説明

ポリ塩化ビフェニルで汚染された汚染物の処理方法とその処理装置

【課題】ポリ塩化ビフェニル(PCB)に汚染された汚泥、ウエス、感圧紙、蛍光灯安定器などPCBを微量に含む工業製品、並びに樹脂・鋼・コンクリートなどで製作されたPCB保管容器等、性状やPCB濃度の一定しない汚染物を一括して迅速に処理できる処理方法及びその装置を提供することを課題とする。
【解決手段】ポリ塩化ビフェニルで汚染された汚染物をプラズマ分解装置で分解した後、汚染物の分解によって発生する排気を1100℃〜1400℃の温度に維持された恒温チャンバ内に1〜5秒間滞留させて処理し、プラズマ分解装置の下流側の系内を、第一誘引ファン及び第二誘引ファンの2つの誘引ファンによって大気圧よりも低い圧力に保持することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ塩化ビフェニル(PCB)で汚染された汚泥、ウェス、感圧紙、蛍光灯安定器等の汚染物を無害化処理する方法とその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、ポリ塩化ビフェニル(PCB)は、化学的にきわめて安定な不燃性の物質であり、高い電気絶縁性を持つこと、蒸気圧が低く揮発しにくいなどの性質を持つことから、トランスやコンデンサなどの電気部品の絶縁油や、化学プロセスにおける熱媒として、広く用いられていたが、PCB中に不純物として含まれる微量のダイオキシン類による人体への悪影響、その他の環境上の理由から、現在では使用が禁止されている。
【0003】
しかし、従前から用いられていたものが残存する等、現在でもトランス、コンデンサー等に微量成分として残存している場合があり、これらをどのように分解処理するかは重要な課題となっている。そこで、現在では、PCB自体、PCBを含有する油、並びにPCBを大量に使用した機器の無害化処理計画が進められており、その方法ならびにその装置として、種々の方法が実施されている。たとえばトランス等を処理する場合には、下記特許文献1、2のように抜油、分解、解体を行い、解体された部品ごとに洗浄する方法が採用されている。
【0004】
しかし、このような方法では、解体、洗浄という全体の作業に手間がかかり、作業が煩雑になる結果、汚染拡大のリスクも大きくなるという問題があった。また、このような抜油、分解、解体等の手段は、重電機器等の大型機器には対応可能であるが、小型の機器類には適用しにくく、処理のためのコストも見合わないものとなる。ちなみに、無害化処理計画で予定されている処理対象物としては、大型機器類の数量よりも小型の機器類の数量の方が圧倒的に多いのが現状である。
【0005】
その一方で、PCB製造工程で発生した汚泥やウェス、感圧紙や蛍光灯安定器等、微量ではあるがPCBを含む大量の工業製品、並びにPCBを保管していた容器や建物、地下ピットコンクリート等にもPCBが含浸しているため、これらの無害化処理も必要であるが、このような多種多様な汚染物においては、PCB濃度や、可燃分・不燃分・水分の比率など、対象物の性状が一定でないため、これらを一括して処理することができないという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−236493号公報
【特許文献2】特開2003−318050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたもので、PCBに汚染された汚泥、ウエス、感圧紙、蛍光灯安定器などPCBを微量に含む工業製品、並びに樹脂・鋼・コンクリートなどで製作されたPCB保管容器等、性状やPCB濃度の一定しない汚染物を一括して迅速に処理できる処理方法及びその装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、このような課題を解決するために、ポリ塩化ビフェニルで汚染された汚染物の処理方法とその装置としてなされたもので、処理方法に係る請求項1記載の発明は、ポリ塩化ビフェニルで汚染された汚染物をプラズマ分解装置1で分解した後、汚染物の分解によって発生する排気を1100℃〜1400℃の温度に維持された恒温チャンバ2内に1〜5秒間滞留させて処理し、プラズマ分解装置1の下流側の系内を、第一誘引ファン14及び第二誘引ファン15の2つの誘引ファンによって大気圧よりも低い圧力に保持することを特徴とする。
【0009】
