説明

モジュール式キャリブレーション方法

【課題】座標測定機の使用の際の障害を減らし、大量のキャリブレーションデータを管理する重荷を軽減する。
【解決手段】複数のサブシステム(10)から成り、サブシステム(10)の一部を個別にキャリブレーションし、その後、各サブシステム(10)に個別のキャリブレーション情報を提供し、マップ・ファイル(20)を生成し、キャリブレーションされたサブシステム(10)に関連づけられる、座標測定機を取り付ける手順に先立つ、事前のキャリブレーション手順と、前記キャリブレーション情報を保存する保存手順と、前記事前のキャリブレーション手順を通じて収集された前記キャリブレーション情報を処理する最終調整手順とから構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、座標測定機(CMM)のモジュール式キャリブレーション方法に関するものであり、また、該方法に使用するコンピューターで読み出し可能な媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
キャリブレーション方法は、事前に信頼性の確認を行うことにより、測定機の精度を確保するという意図で行われるものである。
一般的にキャリブレーションとは、測定結果を既知の基準値と比較することである。
そのような二つの数値体系の間で不一致が認められる場合には、誤差の修正を行い、実際の測定値と既知の理論上の数値とが揃うようにする。
キャリブレーションの手順は、通常、システムを初めて使う前に行うものであり、使用時に確実に正しい値を出すようにするためのものである。
それは、その後のオーバーホールの度に、繰り返し行われる可能性のあるものである。
【0003】
CMMの分野では、機器類は通常少なくとも3つの自由度(別名DOF)をもつものであるが、自由度が6つ以上のシステムも知られている。
CMMシステムは、通常、空間の3軸(X軸,Y軸,Z軸)に沿って直線的に動く支持体と、該支持体に関連づけられている軽量のスタイラスとによって構成されている。
該スタイラスは、例えばアーム付きのプローブヘッドを介在させることによって回転させることが可能である。
一般的な測定機のキャリブレーション方法は、測定機キャリブレーション用の球体の表面の座標を測定することにより行われる。
ここで、測定は、すべての自由度を同時に試験できるように、すなわち、その機械の動作の全範囲にわたって、位置と方向性も試験できるように行われる。
【0004】
一般的に、CMMシステムによる測定は、位置決めヘッドに連結可能で、様々な測定業務の実行に特化した測定用のプローブを選択することで行われる。
CMMには、例えば、長さや形も様々な、トリガーに接触するタイプのプローブ、走査式のプローブ、光学的検査プローブなどから選択したものと組み合わせて取り付けることが可能である。
それぞれのプローブは、別々に測定機キャリブレーションを必要とする。
一方、そのシステムにプローブヘッドを新しく導入する場合、あるいは、そのCMMの運動学的連鎖の一要素を変える場合には、すべてのプローブを個別に再キャリブレーションし、光学的精度を確保しなければならない。
【0005】
キャリブレーションが頻繁に必要になるということは、CMMシステムの稼働率が悪くなるという点で、CMMのユーザーにとって、一つの欠点である。
更に、それぞれのプローブについてのキャリブレーションデータを管理しなければならないというのは、CMMのユーザーにとって重荷となる。
【0006】
既知の測定機のキャリブレーション方法のもう一つの欠点は、そのようなキャリブレーションは、離散的に選択された幾つかの位置においてでしか行われず、すべての位置における精度の最適化が保証されているわけではないということである。
更には、広範での一連のキャリブレーションは、常に取り付けた状態の機械で行われることから、この段階でパラメータを直感的に区別することは不可能であり、パラメータの重みづけと調整に時間がかかりすぎるため、主なずれの生じた原因を正確に突き止めるのは常に困難である。
【0007】
測定機キャリブレーションの精度を確保する上でのもう一つの問題は、スタイラスに加わる力にシステムがどのように反応するか、そして慣性力の影響はどのようなものかを知るために、動的パラメータと曲げパラメータとを盛り込むことである。
そのために、測定機キャリブレーションの過程に、例えば接触力の関数として、CMMプローブの変位の測定を盛り込むことが知られている。
【0008】
キャリブレーションシステムの精度を改善させるために誤差を修正するために、数多くのモデルが開発されてきた。
米国特許第5594668号明細書に示されている第一のモデルは、プローブの弾力特性を考慮に入れ、加速による歪曲を、行列計算を通して導き出すものである。
