説明

位相差フィルムの製造方法及びその製造設備

【課題】湿熱耐久試験の前後における面内レターデーションRthの変動が小さいフィルムを製造する。
【解決手段】流延ダイ84は流延ドープ81を流延ドラム82に吐出する。流延ドラム82上では、吐出した流延ドープ81から流延膜86が形成される。冷却により自己支持性を有するものとなった流延膜86は、流延ドラム82から剥ぎ取られ、湿潤フィルム88としてテンタ部5に送られる。テンタ部5は、湿潤フィルム88を幅方向に延伸する。テンタ部5から送り出された湿潤フィルム88は、湿潤気体接触室、乾燥室97へと順次送られる。湿潤気体供給設備は湿潤気体を所定の条件に調節し、湿潤気体接触室へ供給する。湿潤気体は湿潤気体接触室に充満する。湿潤フィルム88が湿潤気体接触室内を通過すると、湿潤気体と接触する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差フィルムの製造方法及びその製造設備に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマーフィルム(以下、フィルムと称する)は、優れた光透過性や柔軟性および軽量薄膜化が可能であるなどの特長から光学機能性フィルムとして多岐に利用されている。フィルムの中でも、セルロースアシレート、特に57.5%〜62.5%の平均酢化度を有するセルローストリアセテート(以下、TACと称する)から形成されるTACフィルムは、市場が急激に拡大している液晶表示装置の偏光板用保護フィルムや位相差フィルム等の光学機能性フィルムとして用いられている。
【0003】
フィルムの主な製造方法としては、溶融押出方法と溶液製膜方法とがある。溶融押出方法とは、ポリマーをそのまま溶融させた後、押出機で押し出してフィルムを製造する方法であり、生産性が高く、設備コストも比較的低額であるなどの特徴を有する。しかし、フィルムの厚さの精度を調節することが難しく、また、フィルム上に細かいスジ(ダイライン)ができやすいため、光学機能性フィルムの製造方法に適していない。一方、溶液製膜方法は、ポリマーと溶剤とを含むポリマー溶液(以下、ドープと称する)を支持体上に流出し、支持体上にドープからなる流延膜を形成する。次に、流延膜が自己支持性を有するものとなった後、流延膜を支持体から剥がして湿潤フィルムとする。その後、湿潤フィルムを乾燥しフィルムとして巻き取る方法である。この溶液製膜方法は、溶融押出方法と比べて、異物の少ないフィルムを得ることができるため、光学機能性フィルムの製造方法に適している。
【0004】
溶液製膜方法における流延膜に自己支持性を発現させる方法として、支持体上の流延膜を乾燥し、流延膜の残留溶剤量を所定の範囲になるまで低下させる方法(以下、乾燥方式と称する)と、流延膜を冷却して、流延膜をゲル化させる方法(以下、冷却ゲル化方式と称する)とが知られている(例えば、特許文献1)。
【0005】
フィルムの光学特性の調節方法として、フィルムを水中に浸漬する、或いはフィルムを水蒸気に曝し、含水率が所定の範囲内となったフィルムを延伸する方法等が知られている(例えば、特許文献2、3)。
【特許文献1】特開2002−179819号公報
【特許文献2】特開2003−90915号公報
【特許文献3】特開2003−62899号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、液晶表示装置等に用いられるフィルムは、液晶表示装置と同様に、所定の環境条件下で一定の特性、品質を確保できるか否かを調べる耐久試験が行われる。ところが、このフィルムに耐久試験を行うと、フィルムの光学特性が変動してしまう現象が起こることがわかった。特に、高温高湿の条件(例えば、温度60℃以上湿度90%RH)下における耐久試験(以下、湿熱耐久試験と称する)の前後において、厚み方向のレターデーションRthが大きく変動してしまう結果、フィルムのレターデーションRthが液晶表示装置に適した範囲から大きく外れてしまう現象が多発した。
【0007】
特許文献1には、溶液製膜方法により得られたフィルムに加湿処理を施して、高温高湿環境下におけるフィルムの寸法変化を抑制する方法が開示されている。これは、フィルムの含水率の増大に起因してガラス転移温度Tgが低下する現象を利用して、フィルム内の歪を除去するものである。しかしながら、特許文献1には、位相差フィルムにおいて重要な光学特性であるレターデーションRe、Rthに対する加湿処理の影響は記載されておらず、不明であった。
【0008】
また、特許文献2、特許文献3に記載の方法は、λ/4近傍のReで異なったNzファクターを得るフィルムの製造方法に関するものであり、レターデーションRe、Rthが高い位相差フィルムの製造方法には適していない。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するものであり、耐久試験前後におけるレターデーションRthの変動が低い位相差フィルムを効率よく製造することのできる位相差フィルムの製造方法及びその製造設備を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の位相差フィルムの製造方法は、ポリマー及び溶剤を含むドープを連続的に流して、走行する支持体上に帯状の流延膜を形成する膜形成工程と、前記支持体から剥ぎ取った前記流延膜を帯状のポリマーフィルムとし、このポリマーフィルムを幅方向へ延伸する延伸工程と、前記延伸処理を施された前記ポリマーフィルムから前記溶剤を蒸発させる溶剤蒸発工程とを有し、前記ポリマーフィルムに水蒸気を接触させ、前記ポリマーフィルムの温度を100℃以上150℃以下の範囲内で維持する水蒸気接触工程を前記溶剤蒸発工程とともに行うことを特徴とする。
【0011】
前記水蒸気接触工程を5秒以上60分以下行うことが好ましい。また、前記水蒸気接触工程では、相対湿度が20%RH以上の前記水蒸気を含む気体を前記ポリマーフィルムに接触させることが好ましい。更に、前記水蒸気接触工程を経た前記ポリマーフィルムの面内レターデーションReが30nm以上100nm以下であり、前記水蒸気接触工程を経た前記ポリマーフィルムの厚み方向レターデーションRthが70nm以上300nm以下であることが好ましい。加えて、前記ポリマーがセルロースアシレートであることが好ましい。
【0012】
前記膜形成工程及び前記延伸工程の間にて、前記流延膜が自己支持性をもつようになるまで前記流延膜を冷却することが好ましい。また、前記膜形成工程及び前記延伸工程の間にて、前記流延膜が自己支持性をもつようになるまで前記流延膜から前記溶剤を蒸発させてもよい。更に、前記水蒸気接触工程における前記ポリマーフィルムの残留溶剤量が5質量%以下であることが好ましい。
【0013】
本発明の位相差フィルムの製造設備は、ポリマー及び溶剤を含むドープを連続的に流出して、走行する支持体上に帯状の流延膜を形成する膜形成装置と、前記支持体から剥ぎ取られた前記流延膜からなる帯状のポリマーフィルムを幅方向へ延伸する延伸装置と、前記ポリマーフィルムから前記溶剤を蒸発させるために、水蒸気を前記延伸された前記ポリマーフィルムへ接触させ、前記ポリマーフィルムの温度を100℃以上150℃以下の範囲内で維持する水蒸気接触装置とを備えることを特徴とする。
【0014】
前記水蒸気接触装置は、前記水蒸気を含む気体と前記ポリマーフィルムとを接触させるものであり、前記気体の相対湿度を20%RH以上に調節する湿度調節部を有することが好ましい。
【0015】
本発明は、偏光子の両面に透明保護膜を有する偏光板において、前記透明保護膜の少なくとも一方が請求項1ないし8記載の位相差フィルムの製造方法により製造された位相差フィルムであることを特徴とする。
【0016】
本発明の液晶表示装置は、光源と、この光源からの光を透過する状態、及び前記光の透過を遮る状態との間で遷移可能なVA方式の液晶セルと、前記液晶セルに向かう前記光、または前記液晶セルを透過した前記光が入射する請求項11項記載の偏光板とを備えることを特徴とする。
【0017】
前記光源と前記液晶セルとの間に前記位相差フィルムが位置するように、前記偏光板が設けられることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、延伸されたポリマーフィルムから溶剤を蒸発させる溶剤蒸発工程と、ポリマーフィルムに水蒸気を接触させ、ポリマーフィルムの温度を100℃以上150℃以下の範囲内で維持する水蒸気接触工程とをともに行うため、耐久試験前後における光学特性や寸法の変動量が小さいフィルムを製造することが可能になる。したがって、本発明によれば、使用環境の温度や湿度の大きな変化に左右されず、安定した光学特性を発揮することのできる位相差フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(オフライン延伸設備)
図1に示すように、オフライン延伸設備2は、TACフィルム3を延伸するものであり、TACフィルム3を供給する供給部4と、供給部4から送り出されたTACフィルム3を延伸するテンタ部5と、延伸されたTACフィルム3に湿潤気体を接触させる湿潤気体接触ケーシング6と、湿潤気体接触ケーシング6から送り出されたTACフィルム3を冷却する冷却部7と、TACフィルム3を巻き芯に巻き取ってフィルムロールとする巻取部8とを備える。供給部4には、帯状のTACフィルム3が巻き芯4aに巻き取られてなるフィルムロール9が収納されている。また、帯状のTACフィルム3は、後述する溶液製膜設備で製造されたものである。供給部4に設けられる供給ローラ4bは、フィルムロール9から帯状のTACフィルム3を取り出して、テンタ部5に供給する。
【0020】
(テンタ部)
図2に示すように、テンタ部5は、帯状のTACフィルム3をフィルム長手方向(以下、X方向と称する)に搬送し、フィルム幅方向(以下、Y方向と称する)に延伸する延伸処理を行うものであり、第1レール11と、第2レール12と、これらレール11,12に案内される1対のエンドレスチェーン(以下、第1、第2チェーンと称する)13,14とを備えている。第1レール11と第2レール12との間には、TACフィルム3の搬送路が形成される。図示しない空調機により、テンタ部5の内部の雰囲気の条件を所定範囲内で一定となるように保持する。また、必要に応じて、TACフィルム3の搬送路を、X方向で複数のゾーンを分けて、ゾーン毎に、フィルム加熱条件を変えるようにしてもよい。例えば、X方向に順に、TACフィルム3を予熱するための予熱ゾーン、延伸可能な程度までTACフィルム3を加熱するための加熱ゾーン、及びTACフィルム3を延伸する延伸ゾーンを設けてもよいし、これの各ゾーンに加えて、TACフィルム3の延伸を停止し、TACフィルム3に残留する歪が緩和するようにTACフィルム3を加熱する熱緩和ゾーンを、延伸ゾーンよりもX方向下流側に設けてもよい。
【0021】
TACフィルム3の搬送路の上流側にはフィルム把持位置PAが設けられ、TACフィルム3の搬送路の下流側には把持解除位置PBが設けられる。レール11,12は、把持解除位置PBにおけるTACフィルム3の幅Wbが、フィルム把持位置PAにおけるTACフィルム3の幅Waよりも大きくなるように配される。無端の第1、第2チェーン13,14は、レール11,12に沿って循環走行する。第1、第2チェーン13,14には、クリップ15が一定の間隔で多数取り付けられている。こうして、クリップ15がTACフィルム3のY方向の側縁部を把持しながら、各レール11,12に沿って移動すると、TACフィルム3はY方向へ延伸される。
【0022】
第1,第2チェーン13,14は、原動スプロケット21,22及び従動スプロケット23,24の間に掛け渡されており、これらスプロケット21〜24の間では、第1チェーン13は第1レール11によって、第2チェーン14は第2レール12によって案内される。原動スプロケット21,22はテンタ出口27側に設けられており、これらは図示しない駆動機構により回転駆動され、従動スプロケット23,24はテンタ入口26側に設けられている。
【0023】
図1に示すように、テンタ部5と、湿潤気体接触ケーシング6との間には、耳切装置30が設けられる。耳切装置30は、TACフィルム3のY方向(図2参照)の側縁部をスリット状の耳屑として切り離す。耳切装置30に接続するカットブロア31は、この耳屑を細かくカットする。図示しない風送装置は、カットされた耳屑をクラッシャ32に送り、クラッシャ32は耳屑を粉砕して、チップとする。このチップはドープ調製用に再利用されるので、この方法はコストの点において有効である。
【0024】
巻取部8には、巻き芯36とプレスローラ37とが設けられている。巻取部8に送られたTACフィルム3は、プレスローラ37によって押圧されながら、巻き芯36に巻き取られる。
【0025】
(湿潤気体接触室)
湿潤気体接触ケーシング6は、湿潤気体接触室6aと、湿潤気体接触室6aに開口する入口6b及び出口6cとを有する。湿潤気体接触室6aには複数のローラ41が千鳥状に配される。ローラ41は、入口6bを介して湿潤気体接触室6aへ導入されたTACフィルム3を、出口6cを介して冷却部7へ案内する。湿潤気体接触ケーシング6と湿潤気体供給設備45との間に設けられる送りダクト42及び戻りダクト43により、湿潤気体接触ケーシング6と湿潤気体供給設備45とが接続する。湿潤気体供給設備45は、戻りダクト43を介して、湿潤気体接触室6aの内部の気体を回収気体300として回収し、所定の条件に調節された湿潤気体400をつくり、送りダクト42を介して、湿潤気体400を湿潤気体接触室6aに供給する。
【0026】
(湿潤気体供給設備)
図3に示すように、湿潤気体供給設備45は、軟水410を加熱して水蒸気411をつくるボイラ51と、空気420を送風するブロア52と、ブロア52によって送られた空気420を加熱する熱交換器53と、熱交換器53を経た空気420及び水蒸気411を混合して湿潤気体400をつくる混合装置54と、湿潤気体400を加熱して湿潤気体接触室6a(図1参照)へ送る加熱装置55と、湿潤気体接触室6a(図1参照)から回収した回収気体300を凝縮し、加熱気体310及び凝縮液320をつくる凝縮装置61とを有する。
【0027】
また、ボイラ51と混合装置54とを接続する配管には、水蒸気411の圧力を所定の値まで減圧する減圧弁65及び水蒸気411の流量の調節を行う流量調節弁66が設けられる。また、制御装置70は、流量調節弁66と加熱装置55と接続する。制御装置70は、湿潤気体400の流量及び温度の調節を行う。
【0028】
凝縮装置61には、冷却装置71が接続する。冷却装置71は、凝縮装置61に冷水330を送る。凝縮装置61に送られた冷水330は、回収気体300の凝縮に用いられる。回収気体300の凝縮により、冷水330は、温水331となる。冷却装置71は、回収した温水331に冷却処理を施して、再び、冷水330として、凝縮装置61に送る。
【0029】
凝縮装置61によって凝縮されない気体(以下、加熱気体と称する)310の一部は、ブロア72により熱交換器53に送られ、熱の再利用が行われる。また、余剰の加熱気体310は廃棄される。
【0030】
凝縮された水、溶剤、またはこれらの混合物である凝縮液320は、貯留タンク73へ送られる。貯留タンク73には、溶剤の濃度を検出する濃度センサが設けられる。凝縮液320は、所定の処理を経て廃棄される。
【0031】
次に、オフライン延伸設備2における本発明の作用について説明する。図1に示すように、供給ローラ9は、供給室4からTACフィルム3をテンタ部5に供給する。
【0032】
図示しない空調機により、テンタ部5内の雰囲気の温度、湿度、溶剤露点等が調節される。溶剤露点とは、ガス状の溶剤を含む雰囲気の温度を下げていったときに、溶剤が飽和状態に達して、溶剤が液化し始める温度をいう。これにより、テンタ部5を通過するTACフィルム3の温度を所望の範囲内に調節することができる。図示しない駆動機構は、スプロケット21〜24を回転駆動し、第1、第2チェーン13、14は、第1、第2レール11、12に沿ってエンドレスに走行する。第1、第2チェーン13、14に取り付けられるクリップ15は、フィルム把持位置PAにて、TACフィルム3の方向Yの両側縁部を把持し、把持解除位置PBにて両側縁部の把持を解除する。こうして、テンタ部5では、フィルム把持位置PAから把持解除位置PBまでの間で、方向Yへの延伸処理がTACフィルム3に施される。テンタ部5におけるTACフィルム3の延伸率ER{=(Wb−Wa)/Wa}は、0.5%以上200%以下であることが好ましく、10%以上80%以下であることがより好ましい。テンタ部5から送られたTACフィルム3は、耳切装置30により、両側縁部が切り離され、湿潤気体接触室6aへ送られる。
【0033】
