説明

位相調整装置及び方法

【課題】CCDを駆動するクロック信号を自動的に最適な位相に調整し、CCDからクロック信号成分が出力されない位相調整装置及び方法を提供する。
【解決手段】本発明の位相調整装置は、2相駆動型の電荷結合素子を用いたフィルタ回路に入力する第1の信号及び第2の信号の位相関係を調整する位相調整装置において、第1の信号に対して遅延を与える遅延付与手段と、遅延付与手段により遅延が与えられた第1の信号と、第2の信号とを加算又は減算する合成手段と、合成手段から出力する参照信号の電力値に基づいて、第1の信号と第2の信号とが逆位相となるように遅延付与手段の遅延設定量を制御する位相調整制御手段とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相調整装置及び方法に関し、例えば、スペクトル拡散通信等を実現する装置において、トランスバーサルフィルタやマッチドフィルタ(相関器)として使用されるCCD(電荷結合素子:Charge Coulpled Device)を駆動する複数のクロック信号の位相を調整する位相調整装置及び方法に適用し得るものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、スペクトル拡散通信の復号処理では、受信信号と符号パターンとの相関処理等を行う必要がある。CCDを用いたトランスバーサルフィルタやマッチドフィルタ等は、上記相関処理等を行う装置として用いられる。
【0003】
特許文献1〜3には、CCDを用いたマッチドフィルタ等に関する技術が記載されている。図2は、例えば特許文献1等に記載のCCDを用いたマッチドフィルタの構成を示す構成図である。
【0004】
図2に示す従来のCCDを用いたマッチドフィルタ等において、CCDは2個の駆動電極を1組とし、複数組を電荷転送方向に並べて配置している。また、2個の駆動電極は、信号電荷を検出する検出電極として兼用させており、これら検出電極には、同じ重み付け(同じ長さ)が付与されている。
【0005】
従来、上記2個の駆動電極に、それぞれ180度位相のずれた駆動信号(クロック信号)が入力されると、CCDは駆動する。そして、各組の各検出電極に誘起される信号を、抵抗からなる各加算手段で加算し、差分増幅器が各加算手段の加算結果の差分をとることで信号電荷による誘起電圧を取り出す。そして、この誘起電圧を用いて相関を求めている。
【0006】
図2に示すように、特許文献1等の記載技術は、2個の駆動信号(クロック信号)の位相が180度ずれているから、差分増幅器において、各駆動信号がキャンセルされるので、信号電荷による誘起電圧のみを取り出すことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−72533号公報
【特許文献2】特開2001−85669号公報
【特許文献3】特開2004−55863号公報
【特許文献4】特開平9−261207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1〜3の記載技術のように、従来のCCDを用いたトランスバーサルフィルタやマッチドフィルタ等では、CCDを駆動し、かつ、CCD出力端で相互にキャンセルされるような位相状態(すなわち、位相差が180度)を持った2個のクロック信号を生成し、印加する必要がある。
【0009】
しかし、クロック信号の位相は変化するので、クロック信号の位相状態を自動的に調整すること、また安定的に供給することは困難であった。さらに、クロック信号の安定供給が困難であるため、位相調整に時間がかかっていた。
【0010】
また、特許文献4には、光領域で時分割多重化する光信号の光位相を自動調整する技術が記載されているが、この技術は光変調器の特性を利用するものであるから、そのまま適用するとができない。
【0011】
