説明

レンズコーティング方法

【課題】レンズの曲面の少なくとも1部分を偏光液でコーティングする方法を提供する。
【解決手段】1つの方法は、曲面とレンズ軸を有するレンズを準備する工程と、偏光液が前記曲面の少なくとも1部分の上に流れるように、回転軸を中心として前記レンズを回転させる工程とを備え、前記回転軸は前記レンズ軸からオフセットされている。他の方法も記載されている。装置には、上述の方法のいずれかに従って形成された偏光コーティングを有する眼科用レンズが含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
〔発明の背景〕
本発明は、一般にレンズをコーティングする方法に関する。本発明は、詳細には、曲面を持つレンズに、偏光コーティングを適用する方法に関する。
【0002】
〔先行技術の説明〕
偏光レンズはある一定の偏光状態の光を遮断する。水平に偏光された光を遮断することによって、偏光レンズは、非偏光レンズを介した場合に起こり得るグレア(眩しい反射)、例えば、水、道路、または他の対象物からのグレアなどを低減する。グレアが低減された結果、対象物が、くっきりとし、色が明瞭になる。現在、メガネ類に用いられる偏光レンズとして、次の各種の公知のシステムがある。
【0003】
a. フィルムベースの偏光システム
現行のアイウエア製品の一部は、ポリビニルアルコールーヨウ素フィルムを注入成型して熱硬化レンズを作成する、または、積層偏光フィルムをインサート射出成型して熱可塑性レンズを作成する、などの方法で製造されている。ビジネスの観点からは、これらの技術は融通性が低いため、一般に、注文生産の、処方箋による眼科用レンズより、大量生産に適しているとされている。この技術で製造されたレンズの最終光学特性は、そのフィルムによって決定され、簡単に変更できない。更に、フィルムベースのレンズは、偏光製品を別に在庫として保有する必要があり、コスト増になる。
【0004】
フィルムベースの製品はある種の性能/技術の欠点がある。フィルムの偏光効率が非常に高くても、その結果製造されたレンズは、レンズ内におけるフィルム配置の厳格性に大きく依存する。例えば、連続多焦点レンズは、その光学軸から3度以内に偏光軸が配置されていないと、製品が許容されない。また、連続多焦点レンズに配置されたフィルムは、そのフィルムの厚さによって装着者のレンズの最終厚さが限定されることがある。
更に、偏光フィルムの前駆体フィルムは、偏光フィルム(当分野では、ストレッチフィルムとして知られる)を染色する性質上、外観上の不純物/非均一性を有する場合がある。フィルムの着色において縞(ストリーキング)として認められるこれらの非均一性は、注入成型プロセスによって更に悪化する。注入成型プロセス中に、フィルムを熱的、または化学的に攻撃することにより、染料の漂白や、色の非均一性の悪化がもたらされるからである。
【0005】
b. その他の偏光システム
フィルム以外のコーティングを用いて偏光されたレンズの例は、米国特許第4,648,925号、米国特許第4,683,153号、米国特許第4,865,668号、および米国特許第4,977,028に記載されており、これらすべてを、明示的に引用し、本明細書の内容とする。これらの特許に開示された方法の実施は、染料を蒸着してコーティングを形成するため工程の前に、レンズの研磨工程または、スクラッチ工程とを含む。これらのプロセスは、商業的には、”ダーティ”であり、容易に適用できるものでなく、または、必ずしもすべてのレンズ材料および曲率に適合するわけではない。これらのプロセスにおいて、染料分子を配向させるには、基板をスクラッチし、適当な寸法の溝を形成し、それによってダイの分子配向を生成する。この際、整列に適したダイを適用する。このように、偏光されたレンズの全体性能は比較的低い(コントラスト比は40)。スクラッチにより、最終製品にある程度のヘイズ(曇り)が含まれることもある。
【0006】
明示的に引用して本明細書の内容とする米国特許第2,400,877号には、任意の方法で基板を処理して配向を生成し、その配向により基板に適用される偏光可能な材料を適切に配向させ偏光コーティングを形成する処理工程が開示されている。適切な表面配向を生成する手段として、静電界および磁界も開示されているが、好ましい手段として、基板の表面の研磨が開示されている。この特許では、偏光材料の、開示されたフィルムを表面に適用する手段として、「噴霧、流し、流し込み、および刷毛塗り」を記載している。開示された適用方法の一例として、浸漬コーティングが開示されている。この特許の大部分は適用された偏光材料の定着手段の記載に関する。例えば、適用された後のフィルムの蒸着および/または凝固の制御などの記載に関する。この特許は、「本発明の他の目的は、曲面や複雑な形状の表面上に偏光フィルムを提供することと、無制限の色と色の組合せのフィルムを提供することである」と記載している。また、この特許は、「写真技術、双眼鏡、ゴーグル、フロントガラス、ミラー、などの各種の光学用途のための偏光フィルタの処理、および色収差に関して補正されたレンズ」について記載している。この特許は、最初に何らかの配向処理を施されていない表面に、スピンコーティング、または他のコーティングを施すことを示唆していない。また、この特許は偏光液を用いて表面をコーティングする際に、剪断流だけを利用することを示唆していない。
【0007】
剪断を用いて平坦な表面上に偏光コーティングを形成するシステムが2つ最近提案されている。米国特許第5,739,296号、米国特許第6,049,428号、および米国特許第6,174,394号(これらはすべて明示的に引用し本明細書の内容とする)に開示されたOptivaシステムは、剪断が加わると、配向して各色の偏光子を形成する、3種類の自己集合方式のリオトロピック液晶染料の配合物を含む。上述の特許は、コーティングロッド、スロットダイ(押出し)コーティング、毛細管作用によるコーティング、およびその他、例えば高分子フィルムや、ガラスシートなどの平坦な表面をコーティングする方法を用いることを記載している。コーティング中に分子の配向が起こるので、研磨などの表面の前処理工程を必要としない。これにより、特定の整列層の必要性を低減し、または適用中に液晶材料が整列しない可能性がある表面の不適合性を低減することができる。これらの特許に記載されたプロセスは、薄くて平坦な高分子フィルムの連続ロールをウエブコーティングするのに適していて、平坦でない表面で用いるのには適していない。
【0008】
米国特許第6,245,399号(明示的に引用し本明細書の内容とする)は、剪断力によって整列する液晶ゲストホストシステムを開示している。この特許では、染料は、剪断流によって直接整列するのではなく、ゲストの2色性(多色性)染料の配向はホストのリオトロピック液晶材料によって制御され、リオトロピック液晶材料が剪断流によって制御される。この特許は非平坦な表面に剪断流を適用することを示唆していない。
【発明の開示】
【0009】
