説明

マイクロマニュピュレータ

【課題】顕微鏡視野内において微小物体を確実かつ迅速に把持することができるマイクロマニュピュレータを提供する。
【解決手段】マイクロマニュピュレータは微小物体を2本の把持指で把持するハンドリング機構104を備えている。ハンドリング機構104は、微小物体に接触するエンドエフェクタ505aを有し不動の固定指505と、微小物体に接触するエンドエフェクタ507aを有し支点軸を中心に回動可能な可動指507と、可動指507を支点軸を中心に回動させるアクチュエータ502と、を有している。可動指507がアクチュエータ502の駆動により回動することで固定指505のエンドエフェクタ505aの先端に可能指507のエンドエフェクタ507aの先端が接触可能に構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマイクロマニュピュレータに係り、特に、微小物体を2本の把持指で把持するハンドリング機構を備えたマイクロマニュピュレータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、微小部品の組み立てや細胞操作等にマイクロマニュピュレータが用いられている。一般に、マイクロマニュピュレータは、微小物体を取り扱う(把持する)ために、把持指を駆動させる機構(ハンドリング機構)を有しており(例えば、特許文献1参照)、把持対象物が微小なため、マイクロマニュピュレータによる作業は、肉眼による顕微鏡視野下や、顕微鏡に取り付けられたカメラを介してディスプレイ等のモニタに出力された画像を参照して行われる(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
このようなハンドリング機構を有する従来のマイクロマニュピュレータでは、例えば、図10(A)〜(C)に示すように、2本の把持指に微小物体に接触するエンドエフェクタ11、12が取り付けられており、微小物体10に対するエンドエフェクタ11、12の位置が等間隔となるようにハンドリング機構を操作し、2本の把持指を同時に近接させて、微小物体10を把持していた。
【0004】
また、2本の把持指(のエンドエフェクタ)の各先端を合わせるために、2本の把持指を弾性部材の1部品で構成して組立による位置ずれを避ける技術も公表されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開平8−168979号公報
【特許文献2】特開平4−303810号公報
【非特許文献1】2004年度精密工学会春季大会学術講演会講演論文集L76
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、図10(A)〜(C)に示したハンドリング機構では、微小物体10とエンドエフェクタ11、12の位置が等間隔となっていない場合に、微小物体に近い方のエンドエフェクタが先に微小物体に接触して微小物体を一方に押し込んでしまったり、エンドエフェクタの把持動作が円弧状の軌跡を描く場合には微小物体に対する把持位置がずれ、エンドエフェクタで微小物体を把持できないことがあった(図10(D)、(E)参照)。これを避けるために、2本の把持指をそれぞれ独立駆動して、位相差や時間差を補正することも考えられるが、アクチュエータやクラッチ機構等(付加機構)を付加しなければならず、また、操作も難しくなる。
【0007】
また、2本の把持指を弾性部材の1部品で構成する場合には、材料を限定し高精度加工を施す必要があった。これを避けるために、把持指及びエンドエフェクタを複数部品で構成する場合には、寸法公差を追い込む必要がある。
【0008】
本発明は上記事案に鑑み、顕微鏡視野内において微小物体を確実かつ迅速に把持することができるマイクロマニュピュレータを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、微小物体を2本の把持指で把持するハンドリング機構を備えたマイクロマニュピュレータにおいて、前記ハンドリング機構は、微小物体に接触するエンドエフェクタを有し不動の固定指と、微小物体に接触するエンドエフェクタを有し可動の可動指と、前記可動指を可動させるアクチュエータと、を有し、前記アクチュエータの駆動により、前記可動指のエンドエフェクタの先端が前記固定指のエンドエフェクタの先端に近接して、微小物体を把持することを特徴とする。
【0010】
本発明では、固定指のエンドエフェクタを微小物体に接触させた後、アクチュエータを駆動することにより、可動指のエンドエフェクタの先端が固定指のエンドエフェクタの先端に近接して、固定指のエンドエフェクタの先端と可動指のエンドエフェクタの先端とで微小物体を把持することができる。従って、本発明のマイクロマニュピュレータによれば、アクチュエータやクラッチ機構等の付加機構も不要で、把持動作中に微小物体に対するエンドエフェクタの位置を再調整することもなく、顕微鏡視野内において微小物体を確実かつ迅速に把持することができる。
