説明

ポリマークラッド光ファイバ及びその製造方法

【課題】高開口数を有すると共に耐湿性に優れるポリマークラッド光ファイバを得る。
【解決手段】ポリマークラッド光ファイバ11は、ガラスで形成された光伝送路11aとそれを被覆するように設けられたクラッド11bとを有する。クラッド11bを形成するクラッド材料は、ヒドロシリル化反応による架橋によって硬化したパーフルオロエーテルポリマーを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリマークラッド光ファイバ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高い開口数(以下「NA」という。)が要求される近距離データ転送、ライトガイド、或いは、ファイバレーザー等の用途において用いられる光ファイバとして、ガラスで形成されたコアをポリマーで形成されたクラッドで被覆したポリマークラッド光ファイバが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ガラスで形成されたコアを、分子内に少なくとも2つのアルコキシ基と結合したケイ素原子を少なくとも2つ有すると共に紫外線硬化型樹脂と化学結合を形成し得る官能基を少なくとも1つ有する反応性化合物を含む樹脂組成物で形成されたクラッドで被覆したポリマークラッド光ファイバが開示されている。
【0004】
特許文献2には、ガラスで形成されたコアを、ウレタンジ(メタ)アクリレート及び希釈剤を含有する樹脂組成物の硬化物で形成されたクラッドで被覆したポリマークラッド光ファイバが開示されている。
【0005】
特許文献3には、ガラスで形成されたコアを、主鎖の末端にウレタン基を有すると共に(メタ)アクリレート基が結合したパーフルオロポリエーテルポリマーで形成されたクラッドで被覆したポリマークラッド光ファイバが開示されている。
【0006】
特許文献4には、ガラスで形成されたコアを、紫外線硬化型フッ素樹脂で形成されたクラッドで被覆したポリマークラッド光ファイバが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−112619号公報
【特許文献2】WO96/013739
【特許文献3】特開平10−197731号公報
【特許文献4】特開2009−198706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
クラッドを熱硬化型シリコーン系樹脂で形成したポリマークラッド光ファイバでは、熱硬化型シリコーン樹脂の特性上、クラッドの屈折率は1.41程度までしか下がらず、そのためNAは0.37程度が上限である。
【0009】
クラッドを紫外線硬化型フッ化アクリレート系樹脂で形成したポリマークラッド光ファイバでは、クラッドの屈折率を下げるためにはフッ素含有量を高めることが必要であり、その場合、クラッドの強度が低くなるため損傷を受けやすく、また、クラッドの屈折率は1.38程度まで下がるものの、それでも開口数NAは0.47程度までしか高められない。さらに、アクリル基が親水性であるため吸湿し易く、例えば水中に浸漬された場合のように高湿環境下に直接曝された際には水分が進入しやすく、それによってコアとクラッドとの界面で剥離が生じると光の伝送損失が高まってしまう。また、紫外線硬化型であるため、コアを形成するガラスの種類によっては、紫外光を受けてコアを形成するガラスに欠陥が生じる。
【0010】
本発明の課題は、高NAを有すると共に耐湿性に優れるポリマークラッド光ファイバを得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のポリマークラッド光ファイバは、ガラスで形成された光伝送路と、該光伝送路を被覆するように設けられたクラッドと、を有するポリマークラッド光ファイバであって、上記クラッドを形成するクラッド材料は、ヒドロシリル化反応による架橋によって硬化したパーフルオロエーテルポリマーを含む。
【0012】
本発明のポリマークラッド光ファイバの製造方法は、ガラス製のプリフォームを線引きして光伝送路を形成する光伝送路形成工程と、該光伝送路形成工程で形成した光伝送路の表面に液状のクラッド形成材を付着させて加熱することにより熱硬化させてクラッドを形成するクラッド形成工程とを備え、上記クラッド形成材は、ヒドロシリル化反応による架橋によって硬化するパーフルオロエーテルポリマーを含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、クラッドがヒドロシリル化反応による架橋によって硬化したパーフルオロエーテルポリマーを含むクラッド材料で形成されるので、クラッドが大きく低屈折率化され、その結果、本発明のポリマークラッド光ファイバは光伝送路に対して高NAを得ることができ、また、クラッド材料の架橋点となる炭素原子とケイ素原子の結合部が疎水性であることにより、優れた耐湿性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施形態1に係るポリマークラッド光ファイバ心線を示す斜視図である。
