説明

モータの製造方法及びモータ

【課題】厳密な公差管理を行うことなく、高い同軸度を確保することのできるモータの製造方法を提供することにある。
【解決手段】ギヤハウジング18には、同ギヤハウジング18をウォーム軸17の軸線方向に貫通する挿通孔41が形成されるとともに、ブラシホルダ13には、組み付け状態において、ギヤハウジング18側の挿通孔41に臨む同挿通孔41よりも小径の操作孔42が形成される。そして、ブラシホルダ13、ヨークハウジング4及びギヤハウジング18が仮組みされた状態で、電機子を回転、即ち回転軸6及びウォーム軸17を回転させつつ、挿通孔41を介して操作孔42に挿入された治具ピン43を操作し、ブラシホルダ13を動かすことにより、その最適な本組み位置が決定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減速機構を備えたモータの製造方法及びモータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ハウジングに内蔵された減速機構によりロータの回転を減速して出力するモータがある。例えば、特許文献1に記載のモータは、ロータとしての電機子(及びステータとしてのマグネット)を収容するヨークハウジングと、電機子の回転軸を回転自在に支承しつつ整流子にブラシを摺接させるブラシホルダと、減速機構を収容するとともに当該減速機構の入力軸を回転自在に支承するギヤハウジングとを備えている。そして、ブラシホルダを介してヨークハウジングとギヤハウジングとが組み付けられることにより、その電機子の回転軸と減速機構の入力軸とが連結されるようになっている。
【0003】
また、このモータでは、ブラシホルダには貫通孔が設けられる一方、ギヤハウジングには、その貫通孔に対応する突起が設けられている。そして、これらの孔及び突起を嵌合させ、ブラシホルダとギヤハウジングとの間の位置決めをすることにより、電機子の回転軸及び減速機構の入力軸間の軸合わせ、即ちそのモータ本体及びギヤ部の軸心を合わせることが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−18794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような嵌合による位置決め手段(孔及び突起)を用いる構成では、電機子の回転軸及び減速機構の入力軸間の同軸度が、その部品の精度に依存する。このため、従来、ブラシホルダ及びギヤハウジングには、厳密な公差管理が要求されており、その公差管理に要する工数が製造コストを押し上げる要因の一つになっていた。
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、厳密な公差管理を行うことなく、高い同軸度を確保することのできるモータの製造方法及びモータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、回転軸及び整流子を有する電機子と、前記電機子を収容するヨークハウジングと、前記回転軸を回転自在に支承しつつ前記整流子にブラシを摺接させるブラシホルダと、減速機構の入力軸を回転自在に支承するギヤハウジングとを備え、前記ブラシホルダを介して前記ヨークハウジングと前記ギヤハウジングとを組み付けることにより、前記電機子の回転軸と前記減速機構の入力軸とを連結するモータの製造方法であって、前記ブラシホルダ、前記ヨークハウジング及び前記ギヤハウジングが仮組みされた状態で、前記電機子を回転させつつ、前記ブラシホルダ、前記ヨークハウジング及び前記ギヤハウジング間の相対位置を変更することにより最適的な本組み位置を決定すること、を要旨とする。
【0008】
上記構成によれば、電機子の回転軸と減速機構の入力軸との間の同軸度を確かめつつ、ブラシホルダ、ヨークハウジング及びギヤハウジングを位置決めすることができる。従って、厳密な公差管理を行うことなく、容易に高い同軸度を確保することができる。その結果、低コスト且つ静粛性に優れたモータを製造することができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、前記ヨークハウジングと前記ブラシホルダとは一体であって、該一体のブラシホルダと前記ギヤハウジングとの相対位置を変更することにより、前記最適な本組み位置を決定すること、を要旨とする。
