説明

リリーフ弁

【課題】動圧の影響によるリリーフ弁のヒステリシスを小さくする。
【解決手段】リリーフ弁の弁体50において、弁座42と当接する部位よりも上流側を円錐形にする。これによると、弁体50のよどみ点近傍における流体の流線Aの向きの変化が、弁体が球状の場合よりも小さくなる。このため、開弁時におけるよどみ点近傍の平均流速が高くなって動圧が小さくなり、その結果ヒステリシスが小さくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主通路内の流体圧力を所定圧以下に調整するリリーフ弁に関し、例えば車両の燃料系に用いるリリーフ弁に好適である。
【背景技術】
【0002】
車両の燃料タンク内に搭載される燃料移送用のポンプには、一般的にリリーフ弁が内蔵されている。このリリーフ弁は、リリーフ通路を開閉する球状の弁体と、この弁体を閉弁向きに付勢するスプリングとを備えている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このリリーフ弁の開弁圧は、車両のシステム圧よりも高く、かつ配管保護の為にできるだけ低く設定する必要があり、一般的には車両システム圧(300〜400kPa程度)に対し、リリーフ弁の開弁圧は50〜100kPa高くなるように設定されている。
【特許文献1】特開平5−71436号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、リリーフ弁の開弁圧はほぼ配管内の静圧で決まる。一方、一旦リリーフ弁が開くと流出する燃料の動圧が弁体に加わるため、一旦リリーフ弁が開くと閉じにくいというヒステリシス特性を持っており、これはポンプの吸入流量が多いほど顕著となる。
【0005】
従って、リリーフ弁の開弁圧を低めに設定した場合、すなわち、車両システム圧とリリーフ弁の開弁圧との差を小さく設定した場合には、リリーフ弁の開弁後、配管内の静圧が車両システム圧以下まで低下しないと、リリーフ弁が閉弁しない虞がある。一方、ヒステリシスを見込んでリリーフ弁の開弁圧を高めに設定した場合、すなわち、車両システム圧とリリーフ弁の開弁圧との差を大きく設定した場合には、ポンプよりも下流部のフィルタや配管が閉塞したときに配管内の圧力が上昇し過ぎてしまい、ポンプや配管にダメージを与えるという問題が発生する。
【0006】
本発明は上記点に鑑みて、動圧の影響によるリリーフ弁のヒステリシスを小さくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、主通路(30、40)から分岐し主通路(30、40)内の流体を逃がすリリーフ通路(41)に配置されて、主通路(30、40)内の流体圧力を所定圧以下に調整するリリーフ弁において、主通路(30、40)内の流体圧力によりリリーフ通路(41)を開く向きに付勢されるとともに、リリーフ通路(41)中に形成された弁座(42)と接離してリリーフ通路(41)を開閉する弁体(50)と、この弁体(50)を閉弁向きに付勢するスプリング(51)とを備え、弁体(50)は、弁座(42)と当接する部位よりも上流側が円錐形であることを特徴とする。
【0008】
これによると、弁体(50)のよどみ点近傍における流体の流線の向きの変化が、弁体が球状の場合よりも小さくなる。このため、開弁時におけるよどみ点近傍の平均流速が高くなって動圧が小さくなり、その結果ヒステリシスが小さくなる。
【0009】
請求項2に記載の発明のように、弁体(50)の上流側先端部(500a)を球面にすることができる。
【0010】
請求項3に記載の発明では、請求項2に記載のリリーフ弁において、リリーフ通路(41)のうち弁座(42)の上流側に位置する上流側リリーフ通路穴(410)の直径をDとし、弁体(50)における上流側先端部(500a)の球面の曲率半径をRとしたとき、R≦D/2であることを特徴とする。
【0011】
ところで、弁体が球状の場合は、弁体の直径は上流側リリーフ通路穴(410)の直径Dよりも必然的に大きくなり、球状の弁体の曲率半径をRbとすると、Rb>D/2となる。
【0012】
これに対し、弁体(50)が円錐形の場合、弁体(50)における上流側先端部(500a)の球面の曲率半径Rは、R≦D/2とすることができる。そして、R≦D/2とすることにより、弁体(50)のよどみ点近傍における流体の流線の向きの変化を、弁体が球状の場合よりも確実に小さくすることができ、ひいてはヒステリシスを小さくすることができる。
【0013】