そこで、本発明は、上記課題を解決するために、CCDを駆動するクロック信号を自動的に最適な位相に調整し、CCDからクロック信号成分が出力されない位相調整装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる課題を解決するために、第1の本発明の位相調整装置は、2相駆動型の電荷結合素子を用いたフィルタ回路に入力する第1の信号及び第2の信号の位相関係を調整する位相調整装置において、(1)第1の信号に対して遅延を与える遅延付与手段と、(2)遅延付与手段により遅延が与えられた第1の信号と、第2の信号とを加算又は減算する合成手段と、(3)合成手段から出力する参照信号の電力値に基づいて、第1の信号と第2の信号とが逆位相となるように遅延付与手段の遅延設定量を制御する位相調整制御手段とを備えることを特徴とする。
【0013】
第2の本発明の位相調整装置は、(1)第1の信号に対して遅延を与える遅延付与手段と、(2)遅延手段により遅延が与えられた第1の信号と、第2の信号とをクロック信号として取り込み、入力データに対する所定のフィルタ処理を行う2相駆動型の電荷結合素子を用いたフィルタ回路と、(3)フィルタ回路から出力された出力信号の一部を取り出す信号取出手段と、(4)信号取出手段により取り出された参照信号の電力値に基づいて、第1の信号と第2の信号とが逆位相となるように遅延付与手段の遅延設定量を制御する位相調整制御手段とを備えることを特徴とする。
【0014】
第3の本発明の位相調整方法は、2相駆動型の電荷結合素子を用いたフィルタ回路に入力する第1の信号及び第2の信号の位相関係を調整する位相調整装置の位相調整方法において、(1)遅延付与手段が、第1の信号に対して遅延を与え、(2)合成手段が、遅延付与手段により遅延が与えられた第1の信号と、第2の信号とを加算又は減算し、(3)位相調整制御手段が、合成手段から出力する参照信号の電力値に基づいて、第1の信号と第2の信号とが逆位相となるように遅延付与手段の遅延設定量を制御することを特徴とする。
【0015】
第4の本発明の位相調整方法は、2相駆動型の電荷結合素子を用いたフィルタ回路に入力する第1の信号及び第2の信号の位相関係を調整する位相調整装置の位相調整方法において、(1)遅延付与手段が、第1の信号に対して遅延を与え、(2)フィルタ回路が、遅延手段により遅延が与えられた第1の信号と、第2の信号とをクロック信号として取り込み、入力データに対する所定のフィルタ処理を行い、(3)信号取出手段が、フィルタ回路から出力された出力信号の一部を取り出し、(4)位相調整制御手段が、信号取出手段により取り出された参照信号の電力値に基づいて、第1の信号と第2の信号とが逆位相となるように遅延付与手段の遅延設定量を制御することを特徴とする。
【0016】
第5の本発明の位相調整プログラムは、2相駆動型の電荷結合素子を用いたフィルタ回路に入力する第1の信号及び第2の信号の位相関係を調整する位相調整装置の位相調整プログラムにおいて、位相調整装置が、(1)第1の信号に対して遅延を与える遅延付与手段と、(2)フィルタ回路に入力する、遅延付与手段により遅延が与えられた第1の信号と第2の信号とを加算又は減算した信号、又は、フィルタ回路からの出力信号のいずれかを参照信号とし、この参照信号の電力値に基づいて、第1の信号と第2の信号とが逆位相となるように遅延付与手段の遅延設定量を制御する位相調整制御手段とを備え、位相調整手段を、第1の信号の位相周期に亘って、所定の遅延ステップ幅毎に第1の信号の位相をずらしていき、参照信号の電力値が最小となる時点を遅延設定量として遅延付与手段に設定するように機能させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、CCDを駆動させるクロック信号の位相を自動的に調整することができ、さらに位相調整に要する時間を短時間にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1の実施形態の位相調整装置の構成を示す構成図である。
【図2】従来のCCDを用いたマッチドフィルタの構成を示す構成図である。
【図3】第1の実施形態のパワーディテクタの特性例を示す図である。
【図4】第1の実施形態の位相調整処理の動作を示すフローチャートである。
【図5】第2の実施形態の位相調整装置の構成を示す構成図である。
【図6】CCDへのデータ信号の入力がある場合に、第2の実施形態の位相調整処理によるCCD出力信号の1GHz成分のパワーの違いを測定した測定結果である(入力データ信号がある場合)。
