中心静脈投与用輸液
【課題】糖質、電解質成分及びアミノ酸を含有すると共に、糖質への慣らし投与及び/又はステップアップ投与(馴化期間)を必要としない、中心静脈栄養管理を行うことができる中心静脈投与用輸液製剤の提供。
【解決手段】糖質、電解質及びアミノ酸組成からなり、1日投与量として、総カロリーが1000〜1400kcal、より好ましくは1100〜1300Kcalの範囲内であり、45〜75g、より好ましくは55〜65gのアミノ酸を含有し、総水分量が1400〜1800mL、より好ましくは1500〜1700mLであり、非蛋白カロリーと投与窒素量の比率(Cal/N比)が90〜160、より好ましくは、90〜130の範囲内であり、糖質への慣らし投与及び/又はステップアップ投与(馴化期間)を必要としない中心静脈投与用輸液製剤。
【解決手段】糖質、電解質及びアミノ酸組成からなり、1日投与量として、総カロリーが1000〜1400kcal、より好ましくは1100〜1300Kcalの範囲内であり、45〜75g、より好ましくは55〜65gのアミノ酸を含有し、総水分量が1400〜1800mL、より好ましくは1500〜1700mLであり、非蛋白カロリーと投与窒素量の比率(Cal/N比)が90〜160、より好ましくは、90〜130の範囲内であり、糖質への慣らし投与及び/又はステップアップ投与(馴化期間)を必要としない中心静脈投与用輸液製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖質、電解質成分及びアミノ酸を含有する、糖質への慣らし投与及び/又はステップアップ投与(順化期間)を必要としない中心静脈栄養管理を行うことができる中心静脈投与用輸液製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
消化器系の手術或いは循環器系の手術における術後の侵襲を受けた患者等は、経口摂取による栄養管理が不可能な場合が多い。そのため、このような患者の栄養管理は、一般に中心静脈から高カロリー輸液(IVH:Intravenous Hyperalimentation)を投与することにより行われている。このIVHは、これらの患者の栄養状態を改善し、かつ栄養状態を良好に保つことにより、患者の早期の回復、治癒を促進させるものであり、広く外科的分野において用いられている。
【0003】
このIVHは、通常、栄養源である糖質及びアミノ酸に加え、体液成分を構成する電解質、更に所望によりビタミンを含んだものであり、一般的には、糖質と電解質成分、及びアミノ酸とを分離して充填する2室容器からなるバッグにそれぞれを分離して充填し、所望によりビタミンを充填した第3室の小室を有する1バッグ形態の輸液製剤として提供されている。
【0004】
この高カロリー輸液(IVH)は、経口摂取ができない患者に対する栄養管理のための輸液製剤であることから、その維持液として、一日投与量として、例えば、1600〜2400Kcal程度の総カロリーを有し、カロリー源となる糖質であるブドウ糖を350〜500g含有し、それに加えて必須アミノ酸および他のアミノ酸を60〜80g含有し、その上で必要な電解質成分を含み、水分量として2000〜2400mL量の投与量が必要とされており、その一日投与量を2バッグに分けて充填された製剤として提供されている。そして、通常、それらの2バッグを1日投与量として静脈内投与される。
【0005】
しかしながら、この中心静脈栄養療法を開始するに当たっては、その開始時に耐糖機能が不明な場合や、耐糖機能が低下している場合の開始液として、或いは、術後直後の侵襲時等で耐糖機能が低下しており、糖質であるブドウ糖を制限する必要がある場合には、維持液の患者にこの用量を投与すると、過剰の糖質投与に基づく肝障害等の副作用が発生する(非特許文献1)ために、維持液投与前の慣らし投与及び/又はステップアップ投与としての開始液が術後2日間(順化期間)に亘り投与され、その後上記の維持液が投与されている。
この中心静脈栄養療法にあっては、術後侵襲時又は経口・経管栄養不能或いは不十分時に行われる通常の中心静脈栄養療法は、7〜10日間程度である。なお、本明細書において、これを「経口摂取不能期間又は絶食期間」と定義する。
【0006】
この開始液は、維持液に比較して総カロリーを低くし、栄養源である糖質及びアミノ酸の含有量も低く設定されている。具体的には、当該開始液にあっては、例えば、一日投与量として1000Kcal程度の総カロリーを有し、そのカロリー源である糖質(ブドウ糖)を120g程度の低用量で含有し、それに加えて必須アミノ酸及び他のアミノ酸を20g程度含有し、その上で必要な電解質成分を含み、水分量として1000mL程度の量の投与量からなる輸液製剤である。
【0007】
したがって、中心静脈栄養療法を行う場合には、輸液製剤としては、維持液投与前の慣らし投与及び/又はステップアップ投与としての開始液、その後の維持液としての輸液製剤からなる2種の輸液製剤で構成されており、さらに維持液にあっても、投与対象者の症状、年齢、体重に応じてその総カロリーが選択される2種の維持液として提供されているのが実情である。
【0008】
しかしながら、中心静脈栄養療法が広く浸透するに至り、その問題点も指摘されるようになってきた。
すなわち、中心静脈栄養療法にあっても、最近の患者の実態に即した栄養管理が必要であって、最近の患者は栄養状態がよいことから、必要以上の総カロリーを投与することを回避すべきである点が指摘されてきている。
特に入院している高年齢者の安静時エネルギー消費量(REE:Resting Energy Expense)は、男性、女性共に約1000Kcal/日程度であり(非特許文献2)、それ以上のエネルギー補充は必要ないと指摘されている。
また、最近の治療方針では、術後の侵襲患者に対して早い時期から消化器系の腸管を使用させたほうが、社会復帰が早まることが指摘され、したがって、術後早期から経腸栄養剤を使用したり、粥など食事を摂取させたりすることが行われている。
さらに、中心静脈栄養療法に使用するのに複数の異なる輸液製剤(開始輸液/維持輸液)が存在することは、取り違えによる医療過誤が生じ易いものでもあった。
【0009】
【特許文献1】特開平6−209979号公報
【特許文献2】特開平8−000709号公報
【非特許文献1】田中等、医学のあゆみ, Vol.218, 409-412 (2006)
【非特許文献2】杉山等、JJPEN, Vol.24, 627-635 (2002)
【0010】
かかる現状に鑑み、本発明者等は、最近の患者の実態に即した栄養管理が行える中心静脈栄養療法に使用し得る輸液を開発するべく検討を加えた。
その基本的な考え方として、これまでの中心静脈栄養療法に使用するのに複数の異なる輸液製剤(開始輸液/維持輸液)を、一剤で提供できるのではないかと考えた。
すなわち、投与する一剤で、維持液投与前の慣らし投与及び/又はステップアップ投与としての開始液、その後の維持液としての輸液製剤となり得るものであって、その利便性が向上されると共に、複製輸液製剤による投与輸液の過誤を回避し得るのではないか考えた。
【0011】
上記の考え方に立脚し、本発明者等は、中心静脈栄養療法において、含有させる糖質を低減させること、さらにアミノ酸量として一日必要量を配合させ、術後侵襲時に多く利用される分岐鎖アミノ酸であるバリン、ロイシン及びイソロイシンの量を多くすること、また、アミノ酸としてアルギニンを強化させることにより術後侵襲時に投与しても肝機能異常を惹起しにくいこと、さらにまた早期から経口栄養剤、或いは食事などの摂取による腸管の使用が可能となり、術後からの社会復帰が早期に行えるよう、投与すべき総カロリーを現実の栄養維持に必要なカロリー量まで低下させた輸液製剤により、上記の問題点が解決できることを新規に見出し、本発明を完成させるに至った。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって本発明は、上記の現状を鑑み、糖質、電解質成分及びアミノ酸を含有すると共に、糖質への慣らし投与及び/又はステップアップ投与を行うことなく、中心静脈栄養管理を行うことができる中心静脈投与用輸液製剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
かかる課題を解決するため、本発明の一つの基本的態様は、糖質、電解質及びアミノ酸組成からなり、1日投与量として、総カロリーが1000〜1400kcal、より好ましくは1100〜1300Kcalの範囲内であり、45〜75g、より好ましくは55〜65gのアミノ酸を含有し、総水分量が1400〜1800mL、より好ましくは1500〜1700mLであり、非蛋白カロリーと投与窒素量の比率(Cal/N比)が90〜160、より好ましくは、90〜130の範囲内であり、特に、糖質への慣らし投与及び/又はステップアップ投与(馴化期間)をせずに投与することを特徴とする中心静脈投与用輸液製剤である。
【0014】
すなわち、本発明にあっては、投与される輸液製剤中に含有される糖質は、慣らし投与及び/又はステップアップ投与(順化期間)を必要としない配合量であるとともに、術後侵襲時に投与しても肝機能異常を惹起しにくいことを特徴とする上記の中心静脈投与用輸液製剤である。
【0015】
そして本発明にあっては、さらにビタミン類、或いは微量元素類を含有することを特徴とする上記の中心静脈投与用輸液製剤である。
【0016】
なお、輸液製剤中のカロリー源となる糖質は、通常の輸液に用いられる糖質であれば特に制限はなく、例えば還元糖として、ブドウ糖、フルクトース、マルトースが、非還元糖としてはトレハロース、キシリトール、ソルビトール、グリセリンなどであり、栄養効果の点からはブドウ糖であることが好ましい。
【0017】
また、本発明は、アミノ酸組成として必須アミノ酸を豊富に含む組成からなり、1日投与量として、45〜75g、より好ましくは55〜65gのアミノ酸を投与できる上記の中心静脈投与用輸液製剤である。
さらに本発明は、アミノ酸組成としてアルギニンの含有量を強化し、高カロリー輸液施行時の肝機能異常に対する軽減を図った中心静脈投与用輸液製剤である。
【0018】
さらに本発明は、輸液製剤中の非蛋白カロリーと投与窒素量の比率(Cal/N比)が90〜160の範囲内であることを特徴とする中心静脈投与用輸液製剤である。
このCal/N比にあっては、従来の中心静脈栄養療法で使用する高カロリー輸液では、糖質が多く含有されていることから160以上の値を示すものである。しかしながら本発明においては、糖質の含有量を必要総カロリーに対応する程度までに低減させ、その上で1日必要量のアミノ酸を配合することで、Cal/N比が160以下の値を示すことになったとしても、輸液製剤自体の栄養効果は変わらないものであった。
【0019】
本発明の中心静脈投与用輸液製剤は、術後侵襲時が消化器系又は循環器系の術後後の患者に使用することができ、さらに嚥下障害や脳梗塞後遺症など、経口・経管栄養摂取不能又は不十分で、エネルギー要求量が低下している患者、例えば高齢者などにも使用できる中心静脈投与用輸液製剤である。
【0020】
すなわち、本発明はまた別の態様として、経口摂取不能期間又は絶食期間である術後侵襲時の中心静脈栄養管理するシステム、及びその管理システムのために投与する、中心静脈投与用輸液の投与単位(ユニット)でもある。
この中心静脈栄養管理システムに使用する中心静脈投与用輸液は、特に糖質への慣らし投与及び/又はステップアップ投与(順化期間)を行うことなく投与しうるものであり、輸液製剤中の非蛋白カロリーと投与窒素量の比率(Cal/N比)が90〜160、より好ましくは90〜130の範囲内であるものであり、またさらにビタミン類、微量元素類を含有することができ、その上、1日投与量として、1バックに又は2バッグに分けて充填されたものである中心静脈栄養管理システムに使用する中心静脈投与用輸液である。
【0021】
したがって、より詳細には、本発明は具体的には以下の構成からなる。
すなわち、一つの基本的態様として、
(1)糖質、電解質及びアミノ酸組成からなり、1日投与量として、総カロリーが1000〜1400kcalの範囲内であり、45〜75gのアミノ酸を含有し、総水分量が1400〜1800mLであり、非蛋白カロリーと投与窒素量の比率(Cal/N比)が90〜160の範囲内であることを特徴とする中心静脈投与用輸液製剤;
(2)アミノ酸組成として必須アミノ酸を豊富に含む組成からなることを特徴とする(1)に記載の中心静脈投与用輸液製剤;
(3)アミノ酸組成としてアルギニンを強化したアミノ酸組成であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の中心静脈投与用輸液製剤;
