説明

ラゲージドア支持構造

【課題】アイドリングや路面からの入力によるラゲージドアの振動を低減させて、ラゲージルーム内でのこもり音を低減させることを目的とする。
【解決手段】ラゲージドア12を閉じると、ラゲージドア開口部32のバー34にラゲージドア12側の係合部材36が係合し、ラゲージドア12がバー34に支持された状態となる。支持機構16の位置は、ラゲージドア12のドアヒンジ及びロック機構の位置とは異なるため、アイドリングや路面からの入力によりラゲージドア12が振動しようとしても、その振動は該支持機構16の位置で抑制される。このため、ラゲージルーム18内で発生するこもり音を低減させることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のラゲージドア支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のトランクルーム(ラゲージルーム)に生ずるこもり音を低減させる車体構造が開示されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】実開平2−7082号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
セダン系の車両におけるラゲージドアのバウンスモード(図8に示される、ラゲージドア12がはね上がるように振動する振動モード)は、通常20〜40Hzに存在するが、この周波数域はアイドリング時の周波数域(20〜30Hz)や、路面入力によるこもり音の周波数域(30〜90Hz)に近いため、ラゲージドアが共振してラゲージルーム内にこもり音が生じ易い。これを防ぐための手段としては、ラゲージドアの共振周波数を、20〜90Hz以外に設定することが考えられる。
【0004】
しかしながら、ラゲージドアの共振周波数をこのように設定することは、ラゲージドアの意匠や、開閉強度、質量等、互いに背反する点が多いため困難であった。
【0005】
なお、上記した従来例は、ホイルハウスインナの取付けを工夫することで、リアクロスメンバやリヤフロアパネルの振動変形に起因してトランクルーム内に発生するこもり音を低減させようとするものであり、ラゲージドアに起因するこもり音を低減させる点についてはなんら示唆されていない。
【0006】
本発明は、上記事実を考慮して、アイドリングや路面からの入力によるラゲージドアの振動を低減させて、ラゲージルーム内でのこもり音を低減させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、車両のラゲージルームに対して開閉可能となるようにドアヒンジを介して取り付けられたラゲージドアと、前記車両のラゲージドア開口部に設けられ前記ラゲージドアを閉状態に保持可能なロック機構と、前記ラゲージドアを閉じた際に、前記ドアヒンジ及び前記ロック機構以外の位置において前記ラゲージドアを支持可能に構成された支持機構と、を有することを特徴としている。
【0008】
請求項1に記載のラゲージドア支持構造では、ラゲージドアがドアヒンジによって開閉可能に構成されており、ラゲージドアを閉じると、該ラゲージドア側の例えばストライカがロック機構により保持され、不用意にラゲージドアが開かないようになる。
【0009】
ラゲージドアを単にロック機構で保持するだけでは、従来と同様であるので、アイドリングや路面からの入力によって、ラゲージドアのうち支持状態にない部分が振動し易くなってしまうが、請求項1に記載のラゲージドア支持構造では、従来支持状態になかった部分を支持機構により支持しているので、ラゲージドアの振動(バウンスモード)を抑制することができ、ラゲージルーム内で発生するこもり音を低減させることができる。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1に記載のラゲージドア支持構造において、前記支持機構は、車幅方向に設けられたバーと、前記ラゲージドアに設けられ該ラゲージドアの閉状態において前記バーと係合する係合部材と、を有することを特徴としている。
【0011】
請求項2に記載のラゲージドア支持構造では、支持機構は、車幅方向に設けられたバーと、ラゲージドアに設けられ該ラゲージドアの閉状態においてバーと係合する係合部材と、を有しており、ラゲージドアを閉じると、バーにラゲージドア側の係合部材が係合することで、ラゲージドアが支持された状態となる。支持機構の位置は、ドアヒンジ及びロック機構の位置とは異なるため、アイドリングや路面からの入力によりラゲージドアが振動しようとしても、その振動は該支持機構の位置で抑制される。このため、ラゲージルーム内で発生するこもり音を低減させることが可能となる。
【0012】
