説明

乾燥強化繊維の結合方法

【課題】強化繊維および半結晶性熱可塑性ポリマー結合材料を含む繊維強化ファブリックまたはプレフォームを提供する。
【解決手段】後に未硬化の熱硬化性ポリマーを含浸し、硬化して高機能熱硬化性ポリマー複合構造体を作成するための、強化繊維および半結晶性熱可塑性ポリマー結合材料を含む繊維強化ファブリックまたはプレフォームであって、半結晶性熱可塑性ポリマーおよび熱硬化性ポリマーまたは熱硬化性ポリマー類は、熱硬化性ポリマーの硬化温度において高度の相溶性を有し、熱硬化性ポリマーの硬化以前には部分的に相互侵入可能であることを特徴とする繊維強化ファブリックまたはプレフォーム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性ポリマー複合構造体の製造の一部分として繊維強化材料を一緒にして結合する方法に関する。更に詳細には、本発明は、結合材料が硬化後の熱硬化性ポリマー複合構造体の性能を低下させないように、未硬化の熱硬化性ポリマーとの相溶性に適した熱可塑性ポリマー結合材料を選択する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
連続繊維強化ポリマー複合体材料(以下ポリマー複合体という)は、軽量でありながらその強度および剛性が高いことから利用されている。これは、強化繊維の向きを主要な負荷方向に配列し、必要とする剛性および強度が得られるように繊維の配分を方向によって変化させることによって主に実現される。これを製造において実用的に達成する際には、繊維は次の様々な形式で用いられる。これらの形式には、直径1mmほどの細い、トウと呼ばれることもある繊維の束;同一方向に配列された複数のトウを含む幅広のシートである、単一方向トウシートまたはテープ;少なくとも1方向、通常は複数の方向に配列されたトウがウェービングなどの織物方法によって組付けられた単層のファブリック(布);またはステッチング(縫製)、ニッティング(編成)、またはウェービング(製織)などの織物方法によって適用される織物結合材料を用いて幾つかの層において各種方向に配列されたトウを一緒に保持する多層のファブリックなどがある。製造されたポリマー複合体製品の品質は、どの形式の強化繊維を選択したとしても、繊維の配列方向の維持に大きく依存する。
【0003】
熱硬化性ポリマー複合体部品は炭素またはガラス繊維などの強化繊維、およびマトリックスまたは樹脂と呼ばれる未硬化の熱硬化性ポリマーを用いて製造される。未硬化の熱硬化性ポリマーは通常は、1または複数の短鎖樹脂および1または複数の硬化剤の混合物であり、これに加えて熱可塑性ポリマーおよび充填剤などを含むその他の材料が含まれる。未硬化の熱硬化性ポリマーは強化繊維と結合され、多くの場合加熱により硬化し、熱硬化性ポリマー部品を形成する。
【0004】
また、熱硬化性ポリマー複合体部品は様々なプロセスを用いて製造可能である。製造方法のサブセットとしては液状成形が公知である。液状成形プロセスでは、強化繊維および/またはトウの集合体を賦形および圧縮して、プレフォームと呼ばれる、粘着性のある賦形された強化繊維を生成する。このプレフォームを、後に未硬化の熱硬化性ポリマーを含浸するために、成形型に載せる。未硬化の熱可塑性ポリマーは樹脂、またはマトリックスと呼ばれることもある。未硬化の熱硬化性ポリマーは通常1または複数の樹脂成分および1または複数の硬化剤成分を含む混合物である。この予備成形プロセスの重要な部分は、複数の強化繊維を一緒に保持して、賦形および硬化後の強化繊維の形状を維持するとともに繊維の方向を正確に制御するために用いられる結合材料系である。
【0005】
液状成形を用いて製造される部品の多くには、そのファブリック内部および/またはファブリック間に結合材料系が存在する。そのような結合材料系が液状成形プロセスによって製造された熱硬化複合部品に占める割合は、低い(およそ1〜5重量%)ことが多い。一般に、結合材料系はポリマーまたはポリマー粉末であり、これらをファブリックに適用し、軟化させることによってポリマーが流れて繊維のトウを浸潤させ、その後、硬化し、繊維を一緒に結合する。この種類の結合材料系は接着結合材料、または結合材料と呼ばれる。この結合材料は、粉末、またはベール状または繊維状の細いポリマーフィラメントでありうる。この結合材料を一時的に加熱し、部分的に溶融し、その後冷却し、再度硬化して、それによって結合材料を繊維または繊維トウに付着させる、また、ファブリックの各繊維トウまたは層を相互に付着させる。場合によっては、結合材料は溶剤中に溶解し散布によってファブリックに適用することが可能であるような固体または高粘度の液体である。
【0006】
あるいは、結合材料系は織物用結合材料の糸であってもよく、ウェービング、ステッチング、タフティング、ニッティング、またはその他の適切な織物方法によって適用され、各層を一緒に機械的に保持する。この種の結合材料系は、多軸ノンクライムファブリック(NCF)の製造、短繊維または連続繊維の製造、マット補強、指向性繊維の予備成形、およびファブリックを積層したものからのプレフォームの製造などに用いられる。最も従来からある織物用結合材料の糸はポリエステルヤーンであり、このヤーンはエポキシ樹脂に対する接着性が一般に低く、そのため結合材料と、その結果できる積層体のマトリックス樹脂との間の界面が弱い。また、糸はポリマー内部および糸を構成する各フィラメント間の両方において高い保水力を有する。これらの糸中に水分が存在することは、繊維の周りのポリマー複合マトリックスおよびその結果のポリマー複合構造体に有害な影響を与える恐れがある。
【0007】
最適な結果のためには、結合材料系は、その結果作成される積層体の機械的特性を低下させるものであってはならない。この条件は、結合材料系は、その存在が非常に少量である、もしくはマトリックス樹脂に強固に結合される、のいずれかでなければならないことを示唆する。結合材料がマトリックス樹脂に強固に結合されると、その結合材料自体が指定の用途に十分な機械的特性を有する。
【0008】
現在、結合材料としては、マトリックス樹脂が硬化するにつれて、接着結合を介してそのマトリックス樹脂に結合する、またはマトリックス樹脂中に少なくとも部分的に溶融する、未硬化または部分的に硬化した熱硬化性樹脂が用いられる。あるいは、熱可塑性ポリマーが用いられる。これらはマトリックス樹脂中に溶融および/または溶解する、または固体のままである。熱可塑性ポリマーとしては、マトリックス樹脂中に容易に溶解するが溶剤に対する抵抗性が低く、また機械的特性も低い非結晶熱可塑性ポリマーがよく用いられる。