(4)さらに、ビタミン類を含有することを特徴とする(1)、(2)又は(3)に記載の中心静脈投与用輸液製剤;
(5)さらに、微量元素類を含有することを特徴とする(1)、(2)又は(3)に記載の中心静脈投与用輸液製剤;
(6)糖質がブドウ糖であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の中心静脈投与用輸液製剤;
(7)上記(1)〜(6)に記載の輸液製剤を、経口摂取不能期間又は絶食期間に、糖質に対する慣らし投与及び/又はステップアップ投与(順化期間)をせずに投与することを特徴とする中心静脈投与輸液方法;
である。
【0022】
さらに本発明は、別の態様として、
(8)糖質、電解質及び必須アミノ酸組成からなり、1日投与量として、総カロリーが1000〜1400Kcalの範囲内にあり、55〜65gのアミノ酸を含有し、総水分量が1400〜1800mLであり、非蛋白カロリーと投与窒素量の比率(Cal/N比)が90〜160の範囲内である中心静脈投与用輸液製剤からなることを特徴とする中心静脈栄養療法用投与ユニット;
(9)経口摂取不能期間又は絶食期間に、エネルギー要求量が低下状態にある患者に対する投与ユニットであって、糖質に対する慣らし投与及び/又はステップアップ投与(順化期間)をしないことを特徴とする(8)に記載の投与ユニット;
(10)経口摂取不能期間又は絶食期間が、消化器系又は循環器系の術後侵襲時であることを特徴とする(8)又は(9)に記載の投与ユニット;
(11)投与のために使用される輸液が、(1)〜(6)のいずれかに記載の輸液であることを特徴とする上記(8)〜(10)に記載の投与ユニット;
(12)1日投与量として、2バッグ形態にしたことを特徴する(8)〜(11)のいずれかに記載の投与ユニット;
である。
【0023】
また、さらに別の態様として、
(13)経口摂取不能期間又は絶食期間に中心静脈投与用輸液製剤を投与するにあたり、糖質、電解質及び必須アミノ酸組成からなり、1日投与量として、総カロリーが1000〜1400Kcalの範囲内にあり、55〜65gのアミノ酸を含有し、総水分量が1400〜1800mLであり、非蛋白カロリーと投与窒素量の比率(Cal/N比)が90〜160の範囲内である中心静脈投与用輸液剤を投与することからなる、糖質に対する慣らし投与及び/又はステップアップ投与(順化期間)をしないことを特徴とする中心静脈栄養管理システム;
(14)経口摂取不能期間又は絶食期間が、消化器系又は循環器系の術後侵襲時であることを特徴とする(13)に記載の中心静脈栄養管理システム;
(15)アミノ酸組成として必須アミノ酸を豊富に含む組成であることを特徴とする(13)又は(14)に記載の中心静脈栄養管理システム;
(16)アミノ酸組成としてアルギニンを強化したアミノ酸組成であることを特徴とする上記(13)〜(15)に記載の中心静脈栄養管理システム;
(17)さらに、ビタミン類を含有することを特徴とする(13)〜(16)のいずれかに記載の中心静脈栄養管理システム;
(18)さらに、微量元素類を含有することを特徴とする(13)〜(16)のいずれかに記載の中心静脈栄養管理システム;
(19)糖質がブドウ糖であることを特徴とする(13)〜(16)のいずれかに記載の中心静脈栄養管理システム;
である。
【発明の効果】
【0024】
以上のようにして構成される本発明は、具体的には以下の効果を有する。
(1)1剤で術後侵襲時の中心静脈栄養管理を行うので、これまでの煩雑な糖質への慣らし投与及び/又はステップアップ管理を行う開始輸液の投与を回避し、その利便性が向上し、また過誤投与による医療誤の発生を回避し得る。
(2)輸液製剤中の総カロリーを、術後侵襲時の栄養維持としての必要カロリーまで低減することにより、含有させる糖質量を低減することができ、したがって、ステップアップ時の糖負荷が少なくなり、肝障害の発生を軽減し得る。
(3)水分量を少なくしたことにより腎臓に対する負担を軽くすることができる。
すなわち、従来の中心静脈投与用輸液製剤は、その1日投与量としては、2000〜2400mL量であり、したがって、術後侵襲時における薬剤として抗生物質や抗癌剤を併用投与する場合には、総投与水分量としては優に2000mLを超える量となる。この大量の水分投与は、内臓機能が低下している術後侵襲時の患者にとっては、腎臓への負担がかなり大きなものであった。
本発明においては、この腎臓への負担を軽減するものである。
【0025】
(4)また、総カロリー量を術後侵襲時の栄養維持としての必要カロリーである1000Kcal/日程度までに低減させ、早期に経腸栄養剤投与、或いは食事(粥等)の摂取により、腸管の働きを活発化させ、それにより早期の社会復帰が可能となる。
(5)また、本発明の中心静脈投与用輸液は、カロリー源を糖質で補うため、脂肪乳剤と比較して、術後の侵襲時における患者として全ての患者を対象に適用し得るものである。
(6)含有させる糖質量を低減する一方、アミノ酸の1日必要量を含有させたことによる中心静脈投与用輸液であり、そのうえバリン、ロイシン及びイソロイシンの分岐鎖アミノ酸の含有量を多くしたことから、蛋白合成の亢進と蛋白分解の軽減をもって栄養状態の向上が可能となる。
(7)そのうえ、アミノ酸組成としてアルギニンの含有量を強化することにより、高カロリー輸液施行時の肝機能異常に対する軽減が図れる利点を有する。
(8)また、1日に必要ビタミンを全て補給することが可能となり、栄養管理の観点からみて、極めて理想的な組成を有する中心静脈投与用輸液が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明は、基本的な態様として上記した如く、糖質、電解質及びアミノ酸組成からなり、1日投与量として、総カロリーが1000〜1400kcal、より好ましくは1100〜1300Kcalの範囲内であり、45〜75g、より好ましくは55〜65gのアミノ酸を含有し、総水分量が1400〜1800mL、より好ましくは1500〜1700mLであり、非蛋白カロリーと投与窒素量の比率(Cal/N比)が90〜160、より好ましくは、90〜130の範囲内であり、特に、糖質への慣らし投与及び/又はステップアップ投与(順化期間)をしないことを特徴とする中心静脈投与用輸液製剤である。
【0027】
使用できる糖質としては通常の輸液に用いられる糖質で有れば特に制限はない。例えば還元糖として、ブドウ糖、フルクトース、マルトースが、非還元糖としてはトレハロース、キシリトール、ソルビトール、グリセリンが挙げられる。これらの各種糖質のうち、栄養効果の点からはブドウ糖を配合することが好ましい。
この糖質は本発明の中心静脈投与用輸液製剤における総カロリーの大部分を負担する栄養源である。従来のこの種の輸液製剤の中でも、そのカロリー源を脂肪に依存する製剤もあるが、脂肪の投与は必ずしも全ての患者に許容されるものではなく、例えば、高脂血症、肝障害、血栓症、糖尿病ケトーシス等の患者に対しては、脂肪の投与は禁忌とされている。
これに対して、本発明が提供する中心静脈投与用輸液製剤にあっては、総カロリーの大部分を負担する栄養源を糖質、好ましくはブドウ糖としたことにより、上記した、高脂血症、肝障害、血栓症、糖尿病ケトーシス等の患者等を含め、全ての患者に対して適用し得るものである。
そのうえで、これまでの煩雑な糖質への慣らし投与及び/又はステップアップ投与(順化期間)を行う開始輸液の投与を回避したものである。
【0028】
ブドウ糖の配合量として、1日水分量約1600mL当り200〜300gとするのがよく、アミノ酸配合量として約60gを配合することにより、総カロリー量として、1000〜1400Kcalの基礎代謝熱量相当の投与が可能となる。またこの総カロリー量では足りない高カロリー輸液患者には、アミノ酸配合量は同一で、ブドウ糖配合量として、1日水分量約1600mL当り約350g程度を配合することが望ましい。これにより1日総カロリー量として1500〜1700Kcalが投与可能であり、既存高カロリー輸液キット製剤の維持液と類似した組成となる。本発明は、以上のような総カロリー量の異なる2つの製剤により、高カロリー輸液の新しい栄養管理の概念を、提案するものである。
【0029】
また、含有される電解質としては、通常の電解質輸液等に用いられているものであれば特に制限されず、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン、塩素、亜鉛等が挙げられ、水溶液中でイオンを生じさせる無機塩、有機塩などが好ましい。特に1日量として、下記の電解質を配合していることが好ましい。
Na+ 50〜150mEq
K+ 30〜90mEq
Ca2+ 5〜10mEq
Mg2+ 5〜10mEq
Cl− 50〜150mEq
グリセロリン酸 0〜40mEq
酢酸 0〜40mEq
乳酸 0〜40mEq
クエン酸 0〜40mEq
リンゴ酸 0〜40mEq
コハク酸 0〜40mEq
【0030】
なお、この電解質成分は、本発明の中心静脈投与用輸液製剤が、糖質と電解質成分、及びアミノ酸とを分離して充填する2室容器からなるバッグにそれぞれを分別充填し、所望によりビタミンを充填した第3室を有する1バッグ形態の輸液製剤として提供されることが好ましいことより、糖質溶液中へ配合することが好ましいが、アミノ酸との反応が生じない電解質成分にあってはアミノ酸溶液中に配合することも可能である。
【0031】
また、本発明が提供する中心静脈投与用輸液製剤において含有されるアミノ酸は、L−イソロイシン、L−ロイシン、L−リジン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L−トレオニン、L−トリプトファン、L−バリン、L−アラニン、L−アルギニン、L−アスパラギン酸、L−グルタミン酸、L−ヒスチジン、L−プロリン、L−セリン、L−チロシン、グリシン及びL−システインであり、なかでもL−イソロイシン、L−ロイシン、L−リジン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L−トレオニン、L−トリプトファン、L−バリンの9種の必須アミノ酸を使用することは必須であり、また、E/N比が例えば1.7以上のような必須アミノ酸を豊富に含有するアミノ酸組成とすることもできる。
【0032】
その配合量は、具体的には、例えば1日必要トータルアミノ酸量として55〜65gのアミノ酸、より具体的には60g/日のアミノ酸量が好ましく、それぞれ下記の表1に記載の量を使用するのが好ましい。
【0033】
【表1】
【0034】
なお、本発明が提供する中心静脈投与用輸液にあっては、L−イソロイシン、L−ロイシン、L−バリンの分岐鎖アミノ酸(BCAA)の配合量を多くすることが肝要である。この分岐鎖アミノ酸の配合量を多くすることにより、肝機能への賦活を行い、免疫能を向上させ得るものであり、術後侵襲時への輸液として、極めて効果的なものであることが判明した。
【0035】
そのうえ、アミノ酸組成として、アルギニンの配合量を多くすることにより、高カロリー輸液施行時における肝機能異常の発現を軽減できることが判明した。この場合のアルギニンの配合量は、既存の総合アミノ酸組成物におけるアルギニンの配合量に対して、110〜200%程度の量で強化させるのがよい。
このアルギニンの配合量を強化させることにより、術後侵襲時に投与しても肝機能異常を惹起しにくいことから、これまでの慣らし投与及び/又はステップアップ投与(順化期間)を必要としない点で、極めて特異的なものである。
【0036】
なお、含有させる各アミノ酸は必ずしも遊離アミノ酸として用いられる必要はなく、医薬品又は飲食品で許容される塩の形態でもよく、例えば無機酸塩、有機酸塩、生体内で加水分解可能なエステル体、N−アシル誘導体などの形態で使用してもよい。また、同種あるいは異種のアミノ酸をペプチド結合させたペプチド類の形態で使用してもよい。
【0037】
本願発明の中心静脈投与用輸液では、上記した糖質およびアミノ酸が基本的に総カロリーの基となる。この場合において、輸液製剤中の非蛋白カロリーと投与窒素量の比率(Cal/N比)が90〜160の範囲内であることがよいことが判明した。
総カロリーにおけるCal/N比にあっては、従来の中心静脈栄養療法で使用する高カロリー輸液では、糖質が多く含有されていることから160以上の値を示すものである。しかしながら本発明においては、糖質の含有量を必要総カロリーに対応する程度までに低減させ、その上で1日必要量のアミノ酸を配合することで、Cal/N比が160以下の値を示すことになったとしても、輸液製剤自体の栄養効果は変わらないものであった。
【0038】
また、本発明が提供する中心静脈投与用輸液では、総水分量が1400〜1800mL、より好ましくは1500〜1700mLの範囲内にあることが好ましいものである。
