド樹脂が用いられている。しかし、近年、半導体素子の高集積化、大型化が進む中、封止樹脂パッケージの薄型化、小型化の要求があり、LOC(リード・オン・チップ)や半田リフローによる表面実装などの方式が取られてきており、これまで以上に機械特性、耐熱性、感光性、透明性等に優れたポリイミド樹脂が必要とされるようになってきた。
【0003】
一方、ポリイミド樹脂自身に感光性特性を付与した感光性ポリイミド樹脂が用いられてきているが、これを用いるとパターン作製工程が簡略化でき、煩雑な製造工程の短縮が行える。ネガ型では、ポリイミド前駆体(アミック酸)にエステル結合またはイオン結合あるいはアミド結合、IPN型などを介してメタクリロイル基を導入したもの、光重合オレフィンを有する可溶性ポリイミド、ベンゾフェノル骨格を有し、かつ窒素原子が結合する芳香環のオルト位にアルキル基を有する水素引抜反応を利用した自己増感型ポリイミド、光酸化誘起重合反応を利用し、フラン構造を有する可溶性ポリイミドなどが従来知られている。
【0004】
しかし、これらのネガ型では、現像工程にて環境上好ましくないN−メチルピロリドンなどの有機溶剤を使用するので、現像工程での安全性に問題があり、近年、従来のネガ型に代わって、アルカリ水溶液で現像できるポジ型感光性ポリイミド樹脂が開発されている。露光した部分が現像により溶解するポジ型の耐熱性樹脂組成物としては、ポリアミド酸にナフトキノンジアジドを添加したもの(例えば、特許文献1参照)、水酸基を有したポリアミド酸にナフトキノンジアジドを添加したもの(例えば、特許文献2参照)、酸・塩基分解基を有するポリイミド前駆体に光酸発生剤(PAG)/光塩基発生剤(PBG)を添加したもの(例えば、特許文献3,4参照)、O−ニトロベンジル基をポリイミド前駆体に導入したもの(例えば、特許文献5参照)などがある。
【0005】
ポリイミド前駆体を使う場合は、上記のいずれの方法も、光加工後、加熱処理によりイミド閉環を行う必要があり、その際、イミド閉環に伴う脱水と架橋基成分の揮発による体積収縮によって、膜厚の損失及び寸法安定性の低下が起こるという欠点は避けられない。更に、閉環反応より高温での加熱処理工程は、他の電子部品または有機材料の劣化を招く可能性もある。環化プロセスを要しない有機溶剤可溶性のポリイミドそのものを感光化したものが提案されている(例えば、ポジ型に関しては特許文献6,7参照)が、これらは感光特性に劣る欠点がある。
【0006】
さらに、一般的にポリイミド樹脂は分子内共役や電荷移動錯体の形成により本質的に着色し、i線透過率が低い。このようなポリイミドに感光性を付与したものでは、膜の深部まで光(i線)が到達せず、表面付近のみが光硬化あるいは光可溶化する。このため、5μm程度の薄膜では比較的容易にレリーフパターンを得ることができるが、10μm以上の膜厚の場合には技術的に難しい。
【0007】
その解決策として、例えばフッ素を導入したり、主鎖に屈曲性を与えたり、嵩高い側鎖を導入するなどして電荷移動錯体の形成を阻害して透明性を発現させる方法が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。また、原理的に電荷移動錯体を形成しない半脂環式または全脂環式ポリイミド樹脂を用いることにより透明性を発現させる方法も提案されている(例えば、特許文献7参照)。フッ素基を導入したポリイミド樹脂を用いる方法は良好なi線透過率を示すものの、その製造コストが高いという問題がある。一方、全脂環式ポリイミド樹脂はi線透過率に優れているが、耐熱性に劣るということが知られている。半脂環式ポリイミドはi線透過率と耐熱性の両方において優れており、優れた感光性を示すことが期待される。
【0008】
半脂環式ポリイミド樹脂は、脂環族構造を有するテトラカルボン酸二無水物と芳香族構造を有するジアミン、または、芳香族構造を有するテトラカルボン酸二無水物と脂環族構造を有するジアミンから製造することができる。
【0009】
特許文献8では、ジアミン成分としてフェノール性水酸基やカルボキシル基、チオフェノール基、スルホン酸基を含むポリイミドまたはポリイミド前躯体と感光性化合物とからなり、塩基性水溶液で現像できるポジ型感光性ポリイミドが紹介されている。
【0010】
特許文献9では、4,6−ジアミノレゾルシノール、2,5−ジアミノ−1,4−ベンゼンジチオール、1,2,4,5−テトラアミノベンゼンなどのフェニレンジアミン誘導体および又はその塩は、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸と縮重合反応させることで、優れた耐熱性、寸法安定性及び高強度なポリベンゾオキサゾール、ポリベンズチアゾール、ポリベンズイミダゾールなどのポリベンゾアゾールを与えることが知られている。
【0011】
しかしながら、これらのフェニレンジアミン誘導体の塩とカルボン酸無水物を縮重合反応させるポリイミドの合成に関する研究は極めて少ない。
【0012】
上述したフェニレンジアミン誘導体の塩を出発原料として得られるポリイミドは、その製造が極めて困難である。その理由の一つとして、フェニレンジアミン誘導体が極めて酸化され易いという欠点が挙げられる。例えば、4,6−ジアミノレソルシンは酸化を防ぐため、通常は安定な無機酸塩の形で供給される。しかし、酸無水物と反応させて重合をさせる際に、4,6−ジアミノレソルシンの形に戻さなければならない。その場合、4,6−ジアミノレソルシンはすぐ酸化され、薄いピンクから赤、黒までに変色してしまい、高分子量のポリマーの合成が困難である上に、重合系の着色が大きくなり、得られたポリマーの透明性をはじめ諸物性に悪影響をもたらすことが問題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開昭52−013315号公報
【特許文献2】特開平04−204945号公報
【特許文献3】特開平04−120171号公報
【特許文献4】特開平10−186664号公報
