説明

付加反応硬化型シリコーンゴム組成物及びその硬化物で封止された半導体装置

【課題】良好なゴム性能及び優れた電気絶縁性を有しながら、高い熱伝導率を有する付加反応硬化型シリコーンゴム組成物を提供する。
【解決手段】下記(A)〜(D)成分を含む付加反応硬化型シリコーンゴム組成物。
(A)一分子中に少なくとも2個のアルケニル基を含有するジオルガノポリシロキサン、
(B)ケイ素原子に結合する水素原子を一分子中に少なくとも2個含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(C)白金族金属系触媒、及び
(D)黒鉛化処理後に結晶構造に欠陥を生じさせた炭素繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、付加反応硬化型シリコーンゴム組成物及びその硬化物で封止された半導体装置に関し、詳しくは、優れた耐熱性、機械的特性、接着性等の特性を有するシリコーンゴム弾性体を形成できる、炭素繊維が充填された付加反応硬化型の高熱伝導性シリコーンゴム組成物及びその硬化物で封止された半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、半導体素子などの電子部品の高性能化、高密度化により、その発熱量が増大する傾向にあり、そのため、高い熱伝導性を有する接着剤が求められている。従来、例えば、熱伝導性シリコーンゴム接着剤に伝熱性を付与する場合、銀、銅、アルミニウムなどの熱伝導率の高い金属や、アルミナ、シリカ、酸化亜鉛などがフィラーとして用いられてきた。また、新たな高熱伝導フィラーとして、炭素繊維やカーボンナノチューブ、窒化ホウ素、窒化珪素、窒化アルミニウムなどの研究も行われている(特許文献1〜6)。
【0003】
炭素繊維は、その軸方向の熱伝導率が、アルミニウム、アルミナ、シリカなどよりも高く、更なる高熱伝導性フィラーとしての可能性を有している。しかし、一般的に炭素繊維は、その結晶構造により、シリコーン樹脂との濡れ性が悪いため、炭素繊維をフィラーとして添加した熱伝導性シリコーンゴム接着剤は、熱伝導率や接着性の点において問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭58−218711号公報
【特許文献2】特開平5−295263号公報
【特許文献3】特開平8−12889号公報
【特許文献4】特開平10−212414号公報
【特許文献5】特開平11−307700号公報
【特許文献6】特開2000−80280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、優れた伝熱性を有しながら、高い接着力も保持した高熱伝導性の付加反応硬化型シリコーンゴム組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため、鋭意検討した結果、黒鉛化処理された炭素繊維を高温で焼成処理して結晶構造に欠陥を生じさせ、その欠陥によりシリコーン樹脂との濡れ性を向上させることによって、優れた伝熱性を有しながら接着力も保持した高熱伝導性の炭素繊維が充填された付加反応硬化型シリコーンゴム組成物が得られることを見出し、かかる知見に基づき、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の付加反応硬化型シリコーンゴム組成物は、 以下の(A)〜(D)成分、
(A)一分子中に少なくとも2個のアルケニル基を含有するジオルガノポリシロキサン、
(B)ケイ素原子に結合する水素原子を一分子中に少なくとも2個含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(C)白金族金属系触媒、及び
(D)黒鉛化処理後に結晶構造に欠陥を生じさせた炭素繊維、
を含む組成物である。
さらに、本発明は、前記付加反応硬化型シリコーンゴム組成物の硬化物で封止された半導体装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の付加反応硬化型シリコーンゴム組成物によれば、接着性に優れ、その硬化物は、良好なゴム性能(硬さ、引っ張り強さ、伸び等)を有すると共に、優れた電気絶縁性及び高い熱伝導率を有するため半導体用の封止剤として好適な組成物を提供すると共に、放熱特性に優れる半導体装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
前述したように、本発明の付加反応硬化型シリコーンゴム組成物は、前記(A)〜(D)成分を必須成分とする。まず、これらの成分について説明する。
(A)一分子中に少なくとも2個のアルケニル基を含有するジオルガノポリシロキサン
(A)成分のアルケニル基含有ジオルガノポリシロキサンは、一分子中に少なくとも2個の、ケイ素原子に結合したアルケニル基を含有するもので、本発明の組成物のベースポリマーとして使用される。このアルケニル基含有ジオルガノポリシロキサンは、一般的には主鎖部分が基本的にジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基で封鎖された直鎖状のものであるが、これは分子構造の一部に分岐状の構造を含んでいてもよく、また全体が環状体であってもよい。中でも、硬化物の機械的強度等の物性の点から直鎖状のジオルガノポリシロキサンが好ましい。該アルケニル基は、分子鎖の両末端にのみに存在していても、分子鎖の途中のみに存在していても、或いは分子鎖の両末端及び分子鎖の途中に存在していてもよい。
【0009】
(A)成分のアルケニル基含有ジオルガノポリシロキサンの代表例としては、例えば、下記一般式(1):
【0010】
【化1】

