説明

ワイヤボンディング方法及びワイヤボンディング用のレーザ溶接装置

【課題】Cu系のボンディングワイヤとCu系の端子との間に広くて浅くて強固な接合を得ること。
【解決手段】X−Yステージ20上で半導体チップ12の各電極パッド14とそれに対応する端子(電極パッド14,リード18)とを電気的に接続するために、ビーム断面が矩形状のグリーンパルスレーザ光SHGを用いて断面矩形の平角型Cu(またはCu合金)のボンディングワイヤ22の先端部を各端子(電極パッド14,リード18)にレーザ溶接で接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Cu(銅)系の端子にCu系のボンディングワイヤを接続するためのワイヤボンディング方法およびレーザ溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤボンディングは、主に半導体チップ上の電極パッドをパッケージの外部引き出し端子(リード)に電気的に接続する工程で用いられており、ボンディングワイヤを1本ずつ扱うことから、半導体実装工程の中でも最も高い信頼性を要求されている。
【0003】
従来一般のワイヤボンディングでは、ボンディングワイヤの材料がAu(金)またはAl(アルミニウム)であり、Alワイヤをボンディングワイヤとする場合は熱圧着方式が用いられ、Alワイヤをボンディングワイヤとする場合は超音波方式が用いられてきた。
【0004】
しかしながら、近年、半導体チップにおいては、高集積化・高速化に伴って、配線および電極パッドの材料がこれまでのAlから比抵抗が低くてエレクトロマイグレーションの起こり難いCuに徐々に置き換わってきている。また、リードフレームの材料も、Fe-Ni合金系よりは電気伝導度および熱伝導率に優れたCu合金系の使用が増えてきている。このことから、Cu系の電極パッドとCu系のリードとをCuワイヤで結線できるワイヤボンディング法が求められている。
【0005】
この点、熱圧着ワイヤボンディング法および超音波ワイヤボンディング法は、どちらもCuワイヤに対しては十分な接合強度が得られず、接合表面の酸化が進みやすいという難点がある。
【0006】
本出願人は、上記のようなワイヤボンディングの技術的課題を解決するために、特許文献1において、YAG高調波のパルスレーザ光を用いてCuワイヤをCu系の電極パッドあるいはCu系のリードにレーザ溶接で接合するレーザワイヤボンディング法を提案している。
【0007】
このレーザワイヤボンディング法は、CuワイヤをCu系の被接合物または端子(電極パッド、外部引き出し用端子、導体パターン等)の上に重ね、可変のパルス幅を有するYAG高調波のパルスレーザ光をCuワイヤに上方から照射して、該YAG高調波パルスレーザ光のエネルギーによってCuワイヤおよびCu系端子を溶融させ、両者をスポット溶接で接合する。Cu系の金属はYAG高調波をよく吸収するので、スポット溶接の溶融接合が良好に行われ、酸化し難い強固なCu接合が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−66794
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、本出願人が特許文献1で開示したレーザワイヤボンディング法は、上記のように酸化し難い強固なCu接合が得られるものの、Cu系ボンディングワイヤの幅寸法および厚みに比して、溶接部の接合面積が小さすぎることと、溶け込みが深すぎることが問題となっている。
【0010】
たとえば、幅寸法が0.4mm、厚み寸法が0.05mmのCuワイヤに対して、上記特許文献1のレーザワイヤボンディング法を適用すると、スポット溶接部の口径は0.1mm程度でありながら、溶け込みの深さが0.3mm以上に達してしまう。接合部自体の物理的な接合強度が大きくても、接合部の面積が小さければ、ボンディングワイヤとしての接合強度や電気伝導特性は低下する。また、溶接の溶け込みが深すぎると、端子部材を傷めることもある。
【0011】
