説明

ワイヤソー装置およびワーク切断方法、ウエハの製造方法

【課題】従来装置と比較してより高い張力で、ワイヤ断線なくワークの切断を素早く実現する。
【解決手段】各溝付ローラ2,3間に巻き付けられた切断用のワイヤ4の一方端が第1ダンサローラ10を介して供給ボビン5に巻き付けられ、他方端が第2ダンサローラ13を介して回収ボビン6に巻き付けられて、各溝付ローラ2,3間のワイヤ4の複数列でワーク7を切断するワイヤソー装置1において、各溝付ローラ2,3と第1ダンサローラ10および第2ダンサローラ13との間にそれぞれ、第1バッファボビン手段としての第1バッファボビン14と第2バッファボビン手段としての第2バッファボビン18がそれぞれ配設され、各溝付ローラ2,3と第1バッファボビン14との間に第3ダンサローラ17が配設されると共に、各溝付ローラ2、3と第2バッファボビン18との間に第4ダンサローラ21が配設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の間隔で配置された複数の溝付きローラの外周に通した切断用ワイヤを走行させることによって、切断用ワイヤのワイヤ列でワークを切断するワイヤソー装置およびこれを用いたワーク切断方法、このワイヤソー装置のワイヤ列で多数枚のウエハ状にワークを切断してウエハ素材を製造するウエハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の従来のワイヤソー装置は、溝付きローラに掛け渡されたワイヤの張力を制御しながらワイヤ列で多数枚のウエハ状にワークを切断してウエハ素材を作製している。このことが特許文献1に開示されている。
【0003】
図11は、特許文献1に開示されている従来のワイヤソー装置の要部構成例を模式的に示す斜視図である。
【0004】
図11に示すように、従来のワイヤソー装置100は、主に、ワークWを切断するための固定砥粒ワイヤ101と、この固定砥粒ワイヤ101を巻掛けした二つの溝付ローラ102と、固定砥粒ワイヤ101に張力を付与するためのワイヤ張力付与機構103A、103Bと、切断するワークWを保持して切り込み送りするワーク送り機構104と、切断されるワークWを冷却するための冷却水供給機構105とを有している。
【0005】
固定砥粒ワイヤ101は、供給ボビン106Aから繰り出され、ワイヤ張力付与機構103Aを経て、溝付ローラ102に入っている。固定砥粒ワイヤ101がこの溝付ローラ102に300〜400回程度巻掛けられることによってワイヤ列が形成される。別の溝付きローラ102からの固定砥粒ワイヤ101はもう一方のワイヤ張力付与機構103Bを経て回収ボビン106Bに巻き取られている。
【0006】
このように、これらのワイヤ張力付与機構103A、103Bにより、溝付ローラ102に巻掛けられた固定砥粒ワイヤ101に張力を付与し、駆動モータ107によって予め設定した反転サイクル時間毎に所定の走行速度で往復走行させている。往復走行する固定砥粒ワイヤ101にワークWを押し当てて切り込み送りし、ワークWを多数枚のウエハ状に切断している。
【0007】
上記従来のワイヤソー装置100では、新線供給側と旧線回収側でワイヤ張力付与機構103A、103Bにより固定砥粒ワイヤ101の張力を管理している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−20197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に開示されている上記従来のワイヤソー装置100では、固定砥粒ワイヤ101を用い、ワイヤ往復走行で半導体インゴットであるワークWをウエハ状に切断する。
【0010】
一般的なワイヤソー装置100におけるワイヤ張力変動要因を図12に示す。
【0011】
図12(a)は、時間軸(min)に対するワイヤ供給側の張力モニタリング結果を模式的に示す図、図12(b)は、時間軸(min)に対するワイヤ走行速度を模式的に示す図である。
【0012】
図12(a)および図12(b)に示すように、ワイヤソー装置100において、(1)往復走行するワイヤ方向切り替え時のワイヤ加減速、(2)供給ボビン106Aおよび回収ボビン106Bに対してボビン幅方向に固定砥粒ワイヤ101を移動させる場合のトラバーサ折り返し(トラバーサによる追随が困難)、(3)供給ボビン106Aおよび回収ボビン106Bに対してトラバーサを追従させ固定砥粒ワイヤ101を繰り出し、巻き取りを行う時のトラバーサのボビンへの巻き方向、(4)プーリの慣性、(5)ワイヤ振動などが原因でワイヤ張力変動が発生している。
このときの張力変動幅としては、ダンサローラ設定の張力値に対し、(1)ワイヤ加減速と(4)プーリの慣性の合計で15〜20パーセント、(2)トラバーサ折り返しにより5〜10パーセント、(3)ボビン巻き方向による張力変動により15〜20パーセント、(5)ワイヤ振動により3〜4パーセントである。
【0013】
具体的な張力変動値としては、ダンサローラ張力設定値を13.5Nに設定した場合、(1)ワイヤ加減速、(4)プーリの慣性による張力変動が±2.5N発生しており、(2)トラバーサ折り返しによる張力変動が±1N発生しており、(3)ボビンへの巻き方向による張力変動が±2.5N発生しており、(5)ワイヤ振動による張力変動が±0.5N発生していることを確認しており、合わせて±6.5Nの張力変動が発生していることが判る。
【0014】
特に、ワイヤ張力変動に影響が大きいのは、上記(1)ワイヤ加減速、(2)トラバーサ折り返しおよび(3)ボビンへの巻き方向であり、これら複数の事象が同時に起こるときにワイヤ張力変動が最大となって、ワイヤの破断強度であるT_max(図中では20N)を超えて、ワイヤ断線の原因になっていた。
【0015】
したがって、ワークWの切断中の張力はワイヤ破断強度(20N)からワイヤの張力変動分(±6.5N)を引いた13.5N以下での張力で切断しなければならない。
【0016】
ワイヤ張力変動が大きくなって固定砥粒ワイヤ101が断線すると、ワイヤ断線修復に要する時間により、ワークWやワイヤソー装置自体の温度状態が断線直後よりも低下し、切れ方が変わって段差を生じてしまうので、ワークWと固定砥粒ワイヤ101を共に交換する必要があるという問題があった。
【0017】
従来は、ワイヤ張力付与機構103A、103Bの各ダンサローラ張力をワイヤ破断強度の60パーセント程度の張力で制御してワイヤ断線を防止していたが、昨今の固定砥粒ワイヤ101の細線化において、破断強度が小さく細い固定砥粒ワイヤ101を使用する場合に、それに合わせてダンサローラ張力を下げると、ワークWを切断する能力が著しく低下して切断時間が大幅に増加してしまうという問題もあった。
【0018】
本発明は、上記従来の問題を解決するもので、従来装置と比較してより高い張力でもワイヤ断線なくワークの切断を効率よく行うことができるワイヤソー装置であり、解決方法1として、張力変動要因である(1)ワイヤ加減速、(4)プーリの慣性による張力変動、(2)トラバーサ折り返しによる張力変動、(3)ボビンへの巻き方向による張力変動、(5)ワイヤ振動による張力変動のうち、(1)ワイヤ加減速、(5)ワイヤ振動による張力変動以外の張力変動をワーク切断領域に及ぼさない機構を設けることにより張力変動をワーク切断領域の張力を更に上げて加工することを可能にしたワイヤソー装置およびこれを用いたワーク切断方法であり、解決方法2としては、張力変動要因である(1)ワイヤ加減速、(4)プーリの慣性による張力変動、(2)トラバーサ折り返しによる張力変動、(3)ボビンへの巻き方向による張力変動、(5)ワイヤ振動による張力変動のうち、(5)ワイヤ振動による張力変動以外の張力変動を張力変動吸収手段により抑制または防止することにより、ワーク切断時の張力を更に上げて加工することを可能にしたワイヤソー装置およびこれを用いたワーク切断方法、この解決方法を利用したワイヤソー装置のワイヤ列で多数枚のウエハ状に切断してウエハを製造するウエハの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明のワイヤソー装置は、所定の間隔で配置された複数の溝付ローラ間に巻き付けられた切断用のワイヤの一方端が第1ダンサローラを介して供給ボビンに巻き付けられ、その他方端が第2ダンサローラを介して回収ボビンに巻き付けられて、該ワイヤを往復走行させて該複数の溝付ローラ間のワイヤの複数列でワークを切断するワイヤソー装置において、該複数の溝付ローラと該第1ダンサローラおよび該第2ダンサローラとの間にそれぞれ、第1バッファボビン手段と第2バッファボビン手段がそれぞれ配設され、該複数の溝付ローラと該第1バッファボビン手段の間に第3ダンサローラが配設されていると共に、該複数の溝付ローラと該第2バッファボビン手段の間に第4ダンサローラが配設されているものであり、そのことにより上記目的が達成される。
【0020】
また、好ましくは、本発明のワイヤソー装置において、前記第1ダンサローラおよび前記第2ダンサローラで管理する各張力値がそれぞれ、前記第3ダンサローラおよび前記第4ダンサローラで管理する各張力値よりも低い値に設定されている。
【0021】
さらに、好ましくは、本発明のワイヤソー装置において、前記第1バッファボビン手段と前記第2バッファボビン手段はそれぞれ、前記供給ボビンに対するトラバーサのワイヤ折り返し動作による張力変動および、前記回収ボビンに対するトラバーサのワイヤ折り返し動作による張力変動が、前記第3ダンサローラおよび前記第4ダンサローラで管理する各張力値に影響しないワイヤ巻き付け長さを有している。
【0022】
さらに、好ましくは、本発明のワイヤソー装置において、前記第3ダンサローラおよび前記第4ダンサローラで管理する各張力値は、前記第1ダンサローラおよび前記第2ダンサローラで管理する各張力値よりも、前記トラバーサのワイヤ折り返し動作による張力変動値の範囲内で高く設定されている。
【0023】
さらに、好ましくは、本発明のワイヤソー装置におけるワイヤ走行の往復切替に伴うワイヤ加減速の間に前記第3ダンサローラおよび前記第4ダンサローラで管理する各張力値がワイヤ速度一定時の各張力値よりもそれぞれ低く設定制御されている。
