説明

二酸化炭素の固定化装置およびその方法

【課題】光触媒による二酸化炭素の還元反応を高効率、且つ低コストで行い、該還元反応によって二酸化炭素還元生成物を生成させて二酸化炭素を固定化する二酸化炭素の固定化装置およびその方法を提供する。
【解決手段】反応原料として気体原料と液体原料とが流通されるマイクロ流路を有するマイクロ反応器と、マイクロ流路に気体原料を送り込む気体原料送り込み手段と、マイクロ流路に液体原料を送り込む液体原料送り込み手段と、マイクロ流路の内面に設けられた光触媒の層とを備え、前記気体原料は二酸化炭素であり、前記液体原料は二酸化炭素と反応して有機化合物を生成し得る原料であり、気体原料送り込み手段および液体原料送り込み手段は、前記液体原料が前記マイクロ流路の内面に沿って流れ、二酸化炭素が中央部を流れる状態のパイプフローを形成可能に構成された二酸化炭素の固定化装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素を光触媒反応により還元し、蟻酸、ホルムアルデヒド、メタノール等の二酸化炭素還元生成物を生成させて二酸化炭素を固定化する二酸化炭素の固定化装置およびその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素は、地球温暖化の主因である温室効果ガスとして知られており、その固定化方法や有効利用方法が検討されている。例えば特許文献1では、二酸化炭素を含む水溶液中に光触媒を分散し、該水溶液に紫外光を照射することによって二酸化炭素を還元し、蟻酸、ホルムアルデヒド、メタノール、メタン等を生成させることによって二酸化炭素を固定化する方法が開示されている。
【0003】
特許文献1の二酸化炭素の還元反応は植物の光合成作用に類似した反応であり、人工光合成によるエネルギー生成法として注目される反応であるが、その反応効率は悪く、収率は極めて低い。前記反応効率を向上させるため、特許文献2および特許文献3では、半導体光触媒成分と二酸化炭素還元触媒成分とからなる複合光触媒が提案されている。
【特許文献1】特開昭55−105625号公報
【特許文献2】特開2003−275599号公報
【特許文献3】特開2004−59507号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献2および特許文献3の複合光触媒を用いた二酸化炭素還元方法では、太陽光を用いて二酸化炭素の還元を行っているが、太陽光を利用した反応は時間がかかる上、太陽光を効率よく集光して反応器に光を照射するための集光装置(特許文献2、図2)が必要となるため、反応器の大型化が困難である。
【0005】
また、特許文献2および特許文献3において、太陽光の代わりに人工光を用いることも考えられるが、前記複合光触媒を用いた反応ではメタノールを生成させるために300℃前後の反応温度が必要であり(特許文献3)、反応器を300℃付近にまで高めるためのエネルギーコストがかかる。
【0006】
本発明の課題は、光触媒による二酸化炭素の還元反応を高効率、且つ低コスト(小エネルギー)で行い、該還元反応によって二酸化炭素還元生成物を生成させて二酸化炭素を固定化する二酸化炭素の固定化装置および二酸化炭素の固定化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様に係る二酸化炭素の固定化装置は、反応原料として気体原料と液体原料とが流通されるマイクロ流路を有するマイクロ反応器と、前記マイクロ流路に気体原料を送り込む気体原料送り込み手段と、前記マイクロ流路に液体原料を送り込む液体原料送り込み手段と、前記マイクロ流路の内面に設けられた光触媒の層とを備え、前記気体原料は二酸化炭素であり、前記液体原料は二酸化炭素と反応して有機化合物を生成し得る原料であり、前記気体原料送り込み手段および液体原料送り込み手段は、前記液体原料が前記マイクロ流路の内面に沿って流れ、二酸化炭素が中央部を流れる状態のパイプフローを形成可能に構成されていることを特徴とするものである。
【0008】
本態様の二酸化炭素の固定化装置は、気体原料である二酸化炭素に対して、液体原料を媒体として光触媒による反応を行い、該二酸化炭素を固定化するものである。前記光触媒による反応は二酸化炭素を還元する反応であり、二酸化炭素から二酸化炭素還元生成物が生成される。すなわち、気体原料である二酸化炭素は二酸化炭素還元生成物として固定化される。
