位相同期発振器アレイ
【課題】小型でIC化が可能な位相同期発振器を実現すること。
【解決手段】 位相同期した複数の発振信号を得る位相同期発振器アレイにおいて、位相が180度異なる2つの信号を入力する第1入力端子と第2入力端子とを有したn個の第1差動増幅器から第n差動増幅器と、1≦k<nの全ての自然数kに対して、第k差動増幅器の第2入力端子と第k+1差動増幅器の第1入力端子との間の全て、及び、第n差動増幅器の第2入力端子と第1差動増幅器の第1入力端子との間を、それぞれ、逆相で結合するn個のフィルタFと、を設けたことを特徴とする位相同期発振器アレイ。フィルタFは、一方の差動増幅器1の第2入力端子B12と接地間に配設された第2インダクタL12と、他方の差動増幅器2の第1入力端子B21と接地間に配設された第1インダクタとL21、一方の差動増幅器1の第2入力端子と他方の差動増幅器2の第1入力端子との間を接続する第3容量C15と第3インダクタL23との直列接続回路とを有する。
【解決手段】 位相同期した複数の発振信号を得る位相同期発振器アレイにおいて、位相が180度異なる2つの信号を入力する第1入力端子と第2入力端子とを有したn個の第1差動増幅器から第n差動増幅器と、1≦k<nの全ての自然数kに対して、第k差動増幅器の第2入力端子と第k+1差動増幅器の第1入力端子との間の全て、及び、第n差動増幅器の第2入力端子と第1差動増幅器の第1入力端子との間を、それぞれ、逆相で結合するn個のフィルタFと、を設けたことを特徴とする位相同期発振器アレイ。フィルタFは、一方の差動増幅器1の第2入力端子B12と接地間に配設された第2インダクタL12と、他方の差動増幅器2の第1入力端子B21と接地間に配設された第1インダクタとL21、一方の差動増幅器1の第2入力端子と他方の差動増幅器2の第1入力端子との間を接続する第3容量C15と第3インダクタL23との直列接続回路とを有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の発振器の発振信号の位相を同期させた位相同期発振器アレイに関する。本発明は、指向性を可変制御できるフェーズドアレイアンテナの各アンテナへの搬送波の生成に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、図 (a)に示すように、独立した複数の発振器が、λ/2、λ/4線路で構成される帯域阻止フィルタによって接続される。帯域阻止フィルタにより、自己の発振器に返る反射波と隣の発振器から自己の発振器に漏洩してくる透過波との周波数が一致する周波数で、各発振器の発振周波数は安定して発振する。帯域阻止フィルタを各発振器の発振信号が漏洩することにより、全発振器は、同一周波数で同期して発振することになる。
【0003】
また、特許文献2は、図 (b)に示すように、各スレーブ発振器は、スレーブ自励制御手段から出力される電圧に比例した自励発振周波数fs で発振する。隣接するスレーブ発振器間を一方向に結合させて、隣のスレーブ発振器の出力信号を自己のスレーブ発振器に同期注入させて、隣のスレーブ発振器の出力信号の周波数と同一周波数の発振信号を得るものである。そして、最左端のスレーブ発振器に対しては、マスタ発振器による発振信号を注入し、マスタ発振器の発振周波数を変化させることで、マスタ発振器の発振信号と各スレーブ発振器の発振信号とを同期させつつ、各スレーブ発振器の出力信号を周波数変調させるものである。
【0004】
また、あるスレーブ発振器への注入信号の位相と、その信号が注入されてその信号の周波数に同期発振したスレーブ発振器の出力信号との位相差Δφは、各スレーブ発振器の自励周波数fs と注入する発振信号の周波数f0 ( マスタ発振器の発振周波数に等しい) との周波数偏差と、注入信号の振幅と自励発振信号成分の振幅及び外部品質ファクターQとによって決定される。各スレーブ発振器において、自励発振の信号レベルに対して、注入信号の信号レベルを十分に小さくして、各スレーブ発振器の出力信号のレベルを、信号が注入されても変化しないとものとし、回路の同一性から外部部品品質ファクターQを同一にできれば、上記の位相差Δφは、全てのスレーブ発振器において、同一とすることができる。その結果、各スレーブ発振器の出力信号の位相は、下流段に移行するに連れて、出力信号の位相は、Δφ、2Δφ、…、nΔφとなる。これにより、マスタ発振器の発振周波数f0 を変化させることで、位相差Δφを変化させることができ、アレイアンテナの指向性を走査することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3861155
【特許文献2】特開2002−299943
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示の技術は、帯域阻止フィルタにλ/2線路、終端抵抗、λ/2線路、2本のλ/4のスタブを用いている。このため、帯域阻止フィルタが大きくなり、同期発振器アレイを集積回路で構成することが困難である。
【0007】
また、特許文献2に開示の技術は、マスタ発振器の発振周波数により、スレーブ発振器の発振周波数及び位相が決定されるので、制御された指向性の方向と周波数との関係が、所定の関係となる。したがって、ASK、FSK,PSK,FMなどのようにブロードな周波数成分を有する変調信号を用いるレーダにおいては、各周波数成分毎に、各アンテナから出力される位相差Δφが異なるために、特許文献2の方式を用いることができない。
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するために成されたものであり、その目的は、集積回路で構成できる複数の同期発振信号を得る同期発振器アレイを実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本第1発明は、位相同期した複数の発振信号を得る位相同期発振器アレイにおいて、位相が180度異なる2つの信号を入力する第1入力端子と第2入力端子とを有したn個の第1差動増幅器から第n差動増幅器と、1≦k<nの全ての自然数kに対して、第k差動増幅器の第2入力端子と第k+1差動増幅器の第1入力端子との間の全て、及び、第n差動増幅器の第2入力端子と第1差動増幅器の第1入力端子との間を、それぞれ、逆相で結合するn個のフィルタとを設けたことを特徴とする位相同期発振器アレイである。
【0010】
上記の第1入力端子と第2入力端子とは、180度位相が異なる高周波信号が入力される差動対入力端子のことである。2つの差動増幅器の入力端子間がフィルタで接続される場合に、一方の端子が第2入力端子であり、他方の端子が第1入力端子とされるだけであるので、入力端子の第1、第2の命名は、任意のものである。フィルタで接続される2つの差動増幅器のうちの一方の差動増幅器の第2入力端子と、他方の差動増幅器の第1入力端子とは、逆相となる。したがって、一方の差動増幅器の第2入力端子が、非反転入力端子の場合には、他方の差動増幅器の第1入力端子は、反転入力端子となる。逆に、一方の差動増幅器の第2入力端子が、反転入力端子の場合には、他方の差動増幅器の第1入力端子は、非反転入力端子となる。第1入力端子と第2入力端子に入力される高周波信号により制御される差動対トランジスタを流れる電流の位相や、差動対トランジスタのコレクタ又はエミッタの端子電圧は、相互に、180度異なる。本発明では、n個の差動増幅器の入力端子が、リング状に接続される。
【0011】
このように、異なる差動増幅器の入力端子間が、順次、ループ状に、入力端子と出力端子とにおける信号の位相が180度異なるフィルタで結合される。このようにフィルタにより差動増幅器の入力端子間をループ状に結合したので、各差動増幅器は同一周波数で同期発振することができる。また、得られる発振信号の位相は、0度と180度との2種類となる。
【0012】
本第1発明では、フィルタは、入力端子と出力端子とにおける2つの信号の位相が、180度位相差を有するものであれば、任意の構成のものを用いることができる。たとえば、フィルタは、このフィルタで結合される2つの差動増幅器において、一方の差動増幅器の第2入力端子と接地間に配設された第2インダクタと、他方の差動増幅器の第1入力端子と接地間に配設された第1インダクタと、一方の差動増幅器の第2入力端子と他方の差動増幅器の第1入力端子との間を接続する第3容量と第3インダクタとの直列接続回路とを有するフィルタで構成することができる。この構成のフィルタでは、フィルタを伝搬する高周波信号は、180度の位相変移を受ける。
【0013】