【0024】
さらに、好ましくは、本発明のワイヤソー装置におけるワイヤ走行の往復切替に伴うワイヤ加減速の間に前記ワークの送り量が一時的に0に設定される。
【0025】
さらに、好ましくは、本発明のワイヤソー装置において、前記第1バッファボビン手段と前記第2バッファボビン手段がそれぞれ一または複数の溝付ローラから構成されている。
【0026】
さらに、好ましくは、本発明のワイヤソー装置において、前記供給ボビンと前記第1ダンサローラの間に、該供給ボビンのワイヤ巻き位置に追随して移動する第1トラバーサが設けられ、前記第2ダンサローラと前記回収ボビンの間に、該回収ボビンのワイヤ巻き位置に追随して移動する第2トラバーサが設けられており、
該供給ボビンに対する該第1トラバーサのワイヤ折り返し移動による張力変動および、該回収ボビンに対する該第2トラバーサのワイヤ折り返し移動による張力変動を吸収する第1ワイヤ張力変動吸収手段と、ワイヤ往復走行の往復切替に伴う加減速時の張力変動を吸収する第2ワイヤ張力変動吸収手段とのうちの少なくともいずれかが設けられている。
【0027】
さらに、好ましくは、本発明のワイヤソー装置において、前記第1トラバーサおよび前記第2トラバーサにそれぞれ前記第1ワイヤ張力変動吸収手段がそれぞれ設けられている。
【0028】
さらに、好ましくは、本発明のワイヤソー装置における第1ワイヤ張力変動吸収手段は、前記供給ボビンと前記第1トラバーサの間および、前記回収ボビンと前記第2トラバーサの間にそれぞれ配置されている。
【0029】
さらに、好ましくは、本発明のワイヤソー装置における第2ワイヤ張力変動吸収手段は、前記溝付きロールと前記第1バッファボビン手段および前記第2バッファボビン手段との各間および、該第1バッファボビン手段と前記第1トラバーサおよび該第2バッファボビン手段と前記第2トラバーサの各間のうちの少なくともいずれかの各間に配置されている。
【0030】
さらに、好ましくは、本発明のワイヤソー装置において、前記第1ワイヤ張力変動吸収手段および前記第2ワイヤ張力変動吸収手段はそれぞれ、板体の両端部にそれぞれ各ガイドローラが回転自在に設けられ、該各ガイドローラ間に回転軸が設けられ、該回転軸を回転中心として該各ガイドローラが回転自在に軸支されており、該各ガイドローラに前記ワイヤが一方回転方向に付勢するように通され、他方回転方向に付勢するように張力付与手段が設けられて該一方回転方向の付勢力と該他方回転方向の付勢力とが平衡状態に設定されている。
【0031】
さらに、好ましくは、本発明のワイヤソー装置における張力付与手段は、前記第1ダンサローラおよび前記第2ダンサローラによる各張力と同一の張力を前記各ガイドローラに付与して該各ガイドローラは前記回転軸を回転中心として平衡状態になっている。
【0032】
本発明のワーク切断方法は、所定の間隔で配置された複数の溝付ローラ間に巻き付けられた切断用のワイヤの一方端が第1ダンサローラを介して供給ボビンに巻き付けられ、その他方端が第2ダンサローラを介して回収ボビンに巻き付けられて、該ワイヤを往復走行させて該複数の溝付ローラ間のワイヤの複数列でワークを切断するワーク切断方法において、該複数の溝付ローラと該第1ダンサローラおよび該第2ダンサローラとの間にそれぞれ、第1バッファボビン手段と第2バッファボビン手段がそれぞれ配設され、該複数の溝付ローラと該第1バッファボビン手段の間に第3ダンサローラが配設されていると共に、該複数の溝付ローラと該第2バッファボビン手段の間に第4ダンサローラが配設されているものであり、そのことにより上記目的が達成される。
【0033】
また、好ましくは、本発明のワーク切断方法において、前記第1ダンサローラおよび前記第2ダンサローラで管理する各張力値をそれぞれ、前記第3ダンサローラおよび前記第4ダンサローラで管理する各張力値よりも低い値に設定する。
【0034】
さらに、好ましくは、本発明のワーク切断方法において、前記第1バッファボビン手段と前記第2バッファボビン手段はそれぞれ、前記供給ボビンに対するトラバーサのワイヤ折り返し動作による張力変動および、前記回収ボビンに対するトラバーサのワイヤ折り返し動作による張力変動を、前記第3ダンサローラおよび前記第4ダンサローラで管理する各張力値に影響しないワイヤ巻き付け長さを有している。
【0035】
さらに、好ましくは、本発明のワーク切断方法において、前記第3ダンサローラおよび前記第4ダンサローラで管理する各張力値を、前記第1ダンサローラおよび前記第2ダンサローラで管理する各張力値よりも、前記トラバーサのワイヤ折り返し動作による張力変動値の範囲内で高く設定する。
【0036】
さらに、好ましくは、本発明のワーク切断方法におけるワイヤ走行の往復切替に伴うワイヤ加減速の間に前記第3ダンサローラおよび前記第4ダンサローラで管理する各張力値をワイヤ速度一定時の各張力値よりもそれぞれ低く設定制御する。
【0037】
さらに、好ましくは、本発明のワーク切断方法におけるワイヤ走行の往復切替に伴うワイヤ加減速の間に前記ワークの送り量を一時的に0に設定する。
【0038】
さらに、好ましくは、本発明のワーク切断方法において、前記第1バッファボビン手段と前記第2バッファボビン手段がそれぞれ一または複数の溝付ローラから構成されている。
【0039】
さらに、好ましくは、本発明のワーク切断方法において、前記供給ボビンと前記第1ダンサローラの間に、該供給ボビンのワイヤ巻き位置に追随して前記ワイヤを移動する第1トラバーサを設け、前記第2ダンサローラと前記回収ボビンの間に、該回収ボビンのワイヤ巻き位置に追随して該ワイヤを移動する第2トラバーサを設け、該供給ボビンに対する該第1トラバーサのワイヤ折り返し移動による張力変動および、該回収ボビンに対する該第2トラバーサのワイヤ折り返し移動による張力変動を吸収する第1ワイヤ張力変動吸収手段と、ワイヤ往復走行の往復切替に伴う加減速時の張力変動を吸収する第2ワイヤ張力変動吸収手段とのうちの少なくともいずれかを設ける。
【0040】
さらに、好ましくは、本発明のワーク切断方法において、前記第1トラバーサおよび前記第2トラバーサにそれぞれ前記第1ワイヤ張力変動吸収手段をそれぞれ設ける。
【0041】
さらに、好ましくは、本発明のワーク切断方法における第1ワイヤ張力変動吸収手段は、前記供給ボビンと前記第1トラバーサの間および、前記回収ボビンと前記第2トラバーサの間にそれぞれ配置されている。
【0042】
さらに、好ましくは、本発明のワーク切断方法における第2ワイヤ張力変動吸収手段は、前記溝付きロールと前記第1バッファボビン手段および前記第2バッファボビン手段との各間および、該第1バッファボビン手段と前記第1トラバーサおよび該第2バッファボビン手段と前記第2トラバーサの各間のうちの少なくともいずれかの各間に配置されている。
【0043】
さらに、好ましくは、本発明のワーク切断方法において、前記第1ワイヤ張力変動吸収手段および前記第2ワイヤ張力変動吸収手段はそれぞれ、帯状の板体の両端部にそれぞれ各ガイドローラが回転自在に設けられ、該各ガイドローラ間に回転軸が設けられ、該回転軸を回転中心として該各ガイドローラが回転自在に軸支されており、該各ガイドローラに前記ワイヤが一方回転方向に付勢するように通され、他方回転方向に付勢するように張力付与手段が設けられて該一方回転方向の付勢力と該他方回転方向の付勢力とを平衡状態に設定する。
【0044】
さらに、好ましくは、本発明のワーク切断方法における張力付与手段は、前記第1ダンサローラおよび前記第2ダンサローラによる各張力と同一の張力を前記各ガイドローラに付与して該各ガイドローラを前記回転軸を回転中心として平衡状態する。
【0045】
本発明のウエハの製造方法は、本発明の上記ワーク切断方法において、前記ワークが半導体インゴットであって、該半導体インゴットをワイヤソー装置のワイヤ列で多数枚のウエハ状に切断して多数枚のウエハ素材を製造するものであり、そのことにより上記目的が達成される。
【0046】
上記構成により、以下、本発明の作用を説明する。
【0047】
本発明においては、所定の間隔で配置された複数の溝付ローラ間に巻き付けられた切断用のワイヤの一方端が第1ダンサローラを介して供給ボビンに巻き付けられ、その他方端が第2ダンサローラを介して回収ボビンに巻き付けられて、ワイヤを往復走行させて複数の溝付ローラ間のワイヤの複数列でワークを切断するワイヤソー装置において、複数の溝付ローラと第1ダンサローラおよび第2ダンサローラとの間にそれぞれ、第1バッファボビン手段と第2バッファボビン手段がそれぞれ配設され、複数の溝付ローラと第1バッファボビン手段の間に第3ダンサローラが配設されていると共に、複数の溝付ローラと第2バッファボビン手段の間に第4ダンサローラが配設されている。
【0048】
これによって、ワークを切断する切断領域のワイヤ張力に対して、張力変動の大きいボビン折り返しによるワイヤ張力変動の影響をバッファボビンにより受けない状態とし、切断領域のワイヤ張力をその分だけ大きく設定し、ボビン折り返しによるワイヤ張力変動が存在する領域ではワイヤ張力を小さく設定できるので、切断領域では従来装置と比較してより高いワイヤ張力で効率よくワークの切断を行うことが可能で、ボビン折り返しによるワイヤ張力変動が存在する領域ではワイヤ張力を弱めてワイヤ断線を抑制または防止することが可能となる。要するに、ボビン折り返しによるワイヤ張力変動が存在する領域ではワイヤ張力を弱めても、バッファボビンによりボビン折り返しによるワイヤ張力変動の影響を受けない切断領域ではその分、ワイヤ張力を高めて効率よくワークの切断を行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0049】
以上により、本発明によれば、ワークを切断する切断領域のワイヤ張力に対して、張力変動の大きいボビン折り返しによるワイヤ張力変動の影響をバッファボビンにより受けない状態とし、切断領域のワイヤ張力をその分だけ大きく設定し、ボビン折り返しによるワイヤ張力変動が存在する領域ではワイヤ張力を小さく設定できるため、切断領域では従来装置と比較してより高いワイヤ張力で効率よくワークの切断を行うことができ、ボビン折り返しによるワイヤ張力変動が存在する領域ではワイヤ張力を弱めてワイヤ断線を抑制または防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施形態1におけるワイヤソー装置の要部構成例を模式的に示す斜視図である。