【0009】
本発明によれば、反応原料のうち、気体原料である二酸化炭素を利用してパイプフロー(液体原料が前記マイクロ流路の内面に沿って流れ、二酸化炭素が中央部を流れる状態)を形成させ、二酸化炭素が飽和状態で溶け込んだ液体原料を、強制的に光触媒の層の表面近傍に局在させてマイクロ流路を層流状態で通過させて、光触媒反応を行うことができる。このように、マイクロ流路の内面に沿って流れる液体原料を、以下、「筒状液膜流」と称し、パイプフローの中心部を流れる二酸化炭素を、以下、「中央ガス流」と称する場合がある。
【0010】
更に、気体原料である二酸化炭素も光触媒層の近傍で液体原料と接触することになるので、液体原料中に溶け込んだ二酸化炭素が光触媒反応の進行よって消費されても、直ちに中央ガス流から二酸化炭素が液体原料中に溶け込み(補給され)、該液体原料中の二酸化炭素は、前記光触媒反応が進行してもその飽和濃度状態が維持される。したがって、前記液体原料中に溶解した二酸化炭素濃度を、前記マイクロ流路の全長に渡って光触媒層の近傍において常に飽和状態で一定に保つことが可能となり、当該光触媒反応の平衡を、二酸化炭素の還元反応が主体的に進み、二酸化炭素還元生成物の生成量が増える方向に保つことができる。最終的には二酸化炭素の飽和濃度に対応する二酸化炭素還元生成物の生成量になるまで増えて、該光触媒反応は平衡状態になる。
このように、マイクロ流路の全長において且つ光触媒層の近傍において二酸化炭素が飽和濃度にあることによって、当該光触媒反応による二酸化炭素還元生成物の生成量を、効果的に増やすことができる。
【0011】
このようにして、二酸化炭素と反応して有機化合物を生成し得る液体原料を反応媒体として用い、二酸化炭素の光還元反応を行うので、有機化合物を二酸化炭素還元生成物として高効率で二酸化炭素を固定化することができる。例えば、二酸化炭素と反応して有機化合物を生成し得る液体原料として水を用いる場合、蟻酸、ホルムアルデヒド、メタノール、又はメタンを二酸化炭素還元生成物として、二酸化炭素を固定化することができる。
【0012】
本態様の二酸化炭素の固定化装置による二酸化炭素の固定化反応について、具体例を挙げて説明する。以下、二酸化炭素と反応して有機化合物を生成し得る液体原料として水(HO)を用いる場合について説明する。
【0013】
二酸化炭素の光還元反応は、一般的に以下の(1)式〜(5)式に示されるような多電子還元反応によって説明される。
【0014】
【化1】

【0015】
【化2】

【0016】
【化3】

【0017】
【化4】

【0018】
【化5】

【0019】
これらの反応機構の詳細は明らかになっていないが、光触媒の固体表面において、直接的に(1)式〜(5)式に示されるような電子の移動が起こるメカニズムが考えられる。
【0020】
ここで、光触媒反応は逆反応を伴う反応であるため、二酸化炭素と反応して生成した有機化合物が反応系内(液体原料の筒状液膜流中)に存在すると、還元反応の逆反応(酸化反応)により、生成した有機化合物が二酸化炭素に戻る反応が起こる。しかし、筒状液膜流と中央ガス流からなるパイプフローが形成されていると、前記液体原料中で二酸化炭素と反応して生成した有機化合物のうち、蒸気圧が高い、または液体原料への溶解度が低い有機化合物(以下、高蒸気圧または低溶解度の有機化合物と称する場合がある)は、前記筒状液膜流中から前記中央ガス流中へと移動する(図1を参照)。
【0021】
そして、前記高蒸気圧または低溶解度の有機化合物が前記中央ガス流中へ移動すると共に、気体原料である二酸化炭素が筒状液膜流中に移動し、当該筒状液膜流(液体原料)中の二酸化炭素濃度は、図1のグラフに示されるように、マイクロ流路の流路長の全長に渡って一定の飽和濃度に保たれる。
一方、パイプフローを形成させず、二酸化炭素で飽和した液体原料をマイクロリアクターに流通させた場合(パイプフローなしの場合)には、液体原料中の二酸化炭素濃度は、マイクロ流路を通過して反応が進行するにしたがって減少する。
【0022】
なお、蒸気圧が低い有機化合物や液体原料への溶解度が高い有機化合物は、前記筒状液膜流中に残り易く、そのまま有機化合物の生成物として得られる場合や、続いて起こる光触媒反応によって他の有機化合物を生成する場合や、逆反応によって消滅する場合がある。
