説明

ロボットシステム

【課題】高トルク運転時にモータに対して十分な電力を供給可能にするとともに、減速動作時にモータから生じる回生エネルギーを有効利用可能にする。
【解決手段】昇降圧回路29は、入力電圧を昇圧して出力する昇圧動作、入力電圧を降圧して出力する降圧動作および入力電圧をそのまま出力する非昇降圧動作のいずれかの動作を実行する。制御部27は、自動モードに設定されるとモータMの動作状態に応じて昇降圧回路29の動作状態を自動的に切り替え、高トルクモードに設定されると昇圧動作を実行するように昇降圧回路29の動作を制御し、省エネモードに設定されると降圧動作を実行するように昇降圧回路29の動作を制御する。制御部27は、回生エネルギーをインダクタL1に蓄積可能な状態となるように昇降圧回路29の動作を制御する機能と、モータMに対するダイナミックブレーキをかけるように昇降圧回路29の動作を制御する機能とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットの各軸を駆動するためのモータから減速動作時に回生するエネルギーを消費するための回生消費回路を備えたロボットシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
ロボットの各関節(各軸)は、それぞれモータにより駆動されるようになっており、これらモータは、コントローラに内蔵されるモータアンプ(駆動手段)により駆動される。このモータアンプは、例えばインバータ回路を主体として構成されており、電源回路から一対の電源線を介して与えられる直流電圧(バス電圧)を所定の周波数を持つ交流電圧に変換してモータへの電力供給を行う。
【0003】
このような構成において、モータを減速動作させる際にはモータ側からモータアンプ側にエネルギーが回生され、これに伴いバス電圧が上昇する。このため、コントローラには、電源線に接続される各回路素子(インバータ回路のスイッチング素子、電源線間に接続されるコンデンサなど)の定格を超えてバス電圧が上昇しないように、上記回生されたエネルギー(回生エネルギー)を熱エネルギーに変換して放出する回生消費回路が設けられている。
【0004】
回生消費回路では、電源線間に直列に設けられた回生抵抗に回生電流を流すことで、回生エネルギーを熱エネルギーに変換している。つまり、回生エネルギーは、有効利用されることなく、回生消費回路により消費されていた。ロボットシステム全体としての省エネルギー化を図るため、上記回生エネルギーを有効に利用したいという要望がある。また、一方では、例えばモータの加速動作時など、高速運転時においても高いトルクを発生させたいという要望もある。高速運転時に高いトルクを発生するためには、それに見合うだけの高い電力をモータに供給する必要がある。
【0005】
特許文献1には、高いトルクを必要とする力行時にインバータ部に供給する直流電圧を昇圧することで、高いトルクを発生するのに十分な電力をモータに供給する構成が開示されている。また、特許文献1には、回生時にバッテリおよびインバータ間の電力供給経路に直列に介在するスイッチをオンすることでモータ側から回生するエネルギーをバッテリにて回収する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−22157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載された構成をロボットシステムに用いれば、高いトルクが必要な際に、そのトルクをモータが発生するのに十分な電力供給を行うことは可能となる。しかし、ロボットシステムにおいて、バス電圧を供給する電源線間には、バッテリと比べて容量の小さいコンデンサのみが接続されている。つまり、ロボットシステムにおいては、そもそもバッテリを設けること自体が想定されていない。このため、バッテリに回生エネルギーを回収するという上記従来技術をロボットシステムに適用することはできない。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、高トルク運転時にモータに対して十分な電力を供給することができるとともに、減速動作時にモータから生じる回生エネルギーを有効利用することができるロボットシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の手段によれば、ロボットの各軸を駆動するためのモータは、駆動手段によって駆動される。この駆動手段は、電源回路から出力電源線および基準電源線を介して与えられる出力電圧の供給を受けて動作する。そして、駆動制御手段は、モータの回転速度を回転速度指令に一致させるように駆動手段によるモータの駆動をフィードバック制御する。また、出力電源線および基準電源線間には、回生スイッチ手段および回生抵抗の直列回路からなる回生消費回路が設けられている。そして、回生制御手段は、上記出力電圧を検出する出力電圧検出手段の検出値が回生消費電圧値未満のときにあっては回生スイッチ手段をオフし、上記検出値が回生消費電圧値以上のときにあっては回生スイッチ手段をオンする。
【0010】
このような構成において、減速動作時にモータから回生されるエネルギー(回生エネルギー)は、出力電源線および基準電源線間に接続されたコンデンサに静電エネルギーとして蓄積される。つまり、モータの減速動作時には、回生エネルギーによりコンデンサが充電され、コンデンサの端子間電圧である出力電圧が上昇する。そして、出力電圧(出力電圧検出手段の検出値)が回生消費電圧値以上になると、回生消費回路の回生抵抗に電流を流すことで回生エネルギーを熱エネルギーとして放出し、出力電圧が回生消費電圧値未満になるようにその電圧上昇が抑えられる。
【0011】
電源回路は、昇圧動作、降圧動作および非昇降圧動作を選択的に実行可能に構成されたものであり、インダクタ、第1のスイッチ手段、第1のダイオード、第2のスイッチ手段、第2のダイオードおよび第3のスイッチ手段を備えている。第1のスイッチ手段は、入力電源線とインダクタの一方の端子との間に接続されている。第1のダイオードは、インダクタの一方の端子と基準電源線との間に、基準電源線側をアノードとして接続されている。第2のスイッチ手段は、インダクタの他方の端子と基準電源線との間に接続されている。第2のダイオードは、インダクタの他方の端子と出力電源線との間に、インダクタの他方の端子をアノードとして接続されている。第3のスイッチ手段は、インダクタの一方の端子と出力電源線との間に接続されている。
【0012】
電源制御手段は、外部から与えられる動作指令および動作状態判断手段の判断結果に応じて、電源回路の動作を制御する。動作状態判断手段は、回転速度指令を用いてモータの動作状態を判断するものである。具体的には、電源制御手段は、昇圧動作の実行を指令する動作指令が与えられると、第1のスイッチ手段をオンするとともに第3のスイッチ手段をオフした状態で、出力電圧検出手段の検出値が昇圧値となるように第2のスイッチ手段をスイッチング(チョッパ)する。なお、昇圧値は、入力電圧の値よりも高い所定値である。これにより、電源回路は、入力電源線および基準電源線を介して与えられる入力電圧を昇圧して出力電源線および基準電源線を介して出力する昇圧コンバータとして機能する。また、電源制御手段は、降圧動作の実行を指令する動作指令が与えられると、第2および第3のスイッチ手段をオフした状態で、出力電圧検出手段の検出値が降圧値となるように第1のスイッチ手段をスイッチング(チョッパ)する。なお、降圧値は、入力電圧の値よりも低い所定値である。これにより、電源回路は、入力電圧を降圧して出力する降圧コンバータとして機能する。また、電源制御手段は、非昇降圧動作の実行を指令する動作指令が与えられると、第1のスイッチ手段をオンするとともに、第2および第3のスイッチ手段をオフする。これにより、電源回路は、入力電圧を昇圧および降圧のいずれもすることなく出力する。このときの出力電圧は、第1のスイッチ手段のオン状態での抵抗およびインダクタの等価直列抵抗による電圧降下分と、第2のダイオードの順方向電圧とを併せた分だけ入力電圧よりも低いものとなる。
【0013】
電源回路が昇圧動作を実行する場合、入力電圧から昇圧値まで昇圧された出力電圧が駆動手段に供給される。このため、駆動手段は、比較的高い出力電圧の供給を受けてモータを駆動することができる。従って、電源回路が昇圧動作を実行することで、高いトルクを得るために十分な電力をモータに供給することが可能となる。これにより、例えばモータの高速回転状態のときにおいても高いトルクを出すことが可能になる。
【0014】
