説明

ポリアミドイミド繊維およびそれからなる不織布並びにその製造方法

【課題】紡糸後の熱処理による脱水閉環させる工程を必要としないことを特徴とした、耐熱性や機械的強度にすぐれたナノオーダーの繊維径を有する繊維およびその不織布を提供する。
【解決手段】特定の対数粘度がを有するポリアミドイミドを利用し、平均繊維径が0.001〜1μmであることを特徴とするポリアミドイミド繊維を作成。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリアミドイミド繊維およびそれからなる不織布およびその製造方法に関する。更に詳しくは、フィルター、電解電池用隔膜、蓄電池用セパレータ、燃料電池成分透析膜、医療用人工器官のライニング材料、細胞培養・バイオリアクター用の固定化用担体として利用して好適な、ナノオーダーの繊維及び当該繊維よりなる不織布並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、耐熱性が要求される用途、例えば宇宙・航空分野、電気分野においては、その素材としてアラミド繊維、ポリイミド繊維がその優れた性能に起因して主として用いられてきた。具体的には、テレフタル酸クロリドとp−フェニレンジアミンとから合成されるパラ型アラミド繊維やイソフタル酸クロリドとm−フェニレンジアミンとから合成されるメタ型アラミド繊維が代表として挙げられる。しかしながら、これらは酸性溶媒等によりポリマーを溶解し、紡出後抽出固化する、いわゆる湿式紡糸法で製造するものであり、溶媒回収や公害対策等の特殊な設備が必要となり、また作業は極めて煩雑なものとなる。
また、ポリイミド繊維については、例えば、宇宙・航空分野あるいは電子材料分野に有用なポリイミド繊維(例えば特許文献1参照)、耐熱性バグフィルターとしてのポリイミド不織布(例えば特許文献2参照)が提案されている。しかしながら、中間重合体であるポリアミド酸を、紡糸、延伸後に高温加熱処理により脱水閉環する必要がある。そのため、製造コストが高くなるばかりでなく、加熱処理後にボイドが発生し繊維の強度が低下するという問題点を有する。
【0003】
一方、近年、繊維径が1μm以下のナノオーダー繊維(ナノファイバー)が広く検討されている。繊維径の小さい繊維の集合体を製造する方法として、複合紡糸法、高速紡糸法、荷電紡糸法などが挙げられる。これらの中で、荷電紡糸法は、他の方法より簡便に、少ない工数で紡糸することが可能である。即ち、液体(例えば繊維を形成する高分子を含有する溶液、溶融させた高分子)に高電圧をかけることで液体に電荷を与え、液体を対極物質に向かって曳かせ、繊維を形成させるものである。通常、繊維を形成する高分子は溶液から曳き出され、対極物質に捕捉されるまでの間に繊維を形成する。繊維形成は、例えば、繊維を形成する高分子を含有する溶液を用いた場合は、溶媒蒸発によって、溶融させた高分子を用いた場合は冷却によって、または、化学的硬化(硬化用蒸気による処理)、により行われる。また、得られる繊維は、必要に応じ配置した捕集体上に捕集して積層して積層体をえることもできるし、必要であればそこから剥離し、繊維の集合体として利用することも可能である。また、不織布状の繊維の集合体を直接得ることが可能なため、他の方法のように、一旦繊維を紡糸した後、繊維の集合体を形成する必要がなく、操作が簡便である(例えば、特許文献3、4および5参照)。
【0004】
かかる荷電紡糸法によりポリイミド前駆体である平均繊維径0.001〜1μmのポリアミド酸を作製し、得られたポリアミド酸不織布を高温加熱処理することにより脱水閉環させ、ポリイミド不織布を製造することが提案されている(例えば特許文献6参照)。しかしながら、かかる方法は得られたポリアミド酸不織布を高温加熱処理することから、製造コストが高くなるばかりでなく、加熱処理後にボイドが発生し繊維の強度が低下する。
【0005】
上述のとおり、強度等の基本的力学物性、耐熱性を有する、産業界で実用可能なナノオーダー繊維を得られていないのが現状である。
【0006】
【特許文献1】特公平7−42611号公報
【特許文献2】特開平9−52308号公報
【特許文献3】特公昭48−1466号公報
【特許文献4】特開昭63−145465号公報
【特許文献5】特開2002−249966号公報
