説明

レーザ治療装置およびレーザ出力制御方法

【課題】安全性の高いレーザ治療装置50およびレーザ出力制御方法を提供する。
【解決手段】施術対象部位Eの光干渉断層情報を取得する検出部55および信号処理部53と、前記施術対象部位Eにレーザ光線57aを照射するレーザ発振部57と、前記光干渉断層情報から判別される施術対象部位Eの状態別に前記レーザ光線57aの出力制御情報を示す制御データ70記憶する記憶部54bと、検出部55および信号処理部53により取得した光干渉断層情報と前記制御データ70とに基づいて前記レーザ発振部57の出力制御を実行するレーザ出力制御部54aとを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばレーザ治療を行うようなレーザ治療装置およびレーザ出力制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、患者への負担が少なく治療できる治療方法として、内視鏡を用いる治療方法が実施されている。この内視鏡を用いた治療は、内視鏡チューブを口腔等から体内に挿入し、この内視鏡チューブの先端構成部を用いて撮像や施術を行うものである。
【0003】
撮像は、先端構成部から照明光を照射し、この照明光の体内組織による反射光を前記先端構成部に設けられたレンズで受け取って内視鏡チューブから内視鏡本体装置に伝送し、内視鏡本体装置が画像化して表示装置に表示することで実行される。
【0004】
施術は、チャンネルと呼ばれる鉗子挿入口から適宜の鉗子が挿入され、先端構成部の鉗子出口から出てくる鉗子先端により実施される。鉗子としては、握持鉗子やナイフ等の様々な器具が用いられる。
【0005】
この鉗子挿入口から挿入されて施術に用いられる器具として、レーザ治療装置を用いるものが提案されている(特許文献1参照)。この特許文献1には、内視鏡にてCOレーザを用いることが記載されている。
【0006】
また、内視鏡を用いたレーザ治療に、OCT(Optical Coherence Tomography)装置を用いるレーザ治療装置も提案されている(特許文献2参照)。このOCT装置により、低コヒーレンス干渉を用いて体内組織の光断層画像を得られることが記載されている。
【0007】
しかし、内視鏡でこのようなレーザを用いて治療を行う場合、術者は、内視鏡本体装置の表示装置に表示される撮像画像や接眼部で状況を確認しつつ、レーザでの治療を行う。このため、患部以外にレーザを照射することによる治療ミスや、レーザを照射しすぎることによる治療ミスを防ぐために、術者の熟練が必要となり、訓練等によって技術力を高めた術者でないと利用できないという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2007−533374号公報
【特許文献2】特開2002−113017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明は、上述した問題に鑑み、安全性の高いレーザ治療装置およびレーザ出力制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は、施術対象部位の診断用情報を取得する診断用情報取得手段と、前記施術対象部位にレーザ光線を照射するレーザ照射手段と、前記診断用情報から判別される施術対象部位の状態別に前記レーザ光線の出力制御情報を記憶する制御情報記憶手段と、該診断用情報取得手段により取得した診断用情報と前記出力制御情報とに基づいて前記レーザ照射手段の出力制御を実行する出力制御手段とを備えたレーザ治療装置であることを特徴とする。
【0011】
施術対象部位は、食道や胃など、人間を含む生体のうち、内視鏡を挿通させる適宜の部位とすることができる。
前記レーザ照射手段は、適宜のレーザを照射するレーザ照射手段で構成することができる。照射するレーザは、炭酸ガスレーザ、Er:YAGレーザ、Nd:YAGレーザ、ダイオード・レーザなどの半導体レーザ、またはパルス・ダイ・レーザなど、適宜のレーザを用いることができる。
【0012】
前記制御情報記憶手段は、不揮発性メモリやハードディスクなど、情報を記憶できる適宜の手段により構成することができる。
前記出力制御手段は、前記レーザ照射手段のレーザ出力を制御する適宜の制御手段で構成することができる。
この発明により、安全性の高いレーザ治療装置を提供することができる。
【0013】
この発明の態様として、前記レーザ光線を伝送するレーザ光線伝送手段を備え、前記診断用情報取得手段は、前記施術対象部位から前記レーザ光線伝送手段により伝送させてきた診断用受取媒体に基づいて診断用情報を取得する構成とすることができる。
【0014】
