モータ駆動電流アンプとモータ駆動装置とその駆動方法とモータ駆動システム
【課題】特性の異なる複数の種類のモータに対しても、信頼性高く良好に適用可能であり安定してモータを駆動できる、モータ駆動電流アンプとモータ駆動装置とその駆動方法とモータ駆動システムとを提供することを目的とする。
【解決手段】駆動対象となるモータへの出力電流リップルを検出する出力電流リップル検出部と、出力電流リップル検出部が検出した出力電流リップルに対応して、モータへの出力電流を制御する制御特性を変更するPID制御部と、PID制御部から出力信号が入力されて、PWM制御を遂行するPWM制御部と、PWM制御部から出力されるPWM信号に対応してスイッチング素子のオン・オフが制御されるフルブリッジ回路とを備えるモータ駆動装置とする。
【解決手段】駆動対象となるモータへの出力電流リップルを検出する出力電流リップル検出部と、出力電流リップル検出部が検出した出力電流リップルに対応して、モータへの出力電流を制御する制御特性を変更するPID制御部と、PID制御部から出力信号が入力されて、PWM制御を遂行するPWM制御部と、PWM制御部から出力されるPWM信号に対応してスイッチング素子のオン・オフが制御されるフルブリッジ回路とを備えるモータ駆動装置とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータを駆動するモータ駆動電流アンプとモータ駆動装置とその駆動方法とモータ駆動システムとに関し、特に異なる複数種類のモータに対応可能なPWM方式のモータ駆動電流アンプ等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータ駆動ICでは、モータの数に応じてブリッジの数を決定しているので、使用するモータの数が変更されると、既に利用されていたモータ駆動ICを適用することが難しく、ICの汎用性に乏しいという問題があることが知られている。
【0003】
このような問題に対応して、小型でかつ汎用性の高い構成を有し、複数のモータを駆動可能なモータ駆動装置を提供することを目的とし、同一の装置内に、1チャンネル分のドライバ回路と、1チャンネル分の第1プリドライバ及び0.5チャンネル分の第2プリドライバとを設け、更に、選択信号の組み合わせに応じて、第1及び第2プリドライバを選択的に動作させるロジック回路を設けるモータ駆動装置が、例えば下記特許文献1に開示されている。
【0004】
このモータ駆動装置によれば、ロジック回路は、組み合わせ信号として供給される選択信号に応じて、第1及び第2プリドライバを選択的に動作させることができるので、駆動するモータ数が変更された場合には、モータ駆動装置を複数組み合わせたり、更に装置に外付けのドライバ部を付加したりすることにより、モータ駆動装置の構造自体に変更を加えることなく対応でき、モータ駆動装置の適用範囲が広いという効果を有すると記載されている。
【0005】
また、煩雑な設定操作を不要とし、低コスト化、省スペース化を図ることを目的として、種類は同じであるが設定が互いに異なる複数のモータ(複数の同期モータ、誘導モータ等)を選択して駆動することが可能なモータ駆動装置を実現しようとする提案されている。
【0006】
この提案によれば、同一種で制御条件が互いに異なる複数のモータの制御が可能な制御装置と、この制御装置にどのモータを如何なる定数設定をして制御するかの指示を与える指示手段とを設け、この指示手段からの指示により複数のモータのいずれか一つを選択的に制御可能となる。
【0007】
また、指示手段は、スイッチまたはパソコンまたはローダであってもよく、制御装置とは専用線を介して接続されることが開示されている。また、1台の装置で複数の同期モータを選択的に制御可能としたので、装置が簡素化されてコストが低減されるとともに、装置が小型化されて省スペースとなる利点が得られることが、例えば下記特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平08−080091号公報
【特許文献2】特開2001−190094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
駆動対象となるモータの種類が異なれば、モータの特性も各々異なることとなるので、特定のモータの特性に整合させて設計されたモータを駆動するモータ駆動電流アンプやモータ駆動装置やその駆動方法は、他のモータには適用できなかった。
【0010】
このため、モータを駆動するモータ駆動電流アンプ等は、従来、モータとのセット物として構成されており、モータのみを他のモータに変更して利用可能な汎用性のあるモータ駆動電流アンプ等は知られていない。
【0011】
また、特定のモータの特性に整合するよう設計されたモータ駆動電流アンプを、これに整合しないモータの駆動に用いた場合には、帯域の悪化や発振等の障害が発生することが懸念され、典型的には故障して動作不能となる畏れもある。
【0012】
本発明は上述の問題点に鑑み為されたものであり、特性の異なる複数の種類のモータに対しても、信頼性高く良好に適用可能であり安定してモータを駆動できる、モータ駆動電流アンプとモータ駆動装置とその駆動方法とモータ駆動システムとを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のモータ駆動電流アンプは、駆動対象となるモータへの出力電流リップルを検出する出力電流リップル検出部と、出力電流リップル検出部が検出した出力電流リップルに対応して、モータへの出力電流を制御する制御特性を変更するPID制御部と、を備えることを特徴とする。
【0014】
また、本発明のモータ駆動電流アンプは、好ましくはPID制御部から出力信号が入力されて、PWM制御を遂行するPWM制御部を備えることを特徴とする。
【0015】
また、本発明のモータ駆動電流アンプは、さらに好ましくはPWM制御部から出力されるPWM信号に対応してスイッチング素子のオン・オフが制御されるフルブリッジ回路を備えることを特徴とする。
【0016】
また、本発明のモータ駆動電流アンプは、さらに好ましくはPID制御部の変更される制御特性が、抵抗値であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明のモータ駆動電流アンプは、さらに好ましくは駆動対象となるモータを他のモータに変更した場合に、PID制御部の制御特性を変更することを特徴とする。
【0018】
また、本発明のモータ駆動電流アンプは、さらに好ましくは駆動対象となるモータを駆動している間、出力電流リップル検出部は、常に出力電流リップルを検出するとともに、PID制御部は、検出された出力電流リップルに対応して、モータへの出力電流を制御する制御特性を変更することを特徴とする。
【0019】
また、本発明のモータ駆動装置は、駆動対象となるモータへの出力電流リップルを検出する出力電流リップル検出部と、出力電流リップル検出部が検出した出力電流リップルに対応して、モータへの出力電流を制御する制御特性を変更するPID制御部と、PID制御部から出力信号が入力されて、PWM制御を遂行するPWM制御部と、PWM制御部から出力されるPWM信号に対応してスイッチング素子のオン・オフが制御されるフルブリッジ回路とを備えることを特徴とする。
【0020】
また、本発明のモータ駆動装置は、好ましくはPID制御部の変更される制御特性が、抵抗値であることを特徴とする。
【0021】
また、本発明のモータ駆動装置は、さらに好ましくは駆動対象となるモータを他のモータに変更した場合に、PID制御部の制御特性を変更することを特徴とする。
【0022】
また、本発明のモータ駆動装置は、さらに好ましくは駆動対象となるモータを駆動している間、出力電流リップル検出部は、常に出力電流リップルを検出するとともに、PID制御部は、検出された出力電流リップルに対応して、モータへの出力電流を制御する制御特性を変更することを特徴とする。
【0023】
また、本発明のモータ駆動電流アンプの駆動方法は、上述のいずれかに記載のモータ駆動電流アンプの駆動方法において、出力電流リップル検出部が、モータを駆動するための出力電流の出力電流リップルを検出する工程と、PID制御部が、検出した出力電流リップルに対応して、モータへの出力電流を制御する制御特性を変更する工程と、を有することを特徴とする。
【0024】
また、本発明のモータ駆動装置の駆動方法は、上述のいずれかに記載のモータ駆動装置の駆動方法において、出力電流リップル検出部が、モータを駆動するための出力電流の出力電流リップルを検出する工程と、PID制御部が、検出した出力電流リップルに対応して、モータへの出力電流を制御する制御特性を変更する工程と、PWM制御部が、制御特性が変更されたPID制御部からの出力に基づいてPWM信号を生成する工程と、PWM制御部から出力されるPWM信号に対応してフルブリッジ回路のスイッチング素子のオン・オフを制御する工程とを有することを特徴とする。
【0025】
また、本発明のモータ駆動システムは、上述のいずれかに記載のモータ駆動電流アンプと、モータ駆動電流アンプと並列に接続されていずれか一つが選択的に駆動される複数のモータとを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
特性の異なる複数の種類のモータに対しても、信頼性高く良好に適用可能であり安定してモータを駆動できる、モータ駆動電流アンプとモータ駆動装置とその駆動方法とモータ駆動システムとを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施形態のモータ駆動電流アンプの構成概要を説明するブロック図である。