【0010】
上記構成によれば、モータ本体側の軸位置が予め決定した状態での二要素間の位置合わせとなる。その結果、より容易に、その最適な本組み位置を決定することができる。
請求項3に記載の発明は、前記最適的な本組み位置の決定は、モータ電流、振動、及び発生音の少なくとも何れか一つに基づいて行われること、を要旨とする。
【0011】
即ち、ブラシホルダに支承された回転軸及びギヤハウジングに支承された入力軸間の同軸度が高いほど、その回転負荷は小さくなる。そして、その回転負荷の大きさは、モータ電流、振動、及び発生音に現れる。従って、上記構成によれば、簡素な構成にて、容易且つ高精度に軸合わせを行うことができる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、前記ギヤハウジングには、該ギヤハウジングを前記入力軸の軸線方向に貫通する挿通孔が形成されるとともに、前記ブラシホルダには、組み付け状態において前記挿通孔に臨む該挿通孔よりも小径の操作孔が形成されるものであって、前記相対位置の変更は、前記挿通孔を介して前記操作孔に挿入される治具を用いて前記ブラシホルダを動かすことにより行われること、を要旨とする。
【0013】
上記構成によれば、組み付け状態においても、その回転軸が支承されたブラシホルダを直接的に動かすことができる。そして、これにより、そのギヤハウジング及びヨークハウジングに対するブラシホルダの相対位置を変更することで、容易且つ迅速に最適的な本組み位置を決定して高い同軸度を確保することができる。
【0014】
請求項5に記載の発明は、前記相対位置の変更は、前記回転軸の支承部を挟んで対向する位置に形成された2つの前記操作孔に前記治具を挿入することにより行われること、を要旨とする。
【0015】
上記構成によれば、ブラシホルダを動かす際の操作性が向上するとともに、その軸合わせが容易になる。その結果、より高い同軸度を確保することができる。
請求項6に記載の発明は、回転軸及び整流子を有する電機子と、前記電機子を収容するヨークハウジングと、前記回転軸を回転自在に支承しつつ前記整流子にブラシを摺接させるブラシホルダと、減速機構の入力軸を回転自在に支承するギヤハウジングとを備え、前記ブラシホルダを介して前記ヨークハウジングと前記ギヤハウジングとが組み付けられることにより、前記電機子の回転軸と前記減速機構の入力軸とが連結されるモータにおいて、前記ギヤハウジングには、該ギヤハウジングを前記入力軸の軸線方向に貫通する挿通孔が形成されるとともに、前記ブラシホルダには、組み付け状態において前記挿通孔に臨む該挿通孔よりも小径の操作孔が形成されること、を要旨とする。
【0016】
上記構成によれば、組み付け状態においても、挿通孔を介して前記操作孔に治具を挿入することにより、当該治具を用いて、その電機子の回転軸が支承されたブラシホルダを直接的に動かすことができる。そして、これにより、電機子を回転させつつ、前記ブラシホルダ、前記ヨークハウジング及び前記ギヤハウジング間の相対位置を変更することができる。その結果、電機子の回転軸と減速機構の入力軸との間の同軸度を確かめつつ、ブラシホルダ、ヨークハウジング及びギヤハウジングを位置決めすることができる。従って、厳密な公差管理を行うことなく、容易に高い同軸度を確保することができ、その結果、低コストで高い静粛性を実現することができる。
【0017】
請求項7に記載の発明は、前記ブラシホルダは、前記回転軸の支承部を挟んで対向する位置に形成された2つの前記操作孔を有すること、を要旨とする。
上記構成によれば、ブラシホルダを動かす際の操作性が向上するとともに、その軸合わせが容易になる。その結果、より高い同軸度を確保することができる。
【0018】
請求項8に記載の発明は、前記各挿通孔は、径方向に延びる長孔であること、を要旨とする。
即ち、電機子を回転させた状態でブラシホルダ側の回転軸とギヤハウジング側の入力軸との軸合わせを行う場合、その回転軸の支承部を通る直線上においてブラシホルダを径方向移動させるのが合理的である。従って、上記構成によれば、より迅速に両者の軸心を合わせることができる。
【0019】
請求項9に記載の発明は、前記ブラシホルダには、前記ヨークハウジング及び前記ギヤハウジングとの間に介在されるシール部材が設けられるとともに、前記操作孔は、前記シール部材よりも径方向外側に形成されること、を要旨とする。