また請求項2記載の発明は、請求項1記載のポリ塩化ビフェニルで汚染された汚染物の処理方法において、第二誘引ファン15より上流側の、プラズマ分解炉8までの流路を大気圧より低い圧力に保持することを特徴とする。さらに請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載のポリ塩化ビフェニルで汚染された汚染物の処理方法において、プラズマ分解装置1の下流側における系内の流路を一部分岐させて循環流路を形成し、循環流路で排気を循環させることにより、プラズマ分解装置1の炉内の圧力を大気圧よりも低い一定の圧力に制御することを特徴とする。
【0010】
さらに、処理装置に係る請求項4記載の発明は、ポリ塩化ビフェニルで汚染された汚染物を分解するプラズマ分解装置1と、該プラズマ分解装置1から発生する排気を1100℃〜1400℃の温度で1〜5秒間滞留させる恒温チャンバ2と、前記プラズマ分解装置1の下流側の系内を大気圧よりも低い圧力に保持すべく、恒温チャンバ2の下流側に設けられた第一誘引ファン14及び第二誘引ファン15とを具備することを特徴とする。
【0011】
さらに請求項5記載の発明は、請求項4記載のポリ塩化ビフェニルで汚染された汚染物の処理装置において、第二誘引ファン15より上流側のプラズマ分解炉8までの流路が、大気圧より低い圧力に保持されるように構成されていることを特徴とする。さらに請求項6記載の発明は、請求項4又は5記載のポリ塩化ビフェニルで汚染された汚染物の処理装置において、プラズマ分解装置1の下流側における系内の流路を一部分岐させて、プラズマ分解装置1の炉内の圧力を大気圧よりも低い一定の圧力に制御すべく排気を循環させうる循環流路16が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
上述のように、本発明においては、ポリ塩化ビフェニルで汚染された汚染物をプラズマ分解装置1で分解した後、汚染物の分解によって発生する排気を1100℃〜1400℃の温度に維持された恒温チャンバ2内に1〜5秒間滞留させて処理するため、プラズマ分解装置によって処理対象物である汚染物中のPCBを完全に分解することができる。また仮にプラズマ分解装置でPCBは分解されたものの、熱重合を受けてさらに汚染度の高い有害有機物質(たとえばダイオキシン類)に変質されながら揮発されるものが排気中に残存していたとしても、次工程の恒温チャンバにおいて1200℃で2秒間滞留させることで、残存する有害有機物質をより完全に分解することができるという効果がある。
【0013】
この結果、PCBで汚染された処理対象物の性状が一定しない場合であっても、これらの処理対象物を一括してプラズマ照射で無害化することができ、且つ恒温チャンバでの温度、滞留時間を自動制御することによって、どのような組成のPCB汚染物が供給されても、無害な排気を後段に供給することができるという効果がある。
【0014】
またプラズマ分解装置から恒温チャンバを経て排出される高温の排気を、減温塔で急激に冷却する場合には、排気中でダイオキシン類が再合成されることもないという効果がある。さらにバグフィルタで除塵することによって、ダイオキシン類の再合成をより完全に防止することができるとともに、脱塩効果等も得られることとなる。
【0015】
さらに、アンモニアの添加する触媒反応塔を設けた場合には、プラズマ分解装置での汚染物の分解によって発生する排気中のNOxを好適に分解できる他、微量のダイオキシン類が存在する場合にも、これらを吸着除去することができる。さらに、セーフティネットとしての活性炭槽を設けることで、排気中に有害有機物質が残存していても、活性炭槽の活性炭で吸着できるので、非常に清浄で無害な排気を排出することができる。
【0016】
また、プラズマ分解装置の下流側の系内を、第一誘引ファン及び第二誘引ファンの2つの誘引ファンによって、第二誘引ファンよりも上流側のプラズマ分解装置までの流路を大気圧よりも低い圧力に保持することで、流路の途中部分における系外へのPCBの漏洩を防止することができるという効果がある。さらに、プラズマ分解装置の下流側における系内の流路を一部分岐させて循環流路を形成し、循環流路で排気を循環させることにより、プラズマ分解装置等の各装置内の圧力を大気圧よりも低い一定の圧力に制御することで、装置内の圧力の変動をより確実に防止することができ、ひいては系を大気圧よりも低い一定の圧力に制御することが容易になるので、PCB、有害有機物質等の漏洩をより確実に防止することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】一実施形態としての汚染物処理装置を示す概略ブロック図。
