説明

乾燥炉の昇温制御装置および昇温制御方法

【課題】乾燥炉の加熱・昇温を高精度に制御して、所望の稼働開始時刻までに正確に乾燥炉の炉内温度を所望の温度に昇温することができる乾燥炉の昇温制御装置および昇温制御方法を提供する。
【解決手段】外気湿度、昇温完了時刻およびその昇温完了時刻における所望炉内温度に基づいて、予め設定された乾燥炉1の昇温曲線を補正する昇温曲線演算部5と、炉内温度と、前記補正された昇温曲線とに基づいて炉内温度演算部7で求められた加熱開始時刻に乾燥炉の加熱を開始させ、補正された昇温曲線に基づいて炉内温度の昇温を制御する乾燥炉加熱制御部8とを備える乾燥炉の昇温制御装置、およびその装置による昇温制御方法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、塗装ラインの乾燥炉の昇温を制御する装置およびその装置による乾燥炉の昇温制御方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車製造工場の塗装ラインにおいて、塗装された車体は、台車に載せられて搬送され、搬送路の途中に設けられた乾燥炉で熱風対流による焼付け乾燥処理が施される。
【0003】
この乾燥炉は、塗装ラインの稼働開始前から加熱装置による加熱が開始され、稼働開始時刻に炉内温度が所定の温度となっているように、炉内温度の昇温が制御される。そして、加熱して乾燥炉の炉内温度の昇温を開始させる時刻(以下、「加熱開始時刻」という)は、昇温開始前の乾燥炉の炉内温度、外気温度、外気湿度等が季節、天候等によって変動するため、その変動に応じて適切かつ正確に決定することが困難であった。そのため、塗装ラインの稼働開始時刻になっても炉内温度が所定の温度に達せず、塗装ラインの稼働開始が遅延して稼働率の低下を招いたり、逆に塗装ラインの稼働開始時刻前に炉内温度が所定の温度に達してしまい、無駄な加熱によって余計な燃料費がかかったりするといった不具合があった。
【0004】
そこで、外気温度および炉内温度を検出する温度検出手段と、その温度検出手段の検出値、設定手段における昇温完了時刻および昇温完了時刻における炉内温度の設定値ならびに加温手段の加温出力から、昇温完了時刻における炉内温度を設定された炉内温度とするために必要な加温開始時刻を求め、求めた加温開始時刻に加温手段による乾燥炉の加温を開始させる加温開始制御手段を備える乾燥炉の昇温制御装置が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】
特公平7−10368号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、従来の制御装置または制御方法では、外気湿度等の変動に伴う影響を正確に反映させて加熱開始時刻を決定し、さらにその加熱開始時刻から昇温完了時刻までの乾燥炉の加熱・昇温を適切に制御することができず、昇温完了時刻を正確に塗装ラインの稼働開始時刻に間に合う適切な時刻にすることができなかった。そのため、加熱装置の無駄な加熱によって燃料の無駄を招いたり、稼働開始の遅延によって塗装ラインの稼働率の低下を招くことがあった。そこで、乾燥炉における燃料費の低減、塗装ラインの稼働率の向上等を目的として、従来よりもさらに高精度に乾燥炉の加熱・昇温を制御して、より正確に、所望の稼働開始時刻に乾燥炉の炉内温度を所望の温度にする装置または方法が求められている。
【0007】