同様に国際公開第2006/114603号パンフレットでも、慣性マトリクスが用いられており、撓みの力が考慮に入れられている。
しかし、どちらの場合にも用いられているプローブの固有の弾力特性は、事前の測定機キャリブレーション手順から導き出されず、生産者のデータに基づきハード面でコード化されているため、その精度も、それぞれの装置につき個別に適合したものではない。
【0009】
米国特許出願公開第2002/0087233号明細書には、交換可能なプローブを有するモジュール式の携帯CMMについて記載されており、その中のEEPROM回路板には、単位の混乱を避けるためのキャリブレーションのデータおよび識別のデータが含まれている。
それにもかかわらず、これらのデータは、プローブそのものにおいて、どのような測定機キャリブレーションを行っても導き出されるものではなく、それゆえ該プローブには個別の測定機を考慮した特有のデータは盛り込まれていない。
【特許文献1】米国特許第5594668号明細書
【特許文献2】国際公開第2006/114603号パンフレット
【特許文献3】米国特許出願公開第2002/0087233号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、先行技術には以上のような短所があるという認識に基づくものであり、それらを克服することを目的とするものである。
特に本発明は、CMMシステムの使用への障害を減らし、大量のキャリブレーションデータを管理する重荷を軽減することにより、更に使いやすくするための方法を提案するものである。
本発明において、機械を取り付ける前のキャリブレーション手順は、既知の部品のタイプやモデルについての汎用のものではなく、試験済みの部品それぞれの具体的な特徴を考慮したものであるので、精度が改善される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明において、このような目的は、複数の部品から構成されているCMM用のモジュール式キャリブレーション方法により達成されものであり、以下の手段による。
第1に、
複数のサブシステムから成る座標測定による座標測定機用のモジュール式キャリブレーション方法であり、
前記サブシステムの少なくとも一部を個別にキャリブレーションし、
その後、各サブシステムに個別のキャリブレーション情報を提供し、
マップ・ファイルを生成し、
キャリブレーションされたサブシステムに関連づけられる、座標測定機を取り付ける手順に先立つ、事前のキャリブレーション手順と、
前記キャリブレーション情報を保存する保存手順と、
前記事前のキャリブレーション手順を通じて収集された前記キャリブレーション情報を処理する最終調整手順とから構成される、座標測定機用のモジュール式キャリブレーション方法。
第2に、
各サブシステムが、座標測定システムの一つの要素の自由度に対応することを特徴とする、前記第1に記載の方法。
第3に、
事前のキャリブレーション手順が、最終キャリブレーション手順とは別の場所(部位)で行われることを特徴とする、前記第1に記載の方法。
第4に、
前記キャリブレーション情報を保存する前に、前記キャリブレーション情報を収集し組織化する手順を更にもう一つ含むことを特徴とする、前記第1に記載の方法。
第5に、
前記サブシステムの少なくとも一つが、前記座標測定システムのモジュール構成要素に対応することを特徴とする、前記第1に記載の方法。
第6に、
前記保存手順が、各サブシステムの別々の保存手段において行われることを特徴とする、前記第1に記載の方法。
第7に、
前記保存手順が、各構成要素自体において局所的に行われることを特徴とする、前記第6に記載の方法。
第8に、
前記保存手順が、リモート保存装置において行われることを特徴とする、前記第1に記載の方法。
第9に、
構成要素の各自由度につき単一のマップ・ファイルを、各構成要素用の複合的で最適化されたマトリクスに向けた位置決め基準と組み合わせることを特徴とする、前記第1に記載の方法。
第10に、
最終調整手順が、自動的に行われることを特徴とする、前記第1に記載の方法。
第11に、
最終調整手順が半自動的に行われ、ユーザーが、行う必要のある個別のキャリブレーションパラメータを一つだけ選択することができることを特徴とする、前記第1に記載の方法。
第12に、
座標測定システムの構成要素であり、
要素が、要素を座標測定システムに取り付ける手順に先立って事前にキャリブレーションされ、
個別のキャリブレーション情報が、要素に関連づけられたマップ・ファイルに保存されることを特徴とする、座標測定システムの構成要素。
【0012】
ここで、好ましい実施態様においては、本発明における事前のキャリブレーション手順は、CMMを取り付ける前に行われる。
好ましくは、部品の各部は、部品の自由度のそれぞれにつき、個別にキャリブレーションされ、具体的な対応関係割当情報が与えられる。
