説明

メチオニナーゼ阻害剤及びそれを含有する組成物並びに飲食品

【課題】 細菌由来のメチオニナーゼを阻害することにより悪臭物質メチルメルカプタンの産生を抑制するメチオニナーゼ阻害剤及びそれを含有する組成物並びに飲食品の提供。
【解決手段】ヤブコウジ科ツルマンリョウ属植物より得られる抽出物、好ましくはタイミンタチバナの抽出物を有効成分とするメチオニナーゼ阻害剤及び組成物並びに飲食品。また、ミルシノン酸A、ミルシノン酸B、ミルシノン酸C、ミルシノン酸E及びミルシノン酸Fの群から選択される1種または2種以上を有効成分とするメチオニナーゼ阻害剤及び組成物並びに飲食品、好ましくは、ミルシノン酸A、ミルシノン酸B、ミルシノン酸C、ミルシノン酸E及びミルシノン酸Fがヤブコウジ科ツルマンリョウ属植物、好ましくは、タイミンタチバナより得られるメチオニナーゼ阻害剤及び組成物並びに飲食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、悪臭の原因物質であるメチルメルカプタンの産生に関与するメチオニナーゼ阻害剤及びそれを含有する組成物並びに飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
口腔より出される悪臭の主な成分は揮発性硫黄化合物であり、特にメチルメルカプタンは、口臭強度と高い相関を持つことが知られている。メチルメルカプタンは、食物残渣・口腔内の剥離上皮細胞・唾液タンパク質などが、口腔内細菌により代謝・分解されることにより発生する。メチルメルカプタンをはじめとする揮発性硫黄化合物は、口腔内でのタンパク質合成の抑制、コラーゲン合成の抑制、内皮細胞の成長と分裂の阻害及び口腔内粘膜の透過性の亢進などの悪影響を及ぼすことで知られている。そのためメチルメルカプタンの抑制は、口臭の抑制だけにとどまらず、歯周病の予防やヒトの体内環境の維持において重要な課題である。
【0003】
メチルメルカプタンは、口腔内のタンパク質分解産物であるL−メチオニンを基質として、口腔内細菌の酵素メチオニナーゼ(L-メチオニン-γ-リア−ゼ)によって産生される。ヒトの口腔内には多種の細菌が存在するが、なかでもフゾバクテリウム・ヌクレイタム(Fusobacterium nucleatum)やポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)はメチオニナーゼ活性の高い細菌であり、これらのメチオニナーゼ活性を抑制することで、悪臭物質メチルメルカプタンのほか、アンモニア及びケト酪酸の発生を抑制することが可能である。またメチルメルカプタンは腸内細菌からも発生し、生ごみ及び便臭の原因としても知られているため、メチオニナーゼ阻害によってごみの悪臭や便臭の消臭効果も期待できる。
【0004】
口臭を抑制する手段としては、口臭を産生する口腔内細菌を殺菌する方法、産生した臭気と反応して臭いのない物質に変える方法、香料で臭気をマスキングする方法などがある。しかし、殺菌剤は口腔内の菌叢のバランスを崩して別の悪影響を及ぼすことが懸念され、臭気との反応やマスキングによる消臭は、臭いの発生そのものは抑制しておらず効果が持続しない。一方、本発明品のメチオニナーゼ阻害剤は、安全で、メチルメルカプタンそのものの発生を抑制するものであり、高い持続性を示す。
【0005】
現在まで、メチオニナーゼの阻害剤としてトマト抽出物及びジンジャー抽出物など(例えば、特許文献1、2参照。)、及びアイスランドゴケ抽出物、アルカネット抽出物及び緑茶抽出物など(例えば、特許文献3参照。)天然物由来のものが報告されており、これらが口腔内細菌のポルフィロモナス・ジンジバリス及びフゾバクテリウム・ヌクレイタムのメチルメルカプタン産生を抑制することが開示されている。また、キク科のキク属、チョウセンアザミ属及びマンジュギク属植物(例えば、特許文献4参照。)、ミカン科サンショウ属(例えば、特許文献5参照。)及び植物精油成分(例えば、非特許文献1参照。)が口腔内細菌のメチルメルカプタン産生抑制効果を示すこと、及び特定の香料成分(例えば、特許文献6、7参照。)及びケト酸とその塩類(例えば、特許文献8参照。)が口腔内細菌のメチルメルカプタン産生を抑制することが報告されている。しかしながらこれらの効果は、持続性などにおいて必ずしも満足のいくものではなかった。
