説明

ポンプ

【課題】永久磁石の劣化を抑制し、ポンプの所期の性能を維持することができるポンプを実現することができ、さらにコイルの発熱による流体への悪影響を抑えることができるポンプを提供すること。
【解決手段】ポンプ100は、内部にポンプ室311が形成されたポンプハウジング31と、内部にステータ室321が形成されたステータハウジング32と有するハウジングを備える。また、ポンプ100は、ポンプ室311内に回転可能に設けられ、回転によりポンプ室内の流体を圧送するインペラ1と、ステータ室321内に設けられ、インペラ1を回転させる磁界を発生するステータ2とを備える。このポンプ100のインペラ1には、永久磁石が配置されていない。従って、例えば、インペラ1に被膜等を形成する際に、インペラ1が高温にさらされたとしても、永久磁石の劣化を抑制することができ、ポンプの所期の性能を維持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、医療用の代替心臓あるいは補助心臓として、人工心臓ポンプが用いられている。人工心臓ポンプとしては、拍動ポンプと、無拍動ポンプとが知られている。拍動ポンプは、実際の心臓のように拍動により断続的に血液を送り出すポンプである。一方、無拍動ポンプは、実際の心臓のようには拍動せずに、連続的に血液を送り出すポンプである。無拍動ポンプとしては、遠心式や軸流式のポンプが知られている。
【0003】
従来は、実際の心臓に近い拍動ポンプが重要視されていたが、近年においては、無拍動ポンプであっても人体に影響が無いことが判明し、小型化や軽量化等の観点から無拍動ポンプが注目されてきている。
【0004】
下記特許文献1には、血液を吸入する吸入口6と、血液を吐出する吐出口7とを有するポンプハウジング2と、ブレード8を有し、ポンプハウジング2内に設けられたインペラ100とを備えた渦巻きポンプ1(人工心臓ポンプ)が記載されている(段落[0072]、図1、図2)。この渦巻きポンプ1は、遠心式の無拍動ポンプである。ポンプハウジング2には、コイル15、16が設けられ、インペラ100のブレード8には、永久磁石14が設けられる(段落[0096])。インペラ100は、コイル15、16によって励起される磁界と、永久磁石14との相互作用によって回転する。
【0005】
ここで、インペラ100は、直接血液に接する部材であるので、生体適合性を有する窒化チタン等の被膜によって被覆される(段落[0097]〜[0101])。この被膜は、物理的蒸着法等によってインペラ100に被覆される。
【0006】
特許文献1に記載のように、インペラに生体適合性材料の被膜を形成する場合、一般的に高温での処理が必要になる。例えば、物理的蒸着法による窒化チタンの被膜形成の場合、インペラは高温にさらされる。
【0007】
ここで、特許文献1の技術では、インペラのブレードに永久磁石が配置されるので、以下のような問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2002−541986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のようにインペラが高温にさらされることにより、被膜形成の際に永久磁石も高温にさらされ、永久磁石が減磁される等、永久磁石の劣化が問題となる。
被膜を永久磁石に形成する場合に限られず、つまり、ポンプが人工心臓ポンプとして適用される場合に限られず、搬送対象となる流体に永久磁石がさらされるので、流体の種類によっては永久磁石が劣化し、ポンプの性能が低下する。
一方、例えばインペラにコイルが装着されている場合、ポンプの動作時にコイルの発熱によって、流体に悪影響を与えるおそれがある。
【0010】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、永久磁石の劣化を抑制し、ポンプの所期の性能を維持することができるポンプを実現することができ、さらにコイルの発熱による流体への悪影響を抑えることができるポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係るポンプは、ハウジングと、インペラと、ステータとを具備する。
前記ハウジングは、ポンプ室と、前記ポンプ室とは独立して設けられたステータ室とを有する。
前記インペラは、回転の周方向に沿って第1のピッチで配置された複数のロータ歯を有し、回転により流体を圧送する。
前記ステータは、複数のステータ歯と、コイルと、永久磁石とを有し、前記回転の軸方向で前記インペラと対向配置される。
前記複数のステータ歯は、前記ロータ歯に対向する対向面をそれぞれ含み、前記周方向に沿って前記第1のピッチとは異なる第2のピッチで配置される。
前記コイルは、前記各ステータ歯の周囲にそれぞれ巻回されたコイルであって、前記周方向に沿う方向で互いに隣り合う前記コイルに位相の異なる電力が供給される。
前記永久磁石は、前記各ステータ歯の前記対向面上にそれぞれ設けられ、前記周方向に沿って磁極が交互に異なるように配置される。
前記インペラは、前記ポンプ室内に設けられ、前記ポンプ室内の流体を圧送するものである。
前記ステータは、前記ステータ室内に設けられる。
【0012】
本発明では、ハウジングのステータ室内に、コイルが巻回された複数のステータ歯を有するステータが設けられており、コイルに電力が供給されると、ステータ歯にそれぞれ磁束が発生する。回転の周方向に沿う方向で互いに隣り合うコイルには、位相の異なる電力が供給されるので、互いに隣り合うステータ歯には、原則的に異なる強さの磁束が発生し、この磁束は、時間的に変化することになる。
【0013】
コイルによりステータ歯に発生した磁束は、ステータ歯の対向面上にそれぞれ設けられ、周方向に沿って磁極が交互に異なるように配置された永久磁石に作用し、時間的に変化しながら永久磁石の磁束を強めたり弱めたりする。
【0014】
これにより、周方向に沿う方向で強弱が時間的に変化する磁束が、ステータ側から発生する。ステータ側から発生した磁束は、ハウジングのポンプ室内に回転可能に設けられたインペラのロータ歯に作用する。これにより、ステータ歯のピッチ(第1のピッチ)と異なるピッチ(第2のピッチ)で配置されたロータ歯が誘導されてインペラが回転する。このインペラの回転により、ポンプ室内の流体が圧送される。
