説明

ポリ乳酸系樹脂組成物およびその成形体

【課題】実用特性を損なうことなく難燃性を改善することのできる、ポリ乳酸系樹脂組成物及びその成形体を提供する。
【解決手段】ポリ乳酸系樹脂成分と、金属水酸化物成分と、ブレンステッド酸を有する金属酸化物成分とを含有するポリ乳酸系樹脂組成物、及び、ポリ乳酸系樹脂成分と、金属水酸化物成分と、ブレンステッド酸を有する金属酸化物成分とを溶融混練し、ポリ乳酸系樹脂組成物の溶融物を得る工程と、前記溶融物を成形する工程と、を具備するポリ乳酸系樹脂成形体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸系樹脂組成物、ポリ乳酸系樹脂成形体、及びポリ乳酸系樹脂組成物成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保全の見地から、植物を原料とする樹脂が注目されている。そのような樹脂のなかでも、ポリ乳酸は、耐熱性が高い点、大量生産が可能である点、及びコストが安い点などから、有用性が高い。ポリ乳酸の用途は、使用期間が短く廃棄されることが前提とされる用途(容器包装や農業用フィルムなど)や、初期の特性を長期間保持できるような高機能用途(電気・電子機器のハウジング及び自動車用部品など)など、多岐にわたっている。
【0003】
しかし、ポリ乳酸は燃焼しやすい。従って、家電製品やOA機器のハウジングや自動車部品などのように、高度な難燃性が要求される用途に使用する場合には、難燃化対策が必要である。
【0004】
難燃性を高める手法として、臭素化合物などのハロゲン系難燃剤を配合する手法が考えられる。しかし、ハロゲン系難燃剤を加えた場合には、燃焼時に、ハロゲン由来の有害ガスが発生することを考慮しなければならない。すなわち、廃棄物の焼却処理やサーマルリサイクルの際に、ハロゲン由来のガスに対する対策が必要になる。
【0005】
難燃性を高める他の手法として、リン系難燃剤を配合する手法も考えられる。しかし、リン系難燃剤を加えた場合であっても、安全性や環境調和性は不十分である。加えて、リン系難燃剤は、成形性や耐熱性等の実用面でも、悪影響を与えることがある。このため、ハロゲン及びリンを含有しない難燃剤の開発が進められている。
【0006】
環境調和型の難燃剤として、金属水酸化物が注目されている。金属水酸化物は、廃棄処分時に有害ガスを発生することがない。
【0007】
関連して、特許文献1(特開平8−252823号公報)には、生分解性プラスチック原料よりなるペレットに水酸化アルミニウム、あるいは、水酸化マグネシウムを30wt%〜50wt%配合することにより難燃性を付与する手法が開示されている。
【0008】
また、特許文献2(特開2004−307528号公報)には、乳酸系樹脂100質量部に対して、5〜40質量部の割合で配合した金属水酸化物とを有し、該金属水酸化物が表面処理されており、該金属水酸化物の粒子表面に存在するNaO(w−NaO)が0.1質量%以下であることにより難燃性を付与する手法が開示されている。
【0009】
また、特許文献3(特開2004−277706号公報)には、ポリ乳酸樹脂に対して、水酸化アルミニウムと水酸化マグネシウムとのうちの少なくとも一方と、酸化マグネシウム等の含金属脱水触媒とを配合することにより難燃性を付与する手
法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平8−252823号公報
【特許文献2】特開2004−307528号公報
【特許文献3】特開2004−277706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に記載されるように、金属水酸化物によって十分な難燃性を実現するためには、金属水酸化物を大量に用いる必要があった。その結果、ポリ乳酸系樹脂の実用特性が不十分になることがあった。さらに、一般に、金属水酸化物の比重はポリ乳酸の比重よりも大きい。従って、ノートパソコンの筐体などの軽量化が重視される用途に用いることが難しい。
【0012】
また、特許文献2によれば、金属水酸化物の粒子表面に存在するNaO(w−NaO)を0.1質量%以下にすることで、金属水酸化物の配合量が削減可能である。しかしながら、そのような金属水酸化物を用いたとしても、依然として大量の金属水酸化物が必要とされる。例えば、成形体の厚みを3.2mm以下とした上で、UL94規格のV−0相当の難燃性を達成する場合について考える。この場合、ポリ乳酸系樹脂100質量部に対し、50質量部以上の金属水酸化物が必要である。このような量の金属水酸化物を用いると、実用上十分な耐衝撃性を得ることが出来ない。
【0013】
また、特許文献3に記載されるように、含金属脱水触媒を用いた場合には、耐久性に課題がある。含金属脱水触媒は一般に塩基性を示す。そのため、長期使用時に、含金属脱水触媒により、ポリ乳酸系樹脂の分子量が低下してしまう。また、ポリ乳酸系樹脂組成物及びその成形体を製造する際に、含金属脱水触媒がポリ乳酸系樹脂を分解させる場合がある。その結果、十分な難燃性を得ることが難くなる場合もあり、実用上十分とはいえない。
【0014】
従って、本発明の目的は、ポリ乳酸系樹脂の実用特性を損なうことなく、ポリ乳酸系樹脂の難燃性を改善することのできる、ポリ乳酸系樹脂組成物及びその成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係るポリ乳酸系樹脂組成物は、ポリ乳酸系樹脂成分と、金属水酸化物成分と、ブレンステッド酸を有する金属酸化物成分とを含有する。
【0016】
本発明に係るポリ乳酸系樹脂成形体は、上記のポリ乳酸系樹脂組成物を成形してなる。
【0017】
