レーザー装置およびその制御方法
【課題】レーザー照射時のレーザー安定性とレーザー遮光時のフラッシュランプ消耗軽減を兼ね備えたレーザー装置およびその制御方法を提供する。
【解決手段】レーザーの照射手段と、フラッシュランプを含む励起手段と、レーザーの遮光手段と、遮光手段による遮光とその解除を制御するとともに、フラッシュランプの設定条件を制御する制御手段を有し、制御手段が、レーザーの照射を停止する際に遮光手段によりレーザーを遮光する工程に続いて、フラッシュランプの消耗を軽減するように設定条件を制御する工程を行い、照射を再開する際に、レーザーが安定して照射されるように設定条件を制御する工程に続いて、遮光を解除する工程を行うレーザー装置の制御方法を用いる。
【解決手段】レーザーの照射手段と、フラッシュランプを含む励起手段と、レーザーの遮光手段と、遮光手段による遮光とその解除を制御するとともに、フラッシュランプの設定条件を制御する制御手段を有し、制御手段が、レーザーの照射を停止する際に遮光手段によりレーザーを遮光する工程に続いて、フラッシュランプの消耗を軽減するように設定条件を制御する工程を行い、照射を再開する際に、レーザーが安定して照射されるように設定条件を制御する工程に続いて、遮光を解除する工程を行うレーザー装置の制御方法を用いる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー装置およびその制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーザー機器の高出力化が進展している。特に、母材Y3Al5O12結晶にネオジム(Nd)を添加したレーザー媒質を用いたNd:YAGレーザー等に代表される固体レーザーは、高エネルギー用途に適当である。固体レーザーの励起源には希ガスフラッシュランプや半導体レーザー(LD)が利用されるが、希ガスフラッシュランプは、安価であり且つパルス当たりのエネルギー出力を高めることができるという利点を有する。このため、レーザー加工機やレーザーアニール装置等の産業用途に広く利用されている。
【0003】
近年、レーザー光を用いた医療用の光音響測定装置の開発が進められている(非特許文献1)。本装置では、光音響効果を利用して乳房内部にある腫瘍の有無を診断することが試みられている。光音響測定装置は、ナノ秒パルスレーザーを測定部位に照射して、そこで発生する超音波(光音響波)を受信し、受信信号を解析することで画像を得る測定装置である。特に比較的深い生体部位からの光音響信号を取得するためには、パルス当りのエネルギー出力の高いレーザー光が必要であり、ランプ励起固体レーザーが好適である。
【0004】
しかしながら、フラッシュランプの発光スペクトルが紫外域から赤外域と広いため、フラッシュランプとレーザー媒質の吸収スペクトルとの整合性が悪い。故に、レーザー媒質に熱負荷がかかり、熱レンズ効果や熱複屈折効果等によりビーム品質が劣化する欠点を有する。特にレーザー発振の立ち上がり初期における出力エネルギーは、レーザー媒質が熱平衡に達するまで不安定である。故に、レーザー発振出力が徐々に変化するため加工等において問題となる。
【0005】
このような問題への対応として、パルス毎のレーザー出力を測定し、それぞれのパルスエネルギーが一定となるように電源からフラッシュランプに供給するランプ電流を制御して安定出力を得る方法が開示されている(特許文献1)。
【0006】
また、フラッシュランプはランプ毎に特性が異なり、更に利用するにつれて発光強度が減少しいずれは交換が必要となる。フラッシュランプの消耗は、ランプ励起固体レーザーの利便性に対して強く影響する。このような問題への対応として、光検出素子でレーザー出力を随時検出する。次いで、ランプ電流値が予め決めた上限値または下限値を超えた場合にその旨を表示し、ランプ交換の目安とする手法が開示されている(特許文献2)。
ランプ励起固体レーザーを利用するレーザー装置においては、ランプ設定値を制御して利便性を高めることが非常に重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2542821号公報
【特許文献2】特開平8−195521号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】S. Manohar et al, Proc. of SPIE vol. 6437 643702-1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ランプ励起固体レーザーで用いるフラッシュランプは、レーザーヘッドの内部構成及び照射時のランプ設定条件にも依存するが、ランプ寿命は1000万ショット程度である。また、寿命はランプにより個体差があり同規格のランプでも数100万ショット程度の場合もあ
る。ランプ励起固体レーザーにおいてランプ消耗は不可避であるが、レーザー装置の利便性を考慮した場合フラッシュランプの交換サイクルを長くすることは非常に重要である。
【0010】
遮光時にフラッシュランプを止めた場合ランプ消耗軽減となる。しかしながら、照射再開時においてレーザー媒質が熱平衡状態に達するまで時間がかかり、結果として出力が安定化するまでに時間がかかり利便性が損なわれる。また、暖気時間に応じた非利用時のフラッシュランプ発光もランプ消耗に繋がる。一方、レーザー照射時の出力安定性を重視してレーザー遮光時も照射時と同様のレーザー発振出力を維持する場合、不要なフラッシュランプ照射によりランプ消耗が生じる。即ち、レーザー照射時の出力安定性を高めると同時に、遮光時のランプ消耗を軽減し長期間ランプ励起固体レーザーを安定して利用するランプ制御方法は非常に重要である。
【0011】
しかしながら、従来例である特許文献1では、パルス毎の出力安定性を満たす観点でランプ制御を実施する手法が述べられているが、ランプ消耗の軽減に関する内容は含まれない。また、特許文献2では、ランプ消耗に基づくランプ交換目安の観点からレーザー出力測定を実施してランプ電流を制御する方法が述べられているが、ランプ寿命を延ばす観点の制御方法ではない。従来例では、照射時の出力安定性と遮光時のランプ消耗軽減を同時に満たすことはできない。
【0012】
出力安定性とランプ消耗軽減を同時に両立させることは、高出力ランプ励起固体レーザーの用途として従来多く使われてきた加工やアニール等の産業用途よりも、医療用途、特に診断目的のレーザー装置において顕著な問題となる。医療用診断装置では、診断結果に応じて再測定を実施す場合や診断プロトコールに応じて測定を繰り返すことが想定される。また、被検者の状況に応じて測定条件を変えることも多いため、産業用途と比較して利用状態を標準化しにくい。結果として、レーザー装置利用時に対して非利用の時間が長くなる場合があり、フラッシュランプ利用の観点からは非常に非効率的となる。
【0013】
医療診断用の光音響測定装置では、被検者の状態及び診断部位の状況に応じて測定時間や測定方法等が異なる。腫瘍検出(測定)を目的として被検部位を乳房とする場合、両乳房の測定を実施するだけでなく、測定方向の変更等もあり、光音響測定装置の利用方法に応じて測定と遮光が繰り替えされる。ここで、測定方向とはX線マンモグラフィーにおける撮影方法を基準にした表現である。測定方向としては、頭尾方向(Cranio-Caudal(CC)
方向)・内外側斜位方向(Medio-Lateral-Oblique(MLO)方向)・内外側方向(Medial-lateral(ML) 方向)などが挙げられる。また、光音響測定は非侵襲(低侵襲)性であるため
、繰り返し測定が可能であるという特徴を有する。故に、レーザー照射及び遮光がランダムに繰り返されるような測定手法を制限しないためにも、本課題は重要である。
【0014】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、レーザー照射時のレーザー安定性とレーザー遮光時のフラッシュランプ消耗軽減を兼ね備えたレーザー装置およびその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は以下の構成を採用する。すなわち、
照射対象にレーザーを照射する照射手段と、フラッシュランプの発光により前記照射手段を励起する励起手段と、前記照射手段から照射されるレーザーを遮光する遮光手段と、前記遮光手段による遮光および遮光の解除を制御するとともに、前記フラッシュランプの発光に関する設定条件を制御する制御手段と、を有するレーザー装置の制御方法であって
、
前記制御手段が、
前記照射手段から照射対象へのレーザーの照射を停止する際に、前記遮光手段によりレーザーを遮光する工程に続いて、前記フラッシュランプの消耗を軽減するように前記設定条件を制御する消耗軽減開始工程を行い、
前記照射手段から照射対象へのレーザーの照射を再開する際に、前記照射手段によりレーザーが安定して照射されるように前記設定条件を制御する消耗軽減停止工程に続いて、前記遮光手段による遮光を解除する工程を行う
ことを特徴とするレーザー装置の制御方法である。
【0016】
本発明はまた、以下の構成を採用する。すなわち、
照射対象にレーザーを照射する照射手段と、
フラッシュランプの発光により前記照射手段を励起する励起手段と、
前記照射手段から照射されるレーザーを遮光する遮光手段と、
前記遮光手段による遮光および遮光の解除を制御するとともに、前記フラッシュランプの発光に関する設定条件を制御する制御手段と、
を有するレーザー装置であって、
前記制御手段は、前記照射手段から照射対象へのレーザーの照射を停止する際は、前記遮光手段によりレーザーを遮光した後、前記フラッシュランプの消耗を軽減するように前記設定条件を制御し、前記照射手段から照射対象へのレーザーの照射を再開する際は、前記照射手段によりレーザーが安定して照射されるように前記設定条件を制御した後、前記遮光手段による遮光を解除する
をことを特徴とするレーザー装置である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、レーザー照射時のレーザー安定性とレーザー遮光時のフラッシュランプ消耗軽減を兼ね備えたレーザー装置およびその制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のレーザー装置の一実施形態を示す構成図。
【図2】レーザー共振器の基本構成。
【図3】本発明のレーザー装置の一実施形態を示す構成図。
【図4】本発明のレーザー装置の一実施形態を示す構成図。
【図5】制御方法のフローチャートの一形態。
【図6】制御方法の時間チャートの一形態、及び工程間の名称。
【図7】制御方法のフローチャートの一形態。
【図8】制御方法の時間チャートの一形態、及び工程間の名称。
【図9】制御工程に対するレーザー出力。
【図10】本発明のレーザー装置の一実施形態を示す構成図。
【図11】光音響測定装置の上面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の実施形態を説明する。
図1は本発明の実施形態の一例を示す構成図である。レーザー装置は、フラッシュランプを有するランプ励起固体レーザーのレーザーヘッド部101、レーザー光を遮光する遮光