また、第2発明は、位相同期した複数の発振信号を得る位相同期発振器アレイにおいて、位相が180度異なる2つの信号を入力する第1入力端子と第2入力端子とを有した偶数n個の第1差動増幅器から第n差動増幅器と、1≦k<nの全ての自然数kに対して、第k差動増幅器の第2入力端子と第k+1差動増幅器の第1入力端子との間の全て、及び、第n差動増幅器の第2入力端子と第1差動増幅器の第1入力端子との間を、それぞれ、同相で結合するフィルタとを設けたことを特徴とする位相同期発振器アレイである。
【0014】
本第2発明は、第1発明と異なり、2つの差動増幅器の入力端子を結合させるフィルタが、同相で結合させることが特徴である。他の構成は、第1発明と同一である。フィルタで接続される2つの差動増幅器のうちの一方の差動増幅器の第2入力端子と、他方の差動増幅器の第1入力端子とは、同相となる。したがって、一方の差動増幅器の第2入力端子が、非反転入力端子の場合には、他方の差動増幅器の第1入力端子も、非反転入力端子となる。逆に、一方の差動増幅器の第2入力端子が、反転入力端子の場合には、他方の差動増幅器の第1入力端子も、反転入力端子となる。第1入力端子と第2入力端子に入力される高周波信号により制御される差動対トランジスタを流れる電流の位相や、差動対トランジスタのコレクタ又はエミッタの端子電圧は、相互に、180度異なる。本発明では、偶数n個の差動増幅器の入力端子が、リング状に接続される。
【0015】
このように、異なる差動増幅器の入力端子間が、順次、ループ状に、入力端子と出力端子とにおける信号の位相が等しいフィルタで結合される。このようにフィルタにより差動増幅器の入力端子間をループ状に結合したので、各差動増幅器は同一周波数で同期発振することができる。また、得られる発振信号の位相は、0度と180度との2種類となる。
【0016】
本第2発明では、フィルタは、入力端子と出力端子とにおける2つの信号の位相が、同相となるものであれば、任意の構成のものを用いることができる。例えば、フィルタは、このフィルタで結合される2つの差動増幅器において、一方の差動増幅器の第2入力端子と接地間に配設された第2インダクタと、他方の差動増幅器の第1入力端子と接地間に配設された第1インダクタと、一方の差動増幅器の第2入力端子と他方の差動増幅器の第1入力端子との間を接続する第4容量と第5容量との直列接続回路と、第4容量と第5容量との接続点と接地間に配設された第6容量とを有するフィルタで構成することができる。この構成のフィルタでは、フィルタを伝搬する高周波信号は、位相が変位しない。
【0017】
また、第1発明及び第2発明において、第1インダクタと接地間に第1容量が配設され、第2インダクタと接地間に第2容量が配設されており、第1入力端子は抵抗と第1インダクタを介してバイアスされ、第2入力端子は抵抗と第2インダクタを介してバイアスされていることが望ましい。第1容量と第2容量とは、第1入力端子と第2入力端子を高周波信号に対しては接地する作用をする。また、第1発明及び第2発明において、差動増幅器の第1入力端子及び第2入力端子を構成するトランジスタのエミッタ/ソース回路に第7容量が設けられていても良い。この第7容量がフィルタの発振周波数を決定する一回路要素となる。また、本発明では、差動増幅器は、集積回路で構成することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、差動増幅器の2つの入力端子をフィルタで、ループ状に接続するだけで、複数の差動発振器は、位相及び周波数が同期した発振が可能となる。したがって、同期発振器アレイを集積回路で構成することが可能となり、小型のレーダ装置の実現が可能となる。また、複数の差動増幅器の入力端子をループ状に接続していることから、複数の差動増幅器の同期発振器となり、発振条件が狭い範囲に限定されるために、位相雑音を低下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の具体的な実施例1に係る位相同期発振器アレイを示した回路図。
【図2】実施例1の位相同期発振器アレイの等価回路。
【図3】実施例1に係る位相同期発振器アレイ発振装置のフィルタの等価回路。
【図4】実施例1に係る位相同期発振器アレイ発振装置の全体の接続関係を示した回路図。
【図5】実施例1に係る位相同期発振器アレイ発振装置のフィルタの回路定数を示した等価回路。
【図6】実施例1に係る位相同期発振器アレイ発振装置のフィルタの伝送特性と位相特定を示した特性図。
【図7】実施例1に係る位相同期発振器アレイ発振装置の発振特性を示した波形図。
【図8】実施例1に係る位相同期発振器アレイ発振装置の発振信号のスペクトルを示した特性図。
【図9】実施例1に係る位相同期発振器アレイ発振装置の発振信号の位相雑音を示した特性図。
【図10】本発明の具体的な実施例2に係る位相同期発振器アレイを示した回路図。
【図11】実施例2の位相同期発振器アレイの等価回路。
【図12】実施例2に係る位相同期発振器アレイ発振装置のフィルタの等価回路。
【図13】実施例2に係る位相同期発振器アレイ発振装置のフィルタの回路定数を示した等価回路。
【図14】実施例2に係る位相同期発振器アレイ発振装置のフィルタの伝送特性と位相特定を示した特性図。
【図15】実施例2に係る位相同期発振器アレイ発振装置において第6容量の値を変化させた時の発振周波数と発振信号の利得とを示した特性図。
【図16】実施例2に係る位相同期発振器アレイ発振装置の発振特性を示した波形図。
【図17】実施例2に係る位相同期発振器アレイ発振装置の発振信号のスペクトルを示した特性図。
【図18】実施例2に係る位相同期発振器アレイ発振装置の発振信号の位相雑音を示した特性図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の具体的な実施例を図を参照しながら説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0021】
図1は、位相同期発振器アレイの一部分である第1差動増幅器1と第2差動増幅器2との接続を示した回路図、図2はフィルタの回路図である。第1差動増幅器1は、差動対トランジスタTr11、Tr12と、直列接続された電流源トランジスタTr13、Tr14を有している。また、トランジスタTr11のエミッタとトランジスタTr13のコレクタとの間には、容量C11(第7容量)と抵抗R11の並列回路が接続されており、トランジスタTr12のエミッタとトランジスタTr13のコレクタとの間には、容量C12(第7容量)と抵抗R12の並列回路が接続されている。これらの容量C11、C12は、第1差動増幅器1の発振周波数を決定する一つの回路要素となる。抵抗R13、トランジスタTr15、Tr16の直列接続回路は、電流源トランジスタTr13、Tr14との間でカレントミラー回路を構成するものであり、電流源トランジスタTr13、Tr14を流れる電流を一定に制御する作用をする。
【0022】
第2差動増幅器2についても、第1差動増幅器1と同一の回路で構成されている。すなわち、第2差動増幅器2は、差動対トランジスタTr21、Tr22と、直列接続された電流源トランジスタTr23、Tr24を有している。また、トランジスタTr21のエミッタとトランジスタTr23のコレクタとの間には、容量C21(第7容量)と抵抗R21の並列回路が接続されており、トランジスタTr22のエミッタとトランジスタTr23のコレクタとの間には、容量C22(第7容量)と抵抗R12の並列回路が接続されている。これらの容量C21、C22は、第2差動増幅器2の発振周波数を決定する一つの回路要素となる。抵抗R23、トランジスタTr25、Tr26の直列接続回路は、電流源トランジスタTr23、Tr24との間でカレントミラー回路を構成するものであり、電流源トランジスタTr23、Tr24を流れる電流を一定に制御する作用をする。
【0023】
また、第1差動増幅器1の第2入力端子である、トランジスタTr12のベース端子B12と、第2差動増幅器2の第1入力端子である、トランジスタTr21のベース端子B21との間には、第3容量C15と第3インダクタL23との直列接続回路が接続されている。また、第1差動増幅器1のトランジスタTr12のベース端子B12と接地との間には、第2インダクタL12と第2容量C14との直列接続回路が設けられ、第2差動増幅器2のトランジスタTr21のベース端子B21と接地との間には、第1インダクタL21と第1容量C23との直列接続回路が設けられている。第2入力端子であるベース端子B12と、第1入力端子であるベース端子B21とを結合するフィルタF2は、第3容量C15と第3インダクタL23との直列接続回路、第2インダクタL12と第2容量C14との直列接続回路、及び、第1インダクタL21と第1容量C23との直列接続回路による、π型のフィルタで構成されている。