従来の中心静脈投与用輸液製剤にあっては、その1日投与量としては、2000〜2400mL量であり、必然的に総水分量が多いものである。したがって、術後侵襲時における薬剤として抗生物質や抗癌剤を併用投与する場合には、総投与水分量としては優に2000mLを超える量となる。この水分量は、術後侵襲時の内臓機能が低下している患者にとっては、腎臓への負担がかなり大きなものとなる。
本発明にあっては、この腎臓への負担を軽減し、術後侵襲からの回復をより一層加速さることが可能となる。
【0039】
以上の基本的な本発明の中心静脈投与用輸液製剤では、栄養管理の観点から、ビタミン類を更に配合させるのが好ましい。
そのようなビタミン類としては、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、ビタミンH、葉酸、パントテン酸類、ニコチン酸類等を挙げることができる。これらのビタミン類を用いることによって、栄養状態の維持・改善を早期に実現させることが可能である。
【0040】
そのビタミン類にあっては、特にアメリカ医学会ガイドライン(1975年)に基づくビタミンB1およびビタミンB6の増量を図ったAMA処方による以下の13種類のビタミン類を含有させるのがよい。特にビタミンB1は、糖代謝を円滑にするために必要なビタミンであり、特に、ビタミン高カロリー輸液施行時の乳酸アシドーシスやWernicke脳症の発現を防止できる。ビタミンB1の誘導体として、従来から輸液に用いられているプロスルチアミン、アクトチアミン、チアミンジスルフィド、フルスルチアミン及びそれらの塩等のチアミン誘導体も使用することができる。
【0041】
本発明の輸液製剤へは、13種のビタミンを適宜、1〜3室の複数室を装備した容器に適切な添加剤とともに添加することができる。その他のビタミンの生理作用や欠乏症状として、水溶性ビタミンに関しては、ビタミンB2は、糖、アミノ酸、脂質代謝に関わり、欠乏症状として、眼症状、口内炎、皮膚炎が知られている。また、ビタミンB6は、主にアミノ酸代謝やヘモグロビン合成に関わり、欠乏症状として、眼、口周囲の皮膚炎、舌炎、貧血、末梢神経炎が知られている。ビタミンB12は、DNAおよび蛋白合成、造血および神経機能に関わり、欠乏症状としては、悪性貧血、汎血球減少、末梢神経炎などが知られている。ニコチン酸は、末梢血管拡張、酸化還元反応に関わり、欠乏症状として、ペラグラ(皮膚炎、下痢、痴呆)や食欲不振などが知られている。パントテン酸は脂肪酸・ステロイド代謝や糖質酸化に関わり、欠乏症状として、頭痛、倦怠、運動障害、筋痙攣、胃腸障害および皮膚炎が知られている。
【0042】
また、ビオチンは、糖・脂肪酸・アミノ酸代謝に関わり、欠乏症状として、皮膚炎、脱毛、中枢神経系失調などが知られている。葉酸は、アミノ酸代謝や造血に関わり、欠乏症状としては、巨赤芽球性貧血が知られている。ビタミンCは、細胞間支持組織・膠原線維形成、アミノ酸・脂質・葉酸代謝および造血に関わり、欠乏症状としては、壊血病、貧血、創傷治癒遅延、骨発育不全、脱力・倦怠、食思不振、皮膚乾燥がしられている。
【0043】
一方、脂溶性ビタミンに関しては、ビタミンAは、眼球機能維持、上皮粘膜保護、成長・骨発育に関わり、欠乏症状としては、夜盲・眼球乾燥・角膜軟化、皮膚粘膜角化、成長・生殖機能障害などが知られている。ビタミンDは、抗くる病性因子、Ca・P吸収・利用調節、骨石灰化などが知られている。ビタミンEは、膜安定・抗酸化、細胞増殖、抗血栓・動脈硬化に関わり、欠乏症状としては、溶血性貧血、過酸化脂質生成などが知られている。ビタミンKは、プロトロンビン合成、血液凝固能、Ca透過性亢進などに関わり、欠乏症状として、出血が知られている。血液凝固阻止剤であるワーファリンの服用を必要とする場合には、ビタミンKがその作用と拮抗するため投与を控える必要がある。
【0044】
高カロリー輸液施行時には、ビタミン欠乏症や過剰症が容易に引き起こされる状態にあり、ビタミンB1に限らず、高カロリー輸液を必要な患者では、経口摂取が行われていても十分ではなく、ビタミンの摂取量は不足しているものと考え、少なくとも下記の量のビタミンを補給すべきである。米国医学会(AMA)基準では、ビタミンKを含んでいない。また既存高カロリー輸液用総合ビタミン剤には、13種全てを含有しており、ほとんどがAMA基準を元に開発されたものであり、既存総合ビタミン剤の各ビタミン含量を用いてもよい。
【0045】
米国医学界(AMA)のガイドライン(1975年)に基づく13種類のビタミン量を、下記表2に示す。なお、ビタミンB1及びビタミンB6については1985年に改訂されている。
【0046】
【表2】
出典:静脈経腸栄養ガイドライン、日本静脈・経腸栄養研究会編、へるす出版(東京)、1998年
【0047】
なお、本発明の中心静脈投与用輸液製剤には、微量元素も添加することができる。本発明における微量元素とは、微量ではあるが生体にとって必要不可欠とされる金属元素である。そのうち、特に、術後侵襲時において欠乏する亜鉛、銅及びセレンの無機塩及び有機塩を挙げることができる。該微量元素の補給は欠乏症の防止だけでなく蛋白合成の促進、栄養状態の維持・改善に大きく貢献することが期待される。各微量元素は、一日必要量を考慮して配合すればよい。
特に本発明にあっては微量元素として、例えば下記表3に記載の範囲内の微量元素を配合するのがよい。
【0048】
【表3】
【0049】
本発明の中心静脈投与用輸液製剤のpHは、5〜6に調整されていることが好ましい。pHを調整するには、輸液分野で通常用いられているpH調整剤を用いることができる。pH調整剤としては、塩酸等の無機酸、酢酸、クエン酸等の有機酸、二酸化炭素等の気体を使用できる。特に、有機酸の利用が好ましい。
【0050】
本発明の中心静脈投与用輸液製剤は、容器に充填されることが好ましく、必要に応じて各成分を連通可能な隔離手段で区画された複数の室に分離充填されるのが好ましい。
【0051】
糖として還元糖であるブドウ糖を配合した場合、アミノ酸とブドウ糖が経時的にメイラード反応を生じる場合があるため、アミノ酸と糖質(ブドウ糖)は隔離収容される方が好ましい。この問題を回避するため、例えば、第1室にアミノ酸を含有する溶液を充填し、第2室に電解質成分と糖質を含有する溶液を充填するのがよい。
またビタミン類を含有させる場合には、第3室を更に設け、そこにビタミン類を含有する溶液を充填するのがよい。
【0052】
各室に区画する方法としては、使用時に外部からの押圧で剥離可能なシール部で区画する方法が好ましい。この連通可能な隔離手段で区画された複数の室に分離収容された液は投与時に連通後混合して用いることができる。この場合、容器各室に収容される液の液性を考慮して上記のような手段で連通可能な隔離手段で区画された複数の室に各成分を分離収容し、投与時に配合するのがよい。また、微量元素などの一部の電解質やビタミン類も糖、アミノ酸および他の電解質と空間的に分離して収容してもよい。
【0053】
本発明における中心静脈投与用輸液製剤の容器の本体を構成する材料としては、可撓性、透明性に優れ、且低温保存後に落下しても破袋し難い軟質の樹脂材料が好ましい。特に、通常医療用容器に用いられているポリオレフィン類からなるものを好適に挙げることができる。ポリオレフィン類は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1−ブテン、ポリ4−メチル−1−ペンテン等の重合応体を挙げることができる。容器本体は、前記樹脂をブロー成形、インフレーションあるいはデフレーション成形したものいずれでも使用できる。また、2枚の樹脂シートの周縁部を溶着して形成したものでも良い。
【0054】
容器本体を複数の空間に区画するには、例えば使用時に外部からの押圧で剥離可能なシール部で区画し複数の空間を容器内に形成する方法(特開平2-4671号公報)や、破断により連通する薄肉部を有する連通部材を用いて作製することができる(特開2000-167022号公報、特開2001-87350号公報)。
また、ビタミン類等の薬液を容器内で分離・封入する場合は、複数の空間を持つ小袋を容器本体のいずれかの空間内部もしくは容器周縁部に設け、この小袋内に収容することができる。この際、小袋は充填する成分を吸着し難い材質を選択することが好ましく、ポリ弗化エチレン[テフロン(登録商標)等]、環状オレフィンコポリマーを好適に挙げることができる。
【0055】
本発明にあっては、上記の容器に1日投与量を全て充填することも可能であるが、充填した場合の容量が大きなものとなるため、1日投与量を2バッグに分けて充填するのがよい。
したがって、本発明はその態様として、1日投与量を2バッグに分けて充填したことを特徴とする中心静脈投与用輸液製剤でもある。
【0056】
本発明が提供する中心静脈投与用輸液製剤は、特に輸液製剤中の総カロリーを、術後侵襲時の栄養維持としての必要カロリーまで低減することにより、含有させる糖質量を低減しているものであり、したがって、ステップアップ時の糖負荷が少なくなり、肝障害の発生を軽減し得るものである。
【0057】
また近年、高齢者の増加に伴い、必要なカロリー量および水分量ともに低下する傾向にあること、さらに、手術患者の栄養状態はそれほど悪くなく、従来の2000〜2400Kcalものカロリーは必要なく、またIVHの施行期間は短縮されており、速やかに末梢静脈栄養、経腸栄養、および経口摂取に移行するとともに術後早期の退院も可能な状況になりつつある。
【0058】
今後の栄養療法の推移を考慮する中で、IVHの組成として、1日投与量が1000〜1400Kcalの範囲内で、アミノ酸量が45〜75gを含有し、水分量1400〜1600mLで、Cal/N比が90〜160の範囲内にあるIVHが、今後より主流となる組成である。さらにこの組成にすることにより、糖質に対する慣らし投与及び/又はステップアップ投与(順化期間)をする必要がなくなり、IVH投与時の副作用として、肝機能異常と高血糖の軽減が期待できる。アミノ酸組成の特徴として、アルギニンを強化することでIVH投与時の肝機能異常に対する軽減効果が併せて期待できる。
【実施例】
【0059】
以下にこれらの優れた効果を、実施例に代わる具体的な試験例を記載することによって説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0060】
下記表4に、各試験例で用いた本発明の被験液、及び対照液1〜5の市販高カロリー輸液キット製剤の組成を示した。
【0061】
【表4】
【0062】
試験例1:薬理効果試験1 栄養効果の確認
表4に示した本発明の被験液の栄養効果を確認するために、以下の動物実験を行った。なお、対照液として、表4の市販高カロリー輸液キット製剤を用いた。
一夜絶食したラット(9週齢雄性:一群6〜7匹、体重198.2〜212.4g)に、ペンバルビタール麻酔下にシリコン製カテーテルを右外頸静脈から右上大静脈起始部に留置し、無拘束下に輸液剤を以下のように7日間持続投与した。
被験液および対照液1は、7日間同一輸液で持続投与し、対照液1→対照液2として、従来の高カロリー輸液製剤の管理方法を考慮して、始めの3日間は対照液1を持続投与し、輸液を切り替え、その後4日間、対照液2を持続投与した。
流速は、2.5mL/hrとした。
【0063】
7日間の体重変化量を図1に示した。図から明らかなように、全ての輸液剤の投与で負であったが、その程度は、被験液の投与により、対照液1→対照液2と同程度で、対照液1に比べると小さい傾向であった。
また累積窒素出納を図2に示した。図中の結果からも判明するように、被験液の投与は、対照液1の投与に比較し、有意に高値を示しており、対照液1→対象液2に比べても高値傾向であった。
【0064】
この試験結果から、本発明の被験液は、高カロリー輸液開始時の開始液である対照液1に比べて優れた栄養効果を示し、従来の高カロリー輸液製剤の管理方法で、輸液を切り替え、維持液(2号液)である対照液2まで投与した場合に比べても、同等の栄養効果を示すことが明らかとなった。
【0065】
試験例2:薬理効果試験2 肝機能異常の軽減効果(その1)
高カロリー輸液施行時の肝機能異常に対する軽減効果を確認するために、以下の動物実験を行った。
輸液剤として表4に記載する被験液および対照液3を用いた。
摂餌量の85%を制限し、4日間飼育した低栄養モデルラット(6週齢雄性、一群5匹、体重192.2〜211.6g)に、ペントバルビタール麻酔下に、シリコン製カテーテルを右外頸静脈から右上大静脈起始部に留置し、無拘束下に被験液および対照液3を5日間持続投与した。
投与速度は、3mL/hrとし、特に維持液である対照液3は、糖の慣らしをせず(開始時、開始液を使用せず)に投与した。