なお、特許請求の範囲およびこの欄で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の一実施形態について説明する。図1は一実施形態に係るリリーフ弁を用いたポンプの断面図、図2は図1のリリーフ弁の拡大断面図である。
【0015】
このポンプは、車両等の燃料タンク内に収容され、燃料タンクから吸入した燃料をエンジン側に供給する燃料ポンプとして用いられる。図1に示すように、ポンプは、燃料を昇圧して吐出するポンプ部1と、このポンプ部1のインペラ12を回転駆動するモータ2とを備え、ポンプ部1およびモータ2は、円筒状のハウジング3内に収容されている。
【0016】
モータ2は、直流モータであり、ハウジング3の内周壁に永久磁石20が環状に配置され、この永久磁石20の内周側に同心円上に電機子21が配置されている。電機子21のシャフト22は、ベアリングホルダ23に支持された軸受部材24と、ポンプ部1のケーシング11に支持された軸受部材24とにより、回転自在に保持されている。電機子21における反ポンプ部側の端部に整流子25が配設されており、図示しない電源から、ターミナル26、図示しないブラシ、および整流子25を介して、電機子21のコイルに電力が供給される。
【0017】
ポンプ部1は、カバー10、ケーシング11、およびインペラ12等から構成されている。ケーシング11は、カバー10よりもモータ2側に配置され、その径方向中心部に軸受部材24が挿入されている。カバー10とケーシング11により空間が形成され、その空間に円板状のインペラ12が回転自在に収容されている。インペラ12の径方向中心部には、電機子21(図1参照)のシャフト22が挿入されており、モータ2によりインペラ12が回転駆動されるようになっている。
【0018】
そして、インペラ12の回転により、燃料タンク内の燃料は、カバー10の吸入通路101から吸入され、さらに昇圧されて、ケーシング11の吐出通路(図示せず)からハウジング3内の空間30へ吐出される。
【0019】
ハウジング3における反ポンプ部側には、樹脂製のエンドカバー4が配置されている。エンドカバー4は、エンジンに接続される吐出口40を備え、ポンプ1により昇圧されてハウジング3内の空間30へ吐出された燃料は、吐出口40および図示しない燃料配管を介してエンジンに供給されるようになっている。エンドカバー4内には、吐出口40から吐出された燃料の逆流を防止するために図示しない逆止弁が配置されている。なお、空間30および吐出口40は、本発明の主通路を構成する。
【0020】
図1、図2に示すように、エンドカバー4には、空間30から分岐して空間30内の燃料を燃料タンク内に逃がすリリーフ通路41が形成されている。リリーフ通路41の途中には、後述するリリーフ弁5の弁体50が接離する弁座42が形成されている。リリーフ通路41は、弁座42の上流側に位置する円柱状の上流側リリーフ通路穴410と、弁座42の下流側に位置するとともに、上流側リリーフ通路穴410よりも大径の円柱状の下流側リリーフ通路穴411とからなる。なお、以下の説明では、リリーフ弁5の開弁時に下流側リリーフ通路穴411内を弁体50に向かって流れる燃料の流線を、リリーフ燃料流線Aという。因みに、リリーフ燃料流線Aは、上流側リリーフ通路穴410の軸線と平行である。
【0021】
リリーフ通路41には、空間30内の燃料圧力を所定圧以下に調整するリリーフ弁5が配置されている。リリーフ弁5は、空間30内の燃料圧力によりリリーフ通路41を開く向きに付勢されるとともに、弁座42と接離してリリーフ通路41を開閉する弁体50と、この弁体50を閉弁向きに付勢するスプリング51とを備えている。
【0022】
弁体50は、2つの円錐を組み合わせた形状になっている。具体的には、燃料流れの上流側に位置する上流弁体部500は、燃料流れに沿って径が拡大する円錐形であり、燃料流れの下流側に位置する下流弁体部501は、燃料流れに沿って径が縮小する円錐形である。なお、上流弁体部500は、少なくとも弁座42と当接する部位よりも上流側が円錐形になっていればよい。
【0023】
上流弁体部500の上流側先端部500aは、球面になっている。ここで、上流側リリーフ通路穴410の直径をDとし、上流弁体部500の上流側先端部500aの球面の曲率半径をRとしたとき、R≦D/2になっている。望ましくは、R≦D/4である。
【0024】
次に、上記構成になるポンプの作動について説明する。電機子21のコイルに電力が供給されると電機子21が回転駆動され、電機子21のシャフト22に固定されたインペラ12も回転駆動される。インペラ12の回転により、燃料タンク内の燃料は、吸入通路101から吸入され、インペラ12の複数の羽根溝(図示せず)の作用によって昇圧される。昇圧された燃料は、ハウジング3内の空間30へ吐出され、吐出口40および図示しない燃料配管を介してエンジンに供給される。