図1に示すように、湿潤気体供給設備45は、湿潤気体400の温度Ta、湿度Hu1、溶剤露点TR等を調節し、湿潤気体400を湿潤気体接触室6aへ送る。これにより、所定の条件に調節された湿潤気体400が湿潤気体接触室6aに充満する。複数のローラ41は、耳切装置30から送り出されたTACフィルム3を、巻きかけながら搬送し、冷却部7に案内する。こうして、湿潤気体接触室6aでは、所望の条件の湿潤気体400がTACフィルム3に接触し、TACフィルム3に水蒸気を接触させる水蒸気接触処理が行われる。
【0034】
水蒸気接触処理が施されたTACフィルム3は、冷却部7に送られる。TACフィルム3は、冷却部7で略室温まで冷却される。冷却されたTACフィルムは巻取部8に送られ、プレスローラ37によって押圧されながら、巻き芯36に巻き取られる。
【0035】
本発明は、TACフィルム3に水蒸気接触処理を行う。水蒸気接触処理が行われると、TACフィルム3は水分子を吸収するとともに加熱される結果、TACフィルム3に含まれるポリマーのガラス転移温度Tgが低下するとともに、TACフィルム3における水分子の拡散が促進される。TACフィルム3における水分子の拡散の促進により、ポリマー分子の高次構造がより安定な構造に遷移しやすくなる結果、TACフィルム3を単に加熱する処理に比べ、ポリマー分子の構造の安定化を短時間で行うことができる。
【0036】
したがって、本発明によれば、湿熱耐久試験の前後における厚み方向レターデーションRthの変動量ΔRthWETが小さいTACフィルム3を製造することができる。
【0037】
水蒸気接触処理におけるTACフィルム3の温度Tf1の下限は、100℃以上であることが好ましく、101℃以上であることがより好ましく、102℃以上であることが特に好ましい。また、温度Tf1の上限は、ポリマーのガラス転移温度以下であればよく、例えば、150℃以下であることが好ましく、140℃以下であることがより好ましく、120℃以下であることが特に好ましい。温度Tf1が100℃未満となると、湿熱耐久試験前後における光学特性変化量を抑制するのに必要な水蒸気接触処理の時間が長くなるため好ましくない。温度Tf1が150℃を超えると、TACフィルム3のカールが顕著となるため好ましくない。したがって、湿潤気体400の温度Taは、温度Tf1が上記の範囲となるように適宜調節すればよい。例えば、湿潤気体400の温度Taは、70℃以上200℃以下であることが好ましく、90℃以上160℃以下であることがより好ましく、95℃以上140℃以下であることが最も好ましい。
【0038】
ΔRthWETの抑制効果を大きくするためには、湿潤気体400の湿度Hu1は高いほうがよい。湿潤気体400の湿度Hu1は、20%RH以上100%RH以下であることが好ましく、40%RH以上100%RH以下であることがより好ましく、70%RH以上100%RH以下であることが特に好ましい。湿度Hu1が20%RH以上である場合には、ΔRthWETを確実に抑制することができる。
【0039】
また、水蒸気接触処理の処理時間P1の範囲は、特に限定されないが、本発明の効果が発揮される範囲内であれば、生産効率の点から出来るだけ短いほうが好ましい。処理時間P1の上限として、例えば、60分以下であることが好ましく、10分以下であることがより好ましい。一方、処理時間P1の下限として、例えば、5秒以上であることが好ましく、10秒以上であることがより好ましく、30秒以上であることが特に好ましい。
【0040】
図3に示すように、水蒸気411をつくるための水として、軟水410の他、硬水や純水などを用いることができる。ボイラ51の保護の観点から軟水を用いることが好ましい。TACフィルム3への異物の混入は、製品としてのTACフィルム3の光学特性や機械特性の劣化の原因となるため、できるだけ異物の少ない水を用いることが好ましい。したがって、TACフィルム3への異物混入を防ぐためには、軟水や純水を用いることが好ましく、純水を用いることがより好ましい。
【0041】
なお、本発明に明細書における純水とは、電気抵抗率が少なくとも1MΩ以上であり、特にナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどの金属イオンの含有濃度は1ppm未満、塩素、硝酸などのアニオンは0.1ppm未満の含有濃度を指す。純水は、逆浸透膜、イオン交換樹脂、蒸留などの単体、あるいは組み合わせによって、容易に得ることができる。
【0042】
水蒸気411をつくるための軟水410に代えて、有機化合物を用いてもよいし、水と有機化合物との混合物を用いてもよい。有機化合物としては、メタノール、アセトンやメチルエチルケトンなどが挙げられる。
【0043】
上記実施形態では、湿潤気体400が充満する湿潤気体接触室6aにTACフィルム3を通過させたが、本発明はこれに限られず、湿潤気体接触室6aにて湿潤気体400をTACフィルム3にあててもよい。
【0044】
上記実施形態では、湿潤気体接触室6aにおいて、水蒸気接触処理を行うとしたが、本発明はこれに限られず、テンタ部5から巻取部8までの間のTACフィルム3に水蒸気接触処理を行っても良い。テンタ部5で水蒸気接触処理を行う場合には、延伸処理と同時に、或いは延伸処理の後の熱緩和処理として、水蒸気接触処理を行ってもよい。
【0045】
上記実施形態の水蒸気接触処理では、搬送されるTACフィルム3に水蒸気を接触させたが、本発明はこれに限られず、図4に示すように、1対の枠77に固定されたTACフィルム3に水蒸気を接触させてもよい。1対の枠77は、TACフィルム3を両側から挟んだ状態で、図示しない固定具により固定される。なお、図中では、TACフィルム3のY方向と平行に設けられる第1枠部77a及びX方向と平行に設けられる第2枠部77bを有する1対の枠77を用いて、TACフィルム3の固定を行ったが、本発明はこれに限られず、TACフィルム3のY方向または、X方向と交差するように設けられる枠部を有する1対の枠を用いて、TACフィルム3の固定を行ってもよい。また、第1枠部77aまたは第2枠部77bのいずれか一方のみを有する1対の枠を用いてTACフィルム3の固定を行ってもよい。
【0046】
水蒸気接触処理が施されるTACフィルム3は、十分乾燥された、すなわち溶剤がほとんど残っておらず、ポリマー分子の流動性がほとんど消失しているものを用いることが好ましい。例えば、乾量基準の残留溶剤量が5質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましく、0.3質量%以下であることが特に好ましい。ここで、乾量基準の残留溶剤量とは、湿潤フィルムやTACフィルム3に残留する溶剤量を示したものを指す。残留溶剤量は、対象となるフィルムからサンプルフィルムを採取し、採取時のサンプルフィルムの質量をx、サンプルフィルムを乾燥した後の質量をyとするとき、{(x−y)/y}×100で表される。
【0047】
TACフィルム3の幅は600mm以上であることが好ましく、1400mm以上2500mm以下であることがより好ましく、2500mmより大きい場合にも本発明の効果が発現する。また、TACフィルム3の厚みが20μm以上200μm以下であることが好ましく、40μm以上100μm以下であることがより好ましい。
【0048】
TACフィルム3は、溶液製膜方法によって製造されたものを用いることが好ましく、特に、冷却ゲル化方式により製造されたものを用いることが好ましい。以下、冷却ゲル化方式の概要について説明する。なお、上記実施形態と同一の部材などには同一の符号を付しその詳細の説明は省略する。
【0049】
図5に示すように、溶液製膜設備80は、冷却ゲル化方式の溶液製膜方法を行う。ポリマーと溶剤とを含む流延ドープ81の温度は、30℃以上40℃以下の範囲内でほぼ一定となるように維持されている。図示しない制御部の制御の下、流延ドラム82は軸82aを中心に回転する。この回転により、周面82bは、所定の速度(50m/分以上200m/分以下)で走行方向Z1へ走行する。また、伝熱媒体循環装置83により、周面82bの温度は、−10℃以上10℃以下の範囲内で略一定に保持される。
【0050】
流延ダイ84は、流延ドープ81を周面82bへ連続して吐出する。吐出した流延ドープ81は、周面82b上にて流れ延ばされる結果、周面82b上に流延膜86を形成する。また、吐出した流延ドープ81は、流延ダイ84及び周面82bの間においてビードを形成する。減圧チャンバ85は、ビードの方向Z1上流側を減圧し、ビードの安定化を図る。周面82b上には流延膜86が形成される。流延膜86は、周面82b上での冷却によりゲル化が進行する。ゲル化の結果、流延膜86には自己支持性が発現する。本明細書において、ゲル化とは、流延ドープ81に含まれる溶剤がポリマーの分子鎖の中で保持された状態で流動性を失い、結果的に流延ドープ81の流動性が失われた状態にあることを意味する。流延膜86は、自己支持性を有するものとなった後に、湿潤フィルム88として剥取ローラ89で支持されながら周面82bから剥ぎ取られる。剥ぎ取り時の流延膜86の残留溶剤量は、250質量%以上280質量%以下であることが好ましい。
【0051】
ゲル化状態が維持された湿潤フィルム88は、渡り部90、ピンテンタ91、テンタ部5に順次送られる。渡り部90、ピンテンタ91、テンタ部5では、湿潤フィルム88に所定の乾燥空気をあてて、湿潤フィルム88に含まれる溶剤を蒸発させる。渡り部90には、複数の搬送ローラ90aがX方向に並べられる。渡り部90におけるドローテンション(=V2/V1)は、1.00以上1.05以下とすることが好ましい。ここで、V1は、第1の搬送ローラ90aの周速度であり、V2は、第1の搬送ローラ90aの下流側に設けられた第2の搬送ローラ90aの周速度である。
【0052】
また、ピンテンタ91やテンタ部5では、湿潤フィルム88からの溶剤の蒸発を行いつつ、湿潤フィルム88を所定の方向に延伸する延伸処理を行う。なお、ピンテンタ91では、湿潤フィルム88の延伸を行わずに、湿潤フィルム88から溶剤の蒸発のみを行ってもよい。ピンテンタ91に導入される湿潤フィルム88の残留溶剤量は、200質量%以上250質量%以下であることが好ましい。テンタ部5に導入される湿潤フィルム88の残留溶剤量は、30質量%以上200質量%以下であることが好ましい。
【0053】
乾燥室97では、湿潤フィルム88に所定の乾燥空気をあてて、湿潤フィルム88に含まれる溶剤を蒸発させる。乾燥室97における湿潤フィルム88の温度は140℃以上180℃以下であることが好ましい。
【0054】
乾燥室97にて十分に乾燥した湿潤フィルム88は、TACフィルム3となり、冷却部7では所定の温度になるまで冷却処理が施される。また、強制除電装置98は、TACフィルム3の帯電圧が所定の範囲(例えば、−3kV〜+3kV)となるように除電する。ナーリング付与ローラ99は、TACフィルム3の両縁にエンボス加工でナーリングを付与する。その後、TACフィルム3は、巻取部8に送られ、プレスローラ37によって押圧されながら、巻き芯36に巻き取られる。
【0055】
溶液製膜方法を行うための溶液製膜設備は、上記の溶液製膜設備80に限られず、図6に示すような溶液製膜設備100でもよい。溶液製膜設備100では、溶液製膜設備80と同様に、流延ドープ81から湿潤フィルム88が形成され、この湿潤フィルム88は渡り部90、ピンテンタ91、乾燥室97と順次案内されながら、乾燥処理により乾燥し、TACフィルム3となる。そして、TACフィルム3はテンタ部5、冷却部7と順次案内された後、巻取部8にて巻き取られる。
【0056】
上記実施形態では、オフライン延伸設備2(図1参照)において、溶液製膜方法によって製造されたTACフィルム3に延伸処理を施し、その後に水蒸気接触処理を行ったが、本発明はこれに限られない。巻き芯に巻き取られたTACフィルム3が既に溶液製膜方法において延伸処理が施されたものである場合には、巻き芯から取り出したTACフィルム3に延伸処理を施さずに、そのまま水蒸気接触処理を行ってもよい。この場合には、オフライン延伸設備2におけるテンタ部5を省略してもよい。
【0057】
上記実施形態では、溶液製膜設備80、100で製造したTACフィルム3を巻き取った後、オフライン延伸設備2(図1参照)においてTACフィルム3に水蒸気接触処理を行ったが、本発明はこれに限られず、オフライン延伸設備2にて水蒸気接触処理を行う代わりに、溶液製膜設備80、100(図5,6参照)にて水蒸気接触処理を行ってもよい。溶液製膜設備80、100(図5,6参照)にて水蒸気接触処理を行う場合には、テンタ部5から巻取部8までの間のTACフィルム3に水蒸気接触処理を行っても良い。テンタ部5で水蒸気接触処理を行う場合には、延伸処理と同時に、又は延伸処理の開始後に水蒸気接触処理を行ってもよいし、延伸処理の後に行われる熱緩和処理と同時に、又は熱緩和処理の開始後に、水蒸気接触処理を行ってもよい。
【0058】
溶液製膜設備80にて水蒸気接触処理を行う場合の例として、溶液製膜設備102を図7に示す。溶液製膜設備102では、耳切装置30と乾燥室97との間に湿潤気体接触ケーシング6が設けられる。溶液製膜設備100にて水蒸気接触処理を行う場合の例として、溶液製膜設備104を図8に示す。溶液製膜設備104では、耳切装置30と冷却部7との間に湿潤気体接触ケーシング6が設けられる。これにより、湿潤気体接触ケーシング6では、水蒸気接触処理とともに、湿潤フィルム88から溶剤を蒸発させる溶剤蒸発処理を行うことができる。
【0059】
湿潤フィルム88に水蒸気が接触すると、湿潤フィルム88に水分子が吸収される。水分子の吸収により、湿潤フイルム88中における溶剤分子が拡散しやすくなるため、溶剤分子が湿潤フイルム88の表面近傍へ到達しやすくなり、結果として、湿潤フイルム88に残留する溶剤分子が外部へ放出されやすくなる。したがって、水蒸気接触処理とともに溶剤蒸発処理を行うことにより、湿潤フィルム88からの溶剤の蒸発及びTACフィルム3からの溶剤の蒸発に要する時間の総和を短縮することができる。更に、溶剤分子の拡散促進効果より、溶剤蒸発処理用の気体の温度を従来よりも低くすることができる。溶剤蒸発処理用の気体の温度を低くすることにより、溶液製膜の省エネルギー化を図るとともに、ポリマーの熱分解等、製造過程の熱履歴に起因する弊害のリスクを低減することができる。
【0060】
また、溶剤分子の拡散促進効果は、減率乾燥状態の湿潤フイルム88の場合により顕著に発揮される。ここで、減率乾燥状態とは、湿潤フイルム88の中に存在する溶剤分子等が、湿潤フイルム88の表面近傍まで拡散した後に外部に放出するプロセスが主となる状態を指し、恒率乾燥状態は、溶剤蒸発処理の初期段階であり、表面近傍に存在する溶剤分子等がそのまま外部へ放出するが主となる状態を指す。なお、残留溶剤量が10重量%以下の状態を減率乾燥状態C1としてもよい。
【0061】
上記実施形態では、溶液製膜設備80、100、102、104における支持体として流延ドラム82を用いたが、本発明はこれに限られず、走行するエンドレスバンドを用いても良い。また、流延膜86に乾燥空気を接触させて、流延膜86から溶剤を蒸発させることにより、流延膜86に自己支持性を発現させてもよい。
【0062】
(熱処理工程)
上記実施形態の水蒸気接触処理を経たTACフィルム3に、乾燥空気をあて、TACフィルム3の温度を所定の範囲内にする熱処理工程を行うことが好ましい。水蒸気接触処理と熱処理工程とを順次連続して行うことが好ましい。この熱処理工程により、湿熱耐久試験の前後のみならず、乾熱耐久試験の前後における各レターデーションの変動量、X方向の寸法変化量、Y方向の寸法変化量の小さいTACフィルム3を製造することができる。ここで、乾熱耐久試験とは、高温低湿度の条件(例えば、温度80℃以上湿度5%RH以下)下で行われる耐久試験を指す。
【0063】
熱処理工程におけるTACフィルム3の温度Tf2の下限は、70℃以上であることが好ましく、80℃以上であることがより好ましい。また、温度Tf2の上限は160℃以下であることが好ましく、120℃以下であることがより好ましい。したがって、乾燥気体402の温度は、温度Tf2と同等の範囲とすることが好ましい。温度Tf2が70℃以上160℃以下の場合には、湿熱耐久試験及び乾熱耐久試験の前後における各レターデーションの変動量、X方向の寸法変化量、Y方向の寸法変化量を確実に抑えることができるため好ましい。また、温度Tf2は、温度Tf1よりも高いことが好ましい。熱処理におけるTACフィルム3の温度Tf2は一定に維持されることが好ましい。なお、熱処理を施す対象を、TACフィルム3とせずに、湿潤フィルム88としてもよい。
【0064】
乾燥空気の湿度Hu2は、20%RH以下であることが好ましく、10%RH以下であることがより好ましい。湿度Hu2が20%RHを超える場合には、フィルムの含水率を増加させ、フィルムロールの巻き姿など、経時によってTACフィルム3が変形するため好ましくない。
【0065】
