説明

乗用水田除草機

【課題】田植機を走行機体とし、その後方に除草機を連結した水田除草機では、枕地などでの方向転換時の土の持上げや稲株の踏み潰し、また、作業位置を視認しながら走行できないために、田植機の車輪で稲株条を横切ったり、除草機が適切な配置に位置せずに条間除草用のロータが稲株の条上を通過して、稲株を浮上らせたり埋没したりして損傷していた。
【解決手段】左右の前輪と中央の後輪の3輪式であって、これら前輪と後輪の間に運転席を配置した乗用走行機体に、エンジンと、エンジンの動力を前輪に伝えて駆動する駆動部と、後輪の向きを変更して機体を旋回する操向部とを設け、後輪の位置は、その走行軌跡が走行機体の最小旋回時の旋回外側の前輪と同じになる距離だけ、前輪から離して設置し、さらに前輪の前方に除草部を設け、除草部は機体前部に横架する左右方向の伝動軸を介してエンジンに連結するとともに、この伝動軸を中心に昇降可能にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、田植え後の水田に入って、植付けた稲株に損傷を与えずに除草するための乗用式の水田除草機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者の食に対する意識が変化してきており、使用する農薬の量を減らした減農薬栽培や、無農薬または有機栽培による農産物の需要が高まっている。こうした栽培方法では、除草剤などの農薬を用いる雑草の化学的防除を全く、乃至、ほとんど行わない。農薬の代わりに、歩行型の除草機などによる機械的雑草防除やアイガモなどの生物による生物的雑草防除を行う。
【0003】
しかし、歩行型の除草機では広い面積を除草するのには手間と労力がかかり過ぎて効率が悪く、規模拡大の妨げになっていたし、アイガモによる雑草防除では、アイガモの購入や世話にコストがかかってしまうことや、天敵やアイガモの逃亡による経済的な損失、またアイガモを水田に入れるタイミングが難しいこと、などの問題があった。
【0004】
このような状況の中で、機械的な雑草防除の手段として効率のよい水田除草機が求められており、走行機体として田植機を利用した水田用の除草機が研究開発され、すでに特許出願もなされている(参考文献1)。
ところで田植機は苗を植えた後を車輪が走行することの無いように、機体の後方に田植作業部を連結して牽引する構造になっているが、従来の除草機は、田植機の後方に田植作業部に代えて除草部を連結した構造で、除草部を牽引して除草する。
【0005】
この種の除草機は、条間の除草には回転ロータを用い、株間の除草には左右にレシプロするレーキを用いることで、条間と株間を同時に除草する。また、従来、水を張った水田に入って作業を行う乗用の機械としては田植機しかなく、また田植機は農家でも田植えに広く利用されているため、走行機体として田植機を兼用することはコストや取扱い性などの点で有利である。
【0006】
しかし、従来の田植機は4輪車のものが多く、枕地などでの方向転換の際には後輪が複数の条を横切り、わだちの形成による土の持上げや稲株の踏み潰しによって稲株が浮き上がったり埋没したりして、多くの稲株が損傷してしまうという問題があった。
【0007】
また、田植機によって水田に植付けられた稲株は一定の左右間隔(条間)と前後間隔(株間)をもって配列されるが、作業者の技量によって程度はあるものの条は真直ぐにはならず、多少は蛇行した状態で植付けられる。
【0008】
したがって、前記のように、除草機が田植機の後方に連結されていると、除草機の作業位置を見ながら走行できないため、後方にある作業位置を確認しながら走行しなければならず、後方に気をとられて田植機の車輪で稲株条を横切ってしまったり、条間除草用の回転ロータなどが条間に位置せずに条上を進行したりして、稲株を浮上らせたり埋没したりして損傷するという問題があった。
【特許文献1】特開2000−300006号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする問題点は、田植機を本機として利用し、田植機の後方に除草機を連結した水田の除草部では、田植機が4輪であるために、枕地などでの方向転換の際に4本の車輪による土の持上げや稲株の踏み潰しによって、多くの稲株が浮き上がったり埋没してしまったり、作業部が後方にあるために、作業位置を視認しながら走行できずに田植機の車輪で稲株条を横切ったり、除草機が適切な配置に位置せずに条間除草用の回転ロータなどが稲株条の上を通過したりして、稲株を浮上らせたり埋没したりして損傷してしまっていた点である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、請求項1記載のごとく、前輪が左右2輪で後輪が中央1輪の3輪式であって、これら前輪と後輪の中間に運転席を配置した乗用の走行機体に、エンジンと、エンジンの動力を前輪に伝えて駆動する駆動部と、後輪の向きを変更して機体の進路を旋回する操向部とを設けるとともに、後輪の位置は、その走行軌跡が走行機体の最小旋回時の旋回外側の前輪と同じになる距離だけ、前輪から離して設置し、さらに前輪の前方には除草部を設け、除草部は機体前部に横架する左右方向の伝動軸を介してエンジンに連結するとともに、この伝動軸を中心に昇降可能にした。
