説明

乾燥装置及び乾燥方法

【課題】走行するポリマーフィルムに有機溶剤を含む塗布液を塗布して形成した塗布膜を乾燥する乾燥ボックスを備えた乾燥装置及び乾燥方法において、乾燥ボックス内の気流を乱すことのなく、乾燥ムラのない塗布膜を提供する。
【解決手段】
乾燥ボックス60aのポリマーフィルム入口62のポリマーフィルム塗布膜面側に、ポリマーフィルム24cと平行に板状部材90aを設け、板状部材90aとポリマーフィルム24cとのクリアランスdを0.5mm以上15mm以下の範囲とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は乾燥装置及び乾燥方法に係り、特に、走行するポリマーフィルムに有機溶剤を含む塗布液を塗布して形成した塗布膜を乾燥する乾燥ボックスを備えた乾燥装置及び乾燥方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置に用いる様々な光学フィルムが必要とされている。その中でも、液晶表示装置の視野角特性を改善するために、一対の偏光板と液晶セルとの間に位相差板として用いる光学フィルムの需要が増している。この光学フィルムは、液晶表示装置のコントラスト比や画面輝度の向上に伴い、ムラをより少なくすることが強く求められている。
【0003】
このムラの発生要因の一つとしては、乾燥ボックスでの乾燥風等による塗布膜の乾燥ムラである。
【0004】
特許文献1には、塗布直後に乾燥ボックスを設けて、走行する長尺状支持体の乾燥される塗布膜面を囲み、乾燥ボックスに長尺状支持体幅方向の一方端側から他方端側に流れる一方向流れの乾燥風を発生させることで、塗布液の粘度等の物性や溶媒の種類を変更することなく塗布膜を均一に乾燥できる乾燥方法及び装置が開示されている。
【0005】
特許文献2には、塗布直後に走行するウエブ(長尺状支持体)の塗布膜面を囲んだ乾燥ボックスを形成し、乾燥ボックス内では先ず乾燥風を吹かないで塗布膜の塗布液粘度が塗布時における塗布液粘度の1.5倍になるまで塗布膜を無風乾燥し、次に乾燥風を吹いて塗布膜を乾燥することで、塗布膜の乾燥時における乾燥ムラを顕著に低減することが開示されている。
【0006】
特許文献3には、特許文献2と同様の乾燥ボックスを形成し、乾燥ボックスでウエブ幅方向の一方端側から他方端側に流れる一方向流れの乾燥風を発生させて、塗布膜に含有される有機溶剤の10重量%が乾燥する前から有機溶剤の80重量%が乾燥し終わるまでは、乾燥風の温度を20°C〜30°Cの範囲に維持して低温乾燥することで、塗布膜の乾燥時における乾燥ムラを顕著に低減することが開示されている。
【0007】
特許文献4には、基材(ウエブ)に対して平行な風向きでかつ層流として熱風を送り、その熱風の風速を基材の配送速度に対して0.1〜5m/sの相対速度に制御することで、乾燥ムラを発生することなく高効率な乾燥を行うことができることが開示されている。
【特許文献1】特開2001−170547号公報
【特許文献2】特開2005−81256号公報
【特許文献3】特開2005−81257号公報
【特許文献4】特開2002−340479号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1〜4では、乾燥ムラを抑制するのに十分ではなく、特に、乾燥ボックスと乾燥ボックス外の境界部において、乾燥ボックス外に流れる風が乾燥ボックス内の気流を乱すことで、塗布膜近傍の気流が不均一となり、乾燥ムラを引き起こすという問題があった。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、乾燥ボックス内の気流を乱すことなく、乾燥ムラのない塗布膜を提供することができる乾燥装置及び乾燥方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明は、前記目的を達成するために、走行するポリマーフィルムに有機溶剤を含む塗布液を塗布して形成した塗布膜を乾燥する乾燥ボックスを備えた乾燥装置において、前記乾燥ボックスのポリマーフィルム入口のポリマーフィルム塗布膜面側に、ポリマーフィルムと平行に板状部材を設け、該板状部材と前記ポリマーフィルムとのクリアランスを0.5mm以上15mm以下の範囲とすることを特徴とする。