【0009】
これらの種類の結合材料は各々固有の問題を有する。結合材料が樹脂中に溶解する場合は、マトリックス樹脂が影響を受ける可能性があり、硬化した複合体の特性が低下する恐れがある。これらの特性には、ガラス転移温度(T)、樹脂の温度特性の測定値、および臨界ひずみエネルギー放出速度(G)、耐破損性能の測定値が含まれる。結合材料が溶解しない場合、また更にマトリックス樹脂に良好に接着しない場合は、界面が弱くなり、複合積層体の耐久性または強度に影響することがある。更に、処理中の相溶性を緩和するために、熱可塑性ポリマーの分子量は低くなり、その結果機械的特性が低くなりうる。
【0010】
そのため、接着結合材料または織物結合材料の両方として有効であり、また熱硬化性マトリックス樹脂に対して良好に結合し、その結果できる複合積層体の強度または耐久性を低下させることのない結合材料系が求められている。
【0011】
本発明は、上述の問題を緩和し、複合構造体中の結合材料の存在が、熱硬化性ポリマー複合体の特性を実質的に低下させることなく、また実際には増強する、熱硬化性ポリマー複合体の製造方法を提供する。
【発明の開示】
【0012】
本発明は、広くは、強化繊維、繊維のトウ、またはファブリックを一緒に保持し位置決めするための半結晶性熱可塑性ポリマーの選択方法であって、後に少なくとも上記の強化材料、少量の上記選択された熱可塑性ポリマー結合材料、および大量の熱硬化性ポリマーから成る熱硬化性複合構造体または積層体を製造するための、選択方法を提供する。
【0013】
本発明の方法によると、熱可塑性ポリマーの選択は、結合材料ポリマーとしての他の要件に加えて、上記の半結晶性熱可塑性ポリマー、および目的の熱硬化性ポリマー複合構造体のマトリックスとして用いられる個々の未硬化の熱硬化性ポリマーまたは熱硬化性ポリマー類の間の相溶性に基づいて行われる。熱可塑性ポリマーおよび未硬化の熱硬化性ポリマー、または少なくとも未硬化の熱硬化性ポリマー混合物の成分の一部が適切なレベルの相溶性を有する場合、条件が適切であれば、熱硬化性ポリマーが硬化する前に、セミ相互侵入高分子網目構造(SIPN)領域が熱硬化性および熱可塑性ポリマーの間に形成される。したがって、熱可塑性結合材料の選択が本発明の方法に従って行われると、複合積層体の含浸および硬化時に、マトリックス熱硬化性ポリマーおよび結合材料熱可塑性ポリマーは、熱硬化性および熱可塑性ポリマーの間に、制御されたSIPN領域を形成することができる。
【0014】
選択された熱可塑性結合材料は、熱硬化性ポリマーおよびその結果の熱硬化性複合体の総合機能を低下させることのない機械的性能および物理的特性を有することが好ましい。これらの特性として、使用温度範囲におけるポリマーの機械的性能が十分であること、低い保水性、および高耐溶剤性が含まれるがこれに限定されるものではない。これらの優位特性は半結晶性熱可塑性樹脂に見出されることが多い。
【0015】
熱可塑性ポリマーは、強化繊維、繊維のトウ、またはファブリックを一緒に保持するために用いうる形状で入手または製造可能であることが更に好ましい。これらの形式には、粉末、フィラメント、ファブリック、およびベールを含むがそれに限定されない。
【0016】
本発明の方法に従って固定される強化繊維材料は、繊維トウ、短繊維トウ、繊維マット、織物、多層ファブリック、3Dファブリック、またはファブリックのスタック(積層体)、またはトウ群の形状になることが好ましい。
【0017】
本発明の第1の実施形態によると、熱可塑性ポリマー結合材料を含み、後に未硬化の熱硬化性ポリマーを含浸し、硬化して高機能熱可塑性ポリマー複合構造体を作成するための、強化繊維プレフォームまたはファブリックの製造方法であって、
前記ファブリックまたはプレフォーム用の結合材料として半結晶性熱可塑性ポリマーを選択し、前記熱硬化性ポリマー複合構造体の熱硬化性マトリックス用に熱硬化性ポリマーを選択する工程であって、前記半結晶性熱可塑性ポリマーおよび前記熱硬化性ポリマーまたは前記熱硬化性ポリマーの成分が、前記熱硬化性ポリマーの硬化温度で高い相溶性を有し、前記熱硬化性ポリマーの硬化前に部分的に相互侵入可能であるようにする、工程と、
前記半結晶性熱可塑性結合材料ポリマーを強化繊維材料の選択された領域に個別に適用し、前記強化繊維材料および前記半結晶性熱可塑性結合材料を一緒にし、所望の、立体的配置、形状、および近接性に位置決めする工程と、
前記強化繊維材料および前記半結晶性熱可塑性結合材料ポリマーを一定の温度まで加熱し、それによって前記半結晶性熱可塑性ポリマーが流れて前記繊維を湿潤させる、工程と、
前記強化繊維材料および前記半結晶性熱可塑性ポリマーを前記半結晶性熱可塑性ポリマーの流れ温度より低い温度まで冷却し、それによって前記熱可塑性ポリマーと前記強化繊維材料との間の接着を介して前記強化繊維材料を所定の位置および方向に固定する工程とを含む、製造方法が提供される。
【0018】
本発明の第2の実施形態によると、熱可塑性ポリマー結合材料を含み、後に未硬化の熱硬化性ポリマーを含浸し、硬化して高機能熱可塑性ポリマー複合構造体を作成する、強化繊維プレフォームまたはファブリックの製造方法であって、
前記ファブリックまたはプレフォーム用結合材料として半結晶性熱可塑性ポリマーを選択し、前記熱硬化性ポリマー複合構造体の前記熱硬化性マトリックス用に熱硬化性ポリマーを選択する工程であって、前記半結晶性熱可塑性ポリマーおよび前記熱硬化性ポリマーまたは前記熱硬化性ポリマーの成分が、前記熱硬化性ポリマーの硬化温度で高い相溶性を有し、前記熱硬化性ポリマーの硬化前に部分的に相互侵入可能であるようにする、工程と、
前記強化繊維材料を一緒にし、所望の、立体的配置、形状、および近接性に位置決めする工程と、
ステッチング(縫製)、ウェービング(製織)、タフティング(房編み)、ブレーディング(三つ編み)、横編み、および縦編みから成る群から選択される織物方法を用いて前記強化繊維材料および前記熱可塑性結合材料を結合することによって、1または複数の繊維、フィラメント、糸、またはヤーンの形状の前記半結晶性熱可塑性ポリマーを用いて前記強化繊維材料を所定の位置および方向に固定する工程とを含む方法が提供される。
【0019】
有利なこととして、本発明の方法を用いて半結晶性熱可塑性結合材料ポリマーおよび熱硬化性ポリマーまたは熱硬化性ポリマー類を選択することによって、本発明の方法に従って製造されたファブリックまたはプレフォームの上記の熱硬化性ポリマーによる含浸、および後の硬化によって、前記半結晶性熱可塑性ポリマーと熱硬化性ポリマーとの間の結合が非常に強固になる。