本発明者は、偏光コーティング用の配向を生成する処理が事前に施されていない表面を含む曲面に偏光液を適用し、それにより、偏光コーティングを形成する方法を開発した。本発明の方法によってもたらされる主たる利点は、注文生産の処方箋レンズ(例えば、眼科用レンズ)上に、短期間で、偏光コーティングを生成できるようになることである。その結果、カスタムレンズメーカーは、顧客の要求があってから偏光コーティングを作成することができるようになり、偏光製品を別在庫として保有する必要がなくなった。
【0010】
本発明者は、偏光液を用いて曲面のレンズをコーティングする方法を提供する。本発明の方法には、偏光液が配置された(円形、矩形、三角形などの任意の適切な形状を有する)平板をスピン回転させ、平板の切り欠き内に位置決めするなどの適切な方法でその平板に固定されたレンズの曲面の少なくとも1部分上に偏光液が分散するようにする。このレンズには、スピン回転させる前に、レンズの曲面上に配向を生成する処理は必要ではない。平板の軸と、コーティングされるレンズの軸は調心されていない、つまり、互いにずれ(オフセット)ている、または、離間されている。スピン回転の結果、偏光液はレンズの曲面上を剪断状に流れる。次に偏光液は、(例えば、乾燥処理などにより)硬化し、曲面上に偏光コーティングを形成する。
【0011】
上述の偏心スピン回転の前に、偏光液を従来の方法で曲面の少なくとも第1の部分上、好ましくは、レンズの曲面全体上に適用することが好ましい。偏光液をレンズの曲面の少なくとも第1の部分上に適用する工程は、例えば、浸漬コーティング装置、またはスピンコーティング装置などの別のコーティング装置で、平板にレンズを配置する前に、実施してもよい。偏光液が従来の手段で、レンズの表面、または曲面の1部分にすでに適用されている実施態様では、平板をスピン回転させる前に平板上に偏光液を配置する工程は必須ではない。偏光液がレンズの曲面に適用され、レンズが平板上に配置されると、平板のスピン回転により、剪断流が生じ、偏光コーティングを得るための最終配向が生成される。
【0012】
本発明の方法のいくつかは、曲面を有するレンズと、レンズ軸とを準備する工程と、レンズ軸からオフセットされた回転軸を中心としてレンズを回転させ、偏光液が曲面の少なくとも1部分上に流れるようにする工程とを含む。好ましくは、レンズ軸と回転軸は、回転工程中は平行である。しかし、レンズを僅かに傾けて、曲面が平板の回転軸方向に向くようにしてもよく、その際、レンズ軸と回転軸とが交差する角度は、45度以下、好ましくは30度以下、より好ましくは20度以下、更により好ましくは10度以下、一層好ましくは5度以下の鋭角になるようにする。上述の回転工程の前に、(例えば、従来のスピンコーティング方法では)レンズ軸を中心としてレンズを回転させ、偏光液が曲面の少なくとも第1の部分上に流れるようにしてもよい。従来のスピンコーティングの後は、回転軸を中心としてレンズを回転させ、曲面の少なくとも第2の部分に流れるようにしてもよい。これらの第1の部分、第2の部分は、同じ部分を含む、または同じ部分であってもよい。そのような実施態様では、従来のスピンコーティングを用いて偏光液の層をレンズの曲面全体に適用してもよい。その後、レンズ軸とオフセットされている回転軸を中心としてレンズを回転させることにより、剪断流が生じ、偏光コーティングを得るための最終配向を生成する。レンズは半径と直径を有し、回転軸は、レンズの半径、レンズの直径、またはレンズの半径の1.5倍と同等またはそれ以上の距離分、レンズ軸からオフセットされている。曲面は、コーティング工程の前に、配向を生成するための処理が施されていなくてもよい。第1の部分は回転工程の前に、材料を用いてコーティングされてもよい。この材料はカップリング剤を含んでもよく、または接着プライマー層を含んでもよい。曲面は凸面であり、レンズは凸面とほぼ(substantially、実質的に)反対側に凹面を有してもよい。本方法は、回転軸を有する平板に位置決めされる切り欠き内にレンズを配置する工程を更に含んでもよい。偏光コーティングは、回転工程の後、(例えば、偏光液の硬化工程をとおして)形成されてもよく、本方法では、偏光液の染料を調整して偏光コーティングの色をカスタマイズする(それぞれ所望の色とする)工程を更に含んでもよい。本方法は、また、偏光液を平板に配置する工程を含んでもよく、回転工程には、平板を回転させることにより、回転軸を中心としてレンズを回転させ、偏光液が曲面の少なくとも1つの部分上に流れるようにする工程を含んでもよい。第1の部分は曲面全体を含んでもよい。
【0013】
本方法の別の態様では、曲面を有するレンズを準備する工程と、偏光液が剪断流に遭遇して、曲面の少なくとも1部分をコーティングするように、偏光液を回転させる工程とを含む。レンズは軸を有し、回転工程は、レンズ軸を中心としてレンズを回転させる工程と、偏光液を、(例えば、従来のスピンコーティング技術を用いて)曲面の少なくとも第1の部分上に流す工程と、回転軸を中心としてレンズを回転させ、偏光液が剪断流に遭遇し、曲面の少なくとも第2の部分をコーティングするようにする工程とを含んでもよい。第1および第2の部分は好ましくは同じ部分を含む、または同じ部分である。曲面は、回転工程の前に、配向を生成するための処理が行われていなくてもよい。第1の部分は、偏光液によってコーティングされる前に、材料によってコーティングされてもよい。その際の材料はカップリング剤を含んでもよく、またはその材料は接着プライマー層を含んでもよい。曲面は凸面であってもよく、レンズは凸面とほぼ反対側に凹面を有してもよい。回転工程の後、(例えば、偏光液の硬化工程をとおして)ダイを偏光液に定着させた後、偏光コーティングが形成されてもよく、また本方法は、偏光液の染料を調整して偏光コーティングの色をカスタマイズする工程を更に含んでもよい。本方法は、また、回転工程の前に、平板に位置決めされた切り欠きにレンズを配置する工程を含んでもよく、その際、レンズはレンズ軸を有し、平板は回転軸を有し、これら2つの軸は互いにオフセットされている。レンズは半径と直径を有し、レンズの半径、レンズの直径、またはレンズの半径の1.5倍と同等またはそれ以上の距離分、回転軸がレンズ軸からオフセットされてもよい。本方法は、平板上に偏光液を配置する工程を更に含んでもよく、回転工程は、回転軸を中心として平板を回転させることを含んでもよい。1部分は、曲面の全体を含んでもよい。
【0014】
