説明

レーザ溶接装置及びレーザ溶接方法

【課題】溶接部の溶け込み深さを直接測定することで、溶接部の品質の評価を高精度に行うレーザ溶接装置及びレーザ溶接方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、レーザ光で溶接部を溶接するレーザ溶接装置であって、前記レーザ光を照射するレーザ出力手段と、前記レーザ光と波長の異なる光である物体光を前記溶接部に照射すると共に前記溶接部で反射した前記物体光から前記溶接部の溶け込み深さを測定する光干渉計と、前記レーザ出力手段からの前記レーザ光と前記光干渉計からの前記物体光とを同軸にして前記溶接部に照射する光学部材と、測定した前記溶接部の溶け込み深さに基づいて前記溶接部の良否を評価する評価手段と、を備え、前記溶接部における前記物体光のスポット径が前記レーザ光のスポット径よりも大きいことを特徴とするレーザ溶接装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光を用いて溶接する際に溶接部の品質を評価するレーザ溶接装置及びレーザ溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のレーザ溶接装置として、溶接部の溶融金属が発する光を用いて、溶接部の品質を評価する装置がある(特許文献1参照)。
【0003】
具体的には、図9に示すように、レーザ発振器11から一定強度で連続的に出力されたレーザ光が、レーザ光伝送用光学系12を介して集光光学系13に伝送され、集光光学系13で溶接部2に集光される。集光光学系13で集光されたレーザ光は、被溶接材1の溶接に供される。被溶接材1の溶接の際に溶接部2の溶融金属は光を発する。溶融金属の発した光は集光光学系13で集光され、モニタ光伝送用光学系14を介して干渉フィルタ15に伝送される。干渉フィルタ15に伝送された光のうち溶融金属の発した光の波長成分が干渉フィルタ15で選択される。干渉フィルタ15で選択された波長成分の光はフォトダイオード16で受光される。フォトダイオード16は受光した光の発光強度に応じた信号を出力する。フォトダイオード16から出力された信号は、アンプ17、A/D変換器18を介してコンピュータ19に入力される。コンピュータ19には溶融金属の発光強度と溶け込み深さとの相関関係が予め記憶され、入力された信号をこの相関関係に当てはめることでコンピュータ19は溶接部2の溶け込み深さを導出する。導出した溶接部2の溶け込み深さに基づいて、コンピュータ19は溶接部2の品質を評価する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−207587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のレーザ溶接装置では、溶け込み深さを直接検出せずに、溶融金属の発光強度と溶け込み深さとの相関関係を用いることで、溶接部2の溶融金属の発光強度から間接的に溶接部2の溶け込み深さを測定している。しかしながら、この相関関係は、被溶接材1の材質のばらつきや周囲の温度などの要因によって、常に一定の関係をとるとは限らない。このため、溶接部2の溶融金属の発光強度から間接的に導出した溶接部2の溶け込み深さは、必ずしも実際の溶け込み深さと一致するとは限らない。ゆえに、実際の溶け込み深さと異なる値に基づいて溶接部2の品質を評価する場合が生じ、溶接部2の品質の評価を高精度に行うことができないといった課題を従来のレーザ溶接装置は有している。
【0006】
そこで、本発明は、上記課題を解決し、溶接部の溶け込み深さを直接計測ることで溶接部の品質の評価を高精度に行うレーザ溶接装置及びレーザ溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明のレーザ溶接装置は、レーザ光で溶接部を溶接するレーザ溶接装置であって、前記レーザ光を照射するレーザ出力手段と、前記レーザ光と波長の異なる光である物体光を前記溶接部に照射すると共に前記溶接部で反射した前記物体光から前記溶接部の溶け込み深さを測定する光干渉計と、前記レーザ出力手段からの前記レーザ光と前記光干渉計からの前記物体光とを同軸にして前記溶接部に照射する光学部材と、測定した前記溶接部の溶け込み深さに基づいて前記溶接部の良否を評価する評価手段と、を備え、前記溶接部における前記物体光のスポット径が前記レーザ光のスポット径よりも大きいことを特徴とする。
【0008】
また、本発明のレーザ溶接方法は、レーザ光で溶接部を溶接するレーザ溶接方法であって、前記レーザ光と波長の異なる光である物体光を前記レーザ光と同軸にすると共に、前記物体光のスポット径が前記レーザ光のスポット径よりも大きくなるように前記物体光を前記溶接部へ照射して前記溶接部の溶け込み深さを測定し、測定した前記溶け込み深さに基づいて前記溶接部の良否を評価することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
以上のように、本発明によれば、溶接部の溶け込み深さを直接検出することができ、溶接部の品質の評価を高精度に行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施の形態1におけるレーザ溶接装置の模式図
【図2】実施の形態1における波長走査光源の波長の時間変化のグラフを示す図
【図3】実施の形態1におけるキーホールと物体光のスポットとレーザ光のスポットとの関係を示す模式図
【図4】実施の形態1における物体光でキーホールの深さを測定する原理の説明図
【図5】実施の形態1における物体光と参照光との光路長差と干渉光の強度との関係のグラフを表す図
【図6】実施の形態1におけるレーザ溶接装置の動作を示すフローチャート
【図7】実施の形態2におけるキーホールと物体光のスポットとレーザ光のスポットとの関係を示す模式図
【図8】実施の形態3におけるレーザ溶接装置の模式図
