説明

マスタシリンダ装置

【課題】 実用性の高いマスタシリンダ装置を提供することを課題とする。
【解決手段】 (a)内部を前方室と後方室とに区画する隔壁170を有するハウジング150と、(b)有底穴180と鍔部182とが設けられて鍔の前方に鍔部前方室R4が区画され、鍔の後方に高圧源からの作動液が導入される第1加圧ピストン152と、(c)後方室に位置する基部192から有底穴内にロッド部194の先端が嵌入してピストン間室R5が区画され、前方小径部と隔壁との間に環状のロッド部周囲室R6が区画される入力ピストン156と、(d)それら各室を相互に連通する室間連通路と、(e)入力ピストンの前進に伴う上記3室の作動液の合計容積の減少に応じた大きさの圧力をその作動液に作用させる反力発生器250とを備え、第1加圧ピストンにおける作動液の圧力が作用する面積を、ピストン間室と鍔部前方室とで等しくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪に設けられたブレーキ装置に作動液を加圧して供給するためのマスタシリンダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の液圧ブレーキシステムには、例えば、下記特許文献に記載されているようなマスタシリンダ装置、つまり、高圧源から導入される高圧の作動液の圧力によって作動液を加圧するマスタシリンダ装置が採用されている。このようなマスタシリンダ装置は、一般的に、作動液を加圧する加圧ピストンと、操作部材が連結されて運転者の操作力が入力される入力ピストンとを有し、それらのピストンは互いに離間して配置されており、ブレーキ操作がされても操作力が加圧ピストンに伝達されないようになっている。また、このようなマスタシリンダ装置は、ブレーキ操作において運転者が操作反力を感じることができるように、その操作反力を発生させるためのストロークシミュレータを、一般的に備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2009−502623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようなマスタシリンダ装置は、自身を構成する部材が比較的多く、また、構造が比較的複雑であり、装置自体が比較的大きくなってしまうという問題がある。このような問題に対処するための改良を始めとして、マスタシリンダ装置には、他にも改良の余地が多分に存在している。したがって、何らかの改良を施せば、マスタシリンダ装置の実用性を向上させることが可能となる。本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、マスタシリンダ装置の実用性を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明のマスタシリンダ装置は、(a)内部を前方室と後方室とに区画する区画部を有するハウジングと、(b)後方に開口する有底穴と後端に鍔部とが設けられて鍔部の前方に鍔部前方室が区画され、鍔部の後方に高圧源からの作動液が導入される加圧ピストンと、(c)後方室に位置する基部から区画部を挿通して有底穴内にロッド部の先端が嵌入してピストン間室が区画され、基部と区画部との間に環状のロッド部周囲室が区画される入力ピストンと、(d)それら各室を相互に連通させるための室間連通路と、(e)入力ピストンの前進に伴う上記3室の作動液の合計容積の減少に応じた圧力をその作動液に作用させる反力付与機構とを備えており、加圧ピストンにおける作動液の圧力が作用する面積が、ピストン間室と鍔部前方室とで等しくされていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明のマスタシリンダ装置によれば、入力ピストンの前進に伴い、ピストン間室,鍔部前方室およびロッド部周囲室の作動液の圧力が、反力付与機構によって増加することになり、その圧力の増加によって、入力ピストンを後方へ付勢する力、つまり、操作反力が増加することになる。その際、入力ピストンには、ピストン間室の作動液の圧力がロッド部の前端面において作用し、ロッド部周囲室の作動液の圧力が基部の前端面において作用する。つまり、入力ピストンでは、作動液の圧力が作用する面積が比較的大きくなっている。そのため、入力ピストンの外径を比較的小さくしても、操作反力を十分な大きさで発生させることができる。したがって、本マスタシリンダ装置は、装置自体を比較的コンパクトにすることができ、このことによって、本マスタシリンダ装置の実用性は高いものとなっている。
【発明の態様】
【0007】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、それらの発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から何某かの構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
【0008】
なお、以下の各項において、(1)項から(5)項が請求項1から請求項5にそれぞれ相当する。
【0009】
(1)車輪に設けられたブレーキ装置に、加圧された作動液を供給するためのマスタシリンダ装置であって、
前方が閉塞され、内部を前方室と後方室とに区画するともに自身を貫通する貫通穴が形成された区画部を有するハウジングと、
後方に開口する有底穴が設けられて概して円筒形状とされるとともに後端に鍔部が設けられ、前記ブレーキ装置に供給される作動液を加圧するための加圧室が自身の前方に区画されるように、かつ、前記鍔部の前方において自身の周囲に環状の鍔部前方室が区画されるようにして、前記ハウジングの前方室に配設された加圧ピストンと、
前記ハウジングの後方室に位置する基部と、その基部よりも外径が小さくされてその基部から前方に延び出すとともに前記区画部の貫通穴を挿通して前記加圧ピストンの有底穴に先端が嵌入するロッド部とを有し、そのロッド部が嵌入することによってその有底穴内にピストン間室が区画され、前記加圧ピストンの鍔部の後方において前記区画部との間に高圧源からの作動液が導入される環状の入力室が区画され、かつ、前記基部の前方において前記区画部との間に環状のロッド部周囲室が区画されるようにして前記ハウジング内に配設され、ブレーキ操作部材に連結されてそのブレーキ操作部材に加えられた操作力によって前進する入力ピストンと、
前記ピストン間室と前記鍔部前方室と前記ロッド部周囲室とを相互に連通させるための室間連通路と
前記ピストン間室,前記鍔部前方室および前記ロッド部周囲室と連通する貯液室を有し、前記入力ピストンの前進に伴うそれらピストン間室,鍔部前方室およびロッド部周囲室の合計容積の減少に応じた前記貯液室の容積の増加を許容するとともに、その増加の量に応じた圧力を前記貯液室内の作動液に作用させる反力付与機構と
を備え、
前記ピストン間室の作動液の圧力が作用する前記加圧ピストンの受圧面積と、前記鍔部前方室の作動液の圧力が作用する前記加圧ピストンの受圧面積とが等しくされることで、前記入力ピストンの前進を伴わない前記高圧源から導入された作動液の圧力による前記加圧ピストンの前進、および、前記加圧ピストンの前進を伴わない前記操作力による前記入力ピストンの前進が許容され、かつ、
前記ピストン間室内の作動液および前記ロッド部周囲室の作動液の圧力の前記入力ピストンへの作用によって、前記ブレーキ操作部材の操作に対する操作反力が発生するように構成されたマスタシリンダ装置。
【0010】
本マスタシリンダ装置では、ピストン間室の作動液の圧力が、入力ピストンのロッド部の前端面に作用し、また、ロッド部周囲室の作動液の圧力が、入力ピストンの基部の前端面に作用する。これらの圧力により、入力ピストンに対する後方への付勢力が発生することになる。また、本マスタシリンダ装置では、運転者のブレーキ操作によって入力ピストンが加圧ピストンに対して前進すると、ピストン間室の作動液が流出してピストン間室の容積が減少し、また、ブレーキ操作によって入力ピストンがハウジングに対して前進すると、ロッド部周囲室の作動液が流出してロッド部周囲室の容積が減少する。その際、それらの流出した作動液は反力付与機構の貯液室に流入するため、貯液室の容積が増加し、貯液室の作動液の圧力が増加する。その圧力の増加に伴って、鍔部前方室,ピストン間室,ロッド部周囲室の作動液の圧力は増加することになるため、入力ピストンに対する後方への付勢力が増加することになる。したがって、運転者は、その後方への付勢力の増加を、自身のブレーキ操作量の増加に応じた操作反力の増加として感じることができる。つまり、反力付与機構は、運転者のブレーキ操作を許容しつつ、その操作に応じた反力を発生するストロークシミュレータとして機能すると考えることができる。