【特許文献5】特開昭60−037550号公報
【特許文献6】特開昭63−013032号公報
【特許文献7】特開2001−343747号公報
【特許文献8】特開2002−116541号公報
【特許文献9】特開平11−60546号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】「ポリマー(Polymer)」(米国)、2006年、第47巻、P.2337−2348
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記の従来技術の問題に鑑み創案されたものであり、その目的は、i線(365nm)露光で感度がよく、高解像度であり、アルカリ水溶液現像が可能で、良好なレリーフパターンが形成できるポジ型感光性ポリイリミド樹脂組成物、及びそれを使用して得られるポリイミドレリーフパターンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、かかる目的を達成するために鋭意研究を続けた結果、特定の還元剤の存在下で酸化を抑制しながら、フェニレンジアミン誘導体と脂環族テトラカルボン酸二無水物を反応させることにより透明なポリイミド樹脂が得られ、これを感光性化合物とともに使用することにより上記目的が達成されることを見出し、本発明の完成に至った。
【0017】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(8)の構成を有するものである。
(1)ジアミン成分として下記一般式[I]又は一般式[II]で表されるフェニレンジアミン誘導体の塩を使用し、酸成分として脂環族テトラカルボン酸二無水物を使用し、これらの成分を−0.20Volt以上、0.34Volt以下の標準酸化還元電位を有する還元剤の存在下でイミド化反応させることによって得られるポリイミド樹脂、及び感光性化合物を含有することを特徴とするポジ型感光性ポリイミド樹脂組成物:
【化1】

【化2】

式中、Rは一価の有機基であり、Xは一価の無機アニオンであり、Yは二価の無機アニオンである。
(2)前記ポリイミド樹脂を乾燥膜厚10μmのフィルムにした際の波長365nmにおける前記ポリイミド樹脂の光線透過率が70%以上であることを特徴とする(1)に記載のポジ型感光性ポリイミド樹脂組成物。
(3)前記感光性化合物が光酸発生剤であることを特徴とする(1)又は(2)に記載のポジ型感光性ポリイミド樹脂組成物。
(4)前記感光性化合物が感光性オルトキノンジアジド化合物であることを特徴とする(1)又は(2)に記載のポジ型感光性ポリイミド樹脂組成物。
(5)前記フェニレンジアミン誘導体の塩が4,6−ジアミノレゾルシノール塩酸塩であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のポジ型感光性ポリイミド樹脂組成物。
(6)前記還元剤が塩化スズ(II)であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載のポジ型感光性ポリイミド樹脂組成物。
(7)(1)〜(6)のいずれかに記載のポジ型感光性ポリイミド樹脂組成物の塗膜を基材上に形成した後、活性光線の照射によりパターン露光し、塩基性水溶液で現像した後、熱処理することを含むことを特徴とするポリイミドレリーフパターンの製造方法。
(8)(7)に記載の製造方法で得られるポリイミドレリーフパターンを含むことを特徴とする電気または電子絶縁材料。
【発明の効果】
【0018】
本発明のポジ型感光性ポリイミド樹脂組成物は、特定の還元剤の存在下での脂環式テトラカルボン酸二無水物と、水酸基を持つフェニレンジアミン誘導体の塩との反応によって得られる高重合度の透明なポリイミド樹脂を使用しているので、高解像度のポジ型パターン形成が可能であり、半導体デバイス等の製造における電気、電子絶縁材料として極めて好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のポジ型感光性ポリイミド樹脂組成物は、特定のポリイミド樹脂と感光性化合物を含有するものである。まず、本発明で使用するポリイミド樹脂について説明する。
【0020】
本発明のポリイミド樹脂は、酸成分として脂環族テトラカルボン二酸無水物を使用し、ジアミン成分として特定のフェノール性水酸基を有するフェニレンジアミン誘導体の塩を使用し、これらを特定の還元剤の存在下でイミド化反応させることによって得られるものであり、高い透明性、溶剤溶解性を持つことを特徴とする。
【0021】
一般にポリイミド樹脂は有機溶剤に不溶であるため、可溶性を示す前駆体の状態で使用し、その後、脱水閉環反応を経てポリイミド層を形成することが必要である。この場合、350℃以上の高温プロセスを要するため、半導体装置の熱劣化を招く恐れがある。それに対して、本発明のポリイミド樹脂は、脱水閉環反応を経た後においても溶剤溶解性を示す。
【0022】
ここで溶剤溶解性とは、少なくとも1種の有機溶剤にポリイミド樹脂が30℃で1質量%以上溶解することを言う。有機溶媒の例としては、沸点が350℃以下のものが挙げられ、好ましい例としては、沸点300℃以下のものが挙げられ、さらに好ましい例としては、沸点250℃以下のものが挙げられる。具体例としては、p−クロロフェノール、m−クレゾールなどのフェノール系溶媒、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミドなどのアミド系溶媒、またはγ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン、α−メチル−γ−プチロラクトン等の環状エステル溶媒などが挙げられる。
【0023】