器102を有する。レーザー装置はさらに、レーザー出力の光軸上に配置するビームスプリ
ッター103、ビームスプリッター103により分岐されたレーザー光束を検出する光検出器104、レーザー装置制御を行う制御システム105を有する。照射対象106は、産業用途であれ
ば加工品等であり、医療用途であれば生体測定部位(被検体)である。
【0020】
制御システム105は、外部制御部107及びレーザーヘッド制御部108を有する。図1では
、外部制御部107及びレーザーヘッド制御部108が制御システム105に内包されているが、
独立していても構わない。本発明では、光検出器104及び遮光器102を制御するために外部制御部107を用いるが、温度モニター等、他の機器制御機構を含んでも構わない。
【0021】
レーザーヘッド制御部108は、本発明の主要部であるフラッシュランプのランプ設定制
御機構109、及びその他のレーザー制御に関わるレーザー制御機構110を有する。使用するランプ励起固体レーザーにより搭載するレーザー制御機構110は異なる。例えば産業用加
工レーザーとして幅広く使用されているNd:YAG(ネオジムヤグ)レーザーの場合、大出力のパルス光を形成するためのQスイッチ制御部や共振器内部に設置するシャッター制御部
、レーザー媒質やフラッシュランプの温度制御部等が含まれる。ランプ設定制御機構109
は、繰り返し周波数制御部、フラッシュランプ発光出力を制御するランプ電流制御部、ランプ予備電流であるシマー電流制御部を含む。ランプ電流制御は、ランプ発光強度を制御することを目的としており、回路構成によってはランプ電圧制御も同様な機能となる。故に、本明細ではランプ電流制御とするが、ランプ電圧制御も本発明に含まれる。
【0022】
レーザーヘッド部101の共振器構造の基本構成を図2に示す。キセノンやクリプトンなどの励起源用フラッシュランプ201とレーザー媒質であるレーザーロッド(媒質)202が、それぞれ、楕円形状のチャンバー203内部の焦点位置に配置される。更に、レーザーロッド
の軸上に、共振器構造を構成する出力鏡204と反射鏡205が配置される。励起源であるフラッシュランプ201の両端の電極に高電圧が印加されて、印加される電力に応じてフラッシ
ュランプ201が発光する。楕円形状のチャンバー203の内側面で反射したランプ光が、もう一方に配置されたレーザーロッド202を照射する。レーザーロッド202が励起されて、出力鏡204と反射鏡205間を光束が往復しレーザー光が発振する。
【0023】
そして、パルス当たりのエネルギー出力を高めるために、ポッケルス効果を用いたQス
イッチ206を用いる。蓄積されたエネルギーを瞬間的に開放することで、高エネルギーパ
ルスを形成する。フラッシュランプ発光の高エネルギー、及びQスイッチによるパルス化
により、ランプ励起固体レーザーでは、容易にパルスエネルギーの大きなレーザー発振を得ることができる。レーザー媒質にNd:YAGロッドを用いる場合は、比較的容易に安定し
た高パルスエネルギーを得ることが可能であり、加工等の産業用途に広く使用される。ただし、レーザーヘッド部101は、Nd:YAGレーザーに限定されるものではない。他にも、フ
ラッシュランプ励起にてパルス当たりのエネルギー出力を高めることが可能なアレクサンドライトレーザー、Nd:YAGの第二高調波を励起源とするチタンサファイア(Ti:sa)レーザ
ー等を用いることもできる。
【0024】
遮光器102はレーザー光の終端処理部分を有する。終端処理部分では、レーザー高エネ
ルギーによる発熱を伴う。故に、遮光器102は、図1に示すようにレーザーヘッド部101の
筐体外部に設置することが好ましい。しかしながら、レーザーヘッド内部に一体化することも可能である。遮光器102をレーザーヘッド内部に一体化する際は、ビームスプリッタ
ー103及び光検出器104も同様にしてレーザーヘッド内部に一体化することが可能である。レーザーヘッド部に内包した際の構成図が図3である。
【0025】
出力光の測定は、ビームスプリッター103を用いて射出されたレーザー光の一部をサン
プリングして行う。故に、照射対象106への照射強度を大きく下げずに、光検出器104における必要な検出感度をサンプリングできるようにビーム分岐すればよい。
光検出器104を用いてレーザー光の一部を測定する。光検出器104は、主に発振パルスのエネルギー測定が可能なエネルギー検出器が好適である。しかしながら、光検出器はエネルギーセンサーに限定されるものではなく、CCD等の光強度検出が可能な光検出器であれ
ば特に制限はない。
【0026】
本発明では、照射対象106への照射を遮光した際のレーザー出力を測定することを目的
として、光検出器104を設置している。ビームスプリッター103を用いる場合、射出されたレーザー光を常に測定し続けることができるという利点を有する。即ち、ランプ劣化に伴うレーザー出力の減少などもモニターすることが可能である。なお、ビームスプリッター103の機能を遮光器102に内包する(遮光器がビームスプリッターを兼ねる)ことも可能である。かかる構成を図4に示す。遮光器およびビームスプリッター以外の構成は図1と同様である。レーザー光を遮光する遮光器401は、遮光状態において、直接レーザー光を終端
処理せずに光束の少なくとも一部を反射により取り出す構造とする。この部分光束の光路上に光検出器104を設置する。かかる構成により、照射対象106への照射を遮光した際のレーザー出力を測定することが可能となる。
【0027】
図1及び図4の構成で可能な本発明の実施形態であるレーザー装置の制御方法の一例を説明する。制御方法のフローチャートを図5、並びに工程順序を含む時間チャートを図6に示す。図6において、601は照射状態、602は遮光状態、603は照射遮光時制御、604は照射再
開時制御、605は消耗軽減期間、607は待機期間である。
【0028】
図6に示すように、遮光状態602の間に、照射遮光時制御603と照射再開時制御604を実施する。照射状態601は、既にレーザー媒質が熱平衡状態であり安定したレーザー発振が得
られている状態である。以下、本明細中では、上記照射状態601のランプ設定状態を安定
照射条件と称する。
照射遮光時制御603では、照射遮光工程(図5の工程1)、ランプ消耗軽減工程(図5の工程2)を実施する。工程1及び工程2を連続的に実施して照射状態601から遮光状態602へ移
行する。工程2によりランプ消耗の軽減を図る。
照射再開時制御604では、照射遮光時制御の停止工程(図5の工程3)、照射再開工程(
図5の工程4)を実施する。工程3にて、照射遮光時制御603間の工程を任意のタイミングで停止させて、照射再開時制御604に移行する。工程3と工程4間を待機期間607と称する。
【0029】
本発明の目的の一つは待機期間607を短時間にしてレーザー照射の安定性を得ることで
あるが、用途により待機期間607の長さは異なる。したがって用途に応じて所定の待機時
間を設定する必要がある。また、待機期間607が比較的長い場合(例えば、ランプ停止状
態からレーザー立ち上げ時間に必要とする時間が暖気時間程度の長時間のとき)は、遮光状態602と同時にランプ発光を停止してもよい。
【0030】
<制御方法の一例>
図1及び図4の構成で可能な本発明の実施形態であるレーザー装置の制御方法の他の一例を説明する。この方法は、上記の制御方法に加えて用いることが可能である。この方法により、遮光時にフラッシュランプの消耗を軽減すると照射再開時にレーザー媒質が熱平衡状態に達するまでに時間がかかり、結果として出力安定まで時間がかかる現象に対応できる。
制御方法のフローチャートを図7、並びに工程順序を含む時間チャートを図8に示す。図8において、601は照射状態、602は遮光状態、603は照射遮光時制御、604は照射再開時制
御、605は消耗軽減期間、607は待機期間であることは、図6と同様である。また、806は照射準備期間である。
【0031】
図7に示すように、照射遮光時制御603では、照射遮光工程(工程1)、ランプ消耗軽減工程(工程2)に加え、安定照射準備工程(工程5)を実施する。工程5は、照射再開時と
同じランプ設定値とし、照射再開時に短時間で安定したレーザー発振が得られる状態を保持するために実施する工程である。工程5に引き続き再度工程2を実施する。この間を照射準備期間806と称する。上記工程2と工程5をループ工程とし、遮光状態602の期間中、ラン
プ消耗軽減と同時に照射再開時の出力安定性を両立する状態を維持する。工程3以降は、
上述の制御方法と同様である。工程3にて照射遮光時制御603間の工程を任意のタイミングで停止させて、照射再開時制御604に移行する。待機時間607は、照射準備期間806より短
い時間となりうる。
【0032】
以下、各工程を詳述する。
照射遮光工程である工程1では、装置が照射状態601にあるときに、任意のタイミングで制御システム105の外部制御部107による制御を行い、遮光器102を用いて遮光する。レー
ザー共振器内部に設けられた遮光部品の利用、またはフラッシュランプの発光制御により、レーザー発振を停止させることで遮光することも可能である。しかしながら、本発明では、上記構成においてレーザー発振状態を保持しつつ照射対象106への照射を遮光する。
【0033】
ランプ消耗軽減工程(消耗軽減開始工程)である工程2は、工程1に引き続き、制御システム105のランプ設定制御機構109よりランプ設定値を変更する。ランプ消耗の軽減を図るには、ランプ設定制御により、繰り返し周波数制御部、ランプ電流制御部、シマー電流制御部の設定条件を変更する。設定条件に関しては詳細に後述する。
【0034】
照射遮光時制御の停止工程(消耗軽減停止工程)である工程3では、工程2にてランプ消耗軽減のために変更したランプ設定値を、照射対象106へ再照射するためのランプ設定値
に変更する。再照射時のランプ設定は、初期照射時のランプ設定と同じでも変更しても構わない。また、工程1から工程4までの再照射までのサイクルを1サイクルとした場合、サイクル毎に照射時のランプ設定値を変更しても構わない。
【0035】
ランプ設定値に関して下記に示す。
ランプ設定値のうち、繰り返し周波数の低減はランプ消耗軽減に顕著に寄与する。例えば繰り返し周波数10-20Hz、パルス辺りの出力エネルギー1JのNd:YAGレーザーでは、レーザーヘッドの内部構成及び照射時のランプ設定条件にも依存するが、ランプ寿命は1000万ショット程度である。また、寿命はランプにより個体差があり同規格のランプでも数100
万ショット程度の場合もある。故に、繰り返し周波数を低減することは、ランプ消耗低減に効果的である。例えば、安定照射条件における繰り返し周波数が20HzのNd:YAGレーザーの場合、設定周波数を5Hzや1Hz等に選択することが可能であり、設定する繰り返し周波数が低いほどランプ消耗軽減効果は高い。
【0036】
