説明

リコペンに富み有機溶剤を含まない製剤の調製方法、得られる製剤、これらの製剤を含有する組成物、およびこれらの使用

本発明は、(a)リコペン供給源を抽出溶剤用脂質と混合するステップと、(b)ステップ(a)で得られた脂質相を分離して、リコペンに富み有機溶剤を含まない製剤を得るステップとを含み、ステップ(a)の混合が有機溶剤の不在下で実施される、リコペンに富み有機溶剤を含まない製剤の収得方法に関する。本発明は、また、この方法で得られる製剤、および該製剤を含む組成物に関する。これらの製剤および組成物は、抗酸化特性を有し、ニュートラシューティカル製品、化粧品、医薬品または食品を製造するのに有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リコペンに富む製剤の分野、より具体的にはリコペンに富み有機溶剤を含まない製剤、それら収得方法、および前記製剤を含有する組成物に関する。これらの製剤および組成物は、ニュートラシューティカル製品(栄養補助食品)、化粧品、医薬品または食品を製造するのに有用である。
【背景技術】
【0002】
リコペンは、40個の炭素原子を有するカロテノイドであり、多くの果実および野菜の赤色の原因である。化学的観点から、リコペンは、対称鎖を形成する8個のイソプレン単位から構成されるイソプレノイド炭化水素である。その構造は、11個の共役二重結合および2個の非共役二重結合を含む。従って、それは、β−カロテンを始めとする任意のその他のカロテノイドに比べてより多い数の二重結合を有する。この珍しい構造が、リコペンにいくつかの特殊な特性を付与している。それゆえ、例えば、リコペンは、着色剤または染料として使用することができ、β−カロテンに比べて色素としてより一層効果的である。それゆえ、リコペンが、黄色から始まって橙色を通り濃赤色までのより広い色彩範囲に及ぶことは注目に値する。さらに、それは、黄−橙色の範囲に、β−カロテンのそれに比べて6〜8倍大きな強い色彩強度を有する。食物着色剤としてのその使用は、認可されており、その欧州コードはE−160dである。しかし、今日、その使用は、その高い価格のためそれほど広まってはいない。
【0003】
着色剤としてのリコペンの使用は、興味深いものであるが、疑いもなく、その最も注目に値する特性は、その抗酸化能力である。生物体中で、酸化は、フリーラジカルおよび特に一重項酸素の存在のせいで、細胞レベルで起こる。これらの望ましくない反応は、他のラジカル反応と同様、その反応が自触媒的である、すなわちその反応が連鎖反応の過程を経て自己成長するので、極めて危険である。このことが、細胞老化、変性疾患、動脈遮断、および様々なタイプの癌の出現に関連する酸化ストレスとして周知である過程における、必須細胞構成要素(膜脂質、核酸など)の不可逆的傷害を引き起こす可能性がある[エス.トヨクニ(S.Toyokuni)、ケイ.オカモト(K.Okamoto)、ジェイ.ヨドイ(J.Yodoi)およびエイチ.ヒアイ(H.Hiai)(1995)、「Persistent oxidative stress in cancer」,FEBS Letters,Volume 358(1),1〜3;ケイ.センチル(K.Senthil)、エス.アランガナサン(S.Aranganathan)およびエヌ.ナリン(N.Nalin)(2004)、「Evidence of oxidative stress in the circulation of ovarian cancer patients」,Clinica Chimica Acta,339(1〜2),27〜32]。
【0004】
リコペンは、高い潜在的抗酸化能力を有し[バートン、ジー.ダブリュー.(Burton G.W.)(1989)、「Antioxidant action of carotenoids」,J.Nutr.119,109〜111;ジプロック、エイ.ティー.(Diplock A.T.)(1991)、「Antioxidant nutrients and disease prevention:an overview」,Am.J.Clin.Nutr.53,189S〜193S;ウェルツ、ケイ.(Wertz K.)、シラー、ユー(Siler U.)およびゴラルクジー、アール(Goralczy R.)(2004)、「Lycopene:modes of action to promote prostate health」,Archives of Biochemistry and Biophysics,430(1),127〜134]、その潜在的能力は、リコペンを一重項酸素およびフリーラジカルの優れた不活性化剤にする[ジ、マシオ、ピー.(Di Mascio P.)、マーフィー、エム.イー.(Murphy M.E.)およびシーズ、エイチ.(Sies H.)(1989)、「Lycopene as the most efficient biological carotenoid singlet oxygen quencher」,Arch.Biochem.Biophys.,274,532〜538;ジ、マシオ、ピー.(Di Mascio P.)、マーフィー、エム.イー.(Murphy M.E.)およびシーズ、エイチ.(Sies H.)(1991)、「Antioxidant defense systems:The role of carotenoids,tocopherols and thiols」,Am.J.Clin.Nutn.,53,1945〜2005]。この天然色素は、抗酸化剤として作用し、電子をフリーラジカルに移動し、フリーラジカルを不活性化する。形成されたリコペンラジカルは、共鳴によるラジカルの安定化を可能にするその多数の二重結合のため安定である。この潜在的抗酸化能力は、リコペンに抗発癌活性および心血管疾患に対する予防作用を付与する。ギオバンシー(Giovannucci)らの研究[ギオバンシー、イー.(Giovannucci E.)(1998)、「Tomato intake and cancer risk:A review of the epidemiologic evidence」,3rd Worldwide Congress of the Tomato Processing Industry,Pamplona,25〜28 of May 1998,pages 69〜80;ギオバンシー、イー(Giovannucci E.)、アシェリオ、エイ.(Ascherio A.)、リム、イー.ビー.(Rimm E.B.)、スタンパー、エム.ジェイ(Stampfer M.J.)、コルジッツ、ジー.エイ.(Colditz G.A.)およびウィレット、ダブリュー.シー.(Willett W.C.)(1995),「Intake of carotenoids and retinol in relation to risk of prostate cancer」,J.Natl.Cancer Inst.,87,1767〜1776]は、トマト、トマトソースおよびピザの摂取が、種々のタイプの癌、例えば、消化器系の癌および前立腺癌を発現させる危険の低減に直接関連していることを示している。
