説明

ミシンの縫製制御装置

【課題】所定範囲のミシンの稼動データに基づいてミシンの縫製動作を再現させることが可能なミシンの縫製制御装置を提供する。
【解決手段】ミシンの稼動データ(主軸の回転速度)が記録され、そのデータが操作パネル20の表示器21に表示される。範囲指定バー21aにより、表示器に表示された稼動データの範囲が指定され、その指定されたデータがミシンの制御装置に取り込まれて、同一の稼動データを出力するように、ミシンの縫製動作が制御される。このような構成では、任意の稼動データ部分を指定することにより、その部分のデータを再現するように、ミシンが駆動されるので、作業者は、自己のなした、あるいは他の作業者の行った縫製作業を、個々に再現させることができ、技術向上に役立てることができる。また、本発明では、任意の部分の縫製作業を再現することができるので、どの部分で効率のよい(あるいは悪い)縫製作業が行われたかなどの解析を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミシンの縫製制御装置、更に詳細には、ミシンの稼動データを記録できる縫製管理機能を備えたミシンの縫製制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ミシンの主軸の回転速度の遷移を記録してグラフ表示し、そのグラフから作業者のミシン稼動状況を把握し、作業者に対する指導を行ってミシンの稼動率を向上させることが行われている(特許文献1)。また、このような縫製管理機能をもったミシンでは、異なる作業者のグラフを比較することにより作業者の技術を比較することもできるので、作業者の技術向上にも役立っている。
【0003】
また、単に稼動データをグラフ表示するだけでなく、計測した稼動データに基づいてミシンを稼動させ、ミシンの縫製動作を再現することにより、未熟な作業者でも熟練した作業者と同様の縫製速度で縫製作業を行なえるようにすることも行われている(特許文献2)。
【特許文献1】特公平3―10357号公報(6欄37行から7欄10行)
【特許文献2】特公昭62―46199号公報(8欄23行から38行)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来において、計測した稼動データに基づいてミシンの縫製動作を再現する場合、計測開始から終了時までのデータに基づいてミシンを運転しているので、1つのデータに複数回の稼動がある場合などでは、どの稼動データであるかが指定できず、また計測した稼動データがすべて出力されるようにミシンが駆動されるので、注目すべき計測区間だけの縫製動作を再現させることができない、という問題があった。
【0005】
本発明は、このような問題点を解決するもので、所定範囲のミシンの稼動データに基づいてミシンの縫製動作を再現させることが可能なミシンの縫製制御装置を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のミシンの縫製制御装置は、
ミシンの稼動データを記録する記録手段と、
前記記録された稼動データを表示する表示器を備えた操作パネルと、
前記表示器に表示された稼動データの範囲を指定する指定手段と、
前記指定された範囲の稼動データを取り込み、該取り込まれた稼動データと同一の稼動データを出力するように、ミシンの縫製動作を制御する制御手段と、
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、任意の稼動データ部分を指定することにより、その部分のデータを再現するように、ミシンが駆動されるので、作業者は、自己のなした、あるいは他の作業者の行った縫製作業を、個々に再現させることができる。また、本発明では、任意の部分の縫製作業を再現することができるので、どの部分で効率のよい(あるいは悪い)縫製作業が行われたかなどの解析を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のミシン縫製制御装置は、ミシン本体とそこに載置される表示器を備えた操作パネルによって実現されるもので、以下に、本発明の実施例に基づいて、図面を参照しながら本発明を詳細に説明する。
【実施例】
【0009】
ミシン本体10は、その針棒2に針3が支持されており、針3は、電源スイッチ4のオンにより給電される主軸モータ5が回転してその回転がベルト6によりミシンの主軸に伝達されることによって、上下動する。この運針に応じて布送り装置8により布を所定の布送りピッチで送ることにより縫製が行われる。縫製は、種々の命令、縫製パラメータ、縫製データ、並びに操作パネル20で設定されるデータに従ってペダル7の動きに応じて制御される。制御ボックス9には、これらミシンの縫製を制御するミシン制御装置が内臓されている。また、主軸モータ5によって駆動されるエンコーダ1が主軸のプーリに取り付けられており、このエンコーダ1は、主軸が回転するごとに主軸の回転速度に比例した周波数のパルス信号を発生する。
【0010】
図2は、ミシン本体10に載置される操作パネル20の詳細を示しており、操作パネル20は、液晶表示の表示器21と、種々の操作ボタン20a、20bを有し、また、表示器21の上部と下部には多数の機能キーが配置されている。また操作パネル20には、メモリカード30などの外部記録媒体が着脱でき、操作パネル20は、メモリカード30に記録されたデータを読み出して表示器21に表示したり、あるいは演算、測定ないし設定したデータをメモリカード30に書き込むことができる。
