マグネシウム−ケイ素複合材料及びその製造方法、並びに該複合材料を用いた熱電変換材料、熱電変換素子、及び熱電変換モジュール
【課題】優れた熱電変換性能を有するマグネシウム−ケイ素複合材料を提供する。
【解決手段】実質的にドーパントを含まない場合、マグネシウム−ケイ素複合材料は、Mgの含有量が原子量比で66.17〜66.77at%であり、Siの含有量が原子量比で33.23〜33.83at%である組成原料を、開口部とこの開口部を覆う蓋部とを有し、上記開口部の辺縁における上記蓋部への接触面と、上記蓋部における上記開口部への接触面とが共に研磨処理された耐熱容器中で加熱溶融する工程を有する製造方法により製造される。一方、ドーパントを含む場合、マグネシウム−ケイ素複合材料は、Mgの含有量とSiの含有量との比が原子量比で66.17:33.83〜66.77:33.23であり、ドーパントの含有量が原子量比で0.10〜2.0at%である組成原料により製造される。
【解決手段】実質的にドーパントを含まない場合、マグネシウム−ケイ素複合材料は、Mgの含有量が原子量比で66.17〜66.77at%であり、Siの含有量が原子量比で33.23〜33.83at%である組成原料を、開口部とこの開口部を覆う蓋部とを有し、上記開口部の辺縁における上記蓋部への接触面と、上記蓋部における上記開口部への接触面とが共に研磨処理された耐熱容器中で加熱溶融する工程を有する製造方法により製造される。一方、ドーパントを含む場合、マグネシウム−ケイ素複合材料は、Mgの含有量とSiの含有量との比が原子量比で66.17:33.83〜66.77:33.23であり、ドーパントの含有量が原子量比で0.10〜2.0at%である組成原料により製造される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウム−ケイ素複合材料;熱電変換材料、熱電変換素子、及び熱電変換モジュール;並びにマグネシウム−ケイ素複合材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題の高まりに応じて、各種のエネルギーを効率的に利用する様々な手段が検討されている。特に、産業廃棄物の増加等に伴って、これらを焼却する際に生じる廃熱の有効利用が課題となっている。例えば大型廃棄物焼却施設では、廃熱により高圧の蒸気を発生させ、この蒸気により蒸気タービンを回転させて発電することにより廃熱回収が行われている。しかし、廃棄物焼却施設の大多数を占める中型・小型廃棄物焼却施設では、廃熱の排出量が少ないため、蒸気タービン等により発電する廃熱の回収方法は採用できていない。
【0003】
このような中型・小型の廃棄物焼却施設において採用することが可能な廃熱を利用した発電方法としては、例えば、ゼーベック効果或いはペルチェ効果を利用して可逆的に熱電変換を行う熱電変換材料・熱電変換素子・熱電変換モジュールを用いた方法が提案されている。
【0004】
熱電変換モジュールとしては、例えば図1及び図2に示すようなものが挙げられる。この熱電変換モジュールでは、熱伝導率の小さいn型半導体及びp型半導体がそれぞれn型熱電変換部101及びp型熱電変換部102の熱電変換材料として用いられる。並置されたn型熱電変換部101及びp型熱電変換部102の上端部には電極1015,1025が、下端部には電極1016,1026がそれぞれ設けられる。そして、n型熱電変換部及びp型熱電変換部の上端部にそれぞれ設けられた電極1015,1025が接続されて一体化された電極を形成すると共に、n型熱電変換部及びp型熱電変換部の下端部にそれぞれ設けられた電極1016,1026は分離されて構成される。
【0005】
ここで、図1に示すように、電極1015,1025の側を加熱し、電極1016,1026の側から放熱することで、電極1015,1025と、電極1016,1026との間に正の温度差(Th−Tc)が生じ、熱励起されたキャリアによってp型熱電変換部102がn型熱電変換部101よりも高電位となる。このとき、電極1016と電極1026との間に負荷として抵抗3を接続することで、p型熱電変換部102からn型熱電変換部101へと電流が流れる。
【0006】
一方、図2に示すように、直流電源4によってp型熱電変換部102からn型熱電変換部101へと直流電流を流すことで、電極1015,1025において吸熱作用が生じ、電極1016,1026において発熱作用が生じる。また、n型熱電変換部101からp型熱電変換部102へと直流電流を流すことで、電極1015,1025において発熱作用が生じ、電極1016,1026において吸熱作用が生じる。
【0007】
熱電変換モジュールの他の例としては、例えば図3及び図4に示すようなものが挙げられる(例えば特許文献1を参照)。この熱電変換モジュールでは、熱伝導率の小さいn型半導体のみが熱電変換材料として用いられる。n型熱電変換部103の上端部には電極1035が、下端部には電極1036がそれぞれ設けられる。
【0008】
この場合、図3に示すように、電極1035側を加熱し、電極1036側から放熱することで、電極1035と電極1036との間に正の温度差(Th−Tc)が生じ、電極1035側が電極1036側よりも高電位となる。このとき、電極1035と電極1036との間に負荷として抵抗3を接続することで、電極1035側から電極1036側へと電流が流れる。
【0009】
一方、図4に示すように、直流電源4によって電極1036側からn型熱電変換部103を経て電極1035側へと直流電流を流すことで、電極1035において吸熱作用が生じ、電極1036において発熱作用が生じる。また、直流電源4によって電極1035側からn型熱電変換部103を経て電極1036へと直流電流を流すことで、電極1035において発熱作用が生じ、電極1036において吸熱作用が生じる。
【0010】
このように極めてシンプルな構成で効率的に熱電変換を行うことができる熱電変換素子は、従来特殊な用途を中心に応用展開されている。
【0011】
ここで、従来、Bi−Te系、Co−Sb系、Zn−Sb系、Pb−Te系、Ag−Sb−Ge−Te系等の熱電変換材料により、燃料電池、自動車、ボイラー・焼却炉・高炉等の約200℃から800℃程度の廃熱源を利用して電気に変換する試みが行われてきた。しかし、このような熱電変換材料には有害物質が含まれるため、環境負荷が大きくなるという問題があった。
【0012】
また、高温用途で用いるものとしては、B4C等、ホウ素を多量に含むホウ化物、LaS等のレアアース金属カルコゲナイト等が研究されているが、B4CやLaS等の金属間化合物を主体とする非酸化物系の材料は、真空中で比較的高い性能を発揮するものの、高温下で結晶相の分解が生じる等、高温領域での安定性が劣るという問題があった。
【0013】
一方、環境負荷が少ないMg2Si(例えば特許文献2及び3、非特許文献1〜3を参照)、Mg2Si1−xCx(例えば非特許文献4を参照)等のシリサイド系(珪化物系)の金属間化合物を含む材料も研究されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平11−274578号公報
【特許文献2】特開2005−314805号公報
【特許文献3】特開2002−285274号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Semiconducting Properties of Mg2Si Single Crystals Physical Review Vol.109,No.6,March 15,1958,p.1909−1915
【非特許文献2】Seebeck Effect In Mg2Si Single Crystals J.Phys.Chem.Solids Program Press 1962.Vol.23,pp.601−610
【非特許文献3】Bulk Crystals Growth of Mg2Si by the vertical Bridgman method Science Direct Thin Solid Films 461(2004)86−89
【非特許文献4】Thermoelectric Properties of Mg2Si Crystal Grown by the Bridgeman method
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかし、上記Mgを含有するシリサイド系の金属間化合物を含む材料は、熱電変換性能が低いといった問題点があり、Mgを含有するシリサイド系の金属間化合物を含む材料を実際に熱電変換モジュールに実用化するには至っていなかった。
【0017】
特に、従来、Mg2Siを含む材料は知られてはいたものの、このようなMg2Siを含む材料中のMg及びSiの含有量を適切に調整することは困難であったため、特に高い熱電変換性能を有するマグネシウム−ケイ素複合材料は得られていなかった。このため、Mg2Siを含む材料中において、Mg及びSiの含有量が適切に調整され、結果として高い熱電変換性能を有するマグネシウム−ケイ素複合材料が求められていた。
【0018】
更に、特許文献2に記載のマグネシウム−ケイ素複合材料については、これが有する熱電特性については、全く検討されていない。しかし、本発明者らが検討したところによれば、特許文献2に記載のマグネシウム−ケイ素複合材料は、本願で必要とされるマグネシウム−ケイ素複合材料の特性を有しないものであった。
【0019】
本発明は、以上の課題に鑑みてなされたものであり、環境に負荷を与えない金属間化合物としてMg2Siを含み、熱電変換モジュールの材料として好適に使用可能なマグネシウム−ケイ素複合材料であって、優れた熱電変換性能を有するマグネシウム−ケイ素複合材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、866Kにおける無次元性能指数が0.665以上であるマグネシウム−ケイ素複合材料の調製を実現し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0021】
[1] 866Kにおける無次元性能指数が0.665以上であり、実質的にドーパントを含まないマグネシウム−ケイ素複合材料。
【0022】
[1]に記載のマグネシウム−ケイ素複合材料は、MgとSiとの原子量比が略2:1であり、866Kにおける無次元性能指数が0.665以上であり、実質的にドーパントを含まないものである。このため、例えば、マグネシウム−ケイ素複合材料を熱電変換モジュールに使用する場合に、高い熱電変換性能を得ることができる。
【0023】
ここで、熱電変換材料の熱電変換性能は、一般に下記式(1)で表される性能指数(単位:K−1)によって評価される。
【数1】
[上記式(1)において、αはゼーベック係数を、σは電気伝導率を、κは熱伝導率を示す。]
【0024】
この性能指数に絶対温度Tを乗じて無次元化したものが、無次元性能指数ZTであり、[1]に記載の発明においては、この無次元性能指数ZTが0.665以上であることを規定するものである。
【0025】
なお、一般に熱電変換材料においては無次元性能指数が0.5以上であることが実用化の目安とされており、ゼーベック係数及び電気伝導率が高いほど、或いは熱伝導率が低いほど、性能指数及び無次元性能指数の大きな熱電変換材料が得られる傾向にある。
【0026】
[2] 管電圧40kV、管電流40mAの条件下におけるX線回折において、2θ=36.6度におけるMgピーク強度が12.9cps以下であり、2θ=28.4度におけるSiピーク強度が340.5cps以下である[1]に記載のマグネシウム−ケイ素複合材料。
【0027】
[2]に記載の発明は、[1]に記載の発明を、X線回折におけるMg及びSiのピーク強度で示したものである。特に、本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料は、Mgピーク強度が小さく、材料中に金属マグネシウムが殆ど含まれない点に特徴を有する。[2]に記載の発明によれば、[1]に記載の発明と同等の効果を得ることができる。
【0028】
[3] Mgの含有量が原子量比で66.17〜66.77at%であり、Siの含有量が原子量比で33.23〜33.83at%である組成原料から合成される[1]又は[2]に記載のマグネシウム−ケイ素複合材料。
【0029】
[3]に記載の発明は、[1]又は[2]に記載の発明をマグネシウム−ケイ素複合材料の組成原料の成分組成で示したものである。[3]に記載の発明によれば、[1]又は[2]に記載の発明と同等の効果を得ることができる。
【0030】
[4] ドーパントを含有し、管電圧40kV、管電流40mAの条件下におけるX線回折において、2θ=36.34〜36.68度におけるMgピーク強度が12.9cps以下であり、2θ=28.30〜28.52度におけるSiピーク強度が340.5cps以下である[1]に記載のマグネシウム−ケイ素複合材料。
【0031】
[5] ドーパントを原子量比で0.10〜2.00at%含有する[4]に記載のマグネシウム−ケイ素複合材料。
【0032】
本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料は、ドーパントを含有していてもよい。ドーパントの含有量は、例えば原子量比で0.10〜2.00at%である。このようにドーパントを含む場合であっても無次元性能指数ZTが0.665以上となるため、マグネシウム−ケイ素複合材料を熱電変換モジュールに使用する場合に、高い熱電変換性能を得ることができる。
また、本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料は、ドーパントを含む場合であっても、Mgピーク強度が小さく、材料中に金属マグネシウムが殆ど含まれない点に特徴を有する。
【0033】
[6] Mgの含有量とSiの含有量との比が原子量比で66.17:33.83〜66.77:33.23であり、ドーパントの含有量が原子量比で0.10〜2.00at%である組成原料から合成される[4]又は[5]に記載のマグネシウム−ケイ素複合材料。
【0034】
[6]に記載の発明は、[4]又は[5]に記載の発明を、マグネシウム−ケイ素複合材料の組成原料の成分組成で示したものである。ドーパントを含む場合、ドーパントを除いたMgの含有量とSiの含有量との比が原子量比で66.17:33.83〜66.77:33.23となればよい。[6]に記載の発明によれば、[4]又は[5]に記載の発明と同等の効果を得ることができる。
【0035】
[7] 熱伝導率が3.50W/m・K以下である[1]から[6]のいずれかに記載のマグネシウム−ケイ素複合材料。
【0036】
[7]に記載の発明は、上記の発明を熱伝導率で示したものである。[7]に記載の発明によれば、上記の発明と同等の効果を得ることができる。
【0037】
[8] Mgの含有量が原子量比で66.17〜66.77at%であり、Siの含有量が原子量比で33.23〜33.83at%である組成原料を、開口部と前記開口部を覆う蓋部とを備え、前記開口部の辺縁における前記蓋部への接触面と、前記蓋部における前記開口部への接触面とが共に研磨処理された耐熱容器中で加熱溶融する工程を有するマグネシウム−ケイ素複合材料の製造方法。
【0038】
[9] Mgの含有量とSiの含有量との比が原子量比で66.17:33.83〜66.77:33.23であり、ドーパントの含有量が原子量比で0.10〜2.00at%である組成原料を、開口部と前記開口部を覆う蓋部とを備え、前記開口部の辺縁における前記蓋部への接触面と、前記蓋部における前記開口部への接触面とが共に研磨処理された耐熱容器中で加熱溶融する工程を有するマグネシウム−ケイ素複合材料の製造方法。
【0039】
[8]に記載の発明は、実質的にドーパントを含まない場合におけるマグネシウム−ケイ素複合材料の製造方法を規定したものであり、[9]に記載の発明は、ドーパントを含む場合におけるマグネシウム−ケイ素複合材料の製造方法を規定したものである。したがって、[8]及び[9]に記載の発明によれば、上記の発明と同等の効果を得ることができる。
【0040】
[10] [1]から[7]のいずれかに記載のマグネシウム−ケイ素複合材料からなる熱電変換材料。
【0041】
[11] 熱電変換部と、該熱電変換部に設けられた第1電極及び第2電極とを備え、
前記熱電変換部が[1]から[7]のいずれかに記載のマグネシウム−ケイ素複合材料を用いて製造される熱電変換素子。
【0042】
[10]及び[11]に記載の発明は、[1]から[7]のいずれかに記載のマグネシウム−ケイ素複合材料を利用した熱電変換材料及び熱電変換素子を規定したものである。したがって、[10]及び[11]に記載の発明によれば、[1]から[7]のいずれかに記載の発明と同等の効果を得ることができる。
【0043】
[12] 前記第1電極及び前記第2電極がメッキ法により形成されてなる[11]に記載の熱電変換素子。
【0044】
[13] 加圧圧縮焼結法によって前記第1電極及び前記第2電極と前記熱電変換部とが一体成形されてなる[11]に記載の熱電変換素子。
【0045】
通常、マグネシウム−ケイ素複合材料を用いて製造された熱電変換部にメッキ法で電極を形成しようとした場合、材料中に残留する金属マグネシウムに起因して水素ガスが発生し、メッキの接着性が悪くなる。一方、本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料を用いて製造された熱電変換部の場合には、材料中に金属マグネシウムが殆ど含まれないため、メッキ法により電極を形成することが可能である。
また、第1電極及び第2電極は、マグネシウム−ケイ素複合材料の焼結時に、熱電変換部と一体に形成することも可能である。即ち、電極材料、マグネシウム−ケイ素複合材料、電極材料をこの順で積層し、加圧圧縮焼結することにより、両端に電極が形成された焼結体を得ることができる
【0046】
[14] 前記熱電変換部は、異なる熱電変換材料からなる複数の層を有し、
前記第1電極又は前記第2電極に隣接した層が、Mgの含有量とSiの含有量との比が原子量比で66.17:33.83〜66.77:33.23であり、Sbの含有量が原子量比で0.10〜2.0at%である組成原料から合成されるマグネシウム−ケイ素複合材料からなる[11]から[13]のいずれかに記載の熱電変換素子。
【0047】
本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料がドーパントとしてSbを含む場合、高温における耐久性に優れた熱電変換材料を得ることができる。その一方で、Sbは環境負荷が大きいため、Sbの使用量はできる限り少なくすることが好ましい。そこで、[14]に記載の発明では、熱電変換部を異なる熱電変換材料からなる複層構造とし、第1電極又は第2電極に隣接した層に、Sbを含むマグネシウム−ケイ素複合材料を用いる。Sbを含む層を熱電変換素子の高温側とすることで、高温における耐久性に優れ、且つ、環境負荷の抑えられた熱電変換素子を得ることができる。
【0048】
[15] [11]から[14]のいずれかに記載の熱電変換素子を備える熱電変換モジュール。
【0049】
[15]に記載の発明は、[11]から[14]のいずれかに記載の熱電変換素子を備える熱電変換モジュールを規定したものである。したがって、[15]に記載の発明によれば、[11]から[14]のいずれかに記載の発明と同等の効果を得ることができる。
【0050】
[16] [1]から[7]のいずれかに記載のマグネシウム−ケイ素複合材料が用いられてなる耐食性材料、軽量構造材、摩擦材、リチウムイオン二次電池用負極材、セラミックス基板、誘電体磁器組成物、水素吸蔵組成物、又はシラン発生装置。
【0051】
本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料の用途としては、好ましくは、熱電変換材料、熱電変換素子、及び熱電変換モジュールの用途を挙げることができるが、例えば、耐食性材料、軽量構造材、摩擦材、リチウムイオン二次電池用負極材、セラミックス基板、誘電体磁器組成物、水素吸蔵組成物、シラン発生装置等の用途に用いることもできる。
【発明の効果】
【0052】
本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料は、866Kにおける無次元性能指数が0.665以上であるため、例えば、これを熱電変換モジュールに使用する場合に、高い熱電変換性能を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】熱電変換モジュールの一例を示す図である。
【図2】熱電変換モジュールの一例を示す図である。
【図3】熱電変換モジュールの一例を示す図である。
【図4】熱電変換モジュールの一例を示す図である。
【図5】焼結装置の一例を示す図である。
【図6】実施例1〜3、比較例2〜4で調製したマグネシウム−ケイ素複合材料の特性を示す図である。
【図7】実施例1〜3、比較例2〜4で調製したマグネシウム−ケイ素複合材料の特性を示す図である。
【図8】実施例1〜3、比較例2〜4で調製したマグネシウム−ケイ素複合材料の特性を示す図である。
【図9】実施例1〜3、比較例2〜4で調製したマグネシウム−ケイ素複合材料の特性を示す図である。
【図10】実施例1〜3、比較例2〜4で調製したマグネシウム−ケイ素複合材料の特性を示す図である。
【図11】実施例1〜3、比較例2〜4で調製したマグネシウム−ケイ素複合材料の光学顕微鏡像を示す図である。
【図12】比較例1で調製したマグネシウム−ケイ素複合材料の光学顕微鏡像を示す図である。
【図13】試験例2で調製したマグネシウム−ケイ素複合材料のX線回折の結果を示す図である。
【図14】実施例4〜8、比較例5で調製したマグネシウム−ケイ素複合材料の特性を示す図である。
【図15】実施例9で製造した熱電変換素子を示す図である。
【図16】実施例9及び10で製造した熱電変換素子の特性を示す図である。
【図17】熱電変換素子からの水素ガスの発生の有無を確認するための図である。
【図18】実施例12、14、及び15で製造した熱電変換素子の特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0055】
<マグネシウム−ケイ素複合材料>
[マグネシウム−ケイ素複合材料の特性]
