説明

マイクロストリップライン構造およびその製造方法

【課題】グラウンド層または電源層が信号ラインのアンカー層非形成面と対向して配置されているマイクロストリップライン構造においても、精度よく特性インピーダンスの制御ができる構造を提供すること。
【解決手段】第1の基板20上に形成されたグラウンド層または電源層としての導電層2、および第2の基板10上に形成された信号ライン3が前記導電層または信号ラインに形成されたアンカー層により前記基板にそれぞれ固定されてなり、前記導電層と前記信号ラインとが絶縁層1を介して対向配置されたマイクロストリップライン構造において、前記信号ラインおよび前記導電層が前記基板内に埋め込まれたことを特徴とする構造、およびこの構造を持つマイクロストリップライン構造の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブルプリント配線板に形成されるマイクロストリップライン構造およびその製造方法に係わり、特に精度良く特性インピーダンスを制御することができるマイクロストリップライン構造およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波信号を伝送するには、その線路の特性インピーダンスを制御する必要があり、その手段としてマイクロストリップライン構造がある。その一般的な構造は、絶縁層の一方の面にグラウンド層あるいは電源層としての導電層を形成し、他方に信号ラインを形成した構造であり、信号ラインの幅、絶縁層の厚みにより線路の特性インピーダンスを制御する。
【0003】
通常、1〜3GHz程度の高周波信号を伝送する線路に求められる特性インピーダンスの制御範囲は設定値に対して±10%以内であるが、今後、さらに信号の高周波化が進むことで、より精度の良い制御が求められる。今後の信号伝送の規格の中には、特性インピーダンスの制御範囲が±3〜±5%のものがある。このように、今後、基板の製造に当っては、精度良く線路の特性インピーダンスを制御することが求められる。
【0004】
通常、配線と絶縁層との密着性を上げるために、配線の底部にはアンカー層が設けられる。ただし、サブトラクティブ法、セミアディティブ法などのエッチングにより配線を形成する工法では、このアンカー層の部分が均一に除去され難いため、配線の幅にばらつきが発生する。
【0005】
マイクロストリップライン構造では、電源層またはグラウンド層に対向する信号ラインの幅が特性インピーダンスに影響を与える。そのため、電源層またはグラウンド層に対向する面にアンカー層を有する信号配線を持つ構造では、特性インピーダンスを精度良く制御することが難しい。
【0006】
また、このアンカー層は、高周波領域の信号を伝送するのに大きな問題となる。非特許文献1によると、信号が高周波になると、表皮効果によって電流が信号ラインの表皮部分にしか流れない状態になる。
【0007】
例えば、銅配線で1GHzの信号を伝送する場合、電流は表層から深さ2μmまでの間の部分に流れる。信号ラインとグラウンド層とが対向して形成されるマイクロストリップライン構造では、電流がアンカー層に集中して大きな導体損失を引き起こす。
【0008】
このような不具合を回避する手段として、特許文献1(P6、図1)のような構造が知られている。これは、絶縁層とアンカー層を持たない金属配線との間に、両者の接着強度を補うため、極性ポリマーと絶縁層との共重合物からなる層を介在させるものである。しかし、この手法は、手間と時間、それに伴うコストがかかるため、特許文献2(P4、図1)に示す構造が知られている。
【0009】
図6は、特許文献2(P4、図1)に示されている構造を示す断面図である。これは、マイクロストリップライン構造であり、グラウンド層または電源層としての導電層2を形成した基板20と信号ライン3を形成した基板10とを、絶縁層1を介してアンカー層の非形成面同士が対向するように積層したものである。
【0010】
この場合、導電層2と対向する信号ライン3の面が、線幅のばらつきが小さいアンカー層非形成面になる。このため、構造的にみれば特性インピーダンスを精度良く制御するには好都合であるし、さらに表皮効果による導体損失を低減させることができる。
【非特許文献1】2003年9月30日、日刊工業新聞社発行、「わかりやすい高周波技術入門」P30
【特許文献1】特開平9−219586号公報
