説明

二足歩行ロボットの股関節構造

【課題】傾斜角度のある斜面での直進歩行を実現し、軽量化および製作コストを削減したロボットを提供することを目的とする。
【解決手段】胴体部及び該胴体部に連結される左右の脚部を有する二足歩行ロボットにおいて、左脚部に連結する左サイドギア、該左サイドギアに噛合される左ピニオンギアとを備える左モジュールと、右脚部に連結する右サイドギア、該右サイドギアに噛合される右ピニオンギアとを備える右モジュールと、前記2つのモジュールを平行リンク又は同径のプーリで結合させ、胴体部に対して常に同位相同角度で傾斜するように拘束し、さらに前記各ピニオンギアを同径のプーリで同期させることにより前後の脚部運動が逆位相同角度となるように拘束することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工場内作業用ロボットや各種のサービス提供用ロボット、または医療福祉機器等に適用できる人間型ないし非人間型の二足歩行ロボットの股関節構造に関し、より具体的にはロボットの歩行運動を坂道での直進に限定することで、股関節の自由度を機構的に削減した省自由度歩行ロボットの股関節構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の二足歩行ロボットは、図1に示されているように通常片足あたり6軸で構成されている(特許文献1)。このロボットの股関節構造では、前後・左右・旋回の各自由度に対して3つのモータ(1)が対応している。各自由度は独立して動くために、多様な運動の実現が可能であるが、その分多くのモータを搭載する必要があり、自重が増加して歩行機械の開発を困難なものとさせていた。
【0003】
そこで、自由度を減らして軽量化を目指す試みとして、二足歩行ロボットの歩行速度、歩幅、バランス保持機能などから関節やアクチュエータの構成を考え、人間型に固執しない機械としての機能と性能を重視した軽量化ロボットを設計したものがある(非特許文献1)。このロボットは図2に示されるように少ない駆動自由度で二足歩行を実現しており、足底(2、3)を回転させることで広範な可動範囲を持つことを実証している。
【0004】
一方、股関節二分機構を利用することで得られる二足歩行システムのダイナミクスや歩行性能などの基本的性質について検討したものがある(非特許文献2)。この文献では、劣駆動仮想受動歩行では遊脚の自然な振り運動を促進するように股関節を駆動するため、負の入力パワーを発生させることなく高効率な動歩行を実現できるなど、歩行システム全体として如何なる動特性に従っているのかを分析して優れた歩行制御系設計への道を示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−184782号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】日本ロボット学会誌,vol.21,No.5,546−553頁,2003年
【非特許文献2】日本ロボット学会誌,vol.26,No.8,932−943頁,2008年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記の通り、軽量化を試みた先例はあるが、いずれも平坦な床面における動作が確認されているのであり、傾斜角度のある坂道について検討すべき余地があると思われる。そこで、本発明では、傾斜角度のある斜面での直進歩行を実現し、軽量化および製作コストを削減したロボットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、自由度を機構的に拘束することによりモータの数を減らし、それに伴い、ロボットの軽量化、低価格化を実現した。具体的には、胴体部及び該胴体部に連結される左右の脚部を有する二足歩行ロボットの股関節構造において、左脚部に連結する左サイドギア、該左サイドギアに噛合される左ピニオンギアとを備える左モジュールと、右脚部に連結する右サイドギア、該右サイドギアに噛合される右ピニオンギアとを備える右モジュールと、前記2つのモジュールを平行リンク又は同径のプーリで結合させ、胴体部に対して常に同位相同角度で傾斜するように拘束し、さらに前記各ピニオンギアを同径のプーリで同期させることにより前後の脚部運動が逆位相同角度となるように拘束することを特徴とする。
【0009】