前記レーザ光線伝送手段は、内部中空の筒状体の内面に誘電体薄膜を設けた中空導波路など、レーザ光線を伝送できる適宜の手段により構成することができる。
前記診断用受取媒体は、近赤外光、赤外光、または可視光など、診断に用いることができる適宜の媒体で構成することができる。
この態様により、治療に用いるレーザ光線と同軸で診断用媒体を取得できるため、治療部位と診断部位を精度よく一致させることができる。
【0015】
またこの発明の態様として、前記施術対象部位へ向けてガイド光よりなる診断用投射媒体を前記レーザ光線伝送手段に伝送させる診断用投射手段を備え、前記診断用受取媒体は、前記診断用投射媒体が前記施術対象部位へ投射されたことにより生じる媒体とすることができる。
【0016】
前記診断用投射手段は、近赤外光を照射する近赤外光照射手段、赤外光を照射する赤外光照射手段、または可視光を照射する可視光照射手など、適宜のガイド光よりなる診断用投射媒体を投射する手段で構成することができる。
【0017】
前記診断用投射媒体は、近赤外光、赤外光、または可視光など、適宜の媒体で構成することができる。
前記診断用投射媒体が前記施術対象部位へ投射されたことにより生じる診断用受取媒体は、近赤外光や赤外光や可視光といった光が反射することによる反射光など、適宜の媒体とすることができる。
【0018】
この態様により、レーザ光線を照射する部位と同一の部位に前記診断用投射媒体を投射することができる。
【0019】
またこの発明の態様として、前記診断用情報取得手段は、前記診断用情報として前記施術対象部位の深さ方向の組織プロファイル情報を光干渉断層検出により取得する光干渉断層取得手段、前記診断用情報として前記施術対象部位の組織表面の光の吸収度を反射光計測により取得する反射光計測手段、または、前記診断用情報として前記施術対象部位の組織表面の光の吸収度を分光分析によって取得する分光分析手段で構成することができる。
【0020】
これにより、診断用情報を具体的に取得し、この診断用情報に基づいてレーザ光線の出力制御にフィードバックさせることができる。
【0021】
またこの発明の態様として、前記診断用情報取得手段を、前記診断用情報として前記施術対象部位の深さ方向の組織プロファイル情報を光干渉断層検出により取得する光干渉断層取得手段で構成することができる。
【0022】
前記深さ方向の組織プロファイルは、深さ方向の反射率のプロファイルとするなど、適宜の構成にすることができる。また、このプロファイルは、例えば2〜3mm程度の深さの範囲で取得することができる。
この態様により、粘膜や粘膜下層や筋層の存在を的確に確認できる。
【0023】
またこの発明の態様として、前記レーザ光線伝送手段は、内部中空の筒状体の内面に誘電体薄膜を設けた中空導波路で構成することができる。
【0024】
これにより、内視鏡のチューブ内に中空導波路を挿入して施術対象部位までレーザ光線を伝送するといった長距離の伝送を行っても、治療に必要なレーザ出力を確保することができる。
また、治療用のレーザ光線の伝送と、診断用の媒体の伝送と受け取りといった複数の伝送を1軸で行うことができる。このため、限られた空間である内視鏡の鉗子口に挿入して診断とこの診断結果をフィードバックしたレーザ光線による施術という多機能を実現することができる。
【0025】
またこの発明の態様として、診断用投射手段は、気体を噴射する気体噴射手段を更に備え、前記診断用情報取得手段は、前記気体噴射による前記施術対象部位の変化を検出し得るよう構成されることができる。例えば、気体が噴射されることによる施術対象部位の変形によって変化する近赤外光や赤外光や可視光といった光を、診断用受取媒体としてもよいし、接触センサによって施術対象部位の変形を検出し、検出結果を光信号としてレーザ光線伝送手段で伝送してもよい。
【0026】
これにより、組織が硬くなっていないかといったことを気体噴射の様子から容易に確認でき、また、その結果をレーザ出力にフィードバックすることができる。
【0027】
またこの発明は、施術対象部位の診断用情報を診断用情報取得手段により取得し、診断用情報から判別される施術対象部位の状態別に前記レーザ光線の適切な出力制御情報を記憶した制御情報記憶手段から前記診断用情報取得手段で取得した診断用情報に対応する適切な出力制御情報を取得し、該取得した出力制御情報に基づいてレーザ照射手段のレーザ光線の出力を制御するレーザ出力制御方法とすることができる。
【発明の効果】
【0028】
この発明により、安全性の高いレーザ治療装置およびレーザ出力制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】内視鏡装置とレーザ治療装置による治療システムの概略構成図。
