説明

ロボットコントローラ

【課題】モータ回生時において発熱が一気に増えることを抑制し、しかも好適な状態でモータを駆動させる。
【解決手段】制御部13は、モータ減速期間において、コンデンサ28の充電により回生電力を回収させるとともに、コンデンサ28の充電電圧が所定の上限電圧に達した場合に、第2スイッチ33を閉じて回生抵抗32により回生電力を回収させる。また、制御部13は、モータ減速直前の等速期間において第1スイッチ31を繰り返し開閉させることにより、コンデンサ充電電圧を降下させる。この電圧降下制御では、モータ減速期間におけるモータ減速幅に基づいて、減速開始時のコンデンサ充電電圧である減速開始時電圧と、第1スイッチ31のスイッチング時間幅とを設定するとともに、第1スイッチ31の開閉状態を制御することにより減速開始時電圧までコンデンサ28の充電電圧を降下させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば産業用ロボットの可動部に設けられるモータを制御するロボットコントローラに関するものである。
【背景技術】
【0002】
産業用ロボットの関節部等の可動部に設けられる交流サーボモータは、加速制御と減速制御とが繰り返し実施されることで所望の動作を実現するものである。この場合、モータの減速時には回生電力が発生し、その回生電力を回生抵抗を用いて回収する技術が各種提案されている。例えば特許文献1では、直流電源線間に回生抵抗を介して接続されたスイッチング素子をオンし、モータからの回生電力を直流電源線側にバイパスして回生抵抗で消費させるように制御することとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−37301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
モータからの回生電力を回生抵抗で回収する場合、回生抵抗において熱が発生する。このとき、産業用ロボットでは、一般に回生抵抗がロボットコントローラ内に配置されているため、ロボットコントローラ内は、CPU等の電子部品から発される熱に加えて回生抵抗から発される熱を内包することになる。ここで、ロボットコントローラには放熱ファン等が設けられているため、ロボットコントローラがさほど高温でない環境に設置されているのであれば、電子部品や回生抵抗から発せされる熱をロボットコントローラ外に排出し、外気を取り入れる循環を行うことにより、ロボットコントローラ内を電子部品等が正常に作動できる程度の温度に保つことが可能である。
【0005】
しかしながら、ロボットコントローラがどのような環境に設置されるかはロボットを使うユーザによって決められるので、場合によっては、極めて高温の環境下にロボットコントローラが設置されることも否定はできない。このような極高温の環境下になると、いくらロボットコントローラ内に発生した熱を放熱ファンにより外方に排出しているといっても、その排出された空気と入れ替わりに入ってくる空気自体もそれなりに高温であるため、ロボットコントローラ内が過高温となるおそれが生じる。つまり、モータの減速時(回生時)において、回生抵抗から思いもかけず多めの熱が一気に発せられると、もともとロボットコントローラ内に取り込まれる空気が高温であり、かつCPU等の電子部品が放熱しているところへ、さらに熱が加わることになる。したがって、ロボットコントローラ内の温度が動作保証温度を超え、状況によってはロボットコントローラが停止されてしまう事態が生じるとも考えられる。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、モータ回生時において発熱が一気に増えることを抑制し、しかも好適な状態でモータを駆動させることができるロボットコントローラを提供することを主たる目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、上記課題を解決するのに有効な手段等につき、必要に応じて作用、効果等を示しつつ説明する。
【0008】
第1の発明は、交流電力を整流して直流電力を出力する整流回路と、
前記整流回路の出力側の電力経路に接続されたコンデンサと、
前記整流回路から前記電力経路を通じて直流電力が供給され、その直流電力を駆動電力に変換してモータを駆動するインバータ回路と、
を備え、前記インバータ回路を制御することにより、前記モータを、加速期間、等速期間及び減速期間からなる所定の動作パターンにより動作させるロボットコントローラであって、
前記整流回路と前記コンデンサとの間において前記電力経路を開閉する第1スイッチと、
前記電力経路に接続され、前記モータの回生電力を熱変換により回収する回生抵抗と、
前記回生抵抗に直列に接続された第2スイッチと、
前記減速期間において、前記コンデンサの充電により回生電力を回収させるとともに、前記コンデンサの充電電圧があらかじめ定めた所定の上限電圧に達した場合に、前記第2スイッチを閉じて前記回生抵抗により回生電力を回収させる電力回収制御手段と、
前記減速期間の直前となる等速期間において、前記第1スイッチを繰り返し開閉させることにより前記コンデンサの充電電圧を降下させる電圧降下処理を実施する電圧降下制御手段と、
を備え、
前記電圧降下制御手段は、
前記等速期間での電圧降下処理の開始前に、前記減速期間におけるモータ減速幅を取得する手段と、
モータ減速幅とそのモータ減速幅でのモータ減速時に前記回生抵抗により生じる回生抵抗熱との関係を用い、前記取得したモータ減速幅に基づいて、減速開始時のコンデンサ充電電圧である減速開始時電圧と、前記第1スイッチの開閉により電圧降下を行わせる際のスイッチング実施態様とを設定する手段と、
前記設定したスイッチング実施態様で前記第1スイッチの開閉状態を制御することにより、前記設定した減速開始時電圧まで前記コンデンサの充電電圧を降下させる手段と、
を備えることを特徴とする。
【0009】
上記構成によれば、基本動作として、モータの減速時(回生時)において、コンデンサの充電により回生電力を回収させるとともに、コンデンサの充電電圧があらかじめ定めた所定の上限電圧に達した場合に、第2スイッチを閉じて回生抵抗により回生電力を回収させるようにしている。ここで、コンデンサ充電による回生電力の回収後において回生抵抗による電力回収が長時間になるほど、回生抵抗の発熱量が多くなり、ひいてはロボットコントローラでの過剰な温度上昇が懸念される。
【0010】
