説明

ワイヤソー

【課題】ウエハの反りを抑制する。
【解決手段】ワイヤソーは、ガイドローラ24A,24B等に巻回されたワイヤWにより形成されるワイヤ群と、このワイヤ群を駆動するボビン駆動モータ11A,11B等と、ワーク28を切断送りするワーク送り装置30と、ワイヤWにスラリを供給するスラリ供給装置36,37とを有する。NC装置50は、ワーク28の送り位置であって切断送り終端近傍の所定位置にワーク28が到達すると、その後のスラリの供給量がそれ以前の供給量よりも少なくするようにスラリ供給装置36,37によるスラリ供給量を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切断用ワイヤにより構成されたワイヤ群に対して半導体インゴット等のワークを切り込み送りすることにより当該ワークを切断するワイヤソーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ワークをウエハ状に切り出す手段としてワイヤソーが知られている。ワイヤソーは、図6に示すように複数のガイドローラ60A,60B間に切断用ワイヤ61が巻き掛けられることにより該ワイヤ61が多数本並んだ状態で張設され、このワイヤ群をその軸方向に高速駆動しながら該ワイヤ群に加工液(スラリ)を供給し、この状態で、ワーク保持部63に保持されたワーク64を切断用ワイヤ61の軸方向と直交する方向に、前記ワイヤ群に対して切断送りすることにより、ワーク64をウエハ状に多数毎同時に切り出すように構成されている(特許文献1)。なお、前記ワイヤ群のうちワーク64の切込み位置の両側には各々加工液供給用のノズル62が配置されており、これらノズル62からワイヤ群に対して前記加工液が供給される。
【特許文献1】特開平11−10511号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ワイヤソーによる切断作業では、加工熱によるワークの伸縮(熱変位)によってウエハに反りが発生する場合があるが、上記のように高速駆動されるワイヤ群に対して加工液を供給する場合には、加工液が飛散するため、切断終期になると、図6中に一点鎖線矢印で示すように、ワイヤ群に供給された加工液がワーク64に沿って舞い上がってワーク保持部63が冷やされ、その結果、ワーク64の熱変位とは別にワーク保持部63にも熱変位が生じて切断終期のウエアの反りを助長する原因の一つとなっている。また、舞い上がった上記加工液が再度ワイヤ群に供給されて切断溝に入り込み、これがウエハ間に溜まることにより同様に上記の反りを助長する原因となっている。
【0004】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、ワークから切り出されるウエハの反りを抑制することができるワイヤソーを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、本発明のワイヤソーは、複数のガイドローラに巻回された切断用ワイヤにより形成されるワイヤ群と、このワイヤ群をワイヤ軸方向に駆動するワイヤ駆動手段と、ワークを保持するワーク保持部材を有し、このワーク保持部材により保持したワークを前記ワイヤ群に対して相対的に切断送りする送り手段と、前記ワイヤ群のうちワークが切断送りされる領域よりもワイヤ軸方向外側に配置され、前記ワイヤ群に対して遊離砥粒を含む加工液を供給する加工液供給手段と、を備えたワイヤソーにおいて、前記加工液供給手段によるワイヤ群に対する加工液の供給量を制御する液量制御手段と、前記送り手段によるワークの送り位置であって切断送り終端近傍の所定位置に前記ワークが到達したことを検知する送り位置検知手段と、を備え、前記液量制御手段が、前記送り位置検知手段による前記所定位置の検知に基づき、当該検出後の加工液の供給量をそれ以前の供給量よりも少なくするように前記加工液供給手段を制御するものである。
【0006】
このワイヤソーでは、ワイヤ群が軸方向に駆動され、かつ加工液が供給された状態で、当該ワイヤ群に対してワークが相対的に切断送りされることによってウエハの切り出しが行われる。その際、ワークが切断送り終端近傍の所定位置に到達すると、その後の加工液の供給量がそれ以前の供給量に対して減量される。従って、切断終期に飛散する加工液の絶対量が低減し、切断終期に、ワーク保持部材が加工液によって過剰に冷却され、あるいはウエハ間に多量の加工液が入り込むことが緩和されることとなる。