【0024】
また、トランジスタTr11のベース端子B11は、抵抗R14と第1インダクタL11を介してバイアスされ、トランジスタTr12のベース端子B12は、抵抗R15と第2インダクタL12を介してバイアスされ、トランジスタTr21のベース端子B21は、抵抗R24と第1インダクタL21を介してバイアスされ、トランジスタTr22のベース端子B22は、抵抗R25と第2インダクタL22を介してバイアスされている。第1差動増幅器1の第1容量C13と第2容量C14は、それぞれ、ベース端子B11、B12に印加される高周波信号を接地にバイパスするためのものであり、それぞれ、ベース端子B11、B12に直流電圧を印加させるものである。同様に、第2差動増幅器2の第1容量C23と第2容量C24は、それぞれ、ベース端子B21、B22に印加される高周波信号を接地にバイパスするためのものであり、それぞれ、ベース端子B21、B22に直流電圧を印加させるものである。
【0025】
第1差動増幅器1では、トランジスタTr11のベース端子B11が第1入力端子、トランジスタTr12のベース端子B12が第2入力端子である。また、第1差動増幅器1のトランジスタTr11のベース端子B11が第1入力端子、トランジスタTr12のベース端子B12が第2入力端子である。
【0026】
上記の第1差動増幅器1の第2入力端子(トランジスタTr12のベース端子B12)と、第2差動増幅器2の第1入力端子(トランジスタTr21のベース端子B21)とは、フィルタFにより逆相で結合されている。したがって、第1差動増幅器1の第2入力端子(ベース端子B12)が非反転入力端子ならば、第1差動増幅器1の第1入力端子(ベース端子B11)は反転入力端子となり、第2差動増幅器2の第1入力端子(ベース端子B21)は反転入力端子となり、第2差動増幅器2の第2入力端子(ベース端子B22)は非反転入力端子となる。逆に、第1差動増幅器1の第2入力端子(ベース端子B12)が反転入力端子ならば、第1差動増幅器1の第1入力端子(ベース端子B11)は非反転入力端子となり、第2差動増幅器2の第1入力端子(ベース端子B21)は非反転入力端子となり、第2差動増幅器2の第2入力端子(ベース端子B22)は反転入力端子となる。
【0027】
子B12)と、第2差動増幅器2の第1入力端子(トランジスタTr21のベース端子B21)とは、第2フィルタにより同相で結合されている。したがって、第1差動増幅器1の第2入力端子が非反転入力端子ならば、第2差動増幅器の第1入力端子も非反転入力端子となる。逆に、第1差動増幅器1の第1入力端子が反転入力端子ならば、第2差動増幅器の第2入力端子も反転入力端子となる。
【0028】
同様に、第2差動増幅器2の第2入力端子と、図示しない次段の第3差動増幅器の第1入力端子との間には、逆相で端子間を結合する上記のフィルタFが接続されている。これらの接続が、n個の第n差動増幅器まで、繰り返される。そして、第n差動増幅器の第2入力端子と、第1差動増幅器1の第1入力端子(トランジスタTr11のベース端子B11)との間に、上記のフィルタFが接続されている。フィルタFは、そのフィルタの入力端子と出力端子とでは、信号が逆相となるので、第n差動増幅器の第2入力端子は非反転入力端子又は反転入力端子ならば、第1差動増幅器の第1入力端子は反転入力端子又は非反転入力端子となる。
【0029】
図4に、n個の差動増幅器の2つの入力端子を、フィルタFでループ状に接続した回路を示す。図4において、端子aが第1入力端子、端子bが第2入力端子である。第k差動増幅器の第2入力端子bと、隣接する第k+1差動増幅器の第1入力端子aとが、フィルタFで逆相(180度位相差)に結合されている。この場合には、全ての差動増幅器において、第1入力端子aは反転入力端子となり、第2入力端子bは非反転入力端子となる。
【0030】
フィルタFの等価回路は、図2に示すものとなる。次に、フィルタFの動作について説明する。第1差動増幅器1のトランジスタTr12を切り離し、すなわち、第2入力端子B12からトランジスタTr12側を見た入力インピーダンスZaを無限大と仮定する。第2差動増幅器2のトランジスタTr21の発振を考えると、フィルタF及びトランジスタTr21に関して、高周波信号に対する等価回路は図3のようになる。なお、第1容量C13、C23、第2容量C14、C24は、高周波信号に対してはショートであるので、図2、3の等価回路には現れていない。また、トランジスタTr21のベース端子B21とエミッタ端子間の浮遊容量C25が表現されている。図3において、容量C21(第7容量)は、トランジスタTr21のエミッタ回路に挿入された容量である。C21は、トランジスタTr21のエミッタコレクタ間に配設される容量となり、C25は、エミッタベース間の浮遊容量である。第2インダクタL12と第3容量C15と第3インダクタL23の直列接続回路と、第1インダクタL21との並列接続回路をコレクタベース間に配設されるインダクタLsとすれば、図3の等価回路は、コルピッツ発振回路となる。したがって、トランジスタTr21は、容量C21と容量C25の直列接続の容量CsのキャパシタンスをC、インダクタLsのインダクタンスをLとすれば、f=1/[2π(LC)1/]の周波数で発振する。実際には、第2差動増幅器2のトランジスタTr21のベース端子B21と、第1差動増幅器1のトランジスタTr12のベース端子B12とは、フィルタFで結合されているので、発振周波数は、他のトランジスタの入力インピーダンスの影響を受けて、上記の値から変化する。なお、フィルタFは、ベース端子間に配設される第2インダクタL12、第1インダクタL21、第3容量C15、第3インダクタL23の他、差動増幅器のトランジスタTr21のエミッタ回路に挿入された第7容量C21を含んで構成されている。
【0031】
図5は、図3の等価回路に示されたフィルタFの各回路素子の定数を示す。図6(a)に、このフィルタFの入力端子から出力端子への伝送特性のシミュレーション結果を示す。また、図6(b)に、入力端子から出力端子への位相特性のシミュレーション結果を示す。伝送損失が最小で、位相特性が180度となる周波数78.5GHzで発振することが分かる。ただし、ポートインピーダンスは200Ωである。図7(a)は、図1に示す位相同期発振器アレイの発振信号の時間特性のシミュレーション結果を示し、図7(b)は、図1に示す位相同期発振器アレイの第2差動増幅器2の第1入力端子(ベース端子B21)の電圧Vaと、第2入力端子(ベース端子B22)の電圧Vbの電圧波形のシミュレーション結果を示す。180度の位相差で、発振していることが理解される。また、図8は、第2差動増幅器2の第1入力端子(ベース端子B21)の電圧Vaの周波数スペクトルのシミュレーション結果を示す。79.31GHzの基本周波数と、その高調波が生成されていることが分かる。
【0032】
図9(a)、(b)は、差動増幅器を2個、4個、6個とした場合の第2差動増幅器2の第1入力端子(ベース端子B21)の電圧Vaの位相雑音特性を示している。図の曲線の番号は、差動増幅器の数を表している。差動増幅器の数が増加するに連れて、協調効果により、位相雑音が減少していることが理解される。
【実施例2】
【0033】
次に、他の実施例について説明する。図10は、実施例2に係る位相同期差動増幅器アレイのうちの2つの差動増幅器を示している。本実施例は、図1に示す実施例1の構成に対して、2つの差動増幅器の入力端子間を結合させるフィルタFの構成が異なるだけである。このフィルタFは、それらの入力端子間を同相で結合させるものである。図1の回路における同一構成部分には、同一の符号が付されている。
【0034】
第1差動増幅器1の第2入力端子である、トランジスタTr12のベース端子B12と、第2差動増幅器2の第1入力端子である、トランジスタTr21のベース端子B21との間には、第4容量C16と第5容量C26との直列接続回路が接続されている。また、第4容量C16と第5容量C26との接続点と接地間には、第6容量C17が配設されている。2つの差動増幅器の入力端子間に配設されるフィルタFは、このT型の容量回路と、第1差動増幅器1のトランジスタTr12のベース端子B12と接地との間に設けられた第2インダクタL12と、第2差動増幅器2のトランジスタTr21のベース端子B21と接地との間に設けられた第1インダクタL21とを有している。
【0035】