【図2】モータ駆動電流アンプの特性切替え部について具体的構成を説明する回路図である。
【図3】リップル電流値検出部で検出したリップル振幅の大きさと、可変抵抗の値と、の相対的な関係を説明する図である。
【図4】モータ駆動電流アンプの指令値入力に対する出力電流の反応の関係を説明する概念図である。
【図5】モータ駆動電流アンプのリップル電流値検出部が検出するリップル(ΔI)について説明する図である。
【図6】モータ駆動電流アンプがモータ駆動の特性を変更する方法の一例について説明するフロー図である。
【図7】三つのモータのうち適宜選択された任意のいずれか一つに対して、その特性に適合した安定した駆動制御を遂行することが可能なディジタル制御のモータ駆動電流アンプシステムの構成概要を説明するブロック図である。
【図8】モータ駆動電流アンプシステムの具体的な構成事例を説明する図である。
【図9】従来のモータ駆動電流アンプを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
通常、モータの個々の特性に整合させるように個別調整されたモータ駆動電流アンプは、モータの種類や特性が異なれば対応することができず、適切なモータ駆動を為し得ない。
【0029】
一般には、特定のモータ駆動電流アンプで適切に駆動することが可能なモータの種類や特性は極めて限定されたものとなる。また、モータ駆動電流アンプの制御特性は、駆動対象となる個々のモータのインダクタンス値(L)に対応するように、それぞれ固定値として設定される。
【0030】
一方、本実施形態で以下に説明するモータ駆動電流アンプは、特性の異なる複数のモータに対応することができる。実施形態のモータ駆動電流アンプは、駆動対象となるモータに対する出力電流リップルの大きさを検出することにより、モータ駆動電流アンプ自体の制御定数を、駆動対象モータに整合させて調整・変更する。
【0031】
駆動対象となるモータに対する出力電流リップルの大きさは、駆動対象となるモータのインダクタンス値(L)に対応している。このため、出力電流リップルの大きさを検出することにより、駆動対象となるモータのインダクタンス値(L)の特性を間接的に把握することが可能となる。
【0032】
具体的には、実施形態のモータ駆動電流アンプは、そのPID制御を担うPID制御部の制御パラメータである比例(P)または積分(I)または微分(D)のいずれか一つ以上について、出力電流リップルの大きさに対応させて、制御パラメータを適切に変更する。これにより、実施形態のモータ駆動電流アンプは、インダクタンス値(L)の異なる二以上のモータに対しても、適切に駆動し得るものとなる。
【0033】
図1は、実施形態のモータ駆動電流アンプ1000の構成概要を説明するブロック図である。図1に示すように、モータ駆動電流アンプ1000は、PWM(Pulse Width Modulation)方式であって、フルブリッジ回路を構成する各スイッチング素子Q1,Q2,Q3,Q4を適宜オン・オフすることにより、モータ1600を駆動する電流を出力する。
【0034】
スイッチング素子Q1,Q4が共にオンである場合にはスイッチング素子Q2,Q3が共にオフとされ、スイッチング素子Q1,Q4が共にオフである場合にはスイッチング素子Q2,Q3が共にオンとされる。また、オンとオフとの切り替え時には、すべてのスイッチング素子Q1,Q2,Q3,Q4をオフにする、いわゆるデッドタイムを設けて駆動する。
【0035】
図1において、モータ駆動電流アンプ1000は、モータ1600に出力する駆動電流を検出する出力電流検出部1100と、出力電流検出部1100が検出した電流と入力される指令値等とに基づいてPID制御を遂行するPID制御部1200と、を備える。
【0036】
また、モータ駆動電流アンプ1000は、PID制御部1200からの出力値等に基づいてPWM信号を生成するPWM制御部1300と、PWM制御部1300から出力されたPWM信号に基づいて四つのスイッチング素子Q1,Q2,Q3,Q4を各々オン・オフ制御するスイッチング素子制御回路部1400とを備える。
【0037】
また、モータ駆動電流アンプ1000は、出力電流検出部1100が検出した出力電流からリップル電流の大きさを検出するリップル電流値検出部1510を備える。リップル電流値検出部1510の出力は、A/D変換部1520でアナログ/ディジタル変換されて、PID制御部1200の可変抵抗に反映される。
【0038】
すなわち、モータ駆動電流アンプ1000は、PID制御部1200の抵抗(P)の少なくとも一部が可変抵抗で構成されており、リップル電流値検出部1510で検出されたリップル電流の大きさに対応してその可変抵抗値を変化させる。また、図1においては、リップル電流値検出部1510と、A/D変換部1520と、可変抵抗とを含めて、PID制御部1200の制御特性を切り替えるための一連の動作をする特性切替え部1500として示している。しかし、可変抵抗は、PID制御部1200の抵抗(P)成分の特性を変更する機能的観点からすれば、PID制御部1200内に含まれるものと解される。
【0039】
図2は、モータ駆動電流アンプ1000の特性切替え部1500について具体的構成の一例を説明する回路図である。図2に示すように、特性切替え部1500は、二つのコンデンサと三つの抵抗と整流ダイオードとから構成されたリップル電流値を検出する回路と、リップル電流値の大きさに対応してコンパレータの動作を切替え制御させる切替え抵抗Rc1,Rc2,Rc3と、から構成されるリップル電流値検出部1510を備える。
【0040】
また、リップル電流値検出部1510は、切替え抵抗Rc1,Rc2,Rc3の設定値を適宜調整しておくことで、検出したリップル電流の大きさに対応して、可変抵抗1530の抵抗値を切替え制御するA/D変換部1520の動作を適切なものとできる。これにより、リップル電流の大きさに対応して、すなわちモータのインダクタンス値(L)の大きさに対応して、可変抵抗値1530(1),1530(2)(以下、適宜可変抵抗1530と総称する)が、A/D変換部1520からの出力に基づいて適正な値に変更される。
【0041】
図2において、可変抵抗1530は、電流検出信号に対して直列に挿入される第一可変抵抗1530(1)と、指令値入力に対して直列に挿入される第二可変抵抗1530(2)として説明している。また、第一可変抵抗1530(1)と第二可変抵抗1530(2)とは、互いに同一のスイッチ制御とされて同一の抵抗値であるものとする。
【0042】
図3は、リップル電流値検出部1510で検出したリップル電流の振幅の大きさと、可変抵抗1530(1),1530(2)の各抵抗値(P)と、の相対的な対応関係を説明する図である。図3に示すように、リップル電流の振幅が比較的小さい場合には、モータ駆動電流アンプ1000に接続されているモータ1600のインダクタンス(L)の大きさは比較的大きいと推測される。
【0043】
この場合には、PID制御部1200の比例成分となる抵抗(P)を比較的大きく設定するために、可変抵抗1530(1),1530(2)のスイッチS1のみをオンとする。また、リップル電流の振幅が比較的大きい場合には、モータ駆動電流アンプ1000に接続されているモータ1600のインダクタンス(L)の大きさは比較的小さいと推測される。
【0044】
この場合には、PID制御部1200の比例成分となる抵抗(P)を比較的小さく設定するために、可変抵抗1530(1),1530(2)のスイッチS1,S2,S3をオンとする。また、リップル電流の振幅が中程度である場合には、モータ駆動電流アンプ1000に接続されているモータ1600のインダクタンス(L)の大きさは中程度であると推測される。
【0045】
この場合には、PID制御部1200の比例成分となる抵抗(P)を中程度に設定するために、可変抵抗1530(1),1530(2)のスイッチS1,S2のみをオンとする。また、図2と図3とに示したように、第一可変抵抗1530(1)と第二可変抵抗1530(2)とにおいて、抵抗値の大きさは各々、(スイッチS1のみをオンした場合)>(スイッチS1,S2のみをオンした場合)>(スイッチS1,S2,S3をオンした場合)となる。
【0046】
また、図3に示す対応関係は、変換テーブル等として予め設定し、またはメモリ等に記憶しておいてもよい。図3に説明した対応関係は、あくまで相対的な関係であって、必要なモータ動作条件等に応じて適宜アレンジして適用してもよい。モータ駆動電流アンプ1000で駆動するモータ1600を変更した場合に、その出力電流に重畳されているリップル電流の大きさが変更前のモータと比較して大きければ、抵抗(P)を大きく変更すればよい。また、モータ駆動電流アンプ1000で駆動するモータ1600を変更した場合に、その出力電流に重畳されているリップル電流の大きさが変更前のモータと比較して小さければ、抵抗(P)を小さく変更すればよい。
【0047】
図4は、図1に示したモータ駆動電流アンプ1000への指令値入力と、出力電流の反応と、の関係を説明する概念図である。ここで、モータ駆動電流アンプ1000への指令値入力は、モータ駆動電流アンプ1000の駆動に関する電圧波形による指示入力であって、上位のコンピュータ等から、モータ1600の回転数や被駆動対象物の位置情報等に基づいて、モータ1600をどのように駆動すべきかの指示としてPID制御部1200へ入力される。
