説明

レーザ・イオン源及びレーザ・イオン源の駆動方法

【課題】 不要なイオンの放出を抑制することができ、不要なイオンによる下流の線形加速器側の汚染を低減する。
【解決手段】 レーザ光の照射によりイオンを発生させるレーザ・イオン源であって、真空排気される容器10と、容器10内に配置され、レーザ光の照射により多価イオンを発生するターゲット21が収容された照射箱20と、照射箱20からイオンを静電的に引き出し、イオンビームとして容器10の外部に導くイオンビーム引き出し部12と、照射箱20から引き出されたイオンビームを静電力により収束する静電レンズ51と、静電レンズ51の下流側の位置に設けられ、該位置で収束されたイオンビームを通過させるアパーチャ52とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、レーザ光の照射によりイオンを発生させるレーザ・イオン源に係わり、特に多価イオンの選別機構を備えたレーザ・イオン源及びレーザ・イオン源の駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高エネルギーの炭素イオンの照射によるがん治療法が開発され、実際に、一般病院にイオン加速装置が設置されて、治療も始まっている。この種の装置の更なる性能向上には、高密度の6価の炭素イオンを生成するイオン源が不可欠である。従来のマイクロ波放電プラズマを使ったイオン源は、この点で非力なので、新たなイオン源の開発が強く望まれている。
【0003】
高密度イオンビーム生成の能力を持つイオン源として、レーザ・イオン源が開発されている。このレーザ・イオン源は、レーザ光をターゲットに集光照射し、レーザ光のエネルギーによりターゲットをイオン化する。そして、ターゲットから生成されたイオンを静電的に引出してイオンビームを作り出す。
【0004】
しかし、この種のレーザ・イオン源にあっては、次のような問題があった。即ち、レーザ・イオン源から輸送されるイオンには、レーザ光のエネルギーと密度に依存した複数の価数のイオンが混在している。このため、取り出したいイオンが6価の炭素イオンであるにも拘わらず、それ以外の価数のイオンも放出されてしまう。
【0005】
下流の線形加速器に価数の選別機能を持たせることにより、6価のイオンのみを選択して用いることはできる。しかし、この場合、不要な価数のイオンは線形加速器内で汚れとして滞留することになり、電極を汚染したり、放電を起こす要因となる。これを防止するためには線形加速器内に付着したイオンを定期的に除去する必要があるが、線形加速器は非常に大型で精密な機械であり、そのメンテナンスには多大な労力が伴う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3713524号
【特許文献2】特開2009−37764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したレーザ・イオン源においては、複数の価数のイオンが混在したままで下流の線形加速器に入射するため、不要なイオンが線形加速器内に滞留し、電極を汚染し、放電を起こすことが課題であった。
【0008】
本発明は上述した課題を解決するためになされたものであり、不要なイオンの放出を抑制することができ、不要なイオンによる下流の線形加速器側の汚染を低減することが可能なレーザ・イオン源及びレーザ・イオン源の駆動方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施形態に係わるレーザ・イオン源は、真空排気される容器と、前記容器内に配置され、レーザ光の照射により多価イオンを発生するターゲットが収容された照射箱と、前記照射箱からイオンを静電的に引き出し、イオンビームとして前記容器の外部に導くイオンビーム引き出し手段と、前記照射箱から引き出されたイオンビームを電磁力により収束する電磁レンズと、前記電磁レンズの下流側の位置に設けられ、該位置で収束されたイオンビームを通過させるアパーチャと、を具備したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態によれば、不要なイオンの放出を抑制することができ、不要なイオンによる下流の線形加速器側の汚染を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1の実施形態に係わるレーザ・イオン源の概略構成を示す断面図。
【図2】第1の実施形態におけるイオンビームの選別の様子を示す断面図。
【図3】(a)及び(b)は第1の実施形態におけるイオンビームの選別の原理を説明するための概略説明図。