【図2】プラズマ分解装置の概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面に従って説明する。本実施形態のPCB汚染物の処理装置は、図1に示すように、プラズマ分解装置1と、恒温チャンバ2と、減温塔3と、第一バグフィルタ4と、第二バグフィルタ5と、触媒反応塔6と、活性炭槽7とを具備している。
【0019】
プラズマ分解装置1は、プラズマ分解炉8と、ペール缶投入室9とを備えている。ペール缶投入室9は、PCB汚染物が充填されたペール缶13をそのまま投入する部屋で、プラズマ分解炉8へペール缶を移送しうるように、該プラズマ分解炉8に隣接して設けられている。プラズマ分解炉8は、プラズマアークを発生させるための炉で、そのプラズマ分解炉8の天井部には、外部から炉内に装入されるようにしてプラズマトーチ9が装着されている。プラズマトーチ9としては、一般に、トーチ本体の中に陽極と陰極とを具備した非移行型のものと、トーチ本体の中には陽極のみを具備し、溶融する対象物を陰極としている移行型のものがあるが、本実施形態では、非移行型のプラズマトーチが用いられている。
【0020】
処理対象物にたとえばコンクリートがらなどのような電気絶縁性のものが含まれていれば、移行型のものよりも非被移行型のプラズマトーチの方を有効に使用することができるからである。この非移行型のプラズマトーチでは、陽極と陰極間のガスに通電する。ガスを連続的に送ることで、非常に高い温度のガスを発生させることができる。プラズマトーチ9は、3自由度に自在に可動できるように構成されている。また、プラズマ分解炉8には必要に応じて炉内を観察するためのカメラを設けることも可能であり、炉内の非処理物の分解状況に応じてプラズマトーチ9を移動しうるように構成することも可能である。これによって、未処理の非処理物に選択的にプラズマを照射することができる。また、プラズマ分解炉8は傾動するように構成することも可能である。
【0021】
プラズマ分解炉8内は約1400℃に維持され、PCBはこのプラズマ分解炉8で分解されることになる。ただし照射されるプラズマの温度は15000度以上のものである。プラズマ分解炉8の下部には、1個または複数個のスラグ排出容器11が設けられており、スラグ12が収容されたスラグ排出容器11がプラズマ分解炉8の外部へ排出されるように構成されている。このスラグ12は、ペール缶13内に充填されていたPCB汚染物のうち、土砂、金属、コンクリートがら等の不燃物が溶融して生じたものであり、溶融状態から固化させた状態でプラズマ分解炉8の外部へ排出されることとなる。固化したスラグ12は、シリカ、アルミナ、酸化カルシウムなどの混合物である。
【0022】
恒温チャンバ2は、前記プラズマ分解装置1のプラズマ分解炉8で発生した燃焼ガス等の排気や水蒸気を供給するチャンバで、前記プラズマ分解炉8でPCBが分解されるが、熱重合を受けてさらに汚染度の高いダイオキシン類等の有害有機物質に変質されながら揮発されるものが排気中に残存していた場合に、その残存した有害有機物質を分解するためのものである。この恒温チャンバ2内は天然ガスバーナーによって1200℃に維持されており、供給された排気が恒温チャンバ2内で2秒間滞留させるように構成されている。ここで「2秒間滞留させる」とは、恒温チャンバ2の入口部から出口部まで流通する気体(排気)の平均流速が2秒であることを意味する。なお、恒温チャンバ2内を1200℃に維持する方法としては、恒温チャンバの出口に温度測定器を取り付け、その温度指示値に応じてバーナの焚き量を調節するフィードバック制御を行う方法が考えられる。
【0023】
減温塔3は、前記恒温チャンバ2から供給される排気を冷却するためのもので、冷却されることによって、ダイオキシン類が再合成されるのが防止される。この短時間で急速な冷却のために、水と空気が用いられる。この減温塔3の出口温度は140℃〜260℃とすることが好ましく、またその出口における排気中の水分量は40体積%以下にすることが好ましい。
【0024】
第一バグフィルタ4と第二バグフィルタ5は、集塵のための装置であり、第一バグフィルタ4は、粉末の活性炭を吹き込んで微量のダイオキシン類等の有害有機物質を吸着、除塵するものである。また第二バグフィルタ5には、消石灰を添加して排気中のHCl等の酸性ガスを吸着させて除去するもので、集塵のみならず脱塩の機能をも備えている。