一般に自動車などの車両には、エンジンの出力を駆動車輪に伝達する動力伝達系の一部にディファレンシャルギア(差動ギア)装置(図3参照)が搭載されている。このディファレンシャルギアは、変速機からそれぞれの駆動車輪に動力を伝達するとともに、これらの駆動車輪の回転速度に偏差が生じた場合には、ピニオンギア(4)が回転することによって一対のサイドギア(5、6)を相対回転させてそれぞれの駆動車輪の差動回転を許容する。
【0010】
この一般的なディファレンシャルギアにおける、ピニオンギアを両サイドギアに対してそれぞれ設けたものが、本発明の左サイドギア(12)−左ピニオンギア(10)と、右サイドギア(13)−右ピニオンギア(11)の組み合わせに相当するのである。すなわち、本発明では図4に示されるように左右のモジュール(14、15)内にそれぞれピニオンギアとサイドギアとが設けられている。
【0011】
そして、この二つのモジュールを平行リンク又は同径のプーリで結合させ、胴体部(20)に対して常に同位相同角度で前額面内に傾斜するように拘束している。その状態を模式的に示したものが図5である。なお、図5ならびに図6中における白丸はベアリング機構などで回転可能であることを示し、黒丸はロックされていることを示している。
【0012】
また、前記各ピニオンギアを同径のプーリで同期させることにより前後の脚部運動が前後方向に逆位相同角度となるように拘束する状態を模式的に示したものが図6である。
【0013】
本発明では従来技術におけるディファンレンシャルギアを参考にして、二足歩行ロボットに適用した場合に、ピニオンギアとサイドギアを各一対にし,ディファレンシャルギアの機能をそのままに各対がその固定部に対して同じ方向に同角度回転できるようにしたことが最も主要な特徴である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の二足歩行ロボットの股関節構造は、前額面と矢状面の左右前後それぞれの振りを機構的に一体駆動させることによって、従来の左右6自由度を左右2自由度とした。これにより、モータの数を減らし、それに伴い、ロボットの軽量化、低価格化を実現することができた。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は従来技術における二足歩行ロボットを示す概略図である。
【図2】図2は従来技術における軽量化ロボットを示す概略図である。
【図3】図3は従来のディファレンシャルギアを示す概略図である。
【図4】図4は本発明の左右のモジュールを示す概略図である。
【図5】図5は本発明の左右のモジュールを平行リンク又は同径のプーリで結合させ、胴体部に対して常に前額面内を同位相同角度で傾斜するように拘束している状態を示す模式図である。
【図6】図6は本発明において、各ピニオンギアを同径のプーリで同期させることにより前後の脚部運動が逆位相同角度となるように拘束する状態を示す模式的である。
【図7】図7は本発明の機構設計を模式的に示す図である。
【図8】図8は本発明の二足歩行ロボットの足関節機構を示す図である。
【図9】図9はプーリの配置を示す模式図である。
【図10】図10は二足歩行ロボットの制御装置の構成図の一例を示したものである。
【図11】図11は二足歩行ロボットの脚の運びを模式的に示す図である。
【図12】図12は二足歩行ロボットの動きをコマに分けて撮影した図である。
【図13】図13は各部位の関節角度の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る二足歩行ロボットの股関節構造について、図面を用いて説明する。
二足歩行は、左右の脚での支持の交換により行われる。単脚支持で地面の傾斜に対応するには、足関節にピッチとロールの2自由度が必要となる。
【0017】
歩行に必要な前後方向への支持脚股関節の運動は、胴部に対して脚が対称に振り出されることを仮定すれば1自由度で実現可能である。また、片脚を遊脚にするには、支持脚となる足部に自重を乗せて遊脚側を持ち上げる必要があるため、前額面内に自由度を設けなければならない。この運動も左右の脚が前方から見て常に平行になるように拘束すれば、1自由度で実現できる。このように股関節の前額面と矢状面の左右前後それぞれの振りを機構的に一体駆動させることによって、省自由度化を図る。
【0018】
膝関節は、段差に対して支持側の足を上げて乗り越えるために必要である。しかし、大きな段差は想定しなければ、足部の昇降は股関節の自由度で代用できるため、膝の自由度については削減を試みる。
【0019】