電源回路が降圧動作を実行する場合、出力電圧は通常の電圧値(入力電圧の値にほぼ等しい電圧値)よりも低い降圧値まで降圧される。このため、モータの減速動作時、回生エネルギーにより上昇する出力電圧(コンデンサの端子間電圧)が回生消費電圧値に達するまでにコンデンサに蓄積可能なエネルギー量は、出力電圧を通常の電圧値にした場合(従来の構成)に比べると、通常の電圧値と降圧値との差に応じた量だけ多くなる。すなわち、コンデンサの空き容量を従来の構成に比べて増加させることで、減速動作時にコンデンサにより多くのエネルギーを蓄積することが可能となる。
【0015】
このように、出力電圧を降圧値まで低下させることによって、減速動作時にコンデンサの端子間電圧が回生消費電圧値まで上昇しなければ、回生エネルギーを全て有効利用することができる。また、減速動作時にコンデンサの端子間電圧が回生消費電圧値まで上昇する場合でも、出力電圧を通常の電圧値にした場合に比べると、回生消費回路の動作時間を短くすることができるため、回生消費回路により消費されるエネルギー(無駄になるエネルギー)を低減し、残りの回生エネルギーを有効利用することが可能となる。
【0016】
電源回路が非昇降圧動作を実行する場合、出力電圧は入力電圧にほぼ等しい電圧値となる。また、この場合、電源回路の第1および第2のスイッチ手段は、いずれもスイッチング動作しない。このため、電源回路の動作に伴う電力の消費量は極めて小さくなる。従って、駆動手段に供給する出力電圧が入力電圧とほぼ等しいものでよい場合、例えばモータの等速動作時などにおいて、電力の消費を抑えることが可能となる。
【0017】
このような電源回路の動作状態を、ロボットの一連の動作に合わせて適宜切り替えることにより、加速動作時における高トルク出力、等速動作時における電力消費の低減および減速動作時における回生エネルギーの回収といった機能を実現することが可能となる。つまり、本手段によれば、電源回路の動作状態を適宜変更することにより、高トルク運転時にモータに対して十分な電力を供給することができるとともに、減速動作時にモータから生じる回生エネルギーを有効利用することができる。
【0018】
また、電源制御手段は、動作状態判断手段によりモータが減速動作中であると判断された場合において、出力電圧検出手段の検出値が回生経路切替値に達すると、そのときの電源回路の動作状態にかかわらず、第1のスイッチ手段をオフするとともに第2のスイッチ手段をオンする。また、このとき、電源制御手段は、第3のスイッチ手段をオンする。回生経路切替値は、昇圧値よりも高く且つ回生消費電圧値より低い値に設定される。すなわち、回生経路切替値は、出力電圧の定常値(降圧動作時の降圧値〜昇圧動作時の昇圧値)よりも高く且つ回生消費電圧値よりも低い値に設定される。
【0019】
このような構成により、モータの減速動作時において出力電圧検出手段の検出値が回生経路切替値に達した後は、出力電源線から第3のスイッチ手段、インダクタおよび第2のスイッチ手段を介して基準電源線に至る通電経路が形成され、モータ側から回生するエネルギーがインダクタに電磁エネルギーとして蓄積されるようになる。このようにして回生エネルギーがインダクタに蓄積される期間は、コンデンサに対する更なるエネルギーの蓄積は行われないため、その端子間電圧は上昇しない。このため、減速動作時に出力電圧が回生消費電圧値に達するタイミングが上記期間だけ遅くなることで回生消費回路の動作時間が短くなり、その分だけ無駄に消費されるエネルギー量が低減される。
【0020】
そして、電源制御手段は、動作状態判断手段によりモータの減速動作が終了したと判断されると、第1〜第3のスイッチ手段のオンオフ状態を電源回路の動作状態に応じた状態に戻す。これにより、上記減速動作時にインダクタに蓄えられたエネルギーは、その減速動作の終了後に実行される加速動作などにおいて使用されることになる。すなわち、本手段によれば、減速動作時の回生エネルギーをさらに有効利用することが可能となる。
【0021】
また、電源制御手段は、異常検出手段によりモータの異常が検出されると、または、外部から緊急停止を指令する緊急停止指令が与えられると、以下のようにしてモータに対してダイナミックブレーキをかける。すなわち、電源制御手段は、そのときの電源回路の動作状態にかかわらず、第1のスイッチ手段をオフするとともに第2のスイッチ手段をオンし、さらに第3のスイッチ手段をオンする。これにより、モータの相間が第3のスイッチ手段、インダクタおよび第2のスイッチ手段を介して短絡された状態になる。また、一般に、スイッチ手段はオンの状態であっても抵抗値がゼロであることはなく、所定の抵抗(オン抵抗)を有しており、インダクタは所定の等価直列抵抗を有している。
【0022】
すなわち、モータの相間が所定の抵抗を介して短絡された状態になり、モータに対してダイナミックブレーキがかけられた状態となる。通常、ダイナミックブレーキをかけるためには、出力電源線および基準電源線間に、ダイナミックブレーキ専用のスイッチ手段および抵抗を直列に設ける必要がある。本手段によれば、電源回路の各スイッチ手段およびインダクタを用いて、ダイナミックブレーキをかけることが可能となるため、ダイナミックブレーキ専用のスイッチ手段および抵抗を設ける必要がなくなり、その分だけ回路構成を簡単化し、コスト低減を図ることが可能となる。
【0023】
請求項2に記載した手段によれば、電源制御手段は、自動モードの実行を指令する動作指令が与えられると、動作状態判断手段の判断結果に応じて電源回路の動作状態を自動的に切り替える。具体的には、電源制御手段は、動作状態判断手段によりモータが加速動作中であると判断されるとき、昇圧動作を実行するように電源回路の動作を制御する。また、電源制御手段は、動作状態判断手段によりモータが等速動作中であると判断されるとき、非昇降圧動作を実行するように電源回路の動作を制御する。さらに、電源制御手段は、動作状態判断手段によりモータが減速動作中であると判断されるとき、降圧動作を実行するように電源回路の動作を制御する。すなわち、電源制御手段は、モータの加速動作時に昇圧動作を実行し、等速動作時に非昇降圧動作を実行し、減速動作時に降圧動作を実行するように、電源回路の動作状態を自動的に切り替える。
【0024】
このように電源回路の動作状態を自動的に切り替えることにより、モータの加速動作時には入力電圧から昇圧値まで昇圧された出力電圧が駆動手段に供給される。このため、高いトルクを出すことが本来的に必要となる加速動作時において、その高いトルクを得るために十分な電力をモータに供給することが可能となる。また、モータの等速動作時には入力電圧にほぼ等しい出力電圧が駆動手段に供給される。この等速動作時には、加速動作時に比べて必要となるトルクが低い上、減速動作時のようにモータ側からエネルギーが回生されることもない。従って、電源回路の出力電圧としては入力電圧にほぼ等しいものでよい。このようなことから、等速動作時には電源回路に昇圧動作および降圧動作のいずれもさせない。これにより、昇圧動作および降圧動作の実行に伴って生じる電力の消費を抑えることができる。
【0025】
また、モータの減速動作時には出力電圧を通常の電圧値(入力電圧の値にほぼ等しい電圧値)よりも低い降圧値まで降圧する。これにより、出力電圧を通常の電圧値にした場合に比べ、コンデンサの空き容量が増加するので、減速動作時にコンデンサにより多くのエネルギーを蓄積することが可能となる。このように電源回路の動作状態を自動的に切り替えることにより、ロボットの一連の動作に応じて必要とされる機能、すなわち加速動作時における高トルク出力、等速動作時における電力消費の低減および減速動作時における回生エネルギーの回収といった機能を自動的に実現することが可能となる。
【0026】
請求項3に記載した手段によれば、電源制御手段は、高トルクモードの実行を指令する動作指令が与えられると、動作状態判断手段の判断結果にかかわらず、昇圧動作を実行するように電源回路の動作を制御する。このようにすれば、モータの動作状態にかかわらず、入力電圧から昇圧値まで昇圧された出力電圧が駆動手段に供給される。このため、高トルク出力のみを必要とする用途において、その機能を確実に実現することが可能となる。
【0027】
請求項4に記載した手段によれば、電源制御手段は、省エネモードの実行を指令する動作指令が与えられると、動作状態判断手段の判断結果にかかわらず、降圧動作を実行するように電源回路の動作を制御する。このようにすれば、モータの動作状態にかかわらず、出力電圧を通常の電圧値よりも低い降圧値まで降圧することが可能となる。このため、回生エネルギーの回収のみを必要とする用途において、その機能を確実に実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態を示すロボットシステムの電気構成図
