説明

ポリウレタン樹脂およびそれを用いた導電性ロール

【課題】 走行安定性及び耐久性に優れている複写機、プリンター、ファクシミリ等の電子写真装置の導電性ロールを提供する。
【解決手段】 ポリカーボネートジオール(A)、ジイソシアネート化合物(B)および必要に応じてその他の化合物を反応させて得られるウレタン樹脂において、分子内にスルホン酸金属塩基を含有してなることを特徴とするポリウレタン樹脂に関する。またポリカーボネートジオール(A)、ポリエステルジオール(C)、ジイソシアネート化合物(B)および必要に応じてその他の化合物を反応させて得られるウレタン樹脂において、分子内にスルホン酸金属塩基を含有してなることを特徴とするポリウレタン樹脂に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スルホン酸金属塩基を分子内に有し、ポリカーボネートジオールより得られるポリウレタン樹脂、およびこれを用いた複写機、プリンター、ファクシミリ等の電子写真装置の導電性ロールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
複写機、プリンター、ファクシミリ等の電子写真装置に用いられる導電性ロールとしては、現像ロール、帯電ロール、転写ロール等が挙げられる。従来より、この導電性ロールの最外層形成材料としては、熱可塑性ウレタン樹脂をアミノ樹脂で架橋したものが用いられている(例えば特許文献1参照)。しかしながら、上記熱可塑性ウレタン樹脂を用いた導電性ロールでは、ウレタン樹脂は摩擦係数が比較的大きいため、熱的、物理的にトナーが導電性ロールの表面に付着しやすく、トナーフィルミングが生じやすいという難点がある。そこで、ポリウレタン樹脂とシリコン化合物を併用したり、両末端に水酸基又はアミノ基を有する反応性シリコーンオイルを分子内に導入したポリウレタン樹脂を用いることが提案されている(例えば特許文献2参照)。しかしながら、上記ポリウレタン樹脂では、十分な滑り性を付与するために多くのシリコン化合物を分子内に導入する必要があり、塗膜の強靭性が不足し、結果として走行安定性や耐久性が不足する場合があった。また、新たに近年、複写機、プリンター、ファクシミリ等の電子写真装置の高画質化や高速化や環境特性向上の要求に対して、導電性ロールの耐熱性、耐加水分解性が不足しつつあり、さらなる向上が求められている。
【0003】
【特許文献1】特開平7−54836号公報([特許請求の範囲]等)
【特許文献2】特開2001−64345号公報([特許請求の範囲]等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、滑り性と基材密着性と機械的強度に優れた耐熱性、耐加水分解性に優れたカーボネート結合を分子内に有するポリウレタン樹脂を用いることにより、走行安定性及び耐久性に優れている複写機、プリンター、ファクシミリ等の電子写真装置の導電性ロールを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、以下の発明に到達した。
【0006】
(1)ポリカーボネートジオール(A)、ジイソシアネート化合物(B)および必要に応じてその他の化合物を反応させて得られるウレタン樹脂において、分子内にスルホン酸金属塩基を含有してなることを特徴とするポリウレタン樹脂である。
【0007】
(2)ポリカーボネートジオール(A)、ポリエステルジオール(C)、ジイソシアネート化合物(B)および必要に応じてその他の化合物を反応させて得られるウレタン樹脂において、分子内にスルホン酸金属塩基を含有してなることを特徴とするポリウレタン樹脂である。
【0008】
(3)ポリカーボネートジオール(A)、ポリエステルジオール(C)、ジイソシアネート化合物(B)、ポリシロキサン化合物(D)および必要に応じてその他の化合物を反応させて得られるウレタン樹脂において、分子内にスルホン酸金属塩基を含有してなることを特徴とするポリウレタン樹脂である。
【0009】
(4)上記に記載のポリウレタン樹脂を表面層に有する導電性ロールと該導電性ロールを用いた電子写真装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリカーボネート結合を分子内に有するポリウレタン樹脂は滑り性と基材密着性及び機械的強度に優れており、例えば複写機、プリンター、ファクシミリ等の電子写真装置の導電性ロールに用いた場合、導電性ロールの摩擦係数が低下し、トナーフィルミングの発生を防止することができ、耐久複写画質の向上を図ることができ、高温高湿環境下でも耐久複写画質の劣化がないという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のポリカーボネートウレタン樹脂は、ポリカーボネートジオール(A)、ジイソシアネート化合物(C)および必要に応じてその他の化合物を反応させて得られるウレタン樹脂である。