輸液投与期間中は、毎日尾静脈から採血し、投与終了後、ペントバルビタール麻酔下に腹大静脈より放血致死させ、肝臓を摘出した。
【0066】
輸液投与期間中の血糖値、AST、ALTの推移を、それぞれ図3、図4及び図5に示した。その結果からも判明するように、被験液の投与により、血糖値、血中の肝障害指標であるASTおよびALTの変動はほとんどなかったが、対照液3の投与により、1日目に血糖値の上昇、その後、3日目にASTおよびALTの上昇がみられた。
この試験結果から、本発明の輸液である被験液は、維持液である対照液3に比べ、高カロリー輸液施行時の肝機能異常を惹起しにくい輸液剤であることが明らかとなった。
【0067】
試験例3:薬理効果試験3 肝機能異常の軽減効果(その2)
試験例2と同様に、高カロリー輸液施行時の肝機能異常に対する軽減効果について、表4に記載する対照液4および5を用いて、以下の動物実験を行った。
給餌量の85%を制限し飼育し作製した低栄養モデルラット(7週齢雄性、一群6〜7匹、体重210〜217.9g)に、同様にカテーテルを留置し、無拘束下に輸液剤を以下のように7日間持続投与した。
被験液および対照液5は、7日間同一輸液で持続投与し、また対照液4→対照液5として、従来の高カロリー輸液製剤の管理方法を考慮して、始めの2日間対照液4を持続投与し、輸液を切り替え、その後5日間、対照液5を持続投与した。
流速は、3mL/hrとした。
【0068】
輸液投与期間中のAST及びALTの推移を、それぞれ図6及び図7に示した。
その結果から判明するように、対照液5を投与した場合、3日目に肝障害指標であるASTおよびALTが上昇したが、被験液および対照液4→対照液5の投与により、このような変化がみられなかった。
この試験結果から、本発明の輸液である被験液は、維持液である対照液5に比べ、高カロリー輸液施行時の肝機能異常を惹起しにくい輸液剤であることが明らかとなった。また、対照液4→対照液5のように糖慣らし投与のよる順化期間の設定により、高カロリー輸液施行時の肝機能異常を軽減できることが明らかとなった。
【0069】
試験例4:薬理効果試験4 Cal/N比の検討
本発明の輸液製剤の至適Cal/N比を見出すために以下の動物実験を行った。
総カロリー量(620kcal/800mL)を一定にグルコースと窒素量(アミノ酸量)の割合を、下記表5のように含有した輸液を用いた。摂餌量の85%を制限し、4日間飼育した低栄養モデルラット(9週齢雄性、体重243.6〜314.5g)にペントバルビタール麻酔下に、開腹術を行った後、シリコン製カテーテルを右外頸静脈から右上大静脈起始部に留置し、無拘束下に各被験液を7日間持続投与した。流速は、3.0mL/hrとした。輸液投与期間中、毎日尿量測定および尿採取を行った。
【0070】
7日間の体重変化量を図8に示した。アミノ酸フリーでのみ体重低下がみられたが、アミノ酸投与(NPC/N300〜75)により正を維持し、アミノ酸フリーに対し有意であった。また累積窒素出納を図9に示した。アミノ酸フリーで負出納を示し、アミノ酸投与により正出納を維持し、NPC/N300から小さくなるにつれ正出納の度合い高くなり、NPC/N110よりほぼ横ばいであった。血液生化学検査の中で、各輸液投与後のBUN値を表6示した。NPC/N75では、BUN値が摂餌ラットと同様なレベルまで上昇していた。
これらの試験結果より、本発明の輸液製剤の組成において、Cal/N比は110が至適であることが明らかとなった。
【0071】
【表5】
【0072】
【表6】
【0073】
Mean±SD(n=4〜5)
*:P<0.05 vs. アミノ酸フリー(Tukey-Kramer)
#:P<0.05 vs. NPC/N 300(Tukey-Kramer)
&:P<0.05 vs. NPC/N 150(Tukey-Kramer)
$:P<0.05 vs. NPC/N 110(Tukey-Kramer)
自由摂餌:検定から除く
【0074】
試験例5:薬理効果試験5 アルギニン強化アミノ酸組成の肝機能異常の軽減効果
本発明の輸液製剤におけるアミノ酸組成として、アルギニンを強化したアミノ酸組成が高カロリー輸液施行時の肝機能異常に対する軽減効果を確認するために、以下の動物実験を行った。
輸液剤として、下記表7に記載する輸液組成を有する被験液および対照液を用いた。
なお、輸液組成としては、被験液および対照液共に、糖濃度17.5%、アミノ酸濃度3%及び電解質を含有する組成であり、そのうちアミノ酸組成として、被験液にあっては既存の総合アミノ酸組成物に対し20%のアルギニンを強化した組成とした(両者の総アミノ酸量は一定:30g/L)。
【0075】
【表7】
【0076】
摂餌量の85%を制限し、7日間飼育した低栄養モデルラット(9週齢雄性、1群7匹、体重200.2〜223.9g)にペントバルビタール麻酔下に、シリコン製カテーテルを右外頸静脈から右上大静脈起始部に留置し、無拘束下に各被験液を3日間持続投与した。流速は、1日当たり300mL/kg体重とした。輸液投与期間中は、毎日尾静脈から採血した。
【0077】
輸液投与期間中のAST値を図10に、ALT値を図11に示した。
この結果から判明するように、アルギニンの配合量を強化したアミノ酸組成を含有する被験液の投与により、血中肝障害指標であるASTおよびALTが対照液に比べ低値で推移していた。
この試験結果から、本発明の輸液であるアルギニンを強化したアミノ酸組成を含有する被験輸液は、既存アミノ酸組成を含有する対照液に比べ、高カロリー輸液施行時の肝機能異常を惹起しにくい輸液剤であることが明らかとなった。
【0078】
試験例6:薬理効果試験6−アルギニン強化アミノ酸組成の肝機能異常の軽減効果−アルギニンの用量検討
本発明の輸液製剤におけるアミノ酸組成として、さらにアルギニンを強化したアミノ酸組成が高カロリー輸液施行時の肝機能異常に対する軽減効果を確認した。
輸液剤として、下記表8に記載する2被験液および対照液を用いた。
糖濃度17.5%、アミノ酸濃度3%および電解質を含有し、アミノ酸組成中、対照液に対し、アルギニン含量を4.52g/L及び5.43g/Lとそれぞれ強化した被験液1及び2を調製した(総アミノ酸量は一定:30g/L)。
摂餌量の85%を制限し、7日間飼育した低栄養モデルラット(9週齢雄性、1群7匹、体重195.2〜218.2g)にペントバルビタール麻酔下に、シリコン製カテーテルを右外頸静脈から右上大静脈起始部に留置し、無拘束下に各被験液を3日間持続投与した。流速は、1日当たり300mL/kg体重とした。輸液投与期間中は、毎日尾静脈から採血した。
【0079】
輸液投与期間中のASTの推移を図12に示した。
この結果から、アルギニンを強化した被験液1及び2において血中肝障害指標(AST)が対照液に比べ低値で推移し、その効果が強かった。
この試験結果から、アルギニンを強化したアミノ酸組成とすることで、肝機能異常を惹起しにくい輸液となることが明らかとなった。
【0080】
表8:輸液組成
【0081】
【表8】
【産業上の利用可能性】
【0082】
以上記載のように、本発明により、糖質、電解質成分及びアミノ酸を含有すると共に、糖質への慣らし投与及び/又はステップアップ投与(順化期間)を必要としない、中心静脈栄養管理を行うことができる中心静脈投与用輸液製剤が提供される。
すなわち、本発明が提供する中心静脈投与用輸液製剤は、1剤で術後侵襲時の中心静脈栄養管理を行うので、これまでの煩雑な糖質への慣らし投与及び/又はステップアップ管理を行う開始輸液の投与を回避し、その利便性が向上し、また過誤投与による医療誤の発生を回避し得るものである。
また、総カロリー量を術後侵襲時の栄養維持としての必要カロリー程度までに低減させ、早期に経腸栄養剤投与、或いは食事(粥等)の摂取により、腸管の働きを活発化させ、それにより早期の社会復帰が可能となり、その産業上の利用性は多大なものである。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】試験例1の結果を示す図であり、体重変化を示した図である。
【図2】試験例1の結果を示す図であり、累積窒素出納を示した図である。 (但し、図中の凡例は、図1と同様である)
【図3】試験例2の結果を示す図であり、血糖値の推移を示した図である。
【図4】試験例2の結果を示す図であり、AST値の推移を示した図である。 (但し、図中の凡例は、図3と同様である)
【図5】試験例2の結果を示す図であり、ALT値の推移を示した図である。 (但し、図中の凡例は、図3と同様である)
【図6】試験例3の結果を示す図であり、AST値の推移を示した図である。
【図7】試験例3の結果を示す図であり、ALT値の推移を示した図である。 (但し、図中の凡例は、図6と同様である)
【図8】試験例4の結果を示す図であり、体重変化量を示した図である。
【図9】試験例4の結果を示す図であり、累積窒素出納を示した図である。
【図10】試験例5の結果を示す図であり、AST値の推移を示した図である。
【図11】試験例5の結果を示す図であり、ALT値の推移を示した図である。
【図12】試験例6の結果を示す図であり、輸液投与期間中のASTの推移を示した図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖質、電解質成分及びアミノ酸を含有する、糖質への慣らし投与及び/又はステップアップ投与(順化期間)を必要としない中心静脈栄養管理を行うことができる中心静脈投与用輸液製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
消化器系の手術或いは循環器系の手術における術後の侵襲を受けた患者等は、経口摂取による栄養管理が不可能な場合が多い。そのため、このような患者の栄養管理は、一般に中心静脈から高カロリー輸液(IVH:Intravenous Hyperalimentation)を投与することにより行われている。このIVHは、これらの患者の栄養状態を改善し、かつ栄養状態を良好に保つことにより、患者の早期の回復、治癒を促進させるものであり、広く外科的分野において用いられている。
【0003】
このIVHは、通常、栄養源である糖質及びアミノ酸に加え、体液成分を構成する電解質、更に所望によりビタミンを含んだものであり、一般的には、糖質と電解質成分、及びアミノ酸とを分離して充填する2室容器からなるバッグにそれぞれを分離して充填し、所望によりビタミンを充填した第3室の小室を有する1バッグ形態の輸液製剤として提供されている。
【0004】
この高カロリー輸液(IVH)は、経口摂取ができない患者に対する栄養管理のための輸液製剤であることから、その維持液として、一日投与量として、例えば、1600〜2400Kcal程度の総カロリーを有し、カロリー源となる糖質であるブドウ糖を350〜500g含有し、それに加えて必須アミノ酸および他のアミノ酸を60〜80g含有し、その上で必要な電解質成分を含み、水分量として2000〜2400mL量の投与量が必要とされており、その一日投与量を2バッグに分けて充填された製剤として提供されている。そして、通常、それらの2バッグを1日投与量として静脈内投与される。
【0005】
しかしながら、この中心静脈栄養療法を開始するに当たっては、その開始時に耐糖機能が不明な場合や、耐糖機能が低下している場合の開始液として、或いは、術後直後の侵襲時等で耐糖機能が低下しており、糖質であるブドウ糖を制限する必要がある場合には、維持液の患者にこの用量を投与すると、過剰の糖質投与に基づく肝障害等の副作用が発生する(非特許文献1)ために、維持液投与前の慣らし投与及び/又はステップアップ投与としての開始液が術後2日間(順化期間)に亘り投与され、その後上記の維持液が投与されている。
この中心静脈栄養療法にあっては、術後侵襲時又は経口・経管栄養不能或いは不十分時に行われる通常の中心静脈栄養療法は、7〜10日間程度である。なお、本明細書において、これを「経口摂取不能期間又は絶食期間」と定義する。
【0006】
この開始液は、維持液に比較して総カロリーを低くし、栄養源である糖質及びアミノ酸の含有量も低く設定されている。具体的には、当該開始液にあっては、例えば、一日投与量として1000Kcal程度の総カロリーを有し、そのカロリー源である糖質(ブドウ糖)を120g程度の低用量で含有し、それに加えて必須アミノ酸及び他のアミノ酸を20g程度含有し、その上で必要な電解質成分を含み、水分量として1000mL程度の量の投与量からなる輸液製剤である。
【0007】
したがって、中心静脈栄養療法を行う場合には、輸液製剤としては、維持液投与前の慣らし投与及び/又はステップアップ投与としての開始液、その後の維持液としての輸液製剤からなる2種の輸液製剤で構成されており、さらに維持液にあっても、投与対象者の症状、年齢、体重に応じてその総カロリーが選択される2種の維持液として提供されているのが実情である。