本発明に係るポリ乳酸系樹脂組成物成形体の製造方法は、ポリ乳酸系樹脂成分と、金属水酸化物成分と、ブレンステッド酸を有する金属酸化物成分とを溶融混練し、ポリ乳酸系樹脂組成物の溶融物を得る工程と、前記溶融物を成形する工程とを具備する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ポリ乳酸系樹脂の実用特性を損なうことなく、ポリ乳酸系樹脂の難燃性を改善することのできる、ポリ乳酸系樹脂組成物及びその成形体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の実施形態について詳細に説明する。本実施形態に係るポリ乳酸系樹脂組成物は、(A)ポリ乳酸系樹脂成分を含む樹脂成分と、(B)金属水酸化物成分と、(C)ブレンステッド酸を有する金属酸化物成分とを含んでいる。このような組成物は、金属水酸化物成分によって、難燃性が高められている。ここで、更にブレンステッド酸を有する金属酸化物成分を用いることにより、金属水酸化物成分による難燃性向上効果が、相乗的に高められる。以下に、各成分について詳細に説明する。
【0020】
(A);樹脂成分
樹脂成分は、主成分として、ポリ乳酸系樹脂成分を含んでいる。
【0021】
本実施形態で用いられるポリ乳酸系樹脂成分は、一種類のポリ乳酸系樹脂、又は複数種類のポリ乳酸系樹脂の混合物である。本明細書で言うポリ乳酸系樹脂とは、乳酸又はラクチドを含むモノマーを重合して得られる樹脂であるものとする。
【0022】
ポリ乳酸系樹脂成分は、好ましくは、ポリ乳酸のみから構成される。具体的には、ポリ乳酸系樹脂成分は、ポリ(L−乳酸)、ポリ(D−乳酸)、L−乳酸とD−乳酸との共重合体、及びポリ(L−乳酸)とポリ(D−乳酸)との混合物、の何れかであることが好ましい。
【0023】
ポリ乳酸系樹脂成分として、光学純度の異なる2種類以上のポリ乳酸の混合物を用いることも可能である。この場合、耐熱性の観点から、ポリ乳酸系樹脂成分の10質量%以上が、光学純度が90%以上である結晶性ポリ乳酸であることが好ましい。また、ポリ乳酸系樹脂成分の25質量%以上が、光学純度が90%以上である結晶性ポリ乳酸であることが、より好ましい。
【0024】
上述のポリ乳酸としては、例えば、ユニチカ(株)製、商品名テラマック、三井化学(株)製、商品名レイシア、ネイチャーワークス社製、商品名Nature works等を用いることができる。また、結晶化速度及び物性の観点から、ポリ乳酸系樹脂成分として、L−乳酸高純度品である結晶グレードのポリ乳酸樹脂製品を用いることが好ましく、L−乳酸純度が95%以上であるポリ乳酸樹脂製品を用いることが特に好ましい。
【0025】
但し、ポリ乳酸系樹脂成分に含まれるポリ乳酸系樹脂としては、乳酸と乳酸以外の物質との共重合体を用いることもできる。
【0026】
例えば、ポリ乳酸系樹脂として、乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体を用いることができる。但し、この場合には、ポリ乳酸系樹脂成分中における乳酸(L−乳酸及びD−乳酸)由来の繰り返し単位が、85モル%以上であることが好ましい。ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、p−ヒドロキシ安息香酸、p−(2−ヒドロキシエトキシ)安息香酸、及び6−ヒドロキシカプロン酸等が挙げられる。
【0027】
乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体は、例えば、次のような方法によって得ることができる。まず、L−乳酸、D−乳酸、及びヒドロキシカルボン酸の中から必要とする物質、を原料として選ぶ。そして、選んだ原料を脱水重縮合する。これにより、乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体が得られる。又は、乳酸の環状二量体であるラクチド、グリコール酸の環状二量体であるグリコリド、及びカプロラクトン等から必要とする構造のもの、を原料として選ぶ。そして、選んだ原料を開環重合する。これによっても、乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体とを得ることができる。そのラクチドとしては、例えば、L−乳酸の環状二量体であるL−ラクチド、D−乳酸の環状二量体であるD−ラクチド、D−乳酸とL−乳酸とが環状二量化したメソ−ラクチド、及びD−ラクチドとL−ラクチドとのラセミ混合物であるDL−ラクチドが挙げられる。本実施形態では、原料として、これらのラクチドのうちのいずれを用いることも可能である。但し、主原料は、D−ラクチド又はL−ラクチドであることが好ましい。
【0028】
また、ポリ乳酸系樹脂として、ヒドロキシカルボン酸以外のモノマーと乳酸との共重合体を用いることもできる。ヒドロキシカルボン酸以外のモノマーとしては、例えば、酸成分、ジオール成分、ラクトン化合物、及び有機リン化合物などが挙げられる。
【0029】
その酸成分としては、例えば、芳香族ジカルボン酸、飽和脂肪族ジカルボン酸、不飽和脂肪族ジカルボン酸、その不飽和脂肪族ジカルボン酸の無水物、及び脂環式ジカルボン酸などが挙げられる。その芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、メチルテレフタル酸、4,4´−ビフェニルジカルボン酸、2、2´−ビフェニルジカルボン酸、4,4´−ビフェニルエーテルジカルボン酸、4,4´−ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4´−ジフェニルスルフォンジカルボン酸、及び4,4´−ジフェニルイソプロピリデンジカルボン酸からなる集合から選ばれる少なくとも一の物質が挙げられる。その飽和脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、アジピン酸、セバシン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アゼライン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、アイコサン二酸、及び水添ダイマー酸からなる集合から選ばれる少なくとも一の物質が挙げられる。その不飽和脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸、及びダイマー酸からなる集合からえばられる少なくとも一の物質が挙げられる。その脂環式ジカルボン酸としては、例えば、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、2,5−ノルボルネンジカルボン酸、及びテトラヒドロフタル酸からなる集合から選ばれる少なくとも一の物質が挙げられる。