(式中、Rは独立に脂肪族不飽和結合を含有しない非置換又は置換の1価炭化水素基であり、Xはアルケニル基であり、Yはアルケニル基又はRであり、nは0又は1以上の整数であり、mは0又は1以上の整数であり、かつ分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合したアルケニル基を有する。)で表されるジオルガノポリシロキサンが挙げられる。
【0011】
一般式(1)において、Rの脂肪族不飽和結合を含有しない非置換又は置換の1価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニリル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基等のアラルキル基;並びにこれらの基の炭素原子に結合した水素原子の少なくとも一部がフッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子、シアノ基、アミノ基等で置換された基、例えば、クロロメチル基、2−ブロモエチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、クロロフェニル基、フルオロフェニル基、シアノエチル基、3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシル基等の、ハロゲン置換アルキル基、シアノ置換アルキル基、ハロゲン置換アリール基などが挙げられる。代表的なRは炭素原子数が1〜10、特に1〜6のものであり、好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等の炭素原子数1〜3の非置換又は置換のアルキル基;及びフェニル基であり、特に好ましくはメチル基、フェニル基である。
【0012】
一般式(1)において、Xのアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基等の通常炭素原子数2〜8程度のものが挙げられ、中でも、ビニル基、アリル基等の低級アルケニル基が好ましく、特にビニル基が好ましい。
【0013】
一般式(1)において、nは0又は1以上の整数であり、mは0又は1以上の整数である。また、n及びmは、10≦n+m≦10,000で、かつ0≦m/(m+n)≦0.2を満たす整数であるのが好ましく、特に50≦n+m≦2,000で、かつ0≦m/(n+m)≦0.05を満足する整数であるのが好ましい。
Yはアルケニル基又はRであり、このアルケニル基としては前記したXで例示したものと同じものが挙げられ、またRは前記と同じ意味を示すものであるが、分子鎖両末端のケイ素原子に結合する置換基としてのYは、いずれもアルケニル基であることが好ましい。
また、このアルケニル基含有ジオルガノポリシロキサンは、25℃における粘度が10〜1,000,000cP(センチポイズ)、特に100〜500,000cP程度のものが好ましい。
このアルケニル基含有ジオルガノポリシロキサンは、分子構造や重合度の異なる2種以上を併用してもよい。
【0014】
(B)ケイ素原子に結合する水素原子を一分子中に少なくとも2個含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、一分子中に少なくとも2個、好ましくは3個以上のケイ素原子に結合する水素原子(即ち、SiH基)を含有するもので、架橋剤として使用される。このオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、直鎖状、分岐状、環状、或いは三次元網状構造の樹脂状物のいずれでもよい。
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの代表例としては、例えば、下記平均組成式(2):
SiO(4−a−b)/2 (2)
(式中、Rは独立に脂肪族不飽和結合を含有しない非置換又は置換の1価炭化水素基であり、a及びbは、0<a<2、0.7≦b≦2 かつ 0.8≦a+b≦3、好ましくは0.001≦a≦1.2、0.8≦b≦2 かつ 1≦a+b≦2.7、より好ましくは0.01≦a≦1、1.5≦b≦2 かつ 1.8≦a+b≦2.4を満足する数である。)で表わされるオルガノハイドロジェンポリシロキサンが挙げられる。
【0015】
平均組成式(2)において、Rの脂肪族不飽和結合を含有しない非置換又は置換の1価炭化水素基としては、前記一般式(1)のRとして例示したものと同じものが挙げられる。代表的なRは炭素原子数が1〜10、特に炭素原子数が1〜7のものであり、好ましくはメチル基等の炭素原子数1〜3の低級アルキル基;フェニル基;及び3,3,3−トリフルオロプロピル基であり、特に好ましくはメチル基、フェニル基である。このようなオルガノハイドロジェンポリシロキサンの例としては、例えば、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7−テトラメチルテトラシクロシロキサン、1,3,5,7,8−ペンタメチルぺンタシクロシロキサン等のシロキサンオリゴマー;分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端シラノール基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端シラノール基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体等;R(H)SiO1/2単位とSiO4/2単位からなり、任意にRSiO1/2単位、RSiO2/2単位、R(H)SiO2/2単位、(H)SiO3/2単位又はRSiO3/2単位を含み得るシリコーンレジン(但し、式中、Rは前記のRとして例示した非置換又は置換の1価炭化水素基と同様のものである。)等が挙げられる。更には下記式:
【0016】
【化2】