この点、本発明では、モータ減速時における回生電力の量がモータ減速期間におけるモータ減速幅に応じて変わることに着目し、モータ減速直前の等速期間において、今後生じるモータ減速時のモータ減速幅に基づいて、減速開始時のコンデンサ充電電圧である減速開始時電圧と、第1スイッチの開閉により電圧降下を行わせる際のスイッチング実施態様とを設定することとしている。この場合特に、モータ減速幅とそのモータ減速幅でのモータ減速時に前記回生抵抗により生じる回生抵抗熱との関係を用いて、減速開始時電圧とスイッチング実施態様とを設定している。そして、等速期間において、モータ減速開始時にコンデンサ充電電圧が減速開始時電圧となるように、第1スイッチの開閉状態を制御するようにしている。こうしてモータ減速開始前にコンデンサ充電電圧を降下させておくことにより、モータ減速時にはコンデンサによる電力回収量が増加し、その結果として、回生抵抗による電力回収(すなわち熱変換)を減らすことができる。また、モータ減速時に生じる回生抵抗熱を事前に考慮(予測)した上で、等速期間での電圧降下処理を実施できる。ゆえに、ロボットコントローラでの過剰な温度上昇を抑制できる。
【0011】
ここで、電圧降下処理の実施に際し、第1スイッチを開閉(スイッチング動作)させる場合には、その開閉動作によって熱が生じると考えられる。しかしながら、スイッチング動作熱が生じるとしても、それは減速開始前の等速期間(言い換えれば、回生電力が生じない期間)のことであり、時間軸で見れば、スイッチング動作による発熱と、回生抵抗による電力回収による発熱とは前後に分散されることになる。したがって、発熱が一時期に集中して生じることによる不都合を抑制できる。なお、仮に第1スイッチのスイッチング動作時の発熱量が、そのスイッチング動作による電圧降下分に対応する回生抵抗の発熱量よりも多くなるとしても、熱の発生時期(第1スイッチの繰り返し開閉動作時間も含めて)を分散させることで、一時期に発熱が集中するといった事態を抑制できる。
【0012】
例えばロボットコントローラ内の熱を放熱ファンにより排出する構成では、その放熱ファンの能力を無駄なく使い、効率的な排熱を実施することができるようになる。
【0013】
このように本発明では、発熱の分散を図りかつ回生抵抗の発熱量を低減させることができ、仮にロボットコントローラの設置環境下における温度が高温状態にあっても、ロボットコントローラ内の温度が所定温度を超えてしまい同ロボットコントローラが意図せず停止されるような事態を抑制することが可能になる。
【0014】
また、上記構成では、モータの減速期間におけるモータ減速幅に基づいて電圧降下が行われるため、モータ減速時に実際に生じる回生電力の量に合わせて電圧降下を実施できる。そのため、モータ減速以前において電圧降下が過剰に行われることを抑制でき、モータ駆動への影響も排除できる。さらに、等速期間について言えば、第1スイッチを繰り返し開閉させることでなだらかに電圧が降下する。そのため、等速期間において急激な電圧降下によりコンデンサ充電電圧が下がり過ぎてしまうという事態を抑制でき、モータの等速動作を妨げることなく電圧降下を実施できる。
【0015】
以上により、モータ回生時において発熱が一気に増えることを抑制し、しかも好適な状態でモータを駆動させることができるものとなる。
【0016】
第2の発明では、前記電圧降下制御手段は、前記スイッチング実施態様として、前記第1スイッチを所定のスイッチング周期で繰り返し開閉させる時間であるスイッチング時間幅を、前記モータ減速幅に基づいて設定し、該設定したスイッチング時間幅が前記等速期間の時間幅よりも長い場合に、前記スイッチング時間幅を前記等速期間の時間幅で制限することを特徴とする。
【0017】
上記構成によれば、スイッチング時間幅が、モータの等速期間の時間幅よりも長い場合に、そのスイッチング時間幅が等速期間の時間幅で制限される。かかる場合、等速期間の直前期間である加速期間では電圧降下の処理が実施されないため、加速期間では、モータ駆動を優先した電力供給が行われる。したがって、電圧降下の処理により加速期間でのモータ駆動に支障が及ぶといった不都合を回避できる。
【0018】
第3の発明では、前記設定したスイッチング実施態様にて前記第1スイッチを開閉させる場合に生じる発熱量を、その開閉の実施時における第1スイッチのスイッチング時間幅、スイッチング周期、及び第1スイッチのオン時間に基づいて推定する推定手段を備え、
前記電圧降下制御手段は、前記推定した発熱量が、あらかじめ定めた所定の発熱量を超える場合に、前記第1スイッチの開閉による発熱量を減らすべく前記スイッチング実施態様を変更することを特徴とする。
【0019】
上記構成によれば、第1スイッチの開閉時の発熱量を、第1スイッチのスイッチング時間幅、スイッチング周期、及び第1スイッチのオン時間に基づいて推定することにより、その発熱量を正しく求めることができる。また、第1スイッチを開閉させる際に生じる発熱量(推定値)が、あらかじめ定めた所定の発熱量を超える場合に、第1スイッチの開閉による発熱量を減らすべくスイッチング実施態様の変更が行われる。このスイッチング実施態様の変更としては、第1スイッチのスイッチング時間幅を短くする、オン時間を短くする(オン時間比率を小さくする)等が考えられる。かかる場合、モータの減速前(回生前)における発熱量をも考慮することで、ロボットコントローラの温度を一層適切に管理することができる。
【0020】
第4の発明では、前記減速期間に、前記整流回路と前記コンデンサとの間の電力経路を前記第1スイッチにより遮断する手段を更に備えることを特徴とする。
【0021】
上記構成では、モータの減速期間に、整流回路とコンデンサとの間の電力経路が第1スイッチにより遮断される。これにより、モータ減速による回生時には整流回路からコンデンサへの電力供給が停止され、コンデンサ充電電圧の上昇速度が遅くなる。したがって、やはり回生抵抗による電力回収(すなわち熱変換)を減らすことができる。
【0022】
第5の発明では、前記モータは産業用ロボットの可動部に設けられる交流サーボモータであり、
当該ロボットコントローラが設置される環境下での温度を検出する温度検出手段を備え、
前記電圧降下制御手段は、前記検出した温度に基づいて、前記電圧降下処理を実施するか否かを判断することを特徴とする。
【0023】
上記構成では、ロボットコントローラが設置される環境下での検出温度に基づいて、前記電圧降下処理を実施するか否かを判断するため、例えば、ロボットコントローラに外部から取り込まれる空気が所定の高温状態となっている状況でのみ、電圧降下処理を実施する構成とすることができる。つまり、発熱量を低減することの必要性に応じて、電圧降下処理を適宜実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】モータ制御システムの概要を示す構成図。
【図2】モータ制御に関する基本動作を説明するためのタイムチャート。
【図3】ロボット作業室が高温状態になっている場合の動作を説明するためのタイムチャート。