【特許文献6】特開2004−308031号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、紡糸後の熱処理による脱水閉環させる工程を必要としない耐熱性や機械的強度にすぐれたナノオーダーの繊維径を有する繊維およびその不織布を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するため、鋭意研究した結果、遂に本発明を完成するに至った。即ち本発明は、(1)平均繊維径が0.001〜1μmであることを特徴とするポリアミドイミド繊維、(2)対数粘度が0,2dl/gより大きいポリアミドイミドからなることを特徴とする(1)記載の繊維ポリアミドイミド繊維、(3)ポリアミドイミドの骨格に少なくとも式(I)を含むことを特徴とする(1)又は(2)記載のポリアミド繊維、(4)(1)〜(3)いずれかに記載のポリアミドイミド繊維から構成される不織布、(5)ポリアミドイミドと有機溶媒とからなる溶液を製造し、ついで得られた溶液を、荷電紡糸法により紡糸し、捕集基板にポリアミドイミド繊維を捕集することにより(4)記載の不織布得ることを特徴とする製造方法である。
【0009】
【化1】

(Ar1はトリカルボン酸の3個のカルボキシ基を除いた3価の残基、Ar2はジアミン化合物の2個のアミノ基を除いた2価の残基を示す)
【発明の効果】
【0010】
ポリアミドイミドを高分子に用いることで、紡糸後の熱処理による脱水閉環させる工程を必要としない耐熱性や機械強度にすぐれたナノオーダーの繊維径を有する繊維およびその不織布を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明の耐熱性繊維は、平均繊維径が0.001〜1μmであることが好ましい。
平均繊維径が0.001〜1μmであれば、低圧力損失フィルターや薄膜代替等、産業上利用可能性が著しく拡大するからである。0.001μm未満であれば、製造が困難となるばかりでなく、ほぼフィルムと同等の性質となり、一方1μmを超えると従来の不織布と同等の効果しか得られないからである。より好ましくは0.01μm〜0.9μm、更に好ましくは0.05μm〜0.5μmである。
【0012】
本発明の耐熱性繊維は、ポリアミドイミド繊維であることが好ましい。本発明者等は、ポリイミド繊維に見られるような問題点、即ち紡糸、延伸後の高温加熱処理により発生するボイドが、ナノオーダーの繊維においては、極めて重大な影響を及ぼすことを知見した。そして、ボイド発生抑制の検討を重ねた結果、ポリアミドイミドは重合中に閉環が行われるため、かかる問題が解消し強度に悪影響を与えることなく、ナノオーダーの耐熱性繊維が得られることを見出したことに基づくものである。
【0013】
本発明に用いられるポリアミドイミドはトリメリット酸クロリドとジアミンを用いる酸クロリド法やトリメリット酸無水物とジイソシアネートを用いるジイソシアネート法等の通常の方法で合成されるが製造コストの点からジイソシアネート法が好ましい。
【0014】
本発明に用いられるポリアミドイミドの骨格は、少なくとも式(I)を含むことが重合性や出来たポリマーの溶解性の面から好ましい。
【0015】
ポリアミドイミドの合成に用いられる酸成分はトリメリット酸無水物(クロリド)であるが、その一部を他の多塩基酸またはその無水物に置き換えることができる。例えば、ピロメリット酸、ビフェニルテトラカルボン酸、ビフェニルスルホンテトラカルボン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ビフェニルエーテルテトラカルボン酸、エチレングリコールビストリメリテート、プロピレングリコールビストリメリテート等のテトラカルボン酸及びこれらの無水物。シュウ酸、アジピン酸、マロン酸、セバチン酸、アゼライン酸、ドデカンジカルボン酸、ジカルボキシポリブタジエン、ジカルボキシポリ(アクリロニトリル−ブタジエン)、ジカルボキシポリ(スチレンーブタジエン)等の脂肪族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジカルボン酸、ダイマー酸等の脂環族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸が挙げられる。
【0016】
また、トリメリット酸化合物の一部をグリコールに置き換えることもできる。グリコールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール、等のアルキレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリアルキレングリコールや上記ジカルボン酸の1種又は2種以上と上記グリコールの1種又は2種以上とから合成される、末端水酸基のポリエステル等が挙げられる。
【0017】
