マイクロリアクタの断熱のための方法及びデバイス
【課題】断熱構造を持つマイクロ流体デバイスを提供する。
【解決手段】半導体基板と、半導体基板内の少なくとも1つのマイクロリアクタ105と、半導体基板内でマイクロリアクタに接続された1つ以上のマイクロ流体チャネル101と、マイクロ流体チャネルを封止するための、半導体基板に接合されたカバー層と、マイクロリアクタ及びマイクロ流体チャネルを包囲する基板貫通トレンチ100とを備えたマイクロ流体デバイス104であって、基板貫通トレンチは空隙であるか、または断熱材料で充填されている、マイクロ流体デバイス
【解決手段】半導体基板と、半導体基板内の少なくとも1つのマイクロリアクタ105と、半導体基板内でマイクロリアクタに接続された1つ以上のマイクロ流体チャネル101と、マイクロ流体チャネルを封止するための、半導体基板に接合されたカバー層と、マイクロリアクタ及びマイクロ流体チャネルを包囲する基板貫通トレンチ100とを備えたマイクロ流体デバイス104であって、基板貫通トレンチは空隙であるか、または断熱材料で充填されている、マイクロ流体デバイス
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロチップ上のマイクロ構造の熱的特性に関する。特に、本発明は、マイクロチップ上のマイクロリアクタの断熱及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ構造化リアクタ又はマイクロチャネルリアクタとも呼ばれるマイクロリアクタは、数mm以下の典型的な横寸法を有する閉じ込め内で化学反応が起こるようにしたデバイスである。マイクロリアクタは、微視的寸法のキャビティである。それらは、ヒータ及び温度計を基に、それらの温度を制御するためのシステムを特徴付ける。また、ヒータ及び温度計は、必要に応じてマイクロリアクタの内部に統合可能である。マイクロリアクタは、従来の規模の反応器に対して、エネルギー効率、反応速度及び収率、安全性、信頼性、拡張性の大きな改善、オンサイト/オンデマンド生産、より細かいプロセス制御並びに試薬の消費の削減を含む利点を提供する。
【0003】
マイクロリアクタは、複数の基板上、好ましくは断熱基板上で製造される。しかし、中には、Si内で製造することが好ましい他の流体コンポーネント又は非流体コンポーネントと一緒に製造する必要があるケースもある。ところが、シリコンは高い熱伝導性を有する材料である。オンチップマイクロリアクタが自立型のマイクロリアクタであるか否か、又は、それらが例えばさまざまなターゲットを並行して分析するためのマイクロリアクタのアレイの一部であるか否かを問わず、マイクロリアクタ内で上昇する温度が近くのコンポーネント又はマイクロリアクタ内に曝されず又は制限されないことが重要である。マイクロリアクタ内で起こる発熱反応は別にして、マイクロリアクタ内で温度を上昇させるための電力を最小化することが望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
マイクロリアクタの温度を上昇させるのに必要な電力を最小化すると共に、近くのコンポーネントの加熱を避けるために、マイクロリアクタの断熱が必要であると結論付けることができる。
【0005】
論文(''Single step cell lysis/PCR detection of Escherichia coli in an independently controllable silicon microreactor'', Sensors and Actuators B 120 (2007) pp.538-544, Cathy Ke et al.)において、温度の均一性、電力消費、加熱速度及び冷却速度のような熱的特性を調査するために設計及びモデル化されたマイクロリアクタが説明されている。マイクロリアクタは、周囲のシリコン基板からの絶縁を提供する、反応キャビティ周囲のエッチングされた断熱チャネルを含む。このチャネルが熱的性能を向上させる。反応キャビティの深さはエッチングされた断熱チャネルの深さに等しく、これにより、基板を通じた寄生熱の散逸の観点から、マイクロリアクタの熱的特性を不充分にする。
【0006】
論文(''Boiling heat transfer in rectangular microchannels with reentrant cavities'', International Journal of Heat and Mass Transfer 48 (2005) pp.4867-4886, Ali Kozar et al.)において、リエントラント型キャビティを有するマイクロチャネルを貫通するフロー内での伝導沸騰熱の伝達実験が説明されている。断熱キャビティは、マイクロ流体チャネルのアレイに隣接するシリコン基板内でエッチングされる。断熱トレンチは、陽極接合の前にウエハの全深さでエッチングされる。断熱トレンチは、マイクロリアクタを弱く支持された状態とするので、マイクロリアクタを断熱するための製造手順は実用的ではない。
【0007】
論文(''Measurements and Modeling of Two-Phase Flow in Microchannels With Nearly Constant Heat Flux Boundary Conditions'', Journal of Microelectromechanical Systems, Vol. 11, No. 1, February 2002, Zhang et al.)において、断熱のために両端のシリコンプレートに取り付けた2cmの長いビームについて説明されている。全深さ(full depth)断熱エッチングは、ウエハをマウントしてウエハをフォトレジストで支持した後で実施されるため、補助的な工程が必要となる。その後、ビームを備えたデバイスチップは、パイレックス(Pyrex:登録商標)に陽極接合される。この陽極接合の場合、支持ウエハを除去してレジストの炭化、又は、使用可能な他種の接着剤の劣化を避ける必要がある。説明したようなデバイスを製造するための方法は、穴あきウエハのハンドリングの問題に直面しているという欠点がある。さらに、説明した方法では、複雑な絶縁トレンチの形状を可能にすると、デバイスの機械的な頑強性が危うくなる。
【0008】
マイクロリアクタのようなマイクロチップ上の断熱デバイスに対する明確な必要性があると結論付けることができる。
【0009】
本発明の実施形態の目的は、断熱されたデバイス、例えばマイクロチップ上のマイクロリアクタ、及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的は、本発明に係る方法及びデバイスによって達成される。
【0011】
第1の態様では、本発明は、
−半導体基板、例えばシリコン基板、例として生体適合性の半導体基板と、
−前記半導体基板内の少なくとも1つのマイクロリアクタと、
−前記少なくとも1つのマイクロリアクタに接続された、前記半導体基板内の1つ以上のマイクロ流体チャネルと、
−1つ以上のマイクロ流体チャネルを封止するための、半導体基板に接合されたカバー層と、
−前記少なくとも1つのマイクロリアクタ及び1つ以上のマイクロ流体チャネルを包囲する、少なくとも1つの基板貫通トレンチとを備えたマイクロ流体デバイスを提供する。当該トレンチは、基板の全厚さに渡ってすべての基板材料を局所的に除去することで作成可能である。トレンチは、できるだけ完全に、例えばマイクロ流体チャネルがマイクロリアクタに接続できるようなスペースのみを残して、少なくとも1つのマイクロリアクタを包囲することができる。
【0012】
マイクロリアクタ及びマイクロ流体チャネルが熱伝導性半導体基板に設けられるが、基板貫通トレンチの存在に起因して、マイクロリアクタ及び1つ以上のマイクロ流体チャネルが、他のコンポーネントを運搬する基板の残りの部分から断熱されることは、本発明の実施形態の利点である。
【0013】
本発明の実施形態では、1つ以上のマイクロ流体チャネルは、マイクロリアクタの周囲に部分的に、又は複数回巻回されている。これにより、断熱性が向上する。なぜなら、マイクロリアクタの断熱は、マイクロ流体チャネルの長さに依存するからである。マイクロリアクタの周りに巻回されたチャネルは、同じ長さの直線的なチャネルより優れた断熱/消費面積比を与える。
【0014】
本発明の実施形態に係るマイクロ流体デバイスは、前記少なくとも1つのマイクロリアクタを加熱又は冷却するための手段をさらに備える。
【0015】
本発明の実施形態によれば、基板貫通トレンチは、空隙でもよい。依然として、空気は優れた断熱材であることが知られている。本発明の代替の実施形態によれば、基板貫通トレンチは、断熱材料で充填されてもよい。
【0016】
本発明の実施形態に係るマイクロ流体デバイスでは、マイクロ流体チャネルを封止するために、封止カバー層、例えばパイレックスウエハを半導体基板に陽極接合してもよい。代替として、カバー層は、例えば半導体基板に接着接合又は溶融接合してもよい。
【0017】
別の態様において、本発明は、本発明の第1の態様の実施形態に係るマイクロ流体デバイスのアレイを備えたマイクロ流体システムを提供する。本発明の実施形態に係るマイクロ流体システムは、複数のマイクロリアクタの温度を制御するための温度制御システムをさらに備えてもよい。
【0018】
本発明の実施形態に係るマイクロ流体システムは、1つ以上のバルブ、ポンプ及び/又は検出器をさらに備えてもよい。
【0019】
さらに別の態様において、本発明は、マイクロ流体デバイスを製造するための方法を提供する。当該方法は、
−おもて面及び裏面を有する半導体基板、例えばシリコン基板を準備する工程と、
−前記半導体基板内に少なくとも1つのマイクロリアクタを設ける工程と、
−前記半導体基板のおもて面に、前記少なくとも1つのマイクロリアクタに接続された1つ以上のマイクロ流体チャネルを設ける工程と、
−半導体基板のおもて面へのカバー層の接合、例えばパイレックス層の陽極接合によって前記マイクロ流体チャネルを封止する工程と、
−その後、前記少なくとも1つのマイクロリアクタ及び1つ以上のマイクロ流体チャネルを略完全に包囲する少なくとも1つの基板貫通トレンチを形成するために半導体の裏面から少なくとも部分的なエッチングを施す工程とを含む。
【0020】
カバー層によってマイクロ流体チャネルを封止してはじめて基板貫通トレンチを設けることにより、更なる加工中に扱うデバイスの機械的な頑強性が増加し、したがって、かかるデバイスを標準的な自動機械で扱うことが可能になる。
【0021】
本発明の実施形態では、少なくとも1つの基板貫通トレンチを形成するために半導体の裏面から少なくとも部分的なエッチングを施す工程は、基板の裏面から完全にトレンチを形成することを含んでもよい。代替の実施形態では、少なくとも1つの基板貫通トレンチを形成するために半導体の裏面から少なくとも部分的なエッチングを施す工程は、基板のおもて面からトレンチを部分的に形成することと、基板の裏面からトレンチを部分的に形成することとを含んでもよい。この実施形態では、トレンチを設けるおもて面から半導体基板内に第1構造を設け、そして、カバー層の接合後に、半導体基板の裏面から基板貫通トレンチの残りの部分を形成する。
【0022】
マイクロ流体チャネルを設ける工程は、マイクロリアクタの周囲に部分的に又は複数回巻回されたマイクロ流体チャネルを設けることを含んでもよい。
【0023】