【0020】
当業者であれば、本発明の第1および第2の実施形態に従って製造された強化ファブリックまたはプレフォームを、含浸プロセスのすぐ後に通常、硬化プロセスが行われる、液状成形法に用いることが可能であることを理解するであろう。あるいは、強化ファブリックまたはプレフォームを用いて通常はプレプレグと呼ばれる予備含浸されたファブリックを製造することができる。プレプレグは保管して、後に所望の形状および寸法に裁断し、成形型に組付け、積層物を生成し、次にそれを硬化する。
【0021】
更に有利なこととして、上記選択された熱硬化性ポリマーを硬化するプロセスを実施することにより、前記熱硬化性ポリマーおよび上記半結晶性熱可塑性ポリマーの間の相溶性を制御または強化して、熱硬化性ポリマーマトリックスの硬化時に前記熱硬化性ポリマーマトリックスおよび前記熱可塑性ポリマー結合材料の間にセミ相互侵入高分子網目構造領域を形成することができる。
【0022】
本発明の方法で用いられる半結晶性熱可塑性ポリマー結合材料は、粉末や繊維などの細粒、または織ベールまたは不織りベールまたはファブリックなどの形式でありうる。粉末またはベールを本発明の第1の実施形態に従って用い、前記熱可塑性結合材料を上記強化繊維中に選択的に配置することによって強化繊維の位置および方向を固定することができる。その際、結合された強化用材料および熱可塑性結合材料の温度を一緒に上昇させることによって、熱可塑性結合材料が溶融し、それによって、流れて繊維を湿潤させ、その後硬化し、それによって、そうでないと相対的に移動する可能性のある、強化繊維構造の隣接部分の位置および方向を固定する。
【0023】
また、本発明の方法で用いられる半結晶性熱可塑性ポリマーはフィラメントの形式であってもよい。このフィラメント自体が単一のフィラメント、または複数のフィラメントが一緒に結合され単一のフィラメントまたは糸として機能する複数のフィラメントで構成されうる。フィラメントを、ステッチング、ニッティング、または他の織物方法を用いて強化繊維を固定するために、第2の実施形態の方法に従って用いられる。あるいは前記熱可塑性ポリマーを上記の強化繊維中に選択的に配置することによって、第1の実施形態に従ってフィラメントを用いることができる。その際、結合された強化用材料および熱可塑性ポリマーの温度を一緒に上昇させることによって、熱可塑性ポリマーが溶融し、それによって流れて繊維を湿潤させ、その後硬化し、それによって、そうでないと相対的に移動する可能性のある強化繊維構造の隣接部分の位置および方向を固定する。
【0024】
本発明の開示の中で用いられる、固定する、固定された、または固定用、の用語は相対語であり、繊維およびファブリックの方向の全体軸および全体の位置が所望の許容幅の中に保持されていることを示す。本発明の方法は、強化繊維またはファブリックのすべての部分の精密な位置決めおよび配置を行うものではない。更に、ステッチング、結合材料、または同等の固定系によって一緒に保持されたファブリック、複数のファブリック、または結合強化繊維の含浸は、強化繊維の局部的な位置および方向を変化させる可能性があることは当業者の理解の範囲であろう。また、ステッチング、結合材料、または同等の固定材料の量および配置の適切性が向上することにより、強化用材料の固定度が改善するはずであることも理解するであろう。
【0025】
有利なこととして、本発明の方法は効率的な実施方法を含み、また他の処理工程と共に用いて、結合材料と熱硬化樹脂との間の良好な結合により、高度な樹脂支配特性を有する複合構造体を製造することができる。
【0026】
有利なこととして、上述した本発明のプロセスに追加のプロセスを組み込み、強化繊維プレフォーム形状の製造を容易にすることができる。例えば、繊維の破損を低減し、処理効率を向上するために、追加のプロセスを用いて、結合した材料を加熱しながら、強化繊維材料および選択した半結晶性熱可塑性材料を賦形することができる。その後、賦形したスタックを冷却することによって、プレフォームの最終の幾何学的形状を保存する。したがって、後で賦形処理が行われる場合は、本発明の第1および第2の実施形態で記載されるように、強化繊維材料を一緒にし、所望の立体的配置、形状および近接性に配置するプロセスが、これが本発明の第1および第2の実施形態に従って製造されたプレフォームの最終の立体的配置、形状または近接性であることを示すものではない。本発明の第1または第2の実施形態に従って選択される半結晶性熱可塑性ポリマーはフッ化ビニリデン(PVDF)、すなわち純粋なPVDF、または他のポリマーおよび/または従来の添加物と組合わせたPVDFを含有するもの、あるいはPVDFのブロックまたはモノマーユニットを含有するブロックコポリマーであることが好ましい。熱可塑性ポリマーはフィラメント、糸、ベール、粉末、またはその他、強化繊維材料の中に個別に分散可能な形式でありうる。
【0027】
本発明の第1または第2の実施形態に従って選択された熱硬化性ポリマーまたは熱硬化性ポリマー類は、最初は未硬化であり、後に適切に上昇した温度において硬化する、好ましくは1または複数の樹脂成分および1または複数の硬化剤成分を含み、これに限定されない混合物である。熱硬化性ポリマー複合体の場合は、その複合体は、1または複数の他の材料によって強化された適切な熱硬化性ポリマーである。更に好ましくは、熱硬化性ポリマーはエポキシまたはビスマレイミド、または、熱硬化性ポリマー類はエポキシポリマーまたはビスマレイミドポリマーである。
【0028】
有利なこととして、選択された相溶性の熱硬化性ポリマーの含浸および硬化を後に行うことにより強固に結合したマトリックスを形成可能な強化繊維製品またはプレフォームを、本発明の第1または第2の実施形態を用いて製造することができる。
【0029】
更に有利なこととして、本発明の方法は、本発明の方法に従って先に製造された強化繊維製品、ファブリック、プレフォームまたはアセンブリを一緒に接合するために用いてもよい。具体的には、本発明の第2の実施形態に従って形成される1または複数の縫合されたファブリックは、いくつかの選択された熱可塑性材料をファブリックの間に分散し、本発明の第1の実施形態に従って処理することにより一緒に接合してもよい。また、本発明の第1の実施形態に従って製造されるファブリックのスタックまたは同等の強化繊維プレフォームは、本発明の第1の実施形態に従って各ファブリック層を一緒にする前に、スタックまたはプレフォームの間に分散したいくつかの選択された熱可塑性樹脂を有してもよいことは理解されるであろう。
