説明

ミシン

【課題】刺繍枠の内側に設定される縫製可能領域よりも広い範囲に複数の模様を縫製する場合の各模様の配置を設定する際の利便性を向上させたミシンを提供すること。
【解決手段】基準模様の配置に対する次の模様の相対的な配置が決定され(S70)。保持位置が第1保持位置から第2保持位置に変更される前後のそれぞれで、刺繍枠に保持された縫製対象物の表面に配置された標識を撮影した画像データが取得される(S76)。画像データに基づき、保持位置が第1保持位置である場合と、保持位置が第2保持位置にある場合とで、標識の配置が検出される(S78)。保持位置が第2保持位置である状態で刺繍枠に保持された縫製対象物上の基準模様の配置が特定される(S90)。保持位置が第2保持位置である状態で刺繍枠に保持された縫製対象物に対する次の模様の配置が設定される(S92)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刺繍枠を移動させる機能を備えた移動手段と、撮影手段とを備えたミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、縫製対象物を保持する刺繍枠を移動させる機能を備えた移動手段を備え、刺繍枠の内側に設定される縫製可能領域よりも大きな模様を縫製可能なミシンが知られている。例えば、特許文献1に記載のミシンは、縫製可能領域よりも大きな模様を、縫製可能領域よりも小さい複数の模様に分割した縫製データに従って、分割した模様を、刺繍枠に対する縫製対象物の保持位置が異なる条件で順次縫製する。上記従来のミシンは、保持位置が異なる条件のもとでの、分割した模様間の位置合わせを、縫製対象物の表面に配置された標識に基づいて自動的に行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−246885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来のミシンは、ユーザが任意に選択した複数の模様を、縫製可能領域よりも広い範囲に縫製する場合を考慮していない。このため、上記従来のミシンは、縫製可能領域よりも広い範囲に複数の模様を縫製する場合、ユーザが希望する配置に縫製されるように、個々の模様の配置を設定できない場合がある。
【0005】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、刺繍枠の内側に設定される縫製可能領域よりも広い範囲に複数の模様を縫製する場合の各模様の配置を設定する際の利便性を向上させたミシンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本態様のミシンは、撮影手段と、縫製対象物を保持する刺繍枠を移動させる機能を備えた移動手段と、前記刺繍枠の内側に設定される縫製可能領域よりも広い範囲に縫製される複数の模様のうちの、前記刺繍枠に対する前記縫製対象物の保持位置がユーザによって設定された位置である第1保持位置である場合に縫製される模様を基準模様とし、前記保持位置が前記第1保持位置とは異なる第2保持位置である場合に縫製される模様であって、前記基準模様の次に縫製される模様を次の模様とした場合に、ユーザの指示に従って、前記基準模様の位置及び角度の少なくともいずれかを含む配置に対する前記次の模様の位置及び角度の少なくともいずれかを含む相対的な配置を決定する配置決定手段と、前記保持位置が前記第1保持位置から前記第2保持位置に変更される前後のそれぞれで、前記撮影手段が前記刺繍枠に保持された前記縫製対象物の表面に配置された少なくとも1つの標識を撮影して出力した画像データを取得する画像データ取得手段と、前記画像データ取得手段によって取得された前記画像データに基づき、前記保持位置が前記第1保持位置である場合と、前記保持位置が前記第2保持位置にある場合とで、前記少なくとも1つの標識の位置及び角度の少なくともいずれかを含む配置を検出する検出手段と、前記検出手段の検出結果に基づき、前記保持位置が前記第2保持位置である状態で前記刺繍枠に保持された前記縫製対象物上の前記基準模様の前記配置を特定する配置特定手段と、前記配置特定手段の特定結果と、前記配置決定手段によって決定された前記次の模様の前記相対的な配置とに基づき、前記保持位置が前記第2保持位置である状態で前記刺繍枠に保持された前記縫製対象物に対する前記次の模様の位置及び角度の少なくともいずれかを含む配置を設定する設定手段とを備える。
【0007】
本態様のミシンは、基準模様の配置に対する次の模様の配置が、ユーザが指示した配置となるように、保持位置が第2保持位置である状態で刺繍枠に保持された縫製対象物上の次の模様の配置を設定することができる。ミシンは、保持位置が第2保持位置である状態で刺繍枠に保持された縫製対象物上の基準模様の配置を、縫製対象物の表面に配置された標識を撮影した画像データに基づき自動的に特定する。保持位置が第2保持位置である場合の基準模様の配置を特定するためのユーザの操作は、ユーザが目視で特定するミシンに比べ、本態様のミシンの方が容易である。保持位置が第2保持位置である場合の基準模様の配置を特定する精度は、ユーザが目視で特定するミシンに比べ、本態様のミシンの方が高い。
【0008】
本態様のミシンにおいて、前記ユーザが指定した基準であって、前記基準模様が縫製される範囲を表す第1図形に含まれる第1線分及び第1点のいずれかを含む基準である第1基準を取得する第1基準取得手段と、前記ユーザが指定した基準であって、前記次の模様が縫製される範囲を表す第2図形に含まれる第2線分及び第2点を含む基準である第2基準を取得する第2基準取得手段とをさらに備え、前記配置決定手段は、前記第1基準取得手段によって取得された前記第1基準と、前記第2基準取得手段によって取得された前記第2基準とに基づき、前記基準模様の前記配置に対する前記次の模様の前記相対的な配置を決定してもよい。この場合のミシンでは、ユーザは、第1基準と第2基準とを設定するという簡単な操作によって、基準模様の配置に対する次の模様の配置を設定させることができる。
【0009】
本態様のミシンにおいて、前記基準模様の前記配置に対する前記次の模様の前記配置を特定する、前記ユーザが指示した数値を取得する数値取得手段をさらに備え、前記配置決定手段は、前記数値取得手段が取得した前記数値に基づき、前記基準模様の前記配置に対する前記次の模様の前記相対的な配置を決定してもよい。この場合のミシンでは、ユーザは、数値を設定するという簡単な操作によって、基準模様の配置に対する次の模様の配置を設定させることができる。
【0010】
本態様のミシンにおいて、前記配置決定手段によって決定された前記基準模様の前記配置に対する前記次の模様の前記相対的な配置を画面に表示する第1表示手段をさらに備えてもよい。この場合のミシンでは、ユーザは、画面の表示に基づき、ユーザが意図するように、基準模様の配置に対する次の模様の配置が設定されたか否かを確認することができる。
【0011】
本態様のミシンにおいて、前記少なくとも1つの標識の配置予定位置を画面に表示する第2表示手段をさらに備えてもよい。この場合のミシンは、配置予定位置に1つ以上の標識を配置することを、ユーザに促すことができる。また、ミシンは、保持位置が第1保持位置にある場合には配置予定位置についてのみ標識を検出する処理を実行すればよいので、標識の配置を検出するための処理を簡略化することができる。
【0012】
本態様のミシンにおいて、前記第1基準取得手段は、前記第1線分と、当該第1線分上の前記第1点とを組み合わせた複数の第1指定キーのうち、前記ユーザが指定した第1指定キーに基づき、前記第1基準を取得し、前記第2基準取得手段は、前記第2線分と、当該第2線分上の前記第2点とを組み合わせた複数の第2指定キーのうち、前記ユーザが指定した第2指定キーに基づき、前記第2基準を取得し、前記配置決定手段は、前記基準模様の前記配置に対する前記次の模様の前記相対的な配置を、前記第1基準取得手段によって取得された前記第1指定キーによって表される前記第1線分の延伸方向が、前記第2基準取得手段によって取得された前記第2指定キーによって表される前記第2線分と重なり、且つ、前記第1指定キーによって表される前記第1点が、前記第2指定キーによって表される前記第2点と重なる配置としてもよい。この場合のミシンでは、ユーザは、第1指定キーと、第2指定キーとを指定するという簡単な操作によって、基準模様の配置に対する次の模様の配置を設定させることができる。
【0013】
本態様のミシンにおいて、下端に縫針が装着される針棒を上下動させる縫製手段と、前記移動手段と、前記縫製手段とを制御して、前記保持位置が前記第1保持位置である状態で前記刺繍枠に保持された前記縫製対象物に、前記基準模様を縫製させる第1縫製制御手段と、前記移動手段と、前記縫製手段とを制御して、前記設定手段によって設定された前記次の模様の前記配置に従って、前記保持位置が前記第2保持位置である状態で前記刺繍枠に保持された前記縫製対象物に、前記次の模様を縫製させる第2縫製制御手段とをさらに備えてもよい。この場合のミシンは、基準模様の配置に対する次の模様の配置が、ユーザが指示した配置となるように、基準模様と、次の模様とを縫製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】多針ミシン1の斜視図である。
