主軸装置用軸受
【課題】良好な排油性を有し、軸受に対する潤滑油過多や軸受の異常発熱を抑制すると共に、保持器の摩耗を防止することができる主軸装置用軸受を提供する。
【解決手段】主軸装置用軸受70の外輪71には、排油穴71a,71bが径方向に貫通形成されるとともに、外輪71の外周面には、排油穴71a,71bと連通する周方向溝75a,75bが形成される。また、保持器74は、排油穴71a,71bの内周側開口と径方向から見てオーバーラップしない位置で、円環部74aによって外輪案内される。排油穴71a,71b内には、負圧発生装置103の吸引力によって、負圧が作用する。
【解決手段】主軸装置用軸受70の外輪71には、排油穴71a,71bが径方向に貫通形成されるとともに、外輪71の外周面には、排油穴71a,71bと連通する周方向溝75a,75bが形成される。また、保持器74は、排油穴71a,71bの内周側開口と径方向から見てオーバーラップしない位置で、円環部74aによって外輪案内される。排油穴71a,71b内には、負圧発生装置103の吸引力によって、負圧が作用する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主軸装置用軸受に関し、より詳細には、多軸制御の工作機械等に適用され、外部から潤滑油が供給される、高速回転可能な主軸装置用軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、5軸加工機や複合加工工作機械のような多軸制御される工作機械では、工具が取り付けられる回転軸が、水平位置と垂直位置との間、或いは、360度全域に亘って旋回可能な、チルトタイプの主軸装置が使用されている。
【0003】
このような主軸装置では、内部に配置された軸受を潤滑する方式として、エアを利用して、外部から軸受内部に微量の潤滑油を供給するオイルエア潤滑方式やオイルミスト潤滑方式、また、潤滑油を軸受内部に間欠的に高速度で直接噴射する直接噴射方式が採用されている。
【0004】
例えば、オイルエア潤滑やオイルミスト潤滑では、図18に示すように、ノズル901から軸受900に潤滑油を供給するとともに、外輪900aや間座902に形成された排油穴903aや排油溝903bからハウジング904の排油通路905を経て外部に排出される構造が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】実開昭63−139324号公報(第3図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に記載の主軸装置用軸受では、重力作用により潤滑油をハウジング904の排油通路905を介して自然に排油するものであるが、軸受内部やその周辺に潤滑のために使用された潤滑油が排出しきれない可能性がある。特に、dm・N50万以上、さらに軸受内部の残油量が潤滑条件に敏感に作用するdm・N100万以上で高速回転可能な主軸装置においては、潤滑油過多や攪拌抵抗によって異常発熱を生じる可能性がある。また、チルトタイプの主軸装置に適用した場合には、主軸装置の姿勢変化により、一端排油穴903aや排油溝903b内に排出された潤滑油が軸受内部に戻り、潤滑油過多や攪拌抵抗によって異常発熱を生じる可能性がある。
【0006】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、良好な排油性を有し、軸受に対する潤滑油過多や軸受の異常発熱を抑制すると共に、保持器の摩耗を防止することができる主軸装置用軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 外周面に内輪軌道面を有する内輪と、
内周面に外輪軌道面を有する外輪と、
前記内輪軌道面と前記外輪軌道面との間に配置される複数の転動体と、
前記複数の転動体を転動自在に保持する保持器と、
を有し、工具を取り付け可能な回転軸をハウジングに対して回転自在に支持するとともに、オイル潤滑によって潤滑される主軸装置用軸受であって、
前記外輪には、排油穴が径方向に貫通形成されるとともに、該排油穴内には、軸受外部からの吸引力によって、負圧が作用し、
前記保持器は、前記排油穴の内周側開口と径方向から見てオーバーラップしない位置の外周面によって外輪案内されることを特徴とする主軸装置用軸受。
(2) 前記主軸装置用軸受は、玉が接触角を持って前記外輪軌道面と前記内輪軌道面との間に配置されるアンギュラ玉軸受であり、
前記外輪の反カウンターボア側に形成される前記排油穴は、前記玉の中心を通過する、前記接触角によって形成される仮想線と前記外輪の外周面との交点から軸方向外側に離れた位置に形成されることを特徴とする上記(1)に記載の主軸装置用軸受。
(3) 前記主軸装置用軸受は、円筒ころが前記外輪軌道面と前記内輪軌道面との間に配置され、前記内輪が前記内輪軌道面の軸方向両側に一対の鍔部を有する円筒ころ軸受であり、
前記外輪には、さらに、前記潤滑油を給油するための給油穴が径方向に貫通形成されることを特徴とする(1)に記載の主軸装置用軸受。
【発明の効果】
【0008】
本発明の主軸装置用軸受によれば、外輪に形成される排油穴内には、軸受外部からの吸引力によって、負圧が作用するので、軸受内部の余分な潤滑油を排油穴を介して速やかに排出することができる。特に、チルトタイプの主軸装置では、その姿勢が変化した場合であっても、排出されるはずの排油穴内の潤滑油が軌道面に戻ることが防止され、潤滑油過多や異常発熱を抑制することができる。
【0009】
また、保持器は、排油穴の内周側開口と径方向から見てオーバーラップしない位置の外周面によって外輪案内されるので、保持器の外輪案内面と排油穴の内周側開口との接触を防止することができ、これによって保持器、特に外輪案内面の摩耗を抑制して軸受の寿命を延ばすことができる。
【0010】
更に、アンギュラ玉軸受において、外輪の反カウンターボア側に形成される排油穴が、接触角によって形成される玉の中心を通る仮想線と、外輪の外周面との交点から、軸方向外側に離れた位置に形成されるので、外輪に作用する力が排油穴の形成によって肉薄となった部分にかかることが防止され、アンギュラ玉軸受の剛性低下を抑えることができる。
【0011】
また、円筒ころ軸受において、外輪には、排油穴に加えて、潤滑油を給油するための給油穴が径方向に貫通形成されるので、軸受の外側に別途ノズルを設ける必要がなく、簡単な構成で、潤滑油を軸受内部に供給することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態に係る工作機械用主軸装置について図面に基づいて詳細に説明する。
【0013】
図1は、本実施形態の軸受を備えた主軸装置が組み込まれる、複合加工工作機械としての門形マシニングセンタを示す。門形マシニングセンタ1では、ベッド2の上にテーブル3がX軸方向へ移動可能に支持されており、ベッド2の両側には一対のコラム4が立設されている。コラム4の上端にはクロスレール5が架設されており、クロスレール5には、サドル6がY軸方向へ移動可能に設けられる。また、サドル6には、Z軸方向に昇降可能なラム7が支持されており、ラム7の下端には、主軸装置20をY軸回り及びZ軸回りに回転割出し駆動可能に保持する主軸ヘッド8が装着されている。
【0014】
主軸ヘッド8には、主軸装置20のブラケット21を挟むように一対の支持アーム9が設けられており、一対の支持アーム9は、ブラケット21の両側面に固定された図示しない一対の旋回シャフトを回転可能に支持する。これにより、主軸装置20は、主軸ヘッド8側に設けられた図示しない駆動機構によって一対の支持アーム9に対してY軸回りに旋回可能であり、水平位置と垂直位置との間、或いは、360度全域に亘って取付姿勢を変化することができるチルトタイプを構成する。
【0015】
図2に示すように、主軸装置20は、モータビルトイン方式であり、その軸方向中心部には、中空状の回転軸22が設けられ、回転軸22の軸芯には、ドローバ23が摺動自在に挿嵌されている。ドローバ23は、工具ホルダ24に取付けられたプルスタッド25を、クランプボール26を介して、皿ばね27の力によって反工具側方向(図の右方向)に付勢しており、工具ホルダ24は、回転軸22のテーパ面28と嵌合する。工具ホルダ24には図示しない工具が取り付けられており、この結果、回転軸22は、一端(図の左側)に工具をクランプして、工具を取り付け可能としている。
【0016】
また、回転軸22は、その工具側を支承する2列の前側軸受60,70と、反工具側を支承する1列の後側軸受80とによって、ブラケット21(図1参照。)に固定されたハウジングHを構成する外筒29に回転自在に支持されている。なお、前側軸受60,70及び後側軸受80は、本実施形態の主軸装置用軸受を構成する。
【0017】
前側軸受60,70と後側軸受80間における回転軸22の外周面には、ロータ30が焼き嵌めされたロータスリーブ31が外嵌されている。また、ロータ30の周囲に配置されるステータ32は、ステータ32に焼き嵌めされた冷却ジャケット33を外筒29に内嵌することで、外筒29に固定される。従って、ロータ30とステータ32はモータを構成し、ステータ32に電力を供給することでロータ30に回転力を発生させ、回転軸22を回転させる。
【0018】
また、外筒29と反工具側で固定されたハウジングHを構成する後蓋34には、工具アンクランプピストン35を摺動自在に内嵌したハウジングHを構成する工具アンクランプシリンダ36が固定されている。よって、工具を交換する際には、油路37から油圧室38に作動油を導き、工具アンクランプピストン35を工具側(図の左側)へ前進させることにより、ドローバ23を工具側(図の左側)へ前進させて、工具をアンクランプする。
【0019】
前側軸受60,70は、外輪61,71と、内輪62,72と、接触角を持って配置される転動体としての玉63,73と、玉63,73を略等間隔で保持する外輪案内の保持器64,74と、をそれぞれ有するアンギュラ玉軸受であり、背面組み合わせとなるように配置されている。後側軸受80は、外輪81と、内輪82と、転動体としての円筒ころ83と、円筒ころ83を略等間隔で保持する外輪案内の保持器84と、を有する円筒ころ軸受である。
【0020】
前側軸受60,70の外輪61,71は外筒29に内嵌されており、且つ外筒29にボルト締結された前側軸受外輪押え39によってノズル付き外輪間座40を介して外筒29に対し軸方向に固定されている。また、前側軸受60,70の内輪62,72は、回転軸22に外嵌されており、且つ回転軸22に締結されたナット41によって内輪間座42を介して回転軸22に対し軸方向に固定されている。
【0021】
後側軸受80の外輪81は後蓋34に内嵌されており、且つ後蓋34にボルト締結された後側軸受外輪押え43によって後蓋34に固定されている。後側軸受80の内輪82は、回転軸22に形成されたテーパ面44とテーパ嵌合されており、回転軸22に締結された他のナット45によって、内輪間座46及び速度センサ47の被検出部48を介して位置決めされている。
【0022】