【0011】
乾燥装置の乾燥ボックスと乾燥ボックス外の境界部において、乾燥ボックス外に流れる風が乾燥ボックス内の気流を乱すことで、塗布膜近傍の気流が不均一となり、乾燥ムラを引き起こす。乾燥ボックス外に流れる風が乾燥ボックス内の気流を乱すことを抑制するために、本発明では、ポリマーフィルム塗布膜面側に、ポリマーフィルムと平行に板状部材を設け、板状部材とポリマーフィルムとのクリアランスを0.5mm以上15mm以下の範囲とすることとした。即ち、乾燥ボックス外に流れる風が乾燥ボックス内の気流を乱さないように、乾燥ボックス外に流れる風を乾燥ボックス内に流入させないために、ポリマーフィルム入口のポリマーフィルム塗布膜面側に、ポリマーフィルムと平行に、板状部材とポリマーフィルムとのクリアランスを0.5mm以上15mm以下の範囲で板状部材を設けた。
【0012】
従って、請求項1の発明によれば、乾燥ボックス内の気流を乱すことがなく、乾燥ムラのない塗布膜を提供することができる。
【0013】
請求項2の発明は、請求項1において、前記乾燥ボックスのポリマーフィルム出口のポリマーフィルム塗布膜面側にも、ポリマーフィルムと平行に板状部材を設け、該板状部材と前記ポリマーフィルムとのクリアランスを0.5mm以上15mm以下の範囲とすることを特徴とする。
【0014】
本発明は、乾燥ボックスのポリマーフィルム出口にも板状部材を設けることが好ましい。
【0015】
請求項3の発明は、請求項1又は2において、前記板状部材は乾燥ボックスの内部側に、 5mm以上50mm以下、入り込んでいるように設置されていることを特徴とする。
【0016】
板状部材が乾燥ボックスの内部側に5mm以上50mm以下入り込んでいるように設置されていることで、乾燥ボックス内のポリマーフィルム入口又は出口付近に流れる風を乾燥ボックス外に流出するのも抑制することができるので、更に乾燥ボックス内の気流を乱すことがなく、乾燥ムラのない塗布膜を提供することができる。
【0017】
請求項4の発明は、請求項1〜3の何れか1において、前記板状部材の前記ポリマーフィルムの走行方向の長さは50mm以上であることを特徴とする。
【0018】
本発明は、板状部材の長さが50mm以上の場合に、特に有効である。
【0019】
請求項5の発明は、請求項1〜4の何れか1において、前記乾燥ボックスの前記ポリマーフィルム入口及び/又は出口のポリマーフィルム塗布膜裏面側にも、ポリマーフィルムと平行に板状部材を設け、該板状部材と前記ポリマーフィルムとのクリアランスを0.5mm以上15mm以下の範囲とすることを特徴とする。
【0020】
ポリマーフィルム塗布膜裏面側にも同様に板状部材を設けることで、裏面側の気流を乱すことも抑制されるため、更に塗布膜の乾燥条件が安定し、乾燥ムラのない塗布膜を提供することができる。
【0021】
請求項6の発明は、請求項1〜4の何れか1において、前記乾燥ボックスのポリマーフィルム入口及び/又は出口のポリマーフィルム塗布膜裏面側には、ローラが前記ポリマーフィルムに接するように設けられていることを特徴とする。
【0022】
ポリマーフィルム入口及び/又は出口のポリマーフィルム塗布膜裏面側にローラを設けることで、裏面側の乾燥ボックス内外の風の出入りを防ぐことができるので、裏面側の気流の乱れを防ぎ、更に塗布膜の乾燥条件が安定し、乾燥ムラのない塗布膜を提供することができる。
【0023】
請求項7の発明は、前記目的を達成するために、走行するポリマーフィルムに有機溶剤を含む塗布液を塗布して形成した塗布膜を乾燥ボックスで乾燥する乾燥方法において、前記乾燥ボックスのポリマーフィルム入口及び/又は出口の外側に流れる風が、乾燥ボックス内の塗布膜近傍の気流を乱さないように、前記乾燥ボックスのポリマーフィルム入口及び/又は出口のポリマーフィルム塗布膜面側にポリマーフィルムの走行方向に平行に設けられた板状部材により、前記外側に流れる風を遮風及び/又は整流することを特徴とする。
【0024】