【図2】刺繍枠移動機構11の平面図である
【図3】多針ミシン1の電気的構成を示すブロック図である。
【図4】標識110の平面図である。
【図5】メイン処理のフローチャートである。
【図6】画面200の説明図である。
【図7】画面210の説明図である。
【図8】画面220の説明図である。
【図9】図5に示すメイン処理で実行される標識検出処理のフローチャートである。
【図10】矩形206の配置に対する、標識110の配置予定位置の説明図である。
【図11】画面240の説明図である。
【図12】図5に示すメイン処理で実行される配置設定処理のフローチャートである。
【図13】画面250の説明図である。
【図14】模様表示欄261の説明図である。
【図15】画面270の説明図である。
【図16】矩形206で表される1番目の模様205の配置に対する、矩形258で表される2番目の模様205の配置と、縫製可能領域86との説明図である。
【図17】配置設定処理のフローチャートである。
【図18】画面300の説明図である。
【図19】画面310の説明図である。
【図20】模様群320と、縫製可能領域86との説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を具現化した第1及び第2の実施形態の多針ミシン1(以下、単に「ミシン1」と言う。)について、図面を参照して順に説明する。参照する図面は、本発明が採用し得る技術的特徴を説明するために用いるものであり、記載している装置の構成、フローチャート等は、それのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例である。
【0016】
図1及び図2を参照して、第1及び第2の実施形態のミシン1に共通する物理的構成について説明する。以下の説明では、図1の左斜め下側、右斜め上側、左斜め上側、右斜め下側をそれぞれ、ミシン1の前方、後方、左側、右側とする。
【0017】
図1のように、ミシン1のミシン本体20は、支持部2と、脚柱部3と、アーム部4とを備える。支持部2は、平面視逆U字形に形成され、ミシン1全体を支持する。支持部2の上面には、前後方向に伸びる左右一対のガイド溝25がある。脚柱部3は、支持部2の後端部から上方へ立設されている。アーム部4は、脚柱部3の上端部から前方に延びる。アーム部4の先端には、針棒ケース21が左右方向に移動可能に装着されている。針棒ケース21の内部には、上下方向に伸びる10本の針棒31(図3参照)が左右方向に等間隔Wで配置されている。各針棒31には、個々の針棒31を識別するための針棒番号が付与されている。本実施形態では、ミシン1の右側から順に針棒番号1番から10番が付与されている。10本の針棒31のうち、縫製位置にある1本の針棒が、針棒ケース21の内部に設けられた針棒駆動機構32(図3参照)によって上下方向に摺動される。針棒31の下端には、縫針35(図3参照)が着脱可能に装着される。
【0018】
針棒ケース21の右側面下部には、カバー38が設けられている。カバー38の内側には、イメージセンサ保持機構(図示せず)が取り付けられている。イメージセンサ保持機構は、イメージセンサ50(図3参照)を備える。イメージセンサ50は、周知のCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサである。イメージセンサ50のレンズ(図示せず)は、ミシン1の下方に向けられている。レンズの中心は、最も右側の針棒31から距離2W離れた位置にある。
【0019】
アーム部4の前後方向中央部の右側には、操作部6が設けられている。操作部6は、上下方向に伸びる軸(図示せず)を回転軸として回転可能にアーム部4に支持されている。操作部6は、液晶ディスプレイ7(以下、「LCD7」と言う。)と、タッチパネル8と、コネクタ9と、スタート/ストップスイッチ41とを備える。LCD7には、例えば、ユーザが指示を入力するための操作画像といった各種情報が表示される。タッチパネル8は、ユーザからの指示を受け付けるために用いられる。LCD7に表示された入力キー等の位置に対応したタッチパネル8の箇所を、ユーザが、指又はタッチペンを用いて押圧操作すること(以下、この操作を「パネル操作」と言う。)によって、縫製模様及び縫製条件といった各種条件を選択又は設定できる。コネクタ9は、USB規格のコネクタであり、USBデバイス160(図3参照)と接続可能である。スタート/ストップスイッチ41は、縫製の開始又は停止を指示するためのスイッチである。縫製停止中にスタート/ストップスイッチ41が押下されると、縫製が開始される。縫製中にスタート/ストップスイッチ41が押下されると、縫製が停止される。
【0020】
アーム部4の下方には、脚柱部3の下端部から前方へ延びる筒状のシリンダベッド10が設けられている。シリンダベッド10の先端部の内部には、釜(図示せず)が設けられている。釜は、下糸(図示せず)が巻回されたボビン(図示せず)を収納する。シリンダベッド10の内部には、釜駆動機構(図示せず)がある。釜駆動機構(図示せず)は、釜を回転駆動する。シリンダベッド10の上面には、平面視矩形の針板16がある。針板16には、縫針35(図3参照)が挿通される針穴36が設けられている。
【0021】
アーム部4の上面の背面側には、左右一対の糸駒台12が設けられている。各糸駒台12には、糸立棒14が5つ設けられている。糸立棒14は、上下方向に伸びる棒である。糸立棒14は、糸駒13を支持する。一対の糸駒台12には、針棒31の数と同じ10個の糸駒13を設置可能である。上糸15は、糸駒台12に設置された糸駒13から供給される。上糸15は、糸道経路を経由して、針棒31の下端に装着された各縫針35の針孔(図示せず)に供給される。糸道経路は、糸案内17と、糸調子器18と、天秤19と、針棒糸かけ(図示せず)とを含む。
【0022】
アーム部4の下方には、刺繍枠移動機構11のYキャリッジ23が設けられている。刺繍枠移動機構11は、刺繍枠84(図2参照)を着脱可能に支持する。刺繍枠84は、縫製対象物39を保持する。刺繍枠移動機構11は、X軸モータ132(図3参照)及びY軸モータ134(図3参照)を駆動源として、刺繍枠84を前後左右に移動させる。
【0023】
図2を参照して、刺繍枠84と刺繍枠移動機構11とについて説明する。刺繍枠84は、外枠81と、内枠82と、左右1対の連結部89とを備える。刺繍枠84は、外枠81と、内枠82とで縫製対象物39を挟持する。連結部89は、平面視矩形の中央部が矩形に切り抜かれた形状の板部材である。一方の連結部89は、内枠82の右部に螺子95によって固定され、他方の連結部89は、内枠82の左部に螺子94によって固定されている。ミシン1は、刺繍枠84の他、大きさ及び形状が異なる複数種類の他の刺繍枠を装着可能である。刺繍枠84は、ミシン1で使用される刺繍枠のうち、左右方向の幅(左右の連結部89間の距離)が一番大きな刺繍枠である。縫製可能領域は、図示しない公知の検出器(例えば、特開2004−254987号公報参照)の出力信号に基づき、刺繍枠の種類に応じて内枠の内側となる位置に自動的に設定される。
【0024】
刺繍枠移動機構11は、ホルダ24と、Xキャリッジ22と、X軸駆動機構(図示せず)と、Yキャリッジ23と、Y軸移動機構(図示せず)とを備える。ホルダ24は、刺繍枠84を着脱可能に支持する。ホルダ24は、取付部91と、右腕部92と、左腕部93とを備える。取付部91は、左右方向に長い平面視矩形の板部材である。右腕部92は、前後方向に伸びる板部材であり、取付部91の右端に固定されている。左腕部93は、前後方向に伸びる板部材である。左腕部93は、取付部91の左部にあって、取付部91に対する左右方向の位置を調整可能に固定される。右腕部92は、一方の連結部89と係合し、左腕部93は、他方の連結部89と係合する。
【0025】
Xキャリッジ22は、左右方向に長い板部材であり、一部分がYキャリッジ23の正面から前方に突出している。Xキャリッジ22には、ホルダ24の取付部91が取り付けられる。X軸駆動機構(図示せず)は、直線移動機構(図示せず)を備える。直線移動機構は、タイミングプーリ(図示せず)と、タイミングベルト(図示せず)とを備え、X軸モータ132を駆動源として、Xキャリッジ22を左右方向(X軸方向)に移動させる。
【0026】
Yキャリッジ23は、左右方向に長い箱状である。Yキャリッジ23は、Xキャリッジ22を左右方向に移動可能に支持する。Y軸移動機構(図示せず)は、左右一対の移動体(図示せず)と、直線移動機構(図示せず)とを備える。移動体は、Yキャリッジ23の左右両端の下部に連結され、ガイド溝25(図1参照)を上下に貫通している。直線移動機構は、タイミングプーリ(図示せず)と、タイミングベルト(図示せず)とを備え、Y軸モータ134を駆動源として、移動体をガイド溝25に沿って前後方向(Y軸方向)に移動させる。移動体に連結されたYキャリッジ23と、Yキャリッジ23に支持されたXキャリッジ22とは、これに伴って前後方向(Y軸方向)に移動する。縫製対象物39を保持した刺繍枠84をXキャリッジ22に装着した状態において、縫製対象物39は、針棒31と、針板16との間に配置されている。