この点に関しては、熱圧着ワイヤボンディング法や超音波ワイヤボンディング法の方が、接触界面全体の拡散接合または固相接合により広くて浅い接合部を得ることができる。もっとも、上記のようにCuワイヤの場合は接合強度が不十分になることが難点になっている。
【0012】
要するに、ボンディングワイヤおよび端子部材の全部がCu系の金属からなるワイヤボンディングにおいては、熱圧着ワイヤボンディング法や超音波ワイヤボンディング法と同等な広くて浅い接合部を実現できるレーザワイヤボンディング法が求められている。
【0013】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決するものであり、Cu系のボンディングワイヤとCu系の端子との間に広くて浅くて強固な接合を得ることができるワイヤボンディング方法を提供する。
【0014】
また、本発明は、本発明のワイヤボンディング方法を実施するのに適したレーザ溶接装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のワイヤボンディング方法は、CuまたはCu合金からなる母材とめっき層とを有する端子の上に、CuまたはCu合金からなる平角型のボンディングワイヤを重ね、ビーム断面が矩形状のYAG高調波パルスレーザ光を前記ボンディングワイヤに照射して、前記ボンディングワイヤを前記端子にレーザ溶接で接合する。
【0016】
また、本発明におけるワイヤボンディング用のレーザ溶接装置は、CuまたはCu合金からなる母材とめっき層とを有する端子の上に、CuまたはCu合金からなる平角型のボンディングワイヤを接合するワイヤボンディングのためのレーザ溶接装置であって、YAG高調波パルスレーザ光を生成するYAG高調波パルスレーザ発生部と、前記YAG高調波パルスレーザ光のビーム断面を円形から矩形状に変えるための断面が矩形のコアを有する矩形コアファイバと、前記矩形コアファイバより得られるビーム断面矩形状のYAG高調波パルスレーザ光を前記端子の上に重ねられた前記ボンディングワイヤの加工ポイントに集光照射するレーザ出射部とを有する。
【0017】
本発明のワイヤボンディング法においては、ビーム断面が矩形状のYAG高調波パルスレーザ光をボンディングワイヤの接合ポイントに照射することで、ビームスポットのパワー密度分布が広くて低い矩形トップハットのプロファイルとなり、これによって接合ポイントに得られる溶接部の溶け込みはレーザパワー密度分布を逆さにしたような広くて浅いプロファイルになる。
【0018】
本発明のレーザ溶接装置は、断面が矩形のコアを有する矩形コアファイバの一端面にビーム断面が円形のYAG高調波パルスレーザ光を入射させて、YAG高調波パルスレーザ光が矩形コアファイバを伝搬する間にそのビーム横モードをシングルモードからマルチモードに変えていき、矩形コアファイバの他端面よりビーム断面矩形状のYAG高調波パルスレーザ光を取り出す。
【0019】
本発明の好適な一態様においては、YAG高調波パルスレーザ光の照射位置付近で端子の母材には溶け込みが及ばないようにしてボンディングワイヤと端子のめっき層とが溶融した溶接部が得られる。好ましくは、端子のめっき層はAu(金)であり、その下地膜としてNiめっき層があってよい。
【0020】
また、本発明においては、溶接部の接合面積を大きくするのが容易であり、ボンディングワイヤに照射されるYAG高調波パルスレーザ光の矩形状ビームスポットの各辺のサイズを、ボンディングワイヤの幅のサイズに比して0.6以上にするのが好ましい。
【0021】
また、本発明におけるCu系のボンディングワイヤが、めっきを施されていてもよく、たとえばNiめっき層を好適に有することができる。
【0022】
本発明のワイヤボンディング方法によってボンディングワイヤとレーザ溶接で接合されるCu系の端子は、典型的には半導体パッケージの外部引き出し端子あるいは半導体チップの電極パッドであるが、プリント基板上の導体パターン等であってもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明のワイヤボンディング方法によれば、上記のような構成および作用により、Cu系のボンディングワイヤとCu系の端子との間に広くて浅くて強固な接合を得ることができる。