【0005】
心血管疾患は、西欧諸国における最も一般的な死因の1つである。それは、最初、高い血中コレステロール濃度の存在に対応する主要な危険因子の1つと考えられた。後になって、アテローム発生の鍵となるステップは、フリーラジカルの作用によるコレステロールの酸化であることが提唱された。心血管疾患の発病率は、血漿中カロテノイド濃度と相互に強く関連しており、リコペンが、生理学的条件下でペルオキシドラジカルを除去すること、および低分子量リポタンパク質(LDL)のそれらのアテローム発生形態への酸化を防止することにおいて特に有効であることがわかっている。
【0006】
より最近になって、II型糖尿病および骨粗鬆症に対するリコペンの予防効果の可能性の有無が研究されてきている。これらの疾患では酸化過程も関連しており、従って、この点でリコペンが有益な効果を有する可能性もある。
【0007】
その注目すべき特性のため、リコペンは、また、真のニュートラシューティカル製品である。ニュートラシューティカル製品は、疾患の予防および治療を含む医療上または健康上の利益を付与する「食品または食物の一部」と定義できる[デ、フェリス、エス.エル.(De Felice S.L.(1991),「The nutraceutical initiatives:A proposal for economic and regulatory reform」,Ed.The Foundation for Innovation in Medicine)。
【0008】
リコペンは、固体として、リコペンが溶けない液体(水、エタノールまたはポリオール)中に分散された結晶性リコペンとして、または含油樹脂(oleoresin)として上市されている。
【0009】
多くの特許および特許出願が、リコペンおよびリコペンに富む製品の収得法を記載している。多分、特許出願、国際公開第96/13178号が最も重要な工業的応用を有している。この特許は、本質的にリコペンを溶解しない媒質(水、エタノールまたはポリオール)中でリコペン結晶(有色体中に存在する)の大きさを縮小することによってリコペン濃縮物を調製する方法を記載しているので、その単純性のため注目に値する。換言すれば、この方法は、リコペン(無極性化合物)を溶解しないが、植物の有色体中に本来存在している結晶をそれらの溶媒を用いて「事実上」引き抜く極性溶媒を使用することに基づく。しかし、この特許、国際公開第96/13178号では、リコペンに富む含油樹脂を得るために、有機溶剤、特にアセトンおよび酢酸エチルを使用している。実際、現在上市されている含油樹脂は、これらの有機溶剤が無極性物質を可溶化するので、有機溶剤を使用して調製される。最も使用される有機溶剤としては、ヘキサン、アセトンおよび酢酸エチルが挙げられる(例えば、文献、欧州特許出願公開第671461(A1)号、欧州特許出願公開第1487282(A1)号、欧州特許第1103579(B1)号、欧州特許第0818225号、国際公開第97/48287号、米国特許第5837311号参照)。有機溶剤は、ある程度の毒性を示すので、これらの製品を取り扱う労働者、さらには消費者の双方にとって、有機溶剤の完全な除去を保証することができないゆえに、ニュートラシューティカル製品または薬理学上興味のある製品を製造するのに有機溶剤を使用しないことが推奨される。合成リコペンの使用も、合成過程で有機溶剤を使用するので、有機溶剤の不在を保証するものではない。
【0010】
リコペンは、無極性物質なので、超臨界液体にも可溶である[サビオ、イー.(Sabio E.)、ロザノ、エム.(Lozano M.)、モンテロ、デ、エスピノサ、ブイ.(Montero de Espinosa V.)、コエルホ、ブイ.ジェイ.(Coelho V.J.)、ペレイラ、エイ.ピー.(Pereira A.P.)およびパラブラ、エイ.エフ.(Palabra A.F.)(2003),「Lycopene and other carotenoids extraction from tomato waste using supercritical CO2」,Ind.Eng.Chem.Res.,42,6641〜6646]。最近、超臨界CO2を使用するリコペンの抽出に基づく特許出願がなされている(国際公開第02/40003号)。超臨界抽出の後、混合物を減圧し、CO2を気体状態に変え、リコペンに富み溶媒を含まない抽出物を収得する。この方法は、有機溶剤の使用に比較していくつかの利点を明示する。しかし、その処理が、かなり多くの費用がかさむことは注目に値する。さらに、CO2の温室効果のため、この化合物の放出を回避するための予防策を講じなければならない。
【0011】
本明細書で提供する新たな発明を用い、中間化学薬剤、有機溶剤、超臨界流体、または分散剤のいずれも使用しないで、リコペンに富む製品を得ることができる。
【0012】
これまで、リコペンに富む製剤を得るための伝統的取り組みは、最終製剤中に存在することが望ましくない有機溶剤で抽出することによって、リコペンに富む産物から含油樹脂を得ることに焦点を合わせてきた。抽出を実施した後、有機溶剤を除去し(決して完全ではないが)、得られた抽出物を最終製剤で使用されるオイルまたは脂肪で希釈する。
【0013】
本発明者らは、リコペンの脂溶性に基づいた直接可溶化によって、リコペンに富む製剤を得るための代替の方法を開発するに至った。この方法では、所望の製剤を、前に言及したように、例えば有機溶剤もしくはその他の中間化学薬剤、超臨界流体、または分散剤を使用しないで直接的に製造する。
【0014】