【0006】
一方、ミルシノン酸A、ミルシノン酸B、ミルシノン酸C、ミルシノン酸E及びミルシノン酸Fはヤブコウジ科ツルマンリョウ属植物タイミンタチバナ(Myrsine seguinii及びRapanaea neriifolia)から同定された皮膚炎症抑制物質である。(例えば、非特許文献2、3、4参照。)
さらに、ミルシノン酸AはDNAポリメラーゼの阻害によって皮膚炎症を抑制するが、消臭効果については明らかにされていない。ミルシノン酸A、B及びCのメチルエステル体は同属植物Rapanea unbellataから同定されているが、その生理活性は明らかにされていない。(例えば、非特許文献5、6参照。)
【0007】
【特許文献1】特開2002−3353号公報
【特許文献2】特開2003−160459号公報
【特許文献3】特開2005−162697号公報
【特許文献4】特開2002−114660号公報
【特許文献5】特開2003−26527号公報
【特許文献6】特開2001−348308号公報
【特許文献7】特開2002−3369号公報
【特許文献8】特開平07−138139号公報
【非特許文献1】常田文彦,「臭気の研究」,2000年,第31巻,第2号,p.91−96
【非特許文献2】バイオサイエンス バイオテクノロジー バイオケミカル(Biosci.Biotechnol.Biochem.),63(9),1650−1653,1999
【非特許文献3】バイオサイエンス バイオテクノロジー バイオケミカル(Biosci.Biotechnol.Biochem.),66(3),655−659,2002
【非特許文献4】バイオサイエンス バイオテクノロジー バイオケミカル(Biosci.Biotechnol.Biochem.),67(9),2038−2041,2003
【非特許文献5】バイオケミカ バイオフィジカ アクタ(Biochimica et Biophysica Acta) 2000 Jun 1;1475(1):1−4
【非特許文献6】ファイトケミストリー(Phytochemistry)1991;30(6):2019−2023
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、人体に影響がなく安全性の高い植物抽出物、植物抽出物由来ミルシノン酸を有効成分とし、細菌由来のメチオニナーゼを阻害することにより悪臭物質メチルメルカプタンの産生を抑制するメチオニナーゼ阻害剤及びそれを含有する組成物並びに飲食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために、古来より利用されている安全性が高い生薬及びハーブ等の天然物抽出物に注目し、高いメチオニナーゼ活性を有する口臭原因菌であるフゾバクテリウム・ヌクレイタム由来の菌破砕液及び生菌懸濁液を用いてその阻害試験を実施した結果、ヤブコウジ科ツルマンリョウ属植物より得られる抽出物がメチオニナーゼ阻害活性を有すること、さらにその有効成分がミルシノン酸であることを見出し、本発明品を完成させた。
【0010】
即ち、本発明は、ヤブコウジ科ツルマンリョウ属植物より得られる抽出物、好ましくはヤブコウジ科ツルマンリョウ属植物タイミンタチバナより抽出物を有効成分とすることを特徴とするメチオニナーゼ阻害剤及び組成物並びに飲食品、ミルシノン酸A、ミルシノン酸B、ミルシノン酸C、ミルシノン酸E及びミルシノン酸Fの群から選択される1種または2種以上を有効成分とすることを特徴とするメチオニナーゼ阻害剤及び組成物並びに飲食品、好ましくは、ミルシノン酸A、ミルシノン酸B、ミルシノン酸C、ミルシノン酸E及びミルシノン酸Fがヤブコウジ科ツルマンリョウ属植物、好ましくは、ヤブコウジ科ツルマンリョウ属植物タイミンタチバナより得られることを特徴とするメチオニナーゼ阻害剤及び組成物並びに飲食品である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のメチオニナーゼ阻害剤は、メチルメルカプタン、アンモニア及びケト酪酸の産生を抑制する作用を有する。