【0023】
また、蒸気圧が「高い」、または蒸気圧が「低い」とは、蒸気圧の大きさを相対的に表し、蒸気圧が「高い」有機化合物は、蒸気圧が「低い」有機化合物よりも気体になり易いことに基づく説明であり、具体的な蒸気圧の値は限定されない。
【0024】
図2は、液体原料として水(HO)を用いた場合の反応を示す図である。液体原料として水(HO)を用いた場合に生成する有機化合物は、蟻酸、ホルムアルデヒド、メタノール、メタンである。メタン(CH)は蒸気圧が高く、液体原料である水への溶解度は低いため、前記中央ガス流中に移動しやすい。このように、生成した有機化合物が反応系内(液体原料の筒状液膜流中)から抜けることによって、一旦生成した有機化合物の光触媒による逆反応が防止されるので、蒸気圧が高い、または液体原料への溶解度が低い有機化合物を効率よく得ることが可能となる。
【0025】
また、光触媒はその種類に応じて溶媒に対する親和性が異なる。例えば、前述の二酸化チタンは水系溶媒との親和性は高いが、疎水性有機溶媒に対して親和性が低い。このような性質の二酸化チタンを液体原料に分散させるバッチ式の場合には、該液体原料として光触媒に対して親和性の低い有機溶媒を使用することはできない。
【0026】
本発明によれば、液体原料が光触媒に対して親和性の低い場合であっても、二酸化炭素による前記パイプフローを形成させることによって、その全量を光触媒の層の表面近傍に局在させた状態でマイクロ流路を通過させることが可能となり、光触媒と親和性の低い溶媒を反応媒体として用いた二酸化炭素の固定化も行うことができる。
【0027】
本発明の第2の態様に係る二酸化炭素の固定化装置は、第1の態様において、前記光触媒は二酸化チタンであることを特徴とするものである。
【0028】
本発明によれば、二酸化チタンの高い光触媒活性を有する二酸化炭素の固定化装置とすることができる。二酸化チタンは、光触媒の層として設けた場合の透明性が高く、また耐久性に優れた光触媒であり、安定した光触媒活性を有している点で優れている。加えて、二酸化チタンの層の形成は容易であり、その原料も廉価であるため低コストで光触媒層を設けることができる。
【0029】
本発明の第3の態様に係る二酸化炭素の固定化装置は、第2の態様において、前記二酸化チタンに、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、白金、銅、銀、および金のいずれか1種の金属を助触媒として担持させたことを特徴とするものである。
【0030】
本発明によれば、二酸化チタンに担持させたルテニウム、ロジウム、パラジウム、白金、銅、銀、および金のいずれか1種の金属の助触媒作用によって、二酸化チタンの光触媒活性を更に高めることができる。
【0031】
本発明の第4の態様に係る二酸化炭素の固定化方法は、マイクロ流路の内面に光触媒の層を有するマイクロ反応器の当該マイクロ流路に気体原料として二酸化炭素を、液体原料として前記二酸化炭素と反応して有機化合物を生成し得る原料を送り込み、マイクロ流路内で前記液体原料が該マイクロ流路の内面に沿って流れ、二酸化炭素が中央部を流れる状態のパイプフローを形成させて光触媒反応を進行させることにより二酸化炭素から前記有機化合物を生成させて二酸化炭素を固定化することを特徴とするものである。
【0032】
本発明によれば、反応原料のうち、気体原料である二酸化炭素を利用してパイプフローを形成させ、二酸化炭素が飽和状態で溶け込んだ液体原料を、強制的に光触媒の層の表面近傍に局在させてマイクロ流路を層流状態で通過させて、光触媒反応が行われる。すなわち、前記パイプフローの中央部を流れる二酸化炭素から前記マイクロ流路の内面に沿って流れる液体原料中に移行した二酸化炭素に対して、前記光触媒による還元反応を進行させ、該還元反応によって生成された二酸化炭素還元生成物として二酸化炭素を固定化することができる。
【0033】