さらに、この直接可溶化法は、容易かつ安全にそれを投与することを可能にする適切なリコペン含有量(約500〜1000ppm)をもつリコペンに富む製剤を単純かつ安価な手段で得ることを可能にする。実際、最新技術で知られているリコペンに富む製剤は、余りにも高いリコペン濃度(30,000〜60,000ppm)を有し、その濃度は、それらの製剤を規則的かつ調節された摂取のために投与することを極めて困難にする。最近の研究は、抗酸化剤の高摂取が、それらの抗酸化作用がそれらの濃度に左右され高濃度ではもはや抗酸化剤ではなく酸化促進剤になる可能性もあるので、単に有益でないばかりでなく、有害である場合さえあることを示唆している[イー.アール.ミラー(E.R.Miller)、アール.パストル−バリューソ(R.Pastor−Barriuso)、ディー.ダラル(D.Dalal)、アール.エイ.リーメルスマ(R.A.Riemersma)、エイ.アペル(A.Appel)およびイー.ギュアラー(E.Guallar)(2005);「Meta−Analysis:High−dosage vitamin E supplementation may increase all−cause mortality」,Ann Intern Med.142:37〜46)。
【0015】
この新規な方法では、リコペンに富む出発原料を、最終製剤で使用予定のオイルまたは脂肪の可溶化作用に直接暴露し、容易かつ安全に投与できる適切な比率のリコペンを含むリコペンに富む製品を、単純かつ迅速な手段で、いかなる中間的化学薬剤も使用しないで収得する。すなわち、この製品の調製では、リコペン供給源、および最終製剤中に存在させる予定のオイルまたは脂肪を使用するだけであり、換言すれば、得られる製品は、最終製剤に対して異質であるいかなる有機溶剤または化学薬剤も含有しない。
【0016】
さらに、抽出溶剤用脂質が食用のオイルまたは脂肪である場合、抽出後に生じる固体残留物は、有機溶剤で処理されていないので、摂取することができる。
【0017】
従って、いかなる当業者も容易に推論できるように、有機溶剤を使用する前に述べた従来の間接法に優るその利点は極めて多い。すなわち、
1)有機溶剤を主とする化学汚染物質の不在、それゆえ、得られる製剤はより大きな付加価値を有する。
2)より単純な工程:より少ない費用、より大きな迅速性、工程に使用される成分の少なさ、より少ないエネルギー消費、最終製剤を得るのに必要なステップの少なさなど。
3)適切なリコペン含有量:容易かつ安全に投与、任意形態の呈示物での製品の直接摂取。
4)より少ない環境汚染。有機溶剤は汚染物質であり、超臨界流体に使用されるガスも同様である。
5)純粋なリコペンをオイルまたは脂肪と単純に混合して得られるものと比べて栄養的により有益な製剤:抽出溶剤用脂質としてオリーブ油(トコフェロールに富む)を使用すると、潜在的抗酸化能力およびそれらの間で相乗作用を有するその他の被抽出植物化学物質(カロテノイド、ステロールなど)の付加的含有量が増加する。さらに、これらの植物化学物質は、溶剤を使用する抽出技術によって抽出したものと比較して劣化していない。溶剤を使用する抽出では、溶剤を除去するのに使用される強烈な処理が、リコペンを含め、植物化学物質のすべてを著しく劣化させる。
6)抽出後に残存する固体残留物は、いかなる化学処理も受けておらず、かつ、高い栄養価値を有し可溶性食物繊維およびミネラルの優れた供給源である別の製品(ソース、クリーム、ピューレなど)を製造するのに直接使用できるので、高い付加価値を有する。
【0018】
【非特許文献1】S.Toyokuni、K.Okamoto、J.YodoiおよびH.Hiai(1995)、“Persistent oxidative stress in cancer”,FEBS Letters,Volume 358(1),1〜3
【非特許文献2】K.Senthil、S.AranganathanおよびN.Nalin(2004)、“Evidence of oxidative stress in the circulation of ovarian cancer patients”,Clinica Chimica Acta,339(1〜2),27〜32
【非特許文献3】Burton G.W.(1989)、“Antioxidant action of carotenoids”,J.Nutr.119,109〜111
【非特許文献4】Diplock A.T.(1991)、“Antioxidant nutrients and disease prevention:an overview”,Am.J.Clin.Nutr.53,189S〜193S
【非特許文献5】Wertz K.、Siler U.およびGoralczy R.(2004)、“Lycopene:modes of action to promote prostate health”,Archives of Biochemistry and Biophysics,430(1),127〜134
【非特許文献6】Di Mascio P.、Murphy M.E.およびSies H.(1989)、“Lycopene as the most efficient biological carotenoid singlet oxygen quencher”,Arch.Biochem.Biophys.,274,532〜538
【非特許文献7】Di Mascio P.、Murphy M.E.およびSies H.(1991)、“Antioxidant defense systems:The role of carotenoids,tocopherols and thiols”,Am.J.Clin.Nutn.,53,1945〜2005
【非特許文献8】Giovannucci E.(1998)、“Tomato intake and cancer risk:A review of the epidemiologic evidence”,3rd Worldwide Congress of the Tomato Processing Industry,Pamplona,25〜28 of May 1998,pages 69〜80
【非特許文献9】Giovannucci E.、Ascherio A.、Rimm E.B.、Stampfer M.J.、Colditz G.A.およびWillett W.C.(1995),“Intake of carotenoids and retinol in relation to risk of prostate cancer”,J.Natl.Cancer Inst.,87,1767〜1776