【0030】
また、ジオール成分としては、例えば、脂肪族ジオール、脂環式ジオール、ビスフェノール類、そのビスフェノール類のエチレンオキサイド付加体、及び芳香族ジオールからなる集合から選ばれる少なくとも一の物質が挙げられる。その脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、及び1,10−デカンジオールからなる集合から選ばれる少なくとも一の物質が挙げられる。その脂環式ジオールとしては、例えば、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、及び1,2−シクロヘキサンジメタノールからなる集合から選ばれる少なくとも一が挙げられる。そのビスフェノール類としては、例えば、ビスフェノールA、及びビスフェノールSからなる集合から選ばれる少なくとも一が挙げられる。その芳香族ジオールとしては、例えば、ハイドロキノン、及びレゾルシノールからなる集合から選ばれる少なくとも一が挙げられる。
【0031】
また、ラクトン化合物としては、δ−バレロラクトン、γ−ブチロラクトン、及びε−カプロラクトンからなる集合から選ばれる少なくとも一が挙げられる。
【0032】
また、有機リン化合物が共重合されていると、難燃性を高めることができる。
【0033】
樹脂成分(A)中には、少量であれば、ポリ乳酸系樹脂以外の樹脂が含まれていてもよい。ポリ乳酸系樹脂以外の樹脂としては、例えば、ポリ乳酸樹脂以外のポリエステル樹脂を用いることができる。そのポリ乳酸樹脂以外のポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリポリエチレンテレフタレート/シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、シクロヘキシレンジメチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリ(p−ヒドロキシ安息香酸/エチレンテレフタレート)、及び植物由来の原料である1,3−プロパンジオールから生成されるポリテトラメチレンテレフタレートからなる集合から選ばれる少なくとも一が挙げられる。
【0034】
更に、樹脂成分(A)中には、イソシアネート基を含有するカルボジイミド化合物が含まれていることが好ましい。このようなカルボジイミド化合物を用いれば、ポリ乳酸系樹脂の末端基が封鎖されるため、耐湿熱性、耐衝撃性、及び成形性等が向上する。カルボジイミド化合物の配合量は、好ましくは、ポリ乳酸系樹脂成分100質量部に対して、0.5〜20質量部であり、より好ましくは、1〜10質量部であり、特に好ましくは、1〜3質量部である。カルボジイミド化合物の配合量が0.5質量部未満であると、耐湿熱性及び耐衝撃性などの機械物性に効果はみられない。一方、そのカルボジイミド化合物の配合量が20質量部を超えても、それ以上の効果は得られない。カルボジイミド化合物としては、単一種類の物質が用いられてもよく、複数種類の物質が用いられてもよい。
【0035】
上述のカルボジイミド化合物としては、分子中に1個以上のカルボジイミド基とイソシアネート基とを含む化合物であれば、特に限定されない。そのカルボジイミド基としては、例えば、N,N´−ジ−o−トリイルカルボジイミド、N,N´−ジオクチルデシルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、N−トリイル−N´−シクロヘキシルカルボジイミド、N−トリイル−N´−フェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−ニトロフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−ヒドロキシフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−トリイルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジ−o−トリイルカルボジイミド、4,4´−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド、テトラメチルキシリレンカルボジイミド、N,N−ジメチルフェニルカルボジイミド、及びN,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドなどが挙げられる。
【0036】
そのカルボジイミド化合物は、従来から知られている方法で製造することができる。例えば、ジイソシアネート化合物を原料とする脱二酸化炭素反応を伴うカルボジイミド反応により、カルボジイミド化合物を製造することができる。このとき、モノイソシアネート等で末端封鎖処理を行わなければ、末端にイソシアネート基を有するカルボジイミド化合物が得られる。イソシアネート基の濃度は特に限定されない。そのカルボジイミド化合物としては、例えば、日清紡社製LA−1(イソシアネート基を1〜3%含む脂肪族カルボジイミド化合物)等が挙げられる。
【0037】
(B);金属水酸化物成分
続いて、金属水酸化物成分について説明する。金属水酸化物成分は、ポリ乳酸系樹脂組成物の難燃性を高めるために、用いられる。
【0038】
