中空状多孔質シェル層に包含される光触媒及びその作製方法
【課題】バインダーの劣化を防止しつつ、光触媒機能の低下を抑制できる信頼性の高い光触媒及びその作製方法を提供すること。
【解決手段】光触媒粒子を含むコア部の表面の少なくとも一部に直接炭素含有層を形成し、前記炭素含有層が形成されたコア部を懸濁させた溶媒に細孔形成剤を混合して、前記炭素含有層を細孔形成剤で被覆するとともに、当該溶媒中に細孔形成剤を分散させ、続いて前記溶媒中に多孔質シェル層の前駆物質を混合して、前記の炭素含有層表面を被覆する細孔形成剤の層上に、前記溶媒中に分散された細孔形成剤を含んでなる多孔質シェル層となる層を形成し、前記コア部と前記多孔質シェル層となる層との間にある前記炭素含有層及び前記細孔形成剤並びに前記多孔質シェル層となる層の壁内に含まれる細孔形成剤を除去する。
【解決手段】光触媒粒子を含むコア部の表面の少なくとも一部に直接炭素含有層を形成し、前記炭素含有層が形成されたコア部を懸濁させた溶媒に細孔形成剤を混合して、前記炭素含有層を細孔形成剤で被覆するとともに、当該溶媒中に細孔形成剤を分散させ、続いて前記溶媒中に多孔質シェル層の前駆物質を混合して、前記の炭素含有層表面を被覆する細孔形成剤の層上に、前記溶媒中に分散された細孔形成剤を含んでなる多孔質シェル層となる層を形成し、前記コア部と前記多孔質シェル層となる層との間にある前記炭素含有層及び前記細孔形成剤並びに前記多孔質シェル層となる層の壁内に含まれる細孔形成剤を除去する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば空気中の有害物質、臭い若しくは汚れ等の除去に有用な光触媒、及びその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒は、そのバンドギャップ以上のエネルギーを持つ光が照射されると励起し、強い触媒活性を発現する。そのため、特に有機物やNOx等の一部無機物の酸化・分解が可能である。また、光触媒は、エネルギー源として、低コストで環境負荷の非常に小さい光を利用できることから、近年環境浄化や脱臭、防汚、殺菌等へ応用されている。さらに、光触媒が励起するとその表面が親水性になり水との接触角が低下することが見出され、この作用を利用して防曇、防汚等への応用も進められている。このような光触媒は、通常、基体表面上に担持させて用いられる。
【0003】
しかし、光触媒を基体表面に担持させる際、通常例えばバインダー等が用いられるが、当該バインダーは、光触媒に光が照射されると、分解され褐変してしまう。そのため、特許文献1においては、多孔体の骨格が形成される前に、多孔体の前駆物質である液体、ゾル、またはゲル状の合成媒体に、例えば酸化チタンなどの光触媒粒子を混合分散させ、その後多孔体の骨格を形成させることにより、多孔体と光触媒粒子とが複合化した複合体を作製することが提案されている(特許文献1)。すなわち、多孔体の前駆物質と光触媒粒子とを含む溶液を用い、上記前駆物質を多孔体に変化させることにより、多孔体と光触媒粒子との複合体を作製する。このようにして作製された複合体では、多孔体により光触媒粒子が被覆され、光触媒粒子とバインダーとが直接接触しないため、バインダーの劣化の防止が期待される。
【特許文献1】特開2005−314208号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記方法により作製された複合体(特許文献1)では、光触媒粒子を被覆したものが多孔性のものであるため、光触媒の活性サイトは全ては減殺されていないものの、光触媒の表面が直接被覆されているため、光触媒の活性サイトが著しく減少し、その光触媒機能が低下してしまうという問題があった。
【0005】
したがって、本発明は、叙上に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、バインダーの劣化を防止しつつ、光触媒機能の低下を抑制できる信頼性の高い光触媒及びその作製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意研究を行った結果、光触媒粒子を含むコア部表面上に炭素含有層を形成し当該炭素含有層上に多孔質シェル層を形成した後炭素含有層を除去して、コア部と多孔質シェル層との間に中空層を介在させることにより、光触媒の活性サイトが殆ど減少せず、光触媒能が低下しないことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
従って、本発明は、光触媒粒子を含むコア部と前記コア部から離間して当該コア部を覆う多孔質シェル層とを含む光触媒を作製する方法であって、1.前記コア部の表面の少なくとも一部に直接炭素含有層を形成する第一工程と、2.前記炭素含有層が形成されたコア部を懸濁させた溶媒に細孔形成剤を混合して、前記炭素含有層を細孔形成剤で被覆するとともに、当該溶媒中に細孔形成剤を分散させる第二工程と、3.前記溶媒中に多孔質シェル層の前駆物質を混合して、前記の炭素含有層表面を被覆する細孔形成剤の層上に、前記溶媒中に分散された細孔形成剤を含んでなる多孔質シェル層となる層を形成する第三工程と、4.前記コア部と前記多孔質シェル層となる層との間にある前記炭素含有層及び前記細孔形成剤並びに前記多孔質シェル層となる層の壁内に含まれる細孔形成剤を除去する第四工程と、を含むことを特徴とする光触媒の作製方法にある。
【0008】
また、本発明は、光触媒粒子を含むコア部と、前記コア部から離間して前記コア部を覆う多孔質シェル層と、を含み、前記コア部と前記多孔質シェル層との間には中空層が設けられてなる光触媒であって、窒素吸着法によって測定される、0.4〜50nmの範囲の細孔径の、単位重量当たりの細孔容積が0.1cm3/g以上である光触媒にある。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、コア部と多孔質シェル層との間にある炭素含有層を除去するため、コア部と多孔質シェル層との間に中空層が設けられることとなる。それにより、当該方法により作製される光触媒では、コア部と多孔質シェル層との間に中空層が介在するため、光触媒粒子の活性サイトが殆ど減少せず、光触媒機能が低下しない。
【0010】
したがって、本発明によれば、バインダーの劣化を防止しつつ、光触媒機能の低下を抑制できる信頼性の高い光触媒及びその作製方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る実施の形態の光触媒に関して説明する。しかしながら、以下に示す実施の形態は例示するものであって、これらに限定するものではない。また、本明細書において、同一部材については全図面を通して同一の参照番号により示している。また、本出願において、光触媒とは、光触媒粒子を含むコア部と多孔質シェル層とからなる一又は複数の複合体を、光触媒粒子とは、コア部に含まれるものであって、実際に汚染物質等の反応物質に光触媒作用を及ぼすものを意味する。
【0012】
(実施の形態1)
【0013】
以下に、本発明に係る光触媒の作製方法及び光触媒に関して、各構成要素毎に具体的に説明する。
【0014】
〈光触媒の作製方法〉
最初に、図3a〜図3eを参照しながら、本発明の好ましい実施の形態に係る光触媒の作製方法について説明する。本発明の好ましい実施形態に係る光触媒の作製方法は、1.コア部に含まれる光触媒粒子を準備する工程(光触媒粒子の準備工程)と、2.コア部の表面の少なくとも一部に直接炭素含有層を形成する工程(炭素含有層の形成工程)と、3.炭素含有層が形成されたコア部を懸濁させた溶媒に細孔形成剤を混合して、前記炭素含有層を細孔形成剤で被覆するとともに、当該溶媒中に細孔形成剤を分散させる工程(細孔形成剤の混合工程)と、4.溶媒中に多孔質シェル層の前駆物質を混合して、前記の炭素含有層表面を被覆する細孔形成剤の層上に、前記溶媒中に分散された細孔形成剤を含んでなる多孔質シェル層となる層を形成する工程(多孔質シェル層の形成工程)と、5.コア部と多孔質シェル層となる層との間にある前記炭素含有層及び前記細孔形成剤並びに前記多孔質シェル層となる層の壁内に含まれる細孔形成剤を除去する工程(炭素含有層及び細孔形成剤の除去工程)と、を含み、必要に応じて、6.光触媒を水素雰囲気下で熱処理し還元処理する工程(活性化処理工程)を含んでいてもよい。
【0015】
1)光触媒粒子の準備
まず、コア部1に含まれることとなる光触媒粒子を準備する(図3a)。当該光触媒粒子は、バルク状の光触媒粒子をナノスケールまで超微細化して作製してもよいし、析出沈殿法等により作製してもよい。光触媒粒子の大きさは、特に限定されるものではないが、好ましくは1nm〜20μm、より好ましくは1nm〜1000nm、さらに好ましくは1nm〜500nm、さらに好ましくは1nm〜250nm、さらに好ましくは1nm〜100nmである。上記のように微細な光触媒粒子であれば、より高い光触媒機能が得られるため好ましい。
【0016】
また、光触媒粒子をコア部の一部に含ませてもよいし、光触媒粒子自体をコア部とする、即ちコア部全体が光触媒粒子からなるようにしてもよい。
【0017】
2)炭素含有層の形成
続いて、図3bに示すように、コア部1を構成することとなる光触媒粒子を、炭素含有層の前駆物質を含む水溶液に懸濁させ、これを上記溶液中で水熱処理し、コア部1の表面の一部、好ましくはその全部を炭素含有層2'で被覆する。当該水熱処理は、150〜200℃で行うことが好ましく、更に好ましくは、160〜180℃である。このような範囲の温度で水熱処理を行うことにより、均一な炭素含有層が得られる。
また、好ましい水熱処理時間は、0.5〜6時間、より好ましくは1〜4時間である。ここで、炭素含有層形成に好適な前駆物質として、例えばグルコース、スクロース、フェノール、ピロール、及びフルフリルアルコールが挙げられる。
【0018】
3)細孔形成剤の混合工程
続いて、上述のようにして形成された炭素含有層被覆光触媒粒子と細孔形成剤とを溶媒に混合し懸濁させて、懸濁溶液を調製する。これにより、図3cに示すように、炭素含有層2’の表面が細孔形成剤で被覆され炭素含有層2’上に細孔形成剤の層3が形成されるとともに、当該溶媒中に細孔形成剤からなるミセル6を生成される。ここで、細孔形成剤は、細孔を形成するための鋳型となるだけでなく、多孔質シェル層の前駆物質を炭素含有層2’へ引きつける機能を有することが必要である。このような細孔形成剤として、例えば、界面活性剤、特にカチオン性の界面活性剤が好適に用いられる。ここで、上記界面活性剤としては、
【数1】
(n=7〜21、R1〜R4は、メチル基又は直鎖のアルキル基)で表される第四級アンモニウム塩が挙げられる。具体的には、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、オクチルトリメチルアンモニウムブロミド、デシルトリメチルアンモニウムブロミド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、テトラデシルトリメチルアンモニウムブロミド、オクタデシルトリメチルアンモニウムブロミド、セチルトリメチルアンモニウムクロリド、オクチルトリメチルアンモニウムクロリド、デシルトリメチルアンモニウムクロリド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド、テトラデシルトリメチルアンモニウムクロリド、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロリドが挙げられる。好ましくは、セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)である。これらの界面活性剤は、カチオン性であるため、炭素含有層を被覆して当該炭素含有層の上に界面活性剤の層が形成される際、この層の最外表面は正の電荷を帯びていると考えられる。そのため、多孔質シェル層の前駆物質は上記の界面活性剤の層に引きつけられやすい。
【0019】
また、炭素含有層被覆光触媒粒子と細孔形成剤とが混合される溶媒としては、水が用いられる。
【0020】
4)多孔質シェル層の形成工程
続いて、炭素含有層2'により被覆された光触媒粒子を含む上記懸濁溶液に、多孔質シェル層の前駆物質、例えばテトラエトキシシラン(TEOS)を混合する。これにより、図3dに示すように、多孔質シェル層4が、細孔形成剤の層3を起点として成長し、細孔形成剤の層3の上に形成される。ここで、多孔質シェル層4の前駆物質として、例えばTEOSを用いる場合、多孔質シェル層4は、TEOSを加水分解・脱水縮合させることにより形成される。具体的には、下記式Iに従って、TEOS(Si(OC2H5)4)を加水分解し、Si(OH)4を生成する(式I)。このSi(OH)4は、上記細孔形成剤の層3に引きつけられて細孔形成剤の層3を被覆する一方、このSi(OH)4は式IIに従ってその水酸基同士が脱水縮合反応することにより結合する。これにより、架橋構造が成長しシリカ層が形成される。
【0021】
以下に、TEOSの加水分解反応及び脱水縮合反応の一例を示す。
I.加水分解反応
Si(OC2H5)4+4H2O→Si(OH)4+4C2H5OH
II.脱水縮合反応
Si(OH)4+Si(OH)4→(OH)3Si−O−Si(OH)3+H2O
【0022】
このように、脱水縮合反応により結合してシリカの架橋構造が形成されるに際し、多孔質シェル層となる層は、界面活性剤からなるミセル6を取り込みながら成長する。そのため、多孔質シェル層となる層内には、ミセル6が分散することとなり、このミセル6を消失させれば、これが細孔7となる。したがって、界面活性剤の疎水基の鎖長を調整することにより、最終製品に係る光触媒の多孔質シェル層4の細孔径を調整することができる。また、細孔形成剤の濃度を調整することにより多孔質シェル層4の気孔率を調整することもできる。
【0023】
多孔質シェル層の前駆物質としては、TEOSの他、テトラメトキシシラン(TMOS)、テトラブトキシシラン(TBOS)等を用いることができる。
【0024】
また、本発明に係る光触媒の作製方法において、細孔形成剤の混合工程及び多孔質シェル層の形成工程は、塩基性下で行われることが好ましい。これは、塩基性において上記脱水縮合反応が適度な速さで進み、その結果良好な多孔質シェル層が得られるからである。
また、別の形態では、2)炭素含有層の形成工程で作製された炭素含有層被覆光触媒粒子と細孔形成剤と多孔質シェル層の前駆物質とを同時に溶媒に混合して、3)細孔形成剤の混合工程と4)多孔質シェル層の形成工程を同時に行ってもよい。これらの工程を同時に行うことにより、光触媒の製造工程を簡略化することができるため好ましい。
【0025】
5)炭素含有層及び細孔形成剤の除去工程
続いて、図3eに示すように、多孔質シェル層4が形成された光触媒を加熱することにより、多孔質シェル層4とコア部1との間に形成された炭素含有層2'及び細孔形成剤の層3並びに多孔質シェル層4となる層の壁内に含まれる細孔形成剤を除去する。ここで、除去された部分が中空層2となる。ここで、光触媒を加熱する際の加熱温度としては、450℃〜900℃が好ましく、600℃〜700℃がさらに好ましい。
【0026】
6)活性化処理工程
その後、コア部1が金属を担持する光触媒粒子を含む場合は、金属化合物を担持した光触媒粒子を必要に応じて水素雰囲気下で熱処理を行うことで金属化合物を金属に還元することができる。
【0027】
〈光触媒〉
続いて、本発明に係る光触媒に関して詳細に説明する。本発明に係る光触媒は、上述の作製方法に限定されるものではなく、如何なる方法により作製することができる。
本発明の実施の形態に係る光触媒は、図1に示すように、光触媒粒子を含むコア部1と、コア部1を離間して覆う多孔質シェル層4と、を備え、コア部1と多孔質シェル層4との間に中空層2が介在する。さらに、コア部1と多孔質シェル層4と中空層2とから成る当該光触媒は、窒素吸着法によって測定される、0.4〜50nmの範囲の細孔径の細孔容積が0.1cm3/g以上であることを特徴とする。
【0028】