【0020】
上記構成によれば、シール部材内側の防水性を損なうことなく、ブラシホルダを動かすことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、厳密な公差管理を行うことなく、高い同軸度を確保することが可能なモータの製造方法及びモータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】モータの概略構成を示す断面図。
【図2】モータの底面図。
【図3】ギヤハウジングの平面図。
【図4】ブラシホルダの底面図。
【図5】本実施形態の位置決め構造を模式的に示すモータのE−E断面図。
【図6】本実施形態におけるモータの製造方法(位置決め方法)を示す説明図。
【図7】別例のモータの底面図。
【図8】別例の位置決め構造を模式的に示す説明図。
【図9】別例の製造方法を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、本実施形態のモータ1は、モータ本体2とギヤ部3とが一体に形成されたギヤ付きの直流モータである。
【0024】
詳述すると、モータ本体2は、略有底扁平円筒状のヨークハウジング4を備えている。また、ヨークハウジング4の内周には、マグネット5が固着されている。そして、このマグネット5の内側には、回転軸6及び整流子7を備えた電機子(アーマチャ)8が回転自在に収容されている。
【0025】
具体的には、電機子8の回転軸6は、その一端(同図中、上側の端部)がヨークハウジング4の底部4bに設けられた軸受11によって回転自在に支承されている。また、ヨークハウジング4の開口部4aには、ブラシ12を保持するとともに同ブラシ12を整流子7に摺接させるブラシホルダ13が配置されている。そして、回転軸6の他端(同図中、下側の端部)は、このブラシホルダ13に設けられた軸受14によって、回転自在に支承されている。
【0026】
一方、ギヤ部3は、減速機構16の入力軸となるウォーム軸17と、このウォーム軸17を回転自在に収容するギヤハウジング18とを備えている。具体的には、ギヤハウジング18内において、ウォーム軸17は、その両端(同図中、上側の端部近傍及び下側の端部近傍)が軸受19,20により支承されている。また、このようにしてウォーム軸17が収容されたウォーム収容室21には、そのウォーム軸17の歯部17aが外部に露出するような側面開口部22が形成されている。そして、本実施形態では、この側面開口部22を介してホイールギヤ23をウォーム軸17の歯部17aに歯合させることにより、その減速機構16が形成されるようになっている。
【0027】
また、ギヤハウジング18には、ウォーム軸17の軸線方向(同図中、上側)において上記ウォーム収容室21に隣接する接続部24が形成されている。具体的には、接続部24は、ヨークハウジング4の形状に合わせて略有底扁平円筒状に形成されている。また、同接続部24内には、その底部25から突出する態様でウォーム軸17の一端(同図中、上側の端部)が延出されている。そして、同接続部24内には、そのウォーム軸17と上記モータ本体2側の回転軸6とを連結する継手27が収容されている。
【0028】
即ち、接続部24は、ウォーム軸17の軸線方向(同図中、上側)に開口部24aを有しており、ギヤハウジング18は、その開口部24aを上記ヨークハウジング4の開口部4aに合わせる態様で、ブラシホルダ13及びヨークハウジング4と組み付けられる。そして、本実施形態では、これにより、接続部24内に突出するモータ本体2側の回転軸6を、上記継手27を介して、トルク伝達可能にギヤ部3側のウォーム軸17に連結する構成になっている。
【0029】
さらに詳述すると、ヨークハウジング4側の開口部4aには、径方向外側に拡開するフランジ28が形成されている。また、図1〜図3に示すように、ギヤハウジング18側の開口部24aにも、同様のフランジ29が形成されている。尚、図3は、ギヤハウジング18をブラシホルダ13側(図1中、上側)から見た平面図である。そして、ヨークハウジング4及びギヤハウジング18は、ボルト30によって、これらのフランジ28,29が締結されることにより、その組み付け位置が固定されるようになっている。
【0030】