【0015】
このように、本発明では、インペラに永久磁石を配置せずに、ポンプの動作を実現している。これにより、流体に永久磁石がさらされないので、永久磁石の劣化を抑制し、ポンプの所期の性能を維持することができる。
また、永久磁石だけでなくコイルもインペラ側に配置せず、つまり、ポンプ室とは独立して設けられたステータ室内に配置されたステータに装着されているので、コイルの発熱による流体への悪影響を抑えることができる。
【0016】
上記ポンプにおいて、前記ロータ歯は、回転により前記流体を圧送するブレードとしての機能を有するロータブレードであってもよい。
本発明では、ロータブレードがロータ歯としての機能とブレードとしての機能とを兼用するので、ロータ歯の他にブレードをインペラに特別に設ける必要がない。これにより、ポンプを小型化、薄型化することができる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明によれば、永久磁石の劣化を抑制し、ポンプの所期の性能を維持することができる。また、コイルの発熱による流体への悪影響を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る人工心臓ポンプを示す断面図である。
【図2】人工心臓ポンプを示す斜視図であり、人工心臓ポンプの一部が破断された状態を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るインペラをステータ側から見た斜視図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るインペラをステータ側から見た正面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るインペラの背面図である。
【図6】本発明の一実施形態に係るインペラの側面図である。
【図7】本発明の一実施形態に係るインペラの側方断面図である。
【図8】本発明の一実施形態に係るステータをインペラ側から見た斜視図であり、ステータの一部が分解された様子を示す図である。
【図9】本発明の一実施形態に係るステータをインペラ側から見た正面図である。
【図10】人工心臓ポンプの動作原理を説明するための図であり、インペラ及びステータをリニアに展開した様子を示す図である。
【図11】人工心臓ポンプの動作原理を説明するための図であり、U相、V相、W相のコイルに流れる電流の変化を示す図である。
【図12】他の実施形態に係るインペラをステータ側から見た斜視図である。
【図13】他の実施形態に係るインペラをステータ側から見た正面図である。
【図14】他の実施形態に係るインペラの側面図である。
【図15】さらに別の実施形態に係るインペラを示す斜視図である。
【図16】さらに別の実施形態に係るインペラを示す側面図である。
【図17】さらに別の実施形態に係る人工心臓ポンプを示す側方断面図である。
【図18】さらに別の実施形態に係るインペラをステータ側から見た斜視図である。
【図19】さらに別の実施形態に係るインペラを背面側からみた斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
<第1実施形態>
[人工心臓ポンプの全体構成]
図1は、本発明の第1実施形態に係るポンプとして、人工心臓ポンプを示す断面図である。図2は、人工心臓ポンプを示す斜視図であり、人工心臓ポンプの一部が破断された状態を示す図である。
【0020】
これらの図に示すように、人工心臓ポンプ100は、内部にポンプ室311が形成されたポンプハウジング31と、内部にステータ室321が形成されたステータハウジング32と有するハウジング3を備える。また、人工心臓ポンプ100は、ポンプ室311内に軸部31Dを中心軸として回転可能に設けられ、回転によりポンプ室311内の血液(流体)を圧送するインペラ1と、ステータ室321内において、インペラ1の回転の軸方向でインペラ1と対応配置され、インペラ1を回転させる磁界を発生するステータ2とを備える。
【0021】
本明細書中の説明では、インペラ1の回転の軸の向く方向(z軸方向)を軸方向、回転の周囲の方向を周方向、回転の半径方向を径方向として説明する。
また、本明細書中の説明では、インペラ1がステータ2と対向する側をインペラ1の正面側、反対側をインペラ1の背面側として説明する。また、ステータ2がインペラ1と対向する側をステータ2の正面側、反対側をステータ2の背面側として説明する。
【0022】
[ハウジングの構成]
ポンプハウジング31は、全体として円筒形状であり、ポンプ室311内にインペラ1を回転可能に収納することができる程度の大きさとされる。
ポンプハウジング31は、円筒状の筒部31Aと、インペラ1の正面側に配置された円板状の第1の側壁部31Bと、インペラ背面側に配置された円板状の第2の側壁部31Cとを含む。
【0023】
ポンプハウジング31には、血液をポンプ室311に流入させる流入管4と、血液をポンプ室から流出させる流出管5とが設けられる。
流入管4は、一端部がポンプハウジング31の第1の側壁部31Bの中央と繋がっており、ポンプハウジング31から軸方向に向けて延びるように設けられている。この流入管4は、ステータハウジング32の中央を連通するように設けられる。
【0024】
一方、流出管5は、一端部がポンプハウジング31の筒部31Aと繋がっており、ポンプハウジング31から径方向(遠心方向)に延びるように設けられる。
【0025】
ポンプハウジング31の内部には、軸部31Dが設けられている。軸部31Dは、円柱形状を有しており、ポンプハウジング31の第2の側壁部31Cの中央から、z軸方向でポンプ室311内部へ向けて延びるように設けられる。軸部31Dは、外径の大きさが、リング状に形成されたインペラ1(図3参照)の内径よりも少しだけ小さく設定されており、軸部31Dの外周面は、インペラ1の内周面と間隔を開けて対向配置される。
【0026】
軸部31Dの外周面には、インペラ1の回転時に、径方向での動圧を発生するラジアル動圧溝(図示せず)が形成される。このラジアル動圧溝による動圧により、インペラ1は、回転時に軸部31Dに非接触で、軸部31Dを中心軸として回転可能とされる。なお、ラジアル動圧溝は、インペラ1の内周面側に設けられていてもよい。