金属水酸化物成分としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ドーソナイト、アルミン酸カルシウム、水和石膏、水酸化カルシウム、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、ホウ砂、カオリンクレー、及び炭酸カルシウムの金属水和物からなる集合から選択される少なくとも一つの物質を用いることができる。これらの物質のうち、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、及びこれらの混合物は、吸熱効果が高く、難燃性に優れるので、特に好ましい。
【0039】
金属水酸化物成分の90質量%以上は、アルカリ金属物質の含有量が0.2質量%以下である金属水酸化物であることが好ましい。ポリ乳酸系樹脂はエステル結合を有しているため、金属水酸化物を用いた場合に、加水分解される。それによって、ポリ乳酸系樹脂の分子量が低下することがある。金属水酸化物成分の組成として上述のような組成を採用すれば、ポリ乳酸系樹脂の分子量低下が抑制でき(耐加水分解性が良好にでき)、難燃性を高めることができる。
【0040】
金属水酸化物成分の構成粒子の表面には、NaO(w−NaO)が存在する場合がある。金属水酸化物成分中におけるNaO(w−NaO)の含有量は、0.1質量%以下であることが好ましい。NaO(w−NaO)の含有量が0.1質量%以下であることにより、ポリ乳酸系樹脂の分子量低下がより確実に抑制される。
【0041】
例えば金属水酸化物成分として水酸化アルミニウムが用いられる場合、w−NaOの含有量は、以下の方法により求められる。まず100mLのビーカーに水酸化アルミニウム5g(1mgの単位まで秤量)を入れ、そこに温度50℃〜60℃の水50mLを加える。これを加熱し、内容物の温度を80℃〜90℃に保ちつつ、2時間保持する。次に、内容物を5Bの濾紙を用いて濾過し、50〜60℃の水5mLで4回洗浄する。濾液を20℃に冷却する。次いで、0.2mg/mLのLi内部標準溶液を10mL加える。更に、蒸留水を、全量が100mLとなるように、加える。これを、日本工業規格JISH1901−1977に基づいて、原子吸光光度計でNa量を測定する。測定されたNa量をNaO量に換算することにより、w−NaOの含有量を求めることができる。
【0042】
NaO(w−NaO)の含有量を十分に少なくするために、金属水酸化物成分としては、その構成粒子の表面が処理された物質を用いることが好ましい。
【0043】
金属水酸化物成分の表面処理方法としては、例えば、高級脂肪酸、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、及び硝酸塩等をコーティングする方法、ゾル−ゲルコーティング、シリコーンポリマーコーティング、樹脂コーティング等が挙げられる。金属水酸化物成分に表面処理を施すことにより、w−NaOの含有量を低減できる。これにより、高い難燃性能を発揮しうる量の金属酸化物を配合しても、ポリ乳酸系樹脂との混練時や射出成形時などに、ポリ乳酸系樹脂の分子量を低下させることがない。その結果、成形体において機械的強度が低下することもない。
【0044】
金属水酸化物成分は、50質量%粒径が、0.5μm以上、20μm以下の範囲であることが好ましい。50質量%粒径がこのような範囲であると、ポリ乳酸系樹脂成分中において、金属水酸化物成分を良好に分散させることができる。その結果、難燃性や機械特性の向上効果を高めることができる。
【0045】
金属水酸化物の配合量は、ポリ乳酸系樹脂100質量部に対して、10〜150質量部であることが好ましい。金属水酸化物の配合量が10質量部以下だと、難燃性が不十分になる場合がある。また、配合量が150質量部以上だと、流動性が不十分となり、高度な成形性が要求される用途(例えば薄肉成形材料)に用いることが困難になる場合がある。金属水酸化物成分として一般的な金属水酸化物を用いる場合、その配合量は、ポリ乳酸系樹脂100質量部に対して、40〜120質量部であること好ましい。金属水酸化物成分として、アルカリ金属の水酸化物の含有量が0.2質量%以下である物質を用いた場合には、金属水酸化物成分の配合量は、ポリ乳酸系樹脂100質量部に対して10〜150質量部であること好ましい。配合量がこれらのような範囲であると、難燃性と流動性が良好になる。また、金属水酸化背物成分として、粒子表面に存在するNaO(w−NaO)が0.1質量%以下である金属水和物を用いた場合にも、同様に、金属水酸化物成分の配合量は、ポリ乳酸系樹脂100質量部に対して10〜150質量部であること好ましい。
【0046】
(C);ブレンステッド酸を有する金属酸化物成分
ブレンステッド酸を有する金属酸化物成分は、難燃性を高めるために用いられる。
【0047】
ブレンステッド酸を有する金属酸化物成分は、以下のようなメカニズムにより、ポリ乳酸系樹脂組成物の難燃性を高めるものと考えられる。金属酸化物成分中のブレンステッド酸により、燃焼時に、ポリ乳酸系樹脂の分解による低分子量成分(ラクチド等)の生成が抑制される。拡散しやすい低分子量成分が低減することで、燃焼の継続が抑制される。すなわち、難燃性が向上する。ブレンステッド酸は、500〜600℃までは安定に存在する。そかし、600℃以上では、ブレンステッド酸を構成する水酸基が脱離し、ブレンステッド酸が消失する。ここで、金属水酸化物成分は、ポリ乳酸系樹脂成分が燃焼する際に、吸熱による熱分解によって水を発生させる。発生した水は、金属酸化物成分に配位し、ブレンステッド酸の消失を抑制する。また、金属水酸化物成分の吸熱により、金属酸化物成分の温度が600℃以上に上昇することも抑制される。従って、金属水酸化物成分とブレンステッド酸を有する金属酸化物成分とを用いることにより、難燃性を相乗的に高めることが可能となる。
【0048】