また、図4に示すように、ブラシホルダ13は、上記回転軸6の支承部となる軸受14が設けられたホルダ部31と、同ホルダ部31から径方向外側(同図中、右側)に延びる延出部32とを備えている。尚、図4は、ブラシホルダ13をギヤハウジング18側(図1中、下側)から見た底面図である。
【0031】
ホルダ部31は、ヨークハウジング4(及びギヤハウジング18の接続部24)の断面形状に合わせて略扁平円形状(所謂小判型)に形成されることにより、その一部がヨークハウジング4内に配置されるようになっている(図1参照)。また、ホルダ部31の周縁には、径方向に延びる薄肉のフランジ部33が形成されている。尚、本実施形態では、組み付け状態において、このフランジ部33は、シール部材35により被覆される。そして、ブラシホルダ13は、このフランジ部33(及びシール部材35)が上記フランジ28,29間に挟持された状態で、ヨークハウジング4とギヤハウジング18との間に介在されるようになっている。
【0032】
尚、図3に示すように、ギヤハウジング18側のフランジ29には、延出部32に対応する凹部36が形成されている。そして、図1及び図2に示すように、組み付け状態においてギヤハウジング18の径方向外側に突出する延出部32の先端には、そのブラシ12に給電するためのコネクタ34が設けられている。
【0033】
即ち、本実施形態のモータ1は、コネクタ34を介したブラシ12への給電により、その電機子8が回転する。そして、当該電機子8の回転軸6と減速機構16の入力軸であるウォーム軸17とが一体に回転することにより、そのモータ回転を減速して出力する構成になっている。
【0034】
(位置決め構造及びモータの製造方法)
次に、本実施形態のモータ1におけるブラシホルダ13、ヨークハウジング4及びギヤハウジング18間の位置決め構造について説明する。
【0035】
図3に示すように、本実施形態では、ギヤハウジング18の接続部24には、ウォーム軸17の軸線方向にその底部25を貫通する挿通孔41が形成されている。また、図4に示すように、ブラシホルダ13には、この挿通孔41に対応する操作孔42が形成されている。尚、本実施形態では、挿通孔41及び操作孔42は、ともに円孔状に形成されている。
【0036】
具体的には、図2に示すように、操作孔42は、ブラシホルダ13とギヤハウジング18との組み付け状態において、ギヤハウジング18側の挿通孔41に臨む位置に形成されている。尚、図4に示すように、本実施形態では、この挿通孔41に対応する操作孔42の形成位置は、ブラシホルダ13におけるホルダ部31、即ちフランジ部33を被覆するシール部材35の径方向内側となっている。そして、図5に示すように、モータ1は、そのギヤハウジング18に形成された挿通孔41を介してブラシホルダ13の操作孔42に治具ピン43を挿入することにより、ブラシホルダ13、ヨークハウジング4及びギヤハウジング18が組み付けられた状態においても、その治具ピン43を用いてブラシホルダ13を動かすことが可能になっている。
【0037】
詳述すると、図4に示すように、本実施形態のブラシホルダ13は、回転軸6の支承部となる軸受14を挟んで対向する位置(周方向に180°互いに離間した位置)に形成された2つの操作孔42を有している。そして、図3に示すように、ギヤハウジング18もまた、ウォーム軸17の支承部に相当する接続部24の底部25中央を挟んで対向する位置に形成された2つの挿通孔41を有している。
【0038】
また、図5に示すように、ブラシホルダ13側に形成された各操作孔42の内径D2は、ギヤハウジング18側に形成された各挿通孔41の内径D1よりも小径に設定されている。更に、治具ピン43の外径D0は、操作孔42の内径D2と略等しく設定されている。そして、本実施形態では、このギヤハウジング18に形成された各挿通孔41と当該各挿通孔41に挿通される各治具ピン43との間に存在する径寸の違いに基づいて(D1>D0)、その各操作孔42内に各治具ピン43が挿入されたブラシホルダ13を動かすことが可能となっている。
【0039】
即ち、ヨークハウジング4及びギヤハウジング18の各フランジ28,29を締結するボルト30の締結力が弱い状態、即ち仮組み状態であれば、ブラシホルダ13、ヨークハウジング4及びギヤハウジング18間の相対位置を変更することが可能である。
【0040】
