説明

乗員検知センサ

【課題】車両用シートの吊り溝に沿った曲げられた配置であっても、センサ精度を維持し、損傷を防止することができる乗員検知センサおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、第一フィルム部材Aと、第二フィルム部材Bと、スペーサ部材Cと、接着部材24、34と、を有するセンサ本体11と、コネクタ12と、を備える乗員検知センサであって、センサ本体11は、スペーサ部材Cにより空間が形成された部位であるセンサ部2と、センサ部2以外の部位である連結部3とからなり、連結部3には、車両用シート9の吊り溝91に沿って曲げられた曲げ部35が形成され、センサ本体11のうち曲げ部35より他端側において、第一フィルム部材Aの第二フィルム部材Bに対する相対位置は、曲げ部35形成前の直線状態に比べて、曲げ部35により発生する応力を吸収する方向にずれていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗員の着座を検知する乗員検知センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両には、車両用シートに配置されて、乗員の着座を荷重により検知する乗員検知センサが搭載されているものがある。乗員検知センサとしては、例えば、特開2006−32150号公報(特許文献1)に記載されている。昨今では、可撓性を有するフィルムにより製造された乗員検知センサが主流となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−32150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、乗員検知センサが搭載される車両用シートの表皮には、吊り溝が形成されている。したがって、フィルムを用いた乗員検知センサでは、吊り溝に応じてフィルムを曲げて配置する必要がある。フィルムを曲げることで応力が発生し、当該応力により荷重を検出するセンサ部分に負荷がかかってしまう。これにより、センサ精度が低下するおそれがある。また、センサ部分等に損傷(フィルムとスペーサが剥離など)が生じるおそれもある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、車両用シートの吊り溝に沿った曲げられた配置であっても、センサ精度を維持し、損傷を防止することができる乗員検知センサおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するためになされた請求項1に記載の発明は、第一導電層および前記第一導電層の一面側を覆う第一被覆層を備えた第一フィルム部材と、第二導電層および前記第二導電層の一面側を覆う第二被覆層を備えた第二フィルム部材と、前記第一導電層の他面側と前記第二導電層の他面側との間に配置され、一部貫通して前記第一導電層と前記第二導電層の間に空間を形成するスペーサ部材と、前記第一導電層と前記スペーサ部材、および、前記第二導電層と前記スペーサ部材を接着する接着部材と、を有するセンサ本体と、前記センサ本体の一端部に接続され、外部装置との電気的な接続を行うコネクタと、を備え、車両用シートの表面側に配置され、乗員の着座による荷重を受けて前記乗員の着座を検知する乗員検知センサであって、前記センサ本体は、前記スペーサ部材により空間が形成された部位であるセンサ部と、前記センサ部以外の部位である連結部とからなり、前記連結部には、前記車両用シートの吊り溝に沿って曲げられた曲げ部が形成され、前記センサ本体のうち前記曲げ部より他端側において、前記第一フィルム部材の前記第二フィルム部材に対する相対位置は、前記曲げ部形成前の直線状態に比べて、前記曲げ部により発生する応力を吸収する方向にずれていることを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、第一フィルム部材と第二フィルム部材が直線状態に比べてずれており、曲げ部により発生する応力が吸収・緩和される。これにより、センサ部への負荷が軽減し、センサの精度が維持されるとともにセンサ部の損傷を防止することができる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、前記センサ本体の他端部において、前記第一フィルム部材の端部は、前記第二フィルム部材の端部に対向する位置からずれていることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、第一フィルム部材の端部と第二フィルム部材の端部が直線状態で面一に形成される場合、両フィルム部材の端部が互いにずれている(面一でない)ことで、曲げによる応力が吸収・緩和される。