なお、後側軸受外輪押え43の反工具側には、被検出部48と径方向に対向する位置に速度センサ47の検出部49が固定されており、回転軸22の回転速度を検出する。また、前側軸受外輪押え39の工具側端面には、フロントカバー50がボルト固定されている。
【0023】
ここで、図2〜図4に示すように、ハウジングHを構成する外筒29、後蓋34、工具アンクランプシリンダ36には、前側軸受60,70及び後側軸受80をそれぞれ潤滑するための複数の給油通路(ハウジングHの給油用穴)90,91,92が形成されており、これら通路90,91,92の一端側には、潤滑油を送り込む潤滑装置93が図示しない配管を介してそれぞれ取り付けられている。なお、潤滑装置93によって供給される潤滑方式は、オイル潤滑であればよく、オイルエア潤滑、オイルミスト潤滑、直噴潤滑等のいずれであってもよい。
【0024】
例えば、オイルエア潤滑の場合、給油通路90,91,92の他端側は、外輪間座40に形成されたノズル40a(図2参照。),40b(図3参照。)、後側軸受外輪押え43に形成されたノズル43a(図4参照。)と連通しており、潤滑装置93によって送られた潤滑油を各軸受60,70,80の側方から軸受空間内に供給する。
【0025】
また、ハウジングHには、各軸受60,70,80を潤滑した潤滑油をそれぞれ排出する複数の排出通路(ハウジングHの排油用穴)100(図2参照。),101(図3参照。),102(図4参照。)が形成されており、これら通路100,101,102の一端側には、潤滑油を吸引するための負圧発生装置103がそれぞれ図示しない配管を介して接続されている。
【0026】
具体的に、図5に拡大して示すように、前側軸受70では、複数の玉73が、外輪71の内周面に形成された略円弧状の外輪軌道面71cと、内輪72の外周面に形成された略円弧状の内輪軌道面72aとの間に径方向に対して接触角を持って配置されている。前側軸受70の外輪71には、カウンターボア側、及び反カウンターボア側の内周面で玉73が通過する外輪軌道面71cの近傍に開口して、且つ、径方向に貫通する排油穴71a,71bが周方向に略等間隔で複数本ずつ形成されている。外輪71の内周面には、排油穴71a,71bが開口する軸方向位置に、集油溝77a,77bが周方向に亘って形成されている。また、外輪71の外周面には、これら排油穴71a,71bがそれぞれ開口する環状の周方向溝75a,75bが形成されており、これら周方向溝75a,75bは、これら排油穴71a,71bと、外筒29に形成された排油通路101の排油穴29a,29bとをそれぞれ連通する。なお、排油穴71a,71bの内周側開口に形成された集油溝77a,77bは、図5に示すように、外輪軌道面71cの近傍に開口することが好ましい。さらに、集油溝77a,77bは、径方向から見て、玉73とオーバーラップする位置にそれぞれ形成されることがより好ましい。この結果、転がり接触部を潤滑後、玉73に付着した油が遠心力により振り切られた後、直接集油溝77a,77bに導かれるメリットがある。ただし、集油溝77a,77bは、径方向から見て、玉73とオーバーラップする位置に限定されるものではない。
【0027】
保持器74は、玉73を略等間隔で保持する外輪案内の保持器であり、軸方向に略線対称に形成されている。保持器74は、軸方向両側に位置する一対の円環部74a,74bと、これら円環部74a,74bを連結し、周方向に略等間隔で配置される複数の柱部74cと、を有し、これら円環部74a,74bと隣接する柱部73cとで玉73を保持するポケットを構成する。また、保持器74は、柱部74cの外周面と両円環部74a,74bの外周面の内側部分を、円環部74a,74bの外周面の外側部分より小径とすることで、逃げ部74dを形成する。これにより、保持器74は、反カウンターボア側において、円環部74aの外周面の外側部分と外輪71の内周面71fとが、排油穴71aの集油溝77aと径方向から見てオーバーラップしない位置で摺接することで、外輪案内される。
【0028】
従って、保持器74の案内面である円環部74aは、集油溝77aの開口縁部によって削られることなく、保持器74の摩耗が防止される。なお、前側軸受60は、前側軸受70と背面組み合わせで配置される、前側軸受70と同一の構成であるので、説明を省略する。
【0029】
また、図5に示すアンギュラ玉軸受70では、給油方向が背面側から行われているが、図6に示す変形例のように、ハウジングH内の給油通路やノズルの構成に応じて、正面側から行われても良い。
【0030】
また、図7に示すように、後側軸受80も、前側軸受60,70と同様、複数の円筒ころ83が、外輪81の内周面に形成された外輪軌道面81cと、内輪82の外周面に形成された内輪軌道面82aとの間に配置されている。また、内輪82は、内輪軌道面82aの軸方向両側に一対の鍔部82bを有する。外輪81の軸方向両側の内周面には、円筒ころ83と干渉しない位置の外輪軌道面81cの近傍に、径方向に貫通する排油穴81a,81bが周方向に略等間隔で複数本ずつ形成されている。そして、外輪81の内周面には、排油穴81a,81bが開口する軸方向位置に、集油溝87a,87bが周方向に亘って形成されている。また、外輪81の外周面には、これら排油穴81a,81bがそれぞれ開口する環状の周方向溝85a,85bが形成されており、これら周方向溝85a,85bは、これら排油穴81a,81bと、後蓋34に形成された排油通路102の排油穴34a,34bとをそれぞれ連通する。
【0031】
また、保持器84も、円筒ころ83を略等間隔で保持する外輪案内の保持器であり、軸方向に略線対称に形成されている。保持器84は、軸方向両側に位置する一対の円環部84a,84bと、これら円環部84a,84bを連結し、周方向に略等間隔で配置される複数の柱部84cと、を有し、これら円環部84a,84bと隣接する柱部83cとで円筒ころ83を保持するポケットを構成する。また、保持器84は、柱部84cの外周面と両円環部84a,84bの外周面の内側部分を、円環部84a,84bの外周面の外側部分より小径とすることで、逃げ部84dを形成する。
【0032】
これにより、保持器84は、円環部84a,84bの外周面の外側部分と外輪81の内周面81fとが、排油穴81a,81bの集油溝87a,87bと径方向から見てオーバーラップしない位置、即ち、集油溝87a,87bの軸方向外側で摺接することによって外輪案内される。従って、保持器84の案内面である円環部84a,84bは、集油溝87a,87bの開口縁部によって削られることがなく、保持器84の摩耗が防止される。
【0033】
また、本実施形態において、後側軸受80である円筒ころ軸受への給油方向及び給油位置としては、図8(a)〜図8(h)に示すようなものが挙げられる。具体的に、図8(a)に示すように、給油は、内輪82の外周面と保持器84の内周面との間に向けて、工具側から行われても良い。また、図8(b)に示すように、給油は、外輪81の内周面と保持器84の外周面との間に向けて、工具側から行われても良い。さらに、図8(c)に示すように、給油は、内輪82の外周面と保持器84の内周面との間に向けて、反工具側から行われても良く、図8(d)に示すように、外輪81の内周面と保持器84の外周面との間に向けて、反工具側から行われても良い。
【0034】
また、図8(e)に示すように、給油は、内輪82の外周面と保持器84の内周面との間と、外輪81の内周面と保持器84の外周面との間の2箇所に向けて、工具側から行われても良い。また、図8(f)に示すように、給油は、内輪82の外周面と保持器84の内周面との間に向けて、工具側と反工具側の両方から行われても良く、図8(g)に示すように、外輪81の内周面と保持器84の外周面との間に向けて、工具側と反工具側の両方から行われても良い。加えて、図8(h)に示すように、給油は、内輪82の外周面と保持器84の内周面との間と、外輪81の内周面と保持器84の外周面との間の2箇所に向けて、反工具側から行われても良い。なお、前側軸受60,70であるアンギュラ玉軸受への給油方向及び給油位置も、円筒ころ軸受と同様に、軸受の軸方向外側から給油することができる。また、各給油の位相は、同じ位相であってもよいし、異なる位相であってもよい。
【0035】
なお、図9に示すように、軸方向片側のみに排油穴81aが形成される場合には、排油性の観点から、円筒ころ83に対して潤滑油を給油する側(図中矢印で示す)と反対側に形成される。この場合にも、この排油穴81aが外周面及び内周面に開口する位置には、周方向溝85a及び集油溝87aが形成される。
【0036】
従って、各軸受60,70,80を潤滑した、排油穴71a,71b,81a,81bの潤滑油が、周方向溝75a,75b,85a,85bと、各排油通路100,101,102とを介して、外部へ排出される。この際、軸受外部からの吸引力、即ち、負圧発生装置103の吸引力によって、排油穴71a,71b,81a,81b内には、負圧が作用し、排油穴71a,71b,81a,81b内の潤滑油が強制的に吸引される。また、負圧発生装置103の吸引力によって、各外輪軌道面71c,81cの近傍の外輪61,71,81の内周面に付着した潤滑油も、負圧発生装置103の吸引力によって、排油穴71a,71b,81a,81bへと導かれる。
【0037】
これにより、各軸受60,70,80の外輪軌道面71c,81cの近傍に設けられた排油穴71a,71b,81a,81bから余分な潤滑油を速やかに排出することができる。特に、本実施形態のようなチルトタイプの主軸装置20において、その姿勢が変化した場合であっても、排出されるはずの潤滑油が軸受内部に戻ること、特に、排油穴71a,71b,81a,81bに存在する潤滑油が外輪軌道面71c,81cに戻ることが防止され、潤滑油過多や攪拌抵抗による異常発熱を抑制することができる。
【0038】
また、保持器74,84は、円環部74a,84a,84bの外周面が、外輪71,81の内周面71f,81fと、排油穴71a,81a,81bの内周側開口に位置する集油溝77a,87a,87bと径方向から見てオーバーラップしない位置で摺接して外輪案内されるので、保持器74,84の円環部74a,84a,84bが、集油溝77a,87a,87bの開口縁部に接触することを防止することができ、これによって保持器74,84、特に円環部74a,84a,84bの摩耗を抑制して、軸受60,70,80の寿命を延ばすことができる。
【0039】
また、外輪61,71,81の外周面には、排油穴71a,71b,81a,81bとハウジングHの排油通路100,101,102とを連通する周方向溝75a,75b,85a,85bが形成されているので、排油通路100,101,102との位相合わせを行うことなく、軸受60,70,80をハウジングHに組み付けることができ、主軸装置20の組み付け性が向上される。
【0040】
さらに、外輪61,71,81の内周面には、排油穴71a,71b,81a,81bが開口する軸方向位置に集油溝77a,77b,87a,87bが周方向に亘って形成されているので、外輪61,71,81の内周面に付着する、軸受を潤滑した潤滑油が集油溝77a,77b,87a,87bに集められ、集油溝77a,77b,87a,87b内の潤滑油が、負圧発生装置103によって、排油穴71a,71b,81a,81bへと速やかに排出される。