このように、塗布膜を乾燥することで、乾燥ボックス内の気流を乱すことのなく、乾燥ムラのない塗布膜を提供することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、走行するポリマーフィルムに有機溶剤を含む塗布液を塗布して形成した塗布膜を乾燥する乾燥ボックスを備えた乾燥装置及び乾燥方法において、乾燥ボックス内の気流を乱すことのなく、乾燥ムラのない塗布膜を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、添付図面により本発明の乾燥方法及び乾燥装置の好ましい実施の形態について詳説する。
【0027】
図1は、本発明の乾燥装置を組み込んだ光学補償フィルムの製造工程10の概略図である。なお、光学補償フィルムの製造工程10における搬送ローラの配置形態は、図1の態様に限定されないものとする。
【0028】
図1に示すように、光学補償フィルムの製造工程10は、主に、配向膜形成工程12と、該配向膜上にラビング処理を施すラビング処理工程14と、該ラビング処理後に液晶層形成工程16と、を備えている。
【0029】
ポリマーフィルムの長尺ロール(フィルムロール)20から送出機22により送り出された長尺状の透明フィルム24aは、搬送ローラ26により搬送され、表面除塵機28により除塵された後、配向膜形成工程12に送られる。
【0030】
配向膜形成工程12では、塗布機30により配向膜形成用樹脂を含む塗布液が塗布され、乾燥装置32で乾燥され、樹脂層が透明フィルム24a表面上に形成される。そして、該透明フィルム24aは、更にラビング処理工程14へ送られる。なお、ここで得られたフィルムは一旦巻き取ってもよい。
【0031】
ラビング処理工程14では、ラビングローラ34、スプリングでローラステージに固定されたガイドローラ36及びラビングローラに備え付けられた除塵機37よりなるラビング装置により、配向膜形成用樹脂層を有する透明フィルム24bにラビング処理が施される。これにより、形成された配向膜の表面は、ラビング装置に隣接して設けられた表面除塵機38により除塵される。ラビング装置は、上記以外の公知の装置を使用してもよい。除塵された後、配向膜が形成された透明フィルム24cは、搬送ローラ40により搬送され、更に液晶層形成工程16へ送られる。
【0032】
液晶層形成工程16では、透明フィルム24cの配向膜上に、液晶性ディスコティック化合物を含む塗布液が塗布機42により塗布され、次いで、溶剤を蒸発させた後、乾燥装置44において、塗布層をディスコティックネマティック相形成温度に加熱される(ここで塗布層の残留溶剤も蒸発する)。これにより、ディスコティックネマティック相の液晶層が形成される。
【0033】
上記液晶層は、次いで、紫外線(UV)ランプ46により紫外線が照射され、液晶層は架橋する。液晶層を架橋させるためには、液晶性ディスコティック化合物として架橋性官能基を有する液晶性ディスコティック化合物を使用する必要がある。架橋性官能基を有しない液晶性ディスコティック化合物を用いた場合、この紫外線照射工程は省略され、直ちに冷却される。この場合、ディスコティックネマティック相が冷却中に破壊されないように、冷却は急速に行なう必要がある。
【0034】
図2は、液晶層形成工程16における塗布機と本発明に係る乾燥装置の一例である。塗布機42と乾燥装置44は、精密な塗布及び乾燥を行うために、一般的にクリーンルーム内に設置されている。クリーンルームは、例えば天井面から清浄な空調エアをダウンフローすることによって、常に加圧された清浄な状態を維持している。
【0035】
塗布機42は、エクストルージョン型、ロールコータ型、グラビアコータ型、スライドコート型、或いはそれ以外の塗布方式であってもよい。また、本発明の乾燥装置は有機溶剤系の塗布液に限らず水系に適用することもできるが、乾燥ムラが発生し易い有機溶剤系の塗布液において特に効果を発揮する。
【0036】
有機溶剤系の塗布液としては、例えば、メチルエチルケトン(MEK)、水エタノール、1−メトキシ−2−プロパノールアセテート(MMPG−AC)、N−メチルピロリドン(NMP)、ノルマルプロピルアルコール(n−PrOH)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、アノンから成る組成のものが使用される。