また、熱処理工程の処理時間P2の上限として、5分以下であることが好ましく、4分以下であることがより好ましい。一方、処理時間P2の下限として、1分以上であることが好ましい。処理時間P2が1分以上5分以下である場合には、湿熱耐久試験及び乾熱耐久試験の前後における各レターデーションの変動量、X方向の寸法変化量、Y方向の寸法変化量を確実に抑えることができるため好ましい。
【0066】
図9に示すように、熱処理は、熱処理ケーシング110に設けられる熱処理室110aで行われる。熱処理室110aには複数のローラ41が千鳥状に配される。ダクト112及び113により、熱処理ケーシング110と乾燥気体供給設備111とが接続する。乾燥気体供給設備111は、湿潤気体供給設備45と同様の構成を有し、ダクト113を介して熱処理室110aにある乾燥気体402の一部を回収し、所定の温度の新たな乾燥気体402をつくり、ダクト112を介して熱処理室110aへ新たな乾燥気体402を供給する。これにより、熱処理室110a内には乾燥気体402が充填される。なお、渡り部90(図5参照)と同様に、ローラ41をX方向に並べ、TACフィルム3を支持しながら搬送してもよい。熱処理ケーシング110は、湿潤気体接触ケーシング6の下流側に設けることが好ましく、熱処理室110aは湿潤気体接触室6aに隣接することが好ましい。
【0067】
(結露防止処理)
水蒸気接触処理のTACフィルム3において結露を抑えるために、水蒸気接触処理が施される前のTACフィルム3に低露点乾燥気体をあて、上記実施形態のTACフィルム3の温度を所定の範囲内にする結露防止処理を行うことが好ましい。結露防止処理と水蒸気接触処理とを順次連続して行うことが好ましい。
【0068】
低露点乾燥気体の温度は、湿潤気体400の温度Taよりも低いことが好ましい。また、低露点乾燥気体の露点は、水蒸気接触処理におけるTACフィルム3の温度Tf1よりも低いことが好ましい。低露点乾燥気体の露点が温度Tf1以上であると、水蒸気接触処理において、TACフィルム3に結露が生じてしまうためである。また、結露防止処理の完了時におけるTACフィルム3の温度Tf0の範囲は、湿潤気体400の露点よりもΔT0だけ高い温度にすることが好ましい。ΔT0は0℃よりも大きいことが好ましく、3℃以上であることがより好ましい。ΔT0が0℃以下となると、TACフィルム3の表面に結露が生じる結果、フィルムの面状故障となるため好ましくない。また、温度Tf0は、温度Tf1よりも低いことが好ましく、より具体的には、Tf0は100℃以上130℃以下であることが好ましく、100℃以上120℃以下であることがより好ましい。結露防止処理におけるTACフィルム3の温度Tf0は一定に維持されることが好ましい。なお、結露防止処理を施す対象を、TACフィルム3とせずに、湿潤フィルム88としてもよい。
【0069】
図9に示すように、結露防止処理は、結露防止処理ケーシング120に設けられる結露防止処理室120aで行われる。結露防止処理室120aには複数のローラ41が千鳥状に配される。ダクト122及び123により、結露防止処理ケーシング120と低露点乾燥気体供給設備121とが接続する。低露点乾燥気体供給設備121は、湿潤気体供給設備45と同様の構成を有し、ダクト123を介して結露防止処理室120aにある低露点乾燥気体404の一部を回収し、所定の温度の新たな低露点乾燥気体404をつくり、ダクト122を介して結露防止処理室120aへ新たな低露点乾燥気体404を供給する。これにより、結露防止処理室120a内には低露点乾燥気体404が充填される。なお、渡り部90(図5参照)と同様に、ローラ41をX方向に並べ、TACフィルム3を支持しながら搬送してもよい。結露防止処理ケーシング120は、湿潤気体接触ケーシング6の上流側に設けることが好ましく、結露防止処理室120aは湿潤気体接触室6aに隣接することが好ましい。
【0070】
本発明は、ドープを流延する際に、2種類以上のドープを同時に共流延させて積層させる同時積層共流延、または、複数のドープを逐次に共流延して積層させる逐次積層共流延を行うことができる。なお、両共流延を組み合わせてもよい。同時積層共流延を行う場合には、フィードブロックを取り付けた流延ダイを用いてもよいし、マルチポケット型の流延ダイを用いてもよい。ただし、共流延により多層からなるフィルムは、空気面側の層の厚さと支持体側の層の厚さとの少なくともいずれか一方が、フィルム全体の厚みの0.5〜30%であることが好ましい。また、同時積層共流延を行う場合には、ダイスリットから支持体にドープを流延する際に、高粘度ドープが低粘度ドープにより包み込まれることが好ましく、ダイスリットから支持体にかけて形成される流延ビードのうち、外界と接するドープが内部のドープよりもアルコールの組成比が大きいことが好ましい。
【0071】
上記実施形態では、湿潤気体400の成分として空気420を用いて水蒸気接触処理を行ったが、本発明はこれに限られず、空気420の代わりに、窒素及び希ガスのうちいずれか1つを用いてもよいし、空気、窒素及び希ガス等のうち少なくとも1つを含む混合ガスを用いてもよい。同様にして、乾燥空気や低露点乾燥空気として、空気の代わりに、窒素及び希ガスのうちいずれか1つを用いてもよいし、空気、窒素及び希ガス等のうち少なくとも1つを含む混合ガスを用いてもよい。また、湿潤気体400の代わりに、所定の温度に調節された水蒸気411を用いて水蒸気接触処理を行ってもよい。
【0072】
上記実施形態では、TACフィルムを用いたが、本発明はTACフィルムに限られず、セルロースアシレートや環状ポリオレフィン等、他のポリマーからなり、溶液製膜方法によって得られるポリマーフィルムや、溶融製膜方法によって製造されたポリマーフィルムにも用いることができる。
【0073】
(セルロースアシレート)
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでも良いし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていても良い。2種類以上のアシル基を用いるときは、その1つがアセチル基であることが好ましい。セルロースの水酸基をカルボン酸でエステル化している割合、すなわち、アシル基の置換度が下記式(I)〜(III)の全てを満足するものが好ましい。なお、以下の式(I)〜(III)において、A及びBは、アシル基の置換度を表わし、Aはアセチル基の置換度、またBは炭素原子数3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACの90質量%以上が0.1mm〜4mmの粒子であることが好ましい。
(I) 2.0≦A+B≦3.0
(II) 1.0≦ A ≦3.0
(III) 0 ≦ B ≦2.0
【0074】
アシル基の全置換度A+Bは、2.20以上2.90以下であることがより好ましく、2.40以上2.88以下であることが特に好ましい。また、炭素原子数3〜22のアシル基の置換度Bは、0.30以上であることがより好ましく、0.5以上であることが特に好ましい。
【0075】
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター,パルプのどちらから得られたものでも良い。
【0076】
本発明のセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でも良く特に限定されない。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していても良い。これらの好ましい例としては、プロピオニル、ブタノイル、ペンタノイル、ヘキサノイル、オクタノイル、デカノイル、ドデカノイル、トリデカノイル、テトラデカノイル、ヘキサデカノイル、オクタデカノイル、iso−ブタノイル、t−ブタノイル、シクロヘキサンカルボニル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、プロピオニル、ブタノイル、ドデカノイル、オクタデカノイル、t−ブタノイル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイルなどがより好ましく、特に好ましくはプロピオニル、ブタノイルである。
【0077】
(溶剤)
ドープを調製する溶剤としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが挙げられる。なお、本発明において、ドープとはポリマーを溶剤に溶解または分散して得られるポリマー溶液,分散液を意味している。
【0078】
これらの中でも炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フィルムの機械的強度など及びフィルムの光学特性などの物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶剤全体に対し2質量%〜25質量%が好ましく、5質量%〜20質量%がより好ましい。アルコールの具体例としては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール,エタノール,n−ブタノールあるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0079】
ところで、最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない場合の溶剤組成についても検討が進み、この目的に対しては、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、炭素数1〜12のアルコールが好ましく用いられる。これらを適宜混合して用いることがある。例えば、酢酸メチル,アセトン,エタノール,n−ブタノールの混合溶剤が挙げられる。これらのエーテル、ケトン,エステル及びアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン,エステル及びアルコールの官能基(すなわち、−O−,−CO−,−COO−及び−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も、溶剤として用いることができる。
【0080】
(添加剤)
ドープに所定の添加剤を添加してもよい。本発明で用いられる添加剤としては、可塑剤、紫外線吸収剤などがある。可塑剤として重縮合エステルを用いることが好ましい。
【0081】
(重縮合エステル)
重縮合エステルは、少なくとも一種の芳香環を有するジカルボン酸(芳香族ジカルボン酸とも呼ぶ)と少なくとも一種の脂肪族ジカルボン酸との混合物(炭素数の平均が6.0以上10.0以下のジカルボン酸)と、エチレングリコールおよび/または平均炭素数が2.0以上2.5以下の脂肪族ジオールとから得られる。平均炭素数の計算は、ジカルボン酸とジオールで個別に行う。ジカルボン酸の場合は、ジカルボン酸の組成比(モル分率)を構成炭素数に乗じて算出した値を平均炭素数とする(例えばアジピン酸とフタル酸が50モル%ずつから構成する場合は、平均炭素数7.0)。ジオールの場合も、ジカルボン酸の場合と同様で、例えばエチレングリコール50モル%と1,2−プロパンジオール50モル%から成る場合は平均炭素数2.5となる。
【0082】
重縮合エステルの数平均分子量は700〜2000であることが好ましく、800〜1500がより好ましく、900〜1200がさらに好ましい。本発明の重縮合エステルの数平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって測定、評価することができる。また、末端が封止のないポリエステルポリオールの場合、質量あたりの水酸基の量(以下、水酸基価)により算出することもできる。水酸基価は、ポリエステルポリオールをアセチル化した後、過剰の酢酸の中和に必要な水酸化カリウムの量(mg)を測定する。
【0083】
芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸との混合物としてのジカルボン酸は、炭素数の平均が6.0以上10.0以下のジカルボン酸である。炭素数の平均が6未満では偏光板の性能変化が不十分であり、フィルムの経時後、透水性が低下する。炭素数の平均が10を超えるとセルロースエステルへの相溶性が低下し、製膜過程でブリードアウトが発生する。
【0084】
芳香族ジカルボン酸としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,8−ナフタレンジカルボン酸または2,6−ナフタレンジカルボン酸等が好ましく用いられ、フタル酸、テレフタル酸がより好ましい。
【0085】
フタル酸、テレフタル酸、またはイソフタル酸を用いる場合、混合ジカルボン酸の平均炭素数は6以上7.5以下であることが好ましい。平均炭素数はより好ましくは6.5以上7以下である。ナフタレンジカルボンの場合、混合ジカルボン酸の平均炭素数は好ましくは6.5以上10以下であり、より好ましくは6.5以上9.0以下である。また、芳香族ジカルボン酸は1種でも、2種以上を用いてもよい。2種用いる場合は、フタル酸とテレフタル酸を用いることが好ましい。
【0086】
本発明で好ましく用いられる脂肪族ジカルボン酸は、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸または1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等が挙げられる。好ましくはコハク酸、アジピン酸である。また、脂肪族ジカルボン酸は1種でも、2種以上を用いてもよい。2種用いる場合は、コハク酸とアジピン酸を用いることが好ましい。
【0087】
重縮合エステルを形成するジオールとしてはエチレングリコールおよび/または平均炭素数が2.0以上2.5以下の混合ジオールである。脂肪族ジオールの平均炭素数が2.5より大きいと化合物の加熱減量が増大し、セルロースアシレートウェブ乾燥時の工程汚染が原因と考えられる面状故障が発生する。また、脂肪族ジオールの平均炭素数が2.0未満では合成が困難となるため、使用できない。脂肪族ジオールとしては、アルキルジオールまたは脂環式ジオール類を挙げることができ、例えばエタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロ−ルペンタン)、2−n−ブチル−2−エチル−1,3プロパンジオール(3,3−ジメチロールヘプタン)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−オクタデカンジオール、ジエチレングリコール等があり、これらはエタンジオールとともに1種または2種以上の混合物として使用されることが好ましい。
【0088】
好ましい脂肪族ジオールとしては、エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオールであり、特に好ましくはエタンジオールである。
【0089】
重縮合エステルの末端構造は、末端がジオール残基となるポリエステルポリオールであるか、または重縮合エステルの末端が炭素数3以下の脂肪族モノカルボン酸のエステル形成誘導体であることが好ましい。重縮合エステルの末端が酢酸またはプロピオン酸のエステル形成誘導体であることがより好ましい。
【0090】
重縮合エステルの末端は封止がなくジオール残基のままであるか、さらにモノカルボン酸類またはモノアルコール類を反応させて、所謂末端の封止を実施してもよい。封止に用いるモノカルボン酸類としては酢酸、プロピオン酸、ブタン酸等が好ましく、酢酸またはプロピオン酸がより好ましく、酢酸が最も好ましい。封止に用いるモノアルコール類としてはメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール等が好ましく、メタノールが最も好ましい。重縮合エステルの末端に使用するモノカルボン酸類の炭素数が3以下であると、化合物の加熱減量が大きくならず、面状故障が発生しない。重縮合エステルの末端はより好ましくは封止がなくジオール残基のままか、酢酸またはプロピオン酸による封止がさらに好ましく、酢酸封止により末端がアセチルエステル残基となることが最も好ましい。
【0091】
(重縮合エステルの具体例)
以下の表1に本発明にかかる重縮合エステルの具体例を記す。なお、表1において、「PA」はフタル酸を表す。同様に、「TPA」はテレフタル酸を、「IPA」はイソフタル酸を、「AA」はアジピン酸を、「SA」はコハク酸を表す。「NPA」は、ナフタレンジカルボン酸を表し、「−」の前の数字は、カルボン酸の置換位置を表す。また、「PD」はプロパンジオールを表し、「−」の前の数字は、水酸基の置換位置を表す。そして、「D残基」はジオール残基を表す。同様に、「AE残基」はアセチルエステル残基を、「PE残基」はプロピオニル残基を、「BE残基」はベンゾイルエステル残基を、「BuE残基」はブチリルエステル残基を、「EHE残基」は2−エチルヘキシルエステル残基を表す。
【0092】
【表1】