気体原料である二酸化炭素も光触媒層の近傍で液体原料と接触することになるので、液体原料中に溶け込んだ二酸化炭素が光触媒反応の進行よって消費されても、直ちに中央ガス流から二酸化炭素が液体原料中に溶け込み(補給され)、該液体原料中の二酸化炭素は、前記光触媒反応が進行してもその飽和濃度状態が維持される。したがって、前記液体原料中に溶解した二酸化炭素濃度を、前記マイクロ流路の全長に渡って光触媒層の近傍において常に飽和状態で一定に保つことが可能となり、当該光触媒反応の平衡を、二酸化炭素の還元反応が主体的に進み、二酸化炭素還元生成物の生成量が増える方向に保つことができる。最終的には二酸化炭素の飽和濃度に対応する二酸化炭素還元生成物の生成量になるまで増えて、該光触媒反応は平衡状態になる。
このように、マイクロ流路の全長において且つ光触媒層の近傍において二酸化炭素が飽和濃度にあることによって、当該光触媒反応による二酸化炭素還元生成物の生成量を、効果的に増やすことができる。すなわち、当該光触媒反応を高効率で進行させることができる。
【0034】
更に、前記液体原料の筒状液膜流中で二酸化炭素と反応して生成した有機化合物のうち、蒸気圧が高い有機化合物は、前記パイプフローの中央ガス流中へと移動する。二酸化炭素と反応して生成した有機化合物が反応系内(液体原料の筒状液膜流中)から前記中央ガス流中に抜けることによって、一旦生成した有機化合物の光触媒による逆反応(酸化反応)が防止され、前記蒸気圧が高い有機化合物を効率よく得ることが可能となる。
【0035】
本発明の第5の態様に係る二酸化炭素の固定化方法は、第4の態様において、前記液体原料は水であり、二酸化炭素還元生成物として蟻酸、ホルムアルデヒド、メタンのうち少なくとも1種の化合物を生成させることを特徴とするものである。
本発明によれば、二酸化炭素を、蟻酸、又はホルムアルデヒド、又はメタンとして固定することができる。
【0036】
本発明の第6の態様に係る二酸化炭素の固定化方法は、前記第4の態様において、前記液体原料は水であり、二酸化炭素還元生成物としてメタノールを生成させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、反応原料のうち、気体原料である二酸化炭素を利用してパイプフローを形成させ、有機化合物を生成し得る液体原料を、強制的に光触媒の層の表面近傍に局在させてマイクロ流路を層流状態で通過させることができる。更に、気体原料である二酸化炭素も光触媒層の近傍で液体原料と接触することになるので、液体原料中に溶け込んだ二酸化炭素が光触媒反応の進行よって消費されても、直ちに中央ガス流から二酸化炭素が液体原料中に溶け込み(補給され)、該液体原料中の二酸化炭素は、前記光触媒反応が進行してもその飽和濃度状態が維持される。これにより、当該光触媒反応による二酸化炭素還元生成物の生成量を、効果的に増やすことができる。すなわち、当該光触媒反応を高効率で進行させることができる効果が得られる。
【0038】
このことによって、前記有機化合物を生成し得る液体原料を反応媒体として用いて、二酸化炭素から有機化合物を生成させる反応を高効率で行い、生成した有機化合物から更に光還元反応を行うことによって種々の二酸化炭素還元生成物として二酸化炭素を固定化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
(実施例1)
本発明の実施形態の一例を図3〜図6を用いて説明する。
図3は、本実施例に係る二酸化炭素固定化装置を示す斜視図である。図4は、図3のI−I断面図である。図5は、図4のII−II断面のA部の拡大図であり、マイクロ流路中におけるパイプフロー状態を示す図である。図6は図4のIII−III断面図である。
【0040】
本実施例に係る二酸化炭素固定化装置1は、光透過性材料より成り、反応原料として気体原料と液体原料とが流通されるマイクロ流路4を有するマイクロ反応器10を備えている。前記マイクロ流路4を有するマイクロ反応器10は、例えば、マイクロ流路4を成す溝6(図6)が設けられたホウ珪酸ガラス、石英、アクリル樹脂等の光透過性材料で形成された基板2、および天板3を接合させることによって形成することができる。
【0041】
前記基板2表面には、エッチング、または機械加工によって溝6が形成されている。前記溝6には、図6のように光触媒の層5が設けられている。本実施例においては、前記光触媒として二酸化チタン(TiO)が用いられる。該光触媒は勿論二酸化チタンに限定されない。更に、二酸化チタンに、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、プラチナ、銅、銀、金等の助触媒としての働きをする金属を担持させることによって、二酸化チタンの光触媒活性を更に高めることができる。また、可視光応答性光触媒を用いれば、光触媒の励起光源として太陽光を利用することが可能である。