その場合、その対応関係割当情報は、対応関係割当ファイルが生成され、そしてキャリブレーションされた部品に関連づけられた後に、保存される。
最終的な調整手順は、前記CMMの取り付けの後に行われる。
そして、事前のキャリブレーション手順を通じて収集された対応関係割当情報が処理され、調整される。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、モジュールの取り組みにより、それぞれの相対的位置基準における、それぞれの単一の部品、それぞれの単一の動き、そして単一の自由度が有する実際の固有の特性に対し、最適の適合性を実現することができるようになる。
そのようにして、それぞれのキャリブレーションに特化した機器を生産現場で使用することができるため、高品質の精度を確保することができる。
それはまた、全体の最適化に伴う複雑さを、単一の最適化の問題に変換するものであり、そのようにして、これまで常に煩雑で時間がかかるものであった、取り付けられた機械における計算の必要条件を大幅に単純化できる。
更に、そのようなモジュールの取り組みは、単純な部品の増設や交換を行うだけでよい場合には、キャリブレーション作業を繰り返し行うのに適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、例として示され、図解された一つの実施態様の説明により、理解しやすくなる。
【0015】
既に述べたように、現行技術のCMM90用のキャリブレーション方法は、煩雑で時間のかかるものとして知られている。
事実、キャリブレーション方法は、同時に複数のキャリブレーションパラメータを調整しなくてはならないため、細かく、そして時間のかかる作業である。
平行移動と回転の自由度に関わる一般的な事例においては、キャリブレーションプローブのそれぞれの位置は、CMMの幾つかの配置によって求められるものであり、それぞれが別々のキャリブレーションを必要とする。
最善に調整された精度を確保するための最適化方法は、時間がかかるという特徴があることから、通常、機械類の配置空間の限られた数の箇所だけがキャリブレーションされ、残りの配置に関するキャリブレーションデータは、補間法よって求められる。
キャリブレーション箇所がまばらに散在することは、この技法の精度を制限してしまうものである。
【0016】
本発明のモジュール式キャリブレーション方法は、プローブの取り付けの前に各部品について単一で個別のキャリブレーションをし、そして、機械を取り付けて情報を直ちに用いる場合には、機械の測定機キャリブレーションの設定の精度を改善させることを意図している。
このように、最適化を行う上での複合的な問題は、各部品、つまり、それぞれの固有の生産現場に則して、特定の品質の機械で取り扱いを改善することができる、単一の最適化問題に分けられる。
あらかじめ行われた個別のキャリブレーション手順で収集されたキャリブレーション情報で使えるものをすべて調整することから成る、取り付けられたCMMのキャリブレーションの過程は、もっと簡略化することができる。
一方、各部品に個別の試験を行う過程で得られた結果に基づくキャリブレーションを用いることにより、全体的なキャリブレーションの精度を改善させることができるのは、該キャリブレーションは、ひとつひとつの部品それぞれの配置空間を最適に網羅することができるためである。
もう一方では、システムの適応性を高め、稼働率を改善できるのは、部品のやりとりや交換を、全体的なキャリブレーション過程を、またやり直す必要なしに、行えるからである。
【0017】
本発明の一つの態様においては、CMMシステムは、単純な部品、例えば、XYZの3次元基準における可動プラットフォーム、1本または2本の回転軸をもつ方向づけ可能なプローブヘッド、トリガーに接触するタイプのプローブ、スタイラス、そして延長要素のような、互換性のある交換可能な部品セットとは別のプローブや付属品を組み合わせたものと考えられる。
そのような構成要素の幾つかは、アクティブ要素であり、CMMシステムにおける自由度に対応しており、好ましくは、それぞれの自由度に、各自由度を設定するアクチュエータと、その位置を読み出すエンコーダーを含んでいる。
【0018】
一般的には、本発明に係るCMMシステムは、複雑な運動学的連鎖を規定する、単一の構成要素の集合に分解することが可能である。
例えば、図4の例で示されているように、回転ヘッドとタッチ式プローブを取り付けたCMM測定システムは、形式的には、以下のものに分解することができる。
a)水平「Y」軸に沿った平行移動に対応する直線的駆動部とエンコーダー;
b)水平「X」軸に沿った平行移動に対応する直線的駆動部とエンコーダー;
c)垂直「Z」軸に沿った平行移動に対応する直線的駆動部とエンコーダー;
d)プローブのリスト部分の垂直「A」軸の周りの回転に対応する回転駆動部とエンコーダー;