本実施形態では、これを利用してブラシホルダ13を動かし、そのギヤハウジング18(及びヨークハウジング4)との相対位置を変更することにより、当該ブラシホルダ13に支承された回転軸6及びギヤハウジング18に支承されたウォーム軸17の各軸心L1,L2を一致させる。そして、その軸合わせに基づいて最適な組み付け位置を決定した後、ボルト30の締結力を強めてブラシホルダ13、ヨークハウジング4及びギヤハウジング18間を固定、即ち本組みすることにより、高い静粛性を確保することが可能となっている。
【0041】
さらに詳述すると、図6に示すように、本実施形態のモータ1は、そのギヤハウジング18が組立台50に固定された状態で仮組みされる。また、コネクタ34には、コントローラ53から延びる給電線54が接続される。そして、このコネクタ34を介した電力供給により電機子8を回転、即ち回転軸6及びウォーム軸17を回転させつつ、上記各治具ピン43を備えた治具44が操作されることにより、そのブラシホルダ13、ヨークハウジング4及びギヤハウジング18間の最適な組み付け位置が決定されるようになっている。
【0042】
具体的には、本実施形態では、その仮組み状態で回転するモータ1に供給する電流量、詳しくは無負荷電流に対応する値が所定の閾値以下となった場合に、ブラシホルダ13、ヨークハウジング4及びギヤハウジング18が、最適な組み付け位置(本組み位置)にあると判定される。
【0043】
つまり、ブラシホルダ13に支承された回転軸6及びギヤハウジング18に支承されたウォーム軸17間の同軸度が高いほど、その回転負荷は小さくなる。そして、回転負荷の大きさは、無負荷電流の大きさに現れる。
【0044】
尚、本実施形態では、上記治具44は、組み立て作業者によって操作される。また、その最適な本組み位置の決定も、作業者の判断に基づいて行われる。そして、これにより最適な本組み位置が決定された後、そのボルト30が増し締めされるようになっている。
【0045】
次に、本実施形態のモータ及びその製造方法の作用について説明する。
本実施形態では、ギヤハウジング18には、同ギヤハウジング18をウォーム軸17の軸線方向に貫通する挿通孔41が形成されるとともに、ブラシホルダ13には、組み付け状態において、ギヤハウジング18側の挿通孔41に臨む同挿通孔41よりも小径の操作孔42が形成される。これにより、組み付け状態においても、挿通孔41を介して操作孔42に治具ピン43を挿入することで、当該治具ピン43を用いて、ギヤハウジング18(及びヨークハウジング4)に対するブラシホルダ13の相対位置を動かすことが可能になる。
【0046】
また、電機子8を回転させた状態でブラシホルダ13を動かすことで、その回転軸6とウォーム軸17との間の同軸度を確かめつつ、両者の軸合わせを行うことが可能になる。そして、これにより最適な本組み位置が決定されることで、その高い同軸度が確保される。
【0047】
以上、本実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態のモータ製造方法によれば、回転軸6とウォーム軸17との間の同軸度を確かめつつ、ブラシホルダ13、ヨークハウジング4及びギヤハウジング18を位置決めすることができる。従って、厳密な公差管理を行うことなく、容易に高い同軸度を確保することができる。その結果、低コスト且つ静粛性に優れたモータを製造することができる。
【0048】
(2)仮組み状態で回転するモータ1に供給する電流量、詳しくは無負荷電流に対応する値が所定の閾値以下となった場合に、最適な組み付け位置(本組み位置)にあると判定される。即ち、ブラシホルダ13に支承された回転軸6及びギヤハウジング18に支承されたウォーム軸17間の同軸度が高いほど、その回転負荷は小さくなる。そして、回転負荷の大きさは、その無負荷電流の大きさに現れる。従って、上記構成によれば、簡素な構成にて、容易且つ高精度に軸合わせを行うことができる。
【0049】
(3)ブラシホルダ13には、その回転軸6の支承部となる軸受14を挟んで対向する位置に2つの操作孔42が形成される。これにより、ブラシホルダ13を動かす際の操作性が向上するとともに、その軸合わせが容易になる。その結果、より高い同軸度を確保することができる。