(kは1〜200の整数)


(iは0〜100の整数、jは1〜100の整数)

(i、jは上記と同じ、rは1〜100の整数)
【0017】
【化3】

(i、rは上記と同じ、qは2以上の整数)

(i、rは上記と同じ、sは0以上の整数)

(i、rは上記と同じ、qは2以上の整数)

(i、s、rは上記と同じ)
等で表されるものが挙げられる。この(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、通常、25℃における粘度が0.2〜1000cP、特に0.5〜500cP程度のものが、好適に使用される。
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、分子構造や重合度の異なる2種以上を併用してもよい。
【0018】
(B)成分の使用量は、(A)成分のアルケニル基含有ジオルガノポリシロキサン中のアルケニル基1モル当たり、(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサン中のケイ素原子に結合した水素原子(即ち、SiH基)が、通常0.5〜5モルとなるような量、好ましくは0.5〜2.5モルとなるような量である。
【0019】
(C)白金族金属系触媒
(C)成分の白金族金属系触媒は、前記の(A)成分のアルケニル基と(B)成分のSiH基との付加反応(ヒドロシリル化反応)を促進するための触媒である。(C)成分の白金族金属系触媒としては、周知のヒドロシリル化反応用触媒が使用できる。その具体例としては、例えば、白金(白金黒を含む)、ロジウム、パラジウム等の白金族金属単体;HPtCl・nHO、HPtCl・nHO、NaHPtCl・nHO、KHPtCl・nHO、NaPtCl・nHO、KPtCl・nHO、PtCl・nHO、PtCl、NaHPtCl・nHO、(但し、式中、nは0〜6の整数であり、好ましくは0又は6である)等の塩化白金、塩化白金酸及び塩化白金酸塩;アルコール変性塩化白金酸(米国特許第3,220,972号明細書参照);塩化白金酸とオレフィンとのコンプレックス(米国特許第3,159,601号明細書、同第3,159,662号明細書、同第3,775,452号明細書参照);白金黒、パラジウム等の白金族金属をアルミナ、シリカ、カーボン等の担体に担持させたもの;ロジウム−オレフィンコンプレックス;クロロトリス(トリフェニルフォスフィン)ロジウム(ウィルキンソン触媒);塩化白金、塩化白金酸又は塩化白金酸塩とビニル基含有シロキサン、特にビニル基含有環状シロキサンとのコンプレックス等が挙げられる。
(C)成分の使用量は、所謂触媒量でよく、通常、(A)成分及び(B)成分の合計量に対し、白金族金属の重量換算で、0.1〜1000ppm、特に0.5〜500ppm程度である。
【0020】
(D)黒鉛化処理後に結晶構造に欠陥を生じさせた炭素繊維
(D)成分の炭素繊維は、伝熱性を付与するために添加される。本発明に用いられる(D)成分の炭素繊維は、PAN系、ピッチ系のどちらでもよく、原料繊維を前処理又は不融化処理した後、焼成処理により炭化、黒鉛化された通常の炭素繊維を結晶構造に欠陥を生じさせたものである。結晶構造に欠陥を生じさせることにより、(A)成分、(B)成分のオルガノポリシロキサンとの濡れ性(親和性)が著しく向上し、熱伝導性や接着性が優れたものとなる。
この炭素繊維の繊維長さは、特に制限されないが5μm〜1000μmであることが好ましく、特に好ましくは10μm〜500μmである。
【0021】
黒鉛化処理された炭素繊維に結晶構造に欠陥を生じさせる方法としては、400〜500℃で焼成処理することが好ましい。焼成時間は8時間以上、特に8時間〜24時間とするのが好ましい。そして、焼成処理後はなるべく速やかに、好ましくは24時間以内に、(A)成分のアルケニル基含有ジオルガノポリシロキサンに混練りするのが望ましい。
(D)成分の使用量は、通常、(A)成分100質量部に対して1〜500質量部、好ましくは、5〜100質量部である。
【0022】
本発明の組成物には、上記(A)〜(D)成分に加えて、必要に応じて、以下の(E)成分、(F)成分、その他の任意成分を添加してもよい。
(E)高熱伝導性フィラー
(E)成分の高熱伝導性フィラーは、(A)〜(D)成分を含有する本発明の組成物に、必要に応じて配合される任意成分であり、より高熱伝導性を付与する成分である。(E)成分の高熱伝導性フィラーとしては、熱伝導率が0.4187W/(m・K)以上、特に4.187W/(m・K)以上のものが好ましく、例えば、アルミナ粉、窒化ホウ素粉、窒化アルミ粉、窒化ケイ素粉等のセラミックス系フィラー;アルミ粉、銀粉、銅粉、ニッケル粉等の金属粉等が挙げられる。(E)成分の使用量は、(A)成分のアルケニル基含有ジオルガノポリシロキサン100重量部に対して、10〜2000重量部が好ましく、特に好ましくは20〜1500重量部である。