e)プローブのリスト部分の水平「B」軸の周りの回転に対応する回転駆動部とエンコーダー;
f)使用中のスタイラス135に対応する固定された平行移動。
【0019】
基本的サブシステムa)−f)のそれぞれを組み合わせることにより、検出された箇所の座標と方向づけが決定される。
ここで、サブシステムのそれぞれには、相対的基準において、ある決まった方向づけがある。
図示された例に示されているのは、運動学的に連続する連鎖、つまり、互いに交互に連結された一連の駆動部である。
しかしながら、本発明は、この事例に限定されるものでなく、例えば、6軸のスチュワート・プラットフォームのような複数の平行駆動部の事例も含むものである。
【0020】
図示されたCMMシステムは、3軸XYZ駆動部の他にも、複数のモジュラーコンポーネント要素、例えば、回転ヘッド132とスタイラス135から構成されている。
どのような業務を行うかにより、CMMシステムに、一組のモジュールから選んだ幾つかの構成要素を組み合わせたものを取り付けてもよい。
サブシステムをなす運動学的連鎖を分解するというのは、そのシステム全体の取り外し可能な、あるいはモジュールの構成要素に対応させて行うことができるが、これは、本発明の必要条件ではない。
例えば、回転ヘッド132は、それぞれの独立した自由度に対応する、二つの基本的システムに分解される。
【0021】
序論で述べたように、複雑な測定機のキャリブレーションは、時間がかかる細かい作業であり、また、機械の設定を変えるたびにそれを繰り返さなければならない。
しかしながら、測定システムが幾つかのサブシステムに分解され、そして、各サブシステムが個別にキャリブレーションされる場合は、個別のキャリブレーションを組み合わせることで、全体的なキャリブレーションを得ることができる。
【0022】
形式的には、CMMシステムの配置は、一組のパラメータによってすべて決定され、該パラメータには、例えば、様々な自由度に対応する変位と回転角度に、場合によっては、温度とその他の全体的なパラメータが盛り込まれる。
CMMシステムの静的キャリブレーションは、CMMシステムのパラメータ空間と、例えば、デカルト座標 X=(x,y,z)における、測定済みの点の実際の位置X’との間の以下の対応式、あるいは地図Mとして見ることができる。
ここで、ベクターΞは、所属する要素のパラメータであり、次のような関係があり、ξの値は通常、そのCMMシステムのエンコーダーから分かるものである。
ベクターΞ=ξ1.ξ2….ξn.
【0023】
X’=M(Ξ):(1)
【0024】
これは、従来のやり方では、一組の基準点、あるいは一つの基準物の表面を測定し、そして既知の数値誤差最小化技法によって求められる。
本発明で扱うのは、一連のサブシステムキャリブレーションにより、全体のキャリブレーションMを構成する方法である。
【0025】
そのような単純ではあるが非常にありふれた事例では、そのCMMシステムの運動学的連鎖は完全に連続的なものであるが、その場合、各自由度を独立したサブシステムと考え、そして複数の対応関係Mj(ξj)の組み合わせとしてMを構成し、それぞれが以下のように、一つの自由度に対応している。
【0026】
M=M1(ξ1)・M22(ξ22)・…Mn(ξn):(2)
【0027】
更に一般的な事例では、そのような複数のサブマップMjは、各構成要素の性質をCMMの基準空間との相対関係で限定する上で、機械の一つまたは複数のパラメータに左右されることがあり、デフォルトの度に、運動学的連鎖における相対的な基準の変化が誘発される可能性がある。
キャリブレーションは、必ずしも、静的対応関係に限定されるものではなく、動的な効果も含むのであって、そのようにして、速度ξ、加速度ξ、そして様々な要素の複数の塊から依存関係を導入することになる。
このような事例のすべてにおいて、全体のキャリブレーション機能を、そのような複数のサブシステムを一つずつキャリブレーションすることから、計算することができる。
【0028】
図1は、本発明の全体的な構想を、好ましい実施態様のシーケンス線図を通して図解するものである。
この図において、二つの点線で囲まれたボックス100およびボックス700は、それぞれ、CMMを取り付ける前と取り付けた後に行われる一連の手順を示すものである。
点線矢印900は、取り付けの前の手順で詳細に得られた情報が、取り付け後の手順で用いられることから、それらの二組の手順の間で相互に行われる情報交換を示している。
そのような一連の手順は、以下のように繰り広げられる。
・事前キャリブレーション手順200:あるサブシステムあるいはCMMを構成する個々の構成要素を事前にキャリブレーションする手順。
この個別の試験は、現場の外、つまり、例えば、工場や、誤差の訂正や修正のための高度な品質を確保するための特殊な機器を備える専用のキャリブレーションセンターでの最終的なキャリブレーションとは別の場所で行うことができる。