【0041】
軸受60,70,80が高速回転していると、玉63,73や円筒ころ83の公転、また、保持器74や内輪72の自転の際、内部の空気もその粘性抵抗により、同様に回転させられ、円周方向の空気流が生じている。従って、外輪61,71,81の内周面に付着した油も内周面に沿って円周方向に移動している。特に、回転軸22が立軸の場合、重力効果が少ないのでこの油の移動が発生しやすい。従って、集油溝77a,77b,87a,87bがあると、集油溝77a,77b,87a,87b内に油が集まりやすく、排油性が向上される。従って、集油溝77a,77b,87a,87bは、断面角型、円弧状、テーパ状のいずれであっても良いが、角型より円弧状がより好ましい。
【0042】
また、本実施形態では、排油通路100,101,102は、各軸受60,70,80毎に形成されているので、負圧発生装置103の吸引能力条件を変化させることで、各軸受60,70,80の吸引効率を最適化することができる。
【0043】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る主軸装置用軸受について、図10を参照して詳細に説明する。なお、本実施形態では、前側軸受であるアンギュラ玉軸受の構成において、第1実施形態と異なる。そのため、第1実施形態と同等部分については、同一符号を付して説明を省略或いは簡略化する。
また、以下に説明するアンギュラ玉軸受に係る各実施形態では、複列の前側軸受のうち、反工具側のアンギュラ玉軸受について説明するものとし、工具側のアンギュラ玉軸受は同一構成であるとして、説明を省略する。
【0044】
図10に示すように、本実施形態のアンギュラ玉軸受170の外輪171は、カウンターボア側、及び反カウンターボア側の内周面で玉73が通過する外輪軌道面71cの近傍に開口して、且つ、径方向に貫通する排油穴171a,71bが周方向に略等間隔で複数本ずつ形成されている。反カウンターボア側に形成される排油穴171aは、玉73の中心Oを通過する、接触角によって形成される仮想線Lと外輪171の外周面との交点Pから軸方向外側に離れた位置に形成されている。これにより、外輪171の外輪軌道面71cと排油穴171aとの間には、比較的幅が広い内周面171fが形成される。
【0045】
また、外輪171の外周面には、排油穴171a,71bが開口する周方向溝75a,75bが形成され、内周面には、排油穴171a,71bが開口する軸方向位置に、周方向に亘って環状の集油溝177a,77bが形成されている。また、周方向溝75a,75bは、排油穴171a,71bと排油通路101の排油穴29a,29bとを連通する。
【0046】
保持器174は、軸方向両側に位置する一対の円環部174a,174bと、これら円環部174a,174bを連結し、周方向に略等間隔で配置される複数の柱部174cと、を有し、これら円環部174a,174bと隣接する柱部174cとで玉73を保持するポケットを構成する。円環部174a,174b及び柱部174cは、略一様な肉厚を有する。また、保持器174の軸方向幅は、第1実施形態の保持器74より狭く形成されている。即ち、保持器174は、円環部174aの外周面が、排油穴171aの集油溝177aと径方向から見てオーバーラップしない、即ち、集油溝177aの軸方向内側に位置し、外輪軌道面71cと排油穴171aとの間に形成された内周面171fに摺接することで、外輪案内される。
【0047】
従って、本実施形態では、反カウンターボア側の排油穴171aが、玉73の中心Oを通過する、接触角によって形成される仮想線Lと外輪171の外周面との交点Pから軸方向外側に離れた位置に形成されているので、主軸装置20に組み込まれることで外輪171に作用する力が、排油穴171aの形成によって肉薄となった部分にかかることが防止され、アンギュラ玉軸受170の剛性低下を抑えることができる。また、保持器174の案内面となる円環部174aが、集油溝177aの開口縁部によって削られることがないので、保持器174の摩耗が防止される。
その他の構成及び作用については、第1実施形態のものと同様である。
【0048】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態に係る主軸装置用軸受について、図11を参照して詳細に説明する。なお、本実施形態では、前側軸受であるアンギュラ玉軸受の構成において、第1及び第2実施形態と異なる。そのため、第1及び第2実施形態と同等部分については、同一符号を付して説明を省略或いは簡略化する。
【0049】
図11(a)に示すように、本実施形態のアンギュラ玉軸受270の外輪271は、カウンターボア側、及び反カウンターボア側の内周面で玉73が通過する外輪軌道面71cの近傍に開口して、且つ、径方向に貫通する排油穴271a,71bが周方向に略等間隔で複数本ずつ形成されている。これら排油穴271a,71bは、径方向から見て、玉73とオーバーラップする位置に形成されている。
【0050】
外輪271の外周面には、排油穴271a,71bが開口する周方向溝75a,75bが形成されている。また、外輪271のカウンターボア側の内周面には、上記実施形態と同様、排油穴71bが開口する軸方向位置に断面略円弧状の環状の集油溝77bが周方向に亘って形成されている。一方、外輪271の反カウンターボア側の内周面で、排油穴271aが開口する軸方向位置に設けられる環状の集油溝277aは、保持器74を案内する内周面271fより大径の内周面を持った、断面角型に形成される。
【0051】
保持器74は、第1実施形態と同様、逃げ部74dを有しており、反カウンターボア側において、円環部74aの外周面の外側部分と外輪271の内周面271fとが、径方向から見て排油穴271aとオーバーラップしない位置で外輪案内される。これにより、保持器74の案内面である円環部74aは、集油溝277aの開口縁部によって削られることなく、摩耗が防止される。
その他の構成及び作用については、第1及び第2実施形態のものと同様である。
【0052】
図11(b)は、本実施形態の変形例を示している。この変形例では、保持器274は、円環部274a,274b及び柱部274cが、略一様な肉厚を有し、軸方向において略線対称に形成されている。また、集油溝277aの開口縁部と対向する、円環部274aの外周面には、円環状の逃げ溝274dが形成されている。これにより、保持器274は、排油穴271aと径方向から見てオーバーラップしない位置、即ち、逃げ溝274dより軸方向外側の円環部274aの外周面で、外輪271の内周面271fに案内される。従って、この変形例によれば、逃げ部の代わりに、逃げ溝274dを円環部274aの外周面に設けることで、保持器274の摩耗を防止することができる。なお、保持器274には、対称性を考慮して、円環部274bの外周面にも、円環状の逃げ溝274dが形成されている。
【0053】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態に係る主軸装置用軸受について、図12を参照して詳細に説明する。なお、本実施形態では、前側軸受であるアンギュラ玉軸受の構成において、第1〜3実施形態と異なる。そのため、第1〜3実施形態と同等部分については、同一符号を付して説明を省略或いは簡略化する。
【0054】
図12に示すように、前側軸受370では、保持器374は、玉73の両側で外輪案内されている。外輪371は、外輪軌道面71cの両側内周面において、内輪72のカウンターボア面72bに径方向で対向する内周面371f1を外輪軌道面71cに対して反対側の内周面371f2よりも小径とし、各内周面371f1、371f2をそれぞれ略一様内径とする。また、外輪371の各内周面371f1、371f2には、上記実施形態と同様、集油溝77a,77bが開口しており、集油溝77a,77bは、それぞれ排油穴71a,71b、周方向溝75a,75bと連通する。
【0055】
保持器374は、軸方向両側に位置する、互いの外径が異なる小径側円環部374a,及び大径側円環部374bと、これら円環部374a,374bを連結し、周方向に略等間隔で配置される複数の柱部374cと、を有し、これら円環部374a,374bと隣接する柱部373cとで玉73を保持するポケットを構成する。また、保持器374は、柱部374cの外周面と両円環部374a,374bの外周面の内側部分に逃げ部374dを形成する。この逃げ部374dは、外輪371の各内周面371f1,371f2に応じて、柱部374cの外周面において段差形状を有し、小径円環部374aの外周面の内側部分は、その外側部分より小径に形成され、また、大径円環部374bの外周面の内側部分も、その外側部分より小径に形成される。これにより、保持器374は、両側内周面において、各円環部374a,374bの外周面の外側部分と外輪371の内周面371f1,371f2とが、各排油穴71a,71bの集油溝77a,77bと径方向から見てオーバーラップしない位置で摺接することで、外輪案内される。
なお、その他の構成及び作用については、第1〜第3実施形態のものと同様である。また、玉の両側で外輪案内する保持器は、一対の円環部の外径を同一寸法とし、外輪の円筒ころに対して両側の各内周面の内径を同一寸法としてもよい。
【0056】
(第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態に係る主軸装置用軸受について、図13を参照して詳細に説明する。なお、本実施形態では、後側軸受である円筒ころ軸受の構成において、第1実施形態と異なる。そのため、第1実施形態と同等部分については、同一符号を付して説明を省略或いは簡略化する。
【0057】
図13(a)に示すように、本実施形態の円筒ころ軸受180では、保持器184の形状において、第1実施形態のものと異なる。即ち、この保持器184は、第1実施形態と同様、一対の円環部184a,184bと、複数の柱部184cと、を有するが、円筒ころ83に対して潤滑油を給油する側(図中矢印で示す)と同じ側に位置する一方の円環部184aで、外輪案内される。即ち、逃げ部184dが、一方の円環部184aの外周面の内側部分、柱部184cの外周面、他方の円環部184bの外周面に亘って形成される。また、一方の円環部184aのうち、径方向から見て排油穴81aとオーバーラップしない位置、換言すれば、排油穴81aより軸方向外側に位置する部分で、外輪81の内周面81fに案内される。
【0058】
従って、本実施形態においても、保持器184の案内面である円環部184aの外周面が、集油溝87aの開口縁部によって削られることがないので、保持器184の摩耗が防止される。また、保持器184は、給油する側と同じ側に位置する円環部184aで外輪案内されるので、給油した油が円筒ころ83だけでなく案内面にも確実に潤滑される。
その他の構成及び作用については、第1実施形態のものと同様である。
【0059】