本発明の他の態様は、ほぼ中心にある回転軸を有する平板と、好ましくは切り欠きである、レンズ受け構造とを準備する工程と、表面と、回転軸と調心されていないレンズ軸とを有するレンズを切り欠き内に配向する工程と、平板上に偏光液を配置する工程と、偏光液がレンズの表面の少なくとも1部分を被覆するように、回転軸を中心として平板を回転させる工程と、偏光液を硬化させ、コントラスト比50以上の偏光コーティングを1部分の上に形成する工程とを含む。回転工程は、レンズ軸を中心としてレンズを回転させ、曲面の少なくとも第1の部分に偏光液が流れるようにする工程と、回転軸を中心として平板を回転させ、曲面の少なくとも第2の部分を偏光液が被覆するようにする工程とを含んでもよい。第1および第2の部分は、同じ部分を含んでもよく、または、好ましくは同じ部分であってもよい。レンズは半径と直径を有し、レンズの半径、レンズの直径、またはレンズの半径の1.5倍と同等またはそれ以上の距離分、回転軸がレンズ軸からオフセットされていてもよい。表面は、回転工程の前に、配向を生成する処理が施されていなくてもよい。本方法は、また、偏光液の染料を調整して、偏光コーティングの色をカスタマイズする工程を含んでもよい。第1の部分は、偏光液でコーティングされる前に、材料でコーティングされてもよい。この材料は、カップリング剤を含んでもよく、または接着プライマー層を含んでもよい。回転工程は、回転軸を中心として平板を回転させ、偏光液が剪断流に遭遇し、同時に偏光液がレンズの表面の少なくとも1部分を被覆するようにする工程を含んでもよい。表面は、凸面であってもよく、またレンズは、凸面とほぼ反対に凹面を有してもよい。第1の部分はレンズの表面全体を含んでもよい。
【0015】
本発明の装置は、本発明の方法のいずれかの工程に従い、偏光液を用いてコーティングされた眼科用レンズを含む。本発明の装置の1つの態様は凸面と、凸面上に配置された偏光コーティングとを含み、偏光コーティングは、凸面上の材料の剪断流に従って偏光コーティングを形成する材料を含む。偏光コーティングはリオトロピック液晶材料を含んでもよい。
【0016】
本発明の装置の他の態様は、凸面と、凸面上に配置された1つ、またはそれ以上の層と、1つ、またはそれ以上の層の上に配置された偏光コーティングとを備え、偏光コーティングは、1つ、またはそれ以上の層の上の材料の剪断流に従って偏光コーティングを形成する材料を含んでもよい。偏光コーティングは、リオトロピック液晶材料を含んでもよい。1つ、またはそれ以上の層はカップリング剤を含んでもよい。1つ、またはそれ以上の層は少なくとも1つの接着プライマー層を含んでもよい。
【0017】
本発明の方法および装置の他の実施態様およびこれらの実施態様に関連する詳細を下記に記載する。
【0018】
図面は本発明の方法の各形態を示す。図面は例を挙げて説明するためのものであり、限定するものではない。同様のものには同様の参照番号を付してあるが、必ずしも同一要素というわけではない。
【0019】
[具体的な実施例の説明]
本明細書中、「備える」(「備えて」「備えた」などの他の任意の形を含む)、「有する」(「有して」、「有し」などの他の任意の形を含む)、および「含む」(「含んで」「含まれた」などの他の任意の形を含む)はオープンエンド型の連結動詞である。その結果、1つ、またはそれ以上の工程、または要素を「備える」、「有する」、または「含む」方法、または方法の中の工程は、それらの1つ、またはそれ以上の工程、または要素を所有するが、それらの1つ、またはそれ以上の工程、または要素だけを所有することに限定されない。
【0020】
従って、例として、「曲面を有するレンズと、レンズ軸とを準備する工程と、
前記曲面の少なくとも一部の上に偏光液が流れるように、回転軸を中心として前記レンズを回転させる工程とを備える方法」とは、列挙された工程を所有するが、それだけに限定されるわけではない。つまり、その方法は、少なくとも列挙された工程を所有するが、明示的に列挙されていない他の工程を除外するわけではない。例えば、この方法は、平板に位置決めされた切り欠き内にレンズを配置することも網羅する。同様に、この回転工程は、偏光液を曲面全体に流すようにする回転も網羅する。
【0021】
図1は、本発明の方法に従ってコーティングされうるレンズの側面図である。レンズ10は(凸面である)曲面12と(凹面である)曲面14とを備え、その2つの曲面は互いにほぼ反対方向に配向している。ここで「ほぼ」とは、少なくとも、ある任意の状態に近い(例えば、ある任意の状態の好ましくは10%以内、より好ましくは1%以内、更に好ましくは0.5%以内、最も好ましくは、ある状態と同一である)ということを意味する。
【0022】
図2は、本発明の方法を達成するために用いられる構成(セットアップ)を示す。セットアップ100は、ほぼ円形として示されている平板20を備える。平板20は、上面21と、ほぼその中心に位置決めされる回転軸22とを備える。平板20はまた、ほぼ中心に位置決めされた開口部24を備え、開口部24は平板を構成するものであり、例えば、スピンモータとともに用いられる。平板20は、切り欠き26を備え、レンズ10はその中に配置され、曲面12は露出される。図3に示すように、切り欠き26は平板20を貫通して延在してもよい、または、図4に示すように、平板20の厚さの一部まで延在してもよい。好ましくは、レンズ10の曲面12は、平板20の上面21とほぼ同一面上に位置決めされる。
【0023】
レンズ10は、そのほぼ中心に位置決めされる軸16を有するように示されている。図2に示すように、平板20の軸(回転軸と記載される場合もある)と、レンズ10の軸(レンズ軸と記載される場合もある)は、距離Dだけ離れている、つまり、これら2つの軸は調心されていない。これらの軸をオフセットさせることにより、偏光液が、レンズ10の曲面12を横切って剪断状に流れる可能性を促進する。1つの実施態様では、距離Dは、好ましくはレンズ10の半径と同等またはそれ以上、より好ましくはレンズ10の直径と同等またはそれ以上、更に好ましくはレンズ10の半径の1.5倍と同等またはそれ以上である。
【0024】
レンズ10は、接着剤、1つまたはそれ以上の吸引カップ、1つまたはそれ以上のバネ荷重留め具、またはレンズと平板との間の連結首輪部、などの任意の適切な手段を用いて切り欠き26内の位置に担持されてもよい。当業者に公知のその他の任意の手段を用いてもよい。この代わりに、および/または、これに追加して、レンズ10の軸16が、平板20の周囲(境界)となるべき部分(図2において、破線は平板20のエッジとなるべき部分を示す)より内側になるように切り欠き26を平板20内に配向してもよい。
【0025】
平板20は、ポリマー(例えば、プラスチック)および金属(例えば、アルミニウム)などの任意の適切な材料から作成することができる。レンズ10は、ガラス、通常のプラスチック、およびポリカーボネートなどの任意の適切な材料から作成することができる眼科用レンズである。
【0026】
図5は、セットアップ100の平板20上に配置されている偏光液30を示す。偏光液30が配置される位置は、レンズ10の所望の部分上に液体が流れ、該当する部分がコーティングされる前に液体が流れ去る、流れ落ちることのないような位置とする。平板20を、従来のスピンコーティングモータなどの回転機構に取付けた後、回転軸22を中心としてレンズ10を(図5に矢印で示す方向に)回転させ、偏光液30がレンズ10の曲面12の少なくとも1部分(および好ましくは全体)の上に流れるようにしてもよい。このように回転させることを、偏光液30を回転させる、と記載する場合もある。曲面12上に偏光液30が流れる際に、偏光液30中の分子の整列を促進させるための、配向を生成する処理(例えば、研磨など)を、曲面12に最初に施す必要はない。しかし、このような処理は本発明の方法の範囲内である。図6はこの方式でレンズ10を回転させた結果の全体図である。図6の矢印は、軸16および22の回転およびオフセットの結果生じる偏光液30の剪断流の方向を示す。