・キャリブレーション情報取得手順300:個別の試験を行った結果、キャリブレーション情報が得られるが、それは、サブシステムまたは個々の構成要素に特有のものであって、同じモデルのすべての構成要素に汎用のものではない。
本発明のモジュール式キャリブレーション方法によると、仕様が同じ(例えば同じモデルの二つの走査プローブをもつ)様々な個別の構成要素のキャリブレーション情報は、このように、たとえ僅かな違いに過ぎないにしても、違ったものになりうるのであるが、それは、あるモデルについて汎用性の情報を保存し、ある部品に静的に付着させる場合には、当てはまらない。
この手順で得られるのは、所謂マップ・ファイルを生成することであり、マップ・ファイルは、キャリブレーションされた構成要素に結合されることになる。
必要に応じ、一つの構成要素のマップ・ファイルに、例えば、幾何学的キャリブレーションデータ、または、周知の方法により求められる、重みのある最終的要素ならびに剛直性のキャリブレーションと動的なデータをどうにかして組み合わせたもので誘発される、歪みに対する感受性のような、様々なキャリブレーションデータを含ませてもよい。
アクティブ要素の場合には、その要素の配置空間を適切に網羅するために、キャリブレーションには、そのような要素の様々な配置を幾つか含めることになる。
・収集組織化手順400:個別のキャリブレーション方法で一つの回答が得られるとすぐに、そのようにして出されたキャリブレーション情報を様々な基準に従って更に処理し、そして組織化することができるが、その様々な基準については、図2に基づいて本文にて後述する。
・キャリブレーション情報保存手順500:キャリブレーション情報の保存。
保存については様々な方法が考察され、それについても図2に基づいて本文にて後述することになる。
・組み合わせ手順600:望ましい特徴を一通り備えた実際に役立つCMMシステムを実現するための要素の組み合わせ。
この手順は、例えば、CMM位置決めプラットフォームのスピンドルにプローブを取り付ける際に、手作業でやってもよいし、あるいは、例えば、自動工具交換マガジンを備えるシステムの場合には、自動的に行ってもよい。
・最終的調整手順800:すべてのキャリブレーション情報をマッピングし整合性をもたせるための最終的調整過程。
本発明の好ましい実施態様においては、この手順は完全に自動的に、つまり、人の介入なしに行うことができる。
その結果、CMMの様々な要素が一旦、組み合わされるとすぐに、キャリブレーション監視器が構成要素を検出し、関連するキャリブレーションファイルを選択し、選択したファイルを一つのシステムキャリブレーションファイルに組み合わせるという意味において、「自動キャリブレーションシステム」になる。
本発明の、もう一つ別の好ましい実施態様においては、本文にて後ほど説明するように、調整機能を半自動にすることができる。
【0029】
図2は、本発明の好ましい実施態様においてCMMを取り付ける前の手順を更に詳細に図解するものである。
CMMシステムの複数のサブシステム10は、好ましくは、プロダクション14(事前キャリブレーション手順200)の対応する専用の機器によって試験される。
該サブシステムは、更に参照記号A、B、C、Dなどを付し、互いに区別できるように複数の列に分けて組織化されるものである。
キャリブレーション作業により、各サブシステムまたは構成要素の個別のキャリブレーションデータが得られる。
キャリブレーションデータは、様々なパラメータにわたることがあり、構成要素に左右される可能性がある。
それは、通常、機械の自由度6のどれかに関連づけられた複数のエンコーダーが位置を導き出す、幾何学的マッピングとエンコーダーが、構成要素のなんらかの曲げによって加えられた力に基づき、位置の移動を導き出す剛直性マッピングとの間で区別される。
動的マッピングもまた、CMMに加えられた慣性力に基づく位置の変換を導き出す際に、CMMに加えることが可能である。
【0030】
マップ・ファイルの情報を、事前の処理により可能な限り最終的調整過程を簡略化できるような構造にし、後に図2で図解するように、複数のマップ・セットにまとめることが、収集組織化手順400の目的である。
キャリブレーション情報を適切に区分して表示することにより、更に最終的調整過程をモジュールで行うことが可能になり、それにより、ユーザーは、何を調整する必要があって何を調整する必要がないかを選択することができる。
ユーザーは、例えば、基礎的な幾何学的マッピングに加え、更に剛直性マッピングや動的マッピングのような追加のマッピングをすべきかどうかを決定することができる。
それゆえ、論理的キャリブレーション情報マップ19を構成し、そして、一連のマップ18に保存するキャリブレーション情報保存手順500とすることが可能であり、そこからユーザーは、図2に示されるように自分の好みによりセットまたはサブセットを選択する。