本発明のポリイミド樹脂の酸成分に用いる脂環族テトラカルボン酸二無水物は、脂環族構造の導入により、分子内及び分子間での電荷移動錯体の形成を抑制すると同時に、分子内の共役結合を切断することにより、ポリイミド樹脂に高い透明性を与える。脂環族テトラカルボン酸二無水物は、ポリイミド樹脂の全酸成分を100モル%とした場合に、好ましくは50%モル以上、より好ましくは75%モル以上を占めることが好ましい。上記下限値未満では、得られたポリイミド樹脂の透明性が低下する傾向にある。
【0024】
脂環族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、3c−カルボキシメチルシクロペンタン−1r,2c,4c−トリカルボン酸1,4:2,3−二無水物、シクロへキサン−cis−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物,シクロへキサン−cis−1,2−trans−3,4−テトラカルボン酸二無水物、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、1,5−シクロオクタジン−1,2,5,6−テトラカルボン酸二無水物、5−カルボキシメチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3,6−トリカルボン酸2,3:5,6−二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸2,3:5,6−二無水物、1−メチル−ビシクロ[2,2,2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2,2,2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、7,8−ジフェニルビシクロ[2.2.2]オクタ−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[3.3.0]オクタン−2,4,6,7−テトラカルボン酸二無水物、4,8−ジフェニル−1,5−ジアザビシクロ[3.3.0]オクタン−2,3,6,7−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[4.3.0]ノナン−3,4,7,9−テトラカルボン酸二無水物、トリシクロ[4.2.2.02,5]デカ−7−エン−3,4,7,8−テトラカルボン酸二無水物、9−オキサトリシクロ[4.2.1.02,5]ノナン−3,4,7,8−テトラカルボン酸二無水物、9、14−ジオキソペンタシクロ[8.2.11,11.14,7.02,10.03,8]テトラデカン−5,6,12,14−テトラカルボン酸二無水物、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン−3,5,8,9−テトラカルボン酸二無水物、8−カルボキシメチルトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン−3,5,9−トリカルボン酸二無水物、4−カルボキシメチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカン−5,9,10−トリカルボン酸二無水物、ペンタシクロ[9.2.1.18,11.05,13.07,12]ペンタデカン−2,3,9,10−テトラカルボン酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、1α,4α:5β,8β−ジメタノデカリン−2β,3β,6β,7β−テトラカルボン酸2,3:6,7−二無水物、スピロ環構造を有するメタンテトラ酢酸二無水物、2,8−ジオキサスピロ[4.5]デカン−1,3,7,9−テロトン、rel−[1S,5R,6R]−3−オキサビシクロ[3.2.1]オクタン−2,4−ジオン−6−スピロ−3’−(テトラヒドロフラン−2’,5’−ジオン)、2,1’:5,6−(2−メチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン)テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、4,4’−デカメチレンジオキシビス(3,4−シクロヘキサンジカルボン酸無水物)、チオビス(2,3−ノルボルナンジカルボン酸無水物)、スルホニルビス(2,3−ノルボルナンジカルボン酸無水物)、5,5’−エチレンジオキシビス(2,3−ノルボルナンジカルボン酸無水物)などが挙げられる。
【0025】
一般に、脂肪族テトラカルボン酸二無水物とジアミン成分によってポリイミドを重合する際に、中間生成物であるポリアミド酸とジアミンが強固な錯体を形成するために高分子量化しにくい。そのため、錯体の溶解性が比較的高い溶剤、例えばクレゾールなどを用いることが必要になる。しかし、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物及び1,2,4,5−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物をはじめとする脂環族テトラカルボン酸二無水物とジアミン成分の場合には、ポリアミド酸とジアミンの錯体が比較的弱い結合で結ばれているので、高分子量化が比較的容易で、フレキシブルなフィルムを得ることができる。
【0026】
なお、本発明のポリイミド樹脂は、重合反応性、要求特性を損なわない範囲で、芳香族系テトラカルボン酸二無水物、芳香族系トリカルボン酸無水物、脂肪族系テトラカルボン酸二無水物などを共重合しても良い。
【0027】
本発明のポリイミド樹脂のジアミン成分に用いるフェニレンジアミン誘導体は、下記一般式[I]及び一般式[II]に示すようなフェノール性水酸基を有するフェニレンジアミン誘導体の塩である。このジアミン成分により、本発明のポリイミド樹脂は高い溶剤溶解性を示す。
【化1】

【化2】

式中、Rは一価の有機基であり、例えばアルキル基、水酸基、ハロゲンなどが含まれる。Xは一価の無機アニオンであり、Yは二価の無機アニオンである。