【0010】
請求項3に記載の発明は、前記直線状態と比べた前記相対位置のずれ量が、前記第一フィルム部材のうち前記曲げ部に必要な部位の長さ(a1)と、前記第二フィルム部材のうち前記曲げ部に必要な部位の長さ(b1)との差の半分に相当することを特徴とする。この構成によれば、曲げによる応力のほとんどを吸収でき、より確実にセンサ本体への負荷を軽減させることができる。
【0011】
請求項4に記載の発明は、第一導電層および前記第一導電層の一面側を覆う第一被覆層を備えた第一フィルム部材を形成する工程と、第二導電層および前記第二導電層の一面側を覆う第二被覆層を備えた第二フィルム部材を形成する工程と、貫通部を有するスペーサ部材を形成する工程と、前記第一導電層と前記スペーサ部材の一面側、および、前記第二導電層と前記スペーサ部材の他面側を接着部材で接着する接着工程と、前記第一フィルム部材および前記第二フィルム部材の一端部に、外部装置との電気的な接続を行うコネクタを接続する工程と、を含み、車両用シートの表面側に配置され、乗員の着座による荷重を受けて前記乗員の着座を検知する乗員検知センサの製造方法であって、前記センサ本体のうち、前記スペーサ部材の前記貫通部により空間が形成された部位をセンサ部とし、前記センサ部以外の部位を連結部とすると、少なくとも前記接着工程の後に、前記連結部に、前記車両用シートの吊り溝に沿って曲がった曲げ部を形成する曲げ部形成工程と、少なくとも前記曲げ部形成工程の後に、温度エージングを行う温度エージング工程を備えることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、温度エージングにより、第一および第二フィルム部材は曲げによる応力が吸収・緩和される方向に移動する。つまり、第一および第二フィルム部材は、曲げ部により発生する応力を吸収する方向にずれて固定される。これにより、センサ部への負荷が軽減し、センサの精度が維持されてかつセンサ部の損傷を防止することができる乗員検知センサを製造することができる。
【0013】
請求項5に記載の発明は、前記温度エージング工程では、常温よりも低温側で温度エージングを行うことを特徴とする。この構成によれば、フィルム部材が温度エージングにより変形することがなく、より確実に応力を吸収させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】乗員検知センサ1を示す平面図である。
【図2】図1におけるA−A線断面図である。
【図3】図1におけるB−B線断面図である。
【図4】曲げ部35を長手方向に切断した断面図である。
【図5】乗員検知センサ1を車両用シート9に配置した平面図である。
【図6】図5のC−C線断面図である。
【図7】乗員検知センサ1の他端部を示す断面図である。
【図8】乗員検知センサ1の製造フローを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、好ましい実施形態を挙げ、図1〜図8を参照して本発明をより詳しく説明する。なお、図面(特に断面図)においては、上下左右の縮尺を変更して表示する。
【0016】
本実施形態の乗員検知センサ1は、図1に示すように、センサ本体11と、コネクタ12と、を備えている。センサ本体11は、複数のセンサ部2と、複数の連結部3と、を備えている。
【0017】
センサ部2は、乗員検知センサ1のうち、荷重の有無でオン(導通)/オフ(非導通)する部位である。センサ部2は、図2に示すように、第一フィルム部材21と、第二フィルム部材22と、スペーサ部材23と、接着部材24と、を備えている。
【0018】
第一フィルム部材21は、扁平なフィルム形状であって、可撓性を有する樹脂(例えばPEN等)を主として形成されている。第一フィルム部材21の一面側には、導電材料である銀(Ag)が印刷された銀層S1と、さらに銀層S1の一面側にカーボン(C)が印刷されたカーボン層S2が形成されている。第一フィルム部材21の他面側は、銀層S1およびカーボン層S2を覆う被覆層F1を構成している。つまり、第一フィルム部材21は、第一導電層(銀層S1およびカーボン層S2)と、被覆層F1と、を有している。
【0019】