【図4】電圧降下制御を実施した場合の動作を説明するためのタイムチャート。
【図5】電力回収制御の処理手順を示すフローチャート。
【図6】電圧降下態様設定処理の処理手順を示すフローチャート。
【図7】(a)はモータ最大速度Vpと目標電圧ELとの関係を示す図、(b)は目標電圧ELとスイッチング時間幅HT1との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では、産業用ロボットの可動部(関節部)に組み込まれた交流サーボモータの制御システムを具体化するものであり、本制御システムは、複数のモータを有するロボット本体と、このロボット本体を制御するロボットコントローラとを備えている。周知構成のため図示は省略するが、ロボットコントローラは、例えば直方体状をなす金属製の筐体と、その筐体内部に設けられる各種基板(制御基板、電源基板等)とを有している。次に、本制御システムの概要を図1を用いて説明する。
【0026】
図1に示すように、本制御システムは、主要な構成として、ロボット本体に設けられたモータ(交流サーボモータ)11と、このモータ11を駆動するモータ駆動装置12と、モータ駆動装置12を制御することでひいてはモータ11を制御する制御部13とを備えている。まずはモータ駆動装置12を説明する。
【0027】
モータ駆動装置12において、交流電源21にはノイズフィルタ22を介して整流回路23が接続されている。整流回路23は、例えば4つのダイオードによって構成されるブリッジ全波整流回路よりなり、この整流回路23により交流電力が直流電力に変換される。例えば、交流電源21からはAC200Vの交流電力が出力され、その交流電力が整流回路23で整流されることにより、整流回路23からDC280Vの直流電力が出力される。
【0028】
整流回路23の出力側には電力経路24,25が接続されており、その電力経路24,25には、逆流防止用のダイオード26とチョークコイル27とコンデンサ28とよりなる平滑回路29が接続されている。また、電力経路24,25には、ダイオード26やコンデンサ28に並列に駆動回路30が接続されている。駆動回路30は3相インバータ回路よりなり、駆動回路30により直流電力が3相交流電力に変換され、その3相交流電力がモータ11に駆動電力として供給される。駆動回路30からの駆動電力の供給によりモータ11が駆動される。
【0029】
電力経路24には第1スイッチ31が設けられており、この第1スイッチ31により、整流回路23とコンデンサ28との間において電力経路24が開閉される。第1スイッチ31をオン(閉鎖)することで、整流回路23から駆動回路30側への電力供給が行われ、第1スイッチ31をオフ(開放)することで、整流回路23から駆動回路30側への電力供給が停止される。また、電力経路24,25間には、回生抵抗32と第2スイッチ33との直列回路が接続されている。スイッチ31,33は、MOSFET等の半導体スイッチよりなる。モータ11の回生時には、第2スイッチ33がオン(閉鎖)されることでモータ11からの回生電力が回生抵抗32に流れる。これにより、回生電力が回生抵抗32にて熱に変換されて回収(消費)されるようになっている。
【0030】
制御部13は、CPUや各種メモリ等を有する周知の論理演算回路であり、メモリ内に格納されている制御プログラムにより各種のモータ制御を実施する。例えば、駆動回路30に設けられた複数のスイッチング素子をPWM信号により制御することでモータ11の回転を制御する。この場合、制御部13は、ロータリエンコーダよりなる位置検出部35の検出信号に基づいてモータ11の位置フィードバック制御を実施する。また、制御部13は、電流検出部36の検出信号に基づいてモータ11の回転状態を監視する。制御部13には、コンデンサ28の充電電圧(電力経路24,25間の電圧)を検出する電圧検出部37と、ロボット作業室の温度を検出する温度センサ38とが接続されている。
【0031】
制御部13は、第1スイッチ31及び第2スイッチ33を制御対象としており、モータ回生時には、これらスイッチ31,33の開閉を制御することにより電力回収制御や電圧降下制御を実施する。電力回収制御としては、モータ11の回生時(減速時)において、コンデンサ28の充電により回生電力を回収させるとともに、コンデンサ28の充電電圧があらかじめ定めた所定の上限電圧に達した場合に、第2スイッチ33を閉じて回生抵抗32により回生電力を回収させる。また、電圧降下制御としては、モータ11の回生開始前に第1スイッチ31を繰り返し開閉することで、モータ回生開始時におけるコンデンサ充電電圧を降下させる。ただし、それら各制御の詳細は後述する。
【0032】
次に、モータ制御に関する基本的な作用について、図2のタイムチャートを用いて説明する。図2において(a)はモータ速度の推移を、(b)は第1スイッチ31のオン/オフの推移を、(c)はコンデンサ充電電圧(電力経路24,25間の電圧)であるバス電圧Ebusの推移を、(d)はロボットコントローラで生じる熱量であるコントローラ熱量の推移を、(e)は第2スイッチ33のオン/オフの推移を、それぞれ示す。なお、図2では、全期間を通じて第1スイッチ31がオンのまま保持されている。
【0033】
図2では、モータ11について正側及び負側の両動作が繰り返し実施される場合を想定しており、図中のT10は負側動作期間、T20は正側動作期間である。負側動作期間T10と正側動作期間T20との間の期間T30は、負側動作から正側動作(又はその逆)への移行期間である。期間T30は、モータ速度=0である動作停止期間でもある。また、各期間T10,T20では、加速制御、等速制御(速度一定)、減速制御がこの順序の動作パターンで実施されるようになっており、例えば正側動作期間T20で言えば、T21が加速期間、T22が等速期間、T23が減速期間となっている。本実施形態では、負側動作時における最大速度(負側最大速度)をVp1、正側動作時における最大速度(正側最大速度)をVp2とし、|Vp1|<|Vp2|としている。
【0034】
正側動作期間T20を例に挙げて具体的な動作を説明する。まず加速期間T21では、モータ速度が0から正側に変化するようにモータ制御が実施される。このとき、モータ速度は、一定の加速度で上昇(正側上昇)し、やがて正側最大速度Vp2に到達する。そして、等速期間T22では、モータ速度が正側最大速度Vp2のまま保持される。その後、減速期間T23では、モータ速度が正側最大速度Vp2から0に一定の加速度で減少変化するようにモータ制御が実施される。
【0035】