【0030】
ファブリック中に十分な織物結合材料がある場合は、熱可塑性樹脂の更なる追加を必要とせずに、本発明の第1の実施形態に従って追加のファブリックを一緒にして賦形することができる。特に、結合する1または複数の表面上に十分な結合材料が存在する場合、本発明の第2の実施形態に従って製造される1または複数のファブリックは、追加の熱可塑性結合材料の追加を必要とせずに、一緒にし、本発明の第1の実施形態に従って処理することができる。
【0031】
溶解度試験を行って直接測定する、あるいは多くの成分の複雑系が関係している場合、相互侵入距離すなわち一方の材料または材料群が他方の材料の本体に移行する距離などの相溶性の実地測定を行うことによって、個々の材料間で高い相溶性が測定しうる。熱硬化性および熱可塑性ポリマーの間の上記の相溶性は、有意なレベルの接着を提供するのに十分であるときの相互侵入距離、例えば、0.1から100μmの間、によって数値化することができる。
【0032】
第3の実施形態によると、強化繊維および半結晶性熱可塑性ポリマー結合材料を含み、後に未硬化の熱硬化性ポリマーを含浸し、硬化して高機能熱硬化性ポリマー複合構造体を作成する、繊維強化ファブリックまたはプレフォームであって、
前記半結晶性熱可塑性ポリマーおよび前記熱硬化性ポリマーは、前記熱硬化性ポリマーの硬化温度において高度の相溶性を有し、前記熱硬化性ポリマーの硬化前に部分的に相互侵入可能である、繊維強化ファブリックまたはプレフォームが提供される。
【0033】
半結晶性熱可塑性ポリマーは、加熱され流動可能になると、強化繊維材料を湿潤することが好ましい。
【0034】
第4の実施形態では、本発明は強化繊維材料および熱硬化性マトリックスポリマーを含み、前記強化繊維の少なくとも一部は事前に半結晶性熱可塑性結合材料ポリマーを用いてファブリックまたはプレフォームに組付けられており、前記熱可塑性結合材料ポリマーおよび前記硬化した熱硬化性マトリックスポリマーはセミ相互侵入高分子網目構造の界面領域を有する強化された熱硬化性ポリマー複合構造体を提供する。
【0035】
(好適実施態様の詳細な説明)
以下、例として添付図面を参照し、本発明の詳細を説明する。
本発明の両実施形態では、半結晶性または結晶性熱可塑性結合材料は繊維強化材料に結合され、強化ファブリックまたは強化プレフォームを形成する。その後、ファブリックまたはプレフォームの樹脂含浸を行った後であり、かつ複合積層体の硬化時に、半結晶性熱可塑性結合材料および熱硬化性樹脂はセミ相互侵入高分子網目構造の界面を形成し、硬化した複合積層体の熱可塑性結合材料および熱硬化性樹脂との間に強固な結合を確保する。
【0036】
本発明の第1の実施形態に係る方法は、図1aに示すようにファブリック10を用いて行うのに適している。強化プレフォームを作成するためには、本発明の第1の実施形態に記載の方法に引続いて、各種形状に裁断し各方向に適用可能な複数のこれらのファブリック10を、所定の順番、位置、および方向に積み重ね、その位置で維持する。半結晶性熱可塑性ポリマー14を個別に、図1bに示すように、ファブリック表面12に適用(塗布)する。熱可塑性樹脂14は、組付け後にファブリックスタック上で行われる液状熱硬化性樹脂の含浸などの後続のプロセスが、熱可塑性樹脂の不浸透性の層または他の障害物の存在によって妨げられることのないように、個別に適用する。同様に、上述した総合的な制限を満足する限り、つまり後で熱可塑性樹脂が流れを妨げるような許容不能な問題を引き起こすような恐れがない限り、熱可塑性樹脂を適用する箇所または表面の数に制限はない。図1bに示す熱可塑性樹脂14は粉末であるが、熱可塑性樹脂の適用がこの形式に限定されるものではなく、同等のものとして、熱可塑性樹脂は、ベール、ウエブ、フィラメント、多孔シートなどの、熱可塑性樹脂をファブリック10の表面12に、個別の間隔で、配置することができる形式であればよい。
【0037】
熱可塑性樹脂14をファブリック10に適用した後、図1cに示すようにファブリック10の各層を一緒にする。本発明の方法を成功させるには、熱可塑性樹脂14は、スタック16中に配置された個別の項目のそれぞれを接合するのに十分な量を適用する必要がある。これを達成するには熱可塑性樹脂14を個々のファブリックピース10間の各内側界面の少なくとも1つの表面12に適用すること、もしくは熱可塑性樹脂14を、後に溶融した時に熱可塑性樹脂14が流れてファブリック10の各ピースに対して十分な割合に接触するように適用することが必要である。粉末などの球状の熱可塑性樹脂14を用いる場合は、少なくとも、各ファブリックピース10の2つの別々の点を、隣接するファブリックピースに固定するべきであることは推測できるであろう。しかしながら、ファブリックスタック16全体の安定性については、これでは不十分である場合があり、実質的には粉末をより広く分散することが必要となるであろう。代替としては、大型、多孔、単一の接触領域が効果的に得られる、ベール、またはウエブなどの連続形式の熱可塑性結合材料を用いることである。
【0038】
図1dに示すように加熱工程よび必要であれば賦形工程の後、個々の層10が好ましい位置および方向になるように、ファブリック層10を配置する。加熱成形型18を用いて、本方法に熱を適用する。その際、結合されたファブリック層10および熱可塑性樹脂14を介して熱を伝達させる。同様に、スタック16を他の方法、例えば、オーブン、ホットエアガン、または赤外線ランプで加熱することもできる。複数層のファブリック10を積み重ねた後は、加熱は必要ない。実際は、ファブリック10の各層を加熱することで、いくつかの利点が得られる。すなわち、各層を、その接合用熱可塑性樹脂12を用いてスタック16の上に配置し、先に積み重ねされたファブリック16上の所定の位置に固定し、その後次のファブリック層10を配置する。
【0039】
図1dに示す加熱工程は、ファブリックスタック16の形状をフラットなスタックから別の幾何学的形状のものへ変化させる工程を更に含む。これは本発明の第1の実施形態に記載された方法の一部ではない。しかしながら、この時点でファブリックスタック16を賦形することは実用的である。また、熱を加えて熱可塑性樹脂14を溶融することによって、ファブリックのプライ10が互いに関して容易に滑動可能となり、賦形工程が簡単になる。この例では、個々の層10は、スタック16の上に配置される時に加熱されて、ファブリック層10が熱可塑性樹脂14によって隣接するファブリックに既に接合されている、またはファブリック10は互いに対して移動可能である。