第二フィルム部材22は、第一フィルム部材21同様、扁平なフィルム形状であって、可撓性を有する樹脂(例えばPEN等)を主として形成されている。第二フィルム部材22の一面側には、導電材料である銀が印刷された銀層S5と、さらに銀層S5の一面側にカーボンが印刷されたカーボン層S4が形成されている。第二フィルム部材22の他面側は、銀層S5およびカーボン層S4を覆う被覆層F2を構成している。つまり、第二フィルム部材22は、第二導電層(銀層S5およびカーボン層S4)と、被覆層F2と、を有している。
【0020】
スペーサ部材23は、扁平形状であって、可撓性を有する絶縁性の樹脂(例えばPET等)で形成されている。スペーサ部材23は、第一フィルム部材21の一面側(カーボン層S2)と、第二フィルム部材22の一面側(カーボン層S4)の間に配置されている。スペーサ部材23は、平面視においてドーナツ形状である。すなわち、スペーサ部材23は、平面視の略中央に貫通部23aを有している。貫通部23aは、スペーサ23の略中央を上下に貫通させて形成されている。貫通部23aにより第一導電層と第二導電層の間に空間層S3が形成されている。
【0021】
接着部材24は、粘着材であって、第一フィルム部材21の一面側(カーボン層S2)とスペーサ部材23の一面側、および、第二フィルム部材22の一面側(カーボン層S4)とスペーサ部材23の他面側を接着している。本実施形態では、接着部材24として、アクリル系粘着材を用いている。
【0022】
連結部3は、センサ本体11のうちセンサ部2以外の部位である。具体的に、連結部3は、センサ部2と隣のセンサ部2、または、センサ部2とコネクタ4とを電気的に接続する配線部分である。連結部3は、図3に示すように、第一フィルム部材31と、第二フィルム部材32と、スペーサ部材33と、接着部材34と、を備えている。
【0023】
第一フィルム部材31は、扁平なフィルム形状であって、可撓性を有する樹脂(例えばPEN等)を主として形成されている。第一フィルム部材31は、センサ部2の第一フィルム部材21と一体に形成されている。つまり、第一フィルム部材21、31は、1つのフィルム部材(以下、総称では「第一フィルム部材A」と称する)である。
【0024】
第一フィルム部材31の一面側には、導電材料である銀が印刷された銀層S1と、カーボン層S2が形成されている。第一フィルム部材31の他面側は、銀層S7およびカーボン層S2を覆う被覆層F1を構成している。つまり、第一フィルム部材31は、センサ部2同様、第一導電層(銀層S1およびカーボン層S2)と、被覆層F1と、を有している。
【0025】
第二フィルム部材32は、扁平なフィルム形状であって、可撓性を有する樹脂(例えばPEN等)を主として形成されている。第二フィルム部材32は、センサ部2の第二フィルム部材22と一体に形成されている。つまり、第二フィルム部材21、31は、1つのフィルム部材(以下、総称では「第二フィルム部材B」と称する)である。
【0026】
第二フィルム部材32の一面側には、導電材料である銀が印刷された銀層S5と、カーボン層S4が形成されている。第二フィルム部材32の他面側は、銀層S5およびカーボン層S4を覆う被覆層F2を構成している。つまり、第二フィルム部材32は、センサ部2同様、第二導電層(銀層S5およびカーボン層S4)と、被覆層F2と、を有している。
【0027】
スペーサ部材33は、フィルム部材31、32と同様の扁平形状であって、可撓性を有する絶縁性の樹脂(例えばPET等)で形成されている。スペーサ部材33は、第一フィルム部材31の一面側(カーボン層S2)と、第二フィルム部材32の一面側(カーボン層S4)の間に配置されている。スペーサ部材33には、貫通部23aは形成されていない。つまり、連結部3には空間層S3は存在しない。スペーサ部材33は、スペーサ部材23と一体で形成されている。つまり、スペーサ部材23、33は、一部品からなっている(以下、総称では「スペーサ部材C」と称する)。
【0028】
接着部材34は、第一フィルム部材31の一面側とスペーサ部材33の一面側、および、第二フィルム部材32の一面側とスペーサ部材33の他面側を接着している。本実施形態では、接着部材34として、接着部材24同様、アクリル系粘着材を用いている。
【0029】
連結部3は、図4〜図6に示すように、車両用シート9に配置された際に吊り溝91位置に相当する部位に曲げ部35が形成されている。曲げ部35は、連結部3のうち、吊り溝91に沿うように湾曲した部位である。曲げ部35は、第一湾曲部351と、第二湾曲部352と、第三湾曲部353と、第四湾曲部354と、を有している。
【0030】