【図9】従来のレーザ溶接装置の模式図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0012】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1におけるレーザ溶接装置100の概要を示す図である。
【0013】
まず、レーザ溶接装置100の概要について説明する。
【0014】
図1に示すように、レーザ溶接装置100では、水平方向(図1のx方向)に延在する被溶接材101の溶接部102を溶接するにあたり、垂直方向(z方向)から被溶接材101の上面にレーザ発振器107からレーザ光が照射される。レーザ光の照射された溶接部102は、その上部から溶融し、溶接部102に溶融池103が形成される。溶接部102が溶融する際に、溶融池103から溶融金属が蒸発し、蒸発時に生じる蒸気の圧力によってキーホール104が形成される。ここでは、溶融池103とキーホール104とを合わせて溶接部102として扱う。このとき、第1ビームスプリッタ106(光学部材)により、光干渉計105から出射される物体光が、レーザ発振器107からのレーザ光と同心・同軸上に重ね合わされ、キーホール104の内部に照射される。照射された物体光は、キーホール104の底部104aで反射し、第1ビームスプリッタ106を介して、光干渉計105に入射する。光干渉計105は、物体光の光路長を測定できるため、測定した光路長からキーホール104の深さを、溶接部102の溶け込み深さとして特定する。特定した溶け込み深さに基づいて、レーザ溶接装置100は、溶接部102の良否を判定する。
【0015】
レーザ溶接装置100では、溶接部102における物体光のスポット径が、同じ位置におけるレーザ光のスポット径よりも大きくなるように、設定されている。これにより、理由は後述するが、物体光をキーホール104の底部104aへ的確に照射することができる。ゆえに、底部104aの位置を高精度に検出することが可能となる。底部104aの位置はキーホール104の深さに該当し、キーホール104の深さは、溶接部102の溶け込み深さとみなすことができる。つまり、レーザ溶接装置100は、溶接部102の溶け込み深さを、高い精度で測定することが可能である。
【0016】
以上が、レーザ溶接装置100の概要についての説明である。次に、レーザ溶接装置100の各構成について、それぞれ説明を行う。
【0017】
まず、レーザ溶接装置100におけるレーザ溶接機能を担う構成部分について説明する。
【0018】
レーザ発生手段であるレーザ発振器107から発振されたレーザ光が、レーザ光伝送用光学系108を介して第1集光光学系109で集光される。第1集光光学系109で集光されたレーザ光は、第1ビームスプリッタ106を透過して、溶接部102に集光され、被溶接材101の溶接に供される。ここでは、レーザ発振器107にYAGレーザを用いた。
【0019】
移動ステージ110は、ステージコントローラ111を介して、コンピュータ112の制御部(制御手段)112aからの指令により移動する。被溶接材101は、移動ステージ110に固定されており、レーザ発振器107がレーザ光を発振している間に、移動ステージ110を移動させることで、被溶接材101におけるレーザ光の照射位置を変化させ、所望の範囲についてレーザ溶接を行う。
【0020】
制御部112aは、レーザ発振器107と接続されており、移動ステージ110の移動速度の他に、レーザ光の出力開始・停止、レーザ光の出力強度、などを制御する機能も備えている。
【0021】
以上が、レーザ溶接装置100におけるレーザ溶接機能を担う構成部分についての説明である。次に、レーザ溶接装置100における溶け込み深さ測定機能を担う構成部分について説明する。
【0022】
光干渉計105は、Swept Source Optical Coherence Tomography(SS−OCT:波長走査型光干渉断層法)の技術を用いて、溶接部102の溶け込み深さを測定する手段である。実施の形態1では、レーザ発振器107からのレーザ光と波長の異なるレーザ光を、光干渉計105に備わる波長走査光源113から出射する。以下の説明では、波長走査光源113から出射されるレーザ光を測定光と記載し、レーザ発振器107から発振されるものについてのみレーザ光と記載する。
【0023】
波長走査光源113は、波長幅の短い測定光を連続的に出射し、出射する測定光の中心波長を、図2のように周期的に変化させる。図2では、照射する測定光の波長を縦軸に、時間を横軸に示す。このような測定光の中心波長を周期的に変化させる動作を波長走査と呼ぶ。
【0024】
図1の波長走査光源113から出射した測定光は、光ファイバ系114を透過して、第1ファイバカプラ115に入射する。第1ファイバカプラ115に入射した測定光は、物体光と参照光の2つに分岐される。物体光とは測定対象である溶接部102に照射される測定光のことを意味し、参照光とは基準面である参照ミラー116に照射される測定光を意味する。このとき、物体光は第1光ファイバ系114aに、参照光は第2光ファイバ系114bに入射する。また、第1ファイバカプラ115は、入射した測定光の50%を物体光に、残りの50%を参照光に分岐させる。
【0025】
物体光は、第1光ファイバ系114aを透過して、光干渉計105から出射し、溶接部102に照射される。溶接部102に照射された物体光の一部は、溶接部102で反射する。溶接部102で反射した物体光は、光干渉計105に入射する。光干渉計105に入射した物体光は、第1光ファイバ系114aを透過して、第2ファイバカプラ117に入射する。このとき、第1ファイバカプラ115から出射して、第2ファイバカプラ117に入射するまでに物体光が通過した光路の長さを、物体光の光路長とする。
【0026】