従って、これらを飲食品に添加して経口的に摂取したり、口中清涼剤、歯磨き粉等の口腔組成物として使用することにより、口臭の減少、便臭の減少、口腔内及び体内環境の改善が可能である。また、生ごみなど生活環境の悪臭抑制剤としても使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明のメチオニナーゼ阻害剤、それを有効成分とする組成物及び飲食品、それらの製造方法、並びにそれらの効果について述べるが、本発明はこれらによって制限されるものではない。
【0013】
本発明品で使用するミルシノン酸A、ミルシノン酸B、ミルシノン酸C、ミルシノン酸E及びミルシノン酸Fは合成法でも得ることができるが、ヤブコウジ科ツルマンリョウ属植物の全体、葉、花、枝、根、実等の部位の抽出物から得るのが好適である。上記ミルシノン酸を含有しているヤブコウジ科ツルマンリョウ属植物としては、例えば日本の中−南部及び熱帯地域に生育する低木であるタイミンタチバナ(大明橘)が挙げられる。タイミンタチバナ(大明橘)はヒチノキ及びソゲキ(削げ木)とも呼ばれ、学名はMyrsine seguinii及びRapanaea neriifoliaである。タイミンタチバナの実は古くより食べられているものであり、その安全性については全く問題ない。特に好適な抽出部位としては、原料植物の生産量が多く、抽出率の高い葉と実を挙げることができる。
【0014】
ミルシノン酸は非常に強い阻害活性を有しており、これらの中でも、特に好適なものとして、メチオニナーゼ阻害活性が強く、抽出物中の含有率が高いミルシノン酸Bを挙げることができる。
【0015】
本発明における植物抽出物を得るには、従来公知の抽出方法によって調製することができ特に限定はしないが、一般的には最初に上記植物を適当な手段で粉砕する。次に、水、メタノール、エタノール、n−プロパノール並びにn−ブタノール等の低級アルコール、エーテル、クロロホルム、酢酸エチル、アセトン、グリセリン、プロピレングリコール等の有機溶剤の1種または2種以上の混合溶媒を加えて、従来行なわれている抽出方法によって抽出する。しかし、本発明品は、医薬品、口腔内組成物として、また飲食物として用いるものであることを考慮すると、抽出溶媒としては安全性の面から水とエタノールとの組み合わせを用いるのが望ましい。抽出条件としては、高温、室温、低温のいずれかの温度で抽出することができるが、50〜80℃で1〜5時間程度が好ましい。
【0016】
このようにして得られた抽出物は、濾過し、減圧下において濃縮または凍結乾燥したものを使用することもできる。また、これらの抽出物を吸着クロマトグラフィー、分配クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィーのような公知の分離精製手段を用いて分離精製することにより、ミルシノン酸を得ることができる。
具体的には、例えば前記抽出物を液−液抽出し、酢酸エチル/ヘキサン混合溶媒でシリカゲルカラムクロマトグラフィーに供し、さらに0.1%酢酸を添加したメタノール/水(85%)混合溶媒でオクタデシルシリルカラムロマトグラフィーに供し、溶出・分画・濃縮・乾固することにより純度の高いミルシノン酸が得られる。
【0017】
本発明のメチオニナーゼ阻害剤は、上記方法によって調製したミルシノン酸及びヤブコウジ科ツルマンリョウ属植物抽出物、例えば、タイミンタチバナ抽出物を有効成分として使用することにより調製することができる。必要により適当な液体単体に溶解するか或いは分散させ、または適当な粉末単体と混合するか或いはこれに吸着させ、場合によっては、さらにこれに乳化剤、安定剤、分散剤等を添加して、錠剤、散剤、乳剤、水和剤等の製剤として使用してもよい。この場合の添加量としては、剤に対して乾燥抽出物を0.001〜50重量%、好ましくは0.01〜25重量%の割合になるように添加するのが好適である。
