説明

メチルペンテン系樹脂を含有する液状組成物

【課題】 ポリメチルペンテン系樹脂を高濃度で安定に溶解できる液状組成物及びそれを用いて得られたオレフィン系樹脂シートを提供する。
【解決手段】 本発明の液状組成物は、メチルペンテン単位を含有するオレフィン系樹脂(A)が、ハロゲン原子を含んでいてもよい炭化水素類(B)、及びエーテル類(C)を含む混合溶剤に溶解した液状組成物であって、炭化水素類(B)とエーテル類(C)との割合(体積比)が、炭化水素類(B)/エーテル類(C)=33/67〜80/20である液状組成物を調製する。炭化水素類(B)は、メチル基を有していてもよいC5-7シクロアルカンであり、エーテル類(C)が1個のエーテル結合を有する3〜7員環状エーテルであってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メチルペンテン単位を含むオレフィン系樹脂を溶媒に溶解させた液状組成物及びそれを用いて得られたオレフィン系樹脂シートとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリメチルペンテンは、結晶性樹脂であるにも拘わらず、高い透明性を有するとともに、極めて高い電気絶縁性や気体透過性を有している。さらに、耐熱性、耐薬品性、低汚染性に優れるとともに、高い離型性も有している。従って、これらの特性を生かして、ポリメチルペンテンは、光学材料や医療材料、工業用剥離フィルムなどの各種用途に使用されている。このようなポリメチルペンテンの成形方法としては、加熱溶融して押出成形する方法や、金型を作製して射出成形する方法、吹き込み成形する方法などが一般的である。
【0003】
例えば、特表2002−540983号公報(特許文献1)には、ポリアミド層で構成されたコア層と、ポリメチルペンテンホモ又はコポリマーで構成された層と、ポリマー接着剤で構成された中間層とで構成された多層フィルムが開示されている。この文献では、前記多層フィルムは、各層を同時に溶融押出してフィルム化されている。しかし、この方法では、ポリメチルペンテンで構成された層の薄肉化が困難である。
【0004】
一方、ポリメチルペンテンは、高い耐薬品性を有する反面、各種溶媒への溶解性も低く、塗布やコーティングによる成形は困難であるが、ポリメチルペンテンを溶媒に溶解する方法も検討されている。
【0005】
例えば、特開昭58−166018号公報(特許文献2)には、ポリメチルペンテンを有機溶剤中に溶解し、得られた溶液を、可動ローラと連動した微孔質支持体を用いて、ポリメチルペンテン膜を連続的に製造する方法が開示されている。この文献には、ポリメチルペンテンを溶解するための溶媒として、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどのパラフィン系炭化水素、芳香族炭化水素、ハロゲン化炭化水素などが記載されている。この文献では、実施例において、ポリメチルペンテンを、ペンタンや、ヘキサン及び/又はヘプタン中に溶解させている。
【0006】
しかし、これらの溶媒では、ポリメチルペンテンに対する溶解性が低く、ポリメチルペンテンを溶解するには、高い温度で長時間攪拌する必要がある。また、溶液の沸点が低く、塗膜の乾燥が急激に進むため、フィルム表面が白化し、外観が低下する。
【0007】
さらに、特開平3−31755号公報(特許文献3)には、ゲルパーミエーションクロマトグラフィを用いて、ポリメチルペンテンの分子量を測定するために、ポリメチルペンテンを塩素系有機溶媒とフッ素系有機溶媒との混合溶液、又はテトラヒドロフラン(THF)とフッ素系有機溶媒との混合溶液で溶解させる方法が開示されている。この文献には、THFとフッ素系有機溶媒の割合は、THF/フッ素系有機溶媒=9/1〜7/3(混合容量比)であると記載されている。しかし、このような混合溶剤でも、ポリメチルペンテンに対する溶解性は低い。
【特許文献1】特表2002−540983号公報(請求項1及び22)
【特許文献2】特開昭58−166018号公報(請求項1、第5頁左上欄13行〜右上欄6行、実施例)