【図2】モータ制御の内容を等価的に示すブロック図
【図3】ロボットシステムの構成を概略的に示す図
【図4】回生消費回路の動作制御の内容を示すフローチャート
【図5】一連の動作を行う際の回転速度およびバス電圧を示す図
【図6】モータの動作状態を判断する制御の内容を示すフローチャート
【図7】モータの速度指令および加速度指令を示す図
【図8】初期制御の内容を示すフローチャート
【図9】通常モード設定時の回転速度、バス電圧および各スイッチの状態を示す図
【図10】高トルクモード設定時の図9相当図
【図11】省エネモード設定時の図9相当図
【図12】電源自動切替制御の内容を示すフローチャート
【図13】自動モード設定時の回転速度およびバス電圧を示す図
【図14】回生経路切替制御の内容を示すフローチャート
【図15】回生経路切替制御が実行される際の図9相当図
【図16】ダイナミックブレーキ制御が実行される際の図9相当図
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図3は、一般的な産業用ロボットのシステム構成を示している。図3に示すロボットシステム1は、ロボット2と、ロボット2を制御するコントローラ3と、コントローラ3に接続されたティーチングペンダント4とから構成されている。
ロボット2は、例えば6軸の垂直多関節型ロボットとして構成されている。ロボット2は、ベース5と、ベース5に水平方向に回転可能に支持されたショルダ部6と、ショルダ部6に上下方向に回転可能に支持された下アーム7と、下アーム7に上下方向に回転可能に支持された第1の上アーム8と、第1の上アーム8に捻り回転可能に支持された第2の上アーム9と、第2の上アーム9に上下方向に回転可能に支持された手首10と、手首10に捻り回転可能に支持されたフランジ11とから構成されている。
【0030】
ベース5、ショルダ部6、下アーム7、第1の上アーム8、第2の上アーム9、手首10およびフランジ11は、ロボット2のアームとして機能し、アーム先端であるフランジ11には、図示はしないが、エンドエフェクタ(手先)が取り付けられる。ベース5、ショルダ部6、下アーム7、第1の上アーム8、第2の上アーム9、手首10およびフランジ11は、ロボット2のアームとして機能する。ロボット2の各アーム(複数の軸)はそれぞれに対応して設けられるモータ(図1に符号Mを付して示す)により駆動される。各モータの近傍には、それぞれの回転軸の回転位置を検出するための位置検出器(図示せず)が設けられている。
【0031】
ティーチングペンダント4は、例えば使用者が携帯あるいは手に所持して操作可能な程度の大きさで、例えば薄型の略矩形箱状に形成されている。ティーチングペンダント4には、各種のキースイッチ12が設けられており、使用者は、キースイッチ12により種々の入力操作を行う。ティーチングペンダント4は、ケーブルを経由してコントローラ3に接続され、通信インターフェイスを経由してコントローラ3との間で高速のデータ転送を実行するようになっており、キースイッチ12の操作により入力された操作信号等の情報はティーチングペンダント4からコントローラ3へ送信される。
【0032】
図1は、ロボットシステムの電気構成を概略的に示すブロック図である。ロボット2には、各軸をそれぞれ駆動するための複数のモータM(図1では1つのみ示す)が設けられている。モータMは例えばブラシレスDCモータである。コントローラ3には、交流電源21より供給される交流を整流および平滑して出力する直流電源回路22、回生消費回路23、モータMを駆動するインバータ装置24、電流検出部25、位置検出部26およびこれら各装置の制御などを行う制御部27が設けられている。
【0033】
直流電源回路22は、整流回路28、昇降圧回路29および平滑用のコンデンサ30から構成されている。整流回路28は、ダイオードをブリッジの形態に接続してなる周知構成のものである。例えば3相200Vの交流電源21の各相出力は、整流回路28の交流入力端子に接続されている。整流回路28の直流出力端子は、それぞれ入力電源線31および基準電源線32に接続されている。
【0034】
昇降圧回路29(電源回路に相当)は、トランジスタQ1、Q2、インダクタL1、ダイオードD1、D2およびスイッチSW1を備えている。トランジスタQ1(第1のスイッチ手段に相当)は、Nチャネル型のパワーMOSFETであり、そのドレインは入力電源線31に接続され、そのソースはインダクタL1の一方の端子に接続されている。ダイオードD1(第1のダイオードに相当)は、インダクタL1の一方の端子と基準電源線32との間に、基準電源線32側をアノードとして接続されている。トランジスタQ2(第2のスイッチ手段に相当)は、Nチャネル型のパワーMOSFETであり、そのドレインはインダクタL1の他方の端子に接続され、そのソースは基準電源線32に接続されている。
【0035】
ダイオードD2(第2のダイオードに相当)は、インダクタL1の他方の端子と出力電源線33との間に、インダクタL1の他方の端子側をアノードとして接続されている。スイッチSW1(第3のスイッチ手段に相当)は、例えばリレーなどの機械式のスイッチであり、インダクタL1の一方の端子と出力電源線33との間に接続されている。なお、スイッチSW1は、例えばパワーMOSFETやバイポーラトランジスタなど、半導体スイッチング素子により構成してもよい。出力電源線33および基準電源線32の間には、コンデンサ30が接続されている。
【0036】
昇降圧回路29は、昇圧動作、降圧動作および非昇降圧動作のうち、いずれかの動作を実行するようになっている。昇圧動作は、入力電源線31および基準電源線32を介して与えられる入力電圧(整流回路28から出力される直流電圧)を昇圧して出力電源線33および基準電源線32を介して出力するものである。降圧動作は、入力電圧を降圧して出力電源線33および基準電源線32を介して出力するものである。非昇降圧動作は、入力電圧を昇圧および降圧のいずれもすることなく出力電源線33および基準電源線32を介して出力するものである。
【0037】
昇降圧回路29による上記各動作は、トランジスタQ1、Q2の駆動状態およびスイッチSW1の開閉状態に応じて切り替えられる。トランジスタQ1、Q2の駆動およびスイッチSW1の開閉は、制御部27により制御される。すなわち、本実施形態では、制御部27が、昇降圧回路29の動作を制御する電源制御手段に相当する。制御部27は、出力電源線33および基準電源線32間のバス電圧BV(出力電圧)の値を検出する出力電圧検出手段としての機能およびモータMの動作状態を判断する動作状態判断手段としての機能(後述する)を備えている。このような機能を備えた制御部27は、後述するモード選択フラグおよびモータMの動作状態の判断結果に応じて、昇降圧回路29の動作を制御する。
【0038】
制御部27は、昇圧動作を実行する場合、スイッチSW1をオフするとともにトランジスタQ1をオンした状態で、バス電圧BVの検出値が昇圧値BVHとなるようにトランジスタQ2をスイッチング(チョッパ)する。なお、昇圧値BVHは、入力電圧の値(例えば、約282V)よりも高い所定値とする。これにより、昇降圧回路29は、入力電圧を昇圧して出力する昇圧コンバータとして機能する。
【0039】
制御部27は、降圧動作の実行する場合、スイッチSW1およびトランジスタQ2をオフした状態で、バス電圧BVの検出値が降圧値BVLとなるようにトランジスタQ1をスイッチング(チョッパ)する。なお、降圧値BVLは、入力電圧の値よりも低く、且つモータMを駆動するために最低限必要な電圧値であればよく、直流電源回路22、モータM、インバータ装置24などの仕様に応じて適宜変更すればよい。これにより、昇降圧回路29は、入力電圧を降圧して出力する降圧コンバータとして機能する。ただし、昇降圧回路29が上記降圧動作を実行している期間であっても、後述する回生エネルギーが生じる期間では、バス電圧BVは降圧値BVLより上昇する。
【0040】
制御部27は、非昇降圧動作の実行をする場合、スイッチSW1およびトランジスタQ2をオフするとともにトランジスタQ1をオンする。これにより、昇降圧回路29は、入力電圧を昇圧および降圧のいずれもすることなく出力する。このときの出力電圧(バス電圧BV)は、トランジスタQ1のオン抵抗(オン状態での抵抗)およびインダクタL1の等価直列抵抗による電圧降下分と、ダイオードD2の順方向電圧とを合わせた分だけ入力電圧よりも低い値である通常値BVMとなる。