【0031】
図2に開示された好ましい実施態様によると、事前キャリブレーション手順200によって生成され、そして複数のサブシステムに関連づけられた複数のマップ・ファイルは、マトリクスに組織化される。
構成要素のそれぞれの個別のサブシステム・マトリクスの組み合わせは、構成要素マトリクスを規定する。
構成要素マトリクスの各入力ごとに、基準方向づけ、直線パラメータ、回転パラメータおよび既に前述にて列挙したような他の幾つかのパラメータが規定される。
ここで、自由度、剛直性マッピング、動的マッピングなどは一部に過ぎず、すべてを網羅できるわけではない。
構成要素マトリクスは、構成要素の複雑さに左右される、数学的機能を明確にするように最適化することができる。
それらにより、各位置につき構成要素がどのような動的挙動をするかが規定される。
時間の節約という観点からは、単一のサブシステム・マトリクスの方が、精度がより高く、再キャリブレーションも容易でもある。
その結果、本発明のモジュール式キャリブレーション方法によって得られる半自動調整手順により、ユーザーは、調整をどの要素に、あるいはその要素のどの部分(サブシステム)に適用することになるかとともに、その段階でどのパラメータが作用することになるかを、選択することが可能となる。
言うまでもなく、情報マップをモジュールモードで設計して、マトリクスの選択された要素のみを計算に入れるようにすることもできる。
【0032】
保存方法は、そのようなマップ・ファイルに基づいて情報マップを構築するために、どのようなデータ表示や、それに関連する事前の処理方針を採用したかにより、ある程度まで左右されるものではあるが、情報を物理的に保存するためにも様々な方法がある。
本発明の一つの好ましい実施態様によると、情報の保存は、局部的には、各構成要素自体において行われる。
取り付け手順において行われる自動発見機能があれば、その場合は、各構成要素に対応するファイルを検出して取り出し、該ファイルを、調整過程を通じて、処理することができるようにすることができる。
もうひとつの別の実施態様によると、保存手順は、また、例えば中央データベースのようなリモート保存装置で行うこともできる。
そこからまた、大雑把なマップ・ファイルや情報マップの何組かを選択的に、あるいは自動的に、調整手順の枠内でダウンロードすることも可能となる。
【0033】
図3が示すのは、本発明の好ましい一つの実施態様による物理システムを論理的に示したものである。
図3では、CMM90とCMMコントローラ15とを備えており、その両者は、物理的入力/出力(I/O)接続でつながれている。
CMMは、(A)、(B)、(C)という文字で区別され、何列かに並べられた複数のサブシステム10を有している。
そして、該サブシステム10に、位置変換器12が、幾何学的マッピングのために連結されている。
他にオプションで、例えば、歪み計や接触式トリガー型スイッチのようなセンサー13が連結されている。
CMMサブシステム10とそのようなセンサー13との間の接続は、点線で示されており、それにより、必ずしもすべてのサブシステム10をセンサー13と接続しなくてもよいということを表している。
しかしながら、本発明は、位置変換器12を含むアクティブ要素のキャリブレーションにのみ限定されるものではなく、実際もっとも単純な幾つかのサブシステム10や、例えば、変換器や駆動部を備えていない、受動的な延長要素にも応用される。
【0034】
すべての要素が互いに通信可能となるように、例えば、接続バス11のようなデータ転送リンクも提供される。
【0035】
CMMコントローラ15は、調整手順を行うためのプロセッサー16と、処理対象である必要なすべてのキャリブレーション情報を供給するためのメモリーまたは保存装置17を備えている。
図3の好ましい実施態様によると、メモリーは、それぞれの構成要素(A)、(B)、(C)等と関連づけられている個々のマップ・ファイル20(A)、(B)、(C)等を有している。
しかしながら、マップ・ファイル20と構成要素との間の関連づけは、論理的な関連と理解すべきものであり、物理的な実行の選択肢に限定されるものではない。
事実、関連づけられたファイルの認識や検索のためのものと同様に、保存のために数多くの物理的実施態様が可能である。
【0036】
コンピューター・プログラムは、例えば、構成要素を検出し、および/または、調整手順を行う前にマップ・ファイル20を検索するための自動発見機能を備えていてもよい。
これは、例えば、キャリブレーションファイルが入手可能な場合、定期的なふるい分けを担当するポーリング機能を通じて可能となる。
ここで、ポーリング機能は、通信回線を共有する各端末に順次問い合わせて端末を特定することを示す。
そのような自動発見機能は、図示されていない、工具交換モジュールとも関連づけることができ、どの工具が実際に機械にあるかを、ポート番号情報に基づいて決定することができる。