参照光は、第2光ファイバ系114bを透過して、参照ミラー116に照射される。参照ミラー116に照射された参照光は、参照ミラー116で反射した後、第2光ファイバ系114bに入射する。第2光ファイバ系114bに入射した参照光は、第2光ファイバ系114bを透過して、第2ファイバカプラ117に入射する。このとき、第1ファイバカプラ115から出射して、第2ファイバカプラ117に入射するまでに参照光が通過した光路の長さを、参照光の光路長とする。参照光の光路長は、基準値として予め測定しておく。
【0027】
第2ファイバカプラ117は、差動ディテクタ118の第1入力118aに接続される光ファイバ系114aと、第2入力118bに接続される光ファイバ系114bとについて、これらを透過する光に50:50のカップリングをするものである。具体的には、第1光ファイバ系114aから第2ファイバカプラ117に入射した物体光の50%は、そのまま、第1入力118aに入射するが、残りの50%の物体光は、第2ファイバカプラ117の作用により、第2入力118bに入射する。同様に、第2光ファイバ系114bから第2ファイバカプラ117に入射した参照光の50%は、そのまま、第2入力118bに入射するが、残りの50%の参照光は、第2ファイバカプラ117の作用により、第2入力118aに入射する。このとき、参照光と物体光とが1つの光束に結合されることで干渉光となって、第1入力118a、第2入力118b、それぞれに入射する。
【0028】
差動ディテクタ118は、第1入力118aと第2入力118bとからそれぞれ入力された干渉光の差動を取ることで、干渉光に含まれるノイズの影響を除去し、ノイズを除去した干渉光を、その強度に応じて電気信号に変換する。また、差動ディテクタ118は、変換した干渉光の電気信号を、A/D変換器119へ出力する。
【0029】
ここで、レーザ溶接装置100における溶け込み深さ測定機能を担う上記以外の構成部分を説明する前に、差動ディテクタ118を設ける理由について説明する。実施の形態1では、レーザ発振器107からレーザ光が照射されている最中の溶接部102の溶け込み深さを、光干渉計105を用いて測定する。このため、溶接部102の発光(溶融金属が発する光)がノイズとして、光干渉計105による測定の精度に影響を与える。そこで、実施の形態1では、ノイズの影響を低減させるため、差動ディテクタ118を設けるのである。
【0030】
差動ディテクタ118のノイズの影響を低減させる機能について詳細を説明する。
【0031】
第2ファイバカプラ117の作用により、第1光ファイバ系114aから第2入力118bに入射した物体光の位相は、第1入力118aに入射した物体光の位相よりもλ/4遅れる。この現象は、参照光でも同じである。このため、第1入力118aに入射した干渉光の位相に対して、第2入力118bに入射した干渉光の位相は反転の関係となる。つまり、差動ディテクタ118で、第1入力118aと第2入力118bとからの信号の差分をとることで、溶接部102の発光の影響等を除去することができる。以下の(数1)〜(数7)を用いて詳細を説明する。第1光ファイバ系114aを透過して第2ファイバカプラ117に入射する物体光の電界成分Esを(数1)に、第2光ファイバ系114bを透過して第2ファイバカプラ117に入射する参照光の電界成分Erを(数2)に、それぞれ表す。
【0032】
【数1】

【0033】
【数2】

【0034】
ここでの、Es0は物体光の振幅、Er0は参照光の振幅を表す。また、ωは波長走査光源113からの測定光の角振動数、tは時間、φsは物体光の位相、φrは参照光の位相を示す。また、(数1)の右辺における第2項は、溶接部102からの発光(ノイズ)の電解成分を示し、En、ωn、φn、は、溶接部102の発光の、振幅、角振動数、位相をそれぞれ示す。
【0035】
前述の通り、第2ファイバカプラ117の作用によって、物体光と参照光とには、50:50のカップリングが行われる。このとき、第1光ファイバ系114aから第2入力118bに入射した物体光は、その位相がλ/4遅れ、第2光ファイバ系114bから第1入力118aに入射した参照光も、その位相がλ/4遅れる。これらから、第1入力118aに入射する干渉光(物体光と測定光)の電解成分EAは(数3)で、第2入力118bに入射する干渉光の電解成分EBは(数4)で表すことができる。
【0036】
【数3】

【0037】
【数4】

【0038】
溶接部102の発光は干渉しないことを考慮すると、第1入力118a、第2入力118bでそれぞれ検出される干渉光の強度IA、IBは、それぞれ(数5)、(数6)で求めることができる。
【0039】
【数5】

【0040】
【数6】

【0041】
第1入力118aと第2入力118bとの差動をとると、次の(数7)を得られる。
【0042】
【数7】

【0043】
(数7)より、溶接部102の発光に依存する項が除去されたことが理解できる。このことから、第1入力118aと第2入力118bとの差動をとることで、溶接部102の発光の影響を除去できることが明らかとなる。
【0044】
以上が差動ディテクタ118による、ノイズの影響を低減する機能についての説明である。ここから、レーザ溶接装置100における溶け込み深さ測定機能を担う構成部分についての説明に戻る。
【0045】
A/D変換器119には、波長走査の繰り返し周波数と同期したトリガ出力が、波長走査光源113から入力されている。入力されたトリガ出力に基づくことで、A/D変換器119は、波長走査光源113の繰り返しの周期と同期して、差動ディテクタ118から出力される干渉光の電気信号についての集録を行う。このとき、集録された干渉光の電気信号は、コンピュータ112へ出力される。
【0046】