【図7】CCDへのデータ信号の入力がない場合に、第2の実施形態の位相調整処理によるCCD出力信号の1GHz成分のパワーの違いを測定した測定結果である。
【図8】変形実施形態の位相調整装置の構成を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(A)第1の実施形態
以下では、本発明の位相調整装置及び方法の第1の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0020】
(A−1)第1の実施形態の構成
図1は、第1の実施形態の位相調整装置の構成を示す構成図である。図1において、第1の実施形態の位相調整装置10は、遅延回路部1、パワーディバイダ2−1及び2−2、加算部3、パワーディテクタ4、AD変換器5、制御部6、CCD7を少なくとも有して構成される。また、パワーディテクタ4、AD変換器5及び制御部6は、位相調整制御手段8として機能するものである。
【0021】
位相調整装置10は、周波数(ここでは周波数fとする)が同じ2個の信号をクロック信号として入力し、これらクロック信号の位相差が180度(すなわち逆位相)となるように位相調整して、これらをCCD7の駆動信号として供給するものである。以下では、説明便宜上、入力するクロック信号を、第1の信号としてのクロック信号a、第2の信号としてのクロック信号bのように示して説明する。
【0022】
遅延回路部1は、制御部6の制御の下、入力されるクロック信号aに対して時間遅延を与え、時間遅延を付与したクロック信号aを出力するものである。遅延回路部1の最大遅延量はクロック信号の周期T(=1/f)[s]以上とし、最小遅延ステップをΔd[s]とする。また、遅延回路部1は、既存の遅延回路を広くて適用することができ、例えば、MC100EP195(オン・セミコンダクタ製)やSY89297U(マイクレル社製)などを適用することができる。
【0023】
パワーディバイダ2−1は、遅延回路部1から出力されたクロック信号aを2個の信号に分割するものであり、一方のクロック信号a−1を加算部3に、また他方のクロック信号a−2をCCD7に分配するものである。また、パワーディバイダ2−2は、入力されたクロック信号bを2個の信号に分割し、一方のクロック信号b−1を加算部3に、また他方のクロック信号b−2をCCD7に分配するものである。
【0024】
なお、パワーディバイダ2−1及び2−2の分配比は1:1である必要はなく、クロック信号a−1及びb−1のパワーに対するクロック信号a−2及びb−2のパワーが小さくなる比率としてもよい。
【0025】
加算部3は、パワーディバイダ2−1からのクロック信号a−1と、パワーディバイダ2−2からのクロック信号b−1とを入力し、これらクロック信号a−1のパワーとクロック信号b−1のパワーとの加算を行い、この加算した信号を「参照信号」としてパワーディテクタ4に与えるものである。なお、クロック信号a−1とクロック信号b−1とのパワーを合成することができれば、加算器3に限定されるものではなく、クロック信号a−1とクロック信号b−1との電力値を減算する減算部を備えるようにしても良い。
【0026】
パワーディテクタ4は、加算部3からの参照信号を入力し、参照信号の電力値に応じたDC電圧値を求め、これをAD変換器5に与えるものである。ここで、パワーディテクタ4は、図3に示すような特性を有する。図3に示すように、パワーディテクタ4は、参照信号の入力電力値(入力パワー)[dBm]の大きさが大きくなるに応じて出力電圧値[V]が大きくなる関係とする特性を有する。
【0027】
AD変換器5は、パワーディテクタ4からの出力電圧値を入力すると、このDC電圧値をNビットの2値信号に変換し、これを制御部6に与えるものである。このNビットの2値信号を「比較値」と呼ぶことにする。
【0028】
制御部6は、クロック信号aとクロック信号bとの位相関係を制御するものであり、位相差が180度となるように遅延回路部1の遅延量の設定を行うものである。また、制御部6は、例えばマイコンなどが該当し、AD変換器5からの比較値を読み取る入力ポートと、遅延回路部1に遅延量を送出するための出力ポートとを有する。また、制御部6は、遅延回路部1に入力するクロック信号aの周期Tが設定されており、遅延量がクロック信号の1周期Tを越えるまでの間に、AD変換器5からの比較値が最小となる遅延量を検出し、比較値が最小のときの遅延量を遅延回路部1に与える。