【0040】
十分な熱を加えるプロセスにより、熱可塑性樹脂14は溶融、または可動性を得て流動可能になる。選択される温度は、熱可塑性樹脂において十分であるが過剰ではなく、熱可塑性樹脂14および強化繊維ファブリック10を構成する繊維との間の接着性を得る流動性を得るために必要な温度である。流動性が高すぎると、ファブリックの隣接する層間で力を伝達するために、熱可塑性樹脂14の耐荷部材として機能するところの寸法が局所的に低減されることがある。一方、接着性は、同様にファブリック10中にしっかりと結合された熱可塑性樹脂14によって、個々の強化繊維を封入することから良い結果が得られる可能性が最も高い。また、熱可塑性樹脂14を適切に選択することによって、強化繊維および熱可塑性樹脂との間に一定の化学的引力を得て、熱可塑性樹脂14をより効果的な接着剤として機能させるようにすることも可能である。
【0041】
ファブリックスタック16および熱可塑性樹脂14を冷却すると、熱可塑性樹脂14は、それ以上の流動性が発生しないという温度点まで低減する。図1eに模式的に示すこの段階では、最終プレフォーム20が硬化した幾何学的形状に保持され、個々の構成プライは、互いに関して固定した位置および方向において保持される。個々のプライ10の固定度は結合用熱可塑性樹脂12の量および分布、並びに別個の層を一緒に結合するために用いる加熱工程の品質に依存する。
【0042】
第1の実施形態に係る方法は、強化繊維の方向が1方向しかない強化繊維、または賦形されたプレフォームに、個々のトウ、または個々の繊維を結合する場合にも適していることは当業者には明らかであろう。
【0043】
本発明の第2の実施形態に係る方法は図2aの例に示され、図では個々のトウ22が別々の層で異なる方向に配置されている。このプロセスは、現行技術では公知であり、異なる方向を向いた別々の強化繊維の層が一緒にされ、所定の位置にステッチングまたはニッティングによって保持されている多軸ノンクリンプファブリック(NCF)などのファブリックの製造に用いられている。トウは複数の個々の強化繊維から成り、その数は一般に3,000から80,000であり、簡易に結合されていることが多い。現在公知である方法に従って、ステッチングまたはニッティングによりトウを一緒にし、単一の多層繊維30を形成する。これらはトリミング、賦形、および他のファブリックと接合が可能であり、最終的に熱硬化性樹脂を含浸させ連続する繊維強化された複合材を形成する。
【0044】
ステッチングの前に、トウ22の各々を、固定位置に配置された他のトウに対して相対的に配置し、機械的に保持する。この工程を、例えば、織布機、または他の同等の装置を用いて実施してもよい。図2bは組付けられたトウを通る結合材料ヤーン32を含む図である。これは、ウェービング、ステッチング、ニッティング、タフティング、またはオーバーロック、などの各種の織物方法によって実用的に達成しうる。熱可塑性のヤーン32の張力は、通常、トウ22を所定の位置に保持するために十分であるが、トウ22を過度に捲縮させるほど高くはない。熱可塑性樹脂糸32を用いる織物固定プロセスの後、トウ22は所定の位置および相対的な配置に保持される。この例では、固定の程度は、ステッチングの位置および集中度、および熱可塑性樹脂糸32中の張力によって決まる。
【0045】
上述のプロセスによって製造された強化ファブリック30は強化繊維またはトウ22が1層しかなく、すべてが同じ方向に配置されている場合があることは当業者には明らかであろう。その場合、熱可塑性ポリマー結合材料32は単一方向テープファブリックの個々のトウを一緒に結合する。同様に、熱可塑性結合材料32は、工業用刺繍で、繊維トウを所望の位置および方向に配列して所定の位置に保持するために用いられることもある。
【0046】
また、本発明の第1および第2の実施形態の例は、本発明の他の実施形態を適用して拡大可能であることも当業者には明らかであろう。図1eに示すような好ましい実施形態の第1の例では、個々の層が熱可塑性樹脂の溶融によって接合されているが、代替として、ファブリックを本発明の第2の実施形態を用いてステッチングによって接合されることも可能であろう。この場合、個々のファブリック層のスタックの位置および方向を所望の最終幾何学的形状に従って決め、機械的手段によって一時的に所定の位置に保持し、次にステッチング、または本発明の第2の実施形態に係る同等の織物プロセスを用いて固定することも可能であろう。同様に、図2aに示すように、熱可塑性樹脂粉末または同等の利用しやすい形式の熱可塑性樹脂のコーティングを用いて個々のトウを一緒に組付け、プレスまたは同等の加熱装置内に配置し、そして、本発明の第1の実施形態に従って、隣接するトウ間の熱可塑性樹脂を溶融することによって一緒に接合することも可能であろう。
【0047】
本発明の第1および第2の両実施形態における半結晶性熱可塑性樹脂の使用においては、熱可塑性樹脂と、熱硬化性ポリマーまたは熱硬化性ポリマー類との相溶性に基づく選択基準を適用することが必要となる。これに関しては以下で説明する。
【0048】
(ポリマーのサーモダイナミックおよび溶解度の基準)
相溶性ポリマーの選択には、いくつかの溶融度パラメータの厳密なマッチングを必要とする。相溶性の非結晶性熱可塑性樹脂のための材料選択の原則は、次に示す混合物のギブス自由エネルギー(ΔG)に基づく。
ΔG=ΔH−TΔS≦0 (1)
式中、ΔHは混合物のエンタルピー、Tは温度、ΔSは混合物のエントロピーである。次にヒルデブランド−スキャッチャード(Hildebrand−Scatchard)の式を用いて以下のように混合物のエンタルピーを求めることができる。
ΔH=VΦΦ(δ−δ (2)
式中、δおよびδは、検討された2種の、例えば非結晶性ポリマーおよびモノマー、または硬化剤などの溶解度パラメータ(ヒルデランドパラメータとしても知られる)である。
【0049】
しかしながら、極性力などの分子間力がこれらのポリマーの溶融性挙動に大きく影響するために、接合用途としては最も好ましいとされる高機能半結晶性熱可塑性樹脂の分類に対してはヒルデブランド−スキャッチャードの式(上記の式2)の使用では不十分である。これらのポリマーに対してより適したアプローチとして、分散力、極性力および水素結合力を考慮するハンセンパラメータの使用が推奨される(AFM Barton “CRC Handbook of Solubility Parameters and Other Cohesion Parameters”, CRC Press, Boca Raton, 1983参照)。これらのパラメータを適用することにより、ポリマー−溶剤の相溶性に関して合理的な指針が得られる。図3に示すように、ポリマーbに関する相溶性の半径は半径Rで定義される。任意の溶剤aに対する分散力(δ)、極性力(δ)、および水素結合力(δ)に関するハンセン溶解度パラメータを求め、チャートに示すことができる。ここで、溶剤aに関するこれらの3つのハンセンパラメータ(δδ、およびδ)を示す溶解度チャート中の点がRによって定義された球体の中にある場合は、そのポリマーはその溶剤に溶融可能である。これを次に示す。