【0024】
また、本発明のワイヤボンディング用のレーザ溶接装置によれば、上記のような構成および作用により、本発明のワイヤボンディング方法を首尾よく効率的に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態におけるワイヤボンディング方法を示す斜視図である。
【図2】一実施形態におけるワイヤボンディング用のレーザ溶接装置の構成を示す図である。
【図3】上記レーザ溶接装置において矩形コアファイバの一端面にグリーンパルスレーザ光が入射する様子を示す斜視図である。
【図4】上記レーザ溶接装置において矩形コアファイバの他端面よりグリーンパルスレーザ光が出射する様子を示す斜視図である。
【図5】上記実施形態においてビーム断面が矩形のグリーンパルスレーザ光がボンディングワイヤの接合ポイントントに集光照射される様子を示す斜視図である。
【図6】実施形態のワイヤボンディングの作用を参考例と対比して示す図である。
【図7】実施形態の一実験例で得られた溶接部の断面構造を示す金属顕微鏡の観察画像である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図を参照して本発明の好適な実施の形態を説明する。
【0027】
図1に、本発明におけるワイヤボンディング方法の一実施形態を示す。
【0028】
図示の例は封止前の半導体パッケージ10であり、ウエハプロセスを経た半導体チップ12がこの半導体パッケージ10に実装される。半導体チップ12の上面には、チップに搭載されている半導体集積回路の電圧端子または信号入出力端子である電極パッド14が多数設けられている。好適な一実施例として、電極パッド14は、CuまたはCu合金を母材とし、Niめっき層を下地膜として表面にAuめっき層を有している。
【0029】
パッケージ10は、熱放散性に優れた窒化アルミニウム(AlN)のようなセラミック製のマウント用基板(ダイパッド)16を有している。パッケージ10に半導体チップ12を実装するためには、ワイヤボンディング工程に先立って、半導体チップ12がこの基板16上にフェイスアップでダイボンドされる。
【0030】
この半導体パッケージ10の外部引き出し端子は、リードフレームのリード(インナリード)18によって与えられる。好適な一実施例として、リード18も、CuまたはCu合金を母材とし、Ni(ニッケル)めっき層を下地膜として表面にAuめっき層を有している。
【0031】
上記のようなダイボンディングにより半導体チップ12を固定したパッケージ10が、この実施形態のワイヤボンディング加工を受けるため、図1に模式的に示すX−Yステージ20上の所定位置に配置される。X−Yステージ20は、ボールネジ駆動またはリニアモータ駆動によりX−Y方向で移動して、ステージ上のワーク(10,12)の任意の加工ポイント(接合ポイント)を予め設定された加工位置(ボンディング位置)に位置合わせできるようになっている。
【0032】
この実施形態のワイヤボンディング装置は、上記ボンディング位置にて各被接合部または端子(電極パッド14,リード18)の上にボンディングワイヤ22の先端部を位置合わせして重ねるボンディングヘッド(図示せず)と、ボンディングワイヤ22の先端部を各端子にレーザ溶接で接合するためのレーザ溶接装置24(図2)とを有している。図1に示すように、レーザ溶接装置24のレーザ出射ユニット32は、ステージ20の上方に設置または配置され、上記ボンディング位置の加工ポイントに対して、ビーム断面が矩形状のYAG第2高調波(波長532μmのグリーン光)のパルスレーザ光SHGを集光照射するようになっている。この明細書では、以下、YAG第2高調波のパルスレーザ光SHGをグリーンパルスレーザ光SHGと称する。
【0033】
この実施形態では、ボンディングワイヤ22に断面矩形の平角型Cu(またはCu合金)のボンディングワイヤ(以下、「Cuワイヤ」と称する。)を使用し、半導体チップ12の各電極パッド14とそれに対応するリード18とを電気的に接続するために、Cuワイヤ22をビーム断面が矩形状のグリーンパルスレーザ光SHGを用いてCuワイヤ22の先端部を各端子(14,18)にレーザ溶接で接合するようにしている。この実施形態におけるレーザワイヤボンディング法の作用は後に詳細に説明する。