【0027】
ステータハウジング32は、ポンプハウジング31と同様に円筒形状であり、ステータ室321内にステータ2を収納することができる程度の大きさとされる。
ステータハウジング32は、筒部32Aと、ステータの正面側に配置された円板状の第1の側壁部32Bと、ステータ背面側に配置された円板状の第2の側壁部32Cとを含む。
ステータハウジングの第1の側壁部32B及び第2の側壁部32Cの中央には、それぞれ流入管4を連通させるための開口が設けられる。
【0028】
ポンプハウジング31、ステータハウジング32、流入管4及び流出管5は、生体適合性材料により構成される。生体適合性材料としては、例えば、純チタン、チタン合金、窒化チタンや、ポリウレタン、ポリエステル等のポリマーが挙げられる。
【0029】
[インペラの構成]
図3は、インペラ1をステータ2側から見た斜視図である。図4は、インペラ1をステータ2側から見た正面図であり、図5は、インペラ1の背面図である。図6は、インペラ1の側面図であり、図7は、インペラ1の側方断面図である。
【0030】
これらの図に示すように、インペラ1は、リング状の形状を有している。このインペラ1は、セミオープン型のインペラ1であり、インペラ本体11と、インペラ本体11からステータ2側に向けて突出するように設けられた複数のロータブレード12とを有する。
【0031】
ロータブレード12は、ロータ歯としての機能と、ブレードとしての機能とを兼用する。すなわち、ロータブレード12は、ステータ2側から発生する磁界により周方向へ誘導されてインペラ1に回転力を与えるロータ歯としての機能と、回転により圧力差を発生させ、血液を圧送するブレードとしての機能とを兼用する。
【0032】
ロータブレード12は、回転の周方向に沿って45度ピッチ(第1のピッチ)で、8個配置される(図4参照)。8個のロータブレード12は、インペラ1の中心から放射状に形成されている。
【0033】
ロータブレード12は、インペラ1の正面側に形成された8個の羽根溝13によってインペラ1の正面側に形成される。
羽根溝13は、深さが周方向及び径方向で一定ではなく、深さが周方向及び径方向で変化して形成されている。羽根溝13についてさらに詳しく説明すると、羽根溝13は、周方向での深さが、インペラ1の回転方向とは反対方向へ向けて徐々に深くなるように湾曲して形成される。また、羽根溝13は、インペラ1の内周側から外周側にかけて徐々に深さが深くなるように傾斜して形成される(図7参照)。
【0034】
このように形成された羽根溝13による血液の流路の面積は、インペラ1の内周側から外周側にかけて徐々に大きくなる。これにより、インペラ1回転時に、ディフューザ効果により、インペラ1の内周側の圧力を、インペラ1の外周側の圧力よりも効果的に高くすることができる。
【0035】
ロータブレード12の正面には、軸方向での動圧を発生する第1のスラスト動圧溝14が設けられる(図3、4参照)。第1のスラスト動圧溝14は、ロータブレード12正面において、回転方向側の縁部に沿って設けられる。また、インペラ本体11の背面側にも、軸方向での動圧を発生する第2のスラスト動圧溝15が設けられる(図5参照)。第1のスラスト動圧溝14による動圧により、インペラ1回転時に、ロータブレード12の正面と、ポンプハウジング31の第1の側壁部31Bの内壁面とが接触してしまうことを防止することができる。また、第2のスラスト動圧溝15による動圧により、インペラ1回転時に、インペラ1の背面と、ポンプハウジング31の第2の側壁部31Cの内壁面とが接触してしまうことを防止することができる。
【0036】
図3、図4及び図5では、スラスト動圧溝14、15の形状の一例が示されている。しかし、スラスト動圧溝14、15の形状は、図示された形状に限定されない。スラスト動圧溝14、15の形状は、動圧を発生することができる形状であれば、どのような形状であっても構わない。
【0037】
インペラ1は、鉄、ケイ素鋼などの強磁性体により構成されており、強磁性体の薄板が径方向で積層された積層体構造とされる。インペラ1が、強磁性体の薄板が径方向で積層された積層体構造とされることで、ステータ2側から発生する磁界の変化による渦電流の発生を抑制することができる。これにより、エネルギーの損失を低減することができる。
【0038】
インペラ1の表面には、全体に亘って、生体適合性材料により構成される被膜(図示せず)が設けられている。これにより、強磁性体で構成されたインペラ1の一部が血液中に溶け出してしまい、血液中に血栓等が発生してしまうことを防止することができる。
被膜に用いられる生体適合性材料としては、例えば、純チタン、チタン合金、窒化チタンや、ポリウレタン、ポリエステル等のポリマーが挙げられる。
【0039】
次に、インペラ1の製造方法について簡単に説明する。
まず、強磁性体(鉄、ケイ素鋼等)の薄板が径方向で積層されて構成されたリング状の積層構造体(巻鉄心)が用意される。そして、このリング状の積層構造体の一方の面に、複数の羽根溝13が形成される。羽根溝13は、周方向では、深さが徐々に深くなるように湾曲して形成され、かつ、径方向では、内周側から外周側にむけて深さが徐々に深くなるように傾斜して形成される。この羽根溝13の形成により、ロータブレード12が形成される。
【0040】
次に、ロータブレード12の正面、インペラ1の背面にそれぞれ第1のスラスト動圧溝14、第2のスラスト動圧溝15が形成される。次に、インペラ1の表面全体に生体適合性材料(純チタン、チタン合金、窒化チタン、ポリウレタン、ポリエステル等)で構成される被膜が形成される。被膜の形成には、真空蒸着法やスパッタリング法等のPVD(physical vapor deposition)法、熱CVD法等のCVD(chemical vapor deposition)法等を用いることができる。
【0041】
なお、被膜がある程度厚く形成される場合には、被膜形成後にその被膜にスラスト動圧溝14、15を形成してもよい。
【0042】
ここで、PVD法やCVD法等によりインペラ1に被膜を形成する場合、インペラ1は、高温にさらされることになる。例えば、真空蒸着法により、インペラ1に窒化チタンの被膜を形成する場合、インペラ1は、一般的に500度以上の高温にさらされることになる。