【0025】
触媒反応塔6は、再合成されうるダイオキシン類等を分解するとともに、NOxをも分解するもので、チタン、バナジウム、ニッケル等の触媒となり得る金属をセラミックに練り込んで成形したものが触媒反応塔6に具備されている。活性炭槽7は、系の最終段階で万一有害有機物質が残存していた場合に、それを吸着するいわゆるセーフティネットとしての機能を有するもので、内部には活性炭が充填されている。
【0026】
また、第二バグフィルタ5と触媒反応塔6の間の流路には、第一誘引ファン14が設けられており、活性炭槽7の後段の流路には、第二誘引ファン15が設けられている。さらに、第一誘引ファン14と触媒反応塔6との間の流路から、減温塔3と第一バグフィルタ4との間の流路へ排気を返送して循環させる循環流路16が設けられている。第二誘引ファン15の下流側の流路には、NOx、HCl、CO、CO2、O2等の排気を分析するオンライン分析計17が設けられている。
【0027】
次に、上記のような構成からなるPCB汚染物の処理装置を用いて、PCB汚染物を無害化処理する処理方法について説明する。なお、以下では例示のために、PCB汚染物の容器としてペール缶を使用する場合について説明するが、ドラム缶などより大きな容器を使用する場合でも、全く同様な処理方法をとることができる。
【0028】
先ず、処理対象物であるPCB汚染物が充填されたペール缶を、プラズマ分解装置1のペール缶投入室9へ投入する。この場合、ペール缶は吊り具で吊り下げて投入され、或いはプッシャで機械的に投入される。ペール缶投入室9の底面は、図2に示すようにテーパ状に形成されており、従って投入されたペール缶はテーパ部の傾斜にそってプラズマ分解炉8へ移送される。
【0029】
プラズマ分解炉8へ移送されたペール缶13は、プラズマ分解炉8の天井部に装着されたプラズマトーチ9から発生するプラズマアークによって溶解される。プラズマ分解炉8内では、溶融したスラグがある程度貯留されてスラグ浴19が形成されている。そしてペール缶投入室9からプラズマ分解炉8へ順次投入されるペール缶13は、プラズマ分解炉8内のスラグ浴19に浸漬し、スラグ浴の熱が伝達されて溶解する。
【0030】
従って、投入されたペール缶13のスラグ浴19に浸漬した部分はスラグ浴19の熱によって溶解し、スラグ浴19に浸漬していない部分はプラズマトーチ9で発生する高温ガスによって溶解するので、ペール缶13の溶解が効率的になされることとなる。
【0031】
土砂、金属、コンクリートがら等の不燃物は、上述のように溶融してスラグ12となり、スラグ排出容器11に収容されてプラズマ分解炉8の外部へ排出される。スラグ浴は1300度以上に維持され、また炉内に溜まったスラグ等は、適宜、炉を傾動することで、上記のようなスラグ排出容器11に収容されることになる。
【0032】
一方、プラズマ分解炉8内で燃焼した排気は、水蒸気とともに、次工程の恒温チャンバ2へ供給される。恒温チャンバ2内は上述のように1200℃に維持されており、供給された排気は、恒温チャンバ2内で2秒間滞留された後、恒温チャンバ2から排出される。
【0033】
この場合において、処理対象物である汚染物に含有されていたPCBは、高温に維持されたプラズマ分解炉8で完全に分解される。また仮にプラズマ分解炉8でPCBは分解されたものの、熱重合を受けてさらに汚染度の高い有害有機物質(たとえばダイオキシン類)に変質されながら揮発するものが排気中にあったとしても、その微量の有害有機物質は、上述のように1200℃に維持された恒温チャンバ2内に2秒間滞留することで、完全に分解されることになるのである。
【0034】
次に、恒温チャンバ2内を通過した排気は、さらに減温塔3へ供給され、水と空気で冷却される。水は霧状に噴霧されるため、瞬間的に蒸発するものであり、減温塔3から漏洩することもない。このように減温塔3に供給された排気は、水と空気で冷却されることによって、ダイオキシン類が再合成されるのが防止される。すなわち、PCB分解後の排気は、200℃〜500℃の温度範囲内で温度を少しずつ変化させるような雰囲気中に存在させると、ダイオキシン類が再合成される可能性が高くなる。これに対して、上述のようにプラズマ分解炉8や恒温チャンバ2で1100℃以上の高温で処理された後の排気を、減温塔3で200℃まで一気に冷却すると、ダイオキシン類の再合成がほぼ完全に防止されることとなるのである。
【0035】