コンピュータ112は、入力された干渉光の電気信号に基づいて、溶接部102の溶け込み深さを測定する測定部(測定手段)112bを有する。干渉光には、物体光と参照光との光路長差に応じた干渉が生じるため、この干渉に基づいて測定部112bは、溶接部102の溶け込み深さを測定する。具体的には、コンピュータ112が、入力された干渉光の電気信号に対して、高速フーリエ変換(FFT)処理を実行し、処理の結果に基づいて、溶接部102の溶け込み深さを測定する。
【0047】
以上が、レーザ溶接装置100における溶け込み深さ測定機能を担う構成部分についての説明である。
【0048】
レーザ溶接装置100では、溶け込み深さ測定機能と、先に説明したレーザ溶接機能を担う構成とを有している。これらの機能を同時に作動させるため、レーザ溶接装置100は、更に、以下に説明する構成を備えている。
【0049】
レーザ発振器107からのレーザ光と、光干渉計105からの物体光とを、同軸の光束に結合する光学部材の一例として第1ビームスプリッタ106が、レーザ溶接装置100に備えられている。第1ビームスプリッタ106で同軸の光束に結合された、レーザ光と物体光とが、溶接部102に照射されることで、レーザ溶接と同時に溶接部102の溶け込み深さの測定を行うことが可能である。このとき、第1ビームスプリッタ106は、ダイクロイックミラーであり、レーザ発振器107からのレーザ光を透過し、光干渉計105からの物体光を反射するように、透過・反射させる波長が設定されている。
【0050】
このとき、第1ビームスプリッタ106で、レーザ光と物体光とを十分に分離するために、レーザ光と物体光との波長差を100nm以上とすることが望ましい。実施の形態1では、波長1064〜1090nmのレーザ光を発振するレーザ発振器107を用い、1270〜1370nmの波長の測定光(物体光)を波長走査する波長走査光源113を用いる。波長走査光源113の波長走査の周期は、0.5msである。
【0051】
更に、光干渉計105と第1ビームスプリッタ106との間に、物体光を集光する第2集光光学系120を設置する。第2集光光学系120は、光干渉計105の第1光ファイバ系114aから出射した物体光を、第1ビームスプリッタ106を介して、溶接部102に集光させる機能を有する。また、第2集光光学系120は、溶接部102から反射した物体光を、第1ビームスプリッタ106を介して、第1光ファイバ系114aに再度、入射させる機能も有している。
【0052】
また、光干渉計105の第1光ファイバ系114aと第2集光光学系120との間に、物体光の波長のみを透過させる干渉フィルタ121を設ける。溶接部102で反射したレーザ光や、溶接部102の発光が、第1光ファイバ系114aに入射するのを防止することを目的として、第1光ファイバ系114aの直前に干渉フィルタ120が設けられている。
【0053】
以上の構成により、レーザ溶接装置100は、溶け込み深さ測定機能と、レーザ溶接機能とを同時に行うことを可能とする。ただし、ここまで説明した構成だけでは、レーザ溶接時に、溶け込み深さを精度良く測定することができない場合がある。溶け込み深さを精度良く測定できない場合として、光干渉計105が、キーホール104の深さを実際の深さよりも浅く測定してしまう場合について説明する。
【0054】
キーホール104は、溶接部102で溶融した金属が蒸発し、蒸発時の蒸気の圧力によって形成される。形成されるキーホール104の形状は、レーザ光の照射時間や溶融池103の状態により、変化する。このため、キーホール104の底部104aの位置と、レーザ光のスポットの中心の位置とが、一致しない場合が生じる。この場合、レーザ光と同軸の光束に結合された物体光は、底部104aに照射されない状態が生じ得る。
【0055】
底部104aに物体光が照射されない状態、例えば、キーホール104の内側面に物体光が照射された状態では、物体光の反射した位置を底部104aの位置として、光干渉計105はキーホール104の深さを測定する。つまり、底部104aに物体光が照射されなければ、光干渉計105は、キーホール104の深さを実際の深さよりも浅く測定してしまう。実際の深さよりも浅く測定したキーホール104の深さからは、精度良く溶接部102の検査を行うことはできない。
【0056】
光干渉計105が、キーホール104を実際の深さよりも浅く測定するのを防止するためには、的確に物体光を底部104aに照射する必要がある。そこで、以下に、的確に物体光を底部104aに照射するための実施の形態1における構成を説明する。
【0057】
実施の形態1では、溶接部102において、レーザ発振器107からのレーザ光のスポット径よりも、光干渉計105からの物体光のスポット径の方が大きくなるように、第1集光光学系109、第2集光光学系120を配置する。この構成により、物体光をキーホール104の略全域に照射することが可能となる。キーホール104の略全域に物体光を照射すれば、略確実に、底部104aに物体光が照射される。このため、レーザ光のスポットの中心と底部104aとが一致しない場合でも、物体光を底部104aに照射することが可能となる。
【0058】
レーザ光のスポット径と物体光のスポット径とをどのように設定すれば、より確実に、物体光をキーホール104の底部104aに照射できるかを、次に説明する。
【0059】
図3に、溶接部102の表面におけるレーザ光のスポット、物体光のスポット、キーホール104、溶融池103の位置関係を示す。この図3は、図1に示した矢印Aの向きから見た状態である。このとき、移動ステージ110による被溶接材101の移動方向が、図3に矢印で示した移動方向である。実施の形態1では、図3に示すように、レーザ光のスポットと、物体光のスポットは、共に円形状である。
【0060】
図3に示すように、レーザ光のスポット径(直径)をrl、物体光のスポット径(直径)をrsとする。このとき、移動ステージ110により被溶接材101が移動することで、レーザ光の照射される位置が変化する。レーザ光の照射される位置が変化することで、形成されるキーホール104の形状も、被溶接材101の移動方向に長軸を有する楕円形状となる。このキーホール104の長軸の長さをrkとする。