フィルタFの等価回路は、図2に示すものとなる。次に、フィルタFの動作について説明する。第1差動増幅器1のトランジスタTr12を切り離し、すなわち、第2入力端子B12からトランジスタTr12側を見た入力インピーダンスZaを無限大と仮定する。第2差動増幅器2のトランジスタTr21の発振を考えると、フィルタF及びトランジスタTr21に関して、高周波信号に対する等価回路は図12のようになる。なお、第1容量C13、C23、第2容量C14、C24は、高周波信号に対してはショートであるので、図11、図12の等価回路には現れていない。また、トランジスタTr21のベース端子B21とエミッタ端子間の浮遊容量C25が表現されている。図12において、容量C21(第7容量)は、トランジスタTr21のエミッタ回路に挿入された容量である。C21は、トランジスタTr21のエミッタコレクタ間に配設される容量となり、C25は、エミッタベース間の浮遊容量である。トランジスタTr1のコレクタベース間に配設される、第2インダクタL12、第4容量C16、第5容量C26、第6容量C17、第1インダクタL21で構成される回路のインピーダンスが誘導性のリアクタンス成分となり、その回路がインダクタLsで表されるとする。すると、図3の等価回路は、コルピッツ発振回路となる。
【0036】
したがって、トランジスタTr21は、容量C21と容量C25の直列接続の容量CsのキャパシタンスをC、インダクタLsのインダクタンスをLとすれば、f=1/[2π(LC)1/]の周波数で発振する。実際には、第2差動増幅器2のトランジスタTr21のベース端子B21と、第1差動増幅器1のトランジスタTr12のベース端子B12とは、フィルタFで結合されているので、発振周波数は、他のトランジスタの入力インピーダンスの影響を受けて、上記の値から変化する。なお、フィルタFは、ベース端子間に配設される第2インダクタL12、第1インダクタL21、第4容量C16、第5容量C26、第6容量C17の他、差動増幅器のトランジスタTr21のエミッタ回路に挿入された第7容量C21を含んで構成されている。
【0037】
第2インダクタL12と第1インダクタL21との値が等しく、第4容量C16、第5容量C26、第6容量C17の値が等しい場合には、フィルタFにおいて、図12のA点とB点の電位は同相となる。第4容量C16、第5容量C26、第6容量C17の交点C点とする。A点からC点間の回路構成は、B点からC点の回路構成と等しい。したがって、A点とB点の電位の位相は等しく、C点の電位の位相は、これらの位相と180度異なる。よって、このフィルタFは、第1差動増幅器1の第2入力端子B12と第2差動増幅器2の第1入力端子B21を、同相で結合することになる。
【0038】
実施例2の場合には、図4に示すように、複数の差動増幅器の入力端子間をフィルタFDで結合させる場合には、同相の結合となるために、第n差動増幅器の第2入力端子と第1差動増幅器1の第1入力端子とが同相である必要がある。このため、本実施例のようにフィルタFが同相で結合させる場合、すなわち、フィルタの入出力の位相差が零である場合には、差動増幅器の数nは、偶数である必要がある。
【0039】
図13は、図12の等価回路に示されたフィルタFの各回路素子の定数を示す。図14(a)に、このフィルタFの入力端子から出力端子への伝送特性のシミュレーション結果を示す。また、図14(b)に、入力端子から出力端子への位相特性のシミュレーション結果を示す。伝送損失が最小で、位相特性が0度となる周波数79GHzで発振することが分かる。ただし、ポートインピーダンスは200Ωである。
【0040】
実施例1の場合には、図5に示すように、第1インダクタL21、第2インダクタL12、第3インダクタL23の値、及び、第3容量C15の値が非常に小さくなる。しかし、実施例2の場合には、実施例1と同一発振周波数において、図13に示すように、第4容量C16、第5容量C26、第6容量C17の値を大きくで、また、それに伴い、第1インダクタL21、第2インダクタL12の値も大きくすることができる。この場合に、発振周波数を可変とする場合には、実施例1においては、第3容量C15の値を変化させ、実施例2の場合には、第6容量C17の値を変化させることになる。この値を変化させるには、容量を電圧制御のバラクタダイオードを用いることになるが、実施例2の方が実施例1に比べて容量の値が一桁程、大きくできる。したがって、実施例2の構成とすることで、第6容量C17をバラクタダイオードで構成することが可能となり、周波数を容易に変化させることができる。
【0041】
図15(a)、(b)は、第6容量C17をバラクタダイオードで構成して、その値を電圧で制御して変化させることで、発振周波数が変化することを示した特性図である。図15(a)は、差動増幅器を2つ接続した場合の位相同期発振器において、第3容量C15の値と、発振周波数との関係を示している。76.5GHz〜81.5GHzまで、変化できることが分かる。図15(b)は、第3容量C15の値と、ベース端子B21の電圧値との関係を示した特性である。
【0042】
図16(a)は、図10に示す位相同期発振器アレイの発振信号の時間特性のシミュレーション結果を示し、図16(b)は、図10に示す位相同期発振器アレイの第2差動増幅器2の第1入力端子(ベース端子B21)の電圧Vaと、第2入力端子(ベース端子B22)の電圧Vbの電圧波形のシミュレーション結果を示す。180度の位相差で、発振していることが理解される。また、図17は、第2差動増幅器2の第1入力端子(ベース端子B21)の電圧Vaの周波数スペクトルのシミュレーション結果を示す。78.93GHzの基本周波数と、その高調波が生成されていることが分かる。
【0043】
図18(a)、(b)は、差動増幅器を2個、4個、6個とした場合の第2差動増幅器2の第1入力端子(ベース端子B21)の電圧Vaの位相雑音特性を示している。図の曲線の番号は、差動増幅器の数を表している。差動増幅器の数が増加するに連れて、協調効果により、位相雑音が減少していることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、指向性を制御できるフェーズドアレイアンテナ装置のための発振器に用いることかできる。
【符号の説明】
【0045】
1…第1差動増幅器
2…第2差動増幅器
L11、L21…第1インダクタ
L12、L22…第2インダクタ
L23…第3インダクタ
C13、C23…第1容量
C14、C24…第2容量
C15…第3容量
C16…第4容量
C26…第5容量
C11、C12、C21、C22…第7容量
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の発振器の発振信号の位相を同期させた位相同期発振器アレイに関する。本発明は、指向性を可変制御できるフェーズドアレイアンテナの各アンテナへの搬送波の生成に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、図 (a)に示すように、独立した複数の発振器が、λ/2、λ/4線路で構成される帯域阻止フィルタによって接続される。帯域阻止フィルタにより、自己の発振器に返る反射波と隣の発振器から自己の発振器に漏洩してくる透過波との周波数が一致する周波数で、各発振器の発振周波数は安定して発振する。帯域阻止フィルタを各発振器の発振信号が漏洩することにより、全発振器は、同一周波数で同期して発振することになる。
【0003】
また、特許文献2は、図 (b)に示すように、各スレーブ発振器は、スレーブ自励制御手段から出力される電圧に比例した自励発振周波数fs で発振する。隣接するスレーブ発振器間を一方向に結合させて、隣のスレーブ発振器の出力信号を自己のスレーブ発振器に同期注入させて、隣のスレーブ発振器の出力信号の周波数と同一周波数の発振信号を得るものである。そして、最左端のスレーブ発振器に対しては、マスタ発振器による発振信号を注入し、マスタ発振器の発振周波数を変化させることで、マスタ発振器の発振信号と各スレーブ発振器の発振信号とを同期させつつ、各スレーブ発振器の出力信号を周波数変調させるものである。
【0004】
また、あるスレーブ発振器への注入信号の位相と、その信号が注入されてその信号の周波数に同期発振したスレーブ発振器の出力信号との位相差Δφは、各スレーブ発振器の自励周波数fs と注入する発振信号の周波数f0 ( マスタ発振器の発振周波数に等しい) との周波数偏差と、注入信号の振幅と自励発振信号成分の振幅及び外部品質ファクターQとによって決定される。各スレーブ発振器において、自励発振の信号レベルに対して、注入信号の信号レベルを十分に小さくして、各スレーブ発振器の出力信号のレベルを、信号が注入されても変化しないとものとし、回路の同一性から外部部品品質ファクターQを同一にできれば、上記の位相差Δφは、全てのスレーブ発振器において、同一とすることができる。その結果、各スレーブ発振器の出力信号の位相は、下流段に移行するに連れて、出力信号の位相は、Δφ、2Δφ、…、nΔφとなる。これにより、マスタ発振器の発振周波数f0 を変化させることで、位相差Δφを変化させることができ、アレイアンテナの指向性を走査することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3861155