但し、ランプ設定値の繰り返し周波数を低減した場合、レーザー媒質に対する時間当たりのランプ発光照射量が減少するため、レーザー媒質の熱平衡状態が崩れる。結果として、熱レンズ効果が変化し共振器状態が最適な状態から変化するためレーザー出力が徐々に減衰する。本発明の目的の一つは、照射時におけるレーザー発振のエネルギー出力を速やかに安定化させることであり、そのためには照射準備期間806(及び、待機期間607)を短縮する必要がある。レーザー媒質の状態に応じて照射準備期間806(及び待機期間607)に要する時間は異なり、即ち消耗軽減期間605の長さは、設定する照射準備期間806の長さに応じて異なる。
【0037】
消耗軽減期間605の長さは、レーザー発振出力の変化を測定する事により決定する事が
可能である。例えば、工程2における繰り返し周波数の設定を1Hzとする場合、徐々にレ
ーザー媒質が冷却しレーザー発振出力が減少する。ここで、所望の照射準備期間806を得
ることが可能な条件は、レーザー媒質が過度に冷却されずに工程5により速やかに安定照
射条件に戻せることである。横軸時間、縦軸をレーザー出力とした図を図9に示す。所望
の照射準備期間806の時間で安定な照射状態に戻すことができるレーザー出力値を下限値901とする。下限値901となるまでの時間が消耗軽減期間605の長さとなる。工程2で設定す
る繰り返し周波数と安定照射条件の繰り返し周波数が近い場合は、熱平衡状態でのエネル
ギー出力値が、下限値901より大きい場合が想定される。このような条件も本発明には含
まれる。しかしながら、ランプ消耗軽減効果を考慮した場合、工程2にて、更に低い繰り
返し周波数に設定する方が効果的でありより好適である。
【0038】
ランプ設定値のうち、ランプ電流値の低減により、発光に関わるランプ負荷を低減し、ランプ消耗を軽減することが可能である。ランプ繰り返し周波数と同様に、工程2ではラ
ンプ電流値を低減し、工程3及び工程5では再照射時のランプ電流値とすることで照射時出力安定性とランプ消耗軽減を図ることが可能となる。工程2でランプ電流低減を実施する
場合も、繰り返し周波数低減と同様に、ランプ電流設定値に依存して消耗軽減期間605の
長さが異なる。ランプ電流の下限値は、レーザー媒質を励起しレーザー発振可能とする電流閾値である。消耗軽減期間605におけるランプ設定電流値を閾値近傍とした場合、ラン
プ電流値が非常に低く発振出力も非常に低いためランプ消耗軽減効果が大きい。しかしながら、レーザー媒質の熱吸収量が小さくなるため、フラッシュランプの熱平衡状態が大きく変化する。故に、照射対象106へのレーザー照射を再開する際に、短時間で安定エネル
ギー出力を得るために消耗軽減時間605を短くする必要がある。更に、レーザー媒質の励
起状態が不安定となるため、遮光時に検出するエネルギー値が不安定になることもある。下限値近傍のランプ電流値設定でも一定の効果は得られるが、好ましくは検出器104にお
ける測定エネルギー値が安定し、レーザー媒質の励起状態を安定とするランプ電流値である。
【0039】
工程2では、少なくともランプ繰り返し周波数またはランプ電流値の軽減を図るが、両
ランプ設定制御を同時に行っても構わない。
【0040】
ランプ設定値のうち、シマー電流は、安定してレーザー発振させるために、ランプ発光前に予めフラッシュランプに通電する予備電流である。シマー電流を下げるほどランプへの負荷は軽減しランプ消耗は軽減するが、シマー電流値は安定照射条件であるランプ電流値及び繰り返し周波数に応じて最適化されている。故に、ランプ繰り返し周波数またはランプ電流の軽減と同時に、工程2ではシマー電流を軽減し、工程3及び工程5では再照射時
のシマー電流とすることで照射時の出力安定性とランプ消耗軽減を図ることが可能となる。
【0041】
後述する2つの制御シーケンスにより、工程3から工程4、工程2から工程5、及び工程5
から工程2への工程移行を自動的に実施することが可能である。一方を出力制御シーケン
ス、他方を時間制御シーケンスと称する。
【0042】
工程2から工程5への移行の場合、出力制御シーケンスでは、検出器104で測定した値を
制御システム105の外部制御107へ入力し、予め決めた下限値以下の値が入力された時に工程5へ移行するようにする。時間制御シーケンスでは、予め光検出器104を用いて消耗軽減期間605を測定して時間設定しておく。そして実際の測定時には、制御システム105で設定時間に従い工程3へ移行する。
【0043】
工程5から再度工程2へ移行する場合も、工程2から工程5への移行時と同様に、出力制御シーケンスと時間制御シーケンスを実施する事ができる。出力制御シーケンスでは、図9
に示すように、安定照射条件での照射出力値902に達する迄の時間を照射準備期間806とする(図8に示す)。光検出器104でレーザー出力を検出し、検出値を制御システム105に入
力し照射出力値902と比較することで、自動的に工程2へ移行させることができる。例えば出力の検出値が照射出力値以上であれば工程2へ移行させれば良い。
【0044】
工程5から工程2へ移行を時間制御シーケンスで行うときは、次の手順による。工程5の
後、予め照射出力値902に達する照射準備期間806を測定しておき、制御システム105より
照射準備期間806経過後、再度工程2へ移行させる。このとき、装置や測定の条件によっては、照射再開後の安定性を欠くことがある。例えば、照射準備期間806が非常に短い場合
である。この場合は、光検出器の出力を参照する出力制御シーケンスにすれば、照射再開後の安定性が得られるため好適である。一方、照射準備期間806(及び待機期間607)の短縮が本発明の目的の一つであるという点から見ると、使用条件に応じて予め照射準備期間806を決めておく事が好ましい。従って照射再開後の出力安定性が得られる条件であれば
時間制御シーケンスがより好適な手段となる。
【0045】
工程2と工程5の工程を順次繰り返すことにより、レーザー照射時の出力安定性とレーザー遮光時のフラッシュランプ消耗軽減を同時に満たすことができる。
【0046】
工程3から工程4への移行に出力制御シーケンスを用いる場合は、工程5から再度工程2へ移行する場合と同様である。工程3は任意のタイミングで実施するため、待機時間607が照射準備期間806以下の時間となる。故に、時間制御シーケンスを用いる場合は、待機時間607を照射準備期間806と同じ長さとする。結果として、工程3の実施タイミングによらず、工程4へ移行した際安定した照射状態を維持する事ができる。
【0047】
<装置の一例>
図10は本発明の実施形態の一例を示す構成図である。ランプ励起固体レーザーのレーザーヘッド部101、レーザー光を遮光する遮光器102、レーザー装置制御を行う制御システム105から構成される。照射対象106は、産業用途であれば加工品等であり、医療用途であれば生体測定部位である。図1及び図4に示す実施形態とは異なり、ビームスプリッター103
及び光検出器104を含まない構成である。本実施形態のレーザー装置の制御方法では、時
間制御シーケンスを用いる。即ち、レーザー装置を利用する前に予め遮光状態の出力を光検出器104で測定し、時間制御シーケンスを定める。制御工程は図1のレーザー装置を用
いた場合と同様である。
【実施例1】
【0048】
以下に医療診断用光音響測定装置に用いるレーザー装置の制御方法の一実施例を示す。図1で構成されるレーザー装置を用いた。本レーザー装置は、レーザーヘッド部101、レ
ーザー光を遮光する遮光器102、ビームスプリッター103、光検出器104、レーザー装置制
御を行う制御システム105から構成される。
【0049】
レーザーヘッド部101はNd:YAGレーザーとNd:YAGレーザーの第二高調波を励起源とする
チタンサファイアレーザー(Ti:saレーザー)から構成される。照射対象106には疑似生体である乳房ファントムを用いた。照射状態601の安定照射条件を、ランプ繰り返し周波数
を20Hz、波長800nmで100mJ/pulseのエネルギー出力を得るランプ電流値とした。射出エネルギーとして大きなパルスエネルギーを得るために、Nd:YAGレーザーの励起源としてフラッシュランプを用いた。光検出器104にはパイロエレクトリックセンサーを用いて各パル
ス光強度を測定した。制御システム105は外部制御部107及びレーザー制御部108で構成さ
れる。
【0050】
測定は以下のプロセスで計4回継続した。1回目が左乳房ファントムCC方向測定、2回目
が左乳房ファントムMLO方向測定、3回目が右乳房ファントムCC方向測定、4回目が右乳房
ファントムMLO方向測定である。乳房ファントムの固定は容易に変更可能であるが、実際
の臨床では4分程度の時間を要する事を想定して測定間隔を4分とした。乳房ファントム
測定の前に予め測定シーケンスを決めた。遮光時のランプ繰り返し周波数を1Hz、照射準備期間806を5秒とした。照射準備期間806が5秒となるように、消耗軽減期間を測定したところ180秒であった。尚、安定照射条件における照射出力値902が4mJ/pulseであるのに対して、消耗軽減期間605を決めるレーザー出力の下限値901は2mJ/pulseであった。また、
照射再開時制御604における待機期間607は照射準備期間806と同様の5秒とした。
【0051】
図11は、測定に用いた医療診断用光音響測定装置の上面図である。レーザー光束1101が、透明な圧迫固定用平行平板1104を介して乳房ファントム1105に照射される。図1に示すレーザー装置から射出したレーザー光束を拡大整形し、所望の照射領域1102に照射するレーザー光束1101とした。乳房ファントム1105及び圧迫固定用平行平板1104を介してレーザー照射領域1102の対向側に超音波プローブ1103を配置し、レーザー光照射により発生する光音響信号を検出した。
【0052】
まず、安定照射条件にて安定したエネルギー出力のレーザー光を乳房に照射して1回目の測定を実施した。測定時間は1分間である。
次に、測定終了後、照射遮光工程(工程1)を実施した。制御システム105の外部制御部107からの制御に従い、遮光器102により遮光した。工程1後のエネルギー出力は4mJであ
った。
工程1に引き続きランプ消耗軽減工程(工程2)を実施した。ここでは、制御システム105のランプ設定制御機構109を用いてランプ繰り返し周波数を1Hzに低減した。
次に、出力制御シーケンスを用いて工程2から工程5へ移行した。光検出器104で測定し
た出力値を外部制御部107に入力し、予め定めた下限値901である2mJ/pulseとなった時に安定照射準備工程(工程5)に移行した。消耗軽減期間605は190秒であった。工程5では、ランプ設定制御機構109を用いて安定照射条件である繰り返し周波数20Hzに戻した。
工程5から工程2への移行には、時間制御シーケンスを用いた。外部制御部107にて、工
程5実施から5秒経過後に再び工程2を実施した。ここでの繰り返し周波数は1Hzである。
【0053】
1回目の測定終了時から4分経過後、2回目の測定を実施する。2回目の測定を実施するために、照射遮光時制御の停止工程(工程3)を実施した。ランプ設定制御機構109を用いて、繰り返し周波数を照射状態の安定照射条件である20Hzにした。
工程3から工程4への移行には時間制御シーケンスを用いた。工程3実施から5秒後に、外部制御部107を介して遮光器102を用いて遮光状態を解除する工程4により、2回目の測定を開始した。2回目の測定開始時より光検出器104の値は4mJ/pulseであった。