【0027】
図3を参照して、第1及び第2の実施形態のミシン1に共通するミシン1の電気的構成について説明する。図3のように、ミシン1は、縫針駆動部120と、縫製対象駆動部130と、操作部6と、制御部60と、イメージセンサ50とを備える。以下、縫針駆動部120と、縫製対象駆動部130と、操作部6と、制御部60とのそれぞれを詳述する。
【0028】
縫針駆動部120は、主軸モータ122と、駆動回路121と、針棒ケース用モータ45と、駆動回路123と、針孔糸通し機構126と、駆動回路125とを備える。主軸モータ122は、針棒31を上下方向に往復移動させる。駆動回路121は、制御部60からの制御信号に従って主軸モータ122を駆動する。針棒ケース用モータ45は、針棒ケース21を左右方向に移動させる。駆動回路123は、制御部60からの制御信号に従って針棒ケース用モータ45を駆動する。針孔糸通し機構126は、詳しくは図示しないが、アーム部4の前方先端の下方に設けられており、針穴36の直上に位置している針棒31(縫製針棒)の縫針35の針孔(図示せず)に、上糸15(図1参照)を挿通させるための公知の機構である(例えば、特開2005−73866号公報参照)。駆動回路125は、制御部60からの制御信号に従って針孔糸通し機構126を駆動する。
【0029】
縫製対象駆動部130は、X軸モータ132と、駆動回路131と、Y軸モータ134と、駆動回路133とを備える。X軸モータ132は、刺繍枠移動機構11を駆動させて刺繍枠84(図2参照)を左右方向に移動させる。駆動回路131は、制御部60からの制御信号に従ってX軸モータ132を駆動する。Y軸モータ134は、刺繍枠移動機構11を駆動させて刺繍枠84を前後方向に移動させる。駆動回路133は、制御部60からの制御信号に従ってY軸モータ134を駆動する。
【0030】
操作部6は、タッチパネル8と、コネクタ9と、駆動回路135と、LCD7と、スタート/ストップスイッチ41とを備える。駆動回路135は、制御部60からの制御信号に従ってLCD7を駆動する。コネクタ9は、USBデバイス160と接続する機能を備える。USBデバイス160としては、例えば、PCと、USBメモリとが挙げられる。
【0031】
制御部60は、CPU61と、ROM62と、RAM63と、EEPROM64と、入出力インターフェイス(I/O)66とを備え、これらは信号線65によって相互に接続されている。I/O66には、縫針駆動部120と、縫製対象駆動部130と、操作部6と、イメージセンサ50とがそれぞれ接続されている。以下、CPU61と、ROM62と、RAM63と、EEPROM64とについて詳述する。
【0032】
CPU61は、ミシン1の主制御を司り、ROM62のプログラム記憶エリア(図示せず)に記憶された各種プログラムに従って、縫製に関わる各種演算及び処理を実行する。ROM62は、図示しないが、プログラム記憶エリアと、模様記憶エリアとを含む複数の記憶エリアを備える。プログラム記憶エリアには、メインプログラムを含む、ミシン1を動作させるための各種プログラムが記憶されている。メインプログラムは、後述するメイン処理を実行するためのプログラムである。模様記憶エリアには、模様(以下、「刺繍模様」とも言う。))を縫製するためのデータである縫製データが記憶されている。RAM63は、任意に読み書き可能な記憶素子であり、CPU61が演算処理した演算結果等を収容する記憶エリアが必要に応じて設けられている。EEPROM64には、読み書き可能な記憶素子であり、ミシン1が各種処理を実行するための各種パラメータが記憶されている。EEPROM64には、さらに、各針棒31と、各針棒31の下端に装着される縫針35の針孔(図示せず)に供給される上糸15の色とが対応付けて記憶されている。
【0033】
次に、刺繍枠84に保持された縫製対象物39に縫目を形成する動作について図1から図3を参照して説明する。縫製対象物39を保持した刺繍枠84は、刺繍枠移動機構11に支持される。針棒ケース21が左右に移動することで、10本の針棒31のうち1本が選択される。刺繍枠移動機構11によって、刺繍枠84が所定の位置に移動される。主軸モータ122によって主軸(図示せず)が回転駆動されると、針棒駆動機構32及び天秤駆動機構(図示せず)が駆動され、選択された針棒31及びそれに対応する天秤19が上下駆動される。また、主軸モータ122の回転によって釜駆動機構が駆動され、釜が回転駆動される。このように、縫針35と天秤19と釜とが同期して駆動され、縫製対象物39に縫目が形成される。
【0034】
次に、本実施形態の縫製データについて説明する。本実施形態の縫製データは、図2に示す刺繍座標系100の座標データを含む。刺繍座標系100は、Xキャリッジ22を移動させるX軸モータ132及びY軸モータ134の座標系である。刺繍座標系100の座標データは、基準(例えば、Xキャリッジ22)に対する刺繍模様の位置及び角度を表す。Xキャリッジ22には、縫製対象物39を保持する刺繍枠84が装着される。したがって、刺繍座標系100の座標データは、刺繍枠84に保持された縫製対象物39に対する刺繍模様の位置及び角度を表す。本実施形態では、刺繍座標系100とワールド座標系とを予め対応させている。ワールド座標系は、空間全体を示す座標系である。ワールド座標系は、撮影対象物の重心等の影響を受けることのない座標系である。
【0035】
図2のように、刺繍座標系100は、ミシン1の左から右に向かう方向がX軸プラス方向であり、ミシン1の前から後に向かう方向がY軸プラス方向である。本実施形態では、刺繍枠84の初期位置を刺繍座標系100の原点(X,Y,Z)=(0,0,0)としている。刺繍枠84の初期位置は、刺繍枠84に対応する縫製可能領域86の中心点が、針落ち点と一致する位置である。針落ち点とは、針穴36(図1参照)の鉛直上方に配置された縫針35(図3参照)が、縫製対象物39の上にある状態から針棒31を下方向に移動させた際に、縫針35が縫製対象物39に刺さる点である。本実施形態の刺繍枠移動機構11は、刺繍枠84をZ方向(ミシン1の上下方向)には移動させないので、縫製対象物39の厚みが無視できる範囲であれば、縫製対象物39の上面をZ=0としている。
【0036】
ROM62に記憶されている縫製データの座標データは、刺繍模様の初期配置を規定する。刺繍模様の初期配置は、刺繍模様の中心点が縫製可能領域86の中心点と一致するように設定されている。縫製データの座標データは、縫製対象物39に対する刺繍模様の配置が変更された場合に適宜補正される。第1及び第2実施形態では、縫製対象物39に対する刺繍模様の配置は、後述するメイン処理に従って設定される。以下の説明では、刺繍模様(刺繍模様の中心点)の位置及び刺繍模様の角度は、刺繍座標系100で表されるデータを用いて、刺繍枠84に保持された縫製対象物39に対して設定される。
【0037】
次に、イメージセンサ50の撮影範囲について説明する。イメージセンサ50が撮影位置に配置された場合、イメージセンサ50の刺繍座標系100のXY平面における撮影範囲は、イメージセンサ50のレンズ中心の真下となる点を中心とする、左右方向の長さが約80mmであり前後方向の長さが約60mmの矩形範囲である。本実施形態の撮影位置は、イメージセンサ50のレンズ中心が、針穴36の直上に配置される位置である。イメージセンサ50が撮影位置に配置され、且つ、刺繍枠84が初期位置に配置された場合の撮影範囲180は、図2のように刺繍座標系100の原点を中心とする矩形範囲となる。
【0038】
図4を参照して、標識110について説明する。図4の紙面上側、下側、左側、右側をそれぞれ、標識110に描かれた模様の上側、下側、左側、右側として説明する。図4に示す標識110は、白色で薄板状の基材シート108の上面に模様が描かれたものである。基材シート108は、例えば、縦が約2.5cm,横が約2.5cmの正方形状である。基材シート108の上面には、第一円101と、第二円102と、第一中心点111と、第二中心点112とが描かれている。第二円102は、第一円101の上方に配置される。第二円102の直径は、第一円101の直径よりも小さい。第一中心点111は、第一円101の中心である。第二中心点112は、第二円102の中心である。基材シート108の上面には、さらに、線分103から106が描かれている。線分103と、線分104とは、第一中心点111と第二中心点112とを通る仮想的な直線(図示せず)と重なる。線分105と、線分106とは、第一円101の第一中心点111を経由し線分103に直交する仮想的な直線(図示せず)と重なる。線分103から106は、それぞれ基材シート108の外縁端まで描かれている。
【0039】
基材シート108の裏面には透明の粘着剤が塗着されている。したがって、基材シート108を縫製対象物39上に貼付することが可能である。通常、基材シート108は剥離紙(図示せず)に貼着された状態になっている。ユーザは、剥離紙から基材シート108を剥がして使用する。
【0040】