ポリアミドイミドの合成に用いられるジアミン(ジイソシアネート)成分としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン及びこれらのジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジアミン、1,3−シクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン、4,4’ −ジシクロヘキシルメタンジアミン等の脂環族ジアミン及びこれらのジイソシアネート、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、4,4’ −ジアミノジフェニルメタン、4,4’ −ジアミノジフェニルエーテル、4,4’ −ジアミノジフェニルスルホン、ベンジジン、o−トリジン、2,4−トリレンジアミン、2,6−トリレンジアミン、キシリレンジアミン等の芳香族ジアミン及びこれらのジイソシアネート等が挙げられ、これらの中では反応性、コストの点から4,4’ −ジアミノジフェニルメタン、o−トリジン及びこれらのジイソシアネートが好ましい。
【0018】
本発明のポリアミドイミドの重合に用いられる溶媒としては、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、γ―ブチロラクトン、N−メチルカプロラクタム等の有機極性アミド系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の水溶性エーテル化合物、アセトン、メチルエチルケトン等の水溶性ケトン系化合物、アセトニトリル、プロピオニトリル等の水溶性ニトリル化合物等があげられる。これらの溶媒は2種以上の混合溶媒として使用することも可能であり、特に制限されることはない。
【0019】
本発明で利用可能なポリアミドイミドを得るためには、前記の有機溶媒中、ジアミン(ジイシシアネート)成分使用量の酸成分使用量に対するモル比は、好ましくは0.90〜1.20であり、より好ましくは0.95〜1.05である。
【0020】
本発明のポリアミドイミド繊維及び不織布に使用されるポリアミドイミドの対数粘度は0.2dl/gより大きいことが好ましい。対数粘度は、ジアミン(ジイソシアネート)成分使用量の酸成分使用量に対するモル比や重合時間、温度に依存するが、これらの条件を適宜設定することで対数粘度を0.2dl/gより大きくすることができる。例えば、ジアミン(ジイソシアネート)成分使用量の酸成分使用量に対するモル比0.90〜1.20の場合、重合時間10分〜30時間、温度70〜160℃とすることで、対数粘度を0.2dl/gより大きくすることができる。なお、対数粘度が0.2dl/g以下では、ナノオーダーの繊維においては機械的特性が不十分となり、また、荷電紡糸においては、連続繊維を形成させることが困難となる。
【0021】
ポリアミドイミドの重合条件として、上記極性溶剤中、不活性ガス雰囲気下で60〜200℃に加熱しながら攪拌することで容易に製造することができる。
必要に応じてトリエチルアミン、ジエチレントリアミン、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセン(DBU)等のアミン類、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化セシウム、ナトリウムメトキシド等のアルカリ金属塩等を触媒として用いることもできる。
【0022】
ポリアミドイミド溶液のポリマー濃度としては、固形分濃度として0.1〜30重量%、特に好ましくは1〜25重量%である。
【0023】
本発明においては、紡糸によって得られる不織布の種々の特性を改善する目的で、無機もしくは有機フィラー等の添加剤を配合することもできる。ポリアミドイミドと親和性の低い添加剤の場合、その大きさは、得られるポリアミドイミド繊維の直径より小さいものが好ましい。大きいものであると、荷電紡糸中に添加剤が析出し、糸切れを起こす原因となる。添加剤を配合する方法としては、例えば、必要量の添加剤をポリアミドイミド重合の反応系中にあらかじめ添加しておく方法とポリアミドイミド重合の反応終了後に必要量の添加剤を添加する方法が挙げられる。重合阻害をしない添加剤の場合は前者の方が均一に添加剤の分散した不織布が得られるので好ましい。
【0024】
ポリアミドイミドの重合反応終了後に必要量の添加剤を添加する方法の場合、超音波による攪拌、ホモジナイザーなどによる機械的な強制攪拌が用いられる。
【0025】
本発明のポリアミドイミド不織布は平均繊維径が0.001〜1μmである繊維より形成される。平均繊維径が0.001μmより小さいと、自己支持性が乏しいため好ましくない。また平均繊維径が1μmより大きいと表面積が小さくなり好ましくない。より好ましい平均繊維径は0.005〜0.5μmであり、特に好ましい平均繊維径は0.01〜0.2μmである。
【0026】