【0048】
図4から理解できるように、モータ1600のインダクタンス値(L)が電流アンプの制御特性との関係で適正でない場合(例えば、駆動モータの種類を異なるモータに代えた場合であって電流アンプ側の制御特性が変更前のモータ時と同一である場合等)には、発振波形440を示すことがあり、適切な出力電流が得られなかったり、駆動障害が生じたり、最悪時には故障したりする場合がある。モータ駆動電流アンプ1000は、モータ1600のインダクタンス値(L)が比較的小さい場合には、抵抗(P)を比較的大きくして、周波数(F)特性が比較的小さい波形430とする。これにより、発振波形440を示すより小さな周波数において、出力電流の反応(Gain)が立ち下がるので、発振が回避される。
【0049】
また、モータ駆動電流アンプ1000は、モータ1600のインダクタンス値(L)が比較的大きい場合には、抵抗(P)を比較的小さくして、周波数(F)特性が比較的大きい波形410とする。モータ駆動電流アンプ1000は、モータ1600のインダクタンス値(L)が中程度である場合には、抵抗(P)を中程度として、周波数(F)特性が中程度となる波形420とする。すなわち、モータ駆動電流アンプ1000は、モータ1600のインダクタンス値(L)が比較的小さい程、抵抗(P)を大きくして、周波数(F)特性が小さくなるように制御特性を変更する。典型的には、発振が生じる懸念のある周波数より小さい最大の周波数(F)で出力電流の反応(Gain)が立ち下がるものとする。
【0050】
上述した駆動及び制御動作によって、モータ駆動電流アンプ1000は、モータ1600の種類が異なり、その結果インダクタンス値(L)が異なる場合でも、発振波形440を示すことなく、かつ可能な限り高い出力周波数特性を示すように、PID制御特性を変更することができる。すなわち、モータ駆動電流アンプ1000は、特性の異なる複数の種類のモータ1600に対しても、発振等の制御不具合を回避して、適切な駆動制御を遂行することが可能となる。
【0051】
また、図5は、モータ駆動電流アンプ1000のリップル電流値検出部1510が検出するリップル(ΔI)について説明する図である。図5から理解できるように、リップル(ΔI)は、モータ駆動電流(Iu)に対して、高い周波数を有して重畳されるものとなる。
【0052】
図5において、例えば三相交流モータのステータコイルに流れる電流を(Iu)とすれば、この電流(Iu)をステータコイルに流すために、PWM制御されたインバータが用いられる。
【0053】
インバータのPWM制御では、キャリア周波数(fc)でパワー素子をスイッチングさせる。このキャリア周波数の周期を有するリップル電流(ΔI)が三相交流電流(Iu)に重畳される。また、リップル電流(ΔI)の振幅大きさは、三相交流モータのインダクタンス値(L)に対応する。
【0054】
PWM制御を遂行する限り、リップル電流(ΔI)をゼロにすることは難しい。また、リップル電流(ΔI)を同一駆動期間中可能な限り一様に保つことにより、モータ1600等で生じる発熱や電磁的な騒音を低減することも可能である。
【0055】
また、モータへ要求される駆動力の変化や、回転速度の変化時の性能向上や、パワー素子の過熱からの保護などを目的として、PWM制御においてキャリア周波数(fc)を切り替える等、駆動条件を変更する場合もある。また、モータ1600等で生じる発熱や電磁的な騒音等が比較的小さくても、キャリア周波数(fc)を切り替える等駆動条件を変更することにより、リップル電流(ΔI)のレベルが大きく変動する場合もあり、これにより電磁的な騒音の音質や発熱量が変化する場合もある。
【0056】
図6は、モータ駆動電流アンプ1000がモータ駆動の特性を変更する方法の一例について説明するフロー図である。以下、図6に示すステップごとに、モータ駆動電流アンプ1000がモータ駆動の特性を変更する方法の一例について詳細に説明する。
【0057】
(ステップS610)
モータ駆動電流アンプ1000への指令値入力の有無または電源投入の有無等に対応して、モータ1600に駆動電流を出力するか否かを判断する。モータ駆動電流アンプ1000がモータ1600に駆動電流を出力する場合には、ステップS620へと進む。また、モータ駆動電流アンプ1000がモータ1600に駆動電流を出力しない場合には、ステップS610で待機する。
【0058】
(ステップS620)
モータ駆動電流アンプ1000のリップル電流値検出部1510が、出力電流波形に重畳されているリップル電流の振幅大きさを検出する。
【0059】
(ステップS630)
リップル電流値検出部1510は、検出したリップル電流の振幅大きさが比較的小さいか否かを判断する。リップル電流値検出部1510が、検出したリップル電流の振幅大きさが比較的小さいと判断した場合には、ステップS640へと進む。また、リップル電流値検出部1510が、検出したリップル電流の振幅大きさが比較的小さくないと判断した場合には、ステップS650へと進む。
【0060】
(ステップS640)
A/D変換部1520は、リップル電流値検出部1510の出力に対応して、PID制御部1200の可変抵抗1530を比較的小さく設定する。
【0061】
(ステップS650)
A/D変換部1520は、リップル電流値検出部1510の出力に対応して、PID制御部1200の可変抵抗1530を比較的大きく設定する。
【0062】
(ステップS660)
PID制御部1200からの出力に基づいて、PWM制御部1300がPWM制御信号を生成する。ここで、PID制御特性は、駆動対象となるモータ1600の特性であるインダクタンス値(L)に整合した制御特性として反映されているので、PWM制御部1300が生成したPWM制御信号に基づいた制御とすることで、発振等の不安定な制御となることが防止される。なお、実施形態で説明するモータ駆動電流アンプ1000においては、図3に示すような制御特性の変更について、図2に示すリップル電流値検出部1510の切替え抵抗Rc1,Rc2,Rc3の値を予め適正な抵抗値として適宜調整しておくことで、実現可能である。
【0063】
(ステップS670)
スイッチング素子制御回路部1400は、PWM制御部1300が生成したPWM制御信号に基づいて、フルブリッジ回路を構成する各スイッチング素子Q1,Q2,Q3,Q4を適宜オン・オフ動作させる。上述した駆動によって種類が異なるモータ1600、あるいは特性が異なるモータ1600が接続されたとしても、一つのモータ駆動電流アンプ1000で対応でき、安定した駆動制御を遂行することが可能となる。また、モータ駆動電流アンプ1000は、ディジタルボリュームを備える可変抵抗1530を用いて構成してもよい。
【0064】
図7は、三つのモータ1600(1),1600(2),1600(3)のうち適宜選択された任意のいずれか一つに対して、モータ特性に適合した安定した駆動制御を遂行することが可能なディジタル制御のモータ駆動電流アンプシステム7000の構成概要を説明するブロック図である。
【0065】
すなわち、モータ駆動電流アンプ1000のようにアナログ回路による構成としてもよいし、図7に示すように、特性切替え部1500等の一部または全部をマイコンやDSP(Digital Signal Processor)等でディジタル構成し、プログラムによって動作するモータ駆動電流アンプシステム7000のように構成してもよい。
【0066】
図7において、モータ駆動電流アンプシステム7000は、いずれか一つが駆動可能となるように択一的に並列接続される三つのモータ1600(1),1600(2),1600(3)と、駆動対象となる任意の一つのモータを選択切り替えするモータ選択切替え部710とを備える。
【0067】
モータ選択切替え部710は、オペレータからの操作または上位のコンピュータからの指示入力等に対応して、いずれか一つのモータ1600を駆動対象として選択的に接続したり、指示入力等に対応して他のいずれか一つのモータ1600に切り替えたりしてもよい。また、モータ駆動電流アンプシステム7000は、選択接続された任意の一つのモータ1600への出力電流を検出する出力電流検出部7100と、リップル電流の大きさを検出する出力するリップル検出部7510とを備える。
【0068】
図7においては、リップル検出部7510は、出力電流検出部7100の内部に備えられる構成として説明しているが、リップル検出部7510を別途出力電流検出部7100の外部に備えるものとして構成してもよい。
【0069】
また、モータ駆動電流アンプシステム7000は、出力電流検出部7100が検出した出力電流と、リップル検出部7510が検出したリップルの大きさと、上位コンピュータ等から入力される指示値入力と、に基づいてPID制御を遂行するPID制御部7200を備える。
【0070】
この場合に、上位コンピュータ等から入力される指示値入力は、モータ1600を所望の回転数や所望の動作とするために、モータ1600の回転数情報や被駆動対象物の位置情報等に基づいて、上位コンピュータ等から指示入力されるモータ駆動に関する電圧波形等である。
【0071】
PID制御部7200は、リップル検出部7510を介して取得されたリップルの大きさに対応して、PID制御特性を適宜変更する。PID制御部7200は、比例(P)または積分(I)または微分(D)のいずれか一つ以上について、リップルの大きさに対応して変更してもよい。
【0072】