次に、図5から図15を参照して、第1の実施形態のミシン1において実行されるメイン処理について説明する。メイン処理は、刺繍枠内に設定される縫製可能領域に収まる大きさの模様を縫製する場合に実行される処理である。本実施形態のメイン処理では特に、刺繍枠の内側に設定される縫製可能領域よりも広い範囲に複数の模様を縫製する場合に、ユーザの指示に従って、模様間の配置を調整可能である。具体例として、図6の模様205がX軸方向に並べられて縫製される場合について説明する。模様205の大きさは、X軸方向の長さが186.8mmであり、Y軸方向の長さが133.0mmである。縫製可能領域86の大きさが、X軸方向の長さが360mmであり、Y軸方向の長さが200mmである場合、1つの模様205は縫製可能領域86に収まる。しかし、X軸方向に2個の模様205を重ねずに、並べて縫製する場合に、2個の模様205は、縫製可能領域86には収まらない。
【0041】
図5のメイン処理は、ユーザがメイン処理を開始する指示を入力した場合に実行される。メイン処理を開始する指示は、例えば、パネル操作によって入力される。図5のメイン処理を実行するためのプログラムは、図3のROM62に記憶されており、CPU61によって実行される。以下の説明において、イメージセンサ50が生成した画像データによって表される画像を、撮影画像と言う。例示する各種画面及びメッセージは、駆動回路135に制御信号が出力されることによってLCD7に表示される。例示する各種画面において、紙面の左右方向及び上下方向を、それぞれ画面の左右方向及び上下方向と言う。
【0042】
図5のように、メイン処理ではまず、変数Nに1が設定され、設定された変数NはRAM63に記憶される(S10)。変数Nは、ユーザによって選択された模様の数をカウントするための変数である。変数Nは、選択された模様の縫製順序に対応する。次に、CPU61は、N番目の模様が選択されるまで待機する(S20:NO)。ステップS20では、まず、図6に例示する画面200が表示される。図6に示すように、画面200には、模様表示欄201と、模様情報欄202と、模様選択欄203と、SETキー204とが表示されている。
【0043】
模様表示欄201には、現在選択されている模様が縫製される範囲を表す図形が表示される。模様表示欄201の大きさは、ミシン1に設定される縫製可能範囲の最大の大きさを表す。刺繍枠84が装着された場合に設定される縫製可能範囲86の大きさは、模様表示欄201の大きさに対応している。模様表示欄201の左右方向は、刺繍座標系100のX軸方向に対応する。模様表示欄201の上下方向は、刺繍座標系100のY軸方向に対応する。本実施形態では、模様が縫製される範囲を表す図形を矩形で表す。模様205の配置を変更する前の状態では、模様205が縫製される範囲を表す矩形206は、模様表示欄201の左右方向に平行な辺と、模様表示欄201の上下方向に垂直な方向に平行な辺とを備える。模様情報欄202には、現在選択されている模様に関する情報として、上記矩形の大きさと、初期配置に対する移動距離及び回転角度と、縫製に必要な糸の色数とが表示されている。模様選択欄203には、ROM62又はEEPROM64に記憶されている縫製データに基づき、模様の候補が表示されている。ユーザは、模様選択欄203に表示されている模様の中から、所望の模様をパネル操作によって選択する。SETキー204は、模様の選択が終了した場合に選択される。ステップS20では、パネル操作によって、模様選択欄203の中から1つの模様が選択された後、SETキー204が選択された場合に、N番目の模様が選択されたと判断される(S20:YES)。この場合、ROM62又はEEPROM64から。選択されたN番目の模様に対応する縫製データが取得され、RAM63に記憶される(S30)。
【0044】
図6の画面200において、1番目の模様として模様205が選択された後、SETキー204が選択された場合(S20:YES,S40:YES)、N番目の模様の編集及び配置の設定が実行される(S50)。変数Nが1である場合には、ステップS30で取得された縫製データが、模様の編集及び配置の設定に従って、公知の方法により補正される。
【0045】
ステップS50では、まず、図7に例示する画面210が表示される。図7に示すように、画面210には、模様表示欄211と、模様情報欄212と、模様編集欄213と、EDIT ENDキー214とが表示されている。模様表示欄211は、模様表示欄201と同様であり、模様情報欄212は、模様情報欄202と同様である。模様編集欄213は、模様の編集及び配置を指示する各種キーが表示される。ユーザは、模様編集欄213に表示されたキーをパネル操作によって選択することによって、模様の編集及び配置を指示することができる。模様の編集及び配置には、例えば、模様の大きさの変更と、初期配置に対する模様の回転と、模様の反転と、初期配置に対する模様の移動とを含む。模様の初期配置は、上述のように、縫製データによって規定されている。EDIT ENDキー214は、模様の編集及び配置が終了した場合に選択される。
【0046】
図7の具体例において、矩形206で表される模様205の配置が、初期配置に対して348度時計回りに回転され、X軸方向に−45.0mm、Y軸方向に−15.6mm移動された場合を想定する。模様の編集及び配置が終了した後、EDIT ENDキー214が選択された場合、図示しないが、縫製開始キーと、模様つなぎキーとを備える画面がLCD7に表示される。縫製開始キーは、模様の縫製を開始することを指示する場合に選択される。模様つなぎキーは、ステップS20で選択されたN番目の模様に加え、N+1番目の模様が縫製される場合であって、N番目の模様と、N+1番目の模様との全体が縫製可能領域よりも広い範囲に縫製される場合に選択される。
【0047】
次に、模様つなぎキーが選択されたか否かが判断される(S95)。模様つなぎキーが選択された場合には(S95:YES)、図8に示す画面220のように、第1指定キー群224が表示される(S100)。図8に示すように、画面220には、模様表示欄221と、模様情報欄222と、指示キー表示欄223とが表示されている。模様表示欄221は、模様表示欄201と同様であり、模様情報欄222は、模様情報欄202と同様である。指示キー表示欄223には、第1指定キー群224と、CLOSEキー226とが表示されている。第1指定キー群224に含まれる各第1指定キーは、第1基準を指定するキーである。第1基準は、ユーザによって指定された、第1図形に含まれる第1線分及び第1点の少なくともいずれかを含む基準である。第1基準は、N番目の模様を基準模様とし、N+1番目の模様を次の模様とする場合、基準模様の配置に対して次の模様の配置を設定する処理に用いられる。本実施形態の第1基準は、第1線分及び第1点を含む。第1図形は、基準模様(N番目の模様)が縫製される範囲を表す図形であり、本実施形態では模様が収まる最小矩形である。第1線分は、矩形を構成する四辺のいずれかから選択される。第1点は、第1線分の両端の点及び第1線分の中点のいずれかから選択される。本実施形態では、第1指定キー群224に含まれる、12個の第1指定キーの中から、第1線分と第1点との組み合わせが第1基準として選択される。CLOSEキー226は、第1基準の指定が終了した場合に選択される。
【0048】
次に、第1指定キー群224のうちのいずれかの第1指定キーが選択されたか否かが判断される(S110)。図8に示す画面220において、第1指定キー225が選択された場合(S110:YES)、模様表示欄221に示すように、矩形206に第1線分227及び第1点228が付加されて表示される(S120)。第1線分227及び第1点228は、第1指定キー225に対応している。本実施形態のミシン1は、ユーザが矩形206に対する第1基準を視認しやすいように、矩形206を黒色で、第1線分227を青色で、第1点228を赤色で、それぞれ表示する。矩形206の配置は、刺繍座標系で表される縫製データによって特定される。ステップS120では、第1保持位置における第1線分227及び第1点228の配置は、縫製データに基づき刺繍座標系の座標で特定され、RAM63に記憶される。第1保持位置は、刺繍枠84に対する縫製対象物39の保持位置のうち、ユーザによって設定された、基準模様が縫製される場合の位置である。刺繍枠84に対する縫製対象物39の保持位置は、ユーザが刺繍枠84に縫製対象物39を保持させることによって設定される。第1指定キー群224のうちのいずれの第1指定キーも選択されない場合(S110:NO)、又は、ステップS120の次に、CLOSEキー226が選択されたか否かが判断される(S130)。CLOSEキー226が選択されていない場合(S130:NO)、処理はステップS110に戻る。CLOSEキー226が選択された場合(S130:YES)、図示しないが、縫製開始キーを備える画面がLCD7に表示される。
【0049】
次に、CPU61は、縫製開始キーが選択されるまで待機する(S140:NO)。縫製開始キーが選択された場合(S140:YES)、N番目の模様の縫製が実行される(S150)。具体的には、N番目の模様の縫製データに従って、駆動回路131と、駆動回路133とに制御信号が出力され、刺繍枠84が移動される。駆動回路121に制御信号が出力され、主軸モータ122が駆動される。