続いて、上記測定工程を4回繰り返した。測定終了後は直ちにランプ発光を停止した。
【0054】
ここで、本工程での実際のランプ発光回数について検討する。乳房ファントムの測定時間である照射状態601は4分間、繰り返し周波数が20Hzであるため、ランプ発光回数は4800ショットである。遮光状態602の時間は、測定間隔が4分間であるため計12分である。そのうち、繰り返し周波数20Hzとした時間は、工程3から工程2間の照射準備期間806において15秒、更に工程4から工程5間の待機期間607において5秒であるため、計20秒である。この
間のランプ発光回数は400ショットである。一方、消耗軽減期間605が11分40秒であり、この間の繰り返し周波数が1Hzである。故に、この間のランプ発光回数は700ショットである。即ち遮光状態にて計1100ショットのランプ発光を行ったことになる。本測定全工程にて5900ショットのランプ発光を行った。
【0055】
一方、本工程の制御方法を用いなかった場合のランプ発光回数について検討する。本測定の全測定時間は16分間であり、仮にこの間の繰り返し周波数を20Hzに維持した場合、ランプ発光回数は19200ショットになる。ランプ消耗が単純にランプ発光回数に比例すると
考えた場合、3倍以上の消耗軽減効果が得られたことになる。また、測定再開時は常に5秒で安定出力が得られた。故に、本測定制御方法を用いることにより、出力安定性とランプ消耗軽減を同時に満たしていることが分かった。
【実施例2】
【0056】
以下に医療診断用光音響測定装置に用いるレーザー装置の制御方法の一実施例を示す。
図1で構成されるレーザー装置を用いた。本レーザー装置は、レーザーヘッド部101、レ
ーザー光を遮光する遮光器102、ビームスプリッター103、光検出器104、レーザー装置制
御を行う制御システム105から構成される。
【0057】
レーザーヘッド部101にはアレクサンドライトレーザーを用いた。照射対象106には疑似生体である乳房ファントムを用いた。照射状態601の安定照射条件を、ランプ繰り返し周
波数を20Hz、波長750nmで100mJ/pulseのエネルギー出力を得るためのランプ電流値を100Aとした。射出エネルギーとして大きなパルスエネルギーを得るために、アレクサンドライトレーザーには励起源としてフラッシュランプを用いた。光検出器104にはパイロエレク
トリックセンサーを用いて各パルス光強度を測定した。制御システム105は外部制御部107及びレーザー制御部108で構成される。
【0058】
測定は以下のプロセスで計4回継続した。1回目が左乳房ファントムCC方向測定、2回目
が左乳房ファントムMLO方向測定、3回目が右乳房ファントムCC方向測定、4回目が右乳房
ファントムMLO方向測定である。乳房ファントムの固定は容易に変更可能であるが、実際
の臨床では4分程度の時間を要する事を想定して測定間隔を4分とした。乳房ファントム
測定の前に予め測定シーケンスを決めた。遮光時のランプ電流値を70A、照射準備期間806を5秒とした。照射準備期間806が5秒となるように、消耗軽減期間を測定したところ130秒であった。尚、安定照射条件における照射出力値902が5mJ/pulseであるのに対して、消
耗軽減期間605を決めるレーザー出力の下限値901は2mJ/pulseであった。また、照射再開時制御604における待機期間607は、照射準備期間806と同様の5秒とした。
【0059】
図11が測定に用いた医療診断用光音響測定装置の上面図である。レーザー光束1101を透明な圧迫固定用平行平板1104を介して乳房ファントム1105に照射する。図1に示すレーザー装置から射出したレーザー光束を拡大整形し、所望の照射領域1102に照射するレーザー光束1101とした。乳房ファントム1105及び圧迫固定用平行平板1104を介してレーザー照射領域1102の対向側に超音波プローブ1103を配置し、レーザー光照射により発生する光音響信号を検出した。
【0060】
安定照射条件にて安定したエネルギー出力のレーザー光を乳房に照射して1回目の測定を実施した。測定時間は1分間である。
終了後、照射遮光工程(工程1)を実施した。制御システム105の外部制御部107からの
制御に従い遮光器102により遮光した。工程1後のエネルギー出力は5mJであった。
工程1に引き続きランプ消耗軽減工程(工程2)を実施した。ここでは、制御システム105のランプ設定制御機構109を用いてランプ電流値を70Aに低減した。
工程2から工程5への移行には出力制御シーケンスを用いた。光検出器104で測定した出力値を外部制御部107に入力し、予め定めた下限値901である2mJ/pulseとなった時に安定照射準備工程(工程5)に移行した。消耗軽減期間605は135秒であった。
工程5では、ランプ設定制御機構109を用いて、ランプ電流値を安定照射条件である100Aに戻した。工程5から工程2への移行は、時間制御シーケンスを用いた。外部制御部107に
て、工程5から5秒経過後、再び工程2へ移行した。ここでのランプ電流値70Aである。
【0061】
1回目の測定終了時から4分後、2回目の測定を実施する。2回目の測定を実施するために、照射遮光時制御の停止工程(工程3)を実施した。ランプ設定制御機構109を用いて、ランプ電流値を安定照射条件である100Aにした。
工程3から工程4への移行は、時間制御シーケンスを用いた。工程3実施から5秒後に外部制御部107を介して遮光器102を用いて遮光状態を解除する工程4より、2回目の測定を開始した。2回目の測定開始時より光検出器104の値は5mJ/pulseであった。
上記測定工程を繰り返して4回の測定を実施した。測定終了後は直ちにランプ発光を停
止した。
【0062】
本測定におけるランプ消耗軽減効果を見積もるために、以下の実験を行った。
ランプ電流100Aの際の出力パルスエネルギーが100mJ/pulseとなる4本のフラッシュラ
ンプA, B, C, D を選択した。フラッシュランプA, Bはランプ電流100A、繰り返し周波数20Hzにて40時間レーザー発振を続けた。一方、フラッシュランプC, D はランプ電流70A
、繰り返し周波数20Hzにて、40時間レーザー発振を続けた。その後、フラッシュランプA,
B, C, Dそれぞれを用いて、ランプ電流100A、繰り返し周波数20Hzにおけるエネルギー
出力を測定した。
その結果、フラッシュランプA, B, C, Dを用いたそれぞれのエネルギー出力は、84mJ/pulse, 82mJ/pulse, 89mJ/pulse, 91mJ/pulseであった。ランプにより個体差はあるが、使用するランプ電流によりランプ消耗の目安となる出力エネルギーに差が生じた。フラッシュランプA, Bと比較して、低電流で動作させたフラッシュランプC, Dにおいてランプ消耗軽減効果が大きい事が分かった。
本結果より、実施例2のランプ電流制御を用いることでランプ消耗の軽減を図れることが分かる。一方、測定再開時は常に5秒で安定出力が得られた。故に、実施例2の制御方
法は、照射時の出力安定性と遮光時のランプ消耗軽減を同時に満たすことが分かった。
【符号の説明】
【0063】
101:レーザーヘッド部,102:遮光器,105:制御システム,106:照射対象,107:外
部制御部,108:レーザーヘッド制御部,109:ランプ設定制御機構,110:レーザー制御
機構,201:フラッシュランプ
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー装置およびその制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーザー機器の高出力化が進展している。特に、母材Y3Al5O12結晶にネオジム(Nd)を添加したレーザー媒質を用いたNd:YAGレーザー等に代表される固体レーザーは、高エネルギー用途に適当である。固体レーザーの励起源には希ガスフラッシュランプや半導体レーザー(LD)が利用されるが、希ガスフラッシュランプは、安価であり且つパルス当たりのエネルギー出力を高めることができるという利点を有する。このため、レーザー加工機やレーザーアニール装置等の産業用途に広く利用されている。
【0003】
近年、レーザー光を用いた医療用の光音響測定装置の開発が進められている(非特許文献1)。本装置では、光音響効果を利用して乳房内部にある腫瘍の有無を診断することが試みられている。光音響測定装置は、ナノ秒パルスレーザーを測定部位に照射して、そこで発生する超音波(光音響波)を受信し、受信信号を解析することで画像を得る測定装置である。特に比較的深い生体部位からの光音響信号を取得するためには、パルス当りのエネルギー出力の高いレーザー光が必要であり、ランプ励起固体レーザーが好適である。
【0004】
しかしながら、フラッシュランプの発光スペクトルが紫外域から赤外域と広いため、フラッシュランプとレーザー媒質の吸収スペクトルとの整合性が悪い。故に、レーザー媒質に熱負荷がかかり、熱レンズ効果や熱複屈折効果等によりビーム品質が劣化する欠点を有する。特にレーザー発振の立ち上がり初期における出力エネルギーは、レーザー媒質が熱平衡に達するまで不安定である。故に、レーザー発振出力が徐々に変化するため加工等において問題となる。
【0005】
このような問題への対応として、パルス毎のレーザー出力を測定し、それぞれのパルスエネルギーが一定となるように電源からフラッシュランプに供給するランプ電流を制御して安定出力を得る方法が開示されている(特許文献1)。
【0006】
また、フラッシュランプはランプ毎に特性が異なり、更に利用するにつれて発光強度が減少しいずれは交換が必要となる。フラッシュランプの消耗は、ランプ励起固体レーザーの利便性に対して強く影響する。このような問題への対応として、光検出素子でレーザー出力を随時検出する。次いで、ランプ電流値が予め決めた上限値または下限値を超えた場合にその旨を表示し、ランプ交換の目安とする手法が開示されている(特許文献2)。
ランプ励起固体レーザーを利用するレーザー装置においては、ランプ設定値を制御して利便性を高めることが非常に重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2542821号公報
【特許文献2】特開平8−195521号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】S. Manohar et al, Proc. of SPIE vol. 6437 643702-1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ランプ励起固体レーザーで用いるフラッシュランプは、レーザーヘッドの内部構成及び照射時のランプ設定条件にも依存するが、ランプ寿命は1000万ショット程度である。また、寿命はランプにより個体差があり同規格のランプでも数100万ショット程度の場合もあ
る。ランプ励起固体レーザーにおいてランプ消耗は不可避であるが、レーザー装置の利便性を考慮した場合フラッシュランプの交換サイクルを長くすることは非常に重要である。
【0010】