【特許文献3】特開平3−31755号公報(請求項1、第2頁右上欄9〜14行)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、ポリメチルペンテン系樹脂を高濃度で安定に溶解できる液状組成物及びそれを用いて得られたオレフィン系樹脂シートを提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、ポリメチルペンテン系樹脂であっても、白化させることなく、安定かつ簡便な方法でシート化できる方法を提供することにある。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、厚みの小さいポリメチルペンテン系樹脂シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、炭化水素類とエーテル類とを特定の割合で混合した溶媒を用いると、ポリメチルペンテン系樹脂であっても、容易に安定して溶解できることを見いだし、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明の液状組成物は、メチルペンテン単位を含有するオレフィン系樹脂(A)が、ハロゲン原子を含んでいてもよい炭化水素類(B)、及びエーテル類(C)を含む混合溶剤に溶解した液状組成物であって、炭化水素類(B)とエーテル類(C)との割合(体積比)が、炭化水素類(B)/エーテル類(C)=33/67〜80/20である。前記炭化水素類(B)とエーテル類(C)との割合(体積比)は、例えば、炭化水素類(B)/エーテル類(C)=43/57〜75/25程度であってもよい。このような混合溶剤は、下式で表される沸点bpSが50℃以上であってもよい。
【0013】
bpS=bpB×RB/100+bpC×RC/100
[式中、bpB及びbpCは、それぞれ、炭化水素類(B)及びエーテル類(C)の沸点(℃)を示し、RB及びRCは、それぞれ、炭化水素類(B)及びエーテル類(C)の体積比率(vol%)を示す]。
【0014】
前記液状組成物において、オレフィン系樹脂(A)の割合は、混合溶剤100重量部に対して0.01〜25重量部程度である。オレフィン系樹脂(A)は、メチル−1−ペンテンの単独又は共重合体であってもよい。炭化水素類(B)は、塩素、臭素、ヨウ素などの原子を含んでいてもよい炭化水素、例えば、脂肪族炭化水素や脂環族炭化水素(例えば、メチル基を有していてもよいC5-7シクロアルカンなど)などであってもよい。エーテル類(C)は環状エーテル(例えば、1個のエーテル結合を有する3〜7員環状エーテル)であってもよい。
【0015】
本発明には、前記液状組成物で塗膜を形成して乾燥するオレフィン系樹脂シートの製造方法も含まれる。この方法において、前記液状組成物を、基材の少なくとも一方の面に塗布して、乾燥した後、基材からオレフィン系樹脂シートを剥離してもよい。また、本発明には、この製造方法で得られたオレフィン系樹脂シートも含まれる。
【0016】
本発明には、前記液状組成物を、基材の少なくとも一方の面に塗布して、乾燥する積層体の製造方法も含まれる。また、本発明には、この製造方法で得られた積層体も含まれる。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、炭化水素類とエーテル類とを特定の割合で組み合わせているため、ポリメチルペンテン系樹脂を高濃度で容易に溶媒中に溶解でき、得られた溶液も安定性が高い。また、ポリメチルペンテン系樹脂であっても、白化させることなく、安定かつ簡便な方法でシート化できる。さらに、厚みの小さいポリメチルペンテン系樹脂シートが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の液状組成物は、メチルペンテン単位を含有するオレフィン系樹脂(A)が、ハロゲン原子を含んでいてもよい炭化水素類(B)、及びエーテル類(C)を含む混合溶剤に溶解している。なお、本明細書において、メチルペンテン単位を含有するオレフィン系樹脂は、ポリメチルペンテン系樹脂と称することもある。
【0019】
[(A)ポリメチルペンテン系樹脂]
ポリメチルペンテン系樹脂(A)は、その構成単位として、少なくともメチルペンテン単位を含むオレフィンの単独又は共重合体である。メチルペンテンとしては、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、2−メチル−1−ペンテンなどが挙げられる。これらのメチルペンテンは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのメチルペンテンのうち、4−メチル−1−ペンテンが好ましい。