【0061】
キーホール104の長軸の長さrkは、レーザ光の強度の増加に伴って長くなり、レーザ光を照射する時間の減少、すなわち、移動ステージ110による移動速度の増加に伴って短くなる傾向がある。このとき、自身のスポット径rlの3倍以上のrkのキーホール104を形成するような強力なレーザ光は、溶接に向かない(穴が開いてしまう)。同様に、rlの3倍以上のrkのキーホール104を形成するような速度で被溶接材101を移動させることも好ましくない。このため、レーザ溶接において、rlの3倍よりも、rkの値は小さくなることが理解できる。よって、レーザ光のスポット径rl(直径)とキーホール104の長軸の長さrkとの関係は、次の(数8)で与えられる。
【0062】
【数8】

【0063】
レーザ光が照射されることでキーホール104が形成されるため、形成されるキーホール104の位置は、レーザ光のスポット位置から大きく離間することは無い。このため、レーザ光と同軸の物体光のスポット径の直径rsを、rlの3倍以上にすれば、物体光のスポットの中にキーホール104を略完全に含ませることが可能となる。物体光のスポット内にキーホール104が略完全に含まれれば、略確実に、底部104aに対して、物体光が照射される。つまり、物体光のスポット径の直径rsを、レーザ光のスポット径rlの3倍以上にすることで、底部104aへ略確実に物体光を照射することができ、高精度に、キーホール104の深さを測定可能となる。一方で、キーホール104以外の場所で反射する物体光は、キーホール104の測定に寄与しないノイズとなる。物体光のスポット径rsが大きくなる程、ノイズの影響が強くなる。発明者らは、rsが、rlの10倍以下の場合では、ノイズの影響が小さく、キーホール104の深さを測定できることを見出した。これらのことから、物体光のスポット径rsをレーザ光のスポット径rlの3倍以上・10倍以下に設定することで、底部104aに対して略確実に物体光を照射することができ、
キーホール104の深さ、すなわち、溶接部102の溶け込み深さを高精度に測定することができる。
【0064】
実施の形態1では、図1のレーザ光伝送用光学系108のレーザ光出射口の直径を100μmとして、第1集光光学系109の結像倍率を1/2倍とする。また、第1光ファイバ系114aの物体光出射口の直径を10μmとし、第2集光光学系120の結像倍率を15倍とする。これらにより、レーザ光のスポット径rlを50μm、物体光のスポット径rsを150μmとする。また、これらのスポット径を調節しやすくするため、溶接部102の表面と所望の溶け込み深さとの間で、第1集光光学系109と第2集光光学系120の焦点の位置を一致させるのがよい。
【0065】
以上のように、レーザ光と物体光のそれぞれのスポット径を調節することで、レーザ溶接装置100は、精度良く、溶接部102の溶け込み深さを測定できる。続いて、溶接部102の溶け込み深さを測定する具体的な手法について説明する。
【0066】
図4は、物体光でキーホール104の深さを測定する原理の説明図である。物体光のスポット内に、キーホール104が位置すると、被溶接材101の表面と、キーホール104の底部104aとで物体光が反射する。光干渉計105は、参照光の光路長を基準として、物体光の光路長の基準からの光路差を測定する。このため、光干渉計105は、被溶接材101の表面の位置と、底部104aの位置とを、参照光の光路長からの光路長差としてそれぞれ測定する。図4中の点線は、参照光と物体光の光路長差が0となる位置であり、L1は点線の位置から溶接部102表面までの光路長、L2は点線の位置から底部104aまでの光路長を表す。
【0067】
このとき、物体光と参照光との光路長差と干渉光の強度との関係のグラフを図5に示す。図5では、干渉光の強度を縦軸に示し、基準からの光路長を横軸に示す。溶接部102の表面と、底部104aで反射する物体光の強度が強くなるため、図5のようなピークを持つ。このピーク間の距離を求めることで溶接部102の表面から底部104aまでの距離、すなわちキーホール104の深さが求まる。キーホール104の深さは、溶接部102の溶け込み深さに相当する。以上の手法により、図1の光干渉計105は、溶接部102の溶け込み深さを測定可能である。
【0068】
続いて、図1の光干渉計105で測定した溶け込み深さに基づいて、レーザ溶接装置100による溶接部102の評価手法について説明する。
【0069】
コンピュータ112は、測定した溶け込み深さから溶接部102の品質を評価する評価部(評価手段)112cを備える。良品の溶け込み深さの範囲を予めコンピュータ112に記憶させ、測定した溶け込み深さが良品の溶け込み深さの範囲内であるか否かを判定することで、評価部112cは溶接部102の良否についての評価を行う。評価の結果は、表示器122に表示される。
【0070】
溶接部102の溶け込み深さが良品の溶け込み深さの範囲を超え、評価部112cにより溶接部102が不良と判定された場合、レーザ溶接装置100は、レーザ光の照射を中止し、レーザ溶接の動作を中段する。
【0071】
以上、説明した図1のレーザ溶接装置100の動作について、図6のフローチャートを用いて説明する。
【0072】
ステップS1では、制御部112aが、ステージコントローラ111に移動ステージ110の移動開始指令を出力する。これにより、移動ステージ110に固定されている被溶接材101の移動が開始される。
【0073】
ステップS2では、制御部112aが、光干渉計105の波長走査光源113に測定光の出力開始指令を出力する。これにより、波長走査光源113は、波長走査を開始する。
【0074】
ステップS3では、制御部112aが、レーザ発振器107にレーザ光の出力開始指令を出力する。これにより、溶接部102にレーザ光が照射され、レーザ溶接が開始される。
【0075】