【0093】
重縮合エステルの合成は、常法により上記ジカルボン酸とジオールおよび必要に応じて末端封止用のモノカルボン酸またはモノアルコール、とのポリエステル化反応またはエステル交換反応による熱溶融縮合法か、あるいはこれら酸の酸クロライドとグリコール類との界面縮合法のいずれかの方法によっても容易に合成し得るものである。これらのポリエステル系可塑剤については、村井孝一編者「可塑剤 その理論と応用」(株式会社幸書房、昭和48年3月1日初版第1版発行)に詳細な記載がある。また、特開平05−155809号、特開平05−155810号、特開平5−197073号、特開2006−259494号、特開平07−330670号、特開2006−342227号、特開2007−003679号各公報などに記載されている素材を利用することもできる。
【0094】
本発明で用いられる重縮合エステルの添加量は、セルロースエステル量に対し0.1乃至60質量%であることが好ましく、1乃至55質量%であることがさらに好ましく、3乃至50質量%であることが最も好ましい。
【0095】
本発明で用いられる重縮合エステルが含有する原料の脂肪族ジオール、ジカルボン酸エステル、またはジオールエステルのセルロースエステルフィルム中の含有量は、1質量%未満が好ましく、0.5質量%未満がより好ましい。ジカルボン酸エステルとしては、フタル酸ジメチル、フタル酸ジ(ヒドロキシエチル)、テレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジ(ヒドロキシエチル)、アジピン酸ジ(ヒドロキシエチル)、コハク酸ジ(ヒドロキシエチル)等が挙げられる。ジオールエステルとしては、エチレンジアセテート、プロピレンジアセテート等が挙げられる。
【0096】
本発明のセルロースエステルフィルムは、少なくとも2つ以上の芳香環を有する化合物を含有することが好ましい。以下に少なくとも2つ以上の芳香環を有する化合物について説明する。少なくとも2つ以上の芳香環を有する化合物は一様配向した場合に光学的正の1軸性を発現することが好ましい。少なくとも2つ以上の芳香環を有する化合物の分子量は、300ないし1200であることが好ましく、400ないし1000であることがより好ましい。
【0097】
少なくとも二つの芳香族環を有する化合物としては、例えば特開2003−344655号公報に記載のトリアジン化合物、特開2002−363343号公報に記載の棒状化合物、特開2005−134884及び特開2007−119737号公報に記載の液相性化合物等が挙げられる。より好ましくは、上記トリアジン化合物または棒状化合物である。少なくとも2つの芳香族環を有する化合物は2種以上を併用して用いることもできる。
【0098】
少なくとも二つの芳香族環を有する化合物の添加量はセルロースエステルに対して質量比で0.05%以上20%以下が好ましく、0.5%以上15%以下がより好ましく、1%以上15%以下がさらに好ましい。
【0099】
なお、セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号の[0140]段落から[0195]段落に記載されている。これらの記載も本発明にも適用できる。また、溶剤及び可塑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤(UV剤),光学異方性コントロール剤,レターデーション制御剤,染料,マット剤,剥離剤,剥離促進剤などの添加剤についても、同じく特開2005−104148号の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されている。
【0100】
(用途)
本発明のポリマーフィルムは、偏光板保護フィルムや位相差フィルムとして有用である。このポリマーフィルムに光学的異方性層、反射防止層、防眩機能層等を付与して、高機能フィルムとしてもよい。
【0101】
位相差フィルムとして用いる場合、面内レターデーションReは30nm以上100nm以下であることが好ましく、厚み方向レターデーションRthは70nm以上300nm以下であることが好ましい。
【0102】
(溶融製膜設備)
次に、溶融製膜方法によりポリマーフィルムを製造する溶融製膜設備210について説明する。溶融製膜設備210は、図10に示すように、液晶表示装置等に使用できる熱可塑性フィルムFを製造する装置である。熱可塑性フィルムFの原材料であるペレット状の熱可塑性樹脂を乾燥機212に導入して乾燥させた後、このペレットを押出機214によって押し出し、ギアポンプ216によりフィルタ218に供給する。次いで、フィルタ218により異物がろ過され、ダイ220から溶融樹脂(溶融した熱可塑性樹脂)が押し出される。溶融樹脂は、第1キャスティングロール228とタッチロール224で挟まれて押圧成形された後、第1キャスティングロール228にて冷却固化されて所定の表面粗さのフィルム状とされ、さらに、第2キャスティングロール226、第3キャスティングロール227によって搬送されることで未延伸フィルムFaが得られる。この未延伸フィルムFaは、この段階で巻き取られてもよいし、連続的に長スパン延伸を行う横延伸部242に供給されてもよい。また、一度巻き取られた未延伸フィルムFaを再度横延伸部242に供給しても、連続的に長スパン延伸を行う横延伸部242に供給した場合と同様の効果が得られる。
【0103】
横延伸部242では、未延伸フィルムFaが搬送方向(以下、A方向と称する)と直交する幅方向(以下、B方向と称する)に延伸され、横延伸フィルムFbとされる。横延伸部242の上流側に予熱部236を設けてもよいし、横延伸部242の下流側に熱固定部244を設けてもよい。これにより、延伸中のボーイング(光学軸のズレ)を小さくできる。予熱温度は横延伸温度より高いこと、熱固定温度は横延伸温度より低いことが好ましい。すなわち、通常、ボーイングは幅方向中央部が進行方向に向かって凹となるが、予熱温度>横延伸温度、横延伸温度>熱固定温度とすることによりボーイングを低減できる。予熱処理、熱固定処理はどちらか一方でもよく、両方行ってもよい。
【0104】
横延伸の後に熱固定処理を行なった後、収縮処理ゾーン246でA方向に横延伸フィルムFbを収縮させる。収縮処理ゾーン246では、図11に示すように、横延伸フィルムFbの側端部をチャックで把持しない状態で、B方向の収縮が起こらずに、A方向の収縮のみが起こるように複数のロール248a〜248dで横延伸フィルムFbを搬送する。このとき、図12に示すように、複数のロール248a〜248dは、ロールラップ長(D)とロール間長(G)の比(G/D)が0.01以上3以下となるように配置される。これにより横延伸フィルムFbと各ロール248〜248dとの摩擦によりB方向の収縮が抑制される。そして、横延伸フィルムFbは、上流側のロール248aによる周速度(Va)と下流側のロール448dによる周速度(Vd)の比(Vd/Va)が0.6以上0.999以下で搬送されながら収縮する。つまり、横延伸フィルムFbは収縮処理ゾーン246にてA方向に収縮する。
【0105】
収縮処理ゾーン246にて、横延伸フィルムFbに収縮処理が施されることで、配向角、レターデーションが調整された最終製品である熱可塑性フィルムFが製造される。このフィルムFは巻取部249によって巻き取られる。
【0106】
B方向への延伸の前又は後にA方向の延伸を行ってもよい。A方向の延伸は、A方向に並ぶ複数のニップロール対を用いてフィルムを搬送し、上流側のニップロール対の周速度より下流側のニップロール対の周速度を速くすることで達成できる。A方向におけるニップロール間の距離(L)と上流側のニップロール対でのフィルム幅Wの比(L/W)の大きさで延伸方式が異なり、L/Wが小さいと特開2005−330411号公報、特開2006−348114号公報記載のようなA方向の延伸方式を採用できる。この方式は、Rthが大きくなり易いが装置をコンパクトにすることができる。一方、L/Wが大きい場合は特開2005−301225号公報記載のようなA方向の延伸方式を用いることができる。この方式はRthを小さくできるが、装置が長大になり易い。
【0107】
溶融製膜方法に用いることのできるポリマーは、熱可塑性樹脂であれば特に限定されず、例えば、セルロースアシレート、ラクトン環含有重合体、環状ポリオレフィン、ポリカーボネイト等が挙げられる。中でも好ましいのがセルロースアシレート、環状ポリオレフィンであり、中でも好ましいのがアセテート基、プロピオネート基を含むセルロースアシレート、付加重合によって得られた環状ポリオレフィンであり、さらに好ましくは付加重合によって得られた環状ポリオレフィンである。
【0108】
(環状ポリオレフィン)
環状ポリオレフィンはノルボルネン系化合物から重合されるものが好ましい。この重合は開環重合、付加重合いずれの方法でも行える。付加重合としては例えば特許3517471号公報記載のものや特許3559360号公報、特許3867178号公報、特許3871721号公報、特許3907908号公報、特許3945598号公報、特表2005−527696号公報、特開2006−28993号公報、国際公開第2006/004376号パンフレットに記載のものが挙げられる。特に好ましいのは特許3517471号公報に記載のものである。
【0109】
開環重合としては国際公開第98/14499号パンフレット、特許3060532号公報、特許3220478号公報、特許3273046号公報、特許3404027号公報、特許3428176号公報、特許3687231号公報、特許3873934号公報、特許3912159号公報記載のものが挙げられる。なかでも好ましいのが国際公開第98/14499号パンフレット、特許3060532号公報記載のものである。
【0110】
これらの環状ポリオレフィンの中でも付加重合のものの方がより好ましい。
【0111】
(ラクトン環含有重合体)
下記(一般式1)で表されるラクトン環構造を有するものを指す。
【0112】
【化1】