【0018】
また本発明のメチオニナーゼ阻害剤は、香り、呈味性に優れ、安全性が高いことから、例えば、練り歯磨、含嗽剤、消臭スプレー等の口腔用組成物、チューインガム、キャンディ、錠菓、グミゼリー、チョコレート、ビスケット等の菓子、アイスクリーム、シャーベット、氷菓等の冷菓、飲料、スープ並びにジャム等の飲食品に配合し、日常的に利用することが可能である。
添加量としては、飲食品または組成物に対して乾燥抽出物を約0.001重量%以上、好ましくは約0.01重量%以上添加する。さらに飲食品においては、特に嗜好性の面を考慮すると約0.001〜5重量%、好ましくは約0.01〜1重量%の割合になるように添加するのが好適である。
【0019】
以下、試験例を挙げて本発明品を更に詳細に説明するが、それらによって本発明品の範囲を制限するものではない。
【0020】
<試験例1>
本試験は、ミルシノン酸及びタイミンタチバナ抽出物並びに比較する各種植物抽出物を調製するために行なった。
【0021】
1) 供試試料
タイミンタチバナ及び、比較としてアイスランドモス全草乾燥粉末、アルカネット根、グアバ葉及び緑茶を用いた。
【0022】
2) 試験法
以下の如く、各種植物抽出物及びミルシノン酸を調製したが、本発明は、これらの例によって何ら限定されるものではない。
(1)試料調製例1(水抽出物の調製)
タイミンタチバナ葉乾燥粉末5gに水50mlを加え、70℃で2時間抽出する。得られた抽出液を濾別し、凍結乾燥することにより抽出物を0.75g得た。
同様にして、タイミンタチバナ枝及び実について、水を用いて抽出し、抽出液を濃縮または凍結乾燥することにより抽出物を調製した。抽出物の収率を表1に示した。
(2)試料調製例2(25%エタノール抽出物の調製)
タイミンタチバナ枝乾燥粉末5gに25%エタノール50mlを加え、70℃で2時間抽出する。得られた抽出液を濾別し、溶媒を除去した後、凍結乾燥することにより抽出物を0.80g得た。
同様にして、タイミンタチバナ葉及び実について、25%エタノールを用いて抽出し、抽出液を濃縮または凍結乾燥することにより抽出物を調製した。抽出物の収率を表1に示した。
(3)試料調製例3(50%エタノール抽出物の調製)
タイミンタチバナ実乾燥粉末5gに50%エタノール50mlを加え、70℃で2時間抽出する。得られた抽出液を濾別し、溶媒を除去した後、凍結乾燥することにより抽出物を0.80g得た。
同様にして、タイミンタチバナ葉及び枝について、50%エタノールを用いて抽出し、抽出液を濃縮または凍結乾燥することにより抽出物を調製した。抽出物の収率を表1に示した。
(4)試料調製例4(75%エタノール抽出物の調製)
タイミンタチバナ葉乾燥粉末5gに75%エタノール50mlを加え、70℃で2時間抽出する。得られた抽出液を濾別し、溶媒を除去した後、凍結乾燥することにより抽出物を0.80g得た。
同様にして、タイミンタチバナ枝及び実について、75%エタノールを用いて抽出し、抽出液を濃縮または凍結乾燥することにより抽出物を調製した。抽出物の収率を表1に示した。
(5)試料調製例5(100%エタノール抽出物の調製)
タイミンタチバナ葉乾燥粉末5gに100%エタノール50mlを加え、70℃で2時間抽出する。得られた抽出液を濾別し、凍結乾燥することにより抽出物を0.45g得た。
同様にして、タイミンタチバナ枝及び実について、100%エタノールを用いて抽出し、抽出液を濃縮または凍結乾燥することにより抽出物を調製した。抽出物の収率を表1に示した。
(6)試料調製例6(アセトン抽出物の調製)
タイミンタチバナ実乾燥粉末5gにアセトン50mlを加え、70℃で2時間抽出する。得られた抽出液を濾別し、溶媒を除去した後、凍結乾燥することにより抽出物を0.40g得た。
同様にして、タイミンタチバナ葉及び枝について、アセトンを用いて抽出し、抽出液を濃縮または凍結乾燥することにより抽出物を調製した。抽出物の収率を表1に示した。