【0027】
好ましくは、回転軸22を中心としてレンズ10を回転させている間は、レンズ軸16と回転軸22は平行である。しかし、レンズ10は僅かに傾斜して、曲面12が平板20の回転軸方向に向くようにしてもよい。この場合は、レンズ軸16は、好ましくは傾斜して、レンズ軸16と回転軸22とが交差する角度が45度以下、好ましくは30度以下、より好ましくは20度以下、更により好ましくは10度以下、一層好ましくは5度以下の鋭角になるようにする。
【0028】
偏光液は、レンズに適用した後、ある程度の時間で、偏光コーティングを形成する任意の溶液である。偏光液は、表面上の液体の剪断流の結果として偏光コーティングを形成する公知の偏光システムを含むが、これに限定されない。適切な偏光液の例としては、例えば、米国特許第6,049,428号に記載されている、リオトロピック液晶材料があり、ここでは液晶はゲストホストシステムの活性染料、またはホストでありうる。適切な偏光液は、偏光コーティングの結果の色を簡単に調整できる、染料の水性懸濁液であってもよい。
【0029】
薄い結晶フィルム(TCF)偏光コーティングとも記載される偏光コーティングは、次のように形成することができる。リオトロピック液晶でもある、既存の2色性染料、をスルホン化によって化学的に改質する。この改質によって、染料分子は両親媒性になる。染料分子の、両親媒性とフラットな幾何学形状の両方により、溶液(偏光液とも記載される)内の染料分子は自己集合、または積層(スタッキング)、を起こす。溶液の濃度は、材料の液晶相図に基づいて、形成されるコーティングの構造に影響を及ぼす。
【0030】
溶液を表面に適用し、剪断させる。染料分子は溶液中で擬集し、剪断が加えられると、協同運動を介して、容易に整列する。次に、溶液を制御しながら乾燥することによって、溶液が硬化し、偏光コーティングを形成する。ここで、本発明者の意図する意味は、溶液を早く乾燥しすぎると、溶液内の水分が事実上煮沸除去され、形成されるコーティングの構造を破壊することがあるということである。同様に、溶液をゆっくり乾燥しすぎると、通常一定の濃度および温度範囲にあるべき溶液の分子に、望ましくない濃度変化が起こることがある。中程度のペースで乾燥を行うと、溶液の分子の配向が固定され、分子が別の配向に再編される時間がなくなる。本発明の方法を実施するのに用いられる、適切な乾燥条件は、下記の実施例に例示される。乾燥の後、不溶性の塩を生成することにより、偏光コーティングを硬化させる。
【0031】
TCF偏光液(TCF偏光コーティングを形成するものをいう、また、TCF偏光子とも記載される)はポリビニルアルコール(PVOH)または、PVOH―クラッド偏光子に比べて、次に挙げるカテゴリにおいて利点を有する。ヘイズ:TCF偏光子は、ポリマーに分散された染料と違って、単一成分であるため、光の散乱がほとんど、または、まったくない。視角:液晶ディスプレイ(LCD)の用途では、TCF偏光子は、従来の偏光子より広い視角を提供する。この特徴はサンウエアの分野では特に有用である。厚さ:TCF偏光コーティングは厚さが1ミクロン未満にすることができる。これに比べて、クラッド偏光コーティングは一般に、厚さが、0.2ミリメータ(mm)以上である。温度安定性:従来のヨウ素/PVOH偏光コーティングと違って、TCF偏光コーティングは高湿度および200℃を超える高温で安定している。TCF偏光子は、用途に最適になるように、色によるカスタマイズをすることができる。
【0032】
上述の工程、例えば、曲面を有するレンズを準備する工程、レンズの軸からオフセットされた軸を有する平板の切り欠きにレンズを配置する工程、および平板をスピン回転させ、従って偏光液をスピン回転させることにより、レンズの曲面の1部分(および好ましくは全体)をコーティングする工程などの工程の結果、剪断流の条件下で線形配向することが可能な偏光液から形成された偏光レンズを得る。軸の回転とオフセットを両方行うことにより、対象となるレンズの露出した表面の少なくとも1部分(および好ましくは全体)の上に(例えば、線形剪断フィールドを介して)剪断流を生じさせる適切な手段を提供する。偏光液中に、任意の染料を調整して、偏光コーティングの色をカスタマイズすることができる。直径およそ70ミリメートル(mm)のレンズ用に偏光液を2〜3ミリリットル(mL)用いて300から5000ナノメートル(nm)の厚さの偏光コーティングを作成する。
【0033】
偏光液のスピンコーティングの前に、1つまたはそれ以上のカップリング剤を含有し得る1つ、またはそれ以上の接着プライマー層を、上述のように偏光液によってコーティングされるレンズの曲面(または曲面の1部分)の上に配置する。このように、偏光液をスピン回転させることによってレンズ、またはレンズの1部分をコーティングする工程についての説明では、すべて、レンズの表面を直接的に(例えば、レンズの表面と偏光液との間に他のコーティングが介在しない場合)コーティングする工程、または間接的に(例えば、レンズ表面と偏光液との間に接着層などのコーティングが介在する場合)コーティングする工程、の両方を包含する。
【0034】
接着用に用いられるプライマーコーティングは、最終光学製品の耐衝撃性を高めるためにも用いられる。一般的なプライマーコーティングは(メタ)アクリルベースのコーティングおよび、ポリウレタンベースのコーティングである。(メタ)アクリルベースのコーティングは、例えば、米国特許第5,015,523号(明示的に引用し本明細書の内容とする)に開示されている。一方、熱可塑および架橋ベースのポリウレタン樹脂コーティングは、特に、特開昭63−141001、特開昭63−87223、欧州特許第0404111号、および米国特許第5,316,791(明示的に引用し本明細書の内容とする)に開示されている。
【0035】
特に、本発明の方法の実施態様に用いるのに適切なプライマーコーティングは、ポリ(メタ)アクリルラテックス、ポリウレタンラテックス、またはポリエステルラテックスなどのラテックス組成物から作成できる。中でも好ましい(メタ)アクリルベースのプライマーコーティング組成物は、例えば、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコール(200)ジアクリレート、ポリエチレングリコール(400)ジアクリレート、ポリエチレングリコール(600)ジ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、およびこれらの混合物などのポリエチレングリコール(メタ)アクリレートベースの組成物である。
【0036】
好ましくは、本発明の方法に用いるのに適切なプライマーコーティングのガラス転移温度(Tg)は30℃未満である。
【0037】
中でも、好ましいプライマーコーティング組成物は、商品名ACRYLIC LATEX A−639(ZENECA社)として商品化されているアクリルラテックス、および商品名W−240およびW−234(BAXENDEN社)として商品化されているポリウレタンラテックスである。