本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料は、MgとSiとの原子量比が略2:1であって、866Kにおける無次元性能指数が0.665以上、好ましくは0.700以上である。マグネシウム−ケイ素複合材料の866Kにおける無次元性能指数が0.665以上であることにより、例えば、マグネシウム−ケイ素複合材料を熱電変換素子、熱電変換モジュールに使用する場合に、高い熱電変換性能を得ることができる。
【0056】
ここで、本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料は、組成原料を加熱溶融し、好ましくは加熱溶融後の試料を粉砕した後のものであっても、粉砕後の試料を焼結した後のものであってもよいが、マグネシウム−ケイ素複合材料の866Kにおける無次元性能指数に言及するときには、組成原料を加熱溶融し、好ましくは加熱溶融後の試料を粉砕して、粉砕後の試料を焼結した後に測定されたものを指すものとする。ただし、一般に加熱溶融後の試料と粉砕・焼結後の試料とでは、粉砕・焼結後の試料の方がクラック等の欠陥が入りにくいため、無次元性能指数が高くなる傾向にある。このため、加熱溶融後の試料において無次元性能指数が上記の条件を満たすのであれば、当該試料を粉砕・焼結した試料の無次元性能指数も、当然ながら上記条件を満たすものとなる。
【0057】
すなわち、本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料とは、組成原料の加熱溶融物、当該加熱溶融物の粉砕物及び当該粉砕物の焼結体を包含した意味をなし、これらの加熱溶融物、粉砕物、及び焼結体は、それぞれ単独で商品としての価値を有するものである。本発明に係る熱電変換材料自体及び熱電変換素子を構成する熱電変換部は、当該焼結体から構成されるものである。
【0058】
本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料は、実質的にドーパントを含まないものであってもよく、ドーパントを含むものであってもよい。
【0059】
「実質的にドーパントを含まない」とは、組成原料として、Si及びMg以外の添加元素が含有されていないことを意味する。このため、マグネシウム−ケイ素複合材料の製造過程において、例えば加熱溶融の際の耐熱容器から他の不純物元素が不可避的に混入したとしても、当該不純物が混入したマグネシウム−ケイ素複合材料は、実質的にドーパントを含まないものとして扱う。
【0060】
一方、ドーパントを含む場合、ドーパントとしてはSb、Al、Bi、Ag、Cu等から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。また、その含有量は原子量比で0.10〜2.00at%であることが好ましい。本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料が特にドーパントとしてSbを含む場合、熱電変換材料として用いた場合の高温における耐久性に優れたものとなる。
【0061】
また、実質的にドーパントを含まない場合、本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料は、管電圧40kV、管電流40mAの条件下におけるX線回折において、2θ=36.6度におけるMgピーク強度が12.9cps以下であり、2θ=28.4度におけるSiピーク強度が340.5cps以下である。
一方、ドーパントを含む場合、本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料は、管電圧40kV、管電流40mAの条件下におけるX線回折において、2θ=36.34〜36.68度におけるMgピーク強度が12.9cps以下であり、2θ=28.30〜28.52度におけるSiピーク強度が340.5cps以下である。なお、実質的にドーパントを含まない場合とピーク位置が異なるのは、ドーパント種やその含有量によって若干の干渉を受けるためである。
【0062】
X線回折におけるMg及びSiのピーク強度が、上記範囲内のものである場合、マグネシウム−ケイ素複合材料中におけるMg及びSiの含有量が所定の範囲内のものとなり、866Kにおける無次元性能指数が0.665以上に及ぶ高い熱電変換性能を得ることができる。
【0063】
更に、本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料は、熱伝導率が3.50W/m・K以下であることが好ましく、3.30W/m・K以下であることがより好ましく、3.10W/m・K以下であることが更に好ましい。
【0064】
上記式(1)で表される性能指数からも明らかなように、性能指数及びこれを無次元化した無次元性能指数と、熱伝導率とは負の相関関係にある。このため、マグネシウム−ケイ素複合材料の熱伝導率を3.50W/m・K以下のものとすることにより、無次元性能指数の値も高いものとなり、高い熱電変換性能を有するマグネシウム−ケイ素複合材料を得ることができる。
【0065】
なお、本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料は、インゴット状のもの、粉末状のもの、粉末状のものを焼結したもの等、いかなる形態のものであってもよいが、粉末状のものを焼成したものであることが好ましい。更に、本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料の用途としては、好ましくは、後述する熱電変換材料、熱電変換素子、及び熱電変換モジュールの用途を挙げることができるが、このような用途に限定されるものではなく、例えば、耐食性材料、軽量構造材、摩擦材、リチウムイオン二次電池用負極材、セラミックス基板、誘電体磁器組成物、水素吸蔵組成物、シラン発生装置等の用途に用いることもできる。
【0066】
<熱電変換材料、熱電変換素子、及び熱電変換モジュール>
本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料は、熱電変換材料として好適に使用できるものである。即ち、本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料は、無次元性能指数が0.665以上のものであるので、これを熱電変換材料として熱電変換素子、熱電変換モジュールに使用する場合に、高い熱電変換性能を得ることができる。
【0067】
<マグネシウム−ケイ素複合材料の製造方法等>
実質的にドーパントを含まない場合、本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料は、Mgの含有量が原子量比で66.17〜66.77at%であり、Siの含有量が原子量比で33.23〜33.83at%である組成原料を、開口部とこの開口部を覆う蓋部とを有し、上記開口部の辺縁における上記蓋部への接触面と、上記蓋部における上記開口部への接触面とが共に研磨処理された耐熱容器中で加熱溶融する工程を有する製造方法により製造される。
一方、ドーパントを含む場合、本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料は、Mgの含有量とSiの含有量との比が原子量比で66.17:33.83〜66.77:33.23であり、ドーパントの含有量が原子量比で0.10〜2.0at%である組成原料を、開口部とこの開口部を覆う蓋部とを有し、上記開口部の辺縁における上記蓋部への接触面と、上記蓋部における上記開口部への接触面とが共に研磨処理された耐熱容器中で加熱溶融する工程を有する製造方法により製造される。
【0068】
この製造方法は、好ましくは、Mg、Si、及び必要に応じてドーパントを混合して組成原料を得る混合工程と、この組成原料を加熱溶融する加熱溶融工程と、加熱溶融後の試料を粉砕する粉砕工程と、粉砕した上記試料を焼結する焼結工程とを有する。
【0069】
(混合工程)
実質的にドーパントを含まない場合、混合工程においては、MgとSiとを混合して、Mgの含有量が原子量比で66.17〜66.77at%であり、Siの含有量が原子量比で33.23〜33.83at%である組成原料を得る。
【0070】
Mgの含有量は、原子量比で66.27〜66.67at%であることが好ましく、このときのSiの含有量は、原子量比で33.33〜33.73at%であることが好ましい。
【0071】
Siとしては、例えば高純度シリコンを利用することができる。ここで、高純度シリコンとは、純度が99.9999%以上のもので、半導体や太陽電池等のシリコン製品の製造に用いられるものである。高純度シリコンとしては、具体的には、例えばLSI用高純度シリコン原料、太陽電池用高純度シリコン原料、高純度金属シリコン、高純度シリコンインゴット、高純度シリコンウエハ等を挙げることができる。
【0072】
Mgとしては、99.5%程度以上の純度を有するものであり、実質的に不純物を含有しないものである限り、特に限定されるものではない。
【0073】
一方、ドーパントを含む場合、混合工程においては、MgとSiとドーパントとを混合して、Mgの含有量とSiの含有量との比が原子量比で66.17:33.83〜66.77:33.23であり、ドーパントの含有量が原子量比で0.10〜2.00at%である組成原料を得る。
Mgの含有量とSiの含有量との比は、原子量比で66.27:33.73〜66.67:33.33であることが好ましい。
【0074】
(加熱溶融工程)
加熱溶融工程においては、混合工程にて得た組成原料を還元雰囲気下且つ好ましくは減圧下において、Mgの融点を超えSiの融点を下回る温度条件下で熱処理してMg2Siを溶融合成することが好ましい。ここで、「還元雰囲気下」とは、特に水素ガスを5体積%以上含み、必要に応じてその他の成分として、不活性化ガスを含む雰囲気を指す。斯かる還元雰囲気下で加熱溶融工程を行うことにより、MgとSiとを確実に反応させることでき、マグネシウム−ケイ素複合材料を合成することができる。
【0075】
加熱溶融工程における圧力条件としては、大気圧でもよいが、1.33×10−3Pa〜大気圧が好ましく、安全性を考慮すれば、例えば0.08MPa程度の減圧条件或いは真空条件で行うことが好ましい。
また、加熱溶融工程における加熱条件としては、700℃以上1410℃未満、好ましくは1085℃以上1410℃未満で、例えば3時間程度熱処理することができる。ここで、熱処理の時間は、例えば2〜10時間である。熱処理を長時間のものとすることにより、得られるマグネシウム−ケイ素複合材料をより均一化することができる。なお、Mg2Siの融点は1085℃であり、ケイ素の融点は1410℃である。
【0076】
ここで、Mgの融点である693℃以上に加熱することによりMgが溶融した場合、Siがその中に溶け込んで反応を開始するが、反応速度がやや遅いものとなる。一方、Mgの沸点である1090℃以上に加熱した場合、反応速度は速いものとなるが、Mgが急激に蒸気となって飛散するおそれがあるので注意して合成する必要がある。
【0077】
また、組成原料を熱処理する際の昇温条件としては、例えば、150℃に達するまでは150〜250℃/hの昇温条件、1100℃に達するまでは350〜450℃/hの昇温条件を挙げることができ、熱処理後の降温条件としては、900〜1000℃/hの降温条件を挙げることができる。
【0078】
なお、加熱溶融工程を行う際には、開口部とこの開口部を覆う蓋部とを備え、上記開口部の辺縁における上記蓋部への接触面と、上記蓋部における上記開口部への接触面とが共に研磨処理された耐熱容器中で行う必要がある。このように研磨処理することで、組成原料の組成比率に近い組成比率を有するマグネシウム−ケイ素複合材料を得ることができる。これは、上記蓋部と上記開口部の辺縁との接触面において隙間が形成されず、耐熱容器が密閉されるため、蒸発したMgの耐熱容器外への飛散を抑制することができるためと考えられる。
【0079】
上記開口部の辺縁における上記蓋部への接触面と、上記蓋部における上記開口部への接触面との研磨処理については特に限定されず、研磨処理されたものでありさえすればよい。しかし、特に、当該接触面の表面粗さRaを0.2〜1μmとすると密着状態を形成するのに好ましく、0.2〜0.5μmとすると更に好ましい。表面粗さが1μmを超えると、開口部の辺縁と蓋部との密着性が不十分になる場合がある。一方、表面粗さRaが0.2μm未満の場合、必要以上の研磨を行うこととなり、コスト面で好ましくない。また、上記接触面は、表面うねりRmaxが0.5〜3μmであることが好ましく、0.5〜1μmであることが更に好ましい。表面うねりRmaxが0.5μm未満の場合、必要以上の研磨を行うこととなり、コスト面で好ましくない。
【0080】
ここで、このような耐熱容器としては、アルミナ、マグネシア、ジルコニア、白金、イリジウム、シリコンカーバイト、ボロンナイトライド、パイロライティックボロンナイトライド、パイロライティックグラファイト、パイロライティックボロンナイトライドコート、パイロライティックグラファイトコート、及び石英からなる密閉容器を挙げることができる。また、上記耐熱容器の寸法としては、容器本体が内径12〜300mm、外径15〜320mm、高さ50〜250mmで、蓋部の直径が15〜320mmのものを挙げることができる。
【0081】
更に、上記開口部の辺縁における上記蓋部への接触面と、上記蓋部における上記開口部への接触面とを密着させるため、必要に応じて、上記蓋部の上面を直接又は間接におもりにて加圧することができる。当該加圧の際の圧力は、1〜10kg/cm2であることが好ましい。
【0082】
加熱溶融工程を還元雰囲気下において行うために使用するガスとしては、100体積%の水素ガスでもよいが、水素ガス5体積%以上を含む窒素ガス又はアルゴンガス等、水素ガスと不活性ガスとの混合ガスを挙げることができる。このように、加熱溶融工程を還元雰囲気下で行う理由としては、本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料を製造するにあたって、酸化ケイ素のみならず、酸化マグネシウムの生成を極力避ける必要があることを挙げることができる。
【0083】
加熱溶融された試料は、自然冷却及び強制冷却によって冷却することができる。
【0084】
(粉砕工程)
粉砕工程は、加熱溶融された試料を粉砕する工程である。粉砕工程においては、加熱溶融された試料を、微細で、狭い粒度分布を有する粒子に粉砕することが好ましい。微細で、狭い粒度分布を有する粒子に粉砕することにより、これを焼結する際に、粉砕された粒子同士がその表面の少なくとも一部において融着し、空隙(ボイド)の発生がほとんど観察されない程度に焼結することができ、理論値の約70%から理論値とほぼ同程度の密度を有する焼結体を得ることができる。
【0085】
粉砕した上記試料は、平均粒径が0.1〜100μm、好ましくは0.1〜50μm、更に好ましくは0.1〜0.2μmのものを使用することができる。具体的には、75μm篩パスで65μm篩オン、30μm篩パスで20μm篩オンの粒度の粒子を使用することができる。
【0086】
(焼結工程)
焼結工程は、粉砕した上記試料を焼結する工程である。焼結工程における焼結の条件としては、粉砕した上記試料を例えばグラファイト製の焼結用冶具内で、加圧圧縮焼結法により真空又は減圧雰囲気下で焼結圧力5〜60MPa、焼結温度600〜1000℃で焼結する方法を挙げることができる。
【0087】
焼結圧力が5MPa未満である場合、理論密度の約70%以上の十分な密度を有する焼結体を得ることが難しくなり、得られた試料が強度的に実用に供することができないものとなるおそれがある。一方、焼結圧力が60MPaを超える場合、コストの面で好ましくなく、実用的でない。また、焼結温度が600℃未満では、粒子同士が接触する面の少なくとも一部が融着して焼成された理論密度の70%から理論密度に近い密度を有する焼結体を得ることが難しくなり、得られた試料が強度的に実用に供することができないものとなるおそれがある。また、焼結温度が1000℃を超える場合には、温度が高すぎるために試料の損傷が生じるばかりでなく、場合によってはMgが急激に蒸気となって、飛散するおそれがある。
【0088】
具体的な焼結条件としては、例えば、焼結温度を600〜800℃の範囲内のものとし、焼結温度が600℃に近い温度にあるときには、焼結圧力を60MPaに近い圧力とし、焼結温度が800℃に近い温度であるときには、焼結圧力を5MPaに近い圧力として、5〜60分間程度、好ましくは10分間程度焼結する焼結条件を挙げることができる。斯かる焼結条件の下で焼結を行うことで、高い物理的強度と、理論密度とほぼ同等の密度とを有し、安定して高い熱電変換性能を発揮できる焼結体を得ることができる。
【0089】
また、焼結工程において、空気が存在する場合は、窒素やアルゴン等の不活性ガスを使用した雰囲気下で焼結することが好ましい。
【0090】
焼結工程において、加圧圧縮焼結法を採用する場合、ホットプレス焼結法(HP)、熱間等方圧焼結法(HIP)、及び放電プラズマ焼結法を採用することができる。これらの中でも、放電プラズマ焼結法が好ましい。
【0091】
放電プラズマ焼結法は、直流パルス通電法を用いた加圧圧縮焼結法の一種で、パルス大電流を種々の材料に通電することによって加熱・焼結する方法であり、原理的には金属・グラファイト等の導電性材料に電流を流し、ジュール加熱により材料を加工・処理する方法である。
【0092】
このようにして得られた焼結体は、高い物理的強度を有し、且つ安定して高い熱電変換性能を発揮できる焼結体となり、風化せず、耐久性に優れて、安定性及び信頼性に優れた熱電変換材料として使用できる。
【0093】
(熱電変換素子)
本発明に係る熱電変換素子は、熱電変換部と、該熱電変換部に設けられた第1電極及び第2電極とを備え、この熱電変換部が本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料を用いて製造されるものである。
【0094】
(熱電変換部)
熱電変換部としては、上記の焼結工程にて得られた焼結体を、ワイヤーソー等を用いて所望の大きさに切り出したものを用いることができる。
この熱電変換部は、通常、1種類の熱電変換材料を用いて製造されるが、複数種類の熱電変換材料を用いて複層構造を有する熱電変換部としてもよい。複層構造を有する熱電変換部は、焼結前の複数種類の熱電変換材料を所望の順序で積層した後、焼結することにより製造することができる(後述する実施例15を参照)。複数種類の熱電変換材料としては、ドーパントが異なる本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料の組み合わせであってもよく、実質的にドーパントを含まない本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料とドーパントを含む本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料との組み合わせであってもよい。或いは、本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料と従来公知の他の熱電変換材料との組み合わせであってもよい。ただし、マグネシウム−ケイ素複合材料同士を組み合わせる方が、膨張係数の違い等によって積層界面が劣化することがないため好ましい。
【0095】
このように熱電変換部を複層構造とすることにより、熱電変換部に所望の特性を持たせることが可能である。例えば、本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料がドーパントとしてSbを含む場合、高温における耐久性に優れた熱電変換材料を得ることができる。その一方で、Sbは環境負荷が大きいため、Sbの使用量はできる限り少なくすることが好ましい。そこで、熱電変換部を複層構造とし、第1電極又は第2電極に隣接した層にのみ、Sbを含むマグネシウム−ケイ素複合材料を用いることが可能である。Sbを含む層を熱電変換素子の高温側とすることで、高温における耐久性に優れ、且つ、環境負荷の抑えられた熱電変換素子を得ることができる。
【0096】
(電極)
上記第1電極及び第2電極の形成方法は特に限定されるものではないが、本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料を用いて製造された熱電変換素子は、メッキ法により電極を形成できることが特徴の1つである。
通常、マグネシウム−ケイ素複合材料を用いて製造された熱電変換部にメッキ法で電極を形成しようとした場合、材料中に残留する金属マグネシウムに起因して水素ガスが発生し、メッキの接着性が悪くなる。一方、本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料を用いて製造された熱電変換部の場合には、材料中に金属マグネシウムが殆ど含まれないため、メッキ法により接着性の高い電極を形成することが可能である。メッキ法としては、特に限定されないが、無電界ニッケルメッキが好ましい。
【0097】
メッキ法により電極を形成する前の焼結体の表面に、メッキを行うのに支障となる凹凸がある場合には、研磨して平滑にすることが好ましい。
このようにして得られたメッキ層付きの焼結体を、ワイヤーソーやブレードソーのような切断機で所定の大きさにカットして、第1電極、熱電変換部、及び第2電極からなる熱電変換素子が作製される。
【0098】
また、第1電極及び第2電極は、マグネシウム−ケイ素複合材料の焼結時に一体して形成することも可能である。即ち、電極材料、マグネシウム−ケイ素複合材料、電極材料をこの順で積層し、加圧圧縮焼結することにより、両端に電極が形成された焼結体を得ることができる(後述する実施例10等を参照)。
【0099】
本発明における加圧圧縮焼結法による電極の形成方法として、2つの方法について説明する。
第1の方法は、例えばグラファイトダイ及びグラファイト製パンチからなる円筒型の焼結用冶具内にその底部から順次、SiO2のような絶縁性材料粉末の層、Niのような電極形成用金属粉末の層、本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料の粉砕物の層、上記電極形成用金属粉末の層、上記絶縁性材料粉末の層を所定の厚さで積層した後、加圧圧縮焼結を行う。
上記絶縁性材料粉末は、焼結装置から電極形成用金属粉末に電気が流れるのを防止し、溶融を防ぐために有効であり、焼結後、形成された電極から該絶縁性材料を分離する。
第1の方法においては、カーボンペーパーを絶縁性材料粉末層と電極形成用金属粉末層との間に挟み、さらに円筒型焼結用冶具の側内壁表面にカーボンペーパーを設置しておけば、粉末同士の混合を防止し、また焼結後に電極と絶縁材料層を分離するのに有効である。