また、ラゲージドアを車幅方向のバーで支持していることから、ラゲージドアに該バーを中心とした車両前後方向のピッチングを励起させ易くなる。ラゲージドアの振動がピッチングモードになると、例えばラゲージドアのうちバーよりも後側(下側)の部分がラゲージルーム内に入り込むときには、バーよりも前側の部分がはね上がり、該前側部分がラゲージルーム内に入り込むときには、バーよりも後側(下側)の部分がはね上がるので、ラゲージルーム内の空気は押された分だけ逃げることができ、繰返し圧縮され難くなる。即ち、ラゲージドアにおけるバーの前後で発音相殺されるので、ラゲージルーム内で発生するこもり音がより一層低減される。
【0013】
請求項3の発明は、請求項2に記載のラゲージドア支持構造において、前記係合部材には、前記ラゲージドアを閉じた際に前記バーと係合可能な切欠き溝が形成されていることを特徴としている。
【0014】
請求項3に記載のラゲージドア支持構造では、係合部材にバーと係合可能な切欠き溝が形成されているので、ラゲージドアを閉じた際には、バーの車両前後方向両側に係合部材が入り込み(係合部材の切欠き溝にバーが入り込み)、係合する。係合部材がバーの車両前後方向両側に跨るように係合することで、ラゲージドアにバーを中心とした車両前後方向のピッチングをより励起させ易くなり、ラゲージルーム内で発生するこもり音がより一層低減される。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明に係る請求項1に記載のラゲージドア支持構造によれば、ラゲージドアをドアヒンジ及びロック機構以外の位置において支持することで、ラゲージドアの振動を抑制することができ、ラゲージルーム内で発生するこもり音を低減させることができる、という優れた効果を有する。
【0016】
また、請求項2に記載のラゲージドア支持構造によれば、車幅方向に設けられたバーと、ラゲージドアに設けられた係合部材とを有する支持機構を設けることで、ラゲージドアの振動を該支持機構の位置で抑制でき、特に、ラゲージドアにピッチングを励起させることにより発音相殺を可能にし、ラゲージルーム内で発生するこもり音をより一層低減させることができる、という優れた効果を有する。
【0017】
更に、請求項3に記載のラゲージドア支持構造によれば、ラゲージドアを閉じた際に、係合部材がバーの車両前後方向両側に跨るように係合するので、ラゲージドアにバーを中心とした車両前後方向のピッチングをより励起させ易くなり、ラゲージルーム内で発生するこもり音をより一層低減させることができる、という優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。図2において、本実施の形態に係るラゲージドア支持構造Sは、例えば車両10の後部に設けられるラゲージドア12の支持構造に係り、ラゲージドア12と、ロック機構14と、支持機構16と、を有している。
【0019】
図1及び図2に示されるように、車両10は、例えば左右のリヤクォータパネル20の間に、キャビン側とは独立したラゲージルーム18を有する、例えばセダン系の乗用車であって、図示しない荷物を出し入れし易いように、リヤバンパ22の上縁22Aからラゲージドア12が開くように構成され、ラゲージドア12を開くと、左右のリヤコンビネーションランプ24の間が開口するように構成されている(図2)。
【0020】
図2において、ラゲージドア12は、例えばラゲージアウタパネル28とラゲージインナパネル30とを重ね合わせて構成され(図3)、車両10のラゲージルーム18に対して開閉可能となるようにドアヒンジ26を介して取り付けられている。ラゲージドア12を閉じた状態において、ラゲージドア12の下縁12Aは、例えばリヤバンパ22の上縁22Aまで達しており、ラゲージドア12をバンパ位置付近からはね上げることができるようになっている。ラゲージドア12の下縁12Aには、該ラゲージドア12を閉めた際にロック機構14と係合するストライカ(図示せず)が配設されている。
【0021】
ロック機構14は、車両10のラゲージドア開口部32に設けられ、ラゲージドア12を閉状態に保持可能に構成されたものであって、一般的なロック機構と同様に、ラゲージドア12を閉じた際に該ラゲージドア12側のストライカと係合するようになっている。また、ロック機構14は、キー操作やキャビン内のレバー操作等によってストライカの保持を解除することができるようになっている。
【0022】
図3,図4に示されるように、支持機構16は、ラゲージドア12を閉じた際に、ドアヒンジ26及びロック機構14以外の位置においてラゲージドア12を支持可能に構成されたものであって、例えばラゲージドア開口部32付近に車幅方向に設けられたバー34と、ラゲージドア12に設けられ該ラゲージドア12の閉状態においてバー34と係合する係合部材36と、を有し、ラゲージドア開口部32の左右に一対設けられている。ここで、「支持機構16がラゲージドア12を支持可能に構成されている」とは、支持機構16がラゲージドア12の振動(バウンスモード)を抑制でき、かつラゲージドア12に車両前後方向のピッチングが励起され易くなるように支持できる構成であることを意味している。