【0029】
CCD7は、位相調整されるクロック信号a及びクロック信号bを入力し、入力データ信号に対して、トランスバーサルフィルタ又はマッチドフィルタとして機能するものである。CCD7は、例えば、特許文献1〜3に記載されている2相駆動型のCCDを用いたマッチドフィルタやトランスバーサルフィルタを適用することができる。
【0030】
(A−2)第1の実施形態の動作
次に、第1の実施形態の位相調整装置10における位相調整処理の動作を図面を参照しながら説明する。
【0031】
図4は、第1の実施形態の位相調整装置10の制御部6による位相調整処理を示すフローチャートである。
【0032】
まず、位相調整装置10は、電源投入等により自動位相調整が開始される。自動位相調整開始後、制御部6は次のような初期化が行われる(ステップS101)。
【0033】
制御部6は、初期化設定として、比較値の最小値mを「null」、比較値が最小のときの遅延量設定値dmを「0」、遅延回路部1への遅延量設定値dを「0」と設定される。これにより、初期段階では、遅延回路部1への遅延量設定値dは0に設定される。
【0034】
ここで、クロック信号a及びクロック信号bが位相調整装置10に入力する。クロック信号aは遅延回路部1に入力するが、初期段階では遅延回路部1による遅延量は0であるから遅延時間の付与は行われず、クロック信号aはパワーディバイダ2−1に与えられる。
【0035】
クロック信号aは、パワーディバイダ2−1により分割され、クロック信号a−2はCCD7に、クロック信号a−1は加算部3に分配される。一方、クロック信号bはパワーディバイダ2−2により分割され、クロック信号b−2はCCD7に、クロック信号b−1は加算部3に分配される。
【0036】
加算部3に入力したクロック信号a−1及びクロック信号b−1は、加算部3により電力値が加算され、参照信号としてパワーディテクタ4に与えられる。また、パワーディテクタ4は、例えば図3に示すような特性を有しており、参照信号が入力すると、パワーディテクタ4の特性に基づいて、参照信号の入力電力値はDC電圧値に変換されて出力される。さらに、DC電圧値は、AD変換器5によりデジタル変換処理が行われ、Nビットの2進数で表した比較値が制御部6に与えられる。
【0037】
AD変換器5からNビットの比較値が制御部6に入力すると、制御部6は遅延回路部1への遅延量設定値dとクロック信号の周期Tとを比較する(ステップS102)。
【0038】
このとき、遅延回路部1への遅延量設定値dは0であるから、遅延量設定値d>周期Tではない。従って、ステップS103に移行する。
【0039】
ステップS103では、制御部6が、比較値の最小値mと、AD変換器5からの比較値との比較を行う。このとき、比較値の最小値mがm=nullであるから、ステップS104に移行する。
【0040】
ステップS104では、制御部6が、AD変換器5からの比較値を比較値の最小値mに更新し、また、遅延回路部1への遅延量設定値dを、比較値が最小のときの遅延量設定値dmに更新する。
【0041】
次に、ステップS105では、制御部6が、現在の遅延量設定値dに最小遅延ステップ幅Δdを加えたものを、新たな遅延量設定値dに更新する。ここで、最小遅延ステップ幅Δdは、比較値の最小値を検索するために、遅延量設定値dを少しだけずらす微小幅である。
【0042】
最小遅延ステップ幅Δdは、任意に設定することができ、例えばΔd=T/k(kは正の整数)等のように按分した値を設定するようにしても良い。最小遅延ステップ幅Δdの値は、Δdが小さい場合には、比較値の最小値を精度良く検出することができ、Δdが大きい場合には、比較的早期に比較値の最小値を検出することができるという特性があるので、この特性に応じて設定することができる。さらに、最小遅延ステップ幅Δdの値を可変にしても良い。例えば、初期段階から所定期間までは、最小遅延ステップ幅Δdを比較的大きくとり、比較値の最小値と推測する期間では、最小遅延ステップ幅Δdを比較的小さくし、さらに、その後周期Tに達するまでの期間では、再度最小遅延ステップ幅Δdを大きくするようにしても良い。これにより、さらに早期かつ精度良く位相調整ができる。