PID制御部7200が、比例成分(P)としての抵抗(P)を図3に説明したように特性変更する場合には、予めモータ1600のリップル大きさ(インダクタンス値(L)に対応)とこれに対応する適切な抵抗値(P)との基準値セットを測定等により決定しておき、これをプリセット等として記憶しておいてもよい。
【0073】
PID制御部7200は、記憶している基準値セットのリップル大きさに対して、現実に駆動対象として選択されたモータ1600のリップル検出部7510で検出されたリップル電流大きさが、大きいか小さいか同程度であるか等に対応して、抵抗値(P)の大きさを小さくしたり大きくしたり同程度としたり等特性変更することとしてもよい。
【0074】
また、モータ駆動電流アンプシステム7000は、PID制御部7200からの出力信号等に基づいてPWM制御信号を生成するPWM制御部7300と、PWM制御部7300が生成したPWM制御信号に基づいて、フルブリッジ回路を構成する各スイッチング素子Q1,Q2,Q3,Q4を適宜オン・オフするスイッチング素子制御回路部7400を備える。
【0075】
なお、モータ駆動電流アンプシステム7000は、モータ駆動電流アンプ1000と同様に、入力電源やフルブリッジ回路構成や平滑コイルや平滑コンデンサ等を備えるが、これらの構成及び基本的な動作はモータ駆動電源アンプ等として周知の構成であるので、ここでは当該事項に関する説明を省略する。また、図8は、ディジタル回路構成を有するモータ駆動電流アンプシステム7000の具体的な構成事例を説明する図である。また、図9は、従来のモータ駆動電流アンプを説明する図である。
【0076】
モータ駆動電流アンプ1000とモータ駆動電流アンプシステム7000とは、駆動対象となる任意のモータ1600の駆動電流からリップル電流大きさを検出し、リップル電流大きさに対応してPID制御特性を変更させるので、適切に駆動可能なモータ1600の種類が飛躍的に増大し、特性の異なる種々のモータに対しても安定した駆動を遂行できる。従って、モータごとにモータ駆動電流アンプを個別対応で個々に用意する必要がなく、特性の異なる複数のモータに汎用可能なモータ駆動電流アンプを実現できる。
【0077】
また、例えば図9に示す従来のモータ駆動電流アンプであれば、モータの特性に合わせて設計されるので、特定の電流アンプで駆動できるモータの種類は極めて限定される。仮に、適合しないモータと電流アンプとの組み合わせでモータ駆動すれば、帯域が悪化したり、発振したり、故障したり好ましくない状況を招来する。このため、モータを変更する場合には、従来、電流アンプも共に変更せざるを得なかった。
【0078】
また、適合する特定のモータを駆動する場合でも、例えば重畳電流が大きくなる等動作条件が異なれば、インダクタンス値(L)が低減されるなど変動し、これに起因してモータと電流アンプとの動作特性がミスマッチすることもある。従って、モータと電流アンプとの組み合わせを異なる動作条件にも対応できるように設定することは、従来、困難であった。
【0079】
モータ駆動電流アンプシステム7000等においては、所望の動作条件時における任意のモータに対して、当該駆動条件下における現実のリップル電流大きさを検出し、これに対応してPID制御特性を適切に変更するので、一つの電流アンプで複数の特性の異なるモータに適応可能となる。
【0080】
また、モータ駆動電流アンプ1000とモータ駆動電流アンプシステム7000とは、モータの試験運転や駆動初期段階、典型的には電源の投入時においてのみ、リップル電流大きさを検出し、PID特性を設定変更してもよい。これにより、前回の駆動時とは特性の異なるモータを今回駆動する場合でも、今回駆動するモータに整合した駆動制御を実現できる。
【0081】
また、モータ駆動電流アンプ1000とモータ駆動電流アンプシステム7000とは、モータの試験動作や駆動初期段階においてのみではなく、駆動運転中、常にリップル電流大きさを検出し、リップル電流大きさを常にフィードバックすることにより、これに対応してPID特性を変更するようにフィードバック制御してもよい。これにより、仮にモータ駆動の動作条件がモータ駆動制御中に変動した場合でも、適切に対応可能な電流アンプを実現できる。
【0082】
上述したモータ駆動電流アンプ1000とモータ駆動電流アンプシステム7000とは、実施形態での説明に限定されるものではなく、本実施形態で説明する技術思想の範囲内かつ自明な範囲で、適宜その構成や動作及び駆動方法等を変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、各種産業用モータ等のモータドライブや電流アンプ、駆動システム等に適用できる。
【符号の説明】
【0084】
1000・・モータ駆動電流アンプ、1100・・出力電流検出部、1200・・PID制御部、1300・・PWM制御部、1400・・スイッチング素子制御回路部、1500・・特性切替え部、1510・・リップル電流値検出部、1520・・A/D変換部、1600・・モータ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータを駆動するモータ駆動電流アンプとモータ駆動装置とその駆動方法とモータ駆動システムとに関し、特に異なる複数種類のモータに対応可能なPWM方式のモータ駆動電流アンプ等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータ駆動ICでは、モータの数に応じてブリッジの数を決定しているので、使用するモータの数が変更されると、既に利用されていたモータ駆動ICを適用することが難しく、ICの汎用性に乏しいという問題があることが知られている。
【0003】
このような問題に対応して、小型でかつ汎用性の高い構成を有し、複数のモータを駆動可能なモータ駆動装置を提供することを目的とし、同一の装置内に、1チャンネル分のドライバ回路と、1チャンネル分の第1プリドライバ及び0.5チャンネル分の第2プリドライバとを設け、更に、選択信号の組み合わせに応じて、第1及び第2プリドライバを選択的に動作させるロジック回路を設けるモータ駆動装置が、例えば下記特許文献1に開示されている。
【0004】
このモータ駆動装置によれば、ロジック回路は、組み合わせ信号として供給される選択信号に応じて、第1及び第2プリドライバを選択的に動作させることができるので、駆動するモータ数が変更された場合には、モータ駆動装置を複数組み合わせたり、更に装置に外付けのドライバ部を付加したりすることにより、モータ駆動装置の構造自体に変更を加えることなく対応でき、モータ駆動装置の適用範囲が広いという効果を有すると記載されている。
【0005】
また、煩雑な設定操作を不要とし、低コスト化、省スペース化を図ることを目的として、種類は同じであるが設定が互いに異なる複数のモータ(複数の同期モータ、誘導モータ等)を選択して駆動することが可能なモータ駆動装置を実現しようとする提案されている。
【0006】
この提案によれば、同一種で制御条件が互いに異なる複数のモータの制御が可能な制御装置と、この制御装置にどのモータを如何なる定数設定をして制御するかの指示を与える指示手段とを設け、この指示手段からの指示により複数のモータのいずれか一つを選択的に制御可能となる。
【0007】
また、指示手段は、スイッチまたはパソコンまたはローダであってもよく、制御装置とは専用線を介して接続されることが開示されている。また、1台の装置で複数の同期モータを選択的に制御可能としたので、装置が簡素化されてコストが低減されるとともに、装置が小型化されて省スペースとなる利点が得られることが、例えば下記特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平08−080091号公報
【特許文献2】特開2001−190094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
駆動対象となるモータの種類が異なれば、モータの特性も各々異なることとなるので、特定のモータの特性に整合させて設計されたモータを駆動するモータ駆動電流アンプやモータ駆動装置やその駆動方法は、他のモータには適用できなかった。
【0010】
このため、モータを駆動するモータ駆動電流アンプ等は、従来、モータとのセット物として構成されており、モータのみを他のモータに変更して利用可能な汎用性のあるモータ駆動電流アンプ等は知られていない。
【0011】
また、特定のモータの特性に整合するよう設計されたモータ駆動電流アンプを、これに整合しないモータの駆動に用いた場合には、帯域の悪化や発振等の障害が発生することが懸念され、典型的には故障して動作不能となる畏れもある。
【0012】
本発明は上述の問題点に鑑み為されたものであり、特性の異なる複数の種類のモータに対しても、信頼性高く良好に適用可能であり安定してモータを駆動できる、モータ駆動電流アンプとモータ駆動装置とその駆動方法とモータ駆動システムとを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のモータ駆動電流アンプは、駆動対象となるモータへの出力電流リップルを検出する出力電流リップル検出部と、出力電流リップル検出部が検出した出力電流リップルに対応して、モータへの出力電流を制御する制御特性を変更するPID制御部と、を備えることを特徴とする。
【0014】
また、本発明のモータ駆動電流アンプは、好ましくはPID制御部から出力信号が入力されて、PWM制御を遂行するPWM制御部を備えることを特徴とする。
【0015】
また、本発明のモータ駆動電流アンプは、さらに好ましくはPWM制御部から出力されるPWM信号に対応してスイッチング素子のオン・オフが制御されるフルブリッジ回路を備えることを特徴とする。