【特許文献2】特開2006−66563号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記形成方法で実際に特性インピーダンスを制御することは困難である。すなわち、絶縁層1を介して積層する際に、絶縁層1の樹脂が流れ出し、グラウンド層または電源層としての導電層2と信号ライン3との間の樹脂が変形する。このため、マイクロストリップライン構造では、信号ライン3の幅と、導電層2と信号ライン3との間の樹脂厚みとで特性インピーダンスを制御するのであるが、これが難しくなる。
【0012】
本発明は上述の点を考慮してなされたもので、グラウンド層または電源層が信号ラインのアンカー層非形成面と対向して配置されているマイクロストリップライン構造においても、特性インピーダンスを精度よく制御ができる構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的達成のため、本願では、次の各発明を提供する。
【0014】
第1の発明によれば、
第1の基板上に形成されたグラウンド層または電源層としての導電層、および第2の基板上に形成された信号ラインが前記導電層または信号ラインに形成されたアンカー層により前記基板にそれぞれ固定されてなり、前記導電層と前記信号ラインとが絶縁層を介して対向配置されたマイクロストリップライン構造において、
前記信号ラインおよび前記導電層が前記基板内に埋め込まれたことを特徴とする。
【0015】
第2の発明によれば、
マイクロストリップライン構造の製造方法において、
信号ラインが埋め込まれた第1の基板、および導電層が埋め込まれた第2の基板を用意し、
前記第1および第2の基板を前記信号ラインと前記導電層とが絶縁層を介して対向するように積層する、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
これらの特徴により、本発明は次のような効果を奏する。
【0017】
本発明では、信号ラインとグラウンド層または電源層としての導電層との距離が絶縁樹脂の厚みにより決定されるため、フレキシブルプリント配線板においても精度良く特性インピーダンスをコントロールすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図1ないし図5を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【実施例1】
【0019】
図1は、本発明に係るマイクロストリップライン構造の概略断面を示したものである。このマイクロストリップラインは、グラウンド層または電源層としての導電層2を絶縁樹脂層6の上に形成したのち絶縁樹脂層6に埋め込んだものと、信号ライン3を絶縁樹脂層5の上に形成したのち絶縁樹脂層5に埋め込んだものとを、接着層4を用いて絶縁層1を介して対向するように積層して構成されている。
【0020】
絶縁樹脂層5,6の材料は、信号ライン3、またはグラウンド層または電源層としての導電層2を埋め込むため、熱可塑性樹脂であることが望ましい。さらに信号ライン3の周りの樹脂による誘電体損失、導体による損失を小さくするため、低誘電正接で低比誘電率の樹脂が望ましい。
【0021】
具体的には、誘電正接が0.01以下であり、比誘電率が3以下の樹脂が望ましく、液晶ポリマーフィルムが好ましく用いられる。この液晶ポリマーフィルムは、特に限定されるものではないが、例えば株式会社クラレのベクスター(商品名)や、ジャパンゴアテックス社製のBIAC(商品名)などがある。
【0022】
図2は、図1に示したマイクロストリップライン構造に用いる2つの基板10,20の断面構造を示している。基板10は、接着層4を介して絶縁層1とマイクロストリップライン構造とした際に、必要な特性インピーダンスとなる上底幅を持つ信号ライン3を形成したものであり、基板20は、グラウンド層または電源層としての導電層2を形成したものである。基板10,20を形成するには、例えば18μm厚の銅箔と液晶ポリマーフィルムとにより構成される銅張積層板を用いる。
【0023】
図3は、これら基板10,20を積層する前に、絶縁層5,6に配線層2,3を埋め込むための処理を示した断面図である。この埋め込みを行うには、プレス後の熱盤に液晶ポリマーフィルムが接着するのを避けるため、離形フィルム7として、基板10,20の外形よりも10mm程度大きく、厚みが12.5μmのポリイミドフィルムを用意し、基板10,20の上、下に配置した。
【0024】
図4は、配線層2,3を絶縁層5,6に埋め込んだ状態を示した断面図である。埋め込みを行うには、プレスの熱盤の温度を、絶縁層5,6の液晶ポリマーが変形する温度である280℃に昇温して、離形フィルム7で基板を挟み、6Mpaの圧力を15分間かける。