【0041】
回生消費回路23は、出力電源線33および基準電源線32間に回生抵抗R1およびトランジスタQ3(回生スイッチ手段に相当)の直列回路を接続して構成されている。トランジスタQ3は、Nチャネル型のパワーMOSFETであり、そのオン、オフは、制御部27により制御される。すなわち、本実施形態では、制御部27は、回生消費回路23の動作を制御する回生制御手段に相当する。
【0042】
図4は、制御部27による回生消費回路23の動作制御の内容を示している。なお、制御部27は、図4に示す回生消費回路23の動作制御を所定周期毎に実行するようになっている。まず、制御部27は、その時点におけるバス電圧BV(の検出値)を参照する(ステップA1)。続いて、制御部27は、参照したバス電圧BVが回生消費電圧値BVR以上であるか否かを判断する(ステップA2)。バス電圧BVが回生消費電圧値BVR以上である場合(YES)には、トランジスタQ3をオン駆動し(ステップA3)、制御を終了する。一方、バス電圧BVが回生消費電圧値BVR未満である場合(NO)には、トランジスタQ3をオフ駆動し(ステップA4)、制御を終了する。なお、ステップA3またはA4において、既にトランジスタQ3がオンまたはオフされている場合には、その状態を維持したまま制御を終了する。
【0043】
図5は、ロボットが加速、等速、減速という一連の動作を行う際におけるモータMの回転速度とバス電圧とを示している。図5に示すように、減速動作時にはモータMから回生されるエネルギー(回生エネルギー)に起因してバス電圧BVが上昇する。そして、バス電圧BVが回生消費電圧値BVRを超えようとすると、回生抵抗R1に電流が流れることで回生エネルギーが熱エネルギーとして放出され、バス電圧BVが回生消費電圧値BVR未満となるようにその電圧上昇が抑えられる。
【0044】
回生消費電圧値BVRは、出力電源線33および基準電源線32に接続される各回路素子(インバータ装置24のスイッチング素子、直流電源回路22のコンデンサ30など)の定格を超えてバス電圧BVが上昇しないような値に設定すればよい。また、回生消費電圧値BVR、昇圧値BVH、通常値BVMおよび降圧値BVLは、下記(1)式の関係を満たすように設定すればよい。
BVR>BVH≧BVM≧BVL …(1)
なお、回生スイッチ手段としてのトランジスタQ3は、パワーMOSFETに限らずともよく、例えばバイポーラトランジスタなどの他の半導体スイッチング素子により構成してもよい。また、回生スイッチ手段としては、例えばリレーなどの機械式のスイッチで構成してもよい。
【0045】
インバータ装置24(駆動手段に相当)は、出力電源線33および基準電源線32間に6つのスイッチング素子例えばIGBT(図1には2つのみ示す)を三相フルブリッジ接続して構成されたインバータ主回路と、その駆動回路とを6組備えている(図1には1組のみ示す)。IGBTのコレクタ・エミッタ間には還流ダイオードが接続されている。また、IGBTのゲートには、駆動回路からゲート信号が与えられている。駆動回路は、制御部27から与えられる指令信号(通電指令Sc)に基づいてパルス幅変調されたゲート信号(PWM信号)を出力して各IGBTを駆動する。
【0046】
制御部27(駆動制御手段に相当)は、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えたマイクロコンピュータを主体として構成されている。電流検出部25は、モータMに流れる電流を検出する電流検出器(図示せず)からの検出信号を制御部27に入力可能なデータに変換して出力する。位置検出部26は、モータMの回転位置を検出する位置検出器(図示せず)からの検出信号を制御部27に入力可能なデータに変換して出力する。制御部27は、電流検出部25から出力されるデータを元にモータMに流れる電流の値を取得するとともに、位置検出部26から出力されるデータを元にモータMの回転位置および回転速度を取得する。詳細は後述するが、制御部27は、このようにして取得した電流値、回転位置および回転速度を用いてインバータ装置24によるモータMの駆動をフィードバック制御する。
【0047】
図2は、ロボットシステム1におけるモータ制御の内容を等価的に示したブロック図である。図2に示すように、制御部27は、位置制御部41、速度制御部42、電流制御部43および動作状態判断部44を備えている。なお、図2では、1つのモータMの制御に係る構成のみを示しているが、実際には全てのモータMのそれぞれに対応して同様の構成が設けられている。さて、一般に産業用のロボットは、予めティーチングなどを実施することにより作成される所定の動作プログラムに従って動作するようになっている。図示しない上位制御部は、その動作プログラムを解釈し、ロボット2に動作プログラムに従った動作を行わせるように各モータMを制御するための指令値(位置指令pref)を位置制御部41に出力する。
【0048】
位置制御部41は、上位制御部から与えられる位置指令prefに対する現在の回転位置p*の偏差を求める減算器45と、減算器45の出力(偏差)をゼロに近づけるように速度指令vref(回転速度指令に相当)を出力する位置制御アンプ46とから構成されている。位置制御アンプ46のゲインはKpとなっている。速度制御部42は、微分器47、減算器48および速度制御アンプ49により構成されている。微分器47は、現在の回転位置p*を微分して現在の回転速度v*に変換する。減算器48は、速度指令vrefに対する現在の回転速度v*の偏差を求める。速度制御アンプ49は、減算器48の出力(偏差)をゼロに近づけるように電流指令irefを出力する。速度制御アンプ49のゲインはKvとなっている。
【0049】
電流制御部43は、電流指令irefに対する現在のモータMに流れる電流i*の偏差を求める減算器50と、減算器50の出力(偏差)をゼロに近づけるようにインバータ装置24に対する指令信号(通電指令Sc)を出力する電流制御アンプ51とから構成されている。電流制御アンプ51のゲインはKiとなっている。このような構成により、制御部27は、電流フィードバック制御、速度フィードバック制御および位置フィードバック制御を行い、モータMの駆動をフィードバック制御してロボット2のアームの動作制御を行う。
【0050】
動作状態判断部44(動作状態判断手段に相当)は、モータMの速度指令vrefを用いてモータM(ロボット2)の動作状態を判断する。図6は、動作状態判断部44によるモータMの動作状態判断制御の内容を示している。まず、動作状態判断部44は、その時点における速度指令vref(t)およびその時点より1サンプリング前の速度指令vref(t-1)を参照する(ステップB1)。続いて、動作状態判断部44は、参照した速度指令vref(t)から速度指令vref(t-1)を減算することにより、その時点の加速度指令Aref(t)を求める(ステップB2)。すなわち、動作状態判断部44は、速度指令vrefを微分することにより加速度指令Arefを求める。
【0051】
その後、動作状態判断部44は、加速度指令Arefの絶対値(|Aref|)が所定の加速度しきい値As未満であるか否かを判断する(ステップB3)。なお、加速度しきい値Asは「0」に近い微小な値に設定している。絶対値|Aref|が加速度しきい値As未満である場合(YES)、回転速度を一定値に維持するようにモータMを駆動している状態であるため、等速動作状態であると判断する(ステップB4)。
【0052】
一方、絶対値|Aref|が加速度しきい値As以上である場合(NO)、回転速度を上昇または低下させるようにモータMを駆動している状態であるため、加速動作状態または減速動作状態であると判断してステップB5に進む。ステップB5において、動作状態判断部44は、速度指令vrefと加速度指令Arefとの乗算結果(=vref・Aref)に基づいて、さらなる動作状態の判別を行う。具体的には、動作状態判断部44は、上記乗算結果が正の値になる場合(YES)には、加速動作状態であると判断し(ステップB6)、負の値である場合(NO)には減速動作状態であると判断する(ステップB7)。
【0053】
速度指令vrefと加速度指令Arefとの乗算結果の符号に基づいて、動作状態の判別を行う理由は以下のとおりである。図7は、一連の動作パターンに基づいてモータMを動作させる際の速度指令vrefおよび加速度指令Arefの推移を示している。図7の縦軸において、正側(0より上側)は所定の第1方向への回転についての速度指令vrefおよび加速度指令Arefを表し、負側(0より下側)は第1方向とは反対の第2方向への回転についての速度指令vrefおよび加速度指令Arefを表している。