ここで、モータ速度の推移と、バス電圧Ebus、コントローラ熱量の各推移との関係について説明する。加速期間T21では、モータ加速による電力消費に伴いバス電圧Ebusが低下する。このとき、加速期間T21では、その期間当初においてバス電圧Ebusが、整流回路23の出力電圧である基準電圧Etyp(例えば280V)以上になっており、同期間T21内においてバス電圧Ebusが基準電圧Etypよりも低電圧となる電圧域まで低下する。
【0036】
その後、等速期間T22では、モータ駆動による電力消費量が減るため、整流回路23を通じての電力供給に伴いバス電圧Ebusが上昇して基準電圧Etypまで復帰する(ただし、等速期間T22が短ければこれに限らない)。
【0037】
減速期間T23では、モータ減速による回生に伴い回生電力がコンデンサ28に供給され、バス電圧Ebusが上昇する(つまり、コンデンサ28の充電により回生電力が回収される)。このとき、バス電圧Ebusが所定の回生抵抗オン電圧Eon(上限電圧)まで上昇すると、第2スイッチ33がオンされる。これにより、回生電力が回生抵抗32に供給され、その回生抵抗32において回生電力が熱に変換されることで回収(消費)される。回生抵抗オン電圧Eonは、コンデンサ28の充電上限量に基づいて定められるとよく、回生電力の回収を、コンデンサ28の充電による回収から、回生抵抗32での熱変換による回収に切り替えるためのしきい値である。
【0038】
こうして回生電力が回生抵抗32で熱消費されることにより、コントローラ熱量が基準値Qtypから上昇する。基準値Qtypは、ロボットコントローラが稼働される場合における標準熱量である。かかる場合、ロボットコントローラには放熱ファンなどの放熱手段が設けられており、コントローラ熱量が基準値Qtypとなるようにして放熱ファンなどによりロボットコントローラの内部温度が制御される。なお、ロボットコントローラの内部温度を検出する温度センサを設けておき、その検出温度に基づいて放熱ファンの作動を制御する構成であってもよい。
【0039】
本制御システムでは、制御部13等の動作保証のためのコントローラ熱量の上限値Qthが定められている。図示の基本動作時においては、コントローラ熱量が上限値Qthに到達することはなく、制御部13等は継続的に正常動作する。
【0040】
正側動作期間T20の終了後は、移行期間T30を経て負側動作期間T10に移行する。負側動作期間T10では、基本的に正側動作期間T20と同様のモータ制御が実施され、同期間T10内において加速、等速、減速の各制御が行われる。これにより、バス電圧Ebusとコントローラ熱量とが正側動作期間T20と略同様に推移する。ただし、正側動作期間T20と比較すると、最大速度Vp1,Vp2の大きさ(絶対値)が異なり、|Vp1|<|Vp2|となっている。そのため、モータ回生時(減速時)において、コントローラ熱量の上昇量ΔQ1,ΔQ2が相違しており、ΔQ2>ΔQ1となっている。
【0041】
ところで、本実施形態では、ロボット本体(モータ駆動装置12を含む)とロボットコントローラ(制御部13)とがいずれも同じロボット作業室に設けられている場合を想定している。かかる場合、ロボット作業室では、外気温の変化やロボット本体の発熱により室温変化が生じ、その室温変化に起因してロボットコントローラ(制御部13)に悪影響が及ぶことが考えられる。図3は、ロボット作業室が例えば外気温に応じて高温状態になっている場合の動作を説明するためのタイムチャートである。図3において(a)〜(e)に示す各チャートの項目は図2と同じものであって、モータ速度の増減変化パターンやそれに付随するパラメータ変化も図2と同じである。
【0042】
図3では、ロボット作業室内が高温であることに起因して、(d)に示すコントローラ熱量が図2に示すそれよりも大きくなっており、図示の全期間を通じて基準値Qtypよりも高レベルとなっている。なお、図2で説明したコントローラ熱量の推移は一点鎖線で示されている。この場合、モータ回生時(減速時)においてコントローラ熱量が上昇すると、図示のようにコントローラ熱量が上限値Qthよりも上昇することがあり得る。そして、コントローラ熱量>上限値Qthとなる場合に、例えば、制御部13の異常動作を回避すべく動作停止等の処置が適宜実施される。
【0043】
ここで、ロボット作業中に動作停止が強いられることは運転効率の観点等において望ましくない。そこで本実施形態では、モータ減速による回生直前において、その後のモータ回生時におけるバス電圧(コンデンサ両電極間電圧)の上昇に備えて、電圧降下制御を実施する。電圧降下制御は、モータ回生期間(減速期間T23)においてバス電圧を積極的に降下させ、それによりモータ回生時におけるバス電圧のピーク値を低下させるものであり、バス電圧のピーク値低下により、回生電力が回生抵抗32により熱消費される期間が短縮され、ひいてはコントローラ熱量が低減されるものとなっている。
【0044】
図4は、本実施形態における電圧降下制御を実施した場合の動作を説明するためのタイムチャートである。図4において(a)〜(e)に示す各チャートの項目は図2,図3と同じものであって、モータ速度の増減変化パターンやそれに付随するパラメータ変化も図2,図3と同じである。なお、コントローラ熱量に関しては、図3と同様、ロボット作業室内が高温であること等に起因して図2に示すそれよりも大きくなっており、図示の全期間を通じて基準値Qtypよりも高レベルとなっている。
【0045】
図4において、正側動作期間T20の加速期間T21では、モータ加速による電力消費に伴いバス電圧Ebusが低下する(図2,図3と同様)。その後、等速期間T22では、その期間当初の第1スイッチ31=オンとなっている期間において整流回路23を通じての電力供給に伴いバス電圧Ebusが上昇し、さらにその後、第1スイッチ31のオン/オフ切替(スイッチング)が実施されることでバス電圧Ebusが降下する。詳しくは、第1スイッチ31のオン/オフ切替に際し、そのオフ時には、整流回路23からコンデンサ28に通じる電力経路24が開放(遮断)され、モータ11での電力消費によりバス電圧Ebusが降下する。
【0046】
なお、バス電圧Ebusは、最低動作電圧Eminを下限として、それ以下に電圧降下しないように制限される。最低動作電圧Eminは、モータ11や制御部13の動作を保証するべく定められた最低電圧である。
【0047】
図3と図4との挙動を比較すると、減速期間T23の開始時点において、図3では、Ebus=Etypとなっているのに対し、図4では、Ebus=Emin(<Etyp)となっている。つまり、図3では、モータ回生開始前の等速期間T22においてバス電圧Ebusが上昇しているのに対し、図4では、等速期間T22においてバス電圧Ebusが降下しており、その違いから、モータ回生開始時点でのバス電圧Ebusが相違している。
【0048】