【0016】
また、本発明のモータ駆動電流アンプは、さらに好ましくはPID制御部の変更される制御特性が、抵抗値であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明のモータ駆動電流アンプは、さらに好ましくは駆動対象となるモータを他のモータに変更した場合に、PID制御部の制御特性を変更することを特徴とする。
【0018】
また、本発明のモータ駆動電流アンプは、さらに好ましくは駆動対象となるモータを駆動している間、出力電流リップル検出部は、常に出力電流リップルを検出するとともに、PID制御部は、検出された出力電流リップルに対応して、モータへの出力電流を制御する制御特性を変更することを特徴とする。
【0019】
また、本発明のモータ駆動装置は、駆動対象となるモータへの出力電流リップルを検出する出力電流リップル検出部と、出力電流リップル検出部が検出した出力電流リップルに対応して、モータへの出力電流を制御する制御特性を変更するPID制御部と、PID制御部から出力信号が入力されて、PWM制御を遂行するPWM制御部と、PWM制御部から出力されるPWM信号に対応してスイッチング素子のオン・オフが制御されるフルブリッジ回路とを備えることを特徴とする。
【0020】
また、本発明のモータ駆動装置は、好ましくはPID制御部の変更される制御特性が、抵抗値であることを特徴とする。
【0021】
また、本発明のモータ駆動装置は、さらに好ましくは駆動対象となるモータを他のモータに変更した場合に、PID制御部の制御特性を変更することを特徴とする。
【0022】
また、本発明のモータ駆動装置は、さらに好ましくは駆動対象となるモータを駆動している間、出力電流リップル検出部は、常に出力電流リップルを検出するとともに、PID制御部は、検出された出力電流リップルに対応して、モータへの出力電流を制御する制御特性を変更することを特徴とする。
【0023】
また、本発明のモータ駆動電流アンプの駆動方法は、上述のいずれかに記載のモータ駆動電流アンプの駆動方法において、出力電流リップル検出部が、モータを駆動するための出力電流の出力電流リップルを検出する工程と、PID制御部が、検出した出力電流リップルに対応して、モータへの出力電流を制御する制御特性を変更する工程と、を有することを特徴とする。
【0024】
また、本発明のモータ駆動装置の駆動方法は、上述のいずれかに記載のモータ駆動装置の駆動方法において、出力電流リップル検出部が、モータを駆動するための出力電流の出力電流リップルを検出する工程と、PID制御部が、検出した出力電流リップルに対応して、モータへの出力電流を制御する制御特性を変更する工程と、PWM制御部が、制御特性が変更されたPID制御部からの出力に基づいてPWM信号を生成する工程と、PWM制御部から出力されるPWM信号に対応してフルブリッジ回路のスイッチング素子のオン・オフを制御する工程とを有することを特徴とする。
【0025】
また、本発明のモータ駆動システムは、上述のいずれかに記載のモータ駆動電流アンプと、モータ駆動電流アンプと並列に接続されていずれか一つが選択的に駆動される複数のモータとを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
特性の異なる複数の種類のモータに対しても、信頼性高く良好に適用可能であり安定してモータを駆動できる、モータ駆動電流アンプとモータ駆動装置とその駆動方法とモータ駆動システムとを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施形態のモータ駆動電流アンプの構成概要を説明するブロック図である。
【図2】モータ駆動電流アンプの特性切替え部について具体的構成を説明する回路図である。
【図3】リップル電流値検出部で検出したリップル振幅の大きさと、可変抵抗の値と、の相対的な関係を説明する図である。
【図4】モータ駆動電流アンプの指令値入力に対する出力電流の反応の関係を説明する概念図である。
【図5】モータ駆動電流アンプのリップル電流値検出部が検出するリップル(ΔI)について説明する図である。
【図6】モータ駆動電流アンプがモータ駆動の特性を変更する方法の一例について説明するフロー図である。
【図7】三つのモータのうち適宜選択された任意のいずれか一つに対して、その特性に適合した安定した駆動制御を遂行することが可能なディジタル制御のモータ駆動電流アンプシステムの構成概要を説明するブロック図である。
【図8】モータ駆動電流アンプシステムの具体的な構成事例を説明する図である。
【図9】従来のモータ駆動電流アンプを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
通常、モータの個々の特性に整合させるように個別調整されたモータ駆動電流アンプは、モータの種類や特性が異なれば対応することができず、適切なモータ駆動を為し得ない。
【0029】
一般には、特定のモータ駆動電流アンプで適切に駆動することが可能なモータの種類や特性は極めて限定されたものとなる。また、モータ駆動電流アンプの制御特性は、駆動対象となる個々のモータのインダクタンス値(L)に対応するように、それぞれ固定値として設定される。
【0030】
一方、本実施形態で以下に説明するモータ駆動電流アンプは、特性の異なる複数のモータに対応することができる。実施形態のモータ駆動電流アンプは、駆動対象となるモータに対する出力電流リップルの大きさを検出することにより、モータ駆動電流アンプ自体の制御定数を、駆動対象モータに整合させて調整・変更する。
【0031】
駆動対象となるモータに対する出力電流リップルの大きさは、駆動対象となるモータのインダクタンス値(L)に対応している。このため、出力電流リップルの大きさを検出することにより、駆動対象となるモータのインダクタンス値(L)の特性を間接的に把握することが可能となる。
【0032】
具体的には、実施形態のモータ駆動電流アンプは、そのPID制御を担うPID制御部の制御パラメータである比例(P)または積分(I)または微分(D)のいずれか一つ以上について、出力電流リップルの大きさに対応させて、制御パラメータを適切に変更する。これにより、実施形態のモータ駆動電流アンプは、インダクタンス値(L)の異なる二以上のモータに対しても、適切に駆動し得るものとなる。
【0033】
図1は、実施形態のモータ駆動電流アンプ1000の構成概要を説明するブロック図である。図1に示すように、モータ駆動電流アンプ1000は、PWM(Pulse Width Modulation)方式であって、フルブリッジ回路を構成する各スイッチング素子Q1,Q2,Q3,Q4を適宜オン・オフすることにより、モータ1600を駆動する電流を出力する。
【0034】
スイッチング素子Q1,Q4が共にオンである場合にはスイッチング素子Q2,Q3が共にオフとされ、スイッチング素子Q1,Q4が共にオフである場合にはスイッチング素子Q2,Q3が共にオンとされる。また、オンとオフとの切り替え時には、すべてのスイッチング素子Q1,Q2,Q3,Q4をオフにする、いわゆるデッドタイムを設けて駆動する。
【0035】
図1において、モータ駆動電流アンプ1000は、モータ1600に出力する駆動電流を検出する出力電流検出部1100と、出力電流検出部1100が検出した電流と入力される指令値等とに基づいてPID制御を遂行するPID制御部1200と、を備える。
【0036】
また、モータ駆動電流アンプ1000は、PID制御部1200からの出力値等に基づいてPWM信号を生成するPWM制御部1300と、PWM制御部1300から出力されたPWM信号に基づいて四つのスイッチング素子Q1,Q2,Q3,Q4を各々オン・オフ制御するスイッチング素子制御回路部1400とを備える。
【0037】
また、モータ駆動電流アンプ1000は、出力電流検出部1100が検出した出力電流からリップル電流の大きさを検出するリップル電流値検出部1510を備える。リップル電流値検出部1510の出力は、A/D変換部1520でアナログ/ディジタル変換されて、PID制御部1200の可変抵抗に反映される。
【0038】
すなわち、モータ駆動電流アンプ1000は、PID制御部1200の抵抗(P)の少なくとも一部が可変抵抗で構成されており、リップル電流値検出部1510で検出されたリップル電流の大きさに対応してその可変抵抗値を変化させる。また、図1においては、リップル電流値検出部1510と、A/D変換部1520と、可変抵抗とを含めて、PID制御部1200の制御特性を切り替えるための一連の動作をする特性切替え部1500として示している。しかし、可変抵抗は、PID制御部1200の抵抗(P)成分の特性を変更する機能的観点からすれば、PID制御部1200内に含まれるものと解される。
【0039】
図2は、モータ駆動電流アンプ1000の特性切替え部1500について具体的構成の一例を説明する回路図である。図2に示すように、特性切替え部1500は、二つのコンデンサと三つの抵抗と整流ダイオードとから構成されたリップル電流値を検出する回路と、リップル電流値の大きさに対応してコンパレータの動作を切替え制御させる切替え抵抗Rc1,Rc2,Rc3と、から構成されるリップル電流値検出部1510を備える。
【0040】
