説明

ポリ乳酸樹脂射出成形体の製造方法

【課題】 優れた耐熱性を有するポリ乳酸樹脂射出成形体を、優れた成形性で効率的に得ることができる製造方法の提供。
【解決手段】 ポリ乳酸樹脂と、芳香族スルホン酸ジアルキルの金属塩、リン酸エステルの金属塩、フェノール系化合物の金属塩、ロジン酸類の金属塩、芳香族カルボン酸アミド及びロジン酸アミドからなる群から選ばれる少なくとも1種の有機結晶核剤と、分子中に2個以上のエステル基を有し、エステルを構成するアルコール成分の少なくとも1種が水酸基1個当たり炭素数2〜3のアルキレンオキサイドを平均0.5〜5モル付加した化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の可塑剤とを含有するポリ乳酸樹脂組成物を、超臨界流体と接触させながら溶融混練する工程(1)、及び工程(1)で得られた溶融物を金型内に充填し、射出成形する工程(2)を有するポリ乳酸樹脂射出成形体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸樹脂射出成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生分解性樹脂の中でポリ乳酸樹脂は、トウモロコシ、芋などからとれる糖分から、発酵法によりL−乳酸が大量に作られ安価になってきたこと、原料が自然農作物なので総酸化炭素排出量が極めて少ない、また得られた樹脂の性能として剛性が強く透明性が良いという特徴があるので、現在その利用が期待されている。しかし、ポリ乳酸樹脂は結晶化速度が非常に遅く、延伸などの機械的工程を行わない限り成形後は非晶状態であり、かつポリ乳酸樹脂のガラス転移温度(Tg)は約60℃と低いために耐熱性に劣り、温度が55℃以上となる環境下では使用できない問題があった。
【0003】
ポリ乳酸樹脂の耐熱性を向上させるためには、成形加工時に結晶化させることが重要であり、例えば、射出成形において超臨界流体を用いてポリ乳酸を結晶化させる製造方法が提案されている(例えば特許文献1)。しかし、この方法でも、結晶化速度が低いために結晶化が進行しにくく、早く脱型すると発泡と変形が生じるという問題がある。これを防ぐためには金型保持時間を長くし、かつ樹脂のガラス転移温度以下まで冷却しなければならず、成形時間が長くなるという課題があった。また、結晶化速度が低いことによる金型内での発泡を防止するため、金型内に窒素ガス等で超臨界の圧力以上で加圧する工程が必ず必要となり、設備や装置の面で制約があった。
【特許文献1】特開2003−236944号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、優れた耐熱性を有するポリ乳酸樹脂射出成形体を、優れた成形性で効率的に得ることができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、下記工程(1)及び工程(2)を有するポリ乳酸樹脂射出成形体の製造方法を提供する。
工程(1):ポリ乳酸樹脂と、芳香族スルホン酸ジアルキルの金属塩、リン酸エステルの金属塩、フェノール系化合物の金属塩、ロジン酸類の金属塩、芳香族カルボン酸アミド及びロジン酸アミドからなる群から選ばれる少なくとも1種の有機結晶核剤と、分子中に2個以上のエステル基を有し、エステルを構成するアルコール成分の少なくとも1種が水酸基1個当たり炭素数2〜3のアルキレンオキサイドを平均0.5〜5モル付加した化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の可塑剤とを含有するポリ乳酸樹脂組成物を、超臨界流体と接触させながら溶融混練する工程
工程(2):工程(1)で得られた溶融物を金型内に充填し、射出成形する工程
【発明の効果】
【0006】
本発明の製造方法は、優れた耐熱性を有するポリ乳酸樹脂射出成形体を、短い成形時間で効率的に得ることができ、更に低い金型温度でも優れた成形性を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
[ポリ乳酸樹脂組成物]
本発明の工程(1)で用いるポリ乳酸樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂と、芳香族スルホン酸ジアルキルの金属塩、リン酸エステルの金属塩、フェノール系化合物の金属塩、ロジン酸類の金属塩、芳香族カルボン酸アミド及びロジン酸アミドからなる群から選ばれる少なくとも1種の有機結晶核剤と、分子中に2個以上のエステル基を有し、エステルを構成するアルコール成分の少なくとも1種が水酸基1個当たり炭素数2〜3のアルキレンオキサイドを平均0.5〜5モル付加した化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の可塑剤とを含有する。
【0008】
本発明においてポリ乳酸樹脂とは、ポリ乳酸、又は乳酸とヒドロキシカルボン酸とのコポリマーである。ヒドロキシカルボン酸として、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシヘプタン酸等が挙げられ、グリコール酸、ヒドロキシカプロン酸が好ましい。好ましいポリ乳酸の分子構造は、L−乳酸又はD−乳酸いずれかの単位80〜100モル%とそれぞれの対掌体の乳酸単位0〜20モル%からなるものである。また、乳酸とヒドロキシカルボン酸とのコポリマーは、L−乳酸又はD−乳酸いずれかの単位85〜100モル%とヒドロキシカルボン酸単位0〜15モル%からなるものである。これらのポリ乳酸樹脂は、L−乳酸、D−乳酸及びヒドロキシカルボン酸の中から必要とする構造のものを選んで原料とし、脱水重縮合することにより得ることができる。好ましくは、乳酸の環状二量体であるラクチド、グリコール酸の環状二量体であるグリコリド及びカプロラクトン等から必要とする構造のものを選んで開環重合することにより得ることができる。ラクチドにはL−乳酸の環状二量体であるL−ラクチド、D−乳酸の環状二量体であるD−ラクチド、D−乳酸とL−乳酸とが環状二量化したメソ−ラクチド及びD−ラクチドとL−ラクチドとのラセミ混合物であるDL−ラクチドがある。本発明ではいずれのラクチドも用いることができる。但し、主原料は、結晶化速度を向上させ、耐熱性に優れる成形体を効率よく得る観点から、D−ラクチド又はL−ラクチドが好ましい。