また、図13(b)の変形例に示すように、軸方向片側のみに排油穴81bが形成される場合には、排油穴81bは、排油性の観点から、円筒ころ83に対して潤滑油を給油する側(図中矢印で示す)と反対側に形成される。この場合にも、この排油穴81aが外周面及び内周面に開口する位置には、周方向溝85a及び集油溝87aが形成される。
【0060】
(第6実施形態)
次に、本発明の第6実施形態に係る主軸装置用軸受について、図14を参照して詳細に説明する。なお、本実施形態では、後側軸受である円筒ころ軸受の構成において、第1および第5実施形態と異なる。そのため、第1および第5実施形態と同等部分については、同一符号を付して説明を省略或いは簡略化する。
【0061】
図14(a)に示すように、本実施形態の円筒ころ軸受280では、給油が外輪281に径方向に貫通形成された給油穴285を介して行われている。具体的に、給油穴285は、円筒ころ83と干渉しない外輪軌道面81cの近傍に開口する。また、外輪281の外周面には、給油穴285が開口する軸方向位置に環状の周方向溝286が形成されている。これにより、後蓋34に形成された給油通路92から供給された潤滑油は、周方向溝286、給油穴285を介して供給される。なお、給油は、給油穴285単独であっても良いし、後側軸受外輪押え43のノズルからの給油を併用してもよい。また、周方向溝286は、断面円弧状に形成されてもよい。
【0062】
また、円筒ころ83を挟んで外輪281の給油穴285と軸方向反対側には、排油穴81bが形成されている。排油穴81bが開口する軸方向位置の外輪281の内周面には、周方向に亘って環状の集油溝87bが形成され、また、外輪281の外周面には、環状の周方向溝85bが形成されており、周方向溝85bは、排油穴81bと排油通路102の排油穴34bとを連通する。これにより、給油穴285から供給されて軸受内部を潤滑した潤滑油は、負圧発生装置103の吸引力によって、集油溝87b、排油穴81b、周方向溝85b、排油通路102を介して強制的に外部に排出される。
【0063】
なお、保持器84は、第1実施形態のものと略同一構成であり、逃げ部84dが給油穴285および集油溝87bとの干渉を回避するように形成される。従って、保持器84は、両端部の円環部84a,84bが、径方向から見て給油穴285および排油穴81bとオーバーラップしない位置、即ち、それぞれ給油穴285及び集油溝87bの軸方向外方で、外輪281の内周面81fと摺接して外輪案内される。なお、図14では、簡略化のため、給油穴285と排油穴81bが同一断面に示されているが、実際には、異なる位相に配置されている。
【0064】
従って、本実施形態では、保持器84の案内面である円環部84a,84bは、給油穴285及び集油溝87bの開口縁部によって削られることなく、保持器84の摩耗が防止される。
その他の構成及び作用については、第1及び第5実施形態のものと同様である。
【0065】
なお、図14(b)に示す変形例のように、逃げ部84dが、一方の円環部84aの外周面の内側部分、柱部84cの外周面、他方の円環部84bの外周面に亘って形成され、一方の円環部84aのうち、径方向から見て給油穴285とオーバーラップしない位置、換言すれば、給油穴285より軸方向外側に位置する部分で、保持器84が外輪281の内周面281fに案内されてもよい。この場合も、保持器84は、給油する側と同じ側に位置する円環部84aで外輪案内されるので、給油した油が円筒ころ83だけでなく案内面にも確実に潤滑される。
【0066】
(第7実施形態)
次に、本発明の第7実施形態に係る主軸装置用軸受について、図15を参照して詳細に説明する。なお、本実施形態では、後側軸受である円筒ころ軸受の構成において、第1、第5および第6実施形態と異なる。そのため、第1、第5および第6実施形態と同等部分については、同一符号を付して説明を省略或いは簡略化する。
【0067】
図15(a)に示すように、本実施形態の円筒ころ軸受380では、外輪381に径方向に貫通形成される排油穴381a,381bは、外輪381の軸方向外側に位置して形成されている。排油穴381a,381bが開口する軸方向位置の外輪381の内周面には、周方向に亘って環状の集油溝387a,387bが形成され、また、外輪381の外周面には、環状の周方向溝85a,85bが形成される。
【0068】
また、保持器384は、一対の円環部384a,384bと、複数の柱部384cとを有し、柱部384cの外周面を小径として逃げ部384dが設けられているが、保持器384の軸方向幅が両排油穴381a,381b間の軸方向距離より狭く形成されている。
【0069】
従って、保持器384は、円環部384a,384bが、外輪軌道面81cと排油穴381a,381bとの間の各内周面381fと摺接することで、外輪案内される。これにより、円環部384a,384bが、集油溝387a,387bの開口縁部によって削られることなく、保持器384の摩耗が防止される。
その他の構成及び作用については、第1、第5及び第6実施形態のものと同様である。
【0070】
なお、図15(b)の変形例に示すように、軸方向片側のみに排油穴381aが形成される場合には、排油穴381aは、円筒ころ83に対して潤滑油を給油する側(図中矢印で示す)と反対側に形成される。この場合にも、この排油穴381aが内周面及び外周面に開口する位置には、集油溝387a及び周方向溝85aが形成される。
【0071】
また、図16(a)の他の変形例に示すように、保持器384は、円筒ころ83に対して潤滑油を給油する側(図中矢印で示す)と反対側に位置する一方の円環部384aで、外輪案内されてもよい。さらに、図16(b)のさらに他の変形例に示すように、排油穴381a、集油溝387a及び周方向溝85aが、円筒ころ83に対して潤滑油を給油する側(図中矢印で示す)と反対側のみに形成されてもよい。
【0072】
尚、本発明は、前述した各実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
本実施形態では、前側軸受60,70を2列のアンギュラ玉軸受,後側軸受80を円筒ころ軸受としたが、各軸受の種類や列数は任意に設定可能である。
また、本実施形態では、アンギュラ玉軸受の排油穴71a,71bや円筒ころ軸受の排油穴81a,81bは、それぞれ周方向に複数本ずつ形成されているが、周方向に少なくとも一本形成されればよい。
【0073】
さらに、図17に示す工作機械用主軸装置20aのように、各軸受60,70,80の排油穴が、ハウジングHに形成された単一の排油通路110と連通し、この排油通路110が、負圧発生装置103に図示しない配管を介して接続されてもよい。
【0074】
これにより、各軸受60,70,80を潤滑した潤滑油は、負圧発生装置103の吸引力によって強制的に吸引されながら、排油穴を介して、単一の排油通路110から外部へ排出され、軸受内部の潤滑油過多や異常発熱を抑制することができる。また、ハウジングHに穴加工する排油通路の数を少なくすることができ、加工コストを低減することができる。なお、図17では、異なる位相の前側軸受60,70のノズル40a,40bと、後側軸受80のノズル43aと、を同じ断面に示している。
【0075】
また、本実施形態では、軸受60,70,80毎に複数の給油通路90,91,92が設けられているが、これら給油通路90,91,92を単一の給油通路として、主軸装置20内で分岐して供給するようにしてもよく、潤滑方式や潤滑条件により複数の軸受毎に別通路とするか単一の共有通路とするかは最適方式を選択できる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の軸受を備える主軸装置が適用される門形マシニングセンタの概略図である。
【図2】第1実施形態の軸受が適用される主軸装置において、一方の前側軸受の給油通路及び排油通路を示す断面図である。
【図3】主軸装置において、他方の前側軸受の給油通路及び排油通路を示す断面図である。
【図4】主軸装置において、後側軸受の給油通路及び排油通路を示す断面図である。
【図5】主軸装置の前側軸受の拡大断面図である。
【図6】主軸装置の前側軸受の変形例を示す拡大断面図である。
【図7】主軸装置の後側軸受の拡大断面図である。
【図8】(a)〜(h)は、後側軸受の給油方向及び給油位置の各パターンを示す図である。
【図9】本実施形態の後側軸受の変形例を示す拡大断面図である。
【図10】第2実施形態の主軸装置用軸受に係る前側軸受の拡大断面図である。
【図11】(a)は、第3実施形態の主軸装置用軸受に係る前側軸受の拡大断面図であり、(b)は、その変形例を示す拡大断面図である。
【図12】第4実施形態の主軸装置用軸受に係る前側軸受の拡大断面図である。
【図13】(a)は、第5実施形態の主軸装置用軸受に係る後側軸受の拡大断面図であり、(b)は、その変形例を示す拡大断面図である。
【図14】(a)は、第6実施形態の主軸装置用軸受に係る後側軸受の拡大断面図であり、(b)は、その変形例を示す拡大断面図である。
【図15】(a)は、第7実施形態の主軸装置用軸受に係る後側軸受の拡大断面図であり、(b)は、その変形例を示す拡大断面図である。
【図16】(a)は、第8実施形態の他の変形例を示す拡大断面図であり、(b)は、さらに他の変形例を示す拡大断面図である。
【図17】主軸装置の変形例を示す断面図である。
【図18】従来の主軸装置における断面図である。
【符号の説明】
【0077】
1 門形マシニングセンタ(複合加工工作機械)
20 主軸装置
22 回転軸
60,70,170,270,370 前側軸受(アンギュラ玉軸受)
61,71,81,171,271,371,281,381 外輪
62,72,82 内輪
71a,71b,81a,81b,171a,171b,271a,271b,381a,381b 排油穴
73 玉
64,74,84,174,184,274,374,384 保持器
80,180,280,380 後側軸受(円筒ころ軸受)
100,101,102 排油通路
103 負圧発生装置
H ハウジング
L 仮想線
O 玉の中心
【技術分野】
【0001】
本発明は、主軸装置用軸受に関し、より詳細には、多軸制御の工作機械等に適用され、外部から潤滑油が供給される、高速回転可能な主軸装置用軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、5軸加工機や複合加工工作機械のような多軸制御される工作機械では、工具が取り付けられる回転軸が、水平位置と垂直位置との間、或いは、360度全域に亘って旋回可能な、チルトタイプの主軸装置が使用されている。
【0003】
このような主軸装置では、内部に配置された軸受を潤滑する方式として、エアを利用して、外部から軸受内部に微量の潤滑油を供給するオイルエア潤滑方式やオイルミスト潤滑方式、また、潤滑油を軸受内部に間欠的に高速度で直接噴射する直接噴射方式が採用されている。
【0004】