【0042】
前記光触媒の層5が設けられた溝6を備えた基板2と天板3とを接合することによって、マイクロ流路4が形成される。マイクロ流路4の断面形状は特に限定されるものではなく、溝6の形状を変えることによって、例えば半円形、または、三角形に形成することができる。また、前記溝6を基板2と天板3の両方に設けることにより、円形、楕円形、五角形、その他の多角形等に形成することもできる。
【0043】
また、マイクロ流路4は、本実施例のように光触媒の層5が設けられた溝6を備えた基板2と天板3とを接合して形成されるものに限らず、断面円形または多角形のキャピラリーの内壁に光触媒を設けることによって形成することができる。
【0044】
マイクロ流路4の流路径は10〜2000μmに構成することができ、50〜1000μmであると好ましく、100〜500μmであるとより好ましい。ここで、「マイクロ流路4の流路径」とは、反応流路のサイズを規定する長さであり、例えばマイクロ流路4の断面が四角形における短辺の長さ、円形における直径、楕円形における短直径を意味するものである。なお、断面四角形における長辺の長さ、断面楕円形における長直径の長さはマイクロ流路4全体に光が照射でき、反応器の機械的強度が保たれる範囲であれば特に制限されるものではなく、例えば長辺の長さ/短辺の長さ、長直径/短直径の比が1〜20程度となるように構成することができる。
【0045】
また、図6のように、天板3のマイクロ流路4の上面を成す部分には光触媒の層5を設けず、基板2の溝6の内面、すなわちマイクロ流路4の側壁面と底面にのみに光触媒が設けることによって、該天板3の上面から光触媒に効率よく光を照射することができる。このように、天板3の上面側から基板2の溝6内面に設けられた光触媒に対して光を照射する場合には、該天板3のみが透過性材料で形成されている構成とすることも可能である。
【0046】
基板2に設けられた溝6の一端には、マイクロ流路4に原料を供給するための第1の供給口11が設けられている。また、天板3には、前記基板2と接合したときに、前記第1の供給口11とほぼ対向する位置に、第2の供給口12が設けられている。更に、前記天板3には、マイクロ流路4を通過した反応液が取り出される取り出し口13が設けられている。
【0047】
前記第1の供給口11および前記第2の供給口12は、一方が気体原料である二酸化炭素の供給口として用いられ、もう一方が有機化合物を生成し得る液体原料の供給口として用いられる。本実施例では、第1の供給口11を二酸化炭素の供給口、第2の供給口12を有機化合物を生成し得る液体原料の供給口として説明する。
【0048】
第1の供給口11および第2の供給口12にはチューブコネクタ18が設けられている。第1の供給口11はマイクロチューブ14を介して気体原料送り込み手段である気体原料用シリンジポンプ16に接続されており、第2の供給口12はマイクロチューブ15を介して液体原料送り込み手段である液体原料用シリンジポンプ17に接続されている。気体原料送り込み手段および液体原料送り込み手段としては、前記シリンジポンプの他、気体または液体の供給速度を調整することができる装置を用いることができる。
【0049】
気体原料用シリンジポンプ16および液体原料用シリンジポンプ17によって、気体原料である二酸化炭素、および有機化合物を生成し得る液体原料の供給速度を調整し、前記液体原料がマイクロ流路4の内面に沿って流れ、二酸化炭素が中央部を流れる状態のパイプフローを形成可能に構成されている。マイクロ流路4を通過した反応液は、取り出し口13から取り出される。
【0050】
光反応を誘起するために光触媒の層5に光を照射するため、光源として紫外発光ダイオード19を用いた光照射装置8を用いることが望ましい。光照射装置8の光源として発光ダイオードを用いることによって、光触媒系マイクロ装置1の省スペース化と低フォトンコストを実現することができる。前記光照射装置8は、光が天板3の上面に設けられ、前記紫外発光ダイオード19がマイクロ流路4に沿って直列に並べられて配置されている。