【0023】
図2から図4において、バー34は、例えば丸棒であり、例えばリヤクォータパネル20の後端位置(リヤコンビネーションランプ24の前側位置)に設けられたブラケット38の両側壁38Aに両端を固着することで、車幅方向に設けてある(水平に懸架している)。ブラケット38は、車両上下方向上側が開口する断面コ字状に形成され、リヤクォータパネル20のアウタパネル40とインナパネル42に夫々スポット溶接されている。
【0024】
なお、ブラケット38は、一般的にラゲージドア開口部32に設けられる雨どい(図示せず)を兼ねたものであってもよい。
【0025】
図3から図6に示されるように、係合部材36は、ラゲージドア12の車両幅方向両端位置におけるラゲージインナパネル30の下面30Aに配設されており、該ラゲージインナパネル30の内面に溶接されたナット44と、ラゲージインナパネル30の下面30A側から差し込まれるボルト46とによって締付け固定されている。係合部材36は、ラゲージドア12の閉状態においてバー34と係合する部品であるから、その車両幅方向厚さは、バー34の長さよりも小さく形成されている。
【0026】
図5及び図6に示されるように、係合部材36には、ラゲージドア12を閉じた際にバー34と係合可能な切欠き溝36Aが形成されている。切欠き溝36Aの幅は、ラゲージドア12の開閉時に切欠き溝36Aとバー34とが互いに干渉せず、かつ隙間が大きくなり過ぎないようにバー34の直径よりも適度に大きく設定される。切欠き溝36Aの深さは、例えばラゲージドア12を閉じた状態でバー34が切欠き溝36Aに完全に収まり、かつバー34が切欠き溝36Aの最深部36Bに当接する程度に設定される。
【0027】
なお、図示の例(図5及び図6)では、切欠き溝36Aは直線状かつ車両上下方向に対して若干傾斜して形成されているが、これに限られるものではない。即ち、ラゲージドア12の開閉時に係合部材36がバー34に当接すると、開閉の度に異音が発生することになるので、切欠き溝36Aは、そのような異音が発生しないように、バー34が切欠き溝36A内に円滑に出入りするような方向及び形状に形成される。バー34と係合部材36との当接による異音の発生を防ぐ観点からは、係合部材36の切欠き溝36A内に弾性体を配設し、又は係合部材36自体をゴム等の弾性体で構成してもよい。
(作用)
図1,2において、ラゲージドア支持構造Sを有する車両では、ラゲージドア12がドアヒンジ26によって開閉可能であり、ラゲージドア12を閉じると、該ラゲージドア12側のストライカがロック機構14により保持され、不用意にラゲージドア12が開かないようになる。
【0028】
ラゲージドア12を単にロック機構14で保持するだけでは、従来と同様であり、ラゲージドア12の共振周波数がアイドリング振動や路面入力振動の周波数に近い場合に、図8に示されるように、ラゲージドア12がバウンスし(矢印A方向及びその逆方向に繰返し振動する)、ラゲージルーム18内の空気が繰返し圧縮されてこもり音を生じ易いが、ラゲージドア支持構造Sでは、ラゲージドア12をドアヒンジ26及びロック機構14以外の位置において支持機構16により支持しているので、ラゲージドア12の振動を抑制することができ、ラゲージルーム18内のこもり音を低減させることができる。
【0029】
具体的には、支持機構16は、車幅方向に設けられたバー34と、ラゲージドア12に設けられ該ラゲージドア12の閉状態においてバー34と係合する係合部材36と、を有しており、ラゲージドア12を閉じると、バー34にラゲージドア12側の係合部材36が係合し、ラゲージドア12がバー34に支持された状態となる。支持機構16の位置は、ドアヒンジ26及びロック機構14の位置とは異なるため、アイドリングや路面からの入力によりラゲージドア12が振動しようとしても、その振動は該支持機構16の位置で抑制される。このため、バウンスモードの周波数域がアイドリング振動等の周波数域から外れ、より高い周波数域に移行するので、ラゲージドア12の共振が生じなくなり、これによってラゲージルーム18内で発生するこもり音が低減するのである。
【0030】