一般に2nm以下の細孔径を有するものをミクロ孔、2〜50nmの範囲の細孔径を有するものをメソ孔、50nm以上の細孔径を有するものをマクロ孔と称するが、本発明に係る光触媒は、ミクロ孔、メソ孔、マクロ孔全てを含んでいてもよい。本発明の光触媒において、特に、0.4〜50nmの範囲の細孔径を有する細孔(ミクロ孔およびメソ細孔)の細孔容積を0.1cm3/g以上、より好ましくは0.5cm3/g以上とする。細孔径、細孔容積を上記範囲とすることにより、汚染物質等の反応物の通過が阻害されない。
ここで、細孔容積の測定は、窒素吸着法によって行われる。窒素吸着法とは、多孔体を液体窒素温度に保ち、窒素分圧の関数として吸着量を測定することによって吸着等温線を得、吸着モデルに基づいて、その細孔構造を解析するものであり、約0.4nm〜100nmの範囲の細孔を測定することが可能である。
【0029】
また、本発明に係る光触媒において、窒素吸着法によって測定される、0.4〜50nmの範囲の細孔径の細孔容積が、全細孔容積に対して、好ましくは50%以上、より好ましくは80%以上であることを特徴とする。このような範囲とすることにより、ホルムアルデヒド等のサイズの小さい分子(1nm以下)のほか、内分泌かく乱物質(〜2nm)、及び人体に有害な各種石油系炭化水素(5〜10nm程度)等の比較的分子サイズの大きい物質等の分解が可能になる。すなわち、前記のように0.4〜50nmの細孔径の容積率が高いと、その細孔を通過する汚染物質等の反応物と通過しないものとが選別され、通過したものだけが光触媒粒子によって分解される。このため、特定の大きさを持つ、汚染物質等の反応物だけを分解できるという分子ふるい作用を持たせることができる。
また、本発明に係る光触媒において、BET比表面積は、50m2/g以上が好ましく、100m2/g以上がより好ましく、より一層好ましくは150〜700m2/g、さらに好ましくは200〜600m2/gである。BET比表面積をこのような範囲とすることにより、上記同様汚染物質等の反応物の通過が阻害されず、分解が効率よくすすむ。
【0030】
当該光触媒において、多孔質シェル層4は多孔質組織となっているため、光触媒作用を受けるべき反応物質は、多孔質組織から多孔質シェル層4内に侵入し、コア部1に含まれる光触媒粒子に接触して光触媒作用を受ける。一方、光触媒を固定するための樹脂や高分子からなるバインダーは、そのサイズが大きく上記多孔質組織を通過し難いため、当該バインダーと光触媒粒子との接触が抑制され、バインダーの光触媒粒子による分解及びそれに伴う褐変が抑制される。
【0031】
このように、反応物質については多孔質シェル層を通過させるが、バインダーについては通過させないというように分子ふるい現象を発現させるためには、上述のように、例えば界面活性剤等の細孔形成剤を用いて多孔質シェル層の細孔径を適宜調整することが肝要である。細孔形成剤は、細孔を形成するための鋳型となるものであり、シェル層に取り込まれその後加熱処理によりシェル層から消失され、鋳型の役割を果たす。例えば、細孔形成剤として、界面活性剤を使用する場合、当該界面活性剤に含まれる疎水基の鎖長を大きくすれば、当該界面活性剤により形成されるミセル径は大きくなる。多孔質シェル層は、溶媒中に分散されている上記ミセルを取り込ながら成長するため、多孔質シェル層に含まれる細孔の径は、ミセルの径に略一致することとなる。したがって、界面活性剤に含まれる疎水基の鎖長を大きくすれば、多孔質シェル層の細孔径は大きくなり、当該鎖長を小さくすれば、多孔質シェル層の細孔径は小さくなる。よって、光触媒作用を受けるべき汚染物質のクラスターの大きさと、光触媒を固定するためのバインダーの分子の大きさとを考慮しながら、多孔質シェル層の細孔径を適切な範囲に調整すれば、バインダーの劣化を防止しつつ、光触媒機能を良好に発揮させることができる。
【0032】
また、細孔形成剤は、多孔質シェル層の細孔形成に寄与する以外にも、炭素含有層と多孔質シェル層の前駆物質との親和性を高める機能も有する。これは、細孔形成剤が、炭素含有層の表面上に層をなし、当該層の最外表面が当該前駆物質を引きつけやすい状態になっているためであると考えられる。ここで、多孔質シェル層の細孔形成に寄与する細孔形成剤と、炭素含有層と多孔質シェル層の前駆物質との親和性を高めるのに寄与するものとは、異なるものであってもよい。しかしながら、製造工程簡略化の観点からするとそれらは同一のものであることが好ましい。
【0033】
また、光触媒粒子の直径をナノオーダーまで近づけると、高い光触媒活性を示すようになるが、表面エネルギーが非常に大きくなり分散不安定となるため、次第に光触媒粒子が凝集してしまう。そうなると光触媒粒子の表面積が減少することとなり、光触媒活性が著しく低下してしまう。しかしながら、本発明では、光触媒粒子を含むより少ない数のコア部が多孔質シェル層により被覆されているため、凝集が防止され、光触媒活性の低下を抑制することができる。
【0034】
また、本発明では、光触媒粒子を含むコア部1を多孔質体で直接被覆するのではなく、コア部1と多孔質シェル層4との間に中空層2を介在させてコア部1を多孔質体で被覆するため、コア部1に含まれる光触媒粒子の活性サイトは減少しない。そのため、光触媒活性の低下を抑制することができる。
【0035】
また、光触媒の直径は、50nm〜25μmであることが好ましい。光触媒の回収のし易さ等のためである。
【0036】
〈光触媒粒子〉
光触媒粒子は、主にコア部1に含まれ、汚染物質等を光触媒作用により酸化分解する。この光触媒粒子は多孔質シェル層4に含まれていても良い。このような光触媒粒子として、光触媒作用を及ぼす物質であれば如何なるものであっても良いが、例示すれば、酸化チタン、チタン酸ストロンチウム、酸化亜鉛、酸化銅、酸化ビスマス、酸化タングステン、酸化鉄、酸化ニオブ、酸化タンタル、硫化カドミウム、硫化亜鉛、ビスマスバナジウム酸塩、アルカリ金属チタン酸塩、アルカリ金属ニオブ酸塩が挙げられ、これらのうち少なくとも1種を組み合わせてもよい。
【0037】
光触媒作用の観点から、酸化チタンを用いることが好ましい。ここで、光触媒粒子として酸化チタンを用いる場合、これは、アナターゼ型、ブルッカイト型、ルチル型等のうちいずれのタイプであってもよく、また、これらの混晶タイプのものであってもよい。しかし、微粒子が容易に得られることなどから、アナターゼ型を用いることがより好ましい。
【0038】
また、当該光触媒粒子に、白金、ロジウム、ルテニウム、パラジウム、金、銀、銅、ニッケル、鉄及びイリジウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属を担持することが好ましい。これらの金属を光触媒粒子に担持させることにより、励起光照射により発生する電子と正孔との再結合を抑制し、光触媒活性の低下を防止することができる。これは、上記金属を担持させると、当該金属の集電効果によりこれが電子を引き寄せることができるからである。
【0039】
また、光触媒粒子は、可視光の照射により励起される可視光応答型光触媒粒子であることが好ましい。通常酸化チタンを励起しうる紫外光は、自然光中に数%しか含まれていない。そのため、酸化チタンの光触媒作用は効果的であるとは言えない。しかし、光触媒粒子を当該可視光応答型とすることにより、自然光を有効に利用して汚染物質を効果的に分解することができる。ここで、可視光応答型光触媒粒子は公知のものを用いることができるが、例えば、酸化チタン等の紫外光利用型光触媒粒子に硫黄(S)、窒素(N)、炭素(C)等の異種元素をドープしたもの、紫外光利用型光触媒粒子に異種の金属イオンを固溶させたもの、ハロゲン化白金化合物やオキシ水酸化鉄等を光触媒粒子の表面に担持させたもの、あるいは酸化チタン粒子と酸化鉄、酸化タングステンなど可視光領域で光触媒活性が発現する化合物とを複合したもの、酸化チタンのチタンと酸素の組成を変えたものなどを好適に用いることができる。
【0040】
〈コア部〉
コア部1は、光触媒粒子を含んでなり、中空層2を介して多孔質シェル層4により被覆されている。ここで、コア部1は、多孔質シェル層4内に複数存在しても良い。しかしながら、複数コア部1が含まれる場合は、コア部1がナノオーダーの径を有する場合、凝集して光触媒活性が低下してしまう。そのため、多孔質シェル層4内に含まれるコア部1はできるだけ少ないことが好ましい。また、コア部1の形状は、製造上の観点から、略球形であることが好ましい。しかし、光触媒機能を良好に発揮しうる限り、如何なる形状であっても良い。コア部1が略球形である場合、その直径は1nm〜20μmでの範囲にあることが好ましく、1nm〜1μmの範囲にあることがより好ましく、1nm〜500nmの範囲にあることがより好ましく、1nm〜250nmの範囲がより好ましく、1nm〜100nmの範囲にあることがさらに好ましい。コア部1の直径を上記の範囲に設定すれば、高い光触媒活性が得られる。
【0041】
また、光触媒粒子はコア部1の少なくとも一部に含まれていればよいが、製造上の観点からコア部全体が、光触媒粒子から構成されていることが好ましい。このようにコア部全体が光触媒粒子から構成されていると、光触媒粒子の表面がより多く露出されることになり、光触媒の活性サイトを有効に利用することができる。
【0042】
また、コア部1は中空状であっても良い。さらに、コア部1は、少なくとも一部に多孔質組織を有し、その多孔質組織の微細孔に微小な光触媒粒子が分散された形態であっても良い。コア部1が、多孔質組織を含んでいると、光が照射されていない間に汚染物質等をこの多孔質組織に吸着し、その後光が照射される時に、多孔質組織に吸着された汚染物質を分解することができる。
【0043】
〈多孔質シェル層〉
多孔質シェル層4は、光触媒粒子を含むコア部1を中空層を介して覆っており、例えば、光触媒を固定するためのバインダーと光触媒粒子を含むコア部との接触を抑制するためのものである。また、このように多孔質シェル層4で覆うことにより、光触媒粒子の凝集を防止することもできる。
【0044】
多孔質シェル層4は、図1に示すような中空状であって、多孔質シェル層4の少なくとも一部に多孔質組織を含む。多孔質シェル層4の形状は球状に限定されず、如何なる形状であっても良い。しかし、製造の観点からすると、当該形状はコア部1の形状と同様の形状であることが好ましい。
【0045】
また、多孔質シェル層4の直径は、50nm〜5μmであることが好ましい。光触媒の回収のし易さ等のためである。
【0046】
さらに、多孔質シェル層4の気孔率及び微細孔の径は、多孔質シェル層4外から汚染物質、臭い、汚水、微生物等を通過させ、かつ、コア部1が流出しないような大きさであれば如何なる大きさであってもよい。多孔質シェル層4の気孔率としては、10vol%〜90vol%であることが好ましく、20vol%〜80vol%であることがより好ましく、30vol%〜70vol%であることがさらに好ましい。また、多孔質シェル層4の多孔質構造の微細孔径としては、0.1nm〜100nmであることが好ましく、0.4〜50nmであることがより好ましく、1nm〜10nmであることがさらに好ましい。
【0047】
また、特に好ましい多孔質シェル層4は、0.4〜50nmの範囲の細孔径を有する細孔(ミクロ孔及びメソ細孔)の細孔容積が0.1cm3/g以上であり、より好ましくは0.5cm3/g以上である。また、窒素吸着法によって測定される、0.4〜50nmの範囲の細孔径の細孔容積が、全細孔容積に対して、50%以上が好ましく、より好ましくは80%以上である。多孔質シェル層4のメソ細孔の細孔容積を上記範囲とすることにより、汚染物質等の反応物の通過が阻害されない。
【0048】
多孔質シェル層4の厚さは、上記同様、多孔質シェル層4外から汚染物質、臭い、汚水、微生物等を通過させ、また、紫外光をコア部1まで到達させ、しかも多孔質シェル層4自体が耐久性を有する限り如何なる大きさであっても良い。上記条件を考慮すると、多孔質シェル層4の厚さは、10nm〜1μmの範囲にあることが好ましい。
【0049】
多孔質シェル層4は、多孔性(酸化物)組織を形成可能であれば、如何なる原料を使用しても良い。多孔質組織を良好に形成することができるものとして、金属アルコキシド、金属アセチルアセテート、金属硝酸塩、若しくは金属塩酸塩が挙げられる。
好ましい金属アルコキシドの具体例としては、シリコンアルコキシド、ジルコニウムアルコキシド、アルミニウムアルコキシド、マグネシウムアルコキシド、ランタンアルコキシド、セリウムアルコキシドが挙げられる。また、好ましい金属アセチルアセテートの具体例としては、ジルコニウムアセチルアセテート、マグネシウムアセチルアセテート、及びセリウムアセチルアセテートが挙げられる。さらに、好ましい金属硝酸塩の具体例としては、硝酸ランタン、及び硝酸セリウムが挙げられ、好ましい金属塩酸塩の具体例としては、塩化ジルコニウム、塩化マグネシウム、及び塩化セリウムが挙げられる。
【0050】
したがって、本発明に係る多孔質シェル層4は、例えば酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化ランタン及び酸化セリウムからなる群から選択される少なくとも一種を含む。また、多孔質シェル層4は、上記酸化物のうち異なる2以上の酸化物により形成されていてもよい。
【0051】
(実施の形態2)
〈光触媒の作製方法〉
本発明の実施の形態2に係る光触媒の作製方法では、細孔形成剤として水溶性ポリマーを用いる。
細孔形成剤として水溶性ポリマーを用いた場合、実施の形態1における3の工程(細孔形成剤の混合工程)において、水溶性ポリマーで炭素含有層2’の表面が被覆され炭素含有層2’上に水溶性ポリマーの層3が形成されるとともに、当該溶媒中に水溶性ポリマーが分散される。ここで、水溶性ポリマーを例示すれば、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン、ポリエチレンオキシド、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリアルキルアミン等が挙げられる。また、水溶性ポリマーとしてトリブロックコポリマーを使用することもできる。当該トリブロックコポリマーとしては、具体的には、エチレンオキシド-プロピレンオキシド-エチレンオキシド等が挙げられる。これらのポリマーは、炭素含有層と多孔質シェル層前駆物質との親和性を高めることができるだけでなく、多孔質シェル層の細孔形成にも寄与しているものと考えられる。
【0052】
また、実施の形態1における4の工程(多孔質シェル層の形成工程)では、上記の懸濁液に、多孔質シェル層の前駆物質、例えばTEOSを混合することにより、多孔質シェル層4が、炭素含有層の表面を被覆する水溶性ポリマーの層3を起点として、上記懸濁液に分散された水溶性ポリマーを取り込みながら成長する。そのため、当該水溶性ポリマー分子の大きさに応じた細孔を多孔質シェル層4に設けることができる。
他の工程に関しては、実施の形態1に係る光触媒の作製方法と同様である。
【0053】
(実施の形態3)
〈光触媒の作製方法〉
本発明の実施の形態3に係る光触媒の作製方法では、細孔形成剤として有機官能基を1つ以上含む金属アルコキシドを用いる。
本発明の実施の形態3に係る光触媒の作製方法は、1.コア部に含まれる光触媒粒子を準備する工程(光触媒粒子の準備工程)と、2.コア部の表面の少なくとも一部に直接炭素含有層を形成する工程(炭素含有層の形成工程)と、3.炭素含有層が形成されたコア部を懸濁させた溶媒に表面処理剤を混合して、前記炭素含有層の表面を表面処理剤で被覆する工程(表面処理工程)と、4.溶媒中に細孔形成剤及び多孔質シェル層の前駆物質を混合して、前記表面処理剤の層上に、細孔形成剤を含んでなる多孔質シェル層となる層を形成する工程(多孔質シェル層の形成工程)と、5.コア部と多孔質シェル層となる層との間にある前記炭素含有層及び前記表面処理剤の層並びに前記多孔質シェル層となる層の壁内に含まれる細孔形成剤を除去する工程(炭素含有層、表面処理剤及び細孔形成剤の除去工程)と、を含み、必要に応じて、6.光触媒を水素雰囲気下で熱処理し還元処理する工程(活性化処理工程)をさらに含んでいてもよい。ここで、1、2、5、6の工程については、実施の形態1における工程と同様であるため省略する。
3.表面処理工程
本実施の形態3に係る光触媒の作製方法では、2の工程、すなわち炭素含有層の形成工程において炭素含有層が形成されたコア部の表面を、塩基性官能基をもつ表面処理剤、例えばアミノ基一つ以上含む金属アルコキシド、好ましくはシリコンアルコキシドで処理し、炭素含有層表面にこれを吸着させる。これにより、次の4の工程において、炭素含有層の表面に例えばオクタデシル基(C18H37−)を含む均一なシリカ層を形成させることができる。