【0009】
また、本発明におけるポリ乳酸樹脂としては、L−乳酸単位80〜100モル%と、D−乳酸等の単位0〜20モル%により構成されるポリ乳酸単位(A)と、D−乳酸単位80〜100モル%と、L−乳酸等の単位0〜20モル%とにより構成されるポリ乳酸単位(B)との混合物からなステレオコンプレックスポリ乳酸を用いることもできる。結晶化速度を向上させ、耐熱性に優れる成形体を効率よく得る観点から、ポリ乳酸単位(A)/ポリ乳酸単位(B)(重量比)が10/90〜90/10であることが好ましい。これらのステレオコンプレックスポリ乳酸を構成する各ポリ乳酸単位(A)及び(B)に使用される乳酸以外の共重合成分単位は、2個以上のエステル結合を形成可能な官能基を持つジカルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン等及びこれら種々の構成成分からなり、未反応の前記官能基を分子内に2つ以上有するポリエステル、ポリエーテル、ポリカーボネート等が挙げられる。
【0010】
市販されているポリ乳酸樹脂としては、トヨタ自動車(株)製、商品名エコプラスチックU’zS;三井化学(株)製、商品名レイシア(LACEA);カーギル・ダウ・ポリマーズ社製、商品名Nature works等が挙げられる。
【0011】
本発明において用いられる有機結晶核剤は、芳香族スルホン酸ジアルキルの金属塩、リン酸エステルの金属塩、フェノール系化合物の金属塩、ロジン酸類の金属塩、芳香族カルボン酸アミド及びロジン酸アミドからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0012】
本発明に用いられる芳香族スルホン酸ジアルキルの金属塩としては、スルホフタル酸ジアルキルの金属塩、スルホイソフタル酸ジアルキルの金属塩、スルホテレフタル酸ジアルキルの金属塩等が挙げられ、結晶化速度を向上させ、耐熱性に優れる成形体を効率よく得る観点から、金属塩としてはアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩が好ましい。これら芳香族スルホン酸ジアルキルの金属塩を構成するアルキル基としては、炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。芳香族スルホン酸ジアルキルの金属塩の具体例としては、5−スルホイソフタル酸の金属塩が挙げられ、具体的には5−スルホイソフタル酸ジメチル二バリウム、5−スルホイソフタル酸ジメチル二カルシウム等が挙げられる。
【0013】
本発明に用いられるリン酸エステルの金属塩としては、結晶化速度を向上させ、耐熱性に優れる成形体を効率よく得る観点から、芳香族リン酸エステルの金属塩が好ましい。また金属塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、亜鉛塩又はアルミニウム塩が好ましい。芳香族リン酸エステルの金属塩の具体例としては、ナトリウム−2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)ホスフェート、アルミニウムビス(2,2’−メチレンビス−4,6−ジ−t−ブチルフェニルホスフェート)等が挙げられる。
【0014】
本発明に用いられるフェノール系化合物の金属塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩が好ましい。フェノール系化合物の金属塩の具体例としては、2,2−メチルビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)ナトリウム等が挙げられる。
【0015】
本発明に用いられるロジン酸類の金属塩としては、ピマル酸、サンダラコピマル酸、パラストリン酸、イソピマル酸、アビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、ネオアビエチン酸、ジヒドロピマル酸、ジヒドロアビエチン酸、テトラヒドロアビエチン酸等のロジン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等が挙げられる。
【0016】
本発明に用いられる芳香族カルボン酸アミドとしては、結晶化速度を向上させ、耐熱性に優れる成形体を効率よく得る観点から、トリメシン酸(1,3,5−ベンゼントリカルボン酸)、キシリレンジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族カルボン酸のアミドが好ましい。芳香族カルボン酸アミドの具体例としては、トリメシン酸トリス(t−ブチルアミド)、トリメシン酸トリシクロヘキシルアミド(1,3,5−ベンゼントリカルボン酸トリシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(2−メチルシクロヘキシルアミド)、m−キシリレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジシクロヘキシルアミド等が挙げられる。
【0017】
本発明に用いられるロジン酸アミドとしては、p−キシリレンビスロジン酸アミド、p−フェニレンジアミンモノロジン酸アミド等のロジン酸アミドが挙げられる。