【0043】
ステップS105の遅延量設定値dの新たな設定が行われると、ステップS102に戻って処理を繰り返す。つまり、制御部6は、ステップS105で新たに設定された遅延量設定値dと、クロック信号の周期Tとの比較を行う(ステップS102)。
【0044】
ステップS102において、遅延量設定値d>周期Tでない場合には、さらに、ステップS103に移行する。このとき、ステップS103において、制御部6は、現在の比較値の最小値mと、AD変換器5からの比較値とを比較する。
【0045】
現在の比較値の最小値m>AD変換器5からの比較値である場合には、ステップS104に移行し、そうでない場合には、ステップS105に移行する。
【0046】
上記のように、現在の比較値の最小値m>AD変換器5からの比較値でない場合に、ステップS104における比較値の最小値m及び遅延量設定値dmの更新を行わないようにすることで、比較値の最小値mと、遅延量設定値dmとを検出することができる。
【0047】
その後、遅延量設定値dの更新を行い、遅延量設定値d>周期Tとなるまで(すなわち、最大遅延量がクロック信号の周期Tを超えるまで)、ステップS102〜S105の処理を繰り返し行う。
【0048】
これにより、制御部6は、最大遅延量を周期Tとした場合における、比較値の最小値m(すなわち、参照信号の電力値の最小値)を検出することができ、この比較値の最小となるときの遅延量設定値dmを、遅延回路部1への遅延量設定値dとして設定する。
【0049】
そして、遅延回路部1は、制御部6からの遅延量設定値dに基づく時間遅延を、クロック信号aに付与する。これにより、クロック信号bとの位相差が180度となるクロック信号aを出力することができる。
【0050】
なお、CCD7では、位相差が180度であるクロック信号aとクロック信号bを駆動信号として入力して、入力されたデータ信号に対して所定の処理を行い、その結果を出力する。
【0051】
(A−3)第1の実施形態の効果
以上のように、第1の実施形態の位相調整装置及び方法により、クロック信号の位相を自動的に調整することができる。また、位相調整の自動化に伴い、従来よりも短時間で位相調整することができる。
【0052】
また、第1の実施形態によれば、加算部からの参照信号の電力値を指標に位相調整を行うため、CCDから出力されるクロック信号成分を最小限にすることができる。
【0053】
さらに、第1の実施形態は、CCDからの出力信号ではなく、CCDに入力する前段階のクロック信号を用いて位相調整する。そのため、CCDの出力信号を用いる場合には、出力信号の分離などを行う必要があるため、データ信号を含む出力信号のパワーの減衰等が起こり得るが、第1の実施形態では、そのようなことを回避できる。
【0054】
(B)第2の実施形態
以下では、本発明の位相調整装置及び方法の第2の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0055】
(B−1)第2の実施形態の構成及び構成
第1の実施形態では、クロック信号をCCDに入力する前段階で、加算部からの参照信号を利用して位相調整を行う場合を説明した。これに対して、第2の実施形態は、CCDからの出力信号を利用して位相調整する場合を説明する。
【0056】
図5は、第2の実施形態の位相調整装置の構成を示す構成図である。図5において、第2の実施形態の位相調整装置20は、遅延回路部1、CCD7、パワーディバイダ21、パワーディテクタ4、AD変換器5、制御部6を少なくとも有して構成される。また、パワーディテクタ4、AD変換器5及び制御部6は、位相調整制御手段8として機能するものである。
【0057】
遅延回路部1は、第1の実施形態の遅延回路部1と同じものであり、制御部6の制御の下、入力するクロック信号aに対して遅延時間を付与して出力するものである。
【0058】