本発明は、前記問題に鑑み、乾燥炉の加熱・昇温を高精度に制御して、所望の稼働開始時刻までに正確に乾燥炉の炉内温度を所望の温度に昇温することができる乾燥炉の昇温制御装置および昇温制御方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、加熱装置により加熱される乾燥炉の炉内温度の昇温制御装置であって、前記乾燥炉の昇温制御開始時刻t、前記乾燥炉における昇温完了時刻tおよびその昇温完了時刻における所望炉内温度T、ならびに予想昇温曲線を予め設定する設定部と、前記乾燥炉の外部に配設され、外気湿度Hを測定する外気湿度測定器と、前記外気湿度H、ならびに前記昇温完了時刻tおよび所望炉内温度Tに基づいて、前記予想昇温曲線を補正して補正昇温曲線を求める昇温曲線演算部と、前記乾燥炉内に配設され、炉内温度Tを測定する炉内温度測定器と、前記炉内温度測定器により測定された炉内温度Tと、前記補正昇温曲線に基づいて前記乾燥炉の加熱開始時刻tsを求める炉内温度演算部と、前記加熱開始時刻tsに前記加熱装置による前記乾燥炉の加熱を開始させ、前記補正昇温曲線に基づいて炉内温度が昇温するように、加熱装置による加熱を制御する乾燥炉加熱制御部と、前記昇温制御開始時刻tに、前記昇温曲線演算部、前記炉内温度演算部および前記乾燥炉加熱制御部を起動させる装置起動部とを備えることを特徴とする乾燥炉の昇温制御装置を発明の構成とする。
【0009】
この昇温制御装置では、外気湿度測定器により測定される外気湿度Hと、予め設定される昇温完了時刻tおよび所望炉内温度Tに基づいて、予め設定される予想昇温曲線が補正されて補正昇温曲線が求められる。そして、この補正昇温曲線と、炉内温度測定器により測定された炉内温度とに基づいて求められる乾燥炉の加熱開始時刻tsに乾燥炉の加熱が開始され、補正昇温曲線に基づいて炉内温度の昇温が制御される。
【0010】
請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の昇温制御装置において、前記炉内温度演算部が、前記加熱装置による加熱開始前に前記炉内温度測定器によって少なくとも2回測定された炉内温度Tに基づいて加熱前の乾燥炉における炉内温度下降曲線を求め、当該炉内温度下降曲線と、前記補正昇温曲線とが交わる時刻を演算して前記加熱開始時刻tsを決定することを特徴とする。
【0011】
この昇温制御装置では、炉内温度測定器によって測定された炉内温度に基づいて求められる炉内温度下降曲線と補正昇温曲線の交わる時刻が加熱開始時刻tsとされる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、前記請求項1に記載の昇温制御装置において、前記炉内温度演算部が、前記炉内温度測定器により連続して測定される炉内温度Tと、その炉内温度Tの測定時刻について前記補正昇温曲線から読み取られる予定炉内温度Tとを比較対照して、前記加熱開始時刻tsを決定することを特徴とする。
【0013】
この昇温制御装置では、連続的に測定される炉内温度Tと予定炉内温度Tが等しくなったときの時刻が加熱開始時刻tsとされる。
【0014】
また、請求項4に記載の発明は、加熱装置により加熱される乾燥炉の炉内温度の昇温を制御する方法であって、前記乾燥炉の昇温制御開始時刻t、昇温完了時刻tおよび昇温完了時刻における所望炉内温度T、ならびに予想昇温曲線を予め設定するステップと、前記昇温制御開始時刻tに、昇温制御を開始させるステップと、前記乾燥炉の外部に配設された外気湿度測定器により測定された外気湿度H、ならびに前記昇温完了時刻tおよび所望炉内温度Tに基づいて、前記予想昇温曲線を補正して補正昇温曲線を求めるステップと、前記乾燥炉内に配設された炉内温度測定器により測定された炉内温度Tと、前記補正昇温曲線とに基づいて、前記乾燥炉の加熱開始時刻tsを求めるステップと、前記加熱開始時刻tsに前記加熱装置による前記乾燥炉の加熱を開始させ、前記補正昇温曲線に基づいて炉内温度が昇温するように前記加熱装置による加熱を制御するステップとを含む乾燥炉の昇温制御方法を発明の構成とする。
【0015】