【0011】
本マスタシリンダ装置では、入力室に高圧源からの作動液が導入されると、加圧ピストンがハウジングおよび入力ピストンに対して前進させられる。その際、鍔部前方室の容積が減少して鍔部前方室の作動液が流出する一方で、ピストン間室の容積が増加してピストン間室には作動液が流入する。また、ピストン間室の作動液の圧力が作用する加圧ピストンの受圧面積と、鍔部前方室の作動液の圧力が作用する加圧ピストンの受圧面積とは等しくなっているため、加圧ピストンの前進による鍔部前方室の容積の減少量とピストン間室の容積の増加量とは等しくなる。したがって、加圧ピストンは、入力ピストンの前進を伴わずに、高圧源から導入された作動液の圧力によって前進することができる。また、本マスタシリンダ装置では、ピストン間室の作動液の圧力と鍔部前方室の作動液の圧力とが等しくなるため、ピストン間室の作動液の圧力によって発生する加圧ピストンに対する前方への付勢力の大きさと、鍔部前方室の作動液の圧力によって発生する加圧ピストンに対する後方への付勢力の大きさとが等しくなる。したがって、上述のように、入力ピストンの前進によってピストン間室や鍔部前方室の作動液の圧力が増加しても、その圧力によって加圧ピストンが移動させられることはない。したがって、入力ピストンは、加圧ピストンの前進を伴わずに操作力によって前進することができる。
【0012】
また、本マスタシリンダ装置では、前述のように、入力ピストンのロッド部の前端面と基部の前端面との両方に作動液の圧力が作用するため、入力ピストンでは、作動液の圧力が作用する面積が比較的大きくなっている。そのため、作動液の圧力が低くても、後方への付勢力は比較的大きくなる。逆に言えば、入力ピストンの外径、具体的には、基部の外径を比較的小さくしても、後方への付勢力、すなわち、操作反力を十分な大きさで発生させることができる。したがって、本マスタシリンダ装置によれば、装置自体を比較的コンパクトにすることができる。また、基部の外径を比較的小さくすれば、基部とハウジングとが接する面積を小さくすることができるため、ブレーキ操作をする際の入力ピストンとハウジングとの間に発生する摩擦力を小さくすることができる。そのため、運転者のブレーキ操作における操作感を向上させることができる。
【0013】
また、本マスタシリンダ装置によれば、ロッド部の前端面の面積が比較的小さくされていても、その分だけ基部の前端面の面積が大きくされていれば、操作反力を十分な大きさで発生させることができる。換言すれば、ロッド部の外径が小さくても、基部の外径を大きくすることなく、十分な大きさの操作反力を発生させることができる。したがって、ロッド部の外径を比較的小さくすることで、ロッド部とハウジングの区画部とが接する面積、および、ロッド部と加圧ピストンの有底穴とが接する面積をともに小さくすることができる。そのため、ブレーキ操作をする際の入力ピストンとハウジングとの間に発生する摩擦力、および、入力ピストンと加圧ピストンとの間に発生する摩擦力をともに小さくすることができる。そのため、運転者のブレーキ操作における操作感を向上させることができる。
【0014】
本マスタシリンダ装置における「室間連通路」は、マスタシリンダ装置の内部通路、例えば、ハウジング,入力ピストン,加圧ピストン等に設けられた連通孔や、ピストンとハウジングとの隙間等だけで構成されていてもよいし、マスタシリンダ装置の外部通路、例えば、ハウジング外部に設けられた作動液管等を含んで構成されていてもよい。また、本マスタシリンダ装置では、貯液室がピストン間室,鍔部前方室およびロッド部周囲室に連通しているため、その貯液室を利用した室間連通路、つまり、貯液室を介して上記3室が相互に連通するような室間連通路が構成されていてもよい。
【0015】
(2)前記高圧源から導入される作動液の圧力によらずに、前記操作力による前記加圧室の作動液の加圧を実現する操作力依存加圧実現機構を、さらに備えた(1)項に記載のマスタシリンダ装置。
【0016】
本マスタシリンダ装置によれば、電気的失陥等によって高圧源が正常に作動することができない場合でも、操作力によって作動液を加圧することができる。操作力依存加圧実現機構は、例えば、後に詳しく説明するように、入力ピストンから加圧ピストンへの操作力の伝達を許容する機構であればよい。具体的には、入力ピストンの加圧ピストンへの当接を許容するような機構であれば、操作力が入力ピストンから加圧ピストンに直接的に伝達されることになる。また、ピストン間室を密閉するような機構であれば、ピストン間室の作動液を介して、操作力が入力ピストンから加圧ピストンに間接的に伝達されることになる。このような操作力依存加圧実現機構であれば、操作力による加圧室内の作動液の加圧が実現されることになる。
【0017】
(3)前記操作力依存加圧実現機構が、前記ピストン間室,前記鍔部前方室および前記ロッド部周囲室を低圧源に連通させる対低圧源3室連通機構を含んで構成された(2)項に記載のマスタシリンダ装置。
【0018】
本マスタシリンダ装置によれば、ブレーキ操作がされて入力ピストンが前進させられると、上記3室の作動液が低圧源へと流出されることになる。そのため、入力ピストンは、ピストン間室の作動液を低圧源に流出させながら前進し、加圧ピストンに当接することができる。したがって、高圧源から導入される作動液の圧力によらず、操作力によって加圧室の作動液を加圧することができる。また、その際、ピストン間室およびロッド部周囲室の作動液の圧力は増加しないため、入力ピストンには、反力付与機構による操作反力は発生しない。そのため、操作力が加圧室の作動液の加圧に有効に利用され、操作力に依存して比較的大きな液圧制動力を発生させることができる。
【0019】
(4)前記操作力依存加圧実現機構が、前記鍔部前方室および前記ロッド部周囲室を低圧源に連通させる対低圧源2室連通機構と、前記ピストン間室を密閉するピストン間室密閉機構とを含んで構成された(2)項に記載のマスタシリンダ装置。
【0020】
本マスタシリンダ装置によれば、密閉されたピストン間室の作動液を介して、操作力が入力ピストンから加圧ピストンへと伝達されることになる。したがって、高圧源から導入される作動液の圧力によらず、操作力によって加圧室の作動液を加圧することができる。また、その際、鍔部前方室およびロッド部周囲室の2室の作動液が低圧源へと流出されるため、その2室の作動液の圧力は増加せず、入力ピストンには、反力付与機構による操作反力は発生しない。そのため、操作力が加圧室の作動液の加圧に有効に利用され、操作力に依存して比較的大きな液圧制動力を発生させることができる。
【0021】
なお、ブレーキ操作における空踏み状態、つまり、ブレーキ操作をしているにも拘らずブレーキ装置で液圧制動力が発生していない状態を生じさせないようにするためには、上記ピストン間室密閉機構は、ブレーキ操作が開始されてすぐにピストン間室を密閉するような機構であることが望ましい。そのような機構であれば、空踏み状態の殆どないマスタシリンダ装置が実現されることになる。このように構成されたマスタシリンダ装置であれば、高圧源が正常に作動することができない場合でも、運転者はあまり違和感を感じずにブレーキ操作をすることができる。
【0022】
(5)前記室間連通路が、
前記入力ピストンの前記ロッド部の内部に設けられるとともにそのロッド部の先端に開口する開口を有して、前記鍔部前方室と前記ロッド部周囲室との少なくとも一方と前記ピストン間室とを連通させる対ピストン間室連通路を含んで構成され、
前記ピストン間室密閉機構が、
前端部が前記ピストン間室内において前記加圧ピストンに支持された閉塞体を有し、前記入力ピストンの前進によってその閉塞体の後端部が前記ロッド部の前記開口を閉塞する機構を含んで構成された(4)項に記載のマスタシリンダ装置。
【0023】
本マスタシリンダ装置では、室間連通路によるピストン間室と、鍔部前方室およびロッド部周囲室の少なくとも一方との連通を遮断することでピストン間室を密閉することが可能となる。本マスタシリンダ装置では、ブレーキ操作によって入力ピストンが前進させられた場合に、高圧源から作動液が導入されないために加圧ピストンが前進しないとき、室間連通路のピストン間室への開口が閉塞されることになる。また、閉塞体の後端部とロッド部の開口との間隔が比較的小さくされていれば、入力ピストンが少し前進させられるだけでピストン間室が密閉されることになる。そのようにマスタシリダ装置が構成されている場合、高圧源から作動液が導入されない場合でも、空踏み状態が殆ど発生せず、運転者はあまり違和感を感じずにブレーキ操作をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】請求可能発明の実施例のマスタシリンダ装置を搭載したハイブリッド車両の駆動システムおよび制動システムを示す模式図である。