(7)試料調製例7(ミルシノン酸の調製)
タイミンタチバナの葉の100%エタノール抽出物の1%水溶液を同体積のヘキサンにて3回溶媒分画し、溶媒を留去してヘキサン画分を得た(収率約20%)。ヘキサン画分を、酢酸エチル/ヘキサン混合溶媒(10−20%)を用い、シリカゲルカラムクロマトグラフィーに供して非極性成分約20%を分離し、ミルシノン酸を含む画分(収率約40%)を得た。これを0.1%酢酸を添加したメタノール/水(85%)にてオクタデシルシリルカラムクロマトグラフィーに供して溶出・分離し、ミルシノン酸B400mg及びミルシノン酸C100mgを得た。
同様に、ヘキサン画分をシリカゲル及びオクタデシルシリルカラム分画して、ミルシノン酸A、E及びFをそれぞれ60mg、3mg及び1.5mg得た。
(8)試料調製例8(ミルシノン酸の合成)
ミルシノン酸Eは、テルペン及び精油化学に関する討論会講演要旨集 vol.46th 396−398(2002)に従い、2−ヨードフェノールのゲラニル化及びカルボニル化により得られたメチルエステル体の加水分解により得た。
(9)比較試料調製例
アイスランドモス全草乾燥粉末5gに50%エタノール50mlを加え、70℃で2時間抽出する。得られた抽出液を濾別し、溶媒を除去した後、凍結乾燥することにより抽出物を1.10g得た。
同様にして、アルカネット根、グアバ葉及び緑茶について、50%エタノールを用いて抽出し、抽出液を濃縮又は凍結乾燥することにより抽出物を調製した。
【0023】
3) 試験結果
抽出物の収率を表1に示した。
【0024】
【表1】

【0025】
<試験例2>
本試験は、ミルシノン酸及びタイミンタチバナ抽出物のメチオニナーゼ阻害効果を調べるために行った。
【0026】
1) 供試試料
試験例1で調製したタイミンタチバナ抽出物及びミルシノン酸、比較としてアイスランドモス全草乾燥粉末、アルカネット根、グアバ葉及び緑茶の抽出物を用いた。
【0027】
2) 試験法(無細胞系メチオニナーゼ阻害試験)
メチオニナーゼの反応により、メチオニンからメチルメルカプタン、アンモニア及び2−ケト酪酸が生成する。この反応生成物の中で比較的安定な物質である2−ケト酪酸の生成量を酵素反応の指標とした。
具体的な方法としては、嫌気条件で2日間培養したフゾバクテリウム・ヌクレイタムJCM8532を超音波処理により破壊することで得た酵素(終濃度:300μg protein/ml)、メチオニン(終濃度:300mM)、ピリドキサールリン酸(終濃度:50μg protein/ml)及び素材(終濃度:200μg/ml)を、リン酸緩衝液(50mM、pH 7.6)中で混合した。37℃で1時間反応させた後、1mlの反応液を半量の過塩素酸水溶液(6%)と混合し、タンパク質を変性させた後、3000×g、10分間遠心して沈殿物を取り除き試料液とした。反応の副生成物である2−ケト酪酸を定量するために、試料液0.4mlに0.05% 3−メチル−2−ベンゾチアゾリノンヒドラゾン(MBTH)溶液0.4mlと1M酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)0.8mlを混合し、50℃で30分間反応させた。反応後、反応液が室温にまで低下したことを確認し、吸光度(335nm)を測定した。
ただし、評価素材の色が2−ケト酪酸の定量反応に多少の影響を与えることから、サンプルブランク(上記反応でメチオニンだけを除いた反応液)を差し引くことで吸光度の補正を行なった。
2−ケト酪酸量は予め作成した検量線により求め、下記計算式により阻害率を算出した。
阻害率(%)=((C−S)/C)×100
式中、Cはコントロールの2−ケト酪酸量、Sは試料添加時の2−ケト酪酸量である。
【0028】
3) 試験結果