分子内にカーボネート結合を導入することにより、ポリオール成分としてエステル結合やエーテル結合のみからなるポリウレタン樹脂よりも耐熱性や耐加水分解性に優れたものとなる。また分子内にスルホン酸金属塩基を導入することによって優れた塗膜表面滑性と高い基材密着性及び優れた機械的強度を合わせ持つ事が可能となる。さらにポリシロキサン化合物(D)を併用することにより高い滑り性を付与することが出来る。すなわち本発明のポリウレタン樹脂が塗布された際、ポリシロキサンセグメントを比較的多く有するポリカーボネートウレタン分子が濃化し、塗膜表面に局在化するために塗膜の滑り性が顕著に向上する。他方では、基材界面に極性基含有化合物を比較的多く有するポリカーボネートウレタン分子が存在し、ポリカーボネートウレタン樹脂の効果により基材界面との接着性が保持され、塗膜自身の機械的強度が維持できる。また極性基の導入により帯電防止剤であるカーボンブラックの分散性を付与することが出来る。
【0012】
カーボネートジオール(A)としてはポリメチレンカーボネートジオール、ポリエチレンカーボネートジオール、ポリブチレンカーボネートジオール等の炭素数1〜10のアルキレン基を含有するポリアルキレンカーボネートジオール、ポリフェニレンカーボネートジオール等の炭素数6〜10のアリール基を含有するポリアリーレンカーボネートジオールなどが挙げられる。
【0013】
中でもポリ1,4−ブチレンカーボネートジオール、ポリ1,5−ペンチレンカーボネートジオール、ポリ1,6−へキシレンカーボネートジオール、ポリ1,4−シクロヘキシレンカーボネートジオール、ポリ1,4−シクロヘキシレンジメチレンカーボネートジオールあるいは1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3―メチル、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなど2種以上からなるポリカーボネートジオールなどが好ましい。
【0014】
なお、カーボネートジオール(A)は単独で使用しても複数で使用しても良い。また上記カーボネートジオールの数平均分子量としては500〜5000が好ましく、さらに好ましいのは1000〜3000である。数平均分子量が500未満になると、出来上がったポリウレタンのウレタン基濃度が高くなり、重合の際に一般的に溶媒として用いるメチルエチルケトン、トルエンへの溶解性が悪くなることがある。また、数平均分子量5000を超えると後述するスルホン酸金属塩基成分との相溶性が不良となり、均一なポリウレタン樹脂が得ることができず、コーティング剤として塗布できなくなる場合がある。
【0015】
ジイソシアネート化合物(B)としては、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、2,6−ナフタレンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニレンジイソシアネート、4,4’−ジイソシアネートジフェニルエーテル、1,5−ナフタレンジイソシアネート、m−キシレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアナートが、或いは1,6−ヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートの水添化物の様な脂肪族、脂環族ジイソシアナートが挙げられる。これらの中、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートが特に好ましい。また、必要に応じて三官能以上のポリイソシアネート化合物を併用しても良い。
【0016】
本発明のポリウレタン樹脂には、必要に応じて一般的に鎖延長剤と呼ばれるジオール化合物等を共重合して良い。共重合される鎖延長剤としては、種々のグリコール、例えば1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、2,3−ブチレングリコール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2’,2’−ジメチル−3−ヒドロキシプロパネート、2−ノルマルブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、3−エチル−1,5−ペンタンジオール、3−プロピル−1,5−ペンタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、3−オクチル−1,5−ペンタンジオール、3−フェニル−1,5−ペンタンジオール、2,5−ジメチル−3−ナトリウムスルホ−2,5−ヘキサンジオール等が挙げられる。又はトリメチロールプロパンやトリエタノールアミンの様な低分子量トリオール、ジエチルアミンや4,4’−ジアミノジフェニルメタン等のジアミン化合物、或いはトリメチロールプロパンやグリセリンへのプロピレンオキサイドやラクトンモノマー付加物の様な高分子トリオール化合物を挙げることが出来る。これらの中では特にトリメチロールプロパン、トリエタノールアミンが好ましい。トリオールを用いることによりポリウレタン分子の側鎖に水酸基が残存し、ポリイソシアネート化合物又はアミノ樹脂等の硬化剤による架橋密度が高くなり、ポリウレタン樹脂の機械的強度を向上する効果が得られる。また、トリエタノールアミンのように3級アミン骨格を有する化合物では、ポリイソシアネート系硬化剤との反応性を高める触媒効果を期待することができる。