この昇温制御方法では、外気湿度測定器により測定される外気湿度Hと、予め設定される昇温完了時刻tおよび所望炉内温度Tに基づいて、予め設定される予想昇温曲線が補正されて補正昇温曲線が求められる。そして、この補正昇温曲線と、炉内温度測定器により測定された炉内温度とに基づいて求められる乾燥炉の加熱開始時刻tsに乾燥炉の加熱が開始され、補正昇温曲線に基づいて炉内温度の昇温が制御される。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る乾燥炉の昇温制御装置の構成を示す概略図である。
【0017】
図1に示す昇温制御装置は、設定部2と、タイマー3(装置起動部)と、外気湿度センサー4(外気湿度測定器)と、昇温曲線演算部5(昇温曲線演算部)と、炉内温度センサー6(炉内温度測定器)と、炉内温度演算部7と、乾燥炉加熱制御部8とから構成される。
【0018】
設定部2は、乾燥炉1の昇温制御開始時刻t、昇温完了時刻t、その昇温完了時刻tにおける所望炉内温度T、ならびに予想昇温曲線がオペレーターによって予め設定できるように構成されている。
【0019】
この設定部2には、予め設定された昇温制御開始時刻tをタイマー3に伝える信号伝送線2aと、昇温完了時刻t、所望炉内温度T、および予想昇温曲線を昇温曲線演算部5に伝えるための信号伝送線2bとが接続されている。
【0020】
タイマー3(装置起動部)は、設定部2で設定された昇温制御開始時刻tに、昇温曲線演算部5、炉内温度演算部7および乾燥炉加熱制御部8のそれぞれを起動させる信号(起動信号)を出力するように構成されている。このタイマー3は、信号伝送線2aによって設定部2と接続され、信号伝送線3a、3b、3cによって、昇温曲線演算部5、炉内温度演算部7および乾燥炉加熱制御部8と接続されている。
【0021】
このタイマー3では、設定部2で設定された昇温制御開始時刻tが信号伝送線2aを通じて入力され記憶される。そして、昇温制御開始時刻tになると、起動信号が、昇温曲線演算部5、炉内温度演算部7および乾燥炉加熱制御部8のそれぞれに、信号伝送線3a、3b、3cを通じて出力される。
【0022】
外気湿度センサー4(外気湿度測定器)は、乾燥炉1の外部に設けられ、信号伝送線4aによって昇温曲線演算部5と接続されている。この外気湿度センサー4では、外気湿度Hが測定され、その外気湿度Hに関する信号が昇温曲線演算部5に信号伝送線4aを通じて出力される。この外気湿度センサー4の具体例として、MgCr−TiO系セラミックス、TiO−V系セラミックス、ZnCr−LiZnVO系セラミックス等を用いるセラミック湿度センサー、導電性高分子等を用いる高分子膜湿度センサー、塩化リチウム湿度センサー等の電解質湿度センサー、サーミスタを用いる熱伝導式湿度センサーなどの各種の湿度センサーが挙げられる。
【0023】
昇温曲線演算部5は、タイマー3からの起動信号によって起動され、外気湿度センサー4で測定された外気湿度H、設定部2で設定された昇温完了時刻t、および所望炉内温度Tに基づいて、設定部2で予め設定された予想昇温曲線を補正して、補正昇温曲線Cが求められるように構成されている。求められる補正昇温曲線Cは、外気湿度Hに基づき、設定された昇温完了時刻tに正確に所望炉内温度Tに到達するように後述のように演算される。求められた補正昇温曲線Cは炉内温度演算部7に出力される。
【0024】
この昇温曲線演算部5は、信号伝送線3aを通じてタイマー3から起動信号が入力されることにより起動する。また、信号伝送線4aを通じて外気湿度センサー4から外気湿度に関する信号が入力されるとともに、信号伝送線2bを通じて設定部2から昇温完了時刻t、所望炉内温度T、および予想昇温曲線が入力される。そして、昇温曲線演算部5において求められた補正昇温曲線Cについての情報は、信号伝送線5aを通じて炉内温度演算部7に出力される。
【0025】
炉内温度センサー6(炉内温度測定器)は、乾燥炉1内に設けられ、信号伝送線6aを介して炉内温度演算部7に接続されている。この炉内温度センサー6によって、乾燥炉1の炉内温度Tが測定され、測定された炉内温度Tに関する信号は信号伝送線6aを通じて炉内温度演算部7に出力される。この炉内温度センサー6の具体例として、熱電対、白金測温抵抗体、サーミスタ等を感温素子として用いるセンサーが挙げられる。