【0025】
この際、空間30内の燃料圧力(静圧)が所定圧に達すると、弁体50は燃料圧力によりスプリング51の付勢力に抗して開弁向きに移動され、弁体50が弁座42から離れてリリーフ通路41が開かれる。これにより、空間30内の燃料がリリーフ通路41を介して燃料タンク内に逃がされるため、空間30内の燃料圧力が低下する。
【0026】
前述したように、一旦リリーフ弁5が開弁すると燃料タンク内に逃がされる燃料の動圧が弁体50に加わるため、ヒステリシスが発生するが、以下述べるように、本実施形態のリリーフ弁5ではそのヒステリシスを小さくすることができる。
【0027】
ここで、動圧qは、q=1/2・ρ・V2、で与えられる。なお、ρは燃料の密度、Vは流速である。また、上流側リリーフ通路穴410における流速をV1、弁体50のよどみ点近傍の所定投影面積内における平均流速をV2とすると、流速Vは、V=V1−V2、で与えられる。
【0028】
そして、本実施形態のように上流弁体部500を円錐形にした場合は、よどみ点近傍でのリリーフ燃料流線Aの向きの変化が、従来のリリーフ弁(すなわち、弁体50が球状)よりも小さくなる。このため、本実施形態のリリーフ弁5ではよどみ点近傍の平均流速V2が従来のリリーフ弁よりも高くなって動圧が小さくなり、その結果ヒステリシスが小さくなる。
【0029】
ところで、弁体50が球状の場合は、弁体50の直径は上流側リリーフ通路41穴の直径Dよりも必然的に大きくなり、球状の弁体50の曲率半径をRbとすると、Rb>D/2となる。
【0030】
これに対し、弁体50が円錐形の場合、弁体50における上流側先端部の球面の曲率半径Rは、R≦D/2とすることができる。そして、R≦D/2とすることにより、よどみ点近傍でのリリーフ燃料流線Aの向きの変化を、弁体50が球状の場合よりも確実に小さくすることができ、ひいてはヒステリシスを小さくすることができる。
【0031】
なお、上記実施形態においては、弁体50の下流弁体部501を円錐形にしたが、図3に示す変型例のように、弁体50の下流弁体部501を半球形状にしてもよい。
【0032】
(他の実施形態)
上記実施形態では、燃料の圧力を調整する例を示したが、本発明は燃料以外の流体の圧力を調整するリリーフ弁にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施形態に係るリリーフ弁を用いたポンプの断面図である。
【図2】図1のリリーフ弁の拡大断面図である。
【図3】一実施形態に係るリリーフ弁の変型例を示す要部の断面図である。
【符号の説明】
【0034】
30 空間(主通路)
40 吐出口40(主通路)
41 リリーフ通路
42 弁座
50 弁体
51 スプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主通路(30、40)から分岐し前記主通路(30、40)内の流体を逃がすリリーフ通路(41)に配置されて、前記主通路(30、40)内の流体圧力を所定圧以下に調整するリリーフ弁において、
前記主通路(30、40)内の流体圧力により前記リリーフ通路(41)を開く向きに付勢されるとともに、前記リリーフ通路(41)中に形成された弁座(42)と接離して前記リリーフ通路(41)を開閉する弁体(50)と、この弁体(50)を閉弁向きに付勢するスプリング(51)とを備え、前記弁体(50)は、前記弁座(42)と当接する部位よりも上流側が円錐形であることを特徴とするリリーフ弁。
【請求項2】
前記弁体(50)の上流側先端部(500a)は、球面になっていることを特徴とする請求項1に記載のリリーフ弁。
【請求項3】
前記リリーフ通路(41)のうち前記弁座(42)の上流側に位置する上流側リリーフ通路穴(410)の直径をDとし、前記弁体(50)における上流側先端部(500a)の球面の曲率半径をRとしたとき、R≦D/2であることを特徴とする請求項2に記載のリリーフ弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−236269(P2009−236269A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−85669(P2008−85669)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】