【0011】
図3は、ミシン本体10と操作パネル20のブロック図を示す。
【0012】
ミシン本体10は、制御ボックス9内に収納されるミシン制御装置(制御手段)11を有し、ミシン制御装置11は、ミシンの縫製全体を制御するCPU11a、演算したデータあるいは検出、計測したデータを格納する記録手段としてのメモリ11b(EEPROM、EPROMなどで構成される)、縫製プログラムなどを格納したROM11c、作業領域を提供するRAM11dから構成されている。
【0013】
ミシン制御装置11は、ペダル7の操作(前踏み)によって発生する縫製開始信号により主軸モータ5を起動するとともにペダル7の踏み込み量に応じてペダル7から出力される速度指令信号に基づいて、主軸モータ5の回転速度を制御する。主軸モータ5が回転すると、運針が始まり、布送り装置8により布が所定の布送りピッチで送られ、縫製が行われる。このとき、種々の命令、各種センサー14からの信号、メモリ11bに格納された縫製データや調整データ並びに操作パネル20から送信されてくるデータに従って主軸モータ5並びに各種アクチュエータ(電磁弁、モーターなど)13が制御され、縫製動作が制御される。
【0014】
縫製終了時には、ペダル7の操作(後踏み)により糸切りコマンドがミシン制御装置11に入力され、ミシン制御装置11は、糸切りを行って縫製を終了させる。
【0015】
ミシン稼動中、エンコーダ1は、主軸の回転速度に比例する周波数の信号をミシン制御装置11に入力し、CPU11aは、一定時間ごとに主軸回転速度を検出する。CPU11aとエンコーダ1は主軸の回転速度を検出する回転速度検出手段を構成しており、この回転速度検出手段で検出された一定時間ごとの主軸回転速度が回転速度の時間変化(時間遷移)としてメモリ11bに記録される。
【0016】
また、時間計測手段としてのタイマー16が設けられ、このタイマー16は、縫製が開始されてから糸切りコマンドが発生するまでの時間、あるいは糸切りコマンドが発生してから次の糸切りコマンドが発生するまでの時間を計測し、これらの計測されたデータがミシン制御装置に入力され、メモリ11bに記録される。
【0017】
また、タッチバックスイッチ15が布送り装置8近傍に設けられ、このタッチバックスイッチ15が操作されると、布を重複縫いさせるミシン制御コマンドがミシン制御装置11に入力される。
【0018】
操作パネル20は、CPU22、ROM23、RAM24を有し、CPU22は、パネルに配置された各種スイッチボタン(図2の操作ボタン20a、20b)や機能キーからの信号に応じて各種演算あるいは設定を行う。
【0019】
操作パネル20は、通信インターフェース12、27を介してミシン本体10と通信ができ、相互にデータを交換することができ、また、インターフェース26を介して外部のコンピュータ31と相互にデータを交換できる。また、操作パネル20にはメモリカード(記録手段)30が装着でき、メモリカード30に記録されているデータを読み込むことができ、また各種データをメモリカード30に記録して保存することができる。
【0020】
このような構成において、ミシンの稼動状況が計測される。まず、ペダル7を操作してミシンを起動すると、起動から一定時間Δt(例えば、1秒)ごとに、エンコーダ1からの信号が取り込まれて主軸回転速度が検出され、それがメモリ11bに記録されるとともに、ミシン制御コマンドが発生している場合には、それもメモリ11bに記録される。ミシン制御コマンドが糸切りコマンドである場合には、縫製終了であるので、メモリ11bに記録したデータが操作パネル20に送信されて、記録された一定時間ごとの主軸回転速度が時間と回転速度のグラフとして表示器21に表示される。
【0021】
このメモリ11bにおけるデータの記録と、その表示状態が図4に示されており、図4の左側に図示したように、一定時間が経過するごとに、その経過した時間t1、t2、t3.....にそのときの主軸回転速度とミシン制御コマンドがメモリ11bに記録される。そして、糸切りコマンドが発生すると、記録されたデータが操作パネル20に送信され、機能キー20cを操作すると、表示器21に、一定時間ごとの主軸回転速度が時間と回転速度のグラフとして表示される。また、機能キー20dを操作すると、ミシン制御コマンドの発生時間に対応するグラフ上の時間にそのミシン制御コマンド(タッチバック、糸切りなど)が発生したことが表示される。
【0022】
また、このようなミシンの稼動状況を示すデータは、操作パネル20に装着されるメモリカード30にも保存することができる。そして、後日このメモリカード30を操作パネル20に装着すれば、そこに記録されているデータを表示器21に表示させることもできる。
【0023】
また、本発明では、メモリ11bあるいは外部のメモリカード30に記録されている稼動データを取り入れて、そのデータと同様なデータを出力するように、ミシンの縫製動作を制御することができる。このミシンの稼動データ再現動作を、図5、図6を参照して説明する。
【0024】
まず、メモリ11bに記録されている稼動データを、図6に示したように、表示器21に表示する。稼動データがメモリカード30に記録されている場合には、メモリカード30を操作パネル20に装着して、そこの記録されている稼動データのなかで、再現動作させたい稼動データを選択して表示器21に表示させる。
【0025】