冷却後の排気は、第一バグフィルタ4へ供給され、粉末の活性炭が吹き込まれてる。上述のようにPCBはプラズマ分解炉8で完全に分解されるはずであり、且つ減温塔3でダイオキシン類の再合成が防止されているはずであるが、仮に微量の有害有機物質、たとえばダイオキシン類が合成されていたとしても、それらの有害有機物質は、第一バグフィルタ4へ吹き込まれた活性炭に吸着されて除塵されることとなるのである。
【0036】
第一バグフィルタ4通過後の排気は、第二バグフィルタ5へ供給される。第二バグフィルタ5では、消石灰が添加されて、HCl等の酸性ガスが吸着されて除去される。すなわち、上記プラズマ分解装置1、恒温チャンバ2等で処理された排気中にはHCl、SOx等が生成しているが、そのHCl、SOx等を消石灰と反応させることで、排気からダストに変換されるのである。HClの場合には、次のような反応が想定される。
Ca(OH)2+2HCl→CaCl2+2H2
【0037】
また第二バグフィルタ5を通過した後の排気は、触媒反応塔6へ供給される。この触媒反応塔6には、アンモニアが吹き込まれてNOxが分解される。すなわち、プラズマ分解炉8では、窒素排気が存在するので、その後に恒温チャンバ2、減温塔3、第一バグフィルタ4、第二バグフィルタ5を通過する際にNOxが生じている可能性があるが、触媒反応塔6でのアンモニアの吹き込みによって好適にNOxが分解されるのである。また微量のダイオキシン類が再合成されていて上記第一バグフィルタ4で除塵されていなかったとしても、上記触媒反応塔6でこのダイオキシン類も分解されることとなる。
尚、NOxの分解反応は、次のように想定される。
NO2+NO+2NH3+O2→2N2+3H2
【0038】
触媒反応塔6を通過した後の排気は、さらに活性炭槽7へ供給される。活性炭槽7は、上述のように系の最終段階で有害有機物質が残存していた場合のセーフティネットとしての機能を有するもので、万一微量の有害有機物質が残存し、或いは微量のダイオキシン類が再合成されていたとしても、活性炭槽7で吸着されるので、微量の有害有機物質、ダイオキシン類といえども系外に不用意に排出されることもないのである。このように、セーフティネットとしての活性炭槽7によって、万一の場合に有害な成分を吸着除去することができるのである。
【0039】
尚、系外に排出される排気中の、NOx、HCl、CO、CO2、O2等の成分は、オンライン分析計17によって分析されることとなる。さらに、第二バグフィルタ5と触媒反応塔6の間の流路には、第一誘引ファン14が設けられており、活性炭槽7の後段の流路には、第二誘引ファン15が設けられているので、このような2つの誘引ファン14、15によって第二誘引ファン15より上流側の系内を負圧に維持することができる。より詳しくは、第二誘引ファン11より上流側の、プラズマ分解炉8までの流路が大気圧より低い圧力にされている。
【0040】
これは、もし第二誘引ファン15より上流側の流路で大気圧より高い圧力にされている部分が存在すれば、その部分からPCBや有害有機物質が漏洩するおそれがあるからである。たとえば第一誘引ファン14と第二誘引ファン15との間の流路が大気圧より高い圧力にされていると、触媒反応塔6等からダイオキシン類等の有害有機物質が漏洩するおそれがあるのである。このためには、第二バグフィルタ5の下流側流路の圧力が第一誘引ファン10によって上昇したとしても、大気圧より低い圧力に維持する必要がある。一方、プラズマ気体を系外に排出するためには、その排出部の近傍は大気圧より高い圧力に維持されていることが必要である。このため、第二誘引ファン11より下流側は、大気圧より高い圧力にされている。
【0041】
次に、第一誘引ファン14と触媒反応塔6との間の流路から、減温塔3と第一バグフィルタ4との間の流路へ排気を返送して循環させる循環流路16が設けられているので、循環流路16を流通する排気の流量を調節することで、プラズマ分解炉8、恒温チャンバ2、減温塔3、第一バグフィルタ4、第二バグフィルタ5等の内部、ひいては系内の圧力を一定に保つことが可能となる。すなわち、プラズマ分解炉8には、処理対象物であるペール缶が、ペール缶投入室9から一気に投入されるため、プラズマ分解炉8、恒温チャンバ2、減温塔3等の内部では圧力の変動が生じ易い。しかし、上記のように循環流路16を設けることで、その循環流路16を循環する排気の循環流量を調整することで、プラズマ分解炉8、恒温チャンバ2、減温塔3、第一バグフィルタ4、第二バグフィルタ5等の内部における圧力の変動を極力抑えることができるのである。