このようにして得られた焼結体の上下表面の多くは、凹凸が形成されるため、研磨して平滑にする必要があり、その後、ワイヤーソーやブレードソーのような切断機で所定の大きさにカットして、第1電極、熱電変換部、及び第2電極からなる熱電変換素子が作製される。
絶縁性材料粉末を用いない従来の方法によると、電流によって電極形成用金属粉末を溶融させてしまうため、大電流を使用できず電流の調整が難しく、したがって、得られた焼結体から電極が剥離してしまう問題があった。一方、第1の方法では絶縁性材料粉末層を設けることによって、大電流を用いることができ、その結果、初期の焼結体を得ることができる。
【0100】
第2の方法は、上記第1の方法における絶縁性材料粉末層を用いないで、円筒型の焼結用冶具内にその底部から順次、Niのような電極形成用金属粉末の層、本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料の粉砕物の層、上記電極形成用金属粉末の層を積層し、上記電極形成用金属粉末の層に接する焼結用冶具の上記グラファイトダイの表面に、BNのような絶縁性、耐熱性、且つ離型性のセラミックス粒子を塗布又はスプレーして、加圧圧縮焼結を行う。この場合、第1の方法のようにカーボンペーパーを使用する必要はない。
この第2の方法は、第1の方法の利点を全て有する上に、得られた焼結体の上下表面が平滑であるため、殆ど研磨する必要がないという利点を有する。
得られた焼結体を所定の大きさにカットして、第1電極、熱電変換部、及び第2電極からなる熱電変換素子を作製する方法は上記第1の方法と同様である。
【0101】
(熱電変換モジュール)
本発明に係る熱電変換モジュールは、上記のような本発明に係る熱電変換素子を備えるものである。
【0102】
熱電変換モジュールの一例としては、例えば図1及び図2に示すようなものが挙げられる。この熱電変換モジュールでは、本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料から得られたn型半導体及びp型半導体がそれぞれn型熱電変換部101及びp型熱電変換部102の熱電変換材料として用いられる。並置されたn型熱電変換部101及びp型熱電変換部102の上端部には電極1015,1025が、下端部には電極1016,1026がそれぞれ設けられる。そして、n型熱電変換部及びp型熱電変換部の上端部にそれぞれ設けられた電極1015,1025が接続されて一体化された電極を形成すると共に、n型熱電変換部及びp型熱電変換部の下端部にそれぞれ設けられた電極1016,1026は分離されて構成される。
【0103】
また、熱電変換モジュールの他の例としては、例えば図3及び図4に示すようなものが挙げられる。この熱電変換モジュールでは、本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料から得られたn型半導体がn型熱電変換部103の熱電変換材料として用いられる。n型熱電変換部103の上端部には電極1035が、下端部には電極1036がそれぞれ設けられる。
【0104】
本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料は、866Kにおける無次元性能指数が0.665以上であるため、例えば、マグネシウム−ケイ素複合材料を熱電変換モジュールに使用する場合に、高い熱電変換性能を得ることができる。
【実施例】
【0105】
以下、本発明について、実施例を挙げて詳細に説明する。なお、本発明は以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0106】
<<試験例1;マグネシウム−ケイ素複合材料の調製>>
<実施例1>
[混合工程]
高純度シリコン36.69質量部とマグネシウム63.52質量部とを混合し、Mg:Si=2:1の組成原料(66.67at%Mg、33.33at%Si)を得た。なお、高純度シリコンとしては、MEMC Electronic Materials社製で、純度が99.9999999%の半導体グレード、大きさが直径4mm以下の粒状のものを用いた。また、マグネシウムとしては、日本サーモケミカル社製で、純度が99.93%、大きさが1.4mm×0.5mmのマグネシウム片を用いた。
【0107】
[加熱溶融工程]
上記組成原料を、Al2O3製の溶融ルツボ(日本化学陶業社製、内径34mm、外径40mm、高さ150mm;蓋部は直径40mm、厚さ2.5mm)に投入した。当該溶融ルツボは、開口部の辺縁の蓋部への接触面と、蓋部の開口部の辺縁への接触面とが、表面粗さRaが0.5μm、表面うねりRmaxが1.0μmとなるように研磨されたものを用いた。溶融ルツボの開口部の辺縁と、蓋部とを密着させて、加熱炉内に静置し、加熱炉の外部からセラミック棒を介して、3kg/cm2となるようにおもりで加圧した。
【0108】
次いで、加熱炉の内部を、ロータリーポンプで5Pa以下となるまで減圧し、次いで拡散ポンプで1.33×10−2Paとなるまで減圧した。この状態で、加熱炉内を200℃/hで150℃に達するまで加熱し、150℃で1時間保持して組成原料を乾燥させた。この際、加熱炉内には、水素ガスとアルゴンガスとの混合ガスを充填し、水素ガスの分圧を0.005MPa、アルゴンガスの分圧を0.052MPaとした。
【0109】
その後、400℃/hで1100℃に達するまで加熱し、1100℃で3時間保持した。その後、100℃/hで900℃にまで冷却し、1000℃/hで室温にまで冷却した。
【0110】
[粉砕工程・焼結工程]
加熱溶融後の試料は、陶製乳鉢を用いて75μmにまで粉砕し、75μmの篩に通した粉末を得た。そして、図5に示すように、内径15mmのグラファイトダイ10と、グラファイト製パンチ11a,11bとで囲まれた空間に、粉砕したマグネシウム−ケイ素複合材料1.0gを仕込んだ。粉末の上下端には、パンチへのマグネシウム−ケイ素複合材料固着防止のためにカーボンペーパーを挟んだ。その後、放電プラズマ焼結装置(ELENIX社製、「PAS−III−Es」)を用いて真空雰囲気下で焼結を行った。焼結条件は下記のとおりである。
焼結温度:850℃
圧力:30.0MPa
昇温レート:300℃/min×2min(〜600℃)
100℃/min×2min(600〜800℃)
10℃/min×5min(800〜850℃)
0℃/min×5min(850℃)
冷却条件:真空放冷
雰囲気:Ar 60Pa(冷却時は真空)
【0111】
焼結後、付着したカーボンペーパーをサンドペーパーで除去し、マグネシウム−ケイ素複合材料(試料D)を得た。
【0112】
<実施例2>
混合工程において、高純度シリコンの添加量を36.91質量部に、マグネシウムの添加量を63.33質量部に変更して組成原料(66.47at%Mg、33.53at%Si)を得た点以外は実施例1と同様の方法により、マグネシウム−ケイ素複合材料(試料C)を得た。
【0113】
<実施例3>
混合工程において、高純度シリコンの添加量を36.58質量部に、マグネシウムの添加量を63.61質量部に変更して組成原料(66.77at%Mg、33.23at%Si)を得た点以外は実施例1と同様の方法により、マグネシウム−ケイ素複合材料(試料E)を得た。
【0114】
<比較例1>
加熱溶融工程において、溶融ルツボの開口部の辺縁の蓋部への接触面と、蓋部の、開口部の辺縁への接触面とが、研磨されていないものを用いた点以外は、実施例1と同様の方法によりマグネシウム−ケイ素複合材料を得た。
【0115】
<比較例2>
混合工程において、高純度シリコンの添加量を38.01質量部に、マグネシウムの添加量を62.37質量部に変更して組成原料(65.47at%Mg、34.53at%Si)を得た点以外は実施例1と同様の方法により、マグネシウム−ケイ素複合材料(試料B)を得た。
【0116】
<比較例3>
混合工程において、高純度シリコンの添加量を38.89質量部に、マグネシウムの添加量を61.61質量部に変更して組成原料(64.67at%Mg、35.33at%Si)を得た点以外は実施例1と同様の方法により、マグネシウム−ケイ素複合材料(試料A)を得た。
【0117】
<比較例4>
混合工程において、高純度シリコンの添加量を34.49質量部に、マグネシウムの添加量を65.42質量部に変更して組成原料(68.67at%Mg、31.33at%Si)を得た点以外は実施例1と同様の方法により、マグネシウム−ケイ素複合材料(試料F)を得た。
【0118】
<評価>
[ゼーベック係数、電気伝導率、及び熱伝導率の測定]
実施例1〜3、比較例1〜4で得られた各マグネシウム−ケイ素複合材料(焼結体)について、熱起電力・熱伝導率測定装置(アルバック理工社製、「ZEM2」)及びレーザーフラッシュ法熱伝導率測定装置(アルバック理工社製、「TC・7000H」)を用いて、動作温度350〜866Kにおけるゼーベック係数α、電気伝導率σ、及び熱伝導率κを測定した。測定した各種パラメーターを元に、上記式(1)に従って無次元性能指数ZTを算出した。866Kにおける結果を表1に示す。
また、実施例1〜3、比較例2〜4で得られた焼結体におけるゼーベック係数α、電気伝導率σ、及び熱伝導率κ、並びにパワーファクターα2σとMg濃度との関係を図6〜図9に示し、温度と熱電特性との関係を図10に示す。
【0119】
[光学顕微鏡等による試料の観察]
実施例1〜3、比較例2〜4で得られたマグネシウム−ケイ素複合材料(焼結体)を9μm、3μm、及び1μmの順にダイヤモンド砥粒で研磨し、結晶粒の凝集度を観察した。結果を表1及び図11に示す。なお、図11において、光学顕微鏡写真(a)〜(f)は、それぞれ上記試料A〜Fに対応し、光学顕微鏡写真(a)中の白ぬきの矢印は、未反応Siを、光学顕微鏡写真(f)中の黒塗りの矢印は、析出したMgを示す。
また、比較例1で得られたマグネシウム−ケイ素複合材料(焼結体)を9μm、3μm、及び1μmの順にダイヤモンド砥粒で研磨し、結晶粒の凝集度を観察した。結果を表1及び図12に示す。
【0120】
[空気中における変色の有無]
実施例1〜3、比較例2〜4で得られたマグネシウム−ケイ素複合材料(焼結体)を精密管状炉(精電舎電子工業社製、「SE−101」)に投入し、大気中、823Kで48時間加熱した。加熱後の焼結体について、目視にて変色の程度を観察した。結果を表1に示す。
【0121】
【表1】
【0122】
表1から分かるように、実施例1〜3のマグネシウム−ケイ素複合材料は、無次元性能指数が0.665以上となっている。加えて、上記マグネシウム−ケイ素複合材料は、熱伝導度についても3.50W/m・K以下となっている。このような結果より、本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料は、優れた熱電性能を示すことが分かる。更に、本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料は、メカニカルアロイ法により調製されたマグネシウム−ケイ素複合材料と比べても、良好な特性を有していることが分かる。
【0123】
一方、溶融ルツボと蓋部との接触面を研磨処理していない比較例1のマグネシウム−ケイ素複合材料においては、原料組成が実施例1と同じであるにも関わらず、無次元性能指数が0.573であった。加えて、光学顕微鏡下の観察により、未反応のSiが観察された。これは、研磨処理していないことにより溶融ルツボと蓋部との接触面における密閉性が悪くなり、蒸発したMgが飛散することにより、Siの割合が相対的に高くなったためと考えられる。
また、原料組成が実施例とは異なる比較例2〜4のマグネシウム−ケイ素複合材料においては、無次元性能指数が最大でも0.644であった。加えて、光学顕微鏡下の観察で、Mgの析出のある比較例4のマグネシウム−ケイ素複合材料では、823Kで48時間空気中に保持した場合に、表面に白色化の変色が見られ、耐久性に問題があることが分かった。このような結果から、特にMgの析出のあるマグネシウム−ケイ素複合材料は、酸化劣化を起こす可能性があるものと判断された。
【0124】
<<試験例2;X線回折>>
実施例1に倣って、Mgが64.67〜68.67at%、Siが31.33〜35.33at%の組成原料から、それぞれマグネシウム−ケイ素複合材料を調製した。これらの試料について、X線回折装置(リガク株式会社製、「RINT 2100 線型ゴニオメーター」)を用い、ターゲットをCu K−ALPHA 1、発散スリットを1deg、散乱スリットを1deg、発光スリットを0.3mmとし、走査範囲を2θ=5〜50度、スキャンスピードを4度/min、スキャンステップを0.020度、回転速度を60.00rpm、管電圧を40kV、管電流を40mAとしてX線回折を行った。Siピーク強度及びMgピーク強度は、それぞれ2θ=28.4度及び36.6度におけるピーク強度を6サンプルずつ計測することにより測定した。結果を表2及び図13に示す。
【表2】
【0125】
以上の結果より、Mg及びSiのピークについて、xをMgについての組成原料中の原子量比と化学量論比との差、yをピーク強度として、それぞれ、以下のとおり回帰直線を求めた。
Mgピーク:y=64.62x+6.4768(x≧0)
Siピーク:y=−271.2x+204.86(x≦0)
【0126】
この回帰直線によれば、組成原料中のMgの含有量が原子量比で66.17〜66.77at%である場合には、Mgピーク強度が12.9cps以下であり、Siピーク強度が340.5cps以下であることが分かる。
【0127】
<<試験例3;マグネシウム−ケイ素複合材料の調製>>
<実施例4>
[混合工程]
高純度シリコン36.44質量部と、マグネシウム63.08質量部と、アンチモン0.47質量部とを混合し、組成原料(66.60at%Mg、33.30at%Si、0.10at%Sb)を得た。なお、高純度シリコンとしては、MEMC Electronic Materials社製で、純度が99.9999999%の半導体グレード、大きさが直径4mm以下の粒状のものを用いた。また、マグネシウムとしては、日本サーモケミカル社製で、純度が99.93%、大きさが1.4mm×0.5mmのマグネシウム片を用いた。また、アンチモンとしては、エレクトロニクス エンド マテリアルズ コーポレーション社製で、純度が99.9999%、大きさが直径5mm以下の粒状のものを用いた。
【0128】
[加熱溶融工程]
上記組成原料を、Al2O3製の溶融ルツボ(日本化学陶業社製、内径34mm、外径40mm、高さ150mm;蓋部は直径40mm、厚さ2.5mm)に投入した。当該溶融ルツボは、開口部の辺縁の蓋部への接触面と、蓋部の開口部の辺縁への接触面とが、表面粗さRaが0.5μm、表面うねりRmaxが1.0μmとなるように研磨されたものを用いた。溶融ルツボの開口部の辺縁と、蓋部とを密着させて、加熱炉内に静置し、加熱炉の外部からセラミック棒を介して、3kg/cm2となるようにおもりで加圧した。
【0129】
次いで、加熱炉の内部を、ロータリーポンプで5Pa以下となるまで減圧し、次いで拡散ポンプで1.33×10−2Paとなるまで減圧した。この状態で、加熱炉内を200℃/hで150℃に達するまで加熱し、150℃で1時間保持して組成原料を乾燥させた。この際、加熱炉内には、水素ガスとアルゴンガスとの混合ガスを充填し、水素ガスの分圧を0.005MPa、アルゴンガスの分圧を0.052MPaとした。
【0130】
その後、400℃/hで1100℃に達するまで加熱し、1100℃で3時間保持した。その後、100℃/hで900℃にまで冷却し、1000℃/hで室温にまで冷却した。
【0131】
[粉砕工程・焼結工程]
加熱溶融後の試料は、陶製乳鉢を用いて75μmにまで粉砕し、75μmの篩に通した粉末を得た。そして、図5に示すように、内径15mmのグラファイトダイ10と、グラファイト製パンチ11a,11bとで囲まれた空間に、粉砕したマグネシウム−ケイ素複合材料1.0gを仕込んだ。粉末の上下端には、パンチへのマグネシウム−ケイ素複合材料固着防止のためにカーボンペーパーを挟んだ。その後、放電プラズマ焼結装置(ELENIX社製、「PAS−III−Es」)を用いて真空雰囲気下で焼結を行った。焼結条件は下記のとおりである。
焼結温度:850℃
圧力:30.0MPa
昇温レート:300℃/min×2min(〜600℃)
100℃/min×2min(600〜800℃)
10℃/min×5min(800〜850℃)
0℃/min×5min(850℃)
冷却条件:真空放冷
雰囲気:Ar 60Pa(冷却時は真空)
【0132】
焼結後、付着したカーボンペーパーをサンドペーパーで除去し、マグネシウム−ケイ素複合材料(焼結体)を得た。
【0133】
<実施例5>
混合工程において、高純度シリコンの添加量を35.76質量部に、マグネシウムの添加量を61.90質量部に、アンチモンの添加量を2.34質量部に変更して組成原料(66.33at%Mg、33.17at%Si、0.50at%)を得た点以外は実施例4と同様の方法により、マグネシウム−ケイ素複合材料(焼結体)を得た。
【0134】
<実施例6>
混合工程において、高純度シリコン36.23質量部と、マグネシウム62.72質量部と、アルミニウム1.06質量部とを混合し、組成原料(66.00at%Mg、33.00at%Si、1.00at%Al)を得た点、及び焼結条件を下記のとおりに変更した点以外は実施例4と同様の方法により、マグネシウム−ケイ素複合材料(焼結体)を得た。なお、アルミニウムとしては、フルウチ化学社製で、純度が99.99%、大きさが10mm×15mm×0.5mmのチップ状のものを用いた。
焼結温度:820℃
圧力:30.0MPa
昇温レート:300℃/min×2min(〜600℃)
100℃/min×2min(600〜800℃)
10℃/min×2min(800〜820℃)
0℃/min×5min(820℃)
冷却条件:真空放冷
雰囲気:Ar 60Pa(冷却時は真空)
【0135】
<実施例7>
混合工程において、高純度シリコン35.17質量部と、マグネシウム60.89質量部と、ビスマス3.95質量部とを混合し、組成原料(66.33at%Mg、33.17at%Si、0.50at%Bi)を得た点以外は実施例4と同様の方法により、マグネシウム−ケイ素複合材料(焼結体)を得た。なお、ビスマスとしては、三津和化学社製で、純度が99.99%、大きさが3mm以下の粒状のものを用いた。
【0136】
<実施例8>
混合工程において、高純度シリコン33.46質量部と、マグネシウム57.93質量部と、アルミニウム0.98質量部と、ビスマス7.62質量部とを混合し、組成原料(65.33at%Mg、32.66at%Si、1.00at%Al、1.00at%Bi)を得た点以外は実施例4と同様の方法により、マグネシウム−ケイ素複合材料(焼結体)を得た。なお、アルミニウムとしては、フルウチ化学社製で、純度が99.99%、大きさが10mm×15mm×0.5mmのチップ状のものを用いた。また、ビスマスとしては、三津和化学社製で、純度が99.99%、大きさが3mm以下の粒状のものを用いた。
【0137】
<比較例5>
[混合工程]
高純度シリコン35.76質量部と、マグネシウム61.90質量部と、アンチモン2.34質量部とを混合し、組成原料(66.33at%Mg、33.17at%Si、0.50at%Sb)を得た。なお、高純度シリコンとしては、MEMC Electronic Materials社製で、純度が99.9999999%の半導体グレード、大きさが直径4mm以下の粒状のものを用いた。また、マグネシウムとしては、日本サーモケミカル社製で、純度が99.93%、大きさが1.4mm×0.5mmのマグネシウム片を用いた。また、アンチモンとしては、エレクトロニクス エンド マテリアルズ コーポレーション社製で、純度が99.9999%、大きさが直径5mm以下の粒状のものを用いた。
【0138】
[焼結工程]
図5に示すように、内径15mmのグラファイトダイ10と、グラファイト製パンチ11a,11bとで囲まれた空間に、組成原料1.0gを仕込んだ。粉末の上下端には、パンチへのマグネシウム−ケイ素複合材料固着防止のためにカーボンペーパーを挟んだ。その後、放電プラズマ焼結装置(ELENIX社製、「PAS−III−Es」)を用いて真空雰囲気下で焼結を行った。焼結条件は下記のとおりである。
焼結温度:850℃
圧力:30.0MPa
昇温レート:300℃/min×2min(〜600℃)
100℃/min×2min(600〜800℃)
10℃/min×5min(800〜850℃)
0℃/min×5min(850℃)
冷却条件:真空放冷
雰囲気:Ar 60Pa(冷却時は真空)
【0139】
焼結後、付着したカーボンペーパーをサンドペーパーで除去し、マグネシウム−ケイ素複合材料(焼結体)を得た。
【0140】
<評価>
[ゼーベック係数、電気伝導率、及び熱伝導率の測定]
実施例4〜8、比較例5で得られた各マグネシウム−ケイ素複合材料について、熱起電力・熱伝導率測定装置(アルバック理工社製、「ZEM2」)及びレーザーフラッシュ法熱伝導率測定装置(アルバック理工社製、「TC・7000H」)を用いて、動作温度350〜866Kにおけるゼーベック係数α、電気伝導率σ、及び熱伝導率κを測定した。測定した各種パラメーターを元に、上記式(1)に従って無次元性能指数ZTを算出した。866Kにおける結果を表3に示す。
また、実施例4〜8、比較例5で得られたマグネシウム−ケイ素複合材料における温度と熱電特性との関係を図14に示す。
【0141】
【表3】
【0142】
表3から分かるように、実施例4〜8のマグネシウム−ケイ素複合材料は、無次元性能指数が0.665以上となっている。加えて、上記マグネシウム−ケイ素複合材料は、熱伝導度についても3.50W/m・K以下となっている。このような結果より、本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料は、優れた熱電性能を示すことが分かる。
一方、原料組成が実施例とは異なる比較例5のマグネシウム−ケイ素複合材料においては、無次元性能指数が最大でも0.551であった。
【0143】
<<試験例4;X線回折>>