【0028】
一般式[I]及び一般式[II]のフェニレンジアミン誘導体は、ポリイミド樹脂の全ジアミン成分を100モル%とした場合に、好ましくは50モル%以上、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上を占めることが好ましい。上記下限値未満では、ポリイミドの溶解性が悪くなるという恐れがある。
【0029】
フェニレンジアミン誘導体としては、アミドール、2,4−ジアミノフェノール硫酸塩、4,6−ジアミノレゾルシノール二塩酸塩などを使用することができる。特に4,6−ジアミノレゾルシノール二塩酸塩が好ましい。
【0030】
なお、本発明のポリイミド樹脂は、重合反応性、要求特性を損なわない範囲で、一般式[I]や一般式[II]以外の芳香族系ジアミン成分、脂肪族系ジアミン成分を共重合しても良い。
【0031】
上記のポリイミド樹脂を製造する方法は、特定の還元剤を使用すること以外は、従来公知の方法を適宜採用することができる。例えば、ポリイミド樹脂は、上記の一般式[I]または一般式[II]で表されるフェニレンジアミン誘導体の塩を含むジアミン成分を、脱水した重合溶媒に溶解し、これに脂環族テトラカルボン酸二無水物を含む酸成分を添加し、窒素雰囲気で攪拌することによって製造することができる。
【0032】
本発明のポリイミド樹脂を合成する際の酸成分/ジアミン成分の混合比(モル比)は、好ましくは0.800〜1.200/1.200〜0.800、より好ましくは0.900〜1.100/1.100〜0.900、更に好ましくは0.950〜1.150/1.150〜0.950である。
【0033】
また、ポリイミド樹脂の分子末端封鎖のためにジカルボン酸無水物、トリカルボン酸無水物、アニリン誘導体などの末端封止剤を用いることができる。好ましい末端封止剤としては、無水フタル酸、無水マレイン酸、エチニルアニリンが挙げられ、無水マレイン酸が特に好ましい。末端封止剤の使用量は、モノマー成分1モル当たり0.001〜1.0モル比である。
【0034】
本発明では、酸成分とジアミン成分のイミド化反応時に−0.20Volt以上、0.34Volt以下の標準酸化還元電位を有する還元剤を存在させることが極めて重要である。ここでの還元剤は、フェニレンジアミン誘導体の塩の酸化を防ぎ、ポリイミド樹脂を着色させない効果を持つ。フェニレンジアミン誘導体の塩の標準酸化還元電位は約0.35Voltであるため、この値以上の標準酸化還元電位を有する還元剤は酸化を抑制する効果が小さい。また、−0.20Volt未満の標準酸化還元電位を有する還元剤は、フェニレンジアミン誘導体塩酸塩を初め、反応物の副反応を招く恐れがあるので好ましくない。還元剤の具体例としては、TiCl、CuCl、SnCl(塩化スズ(II))などの金属塩、次亜燐酸、チオ硫酸ナトリウム等のリンまたは硫黄の還元性酸化物が挙げられる。この中で、特にTiCl、CuCl、SnClなどの金属塩化物が少量で効果が大きいので好ましい。特にSnCl及びその水和物は有機溶媒に可溶で、無色であるので最も好ましい。標準酸化還元電位の値は「化学便覧」日本化学会編、基礎編II、第1版を参照することができる。標準酸化還元電位は、標準電極電位とも言われ、水素圧が1気圧で溶液中の水素イオン単位活量である水素電極を基準電極として用いる電極電位であり、サイクリックボルタンメトリーにより測定することができる。なお、本発明における標準酸化還元電位とは、水中、25℃での値である。
【0035】
還元剤の使用量は、その種類により変動するが、0.01%以上(還元剤重量/フェニレンジアミン誘導体の塩の重量)含有していることが必要であり、好ましくは0.1%以上、さらに好ましくは0.5%以上含有することが好ましい。上記値未満の使用量では、還元剤による安定化の効果が充分でなく好ましくない。10%以上の使用量では、酸化防止効果は充分であるが、ポリマーの精製や廃液処理にコストの上昇を招くので、好ましくない。
【0036】
ポリイミド樹脂の合成時には重合触媒を使用することができる。重合触媒としては、例えば、γ−バレロラクトン、γ−ブチルラクトンあるいはγ−テトロン酸などが挙げられる。重合触媒の使用量は、フェニレンジアミン誘導体の塩の重量を基準として、0.001〜0.5重量%であることが好ましい。
【0037】
ポリイミド樹脂の合成時にはフェニレンジアミン誘導体の塩からフェニレンジアミン誘導体を生成するために塩基性化合物を使用することができる。塩基性化合物としては、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属又はアンモニウムイオンの水酸化物又は炭酸塩、アミン化合物などが挙げられる。具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、アンモニア水などの無機アルカリ類、エチルアミン、n−プロピルアミン類、トリエチルアミン、メチルジエチルアミンなどの第三アミン類、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルコールアミン類、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニルムヒドロキシドなどの第四級アンモニウム塩アルカリ類などが挙げられる。特に塩基性及び後処理の観点から、トリエチルアミンの使用が好ましい。塩基性化合物の使用量は、塩基性化合物のモル数/フェニレンジアミン誘導体の塩のモル数で表わすと、好ましくは1.6〜2.4/1.2〜0.8、より好ましくは1.8〜2.2/1.1〜0.9、更に好ましくは1.9〜2.3/2.3〜1.9である。
【0038】