【0011】
本発明において、可動指が支点軸を中心に回動可能であり、可動指がアクチュエータの駆動により回動することで、可動指のエンドエフェクタの先端が固定指のエンドエフェクタの先端に近接して、微小物体を把持するように構成してもよい。また、固定指のエンドエフェクタの先端に可動指のエンドエフェクタの先端が接触可能に構成してもよい。固定指及び可動指のエンドエフェクタが、それぞれ、固定指及び可動指への固定箇所と先端との間であって先端側に、径がテーパ状に縮径した縮径部を有することが好ましい。すなわち、固定指及び可動指のエンドエフェクタは、顕微鏡視野下での作業のため、顕微鏡の焦点深度内に微小物体と固定指及び可動指のエンドエフェクタとを捉えるために、エンドエフェクタの径を微小物体とほぼ同じレベルにする必要がある。すると、エンドエフェクタの剛性が小さくなり、例えば、細胞等の微小物体を溶液中で操作(把持)する必要がある場合に、液体の粘性抵抗で撓んでしまう、という問題が生じる。固定指及び可動指のエンドエフェクタに、固定箇所と先端との間であって先端側に縮径部を形成することにより、先端を微小物体と同程度の寸法レベルに保ちつつ、剛性を確保することができる。
【0012】
また、微小物体との接触面積を増やし微小物体を確実に保持するためには、固定指及び可動指のエンドエフェクタの少なくとも一方は、先端の断面が楕円形状となるように斜めに切断された切断面を有することが好ましい。しかしながら、例えば、球状の微小物体、特に、硬球を把持する場合には、微小物体とエンドエフェクタの先端の切断面との接触が点接触となるため、把持ベクトルに傾きがあると、微小物体がはじけ飛んでしまう、という問題がある。このため、固定指及び可動指のエンドエフェクタの先端の切断面の少なくとも一方に、窪み又は穴が形成されていれば、窪み又は穴による切断面の稜線上の複数の点が微小物体(例えば、硬球)と接触し、微小物体をより確実に把持することができる。このとき、切断面の少なくとも一方に形成された窪み又は穴の口径が、微小物体の直径より小さいことが望ましい。
【0013】
更に、ハンドリング機構が、固定指及び可動指のエンドエフェクタの先端の切断面同士が互いに接触するように調整するための調整機構を有するようにすれば、従来技術のように、材質を限定したり、高精度加工をしたりすることなく、エンドエフェクタの先端の切断面同士の位置合わせを行うことができる。このとき、固定指及び可動指のエンドエフェクタの少なくとも一方の先端に設けられた切断面が、固定指及び可動指のエンドエフェクタの先端が微小物体を把持する方向において、他のエンドエフェクタの先端と対向するように調整可能なことが好ましい。更に、固定指及び可動指のエンドエフェクタの先端を中心としてハンドリング機構を回動させ、微小物体に対する固定指及び可動指のエンドエフェクタの姿勢方向を変更する姿勢変更機構を備えるようにすれば、微小物体に対する固定指及び可動指のエンドエフェクタの姿勢方向を変更可能なため、微小物体の把持をより確実かつ迅速に行うことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、固定指のエンドエフェクタを微小物体に接触させた後、アクチュエータを駆動することにより、可動指のエンドエフェクタの先端が固定指のエンドエフェクタの先端に近接して、固定指のエンドエフェクタの先端と可動指のエンドエフェクタの先端とで微小物体を把持することができるため、アクチュエータやクラッチ機構等の付加機構も不要で、把持動作中に微小物体に対するエンドエフェクタの位置を再調整することもなく、顕微鏡視野内において微小物体を確実かつ迅速に把持することができる、という効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明に係るマイクロマニュピュレータを、細胞やマイクロ部品等の微小物体を取り扱うための微小物体ハンドリングシステムに適用した実施の形態について説明する。
【0016】
(構成)
図1に示すように、本実施形態の微小物体ハンドリングシステム200は、定盤1に架台4を介して固定され微小物体を取り扱うためのマイクロマニュピュレータ100と、定盤1に固定されマイクロマニュピュレータ100により取り扱われる微小物体を載置するためのステージ3と、支柱が定盤1に固定されCCDカメラ5が装着された顕微鏡2と、パーソナルコンピュータ(以下、PCと略称する。)6と、PC6のスレーブ(奴隷)コンピュータとしてマイクロマニュピュレータ100を制御する、プログラマブル・ロジック・コントローラ(以下、PLCと略称する。)等を内蔵したコントロールボックス8と、を備えている。
【0017】
PC6には、コントロールボックス8との入出力ケーブル、液晶表示装置等のモニタ7への出力ケーブル及びCCDカメラ5からの入力ケーブルが接続されている。コントロールボックス8は、マイクロマニュピュレータ100と接続ケーブル8aで接続されていると共に、ジョイスティックや十字ボタン等を有しコントロールボックス8のPLCに命令を与えるためのコントローラ(入力装置)9に接続されている。従って、微小物体ハンドリングシステム200のオペレータは、顕微鏡2の接眼レンズから直接、又は、モニタ7を介してステージ3に載置された微小物体10を目視することができる。