本発明の実施形態に係る方法は、前記マイクロリアクタを加熱又は冷却するための手段を設ける工程をさらに含んでもよい。
【0024】
本発明の実施形態に係る方法では、半導体の裏面から基板貫通トレンチを設ける工程は、半導体基板を研削することと、裏面リソグラフィを実施することと、前記基板貫通トレンチをパターニング及びエッチングする工程とを含んでもよい。
【0025】
デバイスの充分な頑強性を維持しつつ、これらの断熱されたマイクロリアクタからマイクロチップ上の他のコンポーネントに向けての熱散逸が最小限に抑制されることは、本発明の実施形態の利点である。
【0026】
本発明の特定の且つ好ましい態様は、添付する独立請求項及び従属請求項において詳説する。従属請求項からの特徴は、独立請求項の特徴及び他の従属請求項の特徴と、適切に且つ単に請求項に明記されただけでないものとして組み合わせてもよい。
【0027】
本発明、及び、先行技術から達成される利点を要約する目的で、本発明の特定の目的及び利点を本明細書で説明してきた。もちろん、本発明のいずれかの特定の実施形態に従って、必ずしもこのような目的又は利点のすべてを達成することができるわけではないと理解すべきである。したがって、例えば当業者は、必ずしも本明細書で教示又は示唆される他の目的又は利点を達成することなく、本明細書で教示される1つ或は複数の利点を達成又は最適化する方法で具現又は実行可能であると認識するであろう、
【0028】
本発明の上記の及び他の態様は、後述する実施形態から明らかであり、また、後述する実施形態を参照して明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0029】
本発明は、添付の図面を参照しながら、例として、さらに以下で説明する。
【0030】
【図1】本発明の実施形態に係る、DNA増幅のためのラボオンチップ実装を示す。
【図2】本発明の第1の実施形態に係るマイクロ流体デバイスの3D図を示す。
【図3】図2のマイクロ流体デバイスの上面図を示す。
【図4】本発明の第2の実施形態に係るマイクロ流体デバイスの3D図を示す。
【図5】図4のマイクロ流体デバイスの上面図を示す。
【図6】本発明の第3の実施形態に係るマイクロ流体デバイスの上面図を示す。
【図7】本発明の第3の実施形態に係るマイクロ流体デバイスの断面図を示す。
【図8】本発明の第3の実施形態に係るマイクロ流体デバイスの3D図を示す。
【図9】本発明の第1の方法の実施形態に係る、断熱構造を作成するためのさまざまな加工工程を示す。
【図10】本発明の第2の方法の実施形態に係る、断熱構造を作成するためのさまざまな加工工程を示す。
【図11】本発明の実施形態により絶縁したマイクロリアクタ内の温度変化のグラフを示す。
【図12】本発明の実施形態に係るマイクロリアクタ内とマイクロチップ内との温度差を示す。
【0031】
図面は概略的なものであり、限定的でない。図面において、いくつかのエレメントのサイズは、説明目的のため誇張し、また、スケールどおり描いていないことがある。寸法及び相対寸法は、本発明の実施化のための実際の縮小と必ずしも対応していない。
【0032】
請求項での任意の参照符号は、技術的範囲を限定するものとして解釈するべきではない。
【0033】
異なる図面において、同一の参照符号は同一又は類似のエレメントを指す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明は、特定の実施形態について特定の図面を参照しながら説明するが、本発明はこれらに限定されず、請求項によってのみ限定される。
【0035】
さらに、説明及び請求項での用語「第1」「第2」などは、類似のエレメントを区別するための使用しており、必ずしもシーケンスを時間的、空間的に、序列で、又は他のどの様式で表したものでもない。こうして用いた用語は、好適な状況下で交換可能であり、本発明の実施形態は、本明細書で説明したり図示したものとは別の順番で動作可能であると理解すべきである。
【0036】
さらに、説明及び請求項での用語「上(top)」「下(under)」等は、説明目的で使用しており、必ずしも相対的な位置を記述するためのものでない。こうして用いた用語は、好適な状況下で交換可能であって、本明細書で説明した実施形態が、本明細書で説明又は図示した以外の他の向きで動作可能であると理解すべきである。
【0037】
請求項で使用する用語「備える、有する、含む(comprising)」は、それ以降に列挙された手段に限定されるものと解釈すべきでなく、他のエレメント又は工程を除外していない。記述した特徴、整数、工程又はコンポーネントの存在を、参照したように特定するよう解釈する必要があるが、1つ以上の他の特徴、整数、工程又はコンポーネント、或いはこれらのグループの存在又は追加を除外していない。したがって、「手段A及びBを備えるデバイス」という表現の範囲は、コンポーネントA及びBだけからなるデバイスに限定すべきでない。本発明に関して、A及びBが、関連するデバイスのコンポーネントであることを意味するに過ぎない。
【0038】
この明細書を通じて「一実施形態(one embodiment又はan embodiment)」が意味するのは、当該実施形態と関連して説明される特定の特徴、構造又は特性は、本発明の少なくとも一実施形態に含まれるということである。したがって、この明細書を通じてさまざまな場所で現れるフレーズ「一実施形態」は、必ずしもすべてが同じ実施形態を参照するわけではないが、参照してもよい。さらに、特定の特徴、構造又は特性は、この開示から当業者にとって明らかなように、1以上の実施形態において、好適な方法で組み合わせることができる。
【0039】
同様に、例示的な特定の実施形態の説明において、本発明の種々の特徴は、開示を効率化し、1以上のさまざまな発明の態様を理解することを助ける目的で、時には単一の実施形態、図面、又はその説明の中に一緒にグループ化されることを認識するべきである。しかし、この開示の方法は、請求項に記載の発明が、各請求項に明確に記載されたものより多くの特徴を必要とするという意図を反映していると解釈すべきではない。むしろ、以下の請求項が示すように、発明の態様は、先に開示された単一の実施形態のすべての特徴より少なくなる。したがって、詳細な説明に続く請求の範囲は、これにより詳細な説明中に明確に包含され、各請求項は、この発明の別々の実施形態としてそれ自身で成立する。
【0040】
さらに、本明細書で説明したいくつかの実施形態は、他の実施形態に含まれるいくつかの特徴は含むが、他の特徴は含まない。一方、当業者が理解することになるように、異なる実施形態の特徴の組み合わせは、本発明の範囲内であることを意味し、異なる実施形態を形成する。例えば、以下の請求の範囲において、請求項記載の実施形態のいずれもが、任意の組み合わせで使用可能である。
【0041】
本発明の特定の特徴又は態様を説明するときの特定の用語の使用は、当該用語が本明細書で再定義されて、用語が関連する本発明の特徴又は態様のいずれかを含むように制限されることを意味すると解釈するべきでないことに留意するべきである。
【0042】
本明細書でされる説明において、多くの具体的詳細が明記される。しかしながら、本発明の実施形態はこれらの具体的詳細なしに実践してもよいことが理解される。他の例において、周知の方法、構造及び技術は、この説明の理解を不明瞭にしないために、詳細には示さない。
【0043】
A.はじめに
一塩基多型(SNP)が、1つのヌクレオチドのみのDNA配列での差である。ヒトにおいて、SNPは、薬剤反応及び疾病素因にて差を生じる可能性がある。したがって、費用効率が高く有効なSNPの検出は、オーダーメイド医療において重要な役割を果たす可能性がある。高速で、高感度で、特異性の高いSNPの検出のために、ラブオンチップ(LoC)システムを使用することができる。かかるラブオンチップシステム299の代表的な例及びその機能を図1に示している。ラブオンチップシステム299は、反応チャンバ300、及び、マイクロ流体作用を及ぼすための他のコンポーネント、包括的ではないが例えば、血液のような検査対象の液体用のリザーバ307、試薬用のリザーバ308、廃棄物用のリザーバ309、リザーバ307,308からマイクロ流体チャネルに向けて液体を汲み上げるためのポンプ306、例えば検査対象の液体及び試薬を混合するためのミキサ304、マイクロ流体システム内の異なる場所にあるバルブ305、オンチップの高性能液体クロマトグラフィのための単純なシステムを共に形成する移動相303及び分離カラム302、検査対象の液体の特徴を検出するための検出器301を備える。図1に見られるように、本発明の実施形態によれば、全深さ断熱トレンチ310は、熱伝導を目的とした他のコンポーネントからマイクロ反応チャンバ300を分離している。これは、例えばPCRを行う必要がある位置のみで加熱し、他の場所で反応を誘発せず、又は、例えば検出器のような温度感受性の高いコンポーネントに損傷を与えない、という観点から、チップの残りの部分からのマイクロ反応チャンバ300の断熱が望ましいからである。一方、マイクロ反応チャンバ300がチップの残りの部分から断熱されている場合、反応チャンバを加熱するために必要とされる電力は小さくなり、加熱時間は速くなる。欠点は、断熱に起因して冷却時間が遅くなり、これにより冷却手段を設ける必要がある場合があることである。
【0044】
本発明の実施形態では、図1の上部に示すように、各マイクロリアクタ300を断熱トレンチによって個々に覆ってもよい。代替として、図1の下側に示すように、複数のマイクロリアクタ300を共通の断熱トレンチによって他のコンポーネントから分離してもよい。単一チップ上に、両実施形態の組み合わせを実装してもよい。即ち、少なくとも1つのマイクロリアクタ300を断熱トレンチ310によって個々に覆い、同時に、チップ上の別の場所で、複数のマイクロリアクタ300を共通の断熱トレンチ310によって覆うことができる。
【0045】
図1のラボオンチップシステムは、同じチップ上で製造される半導体ベースの、例えばシリコンベースのコンポーネントで主に構成されるところ、バルブ、ポンプ及び検出器は、別々に製造して後で組み立てることができる。シリコンは、その生体適合性の観点から、半導体基板材料として特に有利である。さらに、Siを使用することは、周知の特性を有する材料であるため有利であり、その加工のための技術は充分に進んでいる。本発明の実施形態では、半導体ベースの、例えばSiベースのコンポーネントの進んだ製造方法が導入され、また、チップの重要なエレメントの特性が与えられる。即ち、例えばDNA増幅を実施可能なマイクロリアクタである。
【0046】
B.本発明の実施形態に係る断熱構造
図1は、多様なSNP検出に使用可能なラブオンチップシステムを概略的に示す。検査対象の流体、例えば血液、及び試薬を適切なリザーバ307,308内に置く。2つのポンプ306は、ミキサ304を介して、それらをDNAの増幅(PCR)を行うことができるマイクロリアクタ300内に押し込む。例として、明確に定義された長さの、SNPが存在する可能性がある配列を包含する断片の数Nを増幅する。そして、流体は、例えば1μm〜2μmの所定の柱間距離を有する例えばシリコンのような半導体の柱からなるフィルタ302に送られる。ここで、N個のDNA成分は、高性能の液体クロマトグラフィの原理によって空間的に分離され、SNPの存在の検出専用の検出器301にそれぞれ送られる。
【0047】
本発明の実施形態の目的は、マイクロリアクタ300からマイクロチップ上の周囲のコンポーネントへの熱散逸を低減させることである。