【0018】
本発明で使用する有機結晶核剤は、1種のみでもよくまた2種以上の併用を行ってもよい。また、本発明においては、本発明の有機結晶核剤とともに無機結晶核剤を併用することもできる。本発明に用いられる無機結晶核剤としては、タルク、カオリン、層状珪酸塩、アルミナ、ゼオライト、シリカ、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ネオジウム、硫化カルシウム、硫酸バリウム、窒化ホウ素、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、三酸化アンチモン、ハイドロタルサイト等が挙げられる。
【0019】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物中の有機結晶核剤の含有量は、結晶化速度を向上させ、耐熱性に優れる成形体を効率よく得る観点から、ポリ乳酸樹脂100重量部に対して、0.01〜5重量部が好ましく、0.05〜4重量部がより好ましく、0.1〜3重量部がさらに好ましく、0.2〜3重量部がさらにより好ましく、0.3〜2重量部が最も好ましい。
【0020】
また、無機結晶核剤を併用する場合、無機結晶核剤の含有量は、結晶化速度を向上させ、耐熱性に優れる成形体を効率よく得る観点から、ポリ乳酸樹脂100重量部に対し、0.1〜100重量部が好ましく、0.5〜50重量部がより好ましく、1〜30重量部がさらに好ましい。
【0021】
本発明に用いられる可塑剤は、可塑化効率の観点から、分子中に2個以上のエステル基を有し、エステルを構成するアルコール成分の少なくとも1種が水酸基1個当たり炭素数2〜3のアルキレンオキサイドを平均0.5〜5モル付加した化合物であり、分子中に2個以上のエステル基を有し、エステルを構成するアルコール成分の水酸基1個当たり炭素数2〜3のアルキレンオキサイドを平均0.5〜5モル付加した化合物が好ましく、分子中に2個以上のエステル基を有する多価アルコールエステル又は多価カルボン酸エーテルエステルで、エステルを構成するアルコール成分の水酸基1個当たりエチレンオキサイドを平均0.5〜5モル付加した化合物がより好ましい。エステルを構成するアルコール成分は、ポリ乳酸樹脂との相溶性と可塑化効率及び耐揮発性の観点から、好ましくは炭素数2〜3のアルキレンオキサイドを平均1〜4モル、さらに好ましくは2〜3モル付加した化合物である。また、可塑化効率の観点からアルキレンオキサイドはエチレンオキサイドが好ましい。可塑剤に含まれるアルキル基、アルキレン基等の炭化水素基の炭素数、例えばエステル化合物を構成する多価アルコールや多価カルボン酸の炭化水素基の炭素数は、相溶性の観点から1〜8が好ましく、1〜6がより好ましく、1〜4がさらに好ましい。また可塑剤のエステル化合物を構成するモノカルボン酸、モノアルコールの炭素数は、相溶性の観点から1〜8が好ましく、1〜6がより好ましく、1〜4がさらに好ましく、1〜2がさらにより好ましい。
【0022】
本発明に用いられる可塑剤の製造方法は特に限定されないが、例えば、本発明に用いられる可塑剤が多価カルボン酸エーテルエステルの場合は、パラトルエンスルホン酸一水和物、硫酸等の酸触媒や、ジブチル酸化スズ等の金属触媒の存在下、炭素数3〜5の飽和二塩基酸又はその無水物と、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルとを直接反応させるか、炭素数3〜5の飽和二塩基酸の低級アルキルエステルとポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルとをエステル交換することにより得られる。具体的には、例えば、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、飽和二塩基酸、及び触媒としてパラトルエンスルホン酸一水和物を、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル/飽和二塩基酸/パラトルエンスルホン酸一水和物(モル比)=2〜4/1/0.001〜0.05になるように反応容器に仕込み、トルエンなどの溶媒の存在下又は非存在下に、常圧又は減圧下、温度100〜130℃で脱水を行うことにより得ることができる。溶媒を用いないで、減圧で反応を行う方法が好ましい。
【0023】
また、本発明に用いられる可塑剤が多価アルコールエステルの場合は、例えばグリセリンに、アルカリ金属触媒存在下、オートクレーブを用い温度120〜160℃で炭素数2〜3のアルキレンオキサイドを、グリセリン1モルに対し3〜9モル付加させる。そこで得られたグリセリンアルキレンオキサイド付加物1モルに対し、無水酢酸3モルを110℃で滴下、滴下終了後から110℃、2時間熟成を行い、アセチル化を行う。その生成物を減圧下で水蒸気蒸留を行い、含有する酢酸および未反応無水酢酸を留去して得ることができる。
【0024】
また、本発明に用いられる可塑剤がヒドロキシカルボン酸エーテルエステルの場合は、乳酸等のヒドロキシカルボン酸に、アルカリ金属触媒存在下、オートオートクレーブを用い温度120〜160℃で炭素数2〜3のアルキレンオキサイドを、ヒドロキシカルボン酸1モルに対し2〜5モル付加させる。そこで得られた乳酸アルキレンオキサイド付加物1モルに対し、無水酢酸1モルを110℃で滴下し、滴下終了後から110℃、2時間熟成を行い、アセチル化を行う。その生成物を減圧下で水蒸気蒸留を行い、含有する酢酸および未反応無水酢酸を留去する。次にその生成物/ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテル/パラトルエンスルホン酸一水和物(触媒)(モル比)=1/1〜2/0.001〜0.05になるように反応容器に仕込み、トルエンなどの溶媒の存在下又は非存在下に、常圧又は減圧下、温度100〜130℃で脱水を行うことにより、得ることができる。