【0018】
コントロールボックス8に内蔵されたPLCは、CPU、ROM、RAMの他に、D/Aコンバータ、A/Dコンバータ等を有して構成されており、ROMに格納されたプログラム及びプログラムデータに従って、PC6から基本動作命令を受信すると共に、PC6にイーサネット(Ethernet、登録商標)を介してエンコーダ等で検出したデータや種々のアクチュエータのステータスを送信し、更に、コントローラ9からの入力された命令を各アクチュエータ制御信号に変換して接続ケーブル8aを介してマイクロマニュピュレータ100に送信する。
【0019】
図2及び図3に示すように、マイクロマニュピュレータ100は、大別して、把持指(後述する固定指505、可動指507)を有し微小物体を取り扱う(把持する)ハンドリング機構としてのハンドリング部104と、ハンドリング部104をX、Y方向に移動させるXY駆動部101と、ハンドリング部104の把持指の先端部(後述するエンドエフェクタ505a、507aの先端部)を中心としてハンドリング部104を回動させステージ3に載置された微小物体に対するハンドリング部104の把持指の先端部の姿勢方向を変更するθz駆動部102と、ハンドリング部104をZ方向に移動させるZ駆動部103とからなる。
【0020】
<XY駆動部101>
マイクロマニュピュレータ100は、上述した架台4に固定される基台201を有している。基台201には、ハンドリング部104を、それぞれ、X、Y方向に駆動するための駆動源となるX方向アクチュエータ202と、Y方向アクチュエータ203とが互いに交差する方向に固定されている。
【0021】
X方向アクチュエータ202は、エンコーダを有し正逆転可能なステッピングモータ202aと、ステッピングモータ202aの出力軸であってエンコーダの反対側に形成されたボールネジ202bに係合するスライダ202cと、スライダ202cが摺動可能な直進ガイドレール(不図示)と、を有する直動アクチュエータであり、Y方向アクチュエータ203も同様に、エンコーダを有し正逆転可能なステッピングモータ203aと、ステッピングモータ203aの出力軸であってエンコーダの反対側に形成されたボールネジ203bに係合するスライダ203cと、スライダ203cが摺動可能な直進ガイドレール(不図示)と、を有している。
【0022】
X方向アクチュエータ202のスライダ202c、Y方向アクチュエータ203のスライダ203cは、パンタグラフ機構204のX方向入力節(リンク)204a、Y方向入力節(リンク)204bにそれぞれ固定されている。このため、X方向アクチュエータ202及びY方向アクチュエータ203はパンタグラフ機構204にX方向及びY方向の直動変位を与えることができる。
【0023】
図4に示すように、パンタグラフ機構204は、上述したX方向入力節204a、Y方向入力節204bの他に、X方向アクチュエータ202及びY方向アクチュエータ203からそれぞれ入力されたX方向及びY方向の直動変位を合成、拡大してXY方向出力節(リンク)204jに出力するための節(リンク)204c〜204i及び回転対偶204k〜204sを有している。なお、Y方向入力節204bと節204dとを接続する回転対偶204k、及び、X方向入力節204aと節204c、204eとを接続する回転対偶204p、X方向入力節204aと節204hとを接続する回転対偶204qはそれぞれ固定されている。
【0024】
図5に示すように、パンタグラフ機構204は、X方向アクチュエータ202及びY方向アクチュエータ203と干渉しないように、これらのアクチュエータより上方に配置されている。XY方向出力節204jは平板状のベース205aに固定されている。ベース205aは3本の脚部205b〜205dを有している。脚部205b〜205dの先端部には、任意方向に回転可能な球体がはめ込まれている(図2も参照)。脚部205b〜205dにはめ込まれた球体は、ベース205より広く略水平面を有する受け面206に接触している。受け面206は、X方向アクチュエータ202を跨ぐように4本の脚部で上述した基台201に固定されている。また、XY方向出力節204jの略中央には、θz駆動部102を嵌合、固定するための2つの嵌合穴が形成されている。
【0025】
<θz駆動部102>
図5に示すように、θz駆動部102はベース301を有している。ベース301からは2本の連結部材306が下方にロッド状に延出されている。これらの連結部材306は、XY方向出力節204jに形成された嵌合穴に嵌合され圧入されている。このため、XY駆動部101とθz駆動部102とは連結されている。また、ベース301には、円弧状のガイドレール302が固定されており、ガイドレール302にはこのガイドレール302上を摺動可能なスライダ303が係合されている。ガイドレール302の円弧中心は、ハンドリング部104の把持指の先端部(エンドエフェクタ505a、507aの先端部の中点)に一致している。