【0008】
しかしながら、中心静脈栄養療法が広く浸透するに至り、その問題点も指摘されるようになってきた。
すなわち、中心静脈栄養療法にあっても、最近の患者の実態に即した栄養管理が必要であって、最近の患者は栄養状態がよいことから、必要以上の総カロリーを投与することを回避すべきである点が指摘されてきている。
特に入院している高年齢者の安静時エネルギー消費量(REE:Resting Energy Expense)は、男性、女性共に約1000Kcal/日程度であり(非特許文献2)、それ以上のエネルギー補充は必要ないと指摘されている。
また、最近の治療方針では、術後の侵襲患者に対して早い時期から消化器系の腸管を使用させたほうが、社会復帰が早まることが指摘され、したがって、術後早期から経腸栄養剤を使用したり、粥など食事を摂取させたりすることが行われている。
さらに、中心静脈栄養療法に使用するのに複数の異なる輸液製剤(開始輸液/維持輸液)が存在することは、取り違えによる医療過誤が生じ易いものでもあった。
【0009】
【特許文献1】特開平6−209979号公報
【特許文献2】特開平8−000709号公報
【非特許文献1】田中等、医学のあゆみ, Vol.218, 409-412 (2006)
【非特許文献2】杉山等、JJPEN, Vol.24, 627-635 (2002)
【0010】
かかる現状に鑑み、本発明者等は、最近の患者の実態に即した栄養管理が行える中心静脈栄養療法に使用し得る輸液を開発するべく検討を加えた。
その基本的な考え方として、これまでの中心静脈栄養療法に使用するのに複数の異なる輸液製剤(開始輸液/維持輸液)を、一剤で提供できるのではないかと考えた。
すなわち、投与する一剤で、維持液投与前の慣らし投与及び/又はステップアップ投与としての開始液、その後の維持液としての輸液製剤となり得るものであって、その利便性が向上されると共に、複製輸液製剤による投与輸液の過誤を回避し得るのではないか考えた。
【0011】
上記の考え方に立脚し、本発明者等は、中心静脈栄養療法において、含有させる糖質を低減させること、さらにアミノ酸量として一日必要量を配合させ、術後侵襲時に多く利用される分岐鎖アミノ酸であるバリン、ロイシン及びイソロイシンの量を多くすること、また、アミノ酸としてアルギニンを強化させることにより術後侵襲時に投与しても肝機能異常を惹起しにくいこと、さらにまた早期から経口栄養剤、或いは食事などの摂取による腸管の使用が可能となり、術後からの社会復帰が早期に行えるよう、投与すべき総カロリーを現実の栄養維持に必要なカロリー量まで低下させた輸液製剤により、上記の問題点が解決できることを新規に見出し、本発明を完成させるに至った。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって本発明は、上記の現状を鑑み、糖質、電解質成分及びアミノ酸を含有すると共に、糖質への慣らし投与及び/又はステップアップ投与を行うことなく、中心静脈栄養管理を行うことができる中心静脈投与用輸液製剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
かかる課題を解決するため、本発明の一つの基本的態様は、糖質、電解質及びアミノ酸組成からなり、1日投与量として、総カロリーが1000〜1400kcal、より好ましくは1100〜1300Kcalの範囲内であり、45〜75g、より好ましくは55〜65gのアミノ酸を含有し、総水分量が1400〜1800mL、より好ましくは1500〜1700mLであり、非蛋白カロリーと投与窒素量の比率(Cal/N比)が90〜160、より好ましくは、90〜130の範囲内であり、特に、糖質への慣らし投与及び/又はステップアップ投与(馴化期間)をせずに投与することを特徴とする中心静脈投与用輸液製剤である。
【0014】
すなわち、本発明にあっては、投与される輸液製剤中に含有される糖質は、慣らし投与及び/又はステップアップ投与(順化期間)を必要としない配合量であるとともに、術後侵襲時に投与しても肝機能異常を惹起しにくいことを特徴とする上記の中心静脈投与用輸液製剤である。
【0015】
そして本発明にあっては、さらにビタミン類、或いは微量元素類を含有することを特徴とする上記の中心静脈投与用輸液製剤である。
【0016】
なお、輸液製剤中のカロリー源となる糖質は、通常の輸液に用いられる糖質であれば特に制限はなく、例えば還元糖として、ブドウ糖、フルクトース、マルトースが、非還元糖としてはトレハロース、キシリトール、ソルビトール、グリセリンなどであり、栄養効果の点からはブドウ糖であることが好ましい。
【0017】
また、本発明は、アミノ酸組成として必須アミノ酸を豊富に含む組成からなり、1日投与量として、45〜75g、より好ましくは55〜65gのアミノ酸を投与できる上記の中心静脈投与用輸液製剤である。
さらに本発明は、アミノ酸組成としてアルギニンの含有量を強化し、高カロリー輸液施行時の肝機能異常に対する軽減を図った中心静脈投与用輸液製剤である。
【0018】
さらに本発明は、輸液製剤中の非蛋白カロリーと投与窒素量の比率(Cal/N比)が90〜160の範囲内であることを特徴とする中心静脈投与用輸液製剤である。
このCal/N比にあっては、従来の中心静脈栄養療法で使用する高カロリー輸液では、糖質が多く含有されていることから160以上の値を示すものである。しかしながら本発明においては、糖質の含有量を必要総カロリーに対応する程度までに低減させ、その上で1日必要量のアミノ酸を配合することで、Cal/N比が160以下の値を示すことになったとしても、輸液製剤自体の栄養効果は変わらないものであった。
【0019】
本発明の中心静脈投与用輸液製剤は、術後侵襲時が消化器系又は循環器系の術後後の患者に使用することができ、さらに嚥下障害や脳梗塞後遺症など、経口・経管栄養摂取不能又は不十分で、エネルギー要求量が低下している患者、例えば高齢者などにも使用できる中心静脈投与用輸液製剤である。
【0020】
すなわち、本発明はまた別の態様として、経口摂取不能期間又は絶食期間である術後侵襲時の中心静脈栄養管理するシステム、及びその管理システムのために投与する、中心静脈投与用輸液の投与単位(ユニット)でもある。
この中心静脈栄養管理システムに使用する中心静脈投与用輸液は、特に糖質への慣らし投与及び/又はステップアップ投与(順化期間)を行うことなく投与しうるものであり、輸液製剤中の非蛋白カロリーと投与窒素量の比率(Cal/N比)が90〜160、より好ましくは90〜130の範囲内であるものであり、またさらにビタミン類、微量元素類を含有することができ、その上、1日投与量として、1バックに又は2バッグに分けて充填されたものである中心静脈栄養管理システムに使用する中心静脈投与用輸液である。
【0021】
したがって、より詳細には、本発明は具体的には以下の構成からなる。
すなわち、一つの基本的態様として、
(1)糖質、電解質及びアミノ酸組成からなり、1日投与量として、総カロリーが1000〜1400kcalの範囲内であり、45〜75gのアミノ酸を含有し、総水分量が1400〜1800mLであり、非蛋白カロリーと投与窒素量の比率(Cal/N比)が90〜160の範囲内であることを特徴とする中心静脈投与用輸液製剤;
(2)アミノ酸組成として必須アミノ酸を豊富に含む組成からなることを特徴とする(1)に記載の中心静脈投与用輸液製剤;
(3)アミノ酸組成としてアルギニンを強化したアミノ酸組成であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の中心静脈投与用輸液製剤;
(4)さらに、ビタミン類を含有することを特徴とする(1)、(2)又は(3)に記載の中心静脈投与用輸液製剤;
(5)さらに、微量元素類を含有することを特徴とする(1)、(2)又は(3)に記載の中心静脈投与用輸液製剤;
(6)糖質がブドウ糖であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の中心静脈投与用輸液製剤;
(7)上記(1)〜(6)に記載の輸液製剤を、経口摂取不能期間又は絶食期間に、糖質に対する慣らし投与及び/又はステップアップ投与(順化期間)をせずに投与することを特徴とする中心静脈投与輸液方法;
である。
【0022】
さらに本発明は、別の態様として、
(8)糖質、電解質及び必須アミノ酸組成からなり、1日投与量として、総カロリーが1000〜1400Kcalの範囲内にあり、55〜65gのアミノ酸を含有し、総水分量が1400〜1800mLであり、非蛋白カロリーと投与窒素量の比率(Cal/N比)が90〜160の範囲内である中心静脈投与用輸液製剤からなることを特徴とする中心静脈栄養療法用投与ユニット;
(9)経口摂取不能期間又は絶食期間に、エネルギー要求量が低下状態にある患者に対する投与ユニットであって、糖質に対する慣らし投与及び/又はステップアップ投与(順化期間)をしないことを特徴とする(8)に記載の投与ユニット;
(10)経口摂取不能期間又は絶食期間が、消化器系又は循環器系の術後侵襲時であることを特徴とする(8)又は(9)に記載の投与ユニット;
(11)投与のために使用される輸液が、(1)〜(6)のいずれかに記載の輸液であることを特徴とする上記(8)〜(10)に記載の投与ユニット;
(12)1日投与量として、2バッグ形態にしたことを特徴する(8)〜(11)のいずれかに記載の投与ユニット;
である。
【0023】
また、さらに別の態様として、
(13)経口摂取不能期間又は絶食期間に中心静脈投与用輸液製剤を投与するにあたり、糖質、電解質及び必須アミノ酸組成からなり、1日投与量として、総カロリーが1000〜1400Kcalの範囲内にあり、55〜65gのアミノ酸を含有し、総水分量が1400〜1800mLであり、非蛋白カロリーと投与窒素量の比率(Cal/N比)が90〜160の範囲内である中心静脈投与用輸液剤を投与することからなる、糖質に対する慣らし投与及び/又はステップアップ投与(順化期間)をしないことを特徴とする中心静脈栄養管理システム;
(14)経口摂取不能期間又は絶食期間が、消化器系又は循環器系の術後侵襲時であることを特徴とする(13)に記載の中心静脈栄養管理システム;
(15)アミノ酸組成として必須アミノ酸を豊富に含む組成であることを特徴とする(13)又は(14)に記載の中心静脈栄養管理システム;
(16)アミノ酸組成としてアルギニンを強化したアミノ酸組成であることを特徴とする上記(13)〜(15)に記載の中心静脈栄養管理システム;
(17)さらに、ビタミン類を含有することを特徴とする(13)〜(16)のいずれかに記載の中心静脈栄養管理システム;
(18)さらに、微量元素類を含有することを特徴とする(13)〜(16)のいずれかに記載の中心静脈栄養管理システム;
(19)糖質がブドウ糖であることを特徴とする(13)〜(16)のいずれかに記載の中心静脈栄養管理システム;
である。
【発明の効果】
【0024】
以上のようにして構成される本発明は、具体的には以下の効果を有する。
(1)1剤で術後侵襲時の中心静脈栄養管理を行うので、これまでの煩雑な糖質への慣らし投与及び/又はステップアップ管理を行う開始輸液の投与を回避し、その利便性が向上し、また過誤投与による医療誤の発生を回避し得る。
(2)輸液製剤中の総カロリーを、術後侵襲時の栄養維持としての必要カロリーまで低減することにより、含有させる糖質量を低減することができ、したがって、ステップアップ時の糖負荷が少なくなり、肝障害の発生を軽減し得る。
(3)水分量を少なくしたことにより腎臓に対する負担を軽くすることができる。
すなわち、従来の中心静脈投与用輸液製剤は、その1日投与量としては、2000〜2400mL量であり、したがって、術後侵襲時における薬剤として抗生物質や抗癌剤を併用投与する場合には、総投与水分量としては優に2000mLを超える量となる。この大量の水分投与は、内臓機能が低下している術後侵襲時の患者にとっては、腎臓への負担がかなり大きなものであった。
本発明においては、この腎臓への負担を軽減するものである。
【0025】
(4)また、総カロリー量を術後侵襲時の栄養維持としての必要カロリーである1000Kcal/日程度までに低減させ、早期に経腸栄養剤投与、或いは食事(粥等)の摂取により、腸管の働きを活発化させ、それにより早期の社会復帰が可能となる。
(5)また、本発明の中心静脈投与用輸液は、カロリー源を糖質で補うため、脂肪乳剤と比較して、術後の侵襲時における患者として全ての患者を対象に適用し得るものである。