【非特許文献10】De Felice S.L.(1991),“The nutraceutical initiatives:A proposal for economic and regulatory reform”,Ed.The Foundation for Innovation in Medicine
【特許文献1】国際公開第96/13178号
【特許文献2】欧州特許出願公開第671461(A1)号
【特許文献3】欧州特許出願公開第1487282(A1)号
【特許文献4】欧州特許第1103579(B1)号
【特許文献5】欧州特許第0818225号
【特許文献6】国際公開第97/48287号
【特許文献7】米国特許第5837311号
【非特許文献11】Sabio E.、Lozano M.、Montero de Espinosa V.、Coelho V.J.、Pereira A.P.およびPalabra A.F.(2003),“Lycopene and other carotenoids extraction from tomato waste using supercritical CO2”,Ind.Eng.Chem.Res.,42,6641〜6646
【特許文献8】国際公開第02/40003号
【非特許文献12】E.R.Miller、R.Pastor−Barriuso、D.Dalal、R.A.Riemersma、A.AppelおよびE.Guallar(2005);“Meta−Analysis:High−dosage vitamin E supplementation may increase all−cause mortality”,Ann Intern Med.142:37〜46
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
従って、本発明の目的は、リコペンに富み有機溶剤を含まない製剤の収得方法を提供することである。
【0020】
同様に、本発明の別の目的は、前記のリコペンに富み有機溶剤を含まない製剤である。
【0021】
本発明のさらなる目的は、前記のリコペンに富み有機溶剤を含まない製剤を含有する組成物である。
【0022】
最後に、本発明のもう1つの目的は、ニュートラシューティカル製品、化粧品、医薬品または食品を製造するための、前記の製剤または組成物の使用である。
【課題を解決するための手段】
【0023】
それゆえ、本発明は、リコペンに富み有機溶剤を含まない製剤の収得方法を提供し、該方法は、
(a)リコペン供給源を抽出溶剤用脂質と混合すること、および
(b)ステップ(a)で得られた脂質相を分離して、リコペンに富み有機溶剤を含まない製剤を得ることを含み、ここで、ステップ(a)の混合は有機溶剤の不在下で実施される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の文脈で、用語「有機溶剤」は、製剤に対して異質な化学薬剤、換言すれば、最終製剤に必要ではないが、リコペンの抽出を高めるため、リコペン供給源および抽出溶剤用脂質と一緒に工程中に導入される化学化合物を指す。
【0025】
リコペンに富み有機溶剤を含まない製剤のこの収得方法(本明細書では、「本発明の方法」と呼ぶ)は、直接可溶化と呼ぶこともできる。前に言及したように、含油樹脂を調製するのに伝統的に使用される方法は、リコペンに富む材料を、最終製剤中に存在することが所望されない有機溶剤と混合する間接法である。抽出を実施した後、有機溶剤を除去し(完全にではないが)、得られた抽出物を最終製剤中で使用する予定のオイルまたは脂肪で希釈する。
【0026】
リコペンを一方の相からもう1つの相に移す処理を促進することを狙って、ステップ(a)の混合操作を実施し、固体(リコペン供給源)および流体(抽出溶剤用脂質)を相互に分散させる。この物質移動処理の効率は、主として、分散度の効果、細胞構造の破壊および抽出溶剤用脂質に対するリコペンの溶解性に左右される。
【0027】
本発明の方法の特定の実施形態では、ステップ(a)で、リコペン供給源および抽出溶剤用脂質を、高速かつ120℃未満の温度で撹拌して混合する。好ましい実施形態において、撹拌速度は、500〜10000rpmの範囲、温度は40〜100℃の範囲である。別のより好ましい実施形態において、撹拌速度は、2500〜5000rpmの範囲、温度は60〜90℃の範囲である。
【0028】
さらに、ステップ(a)では、リコペン供給源および抽出溶剤用脂質を、食品および製薬工業で使用されるその他の標準的方法、例えば、高圧または流体剪断での均質化、ミクロ流体化、超音波混合、コロイドミル混合などで混合できる。
【0029】
これによれば、この混合処理に使用できる広範な範囲の装置およびデバイスが存在する。翼撹拌機または回転軸に連結されたその他の構造体を備えたタンク、あるいは移動可能な翼(一般には底部に配置される)を備えたタンクなどの非連続式混合機を使用できる。また、リコペン供給源または抽出溶剤用脂質を、スクリュー式運搬装置を使って一連の障害物(穴あき板、ワイヤー網、格子など)を通過させる連続式混合機を使用できる。
【0030】
同様に、(リコペン供給源/脂質を事前混合して、またはホモジナイザーの入口に流入する2つの流れにして供給できる)リコペン供給源および抽出溶剤用脂質を高速高圧で狭いスリットを通して通過させる高圧ホモジナイザー、あるいは流体剪断式ホモジナイザーを使用できる。
【0031】
同様に、ステップ(a)の混合操作では、その他の従来のデバイス、例えば、ミクロ流体化機、超音波デバイス、コロイドミルなどを使用できる。
【0032】
混合処理を実施した後、本発明の目的である製剤を構成する脂質相を分離しなければならない。この相は、抽出溶剤用脂質、およびリコペン供給源中に存在するリコペンを始めとする大部分の脂溶性化合物(トリグリセリド、着色物、抗酸化剤など)で構成される。この分離処理は、当技術分野の任意の方法、例えば、デカンテーションによって、または機械的方法、例えば遠心分離によって実施できる。好ましい実施形態において、3000〜4000rpmの速度で運転されるデカンター(水平遠心式)が使用される。6000L/時間までの高率生産を可能にするこの型の多用途デバイスは、例えば、オリーブ油の製造およびスラッジの乾燥で使用される。
【0033】