【0020】
オレフィン系樹脂(A)は、他のオレフィン系モノマーを共重合単位として含んでいてもよい。他のオレフィン系モノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、4−メチル−1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−テトラデセンなどのα−C2-20オレフィンなどが挙げられる。これら他のオレフィン系モノマーは、単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。これら他のオレフィン系モノマーのうち、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセンなどのα−C2-6オレフィン、特に、エチレンやプロピレンなどα−C2-4オレフィンが好ましい。
【0021】
メチルペンテンと他のオレフィン系モノマーとの割合(モル比)は、メチルペンテン/他のオレフィン系モノマー=100/0〜50/50程度の範囲から選択でき、好ましくは100/0〜85/15、さらに好ましくは100/0〜90/10(特に99.9/0.1〜90/10)程度である。
【0022】
オレフィン系樹脂(A)は、オレフィンと共重合性モノマーとの共重合体であってもよい。共重合性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、(メタ)アクリル酸エステル[例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸C1-6アルキルエステル]、不飽和カルボン酸又はその無水物[例えば、(無水)マレイン酸、フマル酸、(無水)シトラコン酸、(無水)イタコン酸など]、ビニルエステル類(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなど)、環状オレフィン類(ノルボルネン、エチリデンノルボルネン、シクロペンテン、シクロペンタジエン、シクロヘキセンなど)、ジエン類(ブタジエン、イソプレン、1,4−ペンタジエンなど)などが例示できる。共重合性モノマーは、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0023】
共重合性モノマーの割合は、メチルペンテン及び他のオレフィン系モノマーの合計100モルに対して、例えば、0〜50モル、好ましくは0〜30モル、さらに好ましくは0〜10モル程度の範囲から選択できる。
【0024】
前記共重合体(オレフィンとの共重合体、共重合性モノマーとの共重合体)には、ランダム共重合体、ブロック共重合体、又はグラフト共重合体が含まれる。特に、これらの共重合性モノマーのうち、不飽和ジカルボン酸又はその無水物については、オレフィン系樹脂骨格にグラフト化して共重合されていてもよい。
【0025】
このようなオレフィン系樹脂(A)としては、例えば、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)などのポリメチルペンテン、メチルペンテンとα−C2-6オレフィンや(メタ)アクリル酸又はそのエステルとの共重合体、無水マレイン酸変性ポリメチルペンテンなどの酸変性ポリメチルペンテンなどが好ましく、特に、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)などのポリメチルペンテン、4−メチル−1−ペンテンとエチレン及び/又はプロピレンとの共重合体が好ましい。ポリ(4−メチル−1−ペンテン)としては、三井化学(株)から、商品「TPX RT18」、「TPX MX002」、「TPX DX310」として入手することができる。
【0026】
ポリメチルペンテン系樹脂は、アタクチック構造であってもよいが、アイソタクチック、シンジオタクチック、メタロセン触媒により生成する高い立体規則性を有していてもよい。これらのうち、簡便性及び経済性の点から、アイソタクチック構造を有するポリメチルペンテン系樹脂が好ましい。
【0027】
[混合溶剤]