【0054】
図7に示すように、時刻t0〜t1の期間、モータMは第1方向に回転する加速動作状態であり、速度指令vrefおよび加速度指令Arefは、いずれも正の値である。この場合、本実施形態の判別方法によれば、上記乗算結果が正の値になるため、加速動作状態であるという正しい判断がなされる。ただし、単純に加速度指令Arefの符号のみで動作状態を判別する方法であっても、加速度指令Arefが正の値であるため、加速動作状態であるという正しい判断がなされる。
【0055】
また、時刻t2〜t3の期間、モータMは第1方向に回転する減速動作状態であり、速度指令vrefは正の値であり、加速度指令Arefは負の値である。この場合、本実施形態の判別方法によれば、上記乗算結果が負の値になるため、減速動作状態であるという正しい判断がなされる。ただし、加速度指令Arefの符号のみで動作状態を判別する方法であっても、加速度指令Arefの符号が負の値であるため、減速動作状態であるという正しい判断がなされる。
【0056】
一方、時刻t4〜t5の期間、モータMは第2方向に回転する加速動作状態であり、速度指令vrefおよび加速度指令Arefは、いずれも負の値である。この場合、本実施形態の判別方法によれば、上記乗算結果が正の値になるため、加速動作状態であるという正しい判断がなされる。これに対し、加速度指令Arefの符号のみで動作状態を判別する方法では、加速度指令Arefの符号が負の値であるため、減速動作状態であるという誤った判断がなされる。
【0057】
また、時刻t6〜t7の期間、モータMは第2方向に回転する減速動作状態であり、速度指令vrefは負の値であり、加速度指令Arefは正の値である。この場合、本実施形態の判別方法によれば、上記乗算結果が負の値になるため、減速動作状態であるという正しい判断がなされる。これに対し、加速度指令Arefの符号のみで動作状態を判別する方法では、加速度指令Arefの符号が正の値であるため、加速動作状態であるという誤った判断がなされる。
【0058】
このように、単純に加速度指令Arefの符号に基づいて、加速動作状態および減速動作状態の判別を行う方法では、誤った判断をするケースが存在する。これに対し、速度指令vrefと加速度指令Arefとの乗算結果の符号に基づいて、加速動作状態および減速動作状態の判別を行う本実施形態の方法によれば、確実に動作状態の判別を行うことが可能となる。
【0059】
さて、制御部27は、昇降圧回路29の動作制御に関する4つの制御モード(自動モード、高トルクモード、省エネモードおよび通常モード)を有している。制御部27は、モード選択フラグfmの状態に応じて、上記各制御モードのうち、いずれかの制御モードに設定される。本実施形態において、モード選択フラグfmは、例えばユーザがティーチングペンダント4のキースイッチ12を操作することでコントローラ3に与えられる動作指令に応じて設定されるようになっている。なお、モード選択フラグfmは、図示しない上位の制御機器とコントローラ3との通信により設定されるものでもよい。また、モード選択フラグfmは、例えば2ビットとしている。
【0060】
モード選択フラグfmが「00」である場合、制御部27は自動モードに設定される。自動モードに設定されると、制御部27は、モータMの動作状態に応じて昇降圧回路29の動作状態を自動的に切り替える。すなわち、制御部27は、モータMが加速動作状態であると判断すると、昇圧動作を実行するように昇降圧回路29の動作を制御する。また、制御部27は、モータMが等速動作状態であると判断すると、非昇降圧動作を実行するように昇降圧回路29の動作を制御する。さらに、制御部27は、モータMが減速動作状態であると判断すると、降圧動作を実行するように昇降圧回路29の動作を制御する。
【0061】
モード選択フラグが「01」である場合、制御部27は高トルクモードに設定される。高トルクモードに設定されると、制御部27は、モータMの動作状態にかかわらず、昇圧動作を実行するように昇降圧回路29の動作を制御する。モード選択フラグが「10」である場合、制御部27は省エネモードに設定される。省エネモードに設定されると、制御部27は、モータMの動作状態にかかわらず、降圧動作を実行するように昇降圧回路29の動作を制御する。モード選択フラグが「11」である場合、制御部27は通常モードに設定される。通常モードに設定されると、制御部27は、モータMの動作状態にかかわらず、非昇降圧動作を実行するように昇降圧回路29の動作を制御する。
【0062】
また、制御部27は、回生エネルギーをインダクタL1に蓄積可能な状態となるように昇降圧回路29の動作を制御する機能(回生経路切替制御)を有している。制御部27は、モータMが減速動作状態であると判断した場合において、バス電圧BVの検出値が回生経路切替値BVCに達すると、そのときに設定されている制御モードにかかわらず、以下のように昇降圧回路29の動作を制御する。すなわち、制御部27は、上記条件を満たす状態になると、トランジスタQ1をオフ駆動するとともに、トランジスタQ2をオン駆動し、さらにスイッチSW1をオンする。回生経路切替値BVCは、バス電圧の定常値(降圧値BVL〜昇圧値BVHの範囲の値)よりも高く、且つ、回生消費電圧値BVRよりも低い値に設定される。
【0063】
詳細は後述するが、このような制御により、モータ側から回生されるエネルギーがインダクタL1に電磁エネルギーとして蓄積されるようになる。その後、制御部27は、モータMの減速動作が終了したと判断されると、トランジスタQ1、Q2の駆動状態およびスイッチSW1の開閉状態を、設定された制御モードに応じた状態に戻す。
【0064】
また、制御部27は、モータMに対するダイナミックブレーキをかけるように昇降圧回路29の動作を制御する機能(ダイナミックブレーキ制御)を有している。制御部27は、外部よりモータMの緊急停止を指令する緊急停止指令が与えられると、以下のように昇降圧回路29の動作を制御する。すなわち、制御部27は、そのときに設定されている制御モードにかかわらず、トランジスタQ1をオフ駆動するとともに、トランジスタQ2をオン駆動し、さらにスイッチSW1をオンする。
【0065】
詳細は後述するが、このような制御により、モータMに対してダイナミックブレーキがかけられる。なお、コントローラ3がモータMの異常を検出する異常検出手段(図示せず)を備えた構成である場合には、制御部27は、その異常検出手段によりモータMの異常が検出されると、上記した制御を実行してモータMに対するダイナミックブレーキをかけるように構成してもよい。
【0066】
次に、本実施形態の作用および効果について説明する。
コントローラ3に電源が投入されると、制御部27は、図8に示す内容の初期制御を実行する。まず、ステップS1において、トランジスタQ1、Q2をオフ駆動するとともに、スイッチSW1をオフする初期設定が実行される。従って、この段階では、昇降圧回路29には、入力電圧が未だ供給されていない。続いて、ステップS2において、モード選択フラグfmの状態が確認される。そして、モード選択フラグfmが「00」であれば自動モードに設定され(ステップS3)、「01」であれば高トルクモードに設定され(ステップS4)、「10」であれば省エネモードに設定され(ステップS5)、「11」であれば通常モードに設定される(ステップS6)。
【0067】
制御部27は、上記初期制御において設定された制御モードに応じて昇降圧回路29の動作を以下のように制御する。なお、制御部27は、以下のように昇降圧回路29の動作制御を行う際、図4に示した回生消費回路23の動作制御および図6に示したモータMの動作状態の判断制御についても所定の周期毎に実行している。
【0068】
<通常モードに設定された場合>
制御部27は、初期制御において通常モードに設定されると、モータMの動作状態を判断することなく、非昇降圧動作を実行するように昇降圧回路29の動作を制御する。図9は、通常モードに設定された場合におけるモータMの回転速度、バス電圧、トランジスタQ1、Q2の駆動状態およびスイッチSW1の開閉状態を示している。
【0069】
図9に示すように、通常モードに設定されると、制御部27は、トランジスタQ1をオン駆動する(図9の時刻ta)。これにより、昇降圧回路29から出力されるバス電圧BVは、通常値BVMに向けて上昇する。そして、バス電圧BVが通常値BVMまで達した時点(図9の時刻tb)以降において、バス電圧BVの供給を受けたインバータ装置24によりモータMが駆動され、加速、等速、減速という一連の動作が行われる。従って、通常モードに設定された場合、インバータ装置24は、従来と同様のバス電圧BVの供給を受けてモータMを駆動することになる。