【0113】
(一般式1)中、R1、R2、R3は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜20の有機残基を表す。なお、有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。
【0114】
(一般式1)のラクトン環構造の含有割合は、好ましくは5〜90質量%、より好ましくは10〜70質量%、さらに好ましくは10〜50質量%である。
【0115】
(一般式1)で表されるラクトン環構造以外に、(メタ)アクリル酸エステル、水酸基含有単量体、不飽和カルボン酸、下記(一般式2)で表される単量体から選ばれる少なくとも1種を重合して構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)が好ましい。
【0116】
【化2】

【0117】
(一般式2)中、R4は水素原子又はメチル基を表し、Xは水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、−OAc基、−CN基、−CO−R5基、又は−C−O−R6基を表し、Ac基はアセチル基を表し、R5及びR6は水素原子又は炭素数1〜20の有機残基を表す。
【0118】
例えば、国際公開第2006/025445号パンフレット、特開2007−70607号公報、特開2007−63541号公報、特開2006−171464号公報、特開2005−162835号公報記載のものを用いることができる。
【0119】
(液晶表示装置)
液晶表示装置の構成部材として、本発明のポリマーフィルムを用いることができる。図13に示すように、液晶表示装置260は、バックライト261と、バックライト261からの光を透過する状態、及び光の透過を遮る状態との間で遷移可能な液晶セル262と、液晶セル262に向かう光が入射する第1偏光板263と、液晶セル262を透過した光が入射する第2偏光板264とを備える。液晶セル262は、特に限定されないが、VA型の液晶セルであることが好ましい。
【0120】
(偏光板)
第1偏光板263は、第1偏光膜263aと、第1偏光膜263aの表面のうち、液晶セル262側の表面に設けられる第1位相差フィルム263bと、第1偏光膜263aの表面のうち、第1位相差フィルム263bが設けられる表面と反対側の表面に設けられる第1保護フィルム263cとを有する。同様に、第2偏光板264は、第2偏光膜264aと、第2偏光膜264aの表面のうち、液晶セル262側の表面に設けられる第2位相差フィルム264bと、第2偏光膜264aの表面のうち、第2位相差フィルム264bが設けられる表面と反対側の表面に設けられる第2保護フィルム264cとを有する。各位相差フィルム263b、264bとして、本願発明のフィルムを用いることが好ましい。なお、第2位相差フィルム264bは省略してもよい。
【実施例1】
【0121】
(フィルムの製造)
実施例に用いた各ポリマーフィルムの製造方法について説明する。
【0122】
(試料No.A1)
フィルム製造に使用した流延ドープの調製に際しての配合を下記に示す。
[原料ドープαの調製]
原料ドープαの調製の処方を下記に示す。
セルローストリアセテートX(置換度2.86) 89.3質量%
可塑剤A(トリフェニルフォスフェート) 7.1質量%
可塑剤B(ビフェニルジフェニルフォスフェート) 3.6質量%
の組成比からなる固形分(溶質)を
ジクロロメタン 82 質量%
メタノール 15.0質量%
n−ブタノール 3.0質量%
からなる混合溶剤に適宜添加し、攪拌溶解して原料ドープαを調製した。なお、原料ドープαにおけるセルローストリアセテートXの濃度が略23質量%になるように調整した。原料ドープを濾紙(東洋濾紙(株)製,#63LB)にて濾過後さらに焼結金属フィルタ(日本精線(株)製06N,公称孔径10μm)で濾過し、さらにメッシュフイルタで濾過した後にストックタンクに入れた。
【0123】
[セルローストリアセテートX]
なお、ここで使用したセルローストリアセテートXは、残存酢酸量が0.1質量%以下であり、Ca含有率が57ppm、Mg含有率が41ppm、Fe含有率が0.4ppmであり、遊離酢酸38ppm、さらに硫酸イオンを13ppm含むものであった。また6位水酸基の水素に対するアセチル基の置換度は0.89であった。セルローストリアセテートXの質量平均分子量/数平均分子量比は2.5であった。セルローストリアセテートXは、パルプから採取したセルロースを原料として合成されたものである。
【0124】
[マット剤液の調製]
下記の処方からマット剤液αを調製した。
シリカ粒子分散液(平均粒径16nm) 10.0質量部
(日本アエロジル(株)製アエロジルR972)
ジクロロメタン 72.8質量部
メタノール 3.9質量部
n−ブタノール 0.5質量部
原料ドープα 10.3質量部
上記処方からマット剤液を調製して、アトライターにて体積平均粒径0.7μmになるように分散を行った後、富士フイルム(株)製アストロポアフィルタにてろ過した。そして、マット剤液用タンクに入れた。
【0125】
図6に示すように、溶液製膜設備100を用いてTACフィルムを製造した。マット剤液α及び化3に示すレターデーション制御剤を含む液をインラインミキサで混合攪拌して混合添加剤を得た。レターデーション制御剤の添加量は、流延ドープにおいてセルローストリアセテートXの9.5%質量となるように調整した。添加剤供給ラインは、混合添加剤を配管内に送液した。インラインミキサは原料ドープαと混合添加剤とを混合攪拌して流延ドープ81を得た。流延ドラム82は、制御部の制御の下、軸82aを中心に回転し、走行方向Z1における周面82bの速度を50m/分以上200m/分以下の範囲内でほぼ一定となるように保持した。流延ドラム82の周面82bの温度を、−10℃以上10℃以下の範囲内でほぼ一定となるように保持した。流延ダイ84は、流延ドープ81を周面82b上に流延し、周面82bに流延膜86を形成した。冷却により、流延膜86が自己支持性を有するものとなった後、剥取ローラ89を用いて、流延ドラム82から流延膜86を湿潤フィルム88として剥ぎ取った。剥取不良を抑制するために流延ドラム82の速度に対する剥取速度(剥取ローラドロー)を、100.1%〜110%の範囲で適切に調整した。湿潤フィルム88は、渡り部90、ピンテンタ91、及び乾燥室97へ順次案内された。渡り部90、ピンテンタ91、及び乾燥室97は、湿潤フィルム88に乾燥空気をあてて、所定の乾燥処理を行った。この乾燥処理によって得られるTACフィルムをテンタ部5に送った。テンタ部5では、TACフィルムに延伸処理を施した。この延伸処理において、TACフィルムの温度Tfe、延伸率ERは表2に示すとおりであった。延伸処理を経たTACフィルムを冷却部7に送った。冷却部7では、TACフィルムを30℃以下になるまで冷却した。その後、TACフィルムに、除電処理、ナーリング付与処理などを行った後、巻取室8に搬送した。巻取室8では、プレスローラ37で所望のテンションを付与しつつ、TACフィルムを巻き芯36に巻き取った。溶液製膜設備100により製造されたTACフィルムは、幅が2000mmであった。試料No.A1のTACフィルムの厚さ、面内レターデーション、厚み方向のレターデーション及びヘイズを測定した。試料No.A1のTACフィルムの膜厚、Re、Rth及びヘイズの測定値は、それぞれ表2に示す。
【0126】
【表2】