【図2】実施形態1に係るポリマークラッド光ファイバ心線の製造方法を示す説明図である。
【図3】(a)及び(b)はクラッド材料のガラス転移温度の測定方法の説明図である。
【図4】(a)及び(b)はクラッド形成材の硬化開始温度の測定方法の説明図である。
【図5】実施形態2に係るダブルクラッド光ファイバ心線を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本実施形態のポリマークラッド光ファイバは、ガラスで形成された光伝送路とその光伝送路を被覆するように設けられたクラッドとを有する。光伝送路の態様としては、例えば、クラッドよりも屈折率の高いコアからなるもの、及びコアの表面にコアよりも屈折率が低く且つクラッドよりも屈折率の高いガラスからなる別のクラッドであるもの(この場合、クラッドを第2クラッド及び別のクラッドを第1クラッドという。)がある。以下では、前者を実施形態1及び後者を実施形態2とし、それぞれ図面に基づいて詳細に説明する。
【0016】
(実施形態1)
図1は実施形態1に係るポリマークラッド光ファイバ心線10を示す。この実施形態1に係るポリマークラッド光ファイバ心線10は、例えば、近距離データ転送やライトガイド等の用途で用いられるものである。
【0017】
実施形態1に係るポリマークラッド光ファイバ心線10は、円形断面のポリマークラッド光ファイバ11とそれを被覆するオーバーコート12とで構成されている。心線径は例えば100〜1000μmである。
【0018】
ポリマークラッド光ファイバ11は、ファイバ中心の円形断面のコア11a(光伝送路)とそれを被覆するように設けられたクラッド11bとで構成されている。ファイバ径は例えば50〜700μmである。
【0019】
コア11aはガラスで形成されている。コア11aを形成するガラスは、純粋な石英ガラス(SiO2)であってもよく、また、Geなどの屈折率を高めるドーパント、Fなどの屈折率を低くするドーパント、或いは希土類元素(Er、Yb、Nd)等のその他の機能性付与ドーパントがドープされた石英ガラスであってもよい。コア径は例えば5〜100μmである。コア11aの屈折率は例えば1.44〜1.47である。なお、純粋な石英ガラスの屈折率は1.459である。屈折率は、JIS K 0062に準拠してアッベ屈折率計により測定される(以下同じ)。
【0020】
クラッド11bは、ヒドロシリル化反応による架橋によって硬化したパーフルオロエーテルポリマーを含むクラッド材料で形成されている。クラッド11bの厚さは例えば10〜100μmである。
【0021】
クラッド11bの屈折率は、コア11aの屈折率よりも低く、例えば1.37以下であり、コア11aに石英ガラスを用いた場合1.35以下であることが好ましい。このポリマークラッド光ファイバ11では、クラッド11bがこのような低屈折率を有することにより、コア11aに石英ガラスを用いた場合であると、コア11aに対するNAが例えば0.50以上、好ましくは0.55以上となる。光源から出射された光を集光してコア11aに入射させる場合、このようにNAが高い方が入射角を大きくできるため、入射可能な光量を多くすることができる。NAは、JIS C 6825に準拠してFFP法により測定される。
【0022】
クラッド11bを形成するクラッド材料の密度は例えば1.70〜1.80である。クラッド材料の密度は、JIS K 0061に準拠して測定される。
【0023】
クラッド11bを形成するクラッド材料のヤング率は、例えば0.5〜50MPaであり、外力に対する緩衝作用の観点から1〜10MPaであることが好ましい。クラッド11bを形成するクラッド材料の引張強さは、例えば1〜100MPaであり、外力に対する耐性の観点から10MPa以上であることが好ましい。クラッド11bを形成するクラッド材料の切断時伸びは、例えば5〜100%であり、ポリマークラッド光ファイバ11を曲げたときのクラッド11bのコア11aへの追随の観点から20〜100%であることが好ましい。クラッド材料のヤング率はJIS K 6251に準拠し、厚さ200μm及び幅6mmの短冊状に成形したクラッド材料を引張速度1mm/minで引張ったときの2.5%の伸び時の張力を断面積と伸び率(0.025)で除することにより求められる。また、引張強さ及び切断時伸びは、JIS K 6251に準拠し、試験片形状ダンベル2号及び試験片厚さ200μmとし、引張速度50mm/minの条件で測定される。