【図2】第1実施例のマスタシリンダ装置を含んで構成される液圧ブレーキシステムを示す図である。
【図3】図2に示す液圧ブレーキシステムにおいて、高圧源によって高圧とされた作動液を調圧する増減圧装置を示す図である。
【図4】図2に示すマスタシリンダ装置に採用される反力付与機構を示す図である。
【図5】第2実施例のマスタシリンダ装置を含んで構成される液圧ブレーキシステムを示す図である。
【図6】第2実施例のマスタシリンダ装置の有底穴の底面付近の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、請求可能発明の実施例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、請求可能発明は、下記の実施例および変形例に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
【実施例1】
【0026】
≪車両の構成≫
図1に、実施例1のマスタシリンダ装置を搭載したハイブリッド車両の駆動システムおよび制動システムを模式的に示す。車両には、動力源として、エンジン10と電気モータ12とが搭載されており、また、エンジン10の出力により発電を行う発電機14も搭載されている。これらエンジン10,電気モータ12,発電機14は、動力分割機構16によって互いに接続されている。この動力分割機構16を制御することで、エンジン10の出力を、発電機14を作動させるための出力と、4つの車輪18のうちの駆動輪となるものを回転させるための出力とに振り分けたり、電気モータ12の出力を駆動輪に伝達させたりすることができる。つまり、動力分割機構16は、減速機20および駆動軸22を介して駆動輪に伝達される駆動力に関する変速機として機能するのである。なお、「車輪18」等のいくつかの構成要素は、4つの車輪のいずれかに対応するものであることを示す場合には、左前輪,右前輪,左後輪,右後輪にそれぞれ対応して、添え字「FL」,「FR」,「RL」,「RR」を付して使用する。この表記に従えば、本車両における駆動輪は、車輪18RLおよび車輪18RRである。
【0027】
電気モータ12は、交流同期電動機であり、交流電力によって駆動される。車両にはインバータ24が備えられており、インバータ24は、電力を、直流から交流、あるいは、交流から直流に変換することができる。したがって、インバータ24を制御することで、発電機14によって出力される交流の電力を、バッテリ26に蓄えるための直流の電力に変換させたり、バッテリ26に蓄えられている直流の電力を、電気モータ12を駆動するための交流の電力に変換することができる。発電機14は、電気モータ12と同様に、交流同期電動機としての構成を有している。つまり、本実施例の車両では、交流同期電動機が2つ搭載されていると考えることができ、一方が、電気モータ12として、主に駆動力を出力するために使用され、他方が、発電機14として、主にエンジン10の出力により発電するために使用されている。
【0028】
また、電気モータ12は、車両の走行に伴う車輪18RL,18RRの回転を利用して、発電(回生発電)を行うことも可能である。このとき、車輪18RL,18RRに連結される電気モータ12では、電力が発生させられるとともに、電気モータ12の回転を制止するための抵抗力が発生する。したがって、その抵抗力を、車両を制動する制動力として利用することができる。つまり、電気モータ12は、電力を発生させつつ車両を制動するための回生ブレーキの手段として利用される。したがって、本車両は、回生ブレーキをエンジンブレーキや後述する液圧ブレーキとともに制御することで、制動されるのである。一方、発電機14は主にエンジン10の出力により発電をするが、インバータ24を介してバッテリ26から電力が供給されることで、電気モータとしても機能する。
【0029】
本車両において、上記のブレーキの制御や、その他の車両に関する各種の制御は、複数の電子制御ユニット(ECU)によって行われる。複数のECUのうち、メインECU30は、それらの制御を統括する機能を有している。例えば、ハイブリッド車両は、エンジン10の駆動および電気モータ12の駆動によって走行することが可能とされているが、それらエンジン10の駆動と電気モータ12の駆動は、メインECU30によって総合的に制御される。具体的に言えば、メインECU30によって、エンジン10の出力と電気モータ12による出力の配分が決定され、その配分に基づき、エンジン10を制御するエンジンECU32、電気モータ12及び発電機14を制御するモータECU34に各制御についての指令が出力される。
【0030】
メインECU30には、バッテリ26を制御するバッテリECU36も接続されている。バッテリECU36は、バッテリ26の充電状態を監視しており、充電量が不足している場合には、メインECU30に対して充電要求指令を出力する。充電要求指令を受けたメインECU30は、バッテリ26を充電させるために、発電機14による発電の指令をモータECU34に出力する。
【0031】
また、メインECU30には、ブレーキを制御するブレーキECU38も接続されている。当該車両には、運転者によって操作されるブレーキ操作部材(以下、単に「操作部材」という場合がある)が設けられており、ブレーキECU38は、その操作部材の操作量であるブレーキ操作量(以下、単に「操作量」という場合がある)と、その操作部材に加えられる運転者の力であるブレーキ操作力(以下、単に「操作力」という場合がある)との少なくとも一方に基づいて目標制動力を決定し、メインECU30に対してこの目標制動力を出力する。メインECU30は、モータECU34にこの目標制動力を出力し、モータECU34は、その目標制動力に基づいて回生ブレーキを制御するとともに、それの実行値、つまり、発生させている回生制動力をメインECU30に出力する。メインECU30では、目標制動力から回生制動力が減算され、その減算された値によって、車両に搭載される液圧ブレーキシステム40において発生すべき目標液圧制動力が決定される。メインECU30は、目標液圧制動力をブレーキECU38に出力し、ブレーキECU38は、液圧ブレーキシステム40が発生させる液圧制動力が目標液圧制動力となるように制御するのである。
【0032】
≪液圧ブレーキシステムの構成≫
上述のように構成された本ハイブリッド車両に搭載される液圧ブレーキシステム40について、図2を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の説明において、「前方」は図2における左方、「後方」は図2における右方をそれぞれ表している。また、「前側」、「前端」、「前進」や、「後側」、「後端」、「後進」等も同様に表すものとされている。以下の説明において[ ]の文字は、センサ等を図面において表わす場合に用いる符号である。
【0033】
図2に、本車両が備える液圧ブレーキシステム40を、模式的に示す。液圧ブレーキシステム40は、作動液を加圧するためのマスタシリンダ装置50を有している。車両の運転者は、マスタシリンダ装置50に連結された操作装置52を操作することでマスタシリンダ装置50を作動させることができ、マスタシリンダ装置50は、自身の作動によって作動液を加圧する。その加圧された作動液は、マスタシリンダ装置50に接続されるアンチロック装置54を介して、各車輪に設けられたブレーキ装置56に供給される。ブレーキ装置56は、その加圧された作動液の圧力(以下、「マスタ圧」という場合がある)に依存して、車輪18の回転を制止するための力、すなわち、液圧制動力を発生させる。
【0034】
液圧ブレーキシステム40は、高圧源として作動液の圧力を高圧にするための高圧源装置58を有している。その高圧源装置58は、増減圧装置60を介して、マスタシリンダ装置50に接続されている。増減圧装置60は、高圧源装置58によって高圧とされた作動液の圧力(以下、「高圧源圧」という場合がある)を、その圧力以下の圧力に制御する装置であり、マスタシリンダ装置50へ入力される作動液の圧力(以下、「入力圧」という場合がある)を増加および減少させる。つまり、入力圧は、高圧源圧が制御された圧力であって、制御高圧源圧と呼ぶこともできる。マスタシリンダ装置50は、その入力圧の増減によって作動可能に構成されている。また、液圧ブレーキシステム40は、低圧源として作動液を大気圧下で貯留するリザーバ62を有している。リザーバ62は、マスタシリンダ装置50,増減圧装置60,高圧源装置58の各々に接続されている。
【0035】