メチオニナーゼに対する阻害効果の測定結果を表2に示した。口腔内細菌(フゾバクテリウム・ヌクレイタム)由来メチオニナーゼ阻害効果が知られているアイスランドモス全草抽出物、アルカネット根抽出物、グアバ葉抽出物、緑茶抽出物(例えば、特許文献5参照。)を対照として評価したところ、阻害率はアイスランドモス全草抽出物で29%、アルカネット根抽出物で28%、グアバ葉抽出物で22%、緑茶抽出物で26%であった。本発明品であるタイミンタチバナの葉、枝及び実の抽出物はいずれもメチオニナーゼに対して高い阻害活性を示した。以上の試験結果により、本発明品であるタイミンタチバナの葉、枝及び実より得られた抽出物は、強いメチオニナーゼ阻害活性を持つと分かった。
表3に示したように、ミルシノン酸A、B、C、E及びFは5μg/ml以下の濃度でメチオニナーゼを50%阻害した。したがって分離したミルシノン酸は非常に強い阻害活性を有しており、タイミンタチバナ抽出物に含まれる有効成分であると明らかになった。
【0029】
【表2】

【0030】
【表3】

【0031】
<試験例3>
本試験は、ミルシノン酸及びタイミンタチバナ抽出物の生菌のメチオニナーゼ阻害効果を調べるために行った。
【0032】
1) 供試試料
試験例1で調製したタイミンタチバナ抽出物及び、比較としてアイスランドモス全草乾燥粉末、アルカネット根、グアバ葉及び緑茶の抽出物を用いた。
【0033】
2) 試験法(生菌のメチオニナーゼ阻害試験)
よりヒトの口腔内に近い条件で消臭効果を評価するために、嫌気条件で約16時間培養したフゾバクテリウム・ヌクレイタムJCM8532を遠心分離し、生理食塩水緩衝液(40mM リン酸緩衝液−50mM 塩化ナトリウム、pH7.7)中に懸濁することで得た生菌液(反応系の10%)、メチオニン(終濃度:1mM)及び素材(終濃度:1〜200μg/ml)を37℃の生理食塩水緩衝液中で90分反応させ、ヘッドスペースガス0.5mlをガスクロマトグラフィー分析した。
【0034】
3) 試験結果
結果を表4に示す。緑茶抽出物を対照として評価したところ、阻害率は66%であった。本発明品であるタイミンタチバナの葉の抽出物はより低濃度でメチオニナーゼに対して高い阻害活性を示した。
【0035】
【表4】

【0036】
以下、実施例を挙げて本発明品を更に詳細に説明するが、それらによって本発明品の範囲を制限するものではない。
【0037】
試料調製例1乃至7で示した方法により調製した本発明品を用いて、以下の処方により、練り歯磨、含嗽剤、消臭スプレー、口臭用スプレー、錠剤、粉末剤等の組成物、チューインガム、キャンディ、錠菓、グミゼリー、チョコレート、ビスケット等の菓子、アイスクリーム、シャーベット、氷菓等の冷菓、飲料、スープ及びジャム等の飲食品を製造した。
【実施例1】
【0038】
練り歯磨の処方
炭酸カルシウム 50.0重量%
グリセリン 20.0
カルボオキシメチルセルロース 2.0
ラウリル硫酸ナトリウム 2.0
香料 1.0
サッカリン 0.1
試料調製例1のタイミンタチバナ実水抽出物 1.0
クロルヘキシジン 0.01
水 残
100.0
【実施例2】
【0039】
含嗽剤の処方
エタノール 2.0 重量%
香料 1.0
サッカリン 0.05
塩酸クロルヘキシジン 0.01
試料調製例2のタイミンタチバナ枝25%エタノール抽出物 0.5
水 残
100.0
【実施例3】
【0040】
消臭スプレーの処方
エタノール 49.5重量%
試料調製例3のタイミンタチバナ実50%エタノール抽出物 0.5
水 50.0
100.0
これを噴射ガス(窒素ガス)とともにエアゾール容器に充填し、消臭スプレーを調製した。
【実施例4】
【0041】
口臭用スプレーの処方
エタノール 10.0重量%
グリセリン 5.0
試料調製例3のタイミンタチバナ葉50%エタノール抽出物 1.0
香料 0.05
着色料 0.001
水 残
100.0
【実施例5】
【0042】
トローチ剤の処方
ブドウ糖 72.3重量%
乳糖 19.0
アラビアゴム 6.0
香料 1.0
モノフルオロリン酸ナトリウム 0.7
試料調製例4のタイミンタチバナ実75%エタノール抽出物 1.0
100.0
【実施例6】
【0043】
チューインガムの処方
ガムベース 20.0重量%