【0007】
また、本発明の他のワイヤソーは、複数のガイドローラに巻回された切断用ワイヤにより形成されるワイヤ群と、このワイヤ群をワイヤ軸方向に駆動するワイヤ駆動手段と、ワークを保持するワーク保持部材を有し、このワーク保持部材により保持したワークを前記ワイヤ群に対して相対的に切断送りする送り手段と、前記ワイヤ群のうちワークが切断送りされる領域よりもワイヤ軸方向外側に配置され、前記ワイヤ群に対して加工液を供給する加工液供給手段と、を備えたワイヤソーにおいて、前記ワイヤ駆動手段によるワイヤ群の駆動速度を制御する速度制御手段と、前記送り手段によるワークの送り位置であって切断送り終端近傍の所定位置に前記ワークが到達したことを検知する送り位置検知手段と、を備え、前記速度制御手段が、前記送り位置検知手段による前記所定位置の検出に基づき、当該検出後のワイヤ群の駆動速度がそれ以前の駆動速度よりも低くなるように前記ワイヤ駆動手段を制御するものである。
【0008】
このワイヤソーでは、ワイヤ群が軸方向に駆動され、かつ加工液が供給された状態で、当該ワイヤ群に対してワークが相対的に切断送りされることによってウエハの切り出しが行われる。その際、ワークが切断送り終端近傍の所定位置に到達すると、その後のワイヤ群の駆動速度がそれ以前の駆動速度に比べて減速される。このようにワイヤ駆動速度が減速されることで加工液が飛散し(巻き上がり)難くなり、切断終期に飛散する加工液の絶対量が低減される。従って、切断終期に、ワーク保持部材が加工液によって過剰に冷却され、あるいはウエハ間に多量の加工液が入り込むことが緩和される。
【0009】
さらに、本発明に係る別のワイヤソーは、複数のガイドローラに巻回された切断用ワイヤにより形成されるワイヤ群と、このワイヤ群をワイヤ軸方向に駆動するワイヤ駆動手段と、ワーク保持部材を有し、この保持部材により保持したワークを前記ワイヤ群に対して相対的に切断送りする送り手段と、前記ワイヤ群のうちワークが切断送りされる領域よりもワイヤ軸方向外側に配置され、前記ワイヤ群に対して加工液を供給する加工液供給手段と、を備えたワイヤソーにおいて、前記ワイヤ駆動手段によるワイヤ駆動方向を周期的に反転させるワイヤ駆動制御手段と、前記送り手段によるワークの送り位置であって切断送り終端近傍の所定位置に前記ワークが到達したことを検知する送り位置検知手段と、を備え、前記ワイヤ駆動制御手段は、前記送り位置検知手段による前記所定位置の検知に基づき、当該検出後の前記ワイヤ駆動方向の反転周期がそれ以前の反転周期よりも短くなるように前記ワイヤ駆動手段を制御するものである。
【0010】
このワイヤソーでは、ワイヤ群が軸方向に駆動され、かつ加工液が供給された状態で、当該ワイヤ群に対してワークが相対的に切断送りされると共に、周期的にワイヤの駆動方向が反転されながらウエハの切り出しが行われる。その際、ワークが切断送り終端近傍の所定位置に到達すると、その後のワイヤ群の駆動方向の反転周期がそれ以前の反転周期に比べて短くなる。つまり、ワイヤ群の駆動方向が頻繁に反転されることでワイヤ群の停止時間が増加し、ワイヤ群が一方向に長期的に連続して駆動されている場合に比べて加工液が飛散し(巻き上がり)難くなり、飛散する加工液の絶対量が低減される。従って、切断終期に、ワーク保持部材が加工液によって過剰に冷却され、あるいはウエハ間に多量の加工液が入り込むことが緩和される。
【0011】
なお、上記の各ワイヤソーにおいては、前記加工液供給手段からワイヤ群に供給されることにより飛散した加工液が、ワーク保持部材、又はワーク側に拡散するのを防止するカバー部材が設けられているのが好ましい。
【0012】
この構成によれば、構造的に、加工液がワーク保持部材やワークへ飛散するのを抑えることが可能となる。
【0013】
例えば、カバー部材は、前記ワイヤ群のうちワークが切断送りされる前記領域と加工液供給手段による加工液の供給位置との間に介設され、かつワークに対して前記ワイヤ群と一体的に前記切断送り方向に移動可能に設けられ、前記送り手段によるワークの送り位置であって少なくとも切断送り終端近傍の所定位置から終端位置までの範囲内において、前記ワークのワイヤ切込み位置からワーク保持部材に亘る部分を覆うように構成される。
【0014】