(6)含有させる糖質量を低減する一方、アミノ酸の1日必要量を含有させたことによる中心静脈投与用輸液であり、そのうえバリン、ロイシン及びイソロイシンの分岐鎖アミノ酸の含有量を多くしたことから、蛋白合成の亢進と蛋白分解の軽減をもって栄養状態の向上が可能となる。
(7)そのうえ、アミノ酸組成としてアルギニンの含有量を強化することにより、高カロリー輸液施行時の肝機能異常に対する軽減が図れる利点を有する。
(8)また、1日に必要ビタミンを全て補給することが可能となり、栄養管理の観点からみて、極めて理想的な組成を有する中心静脈投与用輸液が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明は、基本的な態様として上記した如く、糖質、電解質及びアミノ酸組成からなり、1日投与量として、総カロリーが1000〜1400kcal、より好ましくは1100〜1300Kcalの範囲内であり、45〜75g、より好ましくは55〜65gのアミノ酸を含有し、総水分量が1400〜1800mL、より好ましくは1500〜1700mLであり、非蛋白カロリーと投与窒素量の比率(Cal/N比)が90〜160、より好ましくは、90〜130の範囲内であり、特に、糖質への慣らし投与及び/又はステップアップ投与(順化期間)をしないことを特徴とする中心静脈投与用輸液製剤である。
【0027】
使用できる糖質としては通常の輸液に用いられる糖質で有れば特に制限はない。例えば還元糖として、ブドウ糖、フルクトース、マルトースが、非還元糖としてはトレハロース、キシリトール、ソルビトール、グリセリンが挙げられる。これらの各種糖質のうち、栄養効果の点からはブドウ糖を配合することが好ましい。
この糖質は本発明の中心静脈投与用輸液製剤における総カロリーの大部分を負担する栄養源である。従来のこの種の輸液製剤の中でも、そのカロリー源を脂肪に依存する製剤もあるが、脂肪の投与は必ずしも全ての患者に許容されるものではなく、例えば、高脂血症、肝障害、血栓症、糖尿病ケトーシス等の患者に対しては、脂肪の投与は禁忌とされている。
これに対して、本発明が提供する中心静脈投与用輸液製剤にあっては、総カロリーの大部分を負担する栄養源を糖質、好ましくはブドウ糖としたことにより、上記した、高脂血症、肝障害、血栓症、糖尿病ケトーシス等の患者等を含め、全ての患者に対して適用し得るものである。
そのうえで、これまでの煩雑な糖質への慣らし投与及び/又はステップアップ投与(順化期間)を行う開始輸液の投与を回避したものである。
【0028】
ブドウ糖の配合量として、1日水分量約1600mL当り200〜300gとするのがよく、アミノ酸配合量として約60gを配合することにより、総カロリー量として、1000〜1400Kcalの基礎代謝熱量相当の投与が可能となる。またこの総カロリー量では足りない高カロリー輸液患者には、アミノ酸配合量は同一で、ブドウ糖配合量として、1日水分量約1600mL当り約350g程度を配合することが望ましい。これにより1日総カロリー量として1500〜1700Kcalが投与可能であり、既存高カロリー輸液キット製剤の維持液と類似した組成となる。本発明は、以上のような総カロリー量の異なる2つの製剤により、高カロリー輸液の新しい栄養管理の概念を、提案するものである。
【0029】
また、含有される電解質としては、通常の電解質輸液等に用いられているものであれば特に制限されず、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン、塩素、亜鉛等が挙げられ、水溶液中でイオンを生じさせる無機塩、有機塩などが好ましい。特に1日量として、下記の電解質を配合していることが好ましい。
Na+ 50〜150mEq
K+ 30〜90mEq
Ca2+ 5〜10mEq
Mg2+ 5〜10mEq
Cl− 50〜150mEq
グリセロリン酸 0〜40mEq
酢酸 0〜40mEq
乳酸 0〜40mEq
クエン酸 0〜40mEq
リンゴ酸 0〜40mEq
コハク酸 0〜40mEq
【0030】
なお、この電解質成分は、本発明の中心静脈投与用輸液製剤が、糖質と電解質成分、及びアミノ酸とを分離して充填する2室容器からなるバッグにそれぞれを分別充填し、所望によりビタミンを充填した第3室を有する1バッグ形態の輸液製剤として提供されることが好ましいことより、糖質溶液中へ配合することが好ましいが、アミノ酸との反応が生じない電解質成分にあってはアミノ酸溶液中に配合することも可能である。
【0031】
また、本発明が提供する中心静脈投与用輸液製剤において含有されるアミノ酸は、L−イソロイシン、L−ロイシン、L−リジン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L−トレオニン、L−トリプトファン、L−バリン、L−アラニン、L−アルギニン、L−アスパラギン酸、L−グルタミン酸、L−ヒスチジン、L−プロリン、L−セリン、L−チロシン、グリシン及びL−システインであり、なかでもL−イソロイシン、L−ロイシン、L−リジン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L−トレオニン、L−トリプトファン、L−バリンの9種の必須アミノ酸を使用することは必須であり、また、E/N比が例えば1.7以上のような必須アミノ酸を豊富に含有するアミノ酸組成とすることもできる。
【0032】
その配合量は、具体的には、例えば1日必要トータルアミノ酸量として55〜65gのアミノ酸、より具体的には60g/日のアミノ酸量が好ましく、それぞれ下記の表1に記載の量を使用するのが好ましい。
【0033】
【表1】
【0034】
なお、本発明が提供する中心静脈投与用輸液にあっては、L−イソロイシン、L−ロイシン、L−バリンの分岐鎖アミノ酸(BCAA)の配合量を多くすることが肝要である。この分岐鎖アミノ酸の配合量を多くすることにより、肝機能への賦活を行い、免疫能を向上させ得るものであり、術後侵襲時への輸液として、極めて効果的なものであることが判明した。
【0035】
そのうえ、アミノ酸組成として、アルギニンの配合量を多くすることにより、高カロリー輸液施行時における肝機能異常の発現を軽減できることが判明した。この場合のアルギニンの配合量は、既存の総合アミノ酸組成物におけるアルギニンの配合量に対して、110〜200%程度の量で強化させるのがよい。
このアルギニンの配合量を強化させることにより、術後侵襲時に投与しても肝機能異常を惹起しにくいことから、これまでの慣らし投与及び/又はステップアップ投与(順化期間)を必要としない点で、極めて特異的なものである。
【0036】
なお、含有させる各アミノ酸は必ずしも遊離アミノ酸として用いられる必要はなく、医薬品又は飲食品で許容される塩の形態でもよく、例えば無機酸塩、有機酸塩、生体内で加水分解可能なエステル体、N−アシル誘導体などの形態で使用してもよい。また、同種あるいは異種のアミノ酸をペプチド結合させたペプチド類の形態で使用してもよい。
【0037】
本願発明の中心静脈投与用輸液では、上記した糖質およびアミノ酸が基本的に総カロリーの基となる。この場合において、輸液製剤中の非蛋白カロリーと投与窒素量の比率(Cal/N比)が90〜160の範囲内であることがよいことが判明した。
総カロリーにおけるCal/N比にあっては、従来の中心静脈栄養療法で使用する高カロリー輸液では、糖質が多く含有されていることから160以上の値を示すものである。しかしながら本発明においては、糖質の含有量を必要総カロリーに対応する程度までに低減させ、その上で1日必要量のアミノ酸を配合することで、Cal/N比が160以下の値を示すことになったとしても、輸液製剤自体の栄養効果は変わらないものであった。
【0038】
また、本発明が提供する中心静脈投与用輸液では、総水分量が1400〜1800mL、より好ましくは1500〜1700mLの範囲内にあることが好ましいものである。
従来の中心静脈投与用輸液製剤にあっては、その1日投与量としては、2000〜2400mL量であり、必然的に総水分量が多いものである。したがって、術後侵襲時における薬剤として抗生物質や抗癌剤を併用投与する場合には、総投与水分量としては優に2000mLを超える量となる。この水分量は、術後侵襲時の内臓機能が低下している患者にとっては、腎臓への負担がかなり大きなものとなる。
本発明にあっては、この腎臓への負担を軽減し、術後侵襲からの回復をより一層加速さることが可能となる。
【0039】
以上の基本的な本発明の中心静脈投与用輸液製剤では、栄養管理の観点から、ビタミン類を更に配合させるのが好ましい。
そのようなビタミン類としては、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、ビタミンH、葉酸、パントテン酸類、ニコチン酸類等を挙げることができる。これらのビタミン類を用いることによって、栄養状態の維持・改善を早期に実現させることが可能である。
【0040】
そのビタミン類にあっては、特にアメリカ医学会ガイドライン(1975年)に基づくビタミンB1およびビタミンB6の増量を図ったAMA処方による以下の13種類のビタミン類を含有させるのがよい。特にビタミンB1は、糖代謝を円滑にするために必要なビタミンであり、特に、ビタミン高カロリー輸液施行時の乳酸アシドーシスやWernicke脳症の発現を防止できる。ビタミンB1の誘導体として、従来から輸液に用いられているプロスルチアミン、アクトチアミン、チアミンジスルフィド、フルスルチアミン及びそれらの塩等のチアミン誘導体も使用することができる。
【0041】
本発明の輸液製剤へは、13種のビタミンを適宜、1〜3室の複数室を装備した容器に適切な添加剤とともに添加することができる。その他のビタミンの生理作用や欠乏症状として、水溶性ビタミンに関しては、ビタミンB2は、糖、アミノ酸、脂質代謝に関わり、欠乏症状として、眼症状、口内炎、皮膚炎が知られている。また、ビタミンB6は、主にアミノ酸代謝やヘモグロビン合成に関わり、欠乏症状として、眼、口周囲の皮膚炎、舌炎、貧血、末梢神経炎が知られている。ビタミンB12は、DNAおよび蛋白合成、造血および神経機能に関わり、欠乏症状としては、悪性貧血、汎血球減少、末梢神経炎などが知られている。ニコチン酸は、末梢血管拡張、酸化還元反応に関わり、欠乏症状として、ペラグラ(皮膚炎、下痢、痴呆)や食欲不振などが知られている。パントテン酸は脂肪酸・ステロイド代謝や糖質酸化に関わり、欠乏症状として、頭痛、倦怠、運動障害、筋痙攣、胃腸障害および皮膚炎が知られている。
【0042】
また、ビオチンは、糖・脂肪酸・アミノ酸代謝に関わり、欠乏症状として、皮膚炎、脱毛、中枢神経系失調などが知られている。葉酸は、アミノ酸代謝や造血に関わり、欠乏症状としては、巨赤芽球性貧血が知られている。ビタミンCは、細胞間支持組織・膠原線維形成、アミノ酸・脂質・葉酸代謝および造血に関わり、欠乏症状としては、壊血病、貧血、創傷治癒遅延、骨発育不全、脱力・倦怠、食思不振、皮膚乾燥がしられている。
【0043】
一方、脂溶性ビタミンに関しては、ビタミンAは、眼球機能維持、上皮粘膜保護、成長・骨発育に関わり、欠乏症状としては、夜盲・眼球乾燥・角膜軟化、皮膚粘膜角化、成長・生殖機能障害などが知られている。ビタミンDは、抗くる病性因子、Ca・P吸収・利用調節、骨石灰化などが知られている。ビタミンEは、膜安定・抗酸化、細胞増殖、抗血栓・動脈硬化に関わり、欠乏症状としては、溶血性貧血、過酸化脂質生成などが知られている。ビタミンKは、プロトロンビン合成、血液凝固能、Ca透過性亢進などに関わり、欠乏症状として、出血が知られている。血液凝固阻止剤であるワーファリンの服用を必要とする場合には、ビタミンKがその作用と拮抗するため投与を控える必要がある。
【0044】
高カロリー輸液施行時には、ビタミン欠乏症や過剰症が容易に引き起こされる状態にあり、ビタミンB1に限らず、高カロリー輸液を必要な患者では、経口摂取が行われていても十分ではなく、ビタミンの摂取量は不足しているものと考え、少なくとも下記の量のビタミンを補給すべきである。米国医学会(AMA)基準では、ビタミンKを含んでいない。また既存高カロリー輸液用総合ビタミン剤には、13種全てを含有しており、ほとんどがAMA基準を元に開発されたものであり、既存総合ビタミン剤の各ビタミン含量を用いてもよい。
【0045】
米国医学界(AMA)のガイドライン(1975年)に基づく13種類のビタミン量を、下記表2に示す。なお、ビタミンB1及びビタミンB6については1985年に改訂されている。
【0046】
【表2】
出典:静脈経腸栄養ガイドライン、日本静脈・経腸栄養研究会編、へるす出版(東京)、1998年
【0047】