実施例4〜8、比較例5で得られた各マグネシウム−ケイ素複合材料について、X線回折装置(リガク株式会社製、「RINT 2100 線型ゴニオメーター」)を用い、ターゲットをCu K−ALPHA 1、発散スリットを1deg、散乱スリットを1deg、発光スリットを0.3mmとし、走査範囲を2θ=5〜50度、スキャンスピードを4度/min、スキャンステップを0.020度、回転速度を60.00rpm、管電圧を40kV、管電流を40mAとしてX線回折を行った。Si及びMgのピーク位置はドーパント種やその含有量により若干の干渉を受ける。そこで、Siピーク強度は2θ=28.30〜28.52度、Mgピーク強度は36.34〜36.68度におけるピーク強度を3サンプルずつ計測することにより測定した。結果を表4に示す。
【表4】
【0144】
表4から分かるように、本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料がドーパントを含む場合であっても、Mgピーク強度は12.9cps以下であり、Siピーク強度は340.5cps以下であった。
【0145】
<<試験例5;熱電変換素子の製造>>
<実施例9>
実施例1に倣って、Mgが66.67at%、Siが33.33at%の組成原料からマグネシウム−ケイ素複合材料(焼結体)を調製した。
ワイヤーソーを用いて2mm×2mm×10mmの焼結体を切り出し、アセトン:エタノール=1:1の混合溶媒に20分間浸漬して脱脂した。脱脂後、還元剤としてDMAB(ジメチルアミンボラン)を含む63℃のニッケルメッキ液(日本カニゼン社製、「SFB−26」)中に35分間浸漬し、焼結体の両端に無電界ニッケルメッキ処理を施した。その後、卓上型ランプ加熱装置(アルバック理工社製、「MILA−3000」)を用い、アルゴンガスフロー雰囲気下、600℃で10時間、加熱処理を行った。メッキ法によりNi電極が形成された熱電変換素子を図15に示す。
【0146】
<実施例10>
[混合工程]
高純度シリコン36.69質量部と、マグネシウム63.52質量部とを混合し、Mg:Si=2:1の組成原料(66.67at%Mg、33.33at%Si)を得た。なお、高純度シリコンとしては、MEMC Electronic Materials社製で、純度が99.9999999%の半導体グレード、大きさが直径4mm以下の粒状のものを用いた。また、マグネシウムとしては、日本サーモケミカル社製で、純度が99.93%、大きさが1.4mm×0.5mmのマグネシウム片を用いた。
【0147】
[加熱溶融工程]
上記組成原料を、Al2O3製の溶融ルツボ(日本化学陶業社製、内径34mm、外径40mm、高さ150mm;蓋部は直径40mm、厚さ2.5mm)に投入した。当該溶融ルツボは、開口部の辺縁の蓋部への接触面と、蓋部の開口部の辺縁への接触面とが、表面粗さRaが0.5μm、表面うねりRmaxが1.0μmとなるように研磨されたものを用いた。溶融ルツボの開口部の辺縁と、蓋部とを密着させて、加熱炉内に静置し、加熱炉の外部からセラミック棒を介して、3kg/cm2となるようにおもりで加圧した。
【0148】
次いで、加熱炉の内部を、ロータリーポンプで5Pa以下となるまで減圧し、次いで拡散ポンプで1.33×10−2Paとなるまで減圧した。この状態で、加熱炉内を200℃/hで150℃に達するまで加熱し、150℃で1時間保持して組成原料を乾燥させた。この際、加熱炉内には、水素ガスとアルゴンガスとの混合ガスを充填し、水素ガスの分圧を0.005MPa、アルゴンガスの分圧を0.052MPaとした。
【0149】
その後、400℃/hで1100℃に達するまで加熱し、1100℃で3時間保持した。その後、100℃/hで900℃にまで冷却し、1000℃/hで室温にまで冷却した。
【0150】
[粉砕工程・焼結工程]
加熱溶融後の試料は、陶製乳鉢を用いて75μmにまで粉砕し、75μmの篩に通した粉末を得た。そして、図5に示すように、内径15mmのグラファイトダイ10と、グラファイト製パンチ11a,11bとで囲まれた空間に、Ni粉末0.3g(平均粒径2μm、純度99.9%)、粉砕したマグネシウム−ケイ素複合材料3.55g、Ni粉末0.3gをこの順で仕込み、熱電変換層、Ni電極層を形成した。更に、焼結装置からのNiへの大電流によるNiの漏れ等を防ぐため、Ni電極層の外側には、SiO2粉末0.1g(平均粒径63μm、純度99.9%)をそれぞれ仕込み、SiO2層とした。なお、SiO2層とNi電極層との間には、粉末の混合防止用にカーボンペーパーを挟んだ。
【0151】
その後、放電プラズマ焼結装置(ELENIX社製、「PAS−III−Es」)を用いて焼結を行った。焼結条件は下記のとおりである。
焼結温度:850℃
圧力:30.0MPa
昇温レート:300℃/min×2min(〜600℃)
100℃/min×2min(600〜800℃)
10℃/min×5min(800〜850℃)
0℃/min×5min(850℃)
冷却条件:真空放冷
雰囲気:Ar 60Pa(冷却時は真空)
【0152】
焼結後、付着したカーボンペーパーをサンドペーパーで除去し、ワイヤーソーを用いて2mm×2mm×10mmの熱電変換素子を切り出した。
【0153】
<評価>
[出力電力の測定]
実施例9及び10で得られた各熱電変換素子について、熱電特性評価装置(ユニオンマテリアル社製、「UMTE−1000M」)を用いて出力電力を測定した。具体的には、低温側を100℃に固定し、高温側を200〜600℃まで変化させて、温度差ΔTを100〜500Kとして測定した。結果を図16に示す。
図16から分かるように、メッキ法により電極を形成した実施例9の熱電変換素子は、従来のようにマグネシウム−ケイ素複合材料と電極材料とを一体焼結した実施例10の熱電変換素子と同等の出力電力が得られている。このことから、メッキ法により電極を形成した場合でも、良好な電極接合状態が得られていることが分かる。
【0154】
<<試験例6;マグネシウム−ケイ素複合材料からの水素ガス発生の有無の確認>>
通常、マグネシウム−ケイ素複合材料を用いて製造された熱電変換部にメッキ法で電極を形成しようとした場合、材料中に残留する金属マグネシウムに起因して水素ガスが発生し、メッキの接着性が悪くなる。一方、本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料を用いて製造された熱電変換部の場合には、実施例9に示したようにメッキ法により電極を形成することができたが、これは、材料中に金属マグネシウムが殆ど含まれず、水素ガスが発生しないためである。
そこで、本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料から水素ガスが発生しないことを確認するため、実施例1に倣って、Mgが66.67at%、Siが33.33at%の組成原料からマグネシウム−ケイ素複合材料(焼結体)を調製した。
【0155】
また、比較のため、Mgが66.67at%、Siが33.33at%の組成原料を、図5のグラファイトダイ10とグラファイト製パンチ11a,11bとで囲まれた空間に仕込み、下記の条件で焼結して、マグネシウム−ケイ素複合材料(焼結体)を調製した。
焼結温度:600℃
圧力:30.0MPa
昇温レート:300℃/min×2min(〜600℃)
0℃/min×15min(600℃)
冷却条件:真空放冷
雰囲気:Ar 60Pa(冷却時は真空)
【0156】
焼結体を水中に浸漬した状態を図17に示す。図中左側が本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料であり、図中右側が比較用のマグネシウム−ケイ素複合材料である。図17から分かるように、本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料からは水素ガスが発生していないが、比較用のマグネシウム−ケイ素複合材料には多数の気泡が付着しており、水素ガスが発生していることが確認される。
【0157】
<<試験例7;熱電変換素子の製造>>
<実施例11>
実施例4に倣ってMgが66.60at%、Siが33.30at%、Sbが0.10at%の組成原料を用いた点以外は実施例10と同様の方法により、熱電変換素子を製造した。
【0158】
<実施例12>
実施例5に倣ってMgが66.33at%、Siが33.17at%、Sbが0.50at%の組成原料を用いた点以外は実施例10と同様の方法により、熱電変換素子を製造した。
【0159】
<実施例13>
Mgが66.00at%、Siが33.00at%、Sbが1.00at%の組成原料を用いた点以外は実施例10と同様の方法により、熱電変換素子を製造した。
【0160】
<比較例6>
[混合工程] 高純度シリコン36.69質量部と、マグネシウム63.52質量部とを混合し、組成原料(66.67at%Mg、33.33at%Si)を得た。なお、高純度シリコンとしては、MEMC Electronic Materials社製で、純度が99.9999999%の半導体グレード、大きさが直径4mm以下の粒状のものを用いた。また、マグネシウムとしては、日本サーモケミカル社製で、純度が99.93%、大きさが1.4mm×0.5mmのマグネシウム片を用いた。
【0161】
[焼結工程]
図5に示すように、内径15mmのグラファイトダイ10と、グラファイト製パンチ11a,11bとで囲まれた空間に、Ni粉末0.3g(平均粒径2μm、純度99.9%)、組成原料3.55g、Ni粉末0.3gをこの順で仕込み、熱電変換層、Ni電極層を形成した。更に、焼結装置からのNiへの大電流によるNiの漏れ等を防ぐため、Ni電極層の外側には、SiO2粉末0.1g(平均粒径63μm、純度99.9%)をそれぞれ仕込み、SiO2層とした。なお、SiO2層とNi電極層との間には、粉末の混合防止用にカーボンペーパーを挟んだ。
【0162】
その後、放電プラズマ焼結装置(ELENIX社製、「PAS−III−Es」)を用いて焼結を行った。焼結条件は下記のとおりである。
焼結温度:600℃
圧力:30.0MPa
昇温レート:300℃/min×2min(〜600℃)
0℃/min×15min(600℃)
冷却条件:真空放冷
雰囲気:Ar 60Pa(冷却時は真空)
【0163】
焼結後、付着したカーボンペーパーをサンドペーパーで除去し、ワイヤーソーを用いて2mm×2mm×10mmの熱電変換素子を切り出した。
【0164】
<比較例7>
Mgが66.33at%、Siが33.17at%、Sbが0.50at%の組成原料を用いた点以外は比較例6と同様の方法により、熱電変換素子を製造した。
【0165】
<評価>
[耐久試験による抵抗率の変化]
実施例10〜13、比較例6及び7で得られた各熱電変換素子について、熱電特性評価装置(ユニオンマテリアル社製、「UMTE−1000M」)を用いて、耐久試験を行った。具体的には、低温側を50℃、高温側を600℃に固定した状態で100時間経過させ、室温における抵抗率の変化を測定した。1時間経過後の抵抗率を基準としたときの、2,5,10,20,50,100時間経過後における抵抗率の増減割合(%)を表5に示す。
【0166】
【表5】
【0167】
表5から分かるように、実施例10の熱電変換素子は、100時間の耐久試験により抵抗率がやや増加したが、ドーパントとしてSbを含むマグネシウム−ケイ素複合材料を用いた実施例11〜13の熱電変換素子は、100時間の耐久試験によっても抵抗率の変化が少なく、耐久性に優れたものであった。
これに対して、原料組成が実施例とは異なるマグネシウム−ケイ素複合材料を用いた比較例6及び7の熱電変換素子は、10時間程度で抵抗率が著しく大きくなり、耐久性に劣るものであった。
【0168】
<<試験例8;熱電変換素子の製造>>
<実施例14>
実施例6に倣ってMgが66.00at%、Siが33.00at%、Alが1.00at%の組成原料を用いた点、及び焼結条件を下記のとおりに変更した点以外は実施例10と同様の方法により、熱電変換素子を製造した。
焼結温度:820℃
圧力:30.0MPa
昇温レート:300℃/min×2min(〜600℃)
100℃/min×2min(600〜800℃)
10℃/min×2min(800〜820℃)
0℃/min×5min(820℃)
冷却条件:真空放冷
雰囲気:Ar 60Pa(冷却時は真空)
【0169】
<実施例15>
実施例5に倣ってMgが66.33at%、Siが33.17at%、Sbが0.50at%の組成原料を用いた点以外は実施例10と同様の方法により、粉砕後の試料を得た。
また、実施例6に倣ってMgが66.00at%、Siが33.00at%、Alが1.00at%の組成原料を用いた点以外は実施例10と同様の方法により、粉砕後の試料を得た。
そして、図5に示すように、内径15mmのグラファイトダイ10と、グラファイト製パンチ11a,11bとで囲まれた空間に、Ni粉末0.3g(平均粒径2μm、純度99.9%)、ドーパントとしてSbを含む粉砕したマグネシウム−ケイ素複合材料1.77g、ドーパントとしてAlを含む粉砕したマグネシウム−ケイ素複合材料1.77g、Ni粉末0.3gをこの順で仕込み、熱電変換層、Ni電極層を形成した。更に、焼結装置からのNiへの大電流によるNiの漏れ等を防ぐため、Ni電極層の外側には、SiO2粉末0.1g(平均粒径63μm、純度99.9%)をそれぞれ仕込み、SiO2層とした。なお、SiO2層とNi電極層との間には、粉末の混合防止用にカーボンペーパーを挟んだ。
その後、実施例10と同様の方法により放電プラズマ焼結を行い、熱電変換素子を製造した。
【0170】
<評価>
[耐久試験による出力電力の変化]
実施例12、14、及び15で得られた各熱電変換素子について、熱電特性評価装置(ユニオンマテリアル社製、「UMTE−1000M」)を用いて出力電力を測定した。具体的には、低温側を100℃に固定し、高温側を200〜600℃まで変化させて、温度差ΔTを100〜500Kとして測定した。なお、実施例15の熱電変換素子については、ドーパントとしてSbを含む側を高温側、ドーパントとしてAlを含む側を低温側とした。
また、低温側を50℃、高温側を600℃に固定した状態で1000時間経過させた後、上記と同様にして出力電力を測定した結果を図18に示す。
図18から分かるように、ドーパントとしてSbを含む実施例12の熱電変換素子は、1000時間の耐久試験後にも出力電力が殆ど変化しなかったが、ドーパントとしてAlを含む実施例14の熱電変換素子は、1000時間の耐久試験後に出力電力が10mW程度低下した。一方、ドーパントとしてSb及びAlを含み、Sbを含む側を高温側とした実施例15の熱電変換素子は、実施例14の熱電変換素子よりも出力電力の低下が抑えられた。
【0171】
<<試験例9;熱電変換素子の製造>>
<実施例16>
[混合工程]
高純度シリコン36.69質量部と、マグネシウム63.52質量部とを混合し、Mg:Si=2:1の組成原料(66.67at%Mg、33.33at%Si)を得た。なお、高純度シリコンとしては、MEMC Electronic Materials社製で、純度が99.9999999%の半導体グレード、大きさが直径4mm以下の粒状のものを用いた。また、マグネシウムとしては、日本サーモケミカル社製で、純度が99.93%、大きさが1.4mm×0.5mmのマグネシウム片を用いた。
【0172】
[加熱溶融工程]
上記組成原料を、Al2O3製の溶融ルツボ(日本化学陶業社製、内径34mm、外径40mm、高さ150mm;蓋部は直径40mm、厚さ2.5mm)に投入した。当該溶融ルツボは、開口部の辺縁の蓋部への接触面と、蓋部の開口部の辺縁への接触面とが、表面粗さRaが0.5μm、表面うねりRmaxが1.0μmとなるように研磨されたものを用いた。溶融ルツボの開口部の辺縁と、蓋部とを密着させて、加熱炉内に静置し、加熱炉の外部からセラミック棒を介して、3kg/cm2となるようにおもりで加圧した。
【0173】
次いで、加熱炉の内部を、ロータリーポンプで5Pa以下となるまで減圧し、次いで拡散ポンプで1.33×10−2Paとなるまで減圧した。この状態で、加熱炉内を200℃/hで150℃に達するまで加熱し、150℃で1時間保持して組成原料を乾燥させた。この際、加熱炉内には、水素ガスとアルゴンガスとの混合ガスを充填し、水素ガスの分圧を0.005MPa、アルゴンガスの分圧を0.052MPaとした。
【0174】
その後、400℃/hで1100℃に達するまで加熱し、1100℃で3時間保持した。その後、100℃/hで900℃にまで冷却し、1000℃/hで室温にまで冷却した。
【0175】
[粉砕工程・焼結工程]
加熱溶融後の試料は、陶製乳鉢を用いて75μmにまで粉砕し、75μmの篩に通した粉末を得た。そして、図5に示すように、内径15mmのグラファイトダイ10と、グラファイト製パンチ11a,11bとで囲まれた空間に、Ni粉末0.3g(平均粒径2μm、純度99.9%)、粉砕したマグネシウム−ケイ素複合材料3.55g、Ni粉末0.3gをこの順で仕込み、熱電変換層、Ni電極層を形成した。ただし、グラファイトダイの焼結試料に接する表面にのみ、予め窒化硼素等の耐熱離型セラミックス粉末を含んだ液体を塗布又はスプレーし、焼結装置からのNiへの大電流によるNiの漏れ等を防ぐためのSiO2層及び粉末の混合防止用のカーボンペーパーの代替とした。
【0176】
その後、放電プラズマ焼結装置(ELENIX社製、「PAS−III−Es」)を用いて焼結を行った。焼結条件は下記のとおりである。
焼結温度:840℃
圧力:30.0MPa
矩形波電流通電1min後、下記レートで昇温
昇温レート:300℃/min×2min(〜600℃)
100℃/min×2min(600〜800℃)
10℃/min×4min(800〜840℃)
0℃/min×5min(840℃)
冷却条件:真空放冷
雰囲気:Ar 60Pa(冷却時は真空)
【0177】
焼結後、電極層に付着した窒化硼素等の耐熱離型セラミックス粉末を除去した。得られた焼結ペレットの上下表面はほぼ平滑であったが、グラインダーで焼結ペレットのバリを除去した後、ワイヤーソーを用いて2mm×2mm×10mmの熱電変換素子を切り出した。
【0178】
<評価>
焼結装置からのNiへの大電流によるNiの漏れ等を防ぐためのSiO2層と粉末の混合防止用のカーボンペーパーとを使用した実施例10における焼結ペレットと、実施例16における焼結ペレットとについて、平滑になるように上下面のNi電極をグラインダーにて研磨した。研磨前後における焼結ペレットの高さ(mm)を表6に示す。
【0179】
【表6】
【0180】
表6から分かるように、実施例16のように耐熱性離型剤を用いた場合には、実施例10のようにSiO2層と粉末の混合防止用のカーボンペーパーとを用いる必要がない上、焼結ペレット表面の平滑性も向上するため、Ni電極の研磨量も少なくて済む。したがって、簡易且つ効率よく、信頼性の高い熱電変換素子を提供することができる。
【符号の説明】
【0181】
101 n型熱電変換部
1015,1016 電極
102 p型熱電変換部
1025,1026 電極
103 n型熱電変換部
1035,1036 電極
3 負荷
4 直流電源
10 グラファイトダイ
11a,11b グラファイト製パンチ
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウム−ケイ素複合材料;熱電変換材料、熱電変換素子、及び熱電変換モジュール;並びにマグネシウム−ケイ素複合材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題の高まりに応じて、各種のエネルギーを効率的に利用する様々な手段が検討されている。特に、産業廃棄物の増加等に伴って、これらを焼却する際に生じる廃熱の有効利用が課題となっている。例えば大型廃棄物焼却施設では、廃熱により高圧の蒸気を発生させ、この蒸気により蒸気タービンを回転させて発電することにより廃熱回収が行われている。しかし、廃棄物焼却施設の大多数を占める中型・小型廃棄物焼却施設では、廃熱の排出量が少ないため、蒸気タービン等により発電する廃熱の回収方法は採用できていない。
【0003】
このような中型・小型の廃棄物焼却施設において採用することが可能な廃熱を利用した発電方法としては、例えば、ゼーベック効果或いはペルチェ効果を利用して可逆的に熱電変換を行う熱電変換材料・熱電変換素子・熱電変換モジュールを用いた方法が提案されている。
【0004】
熱電変換モジュールとしては、例えば図1及び図2に示すようなものが挙げられる。この熱電変換モジュールでは、熱伝導率の小さいn型半導体及びp型半導体がそれぞれn型熱電変換部101及びp型熱電変換部102の熱電変換材料として用いられる。並置されたn型熱電変換部101及びp型熱電変換部102の上端部には電極1015,1025が、下端部には電極1016,1026がそれぞれ設けられる。そして、n型熱電変換部及びp型熱電変換部の上端部にそれぞれ設けられた電極1015,1025が接続されて一体化された電極を形成すると共に、n型熱電変換部及びp型熱電変換部の下端部にそれぞれ設けられた電極1016,1026は分離されて構成される。
【0005】
ここで、図1に示すように、電極1015,1025の側を加熱し、電極1016,1026の側から放熱することで、電極1015,1025と、電極1016,1026との間に正の温度差(Th−Tc)が生じ、熱励起されたキャリアによってp型熱電変換部102がn型熱電変換部101よりも高電位となる。このとき、電極1016と電極1026との間に負荷として抵抗3を接続することで、p型熱電変換部102からn型熱電変換部101へと電流が流れる。
【0006】
一方、図2に示すように、直流電源4によってp型熱電変換部102からn型熱電変換部101へと直流電流を流すことで、電極1015,1025において吸熱作用が生じ、電極1016,1026において発熱作用が生じる。また、n型熱電変換部101からp型熱電変換部102へと直流電流を流すことで、電極1015,1025において発熱作用が生じ、電極1016,1026において吸熱作用が生じる。
【0007】
熱電変換モジュールの他の例としては、例えば図3及び図4に示すようなものが挙げられる(例えば特許文献1を参照)。この熱電変換モジュールでは、熱伝導率の小さいn型半導体のみが熱電変換材料として用いられる。n型熱電変換部103の上端部には電極1035が、下端部には電極1036がそれぞれ設けられる。
【0008】
この場合、図3に示すように、電極1035側を加熱し、電極1036側から放熱することで、電極1035と電極1036との間に正の温度差(Th−Tc)が生じ、電極1035側が電極1036側よりも高電位となる。このとき、電極1035と電極1036との間に負荷として抵抗3を接続することで、電極1035側から電極1036側へと電流が流れる。
【0009】