【0026】
スライダ303には、正逆転可能なステッピングモータ304と、ステッピングモータ304からの回転駆動を減速する図示しない第1の減速歯車列からなるギアボックス305とが固定されている。更に、ベース301にはZ駆動部103(ハンドリング部104)側にガイドレール302と同心円状に円弧状壁面301aが形成されており、ベース301の円弧状壁面301aの上側には円弧状壁面301aよりZ駆動部103(ハンドリング部104)側に突出した内歯歯車301bが一体形成されている。また、ギアボックス305の第1の減速歯車列の出力端にはピニオン(不図示)が配設されており、このピニオンが内歯歯車301bに噛合している。このため、第1の減速歯車列で減速されたステッピングモータ304からの回転駆動力(回転トルク)は、第1の減速歯車列のピニオンを経て内歯歯車301bに伝達される。
【0027】
<Z駆動部103>
Z駆動部103は、正逆転可能なステッピングモータ401と、ステッピングモータ401からの回転駆動力を減速する図示しない第2の減速歯車列からなるギアボックス402と、ボールネジ403a、ナット403b、スライダ403c、ガイドレール403d及びホルダ403eを有するZ方向直動機構403とで構成されている。
【0028】
ギアボックス402はθz駆動部102のギアボックス305と一体に構成されており、ステッピングモータ401はギアボックス402に固定されている。ギアボックス402の第2の減速歯車列の出力端には下方に延出されたボールネジ403aが配設されている。ボールネジ403aの先端部側は、ギアボックス402に固定されたホルダ403eに回転可能に軸支されている。ボールネジ403aにはナット403bが螺合しており、ナット403bにはスライダ403cが固定されている。また、ギアボックス402からはボールネジ403aと平行するように直進ガイドレール403dが配設されており、ガイドレール403dの先端部側はホルダ403eに固定されている。スライダ403cはガイドレール403上を摺動可能にガイドレール403に当接している。
【0029】
<ハンドリング部104>
図2に示すように、Z方向直動機構403のナット403bには、ハンドリング部104側の先端部に貫通穴が形成された連結部材404が固定されている。ハンドリング部104は、ベース501の下部に形成された2つの貫通穴(図6も参照)と連結部材404のハンドリング部104側の先端部に形成された貫通穴とを貫通する連結ピン508により、Z駆動部103に固定されている。
【0030】
図6に示すように、ハンドリング部104は、微小物体を把持するために、固定指505と可動指507との2本の把持指を有している。固定指505、可動指507には、それぞれ微小物体と接触するエンドエフェクタ505a、507aが取り付けられている。
【0031】
ハンドリング部104のベース501にはメータ等のアクチュエータ502がブラケット503を伴って固定されており、プレート504には固定指505が組み付けられている(固定されている)。プレート504は、固定指505が組み付けられた状態で、ベース501と一定の隙間を形成してベース501に固定されている。この隙間には長板状のレバー506が介在している。レバー506の先端部一側(Z駆動部103の反対側)には可動指507が固定されており、先端部側中央には上下両方向に支点軸506aが突設されている。上述した隙間は、この支点軸506aがプレート504の軸受504aとベース501の軸受501aとに軸支されることにより画定されている。
【0032】
レバー506の後端には略U字状のスリット(切り欠き)506bが形成されている。スリット506bにはアクチュエータ502の出力ピン502aが係合している。このため、アクチュエータ502を駆動すると、レバー506が支点軸506bを中心として回動することで、固定指505のエンドエフェクタ505aに可動指507のエンドエフェクタ507aが近接ないし離間し、微小物体の把持ないし把持した微小物体の開放を行うことができる。
【0033】
図7(A)に示すように、プレート504にはボス504bが植設されている。ボス504bはレバー509の一側(Z駆動部103側)に形成された丸穴509aを貫通しており、レバー509はボス504bに軸支されている。レバー509の他側にはスリーブ509cが一体形成されており、スリーブ509cに固定指505のエンドエフェクタ505aを固定するためのネジ部505bが保持されている。
【0034】
また、レバー509の略中央部には、矩形状のスリット509bが形成されており、プレート504に軸支された偏心ピン513がこのスリット509bに係合している。レバー509は、図示しない穴を介してネジ510によりプレート504に固定されている。固定指505のネジ部505bは2個のナット511、512で構成されており、これらのナット511、512はレバー509のスリーブ509cを挟むように配設されている。