ここで、塩基性官能基を一つ以上含むシリコンアルコキシドとしては、アミノエチルアミノプロピルトリメキシシラン(AEAP)、アミノエチルアミノプロピルメチルジメキシシラン、アミノエチルアミノウンデシルトリメキシシラン、アミノフェニルトリメトキシシラン、アミノプロピルジメチルエトキシシラン、アミノプロピルメチルジエトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、が挙げられる。これらを炭素含有層の表面に吸着させると、アミノ基の触媒作用によって式Vの脱水縮合反応を炭素含有層の表面で効果的に進行させることができる。アミノ基の効果としてはほかに、これがカチオン性であるため、炭素含有層の最外表面は正の電荷を帯びており、多孔質シェル層の前駆物質は上記のアミノ基を表面にもつ炭素含有層に引きつけられやすくなることが考えられる。
表面処理工程及びその後の多孔質シェル層の形成工程で使用される溶媒としては、エタノール等のアルコールやアセトニトリル等の有機溶媒や水溶媒等が挙げられる。
4.多孔質シェル層の形成工程
続いて4.多孔質シェル層の形成工程において、多孔質シェル層の前駆物質と細孔形成剤とを含む溶液中に炭素含有層被覆光触媒粒子を懸濁させて、これらを加水分解および脱水縮合させる。ここで、本実施の形態に係る細孔形成剤として、有機官能基を含む金属アルコキシド若しくは有機官能基を含む金属クロライドを用いる。これらは、当該有機官能基が後の工程で除去されるため細孔形成に寄与する一方、多孔質シェル層を構成するアルコキシド等を含むため多孔質シェル層の前駆物質としての役割をも果たす。
以下、多孔質シェル層の前駆物質として、TEOSを、細孔形成剤として、ODTSを使用した場合について説明する。
まず、下記式IIIに従って、ODTSを加水分解しオクタデシル基を備えるSi(OH)3(C18H37)を生成する。また、上記反応と前後して、下記式IVに従って、TEOSを加水分解しSi(OH)4を生成する。これらは、式Vに従ってその水酸基同士が脱水縮合反応することにより結合する。これにより、架橋構造が成長しシリカ層が形成される。
【0054】
ここで、シリコンアルコキシドに含まれるアルキル基は、分子内に2つ以上あっても良く、直鎖状であってもまたは分岐状であっても良い。またアルキル基の末端や中間に官能基等を含むものでも良い。直鎖または分岐状のアルキル基の代表例として、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、イソオクチル基、オクタデシル基等が挙げられ、含まれる官能基等の代表例として、フェニル基、ナフチル基、オクテニル基、ビニル基、アミノアルキル基、アミノフェニル基、アセトキシアルキル基、アクリロキシ基、アリル基、アリルアミノ基、アミノエチルアミノプロピル基、ブロモアルキル基、クロロアルキル基、シアノアルキル基、シクロヘキシル基、メタクリルオキシプロピル基フルオロアルキル基、フルオロフェニル基、メルカプトプロピル基、アミノ基、アセトキシ基、ブロモ基、クロロ基、シアノ基、シクロヘキシル基、メタクリルオキシプロピル基、フルオロ基、メルカプト基等が挙げられる。また、メトキシ基についても少なくとも一つが、エトキシ基、ブトキシ基などで一部置換されていてもよい。
【0055】
アルキル基等の官能基を含むシリコンアルコキシドを用いた場合、官能基が残ったまま加水分解反応及び脱水縮合反応が進行する。以下にTEOS及びODTS(オクタデシルトリメトキシシラン、Si(OCH3)3(C18H37))の加水分解反応及び脱水縮合反応の一例を示す。
III.ODTSの加水分解反応
Si(OCH3)3(C18H37)+3H2O→Si(OH)3(C18H37)+3CH3OH
IV.TEOSの加水分解反応
Si(OC2H5)4+4H2O→Si(OH)4+4C2H5OH
V.脱水縮合反応
Si(OH)3(C18H37)+Si(OH)4→(C18H37)(OH)2Si−O−Si(OH)3+H2O
(C18H37)(OH)2Si−O−Si(OH)3+Si(OH)3(C18H37)→(C18H37)(OH)2Si−O−Si(OH)2−O−Si(OH)2(C18H37)
【0056】
前記反応によりオクタデシル基(C18H37−)を含むシリカ層が形成され、シリカ層に含まれる、細孔形成剤の一部であるオクタデシル基の部分が加熱により分解除去され、この部分が細孔となる。本実施の形態3に係る方法では、実施の形態1又は2に係る方法と同様、ミクロ孔及びメソ孔を多く含む多孔質シェル層を形成することができる。
他の工程に関しては、実施の形態1に係る光触媒の作製方法と同様である。また、細孔形成剤の有機官能基の種類を変化させることにより、最終製品に係る光触媒の多孔質シェル層の細孔径を調整することができ、また、細孔形成剤の濃度を調整することにより多孔質シェル層の気孔率を調整することもできる。
【0057】
(使用の形態1)
続いて、本発明に係る光触媒の使用態様に関して詳細に説明する。
本発明の光触媒は、バインダーとともに、溶媒に分散して塗料組成物とすることができる。バインダーとしては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、アルキド樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、水ガラス、コロイダルシリカ、オルガノポリシロキサン、セメント、セッコウなどの汎用のバインダーを用いることができる。前記の溶媒としては、水やトルエン、アルコールなどの有機溶媒を用いることができる。塗料組成物中の光触媒の量は適宜設定することができるが、光触媒とバインダーとの合量に対する容積基準として、セメントまたはセッコウを用いる場合には、光触媒の含有量は5〜40%が好ましく、5〜25%がより好ましい。また、セメント、セッコウ以外のバインダーを用いる場合には、光触媒の含有量は好ましくは5〜98%、より好ましくは20〜98%、さらに好ましくは50〜98%である。塗料組成物には、架橋剤、分散剤、充填剤などを配合させても良い。架橋剤としては、イソシアネート系、メラミン系などの通常の架橋剤を、分散剤としては、カップリング剤などを使用することができる。
前記の塗料組成物を基体に塗布あるいは吹き付けて、光触媒を含有する塗膜を形成する。例えば、含浸法、ディップコーティング法、スピナーコーティング法、ブレードコーティング法、ローラーコーティング法、ワイヤーバーコーティング法、リバースロールコーティング法などの通常の方法で塗布したり、あるいは、スプレーコーティング法などの通常の方法で吹き付け、乾燥あるいは焼成して、塗膜を形成する。基体としては、セラミックス、ガラスなどの無機材質の物品、プラスチック、ゴム、木、紙などの有機材質の物品、アルミニウムなどの金属、鋼などの合金などの金属材質の物品を用いることができ、基体の大きさや形には特に制限されない。
(使用の形態2)
また、本発明の光触媒は、紙、繊維、プラスチック等に含有させることができる。紙に含有させるには、光触媒を抄紙液に分散させて抄紙したり、抄紙した紙に光触媒を分散した液や前記の塗料組成物を塗布あるいは吹付けることもできる。繊維に含有させるには、繊維を製造する際に光触媒を原料液に含有させて重合して繊維を製造したり、製造した繊維に光触媒を分散した液や前記の塗料組成物を塗布あるいは吹付けることもできる。また、プラスチックに含有するには、プラスチック成形の際に含有させたり、成形したプラスチックの表面に、光触媒を分散した液や前記の塗料組成物を塗布あるいは吹付けることもできる。
(使用方法)
本発明の光触媒あるいは光触媒を含有した塗膜、紙、繊維、プラスチック等は、その回りに存在する被処理対象物、例えば有害物質、悪臭物質、油分、菌類などを吸着することができる。
また、本発明の光触媒あるいは光触媒を含有した塗膜、紙、繊維、プラスチック等に、その光触媒粒子のバンドギャップ以上のエネルギーを持つ波長の光を照射させることにより、その回りに存在する被処理対象物、例えば有害物質、悪臭物質、油分などを分解して浄化したり、殺菌したりすることができる。照射する光としては、紫外線を含有した光などが挙げられ、例えば、太陽光や蛍光灯、ブラックライト、ハロゲンランプ、キセノンフラッシュランプ、水銀灯などの光を用いることができる。また、可視光応答型光触媒粒子の場合は、可視光を含む光を用いることができる。光の照射量や照射時間などは処理する物質の量などによって適宜設定できる。
【実施例1】
【0058】
続いて、本発明に係る光触媒の作製方法により光触媒を作製し、これについて評価実験を行った。
1.光触媒の作製
まず、石原産業株式会社製の光触媒用酸化チタン(TiO2:ST-41)を0.5Mグルコース水溶液に懸濁させ、これを180℃で6時間水熱処理して、炭素被覆TiO2(以下、c/TiO2と称する。ここで、c/とは、炭素の層で被覆していることを意味している。)とした。その後、この炭素被覆TiO2 1gとをセチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB) 0.5gとを水溶液に懸濁させ、TiO2上に形成された炭素の層の表面をCTABで被覆した(CTAB/c/TiO2)。その後、上記懸濁液にテトラエトキシシラン(TEOS)8mlを注入することにより、炭素の層の表面を被覆したCTABを基点としてTEOSの加水分解・縮合物であるシリカを析出させた(Si/c/TiO2と称する。ここで、Si/c/とは、炭素の層で被覆した後、その炭素の層をシリカの層で被覆していることを意味している。)後、空気中において600℃で3時間熱処理して炭素の層とCTABを除去し、中空状ポーラスシリカ被覆TiO2(p−Si//TiO2と称する。ここで、p−Siはポーラス状(多孔質)のシリカを意味し、また、//はp−SiとTiO2との間に中空層が介在することを意味する。)を得た。このようにして得られた光触媒(p−Si//TiO2)のSEM写真を図4に示す。図4から分かるように、多孔質シェル層の内側に光触媒粒子が見られた。多孔質シェル層と光触媒粒子との間には中空層が介在するのが分かる。また、多孔質シェル層の壁内には、微小なポーラス構造が見られこれがミクロ細孔、メソ細孔を構成するものと考えられる。
また、このようにして得られたp−Si//TiO2について吸着特性を調べた。吸着特性を調べるために、窒素吸着測定を用いた。図5aに、窒素吸着等温線を示す。等温線は期待通りメソ細孔をもつ粉体に特徴的なIV型を示した。IV型とは、吸着平衡圧を順次増加(吸着)して得られる吸着量と、平衡圧を順次減少(脱着)させて得られる吸着量とが異なる場合(ヒステリシスをもつという)の等温線であり、メソ細孔の存在を示す。実際、等温線からメソ細孔のサイズ分布を算出する一般的な解析法であるBJH法に基づいて、細孔サイズ分布をプロットすると、図5bに示すように、p−Si//TiO2は3nmを中心とする発達した細孔をもつことがわかる。
【0059】
2.比較試験
続いて、上述のようにして得られた光触媒を用いて、性能比較試験を行った。比較例としては、ポーラスシリカ層で被覆されていない、裸のままの光触媒(ST−41)と、ポーラスシリカ層で直接被覆された光触媒(p−Si/TiO2と称する。)と、を用いた。ポーラスシリカ層で直接被覆された光触媒(p−Si/TiO2)は以下のようにして作製した。
【0060】
まず、石原産業株式会社製の光触媒用酸化チタン(TiO2:ST-41)をセチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)水溶液に懸濁させた(CTAB/TiO2)。その後、上記懸濁液にテトラエトキシシラン(TEOS)を注入することにより、CTABのミセルを基点としてTEOSの加水分解・縮合物であるシリカを析出させた(Si/TiO2と称する。ここで、Si/とは、シリカの層で被覆されていることを意味している。)後、600℃で3時間熱処理をして、ポーラスシリカ被覆TiO2(p−Si/TiO2と称する。ここで、p−Siはポーラス状(多孔質)のシリカを意味し、また、p−Si/TiO2とはポーラス状のシリカにより直接被覆されたTiO2を意味する。)を得た。
【0061】
(1)XRF分析
まず、本発明に係るp−Si//TiO2と従来例に係るp−Si/TiO2とをXRF分析した。p−Si//TiO2またはp−Si/TiO2をペレット状に成形し、蛍光X線測定装置(リガク社製、RIX−3000)により化学組成分析を行い、試料に含まれるSiO2の質量%を測定した。
【0062】
表1に示すように、従来例に係るp−Si/TiO2では、サンプル中に占めるSiO2の質量%は49.3wt%であったのに対し、本発明に係るp−Si//TiO2では、72.3wt%であった。
【0063】
【表1】
【0064】
(2)比表面積測定
続いて、本発明に係るp−Si//TiO2と従来例に係るp−Si/TiO2と被覆されていない光触媒(ST−41)の比表面積測定を行った。p−Si//TiO2またはp−Si/TiO2を150℃で30分間脱気後、フローソーブ2300(島津製作所)を用いて、窒素吸脱着を行い、比表面積を測定した。
【0065】
表2に示すように、被覆のないST−41では、比表面積は10.2m2/gであり、p−Si/TiO2では、比表面積は413.2m2/gであったのに対し、本発明に係るp−Si//TiO2では、比表面積は543.6m2/gであった。
【0066】
【表2】
【0067】
(3)光触媒活性評価
続いて、上記の光触媒を用いて、大気中で光触媒活性の評価を行った。光触媒活性の評価は、光触媒により有機性ガスが分解され、当該有機性ガス濃度がどれだけ減少したかにより評価した。すなわち、有機性ガス濃度をより多く減少させた光触媒が、光触媒活性が高いと評価した。当該評価は、以下の条件で行った。
反応条件
反応ガス:アセトアルデヒド
初期濃度:150ppm
評価系:閉鎖循環式
反応器体積:2.8L
循環速度:3L/min
光源・照度:ブラックライト0.5mW/cm2
照射面積:28.3cm2
触媒量:0.1g
暗吸着:30min
光照射:60min
【0068】
図6に、本発明に係るp−Si//TiO2とST−41を用いた場合の、分解されずに残ったアセトアルデヒド濃度と時間との関係を示している。横軸を時間とし、縦軸をアセトアルデヒド濃度の対数としている。図6から分かるように、本発明に係るp−Si//TiO2では、何も被覆していない光触媒(ST−41)を用いた場合と同様の曲線となり、ポーラスシリカ層が被覆されていても光触媒活性に影響を与えないことが分かった。また、反応速度定数を算出すると、本発明に係るp−Si//TiO2では、反応速度定数は2.09(/hour)であるのに対し、被覆のないST−41では、1.96(/hour)であり、略同程度の反応速度を有することが分かった。
【0069】
したがって、ポーラスシリカ層で光触媒粒子を被覆する際中空層を介すれば、光触媒活性が低下しないことが分かった。
【0070】
また、図7に、従来例に係るp−Si/TiO2とST−41を用いた場合のアセトアルデヒド濃度と時間との関係を示している。図7から分かるように、従来例に係るp−Si/TiO2では、何も被覆していない光触媒(ST−41)より、光触媒活性が劣ることが分かる。
【0071】
また、上記測定結果から反応速度定数を算出すると、従来例に係るp−Si/TiO2では、反応速度定数は0.95(/hour)であるのに対し、被覆のないST−41では、2.13(/hour)であり、従来例に係るp−Si/TiO2を用いた場合の反応速度は、被覆のない光触媒(ST−41)を用いた場合の反応速度の半分程度であることが分かった。
【0072】
したがって、直接ポーラスシリカ層で光触媒粒子を被覆すれば、光触媒の活性が著しく低下することが分かった。
【0073】
(4)塗膜耐光性評価