【図4】第2の実施形態に係わるレーザ・イオン源の要部構成を示す断面図。
【図5】第3の実施形態に係わるレーザ・イオン源の要部構成を示す平面図。
【図6】(a)は第3の実施形態の変形例を示す平面図、(b)は更に別の変形例を示す平面図と断面図。
【図7】第4の実施形態に係わるレーザ・イオン源の概略構成を示す断面図。
【図8】第5の実施形態に係わるレーザ・イオン源の概略構成を示す断面図。
【図9】(a)及び(b)は第5の実施形態におけるイオンビームの選別の原理を説明するための概略説明図。
【図10】第6の実施形態に係わるレーザ・イオン源の概略構成を示す断面図。
【図11】第7の実施形態に係わるレーザ・イオン源の概略構成を示す断面図。
【図12】(a)から(c)は第7の実施形態におけるイオンビームの選別の原理を説明するための概略説明図。
【図13】第8の実施形態に係わるレーザ・イオン源の概略構成を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0013】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係わるレーザ・イオン源の概略構成を示す断面図である。図2は、図1の一部(破線円で囲んだ部分)を拡大して示す断面図である。
【0014】
本実施形態のレーザ・イオン源は、イオン源本体100とイオン源輸送系200及び線形加速器(RFQ)300で構成されている。
【0015】
イオン源本体100は、真空容器10,引き出し電極12,及び照射箱20等で構成されている。容器10はステンレス製であり、この容器10内の中央部に、レーザ照射部を覆うための照射箱20が設置されている。照射箱20内には、イオンとなる元素又はそれを含有するターゲット21が設置されている。ターゲット21としては、例えばカーボン系の板状部材が選択される。
【0016】
照射箱20の上面には、レーザ光を入射するための窓22が設けられている。そして、図示しない光学系を介してレーザ光31が照射箱20内に入射され、ターゲット21に集光照射されるようになっている。レーザ光を放出する光源としては、CoレーザやNd−YAGレーザを用いることができる。
【0017】
照射箱20は絶縁支柱11によって支えられ、図示しない高電圧電源によって、高電圧が印加される。正イオンビーム生成のときは正電位を、負イオンビーム生成のときは負電位を与えるように構成されている。
【0018】
照射箱20の一側面(図では右側面)には、イオンを取り出すための窓23が設けられている。照射箱20の窓23が設けられた一側面と対向するように、引出し電極12が設置されている。引き出し電極12は、中央部に円形の孔を有する円板状の導電体であり、照射箱20内からイオンを引き出すために接地電位に保たれている。
【0019】
容器10の上面には排気口13が形成され、この排気口13に図示しない真空ポンプが接続され、容器10内が真空排気されるようになっている。容器10の一側面で、照射箱20の窓23を形成した一側面に対向する部分に、イオンビーム取り出し部(イオン源輸送部200)が形成されている。この取り出し部は、容器10の一側面に接続された筒体41及び筒体41の先端のフランジ42から構成される。フランジ42は、次段の線形加速器300に接続されている。なお、加速器ではなくイオン注入装置に用いる場合は、線形加速器300の代わりに、偏向装置や静電レンズを接続するようにすればよい。
【0020】
ここまでの基本構成に加え本実施形態では、筒体41の容器10側に多価イオンビームを収束する静電レンズ51が設けられ、線形加速器側にアパーチャ52が設けられている。静電レンズ51は、例えば軸方向に離間配置された3つの電極によりイオンビームを静電力により収束するものである。アパーチャ52は、中央部に小径の開口を有するものである。また、フランジ42と線形加速器200との間にバルブ43が設けられている。このバルブ43は、例えば、ゲートバルブやビームの進行路が開口部となるように取り付けたバタフライバルブであり、ビーム通過管路の開閉を気密を保てる機能を有する。
【0021】
次に、このように構成されたレーザ・イオン源の動作について説明する。
【0022】
容器10内は排気口13に接続された真空ポンプ等により十分に排気されているものとする。照射箱20には、例えば正電位が与えられ、引き出し電極12には接地電位が与えられているものとする。
【0023】
この状態で、パルス駆動のレーザ光源(図示せず)からレーザ光31をターゲット21に集光照射すると、ターゲット21上に集光したレーザ光31により、レーザ集光点では、ターゲット21の微小部分が高温に熱せられる。高温に熱せられた部分がプラズマ化し、空間に向かって放出される。プラズマ中の原子及びイオンは、レーザ光31からもエネルギーを受け取り、多価イオンが生成される。