また、リップル電流値検出部1510は、切替え抵抗Rc1,Rc2,Rc3の設定値を適宜調整しておくことで、検出したリップル電流の大きさに対応して、可変抵抗1530の抵抗値を切替え制御するA/D変換部1520の動作を適切なものとできる。これにより、リップル電流の大きさに対応して、すなわちモータのインダクタンス値(L)の大きさに対応して、可変抵抗値1530(1),1530(2)(以下、適宜可変抵抗1530と総称する)が、A/D変換部1520からの出力に基づいて適正な値に変更される。
【0041】
図2において、可変抵抗1530は、電流検出信号に対して直列に挿入される第一可変抵抗1530(1)と、指令値入力に対して直列に挿入される第二可変抵抗1530(2)として説明している。また、第一可変抵抗1530(1)と第二可変抵抗1530(2)とは、互いに同一のスイッチ制御とされて同一の抵抗値であるものとする。
【0042】
図3は、リップル電流値検出部1510で検出したリップル電流の振幅の大きさと、可変抵抗1530(1),1530(2)の各抵抗値(P)と、の相対的な対応関係を説明する図である。図3に示すように、リップル電流の振幅が比較的小さい場合には、モータ駆動電流アンプ1000に接続されているモータ1600のインダクタンス(L)の大きさは比較的大きいと推測される。
【0043】
この場合には、PID制御部1200の比例成分となる抵抗(P)を比較的大きく設定するために、可変抵抗1530(1),1530(2)のスイッチS1のみをオンとする。また、リップル電流の振幅が比較的大きい場合には、モータ駆動電流アンプ1000に接続されているモータ1600のインダクタンス(L)の大きさは比較的小さいと推測される。
【0044】
この場合には、PID制御部1200の比例成分となる抵抗(P)を比較的小さく設定するために、可変抵抗1530(1),1530(2)のスイッチS1,S2,S3をオンとする。また、リップル電流の振幅が中程度である場合には、モータ駆動電流アンプ1000に接続されているモータ1600のインダクタンス(L)の大きさは中程度であると推測される。
【0045】
この場合には、PID制御部1200の比例成分となる抵抗(P)を中程度に設定するために、可変抵抗1530(1),1530(2)のスイッチS1,S2のみをオンとする。また、図2と図3とに示したように、第一可変抵抗1530(1)と第二可変抵抗1530(2)とにおいて、抵抗値の大きさは各々、(スイッチS1のみをオンした場合)>(スイッチS1,S2のみをオンした場合)>(スイッチS1,S2,S3をオンした場合)となる。
【0046】
また、図3に示す対応関係は、変換テーブル等として予め設定し、またはメモリ等に記憶しておいてもよい。図3に説明した対応関係は、あくまで相対的な関係であって、必要なモータ動作条件等に応じて適宜アレンジして適用してもよい。モータ駆動電流アンプ1000で駆動するモータ1600を変更した場合に、その出力電流に重畳されているリップル電流の大きさが変更前のモータと比較して大きければ、抵抗(P)を大きく変更すればよい。また、モータ駆動電流アンプ1000で駆動するモータ1600を変更した場合に、その出力電流に重畳されているリップル電流の大きさが変更前のモータと比較して小さければ、抵抗(P)を小さく変更すればよい。
【0047】
図4は、図1に示したモータ駆動電流アンプ1000への指令値入力と、出力電流の反応と、の関係を説明する概念図である。ここで、モータ駆動電流アンプ1000への指令値入力は、モータ駆動電流アンプ1000の駆動に関する電圧波形による指示入力であって、上位のコンピュータ等から、モータ1600の回転数や被駆動対象物の位置情報等に基づいて、モータ1600をどのように駆動すべきかの指示としてPID制御部1200へ入力される。
【0048】
図4から理解できるように、モータ1600のインダクタンス値(L)が電流アンプの制御特性との関係で適正でない場合(例えば、駆動モータの種類を異なるモータに代えた場合であって電流アンプ側の制御特性が変更前のモータ時と同一である場合等)には、発振波形440を示すことがあり、適切な出力電流が得られなかったり、駆動障害が生じたり、最悪時には故障したりする場合がある。モータ駆動電流アンプ1000は、モータ1600のインダクタンス値(L)が比較的小さい場合には、抵抗(P)を比較的大きくして、周波数(F)特性が比較的小さい波形430とする。これにより、発振波形440を示すより小さな周波数において、出力電流の反応(Gain)が立ち下がるので、発振が回避される。
【0049】
また、モータ駆動電流アンプ1000は、モータ1600のインダクタンス値(L)が比較的大きい場合には、抵抗(P)を比較的小さくして、周波数(F)特性が比較的大きい波形410とする。モータ駆動電流アンプ1000は、モータ1600のインダクタンス値(L)が中程度である場合には、抵抗(P)を中程度として、周波数(F)特性が中程度となる波形420とする。すなわち、モータ駆動電流アンプ1000は、モータ1600のインダクタンス値(L)が比較的小さい程、抵抗(P)を大きくして、周波数(F)特性が小さくなるように制御特性を変更する。典型的には、発振が生じる懸念のある周波数より小さい最大の周波数(F)で出力電流の反応(Gain)が立ち下がるものとする。
【0050】
上述した駆動及び制御動作によって、モータ駆動電流アンプ1000は、モータ1600の種類が異なり、その結果インダクタンス値(L)が異なる場合でも、発振波形440を示すことなく、かつ可能な限り高い出力周波数特性を示すように、PID制御特性を変更することができる。すなわち、モータ駆動電流アンプ1000は、特性の異なる複数の種類のモータ1600に対しても、発振等の制御不具合を回避して、適切な駆動制御を遂行することが可能となる。
【0051】
また、図5は、モータ駆動電流アンプ1000のリップル電流値検出部1510が検出するリップル(ΔI)について説明する図である。図5から理解できるように、リップル(ΔI)は、モータ駆動電流(Iu)に対して、高い周波数を有して重畳されるものとなる。
【0052】
図5において、例えば三相交流モータのステータコイルに流れる電流を(Iu)とすれば、この電流(Iu)をステータコイルに流すために、PWM制御されたインバータが用いられる。
【0053】
インバータのPWM制御では、キャリア周波数(fc)でパワー素子をスイッチングさせる。このキャリア周波数の周期を有するリップル電流(ΔI)が三相交流電流(Iu)に重畳される。また、リップル電流(ΔI)の振幅大きさは、三相交流モータのインダクタンス値(L)に対応する。
【0054】
PWM制御を遂行する限り、リップル電流(ΔI)をゼロにすることは難しい。また、リップル電流(ΔI)を同一駆動期間中可能な限り一様に保つことにより、モータ1600等で生じる発熱や電磁的な騒音を低減することも可能である。
【0055】
また、モータへ要求される駆動力の変化や、回転速度の変化時の性能向上や、パワー素子の過熱からの保護などを目的として、PWM制御においてキャリア周波数(fc)を切り替える等、駆動条件を変更する場合もある。また、モータ1600等で生じる発熱や電磁的な騒音等が比較的小さくても、キャリア周波数(fc)を切り替える等駆動条件を変更することにより、リップル電流(ΔI)のレベルが大きく変動する場合もあり、これにより電磁的な騒音の音質や発熱量が変化する場合もある。
【0056】
図6は、モータ駆動電流アンプ1000がモータ駆動の特性を変更する方法の一例について説明するフロー図である。以下、図6に示すステップごとに、モータ駆動電流アンプ1000がモータ駆動の特性を変更する方法の一例について詳細に説明する。
【0057】
(ステップS610)
モータ駆動電流アンプ1000への指令値入力の有無または電源投入の有無等に対応して、モータ1600に駆動電流を出力するか否かを判断する。モータ駆動電流アンプ1000がモータ1600に駆動電流を出力する場合には、ステップS620へと進む。また、モータ駆動電流アンプ1000がモータ1600に駆動電流を出力しない場合には、ステップS610で待機する。
【0058】
(ステップS620)
モータ駆動電流アンプ1000のリップル電流値検出部1510が、出力電流波形に重畳されているリップル電流の振幅大きさを検出する。
【0059】
(ステップS630)
リップル電流値検出部1510は、検出したリップル電流の振幅大きさが比較的小さいか否かを判断する。リップル電流値検出部1510が、検出したリップル電流の振幅大きさが比較的小さいと判断した場合には、ステップS640へと進む。また、リップル電流値検出部1510が、検出したリップル電流の振幅大きさが比較的小さくないと判断した場合には、ステップS650へと進む。
【0060】
(ステップS640)
A/D変換部1520は、リップル電流値検出部1510の出力に対応して、PID制御部1200の可変抵抗1530を比較的小さく設定する。
【0061】
(ステップS650)
A/D変換部1520は、リップル電流値検出部1510の出力に対応して、PID制御部1200の可変抵抗1530を比較的大きく設定する。
【0062】
(ステップS660)
PID制御部1200からの出力に基づいて、PWM制御部1300がPWM制御信号を生成する。ここで、PID制御特性は、駆動対象となるモータ1600の特性であるインダクタンス値(L)に整合した制御特性として反映されているので、PWM制御部1300が生成したPWM制御信号に基づいた制御とすることで、発振等の不安定な制御となることが防止される。なお、実施形態で説明するモータ駆動電流アンプ1000においては、図3に示すような制御特性の変更について、図2に示すリップル電流値検出部1510の切替え抵抗Rc1,Rc2,Rc3の値を予め適正な抵抗値として適宜調整しておくことで、実現可能である。