本発明のポリアミドイミド不織布を製造する方法としては、0.001〜1μmの繊維径の繊維等が得られる手法であれば特に限定されないが、荷電紡糸法が好ましい。以下荷電紡糸法により製造する方法について詳細に説明する。
【0027】
本発明で用いる荷電紡糸法とは、溶液紡糸の一種であり、一般的には、ポリマー溶液にプラスの高電圧を与え、それがアースやマイナスに帯電した表面にスプレーされる過程で繊維化を起こさせる手法である。荷電紡糸装置の一例を図1に示す。図において、荷電紡糸装置1には、繊維の原料となるポリマーを吐出する紡糸ノズル2と紡糸ノズル2に対向して、対向電極5とが配置されている。この対向電極5はアースされている。高電圧をかけ荷電したポリマー溶液は、紡糸ノズル2から対極電極5に向けて飛び出す。その際、繊維化される。ポリアミドイミドを有機溶媒に溶解した溶液を電極間で形成された静電場中に吐出し、溶液を対向電極に向けて曳糸し、形成される繊維状物質を捕集基板に累積することによって不織布を得ることができる。ここでいう不織布とは既に溶液の溶媒が留去され、不織布となっている状態のみならず、溶液の溶媒を含んでいる状態も示している。
【0028】
溶媒を含んだ不織布の場合、荷電紡糸後に、溶剤除去を行う。溶剤を除去する方法としては、例えば、貧溶媒中に浸漬させ、溶剤を抽出する方法や熱処理により残存溶剤を蒸発させる方法などが挙げられる。
【0029】
溶液槽3としては、材質は使用する有機溶剤に対し耐性のあるものあれば特に限定されない。また、溶液槽3中の溶液は、機械的に押し出される方式やポンプなどにより吸い出される方式などによって、電場内に吐出することができる。
【0030】
紡糸ノズル2としては、内径0.1〜3mm程度のものが望ましい。ノズル材質としては、金属製であっても、非金属製であっても良い。ノズルが金属製であればノズルを一方の電極として使用することができ、ノズル2が非金属製である場合には、ノズルの内部に電極を設置することにより、押し出した溶解液に電界を作用させることができる。生産効率を考慮し、ノズルを複数本使用することも可能である。また、一般的には、ノズル形状としては、円形断面のものを使用するが、ポリマー種や使用用途に応じて、異型断面のノズル形状を用いることも可能である。
【0031】
対向電極5としては、図1に示すロール状の電極や平板状、ベルト状の金属製電極など用途に応じて、種々の形状の電極を使用することができる。
【0032】
また、これまでの説明は、電極が繊維を捕集する基板を兼ねる場合であるが、電極間に捕集する基板となる物を設置することで、そこにポリアミドイミド繊維を捕集してもよい。この場合、例えばベルト状の基板を電極間に設置することで、連続的な生産も可能となる。
【0033】
また、一対の電極で形成されているのが一般的ではあるが、さらに異なる電極を導入することも可能である。一対の電極で紡糸を行い、さらに導入した電位の異なる電極によって、電場状態を制御し、紡糸状態を制御することも可能である。
【0034】
電圧印加装置4は特に限定されるものではないが、直流高電圧発生装置を使用できるほか、ヴァン・デ・グラフ起電機を用いることもできる。また、印加電圧は特に限定するものではないが、一般に3〜100kV、好ましくは5〜50kV、一層好ましくは5〜30kVである。なお、印加電圧の極性はプラスとマイナスのいずれであっても良い。
【0035】
電極間の距離は、荷電量、ノズル寸法、紡糸液流量、紡糸液濃度等に依存するが、10〜15kVのときには5〜20cmの距離が適切であった。
【0036】
次に荷電紡糸法による本発明の製造手法について詳細に説明する。まずポリアミドイミドを有機溶媒に溶解した溶液を製造する。本発明の製造方法における溶液中のポリアミドイミドの濃度は0.1〜30重量%であることが好ましい。ポリアミド酸の濃度が0.1重量%より小さいと、濃度が低すぎるため不織布を形成することが困難となり好ましくない。また、30重量%より大きいと得られる不織布の繊維径が大きくなり好ましくない。より好ましいポリアミドイミドのポリマー濃度は1〜20重量%である。
【0037】
本発明で溶液を形成する有機溶媒とは、ポリアミドイミドを上記濃度内に溶解すれば特に限定されない。紡糸を行う際、ポリアミドイミドを製造した重合溶液のまま使用することも可能であり、また、ポリマーの貧溶媒を用い、ポリアミドイミドを析出、洗浄を行い、精製したものをポリマーの良溶媒に再溶解させ溶液として使用することも可能である。得られたポリアミドイミド繊維に支障がない場合は、重合溶媒をそのまま使用することが好ましい。
【0038】