例えば、オイルエア潤滑やオイルミスト潤滑では、図18に示すように、ノズル901から軸受900に潤滑油を供給するとともに、外輪900aや間座902に形成された排油穴903aや排油溝903bからハウジング904の排油通路905を経て外部に排出される構造が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】実開昭63−139324号公報(第3図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に記載の主軸装置用軸受では、重力作用により潤滑油をハウジング904の排油通路905を介して自然に排油するものであるが、軸受内部やその周辺に潤滑のために使用された潤滑油が排出しきれない可能性がある。特に、dm・N50万以上、さらに軸受内部の残油量が潤滑条件に敏感に作用するdm・N100万以上で高速回転可能な主軸装置においては、潤滑油過多や攪拌抵抗によって異常発熱を生じる可能性がある。また、チルトタイプの主軸装置に適用した場合には、主軸装置の姿勢変化により、一端排油穴903aや排油溝903b内に排出された潤滑油が軸受内部に戻り、潤滑油過多や攪拌抵抗によって異常発熱を生じる可能性がある。
【0006】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、良好な排油性を有し、軸受に対する潤滑油過多や軸受の異常発熱を抑制すると共に、保持器の摩耗を防止することができる主軸装置用軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 外周面に内輪軌道面を有する内輪と、
内周面に外輪軌道面を有する外輪と、
前記内輪軌道面と前記外輪軌道面との間に配置される複数の転動体と、
前記複数の転動体を転動自在に保持する保持器と、
を有し、工具を取り付け可能な回転軸をハウジングに対して回転自在に支持するとともに、オイル潤滑によって潤滑される主軸装置用軸受であって、
前記外輪には、排油穴が径方向に貫通形成されるとともに、該排油穴内には、軸受外部からの吸引力によって、負圧が作用し、
前記保持器は、前記排油穴の内周側開口と径方向から見てオーバーラップしない位置の外周面によって外輪案内されることを特徴とする主軸装置用軸受。
(2) 前記主軸装置用軸受は、玉が接触角を持って前記外輪軌道面と前記内輪軌道面との間に配置されるアンギュラ玉軸受であり、
前記外輪の反カウンターボア側に形成される前記排油穴は、前記玉の中心を通過する、前記接触角によって形成される仮想線と前記外輪の外周面との交点から軸方向外側に離れた位置に形成されることを特徴とする上記(1)に記載の主軸装置用軸受。
(3) 前記主軸装置用軸受は、円筒ころが前記外輪軌道面と前記内輪軌道面との間に配置され、前記内輪が前記内輪軌道面の軸方向両側に一対の鍔部を有する円筒ころ軸受であり、
前記外輪には、さらに、前記潤滑油を給油するための給油穴が径方向に貫通形成されることを特徴とする(1)に記載の主軸装置用軸受。
【発明の効果】
【0008】
本発明の主軸装置用軸受によれば、外輪に形成される排油穴内には、軸受外部からの吸引力によって、負圧が作用するので、軸受内部の余分な潤滑油を排油穴を介して速やかに排出することができる。特に、チルトタイプの主軸装置では、その姿勢が変化した場合であっても、排出されるはずの排油穴内の潤滑油が軌道面に戻ることが防止され、潤滑油過多や異常発熱を抑制することができる。
【0009】
また、保持器は、排油穴の内周側開口と径方向から見てオーバーラップしない位置の外周面によって外輪案内されるので、保持器の外輪案内面と排油穴の内周側開口との接触を防止することができ、これによって保持器、特に外輪案内面の摩耗を抑制して軸受の寿命を延ばすことができる。
【0010】
更に、アンギュラ玉軸受において、外輪の反カウンターボア側に形成される排油穴が、接触角によって形成される玉の中心を通る仮想線と、外輪の外周面との交点から、軸方向外側に離れた位置に形成されるので、外輪に作用する力が排油穴の形成によって肉薄となった部分にかかることが防止され、アンギュラ玉軸受の剛性低下を抑えることができる。
【0011】
また、円筒ころ軸受において、外輪には、排油穴に加えて、潤滑油を給油するための給油穴が径方向に貫通形成されるので、軸受の外側に別途ノズルを設ける必要がなく、簡単な構成で、潤滑油を軸受内部に供給することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態に係る工作機械用主軸装置について図面に基づいて詳細に説明する。
【0013】
図1は、本実施形態の軸受を備えた主軸装置が組み込まれる、複合加工工作機械としての門形マシニングセンタを示す。門形マシニングセンタ1では、ベッド2の上にテーブル3がX軸方向へ移動可能に支持されており、ベッド2の両側には一対のコラム4が立設されている。コラム4の上端にはクロスレール5が架設されており、クロスレール5には、サドル6がY軸方向へ移動可能に設けられる。また、サドル6には、Z軸方向に昇降可能なラム7が支持されており、ラム7の下端には、主軸装置20をY軸回り及びZ軸回りに回転割出し駆動可能に保持する主軸ヘッド8が装着されている。
【0014】
主軸ヘッド8には、主軸装置20のブラケット21を挟むように一対の支持アーム9が設けられており、一対の支持アーム9は、ブラケット21の両側面に固定された図示しない一対の旋回シャフトを回転可能に支持する。これにより、主軸装置20は、主軸ヘッド8側に設けられた図示しない駆動機構によって一対の支持アーム9に対してY軸回りに旋回可能であり、水平位置と垂直位置との間、或いは、360度全域に亘って取付姿勢を変化することができるチルトタイプを構成する。
【0015】
図2に示すように、主軸装置20は、モータビルトイン方式であり、その軸方向中心部には、中空状の回転軸22が設けられ、回転軸22の軸芯には、ドローバ23が摺動自在に挿嵌されている。ドローバ23は、工具ホルダ24に取付けられたプルスタッド25を、クランプボール26を介して、皿ばね27の力によって反工具側方向(図の右方向)に付勢しており、工具ホルダ24は、回転軸22のテーパ面28と嵌合する。工具ホルダ24には図示しない工具が取り付けられており、この結果、回転軸22は、一端(図の左側)に工具をクランプして、工具を取り付け可能としている。
【0016】
また、回転軸22は、その工具側を支承する2列の前側軸受60,70と、反工具側を支承する1列の後側軸受80とによって、ブラケット21(図1参照。)に固定されたハウジングHを構成する外筒29に回転自在に支持されている。なお、前側軸受60,70及び後側軸受80は、本実施形態の主軸装置用軸受を構成する。
【0017】
前側軸受60,70と後側軸受80間における回転軸22の外周面には、ロータ30が焼き嵌めされたロータスリーブ31が外嵌されている。また、ロータ30の周囲に配置されるステータ32は、ステータ32に焼き嵌めされた冷却ジャケット33を外筒29に内嵌することで、外筒29に固定される。従って、ロータ30とステータ32はモータを構成し、ステータ32に電力を供給することでロータ30に回転力を発生させ、回転軸22を回転させる。
【0018】
また、外筒29と反工具側で固定されたハウジングHを構成する後蓋34には、工具アンクランプピストン35を摺動自在に内嵌したハウジングHを構成する工具アンクランプシリンダ36が固定されている。よって、工具を交換する際には、油路37から油圧室38に作動油を導き、工具アンクランプピストン35を工具側(図の左側)へ前進させることにより、ドローバ23を工具側(図の左側)へ前進させて、工具をアンクランプする。
【0019】
前側軸受60,70は、外輪61,71と、内輪62,72と、接触角を持って配置される転動体としての玉63,73と、玉63,73を略等間隔で保持する外輪案内の保持器64,74と、をそれぞれ有するアンギュラ玉軸受であり、背面組み合わせとなるように配置されている。後側軸受80は、外輪81と、内輪82と、転動体としての円筒ころ83と、円筒ころ83を略等間隔で保持する外輪案内の保持器84と、を有する円筒ころ軸受である。
【0020】
前側軸受60,70の外輪61,71は外筒29に内嵌されており、且つ外筒29にボルト締結された前側軸受外輪押え39によってノズル付き外輪間座40を介して外筒29に対し軸方向に固定されている。また、前側軸受60,70の内輪62,72は、回転軸22に外嵌されており、且つ回転軸22に締結されたナット41によって内輪間座42を介して回転軸22に対し軸方向に固定されている。
【0021】
後側軸受80の外輪81は後蓋34に内嵌されており、且つ後蓋34にボルト締結された後側軸受外輪押え43によって後蓋34に固定されている。後側軸受80の内輪82は、回転軸22に形成されたテーパ面44とテーパ嵌合されており、回転軸22に締結された他のナット45によって、内輪間座46及び速度センサ47の被検出部48を介して位置決めされている。
【0022】
なお、後側軸受外輪押え43の反工具側には、被検出部48と径方向に対向する位置に速度センサ47の検出部49が固定されており、回転軸22の回転速度を検出する。また、前側軸受外輪押え39の工具側端面には、フロントカバー50がボルト固定されている。
【0023】
ここで、図2〜図4に示すように、ハウジングHを構成する外筒29、後蓋34、工具アンクランプシリンダ36には、前側軸受60,70及び後側軸受80をそれぞれ潤滑するための複数の給油通路(ハウジングHの給油用穴)90,91,92が形成されており、これら通路90,91,92の一端側には、潤滑油を送り込む潤滑装置93が図示しない配管を介してそれぞれ取り付けられている。なお、潤滑装置93によって供給される潤滑方式は、オイル潤滑であればよく、オイルエア潤滑、オイルミスト潤滑、直噴潤滑等のいずれであってもよい。
【0024】
例えば、オイルエア潤滑の場合、給油通路90,91,92の他端側は、外輪間座40に形成されたノズル40a(図2参照。),40b(図3参照。)、後側軸受外輪押え43に形成されたノズル43a(図4参照。)と連通しており、潤滑装置93によって送られた潤滑油を各軸受60,70,80の側方から軸受空間内に供給する。
【0025】
また、ハウジングHには、各軸受60,70,80を潤滑した潤滑油をそれぞれ排出する複数の排出通路(ハウジングHの排油用穴)100(図2参照。),101(図3参照。),102(図4参照。)が形成されており、これら通路100,101,102の一端側には、潤滑油を吸引するための負圧発生装置103がそれぞれ図示しない配管を介して接続されている。
【0026】
具体的に、図5に拡大して示すように、前側軸受70では、複数の玉73が、外輪71の内周面に形成された略円弧状の外輪軌道面71cと、内輪72の外周面に形成された略円弧状の内輪軌道面72aとの間に径方向に対して接触角を持って配置されている。前側軸受70の外輪71には、カウンターボア側、及び反カウンターボア側の内周面で玉73が通過する外輪軌道面71cの近傍に開口して、且つ、径方向に貫通する排油穴71a,71bが周方向に略等間隔で複数本ずつ形成されている。外輪71の内周面には、排油穴71a,71bが開口する軸方向位置に、集油溝77a,77bが周方向に亘って形成されている。また、外輪71の外周面には、これら排油穴71a,71bがそれぞれ開口する環状の周方向溝75a,75bが形成されており、これら周方向溝75a,75bは、これら排油穴71a,71bと、外筒29に形成された排油通路101の排油穴29a,29bとをそれぞれ連通する。なお、排油穴71a,71bの内周側開口に形成された集油溝77a,77bは、図5に示すように、外輪軌道面71cの近傍に開口することが好ましい。さらに、集油溝77a,77bは、径方向から見て、玉73とオーバーラップする位置にそれぞれ形成されることがより好ましい。この結果、転がり接触部を潤滑後、玉73に付着した油が遠心力により振り切られた後、直接集油溝77a,77bに導かれるメリットがある。ただし、集油溝77a,77bは、径方向から見て、玉73とオーバーラップする位置に限定されるものではない。