続いて、上記3種類の光触媒が塗膜に混合されたものを用いて耐光性評価を行った。図8は、本発明に係るp−Si//TiO2と被覆のないST−41が塗膜に混合されたものを用いた場合の、塗膜の色差と時間との関係を示しており、図9は、従来例に係るp−Si/TiO2と被覆のないST−41が塗膜に混合されたものを用いた場合の、塗膜の色差と時間との関係を示している。塗膜耐光性評価は、光源としてブラックライトを用い、3mW/cm2の照度を用いた。30、60、90、120、180分照射した際の色差を測定した。図8及び9から分かるように、被覆のないST−41が塗膜に混合されたものを用いた場合、塗膜が直接光触媒粒子に接触するため、光照射時間とともに色差が増加する。それに対して、図8から分かるように、本発明に係るp−Si//TiO2が塗膜に混合されたものを用いた場合、光照射時間が長くなっても色差の増加は見られなかった。また、図9から分かるように、従来例に係るp−Si/TiO2が塗膜に混合されたものを用いた場合も、光照射時間が長くなっても色差の増加は殆ど見られなかった。したがって、被覆のないST−41では、被覆がないため、光触媒粒子が塗膜に直接接触するため、当該光触媒粒子によって塗膜が分解されたのに対し、ポーラスシリカ層で直接若しくは中空層を介して被覆されたp−Si/TiO2若しくはp−Si//TiO2では、ポーラスシリカ層が光触媒粒子と塗膜との接触を防止するため、当該光触媒粒子によって塗膜が分解されなかったと考えられる。中空層の存否によっては、耐光性評価は影響を受けないことが分かる。
【0074】
(5)塗膜光触媒活性評価
上記の光触媒を用いて、塗膜中で光触媒活性の評価を行った。当該評価は、以下の条件で行った。
反応条件
反応ガス:アセトアルデヒド
初期濃度:50ppm
評価系:閉鎖循環式
反応器体積:2.8L
循環速度:3L/min
光源・照度:ブラックライト1mW/cm2
照射面積:5×7cm2
暗吸着:30min
光照射:60min
【0075】
図10に、本発明に係るp−Si//TiO2とST−41を用いた場合のアセトアルデヒド濃度と時間との関係を示している。図10から分かるように、本発明に係るp−Si//TiO2では、何も被覆していない光触媒(ST−41)を用いた場合よりアセトアルデヒド濃度が減少した。また、反応速度定数を算出すると、本発明に係るp−Si//TiO2では、反応速度定数は3.18(/hour)であるのに対し、被覆のないST−41では、2.45(/hour)であり、1.3倍程度の反応速度を有することが分かった。
【0076】
また、図11に、従来例に係るp−Si/TiO2とST−41を用いた場合のアセトアルデヒド濃度と時間との関係を示している。図11から分かるように、従来例に係るp−Si/TiO2では、何も被覆していない光触媒(ST−41)より、光触媒活性が劣ることが分かる。
【0077】
また、反応速度定数を算出すると、従来例に係るp−Si/TiO2では、反応速度定数は0.21(/hour)であるのに対し、被覆のないST−41では、2.54(/hour)であり、p−Si/TiO2を用いた場合の反応速度は、被覆のない光触媒(ST−41)を用いた場合の反応速度の10分の1程度であることが分かった。
【0078】
したがって、直接ポーラスシリカ層で光触媒粒子を被覆したものを塗膜に混合して使用した場合、光触媒の活性が著しく低下することが分かった。
【実施例2】
【0079】
TEOS及びODTSを用いた光触媒の作製
まず、石原産業株式会社製の光触媒用酸化チタン(TiO2:ST-41)を0.5Mグルコース水溶液に懸濁させ、これを180℃で6時間水熱処理して、炭素被覆TiO2(以下、c/TiO2)を調製した。その後、このc/TiO2をメタノール10mlの溶媒に分散させ、さらにこの溶液にアミノエチルアミノプロピルトリエトキシシラン(AEAP)を0.1ml加え2時間攪拌し、AEAP/c/TiO2を得た。2時間後、当該溶液に対して遠心分離を行い、AEAP/c/TiO2を回収した。その後、回収したAEAP/c/TiO2を20mlの混合溶液(アセトニトリル:エタノール=1:3)に分散させ、さらに、TEOS:ODTS(1:1、1:3、3:1)を1.0ml、アンモニア0.5mlをさらに加え36時間振とうした。加水分解・脱水縮合反応後、遠心分離を行った。回収したサンプルをエタノールで洗浄し遠心分離をして回収した。この作業を3回行い、その後乾燥させた。乾燥したサンプルを600℃で2時間焼成し、ODTSのオクタデシル基を除去し、これにより中空状ポーラスシリカ被覆TiO2(p−Si//TiO2)を得た。窒素吸着測定から見積もられる得られたp−Si//TiO2のBET比表面積は、406.0m2/gであった。また、窒素吸着等温線からミクロ細孔のサイズ分布を算出する解析法であるSF法に基づいて、細孔サイズ分布をプロットすると、p−Si//TiO2は0.8nmを中心とする発達したミクロ細孔をもつことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明に係る光触媒は、特に、バインダーの劣化を起こさず長期間分解機能を維持する必要がある、家屋の壁面等に塗布する防汚剤として非常に有用である。また、塗料、塗膜、紙、繊維、プラスチックに混合して使用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明に係る光触媒の概略断面図を示している。
【図2】多孔質シェル層の一部を取り除いて描写した、本発明に係る光触媒の概略斜視図である。
【図3a】本発明に係る光触媒の作製方法を示す工程図である。
【図3b】本発明に係る光触媒の作製方法を示す工程図である。
【図3c】本発明に係る光触媒の作製方法を示す工程図である。
【図3d】本発明に係る光触媒の作製方法を示す工程図である。
【図3e】本発明に係る光触媒の作製方法を示す工程図である。
【図4】本発明に係る光触媒(p−Si//TiO2)のSEM写真である。
【図5a】本発明に係る光触媒(p−Si//TiO2)についての窒素吸着等温線を示したグラフである。
【図5b】本発明に係る光触媒(p−Si//TiO2)についての細孔サイズ分布を示したグラフである。
【図6】本発明に係るp−Si//TiO2とST−41を用いた場合における、アセトアルデヒド濃度と時間との関係を示しているグラフである。
【図7】従来例に係るp−Si/TiO2とST−41を用いた場合における、アセトアルデヒド濃度と時間との関係を示しているグラフである。
【図8】本発明に係るp−Si//TiO2と被覆のないST−41が塗膜に混合されたものを用いた場合における、塗膜の色差と時間との関係を示しているグラフである。
【図9】従来例に係るp−Si/TiO2と被覆のないST−41が塗膜に混合されたものを用いた場合における、塗膜の色差と時間との関係を示しているグラフである。
【図10】本発明に係るp−Si//TiO2とST−41を用いた場合における、アセトアルデヒド濃度と時間との関係を示しているグラフである。
【図11】従来例に係るp−Si/TiO2とST−41を用いた場合における、アセトアルデヒド濃度と時間との関係を示しているグラフである。
【符号の説明】
【0082】
1 コア部
2 中空層
2' 炭素含有層
3 細孔形成剤からなる層
4 多孔質シェル層
6 ミセル
7 細孔
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば空気中の有害物質、臭い若しくは汚れ等の除去に有用な光触媒、及びその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒は、そのバンドギャップ以上のエネルギーを持つ光が照射されると励起し、強い触媒活性を発現する。そのため、特に有機物やNOx等の一部無機物の酸化・分解が可能である。また、光触媒は、エネルギー源として、低コストで環境負荷の非常に小さい光を利用できることから、近年環境浄化や脱臭、防汚、殺菌等へ応用されている。さらに、光触媒が励起するとその表面が親水性になり水との接触角が低下することが見出され、この作用を利用して防曇、防汚等への応用も進められている。このような光触媒は、通常、基体表面上に担持させて用いられる。
【0003】
しかし、光触媒を基体表面に担持させる際、通常例えばバインダー等が用いられるが、当該バインダーは、光触媒に光が照射されると、分解され褐変してしまう。そのため、特許文献1においては、多孔体の骨格が形成される前に、多孔体の前駆物質である液体、ゾル、またはゲル状の合成媒体に、例えば酸化チタンなどの光触媒粒子を混合分散させ、その後多孔体の骨格を形成させることにより、多孔体と光触媒粒子とが複合化した複合体を作製することが提案されている(特許文献1)。すなわち、多孔体の前駆物質と光触媒粒子とを含む溶液を用い、上記前駆物質を多孔体に変化させることにより、多孔体と光触媒粒子との複合体を作製する。このようにして作製された複合体では、多孔体により光触媒粒子が被覆され、光触媒粒子とバインダーとが直接接触しないため、バインダーの劣化の防止が期待される。
【特許文献1】特開2005−314208号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記方法により作製された複合体(特許文献1)では、光触媒粒子を被覆したものが多孔性のものであるため、光触媒の活性サイトは全ては減殺されていないものの、光触媒の表面が直接被覆されているため、光触媒の活性サイトが著しく減少し、その光触媒機能が低下してしまうという問題があった。
【0005】
したがって、本発明は、叙上に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、バインダーの劣化を防止しつつ、光触媒機能の低下を抑制できる信頼性の高い光触媒及びその作製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意研究を行った結果、光触媒粒子を含むコア部表面上に炭素含有層を形成し当該炭素含有層上に多孔質シェル層を形成した後炭素含有層を除去して、コア部と多孔質シェル層との間に中空層を介在させることにより、光触媒の活性サイトが殆ど減少せず、光触媒能が低下しないことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
従って、本発明は、光触媒粒子を含むコア部と前記コア部から離間して当該コア部を覆う多孔質シェル層とを含む光触媒を作製する方法であって、1.前記コア部の表面の少なくとも一部に直接炭素含有層を形成する第一工程と、2.前記炭素含有層が形成されたコア部を懸濁させた溶媒に細孔形成剤を混合して、前記炭素含有層を細孔形成剤で被覆するとともに、当該溶媒中に細孔形成剤を分散させる第二工程と、3.前記溶媒中に多孔質シェル層の前駆物質を混合して、前記の炭素含有層表面を被覆する細孔形成剤の層上に、前記溶媒中に分散された細孔形成剤を含んでなる多孔質シェル層となる層を形成する第三工程と、4.前記コア部と前記多孔質シェル層となる層との間にある前記炭素含有層及び前記細孔形成剤並びに前記多孔質シェル層となる層の壁内に含まれる細孔形成剤を除去する第四工程と、を含むことを特徴とする光触媒の作製方法にある。
【0008】
また、本発明は、光触媒粒子を含むコア部と、前記コア部から離間して前記コア部を覆う多孔質シェル層と、を含み、前記コア部と前記多孔質シェル層との間には中空層が設けられてなる光触媒であって、窒素吸着法によって測定される、0.4〜50nmの範囲の細孔径の、単位重量当たりの細孔容積が0.1cm3/g以上である光触媒にある。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、コア部と多孔質シェル層との間にある炭素含有層を除去するため、コア部と多孔質シェル層との間に中空層が設けられることとなる。それにより、当該方法により作製される光触媒では、コア部と多孔質シェル層との間に中空層が介在するため、光触媒粒子の活性サイトが殆ど減少せず、光触媒機能が低下しない。
【0010】
したがって、本発明によれば、バインダーの劣化を防止しつつ、光触媒機能の低下を抑制できる信頼性の高い光触媒及びその作製方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る実施の形態の光触媒に関して説明する。しかしながら、以下に示す実施の形態は例示するものであって、これらに限定するものではない。また、本明細書において、同一部材については全図面を通して同一の参照番号により示している。また、本出願において、光触媒とは、光触媒粒子を含むコア部と多孔質シェル層とからなる一又は複数の複合体を、光触媒粒子とは、コア部に含まれるものであって、実際に汚染物質等の反応物質に光触媒作用を及ぼすものを意味する。
【0012】
(実施の形態1)
【0013】
以下に、本発明に係る光触媒の作製方法及び光触媒に関して、各構成要素毎に具体的に説明する。
【0014】
〈光触媒の作製方法〉
最初に、図3a〜図3eを参照しながら、本発明の好ましい実施の形態に係る光触媒の作製方法について説明する。本発明の好ましい実施形態に係る光触媒の作製方法は、1.コア部に含まれる光触媒粒子を準備する工程(光触媒粒子の準備工程)と、2.コア部の表面の少なくとも一部に直接炭素含有層を形成する工程(炭素含有層の形成工程)と、3.炭素含有層が形成されたコア部を懸濁させた溶媒に細孔形成剤を混合して、前記炭素含有層を細孔形成剤で被覆するとともに、当該溶媒中に細孔形成剤を分散させる工程(細孔形成剤の混合工程)と、4.溶媒中に多孔質シェル層の前駆物質を混合して、前記の炭素含有層表面を被覆する細孔形成剤の層上に、前記溶媒中に分散された細孔形成剤を含んでなる多孔質シェル層となる層を形成する工程(多孔質シェル層の形成工程)と、5.コア部と多孔質シェル層となる層との間にある前記炭素含有層及び前記細孔形成剤並びに前記多孔質シェル層となる層の壁内に含まれる細孔形成剤を除去する工程(炭素含有層及び細孔形成剤の除去工程)と、を含み、必要に応じて、6.光触媒を水素雰囲気下で熱処理し還元処理する工程(活性化処理工程)を含んでいてもよい。
【0015】
1)光触媒粒子の準備
まず、コア部1に含まれることとなる光触媒粒子を準備する(図3a)。当該光触媒粒子は、バルク状の光触媒粒子をナノスケールまで超微細化して作製してもよいし、析出沈殿法等により作製してもよい。光触媒粒子の大きさは、特に限定されるものではないが、好ましくは1nm〜20μm、より好ましくは1nm〜1000nm、さらに好ましくは1nm〜500nm、さらに好ましくは1nm〜250nm、さらに好ましくは1nm〜100nmである。上記のように微細な光触媒粒子であれば、より高い光触媒機能が得られるため好ましい。
【0016】
また、光触媒粒子をコア部の一部に含ませてもよいし、光触媒粒子自体をコア部とする、即ちコア部全体が光触媒粒子からなるようにしてもよい。
【0017】
2)炭素含有層の形成
続いて、図3bに示すように、コア部1を構成することとなる光触媒粒子を、炭素含有層の前駆物質を含む水溶液に懸濁させ、これを上記溶液中で水熱処理し、コア部1の表面の一部、好ましくはその全部を炭素含有層2'で被覆する。当該水熱処理は、150〜200℃で行うことが好ましく、更に好ましくは、160〜180℃である。このような範囲の温度で水熱処理を行うことにより、均一な炭素含有層が得られる。
また、好ましい水熱処理時間は、0.5〜6時間、より好ましくは1〜4時間である。ここで、炭素含有層形成に好適な前駆物質として、例えばグルコース、スクロース、フェノール、ピロール、及びフルフリルアルコールが挙げられる。
【0018】
3)細孔形成剤の混合工程
続いて、上述のようにして形成された炭素含有層被覆光触媒粒子と細孔形成剤とを溶媒に混合し懸濁させて、懸濁溶液を調製する。これにより、図3cに示すように、炭素含有層2’の表面が細孔形成剤で被覆され炭素含有層2’上に細孔形成剤の層3が形成されるとともに、当該溶媒中に細孔形成剤からなるミセル6を生成される。ここで、細孔形成剤は、細孔を形成するための鋳型となるだけでなく、多孔質シェル層の前駆物質を炭素含有層2’へ引きつける機能を有することが必要である。このような細孔形成剤として、例えば、界面活性剤、特にカチオン性の界面活性剤が好適に用いられる。ここで、上記界面活性剤としては、
【数1】