【0127】
表2において、各セルローストリアセテートW〜Zの置換度Aは、アセチル基による置換度である。可塑剤Aはトリフェニルフォスフェートであり、可塑剤Bは、ビフェニルジフェニルフォスフェートであり、可塑剤Cは、表1に示すP−41の化合物である。表2に示す添加量は、化3に示すレターデーション制御剤の添加量である。
【0128】
【化3】

【0129】
(面内レターデーションReの測定方法)
サンプルフィルムを温度25℃,湿度60%RHで2時間調湿し、自動複屈折率計(KOBRA21ADH 王子計測(株))にて589.3nmにおける垂直方向から測定したレターデーション値の外挿値より次式に従い算出した。
Re=|nX−nY|×d
nXは、X方向の屈折率,nYはY方向の屈折率,dはフィルムの厚み(膜厚)を表す。
【0130】
(厚み方向レターデーションRthの測定方法)
サンプルフィルムを温度25℃,湿度60%RHで2時間調湿し、自動複屈折率計(KOBRA21ADH 王子計測(株))にて589.3nmにおける垂直方向から測定した値と、フィルム面を傾けながら同様に測定したレターデーション値の外挿値とから下記式に従い算出した。
Rth={(nX+nY)/2−nTH}×d
nTHは厚み方向の屈折率を表す。
【0131】
(ヘイズの測定方法)
ヘイズは、各ポリマーフィルムから40mm×80mmの大きさで切り出したものをサンプルフィルムとし、このサンプルフィルムについて25℃60%RHでヘイズメータ(型式:HGM−2DP,スガ試験機)を用いてJIS K−6714に従って測定した。
【0132】
(試料No.A2)
表1に示すこと以外は試料No.A1のTACフィルムと同様にして、試料No.A2のTACフィルムを得た。
【0133】
(試料No.A3)
セルローストリアセテートXに代えて表2に示すセルローストリアセテートYを用いたこと、化3のレターデーション制御剤の添加量を表2に示した値に変更したこと、延伸率ER及びTACフィルムの温度Tfeを表2に示す値としたこと以外は、試料No.A1と同様にして、試料No.A3のTACフィルムをつくった。
【0134】
[セルローストリアセテートY]
セルローストリアセテートYは、置換度が2.76であり、残存酢酸量が0.1質量%以下であり、Ca含有率が1ppm、Mg含有率が45ppm、Fe含有率が0.5ppmであり、遊離酢酸0.023質量%、さらに硫酸イオンを0.013質量%含むものであった。また6位水酸基の水素に対するアセチル基の置換度は0.84であった。また、全アセチル基中の30.4%が6位の水酸基の水素が置換されたアセチル基であった。また、セルローストリアセテートYの質量平均分子量/数平均分子量比は2.5であった。セルローストリアセテートYは、針葉樹パルプから採取したセルロースを原料として合成されたものである。
【0135】
(試料No.A4)
セルローストリアセテートXに代えて表2に示すセルローストリアセテートYを用いたこと、化3のレターデーション制御剤の添加量を表2に示した値に変更したこと、延伸率ER及びTACフィルムの温度Tfeを表2に示す値としたこと以外は、試料No.A1と同様にして、試料No.A4のTACフィルムをつくった。試料No.A4のTACフィルムの厚さ、面内レターデーション、厚み方向のレターデーション及びヘイズを測定した。試料No.A4のTACフィルムの膜厚、Re、Rth及びヘイズの測定値は、それぞれ表2に示す。
【0136】
(試料No.A5)
原料ドープαに代えて原料ドープβを用いたこと、マット剤液αに代えてマット剤液βを用いたこと、レターデーション制御剤の添加量を表2に示した値に変更したこと、延伸率ER及びTACフィルムの温度Tfeを表2に示す値としたこと以外は、試料No.A1と同様にして、試料No.A5のTACフィルムを得た。試料No.A5のTACフィルムの厚さ、面内レターデーション、厚み方向のレターデーション及びヘイズを測定した。試料No.A5のTACフィルムの膜厚、Re、Rth及びヘイズの測定値は、それぞれ表2に示す。
【0137】
[原料ドープβの調製]
原料ドープβの調製の処方は、下記に示すこと以外は、原料ドープαと同様である。
セルローストリアセテートY(置換度2.76) 89.3 質量%
可塑剤C(表1記載の化合物NoP−41) 9.0 質量%
の組成比からなる固形分(溶質)を
ジクロロメタン 82 質量%
メタノール 15.0 質量%
n−ブタノール 3.0 質量%
からなる混合溶剤に適宜添加し、攪拌溶解して原料ドープβを調製した。原料ドープβにおけるセルローストリアセテートYの濃度は23.5質量%であった。
【0138】
[マット剤液βの調製]
マット剤液βの調製の処方は、下記に示すこと以外は、マット剤液αと同様である。
シリカ粒子分散液(平均粒径16nm) 10.0質量部
(日本アエロジル(株)製アエロジルR972)
ジクロロメタン 72.8質量部
メタノール 3.9質量部
n−ブタノール 0.5質量部
原料ドープα 10.3質量部
【0139】
(試料No.A6〜A7)
セルローストリアセテートXに代えてブレンドポリマーを用いたこと、及び延伸処理の条件を表2に示した値に変更したこと以外は、試料No.A5と同様にして、試料No.A6及び試料No.A7のTACフィルムを得た。ブレンドポリマーは、セルローストリアセテートX及びセルローストリアセテートYを表2に示す質量比率で混合したものである。
【0140】
(試料No.A8)
セルローストリアセテートYに代えてセルローストリアセテートXを用いたこと、及び延伸処理の条件を表2に示した値に変更したこと以外は、試料No.A5と同様にして、試料No.A8のTACフィルムを得た。
【0141】
この際、製膜する時点において、置換度2.76の綿の割合が大きいものほど、ドラムからの剥ぎ取り角度が大きくなる傾向がみられたが、製造時に問題になるレベルではなかった。
【0142】
(試料No.A9)
セルローストリアセテートYに代えてセルローストリアセテートW(置換度2.44)を用いたこと以外は、試料No.A5と同様にして、試料No.A9のTACフィルムを得た。
【0143】
(試料No.A10〜A12)
延伸処理の条件を表2に示した値に変更したこと以外は、試料No.A5〜A8と同様にして、試料No.A10〜12のTACフィルムを得た。
【0144】
試料No.A2〜A12のTACフィルムの厚さ、面内レターデーション、厚み方向のレターデーション及びヘイズを測定した。試料No.A2〜A12のTACフィルムの膜厚、Re、Rth及びヘイズの測定値は、それぞれ表2に示す。
【0145】
(試料No.B1)
延伸処理を有する溶液製膜方法を用いて、フイルムNo.1(セルロースアセテートプロピオネート:幅1900mm)を得た。得られたフィルムを試料No.B1のフィルムと称する。溶液製膜方法の各条件は、特開2001−188128の実施例1に記載に従った。また、延伸処理の延伸率ER及び延伸処理におけるフィルムの温度Tfeは、表3に示す通りであった。
【0146】
【表3】

【0147】
なお、表3に示す「CAP」は、セルロースアセテートプロピオネートを示し、「ラクトン」はラクトン環含有重合体樹脂を、「シクロオレフィン」はシクロオレフィン樹脂Aをそれぞれ示す。置換度Aは、アセチル基による置換度であり、置換度Bは、プロピオニル基による置換度である。表3に示す添加量は、化3に示すレターデーション制御剤の添加量である。膜厚、Re、Rth及びヘイズは、得られたポリマーフィルムの厚さ、面内レターデーション、厚み方向のレターデーション及びヘイズである。
【0148】
(試料No.B2)
延伸処理を有する溶液製膜法を用いて、試料No.B2のフィルムを得た。延伸処理の延伸率ER及び延伸処理におけるフィルムの温度Tfeは、表3に示す通りであった。その他溶液製膜方法の各条件は、国際公開第2007/125764号の実施例1の記載に従い、試料No.B2のフィルムは、国際公開第2007/125764号の実施例1のセルロースエステルフィルムNo.119に相当する。
【0149】
(試料No.C1)
延伸処理を有する溶融製膜法を用いて、ラクトン環含有重合体樹脂からなるポリマーフイルム(幅1500mm)を得た。これを試料No.C1のフィルムと称する。延伸処理の延伸率ER及び延伸処理におけるフィルムの温度Tfeは、表3に示す通りであった。その他溶融製膜方法の各条件は、国際公開第2006/025445号パンフレット記載の実施例1に従った。
【0150】
(試料No.D1)
溶融製膜方法を行い、シクロオレフィン樹脂Aからなるポリマーフイルム(幅1500mm)を得た。これを試料No.D1のフィルムと称する。
シクロオレフィン樹脂A(付加重合系):ポリプラスチックス(株)製TOPAS6013(Tg=130℃)
【0151】
試料No.D1のフィルムを製造した溶融製膜方法の詳細は次の通りである。シクロオレフィン樹脂Aを110℃の真空乾燥機で乾燥し含水率を0.1%以下とした後、1軸混練押出し機を用い260℃で溶融しギアポンプから送り出した後、濾過精度5μmのリーフディスクフィルタにて濾過し、スタティックミキサーを経由してスリット間隔0.8mm、270℃のハンガーコートダイから、(Tg−5)℃、Tg℃、(Tg−10)℃に設定した3連のキャストロール上にメルト(溶融樹脂)を押出した。この時、最上流側のキャストロールに面圧0.1MPaでタッチロールを接触させ、厚み100μmの未延伸フイルムを製膜した。タッチロールは特開平11−235747号公報の実施例1に記載のもの(二重抑えロールと記載のあるもの)を用い、(Tg−5)℃に調温した(但し薄肉金属外筒厚みは2mmとした)。
【0152】
この後、巻き取り前の未延伸フィルムをテンタに送り、延伸処理を行った。延伸処理の延伸率ER及び延伸処理におけるフィルムの温度Tfeは、表3に示す通りであった。延伸処理が施されたフィルムの両端(全幅の各3%)をトリミングした後、両端に幅10mm、高さ20μmの厚みだし加工(ナーリング)をつけた。各水準とも、幅は1.5mで30m/分で3000m巻き取った。
【0153】
(試料No.A1H1)
図8に示す溶液製膜設備104の湿潤気体接触ケーシング6及び冷却部7の間に熱処理ケーシング110(図9参照)を追加した設備を用いて、試料No.A1H1のTACフィルムを製造した。試料No.A1H1のTACフィルムの製造条件は、以下に述べるここと以外は、試料No.A1のTACフィルムと同様である。
【0154】
湿潤気体接触室6aでは、延伸処理が施されたTACフィルムに水蒸気接触処理を1分間施した。湿潤気体接触室6a内の湿潤気体400の絶対湿度VMは490g/cmであり、相対湿度Hu1は79%RHであった。また、湿潤気体400の露点は、TACフィルムの温度Tf0よりも10℃以上高い温度となるように調節した。湿潤気体接触室6a内において、TACフィルムの温度Tf1は102℃であった。熱処理室では、水蒸気接触処理を経たTACフィルムに熱処理を2分間施した。熱処理中のTACフィルムの温度Tf2は130℃であった。試料No.A1H1のTACフィルムの膜厚、面内レターデーション、厚み方向レターデーション、及びヘイズは、表4に示すとおりである。
【0155】
(試料No.A2H1〜A12H1、B1H1〜B2H1、C1H1、D1H1)
水蒸気接触処理の条件及び熱処理の条件、並びにその他の条件を、試料No.A1H1のTACフィルムと同様にして、試料No.A2H1〜A12H1、B1H1〜B2H1、C1H1、D1H1のポリマーフィルムを製造した。試料No.A1H2〜A12H1、B1H1〜B2H1、C1H1、D1H1のポリマーフィルムの膜厚、面内レターデーション、厚み方向レターデーション、及びヘイズは、表4に示すとおりである。
【0156】
【表4】