ポリマーの溶媒には、例えば、アセトン、クロロホルム、エタノール、イソプロパノール、メタノール、トルエン、テトラヒドロフラン、水、ベンゼン、ベンジルアルコール、1,4−ジオキサン、プロパノール、四塩化炭素、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、塩化メチレン、フェノール、ピリジン、トリクロロエタン、酢酸などの揮発性の高い溶媒や、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、1−メチル−2−ピロリドン(NMP)、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、アセトニトリル、N−メチルモルホリン−N−オキシド、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、ジエチルカーボネート、ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジオキソラン、エチルメチルカーボネート、メチルホルマート、3−メチルオキサゾリジン−2−オン、メチルプロピオネート、2−メチルテトラヒドロフラン、スルホランなどの揮発性が相対的に低い溶媒が挙げられる。または、上記溶剤を2種以上混合させて用いることも可能である。
【0039】
紡糸をする雰囲気として、一般的には空気中で行うが、二酸化炭素などの空気よりも放電開始電圧の高い気体中で荷電紡糸を行うことで、低電圧での紡糸が可能となり、コロナ放電などの異常放電を防ぐこともできる。また、水がポリマーの貧溶媒である場合、紡糸ノズル近傍でのポリマー析出が起こる場合がある。そのため、空気中の水分を低下させるために、乾燥ユニットを通過させた空気中で行うことが好ましい。
【0040】
次に捕集基板に累積される不織布を得る段階について説明する。本発明においては、該溶液を捕集基板に向けて曳糸する間に、条件に応じて溶媒が蒸発して繊維状物質が形成される。通常の室温であれば捕集基板上に捕集されるまでの間に溶媒は完全に蒸発するが、もし溶媒蒸発が不十分な場合は減圧条件下で曳糸しても良い。この捕集基板上に捕集された時点で遅くとも本発明の繊維が形成されている。また、曳糸する温度は溶媒の蒸発挙動や紡糸液の粘度に依存するが、通常は、0〜50℃である。そして多孔質繊維がさらに捕集基板に累積されて不織布が製造される。
【0041】
本発明の不織布の目付量は使用用途に応じて決められるものであり、特に限定されるものではないが、例えば、エアフィルタ用途においては0.05〜50g/m2であるのが好ましい。ここでいう目付量はJIS−L1085に準じたものである。0.05g/m2以下であると、フィルタ捕集効率が低く好ましくなく、50g/m2以上であると、フィルタ通気抵抗が高くなりすぎるので好ましくない。
【0042】
本発明の不織布の厚みは使用用途に応じて決められるものであり、特に限定されるものではないが、1〜100μmであるのが好ましい。ここでいう厚みはマイクロメータで測定したものである。
【0043】
本発明の不織布は必要であれば、各種用途に適合するように、後処理を実施することができる。例えば、緻密化または厚み精度を整えるためのカレンダー処理、親水処理、撥水処理、界面活性剤付着処理、純水洗浄処理などを実施することができる。
【0044】
本発明によって得られる不織布は、単独で用いても良いが、取扱性や用途に応じて、他の部材と組み合わせて使用しても良い。例えば、捕集基板として支持基材となりうる布帛(不織布、織物、編物)やフィルム、ドラム、ネット、平板、ベルト形状を有する、金属やカーボンなどからなる導電性材料、有機高分子などからなる非導電性材料を使用することができる。その上に不織布を形成することで、支持基材と該不織布を組み合わせた部材を作成することも出来る。
【0045】
本発明によって得られる不織布の用途は、バグフィルタ、空気清浄機用フィルタ、精密機器用フィルタ、自動車、列車等のキャビンフィルタ、エンジンフィルタ、およびビル空調用フィルタなど、各種エアフィルタ用途に用いることが出来る。特に耐熱性、機械的強度、熱寸法安定性が求められる空気浄化用途やオイルフィルタなどの液体フィルタ分野や軽少短薄な電子回路の絶縁性基板や充放電時の電池内部が高温となる電解電池用隔膜、蓄電池用セパレータ、燃料電池成分透析膜、などのエレクトロニクス用途などとして有効に利用できる。特に高温環境に曝される用途では有効である。さらに医療用人工器官のライニング材料、細胞培養・バイオリアクター用の固定化用担体など、各種用途に用いることが出来る。
【実施例】
【0046】
以下本発明を実施例により説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。また以下の各実施例における評価項目は以下のとおりの手法にて実施した。