ここで、仮にインペラ1に永久磁石が配置されているとすると、永久磁石が高温にさらされて減磁してしまう。また、永久磁石が減磁しないように、低温での被膜処理を行うと、処理に長時間かかってしまったり、処理が複雑化したりする。
【0043】
一方で、本実施形態に係るインペラ1には、永久磁石が配置されていない。従って、インペラ1が高温にさらされたとしても、永久磁石が減磁してしまうようなこともなく、インペラ1に対する被膜処理を容易に行うことができる。
【0044】
[ステータの構成]
図8は、ステータ2をインペラ1側から見た斜視図であり、ステータ2の一部が分解された様子を示す図である。図9は、ステータ2をインペラ1側から見た正面図である。
【0045】
これらの図に示すように、ステータ2は、ステータ本体211と、ステータ本体211からインペラ1側に突出するように設けられた複数のステータ歯212とを有するリング状のステータコア21を有する。また、ステータ2は、ステータ歯212の周囲にそれぞれ巻回されたコイル22と、ステータ歯212の正面にそれぞれ設けられた永久磁石23とを有する。
【0046】
ステータコア21のステータ歯212は、周方向に沿って、ロータブレード12のピッチとは異なるピッチ(第2のピッチ)で、複数個設けられる。本実施形態では、ステータ歯は、60度ピッチで、6個設けられている(図9参照)。ステータ歯212は、ステータ2の内周側から外周側にかけて徐々に周方向での幅が広くなるように形成されている。
【0047】
ステータコア21は、インペラ1と同様に、鉄、ケイ素鋼などの強磁性体によって構成されており、強磁性体の薄板が、径方向で積層された積層体構造とされる。ステータコア21が、このような積層構造とされることで、磁束の変化による渦電流の発生を抑制することができ、エネルギーの損失を低減することができる。
ステータコア21は、強磁性体(鉄、ケイ素鋼等)の薄板が径方向で積層されて構成されたリング状の積層構造体(巻鉄心)の一方の面に、複数の溝を形成することで製造することができる。
【0048】
ステータ歯212に巻回されたコイル22には、周方向に沿って順番にU相、V相、W相の3相の交流電力が供給される。すなわち、周方向で互いに隣り合うコイル22には、異なる位相の交流電力が供給される。
【0049】
永久磁石23は、磁極がインペラ1側を向くように、かつ、周方向に沿って磁極が交互に異なるように配置される。1つのステータ歯212に対しては、N極がインペラ1側を向くN極の永久磁石23NとS極がインペラ1側を向くS極の永久磁石23Sとが配置される。すなわち、永久磁石23は、1つのステータ歯212に対して、それぞれ2つずつ設けられる。なお、以降の説明では、1つのステータ歯に対して設けられた永久磁石23N、23Sを一対の永久磁石23N、23Sと呼ぶ場合がある。
【0050】
一対の永久磁石23N、23Sは、ステータ歯212と同様に、内周側から外周側に向けて周方向での幅が広くなるように形成されている。一対の永久磁石23N、23Sは、ステータ歯212の正面212aと同等の面積とされており、ステータ歯の正面212aの全面を覆うように設けられる。
【0051】
永久磁石23は、個々に分離されており、この個々に分離された永久磁石23が接着剤などにより、ステータ歯212の正面212aに接着される。
【0052】
[動作説明]
次に、人工心臓ポンプ100の動作について説明する。
まず、人工心臓ポンプ100の動作原理について説明する。
図10及び図11は、人工心臓ポンプ100の動作原理を説明するための図である。
図10(A)〜(C)には、インペラ1及びステータ2をリニアに展開した様子が示されており、それぞれ、U相、V相、W相のコイル22に流れる電流が最大である場合の磁束の流れが示されている。
図11には、U相、V相、W相のコイル22に流れる電流の変化が示されている。
【0053】
なお、図10及び図11の説明では、便宜的に、U相、V相、W相の交流電力が供給されるコイルをそれぞれ、U相、V相、W相のコイル22U、22V、22Wと呼ぶ。
また、U相、V相、W相のコイルが巻回されたステータ歯をU相、V相、W相のステータ歯212U、212V、212Wと呼ぶ。
同様に、U相、V相、W相のステータ歯212U、212V、212Wに設けられた永久磁石をU相N極、U相S極、V相N極、V相S極、W相N極、W相S極の永久磁石23UN、23US、23VN、23VS、23WN、23WSと呼ぶ。
【0054】
なお、図10では、ロータブレード12を区別するために、便宜的に左から順番に4つずつ、12A〜12Dの符号が付されている。
【0055】
まず、図10(A)を参照して、U相のコイル22Uに流れる電流が最大である瞬間での、ステータ歯212とロータブレード12との位置関係ついて説明する。
【0056】
この場合、U相のコイル22Uに流れる電流が最大であり、V相、W相のコイル22V、22Wには、U相のコイル22Uに流れる電流の半分の電流が、U相のコイル22Uに流れる電流と逆向きに流れる(図11(A)参照)。これにより、U相のステータ歯212Uに下向きに、V相のステータ歯212Vに上向きに、W相のステータ歯212Wに上向きに、それぞれ磁束が発生する。この場合、U相のステータ歯212Uに生じる磁束が最大となり、V相のステータ歯212V、W相のステータ歯212Wには、U相のステータ歯212Uに発生する磁束の半分の磁束がそれぞれ発生する。
【0057】
U相に着目すると、U相のコイル22UによりU相のステータ歯212Uにより発生した磁束は、U相N極の永久磁石23UNの磁束を強め、U相S極の永久磁石23USの磁束を弱める。V相に着目すると、V相のコイル22VによりV相のステータ歯212Vにより発生した磁束は、V相N極の永久磁石23VNの磁束を弱め、V相S極の永久磁石23VSの磁束を強める。W相に着目すると、W相のコイル22WによりW相のステータ歯212Wにより発生した磁束は、W相N極の永久磁石23WNの磁束を弱め、W相S極の永久磁石23WSの磁束を強める。
【0058】