センサ本体11は、車両用シート9の表面側において、第一フィルム部材Aを上面、第二フィルム部材Bを下面として配置される。つまり、第一湾曲部351および第四湾曲部354は山折りであり、第二湾曲部352および第三湾曲部353は谷折りである。各湾曲部351〜354は、曲げた状態でくせ付けられている。なお、第二湾曲部352および第三湾曲部353には、プロテクタ(図示せず)を装着してもよい。また、第二湾曲部352と第三湾曲部353は共通していてもよい(すなわち、略V字型の湾曲部でもよい)。
【0031】
コネクタ12は、センサ本体11の一端部に接続され、センサ本体11と外部装置との電気的な接続を行うものである。センサ本体11は、一端にコネクタ12が固定され、他端にセンサ部2が配置されている。センサ本体11は、一端から他端(他端から一端)に向かう方向が長手方向となっている。以下、センサ本体11のコネクタ12側端部を一端部と、コネクタ12と反対側(センサ部2側)の端部を他端部と称する。
【0032】
乗員検知センサ1は、図5および図6に示すように、車両用シート9の表面側に配置される。具体的には、センサ本体11は、センサ部2側がクッションパッド92と表皮93の間に配置され、コネクタ12側がクッションパッド92の車両後方部の通し穴94を通じてクッションパッド92の下方に配置される。
【0033】
センサ部2は、車両用シート9に乗員が着座すると、第一フィルム部材Aが下方に押圧され、空気層S3において第一導電層S1、S2と第二導電層S4、S5が接触する。これにより、第一導電層S1、S2と第二導電層S4、S5が導通(電気的に接続)し、コネクタ12を介して導通(オン)情報が外部装置に送信される。このように、乗員検知センサ1は、乗員の着座を検知することができる。
【0034】
ここで、図7に示すように、本実施形態では、センサ本体11の他端部において、第一フィルム部材Aの他端部と第二フィルム部材Bの他端部とがずれて固定されている。つまり、第一フィルム部材Aの他端部と第二フィルム部材Bの他端部とは面一になっていない。第二フィルム部材Bの他端部が第一フィルム部材Aの他端部よりも他端側(車両前方)に突出している。換言すると、第一フィルム部材Aの他端部のほうが第二フィルム部材Bの他端部よりも一端側(車両後方)に位置している。
【0035】
第一フィルム部材Aの平面形状は、曲げ部35形成前の直線状態において、第二フィルム部材Bと平面形状と一致するように配置されている。つまり、センサ本体11は、直線状態において、第一フィルム部材Aの端部と第二フィルム部材Bの端部とが面一(対向する位置)となるように形成されている。
【0036】
本実施形態では、センサ本体11に曲げ部35とずれDが形成されている。当該ずれDは、曲げ部35により生じるべきずれ量dのおよそ半分に相当している。4つの湾曲部351〜354は、山折り2箇所、谷折り2箇所であり、設計上、フィルム部材A、Bのずれを打ち消す関係になっている。つまり、設計上は、第一フィルム部材Aにおける曲げ部35に必要な部位の長さa1(曲げ部35が占める部位:2点鎖線の間)と、第二フィルム部材Bにおける曲げ部35に必要な部位の長さb1とが等しくなる。
【0037】
しかし、実際には、センサ本体11の厚さ(上下幅)が湾曲部位置によって変わるなど、互いのずれ量は打ち消されない。実際には、第一湾曲部351および第四湾曲部354によるずれ量の影響が大きくなる。つまり、第一フィルム部材Aのほうが第二フィルム部材Bよりも、曲げ部35に必要な部位が大きくなる(a1>b1)。
【0038】
本実施形態では、第一フィルム部材Aの他端部が第二フィルム部材Bの他端部よりセンサ本体11の一端側(コネクタ12側)に、上記必要部位の長さの差(a1−b1=d)の半分(d/2)に相当する量だけずれている。換言すると、第一フィルム部材Aの他端部は、第二フィルム部材Bの他端部に対向する位置から長手方向一端側にd/2だけずれている。
【0039】
第一フィルム部材Aは、元の長さに戻る方向(曲げ部35形成による伸びが緩和する方向)である一端側に移動している。これにより、曲げにより発生した応力は吸収される。
【0040】
ここで、乗員検知センサ1の製造方法について図8を参照して説明する。まず、電極インクを印刷することにより、2枚のフィルム部材A、Bに銀層S1、S5とカーボン層S2、S4を形成する(ステップ1)。続いて、上記フィルム部材A、Bおよびスペーサ部材Cを打ち抜き、スペーサ部材Cのセンサ部2位置に貫通部23aを形成する(ステップ2)。
【0041】
続いて、スペーサ部材Cを、第一フィルム部材Aのカーボン層S2と第二フィルム部材Bのカーボン層S4との間に配置し、第一フィルム部材Aとスペーサ部材Cの一面、および、第二フィルム部材Bとスペーサ部材Cの他面とを接着部材により接着する(ステップ3)。つまり、フィルム部材A、Bとスペーサ部材Cとを貼り合わせる。