ステップS4では、測定部112bが、光干渉計105からの信号に基づき、溶接部102の溶け込み深さを測定する。
【0076】
ステップS5では、評価部112cが、測定した溶け込み深さが良品の溶け込み深さの範囲内か否かを判定し、溶接部102の品質を評価する。溶け込み深さが良品の溶け込み深さの範囲内の場合(ステップS5のYes)は、ステップS6に進み、溶け込み深さが良品の溶け込み深さの範囲外の場合(ステップS5のNo)は、ステップS7に進む。
【0077】
ステップS6では、現在、レーザ光を照射している場所が、被溶接材101の溶接を行う場所の終端点か否かを、制御部112aが判定する。レーザ光を照射している場所が終端点であると判定した場合(ステップS6のYes)はステップS8に進み、レーザ光を照射している場所が終端点でないと判定した場合(ステップS6のNo)はステップS4に戻る。
【0078】
ステップS7では、溶接部102が不良である旨を表示器122に表示する。この場合、被溶接材101に対する溶接を完了したか否かの判定を行うことなく(ステップS6を経ることなく)、ステップS8に進む。
【0079】
ステップS8では、制御部112aが、レーザ光の出力停止指令をレーザ発振器107に出力する。これにより、レーザ光の照射を終了する。
【0080】
ステップS9では、制御部112aが、波長走査光源113に測定光の出力停止指令を出力する。これにより、波長走査を終了する。
【0081】
ステップS10では、制御部112aが、ステージコントローラ111に移動ステージ110の移動停止指令を出力する。これにより、移動ステージ110に固定されている被溶接材101の移動が停止される。
【0082】
以上、説明したステップS1からステップS10によって、レーザ溶接装置100は動作を行う。
【0083】
なお、実施の形態1において、レーザ光の照射位置の移動手段として照射される側(被溶接材101)を移動させる移動ステージ110を設けたが、この移動手段に、照射する側(レーザ光)を移動させるガルバノスキャナを用いても良い。
【0084】
なお、実施の形態1では、光干渉計105の光源として波長走査光源113、検出器として差動ディテクタ118を設け、いわゆるSS−OCTの原理を利用した。溶接部102の溶け込み深さは、高速に変動(数十kHzオーダー)することが予想されるため、数十kHzのオーダーでの波長走査が可能な、SS−OCTを用いることで、高速変動する溶接部102の溶け込み深さを、高精度に測定することができる。OCTの別の原理として、参照ミラー116を移動させることで、対象の距離を測定する、いわゆるTime Domain OCT(TD−OCT)がある。このTD−OCTを実施の形態1に用いる場合、参照ミラー116を溶け込み深さの高速変動に追従させる必要がある。しかし、TD−OCTでは参照ミラー116を機械的動作によりその位置を変動させるため、このような高速変動に参照ミラー116を追従させるのは現実的でない。このため、TD−OCTを実施の形態1に用いては、溶接部102の溶け込み深さを測定する精度が低下してしまう。
【0085】
なお、測定した溶け込み深さが良品の溶け込み深さの範囲を超える前に、溶接条件を変更して、溶け込み深さを適切な値に調節することで、不良品の発生を未然に防止するようにしてもよい。この場合、溶接条件を変更するための溶け込み深さの範囲を、良品の溶け込み深さの範囲より、厳しい条件で設定する。測定した溶け込み深さが、溶接条件を変更するための溶け込み深さの範囲を超えた場合、溶け込み深さが適切な値となるように、制御部112aは、溶接条件を変更する。制御部112aによる溶接条件の変更は、レーザ光の出力強度や、被溶接材101の移動速度を調節することで行う。
【0086】
なお、波長走査光源113の出力は、溶接部102に影響を与えない範囲で調節を行う必要がある。実施の形態1では、レーザ発振器107の出力を300W、波長走査光源113の出力を23mWとした。
【0087】
(実施の形態2)
実施の形態1では、物体光のスポットを円形状として説明した。実施の形態2では、物体光のスポットを直線形状として説明する。なお、以下の説明では、実施の形態1と同じ構成には同じ符号を付して説明を省略する。
【0088】
実施の形態2に係るレーザ溶接装置200では、図1の第2集光光学系120としてシリンドリカルレンズを用いることで、溶接部102に集光される物体光のスポットを直線形状に形成する。
【0089】
図7に、溶接部102の表面におけるレーザ光のスポット、物体光のスポット、キーホール104、溶融池103の位置関係を示す。この図7は、図1に示した矢印Aの向きから見た状態である。このとき、移動ステージ110による被溶接材101の移動方向が、図7に矢印で示した移動方向である。
【0090】
図7に示すように、直線形状の物体光のスポットの長軸の向きを、移動方向と一致させるようにシリンドリカルレンズを配置する。キーホール104の底部104aの位置は、レーザ光のスポットの位置から、移動方向にずれることが多いと考えられるからである。この場合、物体光のスポットの長軸の長さをll、短軸の長さをlsとする。また、実施の形態1と同様、レーザ光のスポット径(直径)をrl、キーホール104の長軸の長さをrkとする。
【0091】
キーホール104の長軸の長さrkよりも、llを長くすれば、底部104aに物体光を的確に照射することが可能となる。このため、llをrlの3倍以上にすればよい。これらの理由を次に説明する。
【0092】
キーホール104の長軸の長さrkは、レーザ光の強度の増加に伴って長くなり、レーザ光を照射する時間の減少、すなわち、移動ステージ110による移動速度の増加に伴って短くなる傾向がある。このとき、自身のスポット径rlの3倍以上のrkのキーホール104を形成するような強力なレーザ光は、溶接に向かない(穴が開いてしまう)。同様に、rlの3倍以上のrkのキーホール104を形成するような速度で被溶接材101を移動させることも好ましくない。このため、レーザ溶接において、rlの3倍よりも、rkの値は小さくなることが理解できる。よって、レーザ光のスポット径rl(直径)とキーホール104の長軸の長さrkとの関係は、次の(数9)で与えられる。