【0025】
本発明に用いられる可塑剤は、分子中に2個以上のエステル基を有していれば、ポリ乳酸樹脂との相溶性に優れ、分子中に2〜4個のエステル基を有することが好ましい。また、エステルを構成するアルコール成分の少なくとも1種が水酸基1個当たり炭素数2〜3のアルキレンオキサイドを平均0.5モル以上付加したものであれば、ポリ乳酸樹脂に対して十分な可塑性を付与することができ、平均5モル以下付加したものであれば、耐ブリード性の効果が良好となる。また、理由は定かではないが、本発明に用いられる可塑剤は、光学純度が99%以上のポリ乳酸樹脂と併用することによって、成形性が良好で、特に低い金型温度で優れた成形性を発現できる。
【0026】
本発明に用いられる可塑剤は、成形性、可塑性及び耐ブリード性の観点から、分子中に2個以上のエステル基を有し、エチレンオキサイドの平均付加モル数が3〜9の化合物が好ましく、コハク酸又はアジピン酸とポリエチレングリコールモノメチルエーテルとのエステル、及び酢酸とグリセリン又はエチレングリコールのエチレンオキサイド付加物とのエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種がより好ましく、コハク酸又はアジピン酸とポリエチレングリコールモノメチルエーテルとのエステルが更に好ましい。
【0027】
また、耐揮発性の観点から、本発明に用いられる可塑剤で2個以上のエステル基のうち、平均0〜1.5個は芳香族アルコールから構成されるエステル基を含有してもよい。同じ炭素数の脂肪族アルコールに比べて芳香族アルコールの方がポリ乳酸樹脂に対する相溶性に優れるため、耐ブリード性を保ちつつ、分子量を上げることができる。可塑化効率の観点から平均0〜1.2個、更に0〜1個が芳香族アルコールから構成されるエステル基であることが好ましい。芳香族アルコールとしてはベンジルアルコール等が挙げられ、可塑剤としては、アジピン酸と、ジエチレングリコールモノメチルエーテル/ベンジルアルコール=1/1混合ジエステル等が挙げられる。
【0028】
本発明に用いられる可塑剤の平均分子量は耐ブリード性及び耐揮発性の観点から、好ましくは250〜700であり、より好ましくは300〜600であり、更に好ましくは350〜550であり、さらにより好ましくは400〜500である。尚、平均分子量は、JIS K0070に記載の方法で鹸化価を求め、次式より計算で求めることができる。
【0029】
平均分子量=56108×(エステル基の数)/鹸化価
本発明に用いられる可塑剤としては、ポリ乳酸樹脂組成物の成形性及び耐衝撃性に優れる観点から、酢酸とグリセリンのエチレンオキサイド平均3〜9モル付加物とのエステル、酢酸とジグリセリンのプロピレンオキサイド平均4〜12モル付加物とのエステル、酢酸とエチレンオキサイドの平均付加モル数が4〜9のポリエチレングリコールとのエステル等の多価アルコールのアルキルエーテルエステル、コハク酸とエチレンオキサイドの平均付加モル数が2〜4のポリエチレングリコールモノメチルエーテルとのエステル、アジピン酸とエチレンオキサイドの平均付加モル数が2〜3のポリエチレングリコールモノメチルエーテルとのエステル、1,3,6−ヘキサントリカルボン酸とエチレンオキサイドの平均付加モル数が2〜3のポリエチレングリコールモノメチルエーテルとのエステル等の多価カルボン酸とポリエチレングリコールモノメチルエーテルとのエステルがより好ましい。ポリ乳酸樹脂組成物の成形性、耐衝撃性及び可塑剤の耐ブリード性に優れる観点から、酢酸とグリセリンのエチレンオキサイド平均3〜6モル付加物とのエステル、酢酸とエチレンオキサイドの平均付加モル数が4〜6のポリエチレングリコールとのエステル、コハク酸とエチレンオキサイドの平均付加モル数が2〜3のポリエチレングリコールモノメチルエーテルとのエステル、アジピン酸とジエチレングリコールモノメチルエーテルとのエステル、1,3,6−ヘキサントリカルボン酸とジ又はトリエチレングリコールモノメチルエーテルとのエステルがさらに好ましい。ポリ乳酸樹脂組成物の成形性、耐衝撃性及び可塑剤の耐ブリード性、耐揮発性及び耐刺激臭の観点から、コハク酸とトリエチレングリコールモノメチルエーテルとのエステルが特に好ましい。
【0030】
尚、本発明におけるエステルは、可塑剤としての機能を十分発揮させる観点から、全てエステル化された飽和エステルであることが好ましい。
【0031】
本発明におけるポリ乳酸樹脂組成物中の可塑剤の含有量は、成形性、可塑性及び耐ブリード性の観点から、ポリ乳酸樹脂100重量部に対し、1〜50重量部が好ましく、5〜20重量部がより好ましい。
【0032】
すなわち、結晶化速度を向上させ、耐熱性に優れる成形体を効率よく得る観点から、有機結晶核剤と可塑剤のポリ乳酸樹脂組成物に対する含有量比(有機結晶核剤/可塑剤)が1/10〜5/1であることが好ましく、1/2〜2/1であることがより好ましい。
【0033】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、耐久性、耐湿熱性の観点から、加水分解抑制剤、すなわちカルボキシル基反応性末端封鎖剤を含有することが好ましい。本発明で使用するカルボキシル基反応性末端封鎖剤としては、ポリマーのカルボキシル末端基を封鎖することのできる化合物であれば特に制限はなく、ポリマーのカルボキシル末端の封鎖剤として用いられているものを用いることができる。本発明においてかかるカルボキシル基反応性末端封鎖剤は、ポリ乳酸樹脂の末端を封鎖するのみではなく、ポリ乳酸樹脂や天然由来の有機充填剤の熱分解や加水分解などで生成する酸性低分子化合物のカルボキシル基も封鎖することができる。また、上記末端封鎖剤は、熱分解により酸性低分子化合物が生成する水酸基末端も封鎖できる化合物であることがさらに好ましい。