その場合、稼動データに応じて表示レンジを決定し、所望のデータが表示範囲内に入るようにしておく。このとき、自動縫製すべき範囲を示す黒色の範囲指定バー(指定手段)21aが時間軸に沿って表示され、上の機能キーの1つを押すと、バー21aの左端が押下キーに対応する位置に移動し、また、下の機能キーの1つを押すと、バー21aの右端が押下キーに対応する位置に移動するようになっている。そこで、縫い始め位置を変更したい場合には(ステップS1の肯定)、開始させたい位置の上部にある機能キー20eを押すようにする。それにより、図6に示したように、バー21aの左端がキー20eに対応する位置に表示され(ステップS2)、また、縫い終わり位置を変更したい場合には(ステップS3の肯定)、終了させたい位置の下方の機能キー20fを押すと、バー21aの右端がキー20fに対応する位置に表示されるので(ステップS4)、ステップS1〜S4を繰り返し、バー21aが再現させたいデータをカバーするように設定し、自動縫製すべきデータの範囲を確定する。
【0026】
このように、自動縫製部分のデータが確定したら、その指定された回転速度データが、自動縫製データとしてミシンの制御装置11に送信され、RAM11dに格納される(ステップS6)。そして、ペダル7が操作されると(ステップS7)、主軸モータ5がこの回転速度データに応じて回転され、自動縫製が行われる。図6に示した例では、バー21aが糸切りが発生するところまで延びているので、縫製が終了して糸切りが行われるところまで、縫製動作が再現される。
【0027】
このように、バー21aを任意の位置まで移動させ、データ範囲を指定することにより、その部分のデータを再現するように、ミシンを制御することができるので、作業者は、自己のなした縫製作業を、個々に再現させることができ、縫製能率の向上に役立てることができる。また、縫製作業を複数回記録し、その中の任意の縫製作業における任意の部分の縫製作業を再現することができるので、どの部分で効率のよい(あるいは悪い)縫製作業が行われたかなどの解析を行うことができる。また、メモリカード30に模範となる作業者が縫製を行ったときの稼動データを記録しておき、その縫製作業を再現するようにすれば、模範作業者の作業を規範として縫製作業を行なうことができ、縫製能率の向上に寄与することができる。
【0028】
また、本実施例では、稼動データとして、単に主軸の回転速度だけでなく、ミシン制御コマンドの有無(発生)を記録するようにしているので、該制御コマンドの発生の妥当性も検証することができ、多角的な縫製作業の解析を行うことができる。
【0029】
また、図6において、グラフ表示の表示レンジ(時間軸と回転速度軸のレンジ)は、縫製に応じた回転速度あるいは糸切りまでの時間に応じて変更できると好ましいので、例えば、キー20gによりグラフの表示レンジを変更できるようにしてもよい。また、表示レンジは、縫製が開始されてから糸切りコマンドが発生するまでの時間、あるいは糸切りコマンドが発生してから次の糸切りコマンドが発生するまでの時間に応じて自動的に変更するようにしてもよい。この場合、各計測した時間が時間軸でフルスケールとなるように表示レンジを変更する。このようにすることにより、自動縫製させるデータの選択を容易なものにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に用いられるミシン本体と操作パネルの外観を示す正面図である。
【図2】ミシン本体に載置される操作パネルの外観を示す正面図である。
【図3】ミシン本体と操作パネルの構成を示すブロック図である。
【図4】記録されたミシンの稼動データを表示器に表示する状態を示した説明図である。
【図5】ミシンの稼動データの再現動作の流れを示すフローチャートである。
【図6】再現動作させるデータ範囲を指定する状態を示した説明図である。
【符号の説明】
【0031】
10 ミシン本体
11 ミシン制御装置
20 操作パネル
21 表示器
21a 範囲指定バー
30 メモリカード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミシンの稼動データを記録する記録手段と、
前記記録された稼動データを表示する表示器を備えた操作パネルと、
前記表示器に表示された稼動データの範囲を指定する指定手段と、
前記指定された範囲の稼動データを取り込み、該取り込まれた稼動データと同一の稼動データを出力するように、ミシンの縫製動作を制御する制御手段と、
を有することを特徴とするミシンの縫製制御装置。
【請求項2】
前記稼動データが、一定時間ごとのミシンの主軸の回転速度データであることを特徴とする請求項1に記載のミシンの縫製制御装置。
【請求項3】
前記稼動データが、一定時間ごとのミシンの制御コマンドの有無を示すデータであることを特徴とする請求項1又は2に記載のミシンの縫製制御装置。
【請求項4】
縫い始めと縫い終わりまでの範囲の稼動データが指定されることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の縫製制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−314564(P2006−314564A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−140487(P2005−140487)
【出願日】平成17年5月13日(2005.5.13)
【出願人】(000003399)JUKI株式会社 (1,557)
【Fターム(参考)】