【0025】
図5は、配線層2,3を絶縁層5,6に埋め込んだ基板10,20を積層する際に用いる要素を示した断面図である。この積層のために、絶縁層1および接着層4を用意する。この絶縁層1、接着層4も、低誘電正接、低誘電率のものが望ましく、具体的には誘電正接が0.01以下であり、比誘電率が3以下のものが望ましい。
【0026】
積層する際のプレスの熱盤の温度は、接着層4の接着力が発現し、絶縁層1,5,6が変形しない温度とする。接着剤は、積層時にその厚みが変化し、特性インピーダンスに影響を与える。そのため、接着材の厚みは、絶縁層1の10%以下のものを用いることが望ましい。
【0027】
実施例1では、絶縁層1に、絶縁層5,6と同じ液晶ポリマーフィルムの100μm厚みのものを、接着層4には誘電正接が0.005で、比誘電率が2.7であるエポキシ系樹脂接着剤の10μm厚みのものを用意した。
【0028】
このエポキシ系接着材の硬化開始温度は130度以下であるため、基板10,20および絶縁樹脂1は変形することなく積層することができる。
【0029】
そして、基板10,20の間に絶縁樹脂1と接着剤4とを挟み、熱盤の温度を130℃にしたプレスで15分間、2MPaの加圧を行い積層した。積層により接着材4の変形が発生するが、その変形量は絶縁樹脂1と接着材4とを合わせた厚みに比べて小さいため、特性インピーダンスへの影響は少ない。その後、180℃で1時間の熱処理を行い、接着剤4を硬化させ、図1に示した積層構造を得た。
【0030】
このように、基板10,20に配線層2,3を面位置が実質的に一致するように埋め込むことにより、グラウンド層または電源層としての導電層2と信号ライン3との間の距離を絶縁層1により正確に規定できる。この結果、マイクロストリップラインの特性インピーダンスを精度良く制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の上記請求項1および2に記載したマイクロストリップライン構造およびその製造方法の概念的断面図。
【図2】本発明の配線基板を製造する際の各工程を説明する概念的断面図。
【図3】本発明の配線基板を製造する際の各工程を説明する概念的断面図。
【図4】本発明の配線基板を製造する際の各工程を説明する概念的断面図。
【図5】本発明の配線基板を製造する際の各工程を説明する概念的断面図。
【図6】従来のマイクロストリップライン構造の概念的断面図。
【符号の説明】
【0032】
1 絶縁樹脂
2,3 銅箔
4 接着層
5,6 絶縁樹脂
7 離形用フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の基板上に形成されたグラウンド層または電源層としての導電層、および第2の基板上に形成された信号ラインが前記導電層または信号ラインに形成されたアンカー層により前記基板にそれぞれ固定されてなり、前記導電層と前記信号ラインとが絶縁層を介して対向配置されたマイクロストリップライン構造において、
前記信号ラインおよび前記導電層が前記基板内に埋め込まれたことを特徴とするマイクロストリップライン構造。
【請求項2】
請求項1記載のマイクロストリップライン構造において、
前記信号ラインおよび前記導電層は、前記基板の表面と同じ面位置まで埋め込まれたことを特徴とするマイクロストリップライン構造。
【請求項3】
信号ラインが埋め込まれた第1の基板、および導電層が埋め込まれた第2の基板を用意し、
前記第1および第2の基板を前記信号ラインと前記導電層とが絶縁層を介して対向するように積層する、
マイクロストリップライン構造の製造方法。
【請求項4】
請求項3記載のマイクロストリップライン構造の製造方法において、
前記絶縁層は、表裏両面に接着剤層を有するものであり、
前記第1の基板と前記第2の基板とを積層することにより、両基板は接着されることを特徴とするマイクロストリップライン構造の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−16521(P2009−16521A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−176007(P2007−176007)
【出願日】平成19年7月4日(2007.7.4)
【出願人】(000230249)日本メクトロン株式会社 (216)
【Fターム(参考)】