金属酸化物成分中にブレンステッド酸が含まれているか否かは、例えば、ピリジンを用いた赤外分光法(FT−IR)により確認することができる。ピリジンは1700〜1400cm−1の領域に、ピリジン環の面内振動に由来する赤外吸収バンドを有している。ピリジンが水素結合(PyH)しているか、配位結合(PyL)しているか、及びプロトン和(PyB)しているかによって、吸収バンドの位置が著しく異なる。具体的には、PyB(1540cm−1付近)の吸収バンドは、ブレンステッド酸点に吸着したピリジンの19b振動モードによるものである。この吸収バンドによりブレンステッド酸の存在を確認することができる。また、アンモニアを用いた、IRMS−TPD(赤外−質量分析−昇温脱離)法によっても、ブレンステッド酸の存在を確認することができる。
【0049】
金属酸化物成分としては、酸性度(H0)1.5における酸量が、0.05mmol/g以上である物質を用いることが好ましい。そのような金属酸化物成分を用いれば、燃焼時におけるポリ乳酸系樹脂の低分子量化が一層抑制される。その酸性度1.5における酸量は、0.1mmol/g以上であることがより好ましく、0.3mmol/g以上であることが更に好ましい。また、燃焼時におけるポリ乳酸系樹脂の低分子化を抑制する観点から、金属酸化物成分としては、最高酸性度(H0)が−3以下である物質を用いることが好ましい。
【0050】
本実施形態で用いられる金属酸化物成分としては、例えば、ケイ素含有複合酸化物、チタン含有複合酸化物、及び亜鉛とアルミニウムとの複合酸化物からなる少なくとも一の複合酸化物が挙げられる。そのケイ素含有複合酸化物としては、例えば、アルミニウム、チタン、ガリウム、ジルコニウム、ガリウム、亜鉛、マグネシウムよりなる群から選ばれた少なくとも1種の元素とケイ素との複合酸化物が挙げられる。そのチタン含有複合酸化物としては、例えば、ジルコニウム、アルミニウム、亜鉛よりなる群から選ばれた少なくとも1種の元素とチタンとの複合酸化物が挙げられる。
【0051】
金属酸化物成分の配合量は、ポリ乳酸系樹脂100質量部に対して、0.05〜20質量部であることが好ましい。金属酸化物成分の配合量がこの範囲外であると、難燃性が不十分になる場合がある。金属酸化物成分の配合量として、より好ましくは、0.1〜20質量部であり、さらに好ましくは0.5〜10質量部である。金属酸化物成分の配合量がこのような範囲内であると、難燃性と流動性が良好なので特に好ましい。
【0052】
(難燃助剤)
本実施形態に係るポリ乳酸系樹脂組成物は、更に、難燃助剤を含むことができる。難燃助剤を用いることにより、ポリ乳酸系樹脂組成物の成形体の難燃性をさらに向上させることができる。
【0053】
難燃助剤としては、例えば、金属化合物、リン化合物、窒素化合物ポリエチレンナフタレート(PAN)、及びシリコーン化合物からなる群から選ばれる少なくとも一の化合物を用いることができる。その金属化合物としては、例えば、無水ホウ酸、スズ酸亜鉛、ホウ酸亜鉛、硝酸鉄、硝酸銅、硝酸亜鉛、硝酸ニッケル、硝酸アンモニウム、及びスルフォン酸金属塩からなる集合から選ばれる少なくとも一が挙げられる。そのリン化合物としては、例えば、赤リン、高分子量リン酸エステル、及びフォスファゼン化合物からなる集合から選ばれる少なくとも一が挙げられる。そのPANとしては、例えば、メラミン、メラミンシアヌレート、メレム、及びメロンからなる集合から選ばれる少なくとも一が挙げられる。環境などへ及ぼす影響を考慮すると、難燃助剤としては、メラミンシアヌレート、硝酸亜鉛、硝酸ニッケル、ホウ酸亜鉛、及び毒性などの安全性が保障されたリン化合物からなる群から選ばれる少なくとも一の物質をもちいることが、好ましい。
【0054】
(結晶核剤)
本実施形態に係るポリ乳酸系樹脂組成物は、更に、結晶核剤を含むことができる。結晶核剤を用いることにより、ポリ乳酸系樹脂成分の結晶化速度を向上させることができる。
【0055】
結晶核剤としては、無機系の結晶核剤または有機系の結晶核剤を使用することができる。
【0056】
無機系の結晶核剤としては、例えば、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、窒化硼素、合成珪酸、珪酸塩、シリカ、カオリン、カーボンブラック、亜鉛華、モンモリロナイト、粘土鉱物、塩基性炭酸マグネシウム、石英粉、ガラスファイバー、ガラス粉、ケイ藻土、ドロマイト粉、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アンチモン、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、アルミナ、ケイ酸カルシウム、及び窒化ホウからなる群から選ばれる少なくとも一の結晶核剤が挙げられる。
【0057】
有機系の結晶核剤としては、例えば、有機カルボン酸類、脂肪族カルボン酸アミド、高分子有機化合物、リン酸又は亜リン酸、そのリン酸又は亜リン酸の有機化合物、そのリン酸又は亜リン酸の金属塩、ソルビトール誘導体、コレステロール誘導体、無水チオグリコール酸又はその金属塩、パラトルエンスルホン酸又はその金属塩、及びパラトルエンスルホン酸アミド又はその金属塩、からなる群から選ばれる少なくとも一の物質が挙げられる。
【0058】
その有機カルボン酸類としては、例えば、有機カルボン酸、その有機カルボン酸のアルカリ(土類)金属塩、及びカルボキシル基の金属塩を有する高分子有機化合物からなる群から選ばれる少なくとも一の物質が挙げられる。その有機カルボン酸としては、例えば、オクチル酸、トルイル酸、ヘプタン酸、ペラルゴン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルチミン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸、安息香酸、p−tert−ブチル安息香酸、テレフタル酸、テレフタル酸モノメチルエステル、イソフタル酸、イソフタル酸モノメチルエステル、ロジン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、コール酸からなる群から選ばれる少なくとも一の有機カルボン酸、が挙げられる。その有機カルボン酸アルカリ(土類)金属塩としては、例えば、上記の有機カルボン酸類のアルカリ(土類)金属塩等が挙げられる。そのカルボキシル基の金属塩を有する高分子有機化合物としては、例えば、ポリエチレンの酸化によって得られるカルボキシル基含有ポリエチレンの金属塩、ポリプロピレンの酸化によって得られるカルボキシル基含有ポリプロピレンの金属塩、オレフィン類(エチレン、プロピレン、及びブテン−1など)とアクリル酸又はメタクリル酸との共重合体の金属塩、スチレンとアクリル酸又はメタクリル酸との共重合体の金属塩、オレフィン類と無水マレイン酸との共重合体の金属塩、及びスチレンと無水マレイン酸との共重合体の金属塩からなる集合から選ばれる少なくとも一が挙げられる。