【0050】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態では、ウォーム軸17を入力軸とする周知のウォーム&ホイールを減速機構16としたが、その他の減速機構構を用いる構成に適用してもよい。
【0051】
・上記実施形態では、ギヤハウジング18には、ウォーム軸17のみが収容され、同ウォーム軸17とともに減速機構16を形成するホイールギヤ23は、側面開口部22を介してウォーム軸17の歯部17aに歯合することとした。しかし、これに限らず、例えば、ホイールギヤを収容するホール収容室を備える等、ギヤハウジング内に減速機構全体が収容される構成に適用してもよい。
【0052】
・上記実施形態では、各挿通孔41及び操作孔42は、ともに円孔状に形成されることとした。しかし、これに限らず、図7に示すように、各挿通孔41をギヤハウジング18(の接続部24の底部25)の径方向に延びる長孔55としてもよい。即ち、電機子8を回転させた状態での回転軸6とウォーム軸17との軸合わせは、回転軸6の支承部である軸受14を通る直線上においてブラシホルダ13を径方向移動させるのが合理的である。従って、上記構成によれば、より迅速に両者の軸心L1,L2を合わせることができる。
【0053】
・上記実施形態では、各操作孔42は、ブラシホルダ13におけるホルダ部31、即ちシール部材35の径方向内側に形成されることとした。しかし、これに限らず、図8に示すように、フランジ部33を被覆するシール部材35の径方向外側に各操作孔42が形成される構成であってもよい。このような構成とすることで、そのシール部材35内側の防水性を損なうことなく、ブラシホルダ13を動かすことができる。尚、この場合、例えば、同図に示すように、ホルダ部31からシール部材35の径方向外側に突出する突部56を形成し、この突部56に各操作孔42を形成する等とすればよい。
【0054】
・上記実施形態では、特に言及しなかったが、図9に示すように、治具44における二本の治具ピン43a,43bのうち、一方の治具ピン43aに対して、他方の治具ピン43bを相対移動可能な構成としてもよい。これにより、各挿通孔41及び各操作孔42の形成誤差を許容して、円滑に治具44をモータ1に装着することができる。
【0055】
具体的には、例えば、電磁石57の磁力を利用することにより治具ピン43bの位置を固定し、及びその通電を停止することにより治具ピン43bの移動を許容する等とすればよい。
【0056】
・また、ギヤハウジング18の先端(同図中、下側の端部)に凹部58を形成するとともに、治具44の本体部に、この凹部58に遊嵌される突起59を形成するとよい。このような構成すれば、治具44の操作時、その突起59がギヤハウジング18側の凹部58に案内される態様となる。その結果、より容易に回転軸6とウォーム軸17との間の軸合わせを行うことができるようになる。
【0057】
・上記実施形態では、仮組み状態で回転するモータ1に供給する電流量、詳しくは無負荷電流に対応する値が所定の閾値以下となった場合に、ブラシホルダ13、ヨークハウジング4及びギヤハウジング18が、最適な組み付け位置(本組み位置)にあると判定されることとした。しかし、これに限らず、電機子8の回転により生ずる振動や音を用いる構成としてもよい。このような構成としても上記実施形態と同様の効果を得ることができる。そして、モータ電流、振動及び発生音の少なくとも何れかに基づいて、その最適な本組み位置を判定する構成としてもよい。
【0058】
尚、モータ電流については、無負荷電流の大きさ以外にも、モータ電流に含まれる脈動成分に基づいて、その最適な本組み位置を判定することが可能である。そして、振動及び発生音については、上記無負荷電流と同様、その大きさを測定する以外にも、作業者の官能評価に基づいて、その最適判定を行うことが可能という利点がある。
【0059】
・上記実施形態では、上記治具44は、組み立て作業者によって操作される。そして、その最適な本組み位置の決定もまた、作業者の判断に基づいて行われることとした。しかし、これに限らず、機械によって自動的に治具44が操作される、或いは自動的に最適位置が決定される構成であってもよい。
【0060】