【0047】
[対数粘度]
ポリアミドイミド樹脂0.5gを100mlのN−メチル−2−ピロリドンに溶解した溶液を30℃に保ちウベローデ粘度管を用いて測定した。
【0048】
[平均繊維径]
得られた不織布の表面の走査型電子顕微鏡写真(倍率5000倍)を撮影し、その写真からn=5〜10にて繊維径を測定した平均値を算出した。
【0049】
[ガラス転移温度]
測定幅4mm、長さ15mmのポリアミドイミドフィルムをレオロジー社製DVE−V4レオスペクトラーを用い、周波数110Hzの振動を与えて測定した動的粘弾性の損失弾性率の変曲点をガラス転移温度とした。
【0050】
[重合例1]
(ポリアミドイミドの重合)
温度計、冷却管、窒素ガス導入管のついた4ツ口フラスコにトリメリット酸無水物(TMA)1モル、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)0.995モル、フッ化カリウム0.01モルを固形分濃度が25%となるようにN、N−ジメチルアセトアミドと共に仕込み、90℃に昇温して約3時間攪拌を行いポリアミドイミドを合成した。得られたポリアミドイミドの対数粘度は0.86dl/g、ガラス転移温度は290℃であった。
【0051】
[重合例2]
(ポリアミドイミドの重合)
実施例1のフッ化カリウムを1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセン(DBU)に代えた以外は同様にポリアミドイミドの合成を行った。対数粘度0.80dl/g、ガラス転移温度は290℃であった。
【0052】
[重合例3]
(ポリアミドイミドの重合)
温度計、冷却管、窒素ガス導入管のついた4ツ口フラスコにトリメリット酸無水物(TMA)1モル、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)1モル、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセン(DBU)0.02モルを、固形分濃度が15%となるようにN−メチル−2−ピロリドン(NMP)と共に仕込み、窒素気流下で90℃に昇温して約3時間攪拌後、120℃に昇温し1時間攪拌を行い、ポリアミドイミド樹脂を合成した。得られたポリアミドイミドの対数粘度は1.38dl/g、ガラス転移温度は290℃であった。
【0053】
[重合例4]
実施例1でTMAを1.03モルとした以外は実施例1と同じ条件でポリアミドイミドを合成し荷電紡糸した。得られたポリアミドイミド樹脂の対数粘度は0.45dl/g、ガラス転移温度は285℃であった。
【0054】
[重合例5]
(ポリアミドイミドの重合)
温度計、冷却管、窒素ガス導入管のついた4ツ口フラスコにトリメリット酸無水物(TMA)1モル、o−トリジンジイソシアネート(TODI)0.8モル、2,4−トリレンジイソシアネート(TDI)0.2モル、フッ化カリウム0.01モルを固形分濃度が20%となるようにN―メチルー2―ピロリドンと共に仕込み、100℃で5時間攪拌した後、固形分濃度が10%となるようにN−メチルー2−ピロリドンで希釈してポリアミドイミドを合成した。得られたポリアミドイミド樹脂の対数粘度は1.35dl/g、ガラス転移温度は310℃であった。
【0055】
[重合例6]
(ポリアミドイミドの重合)
温度計、冷却管、窒素ガス導入管のついた4ツ口フラスコにトリメリット酸無水物(TMA)0.8モル、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)0.125モル、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)0.075モル、o−トリジンジイソシアネート(TODI)1.0モル、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセン(DBU)0.02モルを、固形分濃度が13%となるようにN−メチル−2−ピロリドン(NMP)と共に仕込み、窒素気流下で90℃に昇温して約5時間攪拌し、ポリアミドイミド樹脂を合成した。得られたポリアミドイミドの対数粘度は1.50dl/g、ガラス転移温度は340℃であった。
【0056】
[重合例7]
(ポリアミドイミドの重合)
温度計、冷却管、窒素ガス導入管のついた4ツ口フラスコにトリメリット酸無水物(TMA)0.8モル、ダイマー酸0.2モル、o−トリジンジイソシアネート(TODI)1.0モル、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセン(DBU)0.02モルを固形分濃度が15%となるようにN−メチル−2−ピロリドン(NMP)と共に仕込み、窒素気流下で90℃に昇温して約3時間攪拌後、120℃で約1時間攪拌し、ポリアミドイミド樹脂を合成した。得られたポリアミドイミドの対数粘度は1.40dl/g、ガラス転移温度は250℃であった。