【図2】(a)は、時間軸(min)に対するワイヤ供給側の張力モニタリング結果を模式的に示す図、(b)は、時間軸(min)に対するワイヤ走行速度を模式的に示す図、(c)は、時間軸(min)に対するワイヤ切断領域の張力モニタリング結果を模式的に示す図である。
【図3】本発明の実施形態2におけるワイヤソー装置の要部構成例を模式的に示す斜視図である。
【図4】図3のトラバーサの第1ワイヤ張力変動吸収手段の一例を示す正面図である。
【図5】図3の第1ワイヤ張力変動吸収手段とは別の事例を示す側面図である。
【図6】図5の第1ワイヤ張力変動吸収手段の正面図である。
【図7】図5の第1ワイヤ張力変動吸収手段とは別の第2ワイヤ張力変動吸収手段の事例を示す正面図である。
【図8】図7の第2張力変動吸収手段とは別の事例の第2張力変動吸収手段を含む正面図である。
【図9】(a)は、時間軸(min)に対するワイヤ供給側の張力モニタリング結果を模式的に示す図、(b)は、時間軸(min)に対するワイヤ走行速度を模式的に示す図、(c)は、時間軸(min)に対するワイヤ切断領域の張力モニタリング結果を模式的に示す図である。
【図10】(a)は、時間軸(min)に対するワイヤ供給側の張力モニタリング結果を模式的に示す図、(b)は、時間軸(min)に対するワイヤ走行速度を模式的に示す図、(c)は、時間軸(min)に対するワイヤ切断領域の張力モニタリング結果を模式的に示す図である。
【図11】特許文献1に開示されている従来のワイヤソー装置の要部構成例を模式的に示す斜視図である。
【図12】(a)は、時間軸(min)に対するワイヤ供給側の張力モニタリング結果を模式的に示す図、(b)は、時間軸(min)に対するワイヤ走行速度を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下に、本発明のワイヤソー装置およびワーク切断方法、ウエハの製造方法の実施形態1、2について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図における構成部材のそれぞれの厚みや長さなどは図面作成上の観点から、図示する構成に限定されるものではない。
【0052】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1におけるワイヤソー装置の要部構成例を模式的に示す斜視図である。
【0053】
図1において、本実施形態1のワイヤソー装置1は複数(ここでは2個)の溝付ローラ2,3が所定間隔を置いて水平に配置されている。2個の溝付ローラ2,3の回転軸はその軸方向が平行でその回転軸の外側の外周溝と共に回転自在に設けられている。これらの溝付ローラ2,3はそれぞれ、その周面に所定ピッチ間隔で複数の外周溝が形成されている。所定の間隔で配置された複数の溝付きローラ2,3の外周溝に切断用のワイヤ4が巻き付けられている。
【0054】
溝付ローラ2,3の外周溝に巻き付けられるワイヤ4は、螺旋状に巻き付けられる。溝付ローラ2,3間で巻き回数が多い場合には数千回程度にもなる。溝付ローラ2,3間に螺旋状に巻き付けられたワイヤ4の一方端が新線供給側の供給ボビン5に巻き付けられ、その他方端が旧線回収側の回収ボビン6に巻き付けられている。これらの溝付ローラ2、3、供給ボビン5および回収ボビン6を互いに同期を取って駆動することにより、溝付ローラ2,3間に巻き付けられたワイヤ4を走行させてワイヤ4の複数列でワーク7(ここでは半導体インゴット)を多数枚同時に切断するようになっている。切断枚数は多い場合には、数千枚程度を同時に切断する。ワイヤ4は、芯線径が例えばここでは50μm〜500μm程度のものを用い、芯線の周囲にダイヤモンドなどの砥粒が固着された固定砥粒ワイヤを用いる。ワイヤ4の芯線径によって切り代が決まり例えばワイヤ4の径が50μm(0.05mm)の場合に切り代も50μm(0.05mm)程度となるのが理想的である。供給ボビン5には、例えば数十〜数百Kmのワイヤ4が巻かれている。ワイヤソー装置1はワイヤ4を往復走行しており、回収ボビン6に巻かれたワイヤ4は、溝付ローラ2,3、供給ボビン5および回収ボビン6の駆動が反転して供給ボビンとして動作する。ここでは、供給ボビン5と回収ボビン6は名称を決めて説明している。
【0055】
各溝付ローラ2,3に巻き付けられるワイヤ4に、所要の張力を与えるため、溝付ローラ2と供給ボビン5との間に慣性駆動のガイドローラ8,9が設けられ、ガイドローラ8,9の間に第1ダンサローラ10が設けられている。また同様に、所要の張力を与えるため、溝付ローラ2と回収ボビン6との間の慣性駆動のガイドローラ11,12が設けられ、ガイドローラ11,12の間に第2ダンサローラ13が設けられている。また、溝付ローラ2とガイドローラ9の間に、ワイヤ走行に同期して回転させるバッファボビン14が設けられ、溝付ローラ2とバッファボビン14の間には慣性駆動のガイドローラ15,16が設けられ、所要の張力を与えるため、ガイドローラ15,16の間に第3ダンサローラ17が設けられている。また同様に、溝付ローラ2とガイドローラ11の間に、ワイヤ走行に同期して回転させるバッファボビン18が設けられ、溝付ローラ2とバッファボビン18の間に慣性駆動のガイドローラ19,20が設けられ、所要の張力を与えるため、ガイドローラ19,20の間に第4ダンサローラ21が設けられている。
【0056】
バッファボビン14,18はそれぞれ、ワイヤ4が数百m程度を周回できて、溝付ローラ2,3側の張力と供給ボビン5または回収ボビン6側の各張力とが互いに影響しないように緩衝用に設けられている。ここでは、バッファボビン14,18へのワイヤ4の巻き長さは、ボビン前後で張力の影響を受けない長さ(例えば200m〜300m)以上とし、ワイヤ4が重ならないようにし、ワイヤ摩擦がないようにする。また、バッファボビン14,18は、それぞれ1つのボビン構成でもよいし、2つのボビン構成でもよく、それ以上の複数のボビン構成でもよい。例えばバッファボビン14として2つのボビン構成の場合、1つのボビン構成に比べてワイヤ4の巻き数を少なくしてワイヤ4の距離を長く稼ぐことができる。バッファボビン14,18には溝があってもなくてもよいが、ワイヤ4が滑らなければよい。また、バッファボビン14,18はそれぞれ、溝付ローラ2,3の回転駆動に同期するように回転させる。したがって、供給ボビン5からバッファボビン14の間の張力変動およびバッファボビン18から回収ボビン6の間の張力変動を、バッファボビン14,18から溝付ローラ2,3の間の張力変動を別々のダンサローラ10,13とダンサローラ17,21で管理している。バッファボビン14,18の溝付ローラ2,3側の位置Aにはそれぞれ、後述するトラバーサ22,23でワイヤ折り返しによる張力変化が常に伝わらないようにしている。
【0057】
第1ダンサローラ10は供給ボビン5とバッファボビン14との間のワイヤ4の張力を一定に制御している。第2ダンサローラ13はバッファボビン14と回収ボビン6との間のワイヤ4の張力を一定に制御している。第3ダンサローラ17はバッファボビン14と溝付ローラ2との間のワイヤ4の張力を一定に制御している。さらに、第4ダンサローラ21は溝付ローラ2とバッファボビン18との間のワイヤ4の張力を一定に制御している。これらのダンサローラ10,13,17,21はそれぞれ、一定の付勢力が下方に働いてワイヤ4に一定の張力が作用するようになっている。第3ダンサローラ17および第4ダンサローラ21で管理する各張力値が、第1ダンサローラ10および第2ダンサローラ13で管理する各張力値よりも高い値に設定されている。要するに、ワイヤ折り返しによる張力変動がバッファボビン14,18により切断領域31側に影響しない分だけ、ワーク7を切断する切断領域31の張力を大きくでき、供給ボビン5側の供給領域32または回収ボビン6側の回収領域33についてはそれよりも低い張力で管理する。供給領域32および回収領域33の各張力はワーク7の切断領域31の張力よりも3.5N以上低い張力が好ましい。これは、供給領域32および回収領域33が(1)ワイヤ加減速、(4)プーリの慣性による張力変動、(2)トラバーサ折り返しによる張力変動、(3)ボビンへの巻き方向による張力変動、(5)ワイヤ振動による張力変動、の影響を受ける領域であり、また、ワーク切断領域31が(1)ワイヤ加減速、(4)プーリの慣性による張力変動、(5)ワイヤ振動による張力変動の影響を受ける領域であり、これらの差分である3.5N以上低い張力で制御することにより、張力変動の複数の事象が同時に起こった場合においてもワイヤの破断強度を超えることがなく、ワイヤ断線を防止することができる。
【0058】
具体的には、ワーク7を切断するワーク切断領域31では、第3ダンサローラ17および第4ダンサローラ21により張力を17Nで制御し、ワイヤ往復走行の加減速時には、第3ダンサローラ17および第4ダンサローラ21でのワイヤ4の断線を防止するために、張力を17Nよりも3.5N低い13.5Nで制御する。このように、ワイヤ往復走行の加減速時には、張力変動があるのでワイヤ4の断線を防ぐため、溝付ローラ2,3の張力制御用の第3ダンサローラ17および第4ダンサローラ21の張力制御値を下げる。ワイヤ走行の減速開始と共にその制御張力値を下げ、停止時(走行速度が0)に制御張力値を最小とし、ワイヤ走行の加速開始と共にその制御張力値を上げる。このとき同時に、ワーク7の送りも一時的に停止すれば、第3ダンサローラ17および第4ダンサローラ21でのワイヤ4の断線を防止するために効果的である。一方、供給ボビン5側の供給領域32および回収ボビン6側の回収領域33では、第1ダンサローラ10および第2ダンサローラ13により張力を10Nで制御する。第1ダンサローラ10および第2ダンサローラ13の制御張力値は、第3ダンサローラ17および第4ダンサローラ21の制御張力値よりも、トラバーサ22,23でワイヤ折り返しによるワイヤ張力変動の分以下に低く設定される。