前記ポリメチルペンテン系樹脂(A)を溶解するための溶剤は、ハロゲン原子を含んでいてもよい炭化水素類(B)、及びエーテル類(C)を含む混合溶剤である。
【0028】
(B)炭化水素類
炭化水素類(B)としては、例えば、脂肪族炭化水素類(ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ドデカン、テトラデカンなどのC5-16脂肪族炭化水素など)、脂環族炭化水素類(メチルシクロブタン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘプタンなどのアルキル基を有していてもよいC3-10シクロアルカンや、シクロペンテン、メチルシクロペンテンなどのアルキル基を有していてもよいC4-10シクロアルケンなど)、芳香族炭化水素類(ベンゼン、トルエン、キシレンなど)などが挙げられる。また、ハロゲン原子を含む炭化水素類としては、例えば、塩化炭化水素類[塩化C1-6脂肪族炭化水素(塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素などの塩化メタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタンなどの塩化エタンなど)、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどの塩化芳香族炭化水素など]、塩素原子及びフッ素原子を有する炭化水素類(トリクロロトリフルオロエタン、トリクロロジフルオロエタン、ジクロロトリフルオロエタンなど)、臭化炭化水素類(テトラブロモエタンなど)、ヨウ化炭化水素類(四沃化炭素など)などが挙げられる。これらの炭化水素類(B)は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの炭化水素類のうち、塩素、臭素及びヨウ素から選択された少なくとも一種の原子を含んでいてもよい炭化水素、例えば、脂肪族炭化水素類、脂環族炭化水素類、塩化炭化水素類、臭化炭化水素類、ヨウ化炭化水素類などを好ましく使用できるが、シクロペンタンやシクロヘキサンなどのメチル基を有していてもよいC5-7シクロアルカンが特に好ましい。
【0029】
(C)エーテル類
エーテル類(C)としては、例えば、鎖状エーテル(ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテルなどのアルキルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテルなどの不飽和脂肪族基を含むエーテル、アニソール、フェネトール、メトキシトルエンなどの芳香族環を含むエーテルなど)、環状エーテル(プロピレンオキシド、1,2−エポキシブタン、シクロヘキセンオキシド、フラン、2−メチルフラン、テトラヒドロフラン(THF)、テトラヒドロフルフリルアルコール、ジオキソール、ジオキソラン、ピラン、ジヒドロピラン、テトラヒドロピラン、ジオキシン、ジオキセン、ジオキサン、トリオキサンなどのC3-10環状エーテルなど)、アセタール類(アセタール、1,2−ジエトキシエタンメチラールなど)などが挙げられる。これらのエーテル類(C)は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのエーテル類のうち、環状エーテル、特に、1個のエーテル結合を有する環状エーテル(例えば、プロピレンオキシド、シクロヘキセンオキサイド、フラン、2−メチルフラン、THF、テトラヒドロフルフリルアルコール、ピラン、ジヒドロピラン、テトラヒドロピランなどの1個のエーテル結合を有する3〜7員環状エーテル、好ましくはTHFやテトラヒドロピランなどの1個のエーテル結合を有する5〜6員環状エーテルなど)が好ましい。
【0030】
炭化水素類(B)とエーテル類(C)との割合(体積比)は、例えば、15〜25℃程度の室温(例えば、20℃)において、炭化水素類(B)/エーテル類(C)=33/67〜80/20、好ましくは43/57〜75〜25、さらに好ましくは53/47〜75/25(特に53/47〜70/30)程度である。炭化水素類(B)の割合が少なすぎると、ポリメチルペンテン系樹脂(A)の溶解性が低下し、炭化水素類(B)の割合が多すぎると、ポリメチルペンテン系樹脂(A)が溶解しないか、溶剤の揮発性が高くなり、取扱い性が低下する。