【0034】
図2に、この実施形態のワイヤボンディング方法に好適に使用できるレーザ溶接装置24の構成を示す。
【0035】
このレーザ溶接装置24は、ロングパルス(10μs以上、典型的には1〜3ms)のグリーンパルスレーザ光SHGを生成するグリーンパルスレーザ発生器26と、このグリーンパルスレーザ発振器26にレーザ発振用の駆動電流ILDを供給するレーザ電源28と、グリーンパルスレーザ発生器26で生成されたグリーンパルスレーザ光SHGを所望のレーザ加工場所まで伝送し、その伝送中にグリーンパルスレーザ光SHGのビーム断面形状を円形から矩形状に変換する矩形コアファイバ30と、レーザ加工場所で断面矩形状のグリーンパルスレーザ光SHGをワイヤボンディングの溶接ポイントWPに向けて集光照射するレーザ出射ユニット32とを備えている。
【0036】
グリーンパルスレーザ発生器26においては、一対の終端ミラー34,36の間の直線的な光路上に、図の右から左に向かって、1/4波長板38、活性媒質40、高調波分離出力ミラー42、収束レンズ44、非線形光学結晶(波長変換結晶)46が所定の距離間隔を空けて一列に配置されている。なお、別のレイアウトとして、1/4波長板と活性媒質との間に折り返しミラーを配置し、光共振器内の光路を曲げた構成としてもよい。
【0037】
両終端ミラー34,36は互いに向かい合って光共振器を構成している。図の右側の第1終端ミラー34の反射面34aには、基本波長(1064nm)に対して反射性の膜がコーティングされている。図の左側の第2終端ミラー36の反射面36aには、基本波長(1064nm)に対して反射性の膜がコーティングされるとともに、第2高調波(532nm)に対して反射性の膜がコーティングされている。
【0038】
なお、両終端ミラー34,36の反射面34a,36aはそれぞれ適当な曲率半径を有する凹面に形成されている、一例として、第1終端ミラー34の反射面34aは約9000mmの曲率半径を有し、第2終端ミラー36の反射面36aは約5000mmの曲率半径を有している。
【0039】
活性媒質40は、たとえばNd:YAGロッドからなり、第1終端ミラー34寄りに配置され、電気光学励起部48によって光学的にポンピングされる。電気光学励起部46は、活性媒質40に向けて励起光を発生するための励起光源(たとえば励起ランプあるいはレーザダイオード)を有し、この励起光源をレーザ電源部28からの励起電流で点灯駆動することにより、活性媒質40を持続的または断続的にポンピングする。こうして活性媒質40で生成される基本波長(1064nm)の光ビームLAは、両終端ミラー34,36の間に閉じ込められて増幅される。
【0040】
第1終端ミラー34と活性媒質40との間に配置されている1/4波長板38は、複屈折結晶素子からなり、基本波レーザ光LAがこの結晶を通過する際に2つの固有偏光(S波/P波)の間に一定の位相差を与え、ひいては非線形光学結晶46に対して常光・異常光のパワー比を一定に保つように作用する。
【0041】
非線形光学結晶46は、タイプIIの位相整合にカットされた、たとえばKTP(KTiOPO4 )結晶あるいはLBO(LiB35)結晶等からなり、第2終端ミラー36寄りに配置され、この光共振器で励起された基本モードに光学的に結合され、基本波長との非線形光学作用により第2高調波(532nm)の光ビームSHGを光共振器の光路上に生成する。
【0042】
光学レンズ44は、非線形光学結晶46に入射する基本波長の光ビームLAのパワー密度を増大させるためのものであり、その両面に基本波長および第2高調波のいずれに対しても高透過性の誘電体膜をコーティングした平凸レンズからなる。
【0043】