一方、図4に示すように、直流電源4によって電極1036側からn型熱電変換部103を経て電極1035側へと直流電流を流すことで、電極1035において吸熱作用が生じ、電極1036において発熱作用が生じる。また、直流電源4によって電極1035側からn型熱電変換部103を経て電極1036へと直流電流を流すことで、電極1035において発熱作用が生じ、電極1036において吸熱作用が生じる。
【0010】
このように極めてシンプルな構成で効率的に熱電変換を行うことができる熱電変換素子は、従来特殊な用途を中心に応用展開されている。
【0011】
ここで、従来、Bi−Te系、Co−Sb系、Zn−Sb系、Pb−Te系、Ag−Sb−Ge−Te系等の熱電変換材料により、燃料電池、自動車、ボイラー・焼却炉・高炉等の約200℃から800℃程度の廃熱源を利用して電気に変換する試みが行われてきた。しかし、このような熱電変換材料には有害物質が含まれるため、環境負荷が大きくなるという問題があった。
【0012】
また、高温用途で用いるものとしては、B4C等、ホウ素を多量に含むホウ化物、LaS等のレアアース金属カルコゲナイト等が研究されているが、B4CやLaS等の金属間化合物を主体とする非酸化物系の材料は、真空中で比較的高い性能を発揮するものの、高温下で結晶相の分解が生じる等、高温領域での安定性が劣るという問題があった。
【0013】
一方、環境負荷が少ないMg2Si(例えば特許文献2及び3、非特許文献1〜3を参照)、Mg2Si1−xCx(例えば非特許文献4を参照)等のシリサイド系(珪化物系)の金属間化合物を含む材料も研究されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平11−274578号公報
【特許文献2】特開2005−314805号公報
【特許文献3】特開2002−285274号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Semiconducting Properties of Mg2Si Single Crystals Physical Review Vol.109,No.6,March 15,1958,p.1909−1915
【非特許文献2】Seebeck Effect In Mg2Si Single Crystals J.Phys.Chem.Solids Program Press 1962.Vol.23,pp.601−610
【非特許文献3】Bulk Crystals Growth of Mg2Si by the vertical Bridgman method Science Direct Thin Solid Films 461(2004)86−89
【非特許文献4】Thermoelectric Properties of Mg2Si Crystal Grown by the Bridgeman method
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかし、上記Mgを含有するシリサイド系の金属間化合物を含む材料は、熱電変換性能が低いといった問題点があり、Mgを含有するシリサイド系の金属間化合物を含む材料を実際に熱電変換モジュールに実用化するには至っていなかった。
【0017】
特に、従来、Mg2Siを含む材料は知られてはいたものの、このようなMg2Siを含む材料中のMg及びSiの含有量を適切に調整することは困難であったため、特に高い熱電変換性能を有するマグネシウム−ケイ素複合材料は得られていなかった。このため、Mg2Siを含む材料中において、Mg及びSiの含有量が適切に調整され、結果として高い熱電変換性能を有するマグネシウム−ケイ素複合材料が求められていた。
【0018】
更に、特許文献2に記載のマグネシウム−ケイ素複合材料については、これが有する熱電特性については、全く検討されていない。しかし、本発明者らが検討したところによれば、特許文献2に記載のマグネシウム−ケイ素複合材料は、本願で必要とされるマグネシウム−ケイ素複合材料の特性を有しないものであった。
【0019】
本発明は、以上の課題に鑑みてなされたものであり、環境に負荷を与えない金属間化合物としてMg2Siを含み、熱電変換モジュールの材料として好適に使用可能なマグネシウム−ケイ素複合材料であって、優れた熱電変換性能を有するマグネシウム−ケイ素複合材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、866Kにおける無次元性能指数が0.665以上であるマグネシウム−ケイ素複合材料の調製を実現し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0021】
[1] 866Kにおける無次元性能指数が0.665以上であり、実質的にドーパントを含まないマグネシウム−ケイ素複合材料。
【0022】
[1]に記載のマグネシウム−ケイ素複合材料は、MgとSiとの原子量比が略2:1であり、866Kにおける無次元性能指数が0.665以上であり、実質的にドーパントを含まないものである。このため、例えば、マグネシウム−ケイ素複合材料を熱電変換モジュールに使用する場合に、高い熱電変換性能を得ることができる。
【0023】
ここで、熱電変換材料の熱電変換性能は、一般に下記式(1)で表される性能指数(単位:K−1)によって評価される。
【数1】
[上記式(1)において、αはゼーベック係数を、σは電気伝導率を、κは熱伝導率を示す。]
【0024】
この性能指数に絶対温度Tを乗じて無次元化したものが、無次元性能指数ZTであり、[1]に記載の発明においては、この無次元性能指数ZTが0.665以上であることを規定するものである。
【0025】
なお、一般に熱電変換材料においては無次元性能指数が0.5以上であることが実用化の目安とされており、ゼーベック係数及び電気伝導率が高いほど、或いは熱伝導率が低いほど、性能指数及び無次元性能指数の大きな熱電変換材料が得られる傾向にある。
【0026】
[2] 管電圧40kV、管電流40mAの条件下におけるX線回折において、2θ=36.6度におけるMgピーク強度が12.9cps以下であり、2θ=28.4度におけるSiピーク強度が340.5cps以下である[1]に記載のマグネシウム−ケイ素複合材料。
【0027】
[2]に記載の発明は、[1]に記載の発明を、X線回折におけるMg及びSiのピーク強度で示したものである。特に、本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料は、Mgピーク強度が小さく、材料中に金属マグネシウムが殆ど含まれない点に特徴を有する。[2]に記載の発明によれば、[1]に記載の発明と同等の効果を得ることができる。
【0028】
[3] Mgの含有量が原子量比で66.17〜66.77at%であり、Siの含有量が原子量比で33.23〜33.83at%である組成原料から合成される[1]又は[2]に記載のマグネシウム−ケイ素複合材料。
【0029】
[3]に記載の発明は、[1]又は[2]に記載の発明をマグネシウム−ケイ素複合材料の組成原料の成分組成で示したものである。[3]に記載の発明によれば、[1]又は[2]に記載の発明と同等の効果を得ることができる。
【0030】
[4] ドーパントを含有し、管電圧40kV、管電流40mAの条件下におけるX線回折において、2θ=36.34〜36.68度におけるMgピーク強度が12.9cps以下であり、2θ=28.30〜28.52度におけるSiピーク強度が340.5cps以下である[1]に記載のマグネシウム−ケイ素複合材料。
【0031】
[5] ドーパントを原子量比で0.10〜2.00at%含有する[4]に記載のマグネシウム−ケイ素複合材料。
【0032】
本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料は、ドーパントを含有していてもよい。ドーパントの含有量は、例えば原子量比で0.10〜2.00at%である。このようにドーパントを含む場合であっても無次元性能指数ZTが0.665以上となるため、マグネシウム−ケイ素複合材料を熱電変換モジュールに使用する場合に、高い熱電変換性能を得ることができる。
また、本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料は、ドーパントを含む場合であっても、Mgピーク強度が小さく、材料中に金属マグネシウムが殆ど含まれない点に特徴を有する。
【0033】
[6] Mgの含有量とSiの含有量との比が原子量比で66.17:33.83〜66.77:33.23であり、ドーパントの含有量が原子量比で0.10〜2.00at%である組成原料から合成される[4]又は[5]に記載のマグネシウム−ケイ素複合材料。
【0034】
[6]に記載の発明は、[4]又は[5]に記載の発明を、マグネシウム−ケイ素複合材料の組成原料の成分組成で示したものである。ドーパントを含む場合、ドーパントを除いたMgの含有量とSiの含有量との比が原子量比で66.17:33.83〜66.77:33.23となればよい。[6]に記載の発明によれば、[4]又は[5]に記載の発明と同等の効果を得ることができる。
【0035】
[7] 熱伝導率が3.50W/m・K以下である[1]から[6]のいずれかに記載のマグネシウム−ケイ素複合材料。
【0036】
[7]に記載の発明は、上記の発明を熱伝導率で示したものである。[7]に記載の発明によれば、上記の発明と同等の効果を得ることができる。
【0037】
[8] Mgの含有量が原子量比で66.17〜66.77at%であり、Siの含有量が原子量比で33.23〜33.83at%である組成原料を、開口部と前記開口部を覆う蓋部とを備え、前記開口部の辺縁における前記蓋部への接触面と、前記蓋部における前記開口部への接触面とが共に研磨処理された耐熱容器中で加熱溶融する工程を有するマグネシウム−ケイ素複合材料の製造方法。
【0038】
[9] Mgの含有量とSiの含有量との比が原子量比で66.17:33.83〜66.77:33.23であり、ドーパントの含有量が原子量比で0.10〜2.00at%である組成原料を、開口部と前記開口部を覆う蓋部とを備え、前記開口部の辺縁における前記蓋部への接触面と、前記蓋部における前記開口部への接触面とが共に研磨処理された耐熱容器中で加熱溶融する工程を有するマグネシウム−ケイ素複合材料の製造方法。
【0039】
[8]に記載の発明は、実質的にドーパントを含まない場合におけるマグネシウム−ケイ素複合材料の製造方法を規定したものであり、[9]に記載の発明は、ドーパントを含む場合におけるマグネシウム−ケイ素複合材料の製造方法を規定したものである。したがって、[8]及び[9]に記載の発明によれば、上記の発明と同等の効果を得ることができる。
【0040】
[10] [1]から[7]のいずれかに記載のマグネシウム−ケイ素複合材料からなる熱電変換材料。
【0041】
[11] 熱電変換部と、該熱電変換部に設けられた第1電極及び第2電極とを備え、
前記熱電変換部が[1]から[7]のいずれかに記載のマグネシウム−ケイ素複合材料を用いて製造される熱電変換素子。
【0042】
[10]及び[11]に記載の発明は、[1]から[7]のいずれかに記載のマグネシウム−ケイ素複合材料を利用した熱電変換材料及び熱電変換素子を規定したものである。したがって、[10]及び[11]に記載の発明によれば、[1]から[7]のいずれかに記載の発明と同等の効果を得ることができる。
【0043】
[12] 前記第1電極及び前記第2電極がメッキ法により形成されてなる[11]に記載の熱電変換素子。
【0044】
[13] 加圧圧縮焼結法によって前記第1電極及び前記第2電極と前記熱電変換部とが一体成形されてなる[11]に記載の熱電変換素子。
【0045】
通常、マグネシウム−ケイ素複合材料を用いて製造された熱電変換部にメッキ法で電極を形成しようとした場合、材料中に残留する金属マグネシウムに起因して水素ガスが発生し、メッキの接着性が悪くなる。一方、本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料を用いて製造された熱電変換部の場合には、材料中に金属マグネシウムが殆ど含まれないため、メッキ法により電極を形成することが可能である。
また、第1電極及び第2電極は、マグネシウム−ケイ素複合材料の焼結時に、熱電変換部と一体に形成することも可能である。即ち、電極材料、マグネシウム−ケイ素複合材料、電極材料をこの順で積層し、加圧圧縮焼結することにより、両端に電極が形成された焼結体を得ることができる
【0046】
[14] 前記熱電変換部は、異なる熱電変換材料からなる複数の層を有し、
前記第1電極又は前記第2電極に隣接した層が、Mgの含有量とSiの含有量との比が原子量比で66.17:33.83〜66.77:33.23であり、Sbの含有量が原子量比で0.10〜2.0at%である組成原料から合成されるマグネシウム−ケイ素複合材料からなる[11]から[13]のいずれかに記載の熱電変換素子。
【0047】
本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料がドーパントとしてSbを含む場合、高温における耐久性に優れた熱電変換材料を得ることができる。その一方で、Sbは環境負荷が大きいため、Sbの使用量はできる限り少なくすることが好ましい。そこで、[14]に記載の発明では、熱電変換部を異なる熱電変換材料からなる複層構造とし、第1電極又は第2電極に隣接した層に、Sbを含むマグネシウム−ケイ素複合材料を用いる。Sbを含む層を熱電変換素子の高温側とすることで、高温における耐久性に優れ、且つ、環境負荷の抑えられた熱電変換素子を得ることができる。
【0048】
[15] [11]から[14]のいずれかに記載の熱電変換素子を備える熱電変換モジュール。
【0049】
[15]に記載の発明は、[11]から[14]のいずれかに記載の熱電変換素子を備える熱電変換モジュールを規定したものである。したがって、[15]に記載の発明によれば、[11]から[14]のいずれかに記載の発明と同等の効果を得ることができる。
【0050】
[16] [1]から[7]のいずれかに記載のマグネシウム−ケイ素複合材料が用いられてなる耐食性材料、軽量構造材、摩擦材、リチウムイオン二次電池用負極材、セラミックス基板、誘電体磁器組成物、水素吸蔵組成物、又はシラン発生装置。
【0051】
本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料の用途としては、好ましくは、熱電変換材料、熱電変換素子、及び熱電変換モジュールの用途を挙げることができるが、例えば、耐食性材料、軽量構造材、摩擦材、リチウムイオン二次電池用負極材、セラミックス基板、誘電体磁器組成物、水素吸蔵組成物、シラン発生装置等の用途に用いることもできる。
【発明の効果】
【0052】
本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料は、866Kにおける無次元性能指数が0.665以上であるため、例えば、これを熱電変換モジュールに使用する場合に、高い熱電変換性能を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】熱電変換モジュールの一例を示す図である。
【図2】熱電変換モジュールの一例を示す図である。
【図3】熱電変換モジュールの一例を示す図である。
【図4】熱電変換モジュールの一例を示す図である。
【図5】焼結装置の一例を示す図である。
【図6】実施例1〜3、比較例2〜4で調製したマグネシウム−ケイ素複合材料の特性を示す図である。
【図7】実施例1〜3、比較例2〜4で調製したマグネシウム−ケイ素複合材料の特性を示す図である。
【図8】実施例1〜3、比較例2〜4で調製したマグネシウム−ケイ素複合材料の特性を示す図である。
【図9】実施例1〜3、比較例2〜4で調製したマグネシウム−ケイ素複合材料の特性を示す図である。
【図10】実施例1〜3、比較例2〜4で調製したマグネシウム−ケイ素複合材料の特性を示す図である。
【図11】実施例1〜3、比較例2〜4で調製したマグネシウム−ケイ素複合材料の光学顕微鏡像を示す図である。
【図12】比較例1で調製したマグネシウム−ケイ素複合材料の光学顕微鏡像を示す図である。
【図13】試験例2で調製したマグネシウム−ケイ素複合材料のX線回折の結果を示す図である。
【図14】実施例4〜8、比較例5で調製したマグネシウム−ケイ素複合材料の特性を示す図である。
【図15】実施例9で製造した熱電変換素子を示す図である。
【図16】実施例9及び10で製造した熱電変換素子の特性を示す図である。
【図17】熱電変換素子からの水素ガスの発生の有無を確認するための図である。
【図18】実施例12、14、及び15で製造した熱電変換素子の特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0055】
<マグネシウム−ケイ素複合材料>
[マグネシウム−ケイ素複合材料の特性]
本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料は、MgとSiとの原子量比が略2:1であって、866Kにおける無次元性能指数が0.665以上、好ましくは0.700以上である。マグネシウム−ケイ素複合材料の866Kにおける無次元性能指数が0.665以上であることにより、例えば、マグネシウム−ケイ素複合材料を熱電変換素子、熱電変換モジュールに使用する場合に、高い熱電変換性能を得ることができる。
【0056】
ここで、本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料は、組成原料を加熱溶融し、好ましくは加熱溶融後の試料を粉砕した後のものであっても、粉砕後の試料を焼結した後のものであってもよいが、マグネシウム−ケイ素複合材料の866Kにおける無次元性能指数に言及するときには、組成原料を加熱溶融し、好ましくは加熱溶融後の試料を粉砕して、粉砕後の試料を焼結した後に測定されたものを指すものとする。ただし、一般に加熱溶融後の試料と粉砕・焼結後の試料とでは、粉砕・焼結後の試料の方がクラック等の欠陥が入りにくいため、無次元性能指数が高くなる傾向にある。このため、加熱溶融後の試料において無次元性能指数が上記の条件を満たすのであれば、当該試料を粉砕・焼結した試料の無次元性能指数も、当然ながら上記条件を満たすものとなる。
【0057】
すなわち、本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料とは、組成原料の加熱溶融物、当該加熱溶融物の粉砕物及び当該粉砕物の焼結体を包含した意味をなし、これらの加熱溶融物、粉砕物、及び焼結体は、それぞれ単独で商品としての価値を有するものである。本発明に係る熱電変換材料自体及び熱電変換素子を構成する熱電変換部は、当該焼結体から構成されるものである。
【0058】
本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料は、実質的にドーパントを含まないものであってもよく、ドーパントを含むものであってもよい。
【0059】
「実質的にドーパントを含まない」とは、組成原料として、Si及びMg以外の添加元素が含有されていないことを意味する。このため、マグネシウム−ケイ素複合材料の製造過程において、例えば加熱溶融の際の耐熱容器から他の不純物元素が不可避的に混入したとしても、当該不純物が混入したマグネシウム−ケイ素複合材料は、実質的にドーパントを含まないものとして扱う。
【0060】
一方、ドーパントを含む場合、ドーパントとしてはSb、Al、Bi、Ag、Cu等から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。また、その含有量は原子量比で0.10〜2.00at%であることが好ましい。本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料が特にドーパントとしてSbを含む場合、熱電変換材料として用いた場合の高温における耐久性に優れたものとなる。
【0061】
また、実質的にドーパントを含まない場合、本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料は、管電圧40kV、管電流40mAの条件下におけるX線回折において、2θ=36.6度におけるMgピーク強度が12.9cps以下であり、2θ=28.4度におけるSiピーク強度が340.5cps以下である。
一方、ドーパントを含む場合、本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料は、管電圧40kV、管電流40mAの条件下におけるX線回折において、2θ=36.34〜36.68度におけるMgピーク強度が12.9cps以下であり、2θ=28.30〜28.52度におけるSiピーク強度が340.5cps以下である。なお、実質的にドーパントを含まない場合とピーク位置が異なるのは、ドーパント種やその含有量によって若干の干渉を受けるためである。
【0062】
X線回折におけるMg及びSiのピーク強度が、上記範囲内のものである場合、マグネシウム−ケイ素複合材料中におけるMg及びSiの含有量が所定の範囲内のものとなり、866Kにおける無次元性能指数が0.665以上に及ぶ高い熱電変換性能を得ることができる。
【0063】
更に、本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料は、熱伝導率が3.50W/m・K以下であることが好ましく、3.30W/m・K以下であることがより好ましく、3.10W/m・K以下であることが更に好ましい。
【0064】
上記式(1)で表される性能指数からも明らかなように、性能指数及びこれを無次元化した無次元性能指数と、熱伝導率とは負の相関関係にある。このため、マグネシウム−ケイ素複合材料の熱伝導率を3.50W/m・K以下のものとすることにより、無次元性能指数の値も高いものとなり、高い熱電変換性能を有するマグネシウム−ケイ素複合材料を得ることができる。
【0065】
なお、本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料は、インゴット状のもの、粉末状のもの、粉末状のものを焼結したもの等、いかなる形態のものであってもよいが、粉末状のものを焼成したものであることが好ましい。更に、本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料の用途としては、好ましくは、後述する熱電変換材料、熱電変換素子、及び熱電変換モジュールの用途を挙げることができるが、このような用途に限定されるものではなく、例えば、耐食性材料、軽量構造材、摩擦材、リチウムイオン二次電池用負極材、セラミックス基板、誘電体磁器組成物、水素吸蔵組成物、シラン発生装置等の用途に用いることもできる。