【0042】
続いて、外形形状を整えるため打ち抜きを行う(ステップ4)。ステップ1〜4により、センサ本体11が形成される。この状態で、センサ本体11の長手方向両端部は、面一となっている。
【0043】
続いて、センサ本体11の一端部にコネクタ12を接続する(ステップ5)。コネクタ12は、公知のものである。続いて、センサ本体11の連結部3に曲げ部35を形成する(ステップ6)。曲げ部35は、連結部3のうち、乗員検知センサ1を車両用シート9に配置した際に吊り溝91に配置される部位に形成する。曲げ部35は、連結部3を吊り溝91に沿って曲げた状態で維持し、くせ(型)を付ける。そして、くせが付いた状態で湾曲部352、353を含むようにプロテクタを付ける。続いて、曲げ部35が形成された状態で、センサ本体11に対して温度エージングを行う(ステップ7)。
【0044】
換言すると、本製造方法は、第一および第二フィルム部材A、Bを形成するフィルム部材形成工程と、スペーサ部材Cを形成するスペーサ部材形成工程と、フィルム部材A、Bの間にスペーサ部材Cを配置して接着部材により接着する接着工程と、コネクタをセンサ本体11に接続するコネクタ接続工程と、センサ本体11に曲げ部35を形成する曲げ部形成工程と、センサ本体11に対して温度エージングを行う温度エージング工程と、を備えている。
【0045】
温度エージングは、常温(およそ20℃)より低温側で行う。低温側の温度エージングは、例えば−30℃〜常温で行う。温度エージングの間、接着部材の接着力が低下する。これにより、曲げ部35により生じた応力が接着力に勝り、曲げ部35より他端側(車両前方)において、第一フィルム部材Aがスペーサ部材Cに対して一端側(車両後方)に移動する。同様に、曲げ部35より他端側(車両前方)において、第二フィルム部材Bがスペーサ部材Cに対して他端側(車両前方)に移動する。つまり、第一フィルム部材A端部の第二フィルム部材B端部に対する相対位置は、曲げ部35形成前の直線状態(ステップ4後ステップ6前)に比べてずれている。
【0046】
ずれ量は、曲げ部35に必要な部位の差のおよそ半分(d/2)に相当する。残りの半分のずれは、曲げ部35より一端側(車両後方)において発生しようとする。しかし、センサ本体11の一端側におけるセンサ部2とコネクタ12とをつなぐ連結部3が他の部位よりも遥かに長く、微量のずれは当該連結部3の伸縮により吸収される。つまり、センサ本体11の一端側にはずれが発生しないことが多い。ただし、センサ本体11の一端側にずれが発生していてもよい。
【0047】
このように、本実施形態によれば、温度エージングにより、第一フィルム部材Aの第二フィルム部材Bに対する相対位置が、曲げによる応力を吸収または緩和する方向(すなわち長手方向)にずれる。これにより、曲げ部35によりセンサ部2にかかる負荷が軽減され、センサ部2の誤検知や損傷が防止される。
【0048】
なお、本実施形態は上記に限られない。例えば、温度エージングした後、センサ本体11端部のずれを、フィルム部材A、B端部をカットする等により面一にしてもよい。この場合でも、第一フィルム部材A所定位置(例えばセンサ部2の位置)の、第二フィルム部材B所定位置(例えばセンサ部2の位置)に対する相対位置は、曲げ部35形成前の直線状態と比べて、異なった位置となっている。つまり、第一フィルム部材21と第二フィルム部材22は、本来の対向位置から若干ずれている。これによっても、上記同様の効果が発揮される。
【0049】
また、他の製造方法として、第一フィルム部材Aおよび第二フィルム部材Bを作成し、フィルム部材A、Bのいずれかにのみスペーサ部材Cを接着しておく。続いて、スペーサ部材Cを接着したフィルム部材に曲げ部35を形成する。その後、曲げ部35が形成された状態で、もう一方のフィルム部材を接着する。フィルム部材A、Bが同じ長さ(形状)である場合、これによっても端部にずれが生じ、応力は吸収されている。
【0050】
また、温度エージングは、常温よりも高温側(例えば常温〜80℃)で行ってもよい。これによっても、一時的に接着力が低下し、フィルム部材A、B間にずれが生じる。ただし、フィルム部材A、Bは高温により変形(伸び)しうるため、低温側の温度エージングのほうが、より確実に応力を吸収させることができる。温度エージングの温度は、接着部材24、34の材料に合わせて変更してもよく、アクリル系粘着材であれば低温側で−30℃〜0℃が好ましい。また導電層は、銅などの他の導電材料で形成してもよい。
【0051】