【0070】
この場合、トランジスタQ1、Q2は、いずれもスイッチング動作しない。このため、昇降圧回路29の動作に伴う電力の消費量は極めて小さくなる。従って、後述する高トルク出力や回生エネルギーの回収などを必要としない用途においては、制御部27を常に通常モードに設定しておけば、昇降圧回路29の動作に伴う電力消費を低減するという効果が得られる。
【0071】
<高トルクモードに設定された場合>
制御部27は、初期制御において高トルクモードに設定されると、モータMの動作状態を判断することなく、昇圧動作を実行するように昇降圧回路29の動作を制御する。図10は、高トルクモードに設定された場合における図9相当図である。図10に示すように、高トルクモードに設定されると、制御部27は、トランジスタQ1をオン駆動する(図10の時刻ta)。これにより、昇降圧回路29から出力されるバス電圧BVは、通常値BVMに向けて上昇する。
【0072】
バス電圧BVが通常値BVMまで達した後の時点(図10の時刻tb)以降、制御部27は、バス電圧BVの検出値が昇圧値BVHとなるようにトランジスタQ2をスイッチングする。これにより、昇降圧回路29から出力されるバス電圧BVが昇圧値BVHまで昇圧される。そして、バス電圧BVが昇圧値BVHに達した時点以降において、バス電圧BVの供給を受けたインバータ装置24によりモータMが駆動され、一連の動作が行われる。
【0073】
このため、インバータ装置24は、整流回路28から出力される電圧がそのままインバータ装置に供給されていた従来の構成に対し、比較的高いバス電圧BVの供給を受けてモータMを駆動することになる。従って、高トルクモードに設定された場合、インバータ装置24は、高いトルクを得るために十分な電力をモータMに供給することが可能になる。これにより、例えば、モータMの高速回転状態のときにおいても高いトルクを出すことが可能になる。従って、高いトルク出力のみを必要とする用途においては、制御部27を常に高トルクモードに設定しておけば、上記効果を確実に得ることが可能となる。
【0074】
<省エネモードに設定された場合>
制御部27は、初期制御において省エネモードに設定されると、モータMの動作状態を判断することなく、降圧動作を実行するように昇降圧回路29の動作を制御する。図11は、省エネモードに設定された場合における図9相当図である。図11に示すように、省エネモードに設定されると、制御部27は、トランジスタQ1をオン駆動する(図11の時刻ta)。これにより、昇降圧回路29から出力されるバス電圧BVは、通常値BVMに向けて上昇する。
【0075】
バス電圧BVが通常値BVMまで達した後の時点(図11の時刻tb)以降、制御部27は、バス電圧BVの検出値が降圧値BVLとなるようにトランジスタQ1をスイッチングする。これにより、昇降圧回路29から出力されるバス電圧BVが降圧値BVLまで降圧される。そして、バス電圧BVが降圧値BVLに達した時点以降において、バス電圧BVの供給を受けたインバータ装置24によりモータMが駆動され、一連の動作が行われる。
【0076】
上記したように省エネモードに設定された場合、バス電圧BVは通常値BVMよりも低い降圧値BVLまで降圧される。このため、モータMの減速動作時、回生エネルギーにより上昇するバス電圧BV(コンデンサ30の端子間電圧)が回生消費電圧値BVRに達するまでにコンデンサ30に蓄積可能なエネルギー量は、バス電圧BVが通常値BVMである場合(従来構成の場合)に比べると、下記(2)式に示すエネルギー量JCだけ多くなる。
C={(1/2)・C・BVM2}−{(1/2)・C・BVL2
=(1/2)・C・(BVM2−BVL2) …(2)
上記(2)式に示すように、コンデンサ30に蓄積可能なエネルギー量は、通常値BVMと降圧値BVLとの差に応じた量JCだけ多くなる。すなわち、コンデンサ30の空き容量を従来構成の場合に比べて増加させることで、減速動作時にコンデンサ30に一層多くのエネルギーを蓄積することが可能になる。
【0077】
このように、バス電圧BVを降圧値BVLまで低下させることによって、減速動作時にコンデンサ30の端子間電圧が回生消費電圧値BVRまで上昇しなければ、回生エネルギーを全て有効利用することができる。また、減速動作時にコンデンサ30の端子間電圧が回生消費電圧値BVRまで上昇する場合でも、バス電圧BVが通常値BVMである従来構成の場合と比べると、回生消費回路23の動作時間を短くすることができるため、回生消費回路23により消費されるエネルギー(無駄になるエネルギー)を低減し、残りの回生エネルギーを有効利用することが可能となる。従って、回生エネルギーの回収のみを必要とする用途においては、制御部27を常に省エネモードに設定しておけば、上記効果を確実に得ることが可能となる。
【0078】
<自動モードに設定された場合>
制御部27は、初期制御において自動モードに設定されると、図12に示す内容の電源自動切替制御を実行する。まず、制御部27は、動作状態判断部44の判断結果を参照する(ステップU1)。なお、ここでは全てのモータMの動作状態(加速、等速、減速)が互いに概ね一致するという前提が成立するものとしている。このような前提が成立しない場合には、全てのモータMのうち、最も高い加速度で動作するモータMの動作状態の判断結果を参照すればよい。参照した判断結果が加速動作状態であるという結果の場合、ステップU2を実行する。すなわち、制御部27は、モータMが加速動作状態である期間には、昇圧動作を実行するように昇降圧回路29の動作を制御する。
【0079】
図13は、制御部27が自動モードに設定された場合におけるモータMの回転速度およびバス電圧を示している。なお、図13では、加速、等速、減速という一連の動作パターンに基づいてモータMが駆動されるものとしている。また、図13では、各期間Ta、Tb、Tcの切り替わり部分におけるバス電圧BVの推移を省略しているが、実際には所定の傾きを持って変化している。図13に示すように、モータMが加速動作状態である期間Taでは、昇降圧回路29が昇圧動作を実行することにより、バス電圧BVは昇圧値BVHまで昇圧されている。
【0080】
参照した判断結果が等速動作状態であるという判断結果の場合、ステップU3を実行する。すなわち、制御部27は、モータMが等速動作状態である期間には、非昇降圧動作を実行するように昇降圧回路29の動作を制御する。図13に示すように、モータMが等速動作状態である期間Tbでは、昇降圧回路29が非昇降圧動作を実行することにより、バス電圧BVは通常値BVMとなっている。
【0081】
なお、ステップU3を実行する際、制御部27は、最初にトランジスタQ2をオフ駆動し、その後にトランジスタQ1をオン駆動するようにしている。その理由は、以下のとおりである。前回の動作制御において、トランジスタQ2をオン駆動していた場合(モータMが加速動作状態である場合など)、その状態のまま、先にトランジスタQ1をオン駆動すると、トランジスタQ2をオフ駆動するまでの間、トランジスタQ1、Q2および整流回路28を介して入力電源線31と基準電源線32とを短絡するような通電経路が形成されてしまう。このような場合、トランジスタQ1、Q2および整流回路28に過電流が流れてしまい、最悪の場合には故障に至ることも考えられる。このような事態を未然に防止するため、上記したようにトランジスタQ2を確実にオフ駆動してから、トランジスタQ1をオン駆動するようにしている。
【0082】
参照した判断結果が減速動作状態であるという判断結果の場合、ステップU4を実行する。すなわち、制御部27は、モータMが減速動作状態である期間には、降圧動作を実行するように昇降圧回路29の動作を制御する。図13に示すように、モータMが減速動作状態である期間Tcでは、昇降圧回路29が降圧動作を実行することにより、バス電圧BVは降圧値BVLまで降圧されている。
【0083】
このように、モータMの動作状態に応じて昇降圧回路29の動作状態を自動的に切り替えることにより、モータMの加速動作時には昇圧値BVHまで昇圧されたバス電圧BVがインバータ装置24に供給される。このため、高いトルクを出すことが本来的に必要となる加速動作時において、その高いトルクを得るために十分な電力をモータMに供給することが可能となる。また、モータMの等速動作時には通常値BVMのバス電圧BVがインバータ装置24に供給される。この等速動作時には、加速動作時に比べて必要となるトルクが低い上、減速動作時のようにモータM側からエネルギーが回生されることもない。従って、バス電圧BVとして入力電圧にほぼ等しい通常値BVMで問題ない。これにより、等速動作時には、昇降圧回路29による電力消費を抑えることができる。