【0024】
クラッド11bを形成するクラッド材料のショアA硬さは、例えば10〜80であり、ポリマークラッド光ファイバ11の外力に対する耐性の観点から25〜80であることが好ましい。クラッド材料のショアA硬さは、JIS K 6253に準拠してタイプAデュロメータにより測定される。
【0025】
クラッド11bを形成するクラッド材料のガラス転移温度(Tg)は、例えば0℃以下であり、ポリマークラッド光ファイバ11の実用領域における特性変化を少なくする観点から−50℃以下であることが好ましい。クラッド材料のガラス転移温度(Tg)は、図3(a)に示すような剛体振子型物性試験器40A(例えば、エー・アンド・デイ社製 型番:RPT−3000W)を用いて次の手順により測定される。なお、剛体振子型物性試験器40Aは、試料台41A(例えばアルミニウム製)を備え、その上にパイプエッジ42A(例えば、エー・アンド・デイ社製 型番:RPN160)が設けられ、そこから錘43(例えば、エー・アンド・デイ社製 型番:FRB100)が垂らされて振子が構成されている。室温の大気雰囲気下で、試料台41Aに、クラッド材料からなる厚さ約100μmのフィルムFを載せ、試料台41Aを−100℃から150℃まで10℃/minの速度で昇温し、一定時間ごとに振子に振動を与えて振動周期を測定する。クラッド材料の粘弾性が変化すると、前記振動周期の減衰比を対数で示した値である対数減衰率が変化することから、図3(b)に示すように、前記対数減衰率の最大変化率を示す。この最大変化率を示す温度(すなわち対数減衰率の一次微分曲線が最大値を示す温度)をTgとする。なお、−100℃以下にTgが存在する場合には、上記と同じ原理で−100℃以下の測定が可能な装置を用いて測定するか、或いは、動的粘弾性測定装置を用いて測定し、−100℃以下に生じるtanδのピーク温度をTgとすることができる。
【0026】
クラッド11bを形成するクラッド材料のゲル分率は、例えば90〜100%であり、高温環境における低分子量成分揮発あるいは高湿環境における低分子量成分の溶出によって生じる、クラッド11bの特性変化を防止する観点から、96〜100%であることが好ましい。クラッド材料のゲル分率は、溶媒抽出時の質量変化により測定される。具体的には、クラッド材料に対し、メチルエチルケトン(沸点79.5℃)を溶媒として、毎時約10回の循環速度で5時間、ソックスレー抽出を行い、抽出後のクラッド材の乾燥質量を初期の質量で除し、百分率で表した値をゲル分率とする。
【0027】
クラッド11bのコア11aへの密着性の指標となるクラッド材料のガラスに対する90°剥離力は10N/m以上であることが好ましく、クラッド11bのコア11aからの剥離を防止する観点から、20N/m以上であることがより好ましい。クラッド材料のガラスに対する90°剥離力は、JISK6854−1に準拠し、ガラス基板上に100〜200μmの厚さでクラッド形成材を塗布し、架橋によって硬化してクラッド材料とした後、クラッド材料のみに幅2.5cmの間隔で短冊状に切り込みを入れ、その短冊状のクラッド材料の一端をガラス基板から垂直に、引張速度100mm/minで引き上げたときの張力を測定し、その張力を測定した短冊状のクラッド材料の幅で除することにより求めることができる。
【0028】
オーバーコート12は樹脂で形成されている。オーバーコート12を形成する樹脂としては、例えば、紫外線硬化型のウレタンアクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂、シリコーン樹脂などの光硬化型樹脂、ナイロンなどの熱可塑性樹脂、ポリイミド樹脂、熱硬化型シリコーン樹脂などの熱硬化型樹脂等が挙げられる。なお、コア11aに希土類元素等のドーパントがドープされたポリマークラッド光ファイバ11を紫外線硬化型樹脂のオーバーコート12で被覆する場合、紫外線によるコア11aの劣化を抑制する観点から、350nmよりも短い波長に吸収を有する紫外線硬化型樹脂を選択することが好ましい。
【0029】
オーバーコート12の厚さは例えば10〜100μmである。オーバーコート12の屈折率は、例えば1.4〜1.57であり、クラッドモード光の散逸を抑制する観点から、クラッド11bの屈折率よりも高いことが好ましい。オーバーコート12を形成する樹脂のヤング率は、例えば100〜400MPaであり、屈曲時に発生する応力及び伝送損失を低減する観点から、クラッド材料のヤング率よりも高いことが好ましい。オーバーコート12を形成する樹脂のゲル分率は、例えば80〜100%であり、クラッド材料のゲル分率よりも低いことが好ましい。また、吸水後に乾燥したときに発生する散逸低分子量成分に起因する収縮量の差を小さくすることにより、オーバーコート12とクラッド11bとの間の浮きの発生を規制し、それによって伝送損失の抑制を図る観点からは、オーバーコート12を形成する樹脂とクラッド材料とのゲル分率の差は5%よりも小さいことが好ましい。