【0037】
ポリマーフィルム24cに塗布液を塗布する塗布条件としては、例えば、ウェット塗布量が5〜15μm程度になるようにする。こうして塗布液が塗布されたポリマーフィルムは、乾燥装置44へ走行されて、最終的に塗布膜面の膜厚が乾膜状態で1〜5μm程度になる。
【0038】
乾燥装置44は、ポリマーフィルム24cの走行方向に対して塗布機42の下流側に配設され、ポリマーフィルム24cに乾燥エアを吹きつけることによって、塗布膜面を乾燥させる。乾燥装置44と塗布機42は、乾燥時の熱が塗布機42に悪影響を及ぼすことを防止するため、及び、ポリマーフィルム24cの塗布膜面に熱風の乾燥エアをすぐに当てないため、或いは、関連装置の収納スペースを確保するために、1000mm程度の間隔をあけて設置することが好ましい。
【0039】
図2に示す乾燥装置44は、ポリマーフィルム24cを通過させて塗布膜の乾燥が行なわれる乾燥ボックス60a,60bを備えている。
【0040】
乾燥装置44の乾燥ボックス60a,60bは、主に給気部66a,66b、排気部68a,68b、で構成される。この乾燥装置44には、弱風・低温の乾燥を行う第1の乾燥ボックス60aと、強風・高温で乾燥を行う第2の乾燥ボックス60bが設けられる。乾燥装置44のポリマーフィルム走行用開口として、第1の乾燥ボックス60aには塗布機42から走行するポリマーフィルム24cを乾燥装置44内に搬入するためのポリマーフィルム24c入口62が、第2の乾燥ボックス60bには乾燥処理後のポリマーフィルムを搬出するためのポリマーフィルム出口64が設けられる。
【0041】
各乾燥ボックス60a,60bの下部には、第1及び第2のエア管69a,69bから供給されたエアを、所定の乾燥温度に加熱する第1及び第2の加熱器72a,72bが各々に設けられる。そして、各加熱器72a,72bで加熱された乾燥エアは、第1及び第2の給気部66a,66bで調整されてポリマーフィルム24cの塗布膜面に吹き付けられる。ポリマーフィルム24cの塗布膜面上に吹き付けられた乾燥エアは、各乾燥ボックス60a,60bの上部に設けられた第1及び第2の排気部68a,68bから排気される。
【0042】
第1及び第2の給気部66a,66bは、下から高機能フィルタ74a,74b、整流多孔板76a,76b、及び各吹き出し多孔板78a,78bで構成される。第1及び第2の高機能フィルタ74a,74bは、各加熱器72a,72bからの乾燥エア中に含まれる塵等を濾過除去するために設けられ、HEPA等の精密濾過を行えるフィルタを使用することが好ましい。第1及び第2の整流多孔板76a,76bは、濾過された乾燥エアの圧力を均一化する板材であり、各整流多孔板76a,76bには乾燥エアを整流するための多数の孔(図示せず)が設けられている。
【0043】
第1及び第2の排気部68a,68bは、各排気多孔板80a,80b及び各排気口82a,82bで構成される。第1及び第2の排気多孔板80a,80bは、ポリマーフィルム24cの塗布膜面に吹き付けられた乾燥エアを排気するための多数の孔が開口され、多数の孔は均一に排気を行うように孔の配置及び大きさが設定される。
【0044】
第1及び第2の排気口82a,82bは、各乾燥ボックス60a,60bの上部に設置される。各排気多孔板80a,80bを通過した乾燥エアは、上にある各排気口82a,82bから系外へと排気される。各排気口82a,82bは、ポリマーフィルム24cの塗布膜面の乾燥に影響しない程度で効率よく排気を行える構造であることが好ましい。
【0045】
このように構成された乾燥装置44の乾燥ボックス60aと乾燥ボックス外の境界部において、乾燥ボックス外に流れる風が乾燥ボックス内の気流を乱すことで、塗布膜近傍の気流が不均一となり、乾燥ムラを引き起こす。
【0046】