【0035】
一方、図7(B)に示すように、レバー506に一体形成されたスリーブ506cには、可動指507のネジ部507bが挿入されており、ナット514でエンドエフェクタ507aが固定されている。
【0036】
図8に示すように、エンドエフェクタ505a、507aは、それぞれ、先端とネジ部505b、507b(固定箇所)との間であって先端側に、径がテーパ状に縮径した縮径部505aa、507aaを有している。また、エンドエフェクタ505a、507aは、それぞれの先端の断面が楕円形状となるように斜めに切断された切断面(先端把持面)505ab、507ab(507abは不図示)を有しており、切断面505ab、507ab同士が接触するように構成されている。更に、これらの切断面505ab、507abには、穴(窪み)505ac、507ac(507acは不図示)が形成されている。なお、図8では、エンドエフェクタ505a、507aが切断面505ab、507abに対して面対称形状のため、説明の便宜上、エンドエフェクタ507aの先端部を捨象している。
【0037】
ハンドリング部104は、エンドエフェクタ505a、507aの先端の切断面505ab、507ab同士が互いに接触するように調整するための調整機構を有している。以下、この調整機構により、切断面505ab、507abを接触させる手順について説明する。
【0038】
図7(B)に示すように、レバー506のスリーブ506cに可動指507のネジ部507bを挿入し、切断面507abを整えるように回転させた後、エンドエフェクタ507aをナット514で固定する。次に、図7(A)に示すように、レバー509のスリーブ509cに予めナット511をネジ部505bに組み付けた固定指505のネジ部505bに挿入する。
【0039】
次いで、切断面505abの向きと挿入方向位置とを、切断面507abに合わせるために回転させ、ナット511で調整した後、もう一つのナット512で固定する。更に、ネジ510を緩めて、偏心ピン513を用いてレバー509を、ボス504bを支点に回転させて位置を調整した後、再びネジ510で固定することで、エンドエフェクタ505a、507aの切断面505ab、507ab同士を接触させることができる。
【0040】
従って、ハンドリング部104の調整機構は、固定指505及び可動指507のエンドエフェクタ505a、507aが微小物体を把持する方向に対し直交する2方向と、切断面505ab、507abの向きとで、エンドエフェクタ507aの切断面507abに対しエンドエフェクタ505の切断面505abが接触するように調整可能である。
【0041】
(動作)
次に、本実施形態の微小物体ハンドリングシステム200の動作について、マイクロマニュピュレータ100の動作を中心として、マイクロマニュピュレータ100の機能毎に説明する。
【0042】
まず、オペレータは、図1に示すように、ステージ3に載置された微小物体10、ハンドリング部104のエンドエフェクタ505a、507aを、顕微鏡2、カメラ5及びPC6を介して、モニタ7の画面内に捉える。この状態で、オペレータは、コントローラ9からコントロールボックス9のPLCを介してマイクロマニュピュレータ100に、X方向、Y方向、θz方向(エンドエフェクタ505a、507aの先端部を中心とするハンドリング部104の回動方向、すなわち、エンドエフェクタ505a、507aの姿勢方向)、Z方向と、把持指に対するハンドリング(開閉)の指令を与えて、微小物体10とエンドエフェクタ505a、507aとの相対関係を制御する。
【0043】
<X方向駆動>
図2〜図4に示すように、X方向アクチュエータ202に作動信号が与えられると、ステッピングモータ202aは、ボールネジ202bを回転させ、スライダ202cを介して、パンタグラフ機構204のX方向入力節204aを図3の水平方向(X方向)に移動させる。ここで、回転対偶204kは上述したように固定されているので、回転対偶204pの変位は、回転対偶204k〜204sの位置をそれぞれの末尾のアルファベットをとってk〜sとしたときに、△klp:△kmoの相似比に拡大されて回転対偶204oに出力され、回転対偶204oを変位(移動)させる。なお、節204g、204h、204iは、節204c〜204iの位置をそれぞれ末尾のアルファベットをとってc〜iとしたときに、□pqrn及び□osrnの二つの平行四辺形ループを加えるように付加されたリンクで、XY方向出力節204jの姿勢を一定に保つ機能を有している。
【0044】
<Y方向駆動>
Y方向アクチュエータ203に作動信号が与えられると、ステッピングモータ203aは、ボールネジ203bを回転させ、スライダ203cを介して、パンタグラフ機構204のY方向入力節204bを図3の鉛直方向(Y方向)に移動させる。ここで、回転対偶204pは上述したように固定されているので、回転対偶204kの変位は、上記同様、回転対偶204k〜204sの位置をそれぞれの末尾のアルファベットをとってk〜sとしたときに、△klp:△onpの相似比に拡大されて回転対偶204oに出力され、回転対偶204oを変位(移動)させる。