遮光時にフラッシュランプを止めた場合ランプ消耗軽減となる。しかしながら、照射再開時においてレーザー媒質が熱平衡状態に達するまで時間がかかり、結果として出力が安定化するまでに時間がかかり利便性が損なわれる。また、暖気時間に応じた非利用時のフラッシュランプ発光もランプ消耗に繋がる。一方、レーザー照射時の出力安定性を重視してレーザー遮光時も照射時と同様のレーザー発振出力を維持する場合、不要なフラッシュランプ照射によりランプ消耗が生じる。即ち、レーザー照射時の出力安定性を高めると同時に、遮光時のランプ消耗を軽減し長期間ランプ励起固体レーザーを安定して利用するランプ制御方法は非常に重要である。
【0011】
しかしながら、従来例である特許文献1では、パルス毎の出力安定性を満たす観点でランプ制御を実施する手法が述べられているが、ランプ消耗の軽減に関する内容は含まれない。また、特許文献2では、ランプ消耗に基づくランプ交換目安の観点からレーザー出力測定を実施してランプ電流を制御する方法が述べられているが、ランプ寿命を延ばす観点の制御方法ではない。従来例では、照射時の出力安定性と遮光時のランプ消耗軽減を同時に満たすことはできない。
【0012】
出力安定性とランプ消耗軽減を同時に両立させることは、高出力ランプ励起固体レーザーの用途として従来多く使われてきた加工やアニール等の産業用途よりも、医療用途、特に診断目的のレーザー装置において顕著な問題となる。医療用診断装置では、診断結果に応じて再測定を実施す場合や診断プロトコールに応じて測定を繰り返すことが想定される。また、被検者の状況に応じて測定条件を変えることも多いため、産業用途と比較して利用状態を標準化しにくい。結果として、レーザー装置利用時に対して非利用の時間が長くなる場合があり、フラッシュランプ利用の観点からは非常に非効率的となる。
【0013】
医療診断用の光音響測定装置では、被検者の状態及び診断部位の状況に応じて測定時間や測定方法等が異なる。腫瘍検出(測定)を目的として被検部位を乳房とする場合、両乳房の測定を実施するだけでなく、測定方向の変更等もあり、光音響測定装置の利用方法に応じて測定と遮光が繰り替えされる。ここで、測定方向とはX線マンモグラフィーにおける撮影方法を基準にした表現である。測定方向としては、頭尾方向(Cranio-Caudal(CC)
方向)・内外側斜位方向(Medio-Lateral-Oblique(MLO)方向)・内外側方向(Medial-lateral(ML) 方向)などが挙げられる。また、光音響測定は非侵襲(低侵襲)性であるため
、繰り返し測定が可能であるという特徴を有する。故に、レーザー照射及び遮光がランダムに繰り返されるような測定手法を制限しないためにも、本課題は重要である。
【0014】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、レーザー照射時のレーザー安定性とレーザー遮光時のフラッシュランプ消耗軽減を兼ね備えたレーザー装置およびその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は以下の構成を採用する。すなわち、
照射対象にレーザーを照射する照射手段と、フラッシュランプの発光により前記照射手段を励起する励起手段と、前記照射手段から照射されるレーザーを遮光する遮光手段と、前記遮光手段による遮光および遮光の解除を制御するとともに、前記フラッシュランプの発光に関する設定条件を制御する制御手段と、を有するレーザー装置の制御方法であって
、
前記制御手段が、
前記照射手段から照射対象へのレーザーの照射を停止する際に、前記遮光手段によりレーザーを遮光する工程に続いて、前記フラッシュランプの消耗を軽減するように前記設定条件を制御する消耗軽減開始工程を行い、
前記照射手段から照射対象へのレーザーの照射を再開する際に、前記照射手段によりレーザーが安定して照射されるように前記設定条件を制御する消耗軽減停止工程に続いて、前記遮光手段による遮光を解除する工程を行う
ことを特徴とするレーザー装置の制御方法である。
【0016】
本発明はまた、以下の構成を採用する。すなわち、
照射対象にレーザーを照射する照射手段と、
フラッシュランプの発光により前記照射手段を励起する励起手段と、
前記照射手段から照射されるレーザーを遮光する遮光手段と、
前記遮光手段による遮光および遮光の解除を制御するとともに、前記フラッシュランプの発光に関する設定条件を制御する制御手段と、
を有するレーザー装置であって、
前記制御手段は、前記照射手段から照射対象へのレーザーの照射を停止する際は、前記遮光手段によりレーザーを遮光した後、前記フラッシュランプの消耗を軽減するように前記設定条件を制御し、前記照射手段から照射対象へのレーザーの照射を再開する際は、前記照射手段によりレーザーが安定して照射されるように前記設定条件を制御した後、前記遮光手段による遮光を解除する
をことを特徴とするレーザー装置である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、レーザー照射時のレーザー安定性とレーザー遮光時のフラッシュランプ消耗軽減を兼ね備えたレーザー装置およびその制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のレーザー装置の一実施形態を示す構成図。
【図2】レーザー共振器の基本構成。
【図3】本発明のレーザー装置の一実施形態を示す構成図。
【図4】本発明のレーザー装置の一実施形態を示す構成図。
【図5】制御方法のフローチャートの一形態。
【図6】制御方法の時間チャートの一形態、及び工程間の名称。
【図7】制御方法のフローチャートの一形態。
【図8】制御方法の時間チャートの一形態、及び工程間の名称。
【図9】制御工程に対するレーザー出力。
【図10】本発明のレーザー装置の一実施形態を示す構成図。
【図11】光音響測定装置の上面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の実施形態を説明する。
図1は本発明の実施形態の一例を示す構成図である。レーザー装置は、フラッシュランプを有するランプ励起固体レーザーのレーザーヘッド部101、レーザー光を遮光する遮光
器102を有する。レーザー装置はさらに、レーザー出力の光軸上に配置するビームスプリ
ッター103、ビームスプリッター103により分岐されたレーザー光束を検出する光検出器104、レーザー装置制御を行う制御システム105を有する。照射対象106は、産業用途であれ
ば加工品等であり、医療用途であれば生体測定部位(被検体)である。
【0020】
制御システム105は、外部制御部107及びレーザーヘッド制御部108を有する。図1では
、外部制御部107及びレーザーヘッド制御部108が制御システム105に内包されているが、
独立していても構わない。本発明では、光検出器104及び遮光器102を制御するために外部制御部107を用いるが、温度モニター等、他の機器制御機構を含んでも構わない。
【0021】
レーザーヘッド制御部108は、本発明の主要部であるフラッシュランプのランプ設定制
御機構109、及びその他のレーザー制御に関わるレーザー制御機構110を有する。使用するランプ励起固体レーザーにより搭載するレーザー制御機構110は異なる。例えば産業用加
工レーザーとして幅広く使用されているNd:YAG(ネオジムヤグ)レーザーの場合、大出力のパルス光を形成するためのQスイッチ制御部や共振器内部に設置するシャッター制御部
、レーザー媒質やフラッシュランプの温度制御部等が含まれる。ランプ設定制御機構109
は、繰り返し周波数制御部、フラッシュランプ発光出力を制御するランプ電流制御部、ランプ予備電流であるシマー電流制御部を含む。ランプ電流制御は、ランプ発光強度を制御することを目的としており、回路構成によってはランプ電圧制御も同様な機能となる。故に、本明細ではランプ電流制御とするが、ランプ電圧制御も本発明に含まれる。
【0022】
レーザーヘッド部101の共振器構造の基本構成を図2に示す。キセノンやクリプトンなどの励起源用フラッシュランプ201とレーザー媒質であるレーザーロッド(媒質)202が、それぞれ、楕円形状のチャンバー203内部の焦点位置に配置される。更に、レーザーロッド
の軸上に、共振器構造を構成する出力鏡204と反射鏡205が配置される。励起源であるフラッシュランプ201の両端の電極に高電圧が印加されて、印加される電力に応じてフラッシ
ュランプ201が発光する。楕円形状のチャンバー203の内側面で反射したランプ光が、もう一方に配置されたレーザーロッド202を照射する。レーザーロッド202が励起されて、出力鏡204と反射鏡205間を光束が往復しレーザー光が発振する。
【0023】
そして、パルス当たりのエネルギー出力を高めるために、ポッケルス効果を用いたQス
イッチ206を用いる。蓄積されたエネルギーを瞬間的に開放することで、高エネルギーパ
ルスを形成する。フラッシュランプ発光の高エネルギー、及びQスイッチによるパルス化
により、ランプ励起固体レーザーでは、容易にパルスエネルギーの大きなレーザー発振を得ることができる。レーザー媒質にNd:YAGロッドを用いる場合は、比較的容易に安定し
た高パルスエネルギーを得ることが可能であり、加工等の産業用途に広く使用される。ただし、レーザーヘッド部101は、Nd:YAGレーザーに限定されるものではない。他にも、フ
ラッシュランプ励起にてパルス当たりのエネルギー出力を高めることが可能なアレクサンドライトレーザー、Nd:YAGの第二高調波を励起源とするチタンサファイア(Ti:sa)レーザ
ー等を用いることもできる。
【0024】
遮光器102はレーザー光の終端処理部分を有する。終端処理部分では、レーザー高エネ
ルギーによる発熱を伴う。故に、遮光器102は、図1に示すようにレーザーヘッド部101の
筐体外部に設置することが好ましい。しかしながら、レーザーヘッド内部に一体化することも可能である。遮光器102をレーザーヘッド内部に一体化する際は、ビームスプリッタ
ー103及び光検出器104も同様にしてレーザーヘッド内部に一体化することが可能である。レーザーヘッド部に内包した際の構成図が図3である。
【0025】
出力光の測定は、ビームスプリッター103を用いて射出されたレーザー光の一部をサン
プリングして行う。故に、照射対象106への照射強度を大きく下げずに、光検出器104における必要な検出感度をサンプリングできるようにビーム分岐すればよい。
光検出器104を用いてレーザー光の一部を測定する。光検出器104は、主に発振パルスのエネルギー測定が可能なエネルギー検出器が好適である。しかしながら、光検出器はエネルギーセンサーに限定されるものではなく、CCD等の光強度検出が可能な光検出器であれ
ば特に制限はない。
【0026】
本発明では、照射対象106への照射を遮光した際のレーザー出力を測定することを目的
として、光検出器104を設置している。ビームスプリッター103を用いる場合、射出されたレーザー光を常に測定し続けることができるという利点を有する。即ち、ランプ劣化に伴うレーザー出力の減少などもモニターすることが可能である。なお、ビームスプリッター103の機能を遮光器102に内包する(遮光器がビームスプリッターを兼ねる)ことも可能である。かかる構成を図4に示す。遮光器およびビームスプリッター以外の構成は図1と同様である。レーザー光を遮光する遮光器401は、遮光状態において、直接レーザー光を終端