【特許文献2】特開2002−299943
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示の技術は、帯域阻止フィルタにλ/2線路、終端抵抗、λ/2線路、2本のλ/4のスタブを用いている。このため、帯域阻止フィルタが大きくなり、同期発振器アレイを集積回路で構成することが困難である。
【0007】
また、特許文献2に開示の技術は、マスタ発振器の発振周波数により、スレーブ発振器の発振周波数及び位相が決定されるので、制御された指向性の方向と周波数との関係が、所定の関係となる。したがって、ASK、FSK,PSK,FMなどのようにブロードな周波数成分を有する変調信号を用いるレーダにおいては、各周波数成分毎に、各アンテナから出力される位相差Δφが異なるために、特許文献2の方式を用いることができない。
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するために成されたものであり、その目的は、集積回路で構成できる複数の同期発振信号を得る同期発振器アレイを実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本第1発明は、位相同期した複数の発振信号を得る位相同期発振器アレイにおいて、位相が180度異なる2つの信号を入力する第1入力端子と第2入力端子とを有したn個の第1差動増幅器から第n差動増幅器と、1≦k<nの全ての自然数kに対して、第k差動増幅器の第2入力端子と第k+1差動増幅器の第1入力端子との間の全て、及び、第n差動増幅器の第2入力端子と第1差動増幅器の第1入力端子との間を、それぞれ、逆相で結合するn個のフィルタとを設けたことを特徴とする位相同期発振器アレイである。
【0010】
上記の第1入力端子と第2入力端子とは、180度位相が異なる高周波信号が入力される差動対入力端子のことである。2つの差動増幅器の入力端子間がフィルタで接続される場合に、一方の端子が第2入力端子であり、他方の端子が第1入力端子とされるだけであるので、入力端子の第1、第2の命名は、任意のものである。フィルタで接続される2つの差動増幅器のうちの一方の差動増幅器の第2入力端子と、他方の差動増幅器の第1入力端子とは、逆相となる。したがって、一方の差動増幅器の第2入力端子が、非反転入力端子の場合には、他方の差動増幅器の第1入力端子は、反転入力端子となる。逆に、一方の差動増幅器の第2入力端子が、反転入力端子の場合には、他方の差動増幅器の第1入力端子は、非反転入力端子となる。第1入力端子と第2入力端子に入力される高周波信号により制御される差動対トランジスタを流れる電流の位相や、差動対トランジスタのコレクタ又はエミッタの端子電圧は、相互に、180度異なる。本発明では、n個の差動増幅器の入力端子が、リング状に接続される。
【0011】
このように、異なる差動増幅器の入力端子間が、順次、ループ状に、入力端子と出力端子とにおける信号の位相が180度異なるフィルタで結合される。このようにフィルタにより差動増幅器の入力端子間をループ状に結合したので、各差動増幅器は同一周波数で同期発振することができる。また、得られる発振信号の位相は、0度と180度との2種類となる。
【0012】
本第1発明では、フィルタは、入力端子と出力端子とにおける2つの信号の位相が、180度位相差を有するものであれば、任意の構成のものを用いることができる。たとえば、フィルタは、このフィルタで結合される2つの差動増幅器において、一方の差動増幅器の第2入力端子と接地間に配設された第2インダクタと、他方の差動増幅器の第1入力端子と接地間に配設された第1インダクタと、一方の差動増幅器の第2入力端子と他方の差動増幅器の第1入力端子との間を接続する第3容量と第3インダクタとの直列接続回路とを有するフィルタで構成することができる。この構成のフィルタでは、フィルタを伝搬する高周波信号は、180度の位相変移を受ける。
【0013】
また、第2発明は、位相同期した複数の発振信号を得る位相同期発振器アレイにおいて、位相が180度異なる2つの信号を入力する第1入力端子と第2入力端子とを有した偶数n個の第1差動増幅器から第n差動増幅器と、1≦k<nの全ての自然数kに対して、第k差動増幅器の第2入力端子と第k+1差動増幅器の第1入力端子との間の全て、及び、第n差動増幅器の第2入力端子と第1差動増幅器の第1入力端子との間を、それぞれ、同相で結合するフィルタとを設けたことを特徴とする位相同期発振器アレイである。
【0014】
本第2発明は、第1発明と異なり、2つの差動増幅器の入力端子を結合させるフィルタが、同相で結合させることが特徴である。他の構成は、第1発明と同一である。フィルタで接続される2つの差動増幅器のうちの一方の差動増幅器の第2入力端子と、他方の差動増幅器の第1入力端子とは、同相となる。したがって、一方の差動増幅器の第2入力端子が、非反転入力端子の場合には、他方の差動増幅器の第1入力端子も、非反転入力端子となる。逆に、一方の差動増幅器の第2入力端子が、反転入力端子の場合には、他方の差動増幅器の第1入力端子も、反転入力端子となる。第1入力端子と第2入力端子に入力される高周波信号により制御される差動対トランジスタを流れる電流の位相や、差動対トランジスタのコレクタ又はエミッタの端子電圧は、相互に、180度異なる。本発明では、偶数n個の差動増幅器の入力端子が、リング状に接続される。
【0015】
このように、異なる差動増幅器の入力端子間が、順次、ループ状に、入力端子と出力端子とにおける信号の位相が等しいフィルタで結合される。このようにフィルタにより差動増幅器の入力端子間をループ状に結合したので、各差動増幅器は同一周波数で同期発振することができる。また、得られる発振信号の位相は、0度と180度との2種類となる。
【0016】
本第2発明では、フィルタは、入力端子と出力端子とにおける2つの信号の位相が、同相となるものであれば、任意の構成のものを用いることができる。例えば、フィルタは、このフィルタで結合される2つの差動増幅器において、一方の差動増幅器の第2入力端子と接地間に配設された第2インダクタと、他方の差動増幅器の第1入力端子と接地間に配設された第1インダクタと、一方の差動増幅器の第2入力端子と他方の差動増幅器の第1入力端子との間を接続する第4容量と第5容量との直列接続回路と、第4容量と第5容量との接続点と接地間に配設された第6容量とを有するフィルタで構成することができる。この構成のフィルタでは、フィルタを伝搬する高周波信号は、位相が変位しない。
【0017】
また、第1発明及び第2発明において、第1インダクタと接地間に第1容量が配設され、第2インダクタと接地間に第2容量が配設されており、第1入力端子は抵抗と第1インダクタを介してバイアスされ、第2入力端子は抵抗と第2インダクタを介してバイアスされていることが望ましい。第1容量と第2容量とは、第1入力端子と第2入力端子を高周波信号に対しては接地する作用をする。また、第1発明及び第2発明において、差動増幅器の第1入力端子及び第2入力端子を構成するトランジスタのエミッタ/ソース回路に第7容量が設けられていても良い。この第7容量がフィルタの発振周波数を決定する一回路要素となる。また、本発明では、差動増幅器は、集積回路で構成することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、差動増幅器の2つの入力端子をフィルタで、ループ状に接続するだけで、複数の差動発振器は、位相及び周波数が同期した発振が可能となる。したがって、同期発振器アレイを集積回路で構成することが可能となり、小型のレーダ装置の実現が可能となる。また、複数の差動増幅器の入力端子をループ状に接続していることから、複数の差動増幅器の同期発振器となり、発振条件が狭い範囲に限定されるために、位相雑音を低下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の具体的な実施例1に係る位相同期発振器アレイを示した回路図。
【図2】実施例1の位相同期発振器アレイの等価回路。
【図3】実施例1に係る位相同期発振器アレイ発振装置のフィルタの等価回路。
【図4】実施例1に係る位相同期発振器アレイ発振装置の全体の接続関係を示した回路図。
【図5】実施例1に係る位相同期発振器アレイ発振装置のフィルタの回路定数を示した等価回路。
【図6】実施例1に係る位相同期発振器アレイ発振装置のフィルタの伝送特性と位相特定を示した特性図。