【0017】
本発明においては、ジオール成分としてポリカーボネートジオール(A)とポリエステルジオール(C)を併用しても良い。ポリエステルジオール(C)を構成する酸成分として芳香族二塩基酸成分ではテレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,2’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸等が挙げられ、脂環族二塩基酸成分としては1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸などが挙げられる。好ましくは芳香族二塩基酸としてはテレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸が挙げられ、脂環族二塩基酸成分としては1,2−シクロヘキサンジカルボン酸などが挙げられる。また全酸成分中に5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−カリウムスルホイソフタル酸、ナトリウムスルホテレフタル酸等のスルホン酸金属塩含有芳香族ジカルボン酸を共重合しても良い。
【0018】
ポリエステルポリオール(C)を構成するグリコール成分としてはエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオ−ル、1,6−ヘキサンジオ−ル、1,9−ノナンジオール、1,10−ドデカンジオール、ジエチレングリコ−ル、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコ−ル、ネオペンチルグリコール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオ−ル、2−メチルオクタンジオール、ネオペンチルヒドロキシピバリン酸エステル、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、水素添加ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物、ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどのポリエーテルなどが挙げられる。なかでもエチレングリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオ−ル、ネオペンチルヒドロキシピバリン酸エステル、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、水素添加ビスフェノールAが好ましい。またポリエステルジオールの原料の一部に無水トリメリット酸、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の三官能以上の化合物を有機溶剤溶解性、塗布作業性等の特性を損なわない範囲で使用してもよい。
【0019】
本発明においては、カーボンブラック等の分散性を向上させるために、極性基としてスルホン酸金属塩基を有する化合物を共重合することが好ましい。スルホン酸金属塩基はポリカーボネートジオール(A)、ジイソシアネート化合物(B)、ポリエステルジオール(C)、ポリシロキサン化合物(D)のいずれに導入しても良いが、重合の安定性等を考慮するとポリエステルジオール(C)に導入されていることが好ましい。ここでスルホン酸金属塩基含有芳香族二塩基酸と側鎖含有グリコールから得られる数平均分子量1000以下のポリエステルジオールが好ましい。具体的には5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチルエステルと2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2’,2’−ジメチル−3−ヒドロキシプロパネートから成るエステル縮合物、あるいは5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチルエステルとネオペンチルグリコールから成るエステル縮合物がある。
【0020】