これにより、磁束の流れは、図10(A)に示すような流れとなる。この磁束の流れをU相を起点として説明すると、U相のコイル22UによりU相のステータ歯212Uに発生した磁束は、U相N極の永久磁石23UNの磁束を強め、このU相N極の永久磁石23UNを介してロータブレード12Aへ流れ込む。インペラ1側に流れ込んだ磁束は、分岐し、分岐した一方の磁束は、ロータブレード12Cを介してV相S極の永久磁石23VSへ流れ込む。分岐した他方の磁束は、ロータブレード12Dを介してW相S極の永久磁石23WSへ流れ込む。
【0059】
V相のステータ歯212Vに流れ込んだ磁束は、V相のコイル22Vにより強められ、W相のステータ歯212Wに流れ込んだ磁束は、W相のコイル22Wにより強められる。これらの磁束は、合流し、合流した磁束は、U相のステータ歯212Uに流れ込む。そして、U相のステータ歯212Uに流れ込んだ磁束は、U相のコイル22Uにより強められて、U相N極の永久磁石23UNを介して、再びロータブレード12Aへ流れ込む。
【0060】
U相N極の永久磁石23UNからロータブレード12Aに流れ込む磁束は、ロータブレード12Aの中心に垂直に流れ込むので、この磁束による力は、インペラ1の回転方向でバランスされている。ロータブレード12CからV相S極の永久磁石23VSに流れ込む磁束による力と、ロータブレード12DからW相S極の永久磁石23WSに流れ込む磁束による力とは、インペラ1の回転方向に逆向きで、かつ同様の大きさであるので、これらの力は相殺される。
【0061】
すなわち、U相に流れる電流が最大である瞬間においては、ステータ歯212と、ロータブレード12の位置関係は、図10(A)に示す位置関係でバランスされている。
【0062】
この状態から、時間が経過し、U相、V相、W相のコイル22U、22V、22Wに流れる電流が変化することにより、U相、V相、W相のステータ歯212U、212V、212Wに発生する磁束が変化する。これに伴い、磁束が強められる永久磁石23と、磁束が弱められる永久磁石23が変化し、ステータ2側から発生する磁束も変化することになる。この磁束の変化に伴って、ステータ歯212と異なるピッチで配置されたロータブレード12が誘導されて、インペラ1が回転される。
【0063】
図10(B)を参照して、U相に流れる電流が最大である瞬間から時間が経過し、V相に流れる電流が最大となった場合について説明する。
【0064】
この場合、V相のコイル22Vに流れる電流が最大であり、U相、W相のコイル22U、22Wには、V相のコイル22Vに流れる電流の半分の電流が、V相のコイル22Vと逆向きに流れる(図11(B)参照)。これにより、V相のステータ歯212Vに下向きに磁束が発生し、U相のステータ歯212U及びW相のステータ歯212Wに上向きに、V相のステータ歯212Vに発生する磁束の半分の磁束が発生する。
【0065】
図10(B)に示す磁束の流れをV相を起点として説明する。V相のコイル22VによりV相のステータ歯212Vに発生した磁束は、V相N極の永久磁石23VNの磁束を強め、V相N極の永久磁石23VNを介してロータブレード12Bへ流れ込む。インペラ1側に流れ込んだ磁束は、分岐し、分岐した一方の磁束は、ロータブレード12Aを介してU相S極の永久磁石23USへ流れ込む。分岐した他方の磁束は、ロータブレード12Dを介してW相S極の永久磁石23WSへ流れ込む。
【0066】
U相のステータ歯212Uに流れ込んだ磁束及びW相のステータ歯212Wに流れ込んだ磁束は、U相のコイル22U及びW相のコイル22Wにより強められる。これらの磁束は、合流して、V相のステータ歯212Vに流れ込み、V相のコイル22Vにより強められ、V相N極の永久磁石23VNを介して、再びロータブレード12Bへ流れ込む。
【0067】
V相N極の永久磁石23VNからロータブレード12Bに流れ込む磁束による力は、インペラ1の回転方向でバランスされている。ロータブレード12AからU相S極の永久磁石23USに流れ込む磁束による力と、ロータブレード12DからW相S極の永久磁石23WSに流れ込む磁束による力とは、インペラ1の回転方向に逆向きで、かつ同様の大きさであるので、これらの力は相殺される。つまり、V相に流れる電流が最大である場合、ステータ歯212と、ロータブレード12の位置関係は、図10(B)に示す位置関係でバランスされている。
【0068】
この状態から時間が経過し、U相、V相、W相のコイル22U、22V、22Wに流れる電流が変化することにより、ステータ2側から発生する磁束が変化することによって、ロータブレードが誘導されてインペラ1が回転される。
【0069】
図10(C)を参照して、V相に流れる電流が最大である瞬間から時間が経過し、W相に流れる電流が最大となった場合について説明する。
【0070】
この場合、W相のコイル22Wに流れる電流が最大であり、U相、V相のコイル22U、22Vには、W相のコイル22Wに流れる電流の半分の電流が、W相のコイル22Wと逆向きに流れる(図11(C)参照)。これにより、W相のステータ歯212Wに下向きに磁束が発生し、U相のステータ歯212U及びV相のステータ歯212Vに上向きに、W相のステータ歯212Wに発生する磁束の半分の磁束が発生する。
【0071】
図10(C)に示す磁束の流れをW相を起点として説明する。W相のコイル22WによりW相のステータ歯212Wに発生した磁束は、W相N極の永久磁石23WNの磁束を強め、W相N極の永久磁石23WNを介してロータブレード12Cへ流れ込む。インペラ1側に流れ込んだ磁束は、分岐し、分岐した一方の磁束は、ロータブレード12Aを介してU相S極の永久磁石23USへ流れ込む。分岐した他方の磁束は、ロータブレード12Bを介してV相S極の永久磁石23VSへ流れ込む。
【0072】
U相のステータ歯212Uに流れ込んだ磁束及びV相のステータ歯212Vに流れ込んだ磁束は、U相のコイル22U及びV相のコイル22Vにより強められる。これらの磁束は、合流して、W相のステータ歯212Wに流れ込む。
【0073】
W相N極の永久磁石23WNからロータブレード12Cに流れ込む磁束による力は、インペラ1の回転方向でバランスされている。ロータブレード12AからU相S極の永久磁石23USに流れ込む磁束による力と、ロータブレード12BからV相S極の永久磁石23VSに流れ込む磁束による力とは、インペラ1の回転方向に逆向きで、かつ同様の大きさであるので、これらの力は相殺される。従って、W相に流れる電流が最大である場合、ステータ歯212と、ロータブレード12の位置関係は、図10(C)に示す位置関係でバランスされている。