この構成によれば、主に切断終期に問題となるワーク保持部材側への加工液の飛散や、ウエハ間への加工液の侵入を効果的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、ワークが切断送り終端近傍の所定位置に到達すると、その後のワイヤ群の駆動速度がそれ以前の駆動速度に比べて減速される等、加工液が飛散し(巻き上がり)難くい運転状態に切り替えられる。従って、切断終期に飛散する加工液の絶対量が低減し、切断終期に、ワーク保持部材が加工液によって過剰に冷却され、あるいはウエハ間に多量の加工液が入り込むことに起因するウエハの反りが抑制され、その分、より反りのない状態でウエハを切り出すことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の好ましい実施の形態について図面を用いて説明する。
【0017】
図1は、本発明に係るワイヤソーの全体構成を概略的に示している。この図に示すワイヤソーは、一対のワイヤ繰出し・巻取り装置10A,10B、ガイドプーリ12A,12B、ガイドプーリ14A,14B、ガイドプーリ16A,16B、ワイヤ張力調節装置18A,18B、ガイドプーリ22A,22B、及び4つのガイドローラ24A,24B,26A,26Bを備えている。
【0018】
ガイドローラ24A,24Bは互いに同じ高さ位置に配され、ガイドローラ26A,26Bはそれぞれガイドローラ24A,24Bの下方の位置に配されており、ガイドローラ26Aが駆動モータ25によって回転駆動されるようになっている。
【0019】
各ワイヤ繰出し・巻取り装置10A,10Bは、切断用のワイヤWが巻かれるボビン9A,9Bと、これを回転駆動するボビン駆動モータ11A,11Bと、を備えている。一方のワイヤ繰出し・巻取り装置10Aのボビン9Aから繰出されたワイヤWは、ガイドプーリ12A,14A,16A、ワイヤ張力調節装置18Aのプーリ20A、及びガイドプーリ22Aの順に掛けられ、さらにガイドローラ24A,24B,26B,26Aの外周面のガイド溝(図示省略)に嵌め込まれながらこれらガイドローラの外側に多数回螺旋状に巻回された(巻き掛けられた)後、ガイドプーリ22B、ワイヤ張力調節装置18Bのプーリ20B、ガイドプーリ16B,14B,12Bの順に掛けられ、他方のワイヤ繰出し・巻取り装置10Bのボビン9Bに巻き取られており、両ワイヤ張力調節装置18A,18BによってワイヤWに適当な張力が与えられている。そして、駆動モータ25によるガイドローラ26Aの回転駆動方向と、各ボビン駆動モータ11A,11Bによるボビン9A,9Bの回転駆動方向が正逆に切換えられることにより、ワイヤWがボビン9Aから繰出されてボビン9Bに巻き取られる状態(前進駆動状態という)と、ワイヤWがボビン9Bから繰出されてボビン9Aに巻き取られる状態(後退駆動状態という)とにワイヤWの駆動方向が反転可能となっている。
【0020】
すなわち、このワイヤソーにおいては、ガイドローラ24A,24Bの間に多数本のワイヤWが互いに平行な状態で張られたワイヤ群を形成しながら、これらワイヤ群がその軸方向に進退駆動可能となっている。なお、この実施形態では、前記ワイヤ繰出し・巻取り装置10A,10B等が本発明のワイヤ駆動手段に相当する。
【0021】
図2は、ガイドローラ24A,24B間の部分をやや詳細に図示している。この図に示すように、前記ワイヤ群のうちワーク28が切り込み送りされる領域よりもワイヤWの駆動方向(同図では左右方向)両外側であってワイヤ群の上方には、それぞれ該ワイヤ群に対してスラリ(遊離砥粒を含む加工液)を供給するための一対のスラリ供給装置36,37が配備されている。
【0022】
これらのスラリ供給装置36,37は、それぞれ二つ一組のノズル部材36a,36b(37a,37b)を備えている。これらノズル部材36a,36b,37a,37bは、例えば前後方向(図2では紙面に直交する方向)に延びるスリット状の液吐出口を有しており、この液吐出口からスラリを吐出することにより、前記ワイヤ群全体、つまりワイヤWの並び方向全体に亘ってスラリを供給するようになっている。
【0023】
ノズル部材36a,36b、および37a,37bは、それぞれワイヤWの駆動方向に一定間隔を隔てて配置されることにより、前記作業領域の両側、つまりワイヤWの駆動方向上流側および下流側のそれぞれ二箇所でワイヤ群に対してスラリを供給するようになっている。特に、各組のノズル部材36a,36b、37a,37bのうち前記作業領域から離間する側のノズル部材36a、37aは、ガイドローラ24A,24Bの真上に配置されており、前記ワイヤ群と共にガイドローラ24A,24Bにスラリを供給することにより同ローラ24A,24Bを冷却し得るようになっている。