上述のスルホン酸金属塩基量はウレタン樹脂全体に対して10〜500eq/tの範囲が好ましい。10eq/t未満だとポリシロキサンセグメントとの相溶性が良くなり、十分な滑り性を発揮できなくなり、またカーボンブラックの分散性が不足することがある。500eq/tを越えると極性基を含有するポリウレタンセグメントの相互作用が強くなり、汎用溶剤であるメチルエチルケトンあるいはトルエンへの溶解性が低下する傾向が見られる。ここでスルホン酸金属塩基量は、樹脂重量1t当たりスルホン酸金属塩基が何当量存在するかを表す数値である。従って単位はeq/106gで表す。
【0021】
本発明のポリウレタン樹脂に使用されるポリシロキサン化合物(D)とは、シロキサン結合を分子内に2つ以上含む化合物を示す。より具体的にはジメチルシロキサン、ジエチルシロキサン、ジプロピルシロキサン等のアルキル置換シロキサンが好ましい。さらには、ウレタン分子中の共重合させるために水酸基、アミノ基、メルカプト基などを有する1個または2個以上の官能基を有することが好ましい。その構造式は例えば一般式(I)〜(IV)のようなものが挙げられる。
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

(ただし、Xは−R’NH2、−R’N(H)R’’NH2、−R’OH、−R’SH、−CR’’(R’OH)2のうち少なくとも1個である。またRはアルキル、アルコキシ基のいずれかであり、R’、R’’はアルキレン基、m=1〜100、n=2〜100である)
【0022】
一般式(I)〜(IV)において、官能基Xの官能基当量(Mx)は100〜6000g/molの範囲が好ましい。Mxが100g/mol未満では一般式(I)〜(IV)の一分子中に存在する官能基Xの数が多くなり、一般式(I)〜(IV)がポリウレタン分子鎖中に組み込まれ、得られたポリウレタン樹脂は効果的に滑り性を発揮しないことがある。また、Mxが6000g/molを越えるとポリウレタン骨格との相溶性が極端に低下し、ポリウレタン骨格に組み込まれにくくなることがある。
【0023】
本発明のポリウレタン樹脂はポリカーボネートジオール(A)およびジイソシアネート化合物(B)を必須成分とし、その他必要に応じてその他の化合物、特にポリエステルジオール(C)、ポリシロキサン化合物(D)、その他の鎖延長剤を付加重合して得ることが出来る。合成方法は特に限定されないが、例えば以下の様な方法により合成される事が最も好ましい。すなわち、ジオール化合物とジイソシアネート化合物(B)からイソシアネート基末端のポリウレタンプレポリマーを合成する。その際後で用いるシリコン化合物(C)の有する官能基当量(Mx)より過剰量のイソシアネート当量を有するようにジイソシアネート化合物(B)を反応させる(合成第一段階)。次いで、ポリウレタンプレポリマーとシリコーン化合物(C)を反応させる(合成第二段階)。さらに必要に応じて残存する未反応イソシアネート基を、イソシネート基と反応性を有する官能基を2個以上有する化合物で鎖延長させる(合成第三段階)。この様な反応手順により、極性基化合物を比較的多く有するポリウレタン分子とシリコーンオイルを比較的多く有するポリウレタン分子が安定的な状態で共在し、優れた塗膜表面滑性と高い基材密着性及び優れた機械的強度が発揮される。
【0024】
本発明のポリウレタン樹脂におけるポリシロキサン化合物(D)の導入量は、ポリウレタン樹脂全体重量中1〜30重量%であることが好ましい。より好ましくは1〜20重量%である。1重量%未満では塗膜の十分な滑り性が得られにくくなりことがあり、一方30重量%以上では遊離したシリコン化合物のブリードアウトやポリウレタン樹脂の機械的強度の低下が起こりやすくなる場合がある。
【0025】
本発明のポリウレタン樹脂の数平均分子量は5000から100000、望ましくは10000から80000である。数平均分子量が5000未満では機械的強度が不足し、数平均分子量が100000を超えると溶液粘度が大きくなり、作業性、カーボンブラック等の分散性が悪化する虞がある。
【0026】
ポリウレタン樹脂を製造するときには、触媒としてオクチル酸第一錫、ジブチル錫ジラウリレート、トリエチルアミン等を用いてもよい。また紫外線吸収剤、加水分解防止剤、酸化防止剤などをポリウレタン樹脂の製造前、製造中あるいは製造後に添加してもよい。
【0027】
本発明のポリウレタン樹脂のガラス転移温度は−20〜60℃の範囲であることが好ましい。より好ましくは−15〜35℃である。ガラス転移温度が−20℃未満では樹脂が柔らかく、長期間の耐久性が充分に得られにくい。一方、60℃を超えると塗布性が低下し、塗膜に皺やムラが発生しやすい。
【0028】
本発明の導電性ロールは、上述のポリウレタン樹脂と共に必要に応じてポリイソシアネート化合物又はアミノ樹脂等の硬化剤、カーボンブラック等の導電剤を併用したコーティング液を塗布、乾燥して得られる。
【0029】