操作装置52は、ブレーキ操作部材としてのブレーキペダル70と、ブレーキペダル70に連結されるオペレーションロッド72とを含んで構成されている。ブレーキペダル70は、上端部において、車体に回動可能に保持されている。オペレーションロッド72は、後端部においてブレーキペダル70に連結され、前端部においてマスタシリンダ装置50に連結されている。また、操作装置52は、ブレーキペダル70の操作量を検出するための操作量センサ[SP]74と、操作力を検出するための操作力センサ[FP]76とを有している。操作量センサ74および操作力センサ76は、ブレーキECU38に接続されており、ブレーキECU38は、それらのセンサの検出値を基にして、目標制動力を決定する。
【0036】
ブレーキ装置56は、液通路80,82を介してマスタシリンダ装置50に接続されている。それら液通路80,82は、マスタシリンダ装置50によってマスタ圧に加圧された作動液をブレーキ装置56に供給するための液通路である。液通路80にはマスタ圧センサ[Po]84が設けられている。詳しい説明は省略するが、各ブレーキ装置56は、ブレーキキャリパと、そのブレーキキャリパに取り付けられたホイールシリンダ(ブレーキシリンダ)およびブレーキパッドと、各車輪とともに回転するブレーキディスクとを含んで構成されている。液通路80,82は、アンチロック装置54を介して、各ブレーキ装置56のブレーキシリンダに接続されている。ちなみに、液通路80が、後輪側のブレーキ装置56RL,56RRに繋がるようにされており、また、液通路82が、前輪側のブレーキ装置56FL,56FRに繋がるようにされている。各ブレーキ装置56では、マスタ圧に依存して、ブレーキシリンダがブレーキパッドをブレーキディスクに押し付け、その押し付けにより発生する摩擦によって車輪の回転を制止する液圧制動力が発生するため、車両が制動されるのである。
【0037】
アンチロック装置54は、一般的な装置であり、簡単に説明すれば、各車輪に対応する4対の開閉弁を有している。各対の開閉弁のうちの1つは増圧用開閉弁であり、車輪がロックしていない状態では、開弁状態とされており、また、もう1つは減圧用開閉弁であり、車輪がロックしていない状態では、閉弁状態とされている。車輪がロックした場合に、増圧用開閉弁が、マスタシリンダ装置50からブレーキ装置56への作動液の流れを遮断するとともに、減圧用開閉弁が、ブレーキ装置56からリザーバへの作動液の流れを許容して、車輪のロックを解除するように構成されている。
【0038】
高圧源装置58は、リザーバ62から作動液を吸込んでその作動液の液圧を増加させる液圧ポンプ90と、増圧された作動液が溜められるアキュムレータ92とを含んで構成されている。ちなみに、液圧ポンプ90は電動のモータ94によって駆動される。また、高圧源装置58は、高圧とされた作動液の圧力を検出するための高圧源圧センサ[Ph]96を有している。ブレーキECU38は、高圧源圧センサ96の検出値を監視しており、その検出値に基づいて、液圧ポンプ90は制御駆動される。この制御駆動によって、高圧源装置58は、常時、設定された圧力以上の作動液を増減圧装置60に供給する。
【0039】
増減圧装置60は、自身に導入される作動液の圧力に応じて作動液を調圧する調圧弁装置100と、高圧源装置58に繋がれる増圧用リニア弁102と、リザーバ62に繋がれる減圧用リニア弁104とを有している。調圧弁装置100は、それら増圧用リニア弁102および減圧用リニア弁104に繋がれており、増圧用リニア弁102および減圧用リニア弁104の作動によって作動液を調圧し、その作動液をマスタシリンダ装置50に供給することができる。
【0040】
調圧弁装置100は、図3に示すように、両端が塞がれた概して円筒形状のハウジング110と、そのハウジング110内に配設された円柱状の第1プランジャ112と、第1プランジャ112の下方に配設された円柱状の第2プランジャ114と、第1プランジャ112の上方に配設された円筒状の調圧筒116とを有している。これら第1プランジャ112,第2プランジャ114,調圧筒116は、それぞれ、ハウジング110に摺動可能に嵌合されている。ハウジング110の内周には、内径がいくつかの異なる大きさとなっているために段差面が形成されており、概して、上方へ向かうほど内径は大きくなっている。また、第1プランジャ112,第2プランジャ114,調圧筒116の各々の外周にも、外径がいくつかの異なる大きさとなっているために段差面が形成されている。調圧筒116には、自身を軸線方向および径方向に貫く貫通穴118が設けられており、上端面,下端面,側面の各々に、貫通穴118の開口が設けられている。調圧筒116の下端面に設けられた開口には、第1プランジャ112の上端部が着座可能となっている。一方、調圧筒116の上端面に設けられた開口には、ハウジング110の上端面に支持されるピン120が嵌入されており、調圧筒116は、ピン120に対して移動可能となっている。また、調圧筒116の上方には、調圧筒116のハウジング110への当接を防ぐ環状の緩衝ゴム122が設けられている。第1プランジャ112と調圧筒116との間には、圧縮ばねであるスプリング124が設けられており、そのスプリング124によって、第1プランジャ112と調圧筒116とは互いに離間するように付勢されている。調圧筒116とハウジング110との間にも、圧縮ばねであるスプリング126が設けられており、そのスプリング126によって、調圧筒116は下方に付勢されている。
【0041】
ハウジング110の内部には、ハウジング110の内周面および端面と、第1プランジャ112,第2プランジャ114,調圧筒116の各々の外周面および端面とによって、複数の液室が形成されている。具体的には、第2プランジャ114の下端面とハウジング110の内底面との間には、第1液室130が区画されており、また、第2プランジャ114の上端面と第1プランジャ112の下端面との間には、第2液室132が区画されている。調圧筒116の上部の外径はハウジング110の内径より小さくされており、調圧筒116とハウジング110との間には、第3液室134が区画されている。また、調圧筒116の下部の外径はハウジング110の内径より僅かに小さくされており、調圧筒116とハウジング110との間には、第4液室136が区画されている。さらに、第1プランジャ112上部の外周面と、調圧筒116の下端面と、ハウジング110の内周面とによって第5液室138が区画されている。
【0042】
これらの液室は、それぞれハウジング110に設けられた連通孔を介して外部に連通しており、各液室の作動液は、所定の圧力となっている。具体的には、第1液室130は、液通路80から分岐する液通路に接続されており、第1液室130には、マスタシリンダ装置50によってマスタ圧とされた作動液が供給される。第2液室132は、増圧リニア弁102および減圧用リニア弁104に繋がっており、第2液室132の作動液は、増圧リニア弁102および減圧用リニア弁104によって調整された圧力となっている。第4液室136は、高圧源装置58に繋がっており、第4液室136の作動液は高圧源圧となっている。第5液室138はリザーバ62に繋がっており、第5液室138の作動液の圧力は大気圧となっている。また、第3液室134の作動液は、後述するように、調圧弁装置100の作動によって圧力が調整されることになる。また、第3液室134は、マスタシリンダ装置50に繋がっており、マスタシリンダ装置50には、その調整された圧力の作動液が入力される。つまり、第3液室134の作動液の圧力は、マスタシリンダ装置50における入力圧となっている。
【0043】
第3液室134の作動液の圧力は、通常、第2液室132に供給される作動液の圧力(以下、「制御用液圧」という場合がある)に応じて調整される。制御用液圧は、増圧用リニア弁102および減圧用リニア弁104への電力が制御されることで増減させられる。増圧用リニア弁102および減圧用リニア弁104への電力の供給がされていない場合、増圧用リニア弁102は閉弁されるとともに減圧用リニア弁104は開弁されており、制御用液圧は大気圧となる。減圧用リニア弁104に設定された範囲における最大電流を供給し、増圧用リニア弁102への電力を制御すれば、減圧用リニア弁104が閉弁された状態で増圧用リニア弁102の開弁圧が制御される。この際、制御用液圧は、増圧用リニア弁102への電力の増加に応じて増加させられる。一方、増圧用リニア弁102への電力の供給をせず、減圧用リニア弁104への電力を制御すれば、増圧用リニア弁102が閉弁された状態で減圧用リニア弁104の開弁圧が制御される。この際、制御用液圧は、減圧用リニア弁104への電力の減少に応じて減少させられる。
【0044】