【0038】
好ましい実施態様では、適切なプライマーコーティングは、光学基板、および/または偏光層に対してプライマーコーティングの接着を促進するための有効量のカップリング剤を含んでもよい。
【0039】
プライマーコーティング組成物は、例えば、スピン、浸漬、または流しコーティングなどの従来の方法を用いて適用することができる。接着および耐衝撃プライマーコーティング組成物の特性によって、熱硬化、UV硬化、または両方の組合せを用いて、コーティングを硬化することができる。
【0040】
本発明の方法に有用なプライマーコーティングの、硬化後の厚さは、一般に、0.05〜20マイクロメートル(μm)、好ましくは、0.5〜10μm、より好ましくは、0.6〜6μmの範囲である。
【0041】
適切なカップリング剤は、好ましくは、末端エチレン二重結合を含む、エポシキアルコキシシランおよび不飽和アルコキシシランの予め濃縮された溶液である。エポシキアルコキシシランの例としては、γ―グリシドキシプロピルテルメトキシシラン、γ―グリシドキシプロピルペンタメチルジシロキサン、γ―グリシドキシプロピルメチルジイソプロペノキシシラン、(γ―グリシドキシプロピル)―メチルジエトキシシラン、γ―グリシドキシプロピルメチルエトキシシラン、γ―グリシドキシプロピルジイソプロピルエトキシシラン、および(γ―グリシドキシプロピル)ビス(トリメチルシロキシ)メチルシランがある。好ましいエポキシアルコキシシランは、(γ―グリシドキシプロピル)トリメトキシシランである。
【0042】
不飽和アルコキシシランは、ビニルシラン、アリルシラン、アクリルシラン、またはメタクリルシランでありうる。ビニルシランの例としては、ビニルトリ(2−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリスイソブトキシシラン、ビニルトリ−t−ブトキシシラン、ビニルトリフェノキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルメチルジアセトキシシラン、ビニルビス(トリメチルシロキシ)シラン、およびビニルジメトキシエトキシシランがある。アリルシランの例としては、アリルトリメトキシシラン、アルキルトリエトキシシラン、およびアリルトリス(トリメチルシロキシ)シランがある。
【0043】
アクリルシランの例としては、3−アクリロキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルメチルビス(トリメチルシロキシ)シラン、3−アクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、n−(3−アクリロキシ−2−ヒドロキシプロピル)−3−アミノプロピルトリエトキシシランがある。
【0044】
メタクリルシランの例としては、3−メタクリロキシプロピルトリス(ビニルジメトキシシロキシ)シラン、3−メタクリロキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン、3−メタクリロキシプロピルトリス(メトキシエトキシ)シラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルペンタメチルジシロキサン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキスプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルジメチルエトキシシラン、3−メタクリロキシプロペニルトリメトキシシラン、および3−メタクリロキシプロピルビス(トリメチルシロキシ)メチルシランがある。
【0045】
好ましいシランは、アクリロキシプロピルトリメトキシシランである。好ましくは、カップリング剤の調製に用いられるエポキシアルコキシシランおよび不飽和アルコキシシオラン(alkoxysiolane)の量は、重量比:
エポキシアルコキシシランの重量
R=―――――――――――――――――
不飽和アルコキシシラン

【0046】
適切なカップリング剤は、エポキシアルコキシシラン、および不飽和アルコキシシランからの固形材料を、好ましくは、50重量%、より好ましくは60重量%含有する。適切なカップリング剤は、液体の水および/または有機溶剤を40重量%未満、より好ましくは35重量%未満含有する。
【0047】
”エポキシアルコキシシラン、および不飽和アルコキシシランからの固形材料の重量”という表現は、これらのシランからの理論乾燥抽出物であって、QSiO(4−K)/2単位の計算重量を意味する。
ここで、
SiO(4−K)/2はQSiR’O(4−k)からきたものであり、
SiR’は加水分解で反応してSiOHを生成し、
Kは1から3の整数であり、好ましくは1に等しく、そして、
R’は好ましくは、OCHなどのアルコキシ基である。
【0048】
上記に引用された水および有機溶剤はカップリング剤組成物に最初に加えられたものからきたものである。アルコキシシランの加水分解と凝縮から生じる水とアルコールはカップリング剤組成物中に存在する。一般には、プライマーコーティング組成物に導入されるカップリング剤の量は、組成物全体の0.1〜15重量%、好ましくは1〜10重量%である。
【0049】
カップリング剤の好ましい調製方法は、アルコキシシランを混合し、好ましくは塩酸などの酸の添加により、アルコシキシランを加水分解し、混合物を撹拌し、任意に有機溶剤を添加し、アセチルアセトン酸アルミニウムなどの1つ、または数個の触媒を添加し、撹拌する(一般には一晩撹拌する)。
【0050】
さらに、対象となるレンズの偏光コーティングの上に、プライマーコーティングおよび/またはハードコーティングなどの付加的なコーティングを適用する。この場合、各コーティングが化学的に適合したものでなければならない。
【0051】
好ましい耐スクラッチ性コーティングは、エポシキアルコキシシランまたはその加水分解されたものなどの前駆体組成物と硬化触媒との硬化によって作成されたものである。好ましくは、耐スクラッチ性コーティングは、少なくとも1つの、SiOおよび/または金属酸化物コロイドなどの無機充填物を含有する。このような組成物の例は、米国特許4,211,823号(明示的に引用し本明細書の内容とする)、国際公開番号第94/10230号、および米国特許第5,015,523号に開示されている。
【0052】
最も好ましい耐スクラッチ性コーティング組成物は、例えば、γ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GLYMO)などのエポキシアルコキシシラン、例えば、ジメチルジエトキシシラン(DMDES)などのジアルキルジアルコキシシラン、コロイド状のケイ素、および、アセチルアセトン酸アルミニウムまたはその加水分解したものなどの、触媒量の硬化触媒を主成分として含有する組成物であり、組成物の残りの部分は主に、これらの組成物を形成する際に一般的に用いられる溶剤から成る。