【0026】
炉内温度演算部7は、タイマー3からの起動信号によって起動され、炉内温度センサー6で測定される炉内温度Tと、昇温曲線演算部5で求められる補正昇温曲線Cとに基づいて乾燥炉1の加熱開始時刻tsが求められるように構成される。求められた加熱開始時刻tsは、乾燥炉加熱制御部8に出力される。
【0027】
この炉内温度演算部7においては、信号伝送線3bを通じてタイマー3から起動信号が入力される。また、信号伝送線5aを通じて昇温曲線演算部5から入力される補正昇温曲線Cに関する情報と、信号伝送線6aを通じて炉内温度センサー6から入力される炉内温度に関する信号とによって、乾燥炉1の加熱開始時刻tsが求められる。そして、求められた加熱開始時刻tsに関する信号は、信号伝送線7aを通じて乾燥炉加熱制御部8に出力される。
【0028】
この炉内温度演算部7は、図3または図4に示すフローチャートに従って、加熱開始時刻tsを求めるように構成されている。
図3に示すフローチャートに従って加熱開始時刻tsを求める炉内温度演算部7は、加熱装置による加熱開始前に炉内温度センサー6によって少なくとも2回測定された炉内温度Tに基づいて加熱前の乾燥炉1における炉内温度下降曲線Dを求め、この炉内温度下降曲線Dと、前記補正昇温曲線Cとが交わる時刻を演算して加熱開始時刻tsを決定するように構成される。
【0029】
また、図4に示すフローチャートに従って、炉内温度演算部7は、炉内温度センサー6により連続して測定される炉内温度Tと、その炉内温度Tの測定時刻について補正昇温曲線Cから読み取られる予定炉内温度Tとを比較対照して、加熱開始時刻tsを決定するように構成される。
この図3および図4に示すフローチャートに示す加熱開始時刻tsの演算については、後述の昇温制御方法についての説明において詳細に説明する。
【0030】
乾燥炉加熱制御部8は、炉内温度演算部7で求められた加熱開始時刻tsに、乾燥炉1に設けられたバーナー9(加熱装置)を着火して乾燥炉1の加熱を開始し、さらに補正昇温曲線Cに従って炉内温度の昇温を制御するように構成されている。また、この乾燥炉加熱制御部8は、乾燥炉1内に熱風を吹き込んで炉内雰囲気を撹拌して乾燥炉1内の炉内温度を均一にするために、乾燥炉1に備えられる熱風循環ファン10のオン・オフを制御するように構成されている。
【0031】
さらに、乾燥炉加熱制御部8では、昇温完了時刻tから所定の時間前の時刻tにバーナー9の燃焼出力を絞り、乾燥炉1の炉内温度が補正昇温曲線Cの曲線部分に従って昇温するように制御される。tは、通常、tの30分前程度に設定される(図5参照)。
【0032】
この乾燥炉加熱制御部8では、信号伝送線3cを通じてタイマー3から起動信号が入力され、信号伝送線7aを通じて炉内温度演算部7から加熱開始時刻tsに関する信号が入力される。そして、入力された加熱開始時刻tsに、信号伝送線8aを通じてバーナー9を着火する信号を出力し、かつ信号伝送線8bを通じて熱風循環ファン10をオン・オフする信号が出力される。
【0033】
なお、乾燥炉1の「昇温制御開始時刻t」とは、昇温制御装置を構成する各部、すなわち、昇温曲線演算部5と、炉内温度演算部7と、外気湿度センサー4と、炉内温度センサー6と、乾燥炉加熱制御部8との各部の作動を開始させる時刻である。この昇温制御開始時刻tは、後述のとおり、加熱装置(バーナー9)の最高燃焼出力と、乾燥炉1の熱容量、乾燥炉1内の空気および乾燥炉1内に導入される外気の熱容量等から計算される乾燥炉1の所要昇温時間を考慮して、昇温完了時刻tが、乾燥炉の最長所要昇温時間より30分程度前となる時刻に設定する。
【0034】