【0023】
(F)表面処理剤
(D)成分や(E)成分の分散性等をより向上させるため、(F)成分として、有機官能基を有する有機ケイ素化合物などの表面処理剤を添加することができる。
ここで、有機官能基を有する有機ケイ素化合物としては、具体的に、アルコキシ基を有するシランカップリング剤や加水分解性基を有するシラン類を挙げることができる。該シランカップリング剤としては、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、トリメトキシシリルプロピルナジック酸無水物を挙げることができる。
一方、加水分解性基を有するシラン類としては、エチルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン類を挙げることができる。
また、下記一般式(3):
(HO)Si(OSiH(OR))Si(OR (3)
(式中、nは0≦n≦100の整数、Rは独立に非置換又は低級アルコキシ置換のアルキル基である。)で表される、トリアルコキシモノハイドロジェンシランも使用することができる。一般式(3)において、Rの非置換又は低級アルコキシ置換のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、メトキシメチル基、メトキシエチル基、エトキシメチル基、エトキシエチル基等の、通常炭素数1〜12、好ましくは炭素数1〜6程度のもの等が挙げられる。
【0024】
(F)成分による(D)成分や(E)成分への表面処理方法としては、公知の湿式処理法又は乾式処理法、インテグラル法を使用することができる。
【0025】
(F)表面処理剤の使用量は、使用する(D)炭素繊維又は/及び(E)高熱伝導性フィラーの比表面積やその他の性状に合わせて適宜調節できるが、通常、(D)炭素繊維と(E)高熱伝導フィラー粉末の合計100重量部当たり、0.1〜20重量部程度である。
【0026】
その他の添加剤
本発明の組成物には、前記(A)〜(F)成分以外に、必要に応じて、通常使用されている添加剤を添加することができる。該添加剤としては、例えば、ヒュームドシリカ、ヒュームド二酸化チタン等の補強性無機フィラー;けい酸カルシウム、二酸化チタン、酸化第二鉄、カーボンブラック等の非補強性無機フィラー等が挙げられる。これらの無機フィラーの添加量は、(A)〜(D)成分の合計量100重量部当たり、通常0〜200重量部である。また、後述するように、特に組成物を2液型で使用する場合は、アセチレンアルコール等の硬化抑制剤を添加することができる。更に、組成物の接着性を向上する目的で、前記成分以外にエポキシ基含有ポリシロキサン化合物やエステルシロキサン化合物を添加することができる。
【0027】
本発明の組成物は、基本的には、前記(A)〜(D)成分及び必要に応じて前記(E)成分及び/又は(F)成分及び/又は添加剤成分を混合又は混練することにより製造される。この場合、通常の付加硬化型シリコーンゴム組成物と同様に、例えば、(A)成分の一部、(D)成分及び(E)成分及び/又は必要に応じて(F)成分及び/又は無機フィラー(添加剤として配合。以下同様)と、(A)成分の残部及び(B)成分というように、前記の成分を2液に分け、使用時にこれら2液を混合して硬化させる所謂2液型の組成物としてもよい。また、(A)〜(D)成分と、必要ならば(E)成分及び/又は(F)成分及び/又は無機フィラーとを少量の硬化抑制剤と共に混合又は混練して所謂1液型の組成物としてもよい。本発明の硬化物は、このようなシリコーンゴム組成物を硬化して得られる。硬化条件としては、公知の付加反応硬化型シリコーンゴム組成物と同様でよい。
【0028】
こうして得られる本発明のシリコーンゴム組成物の硬化物は、高熱伝導性、優れた接着性を示す。本発明の硬化物は、これらの特性を生かして、電気・電子部品における放熱シート、電気絶縁シート、半導体素子の封止剤、接着剤、コーティング剤、ポッティング剤等として利用できる。また、本発明の半導体装置は、本発明のシリコーンゴム組成物を用いて、その硬化物により、半導体を封止してなるものである。本発明のシリコーンゴム組成物を用いて、半導体を封止する態様は特に制限されない。
【実施例】
【0029】
以下、実施例及び比較例を用いて、本発明を詳細に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0030】
(実施例1)
(A)成分として
下記式:
【化4】