【0053】
本発明の方法の一部については、コーティングされる表面が、通常は偏光コーティングを適用する前に配向を生成するために用いられるべき研磨材との接触がないため、この偏光レンズのユーザの目に見えるヘイズはいずれも、偏光コーティングの適用の前に何らかの方法でスクラッチされた偏光レンズに生じるヘイズに比べると、比較的軽度である。レンズの曲面を横切る偏光液の剪断流により、他のコーティング方法に比べると、エッジ効果も低減される。
【0054】
レンズ10を配置する平板20を回転させて偏光液30を剪断状に流す前に、好ましい選択肢として、偏光液30を任意の従来の手段によって曲面12の少なくとも第1の部分、好ましくはレンズの曲面全体の上に適用する。偏光液を適用する適切な従来の手段としては、浸漬コーティング、噴霧コーティング、流しコーティング、およびスピンコーティングがある。この、偏光液をレンズの曲面の第1の部分に適用する工程は、浸漬コーティング装置、またはスピンコーティング装置などの別のコーティング装置内で、平板にレンズを配置する前に、実施してもよい。この方法で偏光液を適用している間は、レンズ10はレンズ軸16を中心として回転させられ、偏光液は、回転が起こっているレンズの半径に沿って配置してもよい。
【0055】
従来手段によって偏光液が既にレンズの曲面、または曲面の1部分に適用されている実施態様では、平板をスピン回転させる前に、図5に示すように、平板上に偏光液を適用することは必須事項ではない。一旦、偏光液がレンズの曲面に適用され、レンズが平板に配置されると、平板をスピン回転させることによって、剪断流が生じ、偏光コーティングを得るための最終配向が形成される。
【0056】
以下の実施例は、本発明の方法の、特定の、非限定的な実施態様を示すために記載されるものである。なお、下記の実施例に開示されている技術は、本発明者によって発見された技術であり、本発明の一部方法の実施において機能する技術を表すものであり、従って、その実施の形態を構成するものであることが当業者には理解されるであろう。しかしながら、当業者は、この開示において、下記の実施例の技術および材料に対して変更や修正を加えても、本発明の範囲から逸脱することなく類似または同様の結果が得られることを理解されたい。
【0057】
実施例1
直径220mmのほぼ円形のプラスチック平板を準備し、半径30mmの切り欠きをその平板のエッジ部分に作成した。平板と切り欠きとは図2に示すセットアップ100に従って作成した。凸面と、ほぼ反対の凹面とを有する、完成品の単焦点6ベースORMAプラノレンズ(Essilor International社から入手、ジエチレングリコールビス(アリル カーボネート)含有)を、モデルBD−20ハンドヘルド装置(Electro Technic Products社(イリノイ州シカゴ市))を用いて、およそ15秒間コロナ処理を施し、接着性を向上させ、切り欠き(図4の切り欠き26のバージョンに従って作成)内に配置した。レンズは、接着テープを用いて、レンズの凹面と、切り欠きの底部との間に配置した。
【0058】
使用した偏光液はOptiva社のTCFN015溶液であり、3種類の自己集合リオトロピック染料の水溶性分散液であり、コーティング後、これらの染料が結合し、中間グレー色を呈した。この偏光液、およそ、2〜3mLを平板上に配置した。平板を従来のスピンコーティングモータに取り付け、急速に、2000rpmまで加速した。およそ15秒間回転させ、レンズの凸面全体を、偏光液でコーティングした。回転は室温条件(この場合は、21℃)、相対湿度およそ60%で行った。スピンコーティングを施す間の推奨温度範囲は15〜29℃である。相対湿度は50〜80%が望ましい。しかし、スピン回転を50%以下の相対湿度で行い、その後、しばらく相対湿度を50%以下に維持すると、適切な乾燥が施される。スピン回転中、偏光液中の染料はネマチック相であるものとする。
【0059】
回転後、コーティングされたレンズを(コーティング処理中と)同じ室内に保持し、温度21℃、湿度60%で1〜2分間放置し、乾燥させて硬化させる。湿度が高い状態で溶液を乾燥させ偏光コーティングを形成させると、溶液が乾燥するのに時間がかかる。乾燥時間は相対湿度と直接比例する。次にレンズを10%の塩化バリウム水溶液に浸漬し、染料を偏光液中に定着させた。取扱いおよび展示用に、レンズ上にアクリル保護コーティングを配置した。
【0060】
このプロセスを同じ種類の合計4個のレンズに同様に繰り返した。コントラスト比とは平行位置と垂直位置との視感透過率の比率であるが、これらの4個のレンズの透過率測定をLamda900スペクトロメータ(PerkinElmer社(44370 Christy Street Fremont、 CA 94538−3180 米国))上で行った。これらのレンズについては、波長550ナノメートル(nm)において透過率の測定を行った。特に、各レンズの垂直位置は、550nmにおいて最小透過率が得られるまで、レンズを基準偏光子を基準として回転させて発見した。レンズを90度回転させ、もう一度透過率の測定をした。これらの測定に基づき、レンズは100以上のコントラスト比を示した。550nmのコントラスト比は、100、115、127、および139であった。
【0061】
下記に記載するように、コントラスト比は、上述のLamda900スペクトロメータを用いて、スペクトル範囲380〜780nmにおいて、基準偏光子を光路内に用いて測定してもよい。明所視応答度は、全スペクトル走査に基づいて算出してもよい。レンズの垂直位置は、550nmにおいて最小透過率が観察されるまで、基準偏光子に対してレンズを回転させて発見してもよい。この位置およびレンズを90度回転させた位置で、全スペクトル走査を行ってもよい。
【0062】
実施例2
直径14インチ(35.6cm)の、ほぼ円形のプラスチック平板を準備し、直径70nmの切り欠き(この場合は、完全な円形に成型した)を作成した。ここで使用した平板の全体図を図7に示す。図7に示すように、切り欠きの全体を平板の内部に配置した。具体的には、平板を貫通する60ミリメートル(mm)の円形の孔を穿孔し、更に、上方部の材料だけを円形に取除いて平板の上面から3mmの深さまで、直径70mmになるように、孔のサイズを大きくすることにより、切り欠きを作成した。従って、切り欠きは上方部に環状の窪み(直径70mm)を有し、下方部に環状のフランジ部(直径60mm)を有し、そこにレンズの外周部を乗せ、レンズを固定した。
【0063】
この実施例では、実施例1で用いたものと同様のレンズを用い、これらのレンズに同様のコロナ処理を施し、同様の偏光液を同じ量用いた。平板は従来のスピンコーティングモータ、モデル1−PM−101 DT−R790(Headway Research社(テキサス州ガーランド市))に取付けた。偏光液を平板上に配置した後、平板を表1に示す速度まで急速に加速した。およそ15秒間回転させ、レンズの凸面全体を偏光液でコーティングした。回転は温度21℃、相対湿度、およそ60%で行った。