(n=7〜21、R1〜R4は、メチル基又は直鎖のアルキル基)で表される第四級アンモニウム塩が挙げられる。具体的には、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、オクチルトリメチルアンモニウムブロミド、デシルトリメチルアンモニウムブロミド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、テトラデシルトリメチルアンモニウムブロミド、オクタデシルトリメチルアンモニウムブロミド、セチルトリメチルアンモニウムクロリド、オクチルトリメチルアンモニウムクロリド、デシルトリメチルアンモニウムクロリド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド、テトラデシルトリメチルアンモニウムクロリド、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロリドが挙げられる。好ましくは、セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)である。これらの界面活性剤は、カチオン性であるため、炭素含有層を被覆して当該炭素含有層の上に界面活性剤の層が形成される際、この層の最外表面は正の電荷を帯びていると考えられる。そのため、多孔質シェル層の前駆物質は上記の界面活性剤の層に引きつけられやすい。
【0019】
また、炭素含有層被覆光触媒粒子と細孔形成剤とが混合される溶媒としては、水が用いられる。
【0020】
4)多孔質シェル層の形成工程
続いて、炭素含有層2'により被覆された光触媒粒子を含む上記懸濁溶液に、多孔質シェル層の前駆物質、例えばテトラエトキシシラン(TEOS)を混合する。これにより、図3dに示すように、多孔質シェル層4が、細孔形成剤の層3を起点として成長し、細孔形成剤の層3の上に形成される。ここで、多孔質シェル層4の前駆物質として、例えばTEOSを用いる場合、多孔質シェル層4は、TEOSを加水分解・脱水縮合させることにより形成される。具体的には、下記式Iに従って、TEOS(Si(OC2H5)4)を加水分解し、Si(OH)4を生成する(式I)。このSi(OH)4は、上記細孔形成剤の層3に引きつけられて細孔形成剤の層3を被覆する一方、このSi(OH)4は式IIに従ってその水酸基同士が脱水縮合反応することにより結合する。これにより、架橋構造が成長しシリカ層が形成される。
【0021】
以下に、TEOSの加水分解反応及び脱水縮合反応の一例を示す。
I.加水分解反応
Si(OC2H5)4+4H2O→Si(OH)4+4C2H5OH
II.脱水縮合反応
Si(OH)4+Si(OH)4→(OH)3Si−O−Si(OH)3+H2O
【0022】
このように、脱水縮合反応により結合してシリカの架橋構造が形成されるに際し、多孔質シェル層となる層は、界面活性剤からなるミセル6を取り込みながら成長する。そのため、多孔質シェル層となる層内には、ミセル6が分散することとなり、このミセル6を消失させれば、これが細孔7となる。したがって、界面活性剤の疎水基の鎖長を調整することにより、最終製品に係る光触媒の多孔質シェル層4の細孔径を調整することができる。また、細孔形成剤の濃度を調整することにより多孔質シェル層4の気孔率を調整することもできる。
【0023】
多孔質シェル層の前駆物質としては、TEOSの他、テトラメトキシシラン(TMOS)、テトラブトキシシラン(TBOS)等を用いることができる。
【0024】
また、本発明に係る光触媒の作製方法において、細孔形成剤の混合工程及び多孔質シェル層の形成工程は、塩基性下で行われることが好ましい。これは、塩基性において上記脱水縮合反応が適度な速さで進み、その結果良好な多孔質シェル層が得られるからである。
また、別の形態では、2)炭素含有層の形成工程で作製された炭素含有層被覆光触媒粒子と細孔形成剤と多孔質シェル層の前駆物質とを同時に溶媒に混合して、3)細孔形成剤の混合工程と4)多孔質シェル層の形成工程を同時に行ってもよい。これらの工程を同時に行うことにより、光触媒の製造工程を簡略化することができるため好ましい。
【0025】
5)炭素含有層及び細孔形成剤の除去工程
続いて、図3eに示すように、多孔質シェル層4が形成された光触媒を加熱することにより、多孔質シェル層4とコア部1との間に形成された炭素含有層2'及び細孔形成剤の層3並びに多孔質シェル層4となる層の壁内に含まれる細孔形成剤を除去する。ここで、除去された部分が中空層2となる。ここで、光触媒を加熱する際の加熱温度としては、450℃〜900℃が好ましく、600℃〜700℃がさらに好ましい。
【0026】
6)活性化処理工程
その後、コア部1が金属を担持する光触媒粒子を含む場合は、金属化合物を担持した光触媒粒子を必要に応じて水素雰囲気下で熱処理を行うことで金属化合物を金属に還元することができる。
【0027】
〈光触媒〉
続いて、本発明に係る光触媒に関して詳細に説明する。本発明に係る光触媒は、上述の作製方法に限定されるものではなく、如何なる方法により作製することができる。
本発明の実施の形態に係る光触媒は、図1に示すように、光触媒粒子を含むコア部1と、コア部1を離間して覆う多孔質シェル層4と、を備え、コア部1と多孔質シェル層4との間に中空層2が介在する。さらに、コア部1と多孔質シェル層4と中空層2とから成る当該光触媒は、窒素吸着法によって測定される、0.4〜50nmの範囲の細孔径の細孔容積が0.1cm3/g以上であることを特徴とする。
【0028】
一般に2nm以下の細孔径を有するものをミクロ孔、2〜50nmの範囲の細孔径を有するものをメソ孔、50nm以上の細孔径を有するものをマクロ孔と称するが、本発明に係る光触媒は、ミクロ孔、メソ孔、マクロ孔全てを含んでいてもよい。本発明の光触媒において、特に、0.4〜50nmの範囲の細孔径を有する細孔(ミクロ孔およびメソ細孔)の細孔容積を0.1cm3/g以上、より好ましくは0.5cm3/g以上とする。細孔径、細孔容積を上記範囲とすることにより、汚染物質等の反応物の通過が阻害されない。
ここで、細孔容積の測定は、窒素吸着法によって行われる。窒素吸着法とは、多孔体を液体窒素温度に保ち、窒素分圧の関数として吸着量を測定することによって吸着等温線を得、吸着モデルに基づいて、その細孔構造を解析するものであり、約0.4nm〜100nmの範囲の細孔を測定することが可能である。
【0029】
また、本発明に係る光触媒において、窒素吸着法によって測定される、0.4〜50nmの範囲の細孔径の細孔容積が、全細孔容積に対して、好ましくは50%以上、より好ましくは80%以上であることを特徴とする。このような範囲とすることにより、ホルムアルデヒド等のサイズの小さい分子(1nm以下)のほか、内分泌かく乱物質(〜2nm)、及び人体に有害な各種石油系炭化水素(5〜10nm程度)等の比較的分子サイズの大きい物質等の分解が可能になる。すなわち、前記のように0.4〜50nmの細孔径の容積率が高いと、その細孔を通過する汚染物質等の反応物と通過しないものとが選別され、通過したものだけが光触媒粒子によって分解される。このため、特定の大きさを持つ、汚染物質等の反応物だけを分解できるという分子ふるい作用を持たせることができる。
また、本発明に係る光触媒において、BET比表面積は、50m2/g以上が好ましく、100m2/g以上がより好ましく、より一層好ましくは150〜700m2/g、さらに好ましくは200〜600m2/gである。BET比表面積をこのような範囲とすることにより、上記同様汚染物質等の反応物の通過が阻害されず、分解が効率よくすすむ。
【0030】
当該光触媒において、多孔質シェル層4は多孔質組織となっているため、光触媒作用を受けるべき反応物質は、多孔質組織から多孔質シェル層4内に侵入し、コア部1に含まれる光触媒粒子に接触して光触媒作用を受ける。一方、光触媒を固定するための樹脂や高分子からなるバインダーは、そのサイズが大きく上記多孔質組織を通過し難いため、当該バインダーと光触媒粒子との接触が抑制され、バインダーの光触媒粒子による分解及びそれに伴う褐変が抑制される。
【0031】
このように、反応物質については多孔質シェル層を通過させるが、バインダーについては通過させないというように分子ふるい現象を発現させるためには、上述のように、例えば界面活性剤等の細孔形成剤を用いて多孔質シェル層の細孔径を適宜調整することが肝要である。細孔形成剤は、細孔を形成するための鋳型となるものであり、シェル層に取り込まれその後加熱処理によりシェル層から消失され、鋳型の役割を果たす。例えば、細孔形成剤として、界面活性剤を使用する場合、当該界面活性剤に含まれる疎水基の鎖長を大きくすれば、当該界面活性剤により形成されるミセル径は大きくなる。多孔質シェル層は、溶媒中に分散されている上記ミセルを取り込ながら成長するため、多孔質シェル層に含まれる細孔の径は、ミセルの径に略一致することとなる。したがって、界面活性剤に含まれる疎水基の鎖長を大きくすれば、多孔質シェル層の細孔径は大きくなり、当該鎖長を小さくすれば、多孔質シェル層の細孔径は小さくなる。よって、光触媒作用を受けるべき汚染物質のクラスターの大きさと、光触媒を固定するためのバインダーの分子の大きさとを考慮しながら、多孔質シェル層の細孔径を適切な範囲に調整すれば、バインダーの劣化を防止しつつ、光触媒機能を良好に発揮させることができる。
【0032】
また、細孔形成剤は、多孔質シェル層の細孔形成に寄与する以外にも、炭素含有層と多孔質シェル層の前駆物質との親和性を高める機能も有する。これは、細孔形成剤が、炭素含有層の表面上に層をなし、当該層の最外表面が当該前駆物質を引きつけやすい状態になっているためであると考えられる。ここで、多孔質シェル層の細孔形成に寄与する細孔形成剤と、炭素含有層と多孔質シェル層の前駆物質との親和性を高めるのに寄与するものとは、異なるものであってもよい。しかしながら、製造工程簡略化の観点からするとそれらは同一のものであることが好ましい。
【0033】
また、光触媒粒子の直径をナノオーダーまで近づけると、高い光触媒活性を示すようになるが、表面エネルギーが非常に大きくなり分散不安定となるため、次第に光触媒粒子が凝集してしまう。そうなると光触媒粒子の表面積が減少することとなり、光触媒活性が著しく低下してしまう。しかしながら、本発明では、光触媒粒子を含むより少ない数のコア部が多孔質シェル層により被覆されているため、凝集が防止され、光触媒活性の低下を抑制することができる。
【0034】
また、本発明では、光触媒粒子を含むコア部1を多孔質体で直接被覆するのではなく、コア部1と多孔質シェル層4との間に中空層2を介在させてコア部1を多孔質体で被覆するため、コア部1に含まれる光触媒粒子の活性サイトは減少しない。そのため、光触媒活性の低下を抑制することができる。
【0035】
また、光触媒の直径は、50nm〜25μmであることが好ましい。光触媒の回収のし易さ等のためである。
【0036】
〈光触媒粒子〉
光触媒粒子は、主にコア部1に含まれ、汚染物質等を光触媒作用により酸化分解する。この光触媒粒子は多孔質シェル層4に含まれていても良い。このような光触媒粒子として、光触媒作用を及ぼす物質であれば如何なるものであっても良いが、例示すれば、酸化チタン、チタン酸ストロンチウム、酸化亜鉛、酸化銅、酸化ビスマス、酸化タングステン、酸化鉄、酸化ニオブ、酸化タンタル、硫化カドミウム、硫化亜鉛、ビスマスバナジウム酸塩、アルカリ金属チタン酸塩、アルカリ金属ニオブ酸塩が挙げられ、これらのうち少なくとも1種を組み合わせてもよい。
【0037】
光触媒作用の観点から、酸化チタンを用いることが好ましい。ここで、光触媒粒子として酸化チタンを用いる場合、これは、アナターゼ型、ブルッカイト型、ルチル型等のうちいずれのタイプであってもよく、また、これらの混晶タイプのものであってもよい。しかし、微粒子が容易に得られることなどから、アナターゼ型を用いることがより好ましい。
【0038】
また、当該光触媒粒子に、白金、ロジウム、ルテニウム、パラジウム、金、銀、銅、ニッケル、鉄及びイリジウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属を担持することが好ましい。これらの金属を光触媒粒子に担持させることにより、励起光照射により発生する電子と正孔との再結合を抑制し、光触媒活性の低下を防止することができる。これは、上記金属を担持させると、当該金属の集電効果によりこれが電子を引き寄せることができるからである。
【0039】
また、光触媒粒子は、可視光の照射により励起される可視光応答型光触媒粒子であることが好ましい。通常酸化チタンを励起しうる紫外光は、自然光中に数%しか含まれていない。そのため、酸化チタンの光触媒作用は効果的であるとは言えない。しかし、光触媒粒子を当該可視光応答型とすることにより、自然光を有効に利用して汚染物質を効果的に分解することができる。ここで、可視光応答型光触媒粒子は公知のものを用いることができるが、例えば、酸化チタン等の紫外光利用型光触媒粒子に硫黄(S)、窒素(N)、炭素(C)等の異種元素をドープしたもの、紫外光利用型光触媒粒子に異種の金属イオンを固溶させたもの、ハロゲン化白金化合物やオキシ水酸化鉄等を光触媒粒子の表面に担持させたもの、あるいは酸化チタン粒子と酸化鉄、酸化タングステンなど可視光領域で光触媒活性が発現する化合物とを複合したもの、酸化チタンのチタンと酸素の組成を変えたものなどを好適に用いることができる。
【0040】
〈コア部〉
コア部1は、光触媒粒子を含んでなり、中空層2を介して多孔質シェル層4により被覆されている。ここで、コア部1は、多孔質シェル層4内に複数存在しても良い。しかしながら、複数コア部1が含まれる場合は、コア部1がナノオーダーの径を有する場合、凝集して光触媒活性が低下してしまう。そのため、多孔質シェル層4内に含まれるコア部1はできるだけ少ないことが好ましい。また、コア部1の形状は、製造上の観点から、略球形であることが好ましい。しかし、光触媒機能を良好に発揮しうる限り、如何なる形状であっても良い。コア部1が略球形である場合、その直径は1nm〜20μmでの範囲にあることが好ましく、1nm〜1μmの範囲にあることがより好ましく、1nm〜500nmの範囲にあることがより好ましく、1nm〜250nmの範囲がより好ましく、1nm〜100nmの範囲にあることがさらに好ましい。コア部1の直径を上記の範囲に設定すれば、高い光触媒活性が得られる。
【0041】
また、光触媒粒子はコア部1の少なくとも一部に含まれていればよいが、製造上の観点からコア部全体が、光触媒粒子から構成されていることが好ましい。このようにコア部全体が光触媒粒子から構成されていると、光触媒粒子の表面がより多く露出されることになり、光触媒の活性サイトを有効に利用することができる。
【0042】
また、コア部1は中空状であっても良い。さらに、コア部1は、少なくとも一部に多孔質組織を有し、その多孔質組織の微細孔に微小な光触媒粒子が分散された形態であっても良い。コア部1が、多孔質組織を含んでいると、光が照射されていない間に汚染物質等をこの多孔質組織に吸着し、その後光が照射される時に、多孔質組織に吸着された汚染物質を分解することができる。
【0043】
〈多孔質シェル層〉
多孔質シェル層4は、光触媒粒子を含むコア部1を中空層を介して覆っており、例えば、光触媒を固定するためのバインダーと光触媒粒子を含むコア部との接触を抑制するためのものである。また、このように多孔質シェル層4で覆うことにより、光触媒粒子の凝集を防止することもできる。
【0044】
多孔質シェル層4は、図1に示すような中空状であって、多孔質シェル層4の少なくとも一部に多孔質組織を含む。多孔質シェル層4の形状は球状に限定されず、如何なる形状であっても良い。しかし、製造の観点からすると、当該形状はコア部1の形状と同様の形状であることが好ましい。
【0045】
また、多孔質シェル層4の直径は、50nm〜5μmであることが好ましい。光触媒の回収のし易さ等のためである。
【0046】
さらに、多孔質シェル層4の気孔率及び微細孔の径は、多孔質シェル層4外から汚染物質、臭い、汚水、微生物等を通過させ、かつ、コア部1が流出しないような大きさであれば如何なる大きさであってもよい。多孔質シェル層4の気孔率としては、10vol%〜90vol%であることが好ましく、20vol%〜80vol%であることがより好ましく、30vol%〜70vol%であることがさらに好ましい。また、多孔質シェル層4の多孔質構造の微細孔径としては、0.1nm〜100nmであることが好ましく、0.4〜50nmであることがより好ましく、1nm〜10nmであることがさらに好ましい。