【0157】
水蒸気接触処理済みの各ポリマーフィルム(試料No.A1H1〜A12H1、B1H1、B2H1、C1H1、D1H1)、及び水蒸気接触処理が施されていないポリマーフィルム(試料No.A1〜A12、B1、B2、C1、D1)について、湿熱耐久試験及び乾熱耐久試験をそれぞれ行い、各耐久試験前後における各ポリマーフィルムの状態の変化を調べた。
【0158】
(湿熱耐久試験)
各ポリマーフィルムから、X方向の長さX0、Y方向の長さY0のサンプルフィルムを切り出し、このサンプルフィルムについて湿熱耐久試験を行った。湿熱耐久試験では、サンプルフィルムを試験室内に21日間継続して配置した。試験室内部の環境条件は、温度60℃、湿度90%RHでほぼ一定に保った。湿熱耐久試験後のサンプルフィルムについて、面内レターデーションRe1WET、厚み方向レターデーションRth1WET、X方向の長さX1WET、Y方向の長さY1WETを測定した。
【0159】
(乾熱耐久試験)
各ポリマーフィルムから、X方向の長さX0、Y方向の長さY0のサンプルフィルムを切り出し、このサンプルフィルムについて乾熱耐久試験を行った。乾熱耐久試験では、サンプルフィルムを試験室内に21日間継続して配置した。試験室内部の環境条件は、温度80℃、湿度5%RHでほぼ一定に保った。乾熱耐久試験後のサンプルフィルムについて、面内レターデーションRe1DRY、厚み方向レターデーションRth1DRY、X方向の長さX1DRY、Y方向の長さY1DRYを測定した。
【0160】
ΔXWET、ΔYWET、ΔReWET、及びΔRthWETは、湿熱耐久試験前後におけるサンプルフィルムにおける、X方向の寸法の変動量の割合{(X1WET−X0)/X0}、Y方向の寸法の変動量の割合{(Y1WET−Y0)/Y0}、面内レターデーションの変動量(Re1WET−Re0)、及び厚み方向レターデーションの変動量(Rth1WET−Rth0)を示す。また、ΔXDRY、ΔYDRY、ΔReDRY、及びΔRthDRYは、乾熱耐久試験前後におけるサンプルフィルムにおける、X方向の寸法の変動量の割合{(X1DRY−X0)/X0}、Y方向の寸法の変動量の割合{(Y1DRY−Y0)/Y0}、面内レターデーションの変動量(Re1DRY−Re0)、及び厚み方向レターデーションの変動量(Rth1DRY−Rth0)を示す。
【0161】
湿熱耐久試験の開始から1日経過、5日経過、10日経過、そして21日経過におけるΔReWET及びΔRthWETを測定した。表5中の@1d、@5d、@10d、@21dは、それぞれ、1日経過、5日経過、10日経過、そして21日経過におけるΔReWET及びΔRthWETの測定値を示す。同様に、乾熱耐久試験の開始から1日経過、5日経過、10日経過、そして21日経過におけるΔReDRY及びΔRthDRYを測定した。表6中の@1d、@5d、@10d、@21dは、それぞれ、1日経過、5日経過、10日経過そして21日経過におけるΔReDRY及びΔRthDRYの測定値を示す。
【0162】
【表5】

【0163】
【表6】

【実施例2】
【0164】
(試料No.A13)
延伸処理を有する溶液製膜方法を用いて、特開2006−28479の実施例に従いアセチル置換度2.81のセルローストリアセテートZを用いたこと以外は、実施例1の試料No.A1と同様にして、試料No.A13のTACフィルムを得た。延伸処理開始時におけるTACフィルムの残留溶剤量が35質量%であったこと、延伸処理の条件を表2に示した値に変更したこと、フィルム幅方向の遅相軸角度をほぼフラットになるように調節して延伸処理を行ったこと以外は、実施例1の試料No.A5と同様にして、延伸処理を行った。試料No.A13のTACフィルムの膜厚、Re、Rth及びヘイズの測定値は、それぞれ表2に示す。また、試料No.A13のTACフィルムの内部ヘイズは0.05%であった。
【0165】
(内部ヘイズの測定方法)
内部ヘイズは、次のようにして測定した。サンプルフィルムを25℃60%RHで2時間以上調湿した後に、2枚のスライドガラス板に流動パラフィンを介して挟み込み、ヘイズメータ(HGM−2DP、スガ試験機)にて、サンプルフィルムのヘイズを測定した。また、2枚のスライドガラス板にサンプルフィルムなしで、流動パラフィンのみを挟み込んだ状態のブランクサンプルを作成し、このブランクサンプのヘイズを測定した。そして、サンプルフィルムのヘイズの測定値から、ブランクサンプのヘイズの測定値を引いたものを、内部ヘイズとした。
【0166】
(遅相軸角度の測定方法)
自動複屈折測定装置(エトー商事株式会社製AD200S)を用いて、試料No.A13のTACフィルムの遅相軸角度を測定した。遅相軸角度は、サンプルフィルムの遅相軸と、サンプルフィルムのX方向との角度をいう。試料No.A13のTACフィルムに、遅相軸角度の測定点20箇所をY方向にかけて等間隔に設けた。それぞれの測定点を含むように、試料No.A13のTACフィルムから20枚のサンプルフィルム(X方向の寸法は11cm、Y方向の寸法は7cm)を切り出し、それぞれのサンプルフィルムについて遅相軸角度の測定を行った。遅相軸角度の最大値から遅相軸角度の最小値を減じた遅相軸ズレ量を算出した。遅相軸ズレ量は、0.1°であった。
【0167】
(試料No.A13H1)
試料No.A1H1のTACフィルムと同様に延伸処理を経たTACフィルムについて水蒸気接触処理及び熱処理を順次施したこと以外は、試料No.A13のTACフィルムと同様にして、試料No.A13H1のTACフィルムを製造した。水蒸気接触処理を1分間行った。湿潤気体の絶対湿度VMは400g/cmであり、相対湿度Hu1は57%RHであった。また、湿潤気体の露点は、TACフィルムの温度Tf0よりも10℃以上高い温度となるように調節した。湿潤気体接触室内において、TACフィルムの温度Tf1は105℃であった。熱処理を2分間行った。熱処理中のTACフィルムの温度Tf2は120℃であった。試料No.A13H1のTACフィルムの膜厚、面内レターデーション、厚み方向レターデーション、及びヘイズは、表4に示すとおりである。また、試料No.A13H1のTACフィルムの内部ヘイズは0.05%であった。試料No.A13H1のTACフィルムの遅相軸角度を測定し、遅相軸角度の最大値から遅相軸角度の最小値を減じた遅相軸ズレ量を算出した。遅相軸ズレ量は、0.1°であった。
【0168】
試料No.A13、及び試料No.A13H1のTACフィルムについて、それぞれ湿熱耐久試験を60分間行った。湿熱耐久試験の環境条件は、温度が80℃で、湿度が90%RHであった。この湿熱耐久試験前後における遅相軸ズレ量の変動を調べたところ、試料No.A13の遅相軸ズレ量は、湿熱耐久試験により、0.1°から1.0°へと増大した。一方、試料No.A13H1の遅相軸ズレ量は、湿熱耐久試験により、0.1°から0.2°へとほとんど変化がなかった。
【実施例3】
【0169】
(試料No.A1H2〜A13H2)
図7に示す溶液製膜設備102の湿潤気体接触ケーシング6及び乾燥室97の間に熱処理ケーシング110(図9参照)を追加した設備を用いたこと以外は、実施例1の試料No.A1H1〜A13H1のTACフィルムと同様にして、試料No.A1H2〜A13H2のTACフィルムを製造した。試料No.A1H2〜A13H2の製造過程におけるフィルム乾燥時間は、試料No.A1H1〜A13H1の製造過程におけるフィルム乾燥時間に比べて、約10%だけ短かった。ここでフィルム乾燥時間とは、水蒸気接触処理時間、熱処理時間、及び乾燥室97における乾燥処理時間の総和をいう。
【実施例4】
【0170】
(実験1)
図7に示す溶液製膜設備102の湿潤気体接触ケーシング6及び乾燥室97の間に熱処理ケーシング110(図9参照)を追加し、耳切装置30及び湿潤気体接触ケーシング6の間に結露防止処理ケーシング120(図9参照)を追加した設備を用いたこと、及び以下に述べること以外は、実施例1の試料No.A1H1のTACフィルムと同様にして、試料No.A1H(1)のTACフィルムを製造した。
【0171】
テンタ部5における延伸処理を経たTACフィルムに、結露防止処理、水蒸気接触処理、及び熱処理を順次行った。その後、室温まで冷却しTACフィルム(試料No.A1H(1))を巻き取った。結露防止処理では、TACフィルムに乾燥空気をあてて、TACフィルムの温度Tf0を調節した。結露防止処理における温度Tf0は、表7に示すとおりである。水蒸気接触処理では、湿潤気体接触室6a内の湿潤気体400の絶対湿度VM、相対湿度Hu1が表7に示す値となるように、そして、湿潤気体400の露点は、TACフィルムの温度Tf0よりも10℃以上高い温度となるように調節し、TACフィルムの温度Tf1が表7に示す値となる状態を、表7に示す処理時間P1だけ維持しながら、TACフィルムを搬送した。湿潤気体接触室6a内における搬送テンションFは表7に示すとおりである。熱処理では、熱処理室内の気体の相対湿度Hu2が表7に示す値になるように調節し、TACフィルムの温度Tf2が表7に示す値となる状態を、処理時間P2だけ維持した。なお、表7に示す「*」は、該当する処理が行われず、該当するパラメータを測定できなかったことを示す。
【0172】
また、表8中のTH0、Re0、Rth0、Ha1、及びHa2は、湿熱耐久試験及び乾熱耐久試験を行う前の試料No.A1H(1)のTACフィルムの膜厚、面内レターデーション、厚み方向レターデーション、ヘイズ、及び内部ヘイズである。なお、表8に示す「−」は、該当するパラメータの測定を行っていないものを示す。
【0173】
【表7】

【0174】
【表8】

【0175】
試料No.A1H(1)について、湿熱耐久試験及び乾熱耐久試験をそれぞれ行った。湿熱耐久試験前後における試料No.A1H(1)の状態の変化を表9に、乾熱耐久試験前後における試料No.A1H(1)の状態の変化を表10に、それぞれ示す。
【0176】
【表9】