【0031】
このような混合溶剤は、下式で表される沸点bpSが50℃以上(例えば、50〜200℃程度)であってもよく、好ましくは55〜150℃、さらに好ましくは60〜130℃(特に65〜120℃)程度である。混合溶剤の沸点が小さすぎると、溶剤の揮発性が高く、取扱い性が低下し、一方、混合溶剤の沸点が高すぎると、溶剤の乾燥が困難となる。
【0032】
bpS=bpB×RB/100+bpC×RC/100
[式中、bpB及びbpCは、それぞれ、炭化水素類(B)及びエーテル類(C)の沸点(℃)を示し、RB及びRCは、それぞれ、炭化水素類(B)及びエーテル類(C)の体積比率(vol%)を示す]。
【0033】
[液状組成物]
本発明の液状組成物において、ポリメチルペンテン系樹脂(A)の割合は、混合溶剤100重量部に対して0.01〜25重量部、好ましくは0.1〜20重量部、さらに好ましくは1〜20重量部(特に3〜15重量部)程度である。本発明では、特定の炭化水素類とエーテル類とを特定の割合で混合しているので、ポリメチルペンテン系樹脂の溶解性が向上する。さらに、溶剤の沸点が高いため、取扱い性にも優れる。
【0034】
本発明の液状組成物は、さらに慣用の添加剤、例えば、架橋又は硬化剤、消泡剤、塗布性改良剤、増粘剤、滑剤、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、耐光安定剤など)、染料、顔料、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、充填剤、ゲル化剤などを含んでいてもよい。
【0035】
本発明の液状組成物は、各種用途に利用でき、後述するシート状成形体又はコーティング材料としての利用の他、エポキシ樹脂などの接着性樹脂と組み合わせた接着材料や、溶液中で他の樹脂やモノマーを合成反応させて変性オレフィン系樹脂を製造することにも利用できる。
【0036】
[オレフィン系樹脂シート及びその製造方法]
本発明のオレフィン系樹脂シートは、前記液状組成物で塗膜を形成して乾燥することにより製造できる。具体的には、本発明のシートは、前記液状組成物を基材に流延又は塗布し、溶媒を蒸発させることにより製造できる。
【0037】
液状組成物は、慣用の流延又は塗布方法、例えば、ロールコーター、エアナイフコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、バーコーター、コンマコーター、グラビアコーター、シルクスクリーンコーター法などにより、基材のうち少なくとも一方の面に流延又は塗布される。また、ドープは、スプレーコーティングやディッピングにより基材の表面に適用してもよい。
【0038】
前記基材としては、紙、塗工紙、不織布、プラスチックフィルム、ガラス、セラミックス、金属などが挙げられる。好ましい基材は、離型紙、少なくともプラスチックフィルムで構成された単層又は複合フィルムである。
【0039】
塗布された液状組成物を乾燥する乾燥工程では、加熱により乾燥してもよいし、自然乾燥させてもよい。加熱する場合の温度は、用いる溶媒の種類に応じて適宜選択でき、通常、溶媒の沸点以下の温度、例えば、50〜120℃、好ましくは60〜100℃程度である。乾燥時間は、例えば、2秒〜30分、好ましくは10秒〜20分、さらに好ましくは30秒〜10分程度である。このようにして、乾燥後、固化したドープを基材から剥離することにより、透明性の高いシートが得られる。
【0040】
このようにして得られたオレフィン系樹脂シートの厚みは、例えば、0.01〜50μm、好ましくは0.1〜30μm、さらに好ましくは0.2〜10μm程度である。シートの厚みが小さすぎると、ピンホールの発生などにより塗布が困難であり、一方、シートの厚みが大きすぎると、オレフィン系樹脂層の収縮により、シートにソリが発生し易い。本発明では、ポリメチルペンテン系樹脂を溶剤に溶解させて塗布するため、厚みの薄いシートを安定かつ簡便に製造できる。
【0041】