【0024】
スラリの給排系統は、例えば給送ポンプを備えた図外のタンクを有し、このタンクに貯溜されたスラリを前記ポンプの駆動によりタンクから導出しつつ共通配管40、及び分岐管41〜44を通じて各ノズル部材36a,36b、37a,37bに送液することによりワイヤ群に供給し、当該供給後、ガイドローラ24A,24B,26A,26Bの下方に配置されるスラリパンからスラリを抜き出しつつ図外の液回収管を通じて前記タンクに戻すように構成されている。なお、上記分岐管41〜44にはそれぞれ電磁バブル41a〜44aが介設されており、これら電磁バブル41a〜44aの操作に応じてノズル部材36a,36b、37a,37bによるスラリの吐出量(供給量)が制御されるようになっている。
【0025】
また、前記作業領域の両側には、それぞれ防滴カバー38,38(本発明に係るカバー部材に相当する)がワイヤ群に近接して配置されている。これらの防滴カバー38,38は、ワイヤWに供給されて飛散したスラリが前記作業領域側に拡散するのを防止するもので、ワイヤWの並び方向全体に亘ってそれぞれノズル部材36b,37bと前記作業領域とを遮るように設けられている。これら防滴カバー38,38は、ワーク28の切断送り終端近傍の所定位置から終端位置までの範囲内において、ワーク28に対するワイヤ切込み位置から後記ワーク保持部32に亘る部分を覆い得るようにそれぞれ上下方向(後記切断送り方向)の寸法が設定されている(図3参照)。
【0026】
前記ガイドローラ24A,24B間に張られた前記ワイヤ群の上方には、円柱状のワーク(インゴット)28を移動させるワーク送り装置30が設けられている。このワーク送り装置30は、本発明に係る送り手段に相当するもので、ワーク保持部32(ワーク保持部材)と、ワーク送りモータ34とを含んでいる。
【0027】
ワーク保持部32は、スライスベース33を介して前記ワーク28をその結晶軸に基づいて目的の結晶方位が得られる向きに保持するものであり、ワーク送りモータ34は、図略のボールネジとの組み合わせにより、前記ワーク保持部32とワーク28とを一体に昇降させる(すなわち切断送りする)ものである。従って、このワイヤソーでは、ガイドローラ24A,24B間に張られたワイヤ群がその長手方向に同時に高速駆動されると共に、これらワイヤ群に対してノズル部材36a,36b,37a,37bから加工液が供給された状態で、該ワイヤ群に対してワーク28が下方に切断送りされることにより、このワーク28から一度に多数枚のウエハ(薄片)が同時に切り出されるようになっている。
【0028】
なお、上記ワイヤソーは、図1に示すように、ワーク切断動作を制御するためのNC装置50を有しており、切断作業中は、所定条件に従ったワイヤWの駆動、及びスラリの供給動作が実行されるように、前記ワーク送りモータ34に組み込まれた図外のエンコーダからの出力信号に基づき、各ボビン駆動モータ11A,11B、駆動モータ25、ワーク送りモータ34、及び電磁バブル41a〜44a等がこのNC装置50によって統括的に制御されるようになっている。つまり、この実施形態では、このNC装置50が、本発明に係る液量制御手段、速度制御手段及びウエハ駆動制御手段に相当すると共に、前記ワーク送りモータ34のエンコーダ及びNC装置50が本発明に係る送り位置検知手段に相当する。
【0029】
次に上記NC装置50によるワーク28の切断動作の制御について図4のフローチャートに従って説明する。
【0030】
ワーク保持部32にワーク28が保持されると、NC装置50は、ワーク送りモータ34を駆動してワーク28をワイヤ群上方に所定寸法だけ離間した初期位置にセットする。この際、各電磁バブル41a〜44aは閉止されており、従って、ワイヤ群に対するスラリの供給は停止されている。
【0031】
ワーク28が初期位置にセットされると、NC装置50は、駆動モータ25およびボビン駆動モータ11A,11Bを駆動制御すると共に、前記電磁バブル41a〜44aを制御することにより、一方側のワイヤ繰出し・巻取り装置10AからワイヤWを繰り出しながら他方側のワイヤ繰出し・巻取り装置10Bにより巻き取らせ、図1中に実線矢印で示すようにワイヤWを所定速度V1(当例では600m/分)で前進駆動すると共に、両スラリ供給装置36,37からワイヤ群に対してスラリ(所定流量Q1)の供給を開始させる(ステップS1)。