本発明の方法の特定の実施形態において、ステップ(a)は、真空下でまたは不活性雰囲気下で実施される。実際、使用する抽出溶剤用脂質が容易に酸化され易い(例えば、多不飽和酸に富む油)場合には、場合によっては、ステップ(a)を真空下または不活性雰囲気下で実施することが推奨される。
【0034】
別の特定の実施形態において、本発明の方法は、リコペン供給源を脱水する事前ステップを含む。
【0035】
高い水分含有量は、直接可溶化の処理を妨害する可能性がある。例えば、新鮮なトマトは、ほぼ85重量%の水分含有量を有し、これらの条件下で、抽出はほとんどゼロである。従って、リコペン供給源の水分含有量を75重量%未満の含有量まで低下させることが必須である。さらに、水を除去する処理は、細胞破壊をも伴うので、リコペン供給源のこの事前脱水は、有色体の内部に存在するリコペンを放出するための酵素処理の実施を不要にする。
【0036】
この脱水は、当産業で伝統的に使用される機械的または熱的処理、例えば、遠心分離または蒸発などを使用する全面的または部分的なものでよい。さらに、言及したように、脱水処理は細胞構造を十分に破壊するが、酵素的または機械的除皮を利用して、細胞構造を破壊し、有色体からのリコペンの放出を促進できる。
【0037】
別の特定の実施形態では、ステップ(b)の後に得られるリコペンに富み有機溶剤を含まない製剤を、引き続き、濾過、遠心分離、デカンテーションなどによる、残存する可能性のある痕跡量の水または固体残留物を除去するための処理にかけることができる。
【0038】
本発明の方法の特定の一実施形態において、リコペン供給源または出発原料は、リコペンを含有する任意の植物産物、藻類または微生物である。
【0039】
好ましい実施形態において、リコペン供給源は、トマト、スイカ、ワイルドベリー、花などの植物産物である。さらにより好ましい実施形態において、この植物産物は、完全脱水トマト、部分脱水トマト、トマト濃縮物、粉末トマトおよび凍結乾燥トマトを含む群から選択されるトマトに由来する植物産物である。
【0040】
特に、リコペン供給源としては、トマト加工産業からのトマト濃縮物を使用できる。なぜなら、これが、一連の重要な利点を付与するからである。すなわち、
1)トマト濃縮物は、いかなる予備処理も受けることなく本発明の方法で直接的に処理される。
2)包装されたトマト濃縮物は、冷蔵を必要とすることなしに極めて長い貯蔵寿命を有する。実際、濃縮物のドラムは、それらが販売されるまで年間を通して室温で積み重ねられて貯蔵される。
3)それは、トマト加工産業に特に適合した方法であり、該産業が現在直面している多くの問題を解決できる可能性がある。その利益は、
a)利用できる産物を多様化すること。このことは、トマト濃縮物の生産の周辺にほとんど全面的に集中している部門で特に重要である。例えば、スペインでは、100万トンを超えるトマトが加工され、ほぼ90%が濃縮物を製造するのに使用される。同様の状況は、その他のトマト生産国でも見い出され、世界市場での調達可能性の増大および結果としての価格低下を引き起こす。
b)工業施設の年間を通してより均衡のとれた使用。トマト濃縮物の生産シーズンは短く(55〜60日)、原料の70%は1カ月以内に受け入れられる。その年の残りの間、設備はほとんど使用されない。本発明の方法により、生産活動を年中維持できる可能性がある。
c)前の2点ゆえの、および特に得られる製品が大きな付加価値を有するゆえの利益の増大。
d)その部門の会社は、高度に技術的であり、それゆえ、低コストを目指して、彼らの設備に本発明の方法を展開するのに必要な生産ラインを組み込むことができる可能性があるので最小限の投資。さらに、得られる固体副生物を、例えばソース生産ラインに供給できる。
【0041】
本発明の方法の別の特定の実施形態において、抽出溶剤用脂質は、食品および/医薬級の天然または合成の脂肪またはオイル、あるいはこれらの組合せである。
【0042】
抽出溶剤用薬剤としては、リコペンが可溶であり、かつ、製品を上市する予定の国の食品および/または医薬の規制により認可される、任意の脂質、脂肪、オイルまたはこれらの混合物を使用できる。
【0043】
好ましい実施形態において、抽出溶剤用脂質は、植物油である。より好ましい実施形態において、抽出溶剤用脂質は、オリーブ油、ヒマワリ油、ダイズ油、アブラナ種子油、パーム油、クルミ油、アーモンド油およびアマニ油を含む群から選択される植物油である。
【0044】
別の好ましい実施形態において、抽出溶剤用脂質は、動物油である。より好ましい実施形態において、抽出溶剤用脂質は、油性魚油(暗色魚油)およびタラ肝油から選択される動物油である。
【0045】
別の好ましい実施形態において、抽出溶剤用脂質は、ワセリンおよびグリセリンから選択される脂肪である。
【0046】
本発明の別の態様は、濃度が1000ppm以下のリコペンならびに食品および/または医薬級の脂質を含有する、記載の方法で得ることのできる、リコペンに富み有機溶媒を含まない製剤(本明細書中では、「本発明の製剤」と呼ぶ)を指す。
【0047】
好ましい実施形態において、本発明の製剤は、濃度が500ppmのリコペンおよびオリーブ油を含む。
【0048】
例として、トマト濃縮物から本発明の方法で得られる製剤中のリコペン濃度は、500ppm、すなわち製剤1kg当たりリコペン500mgでよく、使用されるトマトの種類および適用される条件により左右され、一方、生トマトのリコペン含有量はトマト1kg当たりほぼ30〜50mgである(30〜50ppm)。
【0049】
製剤中のリコペン濃度は、リコペン供給源の水およびリコペン含有量、温度、接触時間、および脂質/リコペン供給源の比率に左右される。専門家は、これらの変数を容易に変更して所望のリコペン濃度を得ることができる。例として、図1は、オリーブ油を用いるリコペンの抽出速度論を、2つの温度に関して示す。両方の温度で、抽出処理は極めて迅速であり、抽出は、最初の瞬間から起こり、接触時間と共に増大し、多かれ少なかれ一定値に到達することが観察できる。急速な抽出速度論は、工業的レベルでの高い生産速度を可能にするので、実際的観点から有益である。
【0050】
図2は、オリーブ油を用いるリコペンの抽出処理における温度およびリコペン供給源の水分含有量の影響を示す(抽出時間:10分)。水含有量の低下は、抽出に好都合であることが観察できる。さらに、温度が上昇するにつれて、製剤のリコペン濃度も上昇する。製剤の熱分解を回避するために高い温度を使用しないこと(120℃を超えない)が推奨される。