【0030】
以上の実施形態1に係るポリマークラッド光ファイバ心線10は、コア11aに入力された光を、コア11a及びクラッド11bの屈折率差により、コア11a内に閉じ込めて伝送するように構成されている。
【0031】
また、実施形態1に係るポリマークラッド光ファイバ心線10によれば、クラッド11bがヒドロシリル化反応による架橋によって硬化したパーフルオロエーテルポリマーにより形成されているので、クラッド11bが大きく低屈折率化され、その結果、コア11aに対して高NAを得ることができ、また、クラッド材料11bの架橋点となる炭素原子とケイ素原子の結合部が疎水性であることにより、優れた耐湿性を得ることができる。さらに、クラッド11bのケイ素原子に結合したアルコキシ基をクラッド材料11bに導入することにより、クラッド11bとコア11aを形成するガラスと親和性が増すことからそれらの間に高い密着性が生じ、その結果、より優れた耐湿性を得ることができる。
【0032】
さらに、ヒドロシリル化反応による架橋によって硬化したパーフルオロエーテルポリマーにより形成されたクラッド11bは、光学特性の温度依存性が小さいこと、及び耐熱性が優れることが予想され、そのため厳しい環境下での使用可能性及び長寿命化を期待することができる。加えて、熱硬化型樹脂であるので、コア11aに希土類元素等のドーパントがドープされたポリマークラッド光ファイバ11の場合には、クラッド11bの形成時における紫外線によるコア11aの劣化を防止することができる。
【0033】
次に、実施形態1に係るポリマークラッド光ファイバ心線10の製造方法について図2に基づいて説明する。なお、以下ではオーバーコート12を紫外線硬化型樹脂で形成する場合を例とするが、特にこれに限定されるものではない。
【0034】
まず、コア11aを形成するためのガラス製のプリフォームPを作製する。プリフォームPの作製方法としては、例えば、CVD法、VAD法等の公知の方法を挙げることができる。プリフォームPは、例えば、長さが100〜1000mm、及び外径が10〜50mmの円柱体である。
【0035】
次いで、プリフォームPを線引機30にセットする。
【0036】
ここで、線引機30は、プリフォームPを加熱する紡糸炉31、その後段のクラッド形成部32、及びその後段のオーバーコート形成部33からなる。クラッド形成部32は、第1コーティングダイス32aと加熱炉32bとで構成されている。オーバーコート形成部33は、第2コーティングダイス33aとUV照射機33bとで構成されている。
【0037】
そして、線引機30を稼働させ、紡糸炉31でプリフォームPからコア11aを形成し、続いて、コア11aをクラッド形成部32に通してクラッド11bを形成してポリマークラッド光ファイバ11を作製し、そして、ポリマークラッド光ファイバ11をオーバーコート形成部33に通してオーバーコート12を形成して実施形態1に係るポリマークラッド光ファイバ心線10を製造する。
【0038】
このとき、紡糸炉31では、プリフォームPを加熱して線引きしてコア11aを形成する(光伝送路形成工程)。ここで、紡糸炉31の設定温度(線引温度)は例えば2000〜2300℃である。線引速度は例えば1〜100m/minである。
【0039】
クラッド形成部32では、線引きされたコア11aを第1コーティングダイス32aに通して、その表面に液状のクラッド形成材を均一厚さで付着させ、引き続いて加熱炉32bを通過させて加熱することにより熱硬化させてクラッド11bを形成する(クラッド形成工程)。
【0040】
ここで、クラッド形成材は、C=C二重結合及びSiHのヒドロシリル化反応による架橋によって硬化するパーフルオロエーテルポリマーを含む。クラッド形成材は、C=C二重結合とSiHとを1:1の割合で含むことが好ましい。
【0041】
クラッド形成材は単一成分で構成されていてもよい。単一成分のクラッド形成材は、分子内に少なくとも1つのC=C二重結合及び少なくとも1つのSiHを有するパーフルオロエーテルポリマーで構成され、加熱されると、分子間でC=C二重結合とSiHとがヒドロシリル化反応して架橋する。
【0042】
クラッド形成材は複数成分で構成されていてもよい。複数成分のクラッド形成材は、例えば、分子内に少なくとも2つのC=C二重結合を有するパーフルオロエーテルポリマー成分と少なくとも2つのSiHを有する含フッ素オルガノシロキサン成分とで構成され、加熱されると、両成分間でC=C二重結合とSiHとがヒドロシリル化反応して架橋する。
【0043】
上記C=C二重結合は、主鎖中に含まれていてもよく、また、側鎖中に含まれていてもよく、さらに、主鎖或いは側鎖の末端に含まれていてもよい。C=C二重結合は、分子中にアルケニル基として導入されていることが好ましい。