【0064】
回転後、コーティングされたレンズを同じ温度と湿度で放置し、乾燥させた。次にレンズを10%の塩化バリウム水溶液に浸漬し、染料を偏光液中に定着させた。取扱いおよび展示用に、レンズ上にアクリル保護コーティングを配置した。
【0065】
このプロセスを同じレンズ4個に同様に繰り返した。結果を表1に記載した。表1に記載したコントラスト比はLamda900スペクトロメータを用いて、スペクトル範囲380〜780nmにおいて、ビーム路内に基準偏光子を用いて測定した。各レンズの明所視応答度を、全スペクトル走査に基づいて算出した。各レンズの垂直位置は、550nmにおいて最小透過率が観察されるまで、基準偏光子を基準としてレンズを回転させて発見した。この位置およびレンズを90度回転させた位置で全スペクトル走査を行った。
【0066】
表1

【0067】
実施例3
本発明者は、従来のスピンコーティングを、本発明に記載したオフセンター(軸外)スピンコーティングと組み合わせて用いて、レンズに適切な偏光コーティングを施すことが可能であることを発見した。本実施例では、実施例1および2と同種類のレンズを、先ず、上述のHeadway Research社のスピンコーティング装置の上に配置し、レンズ軸を中心として、表2に記載する速度および時間で回転させた。回転は温度21℃、相対湿度およそ60%で行った。本実施例のレンズには、実施例1および2に用いられたものと同様の偏光液を用いた。
【0068】
従来のスピンコーティングの後、偏光液がまだ湿っているうちに、レンズを実施例2で用いた平板の上に配置し、下記表2に記載する速度と時間で回転させた。コーティングされたレンズを温度21℃、相対湿度およそ60%で放置し、乾燥させた。次にレンズを10%の塩化バリウム水溶液中に浸漬し、染料を偏光液に定着させた。取扱いおよび展示用に、各レンズの上にアクリル保護コーティングを配置した。
【0069】
上記実施例2と同様の方法で各レンズのコントラスト比を求めた。
【0070】
表2

【0071】
最初の、従来のスピンコーティングの結果、偏光液の薄フィルムが生成され各レンズの上面の少なくとも1部分、より具体的には表面全体をコーティングした。次に、レンズ軸を平板の回転軸からオフセットして、上記の各レンズを回転させた結果、偏光液中の分子が配向され、いくつかの例では、コーティングが薄くなった。このように、引き続いて回転させることによって、剪断流により、分子を配向させ、偏光コーティングが生成される。将来の用途としては、例えば、従来のスピンコーティングが偏光液をゲル状にするような様式で行われない場合に認められるように、従来のスピンコーティングが偏光液に十分な流動性を残すような場合、このような剪断流の可能性がある。従来のスピンコーティングの間およびその後上述のように軸をはずれた様式でレンズを高速に回転させる間は、偏光液中の溶剤の全部が蒸発することのないように注意する必要がある。
【0072】
なお、本発明の方法および装置は、ここに記載する特定の形式に限定されるものではなく、むしろ、請求の範囲内であるすべての改良、同等物、および代替物を網羅するものである。例えば、およそ25以上のコントラスト比を有する偏光コーティングが記載されているが、本発明の方法に従って形成された適切な偏光コーティングのコントラスト比が8(ISO8980−3)であってもよい。請求項は、特に、「するための手段」、「するための工程」という言い回しを用いて、限定を明示的に請求項に記載しない限り、ミーンズプラスファンクション、またはステッププラスファンクションを含むものとして解釈されるべきものではない。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】図1は、曲面を有するレンズの側面図である。
【図2】図2は、本発明の方法に従った偏光液を用いた、レンズの曲面のコーティングに用いられる構成(セットアップ)の1例である。
【図3】図3は、図2に示す平板に配設されうる、1つの適切な切り欠きを示す。
【図4】図4は、図2に示す平板に配設されうる、別の適切な切り欠きを示す。
【図5】図5は、図2のセットアップの平板上に配置される偏光液の全体図である。
【図6】図6は、平板をスピン回転した結果、図5に示す偏光液が流れる方向の概略を示す。また、スピンの結果形成されるコーティングの全体図である。
【図7】図7は、本発明の実施例で用いられ、提示した結果をもたらした平板の切り欠きの内におけるレンズ位置の一般的な全体図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲面とレンズ軸とを有するレンズを準備する工程と、
前記曲面の少なくとも一部の上に偏光液が流れるように、回転軸を中心として前記レンズを回転させる工程とを備え、
前記回転軸は前記レンズ軸からずら(オフセット)されている、方法。
【請求項2】
前記回転軸を中心として前記レンズを回転させる工程の前に、前記レンズ軸を中心として前記レンズを回転させる工程と、前記曲面の少なくとも第1の部分の上に偏光液を流す工程とを更に備え、前記回転軸を中心として前記レンズを回転させる工程は、前記偏光液が前記曲面の第2の部分の上を流れるように、前記回転軸を中心として前記レンズを回転させる工程を備える、請求項1の方法。
【請求項3】
前記第1および第2の部分は同じ部分を含む、請求項2の方法。
【請求項4】
前記レンズは半径を有し、前記回転軸が、前記レンズの前記半径と同等またはそれ以上の距離分、前記レンズ軸からずらされている請求項1の方法。
【請求項5】
前記レンズは直径を有し、前記回転軸が、前記レンズの前記直径と同等またはそれ以上の距離分、前記レンズ軸からずらされている請求項4の方法。
【請求項6】
前記距離は前記レンズの前記半径の1.5倍と同等またはそれ以上である請求項4の方法。
【請求項7】
前記コーティング工程の前に、前記曲面に配向を生成する処理が施されていない、請求項1の方法。
【請求項8】
前記回転工程の前に、前記部分は材料でコーティングされる、請求項1の方法。
【請求項9】
前記材料は接着プライマー層である、請求項8の方法。
【請求項10】
前記接着プライマー層はカップリング剤を含有する、請求項9の方法。
【請求項11】
前記曲面は凸面であり、前記レンズは前記凸面のほぼ反対側に凹面を有する、請求項1の方法。
【請求項12】
前記回転軸を有する平板に位置決めされた切り欠き内に、前記レンズを配置する工程を更に備える、請求項11の方法。
【請求項13】
前記回転工程の後に、偏光コーティングが形成され、前記方法は、
前記偏光液の染料を調整して前記偏光コーティングの色をそれぞれ所望の色とする工程を更に備える、請求項11の方法。
【請求項14】
前記平板上に前記偏光液を配置する工程を更に備え、前記回転工程は、前記平板を回転して、前記回転軸を中心として前記レンズを回転させ、前記偏光液が前記曲面の少なくとも前記部分上を流れるようにする工程を備える、請求項13の方法。
【請求項15】
前記部分は前記曲面全体を含む、請求項14の方法。
【請求項16】
曲面を有するレンズを準備する工程と、