【0042】
以上のように、本実施形態においては、プラズマ分解装置1によって処理対象物である汚染物中のPCBを完全に分解することができるのであるが、PCBが分解されたものの、熱重合を受けてさらに汚染度の高い有害有機物質(たとえばダイオキシン類)に変質されながら揮発するものが排気中に残存していたとしても、次工程の恒温チャンバ2で1200℃で2秒間滞留させることで、残存する有害有機物質を分解することができる。またプラズマ分解装置1から恒温チャンバ2を経て排出される高温の排気は、減温塔3で急激に冷却されるので、ダイオキシン類が再合成されることもない。また仮に減温塔3でダイオキシン類の再合成が完全に防止できなかったとしても、その後の第一バグフィルタ4及び第二バグフィルタ5で好適に除塵されるので、ダイオキシン類の再合成がより完全に防止される。さらに、プラズマ分解装置1、恒温チャンバ2、減温塔3、第一バグフィルタ4、第二バグフィルタ5、触媒反応塔6で万一分解できなかった有害有機物質やダイオキシン類は、セーフティネットとしての活性炭槽7で吸着されるので、これらの系全体によって、無害で非常に清浄な排気を排出することができる。
【0043】
また、第一誘引ファン14と第二誘引ファン15との2つの誘引ファンを設け、第二バグフィルタ5の下流側流路の圧力を大気圧より低い圧力に維持することで、系全体を大気圧より低い圧力(負圧)に維持することができ、これによって系の途中部分からのPCBや有害有機物質の漏洩を防止することができる。しかも第一誘引ファン14と触媒反応塔6との間の流路から、減温塔3と第一バグフィルタ4との間の流路へ排気を返送して循環させる循環流路16を設け、循環流路16を流通する排気の流量を調節することで、プラズマ分解炉8、恒温チャンバ2、減温塔3、第一バグフィルタ4、第二バグフィルタ5等の内部、ひいては系内の圧力を一定に保つことが可能となり、プラズマ分解炉8に処理対象物であるペール缶が投入されることによる圧力の変動を極力防止することができるのである。
【0044】
尚、上記実施形態では、減温塔3によって高温の排気を急冷することとしたため、上記のような好ましい効果が得られたが、減温塔3を設けることは本発明に必須の条件ではない。また該実施形態では、第一バグフィルタ4及び第二バグフィルタ5の2つのバグフィルタを設けたため、上記のような好ましい効果が得られたが、この第一バグフィルタ4及び第二バグフィルタ5を設けることも本発明に必須の条件ではない。さらに該実施形態では触媒反応塔6や活性炭槽7を設けることで、上記のような好ましい効果が得られたが、これらの触媒反応塔6や活性炭槽7を設けることも本発明に必須の条件ではない。
【0045】
従って、プラズマ分解装置1と恒温チャンバ2のみからなる装置が本発明の範囲に含まれることはもちろん、プラズマ分解装置1と恒温チャンバ2の他に、減温塔3とバグフィルタのみを設けた装置も本発明の範囲に含まれ、さらにはプラズマ分解装置1と恒温チャンバ2の他に、触媒反応塔6と活性炭槽7のみを設けた装置も本発明の範囲に含まれる。要は、プラズマ分解装置1の後段(下流側)に、上記のような恒温チャンバ2が設けられていればよいのである。
【0046】
さらに、上記実施形態では、恒温チャンバ2内の温度を1200℃とし、滞留時間を2秒としたが、恒温チャンバ2内の温度や滞留時間は該実施形態に限定されるものではない。要は、恒温チャンバ2内の温度は1100℃〜1400℃であればよく、滞留時間は1乃至5秒であればよい。
【0047】
温度を1100℃〜1400℃としたのは、1100℃未満であると、高温処理するプラズマ分解装置1でPCBを分解できたとしても、そのPCBの分解、変性によって新たに生じた有害有機物質を分解するという恒温チャンバ本来の目的を達成することができず、また1400℃を超えると、プラズマ分解装置1内の温度より高くなるので多大なエネルギーを要し、プラズマ分解装置の補填の目的で、残存する有害有機物質を無害化処理するという本来の目的が喪失されるからである。この観点からは、恒温チャンバ2内の温度は1100℃〜1300℃とするのがより好ましく、1100〜1250℃とするのがさらに好ましい。
【0048】
一方、滞留時間を1乃至5秒としたのは、1秒未満であると残存する有害有機物質を完全に分解できないおそれがあり、また5秒を超えると、プラズマ分解装置1で未分解の有害有機物質を、プラズマ分解装置の補填の目的で、短時間で迅速に処理するという本来の目的が喪失されるからである。この観点からは、恒温チャンバ2内の滞留時間は、1.5〜3秒とするのがより好ましい。