[4(δδ+(δδ+(δδ] 1/2R (3)
この場合、溶剤はモノマーまたは硬化剤であり、Rは、公知のハンセンパラメータの一般的な溶剤を用いて標準的な実験によって求められる。
【0050】
本発明の第1および第2の態様の有利な特徴としては、半結晶性熱可塑性樹脂の「有効溶解度パラメータ」の変更である。これは、熱可塑性樹脂および選択された熱硬化性ポリマーまたは選択された熱硬化性ポリマー類の中の1種類を十分高い温度に昇温することによって達成される。一般の条件では、ポリマーの結晶部分の融解熱を克服する自由エネルギーが十分でないために、溶剤がポリマーの固体結晶部分を通って有効に移行することはできない。系の温度を上げることよって、融解熱が克服される。これらの条件下では、未硬化の熱硬化性ポリマー(モノマーおよび硬化剤)の成分は、事前にポリマーは不溶性であるにもかかわらず、ポリマーを介して移行することができる。このように、熱を付加することによって、ポリマーの「有効溶解度パラメータ」は変更される。
【0051】
セミ相互侵入高分子網目構造の形成には、部分的に温度に依存する、複合溶解度パラメータのマッチングを必要とする。モノマー/硬化剤および熱可塑性樹脂の溶解度特性を注意深くマッチングさせ、かつ適切な温度を用いることによって、溶剤として機能する熱硬化性モノマーの存在が結晶性ポリマーの融解熱を克服し、それによって、使用するモノマー/硬化剤に依存する「有効溶融温度」を得る。この「有効溶融温度」はポリマーの残りがまだ固体であるときの温度でありうる。これらの条件下ではモノマーおよび硬化剤は、通常の溶融温度より下で、ポリマーを介して移行可能である。
【0052】
なお、本書中、溶融温度または、より低い「有効溶融温度」と記載する場合は、最低の処理温度のことであり、熱硬化性ポリマーの標準の硬化条件として、より高い処理温度が課されることがある。
【0053】
上述の基準で選択された半結晶性熱可塑性ポリマーは、含浸およびその後の硬化の後、実質的なセミ相互侵入高分子網目構造(SIPN)の形成により、選択された熱硬化性ポリマーに強固に結合される。本プロセスの1つの態様は、ハンセンパラメータを用いて求めた溶解度を有する熱硬化性ポリマーおよび熱可塑性樹脂を選択し、熱硬化性モノマーおよび硬化剤が、結晶成分の融解熱を克服することにより、半結晶性ポリマー中、または熱可塑性ポリマーの結晶成分中に所望の程度に移行するように、硬化温度/時間サイクルを選択することである。
【0054】
成分の硬化後、熱可塑性樹脂/熱硬化性樹脂の界面の分子鎖の絡み合いを介して、熱可塑性結合材料は熱硬化性ポリマーマトリックスに密接に結合し、それによって、熱硬化性ポリマーおよび熱可塑性ポリマーの間にセミ相互侵入高分子網目構造が形成される。
【実施例】
【0055】
(半結晶性熱可塑性ポリマーおよび熱硬化性ポリマーの相溶性)
表面に熱可塑性樹脂フィルムが組込まれた炭素繊維強化エポキシ複合パネルを、樹脂トランファー成形(RTM)プロセスを用いて製造した。2プライのSaertex SQ1090および2プライのSaertex SQ1091の炭素繊維NCFをRTM型に配置した。その際、0.003”のPVDFフィルムをファブリックスタックの下に配置した。PVDFは、エポキシ樹脂との公知の相溶性に基づいて選択した。型を閉じてHexcel RTM6樹脂を、80℃で含浸させた。続いて、型を177℃まで昇温し、その温度で2時間維持した。型からパネルを取り外した後、PVDFおよび硬化したRTM6の間にセミ相互侵入高分子網目構造が見出された。熱可塑性樹脂および硬化したエポキシ樹脂の間の界面のフッ素原子の相対濃度を、エネルギー分散型X線分光法を用いて測定した。PVDFおよびRTM6樹脂の間の界面に幅5μmのはっきりとした相互拡散が測定された。他の多くの航空宇宙業界仕様エポキシ樹脂で、その推奨硬化温度がおよそ177℃である樹脂を用いて製造されたPVDF表面炭素−エポキシパネル上でも、硬化したエポキシ樹脂およびPVDFの間の界面にも同様の証拠が見出されている。
【0056】
(熱可塑性樹脂粉末を用いる強化繊維層の結合)
エポキシ樹脂、具体的にはHexcel RTM6エポキシ樹脂との各温度における相溶性により、PVDF粉末を結合材料として選択した。金型のキャビティの形状に配されたアイレットに沿って案内することによって、Fortafil 80K 炭素繊維トウを所望の形状に賦形した。次にブラシを用いて炭素繊維トウを介してPVDF粉末を散布し、静電気引力により粉末をトウに接着させた。次に、トウおよび粉末を加熱した金型に入れた。その際、最初にトウおよび粉末をPVDFの溶融温度以上に加熱し、次に引続いて溶融温度より下の温度まで冷却するように、金型の温度プロファイルを設定した。断面がウエッジ型のプレフォームおよび断面が三角形のプレフォームは上記の技術を用いて良好にプロファイルでき、その結果できたプレフォームは取り扱いおよびその後の含浸に対して十分な寸法安定性を有するものであった。ウエッジ状の断面を次に、Hexcel RTM6 エポキシ樹脂で含浸し、180℃および100kPaで2時間硬化した。断面を取って検査した際、硬化した成分は、製品に良好に浸潤し、RTM6樹脂がPVDF粉末と良好に混合していることを実証するものであった。
【0057】
(RTM複合パネルに関するプレフォームのステッチング)