【0034】
このようなカルボキシル基反応性末端封鎖剤としては、耐久性、耐湿熱性の観点から、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、カルボジイミド化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物を使用することが好ましく、なかでもエポキシ化合物及び/又はカルボジイミド化合物が好ましい。
【0035】
カルボジイミド化合物としては、芳香族及び又は脂肪族のポリカルボジイミド化合物やモノカルボジイミド化合物等のカルボジイミド化合物が挙げられ、ポリ乳酸樹脂成形品の成形性の観点からポリカルボジイミド化合物が好ましい。
【0036】
本発明におけるポリ乳酸樹脂組成物中の加水分解抑制剤の含有量は、耐久性、耐湿熱性の観点から、ポリ乳酸樹脂100重量部に対し、0.05〜3重量部が好ましく、0.1〜2重量部が更に好ましい。
【0037】
本発明におけるポリ乳酸樹脂組成物は、更に剛性等の物性向上の観点から、無機充填剤を含有することが好ましい。本発明で使用する無機充填剤としては、通常熱可塑性樹脂の強化に用いられる繊維状、板状、粒状、粉末状のものを用いることができる。具体的には、ガラス繊維、アスベスト繊維、炭素繊維、グラファイト繊維、金属繊維、チタン酸カリウムウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、マグネシウム系ウイスカー、珪素系ウイスカー、ワラステナイト、セピオライト、アスベスト、スラグ繊維、ゾノライト、エレスタダイト、石膏繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化硅素繊維及び硼素繊維などの繊維状無機充填剤、ガラスフレーク、非膨潤性雲母、膨潤性雲母、グラファイト、金属箔、セラミックビーズ、タルク、クレー、マイカ、セリサイト、ゼオライト、ベントナイト、有機変性ベントナイト、有機変性モンモリロナイト、ドロマイト、カオリン、微粉ケイ酸、長石粉、チタン酸カリウム、シラスバルーン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、ケイ酸アルミニウム、酸化ケイ素、石膏、ノバキュライト、ドーソナイト及び白土などの板状や粒状の無機充填剤が挙げられる。これらの無機充填剤の中では、特に炭素繊維、ガラス繊維、ワラステナイト、マイカ、タルク及びカオリンが好ましい。また、繊維状充填剤のアスペクト比は5以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましく、20以上であることがさらに好ましい。
【0038】
上記の無機充填剤は、エチレン/酢酸ビニル共重合体などの熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂で被覆又は集束処理されていてもよく、アミノシランやエポキシシランなどのカップリング剤などで処理されていても良い。また、無機充填剤の配合量は、ポリ乳酸樹脂100重量部に対して、1〜100重量部が好ましく、5〜50重量部がさらに好ましい。
【0039】
本発明におけるポリ乳酸樹脂組成物は、更に強度、耐熱性、耐衝撃性等の物性向上の観点から、高強度有機合成繊維を含有することができる。高強度有機合成繊維の具体例としては、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、PBO繊維等が挙げられ、耐熱性の観点からアラミド繊維が好ましい。
【0040】
本発明におけるポリ乳酸樹脂組成物は、更に難燃化剤を含有することができる。難燃化剤の具体例としては、臭素又は塩素を含有するハロゲン系化合物、三酸化アンチモンなどのアンチモン化合物、無機水和物(水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物)及びリン化合物などが挙げられる。安全性の観点から、無機水和物が好ましい。難燃化剤は表面をシランカップリング剤等で表面処理されたものであってもよい。
【0041】
本発明におけるポリ乳酸樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、通常の添加剤、例えば紫外線吸収剤(ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、芳香族ベンゾエート系化合物、蓚酸アニリド系化合物、シアノアクリレート系化合物及びヒンダードアミン系化合物)、熱安定剤(ヒンダードフェノール系化合物、ホスファイト系化合物、チオエーテル系化合物)、帯電防止剤、滑剤、発泡剤、離形剤、染料及び顔料を含む着色剤などの1種又は2種以上をさらに含有することができる。
【0042】
本発明におけるポリ乳酸樹脂組成物は、剛性、柔軟性、耐熱性、耐久性等の物性向上の観点から、その他の樹脂を含んでもよい。その他の樹脂の具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABS樹脂、AS樹脂、、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエステル、ポリアセタール、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリエーテルイミドなど、あるいはエチレン/グリシジルメタクリレート共重合体、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマー、エチレン/プロピレンターポリマー、エチレン/ブテン−1共重合体などの軟質熱可塑性樹脂などの熱可塑性樹脂や、フェノール樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂などが挙げられるが、中でもポリ乳酸樹脂との相溶性の観点からアミド結合、エステル結合、カーボネート結合等のカルボニル基を含む結合を有する樹脂が、構造的にポリ乳酸樹脂と親和性が高い傾向があるため好ましい。