処理せずに光束の少なくとも一部を反射により取り出す構造とする。この部分光束の光路上に光検出器104を設置する。かかる構成により、照射対象106への照射を遮光した際のレーザー出力を測定することが可能となる。
【0027】
図1及び図4の構成で可能な本発明の実施形態であるレーザー装置の制御方法の一例を説明する。制御方法のフローチャートを図5、並びに工程順序を含む時間チャートを図6に示す。図6において、601は照射状態、602は遮光状態、603は照射遮光時制御、604は照射再
開時制御、605は消耗軽減期間、607は待機期間である。
【0028】
図6に示すように、遮光状態602の間に、照射遮光時制御603と照射再開時制御604を実施する。照射状態601は、既にレーザー媒質が熱平衡状態であり安定したレーザー発振が得
られている状態である。以下、本明細中では、上記照射状態601のランプ設定状態を安定
照射条件と称する。
照射遮光時制御603では、照射遮光工程(図5の工程1)、ランプ消耗軽減工程(図5の工程2)を実施する。工程1及び工程2を連続的に実施して照射状態601から遮光状態602へ移
行する。工程2によりランプ消耗の軽減を図る。
照射再開時制御604では、照射遮光時制御の停止工程(図5の工程3)、照射再開工程(
図5の工程4)を実施する。工程3にて、照射遮光時制御603間の工程を任意のタイミングで停止させて、照射再開時制御604に移行する。工程3と工程4間を待機期間607と称する。
【0029】
本発明の目的の一つは待機期間607を短時間にしてレーザー照射の安定性を得ることで
あるが、用途により待機期間607の長さは異なる。したがって用途に応じて所定の待機時
間を設定する必要がある。また、待機期間607が比較的長い場合(例えば、ランプ停止状
態からレーザー立ち上げ時間に必要とする時間が暖気時間程度の長時間のとき)は、遮光状態602と同時にランプ発光を停止してもよい。
【0030】
<制御方法の一例>
図1及び図4の構成で可能な本発明の実施形態であるレーザー装置の制御方法の他の一例を説明する。この方法は、上記の制御方法に加えて用いることが可能である。この方法により、遮光時にフラッシュランプの消耗を軽減すると照射再開時にレーザー媒質が熱平衡状態に達するまでに時間がかかり、結果として出力安定まで時間がかかる現象に対応できる。
制御方法のフローチャートを図7、並びに工程順序を含む時間チャートを図8に示す。図8において、601は照射状態、602は遮光状態、603は照射遮光時制御、604は照射再開時制
御、605は消耗軽減期間、607は待機期間であることは、図6と同様である。また、806は照射準備期間である。
【0031】
図7に示すように、照射遮光時制御603では、照射遮光工程(工程1)、ランプ消耗軽減工程(工程2)に加え、安定照射準備工程(工程5)を実施する。工程5は、照射再開時と
同じランプ設定値とし、照射再開時に短時間で安定したレーザー発振が得られる状態を保持するために実施する工程である。工程5に引き続き再度工程2を実施する。この間を照射準備期間806と称する。上記工程2と工程5をループ工程とし、遮光状態602の期間中、ラン
プ消耗軽減と同時に照射再開時の出力安定性を両立する状態を維持する。工程3以降は、
上述の制御方法と同様である。工程3にて照射遮光時制御603間の工程を任意のタイミングで停止させて、照射再開時制御604に移行する。待機時間607は、照射準備期間806より短
い時間となりうる。
【0032】
以下、各工程を詳述する。
照射遮光工程である工程1では、装置が照射状態601にあるときに、任意のタイミングで制御システム105の外部制御部107による制御を行い、遮光器102を用いて遮光する。レー
ザー共振器内部に設けられた遮光部品の利用、またはフラッシュランプの発光制御により、レーザー発振を停止させることで遮光することも可能である。しかしながら、本発明では、上記構成においてレーザー発振状態を保持しつつ照射対象106への照射を遮光する。
【0033】
ランプ消耗軽減工程(消耗軽減開始工程)である工程2は、工程1に引き続き、制御システム105のランプ設定制御機構109よりランプ設定値を変更する。ランプ消耗の軽減を図るには、ランプ設定制御により、繰り返し周波数制御部、ランプ電流制御部、シマー電流制御部の設定条件を変更する。設定条件に関しては詳細に後述する。
【0034】
照射遮光時制御の停止工程(消耗軽減停止工程)である工程3では、工程2にてランプ消耗軽減のために変更したランプ設定値を、照射対象106へ再照射するためのランプ設定値
に変更する。再照射時のランプ設定は、初期照射時のランプ設定と同じでも変更しても構わない。また、工程1から工程4までの再照射までのサイクルを1サイクルとした場合、サイクル毎に照射時のランプ設定値を変更しても構わない。
【0035】
ランプ設定値に関して下記に示す。
ランプ設定値のうち、繰り返し周波数の低減はランプ消耗軽減に顕著に寄与する。例えば繰り返し周波数10-20Hz、パルス辺りの出力エネルギー1JのNd:YAGレーザーでは、レーザーヘッドの内部構成及び照射時のランプ設定条件にも依存するが、ランプ寿命は1000万ショット程度である。また、寿命はランプにより個体差があり同規格のランプでも数100
万ショット程度の場合もある。故に、繰り返し周波数を低減することは、ランプ消耗低減に効果的である。例えば、安定照射条件における繰り返し周波数が20HzのNd:YAGレーザーの場合、設定周波数を5Hzや1Hz等に選択することが可能であり、設定する繰り返し周波数が低いほどランプ消耗軽減効果は高い。
【0036】
但し、ランプ設定値の繰り返し周波数を低減した場合、レーザー媒質に対する時間当たりのランプ発光照射量が減少するため、レーザー媒質の熱平衡状態が崩れる。結果として、熱レンズ効果が変化し共振器状態が最適な状態から変化するためレーザー出力が徐々に減衰する。本発明の目的の一つは、照射時におけるレーザー発振のエネルギー出力を速やかに安定化させることであり、そのためには照射準備期間806(及び、待機期間607)を短縮する必要がある。レーザー媒質の状態に応じて照射準備期間806(及び待機期間607)に要する時間は異なり、即ち消耗軽減期間605の長さは、設定する照射準備期間806の長さに応じて異なる。
【0037】
消耗軽減期間605の長さは、レーザー発振出力の変化を測定する事により決定する事が
可能である。例えば、工程2における繰り返し周波数の設定を1Hzとする場合、徐々にレ
ーザー媒質が冷却しレーザー発振出力が減少する。ここで、所望の照射準備期間806を得
ることが可能な条件は、レーザー媒質が過度に冷却されずに工程5により速やかに安定照
射条件に戻せることである。横軸時間、縦軸をレーザー出力とした図を図9に示す。所望
の照射準備期間806の時間で安定な照射状態に戻すことができるレーザー出力値を下限値901とする。下限値901となるまでの時間が消耗軽減期間605の長さとなる。工程2で設定す
る繰り返し周波数と安定照射条件の繰り返し周波数が近い場合は、熱平衡状態でのエネル
ギー出力値が、下限値901より大きい場合が想定される。このような条件も本発明には含
まれる。しかしながら、ランプ消耗軽減効果を考慮した場合、工程2にて、更に低い繰り
返し周波数に設定する方が効果的でありより好適である。
【0038】
ランプ設定値のうち、ランプ電流値の低減により、発光に関わるランプ負荷を低減し、ランプ消耗を軽減することが可能である。ランプ繰り返し周波数と同様に、工程2ではラ
ンプ電流値を低減し、工程3及び工程5では再照射時のランプ電流値とすることで照射時出力安定性とランプ消耗軽減を図ることが可能となる。工程2でランプ電流低減を実施する
場合も、繰り返し周波数低減と同様に、ランプ電流設定値に依存して消耗軽減期間605の
長さが異なる。ランプ電流の下限値は、レーザー媒質を励起しレーザー発振可能とする電流閾値である。消耗軽減期間605におけるランプ設定電流値を閾値近傍とした場合、ラン
プ電流値が非常に低く発振出力も非常に低いためランプ消耗軽減効果が大きい。しかしながら、レーザー媒質の熱吸収量が小さくなるため、フラッシュランプの熱平衡状態が大きく変化する。故に、照射対象106へのレーザー照射を再開する際に、短時間で安定エネル
ギー出力を得るために消耗軽減時間605を短くする必要がある。更に、レーザー媒質の励
起状態が不安定となるため、遮光時に検出するエネルギー値が不安定になることもある。下限値近傍のランプ電流値設定でも一定の効果は得られるが、好ましくは検出器104にお
ける測定エネルギー値が安定し、レーザー媒質の励起状態を安定とするランプ電流値である。
【0039】
工程2では、少なくともランプ繰り返し周波数またはランプ電流値の軽減を図るが、両
ランプ設定制御を同時に行っても構わない。
【0040】
ランプ設定値のうち、シマー電流は、安定してレーザー発振させるために、ランプ発光前に予めフラッシュランプに通電する予備電流である。シマー電流を下げるほどランプへの負荷は軽減しランプ消耗は軽減するが、シマー電流値は安定照射条件であるランプ電流値及び繰り返し周波数に応じて最適化されている。故に、ランプ繰り返し周波数またはランプ電流の軽減と同時に、工程2ではシマー電流を軽減し、工程3及び工程5では再照射時
のシマー電流とすることで照射時の出力安定性とランプ消耗軽減を図ることが可能となる。
【0041】
後述する2つの制御シーケンスにより、工程3から工程4、工程2から工程5、及び工程5
から工程2への工程移行を自動的に実施することが可能である。一方を出力制御シーケン
ス、他方を時間制御シーケンスと称する。
【0042】
工程2から工程5への移行の場合、出力制御シーケンスでは、検出器104で測定した値を
制御システム105の外部制御107へ入力し、予め決めた下限値以下の値が入力された時に工程5へ移行するようにする。時間制御シーケンスでは、予め光検出器104を用いて消耗軽減期間605を測定して時間設定しておく。そして実際の測定時には、制御システム105で設定時間に従い工程3へ移行する。
【0043】
工程5から再度工程2へ移行する場合も、工程2から工程5への移行時と同様に、出力制御シーケンスと時間制御シーケンスを実施する事ができる。出力制御シーケンスでは、図9
に示すように、安定照射条件での照射出力値902に達する迄の時間を照射準備期間806とする(図8に示す)。光検出器104でレーザー出力を検出し、検出値を制御システム105に入
力し照射出力値902と比較することで、自動的に工程2へ移行させることができる。例えば出力の検出値が照射出力値以上であれば工程2へ移行させれば良い。
【0044】
工程5から工程2へ移行を時間制御シーケンスで行うときは、次の手順による。工程5の
後、予め照射出力値902に達する照射準備期間806を測定しておき、制御システム105より
照射準備期間806経過後、再度工程2へ移行させる。このとき、装置や測定の条件によっては、照射再開後の安定性を欠くことがある。例えば、照射準備期間806が非常に短い場合