【0048】
図1に示す実施形態では、DNA増幅が行われるマイクロリアクタ300から熱が散逸する。散逸する熱は、マイクロチップ上の周囲のコンポーネントに影響を与えることがあり、又は、例えば同じチップ上でマイクロリアクタのアレイを使用する場合には、他のマイクロリアクタ300に影響を与えることがある。
【0049】
本発明の第1の態様では、加熱可能なマイクロ構造であり、機械的に頑強なデバイスの構造を維持しつつ、マイクロチップ上の他のコンポーネントからマイクロリアクタを断熱するマイクロ流体デバイスが提案されている。本発明は、マイクロリアクタを略包囲する基板貫通トレンチを作成する技術を提示している。「略包囲する」が意味するのは、トレンチがマイクロリアクタの外周のうち可能な限り、例えば少なくとも50%、例えば少なくとも75%、例えば少なくとも80%、又は少なくとも90%を覆う、ということである。理想的な実施形態であれば、基板貫通トレンチは、マイクロリアクタを完全に包囲するであろう。しかし、これはマイクロリアクタへのアクセスを、例えば流体供給のため、又は流体排出のためにマイクロ流体チャネルが当該マイクロリアクタに接続される位置に設ける必要がある場合には不可能である。このような場合、基板貫通トレンチは、例えば1つ以上のマイクロ流体チャネルによって、マイクロリアクタに接続される位置を除き、加熱可能なマイクロリアクタを略完全に包囲する。
【0050】
マイクロリアクタの断熱特性を最適化するために、本発明の実施形態に従って、半導体基板の全深さでトレンチを作成する。提示している発明は、基板貫通トレンチを製造するためのキャリアウエハを必要としない。これに対し、それは、絶縁トレンチの全深さエッチングを施す前にマイクロ流体チャネルを封止するために、半導体基板、例えばSiの、カバー層、例えばパイレックスウエハへの陽極接合を提供する。これは、機械的な頑強性のために好都合である。またそれは、より複雑な断熱トレンチ形状を可能にし、さらに、シリコン技術で使用される大量生産ツールに特有の自動化したウエハハンドリングシステムに適合する。
【0051】
図2及び図3は、本発明の第1の実施形態を示している。図2は、本発明の実施形態に係るマイクロ流体デバイス104の3Dバージョンを示し、図3は、同じマイクロ流体デバイス104の上面図を示す。マイクロ流体デバイス104は、半導体基板、例えばシリコン基板内で作成され、マイクロリアクタ105と、そのマイクロリアクタ105に接続された少なくとも1つのマイクロ流体チャネル101とを備える。マイクロリアクタ105は、キャビティ102と、マイクロリアクタ105を形成する半導体基板壁103、例えばシリコン壁とを有する。また、マイクロ流体チャネル101は、基板壁103に閉じ込められる。全深さトレンチ100、即ち半導体基板を完全に貫通するトレンチは、マイクロリアクタ105を包囲する。この全深さトレンチ100は、断熱ギャップ(空気)という目的を達成する。全深さトレンチ100は、確実に、マイクロリアクタ105が同じ基板上に搭載されたマイクロチップの残りの部分とその周囲のコンポーネントに熱的に接続されないようにする。マイクロリアクタ105から出入りする液体を輸送するために、チャネル101がマイクロリアクタ105のマイクロキャビティ102に接続される。チャネル101は、全深さトレンチ100によってマイクロチップ及びその周囲のコンポーネントから分離している。
【0052】
本発明の実施形態の目的は、マイクロリアクタ105の熱散逸をさらに低減させることである。熱伝導をさらに低減させるために、本発明の実施形態に従って、マイクロリアクタ105の周囲に、チャネル101を少なくとも部分的に、即ち部分的に、完全に又は複数回巻回可能である。
【0053】
図4及び図5は、本発明のこのような実施形態の一実施例を示す。図4は、マイクロリアクタ105の周囲に部分的に巻回されたマイクロ流体チャネル101を有するマイクロ流体デバイス104の3Dバージョンを示し、図5は、同じマイクロ流体デバイス104の上面図を示す。本発明のこのような実施形態では、チャネル101は少なくとも部分的にマイクロリアクタ105の周囲に巻回されており、熱伝導をさらに低減させる。マイクロリアクタ105は、全深さトレンチ100、即ち半導体基板を完全に貫通し、断熱ギャップという目的を達成するトレンチ、によってチャネル101から分離している。断熱ギャップは、チャネル101及びマイクロリアクタ105が、確実に、物理的、したがって熱的に熱伝導性固体材料を介して接続されないようにした全深さトレンチである。また、チャネル101は、全深さトレンチ100によってマイクロチップの他のコンポーネントから分離しており、その全深さトレンチはまた、断熱ギャップという目的を達成する。したがって、本発明の実施形態によれば、マイクロリアクタ105及び少なくとも1つのマイクロ流体チャネル101の両方が、基板貫通トレンチに包囲されている。図4及び図5で示した実施形態では、それは、マイクロリアクタ105及びマイクロ流体チャネル101の両方を包囲する単一の連続的なトレンチ100である。
【0054】
図6及び図7は、本発明の別の実施形態を示す。それらはそれぞれ、2つのマイクロ流体チャネル101がマイクロリアクタ105に接続されたマイクロ流体デバイス104のための断熱ソリューションの、概略の上面図及び断面図を示す。それぞれのチャネル101は、マイクロリアクタ105の周囲に部分的に巻回されている。マイクロリアクタは、そのマイクロリアクタ105に出入りする液体を輸送するための2つのチャネル101に取り付けられている。示した実施形態では、チャネル101は、更なる熱伝導の低減のために、マイクロリアクタの周囲に、それぞれ部分的に巻回されている。
【0055】
図7は、2つのチャネル101がマイクロリアクタ105に接続されたマイクロリアクタ105の断面図を示す。マイクロリアクタ105及び2つのチャネル101は、全深さトレンチ100によって、互いに、そしてマイクロチップ上の他の周囲のコンポーネントから絶縁されている。マイクロ流体チャネル101及びキャビティ102のようなマイクロ流体コンポーネントは、上部カバー106、例えばパイレックスカバー又はショット(Schott)社のガラス33のカバー、又は他の材料のカバー、例えば陽極接合に適したガラス、によって封止される。パイレックスは、生体適合性の観点から、上部カバーを形成する材料として特に好都合である。図6は、断熱されたマイクロリアクタ105の上面図を示す。図から、チャネル101が、マイクロリアクタ105の周囲にそれぞれ部分的に巻回されていることは明らかである。即ち、チャネル101がマイクロリアクタ105の全周を描かないことは明らかである。
【0056】
本発明の実施形態では、図示していないが、マイクロリアクタ105は、全深さトレンチ100によって互いに絶縁され、そのマイクロリアクタ105の周囲に完全に又は複数回巻回されている1つ以上のチャネルに接続されている。
【0057】
本発明の特定の実施形態では、例えば図1に示したように、複数のマイクロリアクタ300が同じマイクロチップ上に位置しており、そのマイクロチップでは、マイクロリアクタ300及びそれらを接続するマイクロ流体チャネル101が、全深さエッチング断熱トレンチ310を介して互いに分離している。全深さトレンチが提供する断熱が、アレイ構成を使用する場合には、隣接する反応キャビティとは無関係に、絶縁デバイスの熱質量を低下させ、したがって急速な加熱速度を可能にし、また、個々のマイクロリアクタがプリセットの熱サイクル条件に制御されるのを可能にすることは、この実施形態の利点である。熱を失う能力、したがって冷却能力が低下するが、これは更なる冷却コンポーネントを追加することによって解決することができる。
【0058】
代替として、複数のマイクロリアクタ300を単一の断熱トレンチ310の内部に一緒に集合させ、複数のマイクロリアクタ300とチップの残りの部分との間に断熱を付与することができる。全深さトレンチが付与する断熱が、周囲の基板に存在する他のマイクロ流体コンポーネントの温度を同時に実質的に変化させることなく、複数のマイクロリアクタ300の加熱及び/又は冷却を可能にすることは、この実施形態の利点である。
【0059】
本発明の特定の実施形態では、マイクロリアクタ105,300は、そのマイクロリアクタを加熱及び/又は冷却するための手段をさらに備える。そのマイクロリアクタ105,300を加熱及び/又は冷却するための手段は、キャビティ102の底部に設けることができる。その加熱及び/又は冷却するための手段は、保護材料、例えばシリコン窒化物の薄い層によって生物学的材料から保護することができる。加熱のための手段は、マイクロヒータ、例えば白金製のマイクロヒータでもよい。ヒータは、抵抗器の形態で設けることができる。冷却するための手段は、熱電冷却器でもよい。
【0060】
本発明の特定の実施形態では、温度制御システムを使用して、マイクロリアクタの個々の加熱手段又は冷却手段を制御可能である。本発明の実施形態では、温度制御システムは、ターゲット温度及び実際のキャビティの温度に応じてマイクロリアクタのキャビティに可変電力を伝送する。それはまた、熱電冷却器での電流を制御して必要なときに冷却を付与することができる。
【0061】
図8は、図6の上面図及び図7の断面図で説明したマイクロ流体デバイス104の3D図を示す。
【0062】
次のセクションでは、かかる絶縁マイクロリアクタ105の製造について詳細に説明する。
【0063】
C.製造
第2の態様において、本発明は、少なくとも1つの断熱マイクロリアクタ105及び1つ以上のマイクロ流体チャネル101を備えたデバイスを製造するための方法を提供する。
【0064】
製造は、3つの主要部分、
1)半導体基板において、少なくとも1つのマイクロリアクタ及び1つ以上のマイクロ流体チャネルを有する流体構造を、例えばエッチングによって設ける工程と、
2)カバー層、例えばパイレックスウエハの、半導体基板のおもて面への接合、例えば陽極接合、好適な接合材を使用した接着接合、又は溶融接合のいずれか、によってマイクロ流体構造を封止する工程と、
3)基板の裏面から基板貫通トレンチを設ける工程であって、そのトレンチは、少なくとも1つのマイクロリアクタ及び1つ以上のマイクロ流体チャネルを完全に包囲するようにしたトレンチを設ける工程とを含む。
【0065】
図9は、本発明に係るプロセスフローの第1の実施形態の概略を示す。
a)半導体基板900を準備する。半導体基板900は、おもて面及び裏面を有する。半導体基板900のおもて面の上部では、ハードマスク層901、例えば酸化物層が形成される。例として、所定厚さ、例えば1000nmを有する酸化物層を堆積してもよい。深い構造をエッチングする必要があるときには、厚いレジスト層を設ける必要があるので、単にレジスト層を使用するよりも、かかるハードマスク層が好ましいが、これは小さいCD構造をエッチングする必要がある場合には不都合である。
b)マイクロ流体構造、及び、特にマイクロリアクタのキャビティ102、並びに、必要に応じて他のマイクロ構造をハードマスク901で規定する。レジスト材料902をハードマスク層901の上部に設け、例えば塗布し、好適にパターニングする。
c)パターニングしたレジスト層902を使用して、マイクロ流体構造をエッチングするためのマスクを規定するようにハードマスク層901をエッチングする。
d)マイクロ流体構造、例えばキャビティ102及びマイクロ流体チャネル101は、半導体基板900内でエッチングする。