CCD7は、遅延回路部1から出力されたクロック信号aと、クロック信号bとを入力し、入力データ信号に対してトランスバーサルフィルタ又はマッチドフィルタとして機能するものである。CCD7からの出力信号は、データ信号成分、クロック信号aの信号成分、及び、クロック信号bの信号成分を含むものであり、パワーディバイダ21に与えられる。
【0059】
パワーディバイダ21は、CCD7から出力された出力信号を分割し、一方のCCD出力信号c−1をパワーディテクタ4に、また他方のCCD出力信号c−2を図示しない後段の構成要素に出力するものである。ここで、パワーディバイダ21からパワーディテクタ4に出力されるCCD出力信号c−1を「参照信号」と呼ぶことにする。
【0060】
なお、パワーディバイダ21の分配比は1:1である必要はなく、例えば、CCD出力信号c−2のパワーに対するCCD出力信号c−1のパワーが小さくなる比率としても良い。
【0061】
パワーディテクタ4は、第1の実施形態と同様に、例えば、図3に示す特性を有するものである。パワーディテクタ4は、パワーディバイダ21からの参照信号を入力し、この参照信号の入力電力値に応じた出力電圧値をAD変換器5に出力するものである。
【0062】
AD変換器5は、第1の実施形態と同様のAD変換器であり、パワーディテクタ4からの出力電圧値を、Nビットの2値信号に変換した比較値を制御部6に出力するものである。
【0063】
制御部6は、第1の実施形態と同様の制御部であり、遅延回路部1のクロック信号aに対する遅延量を制御するものである。制御部6による遅延回路部1の遅延量設定値の制御処理は、第1の実施形態と同様である。
【0064】
以下では、第2の実施形態の位相調整装置20における位相調整処理の動作について説明する。
【0065】
まず、クロック信号a及びクロック信号bが位相調整装置20に入力されると、クロック信号aは遅延回路部1に入力し、クロック信号bはCCD7に入力する。
【0066】
このとき、初期化段階においては、第1の実施形態と同様に、制御部6が遅延回路部1に設定する遅延量設定値は0であるから、クロック信号aは遅延量が付与されないでCCD7に与えられる。
【0067】
CCD7では、入力されたデータ信号に対して所定のトランスバーサルフィルタ処理又はマッチドフィルタ処理が行われ、その出力信号がパワーディバイダ21に与えられる。
【0068】
パワーディバイダ21に入力したCCD7からの出力信号は、パワーディバイダ21により分割され、CCD出力信号c−1はパワーディテクタ4に与えられ、CCD出力信号c−2は、CCD7の処理結果として出力される。
【0069】
参照信号がパワーディテクタ4に入力されると、パワーディテクタ4の有する図3に例示する特性に基づき、参照信号の入力電力値はDC電圧値に変換されて、AD変換器5に与えられる。
【0070】
DC電圧値はAD変換器5により2値信号の比較値に変換されて制御部6に与えられる。
【0071】
制御部6では、第1の実施形態と同様の位相調整処理が行われ、クロック信号の周期Tに亘って、AD変換器5から入力された比較値の最小値を検出し、比較値が最小となる遅延量設定値を遅延回路部1に設定する。
【0072】
次に、図6及び図7は、第2の実施形態の位相調整装置20を用いて位相調整したときのCCD7からの出力信号の測定結果を説明する説明図である。
【0073】
図6はCCD7にデータ信号を入力した場合の測定結果であり、図7はCCD7にデータ信号の入力しなかった場合の測定結果である。
【0074】
測定方法は、スペクトルアナライザで、CCD出力信号の1GHz成分の信号パワーを測定した。
【0075】
CCD出力信号の測定条件は、チップレートが2Gchip/s、入力データ信号のデータレートが125Mbps、データに乗じた拡散符号パターンが「0011110101100100」、CCD7の符号パターンが「0010011010111100」、CCD7に入力するクロック信号の周波数が1GHz、2Vppの正弦波とした。
【0076】
図6(a)に示す1GHz成分が最大のとき(すなわち、クロック信号の位相差が略ゼロのとき)のスペクトルと、図6(b)に示す1GHz成分が最小のとき(すなわち、クロック信号の位相差が180度のとき)のスペクトルを比較すると、位相差が180度のときの1GHz成分のパワーは、位相差が略ゼロのときのそれに比べて、小さく抑えられていることが分かる。