なお、等速期間T22において第1スイッチ31のオン/オフ切替が実施されるスイッチング期間TAでは、そのスイッチングに伴い動作熱が生じ、その分コントローラ熱量が上昇している。
【0049】
その後、減速期間T23では、モータ回生に伴い回生電力がコンデンサ28に供給され、バス電圧Ebusが上昇する。このとき、上述のとおり減速期間T23の開始時点でのバス電圧Ebusが基準電圧Etypに対して低電圧となっているため、図3に比べてバス電圧Ebusが回生抵抗オン電圧Eonまで上昇するまでに要する時間が長くなり、減速期間T23においてEbus≧Eonとなる期間が短縮されることとなる。Ebus≧Eonとなる期間が短縮されることは、第2スイッチ33のオン期間が短縮されることを意味し、さらに回生抵抗32において回生電力が熱変換される期間が短縮されることを意味する。したがって、コントローラ熱量の上昇を抑制できる。
【0050】
減速期間T23においては、第1スイッチ31はオフ状態のまま保持されている。よって、整流回路23からコンデンサ28への電力供給が停止され、バス電圧Ebusの上昇が抑制された状態となっている。
【0051】
上記一連の動作において、等速期間T22でのスイッチング期間TAでは、第1スイッチ31のスイッチング動作により動作熱が発生する。ただし、この動作熱は、回生抵抗32による回生電力の熱変換に対して前倒しで生じるものであり、正側動作期間T20内の全体で見れば、発熱が分散されて行われることとなる。つまり、正側動作期間T20での発熱は、第1スイッチ31でのスイッチング動作による発熱(等速期間T22での発熱)と、回生抵抗32での電力回収による発熱(減速期間T23での発熱)とに分散される。したがって、モータ11の作動時において特定の一時期に発熱が集中するといった事態を抑制でき、ひいてはロボットコントローラでの過度な温度上昇が抑制されるようになっている。
【0052】
次に、制御部13により実施される電力回収制御について説明する。図5は、電力回収制御の処理手順を示すフローチャートであり、本処理は、制御部13により所定の時間周期で繰り返し実施される。
【0053】
図5において、まずステップS11では、電圧降下制御を実施するための前提条件が成立するか否かを判定する。この前提条件は、例えば、ロボットコントローラが設置されている環境下での温度であるロボット作業室の温度(温度センサ38の検出温度)があらかじめ定めた所定の判定値(例えば30℃)以上であることを含み、ロボット作業室の温度≧判定値である場合にステップS11が肯定される。そして、ステップS11が肯定されると、ステップS12以降の各ステップにより電圧降下制御が実施される。
【0054】
なお、ステップS11がNOとなる場合には、通常の電力回収制御(図示略)が実施される。この通常の電力回収制御は、図2のタイムチャートで説明した動作を実現する制御に相当する。つまり、かかる電力回収制御では、第1スイッチ31が常時オンのまま保持されるとともに、モータ回生時においてバス電圧Ebus>回生抵抗オン電圧Eonとなる場合に第2スイッチ33が一時的にオンされるようになっている。
【0055】
ステップS12では、今現在、負側及び正側の各動作期間の間の移行期間(図4等の移行期間T30)にあるか否かを判定する。今現在、移行期間であれば、ステップS13に進み、電圧降下態様設定処理を実施する。この電圧降下態様設定処理は、モータ減速期間(モータ回生期間)におけるモータ減速幅に基づいて、モータ回生開始時のバス電圧Ebusである目標電圧VL(減速開始時電圧)と、電圧降下を行わせるためのスイッチング期間TAの時間幅(スイッチング時間幅)とを設定する処理である。ただしその詳細は後述する。
【0056】
また、今現在、移行期間でなければ(ステップS12がNOであれば)、ステップS14,S15の各判定処理により、今現在、負側及び正側の各動作期間において加速、等速、減速のいずれの期間にあるかを判定する。そして、加速期間であれば(ステップS14がYES)、ステップS16に進み、第1スイッチ31をオン状態に保持する制御を実施する。また、等速期間であれば(ステップS15がYES)、ステップS17に進み、ステップS13の電圧降下態様設定処理で設定した電圧降下態様(スイッチング期間TAの時間幅)に基づいて、第1スイッチ31をオン/オフさせてスイッチング動作させる。なお、ステップS14,S15がYESの場合、第2スイッチ33はオフのまま保持される。
【0057】
また、減速期間であれば(ステップS15がNO)、ステップS18に進む。そして、ステップS18では、第1スイッチ31をオフ状態に保持する制御を実施する。また、続くステップS19では、バス電圧Ebus>回生抵抗オン電圧Eonとなる場合に第2スイッチ33をオン状態に制御する。
【0058】
図6は、電圧降下態様設定処理(図5のステップS13)の処理手順を示すフローチャートである。
【0059】
図6において、まずステップS21では、あらかじめ定められた動作パターンに基づいて、モータ11の正側及び負側のいずれかの動作期間における速度指令値を取得し、その速度指令値からモータ11の最大速度Vpを読み出す。なお、ティーチング段階の動作テスト等によって動作パターンの速度データを取得することができ、ゆえに回生開始前でも最大速度Vpの取得は可能である。このとき、図4の負側動作期間T10であれば、最大速度Vpとして「Vp1」が読み出され、正側動作期間T20であれば、最大速度Vpとして「Vp2」が読み出される。本実施形態では、この最大速度Vpがモータ回生期間における「モータ減速幅」に相当し、ステップS21が「モータ減速幅を取得する手段」に相当する。
【0060】
なお、モータ11の最大速度Vpを取得する構成として、加速動作時における都度の速度変化を求め、その速度変化から最大速度Vpを求める構成とすることも可能である。
【0061】
次に、ステップS22では、今回のモータ動作期間(図4の負側動作期間T10、正側動作期間T20のいずれか)におけるバス電圧Ebusのピーク値(以下、ピーク電圧Ebus1とする)を算出する。ピーク電圧Ebus1は、モータ最大速度Vpと基準電圧Etyp(整流回路23の出力電圧)とをパラメータとして、これらVp、Etypに基づいて算出される。具体的には、次の(1)式から得られる(2)式に基づいてピーク電圧Ebus1が算出されるとよい。
【0062】
【数1】

なお、(1)式、(2)式において、mは、モータ11による駆動される可動部(ロボットアーム)の質量であり、Cはコンデンサ28の静電容量である。
【0063】