各温度の、エポキシ樹脂、特にHexcel RTM6エポキシ樹脂との相溶性により、PVDFモノフィラメントのスティッチを選択した。強化繊維が0度と90度方向に向いた、Saertex 930gsm 二軸NCF4プライを、好ましい位置および方向に配置した。直径0.48mmのPVDFフィラメントを、ファブリックスタックを通して手でスティッチした。直線状にファブリックスタックを横断して、50mmの間隔で結び目のあるスティッチを完成させた。スティッチによって個々のファブリックプライの、互いに対する相対位置を固定させ、ファブリックスタックを単一のユニット、またはプレフォームとして扱うことができるようにした。型を閉めてHexcel RTM6樹脂を80℃で含浸させ、177℃で2時間硬化させた。スティッチはパネル表面上で目に見える状態であったが、表面はエポキシによって浸潤していた。同等のパネル上で、直径0.94mmのPVDF糸をファブリックスタックの上面に配置してから、RTM6を用いて同様の含浸および硬化を行い、試験を実施した。頑強なナイフを用いても、周囲の樹脂から糸を取り外すことは可能ではなかった。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1a】図1aは、多重軸強化繊維ファブリックの一部分を示す図である。
【図1b】図1bは、図1aに示すファブリックの上側表面に粉末形式の選択された半結晶性熱可塑性ポリマーを適用(塗布)する様子を示す図である。
【図1c】図1cは、図1aに示すファブリック層のスタックを示す図である。
【図1d】図1dは、図1cに示すファブリックスタックに賦形力および熱を適用する様子を示す図である。
【図1e】図1eは、図1cに示すファブリックスタックを立体的配置、形状および近接性に固定した図である。
【図2a】図2aは、強化繊維トウで構成する一般的なノンクリンプファブリックの内部の層が組付けられたところを示す図である(図面を明確にするために一部のトウを削除してある)。
【図2b】図2bは、図2aに示すノンクリンプファブリックの層が選択された半結晶性熱可塑性樹脂の糸で一緒にステッチング(縫合)されたところを示す図である。
【図3】図3は、個々のポリマーに対する溶剤の溶解度を求めるために用いることができるポリマーのハンセン溶解度パラメータ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリマー結合材料を含み、後に未硬化の熱硬化性ポリマーを含浸し、硬化して高機能熱可塑性ポリマー複合構造体を作成するための、強化繊維プレフォームまたはファブリックの製造方法であって、
前記ファブリックまたはプレフォーム用の結合材料として半結晶性熱可塑性ポリマーを選択し、前記熱硬化性ポリマー複合構造体の熱硬化性マトリックス用に熱硬化性ポリマーまたは熱硬化性ポリマー類を選択する工程であって、前記半結晶性熱可塑性ポリマーおよび前記熱硬化性ポリマーまたは前記熱硬化性ポリマーの成分が、前記熱硬化性ポリマーの硬化温度で高い相溶性を有し、前記熱硬化性ポリマーの硬化前に部分的に相互侵入可能であるようにする、工程と、
前記半結晶性熱可塑性結合材料ポリマーを強化繊維材料の選択された領域に個別に適用し、前記強化繊維材料および前記半結晶性熱可塑性結合材料ポリマーを一緒にし、所望の、立体的配置、形状、および近接性に位置決めする工程と、
前記強化繊維材料および前記半結晶性熱可塑性結合材料ポリマーを一定の温度まで加熱し、それによって前記半結晶性熱可塑性ポリマーが流れて前記繊維を湿潤させる、工程と、
前記強化繊維材料および前記半結晶性熱可塑性ポリマーを前記半結晶性熱可塑性ポリマーの流れ温度より低い温度まで冷却し、それによって前記熱可塑性ポリマーと前記強化繊維材料との間の接着を介して前記強化繊維材料を所定の位置および方向に固定する工程とを含む、製造方法。
【請求項2】
熱可塑性ポリマー結合材料を含み、後に未硬化の熱硬化性ポリマーを含浸し、硬化して高機能熱可塑性ポリマー複合構造体を作成するための、強化繊維プレフォームまたはファブリックの製造方法であって、
前記ファブリックまたはプレフォーム用結合材料として半結晶性熱可塑性ポリマーを選択し、前記熱硬化性ポリマー複合構造体の前記熱硬化性マトリックス用に熱硬化性ポリマーまたは熱硬化性ポリマー類を選択する工程であって、前記半結晶性熱可塑性ポリマーおよび前記熱硬化性ポリマーまたは前記熱硬化性ポリマーの成分が、前記熱硬化性ポリマーの硬化温度で高い相溶性を有し、前記熱硬化性ポリマーの硬化前に部分的に相互侵入可能であるようにする、工程と、
前記強化繊維材料を一緒にし、所望の、立体的配置、形状、および近接性に位置決めする工程と、
ステッチング、ウェービング、タフティング、ブレーディング、横編み、および縦編みから成る群から選択される織物方法を用いて前記強化繊維材料および前記熱可塑性結合材料を結合することによって、1または複数の繊維、フィラメント、糸、またはヤーンの形状の前記半結晶性熱可塑性ポリマーを用いて前記強化繊維材料を所定の位置および方向に固定する工程とを含む製造方法。
【請求項3】
前記熱硬化性ポリマーの硬化温度以下における前記半結晶性熱可塑性ポリマーおよび前記未硬化の熱硬化性ポリマー成分のハンセン溶解度パラメータが、前記熱可塑性ポリマーおよび熱硬化性ポリマー成分が相互侵入し、セミ相互侵入高分子網目構造を構成する能力を示す溶解度パラメータである、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記熱可塑性結合材料および未硬化の熱硬化性ポリマーの相溶性が、前記熱硬化性マトリックスの硬化時に両ポリマーの間の界面に形成されうる前記セミ相互侵入高分子網目構造の厚みが0.1から100μmの間であるような相溶性である請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記熱可塑性結合材料および未硬化の熱硬化性ポリマーの相溶性が、前記熱硬化性マトリックスの硬化時に両ポリマーの間の界面に形成されうる前記セミ相互侵入高分子網目構造の厚みが1から10μmの間であるような相溶性である請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項6】
前記熱硬化性ポリマーの硬化温度が、前記半結晶性熱可塑性ポリマーの溶融温度より上である請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項7】
前記半結晶性熱可塑性結合材料ポリマーが、フッ化ビニリデン(PVDF)、または他のポリマーまたは添加物との任意の種類の組合せのPVDFを含有するポリマー、またはPVDFブロックまたはモノマーユニットを含有するコポリマーである請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項8】
前記熱可塑性ポリマー結合材料が、フィラメント、マルチフィラメント糸、または織ベールまたは不織ベール、ウエブ、多孔シート、細粒、または粉末の形式である請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項9】