砂糖 55.0
グルコース 15.0
水飴 9.0
香料 0.5
試料調製例5のタイミンタチバナ葉100%エタノール抽出物 0.5
100.0
【実施例7】
【0044】
キャンディの処方
砂糖 50.0重量%
水飴 34.0
香料 0.5
試料調製例6のタイミンタチバナ実アセトン抽出物 0.5
水 残
100.0
【実施例8】
【0045】
錠菓の処方
砂糖 76.4重量%
グルコース 19.0
ショ糖脂肪酸エステル 0.2
香料 0.2
試料調製例1のタイミンタチバナ枝水抽出物 0.1
水 残
100.0
【実施例9】
【0046】
グミゼリーの処方
ゼラチン 60.0重量%
水飴 23.0
砂糖 8.5
植物油脂 4.5
マンニトール 2.95
レモン果汁 1.0
試料調製例2のタイミンタチバナ葉25%エタノール抽出物 0.05
100.0
【実施例10】
【0047】
チョコレートの処方
粉糖 39.8重量%
カカオビター 20.0
全脂粉乳 20.0
カカオバター 17.0
マンニトール 2.0
試料調製例3のタイミンタチバナ実50%エタノール抽出物 1.0
香料 0.2
100.0
【実施例11】
【0048】
ビスケットの処方
薄力粉1級 25.59重量%
中力粉1級 22.22
精白糖 4.8
食塩 0.73
ブドウ糖 0.78
パームショートニング 11.78
炭酸水素ナトリウム 0.17
重亜硫酸ナトリウム 0.16
米粉 1.45
全脂粉乳 1.16
代用粉乳 0.29
試料調製例4のタイミンタチバナ枝75%エタノール抽出物 0.5
水 残
100.0
【実施例12】
【0049】
アイスクリームの処方
脱脂粉乳 50.0重量%
生クリーム 25.0
砂糖 10.0
卵黄 10.0
試料調製例7のミルシノン酸B 0.1
香料 0.1
水 残
100.0
【実施例13】
【0050】
シャーベットの処方
オレンジ果汁 25.0重量%
砂糖 25.0
卵白 10.0
試料調製例7のミルシノン酸A 0.2
水 残
100.0
【実施例14】
【0051】
飲料の処方
オレンジ果汁 30.0重量%
異性化糖 15.24
クエン酸 0.1
ビタミンC 0.04
香料 0.1
試料調製例7のミルシノン酸C 0.1
水 残
100.0
【実施例15】
【0052】
スープの処方
牛乳 60.00重量%
たまねぎ 20.00
にんじん 10.00
野菜ブイヨン 1.00
バター 0.10
コショウ 0.05
塩 0.05
試料調製例7のミルシノン酸E 0.01
水 残
100.0
【実施例16】
【0053】
ジャムの処方
果肉 4.0重量%
砂糖 65.0
清澄果汁 25.0
クエン酸 0.5
試料調製例7のミルシノン酸F 0.02
水 残
100.0
【実施例17】
【0054】
練り歯磨の処方
炭酸カルシウム 50.0重量%
グリセリン 20.0
カルボオキシメチルセルロース 2.0
ラウリル硫酸ナトリウム 2.0
香料 1.0
サッカリン 0.1
試料調製例7のミルシノン酸B 0.1
試料調製例7のミルシノン酸C 0.01
クロルヘキシジン 0.01
水 残
100.0
【実施例18】
【0055】
消臭スプレーの処方
エタノール 49.5重量%
試料調製例7のミルシノン酸B 0.05
水 50.45
100.0
これを噴射ガス(窒素ガス)とともにエアゾール容器に充填し、消臭スプレーを調製した。
【実施例19】
【0056】
口臭用スプレーの処方
エタノール 10.0重量%
グリセリン 5.0
試料調製例7のミルシノン酸B 0.1
試料調製例7のミルシノン酸E 0.01
香料 0.05
着色料 0.001
水 残
100.0
【実施例20】
【0057】
チューインガムの処方
ガムベース 20.0重量%
砂糖 55.0
グルコース 15.0
水飴 9.0
香料 0.5
試料調製例7のミルシノン酸A 0.01
試料調製例7のミルシノン酸B 0.1
100.0
【実施例21】
【0058】
キャンディの処方
砂糖 50.0重量%
水飴 34.0
香料 0.5