e)レジスト材料902及びハードマスク材料901を除去し、微細マイクロ流体構造を有する半導体基板900を作成する。
f)マイクロ流体構造を封止するために、半導体基板を、カバー層903、例えばパイレックスのカバー層に、接合、例えば陽極接合する。
g)必要に応じて、半導体基板900を裏面から研削してもよい。
h)半導体基板900の裏面に、レジスト材料層904を設け、例えば塗布し、また、基板貫通トレンチ100を規定するためのリソグラフィマスクを形成するために好適にパターニングする。
i)パターニングしたレジスト層904を使用して、半導体基板900の裏面から基板貫通トレンチをエッチングする。
【0066】
図10は、本発明に係るプロセスフローの第2の実施形態の概略を示す。
a)半導体基板900を準備する。半導体基板900は、おもて面及び裏面を有する。半導体基板900のおもて面の上部では、ハードマスク層901、例えば酸化物層が形成される。例として、所定厚さ、例えば1000nmを有する酸化物層を堆積してもよい。
b)マイクロ流体構造、及び、特にマイクロリアクタのキャビティ102、並びに、必要に応じて他のマイクロ構造は、ハードマスク901、及びトレンチ100の位置で規定される。レジスト材料902をハードマスク層901の上部に設け、例えば塗布し、好適にパターニングする。
c)パターニングしたレジスト層902を使用して、マイクロ流体構造及びトレンチ100の一部をエッチングするためのマスクを規定するようにハードマスク層901をエッチングする。
d)マイクロ流体構造、例えばキャビティ102及びマイクロ流体チャネル101、並びにトレンチ100の一部は、半導体基板900内でエッチングする。このとき、トレンチ100は、限られた深さ、例えばマイクロ流体構造が設けられるのと同じ深さまでしか設けられない。
e)レジスト材料902及びハードマスク材料901を除去し、微細マイクロ流体構造及びトレンチの一部を有する半導体基板900を作成する。
f)マイクロ流体構造を封止するために、半導体基板を、カバー層903、例えばパイレックスのカバー層に、接合、例えば陽極接合する。
g)必要に応じて、半導体基板900を裏面から研削してもよい。
h)半導体基板900の裏面に、レジスト材料の層904を設け、例えば塗布し、また、基板貫通トレンチ100の第2の部分を規定するためのリソグラフィマスクを形成するために好適にパターニングする。
i)パターニングしたレジスト層904を使用して、半導体基板900の裏面から基板貫通トレンチ100の第2の部分をエッチングする。
【0067】
基板貫通トレンチ100を完全に設ける前に、したがって基板貫通トレンチ100のエッチングを開始する前に、又は基板貫通トレンチ100の部分的なエッチングの後に、半導体基板900とカバーウエハ903との間の陽極接合を実施されることは、本発明の方法の実施形態の利点である。これは、機械的強度したがってデバイスの頑強性を増大させるだけでなく、標準のハンドリング装置を使用することを可能にする。半導体基板を通じて完全なホールが設けられた場合、真空チャックに固定することは不可能になり、ウエハローディング/アンローディングのためのロボットアームの使用は、簡単にウエハの破損につながる。
【0068】
本発明の特定に実施形態では、例えば半導体基板のエッチングにより出入開口部107を設けてもよい。これは、プロセスフローには示していないが、かかる出入開口部107は図6に示している。
【0069】
D.特性
本発明の文脈では、マイクロリアクタ105の熱的特性に焦点が合わせられる。一実施形態の概略を図6〜図8に示す。
【0070】
特定の実施形態では、マイクロリアクタ105は、深さ約300μmの3μlキャビティ102からなる。チップの残りの部分からの反応チャンバの高断熱が非常に重要であることは明らかだが、半導体基板材料、例えばシリコンの高い熱伝導率により、技術的に実現することが困難である。この問題は、本発明の実施形態に従って、マイクロリアクタ105の周囲に基板貫通絶縁トレンチ100を設けることによって解決されている。絶縁トレンチ100を作成するためのエッチング工程は、マイクロ流体チャネル101へのマイクロ流体ポートを開口するために同時に利用可能である。
【0071】
陽極接合の後、トレンチ100のエッチングが少なくとも部分的に実施されるという事実のために、半導体材料、例えばシリコンをトレンチ100から完全に除去することが可能である。断熱は、マイクロリアクタ105の入口及び出口のための長い断熱マイクロチャネル101を使用して、さらに議論されている。
【0072】
本発明の実施形態では、使用する半導体の面積を低下させるために、本発明の実施形態に従って、マイクロチャネル101がマイクロリアクタ105の周囲に巻回されている。設計の有効性は、実験結果によって確認されている。マイクロリアクタ105の温度が100℃に近づいた場合、チップの周囲の部分の温度は周囲温度より数度高いのみである。
【0073】
マイクロリアクタ105及びマイクロ流体チャネル101の周囲の全深さトレンチ100の存在に起因して、マイクロリアクタでの高速温度サイクルが確保されることは、本発明の実施形態の利点である。これは、例えば図11に示したような温度サイクルが、本発明の実施形態に従って絶縁されたマイクロリアクタ内で何度も繰り返されるのを可能にする。
【0074】
そして、トレンチ100による断熱に起因して、実際に加熱されるマイクロリアクタ105を含む半導体基板のその部分の熱質量は減少し(トレンチ100により、実質的にマイクロリアクタ105のみが加熱され、周囲の基板は実質的に加熱されない)、これにより高速温度サイクルが可能になる。本発明の実施形態では、複数のマイクロリアクタ105のそれぞれと結びついて、好適な温度制御システムが利用される。したがって、本発明の実施形態により、高度な熱ソリューションが開発され、68℃から98℃までの1.5秒未満の実験的加熱時間、また、98℃から57℃までの2.5秒の冷却時間(図11参照)が実証されている。本発明の実施形態に従って、高速のマイクロリアクタの温度サイクルが、熱ソリューションの種々のコンポーネントを慎重に最適化した後に可能であることが、このグラフからわかる。
【0075】
図12は、本発明の実施形態に係る断熱ソリューションの実験結果を示す。マイクロリアクタ(PCR)の温度が上昇するとき、マイクロチップ(シリコンチップ)の温度上昇はマイクロリアクタの温度上昇に比例しない、ということに留意すべきである。これは、全深さトレンチによる断熱が優れたソリューションであることを証明している。
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロチップ上のマイクロ構造の熱的特性に関する。特に、本発明は、マイクロチップ上のマイクロリアクタの断熱及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ構造化リアクタ又はマイクロチャネルリアクタとも呼ばれるマイクロリアクタは、数mm以下の典型的な横寸法を有する閉じ込め内で化学反応が起こるようにしたデバイスである。マイクロリアクタは、微視的寸法のキャビティである。それらは、ヒータ及び温度計を基に、それらの温度を制御するためのシステムを特徴付ける。また、ヒータ及び温度計は、必要に応じてマイクロリアクタの内部に統合可能である。マイクロリアクタは、従来の規模の反応器に対して、エネルギー効率、反応速度及び収率、安全性、信頼性、拡張性の大きな改善、オンサイト/オンデマンド生産、より細かいプロセス制御並びに試薬の消費の削減を含む利点を提供する。
【0003】
マイクロリアクタは、複数の基板上、好ましくは断熱基板上で製造される。しかし、中には、Si内で製造することが好ましい他の流体コンポーネント又は非流体コンポーネントと一緒に製造する必要があるケースもある。ところが、シリコンは高い熱伝導性を有する材料である。オンチップマイクロリアクタが自立型のマイクロリアクタであるか否か、又は、それらが例えばさまざまなターゲットを並行して分析するためのマイクロリアクタのアレイの一部であるか否かを問わず、マイクロリアクタ内で上昇する温度が近くのコンポーネント又はマイクロリアクタ内に曝されず又は制限されないことが重要である。マイクロリアクタ内で起こる発熱反応は別にして、マイクロリアクタ内で温度を上昇させるための電力を最小化することが望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
マイクロリアクタの温度を上昇させるのに必要な電力を最小化すると共に、近くのコンポーネントの加熱を避けるために、マイクロリアクタの断熱が必要であると結論付けることができる。
【0005】
論文(''Single step cell lysis/PCR detection of Escherichia coli in an independently controllable silicon microreactor'', Sensors and Actuators B 120 (2007) pp.538-544, Cathy Ke et al.)において、温度の均一性、電力消費、加熱速度及び冷却速度のような熱的特性を調査するために設計及びモデル化されたマイクロリアクタが説明されている。マイクロリアクタは、周囲のシリコン基板からの絶縁を提供する、反応キャビティ周囲のエッチングされた断熱チャネルを含む。このチャネルが熱的性能を向上させる。反応キャビティの深さはエッチングされた断熱チャネルの深さに等しく、これにより、基板を通じた寄生熱の散逸の観点から、マイクロリアクタの熱的特性を不充分にする。
【0006】
論文(''Boiling heat transfer in rectangular microchannels with reentrant cavities'', International Journal of Heat and Mass Transfer 48 (2005) pp.4867-4886, Ali Kozar et al.)において、リエントラント型キャビティを有するマイクロチャネルを貫通するフロー内での伝導沸騰熱の伝達実験が説明されている。断熱キャビティは、マイクロ流体チャネルのアレイに隣接するシリコン基板内でエッチングされる。断熱トレンチは、陽極接合の前にウエハの全深さでエッチングされる。断熱トレンチは、マイクロリアクタを弱く支持された状態とするので、マイクロリアクタを断熱するための製造手順は実用的ではない。
【0007】
論文(''Measurements and Modeling of Two-Phase Flow in Microchannels With Nearly Constant Heat Flux Boundary Conditions'', Journal of Microelectromechanical Systems, Vol. 11, No. 1, February 2002, Zhang et al.)において、断熱のために両端のシリコンプレートに取り付けた2cmの長いビームについて説明されている。全深さ(full depth)断熱エッチングは、ウエハをマウントしてウエハをフォトレジストで支持した後で実施されるため、補助的な工程が必要となる。その後、ビームを備えたデバイスチップは、パイレックス(Pyrex:登録商標)に陽極接合される。この陽極接合の場合、支持ウエハを除去してレジストの炭化、又は、使用可能な他種の接着剤の劣化を避ける必要がある。説明したようなデバイスを製造するための方法は、穴あきウエハのハンドリングの問題に直面しているという欠点がある。さらに、説明した方法では、複雑な絶縁トレンチの形状を可能にすると、デバイスの機械的な頑強性が危うくなる。