また、コネクタ接続工程(ステップ5)は、曲げ部形成工程(ステップ6)後でも、あるいは温度エージング工程(ステップ7)後であってもよい。すなわち、センサ本体11形成工程(ステップ1〜4)の後に、曲げ部を形成して温度エージングをしてもよい。また、曲げ部35は2箇所以上形成されてもよい。また、ずれ量はd/2に限らず、センサ本体11の他端側において、第一フィルム部材Aが長手方向一端側にずれていればよい。また、第一および第二フィルム部材A、Bは、可撓性を有する樹脂であればよく、さらには他の部位より剛性が低い軟質樹脂であることが好ましい。また、スペーサCは、可撓性および絶縁性を有する樹脂であればよく、硬質樹脂であってもよい。
【符号の説明】
【0052】
1:乗員検知センサ、 11:センサ本体、 12:コネクタ、
2:センサ部、 3:連結部、
21、31、A:第一フィルム部材、 22、32、B:第二フィルム部材、
23、33、C:スペーサ部材、 23a:貫通部、 24、34:接着部材、
35:曲げ部、 9:車両用シート、 91:吊り溝、
S1、S5:銀層、 S2、S4:カーボン層、 S3:空気層、
F1、F2:被覆層、 D:ずれ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一導電層および前記第一導電層の一面側を覆う第一被覆層を備えた第一フィルム部材と、第二導電層および前記第二導電層の一面側を覆う第二被覆層を備えた第二フィルム部材と、前記第一導電層の他面側と前記第二導電層の他面側との間に配置され、一部貫通して前記第一導電層と前記第二導電層の間に空間を形成するスペーサ部材と、前記第一導電層と前記スペーサ部材、および、前記第二導電層と前記スペーサ部材を接着する接着部材と、を有するセンサ本体と、
前記センサ本体の一端部に接続され、外部装置との電気的な接続を行うコネクタと、
を備え、車両用シートの表面側に配置され、乗員の着座による荷重を受けて前記乗員の着座を検知する乗員検知センサであって、
前記センサ本体は、前記スペーサ部材により空間が形成された部位であるセンサ部と、前記センサ部以外の部位である連結部とからなり、
前記連結部には、前記車両用シートの吊り溝に沿って曲げられた曲げ部が形成され、
前記センサ本体のうち前記曲げ部より他端側において、前記第一フィルム部材の前記第二フィルム部材に対する相対位置は、前記曲げ部形成前の直線状態に比べて、前記曲げ部により発生する応力を吸収する方向にずれていることを特徴とする乗員検知センサ。
【請求項2】
前記第一フィルム部材の他端部は、前記第二フィルム部材の他端部に対向する位置からずれている請求項1に記載の乗員検知センサ。
【請求項3】
前記直線状態と比べた前記相対位置のずれ量は、前記第一フィルム部材のうち前記曲げ部に必要な部位の長さ(a1)と、前記第二フィルム部材のうち前記曲げ部に必要な部位の長さ(b1)との差の半分に相当する請求項1または2に記載の乗員検知センサ。
【請求項4】
第一導電層および前記第一導電層の一面側を覆う第一被覆層を備えた第一フィルム部材を形成する工程と、第二導電層および前記第二導電層の一面側を覆う第二被覆層を備えた第二フィルム部材を形成する工程と、貫通部を有するスペーサ部材を形成する工程と、前記第一導電層と前記スペーサ部材の一面側、および、前記第二導電層と前記スペーサ部材の他面側を接着部材で接着する接着工程と、前記第一フィルム部材および前記第二フィルム部材の一端部に、外部装置との電気的な接続を行うコネクタを接続する工程と、を含み、
車両用シートの表面側に配置され、乗員の着座による荷重を受けて前記乗員の着座を検知する乗員検知センサの製造方法であって、
前記センサ本体のうち、前記スペーサ部材の前記貫通部により空間が形成された部位をセンサ部とし、前記センサ部以外の部位を連結部とすると、
少なくとも前記接着工程の後に、前記連結部に、前記車両用シートの吊り溝に沿って曲がった曲げ部を形成する曲げ部形成工程と、
少なくとも前記曲げ部形成工程の後に、温度エージングを行う温度エージング工程を備えることを特徴とする乗員検知センサの製造方法。
【請求項5】
前記温度エージング工程では、常温よりも低温側で温度エージングを行う請求項4に記載の乗員検知センサの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−185964(P2012−185964A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−47267(P2011−47267)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】