【0077】
また、図6(c)及び図6(d)において、1GHz成分の時間波形を比較すると、クロック信号の位相差が略ゼロのときは、アイが開いておらずアイパターンを確認できないが、クロック信号に位相差が180度のときは、アイが開いておりアイパターンを確認することができる。
【0078】
図7において、データ信号がCCD7に入力されていない場合、図7(a)に示す1GHz成分が最大のときのスペクトルと、図7(b)に示す1GHz成分が最小のときのスペクトルを比較すると、位相差が180度のときの1GHz成分のパワーは、位相差が略ゼロのときのそれに比べて、やはり抑えられていることが分かる。
【0079】
また、図7(c)及び図7(d)において、1GHz成分の時間波形を比較すると、図7(c)のCCD出力信号は振幅が大きく不安定であるのに対して、図7(d)のCCD出力信号は振幅が小さく安定している。
【0080】
上記のように、1GHz成分のパワーが最大となるとき、時間波形はクロック信号の成分が大きい。一方、1GHz成分のパワーが最小となるとき、時間波形はクロック信号の成分が小さいことがわかる。
【0081】
(B−2)第2の実施形態の効果
以上のように、第2の実施形態によれば、位相調整装置による位相調整処理により、クロック信号の位相を短時間で調整することができる。また参照信号の電力を指標に位相調整を行うため、CCDから出力されるクロック信号成分を最小限にすることができる。
【0082】
(C)他の実施形態
(C−1)図8は、第2の実施形態で説明した位相調整装置20の構成の変形例を示す構成図である。
【0083】
図8に示す位相調整装置30は、第2の実施形態の構成要素の他に、パワーディバイダ21とパワーディテクタ4との間に、バンドパスフィルタ31を更に備えるものである。
【0084】
バンドパスフィルタ31は、パワーディバイダ21により分配されたCCD出力信号c−1を入力し、このCCD出力信号c−1のうち周波数fの周波数成分(クロック信号成分)を抽出して、パワーディテクタ4に出力するものである。この場合、バンドパスフィルタ22からの出力信号を、「参照信号」と呼ぶことにする。
【0085】
CCD出力信号c−1は、バンドパスフィルタ22により周波数fの周波数成分が抽出されて、これを参照信号としてパワーディテクタ4に出力される。ここで、クロック信号の周波数は周波数fであるから、バンドパスフィルタ22からの出力信号はクロック信号成分である。
【0086】
第2の実施形態では、バンドパスフィルタ31を設けていないが、これは、CCD7に入力するデータデータ信号のパワーは、クロック信号a及びクロック信号bのパワーに比べて、数倍〜数十倍小さいため、バンドパスフィルタ31の設置を省略することができる。これにより、第2の実施形態の構成によれば、バンドパスフィルタ31の分だけ装置コストを削減できる。
【0087】
これに対して、図8に示す位相調整装置30によれば、クロック信号の周波数を抽出して処理を行うので、精度の高い位相調整することができる。
【符号の説明】
【0088】
1…遅延回路部、2−1及び2−2…パワーディバイダ、3…加算部、
4…パワーディテクタ、5…AD変換器、6…制御部、7…CCD、
8…位相調整制御手段、21…パワーディバイダ、31…バンドパスフィルタ、
10、20及び30…位相調整装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2相駆動型の電荷結合素子を用いたフィルタ回路に入力する第1の信号及び第2の信号の位相関係を調整する位相調整装置において、
上記第1の信号に対して遅延を与える遅延付与手段と、
上記遅延付与手段により遅延が与えられた上記第1の信号と、上記第2の信号とを加算又は減算する合成手段と、
上記合成手段から出力する参照信号の電力値に基づいて、上記第1の信号と上記第2の信号とが逆位相となるように上記遅延付与手段の遅延設定量を制御する位相調整制御手段と
を備えることを特徴とする位相調整装置。