【0024】
照射箱20内の空間に噴出したものは、アブレーション・プルーム、或いは単にプルームと呼ばれる。照射箱20には、プルームの放出方向に窓23が設けられ、更に窓23の外側に接地電位の引き出し電極12が設置されている。このため、照射箱20と引出し電極12との間の電界によって照射箱20内からイオンが引出され、同時に加速されてイオンビームとなる。そして、このイオンビームは、後段の線形加速器300によって更に加速されることになる。
【0025】
ところで、イオン源本体100から引き出された多価イオンビーム33は、イオン源輸送系200内の静電レンズ51で収束されるが、それぞれの価数によって収束位置(焦点距離)が異なる。従って、図2に示すように、必要な価数Z1のイオンビーム33aの焦点位置にアパーチャ52を設置することにより、価数Z1のイオンビーム33aのみを選択的に取り出すことが可能である。なお、価数Z1以外のイオンビームで中心軸付近を通るものはアパーチャ52で遮られることなく通過するが、その量は全体の量に比して極めて少ないため、これによる汚染は殆ど問題とならない。
【0026】
図3に、各種の価数のイオンビームと収束の様子を示す。(a)はターゲット21,レンズ51,アパーチャ52の位置関係を示す図、(b)はレンズ中心からの距離xとビームの位置との関係を示す図である。
【0027】
この図3からも分かるように、イオンビーム33は価数が大きいものほど静電レンズ51による電界の影響を大きく受けるために、レンズ51に対する焦点位置がC1+〜C6+の順に短くなる。従って、例えばC6+の焦点位置(例えばx=95mm)の位置にアパーチャ52を設置すれば、C6+のイオンビームはアパーチャ52で殆ど遮られることなく通過し、それ以外のイオンビームはアパーチャ52で大部分が遮られることになる。
【0028】
このように本実施形態によれば、イオン源輸送系200内に静電レンズ51とアパーチャ52を設けることにより、不要な価数のイオンビームを低減し、必要な価数のイオンビーム33aのみを選択的に取り出すことができる。このため、下流の線形加速器300側への不要なイオン流入を低減して線形加速器300の汚染を低減することができる。レーザ・イオン源は多価のイオンが放出されるので、このような価数の選別が特に有効である。
【0029】
なお、不要のイオンビームを下流側に輸送せずにアパーチャ52で遮るため、イオン源側の汚染が大きくなることが懸念される。しかし、イオン源のメンテナンスは線形加速器300のメンテナンスに比して格段に容易であり、イオン源の汚染は簡単に除去することができる。また、レーザ・イオン源においては、ターゲット21を定期的に交換する必要があり、このときに汚染除去のメンテナンスを行えばよい。
【0030】
(第2の実施形態)
図4は、本発明の第2の実施形態に係わるレーザ・イオン源を説明するためのもので、イオン源輸送系の構成を示す断面図である。なお、図4において図1と同一の部分には同一の符号を付し、その部分の構成の説明は省略する。
【0031】
この第2の実施形態において基本的な構成は先の第1の実施形態と同様であり、本実施形態が第1の実施形態と異なる点は、イオン源輸送系200内のアパーチャ52を真空中で駆動するステージ53を設けたことにある。このステージ53は、図示しない駆動機構を有しており、アパーチャ52の一端を固定した状態で、筒体41内をビーム軸方向に移動可能となっている。また、ステージ53には真空導入端子を介して信号ケーブルが接続され、真空外でコントロール可能な構成となっている。
【0032】
このように本実施形態においては、ステージ53に取り付けられたアパーチャ52をイオンビーム軸方向に移動可能である。従って、価数Z1のイオンビーム33aの焦点位置P1にアパーチャ52を移動すれば、価数Z1のイオンビーム33aを選択的に輸送できる。また、価数Z2のイオンビーム33bの焦点位置P2にアパーチャ52を移動すれば価数Z2のイオンビーム33bを選択的に輸送できる。つまり、多価イオンビームの中から、異なる価数のイオンビームを取り出したい場合に、真空を破ることなく必要な価数のイオンビームを選別し、下流の線形加速器300側への不要なイオン流入を低減して汚染を低減することができる。
【0033】
従って、先の第1の実施形態と同様の効果が得られるのは勿論のこと、イオンビームの価数の選択を簡易に行うことができる利点がある。
【0034】