なお、本発明の中心静脈投与用輸液製剤には、微量元素も添加することができる。本発明における微量元素とは、微量ではあるが生体にとって必要不可欠とされる金属元素である。そのうち、特に、術後侵襲時において欠乏する亜鉛、銅及びセレンの無機塩及び有機塩を挙げることができる。該微量元素の補給は欠乏症の防止だけでなく蛋白合成の促進、栄養状態の維持・改善に大きく貢献することが期待される。各微量元素は、一日必要量を考慮して配合すればよい。
特に本発明にあっては微量元素として、例えば下記表3に記載の範囲内の微量元素を配合するのがよい。
【0048】
【表3】
【0049】
本発明の中心静脈投与用輸液製剤のpHは、5〜6に調整されていることが好ましい。pHを調整するには、輸液分野で通常用いられているpH調整剤を用いることができる。pH調整剤としては、塩酸等の無機酸、酢酸、クエン酸等の有機酸、二酸化炭素等の気体を使用できる。特に、有機酸の利用が好ましい。
【0050】
本発明の中心静脈投与用輸液製剤は、容器に充填されることが好ましく、必要に応じて各成分を連通可能な隔離手段で区画された複数の室に分離充填されるのが好ましい。
【0051】
糖として還元糖であるブドウ糖を配合した場合、アミノ酸とブドウ糖が経時的にメイラード反応を生じる場合があるため、アミノ酸と糖質(ブドウ糖)は隔離収容される方が好ましい。この問題を回避するため、例えば、第1室にアミノ酸を含有する溶液を充填し、第2室に電解質成分と糖質を含有する溶液を充填するのがよい。
またビタミン類を含有させる場合には、第3室を更に設け、そこにビタミン類を含有する溶液を充填するのがよい。
【0052】
各室に区画する方法としては、使用時に外部からの押圧で剥離可能なシール部で区画する方法が好ましい。この連通可能な隔離手段で区画された複数の室に分離収容された液は投与時に連通後混合して用いることができる。この場合、容器各室に収容される液の液性を考慮して上記のような手段で連通可能な隔離手段で区画された複数の室に各成分を分離収容し、投与時に配合するのがよい。また、微量元素などの一部の電解質やビタミン類も糖、アミノ酸および他の電解質と空間的に分離して収容してもよい。
【0053】
本発明における中心静脈投与用輸液製剤の容器の本体を構成する材料としては、可撓性、透明性に優れ、且低温保存後に落下しても破袋し難い軟質の樹脂材料が好ましい。特に、通常医療用容器に用いられているポリオレフィン類からなるものを好適に挙げることができる。ポリオレフィン類は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1−ブテン、ポリ4−メチル−1−ペンテン等の重合応体を挙げることができる。容器本体は、前記樹脂をブロー成形、インフレーションあるいはデフレーション成形したものいずれでも使用できる。また、2枚の樹脂シートの周縁部を溶着して形成したものでも良い。
【0054】
容器本体を複数の空間に区画するには、例えば使用時に外部からの押圧で剥離可能なシール部で区画し複数の空間を容器内に形成する方法(特開平2-4671号公報)や、破断により連通する薄肉部を有する連通部材を用いて作製することができる(特開2000-167022号公報、特開2001-87350号公報)。
また、ビタミン類等の薬液を容器内で分離・封入する場合は、複数の空間を持つ小袋を容器本体のいずれかの空間内部もしくは容器周縁部に設け、この小袋内に収容することができる。この際、小袋は充填する成分を吸着し難い材質を選択することが好ましく、ポリ弗化エチレン[テフロン(登録商標)等]、環状オレフィンコポリマーを好適に挙げることができる。
【0055】
本発明にあっては、上記の容器に1日投与量を全て充填することも可能であるが、充填した場合の容量が大きなものとなるため、1日投与量を2バッグに分けて充填するのがよい。
したがって、本発明はその態様として、1日投与量を2バッグに分けて充填したことを特徴とする中心静脈投与用輸液製剤でもある。
【0056】
本発明が提供する中心静脈投与用輸液製剤は、特に輸液製剤中の総カロリーを、術後侵襲時の栄養維持としての必要カロリーまで低減することにより、含有させる糖質量を低減しているものであり、したがって、ステップアップ時の糖負荷が少なくなり、肝障害の発生を軽減し得るものである。
【0057】
また近年、高齢者の増加に伴い、必要なカロリー量および水分量ともに低下する傾向にあること、さらに、手術患者の栄養状態はそれほど悪くなく、従来の2000〜2400Kcalものカロリーは必要なく、またIVHの施行期間は短縮されており、速やかに末梢静脈栄養、経腸栄養、および経口摂取に移行するとともに術後早期の退院も可能な状況になりつつある。
【0058】
今後の栄養療法の推移を考慮する中で、IVHの組成として、1日投与量が1000〜1400Kcalの範囲内で、アミノ酸量が45〜75gを含有し、水分量1400〜1600mLで、Cal/N比が90〜160の範囲内にあるIVHが、今後より主流となる組成である。さらにこの組成にすることにより、糖質に対する慣らし投与及び/又はステップアップ投与(順化期間)をする必要がなくなり、IVH投与時の副作用として、肝機能異常と高血糖の軽減が期待できる。アミノ酸組成の特徴として、アルギニンを強化することでIVH投与時の肝機能異常に対する軽減効果が併せて期待できる。
【実施例】
【0059】
以下にこれらの優れた効果を、実施例に代わる具体的な試験例を記載することによって説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0060】
下記表4に、各試験例で用いた本発明の被験液、及び対照液1〜5の市販高カロリー輸液キット製剤の組成を示した。
【0061】
【表4】
【0062】
試験例1:薬理効果試験1 栄養効果の確認
表4に示した本発明の被験液の栄養効果を確認するために、以下の動物実験を行った。なお、対照液として、表4の市販高カロリー輸液キット製剤を用いた。
一夜絶食したラット(9週齢雄性:一群6〜7匹、体重198.2〜212.4g)に、ペンバルビタール麻酔下にシリコン製カテーテルを右外頸静脈から右上大静脈起始部に留置し、無拘束下に輸液剤を以下のように7日間持続投与した。
被験液および対照液1は、7日間同一輸液で持続投与し、対照液1→対照液2として、従来の高カロリー輸液製剤の管理方法を考慮して、始めの3日間は対照液1を持続投与し、輸液を切り替え、その後4日間、対照液2を持続投与した。
流速は、2.5mL/hrとした。
【0063】
7日間の体重変化量を図1に示した。図から明らかなように、全ての輸液剤の投与で負であったが、その程度は、被験液の投与により、対照液1→対照液2と同程度で、対照液1に比べると小さい傾向であった。
また累積窒素出納を図2に示した。図中の結果からも判明するように、被験液の投与は、対照液1の投与に比較し、有意に高値を示しており、対照液1→対象液2に比べても高値傾向であった。
【0064】
この試験結果から、本発明の被験液は、高カロリー輸液開始時の開始液である対照液1に比べて優れた栄養効果を示し、従来の高カロリー輸液製剤の管理方法で、輸液を切り替え、維持液(2号液)である対照液2まで投与した場合に比べても、同等の栄養効果を示すことが明らかとなった。
【0065】
試験例2:薬理効果試験2 肝機能異常の軽減効果(その1)
高カロリー輸液施行時の肝機能異常に対する軽減効果を確認するために、以下の動物実験を行った。
輸液剤として表4に記載する被験液および対照液3を用いた。
摂餌量の85%を制限し、4日間飼育した低栄養モデルラット(6週齢雄性、一群5匹、体重192.2〜211.6g)に、ペントバルビタール麻酔下に、シリコン製カテーテルを右外頸静脈から右上大静脈起始部に留置し、無拘束下に被験液および対照液3を5日間持続投与した。
投与速度は、3mL/hrとし、特に維持液である対照液3は、糖の慣らしをせず(開始時、開始液を使用せず)に投与した。
輸液投与期間中は、毎日尾静脈から採血し、投与終了後、ペントバルビタール麻酔下に腹大静脈より放血致死させ、肝臓を摘出した。
【0066】
輸液投与期間中の血糖値、AST、ALTの推移を、それぞれ図3、図4及び図5に示した。その結果からも判明するように、被験液の投与により、血糖値、血中の肝障害指標であるASTおよびALTの変動はほとんどなかったが、対照液3の投与により、1日目に血糖値の上昇、その後、3日目にASTおよびALTの上昇がみられた。
この試験結果から、本発明の輸液である被験液は、維持液である対照液3に比べ、高カロリー輸液施行時の肝機能異常を惹起しにくい輸液剤であることが明らかとなった。
【0067】
試験例3:薬理効果試験3 肝機能異常の軽減効果(その2)
試験例2と同様に、高カロリー輸液施行時の肝機能異常に対する軽減効果について、表4に記載する対照液4および5を用いて、以下の動物実験を行った。
給餌量の85%を制限し飼育し作製した低栄養モデルラット(7週齢雄性、一群6〜7匹、体重210〜217.9g)に、同様にカテーテルを留置し、無拘束下に輸液剤を以下のように7日間持続投与した。
被験液および対照液5は、7日間同一輸液で持続投与し、また対照液4→対照液5として、従来の高カロリー輸液製剤の管理方法を考慮して、始めの2日間対照液4を持続投与し、輸液を切り替え、その後5日間、対照液5を持続投与した。
流速は、3mL/hrとした。
【0068】
輸液投与期間中のAST及びALTの推移を、それぞれ図6及び図7に示した。
その結果から判明するように、対照液5を投与した場合、3日目に肝障害指標であるASTおよびALTが上昇したが、被験液および対照液4→対照液5の投与により、このような変化がみられなかった。
この試験結果から、本発明の輸液である被験液は、維持液である対照液5に比べ、高カロリー輸液施行時の肝機能異常を惹起しにくい輸液剤であることが明らかとなった。また、対照液4→対照液5のように糖慣らし投与のよる順化期間の設定により、高カロリー輸液施行時の肝機能異常を軽減できることが明らかとなった。
【0069】
試験例4:薬理効果試験4 Cal/N比の検討
本発明の輸液製剤の至適Cal/N比を見出すために以下の動物実験を行った。
総カロリー量(620kcal/800mL)を一定にグルコースと窒素量(アミノ酸量)の割合を、下記表5のように含有した輸液を用いた。摂餌量の85%を制限し、4日間飼育した低栄養モデルラット(9週齢雄性、体重243.6〜314.5g)にペントバルビタール麻酔下に、開腹術を行った後、シリコン製カテーテルを右外頸静脈から右上大静脈起始部に留置し、無拘束下に各被験液を7日間持続投与した。流速は、3.0mL/hrとした。輸液投与期間中、毎日尿量測定および尿採取を行った。
【0070】
7日間の体重変化量を図8に示した。アミノ酸フリーでのみ体重低下がみられたが、アミノ酸投与(NPC/N300〜75)により正を維持し、アミノ酸フリーに対し有意であった。また累積窒素出納を図9に示した。アミノ酸フリーで負出納を示し、アミノ酸投与により正出納を維持し、NPC/N300から小さくなるにつれ正出納の度合い高くなり、NPC/N110よりほぼ横ばいであった。血液生化学検査の中で、各輸液投与後のBUN値を表6示した。NPC/N75では、BUN値が摂餌ラットと同様なレベルまで上昇していた。
これらの試験結果より、本発明の輸液製剤の組成において、Cal/N比は110が至適であることが明らかとなった。
【0071】
【表5】
【0072】
【表6】
【0073】
Mean±SD(n=4〜5)
*:P<0.05 vs. アミノ酸フリー(Tukey-Kramer)
#:P<0.05 vs. NPC/N 300(Tukey-Kramer)
&:P<0.05 vs. NPC/N 150(Tukey-Kramer)
$:P<0.05 vs. NPC/N 110(Tukey-Kramer)
自由摂餌:検定から除く
【0074】
試験例5:薬理効果試験5 アルギニン強化アミノ酸組成の肝機能異常の軽減効果
本発明の輸液製剤におけるアミノ酸組成として、アルギニンを強化したアミノ酸組成が高カロリー輸液施行時の肝機能異常に対する軽減効果を確認するために、以下の動物実験を行った。
輸液剤として、下記表7に記載する輸液組成を有する被験液および対照液を用いた。
なお、輸液組成としては、被験液および対照液共に、糖濃度17.5%、アミノ酸濃度3%及び電解質を含有する組成であり、そのうちアミノ酸組成として、被験液にあっては既存の総合アミノ酸組成物に対し20%のアルギニンを強化した組成とした(両者の総アミノ酸量は一定:30g/L)。
【0075】
【表7】
【0076】
摂餌量の85%を制限し、7日間飼育した低栄養モデルラット(9週齢雄性、1群7匹、体重200.2〜223.9g)にペントバルビタール麻酔下に、シリコン製カテーテルを右外頸静脈から右上大静脈起始部に留置し、無拘束下に各被験液を3日間持続投与した。流速は、1日当たり300mL/kg体重とした。輸液投与期間中は、毎日尾静脈から採血した。