【0066】
<熱電変換材料、熱電変換素子、及び熱電変換モジュール>
本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料は、熱電変換材料として好適に使用できるものである。即ち、本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料は、無次元性能指数が0.665以上のものであるので、これを熱電変換材料として熱電変換素子、熱電変換モジュールに使用する場合に、高い熱電変換性能を得ることができる。
【0067】
<マグネシウム−ケイ素複合材料の製造方法等>
実質的にドーパントを含まない場合、本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料は、Mgの含有量が原子量比で66.17〜66.77at%であり、Siの含有量が原子量比で33.23〜33.83at%である組成原料を、開口部とこの開口部を覆う蓋部とを有し、上記開口部の辺縁における上記蓋部への接触面と、上記蓋部における上記開口部への接触面とが共に研磨処理された耐熱容器中で加熱溶融する工程を有する製造方法により製造される。
一方、ドーパントを含む場合、本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料は、Mgの含有量とSiの含有量との比が原子量比で66.17:33.83〜66.77:33.23であり、ドーパントの含有量が原子量比で0.10〜2.0at%である組成原料を、開口部とこの開口部を覆う蓋部とを有し、上記開口部の辺縁における上記蓋部への接触面と、上記蓋部における上記開口部への接触面とが共に研磨処理された耐熱容器中で加熱溶融する工程を有する製造方法により製造される。
【0068】
この製造方法は、好ましくは、Mg、Si、及び必要に応じてドーパントを混合して組成原料を得る混合工程と、この組成原料を加熱溶融する加熱溶融工程と、加熱溶融後の試料を粉砕する粉砕工程と、粉砕した上記試料を焼結する焼結工程とを有する。
【0069】
(混合工程)
実質的にドーパントを含まない場合、混合工程においては、MgとSiとを混合して、Mgの含有量が原子量比で66.17〜66.77at%であり、Siの含有量が原子量比で33.23〜33.83at%である組成原料を得る。
【0070】
Mgの含有量は、原子量比で66.27〜66.67at%であることが好ましく、このときのSiの含有量は、原子量比で33.33〜33.73at%であることが好ましい。
【0071】
Siとしては、例えば高純度シリコンを利用することができる。ここで、高純度シリコンとは、純度が99.9999%以上のもので、半導体や太陽電池等のシリコン製品の製造に用いられるものである。高純度シリコンとしては、具体的には、例えばLSI用高純度シリコン原料、太陽電池用高純度シリコン原料、高純度金属シリコン、高純度シリコンインゴット、高純度シリコンウエハ等を挙げることができる。
【0072】
Mgとしては、99.5%程度以上の純度を有するものであり、実質的に不純物を含有しないものである限り、特に限定されるものではない。
【0073】
一方、ドーパントを含む場合、混合工程においては、MgとSiとドーパントとを混合して、Mgの含有量とSiの含有量との比が原子量比で66.17:33.83〜66.77:33.23であり、ドーパントの含有量が原子量比で0.10〜2.00at%である組成原料を得る。
Mgの含有量とSiの含有量との比は、原子量比で66.27:33.73〜66.67:33.33であることが好ましい。
【0074】
(加熱溶融工程)
加熱溶融工程においては、混合工程にて得た組成原料を還元雰囲気下且つ好ましくは減圧下において、Mgの融点を超えSiの融点を下回る温度条件下で熱処理してMg2Siを溶融合成することが好ましい。ここで、「還元雰囲気下」とは、特に水素ガスを5体積%以上含み、必要に応じてその他の成分として、不活性化ガスを含む雰囲気を指す。斯かる還元雰囲気下で加熱溶融工程を行うことにより、MgとSiとを確実に反応させることでき、マグネシウム−ケイ素複合材料を合成することができる。
【0075】
加熱溶融工程における圧力条件としては、大気圧でもよいが、1.33×10−3Pa〜大気圧が好ましく、安全性を考慮すれば、例えば0.08MPa程度の減圧条件或いは真空条件で行うことが好ましい。
また、加熱溶融工程における加熱条件としては、700℃以上1410℃未満、好ましくは1085℃以上1410℃未満で、例えば3時間程度熱処理することができる。ここで、熱処理の時間は、例えば2〜10時間である。熱処理を長時間のものとすることにより、得られるマグネシウム−ケイ素複合材料をより均一化することができる。なお、Mg2Siの融点は1085℃であり、ケイ素の融点は1410℃である。
【0076】
ここで、Mgの融点である693℃以上に加熱することによりMgが溶融した場合、Siがその中に溶け込んで反応を開始するが、反応速度がやや遅いものとなる。一方、Mgの沸点である1090℃以上に加熱した場合、反応速度は速いものとなるが、Mgが急激に蒸気となって飛散するおそれがあるので注意して合成する必要がある。
【0077】
また、組成原料を熱処理する際の昇温条件としては、例えば、150℃に達するまでは150〜250℃/hの昇温条件、1100℃に達するまでは350〜450℃/hの昇温条件を挙げることができ、熱処理後の降温条件としては、900〜1000℃/hの降温条件を挙げることができる。
【0078】
なお、加熱溶融工程を行う際には、開口部とこの開口部を覆う蓋部とを備え、上記開口部の辺縁における上記蓋部への接触面と、上記蓋部における上記開口部への接触面とが共に研磨処理された耐熱容器中で行う必要がある。このように研磨処理することで、組成原料の組成比率に近い組成比率を有するマグネシウム−ケイ素複合材料を得ることができる。これは、上記蓋部と上記開口部の辺縁との接触面において隙間が形成されず、耐熱容器が密閉されるため、蒸発したMgの耐熱容器外への飛散を抑制することができるためと考えられる。
【0079】
上記開口部の辺縁における上記蓋部への接触面と、上記蓋部における上記開口部への接触面との研磨処理については特に限定されず、研磨処理されたものでありさえすればよい。しかし、特に、当該接触面の表面粗さRaを0.2〜1μmとすると密着状態を形成するのに好ましく、0.2〜0.5μmとすると更に好ましい。表面粗さが1μmを超えると、開口部の辺縁と蓋部との密着性が不十分になる場合がある。一方、表面粗さRaが0.2μm未満の場合、必要以上の研磨を行うこととなり、コスト面で好ましくない。また、上記接触面は、表面うねりRmaxが0.5〜3μmであることが好ましく、0.5〜1μmであることが更に好ましい。表面うねりRmaxが0.5μm未満の場合、必要以上の研磨を行うこととなり、コスト面で好ましくない。
【0080】
ここで、このような耐熱容器としては、アルミナ、マグネシア、ジルコニア、白金、イリジウム、シリコンカーバイト、ボロンナイトライド、パイロライティックボロンナイトライド、パイロライティックグラファイト、パイロライティックボロンナイトライドコート、パイロライティックグラファイトコート、及び石英からなる密閉容器を挙げることができる。また、上記耐熱容器の寸法としては、容器本体が内径12〜300mm、外径15〜320mm、高さ50〜250mmで、蓋部の直径が15〜320mmのものを挙げることができる。
【0081】
更に、上記開口部の辺縁における上記蓋部への接触面と、上記蓋部における上記開口部への接触面とを密着させるため、必要に応じて、上記蓋部の上面を直接又は間接におもりにて加圧することができる。当該加圧の際の圧力は、1〜10kg/cm2であることが好ましい。
【0082】
加熱溶融工程を還元雰囲気下において行うために使用するガスとしては、100体積%の水素ガスでもよいが、水素ガス5体積%以上を含む窒素ガス又はアルゴンガス等、水素ガスと不活性ガスとの混合ガスを挙げることができる。このように、加熱溶融工程を還元雰囲気下で行う理由としては、本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料を製造するにあたって、酸化ケイ素のみならず、酸化マグネシウムの生成を極力避ける必要があることを挙げることができる。
【0083】
加熱溶融された試料は、自然冷却及び強制冷却によって冷却することができる。
【0084】
(粉砕工程)
粉砕工程は、加熱溶融された試料を粉砕する工程である。粉砕工程においては、加熱溶融された試料を、微細で、狭い粒度分布を有する粒子に粉砕することが好ましい。微細で、狭い粒度分布を有する粒子に粉砕することにより、これを焼結する際に、粉砕された粒子同士がその表面の少なくとも一部において融着し、空隙(ボイド)の発生がほとんど観察されない程度に焼結することができ、理論値の約70%から理論値とほぼ同程度の密度を有する焼結体を得ることができる。
【0085】
粉砕した上記試料は、平均粒径が0.1〜100μm、好ましくは0.1〜50μm、更に好ましくは0.1〜0.2μmのものを使用することができる。具体的には、75μm篩パスで65μm篩オン、30μm篩パスで20μm篩オンの粒度の粒子を使用することができる。
【0086】
(焼結工程)
焼結工程は、粉砕した上記試料を焼結する工程である。焼結工程における焼結の条件としては、粉砕した上記試料を例えばグラファイト製の焼結用冶具内で、加圧圧縮焼結法により真空又は減圧雰囲気下で焼結圧力5〜60MPa、焼結温度600〜1000℃で焼結する方法を挙げることができる。
【0087】
焼結圧力が5MPa未満である場合、理論密度の約70%以上の十分な密度を有する焼結体を得ることが難しくなり、得られた試料が強度的に実用に供することができないものとなるおそれがある。一方、焼結圧力が60MPaを超える場合、コストの面で好ましくなく、実用的でない。また、焼結温度が600℃未満では、粒子同士が接触する面の少なくとも一部が融着して焼成された理論密度の70%から理論密度に近い密度を有する焼結体を得ることが難しくなり、得られた試料が強度的に実用に供することができないものとなるおそれがある。また、焼結温度が1000℃を超える場合には、温度が高すぎるために試料の損傷が生じるばかりでなく、場合によってはMgが急激に蒸気となって、飛散するおそれがある。
【0088】
具体的な焼結条件としては、例えば、焼結温度を600〜800℃の範囲内のものとし、焼結温度が600℃に近い温度にあるときには、焼結圧力を60MPaに近い圧力とし、焼結温度が800℃に近い温度であるときには、焼結圧力を5MPaに近い圧力として、5〜60分間程度、好ましくは10分間程度焼結する焼結条件を挙げることができる。斯かる焼結条件の下で焼結を行うことで、高い物理的強度と、理論密度とほぼ同等の密度とを有し、安定して高い熱電変換性能を発揮できる焼結体を得ることができる。
【0089】
また、焼結工程において、空気が存在する場合は、窒素やアルゴン等の不活性ガスを使用した雰囲気下で焼結することが好ましい。
【0090】
焼結工程において、加圧圧縮焼結法を採用する場合、ホットプレス焼結法(HP)、熱間等方圧焼結法(HIP)、及び放電プラズマ焼結法を採用することができる。これらの中でも、放電プラズマ焼結法が好ましい。
【0091】
放電プラズマ焼結法は、直流パルス通電法を用いた加圧圧縮焼結法の一種で、パルス大電流を種々の材料に通電することによって加熱・焼結する方法であり、原理的には金属・グラファイト等の導電性材料に電流を流し、ジュール加熱により材料を加工・処理する方法である。
【0092】
このようにして得られた焼結体は、高い物理的強度を有し、且つ安定して高い熱電変換性能を発揮できる焼結体となり、風化せず、耐久性に優れて、安定性及び信頼性に優れた熱電変換材料として使用できる。
【0093】
(熱電変換素子)
本発明に係る熱電変換素子は、熱電変換部と、該熱電変換部に設けられた第1電極及び第2電極とを備え、この熱電変換部が本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料を用いて製造されるものである。
【0094】
(熱電変換部)
熱電変換部としては、上記の焼結工程にて得られた焼結体を、ワイヤーソー等を用いて所望の大きさに切り出したものを用いることができる。
この熱電変換部は、通常、1種類の熱電変換材料を用いて製造されるが、複数種類の熱電変換材料を用いて複層構造を有する熱電変換部としてもよい。複層構造を有する熱電変換部は、焼結前の複数種類の熱電変換材料を所望の順序で積層した後、焼結することにより製造することができる(後述する実施例15を参照)。複数種類の熱電変換材料としては、ドーパントが異なる本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料の組み合わせであってもよく、実質的にドーパントを含まない本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料とドーパントを含む本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料との組み合わせであってもよい。或いは、本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料と従来公知の他の熱電変換材料との組み合わせであってもよい。ただし、マグネシウム−ケイ素複合材料同士を組み合わせる方が、膨張係数の違い等によって積層界面が劣化することがないため好ましい。
【0095】
このように熱電変換部を複層構造とすることにより、熱電変換部に所望の特性を持たせることが可能である。例えば、本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料がドーパントとしてSbを含む場合、高温における耐久性に優れた熱電変換材料を得ることができる。その一方で、Sbは環境負荷が大きいため、Sbの使用量はできる限り少なくすることが好ましい。そこで、熱電変換部を複層構造とし、第1電極又は第2電極に隣接した層にのみ、Sbを含むマグネシウム−ケイ素複合材料を用いることが可能である。Sbを含む層を熱電変換素子の高温側とすることで、高温における耐久性に優れ、且つ、環境負荷の抑えられた熱電変換素子を得ることができる。
【0096】
(電極)
上記第1電極及び第2電極の形成方法は特に限定されるものではないが、本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料を用いて製造された熱電変換素子は、メッキ法により電極を形成できることが特徴の1つである。
通常、マグネシウム−ケイ素複合材料を用いて製造された熱電変換部にメッキ法で電極を形成しようとした場合、材料中に残留する金属マグネシウムに起因して水素ガスが発生し、メッキの接着性が悪くなる。一方、本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料を用いて製造された熱電変換部の場合には、材料中に金属マグネシウムが殆ど含まれないため、メッキ法により接着性の高い電極を形成することが可能である。メッキ法としては、特に限定されないが、無電界ニッケルメッキが好ましい。
【0097】
メッキ法により電極を形成する前の焼結体の表面に、メッキを行うのに支障となる凹凸がある場合には、研磨して平滑にすることが好ましい。
このようにして得られたメッキ層付きの焼結体を、ワイヤーソーやブレードソーのような切断機で所定の大きさにカットして、第1電極、熱電変換部、及び第2電極からなる熱電変換素子が作製される。
【0098】
また、第1電極及び第2電極は、マグネシウム−ケイ素複合材料の焼結時に一体して形成することも可能である。即ち、電極材料、マグネシウム−ケイ素複合材料、電極材料をこの順で積層し、加圧圧縮焼結することにより、両端に電極が形成された焼結体を得ることができる(後述する実施例10等を参照)。
【0099】
本発明における加圧圧縮焼結法による電極の形成方法として、2つの方法について説明する。
第1の方法は、例えばグラファイトダイ及びグラファイト製パンチからなる円筒型の焼結用冶具内にその底部から順次、SiO2のような絶縁性材料粉末の層、Niのような電極形成用金属粉末の層、本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料の粉砕物の層、上記電極形成用金属粉末の層、上記絶縁性材料粉末の層を所定の厚さで積層した後、加圧圧縮焼結を行う。
上記絶縁性材料粉末は、焼結装置から電極形成用金属粉末に電気が流れるのを防止し、溶融を防ぐために有効であり、焼結後、形成された電極から該絶縁性材料を分離する。
第1の方法においては、カーボンペーパーを絶縁性材料粉末層と電極形成用金属粉末層との間に挟み、さらに円筒型焼結用冶具の側内壁表面にカーボンペーパーを設置しておけば、粉末同士の混合を防止し、また焼結後に電極と絶縁材料層を分離するのに有効である。
このようにして得られた焼結体の上下表面の多くは、凹凸が形成されるため、研磨して平滑にする必要があり、その後、ワイヤーソーやブレードソーのような切断機で所定の大きさにカットして、第1電極、熱電変換部、及び第2電極からなる熱電変換素子が作製される。
絶縁性材料粉末を用いない従来の方法によると、電流によって電極形成用金属粉末を溶融させてしまうため、大電流を使用できず電流の調整が難しく、したがって、得られた焼結体から電極が剥離してしまう問題があった。一方、第1の方法では絶縁性材料粉末層を設けることによって、大電流を用いることができ、その結果、初期の焼結体を得ることができる。
【0100】
第2の方法は、上記第1の方法における絶縁性材料粉末層を用いないで、円筒型の焼結用冶具内にその底部から順次、Niのような電極形成用金属粉末の層、本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料の粉砕物の層、上記電極形成用金属粉末の層を積層し、上記電極形成用金属粉末の層に接する焼結用冶具の上記グラファイトダイの表面に、BNのような絶縁性、耐熱性、且つ離型性のセラミックス粒子を塗布又はスプレーして、加圧圧縮焼結を行う。この場合、第1の方法のようにカーボンペーパーを使用する必要はない。
この第2の方法は、第1の方法の利点を全て有する上に、得られた焼結体の上下表面が平滑であるため、殆ど研磨する必要がないという利点を有する。
得られた焼結体を所定の大きさにカットして、第1電極、熱電変換部、及び第2電極からなる熱電変換素子を作製する方法は上記第1の方法と同様である。
【0101】
(熱電変換モジュール)
本発明に係る熱電変換モジュールは、上記のような本発明に係る熱電変換素子を備えるものである。
【0102】
熱電変換モジュールの一例としては、例えば図1及び図2に示すようなものが挙げられる。この熱電変換モジュールでは、本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料から得られたn型半導体及びp型半導体がそれぞれn型熱電変換部101及びp型熱電変換部102の熱電変換材料として用いられる。並置されたn型熱電変換部101及びp型熱電変換部102の上端部には電極1015,1025が、下端部には電極1016,1026がそれぞれ設けられる。そして、n型熱電変換部及びp型熱電変換部の上端部にそれぞれ設けられた電極1015,1025が接続されて一体化された電極を形成すると共に、n型熱電変換部及びp型熱電変換部の下端部にそれぞれ設けられた電極1016,1026は分離されて構成される。
【0103】
また、熱電変換モジュールの他の例としては、例えば図3及び図4に示すようなものが挙げられる。この熱電変換モジュールでは、本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料から得られたn型半導体がn型熱電変換部103の熱電変換材料として用いられる。n型熱電変換部103の上端部には電極1035が、下端部には電極1036がそれぞれ設けられる。
【0104】
本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料は、866Kにおける無次元性能指数が0.665以上であるため、例えば、マグネシウム−ケイ素複合材料を熱電変換モジュールに使用する場合に、高い熱電変換性能を得ることができる。
【実施例】
【0105】
以下、本発明について、実施例を挙げて詳細に説明する。なお、本発明は以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0106】
<<試験例1;マグネシウム−ケイ素複合材料の調製>>
<実施例1>
[混合工程]
高純度シリコン36.69質量部とマグネシウム63.52質量部とを混合し、Mg:Si=2:1の組成原料(66.67at%Mg、33.33at%Si)を得た。なお、高純度シリコンとしては、MEMC Electronic Materials社製で、純度が99.9999999%の半導体グレード、大きさが直径4mm以下の粒状のものを用いた。また、マグネシウムとしては、日本サーモケミカル社製で、純度が99.93%、大きさが1.4mm×0.5mmのマグネシウム片を用いた。
【0107】
[加熱溶融工程]
上記組成原料を、Al2O3製の溶融ルツボ(日本化学陶業社製、内径34mm、外径40mm、高さ150mm;蓋部は直径40mm、厚さ2.5mm)に投入した。当該溶融ルツボは、開口部の辺縁の蓋部への接触面と、蓋部の開口部の辺縁への接触面とが、表面粗さRaが0.5μm、表面うねりRmaxが1.0μmとなるように研磨されたものを用いた。溶融ルツボの開口部の辺縁と、蓋部とを密着させて、加熱炉内に静置し、加熱炉の外部からセラミック棒を介して、3kg/cm2となるようにおもりで加圧した。
【0108】
次いで、加熱炉の内部を、ロータリーポンプで5Pa以下となるまで減圧し、次いで拡散ポンプで1.33×10−2Paとなるまで減圧した。この状態で、加熱炉内を200℃/hで150℃に達するまで加熱し、150℃で1時間保持して組成原料を乾燥させた。この際、加熱炉内には、水素ガスとアルゴンガスとの混合ガスを充填し、水素ガスの分圧を0.005MPa、アルゴンガスの分圧を0.052MPaとした。
【0109】