【0063】
(ステップS670)
スイッチング素子制御回路部1400は、PWM制御部1300が生成したPWM制御信号に基づいて、フルブリッジ回路を構成する各スイッチング素子Q1,Q2,Q3,Q4を適宜オン・オフ動作させる。上述した駆動によって種類が異なるモータ1600、あるいは特性が異なるモータ1600が接続されたとしても、一つのモータ駆動電流アンプ1000で対応でき、安定した駆動制御を遂行することが可能となる。また、モータ駆動電流アンプ1000は、ディジタルボリュームを備える可変抵抗1530を用いて構成してもよい。
【0064】
図7は、三つのモータ1600(1),1600(2),1600(3)のうち適宜選択された任意のいずれか一つに対して、モータ特性に適合した安定した駆動制御を遂行することが可能なディジタル制御のモータ駆動電流アンプシステム7000の構成概要を説明するブロック図である。
【0065】
すなわち、モータ駆動電流アンプ1000のようにアナログ回路による構成としてもよいし、図7に示すように、特性切替え部1500等の一部または全部をマイコンやDSP(Digital Signal Processor)等でディジタル構成し、プログラムによって動作するモータ駆動電流アンプシステム7000のように構成してもよい。
【0066】
図7において、モータ駆動電流アンプシステム7000は、いずれか一つが駆動可能となるように択一的に並列接続される三つのモータ1600(1),1600(2),1600(3)と、駆動対象となる任意の一つのモータを選択切り替えするモータ選択切替え部710とを備える。
【0067】
モータ選択切替え部710は、オペレータからの操作または上位のコンピュータからの指示入力等に対応して、いずれか一つのモータ1600を駆動対象として選択的に接続したり、指示入力等に対応して他のいずれか一つのモータ1600に切り替えたりしてもよい。また、モータ駆動電流アンプシステム7000は、選択接続された任意の一つのモータ1600への出力電流を検出する出力電流検出部7100と、リップル電流の大きさを検出する出力するリップル検出部7510とを備える。
【0068】
図7においては、リップル検出部7510は、出力電流検出部7100の内部に備えられる構成として説明しているが、リップル検出部7510を別途出力電流検出部7100の外部に備えるものとして構成してもよい。
【0069】
また、モータ駆動電流アンプシステム7000は、出力電流検出部7100が検出した出力電流と、リップル検出部7510が検出したリップルの大きさと、上位コンピュータ等から入力される指示値入力と、に基づいてPID制御を遂行するPID制御部7200を備える。
【0070】
この場合に、上位コンピュータ等から入力される指示値入力は、モータ1600を所望の回転数や所望の動作とするために、モータ1600の回転数情報や被駆動対象物の位置情報等に基づいて、上位コンピュータ等から指示入力されるモータ駆動に関する電圧波形等である。
【0071】
PID制御部7200は、リップル検出部7510を介して取得されたリップルの大きさに対応して、PID制御特性を適宜変更する。PID制御部7200は、比例(P)または積分(I)または微分(D)のいずれか一つ以上について、リップルの大きさに対応して変更してもよい。
【0072】
PID制御部7200が、比例成分(P)としての抵抗(P)を図3に説明したように特性変更する場合には、予めモータ1600のリップル大きさ(インダクタンス値(L)に対応)とこれに対応する適切な抵抗値(P)との基準値セットを測定等により決定しておき、これをプリセット等として記憶しておいてもよい。
【0073】
PID制御部7200は、記憶している基準値セットのリップル大きさに対して、現実に駆動対象として選択されたモータ1600のリップル検出部7510で検出されたリップル電流大きさが、大きいか小さいか同程度であるか等に対応して、抵抗値(P)の大きさを小さくしたり大きくしたり同程度としたり等特性変更することとしてもよい。
【0074】
また、モータ駆動電流アンプシステム7000は、PID制御部7200からの出力信号等に基づいてPWM制御信号を生成するPWM制御部7300と、PWM制御部7300が生成したPWM制御信号に基づいて、フルブリッジ回路を構成する各スイッチング素子Q1,Q2,Q3,Q4を適宜オン・オフするスイッチング素子制御回路部7400を備える。
【0075】
なお、モータ駆動電流アンプシステム7000は、モータ駆動電流アンプ1000と同様に、入力電源やフルブリッジ回路構成や平滑コイルや平滑コンデンサ等を備えるが、これらの構成及び基本的な動作はモータ駆動電源アンプ等として周知の構成であるので、ここでは当該事項に関する説明を省略する。また、図8は、ディジタル回路構成を有するモータ駆動電流アンプシステム7000の具体的な構成事例を説明する図である。また、図9は、従来のモータ駆動電流アンプを説明する図である。
【0076】
モータ駆動電流アンプ1000とモータ駆動電流アンプシステム7000とは、駆動対象となる任意のモータ1600の駆動電流からリップル電流大きさを検出し、リップル電流大きさに対応してPID制御特性を変更させるので、適切に駆動可能なモータ1600の種類が飛躍的に増大し、特性の異なる種々のモータに対しても安定した駆動を遂行できる。従って、モータごとにモータ駆動電流アンプを個別対応で個々に用意する必要がなく、特性の異なる複数のモータに汎用可能なモータ駆動電流アンプを実現できる。
【0077】
また、例えば図9に示す従来のモータ駆動電流アンプであれば、モータの特性に合わせて設計されるので、特定の電流アンプで駆動できるモータの種類は極めて限定される。仮に、適合しないモータと電流アンプとの組み合わせでモータ駆動すれば、帯域が悪化したり、発振したり、故障したり好ましくない状況を招来する。このため、モータを変更する場合には、従来、電流アンプも共に変更せざるを得なかった。
【0078】
また、適合する特定のモータを駆動する場合でも、例えば重畳電流が大きくなる等動作条件が異なれば、インダクタンス値(L)が低減されるなど変動し、これに起因してモータと電流アンプとの動作特性がミスマッチすることもある。従って、モータと電流アンプとの組み合わせを異なる動作条件にも対応できるように設定することは、従来、困難であった。
【0079】
モータ駆動電流アンプシステム7000等においては、所望の動作条件時における任意のモータに対して、当該駆動条件下における現実のリップル電流大きさを検出し、これに対応してPID制御特性を適切に変更するので、一つの電流アンプで複数の特性の異なるモータに適応可能となる。
【0080】
また、モータ駆動電流アンプ1000とモータ駆動電流アンプシステム7000とは、モータの試験運転や駆動初期段階、典型的には電源の投入時においてのみ、リップル電流大きさを検出し、PID特性を設定変更してもよい。これにより、前回の駆動時とは特性の異なるモータを今回駆動する場合でも、今回駆動するモータに整合した駆動制御を実現できる。
【0081】
また、モータ駆動電流アンプ1000とモータ駆動電流アンプシステム7000とは、モータの試験動作や駆動初期段階においてのみではなく、駆動運転中、常にリップル電流大きさを検出し、リップル電流大きさを常にフィードバックすることにより、これに対応してPID特性を変更するようにフィードバック制御してもよい。これにより、仮にモータ駆動の動作条件がモータ駆動制御中に変動した場合でも、適切に対応可能な電流アンプを実現できる。
【0082】
上述したモータ駆動電流アンプ1000とモータ駆動電流アンプシステム7000とは、実施形態での説明に限定されるものではなく、本実施形態で説明する技術思想の範囲内かつ自明な範囲で、適宜その構成や動作及び駆動方法等を変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、各種産業用モータ等のモータドライブや電流アンプ、駆動システム等に適用できる。
【符号の説明】
【0084】
1000・・モータ駆動電流アンプ、1100・・出力電流検出部、1200・・PID制御部、1300・・PWM制御部、1400・・スイッチング素子制御回路部、1500・・特性切替え部、1510・・リップル電流値検出部、1520・・A/D変換部、1600・・モータ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動対象となるモータへの出力電流リップルを検出する出力電流リップル検出部と、
前記出力電流リップル検出部が検出した出力電流リップルに対応して、前記モータへの出力電流を制御する制御特性を変更するPID制御部と、を備える
ことを特徴とするモータ駆動電流アンプ。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ駆動電流アンプにおいて、
前記PID制御部から出力信号が入力されて、PWM制御を遂行するPWM制御部を備える
ことを特徴とするモータ駆動電流アンプ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のモータ駆動電流アンプにおいて、
前記PWM制御部から出力されるPWM信号に対応してスイッチング素子のオン・オフが制御されるフルブリッジ回路を備える
ことを特徴とするモータ駆動電流アンプ。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のモータ駆動電流アンプにおいて、