【0049】
さらに、上記実施形態では、各種の汚染物を充填したペール缶を処理対象物したが、処理対象物はそれに限定されるものではなく、あらゆる性状の汚染物を処理対象物とすることができる。
【0050】
従って、プラズマ分解装置1の構造も、該実施形態のようなプラズマ分解炉8とペール缶投入室9とを備えたような構造のものに限らず、プラズマ分解炉のみからなる構造のものであってもよい。尚、このようなプラズマ分解装置1は、原則として上記実施形態のような炉体を備えたものが用いられ、また上記のようなプラズマトーチ9を具備するものが用いられるが、本発明における「プラズマ分解装置」とは、これらの炉体やプラズマトーチを具備しているか否かは問うものではなく、プラズマを発生させてPCBを分解させる装置を広く含む意味である。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、ポリ塩化ビフェニルで汚染された汚泥、ウェス、感圧紙、蛍光灯安定器、トランス、コンデンサ等の各種汚染物の無害化に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 プラズマ分解装置
2 恒温チャンバ
3 減温塔
4 第一バグフィルタ
5 第二バグフィルタ
6 触媒反応塔
7 活性炭槽
8 プラズマ分解炉
14 第一誘引ファン
15 第二誘引ファン
16 循環流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ塩化ビフェニルで汚染された汚染物をプラズマ分解装置(1)で分解した後、汚染物の分解によって発生する排気を1100℃〜1400℃の温度に維持された恒温チャンバ(2)内に1〜5秒間滞留させて処理し、プラズマ分解装置(1)の下流側の系内を、第一誘引ファン(14)及び第二誘引ファン(15)の2つの誘引ファンによって大気圧よりも低い圧力に保持することを特徴とするポリ塩化ビフェニルで汚染された汚染物の処理方法。
【請求項2】
第二誘引ファン(15)より上流側の、プラズマ分解炉(8)までの流路を大気圧より低い圧力に保持する請求項1記載のポリ塩化ビフェニルで汚染された汚染物の処理方法。
【請求項3】
プラズマ分解装置(1)の下流側における系内の流路を一部分岐させて循環流路を形成し、循環流路で排気を循環させることにより、プラズマ分解装置(1)の炉内の圧力を大気圧よりも低い一定の圧力に制御する請求項1又は2記載のポリ塩化ビフェニルで汚染された汚染物の処理方法。
【請求項4】
ポリ塩化ビフェニルで汚染された汚染物を分解するプラズマ分解装置(1)と、該プラズマ分解装置(1)から発生する排気を1100℃〜1400℃の温度で1〜5秒間滞留させる恒温チャンバ(2)と、前記プラズマ分解装置(1)の下流側の系内を大気圧よりも低い圧力に保持すべく、恒温チャンバ(2)の下流側に設けられた第一誘引ファン(14)及び第二誘引ファン(15)とを具備することを特徴とするポリ塩化ビフェニルで汚染された汚染物の処理装置。
【請求項5】
第二誘引ファン(15)より上流側のプラズマ分解炉(8)までの流路が、大気圧より低い圧力に保持されるように構成されている請求項4記載のポリ塩化ビフェニルで汚染された汚染物の処理装置。
【請求項6】
プラズマ分解装置(1)の下流側における系内の流路を一部分岐させて、プラズマ分解装置(1)の炉内の圧力を大気圧よりも低い一定の圧力に制御すべく排気を循環させうる循環流路(16)が形成されている請求項4又は5記載のポリ塩化ビフェニルで汚染された汚染物の処理装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−142819(P2009−142819A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−74571(P2009−74571)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【分割の表示】特願2004−120914(P2004−120914)の分割
【原出願日】平成16年3月19日(2004.3.19)
【出願人】(000192590)株式会社神鋼環境ソリューション (534)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【Fターム(参考)】