【0074】
この状態から時間が経過し、U相、V相、W相のコイル22U、22V、22Wに流れる電流が変化することにより、ステータ2側から発生する磁束が変化することによって、ロータブレード12が誘導されてインペラ1が回転される。
【0075】
そして、再び、U相に流れる電流が最大となる。このようなサイクルによって、インペラ1は、軸部を中心軸として回転する。
本実施形態に係る人工心臓ポンプでは、以上説明したような動作原理により、インペラが回転されるので、インペラに永久磁石を配置せずとも動作可能とされる。
【0076】
次に、人工心臓ポンプの動作について具体的に説明する。
コイルへ電力が供給されると、ステータ2側から磁界が発生し、ロータブレード12が周方向に誘導されてインペラ1が軸部31Dを中心軸として回転する。このとき、インペラ1は、ラジアル動圧溝による動圧により、軸部31Dに非接触で、軸部31Dを中心として回転する。また、インペラ1は、第1のスラスト動圧溝14及び第2のスラスト動圧溝15による動圧により、ポンプハウジング31の第1の側壁部31Bの内壁面及び第2の側壁部31Cの内壁面に非接触で回転することができる。
【0077】
インペラ1が回転されると、回転するロータブレード12(羽根溝13)によりインペラ1内周側の圧力が外周側の圧力よりも高くなる。羽根溝13による血液の流路の面積は、インペラ1の内周側から外周側にかけて徐々に大きくなるので、ディフューザ効果により、効果的に圧力差を発生させることができる。
【0078】
インペラ1の回転による圧力差により、流入管4内の血液がポンプ室311内に流入する。ポンプ室311内に流入した血液は、インペラ1の内周側から、回転するロータブレード12の間(羽根溝13内)に入り、回転するロータブレード12により径方向に(遠心方向)に圧送される。径方向に圧送された血液は、インペラ1の外周側から流れ出し、インペラ1の外周面と、ポンプハウジング31の筒部31Aの内周面との間を流れ、その後、ポンプ室311から流出管5へ流出する。
【0079】
以上説明したように、本実施形態では、インペラ1に永久磁石23を配置せずに人工心臓ポンプ100の動作を実現している。これにより、インペラ1に生体適合性材料による被膜を形成する際に、インペラ1に高温処理を施したとしても、インペラ1には、永久磁石23が配置されていないので、永久磁石23が減磁してしまうこともない。このように、本実施形態では、インペラ1に対する被膜処理などの処理を容易に行うことができる。
【0080】
また、本実施形態では、モータの方式としてアキシャルギャップ型のモータ方式が採用されているので、人工心臓ポンプ100の薄型化、小型化の観点からも有利である。
【0081】
また、本実施形態では、インペラ1のロータブレード12が、ステータ2側からの磁界によりインペラ1に回転力を与えるロータ歯としての機能と、回転により血液を圧送するブレードとしての機能とを兼用するので、人工心臓ポンプ100をさらに、薄型化、小型化することができる。
【0082】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
第2実施形態では、インペラの形状が上述の第1実施形態と異なっている。従って、その点を中心に説明する。なお、第2実施形態以降の説明では、上述の第1実施形態と同様の構成及び機能を有する部材については、同一符号を付し、説明を簡略化または省略する。
【0083】
図12は、第2実施形態に係るインペラをステータ側から見た斜視図である。図13は、インペラをステータ側から見た正面図であり、図14は、インペラの側面図である。
これらの図に示すように、インペラ6は、セミオープン型のインペラ6であり、インペラ本体61と、インペラ本体61からステータ2側に突出するように設けられた複数のロータブレード62とを有する。このロータブレード62は、渦巻き状に形成されている。ロータブレード62は、第1実施形態と同様に、45°ピッチで8個設けられている(図13参照)。
【0084】
ロータブレード62は、鉄等の強磁性体の薄板が径方向で積層された積層構造体の一方の面に複数の羽根溝63が形成されることで形成される。羽根溝63は、渦巻き状に形成されており、周方向での深さが、インペラ6の回転方向とは反対方向へ向けて徐々に深くなるように湾曲して形成される。また、羽根溝63は、インペラ1の内周側から外周側にかけて徐々に深さが深くなるように傾斜して形成される。
【0085】
ロータブレード62の正面には、インペラ6の回転方向側の縁部に沿って第1のスラスト動圧溝64が形成される。図12、図13には、第1のスラスト動圧溝64の一例が示されているが、第1のスラスト動圧溝64の形状は、図示した形状に限定されない。なお、インペラ本体の背面側にも、例えば、図5に示すような形状の第2のスラスト動圧溝が形成される。
【0086】
インペラの表面には、全体に亘って、生体適合性材料により構成される被膜(図示せず)が設けられている。インペラには、永久磁石が配置されていないので、インペラに対する被膜処理を容易に行うことができる。
【0087】
第2実施形態に係るインペラ6では、ロータブレード62(羽根溝63)が渦巻き状に形成されているので、人工心臓ポンプ100のポンプ力を向上させることができる。
【0088】
なお、第2実施形態に係るインペラ6のロータブレード62の形状は、第1実施形態とは異なっているが、ロータブレード62の形状の変更は、積層構造体に形成される羽根溝63の形状を変更すれば可能であるので、容易に変更可能である。
【0089】
<第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態について説明する。
上述の各実施形態では、インペラがセミオープン型のインペラである場合について説明した。一方、第3実施形態では、インペラがクローズド型のインペラである点で上述の各実施形態と異なっている。従ってその点を中心に説明する。
【0090】
図15は、第3実施形態に係るインペラを示す斜視図であり、図16は、インペラを示す側面図である。