該コーティング液を塗布する方法は特に制限するものではなく、従来公知のディッピング法、スプレーコーティング法、ロールコート法等が挙げられる。また、塗布層の厚みは3〜100μmが好ましく、特に好ましくは5〜50μmである。
【0030】
このようにして製造された導電性ロールは複写機、プリンター、ファクシミリ等の電子写真装置に組み込まれて使用される。
【実施例】
【0031】
以下実施例により本発明を具体的に例示するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。実施例中、単に部とあるのは重量部を示す。なお、樹脂物性の測定は以下のような手順で行った。
【0032】
(溶液粘度)
B型粘度計を用いて25℃で測定した。
【0033】
(数平均分子量および分子量分布)
ウォーターズ社製ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)により、ポリスチレンを標準物質とし、テトラヒドロフランを溶媒として測定した。なお、分子量300以下の低分子のピークは分析時には削除し、300以上の高分子のピークをデータ処理することで数平均分子量を求めた。
【0034】
(組成分析)
重クロロホルム溶媒中でヴァリアン社製核磁気共鳴分析計(NMR)ジェミニ−200を用いて、1H−NMR分析を行なってその積分比より決定した。
【0035】
(極性基濃度)
試料0.1gを炭化し、酸に溶解した後、原子吸光分析によりNa濃度を求め、下記式より求めた。
Na濃度(ppm)/23(Na原子量)=極性基濃度(eq/t)
【0036】
(ガラス転移温度)
110Hzにおける動的粘弾性の温度依存性測定結果より、貯蔵弾性率(E’)の変曲点温度とした。測定はレオロジー(株)製FTレオスペクトラーDVE−VAにより、周波数110Hz、振幅10.0μm、昇温速度5 ℃/min、温度範囲−50〜150℃で行った。サンプルは15×4mm、厚さ15μmのフィルム状サンプル片を用いた。保存弾性率(E’)の屈折点において、ガラス転移温度以下のベースラインの延長線と屈折点以上における最大傾斜を示す接線との交点の温度をガラス転移温度とした。
【0037】
極性基を有するポリエステルジオールの合成例
温度計、攪拌機、リービッヒ冷却器を具備した反応容器に5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチルエステルを888部、2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2’,2’−ジメチル−3−ヒドロキシプロパネートを1836部およびテトラブトキシチタン0.2部を仕込み240℃で5時間エステル交換した。温度を100℃まで低下させ、トルエン633部で希釈しポリエステルジオール(a)溶液(固形分濃度80%)を得た。得られたポリエステルジオール(a)の数平均分子量(未反応グリコール成分を除いて算出)は620であり、組成は5−ナトリウムスルホイソフタル酸/2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2’,2’−ジメチル−3−ヒドロキシプロパネート=3/1(モル比)であった。
【0038】
[実施例1]
ポリカーボネートウレタン樹脂(A)の合成
UHC−200 100部(宇部興産(株)製)とポリエステルジオール(a)30部を2−ブタノン(以下MEKと略すことがある)99部に溶解した後、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(以下MDIと略することがある)29部を溶解し、75℃で約2時間反応させた。次に、MEK287部、KF865(側鎖にアミノ基を含有するシリコーンオイル、信越化学工業(株)製)10部を溶解し、75℃で約1時間反応させた後、触媒としてジブチル錫ジラウレート0.01部を添加した。反応を75℃で約2時間行い、固形分濃度30%のポリカーボネートウレタン樹脂を得た。得られたポリカーボネートウレタン樹脂(A)の特性を表1に示した。なお、表中の略号は以下の通りであり、表の組成比は重量比である。
【0039】
[実施例2]
ポリカーボネートウレタン樹脂(B)の合成
UHC−50−200 100部(宇部興産(株)製)とポリエステルジオール(a)30部、を2−ブタノン115部に溶解した後、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート54部を溶解し、75℃で約2時間反応させた。次に、MEK169部、X22−160AS(両末端に水酸基を含有するシリコーンオイル、信越化学工業(株)製)10部を溶解し、75℃で約1時間反応させた後、トリエタノールアミン(以下TEOAと略することがある)2部、触媒としてジブチル錫ジラウレート0.01部、MEK166部を添加した。反応を75℃で約2時間行い、固形分濃度30%のポリカーボネートウレタン樹脂を得た。得られたポリカーボネートウレタン樹脂(B)の特性を表1に示した。なお、表中の略号は以下の通りであり、表の組成比は重量比である。