【0008】
マイクロリアクタのようなマイクロチップ上の断熱デバイスに対する明確な必要性があると結論付けることができる。
【0009】
本発明の実施形態の目的は、断熱されたデバイス、例えばマイクロチップ上のマイクロリアクタ、及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的は、本発明に係る方法及びデバイスによって達成される。
【0011】
第1の態様では、本発明は、
−半導体基板、例えばシリコン基板、例として生体適合性の半導体基板と、
−前記半導体基板内の少なくとも1つのマイクロリアクタと、
−前記少なくとも1つのマイクロリアクタに接続された、前記半導体基板内の1つ以上のマイクロ流体チャネルと、
−1つ以上のマイクロ流体チャネルを封止するための、半導体基板に接合されたカバー層と、
−前記少なくとも1つのマイクロリアクタ及び1つ以上のマイクロ流体チャネルを包囲する、少なくとも1つの基板貫通トレンチとを備えたマイクロ流体デバイスを提供する。当該トレンチは、基板の全厚さに渡ってすべての基板材料を局所的に除去することで作成可能である。トレンチは、できるだけ完全に、例えばマイクロ流体チャネルがマイクロリアクタに接続できるようなスペースのみを残して、少なくとも1つのマイクロリアクタを包囲することができる。
【0012】
マイクロリアクタ及びマイクロ流体チャネルが熱伝導性半導体基板に設けられるが、基板貫通トレンチの存在に起因して、マイクロリアクタ及び1つ以上のマイクロ流体チャネルが、他のコンポーネントを運搬する基板の残りの部分から断熱されることは、本発明の実施形態の利点である。
【0013】
本発明の実施形態では、1つ以上のマイクロ流体チャネルは、マイクロリアクタの周囲に部分的に、又は複数回巻回されている。これにより、断熱性が向上する。なぜなら、マイクロリアクタの断熱は、マイクロ流体チャネルの長さに依存するからである。マイクロリアクタの周りに巻回されたチャネルは、同じ長さの直線的なチャネルより優れた断熱/消費面積比を与える。
【0014】
本発明の実施形態に係るマイクロ流体デバイスは、前記少なくとも1つのマイクロリアクタを加熱又は冷却するための手段をさらに備える。
【0015】
本発明の実施形態によれば、基板貫通トレンチは、空隙でもよい。依然として、空気は優れた断熱材であることが知られている。本発明の代替の実施形態によれば、基板貫通トレンチは、断熱材料で充填されてもよい。
【0016】
本発明の実施形態に係るマイクロ流体デバイスでは、マイクロ流体チャネルを封止するために、封止カバー層、例えばパイレックスウエハを半導体基板に陽極接合してもよい。代替として、カバー層は、例えば半導体基板に接着接合又は溶融接合してもよい。
【0017】
別の態様において、本発明は、本発明の第1の態様の実施形態に係るマイクロ流体デバイスのアレイを備えたマイクロ流体システムを提供する。本発明の実施形態に係るマイクロ流体システムは、複数のマイクロリアクタの温度を制御するための温度制御システムをさらに備えてもよい。
【0018】
本発明の実施形態に係るマイクロ流体システムは、1つ以上のバルブ、ポンプ及び/又は検出器をさらに備えてもよい。
【0019】
さらに別の態様において、本発明は、マイクロ流体デバイスを製造するための方法を提供する。当該方法は、
−おもて面及び裏面を有する半導体基板、例えばシリコン基板を準備する工程と、
−前記半導体基板内に少なくとも1つのマイクロリアクタを設ける工程と、
−前記半導体基板のおもて面に、前記少なくとも1つのマイクロリアクタに接続された1つ以上のマイクロ流体チャネルを設ける工程と、
−半導体基板のおもて面へのカバー層の接合、例えばパイレックス層の陽極接合によって前記マイクロ流体チャネルを封止する工程と、
−その後、前記少なくとも1つのマイクロリアクタ及び1つ以上のマイクロ流体チャネルを略完全に包囲する少なくとも1つの基板貫通トレンチを形成するために半導体の裏面から少なくとも部分的なエッチングを施す工程とを含む。
【0020】
カバー層によってマイクロ流体チャネルを封止してはじめて基板貫通トレンチを設けることにより、更なる加工中に扱うデバイスの機械的な頑強性が増加し、したがって、かかるデバイスを標準的な自動機械で扱うことが可能になる。
【0021】
本発明の実施形態では、少なくとも1つの基板貫通トレンチを形成するために半導体の裏面から少なくとも部分的なエッチングを施す工程は、基板の裏面から完全にトレンチを形成することを含んでもよい。代替の実施形態では、少なくとも1つの基板貫通トレンチを形成するために半導体の裏面から少なくとも部分的なエッチングを施す工程は、基板のおもて面からトレンチを部分的に形成することと、基板の裏面からトレンチを部分的に形成することとを含んでもよい。この実施形態では、トレンチを設けるおもて面から半導体基板内に第1構造を設け、そして、カバー層の接合後に、半導体基板の裏面から基板貫通トレンチの残りの部分を形成する。
【0022】
マイクロ流体チャネルを設ける工程は、マイクロリアクタの周囲に部分的に又は複数回巻回されたマイクロ流体チャネルを設けることを含んでもよい。
【0023】
本発明の実施形態に係る方法は、前記マイクロリアクタを加熱又は冷却するための手段を設ける工程をさらに含んでもよい。
【0024】
本発明の実施形態に係る方法では、半導体の裏面から基板貫通トレンチを設ける工程は、半導体基板を研削することと、裏面リソグラフィを実施することと、前記基板貫通トレンチをパターニング及びエッチングする工程とを含んでもよい。
【0025】
デバイスの充分な頑強性を維持しつつ、これらの断熱されたマイクロリアクタからマイクロチップ上の他のコンポーネントに向けての熱散逸が最小限に抑制されることは、本発明の実施形態の利点である。
【0026】
本発明の特定の且つ好ましい態様は、添付する独立請求項及び従属請求項において詳説する。従属請求項からの特徴は、独立請求項の特徴及び他の従属請求項の特徴と、適切に且つ単に請求項に明記されただけでないものとして組み合わせてもよい。
【0027】
本発明、及び、先行技術から達成される利点を要約する目的で、本発明の特定の目的及び利点を本明細書で説明してきた。もちろん、本発明のいずれかの特定の実施形態に従って、必ずしもこのような目的又は利点のすべてを達成することができるわけではないと理解すべきである。したがって、例えば当業者は、必ずしも本明細書で教示又は示唆される他の目的又は利点を達成することなく、本明細書で教示される1つ或は複数の利点を達成又は最適化する方法で具現又は実行可能であると認識するであろう、
【0028】
本発明の上記の及び他の態様は、後述する実施形態から明らかであり、また、後述する実施形態を参照して明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0029】
本発明は、添付の図面を参照しながら、例として、さらに以下で説明する。
【0030】
【図1】本発明の実施形態に係る、DNA増幅のためのラボオンチップ実装を示す。
【図2】本発明の第1の実施形態に係るマイクロ流体デバイスの3D図を示す。
【図3】図2のマイクロ流体デバイスの上面図を示す。
【図4】本発明の第2の実施形態に係るマイクロ流体デバイスの3D図を示す。
【図5】図4のマイクロ流体デバイスの上面図を示す。
【図6】本発明の第3の実施形態に係るマイクロ流体デバイスの上面図を示す。
【図7】本発明の第3の実施形態に係るマイクロ流体デバイスの断面図を示す。
【図8】本発明の第3の実施形態に係るマイクロ流体デバイスの3D図を示す。
【図9】本発明の第1の方法の実施形態に係る、断熱構造を作成するためのさまざまな加工工程を示す。
【図10】本発明の第2の方法の実施形態に係る、断熱構造を作成するためのさまざまな加工工程を示す。
【図11】本発明の実施形態により絶縁したマイクロリアクタ内の温度変化のグラフを示す。
【図12】本発明の実施形態に係るマイクロリアクタ内とマイクロチップ内との温度差を示す。
【0031】
図面は概略的なものであり、限定的でない。図面において、いくつかのエレメントのサイズは、説明目的のため誇張し、また、スケールどおり描いていないことがある。寸法及び相対寸法は、本発明の実施化のための実際の縮小と必ずしも対応していない。
【0032】
請求項での任意の参照符号は、技術的範囲を限定するものとして解釈するべきではない。
【0033】
異なる図面において、同一の参照符号は同一又は類似のエレメントを指す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明は、特定の実施形態について特定の図面を参照しながら説明するが、本発明はこれらに限定されず、請求項によってのみ限定される。
【0035】
さらに、説明及び請求項での用語「第1」「第2」などは、類似のエレメントを区別するための使用しており、必ずしもシーケンスを時間的、空間的に、序列で、又は他のどの様式で表したものでもない。こうして用いた用語は、好適な状況下で交換可能であり、本発明の実施形態は、本明細書で説明したり図示したものとは別の順番で動作可能であると理解すべきである。
【0036】
さらに、説明及び請求項での用語「上(top)」「下(under)」等は、説明目的で使用しており、必ずしも相対的な位置を記述するためのものでない。こうして用いた用語は、好適な状況下で交換可能であって、本明細書で説明した実施形態が、本明細書で説明又は図示した以外の他の向きで動作可能であると理解すべきである。
【0037】
請求項で使用する用語「備える、有する、含む(comprising)」は、それ以降に列挙された手段に限定されるものと解釈すべきでなく、他のエレメント又は工程を除外していない。記述した特徴、整数、工程又はコンポーネントの存在を、参照したように特定するよう解釈する必要があるが、1つ以上の他の特徴、整数、工程又はコンポーネント、或いはこれらのグループの存在又は追加を除外していない。したがって、「手段A及びBを備えるデバイス」という表現の範囲は、コンポーネントA及びBだけからなるデバイスに限定すべきでない。本発明に関して、A及びBが、関連するデバイスのコンポーネントであることを意味するに過ぎない。
【0038】
この明細書を通じて「一実施形態(one embodiment又はan embodiment)」が意味するのは、当該実施形態と関連して説明される特定の特徴、構造又は特性は、本発明の少なくとも一実施形態に含まれるということである。したがって、この明細書を通じてさまざまな場所で現れるフレーズ「一実施形態」は、必ずしもすべてが同じ実施形態を参照するわけではないが、参照してもよい。さらに、特定の特徴、構造又は特性は、この開示から当業者にとって明らかなように、1以上の実施形態において、好適な方法で組み合わせることができる。
【0039】
同様に、例示的な特定の実施形態の説明において、本発明の種々の特徴は、開示を効率化し、1以上のさまざまな発明の態様を理解することを助ける目的で、時には単一の実施形態、図面、又はその説明の中に一緒にグループ化されることを認識するべきである。しかし、この開示の方法は、請求項に記載の発明が、各請求項に明確に記載されたものより多くの特徴を必要とするという意図を反映していると解釈すべきではない。むしろ、以下の請求項が示すように、発明の態様は、先に開示された単一の実施形態のすべての特徴より少なくなる。したがって、詳細な説明に続く請求の範囲は、これにより詳細な説明中に明確に包含され、各請求項は、この発明の別々の実施形態としてそれ自身で成立する。