【図7】実施例1に係る位相同期発振器アレイ発振装置の発振特性を示した波形図。
【図8】実施例1に係る位相同期発振器アレイ発振装置の発振信号のスペクトルを示した特性図。
【図9】実施例1に係る位相同期発振器アレイ発振装置の発振信号の位相雑音を示した特性図。
【図10】本発明の具体的な実施例2に係る位相同期発振器アレイを示した回路図。
【図11】実施例2の位相同期発振器アレイの等価回路。
【図12】実施例2に係る位相同期発振器アレイ発振装置のフィルタの等価回路。
【図13】実施例2に係る位相同期発振器アレイ発振装置のフィルタの回路定数を示した等価回路。
【図14】実施例2に係る位相同期発振器アレイ発振装置のフィルタの伝送特性と位相特定を示した特性図。
【図15】実施例2に係る位相同期発振器アレイ発振装置において第6容量の値を変化させた時の発振周波数と発振信号の利得とを示した特性図。
【図16】実施例2に係る位相同期発振器アレイ発振装置の発振特性を示した波形図。
【図17】実施例2に係る位相同期発振器アレイ発振装置の発振信号のスペクトルを示した特性図。
【図18】実施例2に係る位相同期発振器アレイ発振装置の発振信号の位相雑音を示した特性図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の具体的な実施例を図を参照しながら説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0021】
図1は、位相同期発振器アレイの一部分である第1差動増幅器1と第2差動増幅器2との接続を示した回路図、図2はフィルタの回路図である。第1差動増幅器1は、差動対トランジスタTr11、Tr12と、直列接続された電流源トランジスタTr13、Tr14を有している。また、トランジスタTr11のエミッタとトランジスタTr13のコレクタとの間には、容量C11(第7容量)と抵抗R11の並列回路が接続されており、トランジスタTr12のエミッタとトランジスタTr13のコレクタとの間には、容量C12(第7容量)と抵抗R12の並列回路が接続されている。これらの容量C11、C12は、第1差動増幅器1の発振周波数を決定する一つの回路要素となる。抵抗R13、トランジスタTr15、Tr16の直列接続回路は、電流源トランジスタTr13、Tr14との間でカレントミラー回路を構成するものであり、電流源トランジスタTr13、Tr14を流れる電流を一定に制御する作用をする。
【0022】
第2差動増幅器2についても、第1差動増幅器1と同一の回路で構成されている。すなわち、第2差動増幅器2は、差動対トランジスタTr21、Tr22と、直列接続された電流源トランジスタTr23、Tr24を有している。また、トランジスタTr21のエミッタとトランジスタTr23のコレクタとの間には、容量C21(第7容量)と抵抗R21の並列回路が接続されており、トランジスタTr22のエミッタとトランジスタTr23のコレクタとの間には、容量C22(第7容量)と抵抗R12の並列回路が接続されている。これらの容量C21、C22は、第2差動増幅器2の発振周波数を決定する一つの回路要素となる。抵抗R23、トランジスタTr25、Tr26の直列接続回路は、電流源トランジスタTr23、Tr24との間でカレントミラー回路を構成するものであり、電流源トランジスタTr23、Tr24を流れる電流を一定に制御する作用をする。
【0023】
また、第1差動増幅器1の第2入力端子である、トランジスタTr12のベース端子B12と、第2差動増幅器2の第1入力端子である、トランジスタTr21のベース端子B21との間には、第3容量C15と第3インダクタL23との直列接続回路が接続されている。また、第1差動増幅器1のトランジスタTr12のベース端子B12と接地との間には、第2インダクタL12と第2容量C14との直列接続回路が設けられ、第2差動増幅器2のトランジスタTr21のベース端子B21と接地との間には、第1インダクタL21と第1容量C23との直列接続回路が設けられている。第2入力端子であるベース端子B12と、第1入力端子であるベース端子B21とを結合するフィルタF2は、第3容量C15と第3インダクタL23との直列接続回路、第2インダクタL12と第2容量C14との直列接続回路、及び、第1インダクタL21と第1容量C23との直列接続回路による、π型のフィルタで構成されている。
【0024】
また、トランジスタTr11のベース端子B11は、抵抗R14と第1インダクタL11を介してバイアスされ、トランジスタTr12のベース端子B12は、抵抗R15と第2インダクタL12を介してバイアスされ、トランジスタTr21のベース端子B21は、抵抗R24と第1インダクタL21を介してバイアスされ、トランジスタTr22のベース端子B22は、抵抗R25と第2インダクタL22を介してバイアスされている。第1差動増幅器1の第1容量C13と第2容量C14は、それぞれ、ベース端子B11、B12に印加される高周波信号を接地にバイパスするためのものであり、それぞれ、ベース端子B11、B12に直流電圧を印加させるものである。同様に、第2差動増幅器2の第1容量C23と第2容量C24は、それぞれ、ベース端子B21、B22に印加される高周波信号を接地にバイパスするためのものであり、それぞれ、ベース端子B21、B22に直流電圧を印加させるものである。
【0025】
第1差動増幅器1では、トランジスタTr11のベース端子B11が第1入力端子、トランジスタTr12のベース端子B12が第2入力端子である。また、第1差動増幅器1のトランジスタTr11のベース端子B11が第1入力端子、トランジスタTr12のベース端子B12が第2入力端子である。
【0026】
上記の第1差動増幅器1の第2入力端子(トランジスタTr12のベース端子B12)と、第2差動増幅器2の第1入力端子(トランジスタTr21のベース端子B21)とは、フィルタFにより逆相で結合されている。したがって、第1差動増幅器1の第2入力端子(ベース端子B12)が非反転入力端子ならば、第1差動増幅器1の第1入力端子(ベース端子B11)は反転入力端子となり、第2差動増幅器2の第1入力端子(ベース端子B21)は反転入力端子となり、第2差動増幅器2の第2入力端子(ベース端子B22)は非反転入力端子となる。逆に、第1差動増幅器1の第2入力端子(ベース端子B12)が反転入力端子ならば、第1差動増幅器1の第1入力端子(ベース端子B11)は非反転入力端子となり、第2差動増幅器2の第1入力端子(ベース端子B21)は非反転入力端子となり、第2差動増幅器2の第2入力端子(ベース端子B22)は反転入力端子となる。
【0027】
子B12)と、第2差動増幅器2の第1入力端子(トランジスタTr21のベース端子B21)とは、第2フィルタにより同相で結合されている。したがって、第1差動増幅器1の第2入力端子が非反転入力端子ならば、第2差動増幅器の第1入力端子も非反転入力端子となる。逆に、第1差動増幅器1の第1入力端子が反転入力端子ならば、第2差動増幅器の第2入力端子も反転入力端子となる。
【0028】
同様に、第2差動増幅器2の第2入力端子と、図示しない次段の第3差動増幅器の第1入力端子との間には、逆相で端子間を結合する上記のフィルタFが接続されている。これらの接続が、n個の第n差動増幅器まで、繰り返される。そして、第n差動増幅器の第2入力端子と、第1差動増幅器1の第1入力端子(トランジスタTr11のベース端子B11)との間に、上記のフィルタFが接続されている。フィルタFは、そのフィルタの入力端子と出力端子とでは、信号が逆相となるので、第n差動増幅器の第2入力端子は非反転入力端子又は反転入力端子ならば、第1差動増幅器の第1入力端子は反転入力端子又は非反転入力端子となる。
【0029】
図4に、n個の差動増幅器の2つの入力端子を、フィルタFでループ状に接続した回路を示す。図4において、端子aが第1入力端子、端子bが第2入力端子である。第k差動増幅器の第2入力端子bと、隣接する第k+1差動増幅器の第1入力端子aとが、フィルタFで逆相(180度位相差)に結合されている。この場合には、全ての差動増幅器において、第1入力端子aは反転入力端子となり、第2入力端子bは非反転入力端子となる。
【0030】