【図2】内視鏡装置とレーザ治療装置の構成を示すブロック図。
【図3】制御データのデータ構成図。
【図4】光干渉断層情報に基づくレーザ光線の出力制御の説明図。
【図5】粘膜下層切開剥離術の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
この発明の一実施形態を以下図面と共に説明する。
【実施例】
【0031】
図1は、内視鏡装置10とレーザ治療装置50とで構成される治療システム1の概略構成を示す構成図であり、図2は、内視鏡装置10とレーザ治療装置50の構成を示すブロック図であり、図3は、制御データ70のデータ構成図である。
【0032】
内視鏡装置10は、図1に示すように装置本体に対して接続ケーブル11により術者操作ユニット12が接続されている。
【0033】
術者操作ユニット12は、主に操作部13と内視鏡チューブ21とで構成されている。
操作部13は、接眼部15、上下アングルノブ16、左右アングルノブ17、操作ボタン18、および鉗子挿入口20等が設けられている。
操作ボタン18は、送気、送水、吸引、ズームなどの操作入力を受け付ける。
【0034】
内視鏡チューブ21は、基部から先端へ向かって可撓管部22、湾曲管部23、および先端構成部30がこの順に設けられている。なお、図1では可撓管部22の途中から湾曲管部23の先端にかけて拡径しているように図示しているが、これは先端構成部30の構成を分かり易く描画するためであって、実際には、食道、胃、腸といった生体内に挿通させるのに適した、一定の径を保った形状となっている。
【0035】
可撓管部22は、適度に湾曲する円筒形状を有しており、鉗子挿入口20から挿入された適宜の鉗子を先端構成部30まで挿通できる。この実施例では、鉗子に代わって使用される治療用デバイスとしてレーザ治療装置50の中空導波路60が挿通されている。
【0036】
湾曲管部23は、上下アングルノブ16の操作によって上下方向に湾曲操作され、左右アングルノブ17によって左右方向に湾曲操作される。詳述すると、湾曲管部23は、内視鏡チューブ21内を挿通されているワイヤ(図示省略)によって上下アングルノブ16および左右アングルノブ17に接続されている。このため、上下アングルノブ16や左右アングルノブ17の回転操作がワイヤによって湾曲管部23に伝達され、湾曲管部23が上下左右に湾曲する。これにより、任意の方向へ任意の角度に湾曲管部23を湾曲させることができ、先端構成部30を施術対象部位Eに向かって適切な方向へ向けることができる。
【0037】
先端構成部30は、ライトガイド31,35、副送水口32、レンズ33、ノズル34、及び鉗子出口36が設けられている。
ライトガイド31,35は、撮像のための照明となる光を照射する照明部位である。これにより、光の届かない体内を照らして観察および施術できるようにする。
【0038】
副送水口32は、染色液等の液体を放出する送水口である。
レンズ33は、ライトガイド31,35等の照明による光を集光し、撮像画像を取得するためのレンズである。この集光した情報を適宜加工することで撮像画像を得ることができ、術者が状態を確認できる。光を電気信号に変換する撮像素子は、先端構成部30の近傍に設けて、内視鏡装置10へ導電線で接続してもよいし、内視鏡装置10内に設けて、照明用とは別途設けるライトガイドによってレンズで集光した光を伝送してもよい。
【0039】
ノズル34は、レンズ33を洗浄するための洗浄液等をレンズ33へ向かって放出する部位である。
鉗子出口36は、レーザ治療装置50の中空導波路60等の治療用デバイスの出口である。
【0040】
中空導波路60は、ガラス、金属、あるいは樹脂といった素材により、内部が中空の円筒形状に形成されている。そして、この円筒形状に形成された筒状体60a(図2参照)の内面に、誘電体薄膜60b(図2参照)を設けて光を反射し導光するようにしている。誘電体薄膜60bは、例えばCOP(環状オレフィンポリマー)やポリイミド等で構成することができる。これにより、レーザ光線57aの減衰量を小さくして内視鏡チューブ21の内部で効率よくレーザ光線57aを伝送し、先端から施術に有効な出力を有するレーザ光線57aを放出できる。
【0041】
図2に示すように、レーザ治療装置50は、操作部・表示部51、電源部52、信号処理部53、中央制御部54、検出部55、ガイド光発光部56、レーザ発振部57、および気体噴射部58を備えている。
【0042】
操作部・表示部51は、レーザの出力設定や動作モードの変更などの操作入力を受け付けて入力信号を中央制御部54に伝達し、中央制御部54からレーザの出力条件や装置の動作状況などの表示信号を受け取って適宜の情報の表示を行う。