なお、アパーチャ52の駆動機構としては、直線導入機を用いてもよいし、回転導入機とギアを組み合わせてイオンビーム軸方向への移動機構とすることも可能である。さらに、ステージ53を3軸ステージとすることで、イオンビーム軸にアパーチャ52を遠隔で合わせる機能を持たせることも可能である。
【0035】
また、アパーチャ52にシャッタ絞りのような機構を設け、アパーチャ52の開口径を可変できるようにしても良い。この場合、選択すべきイオンビームの収束位置におけるビーム径に合わせて開口径を設定することが可能となるため、より高い精度での選別制御が可能となる。
【0036】
(第3の実施形態)
図5は、本発明の第3の実施形態に係わるレーザ・イオン源を説明するためのもので、イオン源輸送系内に設けるアパーチャの構成を示す平面図である。
【0037】
基本的な構成は先の第1の実施形態と同様であり、本実施形態が第1の実施形態と異なる点は、イオン源輸送系200内のアパーチャ52に、イオンビームを通過させるための開口52aとは別に、真空排気のためのコンダクタンスを確保するための排気用の開口52bを設けたことにある。
【0038】
アパーチャ52には、中央部にイオンビームを通過させるための小径の開口52aが設けられ、周辺部に排気用開口52bが設けられている。排気用開口52bは、静電レンズ51を通過した後のイオンビーム輸送系200での多価イオンビーム最大径52cよりも外側に複数個設けられている。
【0039】
レーザ・イオン源においては、前記図1に示すように、容器10の上面に設けた排気口13から排気するために、アパーチャ52の開口52aが小さいと、アパーチャ52よりも下流側を十分に排気できない場合がある。これに対し本実施形態のように、アパーチャ52に開口52a以外に比較的径の大きい開口52bを設けることにより、アパーチャ52よりも下流側の真空のコンダクタンスの低下を抑制することができる。従って本実施形態によれば、先の第1の実施形態と同様の効果が得られるのは勿論のこと、アパーチャ52を設けたことによるコンダクタンスの低下を抑制できる利点がある。
【0040】
なお、アパーチャ52に排気用開口部を設ける他の方法として、イオンビーム輸送系200の真空ダクトのサイズよりアパーチャ52の径を小さくしても良い。さらに、図6(a)に示すように、アパーチャ52の外側に切り欠52dを設けるようにしても良い。また、図6(b)に示すように、径の小さなアパーチャ521と、中心にアパーチャ521より小さな開口部を設けた、アパーチャ521より大きな径の板522を組み合わせた構成としてもよい。
【0041】
(第4の実施形態)
図7は、本発明の第4の実施形態に係わるレーザ・イオン源の概略構成を示す断面図である。なお、図1と同一部分には同一符号を付して、その詳しい説明は省略する。また、主要部分以外の構成は簡略化して示している。
【0042】
本実施形態が第1の実施形態と異なる点は、イオンビーム選別機構として、静電レンズ51の代わりに電磁レンズ55を用いたことにある。即ち、イオン源輸送系200の筒体41の容器10側に多価イオンビームを電磁力により収束する電磁レンズ55が設けられ、線形加速器300側にアパーチャ52が設けられている。
【0043】
このような構成であっても、第1の実施形態と同様に、電磁レンズ55によるイオンビームの収束位置が価数によって異なるため、必要な価数のイオンビームの収束位置にアパーチャ52をセットすることにより、必要な価数のイオンビームのみを取り出すことができる。従って、第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【0044】
また、本実施形態は第1の実施形態と同様に、第2〜第3の実施形態の構成を組み合わせることも可能である。
【0045】
(第5の実施形態)
図8は、本発明の第5の実施形態に係わるレーザ・イオン源の概略構成を示す断面図である。なお、図1と同一部分には同一符号を付して、その詳しい説明は省略する。また、主要部分以外の構成は簡略化して示している。
【0046】
本実施形態が第1の実施形態と異なる点は、イオンビーム選別機構として、偏向器とアパーチャを用いたことにある。即ち、イオン源輸送系200の容器10側に多価イオンビームを偏向する偏向電磁石61が設けられ、線形加速器300側にアパーチャ62が設けられている。偏向電磁石61は、イオンビームを電磁力により偏向するものであり、筒体41の外部に設けられている。アパーチャ62は、中央部に開口を有するものであり、第1の実施形態に用いたアパーチャ51の開口よりは大きな径となっている。
【0047】