【0093】
【数9】

【0094】
レーザ光が照射されることでキーホール104が形成されるため、形成されるキーホール104の位置は、レーザ光のスポット位置から大きく離間することは無い。このため、物体光のスポットの長軸の長さllを、rlの3倍以上にすれば、物体光のスポットの中にキーホール104を略完全に含ませることが可能となる。物体光のスポット内にキーホール104が略完全に含まれれば、略確実に、底部104aに対して、物体光が照射される。つまり、物体光のスポットの長軸の長さllを、レーザ光のスポット径rlの3倍以上にすることで、底部104aへ略確実に物体光を照射することができ、高精度に、キーホール104の深さを測定可能となる。
【0095】
このとき、キーホール104以外の場所で反射する物体光は、キーホール104の測定に寄与しないノイズとなる。実施の形態1では、物体光の円形状のスポット径rsが、rlの10倍以上になると、ノイズの影響が強くなり、キーホール104の深さを測定できなくなった。一方、実施の形態2では、物体光のスポットが、直線形状であるため、その長軸の長さllを長くしても、キーホール104以外の場所で反射する物体光の量は実施の形態1に比べて少ない。発明者らは、llがrlの50倍以下であれば、キーホール104の深さを測定できることを予測した。
【0096】
なお、物体光のスポットの短軸の長さlsが短すぎると、底部104aに物体光が照射されない場合が生じうる。これを防止するため、lsをrlの1倍〜2倍に設定する。
【0097】
以上のように、実施の形態2に係るレーザ溶接装置200によって、キーホール104の底部104aの位置に、物体光を略確実に照射することができ、キーホール104の深さ、すなわち、溶接部102の溶け込み深さを高精度に測定可能である。
【0098】
また、レーザ溶接装置200は、実施の形態1よりも、キーホール104以外の場所で反射する物体光(ノイズ)の量を減らすことが可能となり、ノイズの影響を低減して、キーホール104の深さを測定可能である。また、ノイズの影響が小さいため、長軸方向の物体光のスポットの長さllを、実施の形態1の物体光のスポット径よりも長くすることが可能である。このため、レーザ光のスポットの中心の位置から、レーザ光のスポット径rlの10倍以上離れた位置に、底部104aが存在するような場合があっても、レーザ溶接装置200は、llをrlの10倍以上にすることで、底部104aに物体光を照射可能である。
【0099】
(実施の形態3)
実施の形態3では、実施の形態1のレーザ溶接装置100に、溶接部102の発光から分光スペクトルを算出する分光器123と、算出した分光スペクトルから溶接部102の材料を特定する材料特定部(材料特定手段)112dと、を備えるレーザ溶接装置300について説明する。
【0100】
図8にレーザ溶接装置300の模式図を示す。ここでは、実施の形態1と同じ構成には同じ符号を付して、説明を省略する。
【0101】
被溶接材101は、材料の異なる領域を有する場合がある。このような被溶接材101を溶接する際には、領域の材料に合わせた溶接条件で、レーザ溶接を行う必要がある。しかしながら、領域の分布が未知の場合、予め溶接条件を決定してレーザ溶接を行うことはできない。また、光干渉計105で測定した溶接部102の溶け込み深さに基づいて溶け込み深さが適切になるように溶接条件を変更する場合、材料が未知であれば、溶接条件を適切に変更することができない。そこで、実施の形態3では、溶接部102の溶け込み深さを測定する際に、溶接部102の材料を特定し、特定した材料に適した溶接条件にて溶け込み深さを適切に調節するレーザ溶接装置300を提供する。
【0102】
まず、レーザ溶接装置300による、材料特定手法の原理について説明する。
【0103】
溶接部102では、照射されるレーザ光により蒸発した金属がプラズマ化することで発光する。この発光は、材料毎に異なる波長の光を含む。このため、発光の分光スペクトルは、材料により異なる。それゆえ、溶接部102の発光から、分光器123で分光スペクトルを算出することで、算出した分光スペクトルから材料を特定できる。
【0104】
次に、レーザ溶接装置300の装置構成とその作用について説明する。
【0105】
溶接部102の発光は、第2ビームスプリッタ124、第3集光光学系125、フィルタ126を介して、分光器123に入射する。
【0106】
第1ビームスプリッタ106と被溶接材101との間であって、レーザ光の光軸上に配置された第2ビームスプリッタ124(光分離手段)は、レーザ発振器107からのレーザ光と光干渉計105からの物体光を透過し、これら以外の光を反射する。これにより、第2ビームスプリッタ124は、レーザ光と物体光を、これら以外の光から分離する。実施の形態3では、レーザ発振器107が1064nm〜1090nmの波長のレーザ光を出力し、波長走査光源113が1270nm〜1370nmの波長の物体光を照射する。このため、第2ビームスプリッタ124は、1064nm〜1090nm、1270nm〜1370nmの波長の光を透過し、それ以外の波長の光を反射する。これにより、光干渉計105に、溶接部102の発光等が入射するのを防止できる。
【0107】
第2ビームスプリッタ124で反射した光は、第3集光光学系125、フィルタ126を介して、分光器123に入射する。フィルタ126は、分光器123で分光スペクトルの算出に必要な波長の光のみを透過させる。実施の形態3では、400nm〜800nmの波長を分光器123での解析に用いるため、フィルタ126は、この波長帯の光のみを透過させる。