第1終端ミラー34あるいは活性媒質40側から図の左方向に伝播してきた基本波長の光ビームLAは、光学レンズ44を透過した後は、収束しながら非線形光学結晶46を通過し(これによって非線形光学結晶46が基本モードに光学的に結合し)、第2終端ミラー36の反射面36a付近に設定される光学レンズ44の焦点位置に集光するようになっている。そして、第2終端ミラー36の反射面36aで反射した基本波長の光ビームLAは、放射状に広がりながら非線形光学結晶46を通過し(これによって非線形光学結晶46が基本モードに光学的に結合し)、収束レンズ44で平行光にコリメートされて、活性媒質40側に戻るようになっている。
【0044】
また、図1において、非線形光学結晶46より図の左側に出た第2高調波の光ビームSHGは、第2終端ミラー36の反射面36aで反射して反対方向(図の右方向)に戻され、非線形光学結晶46を通り抜ける。非線形光学結晶46より図の右側に出た第2高調波の光ビームは、光共振器の光路または光軸に対して所定の角度(たとえば45°)で斜めに配置されている高調波分離出力ミラー42に入射する。
【0045】
高調波分離出力ミラー42は、ガラス基板からなり、その主面42aに基本波長に対して透過性の膜をコーティングし、第2高調波に対して反射性の膜をコーティングしている。これにより、光共振器内で、基本波長の光ビームLAは高調波分離出力ミラー42を双方向で透過する。また、第2高調波の光ビームつまりグリーンパルスレーザ光SHGは、非線形光学結晶46側から高調波分離出力ミラー42に入射し、そこで所定の方向(図の下方)に反射して、光共振器の光路から分離出力されるようになっている。
【0046】
このグリーンパルスレーザ発生器26で生成されるグリーンパルスレーザ光SHGは、基本波長の光ビームLAと同様に、光軸に垂直な方向でパワー密度がガウス分布を示すガウスビームであり、ビーム断面形状が円形になっている。
【0047】
高調波分離出力ミラー46より光共振器の外に取り出されたグリーンパルスレーザ光SHGは、入射ユニット50内で集光レンズ52により集光されて矩形コアファイバ30の一端面30aに入射する。
【0048】
図3に、この矩形コアファイバ30の一端面30aにビーム断面円形のグリーンパルスレーザ光SHGが集光入射する様子を示す。矩形コアファイバ30は、たとえばSI(ステップインデックス)形の矩形コアファイバからなり、断面矩形のコア29を有している。通常、コア29の材質は石英ガラスであり、コア29を取り囲むクラッド31の材質はコア29よりも屈折率の小さい石英ガラスまたは樹脂である。
【0049】
矩形コアファイバ30の一端面30aに入射したグリーンパルスレーザ光SHGは、断面矩形のコア29とクラッド31との界面で全反射を繰り返しながらコア29に閉じ込められてファイバの軸方向に伝搬する。このファイバ30内の伝搬中に、グリーンパルスレーザ光SHGの横モードがシングルモードからマルチモードに変わり、ビーム断面形状が円形から矩形に変わる。
【0050】
そして、出射ユニット54内で、図4に示すように、矩形コアファイバ30の他端面30bより、ビーム断面が矩形状のグリーンパルスレーザ光SHGが一定の拡がり角で出射される。
【0051】
このようにグリーンパルスレーザ光SHGのビーム断面形状を円状から矩形状に変える作用を奏するうえで、矩形コアファイバ30のファイバ長は一定以上必要であり、通常は1m以上あればよく、好ましくは2m以上あるとよい。
【0052】
出射ユニット54内には、所定の間隔を置いて光軸上にコリメートレンズ54と集光レンズ56が設けられている。コリメートレンズ54は、図4に示すように、矩形コアファイバ30の終端面30bより出たグリーンパルスレーザ光SHGを平行光にコリメートする。
【0053】
図5に示すように、集光レンズ56は、平行光のグリーンパルスレーザ光SHGを所定の焦点位置つまりワイヤボンディングの接合ポイントに集光させる。これにより、Cuワイヤ22の接合ポイントの部位にグリーンパルスレーザ光SHGが集光入射し、矩形状のビームスポットBSの下でレーザスポット溶接が行われる。
【0054】
図6に、この実施形態におけるレーザワイヤボンディング法の作用を参考例と対比して示す。ここで、参考例とは、図2のレーザ溶接装置24において矩形コアファイバ30を断面円形のコアを有する一般の円形コアファイバに置き換えて、それ以外はすべて実施形態と同じ条件にしたものである。