前記熱硬化性マトリックスポリマーが、エポキシまたはビスマレイミドである請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項10】
前記強化ファブリックに未硬化の熱硬化性樹脂を含浸し、後に成形型に載せて完全に硬化させるための、予備含浸されたファブリックを形成する請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項11】
前記半結晶性熱可塑性結合材料ポリマーが、PMMAまたはポリアミド、または他のポリマーまたは添加物との組合わせのPMMAまたはポリアミドを含有するポリマー、またはPMMAまたはポリアミドのブロックまたはモノマーユニットを含有するコポリマーである請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項12】
強化繊維および半結晶性熱可塑性ポリマー結合材料を含み、後に未硬化の熱硬化性ポリマーまたは熱硬化性ポリマー類を含浸し、硬化して高機能熱硬化性ポリマー複合構造体を作成するための、繊維強化ファブリックまたはプレフォームであって、
前記半結晶性熱可塑性ポリマーおよび前記熱硬化性ポリマーまたは前記熱硬化性ポリマーの成分は、前記熱硬化性ポリマーの硬化温度において高度の相溶性を有し、前記熱硬化性ポリマーの硬化前に部分的に相互侵入可能である、繊維強化ファブリックまたはプレフォーム。
【請求項13】
前記半結晶性熱可塑性ポリマー結合材料および前記未硬化の熱硬化性ポリマーの相溶性が、前記熱硬化性マトリックスの硬化時に両ポリマーの間の界面において形成されうる前記セミ相互侵入高分子網目構造の厚みが0.1から100μmの間であるような相溶性である請求項12に記載の繊維強化ファブリックまたはプレフォーム。
【請求項14】
前記半結晶性熱可塑性ポリマー結合材料および前記未硬化の熱硬化性ポリマーの相溶性が、前記熱硬化性マトリックスの硬化時に両ポリマーの間の界面において形成されうる前記セミ相互侵入高分子網目構造の厚みが1から10μmの間であるような相溶性である請求項12に記載の繊維強化ファブリックまたはプレフォーム。
【請求項15】
前記半結晶性熱可塑性結合材料が、フッ化ビニリデン(PVDF)、または他のポリマーまたは添加物との任意の種類の組合わせのPVDFを含有するポリマー、またはPVDFのブロックまたはモノマーユニットを含有するコポリマーである請求項12に記載の繊維強化ファブリックまたはプレフォーム。
【請求項16】
前記熱可塑性ポリマー結合材料が、フィラメント、マルチフィラメント糸、または織ベールまたは不織ベール、ウエブ、多孔シート、細粒、または粉末の形式である請求項12に記載の繊維強化ファブリックまたはプレフォーム。
【請求項17】
前記強化ファブリックに未硬化の熱硬化性樹脂を含浸し、後に成形型に載せ完全に硬化させるための、予備含浸されたファブリックを形成する請求項12に記載の繊維強化ファブリック。
【請求項18】
強化繊維材料および熱硬化性マトリックスポリマーを含み、前記強化繊維材料の少なくとも一部は事前に半結晶性熱可塑性結合材料ポリマーを用いてファブリックまたはプレフォームに組付けられており、前記熱可塑性結合材料ポリマーおよび前記硬化した熱硬化性マトリックスポリマーはセミ相互侵入高分子網目構造の界面領域を有する強化された熱硬化性ポリマー複合構造体。
【請求項19】
前記界面領域に形成される前記セミ相互侵入高分子網目構造の厚みが、0.1から100μmの間である請求項18の強化された熱硬化性ポリマー複合構造体。
【請求項20】
前記界面領域に形成される前記セミ相互侵入高分子網目構造の厚みが、1から10μmの間である請求項18の強化された熱硬化性ポリマー複合構造体。
【請求項21】
前記半結晶性熱可塑性結合材料ポリマーが、フッ化ビニリデン(PVDF)、または他のポリマーまたは添加物との任意の種類の組合わせのPVDFを含有するポリマー、またはPVDFブロックまたはモノマーユニットを含有するコポリマーである請求項18の強化された熱硬化性ポリマー複合構造体。
【請求項22】
前記熱硬化性マトリックスポリマーが、エポキシまたはビスマレイミドである請求項18の強化された熱硬化性ポリマー複合構造体。
【請求項23】
請求項1または2に記載の方法を用いて製造され、熱可塑性結合材料を有する、強化された繊維プレフォームまたはファブリックと、請求項1または2の基準に従って選択される未硬化の熱硬化性ポリマーとが結合した、繊維強化された熱硬化性複合体の製造方法であって、
前記プレフォームまたはファブリックを、未硬化の熱硬化性ポリマーの含浸に適した工具の上または中に配置し、閉鎖キャビティが形成されるように前記プレフォームまたはファブリックを封入する工程と、
前記未硬化の熱硬化性ポリマーが前記強化繊維および熱可塑性結合材料に密接に接触するように前記未硬化の熱硬化性ポリマーを前記キャビティ内に移す工程と、
前記熱硬化性ポリマーの硬化より前に前記未硬化の熱硬化性ポリマーおよび熱可塑性結合材料が部分的に相互侵入可能になるように、前記結合された材料の温度を上昇させる工程と、
前記熱硬化性ポリマーの硬化を有効にするために必要とされる時間の間、前記結合された材料を上昇した温度に維持し、前記熱硬化性樹脂の硬化温度が、前記熱硬化性ポリマーの硬化より前に前記熱硬化性ポリマーおよび前記熱可塑性ポリマー結合材料が部分的に相互侵入可能になる温度以上である、工程と、
前記結合された材料を冷却する工程とを含む製造方法。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図1d】
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【図1e】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−511297(P2009−511297A)
【公表日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−534816(P2008−534816)
【出願日】平成18年10月10日(2006.10.10)
【国際出願番号】PCT/AU2006/001490
【国際公開番号】WO2007/041782
【国際公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【出願人】(508111992)シーアールシー フォー アドバンスト コンポジット ストラクチャーズ リミテッド (2)
【Fターム(参考)】