【0027】
保持器74は、玉73を略等間隔で保持する外輪案内の保持器であり、軸方向に略線対称に形成されている。保持器74は、軸方向両側に位置する一対の円環部74a,74bと、これら円環部74a,74bを連結し、周方向に略等間隔で配置される複数の柱部74cと、を有し、これら円環部74a,74bと隣接する柱部73cとで玉73を保持するポケットを構成する。また、保持器74は、柱部74cの外周面と両円環部74a,74bの外周面の内側部分を、円環部74a,74bの外周面の外側部分より小径とすることで、逃げ部74dを形成する。これにより、保持器74は、反カウンターボア側において、円環部74aの外周面の外側部分と外輪71の内周面71fとが、排油穴71aの集油溝77aと径方向から見てオーバーラップしない位置で摺接することで、外輪案内される。
【0028】
従って、保持器74の案内面である円環部74aは、集油溝77aの開口縁部によって削られることなく、保持器74の摩耗が防止される。なお、前側軸受60は、前側軸受70と背面組み合わせで配置される、前側軸受70と同一の構成であるので、説明を省略する。
【0029】
また、図5に示すアンギュラ玉軸受70では、給油方向が背面側から行われているが、図6に示す変形例のように、ハウジングH内の給油通路やノズルの構成に応じて、正面側から行われても良い。
【0030】
また、図7に示すように、後側軸受80も、前側軸受60,70と同様、複数の円筒ころ83が、外輪81の内周面に形成された外輪軌道面81cと、内輪82の外周面に形成された内輪軌道面82aとの間に配置されている。また、内輪82は、内輪軌道面82aの軸方向両側に一対の鍔部82bを有する。外輪81の軸方向両側の内周面には、円筒ころ83と干渉しない位置の外輪軌道面81cの近傍に、径方向に貫通する排油穴81a,81bが周方向に略等間隔で複数本ずつ形成されている。そして、外輪81の内周面には、排油穴81a,81bが開口する軸方向位置に、集油溝87a,87bが周方向に亘って形成されている。また、外輪81の外周面には、これら排油穴81a,81bがそれぞれ開口する環状の周方向溝85a,85bが形成されており、これら周方向溝85a,85bは、これら排油穴81a,81bと、後蓋34に形成された排油通路102の排油穴34a,34bとをそれぞれ連通する。
【0031】
また、保持器84も、円筒ころ83を略等間隔で保持する外輪案内の保持器であり、軸方向に略線対称に形成されている。保持器84は、軸方向両側に位置する一対の円環部84a,84bと、これら円環部84a,84bを連結し、周方向に略等間隔で配置される複数の柱部84cと、を有し、これら円環部84a,84bと隣接する柱部83cとで円筒ころ83を保持するポケットを構成する。また、保持器84は、柱部84cの外周面と両円環部84a,84bの外周面の内側部分を、円環部84a,84bの外周面の外側部分より小径とすることで、逃げ部84dを形成する。
【0032】
これにより、保持器84は、円環部84a,84bの外周面の外側部分と外輪81の内周面81fとが、排油穴81a,81bの集油溝87a,87bと径方向から見てオーバーラップしない位置、即ち、集油溝87a,87bの軸方向外側で摺接することによって外輪案内される。従って、保持器84の案内面である円環部84a,84bは、集油溝87a,87bの開口縁部によって削られることがなく、保持器84の摩耗が防止される。
【0033】
また、本実施形態において、後側軸受80である円筒ころ軸受への給油方向及び給油位置としては、図8(a)〜図8(h)に示すようなものが挙げられる。具体的に、図8(a)に示すように、給油は、内輪82の外周面と保持器84の内周面との間に向けて、工具側から行われても良い。また、図8(b)に示すように、給油は、外輪81の内周面と保持器84の外周面との間に向けて、工具側から行われても良い。さらに、図8(c)に示すように、給油は、内輪82の外周面と保持器84の内周面との間に向けて、反工具側から行われても良く、図8(d)に示すように、外輪81の内周面と保持器84の外周面との間に向けて、反工具側から行われても良い。
【0034】
また、図8(e)に示すように、給油は、内輪82の外周面と保持器84の内周面との間と、外輪81の内周面と保持器84の外周面との間の2箇所に向けて、工具側から行われても良い。また、図8(f)に示すように、給油は、内輪82の外周面と保持器84の内周面との間に向けて、工具側と反工具側の両方から行われても良く、図8(g)に示すように、外輪81の内周面と保持器84の外周面との間に向けて、工具側と反工具側の両方から行われても良い。加えて、図8(h)に示すように、給油は、内輪82の外周面と保持器84の内周面との間と、外輪81の内周面と保持器84の外周面との間の2箇所に向けて、反工具側から行われても良い。なお、前側軸受60,70であるアンギュラ玉軸受への給油方向及び給油位置も、円筒ころ軸受と同様に、軸受の軸方向外側から給油することができる。また、各給油の位相は、同じ位相であってもよいし、異なる位相であってもよい。
【0035】
なお、図9に示すように、軸方向片側のみに排油穴81aが形成される場合には、排油性の観点から、円筒ころ83に対して潤滑油を給油する側(図中矢印で示す)と反対側に形成される。この場合にも、この排油穴81aが外周面及び内周面に開口する位置には、周方向溝85a及び集油溝87aが形成される。
【0036】
従って、各軸受60,70,80を潤滑した、排油穴71a,71b,81a,81bの潤滑油が、周方向溝75a,75b,85a,85bと、各排油通路100,101,102とを介して、外部へ排出される。この際、軸受外部からの吸引力、即ち、負圧発生装置103の吸引力によって、排油穴71a,71b,81a,81b内には、負圧が作用し、排油穴71a,71b,81a,81b内の潤滑油が強制的に吸引される。また、負圧発生装置103の吸引力によって、各外輪軌道面71c,81cの近傍の外輪61,71,81の内周面に付着した潤滑油も、負圧発生装置103の吸引力によって、排油穴71a,71b,81a,81bへと導かれる。
【0037】
これにより、各軸受60,70,80の外輪軌道面71c,81cの近傍に設けられた排油穴71a,71b,81a,81bから余分な潤滑油を速やかに排出することができる。特に、本実施形態のようなチルトタイプの主軸装置20において、その姿勢が変化した場合であっても、排出されるはずの潤滑油が軸受内部に戻ること、特に、排油穴71a,71b,81a,81bに存在する潤滑油が外輪軌道面71c,81cに戻ることが防止され、潤滑油過多や攪拌抵抗による異常発熱を抑制することができる。
【0038】
また、保持器74,84は、円環部74a,84a,84bの外周面が、外輪71,81の内周面71f,81fと、排油穴71a,81a,81bの内周側開口に位置する集油溝77a,87a,87bと径方向から見てオーバーラップしない位置で摺接して外輪案内されるので、保持器74,84の円環部74a,84a,84bが、集油溝77a,87a,87bの開口縁部に接触することを防止することができ、これによって保持器74,84、特に円環部74a,84a,84bの摩耗を抑制して、軸受60,70,80の寿命を延ばすことができる。
【0039】
また、外輪61,71,81の外周面には、排油穴71a,71b,81a,81bとハウジングHの排油通路100,101,102とを連通する周方向溝75a,75b,85a,85bが形成されているので、排油通路100,101,102との位相合わせを行うことなく、軸受60,70,80をハウジングHに組み付けることができ、主軸装置20の組み付け性が向上される。
【0040】
さらに、外輪61,71,81の内周面には、排油穴71a,71b,81a,81bが開口する軸方向位置に集油溝77a,77b,87a,87bが周方向に亘って形成されているので、外輪61,71,81の内周面に付着する、軸受を潤滑した潤滑油が集油溝77a,77b,87a,87bに集められ、集油溝77a,77b,87a,87b内の潤滑油が、負圧発生装置103によって、排油穴71a,71b,81a,81bへと速やかに排出される。
【0041】
軸受60,70,80が高速回転していると、玉63,73や円筒ころ83の公転、また、保持器74や内輪72の自転の際、内部の空気もその粘性抵抗により、同様に回転させられ、円周方向の空気流が生じている。従って、外輪61,71,81の内周面に付着した油も内周面に沿って円周方向に移動している。特に、回転軸22が立軸の場合、重力効果が少ないのでこの油の移動が発生しやすい。従って、集油溝77a,77b,87a,87bがあると、集油溝77a,77b,87a,87b内に油が集まりやすく、排油性が向上される。従って、集油溝77a,77b,87a,87bは、断面角型、円弧状、テーパ状のいずれであっても良いが、角型より円弧状がより好ましい。
【0042】
また、本実施形態では、排油通路100,101,102は、各軸受60,70,80毎に形成されているので、負圧発生装置103の吸引能力条件を変化させることで、各軸受60,70,80の吸引効率を最適化することができる。
【0043】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る主軸装置用軸受について、図10を参照して詳細に説明する。なお、本実施形態では、前側軸受であるアンギュラ玉軸受の構成において、第1実施形態と異なる。そのため、第1実施形態と同等部分については、同一符号を付して説明を省略或いは簡略化する。
また、以下に説明するアンギュラ玉軸受に係る各実施形態では、複列の前側軸受のうち、反工具側のアンギュラ玉軸受について説明するものとし、工具側のアンギュラ玉軸受は同一構成であるとして、説明を省略する。
【0044】
図10に示すように、本実施形態のアンギュラ玉軸受170の外輪171は、カウンターボア側、及び反カウンターボア側の内周面で玉73が通過する外輪軌道面71cの近傍に開口して、且つ、径方向に貫通する排油穴171a,71bが周方向に略等間隔で複数本ずつ形成されている。反カウンターボア側に形成される排油穴171aは、玉73の中心Oを通過する、接触角によって形成される仮想線Lと外輪171の外周面との交点Pから軸方向外側に離れた位置に形成されている。これにより、外輪171の外輪軌道面71cと排油穴171aとの間には、比較的幅が広い内周面171fが形成される。