(式中、nはこのシロキサンの25℃における粘度が2500cPとなるような数である。)で表されるビニル基含有直鎖状ジメチルポリシロキサン100重量部に、(E)成分として、平均粒径0.3μmのJIS K 1410の1種に規定される純度99.5wt%以上の酸化亜鉛(三井金属社製)100重量部、(F)成分として、下記式:
【化5】

(式中、Etはエチル基を示す。)で表される化合物3重量部を、プラネタリーミキサーを使用して160℃で3時間混練りし、3本ロールで混練した。
次に、この混練物に、(D)成分として、24時間以内に400℃で8時間焼成した炭素繊維(ラヒーマ1−A(帝人社製))を20重量部、(E)成分としてアルミニウム粉末(AMX−0217 東洋アルミニウム社製)を575重量部、(F)成分として表面処理剤(KBM−3103 信越化学工業社製)を6.6重量部加え、プラネタリーミキサー内で70℃2時間混練りし、3本ロールで混練りした。
その後、プラネタリーミキサー内で、(C)成分として、塩化白金酸のオクチルアルコール変性溶液(白金金属としての含有量:2重量%)0.3重量部加え混練り後、更に硬化抑制剤(エチニル50)を0.3重量部加えて混練りを行った。更に、(B)成分としてメチルハイドロジェンポリシロキサン(SiH基の含有量:0.7モル/100g)を加え混練り後、接着助剤として式
【0031】
【化6】