【0011】
請求項2記載のごとく、前記後輪はその位置を前後に変更可能にした。
【0012】
請求項3記載のごとく、前記走行機体の長さ方向に沿う中心フレームに縦長の連結筒を2本以上前後に並べて設置し、下端に後輪を取付けた前記操向部の後輪支持杆を前記連結筒のいずれかに旋回自在に挿通支持した。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載のごとく、左右2輪の前輪と中央1輪の後輪との3輪の車輪で機体を支持するとともに、これら前輪と後輪の中間に運転席を配置して、その前方に除草部を設けたため、機体の前部に偏った荷重を2輪の前輪に分散して水田を走行するとともに、作業位置を視認しながら走行して、植付けられた稲株の条が蛇行していても除草部を適切な作業位置に配置して確実に作業を行うことができ、また、後輪の位置は、その走行軌跡が走行機体の最小旋回時の旋回外側の前輪と同じになる距離だけ、前輪から離して設置されており、旋回時に後輪が前輪の一方の軌跡に沿って走行するため、車輪の通過による土の持上げや稲株の踏み潰しを抑えることができる。
【0014】
請求項2記載のごとく、後輪の位置を前後に変更可能に構成したことにより、除草部の作業条数に合わせて後輪の前後位置を変更して、機体の最小旋回時の旋回中心を除草部の幅に合わせ、枕地での旋回が容易に行えるとともに、後輪と旋回外側の前輪とが同じ軌跡を走行させて、車輪による土の持上げや稲株の踏み潰しを抑えることができる。
【0015】
請求項3記載のごとく、複数の縦長の連結筒を前後に並べて配置し、この連結筒に後輪の支持杆を旋回自在に挿通させたことにより、除草部の作業条数に応じて簡便に後輪の前後位置を変更できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
第1図は本発明にかかる乗用水田除草機の全体側面図である。この除草機は、機体1の後部にエンジン100を搭載し、中央には座席11を設け、その前方にハンドル12を備えて乗用型に構成する。また、機体前部に前記エンジン100によって駆動する左右2輪の駆動輪13を配置し、機体後部には前記ハンドル12によって操舵する1輪の操向輪14を配置して、3輪の走行機体に構成する。機体1の前部に設けられたギヤボックス16に除草部2が接続されている。
【0017】
除草部2は、ギヤボックス16に接続する駆動軸20と、この駆動軸20から左右に張り出したフレーム21と、条間を正転駆動される除草ロータ22と、この除草ロータ22の後方を転動する遊転ローラ23と、左右に往復動されるレーキ24とから構成される。
また、駆動軸20には、レーキ24を左右に往復動させるレシプロ装置240が設けられ、フレーム21には泥跳ねを防ぐカバー25と、稲株の葉が除草ロータ22に巻き込まれるのを防ぐ稲株よけ26が取付けられている。
【0018】
駆動軸20の先端部に回転支軸220を連結し、この支軸220をフレーム21で軸受けする。複数個の除草ロータ22を回転支軸220に等間隔に取付け、遊転ローラ23をフレーム21に取付けてそれぞれの除草ロータ22の後方に配置し、除草ロータ22によって浮き上がった雑草を遊転ローラ23で埋没して条間を除草する。また、駆動軸20からの動力をレシプロ装置240に伝達し、このレシプロ装置240に設けたレシプロ軸241にレーキ24を取付けて、正面視において条間除草ロータ22の間に配置して左右にレシプロさせ、株間を除草する。
【0019】
第2図は乗用水田除草機の機体1の正面図である。
エンジン100からの動力は機体1中央のミッションケース101内で変速され、機体1下部の水平駆動軸15を介して左右の駆動ケース131に伝達される。それぞれの駆動ケース131の外側に駆動輪13を隣接して配置して車軸130で接続して駆動する。動力を機体1下部の水平駆動軸15の高さから駆動輪13の車軸130の高さに変換して、機体1の最低地上高を高い位置に保持している。
【0020】
また、駆動輪13への伝動系から分かれた動力は、機体1の側面に設けた伝動ケース102の前部に横架した左右方向の伝動軸162に伝達される。伝動軸162はギヤボックス16に接続され、このギヤボックス16は、伝動軸162に対して直交する軸に動力を伝達する接続部160と、固定用のボルト穴161とを備えている。図1に示すように、この接続部160に除草部2の駆動軸20を嵌め込んで固定し、伝動軸162からの動力を駆動軸20に伝達して除草部2を駆動する。
【0021】
ギヤボックス16には昇降アーム31を取付け、この昇降アーム31に油圧シリンダ30を接続して昇降機構3を形成する。油圧シリンダ30は機体フレーム10に固定され、この昇降機構3は油圧シリンダ30によって駆動される。昇降機構3によって前記ギヤボックス16を伝動軸162を中心として上下に回動し、このギヤボックス16に連結した除草部2を昇降する。