【0045】
また、外輪171の外周面には、排油穴171a,71bが開口する周方向溝75a,75bが形成され、内周面には、排油穴171a,71bが開口する軸方向位置に、周方向に亘って環状の集油溝177a,77bが形成されている。また、周方向溝75a,75bは、排油穴171a,71bと排油通路101の排油穴29a,29bとを連通する。
【0046】
保持器174は、軸方向両側に位置する一対の円環部174a,174bと、これら円環部174a,174bを連結し、周方向に略等間隔で配置される複数の柱部174cと、を有し、これら円環部174a,174bと隣接する柱部174cとで玉73を保持するポケットを構成する。円環部174a,174b及び柱部174cは、略一様な肉厚を有する。また、保持器174の軸方向幅は、第1実施形態の保持器74より狭く形成されている。即ち、保持器174は、円環部174aの外周面が、排油穴171aの集油溝177aと径方向から見てオーバーラップしない、即ち、集油溝177aの軸方向内側に位置し、外輪軌道面71cと排油穴171aとの間に形成された内周面171fに摺接することで、外輪案内される。
【0047】
従って、本実施形態では、反カウンターボア側の排油穴171aが、玉73の中心Oを通過する、接触角によって形成される仮想線Lと外輪171の外周面との交点Pから軸方向外側に離れた位置に形成されているので、主軸装置20に組み込まれることで外輪171に作用する力が、排油穴171aの形成によって肉薄となった部分にかかることが防止され、アンギュラ玉軸受170の剛性低下を抑えることができる。また、保持器174の案内面となる円環部174aが、集油溝177aの開口縁部によって削られることがないので、保持器174の摩耗が防止される。
その他の構成及び作用については、第1実施形態のものと同様である。
【0048】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態に係る主軸装置用軸受について、図11を参照して詳細に説明する。なお、本実施形態では、前側軸受であるアンギュラ玉軸受の構成において、第1及び第2実施形態と異なる。そのため、第1及び第2実施形態と同等部分については、同一符号を付して説明を省略或いは簡略化する。
【0049】
図11(a)に示すように、本実施形態のアンギュラ玉軸受270の外輪271は、カウンターボア側、及び反カウンターボア側の内周面で玉73が通過する外輪軌道面71cの近傍に開口して、且つ、径方向に貫通する排油穴271a,71bが周方向に略等間隔で複数本ずつ形成されている。これら排油穴271a,71bは、径方向から見て、玉73とオーバーラップする位置に形成されている。
【0050】
外輪271の外周面には、排油穴271a,71bが開口する周方向溝75a,75bが形成されている。また、外輪271のカウンターボア側の内周面には、上記実施形態と同様、排油穴71bが開口する軸方向位置に断面略円弧状の環状の集油溝77bが周方向に亘って形成されている。一方、外輪271の反カウンターボア側の内周面で、排油穴271aが開口する軸方向位置に設けられる環状の集油溝277aは、保持器74を案内する内周面271fより大径の内周面を持った、断面角型に形成される。
【0051】
保持器74は、第1実施形態と同様、逃げ部74dを有しており、反カウンターボア側において、円環部74aの外周面の外側部分と外輪271の内周面271fとが、径方向から見て排油穴271aとオーバーラップしない位置で外輪案内される。これにより、保持器74の案内面である円環部74aは、集油溝277aの開口縁部によって削られることなく、摩耗が防止される。
その他の構成及び作用については、第1及び第2実施形態のものと同様である。
【0052】
図11(b)は、本実施形態の変形例を示している。この変形例では、保持器274は、円環部274a,274b及び柱部274cが、略一様な肉厚を有し、軸方向において略線対称に形成されている。また、集油溝277aの開口縁部と対向する、円環部274aの外周面には、円環状の逃げ溝274dが形成されている。これにより、保持器274は、排油穴271aと径方向から見てオーバーラップしない位置、即ち、逃げ溝274dより軸方向外側の円環部274aの外周面で、外輪271の内周面271fに案内される。従って、この変形例によれば、逃げ部の代わりに、逃げ溝274dを円環部274aの外周面に設けることで、保持器274の摩耗を防止することができる。なお、保持器274には、対称性を考慮して、円環部274bの外周面にも、円環状の逃げ溝274dが形成されている。
【0053】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態に係る主軸装置用軸受について、図12を参照して詳細に説明する。なお、本実施形態では、前側軸受であるアンギュラ玉軸受の構成において、第1〜3実施形態と異なる。そのため、第1〜3実施形態と同等部分については、同一符号を付して説明を省略或いは簡略化する。
【0054】
図12に示すように、前側軸受370では、保持器374は、玉73の両側で外輪案内されている。外輪371は、外輪軌道面71cの両側内周面において、内輪72のカウンターボア面72bに径方向で対向する内周面371f1を外輪軌道面71cに対して反対側の内周面371f2よりも小径とし、各内周面371f1、371f2をそれぞれ略一様内径とする。また、外輪371の各内周面371f1、371f2には、上記実施形態と同様、集油溝77a,77bが開口しており、集油溝77a,77bは、それぞれ排油穴71a,71b、周方向溝75a,75bと連通する。
【0055】
保持器374は、軸方向両側に位置する、互いの外径が異なる小径側円環部374a,及び大径側円環部374bと、これら円環部374a,374bを連結し、周方向に略等間隔で配置される複数の柱部374cと、を有し、これら円環部374a,374bと隣接する柱部373cとで玉73を保持するポケットを構成する。また、保持器374は、柱部374cの外周面と両円環部374a,374bの外周面の内側部分に逃げ部374dを形成する。この逃げ部374dは、外輪371の各内周面371f1,371f2に応じて、柱部374cの外周面において段差形状を有し、小径円環部374aの外周面の内側部分は、その外側部分より小径に形成され、また、大径円環部374bの外周面の内側部分も、その外側部分より小径に形成される。これにより、保持器374は、両側内周面において、各円環部374a,374bの外周面の外側部分と外輪371の内周面371f1,371f2とが、各排油穴71a,71bの集油溝77a,77bと径方向から見てオーバーラップしない位置で摺接することで、外輪案内される。
なお、その他の構成及び作用については、第1〜第3実施形態のものと同様である。また、玉の両側で外輪案内する保持器は、一対の円環部の外径を同一寸法とし、外輪の円筒ころに対して両側の各内周面の内径を同一寸法としてもよい。
【0056】
(第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態に係る主軸装置用軸受について、図13を参照して詳細に説明する。なお、本実施形態では、後側軸受である円筒ころ軸受の構成において、第1実施形態と異なる。そのため、第1実施形態と同等部分については、同一符号を付して説明を省略或いは簡略化する。
【0057】
図13(a)に示すように、本実施形態の円筒ころ軸受180では、保持器184の形状において、第1実施形態のものと異なる。即ち、この保持器184は、第1実施形態と同様、一対の円環部184a,184bと、複数の柱部184cと、を有するが、円筒ころ83に対して潤滑油を給油する側(図中矢印で示す)と同じ側に位置する一方の円環部184aで、外輪案内される。即ち、逃げ部184dが、一方の円環部184aの外周面の内側部分、柱部184cの外周面、他方の円環部184bの外周面に亘って形成される。また、一方の円環部184aのうち、径方向から見て排油穴81aとオーバーラップしない位置、換言すれば、排油穴81aより軸方向外側に位置する部分で、外輪81の内周面81fに案内される。
【0058】
従って、本実施形態においても、保持器184の案内面である円環部184aの外周面が、集油溝87aの開口縁部によって削られることがないので、保持器184の摩耗が防止される。また、保持器184は、給油する側と同じ側に位置する円環部184aで外輪案内されるので、給油した油が円筒ころ83だけでなく案内面にも確実に潤滑される。
その他の構成及び作用については、第1実施形態のものと同様である。
【0059】
また、図13(b)の変形例に示すように、軸方向片側のみに排油穴81bが形成される場合には、排油穴81bは、排油性の観点から、円筒ころ83に対して潤滑油を給油する側(図中矢印で示す)と反対側に形成される。この場合にも、この排油穴81aが外周面及び内周面に開口する位置には、周方向溝85a及び集油溝87aが形成される。
【0060】
(第6実施形態)
次に、本発明の第6実施形態に係る主軸装置用軸受について、図14を参照して詳細に説明する。なお、本実施形態では、後側軸受である円筒ころ軸受の構成において、第1および第5実施形態と異なる。そのため、第1および第5実施形態と同等部分については、同一符号を付して説明を省略或いは簡略化する。
【0061】
図14(a)に示すように、本実施形態の円筒ころ軸受280では、給油が外輪281に径方向に貫通形成された給油穴285を介して行われている。具体的に、給油穴285は、円筒ころ83と干渉しない外輪軌道面81cの近傍に開口する。また、外輪281の外周面には、給油穴285が開口する軸方向位置に環状の周方向溝286が形成されている。これにより、後蓋34に形成された給油通路92から供給された潤滑油は、周方向溝286、給油穴285を介して供給される。なお、給油は、給油穴285単独であっても良いし、後側軸受外輪押え43のノズルからの給油を併用してもよい。また、周方向溝286は、断面円弧状に形成されてもよい。
【0062】
また、円筒ころ83を挟んで外輪281の給油穴285と軸方向反対側には、排油穴81bが形成されている。排油穴81bが開口する軸方向位置の外輪281の内周面には、周方向に亘って環状の集油溝87bが形成され、また、外輪281の外周面には、環状の周方向溝85bが形成されており、周方向溝85bは、排油穴81bと排油通路102の排油穴34bとを連通する。これにより、給油穴285から供給されて軸受内部を潤滑した潤滑油は、負圧発生装置103の吸引力によって、集油溝87b、排油穴81b、周方向溝85b、排油通路102を介して強制的に外部に排出される。
【0063】
なお、保持器84は、第1実施形態のものと略同一構成であり、逃げ部84dが給油穴285および集油溝87bとの干渉を回避するように形成される。従って、保持器84は、両端部の円環部84a,84bが、径方向から見て給油穴285および排油穴81bとオーバーラップしない位置、即ち、それぞれ給油穴285及び集油溝87bの軸方向外方で、外輪281の内周面81fと摺接して外輪案内される。なお、図14では、簡略化のため、給油穴285と排油穴81bが同一断面に示されているが、実際には、異なる位相に配置されている。