このように構成された本実施形態において、イオン源本体100から引き出された多価イオンビーム33は偏向電磁石61で偏向されるが、それぞれの価数によって偏向半径が異なることから、必要な価数Z1のイオンビーム33aの軌道上にアパーチャ62を設置することにより、価数Z1のイオンビーム33aを選択的に輸送することが可能である。また、中性粒子は磁場強度によらず直進するため、同時に中性粒子を排除することができる。さらに、多価イオンビームの中から、異なる価数のイオンビームを取り出したい場合に、偏向電磁石12の磁場強度を変えることにより、アパーチャ62を通過できる価数のイオンを選択できる。さらにアパーチャ62に第2の実施形態に記載した移動機構を設けることでもイオンを選択できる。
【0048】
図9に、各種の価数のイオンビームと偏向の様子を示す。(a)は偏向電磁石61とアパーチャ62及びイオンビームの位置関係を示す図、(b)は偏向電磁石61の中心からの距離xとビームの偏向位置との関係を示す図である。
【0049】
この図9からも分かるように、イオンビーム33は価数が大きいものほど偏向電磁石61による磁界の影響を大きく受けるために、C1+〜C6+の順に大きく偏向される。従って、例えばC6+の偏向位置にアパーチャ62の開口が位置するように設置すれば、C6+のイオンビームはアパーチャ62で遮られることなく通過し、それ以外のイオンビームはアパーチャ62で遮られることになる。
【0050】
このように本実施形態によれば、イオン源輸送系200内に偏向電磁石61とアパーチャ62を設けることにより、不要な価数のイオンビームを低減し、必要な価数Z1のイオンビーム33aのみを選択的に取り出すことができる。従って、第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【0051】
また、イオンビームを収束したい場合、若しくはイオン選別の効果を高めたい場合に、イオン源輸送系200に第1〜第3の実施形態の記載の構成と組み合わせて偏向電磁石61を配置する構成を取ることも可能である。
【0052】
(第6の実施形態)
図10は、本発明の第6の実施形態に係わるレーザ・イオン源の概略構成を示す断面図である。なお、図8と同一部分には同一符号を付して、その詳しい説明は省略する。また、主要部分以外の構成は簡略化して示している。
【0053】
本実施形態が第5の実施形態と異なる点は、イオンビーム選別機構として、偏向電磁石61の代わりに偏向電極65を用いたことにある。即ち、イオン源輸送系200の筒体41の容器10側に多価イオンビームを静電力により偏向する偏向電極65が設けられ、線形加速器300側にアパーチャ62が設けられている。
【0054】
このような構成であっても、第5の実施形態と同様に、偏向電極65によるイオンビームの偏向位置が価数によって異なるため、必要な価数のイオンビームの偏向位置にアパーチャ62をセットすることにより、必要な価数のイオンビームのみを取り出すことができる。従って、第5の実施形態と同様の効果が得られる。
【0055】
(第7の実施形態)
図11は、本発明の第7の実施形態に係わるレーザ・イオン源の概略構成を示す断面図である。なお、図1と同一部分には同一符号を付して、その詳しい説明は省略する。また、主要部分以外の構成は簡略化して示している。
【0056】
本実施形態が第1の実施形態と異なる点は、イオンビーム選別機構として、高速偏向可能な偏向器とアパーチャを用いたことにある。即ち、イオン源輸送系200の筒体41内に容器10側に多価イオンビーム33をパルス的に偏向するパルス電極71が設けられ、線形加速器300側にアパーチャ72が設けられている。アパーチャ72はビームダンプの役割であるため、イオン源輸送系200の下流の壁でも代用可能である。
【0057】
このように構成された本実施形態において、イオン源本体100から引き出された多価イオンビーム33は、パルス電極71に偏向電圧を印加することにより偏向され、アパーチャ72で遮られる。多価イオンビーム33は時間構造を持ち、価数の大きなものほど速度が速い。従って、イオンビームの通過時刻に合わせてパルス電極71を駆動することにより、アパーチャ72で遮られるイオンビームの価数を選択することができる。具体的には、必要な価数Z1のイオンビーム33aが通過する時間を避けてパルス電極71にパルス電圧を印加すれば、不要な他の価数のイオンビームはイオン源輸送系200aの軸から外れ、下流のアパーチャ72に衝突して排除される。これにより、価数Z1のイオンビーム33aのみを取り出すことができる。
【0058】
これとは逆に、価数Z1のイオンビーム33aが通過する時間のみにパルス電圧を印加することにより、価数Z1のイオンビーム33aのみを取り出すことも可能である。この場合、偏向電極71による偏向方向を線形加速器300へのイオン輸送系200の軸と一致させた構成とすればよい。
【0059】