フィルタFの等価回路は、図2に示すものとなる。次に、フィルタFの動作について説明する。第1差動増幅器1のトランジスタTr12を切り離し、すなわち、第2入力端子B12からトランジスタTr12側を見た入力インピーダンスZaを無限大と仮定する。第2差動増幅器2のトランジスタTr21の発振を考えると、フィルタF及びトランジスタTr21に関して、高周波信号に対する等価回路は図3のようになる。なお、第1容量C13、C23、第2容量C14、C24は、高周波信号に対してはショートであるので、図2、3の等価回路には現れていない。また、トランジスタTr21のベース端子B21とエミッタ端子間の浮遊容量C25が表現されている。図3において、容量C21(第7容量)は、トランジスタTr21のエミッタ回路に挿入された容量である。C21は、トランジスタTr21のエミッタコレクタ間に配設される容量となり、C25は、エミッタベース間の浮遊容量である。第2インダクタL12と第3容量C15と第3インダクタL23の直列接続回路と、第1インダクタL21との並列接続回路をコレクタベース間に配設されるインダクタLsとすれば、図3の等価回路は、コルピッツ発振回路となる。したがって、トランジスタTr21は、容量C21と容量C25の直列接続の容量CsのキャパシタンスをC、インダクタLsのインダクタンスをLとすれば、f=1/[2π(LC)1/]の周波数で発振する。実際には、第2差動増幅器2のトランジスタTr21のベース端子B21と、第1差動増幅器1のトランジスタTr12のベース端子B12とは、フィルタFで結合されているので、発振周波数は、他のトランジスタの入力インピーダンスの影響を受けて、上記の値から変化する。なお、フィルタFは、ベース端子間に配設される第2インダクタL12、第1インダクタL21、第3容量C15、第3インダクタL23の他、差動増幅器のトランジスタTr21のエミッタ回路に挿入された第7容量C21を含んで構成されている。
【0031】
図5は、図3の等価回路に示されたフィルタFの各回路素子の定数を示す。図6(a)に、このフィルタFの入力端子から出力端子への伝送特性のシミュレーション結果を示す。また、図6(b)に、入力端子から出力端子への位相特性のシミュレーション結果を示す。伝送損失が最小で、位相特性が180度となる周波数78.5GHzで発振することが分かる。ただし、ポートインピーダンスは200Ωである。図7(a)は、図1に示す位相同期発振器アレイの発振信号の時間特性のシミュレーション結果を示し、図7(b)は、図1に示す位相同期発振器アレイの第2差動増幅器2の第1入力端子(ベース端子B21)の電圧Vaと、第2入力端子(ベース端子B22)の電圧Vbの電圧波形のシミュレーション結果を示す。180度の位相差で、発振していることが理解される。また、図8は、第2差動増幅器2の第1入力端子(ベース端子B21)の電圧Vaの周波数スペクトルのシミュレーション結果を示す。79.31GHzの基本周波数と、その高調波が生成されていることが分かる。
【0032】
図9(a)、(b)は、差動増幅器を2個、4個、6個とした場合の第2差動増幅器2の第1入力端子(ベース端子B21)の電圧Vaの位相雑音特性を示している。図の曲線の番号は、差動増幅器の数を表している。差動増幅器の数が増加するに連れて、協調効果により、位相雑音が減少していることが理解される。
【実施例2】
【0033】
次に、他の実施例について説明する。図10は、実施例2に係る位相同期差動増幅器アレイのうちの2つの差動増幅器を示している。本実施例は、図1に示す実施例1の構成に対して、2つの差動増幅器の入力端子間を結合させるフィルタFの構成が異なるだけである。このフィルタFは、それらの入力端子間を同相で結合させるものである。図1の回路における同一構成部分には、同一の符号が付されている。
【0034】
第1差動増幅器1の第2入力端子である、トランジスタTr12のベース端子B12と、第2差動増幅器2の第1入力端子である、トランジスタTr21のベース端子B21との間には、第4容量C16と第5容量C26との直列接続回路が接続されている。また、第4容量C16と第5容量C26との接続点と接地間には、第6容量C17が配設されている。2つの差動増幅器の入力端子間に配設されるフィルタFは、このT型の容量回路と、第1差動増幅器1のトランジスタTr12のベース端子B12と接地との間に設けられた第2インダクタL12と、第2差動増幅器2のトランジスタTr21のベース端子B21と接地との間に設けられた第1インダクタL21とを有している。
【0035】
フィルタFの等価回路は、図2に示すものとなる。次に、フィルタFの動作について説明する。第1差動増幅器1のトランジスタTr12を切り離し、すなわち、第2入力端子B12からトランジスタTr12側を見た入力インピーダンスZaを無限大と仮定する。第2差動増幅器2のトランジスタTr21の発振を考えると、フィルタF及びトランジスタTr21に関して、高周波信号に対する等価回路は図12のようになる。なお、第1容量C13、C23、第2容量C14、C24は、高周波信号に対してはショートであるので、図11、図12の等価回路には現れていない。また、トランジスタTr21のベース端子B21とエミッタ端子間の浮遊容量C25が表現されている。図12において、容量C21(第7容量)は、トランジスタTr21のエミッタ回路に挿入された容量である。C21は、トランジスタTr21のエミッタコレクタ間に配設される容量となり、C25は、エミッタベース間の浮遊容量である。トランジスタTr1のコレクタベース間に配設される、第2インダクタL12、第4容量C16、第5容量C26、第6容量C17、第1インダクタL21で構成される回路のインピーダンスが誘導性のリアクタンス成分となり、その回路がインダクタLsで表されるとする。すると、図3の等価回路は、コルピッツ発振回路となる。
【0036】
したがって、トランジスタTr21は、容量C21と容量C25の直列接続の容量CsのキャパシタンスをC、インダクタLsのインダクタンスをLとすれば、f=1/[2π(LC)1/]の周波数で発振する。実際には、第2差動増幅器2のトランジスタTr21のベース端子B21と、第1差動増幅器1のトランジスタTr12のベース端子B12とは、フィルタFで結合されているので、発振周波数は、他のトランジスタの入力インピーダンスの影響を受けて、上記の値から変化する。なお、フィルタFは、ベース端子間に配設される第2インダクタL12、第1インダクタL21、第4容量C16、第5容量C26、第6容量C17の他、差動増幅器のトランジスタTr21のエミッタ回路に挿入された第7容量C21を含んで構成されている。
【0037】
第2インダクタL12と第1インダクタL21との値が等しく、第4容量C16、第5容量C26、第6容量C17の値が等しい場合には、フィルタFにおいて、図12のA点とB点の電位は同相となる。第4容量C16、第5容量C26、第6容量C17の交点C点とする。A点からC点間の回路構成は、B点からC点の回路構成と等しい。したがって、A点とB点の電位の位相は等しく、C点の電位の位相は、これらの位相と180度異なる。よって、このフィルタFは、第1差動増幅器1の第2入力端子B12と第2差動増幅器2の第1入力端子B21を、同相で結合することになる。
【0038】
実施例2の場合には、図4に示すように、複数の差動増幅器の入力端子間をフィルタFDで結合させる場合には、同相の結合となるために、第n差動増幅器の第2入力端子と第1差動増幅器1の第1入力端子とが同相である必要がある。このため、本実施例のようにフィルタFが同相で結合させる場合、すなわち、フィルタの入出力の位相差が零である場合には、差動増幅器の数nは、偶数である必要がある。
【0039】
図13は、図12の等価回路に示されたフィルタFの各回路素子の定数を示す。図14(a)に、このフィルタFの入力端子から出力端子への伝送特性のシミュレーション結果を示す。また、図14(b)に、入力端子から出力端子への位相特性のシミュレーション結果を示す。伝送損失が最小で、位相特性が0度となる周波数79GHzで発振することが分かる。ただし、ポートインピーダンスは200Ωである。
【0040】
実施例1の場合には、図5に示すように、第1インダクタL21、第2インダクタL12、第3インダクタL23の値、及び、第3容量C15の値が非常に小さくなる。しかし、実施例2の場合には、実施例1と同一発振周波数において、図13に示すように、第4容量C16、第5容量C26、第6容量C17の値を大きくで、また、それに伴い、第1インダクタL21、第2インダクタL12の値も大きくすることができる。この場合に、発振周波数を可変とする場合には、実施例1においては、第3容量C15の値を変化させ、実施例2の場合には、第6容量C17の値を変化させることになる。この値を変化させるには、容量を電圧制御のバラクタダイオードを用いることになるが、実施例2の方が実施例1に比べて容量の値が一桁程、大きくできる。したがって、実施例2の構成とすることで、第6容量C17をバラクタダイオードで構成することが可能となり、周波数を容易に変化させることができる。
【0041】