以上の考察をまとめ機構設計用に図示したものが図7である。モータ(30)、モータ(31)は股関節の自由度を制御する。モータ(32)とモータ(34)は左側足関節、モータ(33)とモータ(35)が右側足関節用である。結果的に6つのアクチュエータを用いる。
【0020】
図3に示すディファレンシャルギア機構を矢状面内での脚の駆動に利用する。これにより左右の脚を逆位相等角度で駆動でき、胴部を中心とした脚の前後交代運動が実現できる。ただ、ディファレンシャルギアでは、前額面内股関節回転軸間が大きく取ることができない。そこで該ギアを図4のように2つに分け、分けた2つのギアを機構的に同期させて駆動することとした。同期には大きなギアや平行リンク機構を用いることも可能であるが、重量、可動範囲、バックラッシュを考慮して、タイミングベルト(22)が好ましい。モータでタイミングベルトを駆動すると、かさ歯車によって駆動方向が90°変化し、矢状面内の脚運動が実現される。なお、かさ歯車は一例であって、これが冠歯車、平歯車などを組み合わせることが可能である。
【0021】
前額面内の(側方向)運動を実現するため、図4に示すようかさ歯車機構を胴体から切り離し、コの字型のベースに取り付ける。コの字型ベースに取り付けた矢状面内のかさ歯車軸はベアリングでコの字型ベースで受けた後、脚部をとりつけ脚モジュールとする。前額面内のかさ歯車回転軸は、脚モジュール、胴体ともベアリングで受けて固定し、先に述べたようタイミングベルトで同期駆動する。
【0022】
股関節前額面内の運動は、モジュール全体を前額面内で回転させることで実現する。その機構を図5に示す。軸の反対側はベアリングにより胴部で軸を受けた後、左右の2軸を同期駆動する。その同期にはギアや平行リンク機構でも十分であるが、ここでも先と同様の理由よりタイミングベルト(22)が好ましい。2つのタイミングベルトで駆動される各回転軸がピニオンギアの回転軸と左右とも一致しているため、モジュールはこの軸周りにスムーズに回転する。この運動は平行リンク機構による駆動となるため、左右の脚は同位相同角度で側方向に傾き、進行方向から見て2つの脚は平行な状態を保ったままとなる。この軸の一致により、矢状面内の脚運動を実現するかさ歯車の運動は阻害されない。また、胴部の質量を前後2つの軸で受けることより、自重の回転軸への負荷が低減できる。この図5に示される白丸はフリーに、黒丸はロックされた状態にあることを示している。
【0023】
図5に示されるタイミングベルトをモータで駆動させると、左右のモジュールが前額面内を同位相同角度で側方向に傾き、このとき進行方向から見て2つの脚は平行な状態を保ったままとなる。この状態でもう一方のタイミングベルトを駆動すると、同期したディファレンシャルギアの駆動方向がかさ歯車によって90°変化し,前後方向の脚の交代運動が実現される。
【0024】
足関節は、前後・左右の自由度をもたせる。足関節機構を図8に示す。前額面内を駆動するモータ(36)を足部内に収め、矢状面内駆動を行うモータ(37)を脚の上部に干渉しないよう配置される。
【0025】
股関節機構と足関節の組み合わせにより傾けた方向と反対側の足を浮かせ、脚が平行な状態で前後に振ることが可能となり、支持脚を順に交換することで歩行が可能となるのである。
【0026】
転倒しないトルクとして、重心位置の地面の投影点が支持脚面内に収まっている際のモーメントを計算してそれを基にモータを選定することができる。
【0027】
股関節矢状面・前額面に関しては、それぞれ片脚接地で片脚を振り上げる。この場合、片脚の質量を可動角まで振り切った時に最もトルクが必要となる。その状態においても支持が可能になるようにモータの選定を行う。
【0028】
タイミングベルトは、モータの出力および歩行運動をさせる際に動作させるプーリの回転数により、選定表に基づき選定することができる。
【0029】
足関節においては、前後・左右ともプーリの数は2つであるので、プーリとベルトの接触角は、180°となり充分である。しかし、股関節においては、モータ駆動軸と左右の足を一体となって駆動させるため、3本の軸をタイミングベルトで動作させる必要がある。その機構の一例を図9に示す。この機構により、全てのプーリ(40、41、42)がベルトとの接触角を180°と充分な接触角度を保つことができる。
【0030】
タイミングベルトは、取り付けの際に一定の張力が必要である。そのため、張力を与える機構が必要となる。そこで、モータとプーリ間の距離を調整することで、張力を与える機構を採用することができる。機構的な制限により調整ができない場合は、テンショナーを用いて軸間のベルトに直接張力を加えれば良い。