ポリイミド樹脂の合成時に使用する有機溶剤としては、原料モノマーおよび中間生成物であるポリアミド酸、生成物であるポリイミド樹脂のいずれにも溶解するものであれば特に限定されないが、例えば、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、N−メチル−2−ピロリドン,N−アセチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、スルホラン、ハロゲン化フェノール類等が挙げられる。これらの溶剤は、単独あるいは混合して使用することができる。有機溶剤の使用量は、仕込みモノマーを溶解するのに十分な量であればよい。モノマーの濃度は通常1〜50重量%であり、好ましくは5〜30重量%である。
【0039】
重合反応は、有機溶剤中で撹拌および/又は混合しながら、室温から60〜250℃の温度範囲まで、10分〜30時間連続して進めた後、必要により重合反応を分割したり、温度を上下させても構わない。この場合に、酸成分とジアミン成分の添加順序には特に制限はないが、ジアミン成分の溶液中に酸成分を添加するのが好ましい。
【0040】
合成時には脱水剤を使用することができる。脱水剤としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸などの脂肪族カルボン酸無水物、および無水安息香酸などの芳香族カルボン酸無水物などが挙げられる。脱水剤の含有量は、脱水剤の含有量(モル数)/ポリアミド酸の含有量(モル数)が0.01〜10.00となる範囲が好ましい。また、水を共沸させるために共溶媒を使用することができる。共溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン等が挙げられるが、特にこれらに限定されない。
【0041】
さらに、ポリイミド樹脂の性能向上を目的として、例えば、機械的特性、電気的特性、滑り性、難燃性などを改良する目的で、ポリイミド樹脂溶液に、他の樹脂や有機化合物、及び無機化合物を混合させたり、あるいは反応させてもよい。これらの添加物は、その目的によって様々なものを採用することができ、特に限定されるものではない。また、添加方法、添加時期においても特に限定されるものではない。
【0042】
重合反応によって得られたポリイミド樹脂は、適当な貧溶媒を用いて反応溶液から再沈殿させても良い。貧溶媒としては、アセトン、メタノール、エタノール、水などが挙げられるが、特にこれらに限定されない。また、再沈殿した後の残存反応溶媒を除去する溶媒についても特に限定されないが、再沈殿させた際に用いた溶媒を使用することが好ましい。
【0043】
本発明では、反応溶液をそのままポリイミド樹脂溶液として利用しても良いし、反応溶液から上記手法で再沈殿させたポリイミド樹脂を再び溶媒に溶解させてポリイミド樹脂溶液を得てもよい。後者の場合、前述の有機溶剤を使用することができる。
【0044】
ポリイミド樹脂の分子量は、N−メチル−2−ピロリドン中(ポリマー濃度0.5g/dl)、30℃での対数粘度で、0.5から2.5dl/gに相当する分子量を有するものが好ましく、より好ましくは0.6から2.3dl/gに相当する分子量を有するものであり、さらに好ましくは0.7から2.0dl/gに相当する分子量を有するものである。対数粘度が上記範囲未満では、機械的特性が不十分となる場合があり、また上記範囲を超えると溶液粘度が高くなるため、成型加工が困難となることがあるので好ましくない。この対数粘度のコントロールは、テトラカルボン酸二無水物とジアミン成分のモル比を調整することにより達成できる。
【0045】
ポリイミド樹脂と有機溶媒を混合させる手段としては、特に限定されないが、例えば、通常の攪拌翼、高粘度用の攪拌翼を用いて混合攪拌する方法、多軸の押し出し機、あるいはスタティックミキサーなどを用いる方法、更には、ロールミルなどの高粘度用混合分散機を用いる方法を用いて混合攪拌することが挙げられる。ポリイミド樹脂溶液中のポリイミド樹脂の含有量は、好ましくは1〜50質量%、より好ましくは5〜30質量%である。この場合、その粘度はブルックフィールド粘度計による測定で0.1〜2000Pa・S、好ましくは1〜1000Pa・Sであることが安定した送液の点で好ましい。
【0046】
上記のようにして得られるポリイミド樹脂は、ポリイミド樹脂を乾燥膜厚10μmのフィルムにした際の波長365nmにおける光線透過率が70%以上、さらには75%以上を持ち、高い透明性を達成することができる。
【0047】
次に、本発明で使用する感光性化合物について説明する。
【0048】
本発明の感光性化合物は、光の照射部の現像液への可溶性を増大させる機能を有するものであり、その種類としては、感光性オルトキノンジアジド化合物、アリールジアゾニウム塩、ジアリールヨードニウム塩、トリアリールスルホニウム塩などの光酸発生剤が挙げられる。これらの中では感光性オルトキノンジアジド化合物が高感度及び高解像度の点で好ましい。
【0049】
感光性オルトキノンジアジド化合物の具体例としては、1,2−ナフトキノン−2−ジアジド−5−スルホン酸、1,2−ナフトキノン−2−ジアジド−4−スルホン酸の低分子ヒドドロキシベンゼン、2−および4−メチル−フェノール、4,4’−ヒドロキシープロパンのエステル等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種類以上組合せて用いても良い。
【0050】
また、感光性化合物の添加量は、感度と現像時間の許容幅の点から、ポリイミド樹脂100重量部に対して好ましくは1〜50重量部、より好ましくは5〜40重量部、さらに好ましくは20〜40重量部である。添加量が少なすぎる場合には、露光部と非露光部の溶解度差が小さすぎて、現像によりパターン形成不能となり、多すぎる場合には、ポリイミド重合体の膜物性(靭性、線熱膨張係数、ガラス転移温度、耐熱性等)に悪影響を及ぼす恐れがある他、硬化後の膜減が大きいといった重大な問題が生じる恐れがある。
【0051】
本発明のポジ型感光性ポリイミド樹脂組成物は、例えば、架橋剤、可塑剤、表面活性剤、増感剤、接着促進剤等の添加剤をさらに含有してもよい。