【0047】
また、特に好ましい多孔質シェル層4は、0.4〜50nmの範囲の細孔径を有する細孔(ミクロ孔及びメソ細孔)の細孔容積が0.1cm3/g以上であり、より好ましくは0.5cm3/g以上である。また、窒素吸着法によって測定される、0.4〜50nmの範囲の細孔径の細孔容積が、全細孔容積に対して、50%以上が好ましく、より好ましくは80%以上である。多孔質シェル層4のメソ細孔の細孔容積を上記範囲とすることにより、汚染物質等の反応物の通過が阻害されない。
【0048】
多孔質シェル層4の厚さは、上記同様、多孔質シェル層4外から汚染物質、臭い、汚水、微生物等を通過させ、また、紫外光をコア部1まで到達させ、しかも多孔質シェル層4自体が耐久性を有する限り如何なる大きさであっても良い。上記条件を考慮すると、多孔質シェル層4の厚さは、10nm〜1μmの範囲にあることが好ましい。
【0049】
多孔質シェル層4は、多孔性(酸化物)組織を形成可能であれば、如何なる原料を使用しても良い。多孔質組織を良好に形成することができるものとして、金属アルコキシド、金属アセチルアセテート、金属硝酸塩、若しくは金属塩酸塩が挙げられる。
好ましい金属アルコキシドの具体例としては、シリコンアルコキシド、ジルコニウムアルコキシド、アルミニウムアルコキシド、マグネシウムアルコキシド、ランタンアルコキシド、セリウムアルコキシドが挙げられる。また、好ましい金属アセチルアセテートの具体例としては、ジルコニウムアセチルアセテート、マグネシウムアセチルアセテート、及びセリウムアセチルアセテートが挙げられる。さらに、好ましい金属硝酸塩の具体例としては、硝酸ランタン、及び硝酸セリウムが挙げられ、好ましい金属塩酸塩の具体例としては、塩化ジルコニウム、塩化マグネシウム、及び塩化セリウムが挙げられる。
【0050】
したがって、本発明に係る多孔質シェル層4は、例えば酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化ランタン及び酸化セリウムからなる群から選択される少なくとも一種を含む。また、多孔質シェル層4は、上記酸化物のうち異なる2以上の酸化物により形成されていてもよい。
【0051】
(実施の形態2)
〈光触媒の作製方法〉
本発明の実施の形態2に係る光触媒の作製方法では、細孔形成剤として水溶性ポリマーを用いる。
細孔形成剤として水溶性ポリマーを用いた場合、実施の形態1における3の工程(細孔形成剤の混合工程)において、水溶性ポリマーで炭素含有層2’の表面が被覆され炭素含有層2’上に水溶性ポリマーの層3が形成されるとともに、当該溶媒中に水溶性ポリマーが分散される。ここで、水溶性ポリマーを例示すれば、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン、ポリエチレンオキシド、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリアルキルアミン等が挙げられる。また、水溶性ポリマーとしてトリブロックコポリマーを使用することもできる。当該トリブロックコポリマーとしては、具体的には、エチレンオキシド-プロピレンオキシド-エチレンオキシド等が挙げられる。これらのポリマーは、炭素含有層と多孔質シェル層前駆物質との親和性を高めることができるだけでなく、多孔質シェル層の細孔形成にも寄与しているものと考えられる。
【0052】
また、実施の形態1における4の工程(多孔質シェル層の形成工程)では、上記の懸濁液に、多孔質シェル層の前駆物質、例えばTEOSを混合することにより、多孔質シェル層4が、炭素含有層の表面を被覆する水溶性ポリマーの層3を起点として、上記懸濁液に分散された水溶性ポリマーを取り込みながら成長する。そのため、当該水溶性ポリマー分子の大きさに応じた細孔を多孔質シェル層4に設けることができる。
他の工程に関しては、実施の形態1に係る光触媒の作製方法と同様である。
【0053】
(実施の形態3)
〈光触媒の作製方法〉
本発明の実施の形態3に係る光触媒の作製方法では、細孔形成剤として有機官能基を1つ以上含む金属アルコキシドを用いる。
本発明の実施の形態3に係る光触媒の作製方法は、1.コア部に含まれる光触媒粒子を準備する工程(光触媒粒子の準備工程)と、2.コア部の表面の少なくとも一部に直接炭素含有層を形成する工程(炭素含有層の形成工程)と、3.炭素含有層が形成されたコア部を懸濁させた溶媒に表面処理剤を混合して、前記炭素含有層の表面を表面処理剤で被覆する工程(表面処理工程)と、4.溶媒中に細孔形成剤及び多孔質シェル層の前駆物質を混合して、前記表面処理剤の層上に、細孔形成剤を含んでなる多孔質シェル層となる層を形成する工程(多孔質シェル層の形成工程)と、5.コア部と多孔質シェル層となる層との間にある前記炭素含有層及び前記表面処理剤の層並びに前記多孔質シェル層となる層の壁内に含まれる細孔形成剤を除去する工程(炭素含有層、表面処理剤及び細孔形成剤の除去工程)と、を含み、必要に応じて、6.光触媒を水素雰囲気下で熱処理し還元処理する工程(活性化処理工程)をさらに含んでいてもよい。ここで、1、2、5、6の工程については、実施の形態1における工程と同様であるため省略する。
3.表面処理工程
本実施の形態3に係る光触媒の作製方法では、2の工程、すなわち炭素含有層の形成工程において炭素含有層が形成されたコア部の表面を、塩基性官能基をもつ表面処理剤、例えばアミノ基一つ以上含む金属アルコキシド、好ましくはシリコンアルコキシドで処理し、炭素含有層表面にこれを吸着させる。これにより、次の4の工程において、炭素含有層の表面に例えばオクタデシル基(C18H37−)を含む均一なシリカ層を形成させることができる。
ここで、塩基性官能基を一つ以上含むシリコンアルコキシドとしては、アミノエチルアミノプロピルトリメキシシラン(AEAP)、アミノエチルアミノプロピルメチルジメキシシラン、アミノエチルアミノウンデシルトリメキシシラン、アミノフェニルトリメトキシシラン、アミノプロピルジメチルエトキシシラン、アミノプロピルメチルジエトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、が挙げられる。これらを炭素含有層の表面に吸着させると、アミノ基の触媒作用によって式Vの脱水縮合反応を炭素含有層の表面で効果的に進行させることができる。アミノ基の効果としてはほかに、これがカチオン性であるため、炭素含有層の最外表面は正の電荷を帯びており、多孔質シェル層の前駆物質は上記のアミノ基を表面にもつ炭素含有層に引きつけられやすくなることが考えられる。
表面処理工程及びその後の多孔質シェル層の形成工程で使用される溶媒としては、エタノール等のアルコールやアセトニトリル等の有機溶媒や水溶媒等が挙げられる。
4.多孔質シェル層の形成工程
続いて4.多孔質シェル層の形成工程において、多孔質シェル層の前駆物質と細孔形成剤とを含む溶液中に炭素含有層被覆光触媒粒子を懸濁させて、これらを加水分解および脱水縮合させる。ここで、本実施の形態に係る細孔形成剤として、有機官能基を含む金属アルコキシド若しくは有機官能基を含む金属クロライドを用いる。これらは、当該有機官能基が後の工程で除去されるため細孔形成に寄与する一方、多孔質シェル層を構成するアルコキシド等を含むため多孔質シェル層の前駆物質としての役割をも果たす。
以下、多孔質シェル層の前駆物質として、TEOSを、細孔形成剤として、ODTSを使用した場合について説明する。
まず、下記式IIIに従って、ODTSを加水分解しオクタデシル基を備えるSi(OH)3(C18H37)を生成する。また、上記反応と前後して、下記式IVに従って、TEOSを加水分解しSi(OH)4を生成する。これらは、式Vに従ってその水酸基同士が脱水縮合反応することにより結合する。これにより、架橋構造が成長しシリカ層が形成される。
【0054】
ここで、シリコンアルコキシドに含まれるアルキル基は、分子内に2つ以上あっても良く、直鎖状であってもまたは分岐状であっても良い。またアルキル基の末端や中間に官能基等を含むものでも良い。直鎖または分岐状のアルキル基の代表例として、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、イソオクチル基、オクタデシル基等が挙げられ、含まれる官能基等の代表例として、フェニル基、ナフチル基、オクテニル基、ビニル基、アミノアルキル基、アミノフェニル基、アセトキシアルキル基、アクリロキシ基、アリル基、アリルアミノ基、アミノエチルアミノプロピル基、ブロモアルキル基、クロロアルキル基、シアノアルキル基、シクロヘキシル基、メタクリルオキシプロピル基フルオロアルキル基、フルオロフェニル基、メルカプトプロピル基、アミノ基、アセトキシ基、ブロモ基、クロロ基、シアノ基、シクロヘキシル基、メタクリルオキシプロピル基、フルオロ基、メルカプト基等が挙げられる。また、メトキシ基についても少なくとも一つが、エトキシ基、ブトキシ基などで一部置換されていてもよい。
【0055】
アルキル基等の官能基を含むシリコンアルコキシドを用いた場合、官能基が残ったまま加水分解反応及び脱水縮合反応が進行する。以下にTEOS及びODTS(オクタデシルトリメトキシシラン、Si(OCH3)3(C18H37))の加水分解反応及び脱水縮合反応の一例を示す。
III.ODTSの加水分解反応
Si(OCH3)3(C18H37)+3H2O→Si(OH)3(C18H37)+3CH3OH
IV.TEOSの加水分解反応
Si(OC2H5)4+4H2O→Si(OH)4+4C2H5OH
V.脱水縮合反応
Si(OH)3(C18H37)+Si(OH)4→(C18H37)(OH)2Si−O−Si(OH)3+H2O
(C18H37)(OH)2Si−O−Si(OH)3+Si(OH)3(C18H37)→(C18H37)(OH)2Si−O−Si(OH)2−O−Si(OH)2(C18H37)
【0056】
前記反応によりオクタデシル基(C18H37−)を含むシリカ層が形成され、シリカ層に含まれる、細孔形成剤の一部であるオクタデシル基の部分が加熱により分解除去され、この部分が細孔となる。本実施の形態3に係る方法では、実施の形態1又は2に係る方法と同様、ミクロ孔及びメソ孔を多く含む多孔質シェル層を形成することができる。
他の工程に関しては、実施の形態1に係る光触媒の作製方法と同様である。また、細孔形成剤の有機官能基の種類を変化させることにより、最終製品に係る光触媒の多孔質シェル層の細孔径を調整することができ、また、細孔形成剤の濃度を調整することにより多孔質シェル層の気孔率を調整することもできる。
【0057】
(使用の形態1)
続いて、本発明に係る光触媒の使用態様に関して詳細に説明する。
本発明の光触媒は、バインダーとともに、溶媒に分散して塗料組成物とすることができる。バインダーとしては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、アルキド樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、水ガラス、コロイダルシリカ、オルガノポリシロキサン、セメント、セッコウなどの汎用のバインダーを用いることができる。前記の溶媒としては、水やトルエン、アルコールなどの有機溶媒を用いることができる。塗料組成物中の光触媒の量は適宜設定することができるが、光触媒とバインダーとの合量に対する容積基準として、セメントまたはセッコウを用いる場合には、光触媒の含有量は5〜40%が好ましく、5〜25%がより好ましい。また、セメント、セッコウ以外のバインダーを用いる場合には、光触媒の含有量は好ましくは5〜98%、より好ましくは20〜98%、さらに好ましくは50〜98%である。塗料組成物には、架橋剤、分散剤、充填剤などを配合させても良い。架橋剤としては、イソシアネート系、メラミン系などの通常の架橋剤を、分散剤としては、カップリング剤などを使用することができる。
前記の塗料組成物を基体に塗布あるいは吹き付けて、光触媒を含有する塗膜を形成する。例えば、含浸法、ディップコーティング法、スピナーコーティング法、ブレードコーティング法、ローラーコーティング法、ワイヤーバーコーティング法、リバースロールコーティング法などの通常の方法で塗布したり、あるいは、スプレーコーティング法などの通常の方法で吹き付け、乾燥あるいは焼成して、塗膜を形成する。基体としては、セラミックス、ガラスなどの無機材質の物品、プラスチック、ゴム、木、紙などの有機材質の物品、アルミニウムなどの金属、鋼などの合金などの金属材質の物品を用いることができ、基体の大きさや形には特に制限されない。
(使用の形態2)
また、本発明の光触媒は、紙、繊維、プラスチック等に含有させることができる。紙に含有させるには、光触媒を抄紙液に分散させて抄紙したり、抄紙した紙に光触媒を分散した液や前記の塗料組成物を塗布あるいは吹付けることもできる。繊維に含有させるには、繊維を製造する際に光触媒を原料液に含有させて重合して繊維を製造したり、製造した繊維に光触媒を分散した液や前記の塗料組成物を塗布あるいは吹付けることもできる。また、プラスチックに含有するには、プラスチック成形の際に含有させたり、成形したプラスチックの表面に、光触媒を分散した液や前記の塗料組成物を塗布あるいは吹付けることもできる。
(使用方法)
本発明の光触媒あるいは光触媒を含有した塗膜、紙、繊維、プラスチック等は、その回りに存在する被処理対象物、例えば有害物質、悪臭物質、油分、菌類などを吸着することができる。
また、本発明の光触媒あるいは光触媒を含有した塗膜、紙、繊維、プラスチック等に、その光触媒粒子のバンドギャップ以上のエネルギーを持つ波長の光を照射させることにより、その回りに存在する被処理対象物、例えば有害物質、悪臭物質、油分などを分解して浄化したり、殺菌したりすることができる。照射する光としては、紫外線を含有した光などが挙げられ、例えば、太陽光や蛍光灯、ブラックライト、ハロゲンランプ、キセノンフラッシュランプ、水銀灯などの光を用いることができる。また、可視光応答型光触媒粒子の場合は、可視光を含む光を用いることができる。光の照射量や照射時間などは処理する物質の量などによって適宜設定できる。
【実施例1】
【0058】
続いて、本発明に係る光触媒の作製方法により光触媒を作製し、これについて評価実験を行った。
1.光触媒の作製
まず、石原産業株式会社製の光触媒用酸化チタン(TiO2:ST-41)を0.5Mグルコース水溶液に懸濁させ、これを180℃で6時間水熱処理して、炭素被覆TiO2(以下、c/TiO2と称する。ここで、c/とは、炭素の層で被覆していることを意味している。)とした。その後、この炭素被覆TiO2 1gとをセチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB) 0.5gとを水溶液に懸濁させ、TiO2上に形成された炭素の層の表面をCTABで被覆した(CTAB/c/TiO2)。その後、上記懸濁液にテトラエトキシシラン(TEOS)8mlを注入することにより、炭素の層の表面を被覆したCTABを基点としてTEOSの加水分解・縮合物であるシリカを析出させた(Si/c/TiO2と称する。ここで、Si/c/とは、炭素の層で被覆した後、その炭素の層をシリカの層で被覆していることを意味している。)後、空気中において600℃で3時間熱処理して炭素の層とCTABを除去し、中空状ポーラスシリカ被覆TiO2(p−Si//TiO2と称する。ここで、p−Siはポーラス状(多孔質)のシリカを意味し、また、//はp−SiとTiO2との間に中空層が介在することを意味する。)を得た。このようにして得られた光触媒(p−Si//TiO2)のSEM写真を図4に示す。図4から分かるように、多孔質シェル層の内側に光触媒粒子が見られた。多孔質シェル層と光触媒粒子との間には中空層が介在するのが分かる。また、多孔質シェル層の壁内には、微小なポーラス構造が見られこれがミクロ細孔、メソ細孔を構成するものと考えられる。
また、このようにして得られたp−Si//TiO2について吸着特性を調べた。吸着特性を調べるために、窒素吸着測定を用いた。図5aに、窒素吸着等温線を示す。等温線は期待通りメソ細孔をもつ粉体に特徴的なIV型を示した。IV型とは、吸着平衡圧を順次増加(吸着)して得られる吸着量と、平衡圧を順次減少(脱着)させて得られる吸着量とが異なる場合(ヒステリシスをもつという)の等温線であり、メソ細孔の存在を示す。実際、等温線からメソ細孔のサイズ分布を算出する一般的な解析法であるBJH法に基づいて、細孔サイズ分布をプロットすると、図5bに示すように、p−Si//TiO2は3nmを中心とする発達した細孔をもつことがわかる。