である。この場合は、光検出器の出力を参照する出力制御シーケンスにすれば、照射再開後の安定性が得られるため好適である。一方、照射準備期間806(及び待機期間607)の短縮が本発明の目的の一つであるという点から見ると、使用条件に応じて予め照射準備期間806を決めておく事が好ましい。従って照射再開後の出力安定性が得られる条件であれば
時間制御シーケンスがより好適な手段となる。
【0045】
工程2と工程5の工程を順次繰り返すことにより、レーザー照射時の出力安定性とレーザー遮光時のフラッシュランプ消耗軽減を同時に満たすことができる。
【0046】
工程3から工程4への移行に出力制御シーケンスを用いる場合は、工程5から再度工程2へ移行する場合と同様である。工程3は任意のタイミングで実施するため、待機時間607が照射準備期間806以下の時間となる。故に、時間制御シーケンスを用いる場合は、待機時間607を照射準備期間806と同じ長さとする。結果として、工程3の実施タイミングによらず、工程4へ移行した際安定した照射状態を維持する事ができる。
【0047】
<装置の一例>
図10は本発明の実施形態の一例を示す構成図である。ランプ励起固体レーザーのレーザーヘッド部101、レーザー光を遮光する遮光器102、レーザー装置制御を行う制御システム105から構成される。照射対象106は、産業用途であれば加工品等であり、医療用途であれば生体測定部位である。図1及び図4に示す実施形態とは異なり、ビームスプリッター103
及び光検出器104を含まない構成である。本実施形態のレーザー装置の制御方法では、時
間制御シーケンスを用いる。即ち、レーザー装置を利用する前に予め遮光状態の出力を光検出器104で測定し、時間制御シーケンスを定める。制御工程は図1のレーザー装置を用
いた場合と同様である。
【実施例1】
【0048】
以下に医療診断用光音響測定装置に用いるレーザー装置の制御方法の一実施例を示す。図1で構成されるレーザー装置を用いた。本レーザー装置は、レーザーヘッド部101、レ
ーザー光を遮光する遮光器102、ビームスプリッター103、光検出器104、レーザー装置制
御を行う制御システム105から構成される。
【0049】
レーザーヘッド部101はNd:YAGレーザーとNd:YAGレーザーの第二高調波を励起源とする
チタンサファイアレーザー(Ti:saレーザー)から構成される。照射対象106には疑似生体である乳房ファントムを用いた。照射状態601の安定照射条件を、ランプ繰り返し周波数
を20Hz、波長800nmで100mJ/pulseのエネルギー出力を得るランプ電流値とした。射出エネルギーとして大きなパルスエネルギーを得るために、Nd:YAGレーザーの励起源としてフラッシュランプを用いた。光検出器104にはパイロエレクトリックセンサーを用いて各パル
ス光強度を測定した。制御システム105は外部制御部107及びレーザー制御部108で構成さ
れる。
【0050】
測定は以下のプロセスで計4回継続した。1回目が左乳房ファントムCC方向測定、2回目
が左乳房ファントムMLO方向測定、3回目が右乳房ファントムCC方向測定、4回目が右乳房
ファントムMLO方向測定である。乳房ファントムの固定は容易に変更可能であるが、実際
の臨床では4分程度の時間を要する事を想定して測定間隔を4分とした。乳房ファントム
測定の前に予め測定シーケンスを決めた。遮光時のランプ繰り返し周波数を1Hz、照射準備期間806を5秒とした。照射準備期間806が5秒となるように、消耗軽減期間を測定したところ180秒であった。尚、安定照射条件における照射出力値902が4mJ/pulseであるのに対して、消耗軽減期間605を決めるレーザー出力の下限値901は2mJ/pulseであった。また、
照射再開時制御604における待機期間607は照射準備期間806と同様の5秒とした。
【0051】
図11は、測定に用いた医療診断用光音響測定装置の上面図である。レーザー光束1101が、透明な圧迫固定用平行平板1104を介して乳房ファントム1105に照射される。図1に示すレーザー装置から射出したレーザー光束を拡大整形し、所望の照射領域1102に照射するレーザー光束1101とした。乳房ファントム1105及び圧迫固定用平行平板1104を介してレーザー照射領域1102の対向側に超音波プローブ1103を配置し、レーザー光照射により発生する光音響信号を検出した。
【0052】
まず、安定照射条件にて安定したエネルギー出力のレーザー光を乳房に照射して1回目の測定を実施した。測定時間は1分間である。
次に、測定終了後、照射遮光工程(工程1)を実施した。制御システム105の外部制御部107からの制御に従い、遮光器102により遮光した。工程1後のエネルギー出力は4mJであ
った。
工程1に引き続きランプ消耗軽減工程(工程2)を実施した。ここでは、制御システム105のランプ設定制御機構109を用いてランプ繰り返し周波数を1Hzに低減した。
次に、出力制御シーケンスを用いて工程2から工程5へ移行した。光検出器104で測定し
た出力値を外部制御部107に入力し、予め定めた下限値901である2mJ/pulseとなった時に安定照射準備工程(工程5)に移行した。消耗軽減期間605は190秒であった。工程5では、ランプ設定制御機構109を用いて安定照射条件である繰り返し周波数20Hzに戻した。
工程5から工程2への移行には、時間制御シーケンスを用いた。外部制御部107にて、工
程5実施から5秒経過後に再び工程2を実施した。ここでの繰り返し周波数は1Hzである。
【0053】
1回目の測定終了時から4分経過後、2回目の測定を実施する。2回目の測定を実施するために、照射遮光時制御の停止工程(工程3)を実施した。ランプ設定制御機構109を用いて、繰り返し周波数を照射状態の安定照射条件である20Hzにした。
工程3から工程4への移行には時間制御シーケンスを用いた。工程3実施から5秒後に、外部制御部107を介して遮光器102を用いて遮光状態を解除する工程4により、2回目の測定を開始した。2回目の測定開始時より光検出器104の値は4mJ/pulseであった。
続いて、上記測定工程を4回繰り返した。測定終了後は直ちにランプ発光を停止した。
【0054】
ここで、本工程での実際のランプ発光回数について検討する。乳房ファントムの測定時間である照射状態601は4分間、繰り返し周波数が20Hzであるため、ランプ発光回数は4800ショットである。遮光状態602の時間は、測定間隔が4分間であるため計12分である。そのうち、繰り返し周波数20Hzとした時間は、工程3から工程2間の照射準備期間806において15秒、更に工程4から工程5間の待機期間607において5秒であるため、計20秒である。この
間のランプ発光回数は400ショットである。一方、消耗軽減期間605が11分40秒であり、この間の繰り返し周波数が1Hzである。故に、この間のランプ発光回数は700ショットである。即ち遮光状態にて計1100ショットのランプ発光を行ったことになる。本測定全工程にて5900ショットのランプ発光を行った。
【0055】
一方、本工程の制御方法を用いなかった場合のランプ発光回数について検討する。本測定の全測定時間は16分間であり、仮にこの間の繰り返し周波数を20Hzに維持した場合、ランプ発光回数は19200ショットになる。ランプ消耗が単純にランプ発光回数に比例すると
考えた場合、3倍以上の消耗軽減効果が得られたことになる。また、測定再開時は常に5秒で安定出力が得られた。故に、本測定制御方法を用いることにより、出力安定性とランプ消耗軽減を同時に満たしていることが分かった。
【実施例2】
【0056】
以下に医療診断用光音響測定装置に用いるレーザー装置の制御方法の一実施例を示す。
図1で構成されるレーザー装置を用いた。本レーザー装置は、レーザーヘッド部101、レ
ーザー光を遮光する遮光器102、ビームスプリッター103、光検出器104、レーザー装置制
御を行う制御システム105から構成される。
【0057】
レーザーヘッド部101にはアレクサンドライトレーザーを用いた。照射対象106には疑似生体である乳房ファントムを用いた。照射状態601の安定照射条件を、ランプ繰り返し周
波数を20Hz、波長750nmで100mJ/pulseのエネルギー出力を得るためのランプ電流値を100Aとした。射出エネルギーとして大きなパルスエネルギーを得るために、アレクサンドライトレーザーには励起源としてフラッシュランプを用いた。光検出器104にはパイロエレク
トリックセンサーを用いて各パルス光強度を測定した。制御システム105は外部制御部107及びレーザー制御部108で構成される。
【0058】
測定は以下のプロセスで計4回継続した。1回目が左乳房ファントムCC方向測定、2回目
が左乳房ファントムMLO方向測定、3回目が右乳房ファントムCC方向測定、4回目が右乳房
ファントムMLO方向測定である。乳房ファントムの固定は容易に変更可能であるが、実際
の臨床では4分程度の時間を要する事を想定して測定間隔を4分とした。乳房ファントム
測定の前に予め測定シーケンスを決めた。遮光時のランプ電流値を70A、照射準備期間806を5秒とした。照射準備期間806が5秒となるように、消耗軽減期間を測定したところ130秒であった。尚、安定照射条件における照射出力値902が5mJ/pulseであるのに対して、消
耗軽減期間605を決めるレーザー出力の下限値901は2mJ/pulseであった。また、照射再開時制御604における待機期間607は、照射準備期間806と同様の5秒とした。
【0059】
図11が測定に用いた医療診断用光音響測定装置の上面図である。レーザー光束1101を透明な圧迫固定用平行平板1104を介して乳房ファントム1105に照射する。図1に示すレーザー装置から射出したレーザー光束を拡大整形し、所望の照射領域1102に照射するレーザー光束1101とした。乳房ファントム1105及び圧迫固定用平行平板1104を介してレーザー照射領域1102の対向側に超音波プローブ1103を配置し、レーザー光照射により発生する光音響信号を検出した。
【0060】
安定照射条件にて安定したエネルギー出力のレーザー光を乳房に照射して1回目の測定を実施した。測定時間は1分間である。
終了後、照射遮光工程(工程1)を実施した。制御システム105の外部制御部107からの
制御に従い遮光器102により遮光した。工程1後のエネルギー出力は5mJであった。
工程1に引き続きランプ消耗軽減工程(工程2)を実施した。ここでは、制御システム105のランプ設定制御機構109を用いてランプ電流値を70Aに低減した。
工程2から工程5への移行には出力制御シーケンスを用いた。光検出器104で測定した出力値を外部制御部107に入力し、予め定めた下限値901である2mJ/pulseとなった時に安定照射準備工程(工程5)に移行した。消耗軽減期間605は135秒であった。
工程5では、ランプ設定制御機構109を用いて、ランプ電流値を安定照射条件である100Aに戻した。工程5から工程2への移行は、時間制御シーケンスを用いた。外部制御部107に
て、工程5から5秒経過後、再び工程2へ移行した。ここでのランプ電流値70Aである。
【0061】
1回目の測定終了時から4分後、2回目の測定を実施する。2回目の測定を実施するために、照射遮光時制御の停止工程(工程3)を実施した。ランプ設定制御機構109を用いて、ランプ電流値を安定照射条件である100Aにした。