【0059】
供給ボビン5とガイドローラ8の間にはトラバーサ22が設けられ、トラバーサ22が供給ボビン5のボビン幅方向に移動して、供給ボビン5に整列して巻き付けられているワイヤ4が順次取り出すように作用する。また、ガイドローラ12と回収ボビン6との間にはトラバーサ23が設けられ、トラバーサ23が回収ボビン6のボビン幅方向に移動して、回収ボビン6に整列してワイヤ4が巻き取られるように作用する。この場合、供給側のトラバーサ22は、供給ボビン5からワイヤ4を取り込むときにボビンワイヤ位置に順次移動して整列巻き付けされたワイヤ4をスムーズに取り出す機能を有している。また、回収側のトラバーサ23は、回収ボビン6にワイヤ4を整列巻き付けするためにボビンワイヤ位置に順次移動してワイヤ4をスムーズに順次巻き付ける機能を有している。
【0060】
溝付ローラ2、3間のワイヤ4の上側ワイヤ列面は半導体インゴットのワーク7の切断面であり、この切断面を左右に横切るように加工液供給部24,25がワーク7の前後に設けられている。この切断面の各ワイヤ列に加工液供給部24,25の加工液供給口から冷却用のクーラントをかけながら、例えばワーク7をその切断面のワイヤ列面に押し付けて切断する。冷却の目的で液体のクーラントをワーク7および各ワイヤ4にかけながら多数本のワイヤ4で一括して同時にワーク7を多数枚のウエハ状に切断する。
【0061】
このワイヤ列へのワーク7の押付けは、ワーク7を固定した固定部26をワーク送り機構27により昇降させて、ワーク7を溝付ローラ2、3間のワイヤ列に上から押し付ける。多数本が平行に並んだワイヤ4の複数列上にワーク7を押し付けることにより、厚さが均一な多数枚の薄いウエハ状に同時に切断する。これによって、厚さの揃ったウエハ素材を製造することができる。
【0062】
上記構成により、以下、その動作について説明する。
【0063】
図2(a)は、時間軸(min)に対するワイヤ供給側の張力モニタリング結果を模式的に示す図、図2(b)は、時間軸(min)に対するワイヤ走行速度を模式的に示す図、図2(c)は、時間軸(min)に対するワイヤ切断領域31の張力モニタリング結果を模式的に示す図である。
【0064】
前述したが、ワイヤ張力変動原因は、主に(1)ワイヤ加減速、(4)プーリの慣性による張力変動、(2)トラバーサ折り返しによる張力変動、(3)ボビンへの巻き方向による張力変動および(5)ワイヤ振動による張力変動である。
【0065】
図2(a)に示すように、トラバーサ22,23によるワイヤ折り返し周期で例えば張力13.5Nを中心にして±1N分山形および谷形にワイヤ張力が変動する。また、ワイヤ往復走行に伴う加減速によって±2.5N分のトリガ状の張力変動が発生する。更に供給ボビン5、回収ボビン6への巻き方向による張力変動によって±2.5Nの張力変動が発生する。
【0066】
図2(b)に示すように、ワイヤ往復走行でワーク7を多数枚のウエハ状に切断しているが、往復走行するワイヤ方向の切り替え時に所定の一定速度からワイヤ4が加減速される。ワイヤ4の往走行と復走行とは1000対990程度の時間比である。
【0067】
図2(a)に示すように、ワイヤ走行の往復切替に伴うワイヤ加減速時点のワイヤ速度0前後の位置でワイヤ張力がトリガ状に増減変動する。したがって、ワイヤ張力変動に影響が大きいのは、供給ボビン5および回収ボビン6に対してトラバーサ22、23を追従させ固定砥粒ワイヤ4を繰り出し、巻き取りを行う時のトラバーサ22、23の供給ボビン5および回収ボビン6への巻き方向による張力変動が最大の時に、トラバーサ22,23によるワイヤ折り返し動作によるワイヤ張力変動の最大値が重なり、かつ、ワイヤ往復走行時のワイヤ加減速によるワイヤ張力変動が同時に起こる場合にワイヤ張力変動が最大となる。これは図2(a)の左横方向の矢印に示す張力最大位置T maxである。この最大張力がワイヤ4の破断張力20Nを超えないようにしなければならない。
【0068】
本実施形態1では、ワーク7の切断するワーク切断領域31と、供給ボビン5側の供給領域32および回収ボビン6側の回収領域33との間にバッファボビン14,18を設けて、ワーク切断領域31のワイヤ張力に、ワイヤ張力変動の大きいトラバーサ22,23のワイヤ折り返し動作によるワイヤ張力変動の影響を受けない状態としている。トラバーサ22,23のワイヤ折り返し動作によるワイヤ張力変動が、バッファボビン14,18によりワーク切断領域31に伝わらない分だけ、ワイヤ張力の最大値が下がる。ワーク切断領域31においてそのワイヤ張力の最大値が下がる分だけ、逆にワイヤ張力を高くしてもワイヤ4の断線がなく、ワーク7を効率よく切断することができる。
【0069】
したがって、バッファボビン14,18に挟まれたワーク切断領域31では、往復走行するワイヤ方向切り替え時のワイヤ加減速によりワイヤ張力変動がトリガ状に増減変動するが、供給ボビン5および回収ボビン6に対してトラバーサ22,23を追従させ固定砥粒ワイヤ101を繰り出し、巻き取りを行う時のトラバーサ22,23の供給ボビン5および回収ボビン6への巻き方向による張力変動と、供給ボビン5および回収ボビン6に対してボビン幅方向にワイヤ4を移動させる場合のワイヤ折り返し動作によるワイヤ張力変動は発生せず、図2(a)に示す山形および谷形の凹凸波形はなくなって、図2(c)に示すトリガ状の張力増減変動が定期的に存在するだけの横一本線になり、ワイヤ折り返し動作による山形および谷形の張力変動がない分、張力を上げて切断加工の効率を上げることができる。
【0070】
要するに、第3ダンサローラ17および第4ダンサローラ21で管理する各張力値は、第1ダンサローラ10および第2ダンサローラ13で管理する各張力値よりも、トラバーサ22,23のワイヤ折り返し動作による各張力変動値の範囲内で高く設定すればよい。
【0071】
一方、バッファボビン14,18により隔離された供給ボビン5側の供給領域32および回収ボビン6側の回収領域33では、図2(a)に示すように、供給ボビン5および回収ボビン6に対してトラバーサ22,23を追従させ固定砥粒ワイヤ101を繰り出し、巻き取りを行う時のトラバーサ22,23の供給ボビン5および回収ボビン6への巻き方向による張力変動(例えば2.5N)と共に、供給ボビン5または回収ボビン6に対してボビン幅方向にワイヤ4を移動させる場合のワイヤ折り返しによる山形および谷形のワイヤ張力変動(例えば1N)更に、往復走行するワイヤ方向切り替え時のワイヤ加減速によりパルス的なワイヤ張力変動(例えば2.5N)、ワイヤ振動による張力変動(例えば0.5N)が発生するものの、制御張力値を低めてワイヤ4の断線の安全性を確保すればよい。
【0072】
以上により、本実施形態1によれば、所定の間隔で配置された各溝付ローラ2,3間に巻き付けられた切断用のワイヤ4の一方端が第1ダンサローラ10を介して供給ボビン5に巻き付けられ、各溝付ローラ2,3間に巻き付けられた切断用のワイヤ4の他方端が第2ダンサローラ13を介して回収ボビン6に巻き付けられて、ワイヤ4を走行させて各溝付ローラ2,3間のワイヤ4の複数列でワーク7を切断するワイヤソー装置1において、各溝付ローラ2,3と第1ダンサローラ10および第2ダンサローラ13との間にそれぞれ、第1バッファボビン手段としての第1バッファボビン14と第2バッファボビン手段としての第2バッファボビン18がそれぞれ配設され、各溝付ローラ2,3と第1バッファボビン14との間に第3ダンサローラ17が配設されると共に、各溝付ローラ2、3と第2バッファボビン18との間に第4ダンサローラ21が配設されている。
【0073】
これによって、半導体インゴットなどワーク7を切断する領域31のワイヤ張力を、ワイヤ張力変動の大きい要因であるボビン折り返しの影響を受けないように第1バッファボビン14と第2バッファボビン18を設けたため、各溝付ローラ2,3側の張力を、ボビン折り返し時の張力変動分だけ最大限に設定することができ、従来装置と比較してより高いワイヤ張力でワイヤ断線なく半導体インゴットなどワーク7の切断を効率的に行うことができる。
【0074】
即ち、ワーク7を切断するワイヤ切断領域31のワイヤ張力に対して、張力変動の大きいボビン折り返し動作によるワイヤ張力変動の影響をバッファボビン14,18により受けない状態とし、ワイヤ切断領域31のワイヤ張力をその分だけ大きく設定し、ボビン折り返し動作によるワイヤ張力変動が存在する供給領域32および回収領域33ではワイヤ張力を小さく設定できるため、ワイヤ切断領域31では従来装置と比較してより高いワイヤ張力で効率よくワーク7の切断を行うことができ、ボビン折り返し動作によるワイヤ張力変動が存在する領域(供給領域32および回収領域33)ではワイヤ張力を弱めてワイヤ断線を抑制または防止することができる。
【0075】
(実施形態2)
上記実施形態1では、溝付ローラ2と供給ボビン5およびトラバーサ22との間にバッファボビン14を設け、溝付ローラ2とトラバーサ23および回収ボビン6との間にバッファボビン18を設けて、バッファボビン14,18によりトラバーサによるワイヤ折り返しを原因とするワイヤ張力変動を溝付ローラ2,3側のワーク切断領域に影響させない場合について説明したが、本実施形態2では、トラバーサによるワイヤ折り返しを原因とするワイヤ張力変動を張力変動吸収機構としての張力変動吸収手段により吸収する場合について説明する。
【0076】
図3は、本発明の実施形態2におけるワイヤソー装置の要部構成例を模式的に示す斜視図である。なお、図3では、図1の構成部材と同一の作用効果を奏する構成部材には同一の符号を付して説明する。
【0077】
図3において、本実施形態1のワイヤソー装置1Aにおいて、所定距離を置いて配置された溝付ローラ2,3にはそれぞれ、その周面に所定ピッチ間隔で複数の外周溝が形成されている。複数の溝付きローラ2,3の外周溝に切断用のワイヤ4が巻き付けられている。 溝付ローラ2,3間に螺旋状に巻き付けられたワイヤ4の一方端が、溝付ローラ2から新線供給側の供給ボビン5に巻き付けられ、その他方端が溝付ローラ2から旧線回収側の回収ボビン6に巻き付けられている。これらの供給ボビン5および回収ボビン6を駆動することにより、溝付ローラ2,3間に巻き付けられたワイヤ4を走行させてワイヤ4の複数列でワーク7(ここでは半導体インゴット)を多数枚同時に切断するようになっている。