電源部52は、中央制御部54など各部に動作電力を供給する。
【0043】
信号処理部53は、検出部55で検出した信号を処理して中央制御部54に伝達する。この実施例では、信号処理部53と検出部55とでOCT(Optical Coherence Tomography)装置が構成される。検出部55は、ガイド光発光部56から照射される低コヒーレンス性のガイド光56aが、施術対象部位Eで反射されて得られた反射ガイド光55a(信号光)と、ガイド光発光部56から伝送される参照光とを受光して、干渉光を得る。このとき受光する光は、いずれも800nm〜1μm付近の近赤外光である。検出部55は、反射ガイド光55a(信号光)と参照光との干渉により発生するビート信号の光強度を検出する。信号処理部53は、検出部55から受け取った光強度から施術対象部位Eの所定の面で反射された信号光の強度を求めるヘテロダイン検出を行い、光干渉断層情報を取得する。これを、検出する施術対象部位Eを変えながら実行することで、各施術対象部位Eの光干渉断層情報を得ることができる。これにより、表面からある程度の深さの組織プロファイルも含めた光干渉断層情報が得られ、表面の粘膜層だけでなく、粘膜下層や筋層までの組織プロファイルが得られる。この光干渉断層情報は、画像化処理を行う前の情報である。そして、信号処理部53は、この光干渉断層情報を中央制御部54に伝達する。
【0044】
中央制御部54は、各部に対して各種制御動作を実行する。この中央制御部54は、レーザ出力制御部54aと記憶部54bも有している。
レーザ出力制御部54aは、信号処理部53から受け取った光干渉断層情報を分析し、この分析結果を記憶部54bの制御データ70(図3参照)と比較して、レーザ発振部57によるレーザ光線57aの出力値をリアルタイムに制御する。
【0045】
記憶部54bは、図3に示す制御データ70を記憶している。この制御データ70は、分析結果、判定結果、組織推定、出力(切開モード)、および出力(剥離モード)で構成されている。このうち分析結果は、たとえば光干渉断層情報の数値の範囲が予め定めたどの範囲に存在するかによって定めるなど、画像を用いない適宜の方法で求めることができる。
この制御データ70を用いて、レーザ出力制御部54aは、検出部55で受光し信号処理部53で処理した光干渉断層情報を分析し、その分析結果が制御データ70のいずれに該当するか判定し、該当する判定結果に対応した出力になるようレーザ発振部57の出力を制御する。このときの出力は、レーザ発振部57からのレーザ光線57aの出力が切開モードで実行されているか、剥離モードで実行されているかによって、採用する出力として制御データ70の切開モード出力と剥離モード出力の一方を選択する。
【0046】
図2に示す検出部55は、上述したように反射ガイド光55a(信号光)と参照光を受光して干渉光から発生するビート信号の光強度を検出する。
ガイド光発光部56は、波長が800nm〜1μm付近の低コヒーレンス性の近赤外光を発光する。
なお、このガイド光発光部56が発光する検出用の近赤外光(レーザ光線)は、施術用のレーザ光線57aが照射される位置を示すためのものであるため、可視光であることが望ましい。但し、不可視である近赤外光であっても、撮像素子によって検出し画像化することが可能であるため、後述する内視鏡装置10の撮像部45によって画像信号へ変換され、画像表示部48に表示され、施術用のレーザ光線57aが照射される位置を確認できる、というガイド光本来の役割も失うことはない。
【0047】
レーザ発振部57は、施術に用いるレーザ光線57aの発振を実行する。この実施例では、レーザ光線57aとして、炭酸ガスレーザを用いる。炭酸ガスレーザの照射強度や照射の開始停止といった操作は、操作部・表示部51による手動操作と、中央制御部54による制御出力によって行われる。
【0048】
詳述すると、操作部・表示部51による手動操作では、切開モードと剥離モードの選択と、レーザ光線57aのON/OFFの切り替えを操作できる。レーザ発振部57からのレーザ光線57aの出力強度は、信号処理部53で取得した光干渉断層情報と制御データ70に基づいてレーザ出力制御部54aが自動的に決定する。これにより、レーザ光線57aの出力強度が自動的に適切な強度に切り替わり、安全性を確保できる。また、術者は、切開するのか剥離するのかを選択しておけば、後はレーザ光線57aのON/OFF操作と操作部13による内視鏡チューブ21の湾曲管部23の操作に集中できる。このため、施術途中でレーザ光線57aの強度を切り替えるといった複雑な操作を減らすことができ、利便性および操作容易性が向上する。以上の手動操作の一部又は全部を、フートコントローラを用いた足踏み操作に換えることもできる。
【0049】