前記PID制御部の変更される制御特性は、抵抗値である
ことを特徴とするモータ駆動電流アンプ。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のモータ駆動電流アンプにおいて、
前記駆動対象となるモータを他のモータに変更した場合に、前記PID制御部の制御特性を変更する
ことを特徴とするモータ駆動電流アンプ。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載のモータ駆動電流アンプにおいて、
前記駆動対象となるモータを駆動している間、前記出力電流リップル検出部は、常に前記出力電流リップルを検出するとともに、前記PID制御部は、検出された前記出力電流リップルに対応して、前記モータへの出力電流を制御する制御特性を変更する
ことを特徴とするモータ駆動電流アンプ。
【請求項7】
駆動対象となるモータへの出力電流リップルを検出する出力電流リップル検出部と、
前記出力電流リップル検出部が検出した出力電流リップルに対応して、前記モータへの出力電流を制御する制御特性を変更するPID制御部と、
前記PID制御部から出力信号が入力されて、PWM制御を遂行するPWM制御部と、
前記PWM制御部から出力されるPWM信号に対応してスイッチング素子のオン・オフが制御されるフルブリッジ回路と、を備える
ことを特徴とするモータ駆動装置。
【請求項8】
請求項7に記載のモータ駆動装置、
前記PID制御部の変更される制御特性は、抵抗値である
ことを特徴とするモータ駆動装置。
【請求項9】
請求項7または請求項8に記載のモータ駆動装置において、
前記駆動対象となるモータを他のモータに変更した場合に、前記PID制御部の制御特性を変更する
ことを特徴とするモータ駆動装置。
【請求項10】
請求項7乃至請求項9のいずれか一項に記載のモータ駆動装置において、
前記駆動対象となるモータを駆動している間、前記出力電流リップル検出部は、常に前記出力電流リップルを検出するとともに、前記PID制御部は、検出された前記出力電流リップルに対応して、前記モータへの出力電流を制御する制御特性を変更する
ことを特徴とするモータ駆動装置。
【請求項11】
請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載のモータ駆動電流アンプの駆動方法において、
前記出力電流リップル検出部が、前記モータを駆動するための出力電流の前記出力電流リップルを検出する工程と、
前記PID制御部が、検出した前記出力電流リップルに対応して、前記モータへの前記出力電流を制御する制御特性を変更する工程と、を有する
ことを特徴とするモータ駆動電流アンプの駆動方法。
【請求項12】
請求項7乃至請求項10のいずれか一項に記載のモータ駆動装置の駆動方法において、
前記出力電流リップル検出部が、前記モータを駆動するための出力電流の前記出力電流リップルを検出する工程と、
前記PID制御部が、検出した前記出力電流リップルに対応して、前記モータへの前記出力電流を制御する制御特性を変更する工程と、
前記PWM制御部が、前記制御特性が変更された前記PID制御部からの出力に基づいてPWM信号を生成する工程と、
前記PWM制御部から出力される前記PWM信号に対応して前記フルブリッジ回路のスイッチング素子のオン・オフを制御する工程と、を有する
ことを特徴とするモータ駆動装置の駆動方法。
【請求項13】
請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載のモータ駆動電流アンプと、
前記モータ駆動電流アンプと並列に接続されていずれか一つが選択的に駆動される複数のモータと、を備える
ことを特徴とするモータ駆動システム。
【請求項1】
駆動対象となるモータへの出力電流リップルを検出する出力電流リップル検出部と、
前記出力電流リップル検出部が検出した出力電流リップルに対応して、前記モータへの出力電流を制御する制御特性を変更するPID制御部と、を備える
ことを特徴とするモータ駆動電流アンプ。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ駆動電流アンプにおいて、
前記PID制御部から出力信号が入力されて、PWM制御を遂行するPWM制御部を備える
ことを特徴とするモータ駆動電流アンプ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のモータ駆動電流アンプにおいて、
前記PWM制御部から出力されるPWM信号に対応してスイッチング素子のオン・オフが制御されるフルブリッジ回路を備える
ことを特徴とするモータ駆動電流アンプ。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のモータ駆動電流アンプにおいて、
前記PID制御部の変更される制御特性は、抵抗値である
ことを特徴とするモータ駆動電流アンプ。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のモータ駆動電流アンプにおいて、
前記駆動対象となるモータを他のモータに変更した場合に、前記PID制御部の制御特性を変更する
ことを特徴とするモータ駆動電流アンプ。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載のモータ駆動電流アンプにおいて、
前記駆動対象となるモータを駆動している間、前記出力電流リップル検出部は、常に前記出力電流リップルを検出するとともに、前記PID制御部は、検出された前記出力電流リップルに対応して、前記モータへの出力電流を制御する制御特性を変更する
ことを特徴とするモータ駆動電流アンプ。
【請求項7】
駆動対象となるモータへの出力電流リップルを検出する出力電流リップル検出部と、
前記出力電流リップル検出部が検出した出力電流リップルに対応して、前記モータへの出力電流を制御する制御特性を変更するPID制御部と、
前記PID制御部から出力信号が入力されて、PWM制御を遂行するPWM制御部と、
前記PWM制御部から出力されるPWM信号に対応してスイッチング素子のオン・オフが制御されるフルブリッジ回路と、を備える
ことを特徴とするモータ駆動装置。
【請求項8】
請求項7に記載のモータ駆動装置、
前記PID制御部の変更される制御特性は、抵抗値である
ことを特徴とするモータ駆動装置。
【請求項9】
請求項7または請求項8に記載のモータ駆動装置において、
前記駆動対象となるモータを他のモータに変更した場合に、前記PID制御部の制御特性を変更する
ことを特徴とするモータ駆動装置。
【請求項10】
請求項7乃至請求項9のいずれか一項に記載のモータ駆動装置において、
前記駆動対象となるモータを駆動している間、前記出力電流リップル検出部は、常に前記出力電流リップルを検出するとともに、前記PID制御部は、検出された前記出力電流リップルに対応して、前記モータへの出力電流を制御する制御特性を変更する
ことを特徴とするモータ駆動装置。
【請求項11】
請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載のモータ駆動電流アンプの駆動方法において、
前記出力電流リップル検出部が、前記モータを駆動するための出力電流の前記出力電流リップルを検出する工程と、
前記PID制御部が、検出した前記出力電流リップルに対応して、前記モータへの前記出力電流を制御する制御特性を変更する工程と、を有する
ことを特徴とするモータ駆動電流アンプの駆動方法。
【請求項12】
請求項7乃至請求項10のいずれか一項に記載のモータ駆動装置の駆動方法において、
前記出力電流リップル検出部が、前記モータを駆動するための出力電流の前記出力電流リップルを検出する工程と、
前記PID制御部が、検出した前記出力電流リップルに対応して、前記モータへの前記出力電流を制御する制御特性を変更する工程と、
前記PWM制御部が、前記制御特性が変更された前記PID制御部からの出力に基づいてPWM信号を生成する工程と、
前記PWM制御部から出力される前記PWM信号に対応して前記フルブリッジ回路のスイッチング素子のオン・オフを制御する工程と、を有する
ことを特徴とするモータ駆動装置の駆動方法。
【請求項13】
請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載のモータ駆動電流アンプと、
前記モータ駆動電流アンプと並列に接続されていずれか一つが選択的に駆動される複数のモータと、を備える
ことを特徴とするモータ駆動システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2012−196091(P2012−196091A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−59764(P2011−59764)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000237662)富士通テレコムネットワークス株式会社 (682)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000237662)富士通テレコムネットワークス株式会社 (682)
【Fターム(参考)】
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