【0040】
さらに、本明細書で説明したいくつかの実施形態は、他の実施形態に含まれるいくつかの特徴は含むが、他の特徴は含まない。一方、当業者が理解することになるように、異なる実施形態の特徴の組み合わせは、本発明の範囲内であることを意味し、異なる実施形態を形成する。例えば、以下の請求の範囲において、請求項記載の実施形態のいずれもが、任意の組み合わせで使用可能である。
【0041】
本発明の特定の特徴又は態様を説明するときの特定の用語の使用は、当該用語が本明細書で再定義されて、用語が関連する本発明の特徴又は態様のいずれかを含むように制限されることを意味すると解釈するべきでないことに留意するべきである。
【0042】
本明細書でされる説明において、多くの具体的詳細が明記される。しかしながら、本発明の実施形態はこれらの具体的詳細なしに実践してもよいことが理解される。他の例において、周知の方法、構造及び技術は、この説明の理解を不明瞭にしないために、詳細には示さない。
【0043】
A.はじめに
一塩基多型(SNP)が、1つのヌクレオチドのみのDNA配列での差である。ヒトにおいて、SNPは、薬剤反応及び疾病素因にて差を生じる可能性がある。したがって、費用効率が高く有効なSNPの検出は、オーダーメイド医療において重要な役割を果たす可能性がある。高速で、高感度で、特異性の高いSNPの検出のために、ラブオンチップ(LoC)システムを使用することができる。かかるラブオンチップシステム299の代表的な例及びその機能を図1に示している。ラブオンチップシステム299は、反応チャンバ300、及び、マイクロ流体作用を及ぼすための他のコンポーネント、包括的ではないが例えば、血液のような検査対象の液体用のリザーバ307、試薬用のリザーバ308、廃棄物用のリザーバ309、リザーバ307,308からマイクロ流体チャネルに向けて液体を汲み上げるためのポンプ306、例えば検査対象の液体及び試薬を混合するためのミキサ304、マイクロ流体システム内の異なる場所にあるバルブ305、オンチップの高性能液体クロマトグラフィのための単純なシステムを共に形成する移動相303及び分離カラム302、検査対象の液体の特徴を検出するための検出器301を備える。図1に見られるように、本発明の実施形態によれば、全深さ断熱トレンチ310は、熱伝導を目的とした他のコンポーネントからマイクロ反応チャンバ300を分離している。これは、例えばPCRを行う必要がある位置のみで加熱し、他の場所で反応を誘発せず、又は、例えば検出器のような温度感受性の高いコンポーネントに損傷を与えない、という観点から、チップの残りの部分からのマイクロ反応チャンバ300の断熱が望ましいからである。一方、マイクロ反応チャンバ300がチップの残りの部分から断熱されている場合、反応チャンバを加熱するために必要とされる電力は小さくなり、加熱時間は速くなる。欠点は、断熱に起因して冷却時間が遅くなり、これにより冷却手段を設ける必要がある場合があることである。
【0044】
本発明の実施形態では、図1の上部に示すように、各マイクロリアクタ300を断熱トレンチによって個々に覆ってもよい。代替として、図1の下側に示すように、複数のマイクロリアクタ300を共通の断熱トレンチによって他のコンポーネントから分離してもよい。単一チップ上に、両実施形態の組み合わせを実装してもよい。即ち、少なくとも1つのマイクロリアクタ300を断熱トレンチ310によって個々に覆い、同時に、チップ上の別の場所で、複数のマイクロリアクタ300を共通の断熱トレンチ310によって覆うことができる。
【0045】
図1のラボオンチップシステムは、同じチップ上で製造される半導体ベースの、例えばシリコンベースのコンポーネントで主に構成されるところ、バルブ、ポンプ及び検出器は、別々に製造して後で組み立てることができる。シリコンは、その生体適合性の観点から、半導体基板材料として特に有利である。さらに、Siを使用することは、周知の特性を有する材料であるため有利であり、その加工のための技術は充分に進んでいる。本発明の実施形態では、半導体ベースの、例えばSiベースのコンポーネントの進んだ製造方法が導入され、また、チップの重要なエレメントの特性が与えられる。即ち、例えばDNA増幅を実施可能なマイクロリアクタである。
【0046】
B.本発明の実施形態に係る断熱構造
図1は、多様なSNP検出に使用可能なラブオンチップシステムを概略的に示す。検査対象の流体、例えば血液、及び試薬を適切なリザーバ307,308内に置く。2つのポンプ306は、ミキサ304を介して、それらをDNAの増幅(PCR)を行うことができるマイクロリアクタ300内に押し込む。例として、明確に定義された長さの、SNPが存在する可能性がある配列を包含する断片の数Nを増幅する。そして、流体は、例えば1μm〜2μmの所定の柱間距離を有する例えばシリコンのような半導体の柱からなるフィルタ302に送られる。ここで、N個のDNA成分は、高性能の液体クロマトグラフィの原理によって空間的に分離され、SNPの存在の検出専用の検出器301にそれぞれ送られる。
【0047】
本発明の実施形態の目的は、マイクロリアクタ300からマイクロチップ上の周囲のコンポーネントへの熱散逸を低減させることである。
【0048】
図1に示す実施形態では、DNA増幅が行われるマイクロリアクタ300から熱が散逸する。散逸する熱は、マイクロチップ上の周囲のコンポーネントに影響を与えることがあり、又は、例えば同じチップ上でマイクロリアクタのアレイを使用する場合には、他のマイクロリアクタ300に影響を与えることがある。
【0049】
本発明の第1の態様では、加熱可能なマイクロ構造であり、機械的に頑強なデバイスの構造を維持しつつ、マイクロチップ上の他のコンポーネントからマイクロリアクタを断熱するマイクロ流体デバイスが提案されている。本発明は、マイクロリアクタを略包囲する基板貫通トレンチを作成する技術を提示している。「略包囲する」が意味するのは、トレンチがマイクロリアクタの外周のうち可能な限り、例えば少なくとも50%、例えば少なくとも75%、例えば少なくとも80%、又は少なくとも90%を覆う、ということである。理想的な実施形態であれば、基板貫通トレンチは、マイクロリアクタを完全に包囲するであろう。しかし、これはマイクロリアクタへのアクセスを、例えば流体供給のため、又は流体排出のためにマイクロ流体チャネルが当該マイクロリアクタに接続される位置に設ける必要がある場合には不可能である。このような場合、基板貫通トレンチは、例えば1つ以上のマイクロ流体チャネルによって、マイクロリアクタに接続される位置を除き、加熱可能なマイクロリアクタを略完全に包囲する。
【0050】
マイクロリアクタの断熱特性を最適化するために、本発明の実施形態に従って、半導体基板の全深さでトレンチを作成する。提示している発明は、基板貫通トレンチを製造するためのキャリアウエハを必要としない。これに対し、それは、絶縁トレンチの全深さエッチングを施す前にマイクロ流体チャネルを封止するために、半導体基板、例えばSiの、カバー層、例えばパイレックスウエハへの陽極接合を提供する。これは、機械的な頑強性のために好都合である。またそれは、より複雑な断熱トレンチ形状を可能にし、さらに、シリコン技術で使用される大量生産ツールに特有の自動化したウエハハンドリングシステムに適合する。
【0051】
図2及び図3は、本発明の第1の実施形態を示している。図2は、本発明の実施形態に係るマイクロ流体デバイス104の3Dバージョンを示し、図3は、同じマイクロ流体デバイス104の上面図を示す。マイクロ流体デバイス104は、半導体基板、例えばシリコン基板内で作成され、マイクロリアクタ105と、そのマイクロリアクタ105に接続された少なくとも1つのマイクロ流体チャネル101とを備える。マイクロリアクタ105は、キャビティ102と、マイクロリアクタ105を形成する半導体基板壁103、例えばシリコン壁とを有する。また、マイクロ流体チャネル101は、基板壁103に閉じ込められる。全深さトレンチ100、即ち半導体基板を完全に貫通するトレンチは、マイクロリアクタ105を包囲する。この全深さトレンチ100は、断熱ギャップ(空気)という目的を達成する。全深さトレンチ100は、確実に、マイクロリアクタ105が同じ基板上に搭載されたマイクロチップの残りの部分とその周囲のコンポーネントに熱的に接続されないようにする。マイクロリアクタ105から出入りする液体を輸送するために、チャネル101がマイクロリアクタ105のマイクロキャビティ102に接続される。チャネル101は、全深さトレンチ100によってマイクロチップ及びその周囲のコンポーネントから分離している。
【0052】
本発明の実施形態の目的は、マイクロリアクタ105の熱散逸をさらに低減させることである。熱伝導をさらに低減させるために、本発明の実施形態に従って、マイクロリアクタ105の周囲に、チャネル101を少なくとも部分的に、即ち部分的に、完全に又は複数回巻回可能である。
【0053】
図4及び図5は、本発明のこのような実施形態の一実施例を示す。図4は、マイクロリアクタ105の周囲に部分的に巻回されたマイクロ流体チャネル101を有するマイクロ流体デバイス104の3Dバージョンを示し、図5は、同じマイクロ流体デバイス104の上面図を示す。本発明のこのような実施形態では、チャネル101は少なくとも部分的にマイクロリアクタ105の周囲に巻回されており、熱伝導をさらに低減させる。マイクロリアクタ105は、全深さトレンチ100、即ち半導体基板を完全に貫通し、断熱ギャップという目的を達成するトレンチ、によってチャネル101から分離している。断熱ギャップは、チャネル101及びマイクロリアクタ105が、確実に、物理的、したがって熱的に熱伝導性固体材料を介して接続されないようにした全深さトレンチである。また、チャネル101は、全深さトレンチ100によってマイクロチップの他のコンポーネントから分離しており、その全深さトレンチはまた、断熱ギャップという目的を達成する。したがって、本発明の実施形態によれば、マイクロリアクタ105及び少なくとも1つのマイクロ流体チャネル101の両方が、基板貫通トレンチに包囲されている。図4及び図5で示した実施形態では、それは、マイクロリアクタ105及びマイクロ流体チャネル101の両方を包囲する単一の連続的なトレンチ100である。
【0054】
図6及び図7は、本発明の別の実施形態を示す。それらはそれぞれ、2つのマイクロ流体チャネル101がマイクロリアクタ105に接続されたマイクロ流体デバイス104のための断熱ソリューションの、概略の上面図及び断面図を示す。それぞれのチャネル101は、マイクロリアクタ105の周囲に部分的に巻回されている。マイクロリアクタは、そのマイクロリアクタ105に出入りする液体を輸送するための2つのチャネル101に取り付けられている。示した実施形態では、チャネル101は、更なる熱伝導の低減のために、マイクロリアクタの周囲に、それぞれ部分的に巻回されている。
【0055】