なお、これに限らず、中央制御部54がレーザ光線57aの最大出力を制御する構成とし、それ以下のレーザ出力であれば術者が任意に決定できる構成としてもよい。この場合、操作部・表示部51の操作によって、切開モードと剥離モードの選択、および出力強度の選択(強、中、弱)が行われ、ON/OFF操作に従って前記モードおよび出力強度の選択によって定まる出力のレーザ光線57aをレーザ発振部57が照射する。そして、中央制御部54による状況監視処理により、信号処理部53から取得する光干渉断層情報に基づいて組織が推定された場合や異常が判定された場合、中央制御部54によってレーザ発振部57の最大出力が制限される。このように中央制御部54により最大出力が制限されている場合、レーザ発振部57は、操作部・表示部51によってそれ以上の出力が選択されても制限された最大出力までしか出力を行わない。このように構成した場合でも、レーザ光線57aが必要以上に強くなることを防止でき、安全性を確保することができる。
【0050】
気体噴射部58は、エアなどの気体58aを噴射する。この気体58aの噴射は、施術対象部位Eの変形度合いを確認し、これによって組織が変質しているか否か、どの程度の深さまで変質しているか等を確認するために用いられる。
なお、気体噴射部58が噴射する気体58aの圧力は、適宜の圧力取得手段によって把握されることが好ましい。この場合、噴射した圧力と、施術対象部位Eの変形度合いによって適切なレーザ出力を定めておき、この分析結果をレーザ光線57aの出力制御にフィードバックする構成にしてもよい。
【0051】
上述したガイド光発光部56が照射するガイド光56a、レーザ発振部57が発振するレーザ光線57a、および気体噴射部58が噴射する気体58a、および検出部55が検出する反射ガイド光55aは、全て1つの中空導波路60によって伝送される。従って、これらは全て同軸で伝送され、施術対象に対して作用を及ぼす部位および検知する部位が施術対象部位Eとして一致する。
【0052】
内視鏡装置10は、操作部41、電源部42、中央制御部43、照明部44、撮像部45、水噴射部46、および画像表示部48が設けられている。
操作部41は、操作部13(図1参照)による操作入力を中央制御部43に伝達する。すなわち、上下アングルノブ16や左右アングルノブ17の操作による湾曲管部23の湾曲動作、操作ボタン18による押下操作などを伝達する。あるいは、操作ユニット12のものとは別個に、例えば内視鏡装置の制御器本体(不図示)に操作部を設け、照明の光量、静止画の撮影記憶等の操作を中央制御部43に伝達する。
【0053】
電源部42は、中央制御部43など各部に動作電力を供給する。
中央制御部43は、各部に対して各種制御動作を実行する。
照明部44は、ライトガイド31,35(図1参照)からの照明を実行する。
【0054】
撮像部45は、レンズ33(図1参照)から伝送される画像を撮像し、施術に必要な撮像画像を得る。この撮像画像を連続してリアルタイムに取得することで、術者が円滑に施術を行えるようにしている。撮像部45が、先端構成部30の近傍に設けてあってもよいし、内視鏡装置10の制御器本体(不図示)内に設けてあってもよいのは、前述のとおりである。
水噴射部46は、副送水口32からの液体の噴射を実行する。また、ノズル34からの液体の噴射も実行する。
【0055】
画像表示部48は、中央制御部43から伝達される信号に従って画像を表示する。この画像には、撮像部45で取得した撮像画像も含まれる。したがって、術者は、この画像表示部48にリアルタイムに表示される撮像画像を確認しながら施術を行うことができる。また、術前の画像を静止画として記憶しておき、施術の後で術前の画像を呼び出し表示し、施術の前後の画像を比較することもできる。
【0056】
図4は、光干渉断層情報に基づいてレーザ光線57aの出力制御を実行する例の説明図である。図示の例は、切開モードでの制御を示している。
図4(A)に示すように、先端構成部30を移動させて中空導波路60の先端を患者の様々な施術対象部位Eに対向させると、ガイド光発光部56からその対向部位に近赤外光であるガイド光56aが照射され、このガイド光56aの反射光である反射ガイド光55aを検出部55で受光し信号処理部53で信号処理して光干渉断層情報が得られる。この光干渉断層情報を分析することで、施術対象部位Eとしての粘膜層L1に対向している分析結果c、施術対象部位Eとしての腫瘍周辺C2に対向している分析結果b、施術対象部位Eとしての腫瘍C1に対向している分析結果aなどが得られる。この分析結果を得るための判定は、各分析結果a〜eについてそれぞれ閾値の範囲を定めておき、光干渉断層情報がどの閾値の範囲に入っているかによって決定する。この分析結果に基づき、制御データ70に記憶されている出力にレーザ発振部57の出力が切り替えられる。