【0040】
[実施例3]
ポリカーボネートウレタン樹脂(C)の合成
UM−90(1/1)100部(宇部興産(株)製)とポリエステルジオール(a)10部、ネオペンチルグリコール(以下NPGと略することがある)5部を2−ブタノン105部に溶解した後、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート45部を溶解し、75℃で約2時間反応させた。次に、MEK148部、KF2001(片末端にメルカプト基を含有するシリコーンオイル、信越化学工業(株)製)10部を溶解し、75℃で約1時間反応させた後、触媒としてジブチル錫ジラウレート0.01部、MEK142部を添加した。反応を75℃で約2時間行い、固形分濃度30%のポリカーボネートウレタン樹脂を得た。得られたポリカーボネートウレタン樹脂(C)の特性を表1に示した。なお、表の組成比は重量比である。
【0041】
[実施例4]
ポリカーボネートウレタン樹脂(D)の合成
CX−4710 100部(日精化学(株)製)とポリエステルジオール(a)25部を2−ブタノン(以下MEKと略す)106部に溶解した後、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート43部を溶解し、75℃で約2時間反応させた。次に、MEK162部、X22−1660B−3(両末端にアミノ基を含有するシリコーンオイル、信越化学工業(株)製)15部を溶解し、75℃で約1時間反応させた後、トリメチロールプロパン(以下TMPと略することがある)2部、触媒としてジブチル錫ジラウレート0.01部、MEK158部を添加した。反応を75℃で約2時間行い、固形分濃度30%のポリカーボネートウレタン樹脂を得た。得られたポリカーボネートウレタン樹脂(D)の特性を表1に示した。なお、表の組成比は重量比である。
【0042】
[比較例1]
ポリエステルウレタン樹脂(E)の合成
ODX688 100部(大日本インキ化学(株)製)を2−ブタノン89部に溶解した後、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート33部を溶解し、75℃で約2時間反応させた。次に、MEK126部、X22−160AS(両末端に水酸基を含有するシリコーンオイル、信越化学工業(株)製)10部を溶解し、75℃で約1時間反応させた後、触媒としてジブチル錫ジラウレート0.01部、MEK119部を添加した。反応を75℃で約2時間行い、固形分濃度30%のポリエステルウレタン樹脂を得た。得られたポリエステルウレタン樹脂(E)の特性を表1に示した。なお、表の組成比は重量比である。
【0043】
[比較例2]
ポリエステルウレタン樹脂(F)の合成
ODX688 100部(大日本インキ化学(株)製)とポリエステルジオール(a)30部を2−ブタノン99部に溶解した後、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート30部を溶解し、75℃で約2時間反応させた。次に、MEK149部、KF865(側鎖にアミノ基を含有するシリコーンオイル、信越化学工業(株)製)10部を溶解し、75℃で約1時間反応させた後、触媒としてジブチル錫ジラウレート0.01部、MEK142部を添加した。反応を75℃で約2時間行い、固形分濃度30%のポリエステルウレタン樹脂を得た。得られたポリエステルウレタン樹脂(F)の特性を表1に示した。なお、表の組成比は重量比である。
【0044】
【表1】

【0045】
[実施例5]
上記ポリカーボネートウレタン樹脂(A)100部にデンカブラックHS−100(カーボンブラック、電気化学工業(株)製)10部を分散させた後、ポリカーボネートウレタン樹脂の固形分に対して10%のコロネートL(トリメチロールプロパンのトリレンジイソシアネート付加物、日本ポリウレタン工業(株)製)を添加し、コーティング液を調整した。このコーティング液を乾燥後の厚みが約10μmとなるよう、最外層として塗布乾燥することにより、導電性ロールを作製した。
【0046】
このようにして得られた導電性ロールを用いて、下記の基準に従い、各特性の評価を行った結果は表2のとおりであった。表2の結果から、ポリカーボネートウレタン樹脂(A)を用いたコーティング液は塗布性に問題なく、この導電性ロールは、摩擦係数が低く、トナーフィルミングが発生せず、耐久複写画質に優れた評価を示していることが分かる。
【0047】
塗布性
上記ポリカーボネートウレタン樹脂を用いたコーティング液を導電性ロールの最外層として塗布乾燥した際に、塗膜に皺やムラが発生したものを×、ごくわずかに発生したものを○、発生しなかったものを◎とした。
【0048】
摩擦係数