また、昇温完了時刻tとは、乾燥炉の炉内温度が所望炉内温度Tに達し、加熱による炉内温度の昇温が完了する時刻をいう。この昇温完了時刻tは、乾燥炉1の稼働開始時刻から所定時間前の時刻に設定される。また、「所望炉内温度」Tとは、昇温完了時刻tにおける乾燥炉1の炉内温度をいい、稼働開始時刻前の昇温完了時刻tに乾燥炉1の炉内温度Tが、この所望炉内温度Tに達しているように乾燥炉1の加熱・昇温が制御される。
【0035】
さらに、「昇温曲線」とは、乾燥炉加熱制御部8によって制御されるバーナー9(加熱装置)における燃焼によって加熱・昇温される乾燥炉1の炉内温度の経時変化を示す曲線をいう。また、「昇温勾配」とは、昇温曲線の傾きをいい、加熱開始後の炉内温度の昇温速度に該当する。
【0036】
さらに、予想昇温曲線とは、乾燥炉1に設けられたバーナー9の加熱量、乾燥炉1の熱容量、乾燥炉1内の空気の熱容量、乾燥炉1内に導入される外部空気(外気)の熱容量等を考慮して、乾燥炉1の昇温挙動について予め設定される昇温曲線をいう。この予想昇温曲線は、例えば、図5に点線で示すC1、C2のように、季節に応じて予め設定される。
【0037】
次に、この昇温制御装置による乾燥炉1の昇温制御方法について、図2に基づいて説明する。
図2は、本発明の実施形態に係る昇温制御装置による昇温制御方法を説明するフローチャートである。
この昇温制御方法において、乾燥炉1の昇温制御は、オペレーターが設定部2において昇温制御開始時刻t、昇温完了時刻t、昇温完了時刻tにおける所望炉内温度T、および予想昇温曲線を設定することによって開始される(ステップS1)。
【0038】
ステップS1において、昇温制御開始時刻tは、当該昇温制御開始時刻tと昇温完了時刻tの間の時間が、炉内温度Tの変動とバーナー9の燃焼による最大熱量から導き出される最長所要昇温時間より長くなるように設定される。
【0039】
第1のステップS1において、設定部2で設定される予想昇温曲線は、図5に点線で示される昇温曲線C1、C2のように、略比例的に炉内温度が直線的に上昇する直線昇温部分C1、C2と、この直線昇温部分C1、C2に連続して続くなだらかな曲線昇温部分C1、C2とから構成される。
【0040】
直線昇温部分C1、C2は、加熱開始直後、すなわち、着火後、バーナー9を最高燃焼出力で燃焼させて乾燥炉1が加熱される時間帯における炉内温度の昇温勾配を示す部分である。この直線昇温部分C1、C2では、図5に示すように、略比例的に炉内温度Tが上昇し、昇温勾配、すなわち、昇温速度が一定の値に維持される。
【0041】
また、曲線昇温部分C1、C2は、オーバーベークを防止するため、昇温完了時刻tの所定時間前の時刻tから、バーナー9の出力を予め演算により求められた出力に随時制御して、昇温勾配が経時とともに小さくなる部分である。
【0042】
次に、設定部2に設定された昇温制御開始時刻tは、信号伝送線2aを通じてタイマー3に入力され、この昇温制御開始時刻tになったときに、起動信号が信号伝送線3a、3b、3cを通じて、それぞれ昇温曲線演算部5、炉内温度演算部7および乾燥炉加熱制御部8に出力され(図1参照)、各部が起動される(ステップS2)。
【0043】
次に、タイマー3からの起動信号によって起動された昇温曲線演算部5では、設定部2から信号伝送線2aを通じて昇温完了時刻tおよび所望炉内温度T、ならびに予想昇温曲線(C1、C2等)が入力され、さらに、信号伝送線4aを通じて外気湿度センサー4で測定した(ステップS3)外気湿度Hに関する信号が入力される(図1参照)。そして、昇温曲線演算部5で、入力された外気湿度H、昇温完了時刻tおよび所望炉内温度Tに基づいて、予想昇温曲線が補正され、図5に示す補正昇温曲線Cが求められる(ステップS4)。
【0044】
ステップS4における予想昇温曲線(C1、C2等)の補正において、外気湿度センサー4により測定される外気湿度Hは、バーナー9による乾燥炉1の加熱による炉内温度Tの昇温勾配に大きな影響を与えるファクターである。すなわち、外気湿度Hが高いと空気の比熱が大となるため、昇温勾配は小さくなる。一方、外気湿度が低いと比熱が小となるため、昇温勾配は大きくなる。