その後、ステップS23では、ピーク電圧Ebus1が回生抵抗オン電圧Eonよりも大きいか否かを判定する。そして、Ebus1>Eonであれば、後続のステップS24に進み、Ebus1≦Eonであればそのまま本処理を終了する。この場合、Ebus1≦Eonであれば、モータ回生時において第2スイッチ33がオンされることはなく、コンデンサ28の充電のみで回生電力が回収される。
【0064】
ステップS24では、電圧降下時におけるバス電圧Ebusの目標値として目標電圧ELを設定する。目標電圧ELは、モータ減速期間でのモータ減速幅(モータ最大速度Vp)と、そのモータ減速幅でのモータ減速時に回生抵抗により生じる回生抵抗熱との関係、すなわちモータ減速幅が大きくなるほど回生抵抗熱の想定量が大きくなるような関係を用い、都度のモータ減速幅に基づいて算出される減速開始時電圧である。本実施形態では、モータ最大速度Vpを演算パラメータとし、図7(a)の関係に基づいて目標電圧ELを算出する。図7(a)は、モータ最大速度Vpと回生抵抗熱との関係から作成されたものであり、モータ最大速度Vpが大きいほど(すなわち、回生抵抗熱の想定量が大きくなるほど)、目標電圧ELが小さい値として設定されるような関係が定められている。換言すると、モータ最大速度Vpが大きいほど、電圧降下幅(例えば基準電圧Etypとの電圧差でもある)が大きくなるような関係が定められている。
【0065】
図4のタイムチャートで言えば、負側動作期間T10では、モータ最大速度Vp=Vp1であり、目標電圧ELが「EL1」として設定され、正側動作期間T20では、モータ最大速度Vp=Vp2であり、目標電圧ELが「EL2」として設定される。この場合、|Vp1|<|Vp2|であるため、EL1>EL2となっている。
【0066】
なお、目標電圧ELの設定手法として、モータ回生時における回生抵抗32の発熱量Qregを算出し、その発熱量Qregとモータ最大速度Vpとに基づいて目標電圧ELを算出することも可能である。発熱量Qregは、モータ最大速度Vpと基準電圧Etyp(整流回路23の出力電圧)とをパラメータとして、これらVp、Etypに基づいて算出される。具体的には、次の(3)式に基づいて発熱量Qregが算出されるとよい。
【0067】
【数2】

そして、回生抵抗32の発熱量Qregとモータ最大速度Vpとをパラメータとして、これらQreg、Vpに基づいて目標電圧ELを算出する。具体的には、次の(4)式に基づいて目標電圧ELが算出されるとよい。
【0068】
【数3】

その後、ステップS25では、モータ等速期間(図4のT22)においてバス電圧Ebusを目標電圧ELまで電圧降下させるために必要な時間であるスイッチング期間TAの時間幅(以下、スイッチング時間幅HT1という)を算出する。スイッチング時間幅HT1は、モータ減速期間でのモータ減速幅(モータ最大速度Vp)に基づいて算出される電圧降下実施時間である。本実施形態では、モータ最大速度Vpに基づいて算出される目標電圧ELを演算パラメータとして、図7(b)の関係に基づいてスイッチング時間幅HT1を算出する。図7(b)では、目標電圧ELが小さいほど(すなわち、電圧降下幅が大きいほど)、スイッチング時間幅HT1が大きい値として設定されるような関係が定められている。
【0069】
なお、図7(b)の横軸をモータ最大速度Vpとし、モータ最大速度Vpに基づいてスイッチング時間幅HT1を算出することも可能である。横軸をモータ最大速度Vpとした場合、モータ最大速度Vpが大きいほど、スイッチング時間幅HT1が大きい値として設定されるような関係となる。
【0070】
その後、ステップS26では、スイッチング時間幅HT1がモータ等速期間の時間幅HT2よりも小さいか否かを判定する。モータ等速期間の時間幅HT2は、動作パターンとしてあらかじめ定められた時間である。そして、HT1<HT2であれば、スイッチング時間幅HT1を変更することなく、そのままステップS28に進む。これに対し、HT1≧HT2であれば、ステップS27に進んでスイッチング時間幅HT1をモータ等速期間の時間幅HT2で書き換え、その後、ステップS28に進む。つまり、ステップS25で算出したスイッチング時間幅HT1が等速期間の時間幅HT2よりも長い場合に、スイッチング時間幅HT1が等速期間の時間幅HT2で制限されることとなる。
【0071】
その後、ステップS28では、上記算出したスイッチング時間幅HT1で第1スイッチ31がスイッチング動作した場合の発熱量Qswを算出する。発熱量Qswは、少なくともスイッチング時間幅HT1、スイッチング周期Tf、第1スイッチ31のオン時間Tonをパラメータとして、これらHT1、Tf、Tonに基づいて算出される。具体的には、次の(5)式に基づいて発熱量Qswが算出されるとよい。
【0072】
【数4】

なお、Ipは負荷ピーク電流(第1スイッチ31=オン時の電流)、Tswは第1スイッチ31のターンオン及びターンオフに要するディレイ時間、Ronは第1スイッチ31のオン抵抗である。
【0073】
ステップS29では、第1スイッチ31の発熱量Qswが、あらかじめ定めた上限値Qthよりも小さいか否かを判定する。そして、Qsw<Qthであれば、スイッチング時間幅HT1を変更することなく、そのまま本処理を終了する。また、Qsw≧Qthであれば、ステップS30に進み、スイッチング時間幅HT1を短縮する。このとき、次の(6)式に基づいて、上限値Qthを超えないスイッチング時間幅HT1が算出されるとよい。
【0074】
【数5】

モータ11の各動作期間では、上記のように算出されたスイッチング時間幅HT1に基づいて電圧降下の処理が実施される。これにより、各動作期間の等速期間において、モータ減速期間での回生電力の回収に備えて事前にバス電圧Ebus(コンデンサ充電電圧)が降圧されることとなる。
【0075】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の優れた効果が得られる。
【0076】
モータ11の回生開始前において、モータ11の各動作期間におけるモータ最大速度Vp(モータ回生期間におけるモータ減速幅)に基づいて、モータ回生開始時のバス電圧Ebusの目標値である目標電圧EL(減速開始時電圧)と、第1スイッチ31のスイッチング時間幅HT1(スイッチング実施態様)とを設定するとともに、第1スイッチ31の開閉状態を制御することにより目標電圧ELまでバス電圧Ebusを降下させる構成とした。かかる構成によれば、モータ回生時にはコンデンサ28による電力回収量が増加し、その結果として、回生抵抗32による電力回収(すなわち熱変換)を減らすことができる。
【0077】