【0055】
実施形態によれば、グリーンパルスレーザ光SHGのビーム断面が矩形状であるため、光軸に垂直な方向のレーザパワー密度分布が広くて低い矩形トップハットのプロファイルとなり、これによって接合ポイントに得られる溶接部WPの溶け込みはレーザパワー密度分布を逆さにしたような広くて浅いプロファイルになる。グリーンパルスレーザ光SHGのパワーを調整することで、溶接部WPの接合面積を一定に維持しつつ、溶け込みの深さをCuワイヤ22および端子(リード18または電極パッド14)のめっき層(Au,Ni)に留め、端子の母材(Cu)には及ばないようにすることができる。
【0056】
これに対して、参考例においては、グリーンパルスレーザ光SHGのビーム断面が円形であるため、光軸に垂直な方向のレーザパワー密度分布が中央部の突出したテーパ状のプロファイルとなり、これによって接合ポイントに得られる溶接部BPの溶け込みはレーザパワー密度分布を逆さにしたような狭くて深いプロファイルになる。この場合、溶接部BPの溶け込みを浅くするために、グリーンパルスレーザ光SHGのパワーを下げると、溶接部BPの接合面積が非常に小さなものになる。また、溶接部BPの接合面積を大きくするために、グリーンパルスレーザ光SHGのパワーを上げると、溶接部WPの溶け込み深さがさらに増し、端子の母材(Cu)を傷めることがある。
【0057】
なお、実施形態におけるグリーンパルスレーザ光SHGのビームスポット断面形状は厳密に矩形である必要はなく、図6に示すように角隅部に多少の丸み60があってもよい。
【0058】
また、この実施形態においては、グリーンパルスレーザ光SHGのビームスポット径を調節することで、溶接部BPの接合面積を可変調整することができる。ワイヤボンディングでは、物理的特性および電気的特性の面で溶接部WPの接合面積が大きいほどよい。したがって、Cuワイヤ22の幅サイズW22を基準にとると、溶接部BPの各辺のサイズWBPは基準(W22)に対する比で0.6以上であるのが好ましい。具体的には、たとえば、Cuワイヤ22の幅サイズW22が0.4mmである場合は、溶接部WPの各辺のサイズWBPは0.24mm以上であるのが好ましい。
【0059】
上記のように、この実施形態のレーザワイヤボンディング法によれば、熱圧着ワイヤボンディング法や超音波ワイヤボンディング法と同等に広くて浅く、しかもレーザ溶接による強固な接合部を得ることができる。
【0060】
図7は、この実施形態における一実験例で得られた溶接部の断面構造を示す金属顕微鏡の観察画像である。この実験例において、Cuワイヤの厚さは50μm、CuワイヤのNiめっき層の厚さは3μm、端子部材(Cuプレート)の母材(Cu)の厚さは0.5mm、下地Niめっき層の厚さは5μm、Auめっき層の厚さは0.3μmである。また、グリーンパルスレーザ光SHGのパルス幅は0.6ms、ピークパワーは1.0kWである。
【0061】
図7に示すように、端子部材側のAuめっきが溶けてCuワイヤの溶融部に混じり込んでいるのがわかる。一方で、端子部材側の母材(Cu)はもちろん下地膜のNiめっき層も殆ど溶けていないことがわかる。つまり、溶接部の溶け込みはCuワイヤを貫通して端子部材のAuめっき層まで及び、端子部材の下地Niめっき層および母材(Cu)には及んでいないことが確認できた。
【0062】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、上述した実施形態は本発明を限定するものではない。当業者にあっては、具体的な実施態様において本発明の技術思想および技術範囲から逸脱せずに種々の変形・変更を加えることが可能である。
【0063】
たとえば、上記した実施形態ではCuワイヤ22のめっき層がNiであったが、他の材質のめっき層であってもよく、あるいはCuワイヤ22にめっき層が無くてもよい。また、端子(電極パッド14、リード18)側においても、任意の材質のめっき層が可能である。
【0064】