【0045】
そこで、本発明においては、ステップS4において、前記設定部2に設定された予想昇温曲線C1(またはC2)に外気湿度Hより求められた係数を付加して真の昇温曲線(補正昇温曲線C)を演算する。この係数は、異なる湿度の空気について実際の計測により予め昇温曲線を求め、その昇温曲線に基づいて予め決定しておくことができる。
【0046】
次に、タイマー3から信号伝送線3bを通じて入力された起動信号により起動された炉内温度演算部7に、炉内温度センサー6により計測された(ステップS5)加熱前の乾燥炉1の炉内温度Tが信号伝送線6aを通じて入力される(図1参照)。そして、炉内温度演算部7では、炉内温度Tと、前記補正昇温曲線Cに基づいて前記乾燥炉の加熱開始時刻tsが求められる(ステップS6)。
【0047】
このステップS6における加熱開始時刻tsの演算は、図3に示すフローチャートにしたがって行われる。この演算においては、まず、炉内温度センサー6により少なくとも2回、加熱前の乾燥炉1の炉内温度が計測される(ステップS61)。例えば、図5に示すように、炉内温度測定時刻tおよびその炉内温度測定時刻tの10分後の時刻tの2度に亘って、炉内温度T、Tがそれぞれ計測される。計測された炉内温度(T、T)ならびに測定時刻(t、t)に関する情報は、信号伝送線6aを通じて炉内温度演算部7に入力される(図1参照)。
【0048】
炉内温度演算部7においては、炉内温度センサー6によって少なくとも2回測定された乾燥炉の炉内温度に基づいて炉内温度下降曲線Dが演算される(ステップS62)。
【0049】
ここで、「炉内温度下降曲線」とは、非加熱状態での乾燥炉1の炉内温度Tの経時変化を示す曲線をいう。また、「炉内温度下降勾配」とは、その炉内温度下降曲線の傾きをいい、非加熱状態での乾燥炉1の炉内温度Tの下降速度に相当する。例えば、図5に示すように、時刻tに測定された炉内温度がTであり、時刻tから所定時間Δt経過後の時刻tに測定された炉内温度がTである場合、炉内温度下降勾配θ=(T−T)/Δtとなり、この炉内温度下降勾配に相当する傾きを有し、点(t、T)を通る直線が炉内温度下降曲線Dである。非加熱時の乾燥炉では、この炉内温度下降曲線Dにしたがって、炉内温度Tが下降していく。例えば、図5に示すように、炉内温度測定時刻tおよびこれより10分後の時刻tに測定された炉内温度T、Tにより、乾燥炉1内における炉内温度下降勾配θ(図5参照)を有する炉内温度下降曲線Dが演算される。
【0050】
次に、図3に示すように、求められた炉内温度下降曲線Dと、前記補正昇温曲線Cとが交わる時刻tを求める(ステップS63)。この時刻tを加熱開始時刻tsと決定する(ステップS64)。この加熱開始時刻tsは、乾燥炉加熱制御部8に出力される。
【0051】
また、ステップ6における加熱開始時刻tsの演算は、図4に示すフローチャートにしたがって行うこともできる。
【0052】
この図4に示す演算においては、まず、時刻t(図5中の時刻ts、ts)に炉内温度センサー6によって炉内温度T(図5中のTS1、TS2)が実際に測定され、この炉内温度Tに関する信号が信号伝送線6aを通じて炉内温度演算部7に入力される(ステップS641)。
【0053】
このとき、同時に、昇温曲線演算部5において、タイマー3から常時、読取信号が信号伝送線3aを通じて昇温曲線演算部5に出力され、補正昇温曲線Cから、時刻t(図5中のts、ts)における予定炉内温度T(図5中のTT1、TT2)が読み取られ、炉内温度演算部7に入力される(ステップS642)。ここで、「予定炉内温度」とは、ある時刻について補正昇温曲線Cから読み取られる炉内温度をいう。
【0054】