【0044】
ここで、クラッド形成材に対して、1分子中にエポキシ基、及びアルコキシ基が直結したケイ素原子を、それぞれ1個以上有する有機ケイ素化合物を添加すると、前記エポキシ基が、クラッド形成中のC=C二重結合の一部と反応してクラッド形成材と結合することにより、アルケニル基をクラッド形成材料に導入することができる。ここで、ケイ素原子に直結したアルコキシ基は、石英ガラス表面の水酸基と反応・結合して、クラッド材料とガラス間の密着性が増す。アルコキシ基の添加量は、例えば0.01〜5%であり、0.01%以上であると、クラッド材料とガラス間の密着性が極めて向上し、5%以下であると、クラッド材料の屈折率が低くクラッドとして非常に好適である。
【0045】
かかるアルケニル基としては、例えば、ビニル基、プロペニル基、スチリル基、イソプロペニル基、シクロプロペニル基、ブテニル基、シクロブテニル基、シクロペンテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられる。
【0046】
上記SiHは、主鎖中に含まれていてもよく、また、側鎖中に含まれていてもよく、さらに、主鎖或いは側鎖の末端に含まれていてもよい。SiHは、分子中にシロキサン結合の繰り返し構造
【0047】
【化1】

【0048】
として導入されていることが好ましい。シロキサン結合の繰り返し数(n)は例えば2〜5である。
【0049】
クラッド形成材は、単一種のパーフルオロエーテルポリマーのみを含んでいてもよく、また、複数種のパーフルオロエーテルポリマーを含んでいてもよい。
【0050】
クラッド形成材は、ポリマークラッド光ファイバ11の高NA及び優れた耐湿性を損なわない範囲で他のポリマー成分を含んでいてもよい。また、クラッド形成材は、白金系等の触媒を含んでいてもよい。
【0051】
クラッド形成材の粘度は、例えば0.5〜50Pa・sであり、クラッド11bとして好ましい厚さの塗膜を得る目的から1〜10Pa・sであることが好ましい。クラッド形成材の粘度は、JIS Z 8803に準拠して円錐−平板形回転粘度計により測定される。
【0052】
クラッド形成材の硬化開始温度は、例えば70〜150℃であり、ポットライフと加工速度の観点から90〜130℃であることが好ましい。クラッド形成材の硬化開始温度は、図4(a)に示すような剛体振子型物性試験器40B(例えば、エー・アンド・デイ社製 型番:RPT−3000W)を用いて次の手順により測定される。なお、剛体振子型物性試験器40Bは、試料ボート41B(例えばアルミニウム製)を備え、その中にナイフエッジ42B(例えば、エー・アンド・デイ社製 型番:RPN160)が設けられ、そこから錘43(例えば、エー・アンド・デイ社製 型番:FRB100)が垂らされて振子が構成されている。室温の大気雰囲気下で、試料ボート41Bにクラッド形成材Mを深さ0.5mmとなるように注入し、そして、試料ボート41Bを室温から200℃まで10℃/minの速度で昇温し、また、一定時間ごとに振子に振動を与えて振動周期を測定する。クラッド形成材Mが架橋によって硬化すると、液の弾性が上昇して振動周期が短くなることから、図4(b)に示すように、昇温初期からの振動周期が一定である直線部と振動周期が低下する直線部との交点を求め、それを硬化開始温度とする。
【0053】
なお、クラッド形成材に含まれるパーフルオロエーテルポリマーは、例えば市販材料として信越化学社製のSIFELシリーズがある。
【0054】
加熱炉32bの設定温度は例えば100〜500℃であり、炉長は例えば30〜30 0cmである。
【0055】
オーバーコート形成部33では、コア11aがクラッド11bで被覆されたポリマークラッド光ファイバ11を第2コーティングダイス33aに通して、その表面に液状のオーバーコート形成材を均一厚さで付着させ、引き続いてUV照射機33bを通過させて紫外線を照射することにより硬化させてオーバーコート12を形成する(オーバーコート形成工程)。
【0056】
ここで、オーバーコート形成材としては、例えば、未架橋の紫外線硬化型ウレタンアクリレート樹脂等が挙げられる。オーバーコート形成材の粘度は例えば0.5〜5Pa・sである。
【0057】
(実施形態2)
図5は実施形態2に係るダブルクラッド光ファイバ心線20を示す。この実施形態2に係るダブルクラッド光ファイバ心線20は、例えば、ファイバレーザー等の用途で用いられるものである。
【0058】
実施形態2に係るダブルクラッド光ファイバ心線20は、円形断面のダブルクラッド光ファイバ21(ポリマークラッド光ファイバ)とそれを被覆するオーバーコート22とで構成されている。心線径は例えば100〜1000μmである。