【0050】
次に、メッセージ「次の模様を縫製しますか?」と、OKキーとがLCD7に表示される(S160)。メッセージは、次の模様(N+1番目の模様)を縫製するための処理を実行するか否かをユーザに確認するために表示される。OKキーは、次の模様を縫製するための処理を実行する場合に選択される。所定時間内(例えば、5分間)にOKキーが選択されない場合(S170:NO)、メイン処理は終了する。OKキーが選択された場合(S170:YES)、変数Nはインクリメントされ、インクリメントされた変数NはRAM63に記憶される(S180)。
【0051】
次に、標識検出処理が実行される(S190)。標識検出処理は、第1保持位置における標識110の配置と、第1基準とを対応付ける処理である。ステップS180において、Nはインクリメントされているので、N−1番目の模様が、前述の基準模様に対応し、N番目の模様が、前述の次の模様に対応する。標識110の配置は、標識110の位置及び角度の少なくともいずれかを含む。本実施形態のミシン1は、標識110の配置として、2つの標識110の第一中心点111の刺繍座標系の座標に基づき、標識110の位置及び角度を検出する。標識110の位置は、例えば、2つの標識110のうちの一方の第一中心点111の刺繍座標系の座標で表される。標識110の角度は、2つの標識110のうちの一方の標識110の第一中心点111から他方の標識110の第一中心点111に向かうベクトルと、刺繍座標系のX軸とがなす角で表される。2つの標識110の区別は、例えば、各標識110における第一中心点111に対する、第二中心点112の相対位置にもとづき判断される。本実施形態では図10に例示するように、第1線分227の両端付近にそれぞれ配置された2つの標識110の撮影画像に基づき、第1保持位置における標識110の配置が検出される。
【0052】
図9を参照して標識検出処理の詳細について説明する。図9に示すように、標識検出処理ではまず、図11に例示する画面240のように、標識110の配置予定位置を示す赤色の矩形245がLCD7に表示され、イメージセンサ50による針元の撮影が開始される(S192、S194)。図11に示すように、画面240には、模様表示欄241と、配置予定位置表示欄242とが表示されている。模様表示欄241は、模様表示欄201と同様である。配置予定位置表示欄242には、メッセージ243と、合成画像244と、OKキー246とが表示されている。合成画像244は、イメージセンサ50から出力される針元付近の画像に、赤色の矩形245が付与された画像である。赤色の矩形245は、針元付近の画像における、第1線分の一方端を含む位置に表示される。矩形245の大きさは、標識110の大きさの約1.5倍である。メッセージ243は、標識110を矩形245の内側の領域に配置した後、OKキー246を選択することをユーザに促すために表示される。OKキー246は、矩形245の内側に標識110が配置された場合に選択される。ユーザは、画面240を確認しながら、配置予定位置表示欄242に表示されているように、矩形245の内側に標識110を貼り付けた後、OKキーを選択する。
【0053】
CPU61は、OKキー246が選択されるまで待機する(S196:NO)。OKキー246が選択された場合(S196:YES)、イメージセンサ50から出力される画像データが取得され、取得された画像データがRAM63に記憶される(S198)。次に、矩形245の内側となる部分の画像から標識110を検出する処理が実行される(S200)。ステップS200では、矩形245の内側となる部分の画像から標識110が検出された場合、標識110に含まれる第一中心点111及び第二中心点112の刺繍座標系の座標が特定される。標識110の検出及び座標の特定は、公知の方法(例えば、特開2010−246885号公報参照)を用いて実行される。前述のように本実施形態は、刺繍座標系と、ワールド座標系とは対応付けられているので、画像処理によって算出されたワールド座標系の三次元座標に基づき、刺繍座標系の座標が算出される。ステップS200で標識110が検出されていない場合(S202:NO)、標識110を矩形245内に配置することをユーザに促すメッセージがLCD7に表示される(S204)。次に、処理はステップS194に戻る。ステップS198で標識110が検出された場合(S202:YES)、ステップS198で検出された標識110が、2個目の標識110であるか否かが判断される(S206)。
【0054】
前述のように、本実施形態のミシン1は、第1線分の両端付近にそれぞれ配置された2個の標識110を検出して、標識110の配置と、第1保持位置における基準模様の配置とを対応付ける。ステップS200で検出された標識110が、1個目の標識110である場合(S206:NO)、駆動回路131と、駆動回路133とに制御信号が出力され、刺繍枠84が移動される(S208)。具体的には、第1線分の他方端に設定される配置予定位置がイメージセンサ50の撮影範囲に収まる位置に、刺繍枠84が移動される。次に、処理はステップS192に戻り、2個目の標識110を検出するための処理が実行される。ステップS200で検出された標識110が、2個目の標識110である場合(S206:YES)、標識検出処理は終了し、処理は図5に示すメイン処理に戻る。
【0055】
図5のステップS190の次に、刺繍枠84に対する縫製対象物39の保持位置を、N番目の模様を縫製するための位置に変更することをユーザに促すメッセージを表示させる(S210)。刺繍枠84に対する縫製対象物39の保持位置の変更は、縫製対象物39の表面に標識110が貼り付けられた状態で実行される。すなわち、刺繍枠84に対する縫製対象物39の保持位置が変更されても、縫製対象物39に対する標識110の配置は変更されない。ユーザは、刺繍枠84に対する縫製対象物39の保持位置を、第1保持位置から第2保持位置に変更する。第2保持位置と、第1保持位置とは、刺繍枠84に対する縫製対象物39の相対的な保持位置が異なる。本実施形態の第2保持位置は、次の模様(N番目の模様)が縫製可能領域に収まること、及び縫製対象物39に貼り付けられた2個の標識110のそれぞれが、刺繍枠84の内側、特に、縫製可能領域内に配置されることを満たす。
【0056】
次に、処理はステップS20に戻る。前述の具体例において、ステップS20において、2番目の模様として、1番目の模様205と同じ模様205が選択された場合を想定する(S20:YES)。この場合、2番目の模様205の縫製データが取得された後(S30)、変数Nは1ではないと判断される(S40:NO)。変数Nが2以上の場合には、変数Nが1である場合とは異なり、配置設定処理が実行される(S60)。配置設定処理では、第2保持位置における次の模様(N番目の模様)の配置を設定する処理が実行される。ステップS60の時点では、基準模様は既に縫製対象物に縫製されており、縫製対象物に対する配置が確定している。ステップS60では、基準模様の配置に対する次の模様の相対的な配置と、第2保持位置における基準模様の配置とに基づき、第2保持位置での縫製対象物に対する次の模様(N番目の模様)の配置を設定する処理が実行される。
【0057】
図12を参照して、配置設定処理の詳細について説明する。図12に示すように、配置設定処理ではまず、図13に示す画面250のように、第2指定キー群254が表示される(S62)。図13に示すように、画面250には、模様表示欄251と、模様情報欄252と、指示キー表示欄253とが表示されている。模様表示欄251は、模様表示欄201と同様であり、模様情報欄252は、模様情報欄202と同様である。指示キー表示欄253には、第2指定キー群254と、CLOSEキー256とが表示されている。第2指定キー群254に含まれる各第2指定キーは、第2基準を指定するキーである。第2基準とは、ユーザによって指定された、第2図形に含まれる第2線分及び第2点の少なくともいずれかを含む基準である。第2図形は、次の模様が縫製される範囲を表す図形であり、本実施形態では第1図形と同様に矩形である。本実施形態の第2基準は、第2線分及び第2点を含む。第2線分は、第1線分と同様に、矩形を構成する四辺のいずれかから選択される。第2点は、第1点と同様に、第2線分の両端の点及び第2線分の中点のいずれかから選択される。本実施形態では、第2指定キー群254に含まれる、12個の第2指定キーの中から、第2線分と第2点との組み合わせが第2基準として選択される。第2基準は、基準模様(N−1番目の模様)の配置に対する次の模様(N番目の模様)の相対的な配置を決定する処理に用いられる。CLOSEキー256は、第2基準の指定が終了した場合に選択される。
【0058】