次に、図4に示すように、炉内温度センサー6により実際に測定された炉内温度Tと、その炉内温度Tの測定時刻tについて補正昇温曲線Cから読み取られた予定炉内温度Tとを比較対照する(ステップS643)。そして、T≠T(ステップS643、NO)、すなわち、図5に示す、TS1(≠TT1)であれば、再び、ステップS641に戻り、ステップS642、S643が繰返される。また、T=Tであれば(ステップS643、YES)、図5に示すTS2(=TT2)であれば、ステップS644に進み、炉内温度の測定時刻t(図5に示すts2)が加熱開始時刻tsと決定される。
【0055】
炉内温度演算部7における演算により決定された乾燥炉1の加熱開始時刻tsに関する信号は、乾燥炉加熱制御部8に入力され、乾燥炉加熱制御部8により、バーナー9の着火、およびそれに続くバーナー9の燃焼出力が制御される(ステップS7)。これにより、乾燥炉1の炉内温度は、昇温完了時刻tに所望炉内温度Tとなり、予定された稼働開始時刻に塗装ラインを稼動することができる。このとき、乾燥炉1のオーバーベークを防止するため、昇温完了時刻tの所定時間前の時刻tから、バーナー9の出力を予め演算により求められた出力に随時制御して、昇温勾配が経時とともに小さくなるように制御される。
【0056】
また、本実施形態では、乾燥炉の昇温制御装置を独立した装置として説明したが、本発明の昇温制御装置は、塗装ラインの統合的な制御システムの一部として構成することもできる。そのような構成とすれば、前記タイマー3の代わりに前記統合的な制御システムによって乾燥炉の昇温制御装置の起動を制御し、さらに、昇温曲線演算部5、炉内温度演算部7および乾燥炉加熱制御部8を前記統合的な制御システムに設ければ、乾燥炉1だけでなく、塗装ラインの他の装置を含めた統合的な制御が可能となる。これにより、乾燥炉だけでなく、塗装ラインあるいはより高次のシステム全体を考慮して、さらに効率的な乾燥炉の稼働を実現できる。
【0057】
【発明の効果】
請求項1ないし請求項3に記載の発明に係る昇温制御装置によれば、外気湿度Hと、予め設定される昇温完了時刻tおよび所望炉内温度Tとに基づいて補正昇温曲線を求め、この補正昇温曲線と、炉内温度とによって決定される乾燥炉の加熱開始時刻tsに乾燥炉の加熱が開始され、補正昇温曲線に基づいて炉内温度の昇温が制御される。そのため、乾燥炉の加熱・昇温を高精度に制御して、所望の稼働開始時刻までに正確に乾燥炉の炉内温度を所望の温度に昇温することができる。
【0058】
請求項2に記載の発明によれば、炉内温度の測定に基づいて求められる炉内温度下降曲線と補正昇温曲線の交わる時刻を加熱開始時刻tsと決定することができる。そして、この加熱開始時刻tsに乾燥炉の加熱を開始し、さらに、補正昇温曲線に基づいて、乾燥炉の加熱・昇温を高精度に制御して、所望の稼働開始時刻までに正確に乾燥炉の炉内温度を所望の温度に昇温することができる。
【0059】
請求項3に記載の発明によれば、実際に炉内温度測定器により連続的に測定される炉内温度TSと予定炉内温度TTが等しくなったときの時刻を加熱開始時刻tsとすることができる。そして、この加熱開始時刻tsに乾燥炉の加熱を開始し、さらに、補正昇温曲線に基づいて、乾燥炉の加熱・昇温を高精度に制御して、所望の稼働開始時刻までに正確に乾燥炉の炉内温度を所望の温度に昇温することができる。
【0060】
請求項4に記載の発明によれば、乾燥炉の加熱・昇温を高精度に制御して、所望の稼働開始時刻までに正確に乾燥炉の炉内温度を所望の温度に昇温させる方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係る昇温制御装置の構成を示す概略図である。
【図2】本発明の実施形態に係る昇温制御装置における昇温制御方法を説明するフローチャートである。
【図3】本発明の実施形態に係る昇温制御装置における炉内温度演算部における加熱開始時刻tsの演算方法の一例を示すフローチャートである。