図15(a)、(b)は、第6容量C17をバラクタダイオードで構成して、その値を電圧で制御して変化させることで、発振周波数が変化することを示した特性図である。図15(a)は、差動増幅器を2つ接続した場合の位相同期発振器において、第3容量C15の値と、発振周波数との関係を示している。76.5GHz〜81.5GHzまで、変化できることが分かる。図15(b)は、第3容量C15の値と、ベース端子B21の電圧値との関係を示した特性である。
【0042】
図16(a)は、図10に示す位相同期発振器アレイの発振信号の時間特性のシミュレーション結果を示し、図16(b)は、図10に示す位相同期発振器アレイの第2差動増幅器2の第1入力端子(ベース端子B21)の電圧Vaと、第2入力端子(ベース端子B22)の電圧Vbの電圧波形のシミュレーション結果を示す。180度の位相差で、発振していることが理解される。また、図17は、第2差動増幅器2の第1入力端子(ベース端子B21)の電圧Vaの周波数スペクトルのシミュレーション結果を示す。78.93GHzの基本周波数と、その高調波が生成されていることが分かる。
【0043】
図18(a)、(b)は、差動増幅器を2個、4個、6個とした場合の第2差動増幅器2の第1入力端子(ベース端子B21)の電圧Vaの位相雑音特性を示している。図の曲線の番号は、差動増幅器の数を表している。差動増幅器の数が増加するに連れて、協調効果により、位相雑音が減少していることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、指向性を制御できるフェーズドアレイアンテナ装置のための発振器に用いることかできる。
【符号の説明】
【0045】
1…第1差動増幅器
2…第2差動増幅器
L11、L21…第1インダクタ
L12、L22…第2インダクタ
L23…第3インダクタ
C13、C23…第1容量
C14、C24…第2容量
C15…第3容量
C16…第4容量
C26…第5容量
C11、C12、C21、C22…第7容量
【特許請求の範囲】
【請求項1】
位相同期した複数の発振信号を得る位相同期発振器アレイにおいて、
位相が180度異なる2つの信号を入力する第1入力端子と第2入力端子とを有したn個の第1差動増幅器から第n差動増幅器と、
1≦k<nの全ての自然数kに対して、第k差動増幅器の第2入力端子と第k+1差動増幅器の第1入力端子との間の全て、及び、第n差動増幅器の第2入力端子と第1差動増幅器の第1入力端子との間を、それぞれ、逆相で結合するn個のフィルタと、
を設けたことを特徴とする位相同期発振器アレイ。
【請求項2】
位相同期した複数の発振信号を得る位相同期発振器アレイにおいて、
位相が180度異なる2つの信号を入力する第1入力端子と第2入力端子とを有した偶数n個の第1差動増幅器から第n差動増幅器と、
1≦k<nの全ての自然数kに対して、第k差動増幅器の第2入力端子と第k+1差動増幅器の第1入力端子との間の全て、及び、第n差動増幅器の第2入力端子と第1差動増幅器の第1入力端子との間を、それぞれ、同相で結合するフィルタと、
を設けたことを特徴とする位相同期発振器アレイ。
【請求項3】
前記フィルタは、該フィルタで結合される2つの差動増幅器において、一方の差動増幅器の第2入力端子と接地間に配設された第2インダクタと、他方の差動増幅器の第1入力端子と接地間に配設された第1インダクタと、一方の差動増幅器の第2入力端子と他方の差動増幅器の第1入力端子との間を接続する第3容量と第3インダクタとの直列接続回路とを有することを特徴とする請求項1に記載の位相同期発振器アレイ。
【請求項4】
前記フィルタは、該フィルタで結合される2つの差動増幅器において、一方の差動増幅器の第2入力端子と接地間に配設された第2インダクタと、他方の差動増幅器の第1入力端子と接地間に配設された第1インダクタと、一方の差動増幅器の第2入力端子と他方の差動増幅器の第1入力端子との間を接続する第4容量と第5容量との直列接続回路と、前記第4容量と前記第5容量との接続点と接地間に配設された第6容量とを有することを特徴とする請求項2に記載の位相同期発振器アレイ。
【請求項5】
前記第1インダクタと接地間に第1容量が配設され、前記第2インダクタと接地間に第2容量が配設されており、前記第1入力端子は抵抗と前記第1インダクタを介してバイアスされ、前記第2入力端子は抵抗と前記第2インダクタを介してバイアスされていることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の位相同期発振器アレイ。
【請求項6】
前記差動増幅器の第1入力端子及び第2入力端子を構成するトランジスタのエミッタ/ソース回路に第7容量が設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の位相同期発振器アレイ。
【請求項7】
前記差動増幅器は、集積回路で構成したことを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載の位相同期発振器アレイ。
【請求項1】
位相同期した複数の発振信号を得る位相同期発振器アレイにおいて、
位相が180度異なる2つの信号を入力する第1入力端子と第2入力端子とを有したn個の第1差動増幅器から第n差動増幅器と、
1≦k<nの全ての自然数kに対して、第k差動増幅器の第2入力端子と第k+1差動増幅器の第1入力端子との間の全て、及び、第n差動増幅器の第2入力端子と第1差動増幅器の第1入力端子との間を、それぞれ、逆相で結合するn個のフィルタと、
を設けたことを特徴とする位相同期発振器アレイ。
【請求項2】
位相同期した複数の発振信号を得る位相同期発振器アレイにおいて、
位相が180度異なる2つの信号を入力する第1入力端子と第2入力端子とを有した偶数n個の第1差動増幅器から第n差動増幅器と、
1≦k<nの全ての自然数kに対して、第k差動増幅器の第2入力端子と第k+1差動増幅器の第1入力端子との間の全て、及び、第n差動増幅器の第2入力端子と第1差動増幅器の第1入力端子との間を、それぞれ、同相で結合するフィルタと、
を設けたことを特徴とする位相同期発振器アレイ。
【請求項3】
前記フィルタは、該フィルタで結合される2つの差動増幅器において、一方の差動増幅器の第2入力端子と接地間に配設された第2インダクタと、他方の差動増幅器の第1入力端子と接地間に配設された第1インダクタと、一方の差動増幅器の第2入力端子と他方の差動増幅器の第1入力端子との間を接続する第3容量と第3インダクタとの直列接続回路とを有することを特徴とする請求項1に記載の位相同期発振器アレイ。
【請求項4】
前記フィルタは、該フィルタで結合される2つの差動増幅器において、一方の差動増幅器の第2入力端子と接地間に配設された第2インダクタと、他方の差動増幅器の第1入力端子と接地間に配設された第1インダクタと、一方の差動増幅器の第2入力端子と他方の差動増幅器の第1入力端子との間を接続する第4容量と第5容量との直列接続回路と、前記第4容量と前記第5容量との接続点と接地間に配設された第6容量とを有することを特徴とする請求項2に記載の位相同期発振器アレイ。
【請求項5】
前記第1インダクタと接地間に第1容量が配設され、前記第2インダクタと接地間に第2容量が配設されており、前記第1入力端子は抵抗と前記第1インダクタを介してバイアスされ、前記第2入力端子は抵抗と前記第2インダクタを介してバイアスされていることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の位相同期発振器アレイ。
【請求項6】
前記差動増幅器の第1入力端子及び第2入力端子を構成するトランジスタのエミッタ/ソース回路に第7容量が設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の位相同期発振器アレイ。
【請求項7】
前記差動増幅器は、集積回路で構成したことを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載の位相同期発振器アレイ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2010−268061(P2010−268061A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−115745(P2009−115745)
【出願日】平成21年5月12日(2009.5.12)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月12日(2009.5.12)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
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