【請求項2】
第1の信号に対して遅延を与える遅延付与手段と、
上記遅延手段により遅延が与えられた上記第1の信号と、第2の信号とをクロック信号として取り込み、入力データに対する所定のフィルタ処理を行う2相駆動型の電荷結合素子を用いたフィルタ回路と、
上記フィルタ回路から出力された出力信号の一部を取り出す信号取出手段と、
上記信号取出手段により取り出された参照信号の電力値に基づいて、上記第1の信号と上記第2の信号とが逆位相となるように上記遅延付与手段の遅延設定量を制御する位相調整制御手段と
を備えることを特徴とする位相調整装置。
【請求項3】
上記位相調整制御手段が、上記第1の信号の位相周期に亘って、所定の遅延ステップ幅毎に上記第1の信号の位相をずらしていき、上記参照信号の電力値が最小となる時点を上記遅延設定量とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の位相調整装置。
【請求項4】
上記位相調整制御手段が、
上記参照信号の電力値の大きさに応じた電圧値を出力する電力電圧変換部と、
上記電力電圧変換部から出力される上記電圧値をデジタル変換するデジタル変換部と、
上記デジタル変換部からの2値信号に基づいて、上記遅延付与手段の遅延設定量の制御を実行する制御部と
を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の位相調整装置。
【請求項5】
2相駆動型の電荷結合素子を用いたフィルタ回路に入力する第1の信号及び第2の信号の位相関係を調整する位相調整装置の位相調整方法において、
遅延付与手段が、上記第1の信号に対して遅延を与え、
合成手段が、上記遅延付与手段により遅延が与えられた上記第1の信号と、上記第2の信号とを加算又は減算し、
位相調整制御手段が、上記合成手段から出力する参照信号の電力値に基づいて、上記第1の信号と上記第2の信号とが逆位相となるように上記遅延付与手段の遅延設定量を制御する
ことを特徴とする位相調整方法。
【請求項6】
2相駆動型の電荷結合素子を用いたフィルタ回路に入力する第1の信号及び第2の信号の位相関係を調整する位相調整装置の位相調整方法において、
遅延付与手段が、上記第1の信号に対して遅延を与え、
上記フィルタ回路が、上記遅延手段により遅延が与えられた上記第1の信号と、第2の信号とをクロック信号として取り込み、入力データに対する所定のフィルタ処理を行い、
信号取出手段が、上記フィルタ回路から出力された出力信号の一部を取り出し、
位相調整制御手段が、上記信号取出手段により取り出された参照信号の電力値に基づいて、上記第1の信号と上記第2の信号とが逆位相となるように上記遅延付与手段の遅延設定量を制御する
ことを特徴とする位相調整方法。
【請求項7】
2相駆動型の電荷結合素子を用いたフィルタ回路に入力する第1の信号及び第2の信号の位相関係を調整する位相調整装置の位相調整プログラムにおいて、
上記位相調整装置が、
上記第1の信号に対して遅延を与える遅延付与手段と、
上記フィルタ回路に入力する、上記遅延付与手段により遅延が与えられた上記第1の信号と上記第2の信号とを加算又は減算した信号、又は、上記フィルタ回路からの出力信号のいずれかを参照信号とし、この参照信号の電力値に基づいて、上記第1の信号と上記第2の信号とが逆位相となるように上記遅延付与手段の遅延設定量を制御する位相調整制御手段と
を備え、
上記位相調整手段を、
上記第1の信号の位相周期に亘って、所定の遅延ステップ幅毎に上記第1の信号の位相をずらしていき、上記参照信号の電力値が最小となる時点を上記遅延設定量として上記遅延付与手段に設定するように機能させることを特徴とする位相調整プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−44811(P2011−44811A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−190344(P2009−190344)
【出願日】平成21年8月19日(2009.8.19)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【Fターム(参考)】