【0051】
本発明の方法において、やはり潜在的抗酸化能力を有するその他の植物化学物質(カロテノイド、ステロールなど)も抽出される。このことは、抗酸化剤類の有益な効果がそれらの間の相乗効果により強化されることが立証されているので、実際的観点から重要である。例えば、ビタミンEの有益な効果は、それが天然油(例えば、オリーブ油)中に存在する場合に高まることがわかっており、このことは、植物ステロールとの相乗効果によるものと考えられる。この理由のため、本発明の方法で得られる製剤は、純粋のリコペンをオイルまたは脂肪と単純に混合して得られるものよりも栄養的により有益である。特定の実施形態において、リコペン供給源がトマト濃縮物に相当する場合、低濃度ではあるが、トマト中に本来的に存在する相当の数のカロテノイド類が抽出される。
【0052】
【表1】

【0053】
例として、得られた製剤中の抽出されたその他の植物化学物質と組み合わせたリコペンの抗酸化能力を立証するために、オリーブ油の試料の酸化安定性、さらに、オリーブ油および600ppmのリコペンからなる本発明の方法で得られた製剤の酸化安定性を評価した。酸化安定性のこの測定は、試料を酸素飽和下で100℃まで加熱するランシマット(Rancimat)743型を使用する加速法を利用して行なった。この装置は、酸化反応の誘導期間を時間値で測定する。得られた結果を表2に示す。
【0054】
【表2】

【0055】
オリーブ油およびリコペンを含む本発明の製剤は、オリーブ油単独の酸化安定性よりもほぼ3倍大きい酸化安定性を示すことが観察できた。
【0056】
考慮すべきもう1つの重要な態様は、加工トマト産物からのリコペンは、トランス形リコペンのすべてが食用脂質の存在下で加熱されることによってシス形リコペンに変換されるので、生トマト中のリコペンよりも大きな生物学的利用能を示す[アガーワル、エス.(Agarwal S.)およびラオ、エー.ブイ.(Rao A.V.)(2000),「Tomato lycopene and its role in human health and chronic diseases」,Can.Med.Assoc.J.163,739〜744]。本発明により提供される製剤では、リコペンが脂質中に溶解されているという事実によって、吸収が促進される[ボーム、ブイ.(Bohm V.)(2002),「Intestinal absorption of lycopene from different types of oleoresin capsules」、J.Food Sci.67,1910〜1913]。
【0057】
本発明により提供されるリコペンに富み有機溶剤を含まない製剤は、抗酸化剤および着色剤の特性を有し、吸収が容易であり、これらの濃縮物を含有する組成物を製造するのに使用できる。
【0058】
本発明の別の態様では、本発明の製剤、ならびにさらに1つ以上の希釈剤および/または添加剤を含有する組成物(本明細書中では「本発明の組成物」と呼ぶ)が提供される。
【0059】
本発明の組成物の特定の実施形態において、食品および/または医薬級の希釈剤または複数の希釈剤は、オリーブ油、油性魚油、タラ肝油およびアマニ油から選択される。
【0060】
希釈剤としては、オリーブ油、好ましくはエクストラバージンオリーブ油が好ましい。なぜなら、オリーブ油は、溶剤を必要とせず単純な機械的圧搾で得ることができ、かつ、顕著な濃度のトコフェロールを有する天然産物であるからである。トコフェロールは、前に述べたように、抗酸化特性を有する化合物であり、本発明の組成物中に存在するリコペンと一緒になって相乗効果を発揮する。さらに、いくつかの研究は、オリーブ油が心血管疾患に対して予防効果を有することを立証している。実際、米国におけるオリーブ油のラベルは、次のメッセージ、すなわち「科学的試験により、1日にスプーン2杯のオリーブ油の摂取が冠状動脈疾患の危険を低減することがわかっています」を表示できる。それゆえ、バージンオリーブ油を用いたリコペンに富む製剤は、商業的に再評価されている、いかなる化学的処理も行なわないで得られる天然産物に相当する。
【0061】
従って、好ましい実施形態において、この希釈剤は、高含有量のオメガ−3脂肪酸を含む油、例えば、タラ肝油、油性魚油およびアマニ油である。これらの脂肪酸は、健康に対して有益な効果を有し、冠状動脈疾患を予防するのを助けることができ、この効果は、リコペンの存在によって強化される。
【0062】
本発明の組成物の別の特定の実施形態において、添加剤は、抗酸化剤、乳化剤およびこれらの混合物から選択される。抗酸化剤としては、該製品の上市を予定している国の食品および/または医薬に関する規制で認可されている任意の抗酸化剤を使用できる。同様に、乳化剤としては、該製品の上市を予定している国の食品および/または医薬に関する規制で認可されている任意の乳化剤を使用できる。
【0063】
好ましい実施形態において、抗酸化剤は、アスコルビン酸およびトコフェロールから選択される。
【0064】
別の好ましい実施形態において、乳化剤は、レシチンおよびモノグリセリドから選択される。
【0065】
それゆえ、本発明の製剤は、それが製造される形態で使用することができ、あるいは所望のリコペン濃度にするために希釈剤で希釈することができ、あるいは、任意選択で、1つ以上の適切な添加剤、例えば、抗酸化剤、乳化剤およびこれらの混合物などを加えることができる。
【0066】
本発明の製剤または組成物は、その意図した応用に応じて変えることのできる量のリコペンを含むことができる。また、希釈剤および添加剤は、これらを使用するなら、本発明の組成物中にその意図した機能に応じて変えることのできる量で存在できる。
【0067】
本発明の別の態様において、前述したような製剤または組成物の使用は、ニュートラシューティカル製品、化粧品、医薬品または食品を製造するために提供される。
【0068】
本発明の製剤または組成物は、種々の食品、例えば、マヨネーズ、サラダドレッシング、ソース、マーガリンなどを製造するのに使用できる。それゆえ、前述の500ppmのリコペンを含むオリーブ油に富む製剤は、直接的に摂取することができ、あるいはサラダドレッシング中で使用できる。
【0069】