・上記実施形態では、ブラシホルダ13には、回転軸6の支承部となる軸受14を挟んで対向する位置に2つの操作孔42が形成され、ギヤハウジング18には、これに対応する2つの挿通孔41が形成されることとした。しかし、操作孔42及び挿通孔41の数は、これに限るものではなく、それぞれ1つ又は3以上あってもよい。そして、その形成位置は、必ずしも回転軸6及び入力軸であるウォーム軸17の支承部を挟む位置でなくともよい。尚、治具ピン43による操作性、及び軸合わせの容易性を考慮するならば、上記実勢形態の構成が望ましい。
【0061】
・上記実施形態では、挿通孔41を介して操作孔42に治具ピン43を挿入することで、当該治具ピン43を用いて、ギヤハウジング18(及びヨークハウジング4)に対するブラシホルダ13の相対位置を動かすこととした。しかし、これに限らず、挿通孔41の代わりに操作突起を設け、これに嵌合する治具を挿通孔41から挿入する構成であってもよい。このような構成としても上記実施形態と同様の効果を得ることができる。また、操作孔42を形成する場合であっても、当該操作孔42は、貫通孔に限らず、凹部状のものであってもよい。そして、こうした操作孔42や操作突起等といった操作点を形成する位置は、回転軸6の支承部を挟んで対向する位置であることが望ましい。
【0062】
・また、電機子8を回転させつつ、ブラシホルダ13、ヨークハウジング4及び前記ギヤハウジング18間の相対位置を変更して、回転軸6とウォーム軸17との間の軸合わせを行うことが可能であれば、必ずしも上記挿通孔41及び操作孔42は形成しなくともよい。例えば、その組み付け状態においてギヤハウジング18の径方向外側に突出する延出部32を操作することによりブラシホルダ13を動かす構成であってもよい。
【0063】
・更に、ヨークハウジング4又はギヤハウジング18、若しくはブラシホルダ13を含めた3要素の少なくとも何れか一つを動かす構成であってもよい。このような構成としても、これらヨークハウジング4及びギヤハウジング18、並びにブラシホルダ13間の相対位置を変更することが可能である。また、操作対象となるものについては、上記実施形態のブラシホルダ13と同様、その操作点に操作孔を形成するとよい。これにより、治具を用いた微細な操作が可能になる。
【0064】
・また、ヨークハウジング4側の開口部4aにブラシホルダ13を圧入することで、予め当該ブラシホルダ13とヨークハウジング4とを一体に組み付ける。そして、このヨークハウジング4と一体に組み付けられたブラシホルダ13について、そのギヤハウジング18に対する相対位置を変更する構成としてもよい。このような構成とすれば、モータ本体2側の軸位置が予め決定した状態でのギヤハウジング18との間の二要素間の位置合わせとなる。その結果、より容易に、その最適な本組み位置を決定することができる。
【0065】
尚、この場合もまた、上記実施形態と同様、挿通孔41を介して操作孔42に治具ピン43を挿入する。そして、その治具ピン43を用いて、ギヤハウジング18に対するブラシホルダ13及びヨークハウジング4の相対位置を変更すればよい。
【0066】
次に、以上の実施形態から把握することのできる技術的思想を効果とともに記載する。
(イ)前記相対位置の変更は、前記回転軸の支承部を挟んで対向する2点を操作点として、前記ブラシホルダ、前記ヨークハウジング及び前記ギヤハウジングの少なくとも何れか一つを動かすことにより行われること、を特徴とするモータの製造方法。これにより、操作対象を動かす際の操作性が向上するとともに、その軸合わせが容易になる。その結果、より高い同軸度を確保することができる。
【0067】
(ロ)前記ブラシホルダ、前記ヨークハウジング及び前記ギヤハウジングの少なくとも何れか一つには、前記操作点となる位置に操作孔が形成されるとともに、前記相対位置の変更は、該操作孔に挿入された治具を用いて行われること、を特徴とするモータの製造方法。これにより、治具を用いた微細な操作が可能になる。
【符号の説明】
【0068】
1…モータ、2…モータ本体、3…ギヤ部、4…ヨークハウジング、6…回転軸、7…整流子、8…電機子、12…ブラシ、13…ブラシホルダ、14…軸受、16…減速機構、17…ウォーム軸、18…ギヤハウジング、24…接続部、25…底部、28,29…フランジ、30…ボルト、31…ホルダ部、32…延出部、33…フランジ部、34…コネクタ、35…シール部材、41…挿通孔、42…操作孔、43,43a,43b…治具ピン、44…治具、50…組立台、53…コントローラ、54…給電線、55…長孔、56…突部、57…電磁石、58…凹部、59…突起、L1,L2…軸心、D1,D2…内径、D0…外径。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸及び整流子を有する電機子と、前記電機子を収容するヨークハウジングと、前記回転軸を回転自在に支承しつつ前記整流子にブラシを摺接させるブラシホルダと、減速機構の入力軸を回転自在に支承するギヤハウジングとを備え、