その後、400℃/hで1100℃に達するまで加熱し、1100℃で3時間保持した。その後、100℃/hで900℃にまで冷却し、1000℃/hで室温にまで冷却した。
【0110】
[粉砕工程・焼結工程]
加熱溶融後の試料は、陶製乳鉢を用いて75μmにまで粉砕し、75μmの篩に通した粉末を得た。そして、図5に示すように、内径15mmのグラファイトダイ10と、グラファイト製パンチ11a,11bとで囲まれた空間に、粉砕したマグネシウム−ケイ素複合材料1.0gを仕込んだ。粉末の上下端には、パンチへのマグネシウム−ケイ素複合材料固着防止のためにカーボンペーパーを挟んだ。その後、放電プラズマ焼結装置(ELENIX社製、「PAS−III−Es」)を用いて真空雰囲気下で焼結を行った。焼結条件は下記のとおりである。
焼結温度:850℃
圧力:30.0MPa
昇温レート:300℃/min×2min(〜600℃)
100℃/min×2min(600〜800℃)
10℃/min×5min(800〜850℃)
0℃/min×5min(850℃)
冷却条件:真空放冷
雰囲気:Ar 60Pa(冷却時は真空)
【0111】
焼結後、付着したカーボンペーパーをサンドペーパーで除去し、マグネシウム−ケイ素複合材料(試料D)を得た。
【0112】
<実施例2>
混合工程において、高純度シリコンの添加量を36.91質量部に、マグネシウムの添加量を63.33質量部に変更して組成原料(66.47at%Mg、33.53at%Si)を得た点以外は実施例1と同様の方法により、マグネシウム−ケイ素複合材料(試料C)を得た。
【0113】
<実施例3>
混合工程において、高純度シリコンの添加量を36.58質量部に、マグネシウムの添加量を63.61質量部に変更して組成原料(66.77at%Mg、33.23at%Si)を得た点以外は実施例1と同様の方法により、マグネシウム−ケイ素複合材料(試料E)を得た。
【0114】
<比較例1>
加熱溶融工程において、溶融ルツボの開口部の辺縁の蓋部への接触面と、蓋部の、開口部の辺縁への接触面とが、研磨されていないものを用いた点以外は、実施例1と同様の方法によりマグネシウム−ケイ素複合材料を得た。
【0115】
<比較例2>
混合工程において、高純度シリコンの添加量を38.01質量部に、マグネシウムの添加量を62.37質量部に変更して組成原料(65.47at%Mg、34.53at%Si)を得た点以外は実施例1と同様の方法により、マグネシウム−ケイ素複合材料(試料B)を得た。
【0116】
<比較例3>
混合工程において、高純度シリコンの添加量を38.89質量部に、マグネシウムの添加量を61.61質量部に変更して組成原料(64.67at%Mg、35.33at%Si)を得た点以外は実施例1と同様の方法により、マグネシウム−ケイ素複合材料(試料A)を得た。
【0117】
<比較例4>
混合工程において、高純度シリコンの添加量を34.49質量部に、マグネシウムの添加量を65.42質量部に変更して組成原料(68.67at%Mg、31.33at%Si)を得た点以外は実施例1と同様の方法により、マグネシウム−ケイ素複合材料(試料F)を得た。
【0118】
<評価>
[ゼーベック係数、電気伝導率、及び熱伝導率の測定]
実施例1〜3、比較例1〜4で得られた各マグネシウム−ケイ素複合材料(焼結体)について、熱起電力・熱伝導率測定装置(アルバック理工社製、「ZEM2」)及びレーザーフラッシュ法熱伝導率測定装置(アルバック理工社製、「TC・7000H」)を用いて、動作温度350〜866Kにおけるゼーベック係数α、電気伝導率σ、及び熱伝導率κを測定した。測定した各種パラメーターを元に、上記式(1)に従って無次元性能指数ZTを算出した。866Kにおける結果を表1に示す。
また、実施例1〜3、比較例2〜4で得られた焼結体におけるゼーベック係数α、電気伝導率σ、及び熱伝導率κ、並びにパワーファクターα2σとMg濃度との関係を図6〜図9に示し、温度と熱電特性との関係を図10に示す。
【0119】
[光学顕微鏡等による試料の観察]
実施例1〜3、比較例2〜4で得られたマグネシウム−ケイ素複合材料(焼結体)を9μm、3μm、及び1μmの順にダイヤモンド砥粒で研磨し、結晶粒の凝集度を観察した。結果を表1及び図11に示す。なお、図11において、光学顕微鏡写真(a)〜(f)は、それぞれ上記試料A〜Fに対応し、光学顕微鏡写真(a)中の白ぬきの矢印は、未反応Siを、光学顕微鏡写真(f)中の黒塗りの矢印は、析出したMgを示す。
また、比較例1で得られたマグネシウム−ケイ素複合材料(焼結体)を9μm、3μm、及び1μmの順にダイヤモンド砥粒で研磨し、結晶粒の凝集度を観察した。結果を表1及び図12に示す。
【0120】
[空気中における変色の有無]
実施例1〜3、比較例2〜4で得られたマグネシウム−ケイ素複合材料(焼結体)を精密管状炉(精電舎電子工業社製、「SE−101」)に投入し、大気中、823Kで48時間加熱した。加熱後の焼結体について、目視にて変色の程度を観察した。結果を表1に示す。
【0121】
【表1】
【0122】
表1から分かるように、実施例1〜3のマグネシウム−ケイ素複合材料は、無次元性能指数が0.665以上となっている。加えて、上記マグネシウム−ケイ素複合材料は、熱伝導度についても3.50W/m・K以下となっている。このような結果より、本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料は、優れた熱電性能を示すことが分かる。更に、本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料は、メカニカルアロイ法により調製されたマグネシウム−ケイ素複合材料と比べても、良好な特性を有していることが分かる。
【0123】
一方、溶融ルツボと蓋部との接触面を研磨処理していない比較例1のマグネシウム−ケイ素複合材料においては、原料組成が実施例1と同じであるにも関わらず、無次元性能指数が0.573であった。加えて、光学顕微鏡下の観察により、未反応のSiが観察された。これは、研磨処理していないことにより溶融ルツボと蓋部との接触面における密閉性が悪くなり、蒸発したMgが飛散することにより、Siの割合が相対的に高くなったためと考えられる。
また、原料組成が実施例とは異なる比較例2〜4のマグネシウム−ケイ素複合材料においては、無次元性能指数が最大でも0.644であった。加えて、光学顕微鏡下の観察で、Mgの析出のある比較例4のマグネシウム−ケイ素複合材料では、823Kで48時間空気中に保持した場合に、表面に白色化の変色が見られ、耐久性に問題があることが分かった。このような結果から、特にMgの析出のあるマグネシウム−ケイ素複合材料は、酸化劣化を起こす可能性があるものと判断された。
【0124】
<<試験例2;X線回折>>
実施例1に倣って、Mgが64.67〜68.67at%、Siが31.33〜35.33at%の組成原料から、それぞれマグネシウム−ケイ素複合材料を調製した。これらの試料について、X線回折装置(リガク株式会社製、「RINT 2100 線型ゴニオメーター」)を用い、ターゲットをCu K−ALPHA 1、発散スリットを1deg、散乱スリットを1deg、発光スリットを0.3mmとし、走査範囲を2θ=5〜50度、スキャンスピードを4度/min、スキャンステップを0.020度、回転速度を60.00rpm、管電圧を40kV、管電流を40mAとしてX線回折を行った。Siピーク強度及びMgピーク強度は、それぞれ2θ=28.4度及び36.6度におけるピーク強度を6サンプルずつ計測することにより測定した。結果を表2及び図13に示す。
【表2】
【0125】
以上の結果より、Mg及びSiのピークについて、xをMgについての組成原料中の原子量比と化学量論比との差、yをピーク強度として、それぞれ、以下のとおり回帰直線を求めた。
Mgピーク:y=64.62x+6.4768(x≧0)
Siピーク:y=−271.2x+204.86(x≦0)
【0126】
この回帰直線によれば、組成原料中のMgの含有量が原子量比で66.17〜66.77at%である場合には、Mgピーク強度が12.9cps以下であり、Siピーク強度が340.5cps以下であることが分かる。
【0127】
<<試験例3;マグネシウム−ケイ素複合材料の調製>>
<実施例4>
[混合工程]
高純度シリコン36.44質量部と、マグネシウム63.08質量部と、アンチモン0.47質量部とを混合し、組成原料(66.60at%Mg、33.30at%Si、0.10at%Sb)を得た。なお、高純度シリコンとしては、MEMC Electronic Materials社製で、純度が99.9999999%の半導体グレード、大きさが直径4mm以下の粒状のものを用いた。また、マグネシウムとしては、日本サーモケミカル社製で、純度が99.93%、大きさが1.4mm×0.5mmのマグネシウム片を用いた。また、アンチモンとしては、エレクトロニクス エンド マテリアルズ コーポレーション社製で、純度が99.9999%、大きさが直径5mm以下の粒状のものを用いた。
【0128】
[加熱溶融工程]
上記組成原料を、Al2O3製の溶融ルツボ(日本化学陶業社製、内径34mm、外径40mm、高さ150mm;蓋部は直径40mm、厚さ2.5mm)に投入した。当該溶融ルツボは、開口部の辺縁の蓋部への接触面と、蓋部の開口部の辺縁への接触面とが、表面粗さRaが0.5μm、表面うねりRmaxが1.0μmとなるように研磨されたものを用いた。溶融ルツボの開口部の辺縁と、蓋部とを密着させて、加熱炉内に静置し、加熱炉の外部からセラミック棒を介して、3kg/cm2となるようにおもりで加圧した。
【0129】
次いで、加熱炉の内部を、ロータリーポンプで5Pa以下となるまで減圧し、次いで拡散ポンプで1.33×10−2Paとなるまで減圧した。この状態で、加熱炉内を200℃/hで150℃に達するまで加熱し、150℃で1時間保持して組成原料を乾燥させた。この際、加熱炉内には、水素ガスとアルゴンガスとの混合ガスを充填し、水素ガスの分圧を0.005MPa、アルゴンガスの分圧を0.052MPaとした。
【0130】
その後、400℃/hで1100℃に達するまで加熱し、1100℃で3時間保持した。その後、100℃/hで900℃にまで冷却し、1000℃/hで室温にまで冷却した。
【0131】
[粉砕工程・焼結工程]
加熱溶融後の試料は、陶製乳鉢を用いて75μmにまで粉砕し、75μmの篩に通した粉末を得た。そして、図5に示すように、内径15mmのグラファイトダイ10と、グラファイト製パンチ11a,11bとで囲まれた空間に、粉砕したマグネシウム−ケイ素複合材料1.0gを仕込んだ。粉末の上下端には、パンチへのマグネシウム−ケイ素複合材料固着防止のためにカーボンペーパーを挟んだ。その後、放電プラズマ焼結装置(ELENIX社製、「PAS−III−Es」)を用いて真空雰囲気下で焼結を行った。焼結条件は下記のとおりである。
焼結温度:850℃
圧力:30.0MPa
昇温レート:300℃/min×2min(〜600℃)
100℃/min×2min(600〜800℃)
10℃/min×5min(800〜850℃)
0℃/min×5min(850℃)
冷却条件:真空放冷
雰囲気:Ar 60Pa(冷却時は真空)
【0132】
焼結後、付着したカーボンペーパーをサンドペーパーで除去し、マグネシウム−ケイ素複合材料(焼結体)を得た。
【0133】
<実施例5>
混合工程において、高純度シリコンの添加量を35.76質量部に、マグネシウムの添加量を61.90質量部に、アンチモンの添加量を2.34質量部に変更して組成原料(66.33at%Mg、33.17at%Si、0.50at%)を得た点以外は実施例4と同様の方法により、マグネシウム−ケイ素複合材料(焼結体)を得た。
【0134】
<実施例6>
混合工程において、高純度シリコン36.23質量部と、マグネシウム62.72質量部と、アルミニウム1.06質量部とを混合し、組成原料(66.00at%Mg、33.00at%Si、1.00at%Al)を得た点、及び焼結条件を下記のとおりに変更した点以外は実施例4と同様の方法により、マグネシウム−ケイ素複合材料(焼結体)を得た。なお、アルミニウムとしては、フルウチ化学社製で、純度が99.99%、大きさが10mm×15mm×0.5mmのチップ状のものを用いた。
焼結温度:820℃
圧力:30.0MPa
昇温レート:300℃/min×2min(〜600℃)
100℃/min×2min(600〜800℃)
10℃/min×2min(800〜820℃)
0℃/min×5min(820℃)
冷却条件:真空放冷
雰囲気:Ar 60Pa(冷却時は真空)
【0135】
<実施例7>
混合工程において、高純度シリコン35.17質量部と、マグネシウム60.89質量部と、ビスマス3.95質量部とを混合し、組成原料(66.33at%Mg、33.17at%Si、0.50at%Bi)を得た点以外は実施例4と同様の方法により、マグネシウム−ケイ素複合材料(焼結体)を得た。なお、ビスマスとしては、三津和化学社製で、純度が99.99%、大きさが3mm以下の粒状のものを用いた。
【0136】
<実施例8>
混合工程において、高純度シリコン33.46質量部と、マグネシウム57.93質量部と、アルミニウム0.98質量部と、ビスマス7.62質量部とを混合し、組成原料(65.33at%Mg、32.66at%Si、1.00at%Al、1.00at%Bi)を得た点以外は実施例4と同様の方法により、マグネシウム−ケイ素複合材料(焼結体)を得た。なお、アルミニウムとしては、フルウチ化学社製で、純度が99.99%、大きさが10mm×15mm×0.5mmのチップ状のものを用いた。また、ビスマスとしては、三津和化学社製で、純度が99.99%、大きさが3mm以下の粒状のものを用いた。
【0137】
<比較例5>
[混合工程]
高純度シリコン35.76質量部と、マグネシウム61.90質量部と、アンチモン2.34質量部とを混合し、組成原料(66.33at%Mg、33.17at%Si、0.50at%Sb)を得た。なお、高純度シリコンとしては、MEMC Electronic Materials社製で、純度が99.9999999%の半導体グレード、大きさが直径4mm以下の粒状のものを用いた。また、マグネシウムとしては、日本サーモケミカル社製で、純度が99.93%、大きさが1.4mm×0.5mmのマグネシウム片を用いた。また、アンチモンとしては、エレクトロニクス エンド マテリアルズ コーポレーション社製で、純度が99.9999%、大きさが直径5mm以下の粒状のものを用いた。
【0138】
[焼結工程]
図5に示すように、内径15mmのグラファイトダイ10と、グラファイト製パンチ11a,11bとで囲まれた空間に、組成原料1.0gを仕込んだ。粉末の上下端には、パンチへのマグネシウム−ケイ素複合材料固着防止のためにカーボンペーパーを挟んだ。その後、放電プラズマ焼結装置(ELENIX社製、「PAS−III−Es」)を用いて真空雰囲気下で焼結を行った。焼結条件は下記のとおりである。
焼結温度:850℃
圧力:30.0MPa
昇温レート:300℃/min×2min(〜600℃)
100℃/min×2min(600〜800℃)
10℃/min×5min(800〜850℃)
0℃/min×5min(850℃)
冷却条件:真空放冷
雰囲気:Ar 60Pa(冷却時は真空)
【0139】
焼結後、付着したカーボンペーパーをサンドペーパーで除去し、マグネシウム−ケイ素複合材料(焼結体)を得た。
【0140】
<評価>
[ゼーベック係数、電気伝導率、及び熱伝導率の測定]
実施例4〜8、比較例5で得られた各マグネシウム−ケイ素複合材料について、熱起電力・熱伝導率測定装置(アルバック理工社製、「ZEM2」)及びレーザーフラッシュ法熱伝導率測定装置(アルバック理工社製、「TC・7000H」)を用いて、動作温度350〜866Kにおけるゼーベック係数α、電気伝導率σ、及び熱伝導率κを測定した。測定した各種パラメーターを元に、上記式(1)に従って無次元性能指数ZTを算出した。866Kにおける結果を表3に示す。
また、実施例4〜8、比較例5で得られたマグネシウム−ケイ素複合材料における温度と熱電特性との関係を図14に示す。
【0141】
【表3】
【0142】
表3から分かるように、実施例4〜8のマグネシウム−ケイ素複合材料は、無次元性能指数が0.665以上となっている。加えて、上記マグネシウム−ケイ素複合材料は、熱伝導度についても3.50W/m・K以下となっている。このような結果より、本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料は、優れた熱電性能を示すことが分かる。
一方、原料組成が実施例とは異なる比較例5のマグネシウム−ケイ素複合材料においては、無次元性能指数が最大でも0.551であった。
【0143】
<<試験例4;X線回折>>
実施例4〜8、比較例5で得られた各マグネシウム−ケイ素複合材料について、X線回折装置(リガク株式会社製、「RINT 2100 線型ゴニオメーター」)を用い、ターゲットをCu K−ALPHA 1、発散スリットを1deg、散乱スリットを1deg、発光スリットを0.3mmとし、走査範囲を2θ=5〜50度、スキャンスピードを4度/min、スキャンステップを0.020度、回転速度を60.00rpm、管電圧を40kV、管電流を40mAとしてX線回折を行った。Si及びMgのピーク位置はドーパント種やその含有量により若干の干渉を受ける。そこで、Siピーク強度は2θ=28.30〜28.52度、Mgピーク強度は36.34〜36.68度におけるピーク強度を3サンプルずつ計測することにより測定した。結果を表4に示す。
【表4】
【0144】
表4から分かるように、本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料がドーパントを含む場合であっても、Mgピーク強度は12.9cps以下であり、Siピーク強度は340.5cps以下であった。
【0145】
<<試験例5;熱電変換素子の製造>>
<実施例9>
実施例1に倣って、Mgが66.67at%、Siが33.33at%の組成原料からマグネシウム−ケイ素複合材料(焼結体)を調製した。
ワイヤーソーを用いて2mm×2mm×10mmの焼結体を切り出し、アセトン:エタノール=1:1の混合溶媒に20分間浸漬して脱脂した。脱脂後、還元剤としてDMAB(ジメチルアミンボラン)を含む63℃のニッケルメッキ液(日本カニゼン社製、「SFB−26」)中に35分間浸漬し、焼結体の両端に無電界ニッケルメッキ処理を施した。その後、卓上型ランプ加熱装置(アルバック理工社製、「MILA−3000」)を用い、アルゴンガスフロー雰囲気下、600℃で10時間、加熱処理を行った。メッキ法によりNi電極が形成された熱電変換素子を図15に示す。
【0146】
<実施例10>
[混合工程]
高純度シリコン36.69質量部と、マグネシウム63.52質量部とを混合し、Mg:Si=2:1の組成原料(66.67at%Mg、33.33at%Si)を得た。なお、高純度シリコンとしては、MEMC Electronic Materials社製で、純度が99.9999999%の半導体グレード、大きさが直径4mm以下の粒状のものを用いた。また、マグネシウムとしては、日本サーモケミカル社製で、純度が99.93%、大きさが1.4mm×0.5mmのマグネシウム片を用いた。
【0147】
[加熱溶融工程]
上記組成原料を、Al2O3製の溶融ルツボ(日本化学陶業社製、内径34mm、外径40mm、高さ150mm;蓋部は直径40mm、厚さ2.5mm)に投入した。当該溶融ルツボは、開口部の辺縁の蓋部への接触面と、蓋部の開口部の辺縁への接触面とが、表面粗さRaが0.5μm、表面うねりRmaxが1.0μmとなるように研磨されたものを用いた。溶融ルツボの開口部の辺縁と、蓋部とを密着させて、加熱炉内に静置し、加熱炉の外部からセラミック棒を介して、3kg/cm2となるようにおもりで加圧した。
【0148】
次いで、加熱炉の内部を、ロータリーポンプで5Pa以下となるまで減圧し、次いで拡散ポンプで1.33×10−2Paとなるまで減圧した。この状態で、加熱炉内を200℃/hで150℃に達するまで加熱し、150℃で1時間保持して組成原料を乾燥させた。この際、加熱炉内には、水素ガスとアルゴンガスとの混合ガスを充填し、水素ガスの分圧を0.005MPa、アルゴンガスの分圧を0.052MPaとした。
【0149】
その後、400℃/hで1100℃に達するまで加熱し、1100℃で3時間保持した。その後、100℃/hで900℃にまで冷却し、1000℃/hで室温にまで冷却した。
【0150】
[粉砕工程・焼結工程]
加熱溶融後の試料は、陶製乳鉢を用いて75μmにまで粉砕し、75μmの篩に通した粉末を得た。そして、図5に示すように、内径15mmのグラファイトダイ10と、グラファイト製パンチ11a,11bとで囲まれた空間に、Ni粉末0.3g(平均粒径2μm、純度99.9%)、粉砕したマグネシウム−ケイ素複合材料3.55g、Ni粉末0.3gをこの順で仕込み、熱電変換層、Ni電極層を形成した。更に、焼結装置からのNiへの大電流によるNiの漏れ等を防ぐため、Ni電極層の外側には、SiO2粉末0.1g(平均粒径63μm、純度99.9%)をそれぞれ仕込み、SiO2層とした。なお、SiO2層とNi電極層との間には、粉末の混合防止用にカーボンペーパーを挟んだ。
【0151】
その後、放電プラズマ焼結装置(ELENIX社製、「PAS−III−Es」)を用いて焼結を行った。焼結条件は下記のとおりである。
焼結温度:850℃
圧力:30.0MPa
昇温レート:300℃/min×2min(〜600℃)
100℃/min×2min(600〜800℃)
10℃/min×5min(800〜850℃)
0℃/min×5min(850℃)
冷却条件:真空放冷
雰囲気:Ar 60Pa(冷却時は真空)
【0152】
焼結後、付着したカーボンペーパーをサンドペーパーで除去し、ワイヤーソーを用いて2mm×2mm×10mmの熱電変換素子を切り出した。
【0153】
<評価>
[出力電力の測定]
実施例9及び10で得られた各熱電変換素子について、熱電特性評価装置(ユニオンマテリアル社製、「UMTE−1000M」)を用いて出力電力を測定した。具体的には、低温側を100℃に固定し、高温側を200〜600℃まで変化させて、温度差ΔTを100〜500Kとして測定した。結果を図16に示す。
図16から分かるように、メッキ法により電極を形成した実施例9の熱電変換素子は、従来のようにマグネシウム−ケイ素複合材料と電極材料とを一体焼結した実施例10の熱電変換素子と同等の出力電力が得られている。このことから、メッキ法により電極を形成した場合でも、良好な電極接合状態が得られていることが分かる。