さらに、本発明の製剤または組成物は、化粧品工業で使用できる。フリーラジカルは、生物体の内部で形成されるだけではなく、煙または太陽からの紫外線などの無数の環境因子により皮膚中で産生される可能性があることを考慮に入れるべきである。植物化学物質の抗酸化活性は、細胞レベルだけではなく、皮膚レベルでも保護効果を有することが立証されている[エス.アール.ピネル(S.R.Pinnell)(2003),「Cutaneous photodamage,oxidative stress,and topical antioxidant protection」,J.Am.Acad.Dermatol.48(1)、1〜19]。この理由のため、リコペンの潜在的抗酸化能力を考えて、例えば、Kiehl's社が上市している化粧品のように、それらの組成物中に新規な成分としてこのカロテノイドを組み込んだ、クリーム、ローションおよびその他の化粧品が、市場に送り出されている。
【0070】
従って、本発明の製剤または組成物は、任意の存在形態、液体、または例えば軟質ゼラチンカプセル中にカプセル化されたような固体の形態を取ることができる。これらのカプセルは、消費者が直接摂取するのに適している。
【0071】
特殊なカプセル化製剤の場合には、製剤を、日光からそれらの分解を防止するために着色されるであろう軟質ゼラチンカプセル中に、窒素下で通常の方法に従ってカプセル化しなければならない[ファウリ、シー(Fauli C.)(1993),「Capsulas de gelatina blandas」,in Tratado de Farmacia Galenica,1a ed.,Luzan 5,S.A.de Ediciones,page.587〜592]。得られるすべての製品は、日光に対する暴露の影響から製品を保護する不透明容器中に窒素下で包装すべきである。
【0072】
リコペンの1日当たり推奨量に関する確かな合意は存在しないが、疫学的研究は、低い濃度でさえ有益な効果を有することを示している。例えば、1日に2.5mg〜5mgのリコペンを補充した食餌は、心血管疾患に対して保護効果を有すると思われる[モスト、エム.(Most M.)(2004),「Estimated phytochemical content approaches to stop hypertension(DASH)diet is higher than in the control study diet」,J.Am.Diet.Assoc.,104,1725〜1727]。濃度が500ppmの本発明の製剤を10g摂取(サラダドレッシング中への通常の添加量)すると、5mgの総量となる。一方、実施された別の研究は、比較的高濃度(>30ppm/日)は、健康に対して有害でないことを示している。従って、製造業者は、彼らの選択または商業的関心に応じて、彼らの製品を調製するのに広範な範囲の濃度を使用する。
【0073】
本発明により提供される製品のさらなる利点は、本発明の製剤およびそれらの製剤を含有する組成物が、リコペンの天然供給源に対比して、腸管でのリコペンの吸収を促進するという事実にある。実際、リコペンの天然供給源、例えばトマトなどで、この色素は、有色体、壁で囲まれた細胞オルガネラ中に封鎖され、このことが腸管中での吸収をより困難にする。デュッセルドルフ大学のダブリュー.スタール(W.Stahl)博士およびエイチ.シーズ(H.Sies)博士が実施した研究は、オイルの存在がリコペンの吸収をどのように大きく増加させるかを立証している[スタール、ダブリュー.(Stahl,W.)およびシーズ、エイチ.(Sies H.)(1996),Archives of Biochemistry and Biophysics,336(1)]。前に示したように、これは、天然供給源中で、リコペンは、トランス形であり、かつ有色体中に封鎖されているからである。
【0074】
本発明は、トマト濃縮物産業にとって関心がある可能性がある。なぜなら、この産物が、前述のように、この方法のためのすばらしい原料であるからである。本発明によって提供されるリコペンに富み有機溶剤を含まない製剤、および該製剤を含有する組成物は、主に、ニュートラシューティカル産業用に設計され、それに付加価値を付与し、それを産業にとっての重要な収入源にする。さらに、前述のように、本発明の製剤を使用して、食品における新たなリコペン供給源になるであろう種々の製品(マヨネーズ、サラダドレッシング、ソース、マーガリンなど)を製造することができ、それらの製品は、該産業にとって結果としての付加価値、および消費者にとって食餌上の利点を有する。
【0075】
最後に、本発明の方法が低コストであることは、すべての製品を消費者に対して手頃な価格で提供できることを意味することは注目に値する。現在、それらの高価格のため、リコペンに富む製品は、高い購買力を有する消費者のみが費用を負担できるだけである。従って、集団において、そのように多くの有益な特性を有するリコペンなどの化合物の摂取を増加させることによって、本発明の適用は、この集団の栄養段階を改善することに寄与する。
【0076】
以下の実施例は、本発明を例示するが、本出願の範囲を制限するものと考えるべきではない。
【実施例】
【0077】
実施例1.
サラダドレッシングとして直接摂取するための、リコペンに富み有機溶剤を含まないオリーブ油製剤の調製:
この実施例は、61.7重量%の水分含有量を有するトマト濃縮物からの、種々の濃度のリコペンを含有するオリーブ油製剤の直接調製を説明する。
【0078】
オリーブ油およびトマト濃縮物を、1:1の重量比で、温度を調節した4500rpmの非連続式工業用混合機中、種々の温度で5分間一緒に混合する。次いで、4000rpmで遠心分離を行なうことによって、2つの相を分離する。液相は、リコペンに富み有機溶剤を含まないオリーブ油の製剤である。表3は、それぞれの温度での、各オイル製剤中のリコペン濃度、および10gの製剤中のリコペン量(サラダドレッシング中の通常の摂取量)を示す。
【0079】
リコペンは、光に敏感なので、常に日光から保護しなければならない。この理由のため、リコペンに富むオイルは、不透明容器またはトパズ色のガラス容器中に包装しなければならない。
【0080】
【表3】

【0081】
リコペンに富み有機溶剤を含まないいくつかのオリーブ油製剤を単純かつ迅速に得ることができることを観察できる。これらの製剤は、リコペンの適切な1日当たり用量を提供する目的で、容易かつ安全に投与するのに適切な量のリコペンを提供する。
【0082】
実施例2.