【実施例1】
【0031】
図10に、本発明のロボットの実施環境を示す。最大電圧+48V・電流+16.3Aのモータードライバ(TITEC DRIVER)を用い電流制御をおこなう。モータードライバ(56)には、モータ駆動用の定格電源+24V・定格電流+44Aの直流電圧源(イーター電機工業製:FHH24SX−U)を接続し、制御用コンピューター(50)に増設したD/A変換ボード(52)(Interface社:PCI−3336)より制御信号(−10V〜+10V)を入力する。エンコーダー(54)の値を取得するため、24bit 4chのカウンタボード(51)(Interface社:PCI−6201)を使用した。また、ロボットには、停動トルク3.4Nの20Wギアードモーター(maxon社製、ギア比28:1)を選定した。
【0032】
動作方法について図11に概略を示す。図11(a)の平地に両脚を静止させた状態から実験から開始をする。 まず、(b)のように前額面でロボットを傾けることによって片足を浮かせる。このことによって、(c)のように矢状面に足を振らせることが可能となる。その後、(d)のように振りだした足を着地させる。これを左右繰り返すことにより歩行運動をさせた。この動作を実現する各モータの回転角の軌道を試行錯誤的に生成し、モータの角度をPD制御によりその軌道へ追従させた。
【0033】
平地歩行の軌道追従実験の結果として、図12に実験中のロボットの動作を示す。また、その時の関節角度を図13に示す。それぞれの関節は目標とする角度に追従をおこなっており、転倒することなく歩行を継続することができ、交互に左右の脚を出し歩行を継続することができた。なお、図13は歩行ロボットの各関節軌道で、(a)モータ30、(b)モータ31、(c)モータ32左脚関節(矢状面)、(d)モータ33右脚関節(矢状面)、(e)モータ34左脚関節(前額面)、(f)モータ35右脚関節(前額面)の実測(図中 実線で示す)および目標とする角度(図中 点線で示す)を示したものである。
【産業上の利用可能性】
【0034】
歩行ロボットの股関節は各脚において前後・左右方向の2自由度(旋回を実現するには更に1自由度で計3自由度となる)、計4自由度を持つものが多い。この場合,股関節駆動用にモータを4つ搭載する必要があり、自重の増加によるモータのパワー不足のため歩行ロボットの開発を困難としてきた。そこでディファレンシャルギア機構を、2つのモジュールに分割したモジュールをうまく組み合わせることで、左右運動は同位相同角度,前後方向は逆位相同角度の脚運動となるような機構を考案し、2つのモータにより直進歩行を達成した。これによって、歩行ロボットの開発速度を向上させることが可能となる。
【符号の説明】
【0035】
1 モータ
2、3 足底
4 ピニオンギア
5、6 サイドギア
10 左ピニオンギア
11 右ピニオンギア
12 左サイドギア
13 右サイドギア
14 左モジュール
15 右モジュール
16 左脚
17 右脚
20 胴体部
22 タイミングベルト
30〜37 モータ
40〜42 プーリ
50 制御用コンピュータ
51 カウンタボード
52 D/A変換ボード
54 エンコーダ
56 モータドライバ
58 ひずみゲージ測定器用ロードセル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
胴体部及び該胴体部に連結される左右の脚部を有する二足歩行ロボットにおいて、
左脚部に連結する左サイドギア、該左サイドギアに噛合される左ピニオンギアとを備える左モジュールと、
右脚部に連結する右サイドギア、該右サイドギアに噛合される右ピニオンギアとを備える右モジュールと、
前記2つのモジュールを平行リンク又は同径のプーリで結合させ、胴体部に対して常に同位相同角度で傾斜するように拘束し、
さらに前記各ピニオンギアを同径のプーリで同期させることにより前後の脚部運動が逆位相同角度となるように拘束することを特徴とする二足歩行ロボットの股関節構造。

【図10】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−121119(P2012−121119A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276068(P2010−276068)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(510326728)
【出願人】(510326740)
【Fターム(参考)】