【0154】
<<試験例6;マグネシウム−ケイ素複合材料からの水素ガス発生の有無の確認>>
通常、マグネシウム−ケイ素複合材料を用いて製造された熱電変換部にメッキ法で電極を形成しようとした場合、材料中に残留する金属マグネシウムに起因して水素ガスが発生し、メッキの接着性が悪くなる。一方、本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料を用いて製造された熱電変換部の場合には、実施例9に示したようにメッキ法により電極を形成することができたが、これは、材料中に金属マグネシウムが殆ど含まれず、水素ガスが発生しないためである。
そこで、本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料から水素ガスが発生しないことを確認するため、実施例1に倣って、Mgが66.67at%、Siが33.33at%の組成原料からマグネシウム−ケイ素複合材料(焼結体)を調製した。
【0155】
また、比較のため、Mgが66.67at%、Siが33.33at%の組成原料を、図5のグラファイトダイ10とグラファイト製パンチ11a,11bとで囲まれた空間に仕込み、下記の条件で焼結して、マグネシウム−ケイ素複合材料(焼結体)を調製した。
焼結温度:600℃
圧力:30.0MPa
昇温レート:300℃/min×2min(〜600℃)
0℃/min×15min(600℃)
冷却条件:真空放冷
雰囲気:Ar 60Pa(冷却時は真空)
【0156】
焼結体を水中に浸漬した状態を図17に示す。図中左側が本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料であり、図中右側が比較用のマグネシウム−ケイ素複合材料である。図17から分かるように、本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料からは水素ガスが発生していないが、比較用のマグネシウム−ケイ素複合材料には多数の気泡が付着しており、水素ガスが発生していることが確認される。
【0157】
<<試験例7;熱電変換素子の製造>>
<実施例11>
実施例4に倣ってMgが66.60at%、Siが33.30at%、Sbが0.10at%の組成原料を用いた点以外は実施例10と同様の方法により、熱電変換素子を製造した。
【0158】
<実施例12>
実施例5に倣ってMgが66.33at%、Siが33.17at%、Sbが0.50at%の組成原料を用いた点以外は実施例10と同様の方法により、熱電変換素子を製造した。
【0159】
<実施例13>
Mgが66.00at%、Siが33.00at%、Sbが1.00at%の組成原料を用いた点以外は実施例10と同様の方法により、熱電変換素子を製造した。
【0160】
<比較例6>
[混合工程] 高純度シリコン36.69質量部と、マグネシウム63.52質量部とを混合し、組成原料(66.67at%Mg、33.33at%Si)を得た。なお、高純度シリコンとしては、MEMC Electronic Materials社製で、純度が99.9999999%の半導体グレード、大きさが直径4mm以下の粒状のものを用いた。また、マグネシウムとしては、日本サーモケミカル社製で、純度が99.93%、大きさが1.4mm×0.5mmのマグネシウム片を用いた。
【0161】
[焼結工程]
図5に示すように、内径15mmのグラファイトダイ10と、グラファイト製パンチ11a,11bとで囲まれた空間に、Ni粉末0.3g(平均粒径2μm、純度99.9%)、組成原料3.55g、Ni粉末0.3gをこの順で仕込み、熱電変換層、Ni電極層を形成した。更に、焼結装置からのNiへの大電流によるNiの漏れ等を防ぐため、Ni電極層の外側には、SiO2粉末0.1g(平均粒径63μm、純度99.9%)をそれぞれ仕込み、SiO2層とした。なお、SiO2層とNi電極層との間には、粉末の混合防止用にカーボンペーパーを挟んだ。
【0162】
その後、放電プラズマ焼結装置(ELENIX社製、「PAS−III−Es」)を用いて焼結を行った。焼結条件は下記のとおりである。
焼結温度:600℃
圧力:30.0MPa
昇温レート:300℃/min×2min(〜600℃)
0℃/min×15min(600℃)
冷却条件:真空放冷
雰囲気:Ar 60Pa(冷却時は真空)
【0163】
焼結後、付着したカーボンペーパーをサンドペーパーで除去し、ワイヤーソーを用いて2mm×2mm×10mmの熱電変換素子を切り出した。
【0164】
<比較例7>
Mgが66.33at%、Siが33.17at%、Sbが0.50at%の組成原料を用いた点以外は比較例6と同様の方法により、熱電変換素子を製造した。
【0165】
<評価>
[耐久試験による抵抗率の変化]
実施例10〜13、比較例6及び7で得られた各熱電変換素子について、熱電特性評価装置(ユニオンマテリアル社製、「UMTE−1000M」)を用いて、耐久試験を行った。具体的には、低温側を50℃、高温側を600℃に固定した状態で100時間経過させ、室温における抵抗率の変化を測定した。1時間経過後の抵抗率を基準としたときの、2,5,10,20,50,100時間経過後における抵抗率の増減割合(%)を表5に示す。
【0166】
【表5】
【0167】
表5から分かるように、実施例10の熱電変換素子は、100時間の耐久試験により抵抗率がやや増加したが、ドーパントとしてSbを含むマグネシウム−ケイ素複合材料を用いた実施例11〜13の熱電変換素子は、100時間の耐久試験によっても抵抗率の変化が少なく、耐久性に優れたものであった。
これに対して、原料組成が実施例とは異なるマグネシウム−ケイ素複合材料を用いた比較例6及び7の熱電変換素子は、10時間程度で抵抗率が著しく大きくなり、耐久性に劣るものであった。
【0168】
<<試験例8;熱電変換素子の製造>>
<実施例14>
実施例6に倣ってMgが66.00at%、Siが33.00at%、Alが1.00at%の組成原料を用いた点、及び焼結条件を下記のとおりに変更した点以外は実施例10と同様の方法により、熱電変換素子を製造した。
焼結温度:820℃
圧力:30.0MPa
昇温レート:300℃/min×2min(〜600℃)
100℃/min×2min(600〜800℃)
10℃/min×2min(800〜820℃)
0℃/min×5min(820℃)
冷却条件:真空放冷
雰囲気:Ar 60Pa(冷却時は真空)
【0169】
<実施例15>
実施例5に倣ってMgが66.33at%、Siが33.17at%、Sbが0.50at%の組成原料を用いた点以外は実施例10と同様の方法により、粉砕後の試料を得た。
また、実施例6に倣ってMgが66.00at%、Siが33.00at%、Alが1.00at%の組成原料を用いた点以外は実施例10と同様の方法により、粉砕後の試料を得た。
そして、図5に示すように、内径15mmのグラファイトダイ10と、グラファイト製パンチ11a,11bとで囲まれた空間に、Ni粉末0.3g(平均粒径2μm、純度99.9%)、ドーパントとしてSbを含む粉砕したマグネシウム−ケイ素複合材料1.77g、ドーパントとしてAlを含む粉砕したマグネシウム−ケイ素複合材料1.77g、Ni粉末0.3gをこの順で仕込み、熱電変換層、Ni電極層を形成した。更に、焼結装置からのNiへの大電流によるNiの漏れ等を防ぐため、Ni電極層の外側には、SiO2粉末0.1g(平均粒径63μm、純度99.9%)をそれぞれ仕込み、SiO2層とした。なお、SiO2層とNi電極層との間には、粉末の混合防止用にカーボンペーパーを挟んだ。
その後、実施例10と同様の方法により放電プラズマ焼結を行い、熱電変換素子を製造した。
【0170】
<評価>
[耐久試験による出力電力の変化]
実施例12、14、及び15で得られた各熱電変換素子について、熱電特性評価装置(ユニオンマテリアル社製、「UMTE−1000M」)を用いて出力電力を測定した。具体的には、低温側を100℃に固定し、高温側を200〜600℃まで変化させて、温度差ΔTを100〜500Kとして測定した。なお、実施例15の熱電変換素子については、ドーパントとしてSbを含む側を高温側、ドーパントとしてAlを含む側を低温側とした。
また、低温側を50℃、高温側を600℃に固定した状態で1000時間経過させた後、上記と同様にして出力電力を測定した結果を図18に示す。
図18から分かるように、ドーパントとしてSbを含む実施例12の熱電変換素子は、1000時間の耐久試験後にも出力電力が殆ど変化しなかったが、ドーパントとしてAlを含む実施例14の熱電変換素子は、1000時間の耐久試験後に出力電力が10mW程度低下した。一方、ドーパントとしてSb及びAlを含み、Sbを含む側を高温側とした実施例15の熱電変換素子は、実施例14の熱電変換素子よりも出力電力の低下が抑えられた。
【0171】
<<試験例9;熱電変換素子の製造>>
<実施例16>
[混合工程]
高純度シリコン36.69質量部と、マグネシウム63.52質量部とを混合し、Mg:Si=2:1の組成原料(66.67at%Mg、33.33at%Si)を得た。なお、高純度シリコンとしては、MEMC Electronic Materials社製で、純度が99.9999999%の半導体グレード、大きさが直径4mm以下の粒状のものを用いた。また、マグネシウムとしては、日本サーモケミカル社製で、純度が99.93%、大きさが1.4mm×0.5mmのマグネシウム片を用いた。
【0172】
[加熱溶融工程]
上記組成原料を、Al2O3製の溶融ルツボ(日本化学陶業社製、内径34mm、外径40mm、高さ150mm;蓋部は直径40mm、厚さ2.5mm)に投入した。当該溶融ルツボは、開口部の辺縁の蓋部への接触面と、蓋部の開口部の辺縁への接触面とが、表面粗さRaが0.5μm、表面うねりRmaxが1.0μmとなるように研磨されたものを用いた。溶融ルツボの開口部の辺縁と、蓋部とを密着させて、加熱炉内に静置し、加熱炉の外部からセラミック棒を介して、3kg/cm2となるようにおもりで加圧した。
【0173】
次いで、加熱炉の内部を、ロータリーポンプで5Pa以下となるまで減圧し、次いで拡散ポンプで1.33×10−2Paとなるまで減圧した。この状態で、加熱炉内を200℃/hで150℃に達するまで加熱し、150℃で1時間保持して組成原料を乾燥させた。この際、加熱炉内には、水素ガスとアルゴンガスとの混合ガスを充填し、水素ガスの分圧を0.005MPa、アルゴンガスの分圧を0.052MPaとした。
【0174】
その後、400℃/hで1100℃に達するまで加熱し、1100℃で3時間保持した。その後、100℃/hで900℃にまで冷却し、1000℃/hで室温にまで冷却した。
【0175】
[粉砕工程・焼結工程]
加熱溶融後の試料は、陶製乳鉢を用いて75μmにまで粉砕し、75μmの篩に通した粉末を得た。そして、図5に示すように、内径15mmのグラファイトダイ10と、グラファイト製パンチ11a,11bとで囲まれた空間に、Ni粉末0.3g(平均粒径2μm、純度99.9%)、粉砕したマグネシウム−ケイ素複合材料3.55g、Ni粉末0.3gをこの順で仕込み、熱電変換層、Ni電極層を形成した。ただし、グラファイトダイの焼結試料に接する表面にのみ、予め窒化硼素等の耐熱離型セラミックス粉末を含んだ液体を塗布又はスプレーし、焼結装置からのNiへの大電流によるNiの漏れ等を防ぐためのSiO2層及び粉末の混合防止用のカーボンペーパーの代替とした。
【0176】
その後、放電プラズマ焼結装置(ELENIX社製、「PAS−III−Es」)を用いて焼結を行った。焼結条件は下記のとおりである。
焼結温度:840℃
圧力:30.0MPa
矩形波電流通電1min後、下記レートで昇温
昇温レート:300℃/min×2min(〜600℃)
100℃/min×2min(600〜800℃)
10℃/min×4min(800〜840℃)
0℃/min×5min(840℃)
冷却条件:真空放冷
雰囲気:Ar 60Pa(冷却時は真空)
【0177】
焼結後、電極層に付着した窒化硼素等の耐熱離型セラミックス粉末を除去した。得られた焼結ペレットの上下表面はほぼ平滑であったが、グラインダーで焼結ペレットのバリを除去した後、ワイヤーソーを用いて2mm×2mm×10mmの熱電変換素子を切り出した。
【0178】
<評価>
焼結装置からのNiへの大電流によるNiの漏れ等を防ぐためのSiO2層と粉末の混合防止用のカーボンペーパーとを使用した実施例10における焼結ペレットと、実施例16における焼結ペレットとについて、平滑になるように上下面のNi電極をグラインダーにて研磨した。研磨前後における焼結ペレットの高さ(mm)を表6に示す。
【0179】
【表6】
【0180】
表6から分かるように、実施例16のように耐熱性離型剤を用いた場合には、実施例10のようにSiO2層と粉末の混合防止用のカーボンペーパーとを用いる必要がない上、焼結ペレット表面の平滑性も向上するため、Ni電極の研磨量も少なくて済む。したがって、簡易且つ効率よく、信頼性の高い熱電変換素子を提供することができる。
【符号の説明】
【0181】
101 n型熱電変換部
1015,1016 電極
102 p型熱電変換部
1025,1026 電極
103 n型熱電変換部
1035,1036 電極
3 負荷
4 直流電源
10 グラファイトダイ
11a,11b グラファイト製パンチ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
866Kにおける無次元性能指数が0.665以上であり、実質的にドーパントを含まないマグネシウム−ケイ素複合材料。
【請求項2】
管電圧40kV、管電流40mAの条件下におけるX線回折において、2θ=36.6度におけるMgピーク強度が12.9cps以下であり、2θ=28.4度におけるSiピーク強度が340.5cps以下である請求項1に記載のマグネシウム−ケイ素複合材料。
【請求項3】
Mgの含有量が原子量比で66.17〜66.77at%であり、Siの含有量が原子量比で33.23〜33.83at%である組成原料から合成される請求項1又は2に記載のマグネシウム−ケイ素複合材料。
【請求項4】
ドーパントを含有し、管電圧40kV、管電流40mAの条件下におけるX線回折において、2θ=36.34〜36.68度におけるMgピーク強度が12.9cps以下であり、2θ=28.30〜28.52度におけるSiピーク強度が340.5cps以下である請求項1に記載のマグネシウム−ケイ素複合材料。
【請求項5】
ドーパントを原子量比で0.10〜2.00at%含有する請求項4に記載のマグネシウム−ケイ素複合材料。
【請求項6】
Mgの含有量とSiの含有量との比が原子量比で66.17:33.83〜66.77:33.23であり、ドーパントの含有量が原子量比で0.10〜2.00at%である組成原料から合成される請求項4又は5に記載のマグネシウム−ケイ素複合材料。
【請求項7】
熱伝導率が3.50W/m・K以下である請求項1から6のいずれかに記載のマグネシウム−ケイ素複合材料。
【請求項8】
Mgの含有量が原子量比で66.17〜66.77at%であり、Siの含有量が原子量比で33.23〜33.83at%である組成原料を、開口部と前記開口部を覆う蓋部とを備え、前記開口部の辺縁における前記蓋部への接触面と、前記蓋部における前記開口部への接触面とが共に研磨処理された耐熱容器中で加熱溶融する工程を有するマグネシウム−ケイ素複合材料の製造方法。
【請求項9】
Mgの含有量とSiの含有量との比が原子量比で66.17:33.83〜66.77:33.23であり、ドーパントの含有量が原子量比で0.10〜2.00at%である組成原料を、開口部と前記開口部を覆う蓋部とを備え、前記開口部の辺縁における前記蓋部への接触面と、前記蓋部における前記開口部への接触面とが共に研磨処理された耐熱容器中で加熱溶融する工程を有するマグネシウム−ケイ素複合材料の製造方法。
【請求項10】
請求項1から7のいずれかに記載のマグネシウム−ケイ素複合材料からなる熱電変換材料。
【請求項11】
熱電変換部と、該熱電変換部に設けられた第1電極及び第2電極とを備え、
前記熱電変換部が請求項1から7のいずれかに記載のマグネシウム−ケイ素複合材料を用いて製造される熱電変換素子。
【請求項12】
前記第1電極及び前記第2電極がメッキ法により形成されてなる請求項11に記載の熱電変換素子。
【請求項13】
加圧圧縮焼結法によって前記第1電極及び前記第2電極と前記熱電変換部とが一体成形されてなる請求項11に記載の熱電変換素子。
【請求項14】
前記熱電変換部は、異なる熱電変換材料からなる複数の層を有し、
前記第1電極又は前記第2電極に隣接した層が、Mgの含有量とSiの含有量との比が原子量比で66.17:33.83〜66.77:33.23であり、Sbの含有量が原子量比で0.10〜2.00at%である組成原料から合成されるマグネシウム−ケイ素複合材料からなる請求項11から13のいずれかに記載の熱電変換素子。
【請求項15】
請求項11から14のいずれかに記載の熱電変換素子を備える熱電変換モジュール。
【請求項16】
請求項1から7のいずれかに記載のマグネシウム−ケイ素複合材料が用いられてなる耐食性材料、軽量構造材、摩擦材、リチウムイオン二次電池用負極材、セラミックス基板、誘電体磁器組成物、水素吸蔵組成物、又はシラン発生装置。
【請求項1】
866Kにおける無次元性能指数が0.665以上であり、実質的にドーパントを含まないマグネシウム−ケイ素複合材料。
【請求項2】
管電圧40kV、管電流40mAの条件下におけるX線回折において、2θ=36.6度におけるMgピーク強度が12.9cps以下であり、2θ=28.4度におけるSiピーク強度が340.5cps以下である請求項1に記載のマグネシウム−ケイ素複合材料。
【請求項3】
Mgの含有量が原子量比で66.17〜66.77at%であり、Siの含有量が原子量比で33.23〜33.83at%である組成原料から合成される請求項1又は2に記載のマグネシウム−ケイ素複合材料。
【請求項4】
ドーパントを含有し、管電圧40kV、管電流40mAの条件下におけるX線回折において、2θ=36.34〜36.68度におけるMgピーク強度が12.9cps以下であり、2θ=28.30〜28.52度におけるSiピーク強度が340.5cps以下である請求項1に記載のマグネシウム−ケイ素複合材料。
【請求項5】
ドーパントを原子量比で0.10〜2.00at%含有する請求項4に記載のマグネシウム−ケイ素複合材料。
【請求項6】
Mgの含有量とSiの含有量との比が原子量比で66.17:33.83〜66.77:33.23であり、ドーパントの含有量が原子量比で0.10〜2.00at%である組成原料から合成される請求項4又は5に記載のマグネシウム−ケイ素複合材料。
【請求項7】
熱伝導率が3.50W/m・K以下である請求項1から6のいずれかに記載のマグネシウム−ケイ素複合材料。
【請求項8】
Mgの含有量が原子量比で66.17〜66.77at%であり、Siの含有量が原子量比で33.23〜33.83at%である組成原料を、開口部と前記開口部を覆う蓋部とを備え、前記開口部の辺縁における前記蓋部への接触面と、前記蓋部における前記開口部への接触面とが共に研磨処理された耐熱容器中で加熱溶融する工程を有するマグネシウム−ケイ素複合材料の製造方法。
【請求項9】
Mgの含有量とSiの含有量との比が原子量比で66.17:33.83〜66.77:33.23であり、ドーパントの含有量が原子量比で0.10〜2.00at%である組成原料を、開口部と前記開口部を覆う蓋部とを備え、前記開口部の辺縁における前記蓋部への接触面と、前記蓋部における前記開口部への接触面とが共に研磨処理された耐熱容器中で加熱溶融する工程を有するマグネシウム−ケイ素複合材料の製造方法。
【請求項10】
請求項1から7のいずれかに記載のマグネシウム−ケイ素複合材料からなる熱電変換材料。
【請求項11】
熱電変換部と、該熱電変換部に設けられた第1電極及び第2電極とを備え、
前記熱電変換部が請求項1から7のいずれかに記載のマグネシウム−ケイ素複合材料を用いて製造される熱電変換素子。
【請求項12】
前記第1電極及び前記第2電極がメッキ法により形成されてなる請求項11に記載の熱電変換素子。
【請求項13】
加圧圧縮焼結法によって前記第1電極及び前記第2電極と前記熱電変換部とが一体成形されてなる請求項11に記載の熱電変換素子。
【請求項14】
前記熱電変換部は、異なる熱電変換材料からなる複数の層を有し、
前記第1電極又は前記第2電極に隣接した層が、Mgの含有量とSiの含有量との比が原子量比で66.17:33.83〜66.77:33.23であり、Sbの含有量が原子量比で0.10〜2.00at%である組成原料から合成されるマグネシウム−ケイ素複合材料からなる請求項11から13のいずれかに記載の熱電変換素子。
【請求項15】
請求項11から14のいずれかに記載の熱電変換素子を備える熱電変換モジュール。
【請求項16】
請求項1から7のいずれかに記載のマグネシウム−ケイ素複合材料が用いられてなる耐食性材料、軽量構造材、摩擦材、リチウムイオン二次電池用負極材、セラミックス基板、誘電体磁器組成物、水素吸蔵組成物、又はシラン発生装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図13】
【図14】
【図16】
【図18】
【図11】
【図12】
【図15】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図13】
【図14】
【図16】
【図18】
【図11】
【図12】
【図15】
【図17】
【公開番号】特開2011−29632(P2011−29632A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−149506(P2010−149506)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【出願人】(591172526)昭和KDE株式会社 (17)
【出願人】(591054864)ユニオンマテリアル株式会社 (13)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【出願人】(591172526)昭和KDE株式会社 (17)
【出願人】(591054864)ユニオンマテリアル株式会社 (13)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]