【0059】
ダブルクラッド光ファイバ21は、ファイバ中心の円形断面のコア21aとそれを被覆するように設けられた第1クラッド21bとさらにそれを被覆するように設けられた第2クラッド21cとで構成されている。なお、第1クラッド21bの断面形状は円形であってもよいが、第1クラッド21bに励起光が入力されたときに、励起光がコア21aを通過しないスキュー光になるのを防ぐ観点からは、当該断面形状は多角形や非幾何学形状であることが好ましい。ファイバ径は例えば50〜700μmである。
【0060】
コア21a及び第1クラッド21bはガラスで一体に形成されている。
【0061】
コア21aを形成するガラスは、例えば、Geなどの屈折率を高めるドーパント、Fなどの屈折率を低くするドーパント、或いは希土類元素(Er、Yb、Nd)等のその他の機能性付与ドーパントがドープされた石英ガラスである。コア径は例えば5〜100μmである。コア21aと第1クラッド21bの比屈折率差(Δ)は例えば0.1〜1.0%である。
【0062】
第1クラッド21bを形成するガラスは、純粋な石英ガラス(SiO2)であってもよく、また、FやGeなどの屈折率を変えるドーパントがドープされた石英ガラスであってもよい。第1クラッド21bの厚さは例えば25〜350μmである。第1クラッド21bの屈折率は、コア21aの屈折率よりも低く、比屈折率差は例えば0.1〜1.0%である。
【0063】
第2クラッド21cは、ヒドロシリル化反応による架橋によって硬化したパーフルオロエーテルポリマーを含むクラッド材料により形成されている。第2クラッド21cの厚さは例えば10〜100μmである。
【0064】
第2クラッド21cの屈折率は、第1クラッド21bの屈折率よりも低く、例えば1.37以下であり、1.35以下であることが好ましい。このダブルクラッド光ファイバ21では、第2クラッド21cがこのような低屈折率を有することにより、第1クラッド21bに対するNAが例えば0.50以上、好ましくは0.55以上となる。
【0065】
第2クラッド21cのその他の構成は実施形態1のクラッド21bの構成と同一である。
【0066】
オーバーコート22は、実施形態1のオーバーコート12と同種の樹脂で形成されている。オーバーコート22の厚さは例えば10〜100μmである。オーバーコート22のその他の構成は実施形態1のクラッド11bの構成と同一である。
【0067】
以上の実施形態2に係るダブルクラッド光ファイバ心線20は、第1クラッド21bに入力された励起光を第1及び第2クラッド21b,21cの界面で反射させながら伝送し、そして、その励起光がコア21aを通過する際にコア21aにドープされたドーパントを励起してエネルギー順位間の反転分布を形成することから、その誘導放出によりコア21aに入力された光を増幅して伝送するように構成されている。従って、実施形態2に係るダブルクラッド光ファイバ心線20では、コア21a及び第1クラッド21bが光伝送路を構成する。
【0068】
また、実施形態2に係るダブルクラッド光ファイバ心線20によれば、第2クラッド21cがヒドロシリル化反応による架橋によって硬化したパーフルオロエーテルポリマーで形成されているので、第2クラッド21cが大きく低屈折率化され、その結果、第1クラッド21bに対して高NAを得ることができ、また、第2クラッド21cの架橋点となる炭素原子とケイ素原子の結合部が疎水性であることにより、優れた耐湿性を得ることができる。さらに、第2クラッド21cのケイ素原子に結合したアルコキシ基を第2クラッド21cに導入することにより、第2クラッド21cと第1クラッド21bを形成するガラスと親和性が増すことからそれらの間に高い密着性が生じ、その結果、より優れた耐湿性を得ることができる。また、光源から出射された励起光を集光して第1クラッド21bに入射させる場合、このようにNAが高い方が入射角を大きくできるため、入射可能な励起光量を多くすることができ、従って、より多くの励起光を第1クラッド21b内に閉じ込めることができるため、高い発振効率を得ることができる。
【0069】
さらに、ヒドロシリル化反応による架橋によって硬化したパーフルオロエーテルポリマーにより形成された第2クラッド21cは、光学特性の温度依存性が小さいこと及び耐熱性が優れることが予想され、そのため厳しい環境下での使用可能性及び長寿命化を期待することができる。加えて、第2クラッド21cは熱硬化型樹脂を加熱により架橋することによって硬化したクラッド材で形成されるので、コア21aに希土類元素等のドーパントがドープされたダブルクラッド光ファイバ21の場合には、第2クラッド21cの形成時における紫外線によるコア21aの劣化を防止することができる。
【0070】