また、上記実施形態のレーザ溶接装置24においては、レーザ出射ユニット32にガルバノメータ・スキャナを搭載して、ワイヤボンディング加工のレーザ溶接にスキャニング機能を持たせることも可能である。
【0065】
また、本発明のワイヤボンディング方法は、半導体チップをリードフレームに搭載して樹脂封止実装をする場合に限らず、多ピンのPGA(Pin Grid Array)に実装する場合や複数の半導体チップ間あるいは複数の回路基板間の電気接続にも適用可能である。
【符号の説明】
【0066】
10 半導体パッケージ
12 半導体チップ
14 電極パッド
18 リード
20 X−Yステージ
22 ボンディングワイヤ
24 レーザ溶接装置
26 グリーンパルスレーザ発生器
29 コア
30 矩形コアファイバ
32 レーザ出射ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CuまたはCu合金からなる母材とめっき層とを有する端子の上に、CuまたはCu合金からなる平角型のボンディングワイヤを重ね、
ビーム断面が矩形状のYAG高調波パルスレーザ光を前記ボンディングワイヤに照射して、前記ボンディングワイヤを前記端子にレーザ溶接で接合するワイヤボンディング方法。
【請求項2】
前記YAG高調波パルスレーザ光の照射位置付近で前記母材には溶け込みが及ばないようにして前記ボンディングワイヤと前記めっき層とを溶融させる、請求項1に記載のワイヤボンディング方法。
【請求項3】
前記めっき層がAuめっき層である、請求項2に記載のワイヤボンディング方法。
【請求項4】
前記端子が、前記Auめっき層の下地膜としてNiめっき層を有する、請求項3に記載のワイヤボンディング方法。
【請求項5】
前記ボンディングワイヤに照射される前記YAG高調波パルスレーザ光の矩形状ビームスポットの各辺のサイズが、前記ボンディングワイヤの幅のサイズに比して0.6以上である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のワイヤボンディング方法。
【請求項6】
前記ボンディングワイヤがNiめっき層を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載のワイヤボンディング方法。
【請求項7】
前記端子が半導体パッケージの外部引き出し端子である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のワイヤボンディング方法。
【請求項8】
前記端子が半導体チップの電極パッドである、請求項1〜6のいずれか一項に記載のワイヤボンディング方法。
【請求項9】
断面が矩形のコアを有する矩形コアファイバの一端面にビーム断面が円形のYAG高調波パルスレーザ光を入射させて、前記矩形コアファイバの他端面より前記ビーム断面矩形状のYAG高調波パルスレーザ光を得る、請求項1〜8のいずれか一項に記載のワイヤボンディング方法。
【請求項10】
CuまたはCu合金からなる母材とめっき層とを有する端子の上に、CuまたはCu合金からなる平角型のボンディングワイヤを接合するワイヤボンディングのためのレーザ溶接装置であって、
YAG高調波パルスレーザ光を生成するYAG高調波パルスレーザ発生部と、
前記YAG高調波パルスレーザ光のビーム断面を円形から矩形状に変えるための断面が矩形のコアを有する矩形コアファイバと、
前記矩形コアファイバより得られるビーム断面矩形状のYAG高調波パルスレーザ光を前記端子の上に重ねられた前記ボンディングワイヤの加工ポイントに集光照射するレーザ出射部と
を有するワイヤボンディング用のレーザ溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−18823(P2011−18823A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−163454(P2009−163454)
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【出願人】(000161367)ミヤチテクノス株式会社 (103)
【Fターム(参考)】