上述のように制御用液圧が増加させられると、第1プランジャ112は、コイルスプリング124の弾性力に抗して上方に移動し、調圧筒116の貫通穴118の下端の開口(以下、「第5液室側開口」という場合がある)に着座する。さらに第1プランジャ112が上方へ移動すると、調圧筒116も上方に移動し、調圧筒116の外周面がハウジング110に形成された段差面から離隔する。そのため、第4液室136から第3液室134への作動液の流れが許容され、第3液室の作動液の圧力が増加する。また、制御用液圧が減少させられると、第1プランジャ112が第5液室側開口に着座する状態で、調圧筒116の外周面がハウジング110に形成された段差面に着座する。さらに制御用液圧が減少させられると、第1プランジャ112が第5液室側開口から離隔し、第3液室134は第5液室138を介してリザーバ62に連通する。
【0045】
また、調圧弁装置100は、増圧用リニア弁102および減圧用リニア弁104に電力の供給がされていない場合に、第1液室130の作動液の圧力、つまり、マスタシリンダ装置50の作動によるマスタ圧に依存して、第3液室134の作動液の圧力を増減させることが可能となっている。つまり、第1液室130の作動液の圧力が増加すると、第2プランジャ114は上方に移動するため、第1プランジャ112も上方へ移動させられる。また、第1液室130の作動液の圧力が減少すれば、第2プランジャ114は下方に移動し、第1プランジャ112も下方へ移動する。したがって、第1液室130の作動液の圧力の増減に伴って、前述のように、第3液室134の作動液の圧力が増減されることになる。つまり、調圧弁装置100は、上記マスタ圧をパイロット圧として利用して作動、すなわち、パイロット圧に基づいて、第3液室134の作動液の圧力を調整することが可能となっている。
【0046】
≪マスタシリンダ装置の構成≫
マスタシリンダ装置50は、マスタシリンダ装置50の筐体であるハウジング150と、ブレーキ装置56に供給される作動液を加圧する第1加圧ピストン152および第2加圧ピストン154と、運転者の操作が操作装置112を通じて入力される入力ピストン156とを含んで構成されている。なお、図2は、マスタシリンダ装置50が動作していない状態、つまり、ブレーキ操作がされていない状態を示している。
【0047】
ハウジング150は、主に、2つの部材から、具体的には、第1ハウジング部材160と第2ハウジング部材162とから構成されている。第1ハウジング部材160は、前端部が閉塞された概して円筒形状とされており、後端部の外周にはフランジ164が形成され、そのフランジ164において車体に固定されている。第1ハウジング部材160は、内径が互いに異なる2つの部分、具体的には、前方側に位置して内径の小さい前方小径部166と、後方側に位置して内径の大きい後方大径部168とに区分けされている。
【0048】
第2ハウジング部材162は、概して円筒形状とされているが、軸線方向の略中間位置における内部には、第2ハウジング部材162を前後方向において区分けする隔壁170が設けられている。第2ハウジング部材162では、この隔壁170の前方側が、内径,外径ともに概して大きくされた前方大径部172とされており、隔壁170の後方側が、内径,外径ともに概して小さくされた後方小径部174とされている。なお、隔壁170の中心には、貫通穴176が設けられている。第2ハウジング部材162は、それの前端部が第1ハウジング部材160の前方小径部166と後方大径部168との段差面に接する状態で、第1ハウジング部材160の後方大径部168に嵌め込まれており、係止環178によって固定されている。このように構成されたハウジング150では、隔壁170によってハウジング150内部が前方室と後方室とに区画されている。つまり、隔壁170は、ハウジング150における区画部とされている。
【0049】
第2加圧ピストン154は、後端部が塞がれた有底円筒形状をなしており、第1ハウジング部材160の前方小径部166に摺動可能に嵌め合わされている。第1加圧ピストン152は、前端,後端にそれぞれ開口する2つの有底穴を有し、概して円筒形状とされている。後端に開口する有底穴180は、前方に開口する有底穴よりも内径が小さくされている。また、後端における外周には鍔部182が設けられている。第1加圧ピストン152の前方で第2加圧ピストン154との間には、2つの後輪に設けられたブレーキ装置56RL,RRに供給される作動液を加圧するための第1加圧室R1が区画形成されており、また、第2加圧ピストン154の前方には、2つの前輪に設けられたブレーキ装置56FL,FRに供給される作動液を加圧するための第2加圧室R2が区画形成されている。なお、第1加圧ピストン152と第2加圧ピストン154とは、第1加圧ピストン152の前方に開口する有底穴の底部に螺着立設された有頭ピン184と、第2加圧ピストン154の後端面に固設されたピン保持筒186とによって、離間距離が設定範囲内に制限されている。また、第1加圧室R1内,第2加圧室R2内には、それぞれ、圧縮コイルスプリング(以下、「リターンスプリング」という場合がある)188、190が配設されており、それらスプリングによって、第1加圧ピストン152,第2加圧ピストン154はそれらが互いに離間する方向に付勢されつつ、後方に向かうように付勢されている。ちなみに、第1加圧ピストン152は、後端が第2ハウジング部材162の隔壁170に当接することで、それの後退が制限されている。また、第1加圧ピストン152の後端と第2ハウジング部材162の隔壁170との間には、高圧源装置58からの圧力が入力される液室(以下、「入力室」という場合がある)R3が区画形成されている。ちなみに、入力室R3は、図2では、ほとんど潰れた状態で示されている。また、鍔部182の前方における第2ハウジング部材162の内周面と第1加圧ピストン152の外周面との間には、環状の液室(以下「鍔部前方室」という場合がある)R4が区画形成されている。
【0050】
入力ピストン156は、概ね円柱形状とされており、後方側に位置して外径の大きくされた基部192と、その基部192から前方に延び出して外径の小さくされたロッド部194とを有している。入力ピストン156は、基部192が第2ハウジング部材162の後方小径部174内に嵌め合わされ、ロッド部194が隔壁170の貫通穴176を挿通して第1加圧ピストン152の有底穴180に嵌め合わされた状態で、ハウジング150内に配設されている。なお、基部192は、自身の外周に嵌め込まれたシール196,198を介して、後方小径部174の内周面に摺接する状態となっている。一方、ロッド部194は、貫通穴176において隔壁170に嵌め込まれたシール200を介して、貫通穴176に摺接する状態、かつ、有底穴180の周壁の後端、つまり、後方への開口に近い位置に嵌め込まれたシール202を介して、有底穴180の周壁に摺接する状態となっている。このように入力ピストン156が配設された状態で、第1加圧ピストン152の有底穴180内には、入力ピストン156のロッド部194とによって液室(以下「ピストン間室」という場合がある)R5が、入力ピストン156の基部192と隔壁170との間におけるロッド部194の周囲には、環状の液室(以下「ロッド部周囲室」という場合がある)R6がそれぞれ区画形成されている。なお、第1加圧ピストン152では、ピストン間室R5の作動液の圧力が作用する受圧面積、すなわち、有底穴180の底面の面積と、鍔部前方室R4の作動液の圧力が作用する受圧面積、すなわち、鍔部182の前端面の面積とが等しくされている。
【0051】
入力ピストン156の後端部には、ブレーキペダル70の操作力を入力ピストン156に伝達すべく、また、ブレーキペダル70の操作量に応じて入力ピストン156を進退させるべく、オペレーションロッド72の前端部が連結されている。ちなみに、入力ピストン156は、第2ハウジング部材162の後方小径部174に嵌め込まれた係止環203によって係止されることで、後退が制限されている。また、オペレーションロッド72には、円板状のスプリングシート204が付設されており、このスプリングシート204と第2ハウジング部材162との間には圧縮コイルスプリング(以下、「リターンスプリング」という場合がある)205が配設されており、このリターンスプリング205によって、オペレーションロッド72は後方に向かって付勢されている。なお、スプリングシート204とハウジング150との間にはブーツ206が渡されており、マスタシリンダ装置50の後部の防塵が図られている。
【0052】
第1加圧室R1は、第1ハウジング部材160に設けられた連通孔207を介して、アンチロック装置54に繋がる液通路80と連通しており、第1加圧ピストン152に設けられた連通孔208および第1ハウジング部材160に設けられた連通孔209を介して、リザーバ62に連通可能とされている。一方、第2加圧室R2は、第1ハウジング部材160に設けられた連通孔210を介して、アンチロック装置54に繋がる液通路82と連通しており、第2加圧ピストン154に設けられた連通孔211および第1ハウジング部材160に設けられた連通孔212を介して、リザーバ62に連通可能とされている。