【0045】
<XY方向駆動>
上述したようにX方向、Y方向の入力によりパンタグラフ機構204のXY方向出力節204jが変位(移動)すると、XY方向出力節204jには連結部材306を介してθz駆動部102、Z駆動部103及びハンドリング部104の重量がZ方向に作用するが、ベース205の脚部205b〜205dを介して受け面206がその負荷を受ける。脚部205b〜205dの先端部には任意方向に回転可能な球体がはめ込まれているため、球体が受け面206を転がり移動することで、パンタグラフ機構204にZ方向の負荷を掛けず、低摩擦負荷の移動を可能にしている。換言すれば、XY方向出力節204jに固定された(XY方向出力節204jと一体の)ベース205と脚部205b〜205dとでXYスライダが構成されている。
【0046】
<θz方向駆動>
図5に示すように、ステッピングモータ304に駆動信号が与えられると、ギアボックス305の第1の減速歯車列の出力端に配されたピニオン(不図示)にトルクが伝達されて、スライダ303が、ベース301の内歯歯車301bに係合して遊星歯車状にガイドレール302に沿って回動動作する。ギアボックス305とスライダ303とは一体で、ギアボックス305とギアボックス402は一体となっており、このギアボックス402にホルダ403e(Z方向直動機構403)が固定されており、かつ、Z方向直動機構403のナット403bに連結部材404が固定され連結ピン508でハンドリング部104がZ方向駆動機構403(Z駆動部103)に固定されているので、ステッピングモータ304が駆動すると、θz駆動部102の回動動作に伴って、Z駆動部103及びハンドリング部104は一体に、ハンドリング部104の把持指の先端部(エンドエフェクタ505a、507aの先端部)を中心に回動動作をする。
【0047】
<Z方向駆動>
図5に示すように、ステッピングモータ401に駆動信号が与えられると、ステッピングモータ401はギアボックス402に配設された第2の減速歯車列を介してボールネジ403aを回転し、ナット403bと一体のハンドリング部104をガイドレール403dに沿って図5の上下方向(Z方向)移動させる。
【0048】
<把持駆動>
以上のように、XY駆動部101、θz駆動部102、Z駆動部103を駆動させて、微小物体10の近傍にエンドエフェクタ505a、507aを位置させる(図9(A)参照)。次に、XY駆動部101、θz駆動部102、Z駆動部103を駆動させて、固定指505のエンドエフェクタ505aの先端の切断面505abを微小物体10に接触させ、アクチュエータ502に駆動信号を与えて把持動作を開始する(図9(B)参照)。
【0049】
図6に示すように、アクチュエータ502にエンドエフェクタ505a、507を近接させる駆動信号が与えられると、出力ピン502aが回動変位し、レバー506のスリット506bに変位が伝達され、レバー506は支点軸506aを中心に回動する。これにより、可動指507のエンドエフェクタ507aは、固定指505のエンドエフェクタ505aに対し近接する動きをし、微小物体10はエンドエフェクタ505a、507aの穴(窪み)505ac、507acが形成された切断面505ab、507abで把持される。なお、アクチュエータ502にエンドエフェクタ505a、507を離間させる駆動信号が与えられると、微小物体10を把持したエンドエフェクタ505a、507aは離間し、把持した微小物体10の開放を行うことができる。
【0050】
(作用等)
次に、本実施形態の微小物体ハンドリングシステム200の作用等について、マイクロマニュピュレータ100のハンドリング部104の作用等を中心に説明する。
【0051】
本実施形態の微小物体ハンドリングシステム200に適用されたマイクロマニュピュレータ100では、固定指505のエンドエフェクタ505aを微小物体10に接触させた後、アクチュエータ502を駆動することにより、可動指507が支点軸506aを中心に回動し、可動指507のエンドエフェクタ507aの切断面507abが固定指505のエンドエフェクタ505aの切断面505abに近接して、切断面505abと切断面507abとで微小物体10を把持する。従って、マイクロマニュピュレータ100によれば、位相差や時間差を補正するアクチュエータやクラッチ機構等の付加機構も不要で、把持動作中に微小物体に対するエンドエフェクタの位置を再調整することもなく、顕微鏡視野内において微小物体を確実かつ迅速に把持することができる。また、マイクロマニュピュレータ100では、固定指505及び可動指507のエンドエフェクタ505a、507aの先端(間の中点)を中心としてハンドリング部104を回動させるθz駆動部102を備えているので、微小物体に対する固定指505及び可動指507のエンドエフェクタ505a、507aの姿勢方向を変更可能なため、微小物体の把持をより確実かつ迅速に行うことができる。