【0177】
【表10】

【0178】
(実験2〜35)
結露防止処理、水蒸気接触処理、及び熱処理の各条件を表7に示す値にしたこと以外は実験1と同様にして、試料No.A1のTACフィルムから試料No.A1H(2)〜A1H(35)を得た。得られた試料No.A1H(2)〜A1H(35)のTACフィルムについて、膜厚、面内レターデーション、厚み方向レターデーション、ヘイズ、及び内部ヘイズを測定した。各パラメータの測定値は、表8に示す。試料No.A1H(2)〜A1H(35)のTACフィルムについて、湿熱耐久試験及び乾熱耐久試験をそれぞれ行った。各耐久試験前後における試料No.A1H(2)〜A1H(35)のTACフィルムの状態の変化を表9及び表10に示す。
【0179】
(実験101)
図5に示す溶液製膜設備80のうちテンタ部5を省略した設備にて、ポリマーと溶剤とを含むドープを用いて、冷却ゲル化方式の溶液製膜方法により、TACフィルムを製造した。製造されたTACフィルムは巻き芯36に巻き取られフィルムロールとなった。フィルムロールは、図1に示すオフライン延伸設備2に送られた。オフライン延伸設備2では、TACフィルムに、延伸処理、結露防止処理、水蒸気接触処理、及び熱処理を順次施した。各処理における条件は、実験1と同様である。本実験で得られたTACフィルムのΔXWET、及びΔYWETの絶対値が、実験1で得られたTACフィルムのΔXWET、及びΔYWETの絶対値に比べて、それぞれ0.02%〜0.10%大きいことがわかった。
【0180】
(実験102〜実験135)
各処理における各条件を実験2〜実験35と同様にしたこと以外は、実験101と同様にして、TACフィルムを製造した。
【0181】
実験102〜135で得られたTACフィルムのΔXWET、及びΔYWETの絶対値が、実験2〜35で得られたTACフィルムのΔXWET、及びΔYWETの絶対値に比べて、それぞれ0.02%〜0.10%大きいことがわかった。
【0182】
表1に記載の試料No.A2〜A13、B1、B2、C1、D1のフィルムについても、実験1〜実験135と同様にして各処理を行ったところ、実験1〜実験135と同様の傾向の結果を得ることができた。
【0183】
ポリマーフィルムに水蒸気接触処理を行うことにより、湿熱耐久性試験前後におけるレターデーションの変動を抑えることが出来ることがわかった。また、ポリマーフィルムに水蒸気接触処理を行った後、熱処理を行うことにより、各耐久性試験前後におけるレターデーションの変動及び寸法の変動を抑えることが出来ることがわかった。更に、水蒸気接触処理の前に結露防止処理を行うことにより、ポリマーフィルムにおいて、水蒸気接触処理における結露を防止することができることがわかった。また、水蒸気接触処理を乾燥処理の前に行うことにより、溶液製膜方法における乾燥処理の時間を短縮することができることがわかった。
【実施例5】
【0184】
(偏光板の作製)
実施例1〜2で作製した各ポリマーフィルムを用いて、液晶表示装置を作製した。
【0185】
(偏光膜の作製)
厚さ80μmのポリビニルアルコールフィルムを、ヨウ素水溶液(ヨウ素濃度0.05質量%、温度30℃)中に60秒浸漬して染色した。次いで、ポリビニルアルコールフィルムをホウ酸水溶液(ホウ酸濃度4質量%)中に60秒浸漬した。ホウ酸水溶液に浸漬しているポリビニルアルコールフィルムを延伸した。延伸前後において、ポリビニルアルコールフィルムの延伸方向の寸法変化は5倍であった。ホウ酸水溶液から取り出した延伸済みのポリビニルアルコールフィルムに、50℃の乾燥風を4分間あてる乾燥処理を行った。乾燥処理により、厚さ20μmの偏光膜を得た。
【0186】
(偏光板の作製)
実施例1〜2で作製したポリマーフィルム及びフジタックTD80(富士フイルム(株)製)を1.5モル/リットルで55℃の水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬する鹸化処理を行った後、水酸化ナトリウム水溶液から取り出した両フィルムを水洗した。次に、両フィルムを0.005モル/リットルで35℃の希硫酸水溶液に1分間浸漬した後、希硫酸水溶液から取り出した両フィルムを水洗した。第3に、120℃の乾燥風を両フィルムにあてる乾燥処理を行った。第4に、偏光膜の一方の面に、鹸化処理が施されたフィルムを貼り合わせ、偏光膜の他方の面に、鹸化処理が施されたフィルムを貼り合わせて、偏光板をつくった。両フィルムと偏光膜との貼り合わせには、ポリビニルアルコール系接着剤を用いた。偏光板に80℃の乾燥風を30分間あてた。以上の手順で、表11に示す偏光板P001〜028を得た。偏光板P001〜028を構成する各フィルムの組み合わせは表11に示すとおりである。
【0187】
【表11】

【0188】
表11において、「UF」は、フジタックTD80UF(富士フイルム(株)製)を示し、「UL」は、フジタックTD80UL(富士フイルム(株)製)を示す。
【0189】
偏光板P001は、図14に示す偏光板270であり、偏光膜271と、位相差フィルム272と、保護フィルム273とを有する。位相差フィルム272及び保護フィルム273は、フジタック(TD80UF)である。位相差フィルム272の遅相軸As272及び保護フィルム273の遅相軸As273は直交する。偏光膜271の透過軸At271は、位相差フィルム272の遅相軸As272と平行である。偏光板P002〜P025、27、28は、図15に示す偏光板280であり、位相差フィルム272として実施例1〜2で作製した各ポリマーフィルムを用いたこと以外は、偏光板P001と同様である。偏光板P026は、図16に示す偏光板290であり、位相差フィルム272を省略したこと以外は、偏光板P001と同様である。
【0190】
(遅相軸角度変化の測定)
TACフィルム(試料No.A13及びA13H1)について、偏光板作製前後における遅相軸角度変化を測定した。遅相軸角度変化の測定には、AxoScan(Axometrics社製)を用いた。水蒸気接触処理を行っていない試料No.A13では、偏光板加工前後で遅相軸ズレ量(最大遅相軸角度−最小遅相軸角度)が0.1°から1.0°へと増加し悪化していた。一方、水蒸気接触処理を行った試料No.A13H1では、偏光板加工前後で遅相軸ズレ量(最大遅相軸角度−最小遅相軸角度)が0.1°から0.2°へとほとんど変化していなかった。
【0191】
(液晶表示装置の作製)
垂直配向型液晶セル(以下、VA型液晶セルと称する)を使用した液晶表示装置(KDL−40J5000、ソニー(株)製)に設けられている一対の偏光板を剥がした。その後、偏光板の構成が表11となるように、偏光板P001〜P028をVA型液晶セルのガラス面に貼り合わせた。VA型液晶セル及び各偏光板P001〜P028の貼り合せには、アクリル系粘着剤を用いた。片方の偏光板の透過軸は、他方の偏光板の透過軸と平行であった。こうして、液晶表示装置C01〜C10、101〜122を作製した。
【0192】
(視野角の湿熱耐久試験前後の評価)
上記のように作製した各液晶表示装置について、湿熱耐久試験を行った。温度25℃、湿度60%RHの環境下に液晶表示装置を5時間配置した後、液晶表示装置の視野角を測定した。次に、液晶表示装置に対して湿熱耐久試験を行った。湿熱耐久試験では、温度60℃、湿度90%RHの環境下に液晶表示装置を120時間配置した。最後に、温度25℃、湿度60%RHの環境下に液晶表示装置を5時間配置した後、液晶表示装置の視野角を測定した。液晶表示装置の視野角測定には、EZ−Contrast160D(ELDIMI社製)を用いた。視野角の湿熱耐久試験前後の評価結果を表11に示す。
◎: 湿熱耐久試験前後での視野角、色味変動がほとんど認められない。
○: 湿熱耐久試験前後での視野角、色味変動が僅かに認められるも実用上問題ない。
×: 湿熱耐久試験前後での視野角、色味変動が認められる。
【0193】
偏光板を用いた液晶表示装置は良好な視野角特性を示した。また、湿熱耐久性前後の視野角変化が僅かに認められる液晶表示装置C06、C07、C08についても、水蒸気処理を行ったポリマーフィルムを用いることで、耐久性試験前後における視野角変化がほとんど認められない良好な状態になっている(液晶表示装置117、118、119、120)。
【図面の簡単な説明】
【0194】
【図1】オフライン延伸設備の概要を示す説明図である。
【図2】テンタ部の概要を示す平面図である。
【図3】湿潤気体供給設備の概要を示す説明図である。
【図4】水蒸気接触工程にてTACフィルムを固定する固定部材の概要を示す斜視図である。
【図5】冷却ゲル化方式の溶液製膜方法を行う第1の溶液製膜設備の概要を示す説明図である。
【図6】冷却ゲル化方式の溶液製膜方法を行う第2の溶液製膜設備の概要を示す説明図である。
【図7】冷却ゲル化方式の溶液製膜方法を行う第3の溶液製膜設備の概要を示す説明図である。
【図8】冷却ゲル化方式の溶液製膜方法を行う第4の溶液製膜設備の概要を示す説明図である。
【図9】第5の溶液製膜設備の概要を示す説明図である。
【図10】溶融製膜設備の概要を示す説明図である。
【図11】収縮処理ゾーンにおける複数のロールの配置状態を示す斜視図である。
【図12】収縮処理ゾーンにおける複数のロールのロールラップ長(D)及びロール間長(G)を示す説明図である。
【図13】本発明の位相差フィルムを有する液晶表示装置の概要を示す説明図である。
【図14】偏光板001の構成の概要を示す分解斜視図である。
【図15】偏光板002〜025、27、28の構成の概要を示す分解斜視図である。
【図16】偏光板026の構成の概要を示す分解斜視図である。
【符号の説明】
【0195】
2 オフライン延伸設備
3 TACフィルム
5 テンタ部
6 湿潤気体接触室
45 湿潤気体供給設備
80 溶液製膜設備
300 回収気体
400 湿潤気体
410 軟水
411 水蒸気
420 空気

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー及び溶剤を含むドープを連続的に流して、走行する支持体上に帯状の流延膜を形成する膜形成工程と、
前記支持体から剥ぎ取った前記流延膜を帯状のポリマーフィルムとし、このポリマーフィルムを幅方向へ延伸する延伸工程と、
前記延伸処理を施された前記ポリマーフィルムから前記溶剤を蒸発させる溶剤蒸発工程とを有し、
前記ポリマーフィルムに水蒸気を接触させ、前記ポリマーフィルムの温度を100℃以上150℃以下の範囲内で維持する水蒸気接触工程を前記溶剤蒸発工程とともに行うことを特徴とする位相差フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記水蒸気接触工程を5秒以上60分以下行うことを特徴とする請求項1記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記水蒸気接触工程では、相対湿度が20%RH以上の前記水蒸気を含む気体を前記ポリマーフィルムに接触させることを特徴とする請求項1または2記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記水蒸気接触工程を経た前記ポリマーフィルムの面内レターデーションReが30nm以上100nm以下であり、前記水蒸気接触工程を経た前記ポリマーフィルムの厚み方向レターデーションRthが70nm以上300nm以下であることを特徴とする請求項1ないし3のうちいずれか1項記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記ポリマーがセルロースアシレートであることを特徴とする請求項1ないし4のうちいずれか1項記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記膜形成工程及び前記延伸工程の間にて、前記流延膜が自己支持性をもつようになるまで前記流延膜を冷却することを特徴する請求項1ないし5のうちいずれか1項記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記膜形成工程及び前記延伸工程の間にて、前記流延膜が自己支持性をもつようになるまで前記流延膜から前記溶剤を蒸発させることを特徴する請求項1ないし5のうちいずれか1項記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記水蒸気接触工程における前記ポリマーフィルムの残留溶剤量が5質量%以下であることを特徴とする請求項6または7記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項9】
ポリマー及び溶剤を含むドープを連続的に流出して、走行する支持体上に帯状の流延膜を形成する膜形成装置と、
前記支持体から剥ぎ取られた前記流延膜からなる帯状のポリマーフィルムを幅方向へ延伸する延伸装置と、
前記ポリマーフィルムから前記溶剤を蒸発させるために、水蒸気を前記延伸された前記ポリマーフィルムへ接触させ、前記ポリマーフィルムの温度を100℃以上150℃以下の範囲内で維持する水蒸気接触装置とを備えることを特徴とする位相差フィルムの製造設備。
【請求項10】
前記水蒸気接触装置は、前記水蒸気を含む気体と前記ポリマーフィルムとを接触させるものであり、
前記気体の相対湿度を20%RH以上に調節する湿度調節部を有することを特徴とする請求項9記載の位相差フィルムの製造設備。
【請求項11】
偏光子の両面に透明保護膜を有する偏光板において、
前記透明保護膜の少なくとも一方が請求項1ないし8記載の位相差フィルムの製造方法により製造された位相差フィルムであることを特徴とする偏光板。
【請求項12】
光源と、
この光源からの光を透過する状態、及び前記光の透過を遮る状態との間で遷移可能なVA方式の液晶セルと、
前記液晶セルに向かう前記光、または前記液晶セルを透過した前記光が入射する請求項11項記載の偏光板とを備えることを特徴とする液晶表示装置。
【請求項13】
前記光源と前記液晶セルとの間に前記位相差フィルムが位置するように、前記偏光板が設けられることを特徴とする請求項12記載の液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−134440(P2010−134440A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−238457(P2009−238457)
【出願日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】