【0057】
図4(B)は、レーザ光線57aによる切開中の様子を示している。粘膜層L1をレーザ光線57aで切開していくと、図示するように施術対象部位Eが粘膜下層L2に到達する。このとき、取得している光干渉断層情報が変化して粘膜下層L2に到達したとの分析結果dが得られ、瞬時にレーザ光線57aの出力強度が「弱」に切り替えられる。
【0058】
図4(C)は、レーザ光線57aによりさらに切開している様子を示している。粘膜下層L2も切開すると、図示するように施術対象部位Eが筋層L3に到達する。このとき、取得している光干渉断層情報が変化して筋層L3に到達したとの分析結果eが得られ、瞬時にレーザ光線57aの出力をOFFにする。これにより、筋層L3を切開して穿孔や意図しない出血等が生じることを防止できる。
以上の制御方法は、閾値を用いた分析結果に基づくものであるが、これに代えて、あるいはこれと並行して、光干渉断層情報によって深さ方向のプロファイルを把握することができることを利用して、施術対象部位Eの組織が変化したかどうかを判断基準として出力の制御を行ってもよい。すなわち、レーザ光線57aの照射開始時は施術対象部位Eに対して出力強度を「強」としておき、一度目に組織の変化を検出したときは粘膜下層L2が露出したと推定して出力強度を「弱」にし、二度目に組織の変化を検出したときは筋層L3が露出したと推定して出力をOFFにする、といった制御も行うことができる。
【0059】
次に、図5の説明図と共に、上述したレーザ治療装置50および内視鏡装置10を用いて、腫瘍周囲を切り出す粘膜下層切開剥離術(ESD)について説明する。
【0060】
まず、内視鏡チューブ21を口腔等から挿入して患部まで到達させた後、図5(A)に示すように、切開する範囲の目印として、腫瘍C1の周辺にマーキングMを行う。
【0061】
次に、図5(B)に示すように、生理食塩水やヒアルロン酸(例えばムコアップ(登録商標))など、人体に影響を与えない液体WをマーキングM周辺の粘膜下層L2の下方に注入する。これにより、切開する部分を隆起させ、切開しやすいようにしている。
【0062】
また、本願のようにレーザ光線57aを用いる場合、切開対象部位の下層(粘膜下層L2の下部)に液体Wを存在させることによっても、液体Wより下層をレーザ光線57aで誤って切開することを防止させることができる。詳述すると、図5(C)に示すように、レーザ光線57aが粘膜層L1を切開して粘膜下層L2に達し、液体Wに照射されると、この液体Wによってレーザ光線57aが吸収され、エネルギーが消費される。このため液体Wが防壁として機能し、仮に粘膜下層L2の切開が完了してレーザ光線57aがさらに筋層L3へ向かって照射されても、筋層L3の手前に存在している液体Wにより筋層L3を傷つけることを防止できる。そして、上述したレーザ出力制御部54aによるレーザ光線57aの出力制御によって、仮に液体Wが蒸散され尽くしてレーザ光線57aによる切開部位の下方位置に液体Wが存在していなかったような場合でも、筋層L3を傷つけることを防止できる。
【0063】
次に、図5(D)に示すように、切開部分をマーキングMに沿って広げていき、腫瘍C1の全周を切開する。このとき、レーザ発振部57によるレーザ光線57aの出力がレーザ出力制御部54aによって制御され、粘膜層L1の切開中と粘膜下層L2の切開中にそれぞれ適切な出力制御がなされる。そして、この全周の切開の後、さらに液体Wを注入して腫瘍C1全体を大きく隆起させる。
【0064】
最後に、図5(E)に示すように、腫瘍C1の周辺を完全に切り離したのち、切開モードから剥離モードに移行し、腫瘍C1を含めた粘膜層L1を筋層L3から剥離するように、内視鏡チューブ21及び中空導波路60の先端を、粘膜層L1の下に潜らせた状態で、粘膜下層L2に向けてレーザ光線57aを照射する。こうして剥離した粘膜層L1を腫瘍C1とともに回収して、施術を完了する。
【0065】
以上の構成および動作により、安全性の高いレーザ治療装置50や、安全性の高いレーザ出力制御方法を提供することができる。特に、筋層L3へのレーザ光線57aの照射を防止できるため、穿孔や意図しない出血を防止できる。
【0066】
また、分析結果をレーザ光線57aの出力制御にフィードバックできるため、術者が熟練していなくとも穿孔や意図しない出血を防止でき、使い勝手を向上させることができる。
【0067】
また、組織プロファイルからなる光干渉断層情報は、画像化される前の情報であり、この画像化前の情報によって分析とレーザ光線57aの出力制御を決定するため、少ないメモリ量で高速に演算処理して即座にレーザ出力を切り替えることができる。従って、レーザ出力へのフィードバックに遅延が生じることを防止でき、施術中にリアルタイムに適切な出力制御を実行できる。