上記ポリカーボネートウレタン樹脂を用いたコーティング液を塗布乾燥して塗膜を作製し、静動摩擦係数計(協和界面科学社製)を用いて、移動速度0.3cm/秒、荷重100gの条件下で、剛球に対する摩擦係数を測定した。
【0049】
トナーフィルミング性
上記導電性ロールを現像ロールとして電子写真複写機に組み込み、トナー付着の厚みが1μm以上であったものをトナーフィルミングが発生したものとした。そして、トナーフィルミングが発生したものを×、発生しなかったものを○とした。
【0050】
耐久複写画質−1
上記導電性ロールを現像ロールとして電子写真複写機に組み込み、20℃×50%RHの条件下において5千枚複写した後、べた黒画像において画像ムラや白斑点ぬけのないものを◎、ごくわずかに発生したものを○、発生したものを×とした。
【0051】
耐久複写画質−2
上記導電性ロールを80℃×85%の環境下で5日間放置後、現像ロールとして電子写真複写機に組み込み、20℃×50%RHの条件下において5千枚複写した後、べた黒画像において画像ムラや白斑点ぬけのないものを◎、ごくわずかに発生したものを○、発生したものを×とした。
【0052】
[実施例6〜8]
ポリカーボネートウレタン樹脂(B)〜(D)を使用して、実施例5と同様の方法により、評価を行った結果は表2のとおりであった。表2の結果から、ポリウレタン樹脂(B)〜(D)を用いたコーティング液は塗布性に問題なく、実施例6〜8の導電性ロールは、摩擦係数が低く、トナーフィルミングが発生せず、耐久複写画質に優れた評価を示していることが分かる。
【0053】
[比較例3、4]
ポリエステルウレタン樹脂(E)及び(F)を使用して、実施例1と同様の方法により、評価を行った結果は表2のとおりであった。表2の結果から、ポリエステルウレタン樹脂(E)を用いた比較例3の導電性ロールは、摩擦係数が高く、トナーフィルミングが顕著に発生し、耐久複写画質の評価は不可能であった。また、ポリエステルウレタン樹脂(F)を用いた比較例4の導電性ロールは、高湿高温放置後の耐久複写画質に劣ることが分かる。
【0054】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0055】
以上のように、本発明のポリカーボネートウレタン樹脂は滑り性と基材密着性及び機械的強度に優れており、複写機、プリンター、ファクシミリ等の電子写真装置の導電性ロールに用いた場合、導電性ロールの摩擦係数が低下し、トナーフィルミングの発生を防止することができ、耐久複写画質の向上を図ることができ、高温高湿環境下でも耐久複写画質の劣化がない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネートジオール(A)、ジイソシアネート化合物(B)および必要に応じてその他の化合物を反応させて得られるウレタン樹脂において、分子内にスルホン酸金属塩基を含有してなることを特徴とするポリウレタン樹脂。
【請求項2】
ポリカーボネートジオール(A)、ポリエステルジオール(C)、ジイソシアネート化合物(B)および必要に応じてその他の化合物を反応させて得られるウレタン樹脂において、分子内にスルホン酸金属塩基を含有してなることを特徴とするポリウレタン樹脂。
【請求項3】
ポリカーボネートジオール(A)、ポリエステルジオール(C)、ジイソシアネート化合物(B)、ポリシロキサン化合物(D)および必要に応じてその他の化合物を反応させて得られるウレタン樹脂において、分子内にスルホン酸金属塩基を含有してなることを特徴とするポリウレタン樹脂。
【請求項4】
スルホン酸金属塩基が、ポリエステルジオール(C)部分に含有してなることを特徴とする請求項2または3に記載のポリウレタン樹脂。
【請求項5】
ポリシロキサン化合物(D)が、下記(I)〜(IV)のいずれかの構造であることを特徴とする請求項3または4に記載のポリウレタン樹脂。
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

(ただし、Xは−R’NH2、−R’N(H)R’’NH2、−R’OH、−R’SH、−CR’’(R’OH)2のうち少なくとも1個である。またRはアルキル、アルコキシ基のいずれかであり、R’、R’’はアルキレン基、m=1〜100、n=2〜100である)
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のポリウレタン樹脂を表面層に有する導電性ロール。
【請求項7】
請求項6に記載の導電性ロールを用いた電子写真装置。

【公開番号】特開2006−274139(P2006−274139A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−97738(P2005−97738)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】