【0052】
また、マイクロマニュピュレータ100では、固定指505及び可動指507のエンドエフェクタ505a、507aの先端側に縮径部505aa、507aaを有している。このため、エンドエフェクタ505a、507aの先端の切断面505ab、507abを微小物体10と同程度の寸法レベルとすることができ、顕微鏡2の焦点深度が浅くてもエンドエフェクタ505a、507aの切断面505ab、507abを含む先端部及び微小物体10を捉える(合焦させる)ことができる(図1参照)と共に、エンドエフェクタ505a、507aの剛性を確保することができる。
【0053】
更に、マイクロマニュピュレータ100では、固定指505及び可動指507のエンドエフェクタ505a、507aは、先端に切断面505ab、507abを有しており、これらの切断面505ab、507ab同士が接触可能に構成されている。このため、微小物体10との接触面積が増加し、切断面505ab、507abで微小物体10を確実に保持することができる。更に、切断面505ab、507abには、穴(窪み)505ac、507acが形成されている。このため、穴(窪み)505ac、507acによる切断面505ab、507abの稜線上の複数の点が微小物体10と接触し、微小物体をより確実に把持することができ、例えば、球状の微小物体、特に、硬球を把持する場合でも、微小物体の把持を確実に行うことができる。
【0054】
また、マイクロマニュピュレータ100は、固定指505及び可動指507のエンドエフェクタ505a、507aの先端の切断面505ab、507ab同士が互いに接触するように調整するための調整機構を有しており、この調整機構は、エンドエフェクタ505a、507aの先端の切断面505ab、507abが微小物体10を把持する方向に対し直交する2方向と、切断面505ab、507abの向きとで、エンドエフェクタ507aの切断面507abに対しエンドエフェクタ505の切断面505abが接触するように調整可能である。このため、従来技術のように、材質を限定したり、高精度加工をしたりすることなく、エンドエフェクタの先端の切断面同士の位置合わせを行うことができる。更に、穴(窪み)505ac、507acの口径は微小物体10の直径より小さいことが望ましい。マイクロマニュピュレータ100では、このような調整機構を有しているため、複数のエンドエフェクタ505a、507aを予め準備しておき、微小物体10の寸法レベルに応じて、最適なエンドエフェクタを使用することができる。
【0055】
なお、本実施形態では、ハンドリング部104をX、Y、Z方向及びθz方向に移動させる例を示したが、本発明はこれに限定されず、ステージ3を3次元方向やエンドエフェクタ505a、507aの姿勢に対応する方向に移動させる微小物体ハンドリングシステムにも適用可能である。また、本実施形態では、アクチュエータ502により支点軸506aを中心に可動指507を回動させる例を示したが、本発明はこれに制限されず、例えば、エンドエフェクタ505a、507a間の距離が狭まるように(エンドエフェクタ507aの先端がエンドエフェクタ505aの先端に近接するように)可動指507をスライドさせるように構成してもよい。
【0056】
また、本実施形態では、エンドエフェクタ505a、507aの先端の切断面505ab、507abの双方に穴(窪み)505ac、507acを形成した例を示したが、一方のみに形成しても同様の効果(把持の確実性)を得ることができる。更に、本実施形態では、ハンドリング部104の調整機構として、固定指505及び可動指507のエンドエフェクタ505a、507aが微小物体を把持する方向に対し直交する2方向と、切断面505ab、507abの向きとで、エンドエフェクタ507aの切断面507abに対しエンドエフェクタ505aの切断面505abが接触するように調整する例を示したが、エンドエフェクタ505aの切断面505abに対しエンドエフェクタ507aの切断面507abが接触するように調整するように構成してもよく、また、両者を互いに調整できるように構成してもよい。また、切断面505ab、507ab同士は面接触するように構成されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は顕微鏡視野内において微小物体を確実かつ迅速に把持することができるマイクロマニュピュレータを提供するため、マイクロマニュピュレータの製造、販売に寄与するので、産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明が適用可能な実施形態の微小物体ハンドリングシステムの概略構成図である。
【図2】実施形態の微小物体ハンドリングシステムのマイクロマニュピュレータの正面図である。
【図3】マイクロマニュピュレータの平面図である。