次に、第2指定キー群254のうちのいずれかの第2指定キーが選択されたか否かが判断される(S64)。図13に示す画面250において、いずれかの第2指定キーが選択された場合(S64:YES)、1番目の模様205の配置に対する2番目の模様205の相対的な配置が決定され(S70)、決定結果はLCD7に表示される(S72)。本実施形態では、模様の配置は、初期配置に対する模様の位置及び角度を含む。基準模様(N−1番目の模様)の配置に対する次の模様(N番目の模様)の相対的な配置は、第1基準及び第2基準に基づき以下のように決定される。すなわち、基準模様の配置に対する次の模様の相対的な配置は、第1線分の延伸方向が第2線分と重なり、且つ、第1点が、第2点と重なる配置に決定される。上記の条件を満たす、基準模様の配置に対する次の模様の相対的な配置は、2パターン考えられる。本実施形態では、2パターンの配置のうち、基準模様と次の模様(N番目の模様)とが互いに重ならない方が採用される。
【0059】
図13に示す画面250において、第2指定キー255が選択された場合、模様表示欄251に例示するように、1番目の模様205の配置に対する2番目の模様205の相対的な配置は以下のように決定される。すなわち、1番目の模様205の範囲を表す矩形206の右辺の延伸方向と、2番目の模様205の範囲を表す矩形258の左辺とが重なり、且つ、矩形206の右辺の中点と、矩形258の左辺の上側の端点とが重なる配置に決定される。図13に示す画面250において、第2指定キー257が選択された場合、図14の模様表示欄261に例示するように、1番目の模様205の配置に対する2番目の模様205の相対的な配置は以下のように決定される。すなわち、1番目の模様205の範囲を表す矩形206の右辺の延伸方向と、2番目の模様205の範囲を表す矩形258の左辺とが重なり、且つ、矩形206の右辺の中点と、矩形258の左辺の中点とが重なる配置に決定される。ユーザは、LCD7に表示された画面を見ることによって、基準模様(N−1番目の模様)の配置に対する次の模様(N番目の模様)の相対的な配置を確認する。
【0060】
第2指定キー群254のうちのいずれの第2指定キーも選択されない場合(S64:NO)、又は、ステップS72の次に、CLOSEキー256が選択されたか否かが判断される(S74)。CLOSEキー256が選択されていない場合(S74:NO)、処理はステップS64に戻る。CLOSEキー226が選択された場合(S74:YES)、標識110の配置に基づき、第2保持位置における基準模様(N−1番目の模様)の配置を特定するための処理が実行される。図9の標識検出処理とは異なり、刺繍枠84の内側全体が標識110の検出対象範囲に設定される。
【0061】
具体的には、まず、イメージセンサ50から出力された画像データが取得される(S76)。次に、ステップS76で取得された画像データによって表される画像全体を検出対象として、標識110の検出処理が実行される(S78)。標識110の検出は、ステップS198と同様に、公知の方法を用いて実行される。標識110が検出された場合には、例えば、標識110の第一中心点111及び第二中心点112の刺繍座標系の座標が算出される。ステップS78で標識110が検出されていない場合(S80:NO)、又は、ステップS78で1個目の標識110が検出された場合(S80:YES,S82:NO)には、刺繍枠84の内側の全領域が検出対象範囲として設定されたか否かが判断される(S84)。検出対象範囲として設定されていない領域がある場合(S84:NO)、駆動回路131及び駆動回路133に制御信号が出力され、検出対象範囲として設定されていない領域が、イメージセンサ50の撮影範囲に収まる位置に、刺繍枠84が移動される(S86)。刺繍枠84の内側の全領域が、検出対象範囲として設定された場合(S84:YES)、2個の標識110が検出できないことを報知するメッセージがLCD7に表示される(S88)。この場合、ユーザは、2個の標識110が刺繍枠84の内側の領域にあるか否かを確認する。ステップS86又はステップS88の次に処理はステップS76に戻る。
【0062】
2個の標識110のそれぞれが検出された場合(S80:YES,S82:YES)、第2保持位置における基準模様(N−1番目の模様)の配置が特定される(S90)。ステップS90では、第2保持位置における標識110の配置と、標識110の配置及び第1基準の対応とに基づき、第2保持位置における基準模様の配置が特定される。第2保持位置における標識110の配置は、例えば、ステップS78で算出された標識110の第一中心点111の刺繍座標系の座標で表される。標識110の配置及び第1基準の対応は、例えば、図5のステップS190の標識検出処理で算出される、第1保持位置における標識110の第一中心点111の刺繍座標系の座標と、ステップS120で特定された第1基準の刺繍座標系の座標とによって表される。
【0063】
次に、第2保持位置における基準模様(N−1番目の模様)の配置と、基準模様の配置に対する次の模様の相対的な配置とに基づき、第2保持位置における縫製対象物39に対する次の模様(N番目の模様)の配置が設定される(S92)。ステップS92では、設定結果に基づき、N番目の模様の縫製データが補正される。N番目の模様の配置の設定結果は、例えば、図15の画面270のように、LCD7に表示される。図15に示す画面270は、模様表示欄271と、縫製情報欄272と、糸色表示欄273とが表示されている。模様表示欄271は、模様表示欄201と同様である。模様表示欄271には、具体例の2番目の模様205の配置が、矩形258の位置及び角度によって表されている。縫製情報欄272は、N番目の模様を縫製するための条件として、縫製時間と、糸色数と、針落ち点の数と、縫製開始からの経過時間とが表示されている。糸色表示欄273には、針棒31の下端に供給されている糸の色名が表示されている。次に、「標識をはがしてください。」とのメッセージがLCD7に表示される(S94)。次に、図示しないが、縫製開始キーと、模様つなぎキーとを備える画面がLCD7に表示される。配置設定処理は以上で終了し、処理は図5のメイン処理に戻る。
【0064】
図5のメイン処理において、ステップS60の次に、CPU61は、模様つなぎキー又は縫製開始キーが選択されるまで待機する(S95:NO,S220:NO)。模様つなぎキーが選択された場合(S95:YES)、前述のステップS100の処理が実行される。縫製開始キーが選択された場合(S95:NO,S220:YES)、ステップS150の処理と同様にN番目の模様の縫製が実行される(S230)。具体例では、2番目の模様205が図15の模様表示欄271に矩形258で示される配置で縫製される。メイン処理は以上で終了する。メイン処理によって、具体例では、図16に例示するように、第1保持位置において、縫製対象物39に対して設定される縫製可能領域86よりも広い範囲に、2個の模様205が、矩形206で示す配置と、矩形258で示す配置とで縫製される。
【0065】
上記第1の実施形態のミシン1において、刺繍枠移動機構11は、本発明の「移動手段」に相当する。針棒駆動機構32は、本発明の「縫製手段」に相当する。イメージセンサ50は、本発明の「撮影手段」に相当する。図5のステップS50と、ステップS100と、ステップS110とを実行するCPU61は、本発明の「第1基準取得手段」として機能する。図12のステップS62と、ステップS64とを実行するCPU61は、本発明の「第2基準取得手段」として機能する。ステップS70を実行するCPU61は、本発明の「配置決定手段」として機能する。図9のステップS198と、図12のステップS76とを実行するCPU61は、本発明の「画像データ取得手段」として機能する。図9のステップS200と、図12のステップS78とを実行するCPU61は、本発明の「検出手段」として機能する。図12のステップS90を実行するCPU61は、本発明の「配置特定手段」として機能する。ステップS92を実行するCPU61は、本発明の「設定手段」として機能する。図12のステップS72を実行するCPU61は、本発明の「第1表示手段」として機能する。図9のステップS192を実行するCPU61は、本発明の「第2表示手段」として機能する。メイン処理において基準模様を縫製する処理(S150)を実行するCPU61は、本発明の「第1縫製制御手段」として機能する。次の模様を縫製する処理(S150又はS230)を実行するCPU61は、本発明の「第2縫製制御手段」として機能する。
【0066】
ミシン1は、複数の模様を、縫製可能領域よりも広い範囲に縫製する場合に、基準模様の配置に対する次の模様の相対的な配置が、ユーザが指示した配置となるように、第2保持位置での縫製対象物39に対する次の模様の配置を設定することができる。ユーザは、第1指定キーを選択することによって第1基準を設定し、第2指定キーを選択することによって第2基準を設定するという簡単な操作によって、基準模様の配置に対する次の模様の相対的な配置を設定させることができる。ミシン1は、第2保持位置での基準模様の配置を、縫製対象物39の表面に配置された標識を撮影した画像データに基づき自動的に特定する。第2保持位置での基準模様の配置を特定するためのユーザの操作は標識110を縫製対象物39に貼り付けるのみでよく、ユーザが目視で特定するミシンに比べ、ミシン1の方が容易である。第2保持位置での基準模様の配置を特定する精度は、ユーザが目視で特定するミシンに比べ、ミシン1の方が高い。とくに、本実施形態のミシン1は、2つの標識110を用いて、第2保持位置での基準模様の配置を特定しているため、1つの標識110を用いて配置を特定する場合に比べ、特に相対的な角度を精度よく特定することができる。