【0078】
各溝付ローラ2,3に巻き付けられるワイヤ4に、所要の張力を与えるため、溝付ローラ2と供給ボビン5との間に第1ダンサローラ10が設けられ、溝付ローラ2と回収ボビン6との間の第2ダンサローラ13が設けられている。第1ダンサローラ10と供給ボビン5との間には、張力変動吸収手段を持つトラバーサ22Aが設けられ、トラバーサ22Aが供給ボビン5のワイヤ巻き付け位置に追随してボビン幅方向に移動して、供給ボビン5に整列して巻き付けられているワイヤ4が順次取り出されるように作用する。また、第2ダンサローラ13と回収ボビン6との間にも、張力変動吸収手段を持つトラバーサ23Aが設けられ、トラバーサ23Aが回収ボビン6のワイヤ巻き付け位置に追随してボビン幅方向に移動して、回収ボビン6に整列してワイヤ4が巻き取られるように作用する。この場合、供給側のトラバーサ22Aは、供給ボビン5からワイヤ4を取り込むときにボビンワイヤ位置に順次移動して整列巻き付けされたワイヤ4をスムーズに取り出す機能を有している。また、回収側のトラバーサ23Aは、回収ボビン6にワイヤ4を整列巻き付けするためにボビンワイヤ位置に順次移動してワイヤ4をスムーズに順次巻き付ける機能を有している。
【0079】
トラバーサ22A,23Aの張力変動吸収手段はそれぞれ、供給ボビン5および回収ボビン6に対してボビン幅方向にワイヤ4を移動させる場合のワイヤ折り返し動作で発生する張力変動分を吸収する第1ワイヤ張力変動吸収手段である。
【0080】
溝付ローラ2、3間のワイヤ4の上側ワイヤ列面がワーク7の切断面であるが、ここでは図示していないが、この切断面を左右に横切るように加工液供給部24,25がワーク7の前後に設けられている。ワイヤ列へのワーク7の押付けは、ワーク7を固定した固定部26をワーク送り機構27により昇降させて、ワーク7を溝付ローラ2,3間のワイヤ列に上から押し付けるようになっている。これらの構成は図1の場合と同様である。
【0081】
図4は、図3のトラバーサ22Aの第1ワイヤ張力変動吸収手段の一例を示す正面図である。なお、トラバーサ22Aの第1ワイヤ張力変動吸収手段はトラバーサ23Aの第1ワイヤ張力変動吸収手段と同様の構成である。
【0082】
図4に示すように、トラバーサ22Aの第1ワイヤ張力変動吸収手段は、帯状の板体の両端部にそれぞれ各ガイドローラ221,222が回転自在に設けられ、各ガイドローラ221,222間に回転軸223が設けられ、回転軸223を回転中心として各ガイドローラ221,222が回転自在に軸支されている。トラバーサ22Aの第1ワイヤ張力変動吸収手段は、各ガイドローラ221,222にワイヤ4が一方回転方向に付勢するようにS字状に通され、他方回転方向に付勢するように張力付与手段(回転付勢手段)が設けられて一方回転方向の付勢力と他方回転方向の付勢力とが平衡状態(均衡状態)になるように構成されている。
【0083】
即ち、トラバーサ22Aの第1ワイヤ張力変動吸収手段は、帯状の板体の両端部にガイドローラ221,222が回転軸223を回転中心として回転自在に軸支され、ここでは図示していないが、回転軸223を回転中心として左回転方向に所定の付勢力(ダンサローラの張力設定値)で付勢するつるまきばねや回転ソレノイドコイルなどの張力付与手段(回転付勢手段)を有している。ダンサローラ10,13の張力設定値に、回転軸223を持つシーソ状の張力変動吸収手段が釣り合うようにばねなどの付勢力を調整している。このように、二つの各ガイドローラ221,222がその間の回転軸223を回転中心として左回転方向に付勢した状態でシーソ状に釣り合うように、ワイヤ4がガイドローラ221の右側からガイドローラ222の左側にS字状に通された後に、ガイドローラ222を介して右側にワイヤ4が引き出されている。
【0084】
この場合に、ワイヤ4の張力が徐々にまたは瞬間的に増加してワイヤ4が右側に引っ張られると、張力付与手段(回転付勢手段)の左回転方向の付勢力に抗して右回転方向に回転することにより張力変動が吸収される。また逆に、ワイヤ4の張力が徐々にまたは瞬間的に減少してワイヤ4が緩んで左側に移動しても、張力付与手段(回転付勢手段)の左回転方向の付勢力とのシーソバランスが崩れて張力付与手段(回転付勢手段)の付勢力によって左回転方向にガイドローラ221,222が回転軸223を回転中心として回転することによりワイヤ4が緩んだ分を吸収することができる。
【0085】
トラバーサ22Aは、第1ワイヤ張力変動吸収手段と共に、供給ボビン5のボビン幅方向(トラバーサ往復範囲B)に移動して、供給ボビン5に整列して巻き付けられているワイヤ4が順次取り出される。
【0086】
図4では、第1ワイヤ張力変動吸収手段が第1トラバーサ22Aおよび第2トラバーサ23Aにそれぞれ設けられた場合について説明したが、図5および図6では、トラバーサとは別に、第1ワイヤ張力変動吸収手段が供給ボビン5および回収ボビン6とトラバーサとの間にそれぞれ配置されている場合について説明する。
【0087】
図5は、図3の第1ワイヤ張力変動吸収手段とは別の事例を示す側面図である。図6は、図5の第1ワイヤ張力変動吸収手段の正面図である。
【0088】
図5および図6に示すように、供給ボビン5と一方のトラバーサ22Bとの相対位置変動および回収ボビン6と他方のトラバーサ23Bとの相対位置変動に起因する各張力変動を吸収する第1ワイヤ張力変動吸収手段としての張力変動吸収手段225が供給ボビン5とトラバーサ22Bとの間および、回収ボビン6とトラバーサ23Bとの間にそれぞれ配置されている。ここでは、供給ボビン5とトラバーサ22Bとの間に設けられた第1ワイヤ張力変動吸収手段としての張力変動吸収手段225について説明する。この張力変動吸収手段225は、帯状の板体の両端部に設けられた各ガイドローラ221,222がその間の回転軸223を回転中心として回転自在に軸支され、帯状の板体により直結された各ガイドローラ221,222自体も回転自在に軸支されている。回転軸223を回転中心として右回転方向に、張力付与手段(回転付勢手段)としてのばね224の所定の付勢力(ダンサローラ10の張力設定値に同じ)で付勢されている。張力変動吸収手段225がばね224によって右回転方向に付勢した状態で回転軸223を回転中心としてシーソ状に釣り合うように、ワイヤ4がガイドローラ221の左側からガイドローラ222の右側に逆S字状に通された後に、ガイドローラ222からトラバーサ22Bを介してワイヤ4が引き出されている。ワイヤ4に張力を付与している第1ダンサローラ10による左回転力と、ダンサローラ10と同一の張力を付与するばね224の付勢力による右回転力とがシーソ状に平衡状態となっている。
【0089】
この場合に、ワイヤ4の張力が徐々にまたは瞬間的に増加してワイヤ4が引っ張られると、ばね224の右回転方向の付勢力に抗して張力変動吸収手段225が左回転方向に回転することにより張力変動が吸収される。また逆に、ワイヤ4の張力が徐々にまたは瞬間的に減少してワイヤ4が緩んでも、ばね224の右回転方向の付勢力とのシーソバランスが崩れてばね224の付勢力によって右回転方向にガイドローラ221,222が回転軸223を回転中心として回転することによりワイヤ4が緩んだ分を吸収することができる。
【0090】
図7は、図5の第1ワイヤ張力変動吸収手段とは別の第2ワイヤ張力変動吸収手段の事例を示す正面図である。
【0091】
図7に示すように、ワイヤ4の往復走行切替に伴う加減速時の張力変動を吸収させる第2ワイヤ張力変動吸収手段としての張力変動吸収手段がトラバーサ22Cに設けられている。このトラバーサ22Cの第2ワイヤ張力変動吸収手段がダンサローラ10側に配置されている。このトラバーサ22Cは、帯状の板体の両端部に設けられた各ガイドローラ221,222がその間の回転軸223を回転中心として回転自在に軸支され、帯状の板体により直結された各ガイドローラ221,222自体も回転自在に軸支されている。回転軸223を回転中心として各ガイドローラ221,222を右回転方向に、張力付与手段(回転付勢手段)としてのばね224の所定の付勢力(ダンサローラ10の張力設定値に同一)で付勢されている。ばね224によって各ガイドローラ221,222を右回転方向に付勢された状態で釣り合うように、ワイヤ4がガイドローラ221の左側からガイドローラ222の下側に逆S字状に通された後に、ガイドローラ222からワイヤ4が引き出されている。ワイヤ4に張力を付与しているダンサローラ10による左回転力と、ダンサローラ10と同一の張力を付与するばね224の付勢力による右回転力とがシーソ状に平衡状態となっている。
【0092】
この場合に、ワイヤ4の張力が徐々にまたは瞬間的に増加してワイヤ4が引っ張られると、ばね224の右回転方向の付勢力に抗して左回転方向に回転することにより張力変動が吸収される。また逆に、ワイヤ4の張力が徐々にまたは瞬間的に減少してワイヤ4が緩んでも、ばね224の右回転方向の付勢力とのバランスが崩れてばね224の付勢力によって右回転方向にガイドローラ221,222が回転軸223を回転中心として回転することによりワイヤ4が緩んだ分を吸収することができる。
【0093】
図8は、図7の第2張力変動吸収手段とは別の事例の第2張力変動吸収手段を含む正面図である。
【0094】
図8に示すように、供給ボビン5と一方のトラバーサ22Bとの相対位置変動に起因する張力変動を吸収する第1ワイヤ張力変動吸収手段としての張力変動吸収手段225が供給ボビン5とトラバーサ22Bとの間に配置されている。また、ワイヤ4の往復走行切替に伴う加減速時の張力変動を吸収する第2ワイヤ張力変動吸収手段としての張力変動吸収手段226がトラバーサ22Bとダンサローラ10との間に設けられている。要するに、第1ワイヤ張力変動吸収手段としての張力変動吸収手段225と、第2ワイヤ張力変動吸収手段としての張力変動吸収手段226がトラバーサ22B(またはトラバーサ23B)を挟んで共に設けられている。