【0077】
輸液投与期間中のAST値を図10に、ALT値を図11に示した。
この結果から判明するように、アルギニンの配合量を強化したアミノ酸組成を含有する被験液の投与により、血中肝障害指標であるASTおよびALTが対照液に比べ低値で推移していた。
この試験結果から、本発明の輸液であるアルギニンを強化したアミノ酸組成を含有する被験輸液は、既存アミノ酸組成を含有する対照液に比べ、高カロリー輸液施行時の肝機能異常を惹起しにくい輸液剤であることが明らかとなった。
【0078】
試験例6:薬理効果試験6−アルギニン強化アミノ酸組成の肝機能異常の軽減効果−アルギニンの用量検討
本発明の輸液製剤におけるアミノ酸組成として、さらにアルギニンを強化したアミノ酸組成が高カロリー輸液施行時の肝機能異常に対する軽減効果を確認した。
輸液剤として、下記表8に記載する2被験液および対照液を用いた。
糖濃度17.5%、アミノ酸濃度3%および電解質を含有し、アミノ酸組成中、対照液に対し、アルギニン含量を4.52g/L及び5.43g/Lとそれぞれ強化した被験液1及び2を調製した(総アミノ酸量は一定:30g/L)。
摂餌量の85%を制限し、7日間飼育した低栄養モデルラット(9週齢雄性、1群7匹、体重195.2〜218.2g)にペントバルビタール麻酔下に、シリコン製カテーテルを右外頸静脈から右上大静脈起始部に留置し、無拘束下に各被験液を3日間持続投与した。流速は、1日当たり300mL/kg体重とした。輸液投与期間中は、毎日尾静脈から採血した。
【0079】
輸液投与期間中のASTの推移を図12に示した。
この結果から、アルギニンを強化した被験液1及び2において血中肝障害指標(AST)が対照液に比べ低値で推移し、その効果が強かった。
この試験結果から、アルギニンを強化したアミノ酸組成とすることで、肝機能異常を惹起しにくい輸液となることが明らかとなった。
【0080】
表8:輸液組成
【0081】
【表8】
【産業上の利用可能性】
【0082】
以上記載のように、本発明により、糖質、電解質成分及びアミノ酸を含有すると共に、糖質への慣らし投与及び/又はステップアップ投与(順化期間)を必要としない、中心静脈栄養管理を行うことができる中心静脈投与用輸液製剤が提供される。
すなわち、本発明が提供する中心静脈投与用輸液製剤は、1剤で術後侵襲時の中心静脈栄養管理を行うので、これまでの煩雑な糖質への慣らし投与及び/又はステップアップ管理を行う開始輸液の投与を回避し、その利便性が向上し、また過誤投与による医療誤の発生を回避し得るものである。
また、総カロリー量を術後侵襲時の栄養維持としての必要カロリー程度までに低減させ、早期に経腸栄養剤投与、或いは食事(粥等)の摂取により、腸管の働きを活発化させ、それにより早期の社会復帰が可能となり、その産業上の利用性は多大なものである。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】試験例1の結果を示す図であり、体重変化を示した図である。
【図2】試験例1の結果を示す図であり、累積窒素出納を示した図である。 (但し、図中の凡例は、図1と同様である)
【図3】試験例2の結果を示す図であり、血糖値の推移を示した図である。
【図4】試験例2の結果を示す図であり、AST値の推移を示した図である。 (但し、図中の凡例は、図3と同様である)
【図5】試験例2の結果を示す図であり、ALT値の推移を示した図である。 (但し、図中の凡例は、図3と同様である)
【図6】試験例3の結果を示す図であり、AST値の推移を示した図である。
【図7】試験例3の結果を示す図であり、ALT値の推移を示した図である。 (但し、図中の凡例は、図6と同様である)
【図8】試験例4の結果を示す図であり、体重変化量を示した図である。
【図9】試験例4の結果を示す図であり、累積窒素出納を示した図である。
【図10】試験例5の結果を示す図であり、AST値の推移を示した図である。
【図11】試験例5の結果を示す図であり、ALT値の推移を示した図である。
【図12】試験例6の結果を示す図であり、輸液投与期間中のASTの推移を示した図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖質、電解質及びアミノ酸組成からなり、1日投与量として、総カロリーが1000〜1400kcalの範囲内であり、45〜75gのアミノ酸を含有し、総水分量が1400〜1800mLであり、非蛋白カロリーと投与窒素量の比率(Cal/N比)が90〜160の範囲内であることを特徴とする中心静脈投与用輸液製剤。
【請求項2】
アミノ酸組成として必須アミノ酸を豊富に含む組成からなることを特徴とする請求項1に記載の中心静脈投与用輸液製剤。
【請求項3】
アミノ酸組成としてアルギニンを強化したアミノ酸組成であることを特徴とする請求項1又は2に記載の中心静脈投与用輸液製剤。
【請求項4】
さらに、ビタミン類を含有することを特徴とする請求項1、2又は3に記載の中心静脈投与用輸液製剤。
【請求項5】
さらに、微量元素類を含有することを特徴とする請求項1、2又は3に記載の中心静脈投与用輸液製剤。
【請求項6】
糖質がブドウ糖であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の中心静脈投与用輸液製剤。
【請求項7】
請求項1〜6に記載の輸液製剤を、経口摂取不能期間又は絶食期間に、糖質に対する慣らし投与及び/又はステップアップ投与(順化期間)をせずに投与することを特徴とする中心静脈投与輸液方法。
【請求項8】
糖質、電解質及び必須アミノ酸組成からなり、1日投与量として、総カロリーが1000〜1400Kcalの範囲内にあり、55〜65gのアミノ酸を含有し、総水分量が1400〜1800mLであり、非蛋白カロリーと投与窒素量の比率(Cal/N比)が90〜160の範囲内である中心静脈投与用輸液製剤からなることを特徴とする中心静脈栄養療法用投与ユニット。
【請求項9】
経口摂取不能期間又は絶食期間に、エネルギー要求量が低下状態にある患者に対する投与ユニットであって、糖質に対する慣らし投与及び/又はステップアップ投与(順化期間)をしないことを特徴とする請求項8に記載の投与ユニット。
【請求項10】
経口摂取不能期間又は絶食期間が、消化器系又は循環器系の術後侵襲時であることを特徴とする請求項8又は9に記載の投与ユニット。
【請求項11】
投与のために使用される輸液が、請求項1〜6のいずれかに記載の輸液であることを特徴とする請求項8〜10のいずれかに記載の投与ユニット。
【請求項12】
1日投与量として、2バッグ形態にしたことを特徴する請求項8〜11のいずれかに記載の投与ユニット。
【請求項13】
経口摂取不能期間又は絶食期間に中心静脈投与用輸液製剤を投与するにあたり、糖質、電解質及び必須アミノ酸組成からなり、1日投与量として、総カロリーが1000〜1400Kcalの範囲内にあり、55〜65gのアミノ酸を含有し、総水分量が1400〜1800mLであり、非蛋白カロリーと投与窒素量の比率(Cal/N比)が90〜160の範囲内である中心静脈投与用輸液剤を投与することからなる、糖質に対する慣らし投与及び/又はステップアップ投与(順化期間)をしないことを特徴とする中心静脈栄養管理システム。
【請求項14】
経口摂取不能期間又は絶食期間が、消化器系又は循環器系の術後侵襲時であることを特徴とする請求項13に記載の中心静脈栄養管理システム。
【請求項15】
アミノ酸組成として必須アミノ酸を豊富に含む組成であることを特徴とする請求項13又は14に記載の中心静脈栄養管理システム。
【請求項16】
アミノ酸組成としてアルギニンを強化したアミノ酸組成であることを特徴とする請求項13〜15のいずれかに記載の中心静脈栄養管理システム。
【請求項17】
さらに、ビタミン類を含有することを特徴とする請求項13〜16のいずれかに記載の中心静脈栄養管理システム。
【請求項18】
さらに、微量元素類を含有することを特徴とする請求項13〜16に記載の中心静脈栄養管理システム。
【請求項19】
糖質がブドウ糖であることを特徴とする請求項13〜16のいずれかに記載の中心静脈栄養管理システム。
【請求項1】
糖質、電解質及びアミノ酸組成からなり、1日投与量として、総カロリーが1000〜1400kcalの範囲内であり、45〜75gのアミノ酸を含有し、総水分量が1400〜1800mLであり、非蛋白カロリーと投与窒素量の比率(Cal/N比)が90〜160の範囲内であることを特徴とする中心静脈投与用輸液製剤。
【請求項2】
アミノ酸組成として必須アミノ酸を豊富に含む組成からなることを特徴とする請求項1に記載の中心静脈投与用輸液製剤。
【請求項3】
アミノ酸組成としてアルギニンを強化したアミノ酸組成であることを特徴とする請求項1又は2に記載の中心静脈投与用輸液製剤。
【請求項4】
さらに、ビタミン類を含有することを特徴とする請求項1、2又は3に記載の中心静脈投与用輸液製剤。
【請求項5】
さらに、微量元素類を含有することを特徴とする請求項1、2又は3に記載の中心静脈投与用輸液製剤。
【請求項6】
糖質がブドウ糖であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の中心静脈投与用輸液製剤。
【請求項7】
請求項1〜6に記載の輸液製剤を、経口摂取不能期間又は絶食期間に、糖質に対する慣らし投与及び/又はステップアップ投与(順化期間)をせずに投与することを特徴とする中心静脈投与輸液方法。
【請求項8】
糖質、電解質及び必須アミノ酸組成からなり、1日投与量として、総カロリーが1000〜1400Kcalの範囲内にあり、55〜65gのアミノ酸を含有し、総水分量が1400〜1800mLであり、非蛋白カロリーと投与窒素量の比率(Cal/N比)が90〜160の範囲内である中心静脈投与用輸液製剤からなることを特徴とする中心静脈栄養療法用投与ユニット。
【請求項9】
経口摂取不能期間又は絶食期間に、エネルギー要求量が低下状態にある患者に対する投与ユニットであって、糖質に対する慣らし投与及び/又はステップアップ投与(順化期間)をしないことを特徴とする請求項8に記載の投与ユニット。
【請求項10】
経口摂取不能期間又は絶食期間が、消化器系又は循環器系の術後侵襲時であることを特徴とする請求項8又は9に記載の投与ユニット。
【請求項11】
投与のために使用される輸液が、請求項1〜6のいずれかに記載の輸液であることを特徴とする請求項8〜10のいずれかに記載の投与ユニット。
【請求項12】
1日投与量として、2バッグ形態にしたことを特徴する請求項8〜11のいずれかに記載の投与ユニット。
【請求項13】
経口摂取不能期間又は絶食期間に中心静脈投与用輸液製剤を投与するにあたり、糖質、電解質及び必須アミノ酸組成からなり、1日投与量として、総カロリーが1000〜1400Kcalの範囲内にあり、55〜65gのアミノ酸を含有し、総水分量が1400〜1800mLであり、非蛋白カロリーと投与窒素量の比率(Cal/N比)が90〜160の範囲内である中心静脈投与用輸液剤を投与することからなる、糖質に対する慣らし投与及び/又はステップアップ投与(順化期間)をしないことを特徴とする中心静脈栄養管理システム。
【請求項14】
経口摂取不能期間又は絶食期間が、消化器系又は循環器系の術後侵襲時であることを特徴とする請求項13に記載の中心静脈栄養管理システム。
【請求項15】
アミノ酸組成として必須アミノ酸を豊富に含む組成であることを特徴とする請求項13又は14に記載の中心静脈栄養管理システム。
【請求項16】
アミノ酸組成としてアルギニンを強化したアミノ酸組成であることを特徴とする請求項13〜15のいずれかに記載の中心静脈栄養管理システム。
【請求項17】
さらに、ビタミン類を含有することを特徴とする請求項13〜16のいずれかに記載の中心静脈栄養管理システム。
【請求項18】
さらに、微量元素類を含有することを特徴とする請求項13〜16に記載の中心静脈栄養管理システム。
【請求項19】
糖質がブドウ糖であることを特徴とする請求項13〜16のいずれかに記載の中心静脈栄養管理システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−266288(P2008−266288A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−291250(P2007−291250)
【出願日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】
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