尚、前記光触媒の層5に可視光応答性光触媒を用いた場合には、光触媒の励起光源として太陽光を利用することが可能であるため、光照射装置は不要である。
【0051】
図7は図6によって説明した光触媒の層5が設けられたマイクロ流路4の他の例である。すなわち、天板3のマイクロ流路4の上面を成す部分に光触媒の層5を形成し、マイクロ流路4全面に光触媒を設けることもできる。この場合には、該光触媒の層5は、光照射装置8によって照射される光を透過する程度に薄く形成されることが望ましい。このように、前記光触媒がマイクロ流路4の全面に設けられている場合には、基板2下面側に更に光照射装置(図示せず)を設け、マイクロ流路4の上面および下面から光が照射されるように構成することが好ましい。また、該光触媒をマイクロ流路4の全面に形成する場合には、当該光触媒の層5をスリット状に形成し、光照射装置8によって照射される光をマイクロ流路4内まで透過し易くすることもできる。
【0052】
(実施例2)
次に、実施例1において説明した二酸化炭素固定化装置1による二酸化炭素の固定化反応について、二酸化炭素と反応して有機化合物を生成し得る液体原料として水(HO)を用いる場合について説明する。
【0053】
二酸化炭素固定化装置1の第1の供給口11からは、気体原料である二酸化炭素が導入される。第2の供給口12からは、二酸化炭素と反応して有機化合物を生成し得る液体原料として水が導入される。二酸化炭素および水の供給速度は、それぞれ気体原料用シリンジポンプ16および液体原料用シリンジポンプ17によって調整され、水がマイクロ流路4の内面に沿って流れる筒状液膜流と、二酸化炭素が中央部を流れる状態の中央ガス流からなるパイプフローを形成するように設定される。
【0054】
このように、液体原料である水に対し、気体原料である二酸化炭素でパイプフローを形成させることによって、二酸化炭素が飽和状態で溶け込んだ水を強制的に光触媒の層5の表面近傍に局在させてマイクロ流路4を層流状態で通過させて、光触媒反応を行うことができる。
【0055】
更に、二酸化炭素が光触媒の層5の近傍で水と接触することになるので、水中に溶け込んだ二酸化炭素が光触媒反応の進行よって消費されても、常に前記中央ガス流から二酸化炭素が供給され続ける。したがって、前記水の筒状液膜流中に溶解した二酸化炭素濃度を、マイクロ流路4の全長に渡って常に飽和状態で一定に保つことが可能となり、当該光触媒反応を高効率で進行させることができる。
【0056】
[二酸化炭素をパイプフローでメタノールとして固定化した具体例]
用いた二酸化炭素固定化装置1は、マイクロ流路4の深さが40μm、幅が100μm、長さが200mmであり、紫外発光ダイオード19の主波長は365nm、出力は450mWである。液体原料は純水を用いた。また、光触媒として、二酸化チタン(TiO)と、助触媒として白金を担持させた二酸化チタン(TiO/Pt)の2種類について行った。
【0057】
純水の流速を10μL/min(マイクロリットル/分)に設定し、二酸化炭素の流速を調整して、前記マイクロ流路4内において、図1に示すようなパイプフローを形成させ、前記紫外発光ダイオード19による光照射を行った。二酸化炭素の流速(μL/min)を、0(パイプフローを形成しない流れ)、50、100、150、200に設定し、取り出し口13から取り出したそれぞれの反応物をガスクロマトグラフィーに供し、生成物メタノールの生成量(濃度mM)を測定した。
【0058】
図8は、前記測定結果を示したものである。横軸は二酸化炭素の流速(μL/min)、縦軸はメタノールの収率(濃度mM)である。ところで、液体の流速(μL/min)を一定のままでパイプフローを形成すると、気体の流速が速くなると液膜の厚みは小さくなる。従って、パイプフローにおいては、気体の流速が速くなるにつれて液体のマイクロ流路内での滞留時間が次第に短くなる関係にある。
【0059】
図9は前記滞留時間の長短の差の影響が出ないようにするために、単位時間当たりの生成量にして表したものである。すなわち、図9においては、横軸は二酸化炭素の流速(μl/min)、縦軸は単位時間当たりのメタノール収率(mM/sec)として表した。
図9から、パイプフローを形成して当該光触媒反応を進行させることにより、単位時間当たりのメタノールの収率が高くなり、効率よく反応が行われていることが理解できる。すなわち、当該光触媒反応によるメタノールの生成量を、効果的に増やすことができた。