マヨネーズを調製するための、リコペンに富み有機溶剤を含まないヒマワリ油製剤の調製:
この実施例では、61.7重量%の水分含有量を有するトマト濃縮物から得られる、種々のリコペン濃度を有するヒマワリ油製剤の直接調製を説明する。
【0083】
ヒマワリ油を、トマト濃縮物と1:1の重量比で、温度を調節した4500rpmの非連続式工業用混合機中、種々の温度で5分間混合する。その後、4000rpmで遠心分離を行なうことによって、2つの相を分離する。液相は、リコペンに富み有機溶剤を含まないヒマワリ油に相当し、次の処方によりマヨネーズを調製するための基剤として使用される。
【0084】
【表4】

【0085】
表5は、それぞれの温度での、各オイル製剤中のリコペン濃度、およびマヨネーズの用量10g中のリコペン量を示す。
【0086】
【表5】

【0087】
この方法に従って、リコペンに富み有機溶剤を含まないヒマワリ油の種々の製剤を、単純かつ迅速に得ることができる。これらの製剤は、マヨネーズを調製するのに直接使用することができ、それゆえ、マヨネーズはリコペン供給源になる。
【0088】
実施例3.
化粧用クリームを調製するための、リコペンに富み有機溶剤を含まないワセリン製剤の調製:
この実施例では、69.6重量%の水分含有量を有するトマト濃縮物から得られる種々の濃度のリコペンを有するワセリン製剤の直接調製を説明する。
【0089】
トマト濃縮物およびワセリンを、1:2、1:1および2:1の重量比で、70℃に温度を調節した3000rpmの非連続式工業用混合機中、1分間一緒に混合する。次いで、4000rpmで遠心分離を行なうことによって、2つの相を分離する。液相は、リコペンに富み有機溶剤を含まないワセリンであり、ワセリンの比率がそれぞれ12重量%および20重量%である再生用化粧クリームおよび保湿用化粧クリームを調製するための基剤として使用される。
【0090】
表6は、トマト濃縮物およびワセリンの各比率での、製剤中のリコペン濃度、および化粧クリームの用量100g中に存在するリコペン量を示す。
【0091】
【表6】

【0092】
リコペンに富み有機溶剤を含まないワセリンの製剤を、単純かつ迅速に収得できることが観察できる。この製剤は、化粧クリームを調製するのに直接使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】2種の温度を使用し、オリーブ油で抽出されるリコペンの濃度を時間の関数として示す図である。
【図2】水分含有量の異なる2種のリコペン供給源を使用し、抽出時間が10分の場合の、オリーブ油で抽出されるリコペンの濃度を温度の関数として示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)リコペン供給源を抽出溶剤用脂質と混合するステップと、
(b)ステップ(a)で得られた脂質相を分離して、リコペンに富み有機溶剤を含まない製剤を得るステップと、を含む、リコペンに富み有機溶剤を含まない製剤の収得方法であって、ステップ(a)の混合が有機溶剤の不在下で実施されることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、ステップ(a)で、リコペン供給源および抽出溶剤用脂質が、120℃未満の温度で高速撹拌することによって混合されることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法であって、撹拌速度が500〜10000rpmの間で変化し、かつ温度が40〜100℃の間で変化することを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法であって、撹拌速度が2500〜5000rpmの間で変化し、かつ温度が60〜90℃の間で変化することを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法であって、ステップ(a)が真空または不活性雰囲気下で実施されることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法であって、リコペン供給源を脱水する事前ステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法であって、リコペン供給源が、リコペンを含有する植物産物、藻類または微生物であることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法であって、リコペンを含有する産物が、植物産物であることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法であって、リコペンを含有する産物が、完全脱水トマト、部分脱水トマト、トマト濃縮物、粉末トマトおよび凍結乾燥トマトを含む群から選択されるトマトから誘導される植物産物であることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法であって、抽出溶剤用脂質が、食品および/または医薬級の天然または合成の脂肪またはオイル、あるいはこれらの混合物であることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法であって、オイルが植物オイルであることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法であって、オイルが、オリーブ油、ヒマワリ油、ダイズ油、アブラナ種子油、パーム油、クルミ油、アーモンド油およびアマニ油からなる群から選択されることを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項10に記載の方法であって、オイルが動物油であることを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法であって、オイルが、油性魚油およびタラ肝油から選択されることを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項10に記載の方法であって、脂肪が、ワセリンおよびグリセリンから選択されることを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項1から請求項15のいずれか1項に記載の方法で得ることのできる、リコペンに富み有機溶剤を含まない製剤であって、1000ppm以下の濃度のリコペン、ならびに食品および/または医薬級の脂質を含むことを特徴とする製剤。
【請求項17】
請求項16に記載の製剤であって、500ppmの濃度のリコペン、およびオリーブ油を含むことを特徴とする製剤。
【請求項18】
請求項16から請求項17のいずれか1項に記載の製剤を含む組成物であって、さらに、1つ以上の希釈剤および/または添加剤を含むことを特徴とする組成物。
【請求項19】
請求項18に記載の組成物であって、希釈剤が、オリーブ油、油性魚油、タラ肝油およびアマニ油から選択されることを特徴とする組成物。
【請求項20】
請求項18に記載の組成物であって、添加剤が、抗酸化剤、乳化剤およびこれらの混合物から選択されることを特徴とする組成物。
【請求項21】
請求項20に記載の組成物であって、抗酸化剤が、アスコルビン酸およびトコフェロールから選択されることを特徴とする組成物。
【請求項22】
請求項20に記載の組成物であって、乳化剤が、レシチンおよびモノグリセリドから選択されることを特徴とする組成物。
【請求項23】
ニュートラシューティカル製品、化粧品、医薬品または食品を製造するためであることを特徴とする、請求項16もしくは請求項17に記載の製剤、または請求項18から請求項22のいずれか1項に記載の組成物の使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−536896(P2008−536896A)
【公表日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−507099(P2008−507099)
【出願日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際出願番号】PCT/ES2006/000114
【国際公開番号】WO2006/111591
【国際公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【出願人】(507348193)
【Fターム(参考)】