【0057】
[重合例8]
(ポリアミドイミドの重合)
温度計、冷却管、窒素ガス導入管のついた4ツ口フラスコにエチレングリコールビス(トリメリテート)二無水物(TMEG)0.8モル、イソフタル酸0.2モル、o−トリジンジイソシアネート(TODI)1.0モル、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセン(DBU)0.02モルを固形分濃度が20%となるようにN−メチル−2−ピロリドン(NMP)と共に仕込み、窒素気流下で90℃に昇温して約3時間攪拌後、120℃で約1時間攪拌し、最後に固形分濃度が15%となるようにN−メチル−2−ピロリドンで希釈してポリアミドイミドを合成した。得られたポリアミドイミドの対数粘度は0.99dl/g、ガラス転移温度は235℃であった。
【0058】
[重合例9]
(ポリアミドイミドの重合)
温度計、冷却管、窒素ガス導入管のついた4ツ口フラスコにトリメリット酸無水物1モル、ナフタレンジイソシアネート0.99モル、フッ化カリウム0.02モルを固形分濃度が20%となるようにN−メチル−2−ピロリドンと共に仕込み、120℃で5時間攪拌した後、固形分濃度が15%になるようにN−メチル−2−ピロリドンで希釈してポリアミドイミドを合成した。得られたポリアミドイミドの対数粘度は1.12dl/g、ガラス転移温度は350℃であった。
【0059】
[重合例10]
(ポリアミドイミドの重合)
実施例1でTMAを1.1モルとした以外は実施例1と同じ条件でポリアミドイミドを合成し荷電紡糸した。得られたポリアミドイミド樹脂の対数粘度は0.20dl/g、ガラス転移温度は285℃であった。
【0060】
<ポリアミドイミド繊維、不織布の作製>
重合例に示すポリアミドイミド溶液から大容量の水の中に再沈殿させ、各ポリアミドイミドを採取した。加熱乾燥後、所定溶媒にて所定濃度のポリアミドイミド溶液を得た。この溶液を図1に示す装置を用いて、繊維状物質捕集電極5に吐出した。紡糸ノズル2に18G(内径:0.8mm)の針を使用し、紡糸ノズル2から繊維を捕集する対向電極までの距離は10cmで、電圧を印加し行った。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の耐熱性繊維は、強度・耐熱性のバランスに優れたナノオーダー繊維が安価に得られるため、低
圧力損失フィルターや膜代替等幅広い用途分野に利用でき、産業界に寄与すること大である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】荷電紡糸装置の模式的な断面図である。
【符号の説明】
【0066】
1:荷電紡糸装置
2:紡糸ノズル3:溶液槽
4:高電圧電源
5:対向電極(捕集基板)



【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維径が0.001〜1μmであることを特徴とするポリアミドイミド繊維。
【請求項2】
対数粘度が0.2dl/gより大きいポリアミドイミドからなることを特徴とする請求項1に記載のポリアミドイミド繊維。
【請求項3】
ポリアミドイミドの骨格に少なくとも式(I)を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のポリアミド繊維。
【化1】

(Arはトリカルボン酸の3個のカルボキシ基を除いた3価の残基、Arはジアミン化合物の2個のアミノ基を除いた2価の残基を示す。)
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のポリアミドイミド繊維から構成される不織布。
【請求項5】
ポリアミドイミドと有機溶媒を含む溶液を製造し、次いで得られた溶液を、荷電紡糸法により紡糸し、捕集基板にポリアミドイミド繊維を捕集することにより請求項4に記載の不織布得ることを特徴とする製造方法。



【図1】
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【公開番号】特開2007−56440(P2007−56440A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−202874(P2006−202874)
【出願日】平成18年7月26日(2006.7.26)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】