【0052】
次に、本発明のポジ型感光性ポリイミド樹脂組成物を使用してレリーフパターンを製造する方法を説明する。
【0053】
本発明のレリーフパターンの製造方法は、フォトリソグラフィ技術によりポリイミド膜パターンを形成する。具体的には、ポリイミド重合体含有膜のレリーフパターンは、上記のポジ型感光性樹脂組成物を基材上に塗布してポジ型感光性樹脂組成物膜を形成し、このポジ型感光性樹脂組成物膜を活性光線の照射によりパターン露光し、次いで塩基水溶液で現像し、さらに加熱処理して、ポリイミド膜を形成することによって得ることができる。
【0054】
本発明の方法によれば、上述のように、高いi線透過率を有するポジ型感光性樹脂組成物を露光した後、アルカリ現像・洗浄・硬化工程を経て得られるので、電気または電子絶縁材料として最適なポリイミド重合体膜とそのレリーフパターンが好適に提供される。
【0055】
本発明のレリーフパターンの製造方法では、まず、支持基板など基材の表面上に上記のポジ型感光性ポリイミド樹脂組成物を用いた被膜を形成する。この形成方法では、ポリイミド被膜と基材との接着性を向上させるため、あらかじめ基材表面を接着助剤で処理しておいてもよい。ポリイミド被膜は、例えばポジ型感光性ポリイミド樹脂組成物の溶液の膜を形成した後、これを乾燥させることにより形成される。ポリイミド被膜の厚さは、特に限定されるものではないが、2μm〜50μm程度が好ましく、さらに3μm以上、特に10μm以上が好ましい。
【0056】
上記の被膜形成工程は120℃以下で行うことが好ましい。この温度を越えると、感光性化合物が熱分解し始める恐れがある。例えば60℃で製膜した場合、塗膜中に多量の溶媒が残留しているが、この場合、露光操作の前に80〜120℃で1〜30分間プリべークすることが好ましい。ポリイミド被膜の形成は、ポジ型感光性ポリイミド樹脂組成物の粘度などに応じて、スピンコーターを用いた回転塗布、浸漬、噴霧印刷、スクリーン印刷などの公知の手段を適宜採用をして行うことができる。なお、被膜の膜厚は塗布条件、塗布する組成物の固形分濃度等により調節することができる。また、あらかじめ基材上に形成した被膜を基材から剥離してポリイミドからなるシートを基材の表面に貼り付けることにより、上述の被膜を形成してもよい。
【0057】
次に、この形成された被膜に、所定のパターンのフォトマスクを介して紫外線などの活性光線を室温で1秒〜1時間照射した後、塩基性水溶液により露光部を溶解除去して現像し、さらに熱処理することによって所望のレリーフパターンを得る。この際、現像後の残膜率は80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。また、感度としては、600mJ/cm以下であることが好ましく、500mJ/cm以下であることがより好ましく、450mJ/cm以下であることがさらに好ましい。ここで感度とは、10μm以下の高い解像度でパターンを得るために最低限必要な露光量のことである。
【0058】
現像に使用する塩基性水溶液は、通常、塩基性化合物を水に溶解した溶液である。塩基性化合物としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属又はアンモニウムイオンの水酸化物又は炭酸塩や、アミン化合物などが挙げられる。例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、アンモニア水などの無機アルカリ類、エチルアミン、n−プロピルアミン類、トリエチルアミン、メチルジエチルアミンなどの第三アミン類、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルコールアミン類、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニルムヒドロキシドなどの第四級アンモニウム塩アルカリ類の水溶液およびこれにメタノール、エタノールのようなアルコール類などの水溶液有機溶液や界面活性剤を適量添加した水溶液を好適に使用することができる。現像は、スプレー、パドル、浸漬、超音波等を使用して行うことができる。多くの電子機器では残留金属が電気特性に悪影響を及ぼす恐れがあるため、有機アルカリが好適に用いられ、半導体プロセスでよく使用されているテトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液が好適に用いられる。
【0059】
上記現像の後に、必要に応じて、水又は貧溶媒で洗浄し、次いで70〜200℃で加熱処理して乾燥し、パターンを安定化することが好ましい。これにより、優れた耐熱性、機械特性、電気特性を有する膜を得ることができる。従来のポリイミド前駆体を使用した場合、このパターンの加熱温度は300〜500℃である。この加熱温度が、300℃未満であると、ポリイミド膜の機械特性および熱特性が低下する傾向にあり、500℃を超えると、ポリイミド膜の機械特性および熱特性に劣る傾向があるが、本発明においては、この高温加熱を必要とせず300℃未満の温度での乾燥や低沸点物などの除去が行われることで、耐熱性のポリイミド被膜を形成することができる。上記のようにして基材上に形成されたポジ型感光性樹脂組成物膜の微細パターンを、空気中、窒素などの不活性ガス雰囲気あるいは真空中で加熱することで、ポリイミド膜の鮮明なレリーフパターンが得られる。加熱硬化工程は真空中あるいは不活性ガス中で行うことが望ましいが、処理温度が高すぎなければ空気中で行っても、差し支えない。
【0060】
本発明のポジ型感光性ポリイミド樹脂組成物は、層間絶縁層や表面保護膜層だけでなく、その優れた特性のため、カバーコート層、コア、カラー、アンダーフィルなどの材料としても使用されることができる。
【実施例】
【0061】
本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例中の各特性は以下の方法で測定した。