【0067】
ミシン1は、図13及び図14に例示するように、基準模様の配置に対する次の模様の相対的な配置をLCD7に表示させる。したがって、ユーザは、画面の表示に基づき、ユーザが意図するように、基準模様の配置に対する次の模様の相対的な配置が設定されたか否かを確認することができる。ミシン1は、図11の画面240に例示するように、標識110を貼り付ける予定の位置を示す、赤色の矩形245を含む合成画像244をLCD7に表示する。したがって、ミシン1は、配置予定位置に1つ以上の標識110を配置することを、ユーザに促すことができる。また、ミシン1は、刺繍枠84に対する縫製対象物39の保持位置が第1保持位置にある場合には、配置予定位置についてのみ標識110を検出する処理を実行すればよい。このため、ミシン1は、刺繍枠84の内側の全範囲を検出対象範囲とする場合に比べ、標識110の配置を検出するための処理を簡略化することができる。配置予定位置は、第1基準付近、特に、第1線分の両端付近に自動的に設定される。本実施形態では、第1基準に対する第2基準の相対的な配置が上述のように設定されている。配置予定位置を上記のように設定されるので、ユーザは、標識110を撮影範囲内に配置されるように、第2保持位置をしやすい。以上のように、ミシン1は、基準模様の配置に対する次の模様の相対的な配置が、ユーザが指示した配置となるように、基準模様と、次の模様とを縫製対象物39に縫製することができる。
【0068】
次に、第2の実施形態のミシン1において実行されるメイン処理について説明する。図示しないが、第2の実施形態のメイン処理は、図5に示す第1の実施形態のメイン処理と、ステップS60の配置設定処理において異なり、他の処理は同様である。以下、第1の実施形態のメイン処理と同様な処理については説明を省略し、第1の実施形態のメイン処理と異なるステップS60の処理について図17及び図18を参照して説明する。第2の実施形態のメイン処理は、ROM62に記憶されたメインプログラムに従って、CPU61が実行する。
【0069】
図17において、図12の第1の実施形態の配置設定処理と同様の処理を実行する処理には、同じステップ番号が付与されている。図17に示すように、第2の実施形態の配置設定処理は、ステップS66が実行され、ステップS62に代えてステップS63が実行され、ステップS70に代えてステップS71が実行され、ステップS74に代えてステップS75が実行される点で、図12の第1の実施形態の配置設定処理と異なる。第1の実施形態と同様な処理については説明を省略し、以下、第1の実施形態と異なるステップS63と、ステップS66と、ステップS71と、ステップS75の処理について、第1の実施形態と同様の具体例を用いて説明する。
【0070】
第2の実施形態では、第1基準に対する第2基準の相対的な位置を数値で設定可能である。ステップS63では、例えば、図18に例示する画面300が表示される。画面300には、模様表示欄301と、模様情報欄302と、配置指定欄303とが表示されている。模様表示欄301は、模様表示欄201と同様であり、模様情報欄302は、模様情報欄202と同様である。配置指定欄303には、第2指定キー群304と、Y軸方向距離設定キー306と、X軸方向距離設定キー307と、OKキー308とが表示されている。第2指定キー群304は、図13の第2指定キー群254と同様である。Y軸方向距離設定キー306は、第1基準に対する第2基準の刺繍座標系のY軸方向の相対位置をmm単位の数値で指定するためのキーである。X軸方向距離設定キー307は、第1基準に対する第2基準の刺繍座標系のX軸方向の相対位置をmm単位の数値で指定するためのキーである。OKキー308は、基準模様の配置に対する次の模様の相対的な配置の設定が終わった場合に選択される。
【0071】
ステップS63の次に、第2指定キー群304のうちのいずれかの第2指定キーと、Y軸方向距離設定キー306と、X軸方向距離設定キー307と、OKキー308とのいずれかが選択されるまで待機する(S64:NO,S66:NO,S75:NO)。第2指定キーが選択された場合の(S64:YES)、ステップS71の処理は、図12のステップS70と同様である。OKキー308が選択された場合(S64:NO,S66:NO,S75:YES)、第1の実施形態と同様のステップS76の処理が実行される。
【0072】
Y軸方向距離設定キー306又はX軸方向距離設定キー307が選択された場合(S66:YES)、ステップS71では次のように基準模様(N−1番目の模様)の配置に対する次の模様(N番目の模様)の相対的な配置が決定される。基準模様の配置に対する次の模様の相対的な配置は、第1基準に対する第2基準の初期位置から、距離設定キーで指定された距離だけ移動させた位置に基づき設定される。第1基準に対する第2基準の初期位置は、第2指定キー群304に含まれるいずれかの第2指定キーが選択された場合に、図12のステップS70と同様に設定された位置である。図18の模様表示欄301には、第2指定キー305が選択された後、距離設定キー306及び307が選択された場合の、矩形206で表される1番目の模様205の配置に対する矩形258で表される2番目の模様205の相対的な配置が表示されている。具体的には、Y軸方向距離設定キー306及びX軸方向距離設定キー307で指定された数値に従って、第2基準が上記初期位置からX軸方向に+10.0(mm)、Y軸方向に−6.0mmに相対的に移動された場合の矩形206に対する矩形258の相対的な配置が表示されている。
【0073】
上記第2の実施形態のミシン1において、図17のステップS66を実行するCPU61は、本発明の「数値取得手段」として機能する。ステップS71を実行するCPU61は、本発明の「配置決定手段」として機能する。第2の実施形態のミシン1によれば、ユーザは、数値を設定するという簡単な操作によって、基準模様の配置に対する次の模様の相対的な配置を設定させることができる。第2の実施形態のメイン処理は、例えば、図19に例示する正六角形の模様311を縫製可能領域86よりも広い範囲に複数個縫製する場合に利用される。ユーザは、刺繍枠84に対する縫製対象物39の保持位置を変更する前後の模様を縫製する場合にメイン処理を実行する。メイン処理では、模様311の範囲を表す矩形312に対して第1基準及び第2基準を設定し、第1基準に対する第2基準の相対位置が調整される。これにより、図20に例示するように、9個の模様311を有する模様群320を、縫製可能領域86よりも広い領域に縫製可能である。
【0074】
本発明のミシンは、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更が加えられてもよい。例えば、以下の(A)から(E)までの変形が適宜加えられてもよい。
【0075】
(A)ミシン1の構成は必要に応じて適宜変更されてもよい。例えば、本発明は、工業用ミシン及び家庭用ミシンに適用されてもよい。他の例では、イメージセンサ50の種類と、配置とは適宜変更してもよい。例えば、イメージセンサ50は、CCDカメラ等、CMOSイメージセンサ以外の撮影素子であってもよい。
【0076】
(B)基準模様の配置は、基準模様の位置及び角度の少なくともいずれかを含んでいればよい。同様に、次の模様の配置は、次の模様の位置及び角度の少なくともいずれかを含んでいればよい。
【0077】
(C)第1基準は、ユーザが指定した基準であって、基準模様が縫製される範囲を表す第1図形に含まれる第1線分及び第1点のいずれかを含む基準であればよい。同様に、第2基準は、ユーザが指定した基準であって、次の模様が縫製される範囲を表す第2図形に含まれる第2線分及び第2点のいずれかを含む基準であればよい。第1図形は、基準模様が縫製される範囲を表す図形であればよく、例えば、基準模様が収まる最小矩形の他、基準模様が収まる、円と、楕円と、多角形とのいずれかであってもよいし、基準模様の輪郭線であってもよい。第2図形は、第1図形と同様に、次の模様が収まる最小矩形以外の図形であってもよい。第1点は、第1図形に含まれる点であればよく、第1線分上の任意の点であってもよいし、第1線分上ではない点であってもよい。第2点は、第1点と同様に、第2図形に含まれる点であればよい。
【0078】
(D)メイン処理で用いる標識110の数は、適宜変更可能である。複数の標識110に基づき基準模様の配置が特定される場合、1つの標識110に基づき基準模様の配置が特定される場合に比べ、基準模様の配置、特に基準模様の傾きを精度よく特定することができる。画像データに基づき検出される標識110の配置は、標識110の位置及び角度の少なくともいずれかであればよい。標識110の構成は適宜変更されてよい。標識110の構成には、例えば、標識の大きさと、材質と、デザインと、色とが含まれる。標識110の配置を特定するための基準(上記実施形態では、標識110の第一中心点111)及び算出方法は、標識110の構成等を考慮して、適宜変更されてよい。