【0095】
この張力変動吸収手段225は、帯状の板体の両端部に設けられた各ガイドローラ221,222がその間の回転軸223を回転中心として回転自在に軸支され、帯状の板体により直結された各ガイドガイドローラ221,222も回転自在に軸支されされている。回転軸223を回転中心として各ガイドガイドローラ221,222が右回転方向に、張力付与手段(回転付勢手段)としてのばね224の所定の付勢力(ダンサローラ10の張力設定値に同一)で付勢されている。張力変動吸収手段225がばね224によって右回転方向に付勢した状態でシーソ状に釣り合うように、ワイヤ4がガイドローラ221の左側からガイドローラ222の右側に逆S字状に通された後に、ガイドローラ222からトラバーサ22Bを介してワイヤ4が引き出されている。ワイヤ4に張力を付与しているダンサローラ10による左回転力と、ダンサローラ10と同一の張力を付与するばね224の付勢力による右回転力とがシーソ状に平衡状態となっている。
【0096】
この場合に、ワイヤ4の張力が徐々にまたは瞬間的に増加してワイヤ4が引っ張られると、ばね224の右回転方向の付勢力に抗して張力変動吸収手段225が左回転方向に回転することにより張力変動が吸収される。また逆に、ワイヤ4の張力が徐々にまたは瞬間的に減少してワイヤ4が緩んでも、ばね224の右回転方向の付勢力とのバランスが崩れてばね224の付勢力によって右回転方向にガイドローラ221,222が回転軸223を回転中心として回転することによりワイヤ4が緩んだ分を吸収することができる。
【0097】
次に、この張力変動吸収手段226は、帯状の板体の両端部に設けられたガイドローラ221,222がその間の回転軸223を回転中心として回転自在に軸支され、帯状の板体により直結された各ガイドローラ221,222自体も回転自在に軸支されている。回転軸223を回転中心として右回転方向に、張力付与手段(回転付勢手段)としてのばね224の所定の付勢力(ダンサローラ10の張力設定値と同一)で付勢されている。ばね224によって右回転方向に付勢された状態で釣り合うように、ワイヤ4がガイドローラ221の左側からガイドローラ222の下側に逆S字状に通された後に、ガイドローラ222からワイヤ4が引き出されている。ワイヤ4に張力を付与しているダンサローラ10による左回転力と、ダンサローラ10と同一の張力を付与するばね224の付勢力による右回転力とがシーソ状に平衡状態となっている。
【0098】
この場合に、ワイヤ4の張力が徐々にまたは瞬間的に増加してワイヤ4が引っ張られると、ばね224の右回転方向の付勢力に抗して左回転方向に回転することにより張力変動が吸収される。また逆に、ワイヤ4の張力が徐々にまたは瞬間的に減少してワイヤ4が緩んでも、ばね224の右回転方向の付勢力とのバランスが崩れてばね224の付勢力によって右回転方向にガイドローラ221,222が回転軸223を回転中心として回転することによりワイヤ4が緩んだ分を吸収することができる。
【0099】
上記構成により、以下、その動作について説明する。
【0100】
図9(a)は、時間軸(min)に対するワイヤ供給側の張力モニタリング結果を模式的に示す図、図9(b)は、時間軸(min)に対するワイヤ走行速度を模式的に示す図、図9(c)は、時間軸(min)に対するワーク7切断領域の張力モニタリング結果を模式的に示す図である。
【0101】
前述したが、ワイヤ張力変動原因は、主に(1)ワイヤ加減速と(4)プーリの慣性による張力変動分±2.5N、(2)トラバーサ折り返しによる張力変動分±1N、(3)ボビンへの巻き方向による張力変動分±2.5N、および(5)ワイヤ振動による張力変動分±0.5Nであり、合わせて±6.5Nの張力変動が発生している。
【0102】
図9(a)に示すように、トラバーサ22,23によるワイヤ折り返し周期で例えば張力13.5Nを中心にして±1N分山形および谷形にワイヤ張力が変動する。また、ワイヤ往復走行に伴う加減速によって±2.5N分のトリガ状の張力変動が発生する。更に供給ボビン5、回収ボビン6への巻き方向による張力変動によって±2.5Nの張力変動が発生する。
【0103】
図9(b)に示すように、ワイヤ往復走行でワーク7を多数枚のウエハ状に切断しているが、往復走行するワイヤ方向の切り替え時に所定の一定速度からワイヤ4が加減速される。ワイヤ4の往走行と復走行とは1000対990程度の時間比である。
【0104】
図9(a)に示すように、ワイヤ走行の往復切替に伴うワイヤ加減速時点のワイヤ速度0前後の位置でワイヤ張力がトリガ状に増減変動する。したがって、ワイヤ張力変動に影響が大きいのは、供給ボビン5および回収ボビン6に対してトラバーサ22,23を追従させ固定砥粒ワイヤ4を繰り出し、巻き取りを行う時のトラバーサ22,23の供給ボビン5および回収ボビン6への巻き方向による張力変動が最大の時に、トラバーサ22,23によるワイヤ折り返し動作によるワイヤ張力変動の最大値が重なり、かつ、ワイヤ往復走行時のワイヤ加減速によるワイヤ張力変動が同時に起こる場合にワイヤ張力変動が最大となる。これは図9(a)の左横方向の矢印に示す張力最大位置T maxである。この最大張力がワイヤ4の破断張力20Nを超えないようにしなければならない。
【0105】
張力変動吸収手段は、二つの各ガイドローラ221,222がその間の回転軸223を回転中心として左回転方向に付勢した状態でシーソ状に釣り合うように、ワイヤ4がガイドローラ221の右側からガイドローラ222の左側にS字状に通された後に、ガイドローラ222を介して右側にワイヤ4が引き出されている。
【0106】
この場合に、ワイヤ4の張力が徐々にまたは瞬間的に増加してワイヤ4が右側に引っ張られると、張力付与手段(回転付勢手段)の左回転方向の付勢力に抗して右回転方向に回転することにより張力変動が吸収される。また逆に、ワイヤ4の張力が徐々にまたは瞬間的に減少してワイヤ4が緩んで左側に移動しても、張力付与手段(回転付勢手段)の左回転方向の付勢力とのシーソバランスが崩れて張力付与手段(回転付勢手段)の付勢力によって左回転方向にガイドローラ221,222が回転軸223を回転中心として回転することによりワイヤ4が緩んだ分を吸収することができる。
【0107】
このため、張力変動要因である(1)ワイヤ加減速と(4)プーリの慣性による張力変動分を±1N、(2)トラバーサ折り返しによる張力変動分は吸収することができ±0N、(3)ボビンへの巻き方向による張力変動分を±1N、(5)ワイヤ振動による張力変動は変わらず±0.5N、にまで抑制することが可能となり、合わせて±2.5Nに低減することが可能となり、ワーク7の切断領域の張力を17.5Nまで上げて加工を行うことが可能となり、切断時間を短縮することができる。
【0108】
以上の本実施形態2のワイヤソー装置1Aにおいて第1ワイヤ張力変動吸収手段を含むトラバーサ22A,23A,張力変動吸収手段225(第1ワイヤ張力変動吸収手段)、第2ワイヤ張力変動吸収手段を含むトラバーサ22C,23C,さらに、張力変動吸収手段226(第2ワイヤ張力変動吸収手段)について説明したが、本実施形態2のワイヤソー装置では、供給ボビン5に対する第1トラバーサのワイヤ折り返し移動による張力変動および、回収ボビン6に対する第2トラバーサのワイヤ折り返し移動による張力変動を吸収する第1ワイヤ張力変動吸収手段と、ワイヤ往復走行の往復切替に伴う加減速時の張力変動を吸収する第2ワイヤ張力変動吸収手段とのうちの少なくともいずれかが設けられていればよい。
【0109】
以上により、本実施形態2によれば、供給ボビン5のワイヤ4はトラバーサ22Aさらにダンサローラ10を通り溝付ローラ2,3に複数回巻き付けられた後にダンサローラ13さらにトラバーサ23Aを通って回収ボビン6に巻き取られている。トラバーサ22A,23Aは供給ボビン5および回収ボビン6へのワイヤ4の巻き付け位置に追従するように図4のトラバーサ往復範囲Bを移動しながら供給ボビン5および回収ボビン6に規則正しくワイヤ4を巻き付けたり巻き戻したりしてトラバーサ往復範囲Bを往復動作する。供給ボビン5および回収ボビン6のワイヤ折り返し位置とトラバーサ折り返し位置の相対位置ずれが発生すると、折り返しのタイミングずれに対応した張力変動が発生するが、図4のような回転中心223を持つシーソのような張力変動吸収手段を設けることにより張力変動は供給ボビン5とトラバーサ22A間および、回収ボビン6とトラバーサ23A間でそれぞれ吸収されて相殺され、ダンサローラ10,13へは張力変動の影響が及ばない。このような加速度に伴う張力変動に影響を及ぼす張力変動を張力変動吸収手段で吸収して、供給ボビン5および回収ボビン6に対してボビン幅方向にワイヤ4を移動させる場合のワイヤ折り返しによるワイヤ張力変動を防止することができて、ワイヤ断線を防止することができる。したがって、従来装置と比較してより高い張力で、ワイヤ断線なくワークWの切断を素早く実現することができる。
【0110】
即ち、ワイヤ張力変動吸収手段を設けることにより、ワイヤ走行の往復切替に伴うワイヤ加減速によるワイヤ張力変動およびワイヤ折り返し動作によるワイヤ張力変動のうちの少なくともいずれかを吸収するため、ワイヤ断線を抑制または防止することができる。ワイヤ張力変動を抑制または防止した分だけワイヤ張力を高く設定することができるため、従来装置と比較してより高い張力でもワイヤ断線なくワークの切断を効率よく行うことができる。
【0111】
上記実施形態2では、二つの各ガイドローラ221,222がその間の回転軸223を回転中心として左回転方向に付勢した状態でシーソ状に釣り合うように配置したが、ガイドローラ221、222が独立したばね224によって相反する方向の変位に追従するように配置されていても良い。
【0112】
なお、上記実施形態1、2では、特に説明しなかったが、上記実施形態1、2を合体してもよい。即ち、上記実施形態1である張力変動をワーク切断領域に及ぼさない機構を設けることにより張力変動をワーク切断領域の張力を更に上げて加工することを可能にしたワイヤソー装置に本実施形態2である張力変動を張力変動吸収手段により抑制または防止する機構を設けた場合について説明する。
【0113】