ここで、電圧降下処理の実施に際し、第1スイッチ31を開閉(スイッチング動作)させる場合にはその開閉動作によって熱が生じるが、そのスイッチング動作熱は回生開始前の等速期間(言い換えれば、回生電力が生じない期間)で生じるのであり、時間軸で見れば、第1スイッチ31のスイッチング動作による発熱と、回生抵抗32による電力回収による発熱とは前後に分散されることになる。したがって、発熱が一時期に集中して生じることによる不都合を抑制できる。ロボットコントローラ内の熱を放熱ファンにより排出する構成で言えば、その放熱ファンの能力を無駄なく使い、効率的な排熱を実施することができるようになる。
【0078】
このように本実施形態では、発熱の分散を図りかつ回生抵抗32の発熱量を低減させることができ、仮にロボットコントローラの設置環境下における温度(ロボット作業室の温度)が高温状態にあっても、ロボットコントローラ内の温度が所定温度を超えてしまい同ロボットコントローラが意図せず停止されるような事態を抑制することが可能になる。これにより、ロボットコントローラの設置環境にかかわらずロボットの継続運転が可能となり、ひいてはロボットの運転効率を良好に保つことが可能となる。
【0079】
また、上記構成では、モータ最大速度Vpと回生抵抗熱との関係を用い、モータ最大速度Vpに基づいて電圧降下が行われるため、モータ回生時に実際に生じる回生電力の量(回生抵抗熱の想定量も同意)に合わせて電圧降下を実施できる。そのため、モータ回生以前において電圧降下が過剰に行われることを抑制でき、モータ駆動への影響も排除できる。さらに、等速期間について言えば、第1スイッチ31を繰り返し開閉させることでなだらかに電圧が降下する。そのため、等速期間において急激な電圧降下によりコンデンサ充電電圧が下がり過ぎてしまうという事態を抑制でき、モータ11の等速動作を妨げることなく電圧降下を実施できる。
【0080】
以上により、モータ回生時において発熱が一気に増えることを抑制し、しかも好適な状態でモータ11を駆動させることができるものとなる。
【0081】
また、モータ回生時における回生抵抗32による発熱を減らすには、コンデンサ28の電力回収量を増やす(すなわち、コンデンサ容量を増やす)ことも考えられるが、かかる処置は電子部品の利用効率を考えると望ましいとは言えない。この点、本実施形態によれば、コンデンサ28の電力回収量を増やす必要もなく、電子部品の利用効率を好適に維持できるものとなる。
【0082】
スイッチング時間幅HT1がモータ等速期間の時間幅HT2よりも長い場合に、スイッチング時間幅HT1をモータ等速期間の時間幅HT2で制限する構成とした。この場合、等速期間の直前期間である加速期間では電圧降下の処理が実施されないことになるため、加速期間では、モータ駆動を優先した電力供給が行われる。したがって、電圧降下の処理により加速期間でのモータ駆動に支障が及ぶといった不都合を回避できる。
【0083】
第1スイッチ31を開閉させる際に生じる発熱量Qswを推定し、その発熱量Qswが所定の上限値Qthを超える場合に、第1スイッチ31の開閉による発熱量を減らすべくそのスイッチング態様を変更する構成とした。具体的には、スイッチング時間幅HT1を短縮する構成とした。かかる場合、モータ回生開始前における発熱量をも考慮してロボットコントローラの発熱量を監視することができ、一層適切に発熱量の管理を実施できる。
【0084】
モータ11の減速期間(モータ回生期間)において、整流回路23とコンデンサ28との間の電力経路24を第1スイッチ31により遮断する構成とした。これにより、モータ回生時には整流回路23からコンデンサ28への電力供給が停止され、コンデンサ充電電圧の上昇速度が遅くなる。したがって、やはり回生抵抗32による電力回収(すなわち熱変換)を減らすことができる。
【0085】
加速期間、等速期間及び減速期間を含む期間を1動作期間(負側動作期間又は正側動作期間)とし、その動作期間ごとに電圧降下態様を設定する構成とした。具体的には、複数の動作期間の間となる各移行期間(モータ速度=0の期間)で、次のモータ動作期間における目標電圧ELやスイッチング時間幅HT1を設定する構成とした。これにより、各動作期間でモータ最大速度Vpが相違する場合にも、都度の動作期間に合った態様で電圧降下の処理を実施することができる。
【0086】
ロボット作業室の温度(すなわち、ロボットコントローラが設置されている環境下の温度)に基づいて、電圧降下の処理を実施するか否かを判断する構成としたため、発熱量を低減することの必要性に応じて、電圧降下の処理を適宜実施することができる。例えば、ロボットコントローラが過高温となる状況でのみ、電圧降下の処理を実施する構成とすることができる。
【0087】
[他の実施形態]
本発明は上記実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施されてもよい。
【0088】
・上記実施形態では、モータ11の回生開始前の等速期間においてバス電圧Ebus(コンデンサ充電電圧)を降下させる場合に、都度の目標電圧EL(又はモータ最大速度Vp)に基づいてスイッチング時間幅HT1を設定し、そのスイッチング時間幅HT1の期間(図4のスイッチング期間TA)内で第1スイッチ31を開閉させる構成としたが、これを変更してもよい。例えば、都度の目標電圧EL(又はモータ最大速度Vp)に基づいて、スイッチング期間TAでの第1スイッチ31のオン時間(デューティ比)を可変に設定する構成としてもよい。つまり、スイッチング実施態様として、スイッチング時間幅HT1に代えて、第1スイッチ31のオン時間(デューティ比)を設定する。このとき、スイッチング期間TAの時間幅を一定とし、かつ目標電圧ELが小さいほど(すなわち、電圧降下幅が大きいほど)、第1スイッチ31のオン時間(デューティ比)を小さくし、電圧降下速度を大きくする。
【0089】
・上記実施形態では、スイッチング時間幅HT1がモータ等速期間の時間幅HT2よりも長くならないように、スイッチング時間幅HT1をモータ等速期間の時間幅HT2で制限した。すなわち、モータ加速期間では電圧降下を実施しないようにした。この構成を変更してもよい。モータ加速期間においても、第1スイッチ31の開閉による電圧降下を実施してもよい。ただし、モータ11の加速動作に影響が及ばないようにすべく、例えば、モータ加速期間では、モータ等速期間よりも第1スイッチ31のオン時間(デューティ比)を大きくするとよい。つまり、モータ等速期間だけでなくモータ加速期間においても電圧降下の処理を実施する場合には、モータ加速期間とモータ等速期間とで制御内容を異ならせるとよい。
【0090】
・スイッチング時間幅HT1がモータ等速期間の時間幅HT2よりも長い場合に、スイッチング時間幅HT1をモータ等速期間の時間幅HT2で制限することに加え、例えば、第1スイッチ31のオン時間(デューティ比)を小さくすることでスイッチング態様を変更し、それにより、電圧降下速度を大きくするようにしてもよい。この場合、電圧降下の処理により加速期間でのモータ駆動に支障が及ぶといった不都合を回避しつつ、所望とする電圧降下を実現できる。