【図4】θz駆動部を組み付ける前のマイクロマニュピュレータのXY駆動部の平面図である。
【図5】マイクロマニュピュレータの一部を分解して示した斜視図である。
【図6】マイクロマニュピュレータのハンドリング部の分解斜視図である。
【図7】ハンドリング部の外観斜視図であり、(A)は固定指側からみた外観斜視図、(B)は可動指側からみた外観斜視図である。
【図8】ハンドリング部の固定指及び可動指のエンドエフェクタを示す一部拡大斜視図である。
【図9】ハンドリング部の固定指及び可動指のエンドエフェクタで微小物体を把持するときの動作を示す説明図である。
【図10】従来の固定指及び可動指のエンドエフェクタで微小物体を把持するときの動作を示す説明図である。
【符号の説明】
【0059】
10 微小物体
100 マイクロマニュピュレータ
102 θz駆動部(姿勢変更機構)
104 ハンドリング部(ハンドリング機構)
502 アクチュエータ
505 固定指
505a エンドエフェクタ
505aa 縮径部
505ab 切断面
505ac 穴(窪み又は穴)
506a 支点軸
507 可動指
507a エンドエフェクタ
507aa 縮径部
507ab 切断面
507ac 穴(窪み又は穴)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小物体を2本の把持指で把持するハンドリング機構を備えたマイクロマニュピュレータにおいて、前記ハンドリング機構は、微小物体に接触するエンドエフェクタを有し不動の固定指と、微小物体に接触するエンドエフェクタを有し可動の可動指と、前記可動指を可動させるアクチュエータと、を有し、前記アクチュエータの駆動により、前記可動指のエンドエフェクタの先端が前記固定指のエンドエフェクタの先端に近接して、微小物体を把持することを特徴とするマイクロマニュピュレータ。
【請求項2】
前記可動指は支点軸を中心に回動可能であり、前記可動指が前記アクチュエータの駆動により回動することで、前記可動指のエンドエフェクタの先端が前記固定指のエンドエフェクタの先端に近接して、微小物体を把持することを特徴とする請求項1に記載のマイクロマニュピュレータ。
【請求項3】
前記固定指のエンドエフェクタの先端に前記可動指のエンドエフェクタの先端が接触可能に構成されたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のマイクロマニュピュレータ。
【請求項4】
前記固定指及び前記可動指のエンドエフェクタは、それぞれ、前記固定指及び前記可動指への固定箇所と先端との間であって前記先端側に、径がテーパ状に縮径した縮径部を有することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のマイクロマニュピュレータ。
【請求項5】
前記固定指及び前記可動指のエンドエフェクタの少なくとも一方は、先端の断面が楕円形状となるように斜めに切断された切断面を有することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のマイクロマニュピュレータ。
【請求項6】
前記固定指及び前記可動指のエンドエフェクタの先端の切断面の少なくとも一方に、窪み又は穴が形成されたことを特徴とする請求項5に記載のマイクロマニュピュレータ。
【請求項7】
前記切断面の少なくとも一方に形成された窪み又は穴の口径が、前記微小物体の直径より小さいことを特徴とする請求項6に記載のマイクロマニュピュレータ。
【請求項8】
前記ハンドリング機構は、前記固定指及び前記可動指のエンドエフェクタの先端の切断面同士が互いに接触可能なように調整するための調整機構を更に有することを特徴とする請求項5乃至請求項7のいずれか1項に記載のマイクロマニュピュレータ。
【請求項9】
前記調整機構は、前記固定指及び前記可動指のエンドエフェクタの少なくとも一方の先端に設けられた切断面が、前記固定指及び前記可動指のエンドエフェクタの先端が微小物体を把持する方向において、他のエンドエフェクタの先端と対向するように調整可能なことを特徴とする請求項8に記載のマイクロマニュピュレータ。
【請求項10】
前記固定指及び前記可動指のエンドエフェクタの先端を中心として前記ハンドリング機構を回動させ、微小物体に対する前記固定指及び前記可動指のエンドエフェクタの姿勢方向を変更する姿勢変更機構を更に備えたことを特徴とする請求項1に記載のマイクロマニュピュレータ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2006−205344(P2006−205344A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−23983(P2005−23983)
【出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【出願人】(000231589)ニスカ株式会社 (568)
【Fターム(参考)】