図15に示すように、インペラ7は、クローズド型のインペラ7であり、インペラ本体71と、インペラ本体71からステータ2側に突出するように、渦巻き状に形成された複数(8個)のロータブレード72とを有する。ロータブレード72の形状(羽根溝73の形状)は、上述の第2実施形態と同様の形状である。
【0091】
また、インペラ7は、インペラ7の正面側でインペラ7の正面を覆うように設けられたシュラウド部75を有する。シュラウド部75は、リング状の薄板形状を有している。
【0092】
シュラウド部75の正面には、第1のスラスト動圧溝74が設けられる。図15には、第1のスラスト動圧溝74の一例が示されているが、第1のスラスト動圧溝74の形状は、図示した形状に限定されない。なお、インペラ本体71の背面側にも、例えば、図5に示したような形状の第2のスラスト動圧溝が設けられる。
【0093】
シュラウド部75は、インペラ本体71及びロータブレード72と同様に、強磁性体の薄板が径方向に積層された積層体構造とされる。これにより、ステータ側から発生する磁界の変化による渦電流の発生を抑制することができ、エネルギー損失を低減することができる。
【0094】
インペラ7の表面には、全体に亘って、生体適合性材料により構成される被膜(図示せず)が設けられている。インペラ7には、永久磁石が配置されていないので、インペラ7に対する被膜処理を容易に行うことができる。
第3実施形態に係るインペラ7では、シュラウド部75が設けられたクローズド型のインペラ7とされるので、人工心臓ポンプ100のポンプ力をさらに向上させることができる。
【0095】
第3実施形態の説明では、ロータブレード72(羽根溝73)の形状が第2実施形態と同様の場合について説明したが、ロータブレード72(羽根溝73)の形状は、第1実施形態と同様の形状であってももちろん構わない。
【0096】
<第4実施形態>
次に、本発明の第4実施形態について説明する。
上述の各実施形態では、インペラのロータブレードがロータ歯としての機能と、ブレードとしての機能とを兼用する場合について説明した。一方、第4実施形態では、インペラにロータ歯と、ブレードとが別々に設けられている点で、上述の各実施形態と異なっている。従ってその点を中心に説明する。
【0097】
図17は、第4実施形態に係る人工心臓ポンプを示す側方断面図である。図18は、インペラをステータ側から見た斜視図である。図19は、インペラを背面側からみた斜視図である。
【0098】
図17に示すように、人工心臓ポンプ200は、ポンプハウジング33と、ステータハウジング32とを有するハウジング3と、インペラ8と、ステータ2とを備える。
ステータハウジング32及びステータ2は、上記各実施形態と同様の構成である。
ポンプハウジング33は、円筒状の筒部33Aと、インペラ1の正面側に配置された円板状の第1の側壁部33Bと、インペラ1の背面側に配置された円板状の第2の側壁部33Cとを有する。ポンプハウジング33の第1の側壁部33Bには、軸部33Dが設けられる。軸部33Dは、第1の側壁部33Bの中央から、ポンプ室331内部に向けてz軸方向に延びるように設けられる。
【0099】
軸部33Dには、軸方向に向けて軸部33Dを連通する連通口33D−1が設けられている。この連通口33D−1は、流入管4の内部と繋がっており、流入管4とともにポンプ室331への血液の流入路を構成する。
【0100】
軸部33Dの外周面は、リング状に形成されたインペラ8の内周面と間隙を開けて対向配置される。この軸部33Dの外周面には、径方向での動圧を発生するラジアル動圧溝(図示せず)が設けられる。インペラ8は、回転時にラジアル動圧溝により発生する動圧により、軸部33Dに非接触で軸部33Dを中心として回転可能とされる。なお、ラジアル動圧溝は、インペラ8の内周面に設けられていてもよい。
【0101】
図18及び図19に示すように、インペラ8は、リング状のインペラ本体81と、インペラ本体81からステータ2側に突出するように設けられた複数のロータ歯82と、ロータ歯82が突出する方向とは反対側に突出するように設けられた複数のブレード83とを有する。また、インペラ8は、ロータ歯82とロータ歯82との間に形成された溝を埋める部材84を有する。この部材84は、例えば、例えば、純チタン、チタン合金、窒化チタンや、ポリウレタン、ポリエステル等の、生体適合性材料により構成される。
【0102】
ロータ歯82及びブレード83は、それぞれ45度ピッチで、8個づつ設けられる。
ブレード83(羽根溝85)の形状は、第1実施形態におけるロータブレード12(羽根溝13)の形状と同様である(図3等参照)。
【0103】
インペラ8の正面側には、第1のスラスト動圧溝86が設けられる。これにより、インペラ8は、ポンプハウジング33の第1の側壁部33Bの内壁面に非接触で回転することができる。また、インペラ8の背面側において、ブレード83には、第2のスラスト動圧溝87が設けられる。これにより、インペラ8は、ポンプハウジング33の第2の側壁部33Cの内壁面に非接触で回転することができる。
【0104】
インペラ8には、全面に亘って、純チタンなどの生体適合材で構成された被膜(図示せず)が形成されている。
第4実施形態においても、インペラ8には、永久磁石23が配置されていないので、容易にインペラ8に被膜を形成することができる。
【0105】
第4実施形態に係る人工心臓ポンプ200の動作について簡単に説明する。
ステータ2側から磁界が発生すると、ロータ歯82が周方向に誘導されてインペラ8が軸部33Dを中心軸として回転する。インペラ8が回転されると、回転するブレード83の圧力差により、流入管4内の血液が軸部33Dの連通口33D−1を通って、ポンプ室331内に流入する。ポンプ室331内に流入した血液は、回転するブレード83により径方向に(遠心方向)に圧送され、流出管5から流出する。
【0106】
第4実施形態の説明では、ブレード83の形状が第1実施形態のロータブレード12と同様の形状である場合について説明した。しかし、これに限られず、ブレード83の形状は、第2実施形態のロータブレード62と同様の形状であってもよいし、第3実施形態のように、シュラウド部75が設けられていても構わない。