【0091】
・上記実施形態では、モータ11の減速時においてモータ速度が最大速度Vpから0まで低下する場合を想定したが、モータ速度が最大速度Vpから0より大きい所定速度まで低下する場合にも本発明を適用できる。この場合、モータ最大速度Vpと所定速度(減速が停止されたモータ速度)との差であるモータ減速幅に基づいて、目標電圧ELやスイッチング時間幅HT1を算出するとよい。
【0092】
・上記実施形態では、モータ最大速度Vp(モータ回生期間におけるモータ減速幅)に基づいて目標電圧ELを設定する構成としたが、これに代えて、モータ最大速度Vpと都度のロボット作業室の温度(ロボットコントローラの設定環境下の温度)とに基づいて目標電圧ELを設定する構成としてもよい。この場合、ロボット作業室の温度が高いほど、コントローラ熱量が上限値に達する可能性が高くなる。よって、ロボット作業室の温度が高いほど、目標電圧ELを小さい値に設定するとよい。
【0093】
・ロボットコントローラの設定環境における温度情報として、ロボット作業室の温度に代えて、ロボットコントローラの内部温度を用いる構成としてもよい。この場合、ロボットコントローラの内部温度を温度センサにより検出するとよい。
【0094】
・上記実施形態では、第1スイッチ31のスイッチング発熱量Qswが所定の上限値Qthを超える場合に、スイッチング時間幅HT1を短縮することでスイッチング態様を変更し、それによりスイッチング発熱量を減らすようにしたが、これを変更してもよい。例えば、第1スイッチ31のオン時間(デューティ比)を小さくすることでスイッチング態様を変更し、それにより、電圧降下速度を大きくする。この場合、スイッチング回数(オン/オフの切替回数)を減らすことでスイッチング発熱量を減らしつつも、所望とする電圧降下を実現できる。
【0095】
・上記実施形態では、例えば図4に示す減速期間T23において、第1スイッチ31をオフ状態のまま保持する構成としたが、これを変更し、第1スイッチ31をオン/オフ切替(スイッチング)させることも可能である。この場合にも、モータ回生時に整流回路23からコンデンサ28への電力供給が制限されるため、やはり回生抵抗32による電力回収(すなわち熱変換)を減らすことが可能となる。
【符号の説明】
【0096】
11…モータ、12…モータ駆動装置、13…制御部(電力回収制御手段、電圧降下制御手段)、21…交流電源、23…整流回路、24,25…電力経路、28…コンデンサ、30…駆動回路、31…第1スイッチ、32…回生抵抗、33…第2スイッチ、38…温度センサ(温度検出手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電力を整流して直流電力を出力する整流回路と、
前記整流回路の出力側の電力経路に接続されたコンデンサと、
前記整流回路から前記電力経路を通じて直流電力が供給され、その直流電力を駆動電力に変換してモータを駆動するインバータ回路と、
を備え、前記インバータ回路を制御することにより、前記モータを、加速期間、等速期間及び減速期間からなる所定の動作パターンにより動作させるロボットコントローラであって、
前記整流回路と前記コンデンサとの間において前記電力経路を開閉する第1スイッチと、
前記電力経路に接続され、前記モータの回生電力を熱変換により回収する回生抵抗と、
前記回生抵抗に直列に接続された第2スイッチと、
前記減速期間において、前記コンデンサの充電により回生電力を回収させるとともに、前記コンデンサの充電電圧があらかじめ定めた所定の上限電圧に達した場合に、前記第2スイッチを閉じて前記回生抵抗により回生電力を回収させる電力回収制御手段と、
前記減速期間の直前となる等速期間において、前記第1スイッチを繰り返し開閉させることにより前記コンデンサの充電電圧を降下させる電圧降下処理を実施する電圧降下制御手段と、
を備え、
前記電圧降下制御手段は、
前記等速期間での電圧降下処理の開始前に、前記減速期間におけるモータ減速幅を取得する手段と、
モータ減速幅とそのモータ減速幅でのモータ減速時に前記回生抵抗により生じる回生抵抗熱との関係を用い、前記取得したモータ減速幅に基づいて、減速開始時のコンデンサ充電電圧である減速開始時電圧と、前記第1スイッチの開閉により電圧降下を行わせる際のスイッチング実施態様とを設定する手段と、
前記設定したスイッチング実施態様で前記第1スイッチの開閉状態を制御することにより、前記設定した減速開始時電圧まで前記コンデンサの充電電圧を降下させる手段と、
を備えることを特徴とするロボットコントローラ。
【請求項2】
前記電圧降下制御手段は、前記スイッチング実施態様として、前記第1スイッチを所定のスイッチング周期で繰り返し開閉させる時間であるスイッチング時間幅を、前記モータ減速幅に基づいて設定し、該設定したスイッチング時間幅が前記等速期間の時間幅よりも長い場合に、前記スイッチング時間幅を前記等速期間の時間幅で制限する請求項1に記載のロボットコントローラ。
【請求項3】
前記設定したスイッチング実施態様にて前記第1スイッチを開閉させる場合に生じる発熱量を、その開閉の実施時における第1スイッチのスイッチング時間幅、スイッチング周期、及び第1スイッチのオン時間に基づいて推定する推定手段を備え、
前記電圧降下制御手段は、前記推定した発熱量が、あらかじめ定めた所定の発熱量を超える場合に、前記第1スイッチの開閉による発熱量を減らすべく前記スイッチング実施態様を変更する請求項1又は2に記載のロボットコントローラ。
【請求項4】
前記減速期間に、前記整流回路と前記コンデンサとの間の電力経路を前記第1スイッチにより遮断する手段を更に備える請求項1乃至3のいずれか1項に記載のロボットコントローラ。
【請求項5】
前記モータは産業用ロボットの可動部に設けられる交流サーボモータであり、
当該ロボットコントローラが設置される環境下での温度を検出する温度検出手段を備え、
前記電圧降下制御手段は、前記検出した温度に基づいて、前記電圧降下処理を実施するか否かを判断する請求項1乃至4のいずれか1項に記載のロボットコントローラ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−152008(P2012−152008A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−8587(P2011−8587)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(501428545)株式会社デンソーウェーブ (1,155)
【Fターム(参考)】