【0068】
また、レーザ光線57aを照射する部位と同一の部位に、診断用投射媒体としての近赤外光であるガイド光56aを照射することができる。
また、光干渉断層情報により、粘膜や粘膜下層や筋層の存在を的確に確認できる。
【0069】
また、中空導波路60によって、レーザ光線57aによる施術対象部位Eと同一の部位にガイド光56aが照射されて反射した反射ガイド光55aを精度良く受光できる。これにより、レーザ光線57aの出力制御を正確な情報に基づいて実行することができる。
また、内視鏡装置10の内視鏡チューブ21に中空導波路60を挿入して利用できるため、低侵襲な外科治療にて実施することができる。
【0070】
なお、以上の構成では、ガイド光発光部56と検出部55と信号処理部53を光干渉断層情報を得るための光干渉断層情報取得装置により構成したが、反射光計測装置やIR(分光分析)装置など、他の装置で構成することもできる。
【0071】
反射光計測装置で構成する場合、ガイド光発光部56は、近赤外光などの血管を判別可能な光を照射する赤外発光ダイオードや赤外レーザー発振器等により構成するとよい。そして、検出部55は、ガイド光発光部56の照射した光が施術対象部位Eで反射した反射光である近赤外光を電気信号に変換する近赤外受光素子、例えば赤外フォトダイオードや赤外フォトディテクタ等で構成するとよい。信号処理部53は、検出部55から受け取る電気信号を反射強度信号として処理し、中央制御部54に伝達すればよい。制御データ70には、波長が740〜950nm付近の光を血液がよく吸収する性質を利用して、分析結果a〜eを前記反射強度信号の強さの段階別に設定し、各段階によってレーザ出力の強度を異ならせる構成にするとよい。そして、レーザ出力制御部54aは、信号処理部53から受け取る反射強度信号と制御データ70に基づいてレーザ発振部57の出力制御を行えばよい。これにより、血管の存在を判別してレーザ出力を制御できるため、血管に穿孔することを防止するといった制御が可能となる。
【0072】
また、IR装置で構成する場合、ガイド光発光部56は、近赤外光を照射するハロゲンランプ等により構成するとよい。この場合、1200nm以上2200nm以下であって1450nm近傍又は1900nm近傍の波長を含む近赤外領域の光を照射することが好ましい。そして、検出部55は、ガイド光発光部56の照射した光が施術対象部位Eで反射した反射光からなる近赤外光を受光する構成とするとよい。この検出部55は、1450nm±100nmの波長帯域を透過する特性を有するバンドパスフィルターを備えることが好ましい。これにより、脂肪による光の吸収度合いより血管による光の吸収度合いが2倍以上となる1450nm付近の光を中心に取得でき、血管の有無の分析を精度よく実行できる。信号処理部53は、反射光を検出した信号を検出部55から取得し、この信号を中央制御部54に伝達する。制御データ70には、波長が1450nm付近の光を血液がよく吸収する性質を利用して、分析結果a〜eを前記信号の強さの段階別に設定し、各段階によってレーザ出力の強度を異ならせる構成にするとよい。そして、レーザ出力制御部54aは、信号処理部53から受け取る信号と制御データ70に基づいてレーザ発振部57の出力制御を行えばよい。これにより、血管の存在を判別してレーザ出力を制御できるため、血管に穿孔することを防止するといった制御が可能となる。
【0073】
また、レーザ光線57aの出力制御は、出力強度の制御としたが、これに限らず連続光とパルス光とを切り替える、パルス光の周波数を切り替えるなど、適宜の出力制御とすることができる。また、レーザ光線57aそのものをパルス光とすることもできる。この場合、長時間レーザ光線57aが連続照射されて組織の炭化が生じるといったことを防止できる。
【0074】
また、検出部55と信号処理部53は、気体噴射部58から気体を噴射した際の組織の弾力性を分析してレーザ光線57aの出力制御を異ならせる風圧変化分析装置として構成してもよい。
【0075】
この場合、検出部55は、可視光の反射光を検出して変化を検出する構成とし、信号処理部53は、その変化を分析し、制御データ70に基づいてレーザ光線57aの出力制御を異ならせる構成にしてもよい。あるいは、接触センサによって施術対象部位Eの変形を検出し、検出結果を光信号として中空導波路60で伝送してもよい。
【0076】
また、液体Wの注入を行わずに施術してもよい。この場合も、筋層L3にレーザ光線57aが到達するとOFFとなり、それ以上照射しないため、筋層L3を傷つけずに施術することができる。
【0077】