また、図7に示されるように、ラゲージドア12をバー34の位置で支持している(バー34が係合部材36における最深部36Bに当接している)ことから、ラゲージドア12に該バー34を中心とした車両前後方向のピッチング(矢印B方向及びその逆方向の繰返し振動)を励起させ易くなる。ラゲージドア12の振動がピッチングモードになると、例えばラゲージドア12のうちバー34よりも後側(下側)の部分12Bがラゲージルーム18内に入り込むときには、バー34よりも前側の部分12Cがはね上がり、該前側部分12Cがラゲージルーム18内に入り込むときには、下側部分12Bがはね上がるので、ラゲージルーム18内の空気は押された分だけ逃げることができ、繰返し圧縮され難くなる。即ち、ラゲージドア12におけるバー34の前後で発音相殺されるので、ラゲージルーム18内で発生するこもり音をより一層低減させることができる。なお、ラゲージドア12にピッチングを励起させ易くするためには、支持機構16を、ピッチングモードの節としたい位置、例えばラゲージドア12の中間位置(図示の例では、屈曲位置)に設けて、バー34回りに回動可能に支持することが効果的であり、更に発音相殺の観点からは、バー34の前後におけるラゲージドア12の面積が夫々同等であることが効果的である。
【0031】
ラゲージドア支持構造Sでは、ラゲージドア12を閉じると、バー34の車両前後方向両側に係合部材36が入り込んで係合した状態となる(係合部材36の切欠き溝36Aにバー34が入り込む)。係合部材36がバー34の車両前後方向両側に跨ることで、ラゲージドア12にバー34を中心とした車両前後方向のピッチングをより励起させ易く、ラゲージルーム18内で発生するこもり音をより一層低減させることができる。
【0032】
ラゲージドア12の開閉時には、バー34は係合部材36の切欠き溝36Aに対して互いに干渉することなく円滑に出入りするので、異音の発生がなく、ラゲージドア12の開閉操作感は、従来と全く変わらず良好である。
【0033】
なお、図7及び図8においては、ラゲージドア12が振動により大きく動くように描かれているが、これは説明のために誇張して表現したものであり、そのように大きな振幅でバウンスやピッチングが生ずるわけではない。
【0034】
更に、上記実施形態では、支持機構16として、ラゲージドア12側に係合部材36を設け、ラゲージドア開口部32側にバー34を設けることとしたが、これに限られるものではなく、ラゲージドア12側にバー34を設けて、ラゲージドア開口部32側に係合部材36を設けるようにしてもよい。即ち、支持機構16は、ラゲージドア12の振動を抑制してこもり音を低減できるような構成になっていればよい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】ラゲージドアが閉じられた車両の後部を斜め後方から見た状態を示す斜視図である。
【図2】ラゲージドアが開かれた車両の後部を斜め後方から見た状態を示す斜視図である。
【図3】図1における3−3矢視断面図である。
【図4】図2における4−4矢視断面図である。
【図5】図3における5−5矢視断面図である。
【図6】図4における6−6矢視断面図である。
【図7】アイドリングや路面からの入力により、ラゲージドアがピッチングしている状態を示す側面図である。
【図8】アイドリングや路面からの入力により、ラゲージドアがバウンスしている状態を示す側面図である。
【符号の説明】
【0036】
10 車両
12 ラゲージドア
14 ロック機構
16 支持機構
18 ラゲージルーム
26 ドアヒンジ
32 ラゲージドア開口部
34 バー
36 係合部材
36A 切欠き溝
S ラゲージドア支持構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のラゲージルームに対して開閉可能となるようにドアヒンジを介して取り付けられたラゲージドアと、
前記車両のラゲージドア開口部に設けられ前記ラゲージドアを閉状態に保持可能なロック機構と、
前記ラゲージドアを閉じた際に、前記ドアヒンジ及び前記ロック機構以外の位置において前記ラゲージドアを支持可能に構成された支持機構と、
を有することを特徴とするラゲージドア支持構造。
【請求項2】
前記支持機構は、車幅方向に設けられたバーと、前記ラゲージドアに設けられ該ラゲージドアの閉状態において前記バーと係合する係合部材と、を有することを特徴とする請求項1に記載のラゲージドア支持構造。
【請求項3】
前記係合部材には、前記ラゲージドアを閉じた際に前記バーと係合可能な切欠き溝が形成されていることを特徴とする請求項2に記載のラゲージドア支持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−335166(P2006−335166A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−160913(P2005−160913)
【出願日】平成17年6月1日(2005.6.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】