図10(a)は、時間軸(min)に対するワイヤ供給側の張力モニタリング結果を模式的に示す図、図10(b)は、時間軸(min)に対するワイヤ走行速度を模式的に示す図、図10(c)は、時間軸(min)に対するワーク7切断領域の張力モニタリング結果を模式的に示す図である。
図10(a)〜図10(c)に示すように、上記実施形態1のバッファボビン14,18では吸収しきれなかった張力変動である(1)ワイヤ加減速と(4)プーリの慣性による張力変動分±2.5Nを張力変動吸収手段を設けることにより±1Nまで低減することができるようになり、ワーク切断領域31の張力を19Nまで上げてワークを切断することが可能となり、更なる切断時間の短縮を実現することが可能となり、従来装置と比較してより高い張力で、ワイヤ断線なくワークの切断を効率よく行うことができる本発明の効果が高められる。
【0114】
即ち、所定の間隔で配置された溝付ローラ2,3間に巻き付けられたワイヤ4の一方端が第1ダンサローラ10を介して供給ボビン5に巻き付けられ、その他方端が第2ダンサローラ13を介して回収ボビン6に巻き付けられて、ワイヤ4を往復走行させて溝付ローラ2,3間のワイヤ4の複数列でワーク7を切断するワイヤソー装置1において、溝付ローラ2,3と第1ダンサローラ10および第2ダンサローラ13との間にそれぞれ、第1バッファボビン14,18がそれぞれ配設され、溝付ローラ2,3とバッファボビン14の間に第3ダンサローラ17が配設されていると共に、複溝付ローラ2,3とバッファボビン18の間に第4ダンサローラ21が配設されている。この場合に、供給ボビン5に対する第1トラバーサ22のワイヤ折り返し移動による張力変動および、回収ボビン6に対する第2トラバーサ23のワイヤ折り返し移動による張力変動を吸収する第1ワイヤ張力変動吸収手段と、ワイヤ往復走行の往復切替に伴う加減速時の張力変動を吸収する第2ワイヤ張力変動吸収手段とのうちの少なくともいずれかが設けられていてもよい。特に、第2ワイヤ張力変動吸収手段は、溝付きロール2,3とバッファボビン14,18との各間および、バッファボビン14と第1トラバーサ22およびバッファボビン18と第2トラバーサ23の各間のうちの少なくともいずれかの各間に配置されている。
【0115】
これらの第1ワイヤ張力変動吸収手段および第2ワイヤ張力変動吸収手段はそれぞれ、前述したように、板体の両端部にそれぞれ各ガイドローラ221,222が回転自在に設けられ、各ガイドローラ221,222間に回転軸223が設けられ、回転軸223を回転中心として各ガイドローラ221,222が回転自在に軸支されており、各ガイドローラ221,222にワイヤ4が一方回転方向に付勢するように通され、他方回転方向に付勢するように張力付与手段が設けられて一方回転方向の付勢力と他方回転方向の付勢力とが平衡状態に設定されている。
【0116】
また、即ち、所定の間隔で配置された複数の溝付ローラ2,3間に巻き付けられた切断用のワイヤ4の一方端が第1ダンサローラ10を介して供給ボビン5に巻き付けられ、その他方端が第2ダンサローラ13を介して回収ボビン6に巻き付けられ、供給ボビン5と第1ダンサローラ10の間に、供給ボビン5のワイヤ巻き位置に追随して移動する第1トラバーサ22Aが設けられ、第2ダンサローラ13と回収ボビン6の間に、回収ボビン6のワイヤ巻き位置に追随して移動する第2トラバーサ23Aが設けられて、ワイヤ4を往復走行させて複数の溝付ローラ2,3間のワイヤ4の複数列でワーク7を切断するワイヤソー装置1Aにおいて、供給ボビン5に対する第1トラバーサ22Aのワイヤ折り返し移動による張力変動および、回収ボビン6に対する第2トラバーサ23Aのワイヤ折り返し移動による張力変動を吸収する第1ワイヤ張力変動吸収手段と、ワイヤ往復走行の往復切替に伴う加減速時の張力変動を吸収する第2ワイヤ張力変動吸収手段とのうちの少なくともいずれかが設けられている。この場合に、溝付ローラ2,3と第1ダンサローラ10および第2ダンサローラ13との間にそれぞれ、第1バッファボビン14、18がそれぞれ配設され、溝付ローラ2,3とバッファボビン14の間に第3ダンサローラ17が配設されていると共に、複溝付ローラ2,3とバッファボビン18の間に第4ダンサローラ21が配設されていてもよい。特に、第2ワイヤ張力変動吸収手段は、溝付きロール2.3と第1ダンサローラ10および第2ダンサローラ13との各間および、第1ダンサローラ10と第1トラバーサ22Aおよび第2ダンサローラ12と第2トラバーサ23Aの各間のうちの少なくともいずれかの各間に配置されていればよい。
【0117】
なお、バッファボビン14,18を備えたワイヤソー装置1を上記実施形態1で説明し、トラバーサに設けられた張力変動吸収手段や、張力変動吸収手段225,226などを備えたワイヤソー装置1Aを実施形態2で説明し、それらを合体してもよいことを前述したが、バッファボビン14,18を備えたワイヤソー装置1をメイン構成とし、これに対して、トラバーサに設けられた張力変動吸収手段や、張力変動吸収手段225,226などを備えていてもよいことは言うまでもないことである。また逆に、トラバーサに設けられた張力変動吸収手段や、張力変動吸収手段225,226などを備えたワイヤソー装置1Aををメイン構成とし、これに対してバッファボビン14,18を上記実施形態1と同様の位置に備えていてもよいことは言うまでもないことである。
【0118】
本発明は、従来装置と比較してより高い張力でもワイヤ断線なくワークの切断を効率よく行うことができるワイヤソー装置であり、張力変動要因である(1)ワイヤ加減速、(4)プーリの慣性による張力変動、(2)トラバーサ折り返しによる張力変動、(3)ボビンへの巻き方向による張力変動、(5)ワイヤ振動による張力変動のうち、(1)ワイヤ加減速、(5)ワイヤ振動による張力変動以外の張力変動を、ワーク切断領域に及ぼさない機構(バッファボビン14,18)を設けることにより張力変動をワーク切断領域31の張力を更に上げてワーク切断加工することを可能にしたワイヤソー装置およびこれを用いたワーク切断方法である。即ち、この解決方法を利用したワイヤソー装置のワイヤ列で多数枚のウエハ状に切断してウエハを製造するウエハの製造方法を提供することを目的とする。
【0119】
また、本発明は、従来装置と比較してより高い張力でもワイヤ断線なくワークの切断を効率よく行うことができるワイヤソー装置であり、張力変動要因である(1)ワイヤ加減速、(4)プーリの慣性による張力変動、(2)トラバーサ折り返しによる張力変動、(3)ボビンへの巻き方向による張力変動、(5)ワイヤ振動による張力変動のうち、(1)〜(4)の要因による張力変動を、張力変動吸収手段により抑制または防止することにより、ワーク切断時の張力を更に上げて加工することを可能にしたワイヤソー装置1Aおよびこれを用いたワーク切断方法である。即ち、この解決方法を利用したワイヤソー装置1Aのワイヤ列で多数枚のウエハ状に切断してウエハを製造するウエハの製造方法を提供することを目的とする。
【0120】
以上のように、本発明の好ましい実施形態1、2を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態1、2に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態1、2の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明は、所定の間隔で配置された複数の溝付きローラの外周に通した切断用ワイヤを走行させることによって、切断用ワイヤでワークを切断するワイヤソー装置およびこれを用いたワーク切断方法、このワイヤソー装置のワイヤ列で多数枚のウエハ状にワークを切断してウエハを製造するウエハの製造方法の分野において、ワークを切断する切断領域のワイヤ張力に対して、張力変動の大きいボビン折り返しによるワイヤ張力変動の影響をバッファボビンにより受けない状態とし、切断領域のワイヤ張力をその分だけ大きく設定し、ボビン折り返しによるワイヤ張力変動が存在する領域ではワイヤ張力を小さく設定できるため、切断領域では従来装置と比較してより高いワイヤ張力で効率よくワークの切断を行うことができ、ボビン折り返しによるワイヤ張力変動が存在する領域ではワイヤ張力を弱めてワイヤ断線を抑制または防止することができる。
【符号の説明】
【0122】
1、1A ワイヤソー装置
2、3 溝付ローラ
4 切断用のワイヤ
5 新線供給側の供給ボビン
6 旧線回収側の回収ボビン
7 ワーク
8、9 慣性駆動のガイドローラ
10 第1ダンサローラ
11、12 慣性駆動のガイドローラ
13 第2ダンサローラ
14 バッファボビン(第1バッファボビン手段)
15、16 慣性駆動のガイドローラ
17 第3ダンサローラ
18 バッファボビン(第2バッファボビン手段)
19、20 慣性駆動のガイドローラ
21 第4ダンサローラ
22,23 トラバーサ
24,25 加工液供給部
26 固定部
27 ワーク送り機構
31 ワーク切断領域
32 供給領域
33 回収領域
22A、23A、22B、23B、22C、23C トラバーサ
221、222 ガイドローラ
223 回転軸
224 ばね(張力付与手段)
225 張力変動吸収手段(第1ワイヤ張力変動吸収手段)
226 張力変動吸収手段(第2ワイヤ張力変動吸収手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の間隔で配置された複数の溝付ローラ間に巻き付けられた切断用のワイヤの一方端が第1ダンサローラを介して供給ボビンに巻き付けられ、その他方端が第2ダンサローラを介して回収ボビンに巻き付けられて、該ワイヤを往復走行させて該複数の溝付ローラ間のワイヤの複数列でワークを切断するワイヤソー装置において、
該複数の溝付ローラと該第1ダンサローラおよび該第2ダンサローラとの間にそれぞれ、第1バッファボビン手段と第2バッファボビン手段がそれぞれ配設され、該複数の溝付ローラと該第1バッファボビン手段の間に第3ダンサローラが配設されていると共に、該複数の溝付ローラと該第2バッファボビン手段の間に第4ダンサローラが配設されているワイヤソー装置。
【請求項2】