【0043】
[工程(1)]
本発明の工程(1)は、ポリ乳酸樹脂、有機結晶核剤、可塑剤、更に必要によりその他成分を含有するポリ乳酸樹脂組成物を、超臨界流体と接触させながら溶融混練する工程である。
【0044】
超臨界流体とは、超臨界状態の気体を圧縮し液体化したものであり、具体的には二酸化炭素、水、炭化水素等が挙げられ、二酸化炭素が好ましい。二酸化炭素の臨界温度は31.2℃であり、これ以上の温度では圧力による相変化を生じない超臨界状態を呈する。超臨界状態の気体を圧縮し密度が液体に近づくと溶解力が高まり、ポリ乳酸樹脂組成物への溶解度が急激に上昇する。そのため、実用的には7MPa以上の圧力で圧縮した二酸化炭素がより好ましい。
【0045】
工程(1)において、ポリ乳酸樹脂組成物を超臨界流体と接触させながら溶融混練する方法としては、例えば、超臨界流体の導入口を有する押出し機や射出成形機等を用い、二酸化炭素等の超臨界流体を圧入しながらポリ乳酸樹脂組成物を溶融混練する方法が挙げられる。ポリ乳酸樹脂組成物の結晶化速度を向上させる観点から、超臨界流体は、ポリ乳酸樹脂組成物に対し0.1〜10重量%の割合で圧入させることが好ましく、0.5〜8重量%の割合で圧入させることがより好ましい。
【0046】
工程(1)における溶融混練温度は、本発明の有機結晶核剤等の分散性及び結晶化速度を高める観点から、好ましくは170〜240℃であり、より好ましくは170〜220℃である。圧入された二酸化炭素等の超臨界流体は溶融状態のポリ乳酸樹脂組成物と機械的に混練されることが好ましく、これにより溶融状態のポリ乳酸樹脂組成物に均一に高濃度の超臨界流体が溶解する。
【0047】
[工程(2)]
本発明の工程(2)は、工程(1)で得られた溶融物を金型内に充填し、成形する工程である。本発明のポリ乳酸樹脂射出成形体は、物性を維持する観点から無発泡であることが好ましい。従って、本発明のポリ乳酸樹脂射出成形体の発泡倍率は、1.5倍以下が好ましく、1.2倍以下がより好ましく、1.1倍以下がさらに好ましく、1.05倍以下がさらにより好ましい。本発明のポリ乳酸樹脂射出成形体の発泡倍率を低く抑える方法としては、得られる射出成形体の形状を薄肉に設計したり、射出速度を上げたり、或いは、金型内を超臨界流体の超臨界状態を保つために予め窒素ガスなどの気体で加圧しておくことが好ましく、金型内の圧力は超臨界流体の臨界圧力以上が好ましい。
【0048】
工程(2)における金型温度は、ポリ乳酸樹脂組成物の結晶化速度を向上させ、耐熱性に優れる成形体を効率よく得る観点から、10〜90℃が好ましく、20〜85℃がより好ましく、50〜85℃が更に好ましい。
【0049】
本発明は、ポリ乳酸樹脂と、特定の有機結晶核剤と、特定の可塑剤とを含有するポリ乳酸樹脂組成物に超臨界流体を接触させることにより、優れた耐熱性を有するポリ乳酸樹脂射出成形体を、短い成形時間で効率的に得ることができ、更に低い金型温度でも優れた成形性を示すという格別優れた効果を有する。本発明の格別優れた効果が発現できる理由は定かではないが、ポリ乳酸樹脂組成物に含有される特定の有機結晶核剤及び可塑剤と超臨界流体との相乗的な作用によるものと考えられる。
【実施例】
【0050】
合成例
ポリ乳酸樹脂組成物として、表1に示す本発明品(A〜H)及び比較品(a〜d)を、2軸押出機((株)池貝製 PCM-45)にて190℃で溶融混練し、ストランドカットを行い、ポリ乳酸樹脂組成物のペレットを得た。
得られたペレットは、70℃、減圧下で1日乾燥し、水分量を500ppm以下とした。
【0051】
【表1】

【0052】
<ポリ乳酸樹脂>
*1:ポリ乳酸樹脂(トヨタ自動車(株)製、エコプラスチックU’zS−12)
(光学純度99.6%、重量平均分子量112000、残存モノマー173ppm)
*2:ポリ乳酸樹脂(トヨタ自動車(株)製、エコプラスチックU’zS−17)
(光学純度99.7%、重量平均分子量110000、残存モノマー327ppm)
*3:ポリ乳酸樹脂(三井化学(株)製、LACEA H−400)
(光学純度98.5%、重量平均分子量142000、残存モノマー1200ppm)
<有機結晶核剤>
*4:5−スルホイソフタル酸ジメチル二バリウム(合成品)
*5:リン酸エステルの金属塩((株)アデカ製 アデカスタブNA−21)
*6:2,2−メチルビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)ナトリウム
*7:ロジン酸金属塩(荒川化学(株)製、パインクリスタルKM−1500)
*8:1,3,5−ベンゼントリカルボン酸トリシクロヘキシルアミド(合成品)
*9:p−キシリレンビスロジン酸アミド(合成品)
<本発明における可塑剤>
*10:下記可塑剤の合成例で得られたコハク酸とトリエチレングリコールモノメチルエーテルとのジエステル(合成品)
*11:下記可塑剤の合成例で得られた1,3,6−ヘキサントリカルボン酸とトリエチレングリコールモノメチルエーテルとのトリエステル(合成品)
*12:下記可塑剤の合成例で得られたグリセリンにエチレンオキサイドを6モル付加させたトリアセテート(合成品)
*13:アジピン酸とジエチレングリコールモノメチルエーテルとのジエステル(大八化学(株)製、DAIFATTY-101)
<比較の可塑剤>
*14:アセチルクエン酸トリブチル(田岡化学工業(株)製、ATBC)
*15:アジピン酸ジイソノニル(和光純薬、試薬)
<加水分解抑制剤>