【0059】
有機系の結晶核剤として用いられる脂肪族カルボン酸アミドとしては、例えば、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘニン酸アミド、N−オレイルパルミトアミド、N−ステアリルエルカ酸アミド、N,N´−エチレンビス(ステアロアミド)、エチレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビス−10−ヒドロキシステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビス−9,10−ジヒドロキシステアリン酸アミド、p−キシリレンビス−11,12−ジヒドロキシステアリン酸アミド、p−キシリレンビス−9,10−ジヒドロキシステアリン酸アミド、N,N´−メチレンビス(ステアロアミド)、メチロール・ステアロアミド、エチレンビスオレイン酸アマイド、エチレンビスベヘン酸アマイド、エチレンビスステアリン酸アマイド、エチレンビスラウリン酸アマイド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アマイド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アマイド、ブチレンビスステアリン酸アマイド、N,N´−ジオレイルセバシン酸アミド、N,N´−ジオレイルアジピン酸アミド、N,N´−ジステアリルアジピン酸アミド、N´−ジステアリルセバシン酸アミド、m−キシリレンビスステアリン酸アミド、N,N´−ジステアリルイソフタル酸アミド、N,N´−ジステアリルテレフタル酸アミド、N−オレイルオレイン酸アミド、N−ステアリルオレイン酸アミド、N−ステアリルエルカ酸アミド、N−オレイルステアリン酸アミド、N−ステアリルステアリン酸アミド、N−ブチル−N´ステアリル尿素、N−プロピル−N´ステアリル酸尿素、N−アリル−N´ステアリル尿素、N−フェニル−N´ステアリル尿素、N−ステアリル−N´ステアリル尿素、ジメチトール油アマイド、ジメチルラウリン酸アマイド、ジメチルステアリン酸アマイド等、N,N´−シクロヘキサンビス(ステアロアミド)、及びN―ラウロイルーL−グルタミン酸―α、γ―n−ブチルアミドからなる集合から選ばれる少なくとも一が挙げられる。
【0060】
有機系の結晶核剤として用いられる高分子有機化合物としては、例えば、3,3−ジメチルブテン−1、3−メチルブテン−1、3−メチルペンテン−1、3−メチルヘキセン−1、及び3,5,5−トリメチルヘキセン−1などの炭素数5以上の3位分岐α−オレフィン、ビニルシクロペンタン、ビニルシクロヘキサン、及びビニルノルボルナンなどのビニルシクロアルカンの重合体、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール、ポリグリコール酸、セルロース、セルロースエステル、セルロースエーテル、ポリエステル、及びポリカーボネートからなる集合から選ばれる少なくとも一が挙げられる。
【0061】
有機系の結晶核剤として用いられるリン酸又は亜リン酸の有機化合物としては、例えば、リン酸ジフェニル、亜リン酸ジフェニル、リン酸ビス(4−tert−ブチルフェニル)ナトリウム、及びリン酸メチレン(2,4−tert−ブチルフェニル)ナトリウムからなる集合から選ばれる少なくとも一が挙げられる。
【0062】
有機系の結晶核剤として用いられるソルビトール誘導体としては、例えば、ビス(p−メチルベンジリデン)ソルビトール、及びビス(p−エチルベンジリデン)ソルビトールからなる集合から選ばれる少なくとも一が挙げられる。
【0063】
尚、結晶核剤としては、上記の物質以外にも、公知のものが使用可能である。また、無機系の結晶核剤と有機系の結晶核剤とが併用されてもよい。複数の種類の結晶核剤が併用されてもよい。
【0064】
結晶核剤の含有量は、特に限定されるものではないが、ポリ乳酸系樹脂成分100質量部に対して、0.1〜20質量部であることが好ましい。
【0065】
(繊維成分)
本実施形態に係るポリ乳酸系樹脂組成物は、更に、繊維成分を含むことができる。繊維成分を用いることにより、耐熱性をより高めることができる。繊維成分の含有量は、耐衝撃性及び成形性の観点から、ポリ乳酸系樹脂成分100質量部に対して100質量部以下であることが好ましい。
【0066】
繊維成分としては、例えば、植物繊維(例えばケナフ)、合成有機繊維(例えばアラミド繊維や全芳香族ポリエステル繊維など)、及び無機繊維(例えばガラス繊維、金属繊維など)からなる集合から選ばれる少なくとも一を用いることができる。
【0067】
繊維成分として用いられる植物繊維とは、植物に由来する繊維である。植物繊維の具体例として、木材、ケナフ、竹、及び麻類からなる集合から選ばれる少なくとも一が挙げられる。この植物繊維は、平均繊維長が20mm以下であることが好ましい。また、繊維成分としては、上述の植物繊維を脱リグニンや脱ペクチンして得られるパルプ等を用いることもできる。パルプ等は、熱による分解や変色などによる劣化が少ないため、繊維成分として特に好ましい。また、ケナフや竹は光合成速度が速く成長が速い。従って、二酸化炭素を多量に吸収できる。すなわち、二酸化炭素による地球温暖化、森林破壊という地球問題を同時に解決する手段の一つとしても優れている。この観点から、植物繊維のなかでも、ケナフや竹は、好ましい。