【0084】
また、モータMの減速動作時にはバス電圧BVを降圧値BVLまで降圧する。これにより、バス電圧BVを通常値BVMにした従来構成の場合に比べ、コンデンサ30に蓄積可能なエネルギー量が、上記(2)式に示した量だけ多くなる。すなわち、従来構成の場合に比べ、コンデンサ30の空き容量が増加するので、減速動作時にコンデンサ30に一層多くのエネルギーを静電エネルギーとして蓄積することが可能となる。
【0085】
上記したように、制御部27を自動モードに設定することによって、モータM(ロボット2)の一連の動作に応じて必要とされる機能、すなわち、加速動作時における高トルク出力、等速動作時における電力消費の低減、および、減速動作時における回生エネルギーの回収といった機能を自動的に実現することが可能となる。
【0086】
続いて、制御部27による回生経路切替制御について説明する。図14は、回生経路切替制御の内容を示し、図15は、回生経路切替制御が実行される場合におけるモータMの回転速度、バス電圧、トランジスタQ1、Q2の駆動状態およびスイッチSW1の開閉状態を示している。なお、以下では、図15に示すように制御部27が通常モードに設定された場合における回生経路切替制御について説明するが、その回生経路切替制御は、制御部27が他の制御モードに設定された場合であっても同様に実行される。
【0087】
図14のフローチャートにおいて、ステップV1では、減速動作中であるか否かが判断される。減速動作中である場合(YES)にはステップV2に進む。一方、減速動作中でない場合(NO)にはステップV2に進むことなく制御が終了される。ステップV2では、バス電圧BV(の検出値)が回生経路切替値BVC以上であるか否かが判断される。バス電圧BVが回生経路切替値BVC未満である場合(NO)、ステップV1に戻る。バス電圧BVが回生経路切替値BVC以上である場合(YES)、ステップV3に進む。
【0088】
モータMの減速動作中、バス電圧BVが回生経路切替値BVC以上にならない場合には、コンデンサ30に全ての回生エネルギーを回収可能であると考えられる。このような場合には、インダクタL1に回生エネルギーを蓄積する必要はない。本実施形態では、上記ステップV1、V2の判断を行うことにより、コンデンサ30のみで回生エネルギーを回収可能な場合、インダクタL1に回生エネルギーが蓄積されないようになっている。
【0089】
ステップV3では、そのときに設定されている制御モードにかかわらず、トランジスタQ1をオフ駆動するとともに、トランジスタQ2をオン駆動し、さらにスイッチSW1をオンする。すると、出力電源線33からスイッチSW1、インダクタL1およびトランジスタQ2を介して基準電源線32に至る通電経路が形成される。これにより、モータM側から回生するエネルギーがインダクタL1に電磁エネルギーとして蓄積される。
【0090】
この場合、インダクタL1に蓄積可能なエネルギー量JLは、下記(3)式により表される。ただし、インダクタL1のインダクタンスをLで表し、インダクタL1に流れる電流の最大値をIPで表している。
L=(1/2)・L・IP2 …(3)
【0091】
ステップV4では、インダクタL1に上記(3)式で示すエネルギーが蓄積されたか否かが判断される。なお、その判断方法としては、インダクタL1に流れる電流を直接検出して電流が最大値になるタイミングを検出することにより判断する方法や、バス電圧BVの値やトランジスタQ2のオン時間などからインダクタL1に流れる電流が最大値になるタイミングを推測することにより判断する方法などが考えられる。また、インダクタL1に流れる電流を直接検出する場合、例えば、本制御により形成される通電経路上に直列に介在する部分(例えば、トランジスタQ2のソースと基準電源線32との間)シャント抵抗を設け、その端子間電圧を検出し、その検出値に基づいてインダクタL1に流れる電流の値を求めればよい。
【0092】
ステップV4において、インダクタL1に上記(3)式で示すエネルギーが蓄積されていないと判断される場合(NO)、ステップV5に進む。ステップV5では、モータMの減速動作が終了したか否かが判断される。モータMの減速動作が継続中であると判断された場合(NO)、ステップV4に戻る。また、モータMの減速動作が終了したと判断された場合(YES)、ステップV6に進む。一方、ステップV4において、インダクタL1に上記(3)式で示すエネルギーが蓄積されたと判断される場合(YES)にもステップV6に進む。
【0093】
ステップV6では、トランジスタQ1、Q2の駆動状態およびスイッチSW1の開閉状態を、設定された制御モードに応じた状態に戻す。これにより、上記通電経路は無くなり、インダクタL1への回生エネルギーの蓄積が終了される。要するに、インダクタL1に上記(3)式で示すエネルギーが蓄積されるという条件を満たすか、あるいは、モータMの減速動作が終了されるという条件を満たすまでの間、回生エネルギーがインダクタL1に電磁エネルギーとして蓄積される。そして、上記条件のうち、いずれかを満たした場合には、インダクタL1への回生エネルギーの蓄積は終了されることになる。
【0094】
図15に示すように、回生エネルギーがインダクタL1に蓄積される期間(時刻ta〜tb)は、コンデンサ30に対する更なるエネルギーの蓄積が行われないため、その端子間電圧(バス電圧BV)は上昇しない。このため、減速動作時にバス電圧BVが回生消費電圧値BVRに達するタイミングが上記期間だけ遅くなる。そして、上記期間に相当する時間だけ回生消費回路23の動作時間が短くなり、その分だけ無駄に消費されるエネルギー量が低減される。そして、このようにしてインダクタL1に回生エネルギーを蓄積した減速動作が終了した後、インダクタL1に蓄積されたエネルギーは、その減速動作の終了後に実行される次の加速動作において使用される。すなわち、本実施形態によれば、減速動作時の回生エネルギーをさらに有効に利用することが可能となる。
【0095】
なお、図15では、減速動作が終了した時点(時刻tb)から次の加速動作が開始される時点(時刻tc)までの期間は、モータMが駆動されない非動作の期間となっている。この期間においては、インダクタL1に蓄えられたエネルギーは、モータM側に供給されることなく、回生消費回路23の動作により消費されることになる。
【0096】
続いて、制御部27によるダイナミックブレーキ制御について説明する。図16は、ダイナミックブレーキ制御が実行される場合におけるモータMの回転速度、バス電圧、トランジスタQ1、Q2の駆動状態、スイッチSW1の開閉状態を示している。制御部27は、図16の時刻taの時点において緊急停止指令が与えられると、そのときに設定されている制御モードにかかわらず、トランジスタQ1をオフ駆動するとともに、トランジスタQ2をオン駆動し、さらにスイッチSW1をオンする。
【0097】
これにより、モータMの相間がスイッチSW1、インダクタL1、トランジスタQ2を介して短絡された状態になる。そして、スイッチSW1は、オン状態であっても所定の抵抗値を有している。また、インダクタL1は、所定の等価直列抵抗を有している。さらに、パワーMOSFETであるトランジスタQ2は、所定のオン抵抗を有している。このようなことから、モータMの相間が、スイッチSW1のオン時の抵抗、インダクタL1の等価直列抵抗およびトランジスタQ2のオン抵抗を介して短絡され、モータMに対してダイナミックブレーキがかけられる。これにより、モータMは、その回転速度が急激に低下し、図16の時刻tbの時点において停止する。また、この際、トランジスタQ1がオフされているため、バス電圧BVも回転速度と同様に急激に低下し、時刻tbの時点においてゼロになる。
【0098】
通常、ダイナミックブレーキをかけるためには、バス電圧BVを供給する電源線間(出力電源線33および基準電源線32間)に、ダイナミックブレーキ専用のスイッチ手段および抵抗を直列に設ける必要がある。これに対し、本実施形態によれば、制御部27が上記したダイナミックブレーキ制御を行うことにより、昇降圧回路29のスイッチSW1、インダクタL1およびトランジスタQ2を用いて、ダイナミックブレーキをかけることが可能となる。このため、ダイナミックブレーキ専用のスイッチ手段および抵抗を設ける必要がなくなり、その分だけ回路構成を簡単化し、製造コストの低減を図ることができる。