【0053】
第2ハウジング部材162には、一端が鍔部前方室R4に開口する連通孔213が設けられている。また、第1ハウジング部材160には、一端がその連通孔213の他端と連通し、他端が外部に開口する連通孔214が設けられている。つまり、鍔部前方室R4は、連通孔213,214を介して外部に連通している。また、第2ハウジング部材162の前方大径部172の一部では、外径が第1ハウジング部材160の後方大径部168の内径よりも若干小さくされており、第2ハウジング部材162の外周面と第1ハウジング部材160の内周面との間に、ある程度の流路面積を有する液通路215が形成されている。第2ハウジング部材162には、一端が入力室R3に開口し、他端が液通路215に開口する連通孔216が設けられている。また、第1ハウジング部材160には、一端が液通路215に開口し、他端が外部に開口する連通孔217が設けられている。つまり、入力室R3は、液通路215,連通孔216,217を介して外部に連通している。
【0054】
第1加圧ピストン152には、一端が有底穴180の周壁に開口し、他端が鍔部前方室R4に開口する連通孔218が設けられている。また、第1加圧ピストン152のロッド部194の外径は、有底穴180の内径よりも若干小さくされているため、ロッド部194の外周面と有底穴180周壁面との間には、ある程度の流路面積を有する液通路220が形成されている。したがって、それら連通孔218,液通路220を介して、鍔部前方室R4は、ピストン間室R5に連通している。
【0055】
また、入力ピストン156には、一端が自身の前端面においてピストン間室R5に開口し、他端がロッド部194の後端においてロッド部周囲室R6に開口する連通孔222が設けられている。つまり、連通孔222を介して、ピストン間室R5は、ロッド部周囲室R6に連通している。したがって、本マスタシリンダ装置50では、連通孔218,液通路220,連通孔222を介して、鍔部前方室R4,ピストン間室R5,ロッド部周囲室R6が相互に連通している。つまり、本マスタシリンダ装置50では、連通孔218,液通路220,連通孔222を含んで、室間連通路が構成されている。
【0056】
このように連通孔と液通路とが形成されたマスタシリンダ装置50において、連通孔214には、リザーバ62に一端が接続されている外部連通路224の他端が接続されている。その外部連通路224の途中には、電磁式の開閉弁226が設けられており、鍔部前方室R4はリザーバ62に連通可能となっている。なお、開閉弁226は、非励磁状態で開弁状態となる常開弁とされており、車両のイグニッションがONとされている場合には、閉弁状態とされている。また、外部連通路224における連通孔214と開閉弁226との間には、マスタシリンダ装置50からの作動液が流出入する反力発生器250が設けられている。
【0057】
また、連通孔217には、一端が増減圧装置60、詳しくは、調圧弁装置100の第3液室134に繋げられた外部連通路228の他端が接続されている。したがって、入力室R3には、調圧弁装置100によって調整された圧力の作動液が入力される。なお、外部連通路228の途中には、入力室R3の作動液の圧力を検出するための入力圧センサ[Pi]230が設けられている。
【0058】
図4は、反力発生器250の断面図である。反力発生器250は、筐体であるハウジング252と、そのハウジング252内部に配置されたピストン254および圧縮コイルスプリング256を含んで構成されている。ハウジング252は、両端が閉塞された円筒形状とされている。ピストン254は、円板状とされており、ハウジング252の内周面に摺動可能に配設されている。スプリング256は、それの一端がハウジング252の内底面に支持されており、他端がピストン254の一端面に支持されている。したがって、ピストン254は、スプリング256によってハウジング252に弾性的に支持されている。また、ハウジング252の内部には、ピストン254の他端面とハウジング252とによって、貯液室R7が区画形成されている。また、ハウジング252には、一端が貯液室R7に開口する連通孔258が設けられている。その連通孔258の他端には、連通孔214と開閉弁226との間で外部連通路224から分岐する液通路が接続されている。したがって、貯液室R7は鍔部前方室R4,ピストン間室R5,ロッド部周囲室R6に連通している。したがって、鍔部前方室R4,ピストン間室R5,ロッド部周囲室R6の合計容積が減少すると、その減少に応じて貯液室R7の容積は増加し、スプリング256は、その増加の量に応じた大きさの弾性反力を発生する。その弾性反力は、貯液室R7の作動液に作用するため、貯液室R7の作動液の圧力が増加する。つまり、反力発生器250は、マスタシリンダ装置50における反力付与機構とされている。
【0059】
なお、本マスタシリンダ装置50に採用される反力付与機構は、所謂ダイアフラム式の反力発生機構であってもよい。つまり、貯液室R7がピストン254の代わりにダイアフラムによって区画されており、ダイヤフラムを挟んで設けられたガス室のガスの圧力によって作動液が加圧されるような反力付与機構であってもよい。
【0060】
≪マスタシリンダ装置の作動≫
以下にマスタシリンダ装置50の作動について説明する。通常時、つまり、液圧ブレーキシステム40が正常に作動することができる場合、運転者によってブレーキペダル70の操作が開始され、目標制動力が、回生ブレーキによる回生制動力を上回ると、その上回る分が目標液圧制動力に決定される。その目標液圧制動力に応じて、増減圧装置60で高圧源装置58からの作動液の圧力が調整されて、入力室R3に調整された圧力の作動液が導入される。マスタシリンダ装置50では、作動液の圧力によって第1加圧ピストン152が前進して第1加圧室R1内の作動液を加圧し、その作動液の圧力によって、第2加圧ピストン154も前進して第2加圧室R2内の作動液を加圧する。各ブレーキ装置56には、アンチロック装置54を介して加圧された作動液が供給され、各ブレーキ装置56では液圧制動力が発生する。なお、ブレーキECU38は、入力圧センサ230の検出値を監視しており、増減圧装置60は、マスタシリンダ装置50への入力圧が目標液圧制動力に応じた圧力となるように制御される。
【0061】
運転者によってブレーキペダル70の踏込操作が開始され、操作量の増加に応じて入力ピストン156が第1加圧ピストン152やハウジング150に対して前進すると、ピストン間室R5やロッド部周囲室R6の作動液が流出し、各室の容積が減少する。また、第1加圧ピストンがハウジング150に対して前進すると、鍔部前方室R4の作動液が流出し、鍔部前方室R4の容積が減少する。つまり、ブレーキ操作によって、鍔部前方室R4,ピストン間室R5,ロッド部周囲室R6の合計容積が減少することになる。また、通常時、開閉弁226は励磁されて、閉弁させられている。したがって、上記の3室から流出した作動液は、反力発生器250の貯液室R7へと流入し、貯液室R7の容積が増加することになる。そのため、スプリング256の弾性反力が増加し、貯液室R7および鍔部前方室R4,ピストン間室R5,ロッド部周囲室R6の作動液の圧力が増加する。
【0062】
鍔部前方室R4の作動液の圧力は、第1加圧ピストン152の鍔部182の前端面に作用するため、第1加圧ピストン152に対して後方への付勢力が発生する。また、ピストン間室R5の作動液の圧力は、第1加圧ピストン152の有底穴180の底面に作用するため、第1加圧ピストン152に対して前方への付勢力が発生する。前述のように、第1加圧ピストン152では、鍔部前方室R4の作動液の圧力が作用する受圧面積と、ピストン間室R5の作動液の圧力が作用する受圧面積とが等しくされているため、上記前方への付勢力と後方への付勢力とは同じ大きさとなる。そのため、第1加圧ピストン152は、これら鍔部前方室R4の作動液の圧力とピストン間室R5の作動液の圧力とによって移動させられることなく、高圧源装置58からの作動液の圧力によって移動することになる。つまり、通常時には、操作力とは関係なく、高圧源装置58からの作動液の圧力によって加圧室R1,R2の作動液を加圧することができる。
【0063】