図12に、各種の価数のイオンビームと偏向の様子を示す。(a)はイオンの時間分布を示し、(b)はパルス電場を示し、(c)はイオンビームの偏向状態を示している。
【0060】
この図12からも分かるように、イオンビーム33は価数が大きいものほど速度が速く、価数の違いによりアパーチャ72の位置に到達する時間が異なる。従って、必要な価数C6+のイオンビーム33aがアパーチャ72を通過する時間のみパルス電圧を印加せず、それ以外でパルス電圧を印加するようにすれば、C6+のイオンビームはアパーチャ72で遮られることなく通過し、それ以外のイオンビームはアパーチャ72で遮られることになる。
【0061】
このように本実施の形態によれば、イオン源輸送系200内にパルス電極71とアパーチャ72を設けることにより、不要な価数のイオンビームを低減し、必要な価数Z1のイオンビーム4aのみを選択的に取り出すことができる。従って、第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【0062】
また、イオンビームを収束したい場合、もしくはイオン選別の効果を高めたい場合に、第1〜第4の実施形態の構成と組み合わせた構成をとることも可能である。
【0063】
(第8の実施形態)
図13は、本発明の第8の実施形態に係わるレーザ・イオン源の概略構成を示す断面図である。なお、図11と同一部分には同一符号を付して、その詳しい説明は省略する。また、主要部分以外の構成は簡略化して示している。
【0064】
本実施形態が第7の実施形態と異なる点は、イオンビーム選別機構として、高速偏向可能な偏向器として、パルス電極71の代わりにパルス電磁石75を用いたことにある。即ち、イオン源輸送系200の筒体41内の容器10側に多価イオンビーム33をパルス的に偏向するパルス電磁石75が設けられ、線形加速器300側にアパーチャ72が設けられている。アパーチャ72はビームダンプの役割であるため、イオン源輸送系200の下流の壁でも代用可能である。
【0065】
このような構成であっても、第7の実施形態と同様に、パルス電磁石75により不要な価数のイオンビームの通過時にパルス電圧を印加することにより、不要な価数のイオンビームを排除し、必要な価数のイオンビームのみを取り出すことができる。従って、第7の実施形態と同様の効果が得られる。
【0066】
また、イオンビームを収束したい場合、もしくはイオン選別の効果を高めたい場合に、第1〜第4の実施形態の構成と組み合わせた構成をとることも可能である。
【0067】
(変形例)
なお、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、各々の実施形態を組み合わせることもできる。また、各部の構造や材料等は実施形態に何ら限定されるものではなく、仕様に応じて適宜変更可能である。
【0068】
実施形態では、照射箱からイオンビームを引き出すために引き出し電極を設けているが、容器の壁面を引き出し電極として代用することも可能である。照射箱の壁面は必ずしも板状である必要はなく、メッシュ状になっていても良い。ターゲットは、必ずしもカーボン系に限るものではなく、多価のイオンとなる元素又はそれを含有するものであればよい。さらに、レーザ光源はCoレーザやYAGレーザに限定されるものではなく、高エネルギーの短パルス照射(数J/パルス)が可能なものであればよい。
【0069】
また、実施形態では用いるイオンは重粒子としての炭素を例に説明したが、場合によってはヘリウム(He)、窒素(N)、酸素(O)、ネオン(Ne)、シリコン(Si)、アルゴン(Ar)を使用することも可能である。
【0070】
本発明の幾つかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0071】
10…真空容器
12…引き出し電極
20…照射箱
21…ターゲット
31…レーザ光
41…筒体
42…フランジ
43…バルブ
51…静電レンズ
52,62,72…アパーチャ
55…電磁レンズ
61…偏向電磁石
65…偏向電極
71…パルス電極
75…パルス電磁石
100…イオン源本体
200…イオン源輸送系
300…線形加速器(RFQ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空排気される容器と、
前記容器内に配置され、レーザ光の照射により多価イオンを発生するターゲットが収容された照射箱と、
前記照射箱からイオンを静電的に引き出し、イオンビームとして前記容器の外部に導くイオンビーム引き出し手段と、
前記照射箱から引き出されたイオンビームを静電力により収束する静電レンズと、