*16:ジイソプロピルフェニルカルボジイミド(ラインケミージャパン(株)製 スタバクゾール1−LF)
*17:ポリ(4,4’−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)(日清紡績(株)製 カルボジライトLA−1)
<無機結晶核剤>
*18:タルク(日本タルク(株)製、MicroAceP−6)
<無機充填剤>
*19:ガラス繊維(日本電気硝子(株)製、ECS03T−187)
<難燃化剤>
*20:水酸化アルミニウム(日本軽金属(株)、BT703ST)。
【0053】
可塑剤の合成例
1)コハク酸とトリエチレングリコールモノメチルエーテルとのジエステルの合成例
攪拌機、温度計、脱水管を備えた3Lフラスコに無水コハク酸500g、トリエチレングリコールモノメチルエーテル2463g、パラトルエンスルホン酸一水和物9.5gを仕込み、空間部に窒素(500mL/分)を吹き込みながら、減圧下4〜10.7kPa、110℃で15時間反応させた。反応液の酸価は1.6(KOHmg/g)であった。反応液に吸着剤キョワード500SH(協和化学工業(株)製)27gを添加して80℃、2.7kPaで45分間攪拌してろ過した後、液温115〜200℃、圧力0.03kPaでトリエチレングリコールモノメチルエーテルを留去し、80℃に冷却後、残液を減圧ろ過して、ろ液として、コハク酸とトリエチレングリコールモノメチルエーテルとのジエステルを得た。得られたジエステルは、酸価0.2(KOHmg/g)、鹸化価276(KOHmg/g)、水酸基価1以下(KOHmg/g)、色相APHA200であった。
【0054】
2)1,3,6−ヘキサントリカルボン酸とトリエチレングリコールモノメチルエーテルとのトリエステルの合成例
トリエチレングリコールモノメチルエーテル、1,3,6−ヘキサントリカルボン酸、及び触媒としてパラトルエンスルホン酸一水和物を、トリエチレングリコールモノメチルエーテル/1,3,6−ヘキサントリカルボン酸/パラトルエンスルホン酸一水和物(モル比)=4/1/0.02になるように反応容器に仕込み、減圧下で、温度120℃で脱水を行うことにより、1,3,6−ヘキサントリカルボン酸とトリエチレングリコールモノメチルエーテルとのトリエステルを得た。
【0055】
3)グリセリンにエチレンオキサイドを6モル付加させたトリアセテートの合成例
オートクレーブに花王(株)製化粧品用濃グリセリン1モルに対しエチレンオキサイド6モルのモル比で規定量仕込み、1モル%のKOHを触媒として反応圧力0.3MPaの定圧付加し、圧力が一定になるまで150℃で反応した後、80℃まで冷却し、触媒未中和の生成物を得た。この生成物に触媒の吸着剤としてキョーワード600Sを触媒重量の8倍添加し、窒素微加圧下で80℃、1時間吸着処理をおこなった。さらに処理後の液をNo.2のろ紙にラジオライト#900をプレコートしたヌッツェで吸着剤を濾過し、グリセリンエチレンオキサイド6モル付加物(以下POE(6)グリセリンという)を得た。これを四つ口フラスコに仕込み、105℃に昇温して300rpmで攪拌し、無水酢酸をPOE(6)グリセリン1モルに対し3.6モルの比率で規定量を約1時間で滴下し反応させた。滴下後110℃で2時間熟成し、さらに120℃で1時間熟成した。熟成後、減圧下で未反応の無水酢酸及び副生の酢酸をトッピングし、さらにスチーミングして、POE(6)グリセリントリアセテートを得た。
【0056】
実施例1〜8、比較例1〜4
合成例で得られたポリ乳酸樹脂組成物(本発明品A〜H及び比較品a〜d)のペレットを、シリンダー温度を200℃とした射出成形機((株)日本製鋼所製 Mucell 85トン)に供給して溶融するとともに、射出成形機のシリンダー部に設けられたガス導入口から、8MPaの圧力の超臨界流体(超臨界状態の二酸化炭素)を、表2に示す濃度で圧入し、スクリューで混練して溶融状態のポリ乳酸樹脂組成物と接触させた。射出成形機の先端に取り付けられた金型内の温度を表2に示す温度に保ち、この金型内に、超臨界状態の二酸化炭素と接触させた溶融ポリ乳酸樹脂組成物を、表2に示すような成形に必要な射出圧で射出成形し、結晶化が終了するまで保持してテストピース(150mm×30mm×厚み1mm)を得た。得られたテストピースの離型に必要な金型保持時間を下記の基準で評価した。これらの結果を表2に示す。
【0057】
<離型に必要な金型保持時間の評価基準>
表2に示す成形条件において、各テストピースの変形がなく、取り出しが容易と判断されるまでに有する時間を、離型に必要な金型保持時間とした。
【0058】
尚、金型内部及びランナー部分でテストピースの溶融結晶化速度が速いほど、離型に必要な金型保持時間は短くなる。
【0059】
比較例5〜6
合成例で得られたポリ乳酸樹脂組成物(本発明品A、B)のペレットを用い、超臨界状態の二酸化炭素を圧入せず、表2に示す金型温度で、表2に示すような成形に必要な射出圧で射出成形すること以外は、実施例1と同様にしてテストピースを得、同様に離型に必要な金型保持時間を評価した。これらの結果を表2に示す。
【0060】
【表2】

【0061】
表2の結果から、本発明の有機結晶核剤及び可塑剤を含有しない比較例1、可塑剤を含有しない比較例2、本発明の特定の可塑剤を含有しない比較例3〜4、又はポリ乳酸樹脂組成物の溶融混練時に超臨界流体と接触させなかった比較例5〜6に対し、本発明の製造方法は、特定の有機結晶核剤、特定の可塑剤、および超臨界流体の相乗効果によって金型保持時間を著しく短縮することができ、成形性が飛躍的に向上することがわかった。その効果は金型温度が低くなるほど顕著であった。また、ポリ乳酸樹脂組成物の溶融混練時に超臨界流体と接触、さらに特定の有機結晶核剤及び可塑剤を含有させることで成形時の射出圧も低減することがわかった。
【0062】
実施例9〜11、比較例7〜8