この発明の構成と、上述の実施形態との対応において、
この発明の出力制御手段は、実施形態のレーザ出力制御部54aに対応し、
以下同様に、
制御情報記憶手段は、記憶部54bに対応し、
診断用情報取得手段および光干渉断層取得手段、反射光計測手段、および分光分析手段は、検出部55および信号処理部53に対応し、
診断用受取媒体は、反射ガイド光55aに対応し、
診断用投射手段は、ガイド光発光部56に対応し、
診断用投射媒体は、ガイド光56aに対応し、
レーザ照射手段は、レーザ発振部57に対応し、
気体噴射手段は、気体噴射部58に対応し、
レーザ光線伝送手段は、中空導波路60に対応し、
出力制御情報は、制御データ70に対応し、
診断用情報は、光干渉断層情報に対応するが、
この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施の形態を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
この発明は、レーザを用いて生体を治療するような様々な装置に用いることができる。特に、内視鏡のように限られた空間内において、中空導波路でレーザ光線を伝送して治療するような装置に利用できる。
【符号の説明】
【0079】
50…レーザ治療装置、53…信号処理部、54a…レーザ出力制御部、54b…記憶部、55…検出部、55a…反射ガイド光、56…ガイド光発光部、56a…ガイド光、57…レーザ発振部、57a…レーザ光線、58…気体噴射部、60…中空導波路、60a…筒状体、60b…誘電体薄膜、70…制御データ、E…施術対象部位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
施術対象部位の診断用情報を取得する診断用情報取得手段と、
前記施術対象部位にレーザ光線を照射するレーザ照射手段と、
前記診断用情報から判別される施術対象部位の状態別に前記レーザ光線の出力制御情報を記憶する制御情報記憶手段と、
該診断用情報取得手段により取得した診断用情報と前記出力制御情報とに基づいて前記レーザ照射手段の出力制御を実行する出力制御手段とを備えた
レーザ治療装置。
【請求項2】
前記レーザ光線を伝送するレーザ光線伝送手段を備え、
前記診断用情報取得手段は、前記施術対象部位から前記レーザ光線伝送手段により伝送させてきた診断用受取媒体に基づいて診断用情報を取得する構成である
請求項1記載のレーザ治療装置。
【請求項3】
前記施術対象部位へ向けてガイド光よりなる診断用投射媒体を前記レーザ光線伝送手段に伝送させる診断用投射手段を備え、
前記診断用受取媒体は、前記診断用投射媒体が前記施術対象部位へ投射されたことにより生じる媒体で構成された
請求項2記載のレーザ治療装置。
【請求項4】
前記診断用情報取得手段は、
前記診断用情報として前記施術対象部位の深さ方向の組織プロファイル情報を光干渉断層検出により取得する光干渉断層取得手段、
前記診断用情報として前記施術対象部位の組織表面の光の吸収度を反射光計測により取得する反射光計測手段、
または、前記診断用情報として前記施術対象部位の組織表面の光の吸収度を分光分析によって取得する分光分析手段である
請求項1、2または3記載のレーザ治療装置。
【請求項5】
前記診断用情報取得手段は、
前記診断用情報として前記施術対象部位の深さ方向の組織プロファイル情報を光干渉断層検出により取得する光干渉断層取得手段である
請求項4記載のレーザ治療装置。
【請求項6】
前記レーザ光線伝送手段は、内部中空の筒状体の内面に誘電体薄膜を設けた中空導波路で構成された
請求項2または3のレーザ治療装置。
【請求項7】
診断用投射手段は、気体を噴射する気体噴射手段を更に備え、
前記診断用情報取得手段は、前記気体噴射による前記施術対象部位の変化を検出し得るよう構成された
請求項6記載のレーザ治療装置。
【請求項8】
施術対象部位の診断用情報を診断用情報取得手段により取得し、
診断用情報から判別される施術対象部位の状態別に前記レーザ光線の出力制御情報を記憶した制御情報記憶手段から前記診断用情報取得手段で取得した診断用情報に対応する出力制御情報を取得し、
該取得した出力制御情報に基づいてレーザ照射手段のレーザ光線の出力を制御する
レーザ出力制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−40105(P2012−40105A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−182578(P2010−182578)
【出願日】平成22年8月17日(2010.8.17)
【出願人】(000138185)株式会社モリタ製作所 (173)
【Fターム(参考)】