請求項1に記載のワイヤソー装置において、
前記第1ダンサローラおよび前記第2ダンサローラで管理する各張力値がそれぞれ、前記第3ダンサローラおよび前記第4ダンサローラで管理する各張力値よりも低い値に設定されているワイヤソー装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のワイヤソー装置において、
前記第1バッファボビン手段と前記第2バッファボビン手段はそれぞれ、前記供給ボビンに対するトラバーサのワイヤ折り返し動作による張力変動および、前記回収ボビンに対するトラバーサのワイヤ折り返し動作による張力変動が、前記第3ダンサローラおよび前記第4ダンサローラで管理する各張力値に影響しないワイヤ巻き付け長さを有しているワイヤソー装置。
【請求項4】
請求項3に記載のワイヤソー装置において、
前記第3ダンサローラおよび前記第4ダンサローラで管理する各張力値は、前記第1ダンサローラおよび前記第2ダンサローラで管理する各張力値よりも、前記トラバーサのワイヤ折り返し動作による張力変動値の範囲内で高く設定されているワイヤソー装置。
【請求項5】
請求項1に記載のワイヤソー装置において、
ワイヤ走行の往復切替に伴うワイヤ加減速の間に前記第3ダンサローラおよび前記第4ダンサローラで管理する各張力値がワイヤ速度一定時の各張力値よりもそれぞれ低く設定制御されているワイヤソー装置。
【請求項6】
請求項1に記載のワイヤソー装置において、
ワイヤ走行の往復切替に伴うワイヤ加減速の間に前記ワークの送り量が一時的に0に設定されるワイヤソー装置。
【請求項7】
請求項1に記載のワイヤソー装置において、
前記第1バッファボビン手段と前記第2バッファボビン手段がそれぞれ一または複数の溝付ローラから構成されているワイヤソー装置。
【請求項8】
請求項1に記載のワイヤソー装置において、
前記供給ボビンと前記第1ダンサローラの間に、該供給ボビンのワイヤ巻き位置に追随して移動する第1トラバーサが設けられ、前記第2ダンサローラと前記回収ボビンの間に、該回収ボビンのワイヤ巻き位置に追随して移動する第2トラバーサが設けられており、
該供給ボビンに対する該第1トラバーサのワイヤ折り返し移動による張力変動および、該回収ボビンに対する該第2トラバーサのワイヤ折り返し移動による張力変動を吸収する第1ワイヤ張力変動吸収手段と、ワイヤ往復走行の往復切替に伴う加減速時の張力変動を吸収する第2ワイヤ張力変動吸収手段とのうちの少なくともいずれかが設けられているワイヤソー装置。
【請求項9】
請求項8に記載のワイヤソー装置において、
前記第1トラバーサおよび前記第2トラバーサにそれぞれ前記第1ワイヤ張力変動吸収手段がそれぞれ設けられているワイヤソー装置。
【請求項10】
請求項8に記載のワイヤソー装置において、
前記第1ワイヤ張力変動吸収手段は、前記供給ボビンと前記第1トラバーサの間および、前記回収ボビンと前記第2トラバーサの間にそれぞれ配置されているワイヤソー装置。
【請求項11】
請求項8に記載のワイヤソー装置において、
前記第2ワイヤ張力変動吸収手段は、前記溝付きロールと前記第1バッファボビン手段および前記第2バッファボビン手段との各間および、該第1バッファボビン手段と前記第1トラバーサおよび該第2バッファボビン手段と前記第2トラバーサの各間のうちの少なくともいずれかの各間に配置されているワイヤソー装置。
【請求項12】
請求項8に記載のワイヤソー装置において、
前記第1ワイヤ張力変動吸収手段および前記第2ワイヤ張力変動吸収手段はそれぞれ、板体の両端部にそれぞれ各ガイドローラが回転自在に設けられ、該各ガイドローラ間に回転軸が設けられ、該回転軸を回転中心として該各ガイドローラが回転自在に軸支されており、該各ガイドローラに前記ワイヤが一方回転方向に付勢するように通され、他方回転方向に付勢するように張力付与手段が設けられて該一方回転方向の付勢力と該他方回転方向の付勢力とが平衡状態に設定されているワイヤソー装置。
【請求項13】
請求項12に記載のワイヤソー装置において、
前記張力付与手段は、前記第1ダンサローラおよび前記第2ダンサローラによる各張力と同一の張力を前記各ガイドローラに付与して該各ガイドローラは前記回転軸を回転中心として平衡状態になっているワイヤソー装置。
【請求項14】
所定の間隔で配置された複数の溝付ローラ間に巻き付けられた切断用のワイヤの一方端が第1ダンサローラを介して供給ボビンに巻き付けられ、その他方端が第2ダンサローラを介して回収ボビンに巻き付けられて、該ワイヤを往復走行させて該複数の溝付ローラ間のワイヤの複数列でワークを切断するワーク切断方法において、
該複数の溝付ローラと該第1ダンサローラおよび該第2ダンサローラとの間にそれぞれ、第1バッファボビン手段と第2バッファボビン手段がそれぞれ配設され、該複数の溝付ローラと該第1バッファボビン手段の間に第3ダンサローラが配設されていると共に、該複数の溝付ローラと該第2バッファボビン手段の間に第4ダンサローラが配設されているワーク切断方法。
【請求項15】
請求項14に記載のワーク切断方法において、
前記第1ダンサローラおよび前記第2ダンサローラで管理する各張力値をそれぞれ、前記第3ダンサローラおよび前記第4ダンサローラで管理する各張力値よりも低い値に設定するワーク切断方法。
【請求項16】
請求項14または15に記載のワーク切断方法において、
前記第1バッファボビン手段と前記第2バッファボビン手段はそれぞれ、前記供給ボビンに対するトラバーサのワイヤ折り返し動作による張力変動および、前記回収ボビンに対するトラバーサのワイヤ折り返し動作による張力変動を、前記第3ダンサローラおよび前記第4ダンサローラで管理する各張力値に影響しないワイヤ巻き付け長さを有しているワーク切断方法。
【請求項17】
請求項16に記載のワーク切断方法において、
前記第3ダンサローラおよび前記第4ダンサローラで管理する各張力値を、前記第1ダンサローラおよび前記第2ダンサローラで管理する各張力値よりも、前記トラバーサのワイヤ折り返し動作による張力変動値の範囲内で高く設定するワーク切断方法。
【請求項18】
請求項14に記載のワーク切断方法において、
ワイヤ走行の往復切替に伴うワイヤ加減速の間に前記第3ダンサローラおよび前記第4ダンサローラで管理する各張力値をワイヤ速度一定時の各張力値よりもそれぞれ低く設定制御するワーク切断方法。
【請求項19】
請求項14に記載のワーク切断方法において、
ワイヤ走行の往復切替に伴うワイヤ加減速の間に前記ワークの送り量を一時的に0に設定するワーク切断方法。
【請求項20】
請求項14に記載のワーク切断方法において、
前記第1バッファボビン手段と前記第2バッファボビン手段がそれぞれ一または複数の溝付ローラから構成されているワーク切断方法。
【請求項21】
請求項14に記載のワーク切断方法において、
前記供給ボビンと前記第1ダンサローラの間に、該供給ボビンのワイヤ巻き位置に追随して前記ワイヤを移動する第1トラバーサを設け、前記第2ダンサローラと前記回収ボビンの間に、該回収ボビンのワイヤ巻き位置に追随して該ワイヤを移動する第2トラバーサを設け、
該供給ボビンに対する該第1トラバーサのワイヤ折り返し移動による張力変動および、該回収ボビンに対する該第2トラバーサのワイヤ折り返し移動による張力変動を吸収する第1ワイヤ張力変動吸収手段と、ワイヤ往復走行の往復切替に伴う加減速時の張力変動を吸収する第2ワイヤ張力変動吸収手段とのうちの少なくともいずれかを設けるワーク切断方法。
【請求項22】
請求項21に記載のワーク切断方法において、
前記第1トラバーサおよび前記第2トラバーサにそれぞれ前記第1ワイヤ張力変動吸収手段をそれぞれ設けるワーク切断方法。
【請求項23】
請求項21に記載のワーク切断方法において、
前記第1ワイヤ張力変動吸収手段は、前記供給ボビンと前記第1トラバーサの間および、前記回収ボビンと前記第2トラバーサの間にそれぞれ配置されているワーク切断方法。
【請求項24】
請求項21に記載のワーク切断方法において、
前記第2ワイヤ張力変動吸収手段は、前記溝付きロールと前記第1バッファボビン手段および前記第2バッファボビン手段との各間および、該第1バッファボビン手段と前記第1トラバーサおよび該第2バッファボビン手段と前記第2トラバーサの各間のうちの少なくともいずれかの各間に配置されているワーク切断方法。
【請求項25】
請求項21に記載のワーク切断方法において、
前記第1ワイヤ張力変動吸収手段および前記第2ワイヤ張力変動吸収手段はそれぞれ、帯状の板体の両端部にそれぞれ各ガイドローラが回転自在に設けられ、該各ガイドローラ間に回転軸が設けられ、該回転軸を回転中心として該各ガイドローラが回転自在に軸支されており、該各ガイドローラに前記ワイヤが一方回転方向に付勢するように通され、他方回転方向に付勢するように張力付与手段が設けられて該一方回転方向の付勢力と該他方回転方向の付勢力とを平衡状態に設定するワーク切断方法。
【請求項26】
請求項25に記載のワーク切断方法において、
前記張力付与手段は、前記第1ダンサローラおよび前記第2ダンサローラによる各張力と同一の張力を前記各ガイドローラに付与して該各ガイドローラを前記回転軸を回転中心として平衡状態するワーク切断方法。
【請求項27】
請求項14〜26のいずれかに記載のワーク切断方法において、前記ワークが半導体インゴットであって、該半導体インゴットをワイヤソー装置のワイヤ列で多数枚のウエハ状に切断して多数枚のウエハ素材を製造するウエハの製造方法。

【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図1】
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【図3】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−27958(P2013−27958A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−166016(P2011−166016)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】