【0032】
そしてさらに、NC装置50は、ワーク送りモータ34を制御することにより一定速度でワーク28の切断送りを開始すると共に反転タイマを作動させる(ステップS3,S5)。このようにしてワーク28の切断送りが開始され、ワイヤWがワーク28に対して切り込むと、当該ワイヤWに付着した遊離砥粒を含むスラリがワイヤWの移動とともにワーク28内(切断溝)に持ち込まれ、これによってワーク28の切断が進められる。なお、反転タイマは、ワイヤWの駆動状態を反転させる時間(前進駆動状態と後退駆動状態との切換え時間)を計時するもので、所定の設定時間T1(当例では60秒)を計時する。
【0033】
次いで、NC装置50は、ワイヤ群に対してワーク28が切込み終端位置まで切断送りされたか判断する。この判断は、ワーク送りモータ34に内蔵される前記エンコーダからの出力信号に基づいてワーク送り装置30によるワーク28の送り位置を検出することによって当該検出位置に基づき行われる。その結果、終端位置に到達していないと判断した場合には(ステップS7でNO)、さらにNC装置50は、前記設定時間T1が経過したかを判断し、経過していると判断した場合(ステップS9でYES)には、前記駆動モータ25およびボビン駆動モータ11A,11Bの回転方向を制御することによりワイヤWの駆動状態を前進駆動状態から後退駆動状態に反転させる(ステップS11)。具体的には、ワイヤWの駆動速度が減速されて一旦停止された後、今度は逆に、他方側のワイヤ繰出し・巻取り装置10BからワイヤWが繰り出されながら上記一方側のワイヤ繰出し・巻取り装置10Aにより巻き取られ、これによりワイヤWの駆動が、図1中に破線矢印で示すように後退駆動に切り換えられてワーク28の切断作業が進められる。
【0034】
次いで、NC装置50は、ワーク送り装置30によるワーク28の送り位置であって切断送り終端近傍の所定の送り位置にワーク28が到達したかを判断する(ステップS13)。具体的には、図3に示すように、全切断寸法Lの略3分の2の位置までワイヤWが切り込む位置までワーク28が切断送りされたかを判断する。この判断は、ステップS7と同様にワーク28の送り位置の検出に基づき行われる。なお、ステップS9でNOと判断した場合には、NC装置50はステップS11の処理をスキップする。
【0035】
NC装置50は、ステップS13でワーク28が所定の送り位置に達していないと判断した場合にはステップS7に移行する。一方、ワーク28が前記所定の送り位置に達したと判断した場合には(ステップS13でYES)、NC装置50は、反転タイマのタイマ値、ワイヤWの駆動速度、及びスラリ供給量をそれぞれ切換え制御する(ステップS15)。具体的には、NC装置50は、反転タイマのタイマ値を上記設定時間T1から該時間よりも短い所定の設定時間T2(当例では45秒)に切換える。また、ワイヤWの駆動速度を上記速度V1から該速度よりも低い所定の設定速度V2(当例では300m/分)に切換える。さらに、スラリ供給装置36,37によるスラリの供給量を上記流量Q1から該流量よりも少ない所定の設定流量Q2に切換える。そして、当該切換え後、ステップS5に移行し、切換え後の設定時間T2で反転タイマを作動させる。
【0036】
こうしてワーク28の切断に伴いステップS7〜S13の処理を繰り返し、最終的に、ワイヤ群に対してワーク28が切込み終端位置まで切断送りされたと判断すると(ステップS7でYES)、NC装置50は、駆動モータ25、ボビン駆動モータ11A,11B及び電磁バブル41a〜44aを制御することにより、ワイヤWの駆動を停止させると共に、スラリ供給装置36,37によるスラリの供給を停止し、これによって一連の切断作業を終了する。
【0037】