【0108】
分光器123は、入射した光を波長毎に分光し、分光した各波長における強度をそれぞれ検出することにより、入射した光の分光スペクトルを算出する分光スペクトル算出手段である。算出された分光スペクトルの情報は、コンピュータ112の材料取得部112dへ入力される。材料取得部112dは、入力された分光スペクトルの情報に基づいて、溶接部102の材料を特定する。このとき、コンピュータ112には、予め複数種類の材料に対応する溶接条件が記憶されている。
【0109】
一方、溶接部102から反射した物体光は、第2ビームスプリッタ124を透過した後に、第1ビームスプリッタ106で反射して光干渉計105に入射する。光干渉計105は、入射した物体光から、溶接部102の溶け込み深さを測定する。測定された溶け込み深さは、コンピュータ112へ入力される。
【0110】
コンピュータ112の制御部112aは、入力された溶け込み深さに基づいて、溶け込み深さが適切になるように、溶接条件を調節する。このとき、材料特定部112dでは、溶接部102の材料が特定されている。このため、制御部112aは、溶接部102の材料に合わせて、溶け込み深さが適切になるように、溶接条件を調節する。制御部112aによるレーザ溶接条件の変更は、レーザ光の出力強度や、被溶接材101の移動速度を調節することで行う。
【0111】
以上のように、被溶接材101の材料が未知であっても、レーザ溶接装置300は、溶接部102の溶け込み深さが適切になるように、溶接条件を適切に調節することが可能である。
【0112】
また、材料の特定に用いる溶接部102の発光は、光干渉計105に入射すると測定に不要なノイズとなる。光干渉計105のノイズとなる光を、第2ビームスプリッタ124によって分離することで、光干渉計105にノイズが入射することを防止し、光干渉計105の測定精度を向上させることができる。
【0113】
なお、実施の形態3では、実施の形態1に係るレーザ溶接装置100を用いて説明したが、レーザ溶接装置100の代わりに実施の形態2に係るレーザ溶接装置200を用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明は、自動車や電子部品等のレーザ溶接に適用することができる。
【符号の説明】
【0115】
100 レーザ溶接装置
101 被溶接材
102 溶接部
104 キーホール
105 光干渉計
106 第1ビームスプリッタ
107 レーザ発振器
110 移動ステージ
112 コンピュータ
112a 制御部
112b 測定部
112c 評価部
112d 材料特定部
113 波長走査光源
117 第2ファイバカプラ
118 差動ディテクタ
123 分光器
124 第2ビームスプリッタ
200 レーザ溶接装置
300 レーザ溶接装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光で溶接部を溶接するレーザ溶接装置であって、
前記レーザ光を照射するレーザ出力手段と、
前記レーザ光と波長の異なる光である物体光を前記溶接部に照射すると共に前記溶接部で反射した前記物体光から前記溶接部の溶け込み深さを測定する光干渉計と、
前記レーザ出力手段からの前記レーザ光と前記光干渉計からの前記物体光とを同軸にして前記溶接部に照射する光学部材と、
測定した前記溶接部の溶け込み深さに基づいて前記溶接部の良否を評価する評価手段と、を備え、
前記溶接部における前記物体光のスポット径が前記レーザ光のスポット径よりも大きいことを特徴とするレーザ溶接装置。
【請求項2】
前記溶接部における前記物体光のスポット径が前記レーザ光のスポット径の3倍以上10倍以下である請求項1記載のレーザ溶接装置。
【請求項3】
前記光干渉計は、周期的に波長を走査した前記物体光を照射する波長走査型光源と、前記溶接部で反射した前記物体光を複数に分割するファイバカプラと、前記ファイバカプラで分割された前記物体光をそれぞれ電気信号に変換すると共にそれぞれ変換した前記電気信号の差動を出力する差動ディテクタと、出力された前記差動に基づいて前記溶接部の溶け込み深さを測定する測定手段と、を有する請求項1又は2記載のレーザ溶接装置。
【請求項4】
前記物体光を直線形状に集光するシリンドリカルレンズを前記光干渉計と前記光学部材との間に備える請求項1〜3のいずれか1項記載のレーザ溶接装置。
【請求項5】
前記レーザ光の照射位置を移動させる移動手段と、
前記溶接部が溶融する際の発光を前記レーザ光と前記物体光とから分離させると共に前記光学部材と前記溶接部との間に配置された光分離手段と、
前記光分離手段を介して検出した前記発光から分光スペクトルを算出する分光スペクトル算出手段と、
算出した前記分光スペクトルに基づき前記溶接部の材料を特定する材料特定手段と、
測定した前記溶け込み深さと特定した前記材料とに基づいて前記レーザ出力手段の出力強度又は前記移動手段の移動速度を制御する制御手段と、
を備える請求項1〜4のいずれか1項記載のレーザ溶接装置。
【請求項6】
レーザ光で溶接部を溶接するレーザ溶接方法であって、
前記レーザ光と波長の異なる光である物体光を前記レーザ光と同軸にすると共に、前記物体光のスポット径が前記レーザ光のスポット径よりも大きくなるように前記物体光を前記溶接部へ照射して前記溶接部の溶け込み深さを測定し、
測定した前記溶け込み深さに基づいて前記溶接部の良否を評価するレーザ溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−236196(P2012−236196A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−104981(P2011−104981)
【出願日】平成23年5月10日(2011.5.10)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】