【0037】
この発明の説明を、CMMを例にとって説明したが、範囲をロボット工学に拡げても良いし、どのようなものであれ、そのようなモジュール式キャリブレーション方法が潜在的に妥当しうる工業分野で、他にもふさわしいものがあれば応用してよい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の全体的な概要を示す図
【図2】本発明の実施態様におけるCMMを取り付ける前の手順を示す図
【図3】本発明の実施態様による物理システムを論理的に示す図
【図4】回転ヘッドとタッチ式プローブを取り付けた座標測定機(CMM)を示す図
【符号の説明】
【0039】
10 サブシステム
11 接続バス
12 位置変換器
13 センサー
14 プロダクション
15 CMMコントローラ
16 プロセッサー
17 保存装置
18 マップ
19 論理的キャリブレーション情報マップ
20 マップ・ファイル
90 CMM
132 回転ヘッド
135 スタイラス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のサブシステムから成る座標測定による座標測定機用のモジュール式キャリブレーション方法であり、
前記サブシステムの一部を個別にキャリブレーションし、
その後、各サブシステムに個別のキャリブレーション情報を提供し、
マップ・ファイルを生成し、
キャリブレーションされたサブシステムに関連づけられる、事前のキャリブレーション手順と、
前記キャリブレーション情報を保存する保存手順と、
前記事前のキャリブレーション手順を通じて収集された前記キャリブレーション情報を処理する最終調整手順とから構成される、座標測定機用のモジュール式キャリブレーション方法。
【請求項2】
各サブシステムが、座標測定システムの一つの要素の自由度に対応することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
事前のキャリブレーション手順が、最終キャリブレーション手順とは別の場所で行われることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記キャリブレーション情報を保存する前に、前記キャリブレーション情報を収集し組織化する手順を更にもう一つ含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記サブシステムの少なくとも一つが、前記座標測定システムのモジュール構成要素に対応することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記保存手順が、各サブシステムの別々の保存手段において行われることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記保存手順が、各構成要素自体において局所的に行われることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記保存手順が、リモート保存装置において行われることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
構成要素の各自由度につき単一のマップ・ファイルを、各構成要素用の複合的で最適化されたマトリクスに向けた位置決め基準と組み合わせることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
最終調整手順が、自動的に行われることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
最終調整手順が半自動的に行われ、ユーザーが、行う必要のある個別のキャリブレーションパラメータを一つだけ選択することができることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
座標測定システムの構成要素であり、
要素が、要素を座標測定システムに取り付ける手順に先立って事前にキャリブレーションされ、
個別のキャリブレーション情報が、要素に関連づけられたマップ・ファイルに保存されることを特徴とする、座標測定システムの構成要素。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−80114(P2009−80114A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−245102(P2008−245102)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(507391292)ヘキサゴン メトロロジー エービー (7)
【氏名又は名称原語表記】HEXAGON METROLOGY AB
【Fターム(参考)】