また、先に説明したピストン間室R5の作動液の圧力は、入力ピストン156のロッド部194の前端面にも作用するため、入力ピストン156に対して後方への付勢力が発生する。さらに、ロッド部周囲室R6の作動液の圧力が基部192の前端面に作用するため、その圧力によっても、入力ピストン156に対して後方への付勢力が発生する。これらの後方への付勢力は、入力ピストン156を介してブレーキペダル70に伝達されるため、運転者は、その付勢力を自身のブレーキ操作に対する操作反力として感じることができる。また、前述のように、ブレーキ操作、つまり、入力ピストン156の前進に伴って、ピストン間室R5およびロッド部周囲室R6の作動液の圧力は増加するため、運転者は、加圧室R1,R2の圧力、つまり、実際の液圧制動力とは関係なく、自身のブレーキ操作量の増加に応じて操作反力が増加するのを感じることができる。したがって、反力発生器250は、運転者のブレーキ操作を許容しつつ、その操作に応じた反力を発生するストロークシミュレータとして機能すると考えることができる。
【0064】
次に、電気的失陥のため、液圧ブレーキシステム40に電力が供給されていない状況下におけるマスタシリンダ装置50の作動について説明する。電気的失陥の場合、高圧源装置60の液圧ポンプ90は作動できず、また、増減圧装置60の増圧リニア弁102および減圧リニア弁104も作動することはできない。また、開閉弁226は励磁せずに開弁している。つまり、鍔部前方室R4,ピストン間室R5,ロッド部周囲室R6は、外部連通路224を介してリザーバ62に連通しており、反力発生器250の貯液室R7もリザーバ62に連通する。そのため、ブレーキ操作がされると、入力ピストン156は、ピストン間室R5,ロッド部周囲室R6の作動液をリザーバ62に流出させながら前進し、ロッド部194の前端面が、有底穴180の底面において第1加圧ピストン152に当接する。したがって、第1加圧ピストン152を操作力によって前進させることができる。つまり、本マスタシリンダ装置50では、電気的失陥の場合、、高圧源装置60からの作動液の圧力によらず、操作力によって加圧室R1,R2の作動液を加圧することができる。このように、本マスタシリンダ装置50では、外部連通路224と開閉弁226とを含んで、鍔部前方室R4,ピストン間室R5,ロッド部周囲室R6をリザーバ62に連通させる対低圧源3室連通機構が構成されており、その対低圧源3室連通機構を含んで、操作力による加圧室R1,R2の作動液の加圧を実現する操作力依存加圧実現機構が構成されているのである。
【0065】
また、操作力によって加圧室R1,R2の作動液が加圧される際、ピストン間室R5およびロッド部周囲室R6の作動液の圧力は増加しないため、反力発生器250による操作反力は発生しない。したがって、操作力は、貯液室R7の作動液の加圧に利用されず、加圧室R1,R2の作動液の加圧に有効に利用されることになる。そのため、操作力に依存して比較的大きな液圧制動力を発生させることができる。なお、操作力によって加圧室R1,R2の作動液を加圧する場合、運転者は、主に、加圧室R1,R2内の作動液の圧力による力を操作反力として感じることができる。
【0066】
なお、このように操作力によって作動液を加圧する場合でも、前述のように、調圧弁装置100は、マスタシリンダ装置50の作動によるマスタ圧をパイロット圧として利用して作動することができる。そのため、アキュムレータ92に増圧された作動液が残されている場合には、調圧弁装置100は、その作動液を調圧するように作動することができ、マスタシリンダ装置50には、調圧弁装置100によって調整された圧力の作動液が供給されることになる。
【0067】
上述したように、入力ピストン156では、ロッド部194の前端面と基部192の前端面との両方の面に作動液の圧力が作用する。つまり、本マスタシリンダ装置50では、入力ピストン156の前方を向く面の殆ど全体に作動液の圧力が作用することになる。そのため、本マスタシリンダ装置50は、入力ピストン156の基部192における外径が比較的小さくされているにも拘らず、十分な大きさの操作反力が発生するようになっている。また、入力ピストン156の外径が比較的小さいため、マスタシリンダ装置50は、装置自体が比較的コンパクトになっている。さらに、基部192の外径が比較的小さくされていることで、シール196,198の各々の周長が比較的短くなり、入力ピストン156では、第2ハウジング部材162と摺接する箇所の面積が比較的小さくなっている。そのため、入力ピストン156と第2ハウジング部材162との間で発生する摩擦力が比較的小さくなり、運転者のブレーキ操作における操作感が向上されている。
【0068】
また、本マスタシリンダ装置50では、ロッド部194の外径が比較的小さくされており、シール200を介してロッド部194と貫通穴176とが接する面積、および、シール202を介してロッド部194と有底穴180とが接する面積がともに比較的小さくされている。そのため、ブレーキ操作をする際、貫通穴176における入力ピストン156と第2ハウジング部材162との間に発生する摩擦力、および、有底穴180における入力ピストン156と第1加圧ピストン152との間に発生する摩擦力がともに比較的小さくなり、運転者のブレーキ操作における操作感が向上されている。
【実施例2】
【0069】
図5に、第1実施例のマスタシリンダ装置50に代えて、第2実施例のマスタシリンダ装置300を採用した液圧ブレーキシステム40を示す。マスタシリンダ装置300は、大まかには第1実施例のマスタシリンダ装置50と同様の構造とされている。以下の説明においては、説明の簡略化に配慮し、第1実施例のマスタシリンダ装置50と異なる構成および作動について説明し、第1実施例のマスタシリンダ装置50と同じ構成および作動については説明を省略する。
【0070】
図6は、有底穴180の底面付近の拡大図である。本マスタシリンダ装置300では、第1加圧ピストン152の有底穴180内に、円筒部材302が、有底穴180の底面に螺着立設された有頭ピン304によって保持されている。円筒部材302の後方側の端部には、蓋部材305が嵌め込まれており、円筒部材302と一体となっている。蓋部材305の外周には鍔306が形成されており、その鍔306と有底穴180との間には、圧縮コイルスプリング307が配設されている。その圧縮コイルスプリング307の弾性力によって、円筒部材302および蓋部材306は後方に向かって付勢されている。なお、蓋部材306と有底穴180の底面との離間距離は、円筒部材302の前端に設けられた内鍔が有頭ピン304の頭部に係止されることによって、設定範囲内に制限されている。また、蓋部材305の後端面には、円盤状のゴムである閉塞体308が取り付けられている。
【0071】
入力ピストン310は、第1実施例の入力ピストン156と同様の形状、つまり、後方側に位置して外径の大きくされた基部312と、その基部312から前方に延び出して外径の小さくされたロッド部314とを有している。入力ピストン310のロッド部314の前端部の外周面には、シール316が嵌め込まれており、ロッド部314は、前端部における外周面がシール316を介して有底穴180の内周面に摺接している。その入力ピストン310には、一端が自身の前端面においてピストン間室R5に開口し、他端がロッド部194の後端においてロッド部周囲室R6に開口する連通孔318が設けられている。また、ロッド部314におけるシール316とシール202との間には、一端が液通路220に開口し、他端が連通孔318に開口する連通孔320が設けられている。したがって、本マスタシリンダ装置300では、連通孔318の一部,連通孔320,液通路220,連通孔218によって、ピストン間室R5が鍔部前方室R4に連通させられており、それらの連通孔および液通路によって、対ピストン間室連通路が構成されている。また、その対ピストン間室連通路と連通孔318とによって、鍔部前方室R4,ピストン間室R5,ロッド部周囲室R6を相互に連通させるための室間連通路が構成されている。
【0072】
また、第1加圧ピストン152には、一端が有底穴180の底面に開口し、他端が第1加圧ピストン152の外周面と第1ハウジング部材160の内周面との間に設けられた隙間322に開口する連通孔324が設けられている。また、第1ハウジング部材160には、一端が隙間322に開口し、他端が外部に開口する連通孔326が設けられている。つまり、ピストン間室R5は、連通孔324,隙間322,連通孔326を介して外部に連通している。連通孔326には、外部連通路224から分岐する外部連通路328が接続されている。また、その外部連通路328の途中には、電磁式の開閉弁330が設けられており、ピストン間室R5は、外部連通路224を介してリザーバ62に連通可能となっている。なお、開閉弁330は、非励磁状態で閉弁状態となる常閉弁とされており、車両のイグニッションがONとされている場合には、開弁状態とされている。
【0073】