なお、本発明のオレフィン系樹脂シートは、積層体として利用することもできる。例えば、前記の製造方法において、基材からオレフィン系樹脂層をシートとして剥離することなく、基材との積層体としてもよい。基材は、用途に応じて選択でき、プラスチック[例えば、酢酸セルロースなどのセルロース誘導体、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリスチレン、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリアルキレンアリレートなど)、ポリアミド、ポリカーボネートなど]、紙類、金属などで構成されたシートを用いることができる。
【0042】
さらに、シート状の基材の他に、立体形状の成形品(電子機器などのハウジング、パイプなどの配管、各種容器など)や、繊維(炭素繊維やガラス繊維など)などの基材に適用してもよい。本発明では、液状組成物を塗布するので、各種の複雑な立体形状を有する成形品への適用が可能である。また、織布や不織布などの繊維に液状組成物を塗布して乾燥することにより、ポリメチルペンテン系樹脂を含浸した繊維のプリプレグが製造できる。
【0043】
なお、これらの中でも、連続処理、成形、粗化処理などが容易である点からは、シート又はフィルム状基材に適用するのが有利である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の液状組成物は、工業材料(工業用離型フィルムなど)、医療用器具(注射器、血液検査用セル、集尿ビンなど)、理科実験器具(光学用セル、光学用機器、ビーカー、フラスコなど)、食品又は化粧品用容器(電子レンジ用食器、調理器具カバー、飲料用タンク、化粧品容器用キャップなど)、電気・電子機器(カメラ・ビデオなどの光学部品、コネクター、フィルム状コンデンサ、絶縁部材(絶縁層)など)などの成形用材料として利用できる。
【実施例】
【0045】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例及び比較例において、溶解の状態や膜の特性は、目視で観察した。
【0046】
実施例1
シクロペンタン(沸点49.5℃、比重0.75)及びテトラヒドロフラン(THF)(沸点66℃、比重0.88)の混合溶媒(シクロペンタン/THF=54/46(20℃での体積比))100重量部中に、ポリメチルペンテン(PMP)(三井化学(株)製「TPX MX002」)10重量部を添加し、スターラーで攪拌したところ、5時間で均一に溶解した。乾燥後塗膜の厚みが5μmになるように、この溶解液をメイヤーバーにて、厚み100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(帝人デュポンフィルム(株)製「テトロンS」)の表面に塗布し、80℃のオーブン中で3分間乾燥したところ、透明で均一な膜が得られた。結果を表1に示す。
【0047】
実施例2
シクロヘキサン(沸点80.7℃、比重0.78)及びTHFの混合溶媒(シクロヘキサン/THF=53/47(20℃での体積比))100重量部中に、PMP10重量部を添加し、スターラーで攪拌したところ、5時間で均一に溶解した。乾燥後塗膜の厚みが5μmになるように、この溶解液をメイヤーバーにて、厚み100μmのPETフィルムの表面に塗布し、80℃のオーブン中で3分間乾燥したところ、透明で均一な膜が得られた。結果を表1に示す。
【0048】
実施例3
シクロペンタン及びTHFの混合溶媒(シクロペンタン/THF=73/27(20℃での体積比))100重量部中に、PMP11重量部を添加し、スターラーで攪拌したところ、5時間で均一に溶解した。乾燥後塗膜の厚みが5μmになるように、この溶解液をメイヤーバーにて、厚み100μmのPETフィルムの表面に塗布し、80℃のオーブン中で3分間乾燥したところ、透明で均一な膜が得られた。結果を表1に示す。
【0049】
実施例4
シクロヘキサン及びTHFの混合溶媒(シクロヘキサン/THF=72/28(20℃での体積比))100重量部中に、PMP12重量部を添加し、スターラーで攪拌したところ、5時間で均一に溶解した。乾燥後塗膜の厚みが5μmになるように、この溶解液をメイヤーバーにて、厚み100μmのPETフィルムの表面に塗布し、80℃のオーブン中で3分間乾燥したところ、透明で均一な膜が得られた。結果を表1に示す。
【0050】
比較例1
シクロペンタン100重量部中に、PMP10重量部を添加し、スターラーで攪拌したところ、5時間で均一に溶解した。乾燥後塗膜の厚みが5μmになるように、この溶解液をメイヤーバーにて、厚み100μmのPETフィルムの表面に塗布したが、乾燥が速く塗布が困難であった。結果を表1に示す。