図7は、2つのチャネル101がマイクロリアクタ105に接続されたマイクロリアクタ105の断面図を示す。マイクロリアクタ105及び2つのチャネル101は、全深さトレンチ100によって、互いに、そしてマイクロチップ上の他の周囲のコンポーネントから絶縁されている。マイクロ流体チャネル101及びキャビティ102のようなマイクロ流体コンポーネントは、上部カバー106、例えばパイレックスカバー又はショット(Schott)社のガラス33のカバー、又は他の材料のカバー、例えば陽極接合に適したガラス、によって封止される。パイレックスは、生体適合性の観点から、上部カバーを形成する材料として特に好都合である。図6は、断熱されたマイクロリアクタ105の上面図を示す。図から、チャネル101が、マイクロリアクタ105の周囲にそれぞれ部分的に巻回されていることは明らかである。即ち、チャネル101がマイクロリアクタ105の全周を描かないことは明らかである。
【0056】
本発明の実施形態では、図示していないが、マイクロリアクタ105は、全深さトレンチ100によって互いに絶縁され、そのマイクロリアクタ105の周囲に完全に又は複数回巻回されている1つ以上のチャネルに接続されている。
【0057】
本発明の特定の実施形態では、例えば図1に示したように、複数のマイクロリアクタ300が同じマイクロチップ上に位置しており、そのマイクロチップでは、マイクロリアクタ300及びそれらを接続するマイクロ流体チャネル101が、全深さエッチング断熱トレンチ310を介して互いに分離している。全深さトレンチが提供する断熱が、アレイ構成を使用する場合には、隣接する反応キャビティとは無関係に、絶縁デバイスの熱質量を低下させ、したがって急速な加熱速度を可能にし、また、個々のマイクロリアクタがプリセットの熱サイクル条件に制御されるのを可能にすることは、この実施形態の利点である。熱を失う能力、したがって冷却能力が低下するが、これは更なる冷却コンポーネントを追加することによって解決することができる。
【0058】
代替として、複数のマイクロリアクタ300を単一の断熱トレンチ310の内部に一緒に集合させ、複数のマイクロリアクタ300とチップの残りの部分との間に断熱を付与することができる。全深さトレンチが付与する断熱が、周囲の基板に存在する他のマイクロ流体コンポーネントの温度を同時に実質的に変化させることなく、複数のマイクロリアクタ300の加熱及び/又は冷却を可能にすることは、この実施形態の利点である。
【0059】
本発明の特定の実施形態では、マイクロリアクタ105,300は、そのマイクロリアクタを加熱及び/又は冷却するための手段をさらに備える。そのマイクロリアクタ105,300を加熱及び/又は冷却するための手段は、キャビティ102の底部に設けることができる。その加熱及び/又は冷却するための手段は、保護材料、例えばシリコン窒化物の薄い層によって生物学的材料から保護することができる。加熱のための手段は、マイクロヒータ、例えば白金製のマイクロヒータでもよい。ヒータは、抵抗器の形態で設けることができる。冷却するための手段は、熱電冷却器でもよい。
【0060】
本発明の特定の実施形態では、温度制御システムを使用して、マイクロリアクタの個々の加熱手段又は冷却手段を制御可能である。本発明の実施形態では、温度制御システムは、ターゲット温度及び実際のキャビティの温度に応じてマイクロリアクタのキャビティに可変電力を伝送する。それはまた、熱電冷却器での電流を制御して必要なときに冷却を付与することができる。
【0061】
図8は、図6の上面図及び図7の断面図で説明したマイクロ流体デバイス104の3D図を示す。
【0062】
次のセクションでは、かかる絶縁マイクロリアクタ105の製造について詳細に説明する。
【0063】
C.製造
第2の態様において、本発明は、少なくとも1つの断熱マイクロリアクタ105及び1つ以上のマイクロ流体チャネル101を備えたデバイスを製造するための方法を提供する。
【0064】
製造は、3つの主要部分、
1)半導体基板において、少なくとも1つのマイクロリアクタ及び1つ以上のマイクロ流体チャネルを有する流体構造を、例えばエッチングによって設ける工程と、
2)カバー層、例えばパイレックスウエハの、半導体基板のおもて面への接合、例えば陽極接合、好適な接合材を使用した接着接合、又は溶融接合のいずれか、によってマイクロ流体構造を封止する工程と、
3)基板の裏面から基板貫通トレンチを設ける工程であって、そのトレンチは、少なくとも1つのマイクロリアクタ及び1つ以上のマイクロ流体チャネルを完全に包囲するようにしたトレンチを設ける工程とを含む。
【0065】
図9は、本発明に係るプロセスフローの第1の実施形態の概略を示す。
a)半導体基板900を準備する。半導体基板900は、おもて面及び裏面を有する。半導体基板900のおもて面の上部では、ハードマスク層901、例えば酸化物層が形成される。例として、所定厚さ、例えば1000nmを有する酸化物層を堆積してもよい。深い構造をエッチングする必要があるときには、厚いレジスト層を設ける必要があるので、単にレジスト層を使用するよりも、かかるハードマスク層が好ましいが、これは小さいCD構造をエッチングする必要がある場合には不都合である。
b)マイクロ流体構造、及び、特にマイクロリアクタのキャビティ102、並びに、必要に応じて他のマイクロ構造をハードマスク901で規定する。レジスト材料902をハードマスク層901の上部に設け、例えば塗布し、好適にパターニングする。
c)パターニングしたレジスト層902を使用して、マイクロ流体構造をエッチングするためのマスクを規定するようにハードマスク層901をエッチングする。
d)マイクロ流体構造、例えばキャビティ102及びマイクロ流体チャネル101は、半導体基板900内でエッチングする。
e)レジスト材料902及びハードマスク材料901を除去し、微細マイクロ流体構造を有する半導体基板900を作成する。
f)マイクロ流体構造を封止するために、半導体基板を、カバー層903、例えばパイレックスのカバー層に、接合、例えば陽極接合する。
g)必要に応じて、半導体基板900を裏面から研削してもよい。
h)半導体基板900の裏面に、レジスト材料層904を設け、例えば塗布し、また、基板貫通トレンチ100を規定するためのリソグラフィマスクを形成するために好適にパターニングする。
i)パターニングしたレジスト層904を使用して、半導体基板900の裏面から基板貫通トレンチをエッチングする。
【0066】
図10は、本発明に係るプロセスフローの第2の実施形態の概略を示す。
a)半導体基板900を準備する。半導体基板900は、おもて面及び裏面を有する。半導体基板900のおもて面の上部では、ハードマスク層901、例えば酸化物層が形成される。例として、所定厚さ、例えば1000nmを有する酸化物層を堆積してもよい。
b)マイクロ流体構造、及び、特にマイクロリアクタのキャビティ102、並びに、必要に応じて他のマイクロ構造は、ハードマスク901、及びトレンチ100の位置で規定される。レジスト材料902をハードマスク層901の上部に設け、例えば塗布し、好適にパターニングする。
c)パターニングしたレジスト層902を使用して、マイクロ流体構造及びトレンチ100の一部をエッチングするためのマスクを規定するようにハードマスク層901をエッチングする。
d)マイクロ流体構造、例えばキャビティ102及びマイクロ流体チャネル101、並びにトレンチ100の一部は、半導体基板900内でエッチングする。このとき、トレンチ100は、限られた深さ、例えばマイクロ流体構造が設けられるのと同じ深さまでしか設けられない。
e)レジスト材料902及びハードマスク材料901を除去し、微細マイクロ流体構造及びトレンチの一部を有する半導体基板900を作成する。
f)マイクロ流体構造を封止するために、半導体基板を、カバー層903、例えばパイレックスのカバー層に、接合、例えば陽極接合する。
g)必要に応じて、半導体基板900を裏面から研削してもよい。
h)半導体基板900の裏面に、レジスト材料の層904を設け、例えば塗布し、また、基板貫通トレンチ100の第2の部分を規定するためのリソグラフィマスクを形成するために好適にパターニングする。
i)パターニングしたレジスト層904を使用して、半導体基板900の裏面から基板貫通トレンチ100の第2の部分をエッチングする。
【0067】
基板貫通トレンチ100を完全に設ける前に、したがって基板貫通トレンチ100のエッチングを開始する前に、又は基板貫通トレンチ100の部分的なエッチングの後に、半導体基板900とカバーウエハ903との間の陽極接合を実施されることは、本発明の方法の実施形態の利点である。これは、機械的強度したがってデバイスの頑強性を増大させるだけでなく、標準のハンドリング装置を使用することを可能にする。半導体基板を通じて完全なホールが設けられた場合、真空チャックに固定することは不可能になり、ウエハローディング/アンローディングのためのロボットアームの使用は、簡単にウエハの破損につながる。
【0068】
本発明の特定に実施形態では、例えば半導体基板のエッチングにより出入開口部107を設けてもよい。これは、プロセスフローには示していないが、かかる出入開口部107は図6に示している。
【0069】
D.特性
本発明の文脈では、マイクロリアクタ105の熱的特性に焦点が合わせられる。一実施形態の概略を図6〜図8に示す。
【0070】
特定の実施形態では、マイクロリアクタ105は、深さ約300μmの3μlキャビティ102からなる。チップの残りの部分からの反応チャンバの高断熱が非常に重要であることは明らかだが、半導体基板材料、例えばシリコンの高い熱伝導率により、技術的に実現することが困難である。この問題は、本発明の実施形態に従って、マイクロリアクタ105の周囲に基板貫通絶縁トレンチ100を設けることによって解決されている。絶縁トレンチ100を作成するためのエッチング工程は、マイクロ流体チャネル101へのマイクロ流体ポートを開口するために同時に利用可能である。
【0071】
陽極接合の後、トレンチ100のエッチングが少なくとも部分的に実施されるという事実のために、半導体材料、例えばシリコンをトレンチ100から完全に除去することが可能である。断熱は、マイクロリアクタ105の入口及び出口のための長い断熱マイクロチャネル101を使用して、さらに議論されている。
【0072】
本発明の実施形態では、使用する半導体の面積を低下させるために、本発明の実施形態に従って、マイクロチャネル101がマイクロリアクタ105の周囲に巻回されている。設計の有効性は、実験結果によって確認されている。マイクロリアクタ105の温度が100℃に近づいた場合、チップの周囲の部分の温度は周囲温度より数度高いのみである。
【0073】
マイクロリアクタ105及びマイクロ流体チャネル101の周囲の全深さトレンチ100の存在に起因して、マイクロリアクタでの高速温度サイクルが確保されることは、本発明の実施形態の利点である。これは、例えば図11に示したような温度サイクルが、本発明の実施形態に従って絶縁されたマイクロリアクタ内で何度も繰り返されるのを可能にする。
【0074】
そして、トレンチ100による断熱に起因して、実際に加熱されるマイクロリアクタ105を含む半導体基板のその部分の熱質量は減少し(トレンチ100により、実質的にマイクロリアクタ105のみが加熱され、周囲の基板は実質的に加熱されない)、これにより高速温度サイクルが可能になる。本発明の実施形態では、複数のマイクロリアクタ105のそれぞれと結びついて、好適な温度制御システムが利用される。したがって、本発明の実施形態により、高度な熱ソリューションが開発され、68℃から98℃までの1.5秒未満の実験的加熱時間、また、98℃から57℃までの2.5秒の冷却時間(図11参照)が実証されている。本発明の実施形態に従って、高速のマイクロリアクタの温度サイクルが、熱ソリューションの種々のコンポーネントを慎重に最適化した後に可能であることが、このグラフからわかる。