このように構成されたマスタシリンダ装置300は、通常時には、第1実施例のマスタシリンダ装置50と同様に作動することができる。つまり、入力室R3に調整された圧力の作動液が導入され、マスタシリンダ装置300はその作動液の圧力によって加圧室R1,R2内の作動液を加圧する。また、通常時、開閉弁226は励磁されて、閉弁させられており、ブレーキ操作に応じて操作反力が発生することになる。なお、本マスタシリンダ装置300では、通常時、開閉弁330が励磁されて開弁させられている。そのため、入力ピストン310の前進によって、ロッド部314の前端面が閉塞体308に当接して連通孔222のピストン間室R5への開口が閉塞された場合でも、外部連通路328,224等を介して、ピストン間室R5の鍔部前方室R4およびロッド部周囲室R6への連通が保持されるようになっている。
【0074】
一方、電気的失陥のため、液圧ブレーキシステム40に電力が供給されていない状況下では、開閉弁330は非励磁とされて閉弁している。そのため、ロッド部314の前端面が閉塞体308に当接すると、連通孔318のピストン間室R5への開口が閉塞され、ピストン間室R5は密閉させられることになる。したがって、本マスタシリンダ装置300では、電気的失陥時に、密閉されたピストン間室R5の作動液を介して、第1加圧ピストン152を前進させることができ、操作力によって加圧室R1,R2の作動液を加圧することができる。つまり、本マスタシリンダ装置300では、閉塞体308を含んで、入力ピストン310の前進によって連通孔318の開口を閉塞するピストン間室密閉機構が構成されている。また、本マスタシリンダ装置300では、ロッド部314の前端面と閉塞体308との間隔が比較的小さくされているため、入力ピストン310が前進してから比較的早い段階、つまり、ブレーキ操作の開始から比較的早い段階で、操作力によって液圧制動力が発生させられる。そのため、本マスタシリンダ装置300では、電気的失陥の場合においても、空踏み状態、つまり、ブレーキ操作をしても液圧制動力が発生しない状態が殆どなく、運転者はあまり違和感を感じずにブレーキ操作をすることができる。
【0075】
また、電気的失陥の場合、開閉弁226は励磁せずに開弁しているため、鍔部前方室R4,ロッド部周囲室R6はリザーバ62に連通しており、反力発生器250は操作反力を発生させることはできない。つまり、本マスタシリンダ装置50では、外部連通路224と開閉弁226とを含んで鍔部前方室R4,ロッド部周囲室R6をリザーバ62に連通させる対低圧源2室連通機構が構成されており、その対低圧源2室連通機構と上記ピストン間室密閉機構とを含んで、操作力による加圧室R1,R2の作動液の加圧を実現する操作力依存加圧実現機構が構成されている。
【0076】
このように構成されたマスタシリンダ装置300では、入力ピストン310の前方を向く面の殆ど全体に作動液の圧力が作用することになる。そのため、本マスタシリンダ装置300は、入力ピストン310の基部312における外径が比較的小さくされているにも拘らず、十分な大きさの操作反力が発生するようになっている。また、本マスタシリンダ装置300では、ロッド部314の外径が比較的小さくされているため、貫通穴176における入力ピストン310と第2ハウジング部材162との間に発生する摩擦力、および、有底穴180における入力ピストン310と第1加圧ピストン152との間に発生する摩擦力がともに比較的小さくされている。さらに、本マスタシリンダ装置300では、シール316を介してロッド部314と貫通穴176とが接する面積が比較的小さくされているため、有底穴180における入力ピストン310と第1加圧ピストン152との間に発生する摩擦力が比較的小さくなる。そのため、運転者のブレーキ操作における操作感が向上されている。
【符号の説明】
【0077】
50:マスタシリンダ装置 56:ブレーキ装置 58:高圧源装置(高圧源) 62:リザーバ(低圧源) 70:ブレーキペダル(ブレーキ操作部材) 150:ハウジング 152:第1加圧ピストン(加圧ピストン) 156:入力ピストン 170:隔壁(区画部) 176:貫通穴 180:有底穴 182:鍔(鍔部) 192:基部 194:ロッド部 218:連通孔(室間連通路) 220:液通路(室間連通路) 222:連通孔(室間連通路) 224:外部連通路(操作力依存加圧実現機構) 226:電磁式開閉弁(操作力依存加圧実現機構) 250:反力発生器(反力付与機構) R1:第1加圧室(加圧室) R3:入力室 R4:鍔部前方室 R5:ピストン間室 R6:ロッド部周囲室 R7:貯液室 300:マスタシリンダ装置 308:閉塞体 310:入力ピストン 312:基部 314:ロッド部 318:連通孔(室間連通路) 320:連通孔(室間連通路)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪に設けられたブレーキ装置に、加圧された作動液を供給するためのマスタシリンダ装置であって、
前方が閉塞され、内部を前方室と後方室とに区画するともに自身を貫通する貫通穴が形成された区画部を有するハウジングと、
後方に開口する有底穴が設けられて概して円筒形状とされるとともに後端に鍔部が設けられ、前記ブレーキ装置に供給される作動液を加圧するための加圧室が自身の前方に区画されるように、かつ、前記鍔部の前方において自身の周囲に環状の鍔部前方室が区画されるようにして、前記ハウジングの前方室に配設された加圧ピストンと、
前記ハウジングの後方室に位置する基部と、その基部よりも外径が小さくされてその基部から前方に延び出すとともに前記区画部の貫通穴を挿通して前記加圧ピストンの有底穴に先端が嵌入するロッド部とを有し、そのロッド部が嵌入することによってその有底穴内にピストン間室が区画され、前記加圧ピストンの鍔部の後方において前記区画部との間に高圧源からの作動液が導入される環状の入力室が区画され、かつ、前記基部の前方において前記区画部との間に環状のロッド部周囲室が区画されるようにして前記ハウジング内に配設され、ブレーキ操作部材に連結されてそのブレーキ操作部材に加えられた操作力によって前進する入力ピストンと、
前記ピストン間室と前記鍔部前方室と前記ロッド部周囲室とを相互に連通させるための室間連通路と
前記ピストン間室,前記鍔部前方室および前記ロッド部周囲室と連通する貯液室を有し、前記入力ピストンの前進に伴うそれらピストン間室,鍔部前方室およびロッド部周囲室の合計容積の減少に応じた前記貯液室の容積の増加を許容するとともに、その増加の量に応じた圧力を前記貯液室内の作動液に作用させる反力付与機構と
を備え、
前記ピストン間室の作動液の圧力が作用する前記加圧ピストンの受圧面積と、前記鍔部前方室の作動液の圧力が作用する前記加圧ピストンの受圧面積とが等しくされることで、前記入力ピストンの前進を伴わない前記高圧源から導入された作動液の圧力による前記加圧ピストンの前進、および、前記加圧ピストンの前進を伴わない前記操作力による前記入力ピストンの前進が許容され、かつ、
前記ピストン間室内の作動液および前記ロッド部周囲室の作動液の圧力の前記入力ピストンへの作用によって、前記ブレーキ操作部材の操作に対する操作反力が発生するように構成されたマスタシリンダ装置。
【請求項2】
前記高圧源から導入される作動液の圧力によらずに、前記操作力による前記加圧室の作動液の加圧を実現する操作力依存加圧実現機構を、さらに備えた請求項1に記載のマスタシリンダ装置。
【請求項3】
前記操作力依存加圧実現機構が、前記ピストン間室,前記鍔部前方室および前記ロッド部周囲室を低圧源に連通させる対低圧源3室連通機構を含んで構成された請求項2に記載のマスタシリンダ装置。
【請求項4】
前記操作力依存加圧実現機構が、前記鍔部前方室および前記ロッド部周囲室を低圧源に連通させる対低圧源2室連通機構と、前記ピストン間室を密閉するピストン間室密閉機構とを含んで構成された請求項2に記載のマスタシリンダ装置。
【請求項5】
前記室間連通路が、
前記入力ピストンの前記ロッド部の内部に設けられるとともにそのロッド部の先端に開口する開口を有して、前記鍔部前方室と前記ロッド部周囲室との少なくとも一方と前記ピストン間室とを連通させる対ピストン間室連通路を含んで構成され、
前記ピストン間室密閉機構が、
前端部が前記ピストン間室内において前記加圧ピストンに支持された閉塞体を有し、前記入力ピストンの前進によってその閉塞体の後端部が前記ロッド部の前記開口を閉塞する機構を含んで構成された請求項4に記載のマスタシリンダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−162213(P2012−162213A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−25618(P2011−25618)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】