実施形態2に係るダブルクラッド光ファイバ心線20の製造方法は、実質的には、実施形態1に係るポリマークラッド光ファイバ心線10の製造方法と同一であるが、実施形態2では、コア部を形成する円形断面の材料と、それを被覆するように設けられた第1クラッドを形成する材料の2層構造を有するプリフォームを用い、また、クラッド形成材により第2クラッド21cを形成する。
【実施例】
【0071】
(クラッド形成材)
<実施例>
実施例のクラッド形成材は、ヒドロシリル化反応による架橋によって硬化するパーフルオロエーテルポリマーとした。粘度は4Pa・sであった。クラッド形成材の硬化開始温度は、図4(a)及び(b)に示す方法で測定したところ128℃であった。
【0072】
このクラッド形成材をガラス基板上に塗布し、加熱温度150℃及び加熱時間5時間の条件で熱架橋することによって硬化させて、厚さ200μmのシートを作製した。これは実施例のクラッド材料である。このクラッド材料のゲル分率は99%であった。
【0073】
<比較例>
比較例のクラッド形成材は、紫外線架橋によって硬化する紫外線硬化型フッ化アクリレート樹脂とした。粘度は2.4Pa・sであった。
【0074】
このクラッド形成材をガラス基板上に塗布し、窒素雰囲気下、積算光量1000mJ/cm2の条件で紫外線架橋することによって硬化させて、厚さ200μmのシートを作製した。これは比較例のクラッド材料である。このクラッド材料のゲル分率は96%であった。
【0075】
(オーバーコート材料)
実施例及び比較例のオーバーコート形成材は、紫外線架橋によって硬化する紫外線硬化型ウレタンアクリレート樹脂とした。粘度は2.5Pa・sであった。
【0076】
このオーバーコート形成材を窒素雰囲気下、積算光量1000mJ/cm2の条件で紫外線架橋することによって硬化させて、厚さ200μmのシートを作製した。これはオーバーコート材料である。このオーバーコート材料のゲル分率は96%であった。
【0077】
(ポリマークラッド光ファイバ心線)
<実施例>
上記実施例のクラッド形成材及び上記オーバーコート形成材を用いて、上記実施形態1と同様の構成のポリマークラッド光ファイバ心線を作製し、それを実施例のポリマークラッド光ファイバ心線とした。このとき、線引条件は、線引速度を20m/min、及びクラッド形成材を硬化するための加熱炉の設定温度を400℃とした。加熱炉の炉長は1mであった。オーバーコートを硬化するためのUV照射機の照射条件は1000mJ/cm2とした。
【0078】
実施例のポリマークラッド光ファイバ心線の心線径は350μmであった。ポリマークラッド光ファイバのファイバ径は260μmであった。コア径は200μmであった。
【0079】
コアは純粋な石英ガラスで形成した。クラッドは、上記実施例のクラッド材料、すなわち、ヒドロシリル化反応による架橋によって硬化したパーフルオロエーテルポリマーで形成した。オーバーコートは上記オアーバーコート材料、すなわち、紫外線架橋によって硬化した紫外線硬化型ウレタンアクリレート樹脂で形成した。
【0080】
<比較例>
クラッドを比較例のクラッド材料、すなわち、紫外線架橋によって硬化した紫外線硬化型のフッ化アクリレート樹脂で形成したことを除いて実施例と同一構成のポリマークラッド光ファイバ心線を作製し、それを比較例のポリマークラッド光ファイバ心線とした。
【0081】
(試験評価方法)
<クラッド材料の密度>
実施例及び比較例のそれぞれのクラッド材料から試験片を作製し、クラッド材料の密度をJIS K 0061に準拠して測定した。
【0082】
<クラッド材料のショアA硬さ>
実施例及び比較例のそれぞれのクラッド材料を重ね合わせ、厚さ6mmの試験片を作製し、クラッド材料のショアA硬さをJIS K 6253に準拠してタイプAデュロメータにより測定した。
【0083】
<クラッド材料のガラスに対する90°剥離力>
実施例及び比較例のそれぞれで用いたクラッド形成材をガラス基板上に100〜200μmの厚さで塗布し、架橋することによって硬化してクラッド材料を形成した後、クラッド材料のみに幅2.5cmの短冊状に切り込みを入れることにより試験片を作製し、短冊状のクラッド材料の一端をガラス基板から垂直に、引張速度100mm/minで引き上げたときの張力を測定し、その値を短冊状のクラッド材料の幅で除することにより、クラッド材料のガラスに対する90°剥離力を測定した。
【0084】
なお、実施例の架橋条件は加熱温度150℃及び加熱時間5時間、並びに比較例の架橋条件は窒素雰囲気下、硬化のために照射する紫外光の積算光量1000mJ/cm2とした。
【0085】
<クラッド材料の屈折率>
実施例及び比較例のそれぞれのクラッド材料から試験片を作製し、クラッド材料の屈折率をJIS K 0062に準拠してアッベ屈折率計のフィルム試料の測定方法により測定した。
【0086】
<ポリマークラッド光ファイバ心線のコアに対するNA>