試料調製例7のミルシノン酸B 0.05
試料調製例7のミルシノン酸F 0.005
水 残
100.0
【実施例22】
【0059】
錠菓の処方
砂糖 76.4重量%
グルコース 19.0
ショ糖脂肪酸エステル 0.2
香料 0.2
試料調製例7のミルシノン酸A 0.01
試料調製例7のミルシノン酸E 0.001
水 残
100.0
【実施例23】
【0060】
錠剤の処方
試料調製例7のミルシノン酸B 0.5重量%
ラクトース 70.0
結晶性セルロース 15.0
ステアリン酸マグネシウム 5.0
100.0
前記成分を細かく粉砕混合した後、直打法(directtableting method)によって錠剤を製造した。各錠剤の総量は100mgであり、そのうちの有効成分は10mgである。
【実施例24】
【0061】
粉末剤の処方
試料調製例7のミルシノン酸C 0.05重量%
トウモロコシ澱粉 59.05
カルボキシセルロース 40.0
100.0
前記成分を細かく粉砕混合して粉末を製造した。硬質カプセルに粉末100mgを入れてカプセル剤を製造した。
【実施例25】
【0062】
チューインガムの処方
ガムベース 19.4重量%
砂糖 55.0
グルコース 15.0
水飴 9.0
香料 0.5
試料調製例4のタイミンタチバナ葉75%エタノール抽出物 1.0
試料調製例7のミルシノン酸B 0.1
100.0
【実施例26】
【0063】
口臭用スプレーの処方
エタノール 10.0重量%
グリセリン 5.0
試料調製例1のタイミンタチバナ葉水抽出物 1.1
試料調製例7のミルシノン酸B 0.01
試料調製例7のミルシノン酸C 0.01
香料 0.05
着色料 0.001
水 残
100.0
【実施例27】
【0064】
キャンディの処方
砂糖 50.0重量%
水飴 34.0
香料 0.5
試料調製例9のミルシノン酸E 0.05
水 残
100.0

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヤブコウジ科ツルマンリョウ属植物の抽出物を有効成分とすることを特徴とするメチオニナーゼ阻害剤。
【請求項2】
ヤブコウジ科ツルマンリョウ属植物がタイミンタチバナ(Myrsine seguinii)であることを特徴とする請求項1記載のメチオニナーゼ阻害剤。
【請求項3】
下記式(I)、(II)、(III)、(IV)、(V)のミルシノン酸A、ミルシノン酸B、ミルシノン酸C、ミルシノン酸E及びミルシノン酸Fの群から選択される1種または2種以上を有効成分とすることを特徴とするメチオニナーゼ阻害剤。

(I)ミルシノン酸A
【化1】


(II)ミルシノン酸B
【化2】


(III)ミルシノン酸C
【化3】


(IV)ミルシノン酸E
【化4】


(V)ミルシノン酸F
【化5】

【請求項4】
ミルシノン酸A、ミルシノン酸B、ミルシノン酸C、ミルシノン酸E及びミルシノン酸Fが、ヤブコウジ科ツルマンリョウ属植物より抽出されることを特徴とする請求項3に記載のメチオニナーゼ阻害剤。
【請求項5】
ヤブコウジ科ツルマンリョウ属植物がタイミンタチバナ(Myrsine seguinii)であることを特徴とする請求項4に記載のメチオニナーゼ阻害剤。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れかに記載のメチオニナーゼ阻害剤を有効成分とすることを特徴とする組成物。
【請求項7】
請求項1乃至5の何れかに記載のメチオニナーゼ阻害剤を有効成分とすることを特徴とする飲食品。













【公開番号】特開2008−31062(P2008−31062A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−204494(P2006−204494)
【出願日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(307013857)株式会社ロッテ (101)
【Fターム(参考)】