【0060】
反応液のマイクロ流路内への滞留時間は、LEVYによるパイプフローの気液間運動量交換のモデルを用いて計算することができる。この計算によると、二酸化炭素の流速が0である場合の反応液のマイクロ流路内での滞留時間は26.3秒、二酸化炭素の流速が50μL/minである場合は9.3秒、100μL/minでは5.3秒、150μL/minでは4.1秒、200μL/minでは3.6秒である。
【0061】
[パイプフローと助触媒の効果との関係]
次に、前記メタノール生成の光触媒反応を、パイプフローを形成して進行させることにより、助触媒の効果が薄れること、即ちパイプフローは助触媒による触媒活性の向上を代替できる可能性があることについて説明する。
【0062】
図10は、図9においてパイプフローを形成していない二酸化炭素の流速が0の部分を除外し、該図9を、縦軸を白金助触媒を用いた場合(TiO/Pt)の白金助触媒を用いない場合(TiO)に対する収率の比に変えて書き直したものである。すなわち、縦軸は助触媒の効果を示している。図10には、助触媒の効果は最大で1.2倍程度であることが示されている。
【0063】
一方、表1は、気体を注入せず、即ちパイプフローを形成しないで、二酸化炭素が飽和した純水のみをマイクロ流路に供給して光触媒反応を進行させ、各触媒に対してメタノールの収率(濃度mM)を測定した結果を示したものである。参考に、バッチ式反応装置の測定結果を併記した。
【0064】
【表1】

【0065】
表1において、白金助触媒を用いた場合(TiO/Pt)の収率は2.4mMであり、一方、白金助触媒を用いない場合(TiO)の収率は0.09mMであり、助触媒の効果は20倍以上になっている。
【0066】
以上から、パイプフローを形成した場合の助触媒の効果は「1.2倍程度」であり、パイプフローを形成しない場合の助触媒の効果「20倍以上」に比べて格段に小さくなっていることが言える。すなわち、パイプフローは助触媒による触媒活性の向上を代替できる可能性があると言える。
【0067】
尚、図8及び図9において、二酸化炭素の流速が50μL/minのところは、パイプフローが完全な形態にはならず、気体と液体が交互に流れるスラグフローの状態になっている。このスラグフロー部分では、白金助触媒を用いた場合(TiO/Pt)の収率は白金助触媒を用いない場合(TiO)の収率より低くなっており、助触媒が触媒活性に対してマイナスの作用をしている結果になっている。その理由は定かでないが、スラグフローがこのような結果をもたらしているものと考えられる。
【0068】
ここで、光触媒反応は逆反応を伴う反応であるため、二酸化炭素と反応して生成した蟻酸、ホルムアルデヒド、メタノール、およびメタンが反応系内(水の筒状液膜流中)に存在すると、還元反応の逆反応である酸化反応により、それらが二酸化炭素に戻る反応が起こる。しかし、前記パイプフローが形成されていると、前記水中で二酸化炭素と反応して生成した蟻酸、ホルムアルデヒド、メタノール、およびメタンのうち、蒸気圧が高く、液体原料である水への溶解度が低いメタンは前記パイプフローの中央ガス流中へと移動しやすい。
【0069】
このように、生成したメタンが反応系内(水の筒状液膜流中)から中央ガス流中へと抜けることによって、一旦生成したメタンの光触媒による逆反応が防止され、蒸気圧が高いメタンを効率よく得ることが可能となる。
【0070】
また、生成したメタノールは水への溶解度が高いので水の筒状液膜流中に残り易く、生成物として水中から取り出されるが、蒸気圧も高いので中央ガス流中へも移動し、前述のメタンの場合と同様に中央ガス流中に移動したメタノール分については前記逆反応が防止され、該メタノールが高効率に生成され得る。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、光触媒を用いた二酸化炭素の固定化装置および二酸化炭素の固定化方法として有効である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明に係る二酸化炭素固定化装置における反応を説明する図である。
【図2】本発明に係る二酸化炭素固定化装置にいて、液体原料として水を用いた場合の反応を説明する図である。