【0099】
なお、本発明は上記し且つ図面に記載した実施形態に限定されるものではなく、次のような変形または拡張が可能である。
制御部27は、4つの制御モードを有する構成に限らずともよい。例えば、制御部27は、自動モード、高トルクモードおよび省エネモードのうち、少なくともいずれか1つを有する構成でもよい。また、制御部27は、各制御モードのいずれをも有することなく、外部から与えられる動作指令(昇圧動作の実行を指令する動作指令、降圧動作の実行を指令する動作指令、非昇降圧動作の実行を指令する動作指令)に基づいて、昇降圧回路29の動作を制御する構成でもよい。このようにしても、ロボット2の一連の動作に合わせて昇降圧回路29の動作状態を適宜切り替えるように動作指令を与えれば、加速動作時における高トルク出力、等速動作時における電力消費の低減および減速動作時における回生エネルギーの回収といった機能を実現することが可能となる。
【0100】
制御部27は、非昇降圧動作を実行する場合、トランジスタQ1およびスイッチSW1をオンするとともに、トランジスタQ2をオフするように構成してもよい。このようにすれば、非昇降圧動作時における出力電圧(バス電圧BV)が、スイッチSW1のオン時の抵抗による電圧降下分だけ入力電圧より低い値になる。そして、インダクタL1、ダイオードD2による電力損失を低減するという効果が得られる。
【0101】
本発明は、モータMとしてDCブラシレスモータを用いた構成に限らず、例えば直流モータ、交流モータなど各種のモータを用いた構成にも適用可能である。なお、モータMとして直流モータを用いる場合には、モータMを駆動する駆動手段として、インバータ装置24に代えて、例えばHブリッジ回路を主体として構成された駆動回路を用いればよい。
上記実施形態では、本発明を6軸の垂直多関節型のロボット2に適用した例を説明したが、本発明は、各軸をモータにより駆動する構成のロボット全般に適用可能である。
【符号の説明】
【0102】
図面中、1はロボットシステム、2はロボット、23は回生消費回路、24はインバータ装置(駆動手段)、27は制御部(駆動制御手段、出力電圧検出手段、回生制御手段、電源制御手段)、29は昇降圧回路(電源回路)、30はコンデンサ、31は入力電源線、32は基準電源線、33は出力電源線、44は動作状態判断部(動作状態判断手段)、D1は第1のダイオード、D2は第2のダイオード、L1はインダクタ、Mはモータ、Q1はトランジスタ(第1のスイッチ手段)、Q2はトランジスタ(第2のスイッチ手段)、Q3はトランジスタ(回生スイッチ手段)、R1は回生抵抗、SW1はスイッチ(第3のスイッチ手段)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボットの各軸を駆動するためのモータと、
入力電源線および基準電源線を介して与えられる入力電圧を昇圧して出力電源線および前記基準電源線を介して出力する昇圧動作と、前記入力電圧を降圧して前記出力電源線および前記基準電源線を介して出力する降圧動作と、前記入力電圧を昇圧および降圧のいずれもすることなく前記出力電源線および前記基準電源線を介して出力する非昇降圧動作とを選択的に実行可能に構成された電源回路と、
前記出力電源線および前記基準電源線間に接続されたコンデンサと、
前記出力電源線および前記基準電源線を介して与えられる出力電圧の供給を受けて動作し、前記モータを駆動する駆動手段と、
前記モータの回転速度を回転速度指令に一致させるように前記駆動手段による前記モータの駆動を制御する駆動制御手段と、
前記出力電圧を検出する出力電圧検出手段と、
前記出力電源線および前記基準電源線の間に直列に設けられた回生スイッチ手段および回生抵抗からなる回生消費回路と、
前記出力電圧検出手段の検出値が回生消費電圧値未満のときにあっては前記回生スイッチ手段をオフし、当該検出値が回生消費電圧値以上のときにあっては前記回生スイッチ手段をオンする回生制御手段と、
前記回転速度指令を用いて前記モータの動作状態を判断する動作状態判断手段と、
外部から与えられる動作指令および前記動作状態判断手段の判断結果に応じて、前記電源回路の動作を制御する電源制御手段と、
前記モータの異常を検出する異常検出手段と、
を備え、
前記電源回路は、
インダクタと、
前記入力電源線と前記インダクタの一方の端子との間に接続される第1のスイッチ手段と、
前記インダクタの一方の端子と前記基準電源線との間に、前記基準電源線側をアノードとして接続される第1のダイオードと、
前記インダクタの他方の端子と前記基準電源線との間に接続される第2のスイッチ手段と、
前記インダクタの他方の端子と前記出力電源線との間に、前記インダクタの他方の端子側をアノードとして接続される第2のダイオードと、
前記インダクタの一方の端子と前記出力電源線との間に接続される第3のスイッチ手段と、
を備え、
前記電源制御手段は、
前記昇圧動作の実行を指令する前記動作指令が与えられると、前記第1のスイッチ手段をオンするとともに前記第3のスイッチ手段をオフした状態で、前記出力電圧検出手段の検出値が前記入力電圧の値より高い所定の昇圧値となるように前記第2のスイッチ手段をスイッチングし、
前記降圧動作の実行を指令する前記動作指令が与えられると、前記第2のスイッチ手段および前記第3のスイッチ手段をオフした状態で、前記出力電圧検出手段の検出値が前記入力電圧の値より低い所定の降圧値となるように前記第1のスイッチ手段をスイッチングし、
前記非昇降圧動作の実行を指令する前記動作指令が与えられると、前記第1のスイッチ手段をオンするとともに、前記第2のスイッチ手段および前記第3のスイッチ手段をオフし、
前記動作状態判断手段により前記モータが減速動作中であると判断された場合において、前記出力電圧検出手段の検出値が、前記昇圧値より高く且つ前記回生消費電圧値より低い値である回生経路切替値に達すると、前記電源回路の動作状態にかかわらず前記第1のスイッチ手段をオフするとともに前記第2のスイッチ手段をオンし、さらに前記第3のスイッチ手段をオンすることにより、前記回生するエネルギーを前記インダクタに蓄積し、
前記動作状態判断手段により前記モータの減速動作が終了したと判断されると、前記第1〜第3のスイッチ手段のオンオフ状態を前記電源回路の動作状態に応じた状態に戻し、
前記異常検出手段により前記モータの異常が検出されると、または、外部から緊急停止を指令する緊急停止指令が与えられると、前記電源回路の動作状態にかかわらず前記第1のスイッチ手段をオフするとともに前記第2のスイッチ手段をオンし、さらに前記第3のスイッチ手段をオンすることにより、前記モータの相間を、前記第3のスイッチ手段、前記インダクタおよび前記第2のスイッチ手段を介して短絡することを特徴とするロボットシステム。
【請求項2】
前記電源制御手段は、
自動モードの実行を指令する前記動作指令が与えられると、
前記動作状態判断手段により前記モータが加速動作中であると判断されるとき、前記昇圧動作を実行するように前記電源回路の動作を制御し、
前記動作状態判断手段により前記モータが等速動作中であると判断されるとき、前記非昇降圧動作を実行するように前記電源回路の動作を制御し、
前記動作状態判断手段により前記モータが減速動作中であると判断されるとき、前記降圧動作を実行するように前記電源回路の動作を制御することを特徴とする請求項1に記載のロボットシステム。
【請求項3】
前記電源制御手段は、
高トルクモードの実行を指令する前記動作指令が与えられると、
前記動作状態判断手段の判断結果にかかわらず、前記昇圧動作を実行するように前記電源回路の動作を制御することを特徴とする請求項1または2に記載のロボットシステム。
【請求項4】
前記電源制御手段は、
省エネモードの実行を指令する前記動作指令が与えられると、
前記動作状態判断手段の判断結果にかかわらず、前記降圧動作を実行するように前記電源回路の動作を制御することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載のロボットシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−61562(P2012−61562A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−207927(P2010−207927)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(501428545)株式会社デンソーウェーブ (1,155)
【Fターム(参考)】