【0022】
第3図は乗用水田除草機の平面作用図である。
除草部2は8条の稲株を処理する仕様に構成されている。前記駆動輪13は4条の稲株を跨ぐように配置されており、操向輪14はその中央の条間を走行する。操向輪14は、ステアリング機構(図示せず)によってハンドル12と接続される。このステアリング機構は、ハンドル12の軸に取り付けられたスプロケットをギアで減速し、チェーンを介して操向輪14に設けられたスプロケットに減速されたハンドル12の回転を伝達する。操向輪14がハンドル12の操舵方向と反対の方向に、その操舵角に応じた所定の角度だけ回転し、機体1はハンドル12の操舵方向へ旋回する。
【0023】
また、ハンドル12の最大操舵角位置において、駆動輪13の車軸130の延長線と操向輪14の車軸の延長線とが交わる旋回中心から、操向輪14までの距離と、旋回外側の駆動輪13までの距離とが等しくなるように構成する。
【0024】
このように車輪を配置して、機体1の最小旋回時に操向輪14と旋回外側の駆動輪13とを同じ軌跡を走行させて、車輪によって形成されるわだちの本数を減らすことで、土の持上げや車輪による稲株の踏み潰しによる稲株の損傷を抑えることができる。
【0025】
また、除草部2の作業条数は、6条、8条または10条に変更可能であるため、操向輪14の前後位置を調整し、機体1の最小旋回時に、旋回中心が除草部2の旋回内側の端縁近傍をとおる前後方向の線分上に位置するようにして、枕地での旋回を容易にする。
【0026】
第4図は乗用水田除草機の後部の側面図である。エンジンケース103を取外した状態を示している。ブラケット140に回転可能に取付けられた操向輪14は、このブラケット140の支持杆142を機体1の後部に設けた連結筒143に挿通してストッパ(図示せず)に当てて旋回自在に支持し、キャップ141を支持杆142に取付けており、この支持杆142を軸として旋回する。
【0027】
連結筒143は機体1の後部に3箇所設けられており、機体1の前側からそれぞれ、除草部2の作業条数が6条仕様の位置、8条仕様の位置、10条仕様の位置となっている。図4では8条仕様の位置に操向輪14を取付けた状態を示している。また、操向輪14の取付け位置を変更した際には、ホイルベースが変わるため、ハンドル12と操向輪14とを接続するステアリング機構のチェーン(図示せず)は、それぞれの取付け位置に応じた長さのものに交換する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明にかかる乗用水田除草機の全体側面図。
【図2】乗用水田除草機の機体部分の正面図。
【図3】乗用水田除草機の平面作用図。
【図4】乗用水田除草機の後部の側面図。
【符号の説明】
【0029】
1 機体
10 機体フレーム
100 エンジン
101 ミッションケース
102 伝動ケース
103 エンジンケース
11 座席
110 支持棒
12 ハンドル
13 駆動輪
130 車軸
131 駆動ケース
14 操向輪
140 ブラケット
141 キャップ
142 支持杆
143 連結筒
15 水平駆動軸
16 ギヤボックス
160 接続部
161 ボルト穴
162 伝動軸
2 除草部
20 駆動軸
21 フレーム
22 除草ロータ
220 回転支軸
23 遊転ローラ
24 レーキ
240 レシプロ装置
241 レシプロ軸
25 カバー
26 稲株よけ
3 昇降機構
30 油圧シリンダ
31 昇降アーム
A 稲株条

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪が左右2輪で後輪が中央1輪の3輪式であって、これら前輪と後輪の中間に運転席を配置した乗用の走行機体に、エンジンと、エンジンの動力を前輪に伝えて駆動する駆動部と、後輪の向きを変更して機体の進路を旋回する操向部とを設けるとともに、
後輪の位置は、その走行軌跡が走行機体の最小旋回時の旋回外側の前輪と同じになる距離だけ、前輪から離して設置し、
さらに前輪の前方には除草部を設け、除草部は機体前部に横架する左右方向の伝動軸を介してエンジンに連結するとともに、この伝動軸を中心に昇降可能にしてなる乗用水田除草機。
【請求項2】
前記後輪はその位置を前後に変更可能にしてなる請求項1記載の乗用水田除草機。
【請求項3】
前記走行機体の長さ方向に沿う中心フレームに縦長の連結筒を2本以上前後に並べて設置し、下端に後輪を取付けた前記操向部の後輪支持杆を前記連結筒のいずれかに旋回自在に挿通支持してなる請求項2記載の乗用水田除草機。

【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−6244(P2006−6244A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−190143(P2004−190143)
【出願日】平成16年6月28日(2004.6.28)
【出願人】(000113816)マメトラ農機株式会社 (25)
【Fターム(参考)】