合成例で得られたポリ乳酸樹脂組成物(本発明品A,E,H、比較品a、c)のペレットを用い、表3に示す金型温度、超臨界二酸化炭素濃度及び金型保持時間とすること以外は実施例1と同様にして射出成形した。得られたテストピース〔平板(70mm×40mm×3mm)、角柱状試験片(125mm×12mm×6mm)及び角柱状試験片(63mm×12mm×5mm)〕について、角柱状試験片(125mm×12mm×6mm)は曲げ試験及び熱変形温度を、角柱状試験片(63mm×12mm×5mm)は耐衝撃性を、平板(70mm×40mm×3mm)は相対結晶化度、耐ブリード性及び発泡倍率を、それぞれ下記の方法で評価した。これらの結果を表3に示す。
【0063】
<金型離型性の評価基準>
A:テストピースの変形がなく、取り出しが容易。
B:テストピースの変形が若干あり、取り出しが困難。
C:テストピースの変形が大きく、ランナー部から離れない。
【0064】
尚、金型離型性は、金型内部及びランナー部分でテストピースの溶融結晶化速度が速いほど成形性が良好となる。
【0065】
<曲げ試験(剛性)>
角柱状試験片(125mm×12mm×6mm)について、JIS K7203に基づいて、テンシロン(オリエンテック製テンシロン万能試験機RTC−1210A)を用いて曲げ試験を行い、曲げ弾性率を求めた。クロスヘッド速度は3mm/min。曲げ弾性率が高いほど剛性に優れていることを示す。
【0066】
<熱変形温度(耐熱性)>
角柱状試験片(125mm×12mm×6mm)について、JIS-K7207に基づいて、熱変形温度測定機(東洋精機製作所製 B-32)を使用して、荷重0.45MPaにおいて0.025mmたわむときの温度を測定した。この温度が高い方が耐熱性に優れていることを示す。
【0067】
<耐衝撃性>
角柱状試験片(63mm×12mm×5mm)について、JIS-K7110に基づいて、衝撃試験機(株式会社上島製作所製 863型)を使用して、Izod衝撃強度を測定した。
この強度が高い方が耐衝撃性に優れていることを示す。
【0068】
<相対結晶化度>
射出成形後の平板(70mm×40mm×3mm)のテストピースを粉砕し、7.0〜8.0mg精秤し、アルミパンに封入後、DSC装置(パーキンエルマー社製ダイアモンドDSC)を用い、1stRUNとして、昇温速度20℃/分で20℃から200℃まで昇温し、200℃で5分間保持した後、降温速度−20℃/分で200℃から20℃まで降温し、20℃で1分間保持した後、さらに2ndRUNとして、昇温速度20℃/分で20℃から200℃まで昇温した。1stRUNに観測されるポリ乳酸樹脂の冷結晶化エンタルピーの絶対値ΔHcc、2ndRUNに観測される結晶融解エンタルピーΔHmを求め、得られた値から、下記式により相対結晶化度(%)を求めた。
【0069】
相対結晶化度(%)={((ΔHm−ΔHcc)/ΔHm×100)}
<耐ブリード性>
射出成形後の平板(70mm×40mm×3mm)について、80℃のオーブンの中に1ヶ月間放置し、その表面における有機結晶核剤及び/又は可塑剤のブリードの有無を肉眼で観察した。
【0070】
<発泡倍率>
発泡倍率は下記式により求めた。
【0071】
【数1】

【0072】
なお、成形体の密度は、JIS K−7112(B法:ピクノメーター法)に基づいて測定した。
【0073】
【表3】

【0074】
表3の結果から、本発明の製造方法は、特定の有機結晶核剤、特定の可塑剤、超臨界流体の相乗効果によって、ごく短時間で高い結晶化度を達成することができ、優れた耐熱性を有するポリ乳酸樹脂射出成形体が得られることがわかった。
【0075】
また、本発明の製造方法は、特定の有機結晶核剤及び可塑剤を含有することで、成形時間の短縮だけでなく、優れた耐衝撃性と耐ブリード性を達成できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(1)及び工程(2)を有するポリ乳酸樹脂射出成形体の製造方法。
工程(1):ポリ乳酸樹脂と、芳香族スルホン酸ジアルキルの金属塩、リン酸エステルの金属塩、フェノール系化合物の金属塩、ロジン酸類の金属塩、芳香族カルボン酸アミド及びロジン酸アミドからなる群から選ばれる少なくとも1種の有機結晶核剤と、分子中に2個以上のエステル基を有し、エステルを構成するアルコール成分の少なくとも1種が水酸基1個当たり炭素数2〜3のアルキレンオキサイドを平均0.5〜5モル付加した化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の可塑剤とを含有するポリ乳酸樹脂組成物を、超臨界流体と接触させながら溶融混練する工程
工程(2):工程(1)で得られた溶融物を金型内に充填し、射出成形する工程
【請求項2】
ポリ乳酸樹脂組成物が、ポリ乳酸樹脂100重量部に対し、有機結晶核剤を0.01〜5重量部、可塑剤を1〜50重量部含有する請求項1に記載のポリ乳酸樹脂射出成形体の製造方法。
【請求項3】
超臨界流体を、ポリ乳酸樹脂組成物に対し0.1〜10重量%の割合で接触させる請求項1又は2記載のポリ乳酸樹脂射出成形体の製造方法。
【請求項4】
工程(2)における金型温度が10〜90℃である請求項1〜3いずれか記載のポリ乳酸樹脂射出成形体の製造方法。
【請求項5】
有機結晶核剤と可塑剤のポリ乳酸樹脂組成物に対する含有量比(有機結晶核剤/可塑剤)が1/10〜5/1である、請求項1〜4いずれか記載のポリ乳酸樹脂射出成形体の製造方法。

【公開番号】特開2009−286812(P2009−286812A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−137490(P2008−137490)
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】