実施例及び比較例のポリマークラッド光ファイバ心線それぞれについて、ポリマークラッド光ファイバのコアに対するNAをJIS C 6825に準拠してFFP法により測定した。
【0087】
<ポリマークラッド光ファイバ心線の温水浸漬後の伝送損失>
実施例及び比較例のポリマークラッド光ファイバ心線それぞれについて、50mを束にとり、それをウォーターバス内の85℃に調温した温水に2日間浸漬し、そして、波長1.31μmの信号光を伝送したときの伝送損失をカットバック法により測定した。
【0088】
(試験評価結果)
表1は試験結果を示す。
【0089】
【表1】

【0090】
クラッド材料の密度は、実施例が1.77g/cm3、及び比較例が1.65g/cm3であった。
【0091】
クラッド材料のショアA硬さは、実施例が29、及び比較例が41であった。
【0092】
クラッド材料のガラスに対する90°剥離力は、実施例が21N/m、及び比較例が11N/mであった。
【0093】
クラッド材料の屈折率は、実施例が1.34、及び比較例が1.38であった。
【0094】
ポリマークラッド光ファイバ心線のコアに対するNAは、実施例が0.59、及び比較例が0.45であった。
【0095】
ポリマークラッド光ファイバ心線の温水浸漬後の伝送損失は、実施例が5dB/km、及び比較例が100dB/km以上であった。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明はポリマークラッド光ファイバ及びその製造方法について有用である。
【符号の説明】
【0097】
10 ポリマークラッド光ファイバ心線
11 ポリマークラッド光ファイバ
11a コア(光伝送路)
11b クラッド
12 オーバーコート
20 ダブルクラッド光ファイバ心線(ポリマークラッド光ファイバ心線)
21 ダブルクラッド光ファイバ(ポリマークラッド光ファイバ)
21a コア
21b 第1クラッド
21c 第2クラッド
22 オーバーコート
30 線引機
31 紡糸炉
32 クラッド形成部
32a 第1コーティングダイス
32b 加熱炉
33 オーバーコート形成部
33a 第2コーティングダイス
33b UV照射機
40A,40B 剛体振子型物性試験器
41A 試料台
41B 試料ボート
42A パイプエッジ
42B ナイフエッジ
43 錘
F フィルム
M クラッド形成材
P プリフォーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスで形成された光伝送路と、該光伝送路を被覆するように設けられたクラッドと、を有するポリマークラッド光ファイバであって、
上記クラッドを形成するクラッド材料は、ヒドロシリル化反応による架橋によって硬化したパーフルオロエーテルポリマーを含むポリマークラッド光ファイバ。
【請求項2】
請求項1に記載されたポリマークラッド光ファイバにおいて、
上記光伝送路に対する開口数が0.50以上であるポリマークラッド光ファイバ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載されたポリマークラッド光ファイバにおいて、
上記クラッド材料のショアA硬さが10〜80であるポリマークラッド光ファイバ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載されたポリマークラッド光ファイバにおいて、
上記クラッド材料のガラス転移温度が0℃以下であるポリマークラッド光ファイバ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載されたポリマークラッド光ファイバをオーバーコートで被覆したポリマークラッド光ファイバ心線。
【請求項6】
ガラス製のプリフォームを線引きして光伝送路を形成する光伝送路形成工程と、
上記光伝送路形成工程で形成した光伝送路の表面に液状のクラッド形成材を付着させて加熱することにより熱硬化させてクラッドを形成するクラッド形成工程と、
を備えたポリマークラッド光ファイバの製造方法であって、
上記クラッド形成材は、ヒドロシリル化反応による架橋によって硬化するパーフルオロエーテルポリマーを含むポリマークラッド光ファイバの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−41060(P2013−41060A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177134(P2011−177134)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【出願人】(000003263)三菱電線工業株式会社 (734)
【Fターム(参考)】