【0064】
従って、本実施形態では、保持器84の案内面である円環部84a,84bは、給油穴285及び集油溝87bの開口縁部によって削られることなく、保持器84の摩耗が防止される。
その他の構成及び作用については、第1及び第5実施形態のものと同様である。
【0065】
なお、図14(b)に示す変形例のように、逃げ部84dが、一方の円環部84aの外周面の内側部分、柱部84cの外周面、他方の円環部84bの外周面に亘って形成され、一方の円環部84aのうち、径方向から見て給油穴285とオーバーラップしない位置、換言すれば、給油穴285より軸方向外側に位置する部分で、保持器84が外輪281の内周面281fに案内されてもよい。この場合も、保持器84は、給油する側と同じ側に位置する円環部84aで外輪案内されるので、給油した油が円筒ころ83だけでなく案内面にも確実に潤滑される。
【0066】
(第7実施形態)
次に、本発明の第7実施形態に係る主軸装置用軸受について、図15を参照して詳細に説明する。なお、本実施形態では、後側軸受である円筒ころ軸受の構成において、第1、第5および第6実施形態と異なる。そのため、第1、第5および第6実施形態と同等部分については、同一符号を付して説明を省略或いは簡略化する。
【0067】
図15(a)に示すように、本実施形態の円筒ころ軸受380では、外輪381に径方向に貫通形成される排油穴381a,381bは、外輪381の軸方向外側に位置して形成されている。排油穴381a,381bが開口する軸方向位置の外輪381の内周面には、周方向に亘って環状の集油溝387a,387bが形成され、また、外輪381の外周面には、環状の周方向溝85a,85bが形成される。
【0068】
また、保持器384は、一対の円環部384a,384bと、複数の柱部384cとを有し、柱部384cの外周面を小径として逃げ部384dが設けられているが、保持器384の軸方向幅が両排油穴381a,381b間の軸方向距離より狭く形成されている。
【0069】
従って、保持器384は、円環部384a,384bが、外輪軌道面81cと排油穴381a,381bとの間の各内周面381fと摺接することで、外輪案内される。これにより、円環部384a,384bが、集油溝387a,387bの開口縁部によって削られることなく、保持器384の摩耗が防止される。
その他の構成及び作用については、第1、第5及び第6実施形態のものと同様である。
【0070】
なお、図15(b)の変形例に示すように、軸方向片側のみに排油穴381aが形成される場合には、排油穴381aは、円筒ころ83に対して潤滑油を給油する側(図中矢印で示す)と反対側に形成される。この場合にも、この排油穴381aが内周面及び外周面に開口する位置には、集油溝387a及び周方向溝85aが形成される。
【0071】
また、図16(a)の他の変形例に示すように、保持器384は、円筒ころ83に対して潤滑油を給油する側(図中矢印で示す)と反対側に位置する一方の円環部384aで、外輪案内されてもよい。さらに、図16(b)のさらに他の変形例に示すように、排油穴381a、集油溝387a及び周方向溝85aが、円筒ころ83に対して潤滑油を給油する側(図中矢印で示す)と反対側のみに形成されてもよい。
【0072】
尚、本発明は、前述した各実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
本実施形態では、前側軸受60,70を2列のアンギュラ玉軸受,後側軸受80を円筒ころ軸受としたが、各軸受の種類や列数は任意に設定可能である。
また、本実施形態では、アンギュラ玉軸受の排油穴71a,71bや円筒ころ軸受の排油穴81a,81bは、それぞれ周方向に複数本ずつ形成されているが、周方向に少なくとも一本形成されればよい。
【0073】
さらに、図17に示す工作機械用主軸装置20aのように、各軸受60,70,80の排油穴が、ハウジングHに形成された単一の排油通路110と連通し、この排油通路110が、負圧発生装置103に図示しない配管を介して接続されてもよい。
【0074】
これにより、各軸受60,70,80を潤滑した潤滑油は、負圧発生装置103の吸引力によって強制的に吸引されながら、排油穴を介して、単一の排油通路110から外部へ排出され、軸受内部の潤滑油過多や異常発熱を抑制することができる。また、ハウジングHに穴加工する排油通路の数を少なくすることができ、加工コストを低減することができる。なお、図17では、異なる位相の前側軸受60,70のノズル40a,40bと、後側軸受80のノズル43aと、を同じ断面に示している。
【0075】
また、本実施形態では、軸受60,70,80毎に複数の給油通路90,91,92が設けられているが、これら給油通路90,91,92を単一の給油通路として、主軸装置20内で分岐して供給するようにしてもよく、潤滑方式や潤滑条件により複数の軸受毎に別通路とするか単一の共有通路とするかは最適方式を選択できる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の軸受を備える主軸装置が適用される門形マシニングセンタの概略図である。
【図2】第1実施形態の軸受が適用される主軸装置において、一方の前側軸受の給油通路及び排油通路を示す断面図である。
【図3】主軸装置において、他方の前側軸受の給油通路及び排油通路を示す断面図である。
【図4】主軸装置において、後側軸受の給油通路及び排油通路を示す断面図である。
【図5】主軸装置の前側軸受の拡大断面図である。
【図6】主軸装置の前側軸受の変形例を示す拡大断面図である。
【図7】主軸装置の後側軸受の拡大断面図である。
【図8】(a)〜(h)は、後側軸受の給油方向及び給油位置の各パターンを示す図である。
【図9】本実施形態の後側軸受の変形例を示す拡大断面図である。
【図10】第2実施形態の主軸装置用軸受に係る前側軸受の拡大断面図である。
【図11】(a)は、第3実施形態の主軸装置用軸受に係る前側軸受の拡大断面図であり、(b)は、その変形例を示す拡大断面図である。
【図12】第4実施形態の主軸装置用軸受に係る前側軸受の拡大断面図である。
【図13】(a)は、第5実施形態の主軸装置用軸受に係る後側軸受の拡大断面図であり、(b)は、その変形例を示す拡大断面図である。
【図14】(a)は、第6実施形態の主軸装置用軸受に係る後側軸受の拡大断面図であり、(b)は、その変形例を示す拡大断面図である。
【図15】(a)は、第7実施形態の主軸装置用軸受に係る後側軸受の拡大断面図であり、(b)は、その変形例を示す拡大断面図である。
【図16】(a)は、第8実施形態の他の変形例を示す拡大断面図であり、(b)は、さらに他の変形例を示す拡大断面図である。
【図17】主軸装置の変形例を示す断面図である。
【図18】従来の主軸装置における断面図である。
【符号の説明】
【0077】
1 門形マシニングセンタ(複合加工工作機械)
20 主軸装置
22 回転軸
60,70,170,270,370 前側軸受(アンギュラ玉軸受)
61,71,81,171,271,371,281,381 外輪
62,72,82 内輪
71a,71b,81a,81b,171a,171b,271a,271b,381a,381b 排油穴
73 玉
64,74,84,174,184,274,374,384 保持器
80,180,280,380 後側軸受(円筒ころ軸受)
100,101,102 排油通路
103 負圧発生装置
H ハウジング
L 仮想線
O 玉の中心
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に内輪軌道面を有する内輪と、
内周面に外輪軌道面を有する外輪と、
前記内輪軌道面と前記外輪軌道面との間に配置される複数の転動体と、
前記複数の転動体を転動自在に保持する保持器と、
を有し、工具を取り付け可能な回転軸をハウジングに対して回転自在に支持するとともに、オイル潤滑によって潤滑される主軸装置用軸受であって、
前記外輪には、排油穴が径方向に貫通形成されるとともに、該排油穴内には、軸受外部からの吸引力によって、負圧が作用し、
前記保持器は、前記排油穴の内周側開口と径方向から見てオーバーラップしない位置の外周面によって外輪案内されることを特徴とする主軸装置用軸受。
【請求項2】
前記主軸装置用軸受は、玉が接触角を持って前記外輪軌道面と前記内輪軌道面との間に配置されるアンギュラ玉軸受であり、
前記外輪の反カウンターボア側に形成される前記排油穴は、前記玉の中心を通過する、前記接触角によって形成される仮想線と前記外輪の外周面との交点から軸方向外側に離れた位置に形成されることを特徴とする請求項1に記載の主軸装置用軸受。
【請求項3】
前記主軸装置用軸受は、円筒ころが前記外輪軌道面と前記内輪軌道面との間に配置され、前記内輪が前記内輪軌道面の軸方向両側に一対の鍔部を有する円筒ころ軸受であり、
前記外輪には、さらに、前記潤滑油を給油するための給油穴が径方向に貫通形成されることを特徴とする請求項1に記載の主軸装置用軸受。
【請求項1】
外周面に内輪軌道面を有する内輪と、
内周面に外輪軌道面を有する外輪と、
前記内輪軌道面と前記外輪軌道面との間に配置される複数の転動体と、
前記複数の転動体を転動自在に保持する保持器と、
を有し、工具を取り付け可能な回転軸をハウジングに対して回転自在に支持するとともに、オイル潤滑によって潤滑される主軸装置用軸受であって、
前記外輪には、排油穴が径方向に貫通形成されるとともに、該排油穴内には、軸受外部からの吸引力によって、負圧が作用し、
前記保持器は、前記排油穴の内周側開口と径方向から見てオーバーラップしない位置の外周面によって外輪案内されることを特徴とする主軸装置用軸受。
【請求項2】
前記主軸装置用軸受は、玉が接触角を持って前記外輪軌道面と前記内輪軌道面との間に配置されるアンギュラ玉軸受であり、
前記外輪の反カウンターボア側に形成される前記排油穴は、前記玉の中心を通過する、前記接触角によって形成される仮想線と前記外輪の外周面との交点から軸方向外側に離れた位置に形成されることを特徴とする請求項1に記載の主軸装置用軸受。
【請求項3】
前記主軸装置用軸受は、円筒ころが前記外輪軌道面と前記内輪軌道面との間に配置され、前記内輪が前記内輪軌道面の軸方向両側に一対の鍔部を有する円筒ころ軸受であり、
前記外輪には、さらに、前記潤滑油を給油するための給油穴が径方向に貫通形成されることを特徴とする請求項1に記載の主軸装置用軸受。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2009−191876(P2009−191876A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−30881(P2008−30881)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
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