【図4】本発明の実施形態に係る昇温制御装置における炉内温度演算部における加熱開始時刻tsの演算方法の他の例を示すフローチャートである。
【図5】非加熱時の乾燥炉の炉内温度下降曲線と、乾燥炉の昇温曲線の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1 乾燥炉
2 設定部
3 タイマー(装置起動部)
4 外気湿度センサー(外気湿度測定器)
5 昇温曲線演算部
6 炉内温度センサー(炉内温度測定器)
7 炉内温度演算部
8 乾燥炉加熱制御部
9 バーナー(加熱装置)
10 熱風循環ファン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱装置により加熱される乾燥炉の炉内温度の昇温制御装置であって、
前記乾燥炉の昇温制御開始時刻t、前記乾燥炉における昇温完了時刻tおよびその昇温完了時刻における所望炉内温度T、ならびに予想昇温曲線を予め設定する設定部と、
前記乾燥炉の外部に配設され、外気湿度Hを測定する外気湿度測定器と、
前記外気湿度H、ならびに前記昇温完了時刻tおよび所望炉内温度Tに基づいて、前記予想昇温曲線を補正して補正昇温曲線を求める昇温曲線演算部と、
前記乾燥炉内に配設され、炉内温度Tを測定する炉内温度測定器と、
前記炉内温度測定器により測定された炉内温度Tと、前記補正昇温曲線に基づいて前記乾燥炉の加熱開始時刻tsを求める炉内温度演算部と、
前記加熱開始時刻tsに前記加熱装置による前記乾燥炉の加熱を開始させ、前記補正昇温曲線に基づいて炉内温度が昇温するように、加熱装置による加熱を制御する乾燥炉加熱制御部と、
前記昇温制御開始時刻tに、前記昇温曲線演算部、前記炉内温度演算部および前記乾燥炉加熱制御部を起動させる装置起動部とを備えることを特徴とする乾燥炉の昇温制御装置。
【請求項2】
前記炉内温度演算部が、前記加熱装置による加熱開始前に前記炉内温度測定器によって少なくとも2回測定された炉内温度Tに基づいて加熱前の乾燥炉における炉内温度下降曲線を求め、当該炉内温度下降曲線と、前記補正昇温曲線とが交わる時刻を演算して前記加熱開始時刻tsを決定することを特徴とする請求項1に記載の乾燥炉の昇温制御装置。
【請求項3】
前記炉内温度演算部が、前記炉内温度測定器により連続して測定される炉内温度Tと、その炉内温度Tの測定時刻について前記補正昇温曲線から読み取られる予定炉内温度Tとを比較対照して、前記加熱開始時刻tsを決定することを特徴とする請求項1に記載の乾燥炉の昇温制御装置。
【請求項4】
加熱装置により加熱される乾燥炉の炉内温度の昇温を制御する方法であって、
前記乾燥炉の昇温制御開始時刻t、昇温完了時刻tおよび昇温完了時刻における所望炉内温度T、ならびに予想昇温曲線を予め設定するステップと、
前記昇温制御開始時刻tに、昇温制御を開始させるステップと、
前記乾燥炉の外部に配設された外気湿度測定器により測定された外気湿度H、ならびに前記昇温完了時刻tおよび所望炉内温度Tに基づいて、前記予想昇温曲線を補正して補正昇温曲線を求めるステップと、
前記乾燥炉内に配設された炉内温度測定器により測定された炉内温度Tと、前記補正昇温曲線とに基づいて、前記乾燥炉の加熱開始時刻tsを求めるステップと、
前記加熱開始時刻tsに前記加熱装置による前記乾燥炉の加熱を開始させ、前記補正昇温曲線に基づいて炉内温度が昇温するように前記加熱装置による加熱を制御するステップとを含む乾燥炉の昇温制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2004−237211(P2004−237211A)
【公開日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−29163(P2003−29163)
【出願日】平成15年2月6日(2003.2.6)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】