【0051】
比較例2
シクロヘキサン100重量部中に、PMP10重量部を添加し、スターラーで攪拌したが、24時間攪拌してもペレット形状が見られ、溶解しなかった。結果を表1に示す。
【0052】
比較例3
メチルシクロヘキサン(沸点100.9℃、比重0.77)100重量部中に、PMP10重量部を添加し、スターラーで攪拌したが、24時間攪拌してもペレット形状が見られ、溶解しなかった。結果を表1に示す。
【0053】
比較例4
シクロヘキサン及びTHFの混合溶媒(シクロヘキサン/THF=82/18(20℃での体積比))100重量部中に、PMP11重量部を添加し、スターラーで攪拌したが、24時間攪拌してもペレット形状が見られ、溶解しなかった。結果を表1に示す。
【0054】
比較例5
シクロヘキサン及びTHFの混合溶媒(シクロヘキサン/THF=22/78(20℃での体積比))100重量部中に、PMP12重量部を添加し、スターラーで攪拌したが、24時間攪拌してもペレット形状が見られ、溶解しなかった。結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
表1から明らかなように、実施例ではポリメチルペンテンが溶媒に容易に溶解し、均一で透明な塗膜が得られた。これに対して、比較例では、溶媒に溶解せず、溶解した場合でも、安定性に欠け、塗布が困難であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチルペンテン単位を含有するオレフィン系樹脂(A)が、ハロゲン原子を含んでいてもよい炭化水素類(B)、及びエーテル類(C)を含む混合溶剤に溶解した液状組成物であって、炭化水素類(B)とエーテル類(C)との割合(体積比)が、炭化水素類(B)/エーテル類(C)=33/67〜80/20である液状組成物。
【請求項2】
下式で表される混合溶剤の沸点bpSが50℃以上である請求項1の液状組成物。
bpS=bpB×RB/100+bpC×RC/100
[式中、bpB及びbpCは、それぞれ、炭化水素類(B)及びエーテル類(C)の沸点(℃)を示し、RB及びRCは、それぞれ、炭化水素類(B)及びエーテル類(C)の体積比率(vol%)を示す]
【請求項3】
オレフィン系樹脂(A)の含有量が、混合溶剤100重量部に対して0.01〜25重量部である請求項1記載の液状組成物。
【請求項4】
オレフィン系樹脂(A)が、メチル−1−ペンテンの単独又は共重合体である請求項1記載の液状組成物。
【請求項5】
炭化水素類(B)が、塩素、臭素及びヨウ素から選択された少なくとも一種の原子を含んでいてもよい炭化水素である請求項1記載の液状組成物。
【請求項6】
炭化水素類(B)が脂肪族炭化水素及び脂環族炭化水素から選択された少なくとも一種である請求項1記載の液状組成物。
【請求項7】
エーテル類(C)が環状エーテルである請求項1記載の液状組成物。
【請求項8】
炭化水素類(B)が、メチル基を有していてもよいC5-7シクロアルカンであり、エーテル類(C)が1個のエーテル結合を有する3〜7員環状エーテルであり、かつ炭化水素類(B)とエーテル類(C)との割合(体積比)が、炭化水素類(B)/エーテル類(C)=43/57〜75/25である請求項1記載の液状組成物。
【請求項9】
請求項1記載の液状組成物で塗膜を形成して乾燥するオレフィン系樹脂シートの製造方法。
【請求項10】
請求項1記載の液状組成物を、基材の少なくとも一方の面に塗布して、乾燥した後、基材からオレフィン系樹脂シートを剥離する請求項10記載の製造方法。
【請求項11】
請求項9記載の製造方法で得られたオレフィン系樹脂シート。
【請求項12】
請求項1記載の液状組成物を、基材の少なくとも一方の面に塗布して、乾燥する積層体の製造方法。
【請求項13】
請求項12記載の製造方法で得られた積層体。

【公開番号】特開2006−131723(P2006−131723A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−321254(P2004−321254)
【出願日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】