【0062】
(1)光透過率
島津製作所(株)製紫外可視分光光度計(UV−2450)を用い、水酸基含有脂環式ポリイミド(膜厚約10μm)の可視・紫外線透過率を300nmから800nmの範囲で測定し、i線(365nm)における光透過率(%)を求めた。光透過率は70%以上であることが好ましい。
【0063】
(2)残膜率の算出
未露光部分のプリベーク処理後の膜厚と現像後の膜厚を測定し、以下の計算方法により残膜率を算出した。
残膜率(%)={(現像後の膜厚)/(プリベーク処理後の膜厚)}×100
【0064】
(3)感度の評価
解像度10μmのパターンを鮮明に形成させるために最低限必要な露光量を感度とした。解像度10μmのパターンが鮮明に形成されているかどうかは、露光・現像後のレリーフパターンをマイクロスコープにて観察することにより判断した。露光量は、紫外線照度計・光量系(UV−M03:オーク株式会社製)を用いて測定した。
【0065】
(4)膜の外観評価
現像後ならびに熱処理後の外観を目視ならびにマイクロスコープにて観察した。現像後の外観評価に関しては、未露光部の現像残りがなく、パターンのエッジが平滑であれば、「良好」と評価した。また、熱処理後の外観評価に関しては、膜の割れや膨れ、ボイド、剥がれ、ウエハの割れや反りなどがなければ、「良好」と評価した。
【0066】
(合成例1)
攪拌機を取り付けた100mLのセパラブル3つ口フラスコにシリコンコック付きトラップを備えた玉付冷却管を取り付けることによって反応槽を構成し、この反応槽に、4,6−ジアミノレゾルシノール塩酸塩(DAR)2.13g、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸無水物2.24g、塩化スズ(II)(標準電位0.15Volt)0.20g、トリエチルアミン2.08g、γ−バレロラクトン0.2g、ピリジン0.16g、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)25mL及びトルエン8mLを入れ、室温及び窒素ガス雰囲気において攪拌機で10分間攪拌した。
【0067】
次いで、反応槽の内容物を180℃に加熱昇温させて5時間攪拌した。反応溶液は透明で均一であった。その後、室温まで冷却した。なお、反応中に生成した水は、シリコンコックより外部へ排除した。
【0068】
次に、得られた反応液にNMP20mLを添加して希釈した後、これを大量のメタノール中に投入することによって生成沈殿物を分離し、これに、粉砕、ろ過、洗清及び減圧乾燥処理を順に施すことによって白色のポリマーを採取した。このポリマーの赤外吸収スペクトルを測定したところ、1,715cm−1及び1,785cm−1の吸収帯において明確なイミド環の特性吸収が認められ、ポリイミドであることが示唆された。更に、ポリマーのH−NMRスペクトル(測定の際の溶媒はDMSO−d6)を測定したところ、10.1ppm付近でフェノール由来のピークが確認され、アミドNH由来のピークが消失したため、できたポリマーはポリイミドであることが確認された。
【0069】
次いで、得られたポリイミド樹脂10gとN−メチル−2−ピロリドン80gを混合し、80℃の温度で1時間攪拌することにより、ポリイミド樹脂溶液を得た。
【0070】
(合成例2)
窒素導入管,温度計,攪拌棒を備えた反応容器内を窒素置換した後、反応容器に2,4−ジアミノフェノール硫酸塩2.22g及び1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸無水物2.24gを仕込んだ。続いて、塩化スズ(II)0.10g、トリエチルアミン1.08g、γ−バレロラクトン0.1g、ピリジン0.10g、N−メチルー2−ピロリドン50gを加えて完全に溶解させた後,25℃の反応温度で20時間攪拌すると、淡黄色のポリアミド酸溶液が得られた。その後、装置にディーンタークトラップを設置し、N気流下、200℃の温度で6時間撹拌した。空冷後、はじめにアセトン2000mlで再沈殿を行った。得られた固形物をミキサーにて粉砕し、アセトン1000ml中25℃で撹拌洗浄を2回、アセトン1000ml中還流下で攪拌洗浄を6時間行った。乾燥を減圧下70℃で12時間行い、白色のポリイミド樹脂を得た。次いで、得られたポリイミド樹脂10gとN−メチル−2−ピロリドン80gを混合し、80℃の温度で1時間攪拌することにより、ポリイミド樹脂溶液を得た。
【0071】
(合成例3)
1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸無水物の代わりに1,2,4,5−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物を用いたこと以外は合成例1と同様の操作により、ポリイミド樹脂溶液を得た。
【0072】
(合成例4)
1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸無水物の代わりに1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物を用いたこと以外は合成例1と同様の操作により、ポリイミド樹脂溶液を得た。
【0073】
(合成例5)
1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸無水物の代わりにピロメリット酸無水物を用いたこと以外は合成例1と同様の操作により、ポリイミド樹脂溶液を得た。
【0074】
(合成例6)
4,6−ジアミノレゾルシノール塩酸塩の代わりにp−フェニレンジアミンを用いたこと以外は合成例1と同様の操作によりポリイミド樹脂溶液を得ようとしたが、生成したポリイミド6がアルカリ溶液に不溶だった。
【0075】
(合成例7)
塩化スズ(II)を添加しないこと以外は合成例1と同様の操作により、ポリイミド樹脂溶液を得た。このポリイミド樹脂溶液は着色していた。