工程3から工程4への移行は、時間制御シーケンスを用いた。工程3実施から5秒後に外部制御部107を介して遮光器102を用いて遮光状態を解除する工程4より、2回目の測定を開始した。2回目の測定開始時より光検出器104の値は5mJ/pulseであった。
上記測定工程を繰り返して4回の測定を実施した。測定終了後は直ちにランプ発光を停
止した。
【0062】
本測定におけるランプ消耗軽減効果を見積もるために、以下の実験を行った。
ランプ電流100Aの際の出力パルスエネルギーが100mJ/pulseとなる4本のフラッシュラ
ンプA, B, C, D を選択した。フラッシュランプA, Bはランプ電流100A、繰り返し周波数20Hzにて40時間レーザー発振を続けた。一方、フラッシュランプC, D はランプ電流70A
、繰り返し周波数20Hzにて、40時間レーザー発振を続けた。その後、フラッシュランプA,
B, C, Dそれぞれを用いて、ランプ電流100A、繰り返し周波数20Hzにおけるエネルギー
出力を測定した。
その結果、フラッシュランプA, B, C, Dを用いたそれぞれのエネルギー出力は、84mJ/pulse, 82mJ/pulse, 89mJ/pulse, 91mJ/pulseであった。ランプにより個体差はあるが、使用するランプ電流によりランプ消耗の目安となる出力エネルギーに差が生じた。フラッシュランプA, Bと比較して、低電流で動作させたフラッシュランプC, Dにおいてランプ消耗軽減効果が大きい事が分かった。
本結果より、実施例2のランプ電流制御を用いることでランプ消耗の軽減を図れることが分かる。一方、測定再開時は常に5秒で安定出力が得られた。故に、実施例2の制御方
法は、照射時の出力安定性と遮光時のランプ消耗軽減を同時に満たすことが分かった。
【符号の説明】
【0063】
101:レーザーヘッド部,102:遮光器,105:制御システム,106:照射対象,107:外
部制御部,108:レーザーヘッド制御部,109:ランプ設定制御機構,110:レーザー制御
機構,201:フラッシュランプ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
照射対象にレーザーを照射する照射手段と、フラッシュランプの発光により前記照射手段を励起する励起手段と、前記照射手段から照射されるレーザーを遮光する遮光手段と、前記遮光手段による遮光および遮光の解除を制御するとともに、前記フラッシュランプの発光に関する設定条件を制御する制御手段と、を有するレーザー装置の制御方法であって、
前記制御手段が、
前記照射手段から照射対象へのレーザーの照射を停止する際に、前記遮光手段によりレーザーを遮光する工程に続いて、前記フラッシュランプの消耗を軽減するように前記設定条件を制御する消耗軽減開始工程を行い、
前記照射手段から照射対象へのレーザーの照射を再開する際に、前記照射手段によりレーザーが安定して照射されるように前記設定条件を制御する消耗軽減停止工程に続いて、前記遮光手段による遮光を解除する工程を行う
ことを特徴とするレーザー装置の制御方法。
【請求項2】
前記設定条件とは、前記フラッシュランプの発光の繰り返し周波数であり、
前記消耗軽減開始工程において、前記制御手段は、前記繰り返し周波数を低減する
ことを特徴とする請求項1に記載のレーザー装置の制御方法。
【請求項3】
前記設定条件とは、前記フラッシュランプの発光を制御するランプ電流値であり、
前記消耗軽減開始工程において、前記制御手段は、前記ランプ電流値を低減する
ことを特徴とする請求項1または2に記載のレーザー装置の制御方法。
【請求項4】
前記設定条件とは、前記フラッシュランプに通電するシマー電流値であり、
前記消耗軽減開始工程において、前記制御手段は、前記シマー電流値を低減する
ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のレーザー装置の制御方法。
【請求項5】
前記照射手段から照射対象へのレーザーを遮光してから遮光を解除するまでの期間に、前記照射手段から照射されるレーザーの出力が、予め定められた所定の下限値以下となった場合、前記制御手段は、前記消耗軽減停止工程を行う
ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のレーザー装置の制御方法。
【請求項6】
前記照射手段から照射対象へのレーザーを遮光してから遮光を解除するまでの期間に前記制御手段が前記消耗軽減停止工程を行った後、前記照射手段から照射されるレーザーの出力が、レーザーが安定して照射されるときの所定の値以上となった場合、前記制御手段は、前記消耗軽減開始工程を行う
ことを特徴とする請求項5に記載のレーザー装置の制御方法。
【請求項7】
前記照射手段から照射対象へのレーザーを遮光してから、前記照射手段から照射されるレーザーの出力が所定の下限値以下となる時間として予め測定により定められた時間を経過した場合、前記制御手段は、前記消耗軽減停止工程を行う
ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のレーザー装置の制御方法。
【請求項8】
前記照射手段から照射対象へのレーザーを遮光してから前記制御手段が前記消耗軽減停止工程を行った後、前記照射手段から照射されるレーザーの出力が、レーザーが安定して照射されるときの所定の値以上となる時間として予め測定により定められた時間を経過した場合、前記制御手段は、前記消耗軽減開始工程を行う
ことを特徴とする請求項7に記載のレーザー装置の制御方法。
【請求項9】
照射対象にレーザーを照射する照射手段と、
フラッシュランプの発光により前記照射手段を励起する励起手段と、
前記照射手段から照射されるレーザーを遮光する遮光手段と、
前記遮光手段による遮光および遮光の解除を制御するとともに、前記フラッシュランプの発光に関する設定条件を制御する制御手段と、
を有するレーザー装置であって、
前記制御手段は、前記照射手段から照射対象へのレーザーの照射を停止する際は、前記遮光手段によりレーザーを遮光した後、前記フラッシュランプの消耗を軽減するように前記設定条件を制御し、前記照射手段から照射対象へのレーザーの照射を再開する際は、前記照射手段によりレーザーが安定して照射されるように前記設定条件を制御した後、前記遮光手段による遮光を解除する
をことを特徴とするレーザー装置。
【請求項1】
照射対象にレーザーを照射する照射手段と、フラッシュランプの発光により前記照射手段を励起する励起手段と、前記照射手段から照射されるレーザーを遮光する遮光手段と、前記遮光手段による遮光および遮光の解除を制御するとともに、前記フラッシュランプの発光に関する設定条件を制御する制御手段と、を有するレーザー装置の制御方法であって、
前記制御手段が、
前記照射手段から照射対象へのレーザーの照射を停止する際に、前記遮光手段によりレーザーを遮光する工程に続いて、前記フラッシュランプの消耗を軽減するように前記設定条件を制御する消耗軽減開始工程を行い、
前記照射手段から照射対象へのレーザーの照射を再開する際に、前記照射手段によりレーザーが安定して照射されるように前記設定条件を制御する消耗軽減停止工程に続いて、前記遮光手段による遮光を解除する工程を行う
ことを特徴とするレーザー装置の制御方法。
【請求項2】
前記設定条件とは、前記フラッシュランプの発光の繰り返し周波数であり、
前記消耗軽減開始工程において、前記制御手段は、前記繰り返し周波数を低減する
ことを特徴とする請求項1に記載のレーザー装置の制御方法。
【請求項3】
前記設定条件とは、前記フラッシュランプの発光を制御するランプ電流値であり、
前記消耗軽減開始工程において、前記制御手段は、前記ランプ電流値を低減する
ことを特徴とする請求項1または2に記載のレーザー装置の制御方法。
【請求項4】
前記設定条件とは、前記フラッシュランプに通電するシマー電流値であり、
前記消耗軽減開始工程において、前記制御手段は、前記シマー電流値を低減する
ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のレーザー装置の制御方法。
【請求項5】
前記照射手段から照射対象へのレーザーを遮光してから遮光を解除するまでの期間に、前記照射手段から照射されるレーザーの出力が、予め定められた所定の下限値以下となった場合、前記制御手段は、前記消耗軽減停止工程を行う
ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のレーザー装置の制御方法。
【請求項6】
前記照射手段から照射対象へのレーザーを遮光してから遮光を解除するまでの期間に前記制御手段が前記消耗軽減停止工程を行った後、前記照射手段から照射されるレーザーの出力が、レーザーが安定して照射されるときの所定の値以上となった場合、前記制御手段は、前記消耗軽減開始工程を行う
ことを特徴とする請求項5に記載のレーザー装置の制御方法。
【請求項7】
前記照射手段から照射対象へのレーザーを遮光してから、前記照射手段から照射されるレーザーの出力が所定の下限値以下となる時間として予め測定により定められた時間を経過した場合、前記制御手段は、前記消耗軽減停止工程を行う
ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のレーザー装置の制御方法。
【請求項8】
前記照射手段から照射対象へのレーザーを遮光してから前記制御手段が前記消耗軽減停止工程を行った後、前記照射手段から照射されるレーザーの出力が、レーザーが安定して照射されるときの所定の値以上となる時間として予め測定により定められた時間を経過した場合、前記制御手段は、前記消耗軽減開始工程を行う
ことを特徴とする請求項7に記載のレーザー装置の制御方法。
【請求項9】
照射対象にレーザーを照射する照射手段と、
フラッシュランプの発光により前記照射手段を励起する励起手段と、
前記照射手段から照射されるレーザーを遮光する遮光手段と、
前記遮光手段による遮光および遮光の解除を制御するとともに、前記フラッシュランプの発光に関する設定条件を制御する制御手段と、
を有するレーザー装置であって、
前記制御手段は、前記照射手段から照射対象へのレーザーの照射を停止する際は、前記遮光手段によりレーザーを遮光した後、前記フラッシュランプの消耗を軽減するように前記設定条件を制御し、前記照射手段から照射対象へのレーザーの照射を再開する際は、前記照射手段によりレーザーが安定して照射されるように前記設定条件を制御した後、前記遮光手段による遮光を解除する
をことを特徴とするレーザー装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−4851(P2013−4851A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136236(P2011−136236)
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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