【0079】
(E)メイン処理は適宜変更されてよい。例えば、メイン処理の特徴部分が組み合わされて実行されてもよい。より具体的には、以下のような変更が加えられてもよい。
【0080】
(E−1)基準模様の配置に対する次の模様の相対的な配置の決定方法は適宜変更されてもよい。例えば、上記実施形態では、第1基準は第1指定キーを用いて指定され、第2基準は第2指定キーを用いて指定されていたがこれに限定されない。より具体的には、第1基準(第2基準)は、第1図形(第2図形)に含まれる線分及び点の中からユーザが任意に指定してもよい。他の例では、第1基準に対する第2基準の配置は、上記実施形態の場合に限定されず、適宜変更されてもよい。他の例では、第1基準に含まれる第1線分に対する、第2基準に含まれる第2線分の角度が数値によって指定されてもよい。このようにすれば、基準模様の配置に対して、次の模様の相対的な配置を所望の角度傾けることができる。他の例では、第1基準及び第2基準に相当する基準が自動で設定され、ユーザは設定された基準間の位置及び角度の少なくともいずれかの関係を数値で設定してもよい。第1基準及び第2基準に相当する基準には、例えば、第1図形(第2図形)の代表点と、第1図形(第2図形)の代表線分とが挙げられる。第1図形(第2図形)の代表点は、例えば、図形の中心点及び端点が挙げられる。第1図形(第2図形)の代表線分には、図形の対角線と、図形を構成するいずれかの辺とが挙げられる。
【0081】
(E−2)基準模様の配置に対する次の模様の相対的な配置を決定するための処理を行うタイミングは適宜変更されてよい。例えば、第1基準及び第2基準が取得されるタイミングは適宜変更されてもよい。より具体的には、基準模様を縫製した後に、第1基準を取得するための処理が実行されてもよい。
【0082】
(E−3)図12のステップS72の処理は適宜省略されてもよい。同様に、図9のステップS192の処理は適宜省略されてもよい。図9のステップS192の処理が実行される場合、配置予定位置は、第1保持位置及び第2保持位置において、刺繍枠の内側且つイメージセンサ50の撮影範囲内に収まる位置であればよい。配置予定位置は、例えば、ユーザによって設定されてもよい。他の例では、配置予定位置の表示方法は適宜変更されてもよい。具体的には、標識の中心の予定位置が星印等の模様で表示されてもよいし、標識全体が収まる予定の範囲が円と、楕円と、多角形といった図形で表示されてもよい。
【0083】
(E−4)図5のステップS40と、ステップS60との間に、N番目の模様を編集する処理が実行されてもよい。N番目の模様を編集する処理としては、例えば、模様の大きさの変更と、回転と、反転とが挙げられる。また、N番目の模様を編集する処理において、模様が回転される場合に、回転後の模様の範囲を表す図形が再設定されてもよい。
【符号の説明】
【0084】
1 ミシン
7 液晶ディスプレイ
8 タッチパネル
11 刺繍枠移動機構
32 針棒駆動機構
61 CPU
62 ROM
63 RAM
64 EEPROM
84 刺繍枠

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮影手段と、
縫製対象物を保持する刺繍枠を移動させる機能を備えた移動手段と、
前記刺繍枠の内側に設定される縫製可能領域よりも広い範囲に縫製される複数の模様のうちの、前記刺繍枠に対する前記縫製対象物の保持位置がユーザによって設定された位置である第1保持位置である場合に縫製される模様を基準模様とし、前記保持位置が前記第1保持位置とは異なる第2保持位置である場合に縫製される模様であって、前記基準模様の次に縫製される模様を次の模様とした場合に、ユーザの指示に従って、前記基準模様の位置及び角度の少なくともいずれかを含む配置に対する前記次の模様の位置及び角度の少なくともいずれかを含む相対的な配置を決定する配置決定手段と、
前記保持位置が前記第1保持位置から前記第2保持位置に変更される前後のそれぞれで、前記撮影手段が前記刺繍枠に保持された前記縫製対象物の表面に配置された少なくとも1つの標識を撮影して出力した画像データを取得する画像データ取得手段と、
前記画像データ取得手段によって取得された前記画像データに基づき、前記保持位置が前記第1保持位置である場合と、前記保持位置が前記第2保持位置にある場合とで、前記少なくとも1つの標識の位置及び角度の少なくともいずれかを含む配置を検出する検出手段と、
前記検出手段の検出結果に基づき、前記保持位置が前記第2保持位置である状態で前記刺繍枠に保持された前記縫製対象物上の前記基準模様の前記配置を特定する配置特定手段と、
前記配置特定手段の特定結果と、前記配置決定手段によって決定された前記次の模様の前記相対的な配置とに基づき、前記保持位置が前記第2保持位置である状態で前記刺繍枠に保持された前記縫製対象物に対する前記次の模様の位置及び角度の少なくともいずれかを含む配置を設定する設定手段と
を備えることを特徴とするミシン。
【請求項2】
前記ユーザが指定した基準であって、前記基準模様が縫製される範囲を表す第1図形に含まれる第1線分及び第1点のいずれかを含む基準である第1基準を取得する第1基準取得手段と、
前記ユーザが指定した基準であって、前記次の模様が縫製される範囲を表す第2図形に含まれる第2線分及び第2点を含む基準である第2基準を取得する第2基準取得手段と
をさらに備え、
前記配置決定手段は、前記第1基準取得手段によって取得された前記第1基準と、前記第2基準取得手段によって取得された前記第2基準とに基づき、前記基準模様の前記配置に対する前記次の模様の前記相対的な配置を決定することを特徴とする請求項1に記載のミシン。
【請求項3】
前記基準模様の前記配置に対する前記次の模様の前記配置を特定する、前記ユーザが指示した数値を取得する数値取得手段をさらに備え、
前記配置決定手段は、前記数値取得手段が取得した前記数値に基づき、前記基準模様の前記配置に対する前記次の模様の前記相対的な配置を決定することを特徴とする請求項1又は2に記載のミシン。
【請求項4】
前記配置決定手段によって決定された前記基準模様の前記配置に対する前記次の模様の前記相対的な配置を画面に表示する第1表示手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のミシン。
【請求項5】
前記少なくとも1つの標識の配置予定位置を画面に表示する第2表示手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のミシン。
【請求項6】
前記第1基準取得手段は、前記第1線分と、当該第1線分上の前記第1点とを組み合わせた複数の第1指定キーのうち、前記ユーザが指定した第1指定キーに基づき、前記第1基準を取得し、
前記第2基準取得手段は、前記第2線分と、当該第2線分上の前記第2点とを組み合わせた複数の第2指定キーのうち、前記ユーザが指定した第2指定キーに基づき、前記第2基準を取得し、
前記配置決定手段は、前記基準模様の前記配置に対する前記次の模様の前記相対的な配置を、前記第1基準取得手段によって取得された前記第1指定キーによって表される前記第1線分の延伸方向が、前記第2基準取得手段によって取得された前記第2指定キーによって表される前記第2線分と重なり、且つ、前記第1指定キーによって表される前記第1点が、前記第2指定キーによって表される前記第2点と重なる配置とすることを特徴とする請求項2に記載のミシン。
【請求項7】
下端に縫針が装着される針棒を上下動させる縫製手段と、
前記移動手段と、前記縫製手段とを制御して、前記保持位置が前記第1保持位置である状態で前記刺繍枠に保持された前記縫製対象物に、前記基準模様を縫製させる第1縫製制御手段と、
前記移動手段と、前記縫製手段とを制御して、前記設定手段によって設定された前記次の模様の前記配置に従って、前記保持位置が前記第2保持位置である状態で前記刺繍枠に保持された前記縫製対象物に、前記次の模様を縫製させる第2縫製制御手段と
をさらに備えたことを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のミシン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図9】
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【図12】
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【図16】
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【図17】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2012−147985(P2012−147985A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−9709(P2011−9709)
【出願日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】