前記静電レンズの下流側の位置に設けられ、該位置で収束されたイオンビームを通過させるアパーチャと、
を具備したことを特徴とするレーザ・イオン源。
【請求項2】
真空排気される容器と、
前記容器内に配置され、レーザ光の照射により多価イオンを発生するターゲットが収容された照射箱と、
前記照射箱からイオンを静電的に引き出し、イオンビームとして前記容器の外部に導くイオンビーム引き出し手段と、
前記イオン源から引き出されたイオンビームを電磁力により収束する電磁レンズと、
前記電磁レンズの下流側の位置に設けられ、該位置で収束されたイオンビームを通過させるためのアパーチャと、
を具備したことを特徴とするレーザ・イオン源。
【請求項3】
前記アパーチャは、前記イオンビームの進行方向に移動可能に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のレーザ・イオン源。
【請求項4】
前記アパーチャは、前記イオンビームの一部を通過させるための開口の径が可変可能に設けられていることを特徴とする請求項3に記載のレーザ・イオン源。
【請求項5】
前記アパーチャに、前記イオンビームの一部を通過させるための開口とは別に、イオンビーム最大径より外側に排気用開口部を設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載のレーザ・イオン源。
【請求項6】
真空排気される容器と、
前記容器内に配置され、レーザ光の照射により多価イオンを発生するターゲットが収容された照射箱と、
前記照射箱からイオンを静電的に引き出し、イオンビームとして前記容器の外部に導くイオンビーム引き出し手段と、
前記照射箱から引き出されたイオンビームを電磁力で偏向する偏向電磁石と、
前記偏向電磁石の下流側に設けられ、前記偏向電磁石で所定量偏向されたイオンビームを通過させるアパーチャと、
を具備したことを特徴とするレーザ・イオン源。
【請求項7】
真空排気される容器と、
前記容器内に配置され、レーザ光の照射により多価イオンを発生するターゲットが収容された照射箱と、
前記照射箱からイオンを静電的に引き出し、イオンビームとして前記容器の外部に導くイオンビーム引き出し手段と、
前記照射箱から引き出されたイオンビームを静電的に偏向する偏向電極と、
前記偏向電極の下流側に設けられ、前記偏向電極で所定量偏向されたイオンビームを通過させるアパーチャと、
を具備したことを特徴とするレーザ・イオン源。
【請求項8】
真空排気される容器と、
前記容器内に配置され、レーザ光の照射により多価イオンを発生するターゲットが収容された照射箱と、
前記照射箱からイオンを静電的に引き出し、イオンビームとして前記容器の外部に導くイオンビーム引き出し手段と、
前記照射箱から引き出されたイオンビームを、該イオンビームの時間分布幅より短い間隔で偏向可能なパルス電極と、
前記パルス電極の下流側に設けられ、前記パルス電極で偏向されたイオンビームを遮るアパーチャと、
を具備したことを特徴とするレーザ・イオン源。
【請求項9】
真空排気される容器と、
前記容器内に配置され、レーザ光の照射により多価イオンを発生するターゲットが収容された照射箱と、
前記照射箱からイオンを静電的に引き出し、イオンビームとして前記容器の外部に導くイオンビーム引き出し手段と、
前記照射箱から引き出されたイオンビームを、該イオンビームの時間分布幅より短い間隔で偏向可能なパルス電磁石と、
前記パルス電磁石の下流側に設けられ、前記パルス電磁石で偏向されたイオンビームを遮るアパーチャと、
を具備したことを特徴とするレーザ・イオン源。
【請求項10】
イオン源本体から引き出されたイオンビームを、該イオンビームの時間分布幅より短い間隔で偏向可能なパルス偏向器と、このパルス偏向器の下流側に設けられたアパーチャとを備えたレーザ・イオン源の駆動方法であって、
前記パルス偏向器の設置領域を必要な価数のイオンビームが通過するタイミングでは該偏向器に偏向信号は印加せず、必要な価数のイオンビームを偏向せずに前記アパーチャを通過させ、
前記パルス偏向器の設置領域を不必要な価数のイオンビームが通過するタイミングで該偏向器に偏向信号を与えることにより、不必要な価数のイオンビームを偏向して前記アパーチャで遮断する、
ことを特徴とするレーザ・イオン源の駆動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−174515(P2012−174515A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35898(P2011−35898)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】