偏光液を、該偏光液が剪断流を受けて、少なくとも前記曲面の1つの部分をコーティングするように回転させる工程とを備える方法。
【請求項17】
前記レンズは軸を有し、前記回転工程は、
前記レンズ軸を中心として前記レンズを回転させ、前記曲面の少なくとも第1の部分上に前記偏光液を流す工程と、
回転軸を中心として前記レンズを回転させ、前記偏光液が剪断流を受け、前記曲面の少なくとも第2の部分をコーティングする工程とを備える、請求項16の方法。
【請求項18】
前記第1のおよび第2の部分は同じ部分を含む、請求項17の方法。
【請求項19】
前記回転工程の前に、前記曲面は配向を生成するための処理が施されていない、請求項16の方法。
【請求項20】
前記部分は、前記偏光液でコーティングされる前に、材料によってコーティングされる、請求項16の方法。
【請求項21】
前記材料は接着プライマー層である、請求項20の方法。
【請求項22】
前記接着プライマー層は、カップリング剤を含有する、請求項21の方法。
【請求項23】
前記曲面は凸面であり、前記レンズは、前記凸面とほぼ反対側に凹面を有する、請求項16の方法。
【請求項24】
前記回転工程の後に、偏光コーティングが形成される請求項16の方法であって、
前記偏光液の染料を調整して、前記偏光コーティングの色をそれぞれ所望の色とする工程を更に備える、請求項16の方法。
【請求項25】
前記回転工程の前に、前記レンズを平板に位置決めされる切り欠き内に、前記レンズを配置する工程を更に備え、前記レンズはレンズ軸を有し、前記平板は回転軸を有し、該2つの軸は互いにずらされている、請求項24の方法。
【請求項26】
前記レンズは半径を有し、前記回転軸が、前記半径と同等またはそれ以上の距離分、前記レンズ軸からずらされている、請求項25の方法。
【請求項27】
前記レンズは直径を有し、前記回転軸が、前記直径と同等またはそれ以上の距離分、前記レンズ軸からずらされている、請求項26の方法。
【請求項28】
前記距離は前記レンズの前記半径の1.5倍と同等またはそれ以上である、請求項26の方法。
【請求項29】
前記偏光液を前記平板に配置する工程を更に備え、
前記回転工程は、前記平板を前記回転軸を中心として回転させる工程を備える、請求項25の方法。
【請求項30】
前記部分は曲面全体を含む、請求項29の方法。
【請求項31】
ほぼ中心に位置する回転軸と、切り欠きとを備える平板を準備する工程と、
前記切り欠き内に、表面と、前記回転軸に調心されていないレンズ軸とを有するレンズを配向する工程と、
前記平板の上に偏光液を配置する工程と、
前記偏光液が前記レンズの前記表面の少なくとも1つの部分を被覆するように、前記回転軸を中心として前記平板を回転させる工程と、
前記偏光液を硬化させ、前記部分上にコントラスト比が8以上である偏光コーティングを形成する工程とを備える方法。
【請求項32】
前記偏光コーティングのコントラスト比が30以上である請求項31の方法。
【請求項33】
前記偏光コーティングのコントラスト比が50以上である請求項31の方法。
【請求項34】
前記回転工程は、
前記偏光液が前記曲面の少なくとも第1の部分上を流れるように、前記レンズ軸を中心として前記レンズを回転させる工程と、
前記偏光液が前記曲面の少なくとも第2の部分を被覆するように、回転軸を中心として前記平板を回転させる工程とを備える、請求項31の方法。
【請求項35】
前記第1および第2の部分は同じ部分を含む、請求項34の方法。
【請求項36】
前記レンズは半径を有し、前記回転軸が、前記レンズの前記半径と同等またはそれ以上の距離分、前記レンズ軸からずらされている、請求項35の方法。
【請求項37】
前記レンズは直径を有し、前記回転軸が、前記レンズの前記直径と同等またはそれ以上の距離分、前記レンズ軸からずらされている、請求項36の方法。
【請求項38】
前記距離は前記レンズの前記半径の1.5倍と同等またはそれ以上である、請求項36の方法。
【請求項39】
前記回転工程の前に、前記表面に配向を生成するための処理が施されていない、請求項31の方法。
【請求項40】
前記偏光コーティングの色をそれぞれ所望の色にするために前記コーティング液の染料を調整する工程を更に備える、請求項31の方法。
【請求項41】
前記偏光液でコーティングされる工程の前に、前記部分は材料でコーティングされる、請求項31の方法。
【請求項42】
前記材料は接着プライマー層である、請求項41の方法。
【請求項43】
前記接着プライマー層はカップリング剤を含有する、請求項42の方法。
【請求項44】
前記回転工程は、前記偏光液が剪断流を受け、前記レンズの前記表面の少なくとも前記部分を被覆するように、前記回転軸を中心として前記平板を回転させることを備える、請求項31の方法。
【請求項45】
前記表面は凸面であり、前記レンズは、前記凸面とほぼ反対側に凹面を有する、請求項44の方法。
【請求項46】
前記部分は、前記レンズの表面全体を含む、請求項45の方法。
【請求項47】
少なくとも、請求項1または31のいずれかに記載の工程を実施することにより、偏光液によってコーティングされる眼科用レンズ。
【請求項48】
凸面を有する眼科用レンズと、
前記凸面上に配置される偏光コーティングとを備える装置であって、該偏光コーティングは材料を含み、該材料は前記凸面上の該材料の剪断流に従って偏光コーティングを形成する、装置。
【請求項49】
前記偏光コーティングはリオトロピック液晶材料を含む、請求項48の装置。
【請求項50】
凸面を有する眼科用レンズと、
前記凸面上に配置される1つまたはそれ以上の層と、
前記1つまたはそれ以上の層の上に配置される偏光コーティングとを備える装置であって、前記偏光コーティングは材料を含み、該材料は、前記1つまたはそれ以上の層上の該材料の剪断流に従って偏光コーティングを形成する、装置。
【請求項51】
前記偏光コーティングはリオトロピック液晶材料を含む、請求項50の装置。
【請求項52】
前記1つまたはそれ以上の層は、接着プライマー層を含む、請求項50の装置。
【請求項53】
前記接着プライマー層はカップリング剤を含む、請求項52の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2007−520739(P2007−520739A)
【公表日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−546090(P2006−546090)
【出願日】平成16年12月23日(2004.12.23)
【国際出願番号】PCT/EP2004/014742
【国際公開番号】WO2005/063472
【国際公開日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【出願人】(594116183)エシロール アテルナジオナール カンパニー ジェネラーレ デ オプティック (69)
【氏名又は名称原語表記】ESSILOR INTERNATIONAL COMPAGNIE GENERALE D’ OPTIQUE
【Fターム(参考)】