そこで、本発明では、図3に示すように、乾燥ボックス外に流れる風が乾燥ボックス内の気流を乱すことを抑制するために、ポリマーフィルム24c塗布膜面側に、ポリマーフィルム24cと平行に板状部材90aを設け、板状部材90aとポリマーフィルム24cとのクリアランスdを0.5mm以上15mm以下の範囲とすることとした。即ち、乾燥ボックス外に流れる風が乾燥ボックス内の気流を乱さないように、乾燥ボックス外に流れる風を乾燥ボックス内に流入させないために、ポリマーフィルム入口62のポリマーフィルム塗布膜面25側に、ポリマーフィルム24cと平行に、ポリマーフィルム24cとのクリアランスdを0.5mm以上15mm以下の範囲になるように板状部材90aを設けた。
【0047】
また、図示しないが、乾燥ボックス60aのポリマーフィルム出口63のポリマーフィルム塗布膜面側にも同様に、ポリマーフィルムと平行に板状部材を設け、板状部材とポリマーフィルムとのクリアランスを0.5mm以上15mm以下の範囲とすることが好ましい。
【0048】
そして、板状部材90aは、乾燥ボックス60aの内部側に、5mm以上50mm以下入り込んでいるように設置することが好ましい(図3の幅L)。
【0049】
板状部材が乾燥ボックス60aの内部側に5mm以上50mm以下入り込んでいるように設置されていることで、乾燥ボックス内のポリマーフィルム入口62又は出口63付近に流れる風を乾燥ボックス外に流出するのも抑制することができるので、更に乾燥ボックス内の気流を乱すことがなく、乾燥ムラのない塗布膜を提供することができる。
【0050】
また、板状部材90aのポリマーフィルムの走行方向の長さMは50mm以上であることが好ましい。
【0051】
更に、乾燥ボックス60aのポリマーフィルム入口62及び/又は出口63のポリマーフィルム塗布膜裏面側にも、ポリマーフィルムと平行に板状部材90bを設け、板状部材90bとポリマーフィルム24cとのクリアランスを0.5mm以上15mm以下の範囲とすることが好ましい(図4(a)参照)。ポリマーフィルム塗布膜裏面側にも同様に板状部材を設けることで、裏面側の気流を乱すことも抑制されるため、更に塗布膜の乾燥条件が安定し、乾燥ムラのない塗布膜を提供することができる。また、乾燥ボックス60aのポリマーフィルム入口62及び/又は出口63のポリマーフィルム塗布膜裏面側には、図4(a)の板状部材90bの代わりに、ローラ92がポリマーフィルム24cに接するように設けることも有効である(図4(b)参照)。ポリマーフィルム入口及び/又は出口のポリマーフィルム塗布膜裏面側にローラを設けることで、裏面側の乾燥ボックス内外の風の出入りを防ぐことができるので、裏面側の気流の乱れを防ぎ、更に塗布膜の乾燥条件が安定し、乾燥ムラのない塗布膜を提供することができる。
【0052】
尚、本発明の実施形態においては、乾燥ボックス60aについて本発明に係る板状部材を設ける場合について説明したが、乾燥ボックス60bについても同様に成り立つ。そして、本発明に係る乾燥装置44においては、図2のような加熱器72a,72bを設けたものに限られず、ポリマーフィルム24cの表裏面に対しノズルから吹き出される熱風を当てて塗布膜を乾燥するタイプのものや、乾燥ボックス60a,60b内でポリマーフィルム24c幅方向の一方端側から他方端側に流れる一方向流れの乾燥風が給気及び排気されるよう構成されているタイプのものであっても良い。また、上記実施形態においては、乾燥ボックスが2つのものについて説明したが、2つに限定されず、1つ又は3つ以上であっても本発明は成り立つ。更に、図5のように、板状部材90aは、ポリマーフィルム入口62及び/又は出口の底辺から離れて設置されていても良い。
【0053】
また、上記実施形態では、光学補償フィルムの製造工程10に、本発明に係る搬送ローラを組み込んだ例について説明したが、これに限定されず、その他の薄膜状フィルム、例えば、光学補償フィルム用の基材フィルム、反射防止フィルム、各種画像表示装置に使用される光学用途の薄膜状フィルムの製造、搬送工程にも適用できる。
【0054】
[ポリマーフィルム]