【0075】
図12は、本発明の実施形態に係る断熱ソリューションの実験結果を示す。マイクロリアクタ(PCR)の温度が上昇するとき、マイクロチップ(シリコンチップ)の温度上昇はマイクロリアクタの温度上昇に比例しない、ということに留意すべきである。これは、全深さトレンチによる断熱が優れたソリューションであることを証明している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板(900)と、
前記半導体基板(900)内の少なくとも1つのマイクロリアクタ(105)と、
前記少なくとも1つのマイクロリアクタ(105)に接続された、前記半導体基板(900)内の1つ以上のマイクロ流体チャネル(101)と、
1つ以上のマイクロ流体チャネル(101)を封止するための、半導体基板(900)に接合されたカバー層(106)と、
前記少なくとも1つのマイクロリアクタ(105)及び1つ以上のマイクロ流体チャネル(101)を包囲する少なくとも1つの基板貫通トレンチ(100)とを備えたマイクロ流体デバイス(104)。
【請求項2】
前記1つ以上のマイクロ流体チャネル(101)は、前記マイクロリアクタ(105)の周囲に、部分的に、完全に、又は複数回巻回されている、請求項1に記載のマイクロ流体デバイス(104)。
【請求項3】
前記マイクロリアクタを加熱又は冷却するための手段をさらに備えた、請求項1又は2に記載のマイクロ流体デバイス(104)。
【請求項4】
基板貫通トレンチ(100)は、空隙である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のマイクロ流体デバイス(104)。
【請求項5】
基板貫通トレンチ(100)は、断熱材料で充填されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載のマイクロ流体デバイス(104)。
【請求項6】
カバー層(106)は、半導体基板(900)に陽極接合された、請求項1〜5のいずれか1項に記載のマイクロ流体デバイス(104)。
【請求項7】
少なくとも1つのマイクロリアクタ(105)の温度を制御するための温度制御システムをさらに備えた、請求項1〜6のいずれか1項に記載のマイクロ流体デバイス(104)。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のマイクロ流体デバイス(104)のアレイを含むマイクロ流体システム。
【請求項9】
1つ以上のバルブ(305)、ポンプ(306)及び/又は検出器(301)をさらに備えた、請求項8に記載のマイクロ流体システム。
【請求項10】
おもて面及び裏面を有する半導体基板(900)を準備する工程と、
前記半導体基板(900)内に、少なくとも1つのマイクロリアクタ(105)を設ける工程と、
前記半導体基板(900)のおもて面に、前記少なくとも1つのマイクロリアクタ(105)に接続された1つ以上のマイクロ流体チャネル(101)を設ける工程と、
カバー層(903)を半導体基板(900)のおもて面に接合することにより、前記マイクロ流体チャネル(101)を封止する工程と、
その後、前記少なくとも1つのマイクロリアクタ(105)及び1つ以上のマイクロ流体チャネル(101)を包囲する少なくとも1つの基板貫通トレンチ(100)を形成するために、半導体の裏面から少なくとも部分的なエッチングを施す工程とを含む、マイクロ流体デバイス(104)を製造するための方法。
【請求項11】
少なくとも1つの基板貫通トレンチ(100)を形成するために半導体の裏面から少なくとも部分的なエッチングを施す工程は、基板(900)の裏面からトレンチ(100)を完全に形成することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
少なくとも1つの基板貫通トレンチ(100)を形成するために半導体の裏面から少なくとも部分的なエッチングを施す工程は、基板(900)のおもて面からトレンチ(100)を部分的に形成することと、基板(900)の裏面からトレンチ(100)を部分的に形成することとを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
マイクロ流体チャネル(101)を設ける工程は、マイクロリアクタ(105)の周囲に部分的に、完全に、又は複数回巻回するマイクロ流体チャネル(101)を設けることを含む、請求項10〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記マイクロリアクタ(105)を加熱又は冷却するための手段を設ける工程をさらに含む、請求項10〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
半導体の裏面から基板貫通トレンチ(100)を設ける工程は、
半導体基板(900)を研磨して、裏面リソグラフィを実施することと、
前記基板貫通トレンチ(100)をパターニング及びエッチングすることを含む、請求項10〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項1】
半導体基板(900)と、
前記半導体基板(900)内の少なくとも1つのマイクロリアクタ(105)と、
前記少なくとも1つのマイクロリアクタ(105)に接続された、前記半導体基板(900)内の1つ以上のマイクロ流体チャネル(101)と、
1つ以上のマイクロ流体チャネル(101)を封止するための、半導体基板(900)に接合されたカバー層(106)と、
前記少なくとも1つのマイクロリアクタ(105)及び1つ以上のマイクロ流体チャネル(101)を包囲する少なくとも1つの基板貫通トレンチ(100)とを備えたマイクロ流体デバイス(104)。
【請求項2】
前記1つ以上のマイクロ流体チャネル(101)は、前記マイクロリアクタ(105)の周囲に、部分的に、完全に、又は複数回巻回されている、請求項1に記載のマイクロ流体デバイス(104)。
【請求項3】
前記マイクロリアクタを加熱又は冷却するための手段をさらに備えた、請求項1又は2に記載のマイクロ流体デバイス(104)。
【請求項4】
基板貫通トレンチ(100)は、空隙である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のマイクロ流体デバイス(104)。
【請求項5】
基板貫通トレンチ(100)は、断熱材料で充填されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載のマイクロ流体デバイス(104)。
【請求項6】
カバー層(106)は、半導体基板(900)に陽極接合された、請求項1〜5のいずれか1項に記載のマイクロ流体デバイス(104)。
【請求項7】
少なくとも1つのマイクロリアクタ(105)の温度を制御するための温度制御システムをさらに備えた、請求項1〜6のいずれか1項に記載のマイクロ流体デバイス(104)。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のマイクロ流体デバイス(104)のアレイを含むマイクロ流体システム。
【請求項9】
1つ以上のバルブ(305)、ポンプ(306)及び/又は検出器(301)をさらに備えた、請求項8に記載のマイクロ流体システム。
【請求項10】
おもて面及び裏面を有する半導体基板(900)を準備する工程と、
前記半導体基板(900)内に、少なくとも1つのマイクロリアクタ(105)を設ける工程と、
前記半導体基板(900)のおもて面に、前記少なくとも1つのマイクロリアクタ(105)に接続された1つ以上のマイクロ流体チャネル(101)を設ける工程と、
カバー層(903)を半導体基板(900)のおもて面に接合することにより、前記マイクロ流体チャネル(101)を封止する工程と、
その後、前記少なくとも1つのマイクロリアクタ(105)及び1つ以上のマイクロ流体チャネル(101)を包囲する少なくとも1つの基板貫通トレンチ(100)を形成するために、半導体の裏面から少なくとも部分的なエッチングを施す工程とを含む、マイクロ流体デバイス(104)を製造するための方法。
【請求項11】
少なくとも1つの基板貫通トレンチ(100)を形成するために半導体の裏面から少なくとも部分的なエッチングを施す工程は、基板(900)の裏面からトレンチ(100)を完全に形成することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
少なくとも1つの基板貫通トレンチ(100)を形成するために半導体の裏面から少なくとも部分的なエッチングを施す工程は、基板(900)のおもて面からトレンチ(100)を部分的に形成することと、基板(900)の裏面からトレンチ(100)を部分的に形成することとを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
マイクロ流体チャネル(101)を設ける工程は、マイクロリアクタ(105)の周囲に部分的に、完全に、又は複数回巻回するマイクロ流体チャネル(101)を設けることを含む、請求項10〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記マイクロリアクタ(105)を加熱又は冷却するための手段を設ける工程をさらに含む、請求項10〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
半導体の裏面から基板貫通トレンチ(100)を設ける工程は、
半導体基板(900)を研磨して、裏面リソグラフィを実施することと、
前記基板貫通トレンチ(100)をパターニング及びエッチングすることを含む、請求項10〜14のいずれか1項に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−66885(P2013−66885A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−208755(P2012−208755)
【出願日】平成24年9月21日(2012.9.21)
【出願人】(591060898)アイメック (302)
【氏名又は名称原語表記】IMEC
【出願人】(599098493)カトリーケ・ウニフェルジテイト・ルーベン・カー・イュー・ルーベン・アール・アンド・ディ (83)
【氏名又は名称原語表記】Katholieke Universiteit Leuven,K.U.Leuven R&D
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−208755(P2012−208755)
【出願日】平成24年9月21日(2012.9.21)
【出願人】(591060898)アイメック (302)
【氏名又は名称原語表記】IMEC
【出願人】(599098493)カトリーケ・ウニフェルジテイト・ルーベン・カー・イュー・ルーベン・アール・アンド・ディ (83)
【氏名又は名称原語表記】Katholieke Universiteit Leuven,K.U.Leuven R&D
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
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