【0068】
繊維成分として用いられる合成有機繊維としては、例えば、アラミド繊維やナイロン繊維などのポリアミド繊維、ポリアリレート繊維やポリエチレンテレフタレート繊維などのポリエステル繊維、超高強度ポリエチレン繊維、及びポリプロピレン繊維からなる集合から選ばれる少なくとも一が挙げられる。これらのうちでも、アラミド繊維及びポリアリレート繊維は、芳香族化合物であることから他の繊維に比べ耐熱性が高い。また、高強度である。更に、淡色であることから樹脂に添加しても意匠性が損なわれにくい。更に、比重も小さい。従って、アラミド繊維及びポリ悪リレート繊維は、合成有機繊維として特に好ましい。
【0069】
繊維成分として用いられる無機繊維としては、例えば、炭素繊維、金属繊維、ガラス繊維、金属ケイ酸塩、無機酸化物繊維、及び無機窒化物繊維からなる集合から選ばれる少なくとも一が挙げられる。
【0070】
繊維成分としては、繊維の断面形状が円状のものよりも、断面形状が多角形、不定形、あるいは凹凸のある形状のものがこのましい。また、アスペクト比が高いものや、及び繊維径の小さいものが、好ましい。これらを用いると、樹脂と繊維成分の接合面積を高めることができる。
【0071】
また、繊維成分は、必要に応じて、基材となる樹脂との親和性または繊維間の絡み合いを高めるために、表面処理を施すことができる。表面処理方法としては、シラン系及びチタネート系などのカップリング剤による処理、オゾン処理、プラズマ処理、及びアルキルリン酸エステル型の界面活性剤による処理などが有効である。しかしながら、繊維成分の表面処理方法としては、これらに限定されるものでは無く、充填材の表面改質に通常使用できる処理方法を用いることも可能である。
【0072】
繊維成分に含まれる繊維の平均繊維長(破砕片を除く繊維の数平均繊維長)は、100μm〜20mmであることが好ましく、0.1mm〜10mmの範囲であると、特に好ましい。また、300μm〜20mmの繊維長の繊維を含むことが好ましい。
【0073】
(繊維形成型の含フッ素ポリマー)
本実施形態に係るポリ乳酸系樹脂組成物は、更に、繊維形成型の含フッ素ポリマーを含むことが好ましい。繊維形成型の含フッ素ポリマーの含有量は、ポリ乳酸系難燃性樹脂組成物の総量に対して、0.05質量%以上、5質量%以下であることが好ましい。
【0074】
(その他添加物)
本実施形態に係るポリ乳酸系樹脂組成物は、必要に応じて、顔料、熱安定剤、酸化防止剤、耐候剤、可塑剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、充填剤、抗菌剤、及び防かび剤などを含んでいてもよい。
【0075】
熱安定剤及び酸化防止剤としては、たとえば、ヒンダードフェノール類、リン化合物、ヒンダードアミン、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物からなる集合から選ばれる少なくとも一が挙げられる。有機充填材としては、例えば、澱粉、セルロース微粒子、木粉、おから、籾殻、フスマ等の天然に存在するポリマー、及びそのポリマーの変性品からなる集合から選ばれる少なくとも一が挙げられる。抗菌剤としては、例えば、銀イオン、銅イオン、及びこれらを含有するゼオライトからなる集合から選ばれる少なくとも一が挙げられる。なお、これらの添加物を配合する方法は特に限定されない。
【0076】
(ポリ乳酸系樹脂組成物の製造方法)
続いて、本実施形態に係るポリ乳酸系樹脂組成物の製造方法について説明する。ポリ乳酸系樹脂組成物における各成分の混合方法には、特に制限はない。その混合方法としては、例えば、公知の混合機(たとえばタンブラー、リボンブレンダー)を用いる方法、単軸や二軸の混練機等により各成分を配合する方法、押出機を用いる方法、及びロール等を用いて溶融混合する方法などが挙げられる。金属水酸化物成分およびブレンステッド酸を有する金属酸化物成分は、溶融させたポリ乳酸系樹脂成分、もしくは、溶融前のポリ乳酸系樹脂成分中に、直接添加することが好ましい。
【0077】
(ポリ乳酸系樹脂成形体の製造方法)
本実施形態に係るポリ乳酸系樹脂成形体は、上述のポリ乳酸系樹脂組成物を成形することにより、得られる。
【0078】
本実施形態に係るポリ乳酸系樹脂組成物の成形方法としては、例えば、射出成形法、フィルム成形法、ブロー成形法、及び発泡成形法などを挙げることができる。このような成形方法を用いることにより、ポリ乳酸系樹脂成形体を、例えば、電化製品の筐体などの電気・電子機器用途、建材用途、自動車部品用途、日用品用途、医療用途、及び農業用途に用いることができる。
【0079】
本実施形態に係るポリ乳酸系樹脂成形体の形状及び厚みは特に制限されない。ポリ乳酸系樹脂成形体の形状としては、シート状、フィルム状、糸状、及びファブリックなどが挙げられる。ポリ乳酸系樹脂成形体は、射出成形品、押出成形品、圧縮成形品、及びブロー成形品のいずれであってもよい。また、本実施形態に係るポリ乳酸系樹脂成形体をシートとして使用する場合には、紙または他のポリマーシートと積層することにより、多層構造の積層体として使用することも可能である。
【0080】
本実施形態に係るポリ乳酸系樹脂組成物の成形時における温度は、ポリ乳酸系樹脂成分や添加剤が熱劣化しない範囲で、使用するポリ乳酸系樹脂成分の溶融温度以上に設定される。
【0081】
本実施形態にかかるポリ乳酸系樹脂組成物は、成形時に結晶化を促進させることにより、熱変形温度や強度を高めることができる。結晶化を促進させる手法としては、例えば、射出成形時に金型内で冷却することにより、結晶化を促進させる方法が考えられる。この方法の場合、金型温度をポリ乳酸系樹脂成分のガラス転移温度(Tg)以上、「融点(Tm)−20」℃以下で所定時間保つ。その後、金型を、Tg以下に冷却する。また、成形後に結晶化を促進させるために、金型温度を直接Tg以下に冷却した後、再度、Tg以上、(Tm−20℃)以下で熱処理することもできる。