前記ブラシホルダを介して前記ヨークハウジングと前記ギヤハウジングとを組み付けることにより、前記電機子の回転軸と前記減速機構の入力軸とを連結するモータの製造方法であって、
前記ブラシホルダ、前記ヨークハウジング及び前記ギヤハウジングが仮組みされた状態で、前記電機子を回転させつつ、前記ブラシホルダ、前記ヨークハウジング及び前記ギヤハウジング間の相対位置を変更することにより最適的な本組み位置を決定すること、
を特徴とするモータの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のモータの製造方法において、
前記ヨークハウジングと前記ブラシホルダとは一体であって、該一体のブラシホルダと前記ギヤハウジングとの相対位置を変更することにより、前記最適な本組み位置を決定すること、を特徴とするモータの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のモータの製造方法において、
前記最適的な本組み位置の決定は、モータ電流、振動、及び発生音の少なくとも何れか一つに基づいて行われること、を特徴とするモータの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れか一項に記載のモータの製造方法において、
前記ギヤハウジングには、該ギヤハウジングを前記入力軸の軸線方向に貫通する挿通孔が形成されるとともに、前記ブラシホルダには、組み付け状態において前記挿通孔に臨む該挿通孔よりも小径の操作孔が形成されるものであって、
前記相対位置の変更は、前記挿通孔を介して前記操作孔に挿入される治具を用いて前記ブラシホルダを動かすことにより行われること、を特徴とするモータの製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載のモータの製造方法において、
前記相対位置の変更は、前記回転軸の支承部を挟んで対向する位置に形成された2つの前記操作孔に前記治具を挿入することにより行われること、
特徴とするモータの製造方法。
【請求項6】
回転軸及び整流子を有する電機子と、前記電機子を収容するヨークハウジングと、前記回転軸を回転自在に支承しつつ前記整流子にブラシを摺接させるブラシホルダと、減速機構の入力軸を回転自在に支承するギヤハウジングとを備え、
前記ブラシホルダを介して前記ヨークハウジングと前記ギヤハウジングとが組み付けられることにより、前記電機子の回転軸と前記減速機構の入力軸とが連結されるモータにおいて、
前記ギヤハウジングには、該ギヤハウジングを前記入力軸の軸線方向に貫通する挿通孔が形成されるとともに、前記ブラシホルダには、組み付け状態において前記挿通孔に臨む該挿通孔よりも小径の操作孔が形成されること、を特徴とするモータ。
【請求項7】
請求項6に記載のモータにおいて、
前記ブラシホルダは、前記回転軸の支承部を挟んで対向する位置に形成された2つの前記操作孔を有すること、を特徴とするモータ。
【請求項8】
請求項7に記載のモータにおいて、
前記各挿通孔は、径方向に延びる長孔であること、を特徴とするモータ。
【請求項9】
請求項6〜請求項8の何れか一項に記載のモータにおいて、
前記ブラシホルダには、前記ヨークハウジング及び前記ギヤハウジングとの間に介在されるシール部材が設けられるとともに、前記操作孔は、前記シール部材よりも径方向外側に形成されること、を特徴とするモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−38963(P2013−38963A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174158(P2011−174158)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(000101352)アスモ株式会社 (1,622)
【Fターム(参考)】