【0059】
2.比較試験
続いて、上述のようにして得られた光触媒を用いて、性能比較試験を行った。比較例としては、ポーラスシリカ層で被覆されていない、裸のままの光触媒(ST−41)と、ポーラスシリカ層で直接被覆された光触媒(p−Si/TiO2と称する。)と、を用いた。ポーラスシリカ層で直接被覆された光触媒(p−Si/TiO2)は以下のようにして作製した。
【0060】
まず、石原産業株式会社製の光触媒用酸化チタン(TiO2:ST-41)をセチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)水溶液に懸濁させた(CTAB/TiO2)。その後、上記懸濁液にテトラエトキシシラン(TEOS)を注入することにより、CTABのミセルを基点としてTEOSの加水分解・縮合物であるシリカを析出させた(Si/TiO2と称する。ここで、Si/とは、シリカの層で被覆されていることを意味している。)後、600℃で3時間熱処理をして、ポーラスシリカ被覆TiO2(p−Si/TiO2と称する。ここで、p−Siはポーラス状(多孔質)のシリカを意味し、また、p−Si/TiO2とはポーラス状のシリカにより直接被覆されたTiO2を意味する。)を得た。
【0061】
(1)XRF分析
まず、本発明に係るp−Si//TiO2と従来例に係るp−Si/TiO2とをXRF分析した。p−Si//TiO2またはp−Si/TiO2をペレット状に成形し、蛍光X線測定装置(リガク社製、RIX−3000)により化学組成分析を行い、試料に含まれるSiO2の質量%を測定した。
【0062】
表1に示すように、従来例に係るp−Si/TiO2では、サンプル中に占めるSiO2の質量%は49.3wt%であったのに対し、本発明に係るp−Si//TiO2では、72.3wt%であった。
【0063】
【表1】
【0064】
(2)比表面積測定
続いて、本発明に係るp−Si//TiO2と従来例に係るp−Si/TiO2と被覆されていない光触媒(ST−41)の比表面積測定を行った。p−Si//TiO2またはp−Si/TiO2を150℃で30分間脱気後、フローソーブ2300(島津製作所)を用いて、窒素吸脱着を行い、比表面積を測定した。
【0065】
表2に示すように、被覆のないST−41では、比表面積は10.2m2/gであり、p−Si/TiO2では、比表面積は413.2m2/gであったのに対し、本発明に係るp−Si//TiO2では、比表面積は543.6m2/gであった。
【0066】
【表2】
【0067】
(3)光触媒活性評価
続いて、上記の光触媒を用いて、大気中で光触媒活性の評価を行った。光触媒活性の評価は、光触媒により有機性ガスが分解され、当該有機性ガス濃度がどれだけ減少したかにより評価した。すなわち、有機性ガス濃度をより多く減少させた光触媒が、光触媒活性が高いと評価した。当該評価は、以下の条件で行った。
反応条件
反応ガス:アセトアルデヒド
初期濃度:150ppm
評価系:閉鎖循環式
反応器体積:2.8L
循環速度:3L/min
光源・照度:ブラックライト0.5mW/cm2
照射面積:28.3cm2
触媒量:0.1g
暗吸着:30min
光照射:60min
【0068】
図6に、本発明に係るp−Si//TiO2とST−41を用いた場合の、分解されずに残ったアセトアルデヒド濃度と時間との関係を示している。横軸を時間とし、縦軸をアセトアルデヒド濃度の対数としている。図6から分かるように、本発明に係るp−Si//TiO2では、何も被覆していない光触媒(ST−41)を用いた場合と同様の曲線となり、ポーラスシリカ層が被覆されていても光触媒活性に影響を与えないことが分かった。また、反応速度定数を算出すると、本発明に係るp−Si//TiO2では、反応速度定数は2.09(/hour)であるのに対し、被覆のないST−41では、1.96(/hour)であり、略同程度の反応速度を有することが分かった。
【0069】
したがって、ポーラスシリカ層で光触媒粒子を被覆する際中空層を介すれば、光触媒活性が低下しないことが分かった。
【0070】
また、図7に、従来例に係るp−Si/TiO2とST−41を用いた場合のアセトアルデヒド濃度と時間との関係を示している。図7から分かるように、従来例に係るp−Si/TiO2では、何も被覆していない光触媒(ST−41)より、光触媒活性が劣ることが分かる。
【0071】
また、上記測定結果から反応速度定数を算出すると、従来例に係るp−Si/TiO2では、反応速度定数は0.95(/hour)であるのに対し、被覆のないST−41では、2.13(/hour)であり、従来例に係るp−Si/TiO2を用いた場合の反応速度は、被覆のない光触媒(ST−41)を用いた場合の反応速度の半分程度であることが分かった。
【0072】
したがって、直接ポーラスシリカ層で光触媒粒子を被覆すれば、光触媒の活性が著しく低下することが分かった。
【0073】
(4)塗膜耐光性評価
続いて、上記3種類の光触媒が塗膜に混合されたものを用いて耐光性評価を行った。図8は、本発明に係るp−Si//TiO2と被覆のないST−41が塗膜に混合されたものを用いた場合の、塗膜の色差と時間との関係を示しており、図9は、従来例に係るp−Si/TiO2と被覆のないST−41が塗膜に混合されたものを用いた場合の、塗膜の色差と時間との関係を示している。塗膜耐光性評価は、光源としてブラックライトを用い、3mW/cm2の照度を用いた。30、60、90、120、180分照射した際の色差を測定した。図8及び9から分かるように、被覆のないST−41が塗膜に混合されたものを用いた場合、塗膜が直接光触媒粒子に接触するため、光照射時間とともに色差が増加する。それに対して、図8から分かるように、本発明に係るp−Si//TiO2が塗膜に混合されたものを用いた場合、光照射時間が長くなっても色差の増加は見られなかった。また、図9から分かるように、従来例に係るp−Si/TiO2が塗膜に混合されたものを用いた場合も、光照射時間が長くなっても色差の増加は殆ど見られなかった。したがって、被覆のないST−41では、被覆がないため、光触媒粒子が塗膜に直接接触するため、当該光触媒粒子によって塗膜が分解されたのに対し、ポーラスシリカ層で直接若しくは中空層を介して被覆されたp−Si/TiO2若しくはp−Si//TiO2では、ポーラスシリカ層が光触媒粒子と塗膜との接触を防止するため、当該光触媒粒子によって塗膜が分解されなかったと考えられる。中空層の存否によっては、耐光性評価は影響を受けないことが分かる。
【0074】
(5)塗膜光触媒活性評価
上記の光触媒を用いて、塗膜中で光触媒活性の評価を行った。当該評価は、以下の条件で行った。
反応条件
反応ガス:アセトアルデヒド
初期濃度:50ppm
評価系:閉鎖循環式
反応器体積:2.8L
循環速度:3L/min
光源・照度:ブラックライト1mW/cm2
照射面積:5×7cm2
暗吸着:30min
光照射:60min
【0075】
図10に、本発明に係るp−Si//TiO2とST−41を用いた場合のアセトアルデヒド濃度と時間との関係を示している。図10から分かるように、本発明に係るp−Si//TiO2では、何も被覆していない光触媒(ST−41)を用いた場合よりアセトアルデヒド濃度が減少した。また、反応速度定数を算出すると、本発明に係るp−Si//TiO2では、反応速度定数は3.18(/hour)であるのに対し、被覆のないST−41では、2.45(/hour)であり、1.3倍程度の反応速度を有することが分かった。
【0076】
また、図11に、従来例に係るp−Si/TiO2とST−41を用いた場合のアセトアルデヒド濃度と時間との関係を示している。図11から分かるように、従来例に係るp−Si/TiO2では、何も被覆していない光触媒(ST−41)より、光触媒活性が劣ることが分かる。
【0077】
また、反応速度定数を算出すると、従来例に係るp−Si/TiO2では、反応速度定数は0.21(/hour)であるのに対し、被覆のないST−41では、2.54(/hour)であり、p−Si/TiO2を用いた場合の反応速度は、被覆のない光触媒(ST−41)を用いた場合の反応速度の10分の1程度であることが分かった。
【0078】
したがって、直接ポーラスシリカ層で光触媒粒子を被覆したものを塗膜に混合して使用した場合、光触媒の活性が著しく低下することが分かった。
【実施例2】
【0079】
TEOS及びODTSを用いた光触媒の作製
まず、石原産業株式会社製の光触媒用酸化チタン(TiO2:ST-41)を0.5Mグルコース水溶液に懸濁させ、これを180℃で6時間水熱処理して、炭素被覆TiO2(以下、c/TiO2)を調製した。その後、このc/TiO2をメタノール10mlの溶媒に分散させ、さらにこの溶液にアミノエチルアミノプロピルトリエトキシシラン(AEAP)を0.1ml加え2時間攪拌し、AEAP/c/TiO2を得た。2時間後、当該溶液に対して遠心分離を行い、AEAP/c/TiO2を回収した。その後、回収したAEAP/c/TiO2を20mlの混合溶液(アセトニトリル:エタノール=1:3)に分散させ、さらに、TEOS:ODTS(1:1、1:3、3:1)を1.0ml、アンモニア0.5mlをさらに加え36時間振とうした。加水分解・脱水縮合反応後、遠心分離を行った。回収したサンプルをエタノールで洗浄し遠心分離をして回収した。この作業を3回行い、その後乾燥させた。乾燥したサンプルを600℃で2時間焼成し、ODTSのオクタデシル基を除去し、これにより中空状ポーラスシリカ被覆TiO2(p−Si//TiO2)を得た。窒素吸着測定から見積もられる得られたp−Si//TiO2のBET比表面積は、406.0m2/gであった。また、窒素吸着等温線からミクロ細孔のサイズ分布を算出する解析法であるSF法に基づいて、細孔サイズ分布をプロットすると、p−Si//TiO2は0.8nmを中心とする発達したミクロ細孔をもつことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明に係る光触媒は、特に、バインダーの劣化を起こさず長期間分解機能を維持する必要がある、家屋の壁面等に塗布する防汚剤として非常に有用である。また、塗料、塗膜、紙、繊維、プラスチックに混合して使用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明に係る光触媒の概略断面図を示している。
【図2】多孔質シェル層の一部を取り除いて描写した、本発明に係る光触媒の概略斜視図である。
【図3a】本発明に係る光触媒の作製方法を示す工程図である。
【図3b】本発明に係る光触媒の作製方法を示す工程図である。
【図3c】本発明に係る光触媒の作製方法を示す工程図である。
【図3d】本発明に係る光触媒の作製方法を示す工程図である。
【図3e】本発明に係る光触媒の作製方法を示す工程図である。
【図4】本発明に係る光触媒(p−Si//TiO2)のSEM写真である。
【図5a】本発明に係る光触媒(p−Si//TiO2)についての窒素吸着等温線を示したグラフである。
【図5b】本発明に係る光触媒(p−Si//TiO2)についての細孔サイズ分布を示したグラフである。
【図6】本発明に係るp−Si//TiO2とST−41を用いた場合における、アセトアルデヒド濃度と時間との関係を示しているグラフである。
【図7】従来例に係るp−Si/TiO2とST−41を用いた場合における、アセトアルデヒド濃度と時間との関係を示しているグラフである。
【図8】本発明に係るp−Si//TiO2と被覆のないST−41が塗膜に混合されたものを用いた場合における、塗膜の色差と時間との関係を示しているグラフである。
【図9】従来例に係るp−Si/TiO2と被覆のないST−41が塗膜に混合されたものを用いた場合における、塗膜の色差と時間との関係を示しているグラフである。
【図10】本発明に係るp−Si//TiO2とST−41を用いた場合における、アセトアルデヒド濃度と時間との関係を示しているグラフである。
【図11】従来例に係るp−Si/TiO2とST−41を用いた場合における、アセトアルデヒド濃度と時間との関係を示しているグラフである。
【符号の説明】
【0082】
1 コア部
2 中空層
2' 炭素含有層
3 細孔形成剤からなる層
4 多孔質シェル層
6 ミセル
7 細孔
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒粒子を含むコア部と、
前記コア部から離間して前記コア部を覆う多孔質シェル層と、を含み、
前記コア部と前記多孔質シェル層との間には中空層が設けられてなる光触媒であって、
窒素吸着法によって測定される、0.4〜50nmの範囲の細孔径の、単位重量当たりの細孔容積が0.1cm3/g以上である光触媒。
【請求項2】
窒素吸着法によって測定される、0.4〜50nmの範囲の細孔径の細孔容積が、全細孔容積の80%以上である請求項1に記載の光触媒。
【請求項3】
BET比表面積が50m2/g以上である請求項1に記載の光触媒。
【請求項4】
前記多孔質シェル層が、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化ランタン及び酸化セリウムからなる群から選択される少なくとも一種の酸化物を含むことを特徴とする請求項1に記載の光触媒。
【請求項5】
前記光触媒粒子が、酸化チタン、チタン酸ストロンチウム、酸化亜鉛、酸化銅、酸化ビスマス、酸化タングステン、酸化鉄、酸化ニオブ、酸化タンタル、アルカリ金属チタン酸塩、及びアルカリ金属ニオブ酸塩からなる群から選択される少なくとも1つからなることを特徴とする請求項1に記載の光触媒。
【請求項6】
前記光触媒粒子が、白金、ロジウム、ルテニウム、パラジウム、金、銀、銅、ニッケル、鉄、及びイリジウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属を担持してなることを特徴とする請求項5に記載の光触媒。
【請求項7】
前記光触媒粒子が、可視光の照射により励起される可視光応答型光触媒であることを特徴とする請求項1に記載の光触媒。
【請求項8】
前記コア部の直径が1nm〜20μmであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の光触媒。
【請求項9】
前記多孔質シェル層の多孔質部分の細孔径が、0.1nm〜100nmであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の光触媒。
【請求項10】
光触媒粒子を含むコア部と前記コア部から離間して当該コア部を覆う多孔質シェル層とを含む光触媒を作製する方法であって、
前記コア部の表面の少なくとも一部に直接炭素含有層を形成する第一工程と、
前記炭素含有層が形成されたコア部を懸濁させた溶媒に、細孔形成剤を混合して、前記炭素含有層を細孔形成剤で被覆するとともに、当該溶媒中に細孔形成剤を分散させる第二工程と、
前記溶媒中に多孔質シェル層の前駆物質を混合して、前記の炭素含有層表面を被覆する細孔形成剤の層上に、前記溶媒中に分散された細孔形成剤を含んでなる多孔質シェル層となる層を形成する第三工程と、
前記コア部と前記多孔質シェル層となる層との間にある前記炭素含有層及び前記細孔形成剤並びに前記多孔質シェル層となる層の壁内に含まれる細孔形成剤を除去する第四工程と、を含むことを特徴とする光触媒の作製方法。
【請求項11】
前記細孔形成剤が、界面活性剤であって、前記第二工程において、前記界面活性剤がミセルとして前記溶媒中に分散されることを特徴とする請求項10に記載の光触媒の作製方法。
【請求項12】
前記細孔形成剤が、水溶性ポリマーであることを特徴とする請求項10に記載の光触媒の作製方法。
【請求項13】
前記界面活性剤が、
【数1】
(n=7〜21、R1〜R4は、メチル基又は直鎖のアルキル基)で表される第四級アンモニウム塩であることを特徴とする請求項11に記載の光触媒の作製方法。
【請求項14】