【0107】
第4実施形態では、ロータ歯82及びブレード83の数が、それぞれ8個ずつであるとして説明した。しかし、ロータ歯82及びブレードの数は、これに限定されない。ロータ歯82の数と、ブレード83の数とは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0108】
<各種変形例>
上述の各実施形態では、インペラ1、6、7、8の軸受構造について、動圧軸受を用いた形態について説明した。しかし、これに限られず、インペラの軸受構造は、ボールベアリング等の軸受が用いられてもよい。
【0109】
上述の各実施形態の説明では、ロータブレード12(あるいは、ロータブレード62、72、ロータ歯82、以下同様)の数が8個であり、ステータ歯212の数が6個である場合について説明した。しかし、ロータブレード12及びステータ歯212の数は、これに限られない。典型的には、ロータブレード12の数とステータ歯212の数とが異なっていれば(ロータブレード12のピッチとステータ歯212のピッチとが異なっていれば)、インペラ1(あるいは、インペラ6、7、8)を回転させることは可能である。
【0110】
上述の各実施形態の説明では、永久磁石23は、ステータ歯212ごとに、周方向に沿ってN極S極、N極S極、N極S極・・・の順番で配列される場合について説明した(図9等参照)。しかし、これに限られず、永久磁石23は、ステータ歯212ごとに、周方向に沿ってN極S極、S極N極、N極S極、・・の順番で配列されていてもよい。なお、この場合においても、1つのステータ歯212に対しては、永久磁石23は、磁極が周方向で交互に異なるように配置されている。
【0111】
上述の各実施形態の説明では、1つのステータ歯212に対して、2つの永久磁石23N、23Sが配置されるとして説明した。しかし、これに限られず、1つのステータ歯212に対して、1つの永久磁石23が配置されていてもよい。あるいは、1つのステータ歯212に対して、3つ以上の永久磁石23が配置されていてもよい。なお、これらの場合にも、永久磁石23は、回転軸の周方向に沿って磁極が交互に異なるように配置される。
【0112】
上述の各実施形態では、遠心式の人工心臓ポンプについて説明したが、ロータブレードの形状等を変更することで、軸流式の人工心臓ポンプを構成することも可能である。
【0113】
上記では人工心臓ポンプについて説明したが、流体に動力を与えたり、流体を搬送したりするポンプであれば、本技術をどのようなポンプにも適用可能である。例えば、本技術は以下のようなポンプに適用される。
1.液体搬送用ポンプ:この場合、液体としては、酸素、水素、窒素、LNG(Liquefied Natural Gas)、DME(DiMethyl Ether)、オイル等が挙げられる。
2.気体搬送用ポンプ:この場合、気体としては、シラン、プロパン、空気、窒素、フロン、代替フロン等が挙げられる。
3.冷媒搬送用ポンプ:この場合、流体としては、液体窒素、空気、オイル、シリコンオイル、メタン、エタン、エチレン、フロン、代替フロン等が挙げられる。
また、ポンプの用途としては、液体燃料用ポンプ、真空ポンプ、コンプレッサ、その他のポンプが挙げられる。
【0114】
このような本技術が適用されたポンプによれば、インペラに永久磁石を配置せずに、ポンプの動作を実現することができる。これにより、流体に永久磁石がさらされないので、永久磁石が高温または低温の流体からの悪影響を回避することができ、また、反応性の流体、腐食性等の流体の性質による悪影響を回避することができる。これにより、永久磁石の劣化を抑制し、ポンプの所期の性能を維持することができる。
【0115】
また、コイル22も、インペラが配置されるポンプ室311とは隔離されたステータ室321に配置されているので、コイルに流体が接することがない。これにより、コイルの発熱によって、流体に悪影響が及ぶことを抑えることができる、また、反応性、腐食性等の流体の性質による、コイルへの悪影響を防止することができる。
【符号の説明】
【0116】
1、6、7、8…インペラ
3…ハウジング
12、62、72…ロータブレード
22…コイル
23…永久磁石
31、33…ポンプハウジング
32…ステータハウジング
82…ロータ歯
83…ブレード
100、200…人工心臓ポンプ
212…ステータ歯
311、331…ポンプ室
321…ステータ室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプ室と、前記ポンプ室とは独立して設けられたステータ室とを有するハウジングと、
回転の周方向に沿って第1のピッチで配置された複数のロータ歯を有し、回転により流体を圧送するインペラと、
前記ロータ歯に対向する対向面をそれぞれ含み、前記周方向に沿って前記第1のピッチとは異なる第2のピッチで配置された複数のステータ歯と、前記各ステータ歯の周囲にそれぞれ巻回されたコイルであって、前記周方向に沿う方向で互いに隣り合う前記コイルに位相の異なる電力が供給されるコイルと、前記各ステータ歯の前記対向面上にそれぞれ設けられ、前記周方向に沿って磁極が交互に異なるように配置された永久磁石とを有し、前記回転の軸方向で前記インペラと対向配置されるステータとを具備し、
前記インペラは、前記ポンプ室内に設けられ、前記ポンプ室内の流体を圧送するものであり、
前記ステータは、前記ステータ室内に設けられる
ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載のポンプであって、
前記ロータ歯は、前記回転により前記流体を圧送するブレードとしての機能を有するロータブレードである
ポンプ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate


【公開番号】特開2012−189072(P2012−189072A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117323(P2011−117323)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(000002059)シンフォニアテクノロジー株式会社 (1,111)
【Fターム(参考)】