以上のような本発明に係るワイヤソーによると、ワーク28が切断送り終端近傍の所定位置に到達すると(ステップS13でYES)、スラリ供給装置36,37によるスラリ供給量がQ1からQ2に減量されると共に、ワイヤWの駆動速度が速度V1から速度V2に減速され、さらにワイヤ駆動方向の反転周期が時間T1からT2に短縮されてその後の切断作業が進めされる。そのため、切断終期に、飛散したスラリによりワーク保持部32が過剰冷却され、あるいはウエハ間に多量のスラリが入り込むといったことが緩和される。すなわち、上記のようにスラリ供給量がQ1をQ2から減量されると、スラリ自体の減少によって、切断終期に飛散するスラリの絶対量が減少し、また、ワイヤWの駆動速度が速度V1から速度V2に減速されると、スラリが巻き上がり難くなり、その分、飛散するスラリの絶対量が減少する。そしてさらに、ワイヤ駆動方向の反転周期が短縮されると、ワイヤ群の駆動方向が頻繁に切換えられる結果、ワイヤ停止時間が増加し、ワイヤ群を一方向に長期的に連続して駆動する場合に比べてスラリが巻き上がり難くなり、結果的に、飛散するスラリの絶対量が減少する。
【0038】
従って、上記ワイヤソーによると、切断終期に、ワーク保持部32がスラリによって過剰に冷却され、あるいはウエハ間にスラリが入り込むことに起因するウエハの反りを抑制することができ、その分、より反りの少ない状態でウエハを切り出すことが可能となる。
【0039】
また、このワイヤソーでは、構造的にも、スラリ供給装置36,37のノズル部材36b,37bと前記作業領域との間に防滴カバー38,38を設け、ワイヤWに供給されて飛散したスラリが作業領域側に拡散するのを防止する構成となっており、特に、防滴カバー38,38は、図3に示すように、切断送り終端近傍の所定の範囲内では、ワイヤ群からワーク保持部32に亘る部分を覆うようになっているため、切断終期のスラリの飛散によるワーク保持部32の過剰冷却や、ウエハ間へのスラリの不要な侵入を効果的に抑制することができるという利点がある。
【0040】
なお、上記のように運転条件の切換えを行うと(図4のステップS15)、その後のワーク28の切断に悪影響が出るとの懸念があるが、実施形態のような円柱状のワーク28の場合、切断送り終端近傍ではワイヤWによる切断長さは徐々に減少する為、運転条件の切換えによる切断面への影響は殆どない。
【0041】
ところで、以上説明したワイヤソーは、本発明に係るワイヤソーの好ましい実施形態の一例であって、その具体的な構成は本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0042】
例えば、上記実施形態では、ワーク28が切断送り終端近傍の所定位置に到達すると、反転タイマのタイマ値、ワイヤWの駆動速度、及びスラリ供給量の全ての運転条件の切換えを行うようにしているが(図4のステップS15)、上記の通り、これらの運転条件の切換えは、切断終期のスラリの飛散を緩和する上でそれぞれ有効であるため、何れか一又は二の運転条件だけを切換えるようにしてもよい。
【0043】
また、運転状態の上記切換えは、実施形態のように一段階の切換え以外に複数段階に分けて切換える、又は徐々に変化させるようにしてもよい。例えばワイヤWの駆動速度であれば、同速度を段階的に、あるいは漸減的に減速させるようにしてもよい。
【0044】
また、実施形態のワイヤソーでは、防滴カバー38,38を設けて、スラリの前記作業領域側への飛散を抑制し得るようにしているが、防滴カバー38,38を省略した構成としてもよい。また、防滴カバー38,38の形状や配置は、実施形態に限定されるものではなく、ワイヤ群に供給されて飛散したスラリが作業領域側へ拡散するのを防止できれば種々の形状や配置のものを適用可能である。例えば、図5に示すように、主にワーク保持部32の過剰冷却を防止するために、ワーク保持部32に防滴カバー38′,38′を組付けて、主にワーク保持部32に対してスラリが拡散するのを防止するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係るワイヤソーの全体構成図である。
【図2】ワイヤソーのガイドローラ間の部分を示した概略図である。
【図3】ワークが切断送り終端近傍の所定位置に到達した状態を示す概略図である。
【図4】NC装置による切断動作制御の一例を示すフローチャートである。
【図5】防滴カバーの変形例を示すワーク送り装置の要部を示す概略図である。
【図6】従来のワイヤソーの問題点を説明する概略図である。
【符号の説明】
【0046】
10A,10B ワイヤ繰出し・巻取り装置
11A,11B ボビン駆動モータ
24A,24B,26A,26B ガイドローラ
25 駆動モータ
28 ワーク
30 ワーク送り装置
34 ワーク送りモータ
36,37 スラリ供給装置
50 NC装置
W ワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のガイドローラに巻回された切断用ワイヤにより形成されるワイヤ群と、このワイヤ群をワイヤ軸方向に駆動するワイヤ駆動手段と、ワークを保持するワーク保持部材を有し、このワーク保持部材により保持したワークを前記ワイヤ群に対して相対的に切断送りする送り手段と、前記ワイヤ群のうちワークが切断送りされる領域よりもワイヤ軸方向外側に配置され、前記ワイヤ群に対して加工液を供給する加工液供給手段と、を備えたワイヤソーにおいて、
前記加工液供給手段によるワイヤ群に対する加工液の供給量を制御する液量制御手段と、
前記送り手段によるワークの送り位置であって切断送り終端近傍の所定位置に前記ワークが到達したことを検知する送り位置検知手段と、を備え、
前記液量制御手段は、前記送り位置検知手段による前記所定位置の検知に基づき、当該検出後の加工液の供給量をそれ以前の供給量よりも少なくするように前記加工液供給手段を制御することを特徴とするワイヤソー。
【請求項2】
複数のガイドローラに巻回された切断用ワイヤにより形成されるワイヤ群と、このワイヤ群をワイヤ軸方向に駆動するワイヤ駆動手段と、ワークを保持するワーク保持部材を有し、このワーク保持部材により保持したワークを前記ワイヤ群に対して相対的に切断送りする送り手段と、前記ワイヤ群のうちワークが切断送りされる領域よりもワイヤ軸方向外側に配置され、前記ワイヤ群に対して加工液を供給する加工液供給手段と、を備えたワイヤソーにおいて、
前記ワイヤ駆動手段によるワイヤ群の駆動速度を制御する速度制御手段と、
前記送り手段によるワークの送り位置であって切断送り終端近傍の所定位置に前記ワークが到達したことを検知する送り位置検知手段と、を備え、
前記速度制御手段は、前記送り位置検知手段による前記所定位置の検知に基づき、当該検出後のワイヤ群の駆動速度がそれ以前の駆動速度よりも低くなるように前記ワイヤ駆動手段を制御することを特徴とするワイヤソー。
【請求項3】
複数のガイドローラに巻回された切断用ワイヤにより形成されるワイヤ群と、このワイヤ群をワイヤ軸方向に駆動するワイヤ駆動手段と、ワークを保持するワーク保持部材を有し、このワーク保持部材により保持したワークを前記ワイヤ群に対して相対的に切断送りする送り手段と、前記ワイヤ群のうちワークが切断送りされる領域よりもワイヤ軸方向外側に配置され、前記ワイヤ群に対して加工液を供給する加工液供給手段と、を備えたワイヤソーにおいて、
前記ワイヤ駆動手段によるワイヤ駆動方向を周期的に反転させるワイヤ駆動制御手段と、
前記送り手段によるワークの送り位置であって切断送り終端近傍の所定位置に前記ワークが到達したことを検知する送り位置検知手段と、を備え、
前記ワイヤ駆動制御手段は、前記送り位置検知手段による前記所定位置の検知に基づき、当該検出後の前記ワイヤ駆動方向の反転周期がそれ以前の反転周期よりも短くなるように前記ワイヤ駆動手段を制御することを特徴とするワイヤソー。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一項に記載のワイヤソーにおいて、
前記加工液供給手段からワイヤ群に供給されることにより飛散した加工液が、ワーク保持部材、又はワーク側に拡散するのを防止するカバー部材が設けられていることを特徴とするワイヤソー。
【請求項5】
請求項4に記載のワイヤソーにおいて、
前記カバー部材は、前記ワイヤ群のうちワークが切断送りされる前記領域と加工液供給手段による加工液の供給位置との間に介設され、かつワークに対して前記ワイヤ群と一体的に前記切断送り方向に移動可能に設けられ、前記送り手段によるワークの送り位置であって少なくとも切断送り終端近傍の所定位置から終端位置までの範囲内において、前記ワークのワイヤ切込み位置からワーク保持部材に亘る部分を覆うことを特徴とするワイヤソー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−202319(P2009−202319A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−49609(P2008−49609)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(391003668)トーヨーエイテック株式会社 (145)
【Fターム(参考)】