前記界面活性剤が、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、オクチルトリメチルアンモニウムブロミド、デシルトリメチルアンモニウムブロミド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、テトラデシルトリメチルアンモニウムブロミド、オクタデシルトリメチルアンモニウムブロミド、セチルトリメチルアンモニウムクロリド、オクチルトリメチルアンモニウムクロリド、デシルトリメチルアンモニウムクロリド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド、テトラデシルトリメチルアンモニウムクロリド、及びオクタデシルトリメチルアンモニウムクロリドからなる群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする請求項13に記載の光触媒の作製方法。
【請求項15】
前記水溶性ポリマーが、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン、ポリエチレンオキシド、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリアルキルアミン、及びエチレンオキシド-プロピレンオキシド-エチレンオキシドからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項12に記載の光触媒の作製方法。
【請求項16】
光触媒粒子を含むコア部と前記コア部から離間して当該コア部を覆う多孔質シェル層とを含む光触媒を作製する方法であって、
前記コア部の表面の少なくとも一部に直接炭素含有層を形成する第一工程と、
前記炭素含有層が形成されたコア部を懸濁させた溶媒に、表面処理剤を混合して、前記炭素含有層の表面を当該表面処理剤で被覆する第二工程と、
前記溶媒中に細孔形成剤及び多孔質シェル層の前駆物質を混合して、前記表面処理剤の層上に、細孔形成剤を含んでなる多孔質シェル層となる層を形成する第三工程と、
前記コア部と前記多孔質シェル層となる層との間にある前記炭素含有層及び前記表面処理剤の層並びに前記多孔質シェル層となる層の壁内に含まれる細孔形成剤の一部を除去する第四工程と、を含むことを特徴とする光触媒の作製方法。
【請求項17】
前記細孔形成剤が、有機の置換基を含む金属アルコキシド、若しくは有機の置換基を含む金属クロライドであることを特徴とする請求項16に記載の光触媒の作製方法。
【請求項18】
前記表面処理剤が、塩基性官能基を含む金属アルコキシドであること特徴とする請求項16に記載の光触媒の作製方法。
【請求項19】
前記有機置換基が、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、イソオクチル基、オクタデシル基、フェニル基、ナフチル基、オクテニル基、ビニル基、アミノアルキル基、アミノフェニル基、アセトキシアルキル基、アクリロキシ基、アリル基、アリルアミノ基、アミノエチルアミノプロピル基、ブロモアルキル基、クロロアルキル基、シアノアルキル基、シクロヘキシル基、メタクリルオキシプロピル基フルオロアルキル基、フルオロフェニル基、メルカプトプロピル基からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項17に記載の光触媒の作製方法。
【請求項20】
前記第二工程及び/又は第三工程が、塩基性下で行われることを特徴とする請求項10又は16に記載の光触媒の作製方法。
【請求項21】
前記第四工程は、光触媒を加熱することによって前記炭素含有層を除去する工程を包含する請求項10又は16に記載の光触媒の作製方法。
【請求項22】
前記光触媒粒子が、可視光により励起される可視光応答型光触媒であることを特徴とする請求項10又は16に記載の光触媒作製方法。
【請求項23】
前記第三工程における多孔質シェル層の前駆物質が、金属アルコキシド、金属アセチルアセテート、金属硝酸塩、若しくは金属塩酸塩であることを特徴とする請求項10又は16に記載の光触媒の作製方法。
【請求項24】
前記金属アルコキシドが、シリコンアルコキシド、ジルコニウムアルコキシド、アルミニウムアルコキシド、マグネシウムアルコキシド、ランタンアルコキシド、及びセリウムアルコキシドからなる群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする請求項23に記載の光触媒の作製方法。
【請求項25】
前記第一工程における炭素含有層の前駆物質が、グルコース、スクロース、フェノール、ピロール、及びフルフリルアルコールからなる群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする請求項10又は16に記載の光触媒の作製方法。
【請求項26】
請求項1〜9のいずれかに記載の光触媒を含有することを特徴とする塗料。
【請求項27】
請求項1〜9のいずれかに記載の光触媒を含有することを特徴とする塗膜。
【請求項28】
請求項1〜9のいずれかに記載の光触媒を含有することを特徴とする紙。
【請求項29】
請求項1〜9のいずれかに記載の光触媒を含有することを特徴とする繊維。
【請求項30】
請求項1〜9のいずれかに記載の光触媒を含有することを特徴とするプラスチック。
【請求項31】
請求項1〜9のいずれかに記載の光触媒に被処理対象物を接触させて分解する方法。
【請求項32】
請求項1〜9のいずれかに記載の光触媒に光を照射しながら被処理対象物を接触させて分解する方法。
【請求項1】
光触媒粒子を含むコア部と、
前記コア部から離間して前記コア部を覆う多孔質シェル層と、を含み、
前記コア部と前記多孔質シェル層との間には中空層が設けられてなる光触媒であって、
窒素吸着法によって測定される、0.4〜50nmの範囲の細孔径の、単位重量当たりの細孔容積が0.1cm3/g以上である光触媒。
【請求項2】
窒素吸着法によって測定される、0.4〜50nmの範囲の細孔径の細孔容積が、全細孔容積の80%以上である請求項1に記載の光触媒。
【請求項3】
BET比表面積が50m2/g以上である請求項1に記載の光触媒。
【請求項4】
前記多孔質シェル層が、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化ランタン及び酸化セリウムからなる群から選択される少なくとも一種の酸化物を含むことを特徴とする請求項1に記載の光触媒。
【請求項5】
前記光触媒粒子が、酸化チタン、チタン酸ストロンチウム、酸化亜鉛、酸化銅、酸化ビスマス、酸化タングステン、酸化鉄、酸化ニオブ、酸化タンタル、アルカリ金属チタン酸塩、及びアルカリ金属ニオブ酸塩からなる群から選択される少なくとも1つからなることを特徴とする請求項1に記載の光触媒。
【請求項6】
前記光触媒粒子が、白金、ロジウム、ルテニウム、パラジウム、金、銀、銅、ニッケル、鉄、及びイリジウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属を担持してなることを特徴とする請求項5に記載の光触媒。
【請求項7】
前記光触媒粒子が、可視光の照射により励起される可視光応答型光触媒であることを特徴とする請求項1に記載の光触媒。
【請求項8】
前記コア部の直径が1nm〜20μmであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の光触媒。
【請求項9】
前記多孔質シェル層の多孔質部分の細孔径が、0.1nm〜100nmであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の光触媒。
【請求項10】
光触媒粒子を含むコア部と前記コア部から離間して当該コア部を覆う多孔質シェル層とを含む光触媒を作製する方法であって、
前記コア部の表面の少なくとも一部に直接炭素含有層を形成する第一工程と、
前記炭素含有層が形成されたコア部を懸濁させた溶媒に、細孔形成剤を混合して、前記炭素含有層を細孔形成剤で被覆するとともに、当該溶媒中に細孔形成剤を分散させる第二工程と、
前記溶媒中に多孔質シェル層の前駆物質を混合して、前記の炭素含有層表面を被覆する細孔形成剤の層上に、前記溶媒中に分散された細孔形成剤を含んでなる多孔質シェル層となる層を形成する第三工程と、
前記コア部と前記多孔質シェル層となる層との間にある前記炭素含有層及び前記細孔形成剤並びに前記多孔質シェル層となる層の壁内に含まれる細孔形成剤を除去する第四工程と、を含むことを特徴とする光触媒の作製方法。
【請求項11】
前記細孔形成剤が、界面活性剤であって、前記第二工程において、前記界面活性剤がミセルとして前記溶媒中に分散されることを特徴とする請求項10に記載の光触媒の作製方法。
【請求項12】
前記細孔形成剤が、水溶性ポリマーであることを特徴とする請求項10に記載の光触媒の作製方法。
【請求項13】
前記界面活性剤が、
【数1】
(n=7〜21、R1〜R4は、メチル基又は直鎖のアルキル基)で表される第四級アンモニウム塩であることを特徴とする請求項11に記載の光触媒の作製方法。
【請求項14】
前記界面活性剤が、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、オクチルトリメチルアンモニウムブロミド、デシルトリメチルアンモニウムブロミド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、テトラデシルトリメチルアンモニウムブロミド、オクタデシルトリメチルアンモニウムブロミド、セチルトリメチルアンモニウムクロリド、オクチルトリメチルアンモニウムクロリド、デシルトリメチルアンモニウムクロリド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド、テトラデシルトリメチルアンモニウムクロリド、及びオクタデシルトリメチルアンモニウムクロリドからなる群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする請求項13に記載の光触媒の作製方法。
【請求項15】
前記水溶性ポリマーが、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン、ポリエチレンオキシド、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリアルキルアミン、及びエチレンオキシド-プロピレンオキシド-エチレンオキシドからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項12に記載の光触媒の作製方法。
【請求項16】
光触媒粒子を含むコア部と前記コア部から離間して当該コア部を覆う多孔質シェル層とを含む光触媒を作製する方法であって、
前記コア部の表面の少なくとも一部に直接炭素含有層を形成する第一工程と、
前記炭素含有層が形成されたコア部を懸濁させた溶媒に、表面処理剤を混合して、前記炭素含有層の表面を当該表面処理剤で被覆する第二工程と、
前記溶媒中に細孔形成剤及び多孔質シェル層の前駆物質を混合して、前記表面処理剤の層上に、細孔形成剤を含んでなる多孔質シェル層となる層を形成する第三工程と、
前記コア部と前記多孔質シェル層となる層との間にある前記炭素含有層及び前記表面処理剤の層並びに前記多孔質シェル層となる層の壁内に含まれる細孔形成剤の一部を除去する第四工程と、を含むことを特徴とする光触媒の作製方法。
【請求項17】
前記細孔形成剤が、有機の置換基を含む金属アルコキシド、若しくは有機の置換基を含む金属クロライドであることを特徴とする請求項16に記載の光触媒の作製方法。
【請求項18】
前記表面処理剤が、塩基性官能基を含む金属アルコキシドであること特徴とする請求項16に記載の光触媒の作製方法。
【請求項19】
前記有機置換基が、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、イソオクチル基、オクタデシル基、フェニル基、ナフチル基、オクテニル基、ビニル基、アミノアルキル基、アミノフェニル基、アセトキシアルキル基、アクリロキシ基、アリル基、アリルアミノ基、アミノエチルアミノプロピル基、ブロモアルキル基、クロロアルキル基、シアノアルキル基、シクロヘキシル基、メタクリルオキシプロピル基フルオロアルキル基、フルオロフェニル基、メルカプトプロピル基からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項17に記載の光触媒の作製方法。
【請求項20】
前記第二工程及び/又は第三工程が、塩基性下で行われることを特徴とする請求項10又は16に記載の光触媒の作製方法。
【請求項21】
前記第四工程は、光触媒を加熱することによって前記炭素含有層を除去する工程を包含する請求項10又は16に記載の光触媒の作製方法。
【請求項22】
前記光触媒粒子が、可視光により励起される可視光応答型光触媒であることを特徴とする請求項10又は16に記載の光触媒作製方法。
【請求項23】
前記第三工程における多孔質シェル層の前駆物質が、金属アルコキシド、金属アセチルアセテート、金属硝酸塩、若しくは金属塩酸塩であることを特徴とする請求項10又は16に記載の光触媒の作製方法。
【請求項24】
前記金属アルコキシドが、シリコンアルコキシド、ジルコニウムアルコキシド、アルミニウムアルコキシド、マグネシウムアルコキシド、ランタンアルコキシド、及びセリウムアルコキシドからなる群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする請求項23に記載の光触媒の作製方法。
【請求項25】
前記第一工程における炭素含有層の前駆物質が、グルコース、スクロース、フェノール、ピロール、及びフルフリルアルコールからなる群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする請求項10又は16に記載の光触媒の作製方法。
【請求項26】
請求項1〜9のいずれかに記載の光触媒を含有することを特徴とする塗料。
【請求項27】
請求項1〜9のいずれかに記載の光触媒を含有することを特徴とする塗膜。
【請求項28】
請求項1〜9のいずれかに記載の光触媒を含有することを特徴とする紙。
【請求項29】
請求項1〜9のいずれかに記載の光触媒を含有することを特徴とする繊維。
【請求項30】
請求項1〜9のいずれかに記載の光触媒を含有することを特徴とするプラスチック。
【請求項31】
請求項1〜9のいずれかに記載の光触媒に被処理対象物を接触させて分解する方法。
【請求項32】
請求項1〜9のいずれかに記載の光触媒に光を照射しながら被処理対象物を接触させて分解する方法。
【図1】
【図2】
【図3a】
【図3b】
【図3c】
【図3d】
【図3e】
【図5a】
【図5b】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図4】
【図2】
【図3a】
【図3b】
【図3c】
【図3d】
【図3e】
【図5a】
【図5b】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図4】
【公開番号】特開2008−284411(P2008−284411A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−128851(P2007−128851)
【出願日】平成19年5月15日(2007.5.15)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(801000061)財団法人大阪産業振興機構 (168)
【出願人】(000000354)石原産業株式会社 (289)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年5月15日(2007.5.15)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(801000061)財団法人大阪産業振興機構 (168)
【出願人】(000000354)石原産業株式会社 (289)
【Fターム(参考)】
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