本発明で使用されるポリマーフィルムとしては、一般に幅0.3〜5m、長さ45〜10000m、厚さ5〜200μmのポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6ナフタレート、セルロースダイアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド等のプラスチックフィルム、紙、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンブテン共重合体等の炭素数が2〜10のα−ポリオレフィン類を塗布又はラミネートした紙、アルミニウム、銅、錫等の金属箔等、或いは帯状基材の表面に予備的な加工層を形成させたものが含まれる。
【0055】
[塗布液]
本発明において、ポリマーフィルムには、光学補償シート塗布液、磁性塗布液、写真感光性塗布液、表面保護、帯電防止あるいは滑性用塗布液等がその表面に塗布され、乾燥された後、所望する長さ及び幅に裁断されるものも含まれ、これらの代表例としては、光学補償シート、各種写真フィルム、印画紙、磁気テープ等が挙げられる。
【実施例】
【0056】
本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0057】
本実施例では、ポリマーフィルム24aとして、厚さ40〜120μmのトリアセチルセルロースフイルム(フジタック、富士フイルム(株)製)の透明フィルムを使用した。
【0058】
そして、ポリマーフィルム24aの表面に、長鎖アルキル変性ポバール(MP−203、クラレ(株)製)の2重量パーセント溶液をフィルム1m当り25ml塗布後、60°Cで1分間乾燥させて造られた配向膜用樹脂層を形成したポリマーフィルムを、10〜50m/分で搬送走行させながら、樹脂層表面にラビング処理を行って配向膜を形成した。
【0059】
そして、配向膜用樹脂層をラビング処理して得られた配向膜上に、塗布液としては、ディスコティック化合物TE−8の(3)とTE−8の(5)の重量比で4:1の混合物に、光重合開始剤(イルガキュア907、日本チバガイギー(株)製造)を前記混合物に対して1重量パーセント添加した混合物の40重量%メチルエチルケトン溶液とする液晶性化合物を含む塗布液を使用した。ポリマーフィルムを走行速度10〜50m/分で走行させながら、この塗布液を配向膜上に、塗布液量がポリマーフィルム1m 当り5mlになるようにワイヤーバー(塗布機42)で塗布した。
【0060】
塗布直後に、図2に示す本発明の乾燥装置44を使用して初期乾燥を行なった。本発明の乾燥装置44で初期乾燥されたポリマーフィルム24cは100°Cに調整された乾燥ボックス60a及び、130°Cに調整された乾燥ボックス60bを通され、ポリマーフィルム24c上にネマチック相が形成される。この配向膜及び液晶性化合物が塗布されたポリマーフィルム24cは連続搬送され、液晶層の表面に紫外線ランプ46からの紫外線が照射される。
【0061】
ここで、乾燥装置44の乾燥ボックス60aのポリマーフィルム入口とポリマーフィルム出口には、本発明に係る板状部材を設けた場合と、従来のように板状部材を設けていない場合と、の実験を行った。そして、板状部材を設けた場合には、塗布膜側(下側)に設けた場合と塗布膜側だけでなく塗布膜裏面側(上側)にも設けた場合について実験を行った。また、板状部材とポリマーフィルムとのクリアランスd、板状部材が乾燥ボックスの内部側に入り込んでいる長さL、及び、板状部材のポリマーフィルム走行方向の長さMについても変更を行い、実験を行った。実験の条件を表1に記す。尚、表中の設置の上下は、塗布膜側(下側)に設けたものを下、塗布膜側(下側)だけでなく塗布膜裏面側(上側)にも設けたものを上下と記載している。
【0062】
ここで、乾燥装置44で乾燥された塗布膜について乾燥ムラの発生状況について評価を行った。乾燥ムラの発生がない、または目視検査できないの場合を◎、の場合を○、乾燥ムラの品質許容限度レベルと同等の場合を△、乾燥ムラの品質許容限度レベルより強い乾燥ムラが発生するの場合を×、と評価した。
【0063】
【表1】

【0064】
表1から分かるように、乾燥ボックスのポリマーフィルム入口のポリマーフィルム塗布膜面側に、ポリマーフィルムと平行に板状部材を設け、板状部材とポリマーフィルムとのクリアランスを0.5mm以上15mm以下の範囲としたものは、乾燥ムラの評価が△以上であった。
【0065】