で表される化合物を0.3重量部で添加して混練し、付加反応硬化型シリコーンゴム組成物を製造した。この組成物の粘度及び下記試験条件で硬化させた時の、硬化物の外観、硬化物のゴム物性(硬さ)、熱伝導率、接着力を下記試験方法に従って測定した。その結果を表1に示す。
【0032】
(比較例1)
実施例1において、焼成処理をした(D)成分の代わりに、焼成処理を行わない(D)成分を用いて同様の操作を行い、付加反応硬化型シリコーンゴム組成物を製造した。
【0033】
(比較例2)
実施例1において、(D)成分の炭素繊維を用いずに、アルミニウム粉末を600重量部として同様の操作を行い、付加反応硬化型シリコーンゴム組成物を製造した。なお、このときの組成物中に占める高熱伝導性フィラー(アルミニウム粉末)の充填量は、体積比で実施例1と同じである。
【0034】
[特性評価]
(粘度)
前記各付加反応硬化型シリコーンゴム組成物の粘度の測定を測定した。その測定には、東機産業社製のTVE−33H形粘度計を使用した。使用したコーンプレートは、3°(コーン角度)×R9.7(コーン半径)であり、回転速度は10rpmに設定した。また、測定温度は23℃とした。
【0035】
(硬化物の外観)
前記各付加反応硬化型シリコーンゴム組成物を150℃で4時間加熱して硬化物を得た。この硬化物の硬化状態(発泡の有無、フィラーの分散状態等)を目視で調べた。
【0036】
(硬化物のゴム物性)
前記各付加反応硬化型シリコーンゴム組成物を150mm×100mm×2mmの金型に流し込み、これを真空脱泡した後、150℃で4時間、加熱してシート状の硬化物を得た。この硬化物について、JIS K 6301に準じてゴム物性(硬さ)を測定した。なお、硬さは、スプリング式硬さ試験機A型を使用して測定した。
【0037】
(熱伝導率)
前記各付加反応硬化型シリコーンゴム組成物の熱伝導率について、JIS R 1611に準拠した、レーザーフラッシュ法(LFA 447 Nanoflash ネッチゲレイデバウ社製)を用いて測定した。まず、直径1cm、厚さ1mmのアルミ板2枚の間に、異なる厚みとなるように上記付加反応硬化型シリコーンゴム組成物を挟み込んだ複数の試験片を準備し、150℃で4時間加熱して硬化した。次いで、上記試験片全体をカーボンブラックでコーティングし、それらを熱拡散係数測定用の試験片として、各硬化物の厚みでの熱拡散係数(mm/s)を測定し、次式より各膜厚における熱伝導率(W/(m・K))を算出した。上記各熱伝導率をそれぞれ測定した硬化物の各厚みで割って得られた商を、各膜厚での熱抵抗値(mmK/W)とした。上記各熱抵抗値を縦軸とし、各試験片の硬化物の厚みを横軸としてプロットした。そして、その傾きの逆数をその付加反応硬化型シリコーンゴム組成物の熱伝導率とした。
【0038】
熱伝導率=密度×比熱×熱拡散定数
【0039】
(接着力)
前記各付加反応硬化型シリコーンゴム組成物の接着力を評価した。まず、得られた上記組成物を電気・電子部品に用いられる、150mm×100mm×1mmのニッケルメッキ基板に塗布し、これに直径0.2mmとなるようにジルコニアボールを数個加え、その上から5mm×5mmのSiチップを載せ、軽く押した後、150℃で4時間加熱して、硬化物を得た。
次いで、得られた硬化物について、これを基板から剥ぎ取る際に、凝集破壊(Siチップと基板間の硬化物が断面で破壊したもの)の部分と界面剥離(硬化物と基板又はSiチップとの接着界面で破壊したもの)の部分との割合(面積比)を観察して、凝集破壊率を求め、接着力を評価した。なお、凝集破壊率は、破壊面全体の面積に対する凝集破壊の割合をいう。
接着性の評価基準:
○:非常に強固に接着(凝集破壊率が80%以上)
△:良好に接着(凝集破壊率が50〜80%未満)
×:容易に剥離(凝集破壊率が50%未満のもので、殆ど接着しない)
【0040】
【表1】

【0041】
表1に示した結果から、本発明の硬化物は、良好なゴム物性(硬さ、粘度)を維持しつつ、高い熱伝導性と接着力を併せ持つことがわかる。それに対し、(D)成分として、焼成処理をしない炭素繊維、あるいはアルミニウム粉末を用いた比較例では、十分な熱伝導率が得られなかった。






【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(A)〜(D)成分、
(A)一分子中に少なくとも2個のアルケニル基を含有するジオルガノポリシロキサン、
(B)ケイ素原子に結合する水素原子を一分子中に少なくとも2個含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(C)白金族金属系触媒、及び
(D)黒鉛化処理後に結晶構造に欠陥を生じさせた炭素繊維、
を含むことを特徴とする付加反応硬化型シリコーンゴム組成物。
【請求項2】
(D)成分が、黒鉛化処理後、400〜500℃で焼成することにより結晶構造に欠陥を生じさせたものである請求項1に記載の付加反応硬化型シリコーンゴム組成物。
【請求項3】
(D)成分の繊維長さが5〜1000μmである請求項1又は2に記載の付加反応硬化型シリコーンゴム組成物。
【請求項4】
更に(E)成分として、高熱伝導フィラーを配合した請求項1〜3のいずれか1項に記載の付加反応硬化型シリコーンゴム組成物。
【請求項5】
更に(F)成分として、表面処理剤を配合した請求項1〜4のいずれか1項に記載の付加反応硬化型シリコーンゴム組成物。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか1項に記載の付加硬化型シリコーンゴム組成物を硬化して得られる硬化物で封止された半導体装置。

【公開番号】特開2012−171999(P2012−171999A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33102(P2011−33102)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】