【0076】
(実施例1)
合成例1のポリイミド樹脂溶液90gに感光剤NT−200(2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノン1モルに対して6−ジアゾー5,6−ジヒドロー5−オキソ−1−ナフタレンスルホン酸が3モル置換したエステル化合物、東洋合成工業(株)製)2.00gを添加し、ろ過後、ポジ型感光性ポリイミド樹脂組成物を作成した。このポジ型感光性ポリイミド樹脂組成物をスピンコーターでシリコンウエハ上に回転塗布し、ホットプレートを用いて100℃で10分間乾燥を行い、10μmの塗膜を得た。この塗膜をマスク(1〜50μmの残しパターンおよび抜きパターン)を通して、超高圧水銀灯を用いてパターンマスクを通して紫外線を照射した。その後、現像を行った。現像は2.38%TMAH水溶液を用いて行った。次に、蒸留水でリンスし、乾燥した。その結果、露光量300mJ/cmの照射で良好なパターンが形成され、残膜率は90%であった。また、露光後の外観も良好であった。さらに、窒素雰囲気下で、120℃/15分、250℃/60分の熱処理を行い、反り、割れ、剥がれの無いポリイミド被膜付シリコンウエハを得た。実施例1の評価結果を表1に示す。
【0077】
(実施例2〜4)
実施例1において用いた合成例1のポリイミド樹脂溶液の代わりにそれぞれ合成例2〜4のポリイミド樹脂溶液を用いた以外は、実施例1と同様に操作してポジ型感光性ポリイミド樹脂組成物を作成し、実施例1と同様に評価した。実施例2〜4の評価結果を表1に示す。
【0078】
(比較例1〜3)
実施例1において用いた合成例1のポリイミド樹脂溶液の代わりにそれぞれ合成例5〜7のポリイミド樹脂溶液を用いた以外は、実施例1と同様に操作してポジ型感光性ポリイミド樹脂組成物を作成し、実施例1と同様に評価した。比較例1〜3の評価結果を表1に示す。
【0079】
【表1】

【0080】
実施例1〜4は、光透過率、感度、残膜率、膜の外観の全ての評価項目に対して良好な結果が得られている。一方、比較例1は、酸成分に芳香族系のテトラカルボン酸二無水物を使用しているので、得られたポリイミド樹脂の光透過率が低い。現像後外観では、露光部分に溶け残りが確認され、10μmパターンの現像後外観は不良であった。また、比較例2は、ジアミン成分にフェノール性水酸基を含まないため、アルカリ不溶であり、アルカリ現像ができなかった。また、比較例3は、還元剤として、塩化スズ(II)を使用しないため、ポリイミド樹脂が着色し、透明性が悪く、10μmパターンの現像後外観が不良であった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明のポジ型感光性ポリイミド組成物は、高い透明性を有し、i線(365nm)対応が可能であり、さらに、イミド化に伴う水の発生もなくしかも高温に曝されることがないため、半導体デバイスなどの製造における電気、電子絶縁材料として、特にICやLSIなどの半導体素子の表面保護膜、層間絶縁膜などに極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアミン成分として下記一般式[I]又は一般式[II]で表されるフェニレンジアミン誘導体の塩を使用し、酸成分として脂環族テトラカルボン酸二無水物を使用し、これらの成分を−0.20Volt以上、0.34Volt以下の標準酸化還元電位を有する還元剤の存在下でイミド化反応させることによって得られるポリイミド樹脂、及び感光性化合物を含有することを特徴とするポジ型感光性ポリイミド樹脂組成物:
【化1】

【化2】

式中、Rは一価の有機基であり、Xは一価の無機アニオンであり、Yは二価の無機アニオンである。
【請求項2】
前記ポリイミド樹脂を乾燥膜厚10μmのフィルムにした際の波長365nmにおける前記ポリイミド樹脂の光線透過率が70%以上であることを特徴とする請求項1に記載のポジ型感光性ポリイミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記感光性化合物が光酸発生剤であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポジ型感光性ポリイミド樹脂組成物。
【請求項4】
前記感光性化合物が感光性オルトキノンジアジド化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポジ型感光性ポリイミド樹脂組成物。
【請求項5】
前記フェニレンジアミン誘導体の塩が4,6−ジアミノレゾルシノール塩酸塩であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポジ型感光性ポリイミド樹脂組成物。
【請求項6】
前記還元剤が塩化スズ(II)であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のポジ型感光性ポリイミド樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のポジ型感光性ポリイミド樹脂組成物の塗膜を基材上に形成した後、活性光線の照射によりパターン露光し、塩基性水溶液で現像した後、熱処理することを含むことを特徴とするポリイミドレリーフパターンの製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の製造方法で得られるポリイミドレリーフパターンを含むことを特徴とする電気または電子絶縁材料。

【公開番号】特開2011−221390(P2011−221390A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−92167(P2010−92167)
【出願日】平成22年4月13日(2010.4.13)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】