【0082】
(実施例)
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
【0083】
(1)樹脂組成物の混練
表1及び表2に示される配合量に従って、ポリ乳酸系樹脂成分、金属水酸化物成分、及びブレンステッド酸を有する金属酸化物成分を混合し、実施例1乃至4、参照例、及び比較例1乃至5のポリ乳酸系樹脂組成物を得た。具体的には、各成分を、混練機(栗本鉄工所製、S1ニーダー。混練温度:190±2℃)で溶融混合し、ポリ乳酸系樹脂組成物としてペレットを得た。金属酸化物成分中のブレンステッド酸の存在は、ピリジンを用いた赤外分光法(FT−IR)により確認した。
【0084】
【表1】

【0085】
【表2】

【0086】
(2)評価用成形体の作成
得られたペレットを、100℃で4時間以上乾燥した。その後、射出成形機(東芝機械製、EC20P−0.4A、シリンダー温度:200℃、金型温度:30℃)を用いて、試験片(125×13×3.2mm)を成形した。得られた試験片を、100℃の恒温室の中で4時間放置した。その後、室温まで戻し、難燃性評価用成形体を得た。
【0087】
(3)難燃性の評価
得られた難燃性評価用成形体について、UL(Underwriter Laboratories)94規格の垂直燃焼試験を実施して、難燃性を評価した。なお、難燃性がV−2の基準より劣る場合は、NOTと分類した。ちなみに、難燃性が良好な順から悪い順に並べると、V−0、V−1、V−2、及びNOTである。評価結果は、表1及び表2に示されている。
【0088】
表1及び表2に示されるように、参照例では、金属水酸化物成分及びブレンステッド酸を有する金属酸化物成分は、含有されていない。また、比較例1、3及び4では、ブレンステッド酸を有する金属酸化物成分は、含有されていない。また、比較例2では、金属水酸化物成分が含有されていない。参照例、及び比較例1乃至4では、難燃性の評価結果は、NOT又はV−2であった。これに対して、実施例1乃至4の難燃性の評価結果は、V−1又はV−0であった。すなわち、実施例1乃至4は、参照例及び比較例1乃至4と比較して、難燃性に優れていることが確認された。
【0089】
以上、本発明を、実施形態及び実施例1乃至4を用いて説明した。しかし、本発明は上記実施形態及び各実施例に限定されず、本発明の技術思想の範囲内において、各実施例は適宜変更され得ることは明らかである。
【0090】
本発明に係るポリ乳酸系樹脂組成物は、射出成形法、フィル成形法、ブロー成形法、発泡成形法などの方法により、電気・電子機器用途、建材用途、自動車部品用途、日用品用途、医療用途、農業用途、玩具・娯楽用途などの成形体に適用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸系樹脂成分100質量部と、
金属水酸化物成分10質量部以上、150質量部以下と、
ブレンステッド酸を有する金属酸化物成分0.05質量部以上、20質量部以下と、
を含有する
ポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1記載のポリ乳酸系樹脂組成物であって、
前記金属水酸化物成分の90質量%以上は、アルカリ金属水酸化物の含有量が0.2%以下である金属水酸化物である
ポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1乃至2の何れかに記載されたポリ乳酸系樹脂組成物であって、
前記金属水酸化物成分は、水酸化アルミニウムを含んでいる
ポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項4】
請求項3に記載されたポリ乳酸系樹脂組成物であって、
前記水酸化アルミニウムの構成粒子に付着したNaO(w−NaO)の含有量は、前記水酸化アルミニウムの総量に対して、0.1質量%以下である
ポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかに記載されたポリ乳酸系樹脂組成物であって、
前記ポリ乳酸系樹脂成分は、ポリ乳酸だけからなる
ポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れかに記載されたポリ乳酸系樹脂組成物を成形して得られる
ポリ乳酸系樹脂成形体。
【請求項7】
ポリ乳酸系樹脂成分と、金属水酸化物成分と、ブレンステッド酸を有する金属酸化物成分とを溶融混練し、ポリ乳酸系樹脂組成物の溶融物を得る工程と、
前記溶融物を成形する工程と、
を具備する
ポリ乳酸系樹脂成形体の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載されたポリ乳酸系樹脂成形体の製造方法であって、
前記成形する工程は、
前記溶融物を、「前記ポリ乳酸系樹脂成分のガラス転移温度」以上、「前記ポリ乳酸系樹脂成分の融点−20℃」以下の金型に充填して成形する工程を備えている
ポリ乳酸系樹脂成形体の製造方法。
【請求項9】
請求項7に記載されたポリ乳酸系樹脂成形体の製造方法であって、
前記成形する工程は、
前記溶融物を、前記ポリ乳酸系樹脂成分のガラス転移温度以下で成形する工程と、
前記ガラス転移温度以下で成形する工程の後に、前記溶融物を、前記ガラス転移温度以上、前記ポリ乳酸系樹脂成分の融点−20℃以下の温度範囲で熱処理する工程とを備えている
ポリ乳酸系樹脂成形体の製造方法。

【公開番号】特開2011−6597(P2011−6597A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−152252(P2009−152252)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】