そして、板状部材が乾燥ボックスの内部側に5mm以上50mm以下入り込んでいるように設置されていることが好ましいことが分かる。また、板状部材のポリマーフィルム走行方向の長さが50mm以上が好ましいことが分かる。更に、板状部材は、ポリマーフィルム入口の塗布膜側(下側)にのみ設けるよりもポリマーフィルム出口の塗布膜側(下側)にも設けることが好ましく、ポリマーフィルム入口及び/又は出口のポリマーフィルム塗布膜裏面側(上側)にも設けることが好ましいことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明が適用される光学補償フィルムの製造工程を示す概略図である。
【図2】本発明に係る乾燥装置を示す概略図である。
【図3】乾燥装置の乾燥ボックスのポリマーフィルム入口近傍を示す概略図である。
【図4】乾燥装置の乾燥ボックスのポリマーフィルム入口近傍を示す概略図である。
【図5】乾燥装置の乾燥ボックスのポリマーフィルム入口近傍を示す概略図である。
【0067】
10…光学補償フィルムの製造工程、24a、24b、24c…透明(ポリマー)フィルム、30…塗布機、32…乾燥装置、42…塗布機、44…乾燥装置、60a,60b…乾燥ボックス、62…ポリマーフィルム入口、63…ポリマーフィルム出口(入口)、64…ポリマーフィルム出口、90a,90b…板状部材、92…ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行するポリマーフィルムに有機溶剤を含む塗布液を塗布して形成した塗布膜を乾燥する乾燥ボックスを備えた乾燥装置において、
前記乾燥ボックスのポリマーフィルム入口のポリマーフィルム塗布膜面側に、ポリマーフィルムと平行に板状部材を設け、該板状部材と前記ポリマーフィルムとのクリアランスを0.5mm以上15mm以下の範囲とすることを特徴とする乾燥装置。
【請求項2】
前記乾燥ボックスのポリマーフィルム出口のポリマーフィルム塗布膜面側にも、ポリマーフィルムと平行に板状部材を設け、該板状部材と前記ポリマーフィルムとのクリアランスを0.5mm以上15mm以下の範囲とすることを特徴とする請求項1に記載の乾燥装置。
【請求項3】
前記板状部材は乾燥ボックスの内部側に、5mm以上50mm以下、入り込んでいるように設置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の乾燥装置。
【請求項4】
前記板状部材の前記ポリマーフィルムの走行方向の長さは50mm以上であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1に記載の乾燥装置。
【請求項5】
前記乾燥ボックスの前記ポリマーフィルム入口及び/又は出口のポリマーフィルム塗布膜裏面側にも、ポリマーフィルムと平行に板状部材を設け、該板状部材と前記ポリマーフィルムとのクリアランスを0.5mm以上15mm以下の範囲とすることを特徴とする請求項1〜4の何れか1に記載の乾燥装置。
【請求項6】
前記乾燥ボックスのポリマーフィルム入口及び/又は出口のポリマーフィルム塗布膜裏面側には、ローラが前記ポリマーフィルムに接するように設けられていることを特徴とする請求項1〜4の何れか1に記載の乾燥装置。
【請求項7】
走行するポリマーフィルムに有機溶剤を含む塗布液を塗布して形成した塗布膜を乾燥ボックスで乾燥する乾燥方法において、
前記乾燥ボックスのポリマーフィルム入口及び/又は出口の外側に流れる風が、乾燥ボックス内の塗布膜近傍の気流を乱さないように、前記乾燥ボックスのポリマーフィルム入口及び/又は出口のポリマーフィルム塗布膜面側にポリマーフィルムの走行方向に平行に設けられた板状部材により、前記外側に流れる風を遮風及び/又は整流することを特徴とする乾燥方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−241012(P2009−241012A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−93531(P2008−93531)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】