【図3】実施例1に係る二酸化炭素固定化装置を示す斜視図である。
【図4】図3のI−I断面図である。
【図5】図4のII−II断面のA部の拡大図であり、マイクロ流路中におけるパイプフロー状態を示す図である。
【図6】図4のIII−III断面図である。
【図7】光触媒の層が設けられたマイクロ流路の他の例である。
【図8】二酸化炭素の流速(μL/min)に対するメタノールの収率(濃度mM)の測定結果を示す図である。
【図9】図8を、液体のマイクロ流路内での滞留時間の長短の差の影響が出ないようにするために、縦軸を単位時間当たりの生成量にして書き直した図である。
【図10】図9においてパイプフローを形成していない二酸化炭素の流速が0の部分を除外して、縦軸を白金助触媒を用いた場合(TiO/Pt)の白金助触媒を用いない場合(TiO)に対する収率の比に変えて書き直した図である。
【符号の説明】
【0073】
1 二酸化炭素固定化装置、 2 基板、 3 天板、
4 マイクロ流路、 5 光触媒層、 6 溝、
8 光照射装置、 10 マイクロ反応器、
11 第1の供給口(二酸化炭素の供給口)、
12 第2の供給口(液体原料の供給口)、
13 取り出し口、 14、15 マイクロチューブ、
16 気体原料用シリンジポンプ(気体原料送り込み手段)、
17 液体原料用シリンジポンプ(液体原料送り込み手段)、
18 チューブコネクタ、 19 紫外発光ダイオード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応原料として気体原料と液体原料とが流通されるマイクロ流路を有するマイクロ反応器と、
前記マイクロ流路に気体原料を送り込む気体原料送り込み手段と、
前記マイクロ流路に液体原料を送り込む液体原料送り込み手段と、
前記マイクロ流路の内面に設けられた光触媒の層と、を備え、
前記気体原料は二酸化炭素であり、前記液体原料は二酸化炭素と反応して有機化合物を生成し得る原料であり、
前記気体原料送り込み手段および液体原料送り込み手段は、前記液体原料が前記マイクロ流路の内面に沿って流れ、二酸化炭素が中央部を流れる状態のパイプフローを形成可能に構成されていることを特徴とする、二酸化炭素の固定化装置。
【請求項2】
請求項1に記載された二酸化炭素の固定化装置において、前記光触媒は二酸化チタンであることを特徴とする、二酸化炭素の固定化装置。
【請求項3】
請求項2に記載された二酸化炭素の固定化装置において、前記二酸化チタンに、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、白金、銅、銀、および金のいずれか1種の金属を助触媒として担持させたことを特徴とする、二酸化炭素の固定化装置。
【請求項4】
マイクロ流路の内面に光触媒の層を有するマイクロ反応器の当該マイクロ流路に気体原料として二酸化炭素を、液体原料として前記二酸化炭素と反応して有機化合物を生成し得る原料を送り込み、
マイクロ流路内で前記液体原料が該マイクロ流路の内面に沿って流れ、二酸化炭素が中央部を流れる状態のパイプフローを形成させて光触媒反応を進行させることにより二酸化炭素から前記有機化合物を生成させて二酸化炭素を固定化することを特徴とする二酸化炭素の固定化方法。
【請求項5】
請求項4に記載された二酸化炭素の固定化方法において、前記液体原料は水であり、二酸化炭素還元生成物として蟻酸、ホルムアルデヒド、メタンのうち少なくとも1種の化合物を生成させることを特徴とする、二酸化炭素の固定化方法。
【請求項6】
請求項4に記載された二酸化炭素の固定化方法において、前記液体原料は水であり、二酸化炭素還元生成物としてメタノールを生成させることを特徴とする、二酸化炭素の固定化方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−29811(P2009−29811A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−193726(P2008−193726)
【出願日】平成20年7月28日(2008.7.28)
【分割の表示】特願2008−84599(P2008−84599)の分割
【原出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】