説明

低抵抗グラニュラ膜及びその製造方法

【課題】高い磁気抵抗効果(MR効果)を維持しつつ、より低抵抗であるグラニュラ膜を提供すること。
【解決手段】MgOターゲット3及び強磁性体ターゲット4を備え、基板8に対してMgO及び強磁性体をスパッタリングするスパッタリング装置において、プラズマ干渉状態を最適化した状態で、前記基板8上に(111)配向を有するMgOバリア層と、前記MgOバリア層中に分散された強磁性体微粒子と、を含む低抵抗グラニュラ膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はグラニュラ膜及びその製造方法に関し、特にGIG(Granular In Gap)素子に用いる低抵抗のグラニュラ膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気センサ、エンコーダなどのような非接触センサ用のセンサとして、GIG素子を用いることが開発されている。GIG素子は、絶縁体で構成された膜(バリア層)中に、強磁性体の微粒子(グラニュール)が分散してなるグラニュラ膜を用いて構成されている。このようなグラニュラ膜としては、フッ化物、例えばMgF2を絶縁体として用いた膜にFe系やCo系などの強磁性体の微粒子を分散させてなるグラニュラ膜が開示されている(特許文献1,2)。
【特許文献1】特開2001−94175号公報
【特許文献2】特開2003−258333号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
GIG素子の素子抵抗は絶縁体のバリア層の比抵抗に依存する。上記のようにMgF2をバリア層の絶縁体として場合、その比抵抗が1E8μΩ・cm以上と高いので、GIG素子を用いることができる非接触センサの分野が限られていた。
【0004】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、高い磁気抵抗効果(MR効果)を維持しつつ、より低抵抗であるグラニュラ膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の低抵抗グラニュラ膜は、(111)配向を有するMgOバリア層と、前記MgOバリア層中に分散された強磁性体微粒子と、を具備することを特徴とする。この構成によれば、(111)配向を有するMgOがフッ化物系の絶縁体に比べて比抵抗が4桁程度低いので、高い磁気抵抗効果を維持しつつ、より低抵抗を実現することができる。
【0006】
本発明の低抵抗グラニュラ膜の製造方法は、MgOターゲット及び強磁性体ターゲットを備え、基板に対してMgO及び強磁性体をスパッタリングするスパッタリング装置において、プラズマ干渉状態を最適化した状態で、前記基板上に(111)配向を有するMgOバリア層と、前記MgOバリア層中に分散された強磁性体微粒子と、を含む低抵抗グラニュラ膜を形成することを特徴とする。この方法によれば、高い磁気抵抗効果を維持しつつ、より低抵抗を実現できる低抵抗グラニュラ膜を得ることができる。
【0007】
本発明のGIG素子は、上記低抵抗グラニュラ膜を用いてなることを特徴とする。この構成によれば、より広い分野の非接触センサに適用することが可能となる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の低抵抗グラニュラ膜は、(111)配向を有するMgOバリア層と、前記MgOバリア層中に分散された強磁性体微粒子と、を具備するので、高い磁気抵抗効果を維持しつつ、より低抵抗を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
本発明の低抵抗グラニュラ膜は、(111)配向を有するMgOバリア層と、前記MgOバリア層中に分散された強磁性体微粒子と、を具備することを特徴とする。
【0010】
強磁性体微粒子の強磁性体としては、Fe,Co,CoFeなどを挙げることができる。また、強磁性体微粒子の粒径としては、比抵抗、△MRなどを考慮すると、1nm〜4nmであることが好ましい。また、強磁性体とMgOの組成比は、比抵抗、△MRなどを考慮すると、20原子%〜35原子%であることが好ましい。なお、強磁性体微粒子の粒径や強磁性体とMgOの組成比は、後述するスパッタリングの成膜条件を制御することにより調整することができる。
【0011】
図1は、本発明の低抵抗グラニュラ膜を製造する際に用いるスパッタリング装置の一例を示す図である。図1に示すマグネトロンスパッタリング装置は、チャンバ1の上面にターゲット取り付け台2が設けられており、ターゲット取り付け台2上にバリア層用ターゲット(MgO)3と、強磁性体(例えば、FeCo)用ターゲット4とが取り付けられている。強磁性体用ターゲット4は、下部シールド5及び上部シールド6によりシールドされている。
【0012】
一方、チャンバ1内には、バリア層用ターゲット3及び強磁性体用ターゲット4に対向するように基板8を載置する載置台7が設置されている。そして載置台7上に基板8が載置されている。基板8の上方、すなわち基板8とバリア層用ターゲット3及び強磁性体用ターゲット4との間にはシャッタ9が配設されている。前記下部シールド5は、シャッタ9上に設けられている。
【0013】
このような構成を有するマグネトロンスパッタリング装置において、載置台7を矢印方向に回転させながら、MgO及び強磁性体を基板8上にスパッタリングすることにより、基板上にグラニュラ膜が形成される。このグラニュラ膜においては、MgOで構成されたバリア層中に強磁性体微粒子が分散された形態をとり、バリア層がトンネル障壁とするトンネル磁気抵抗効果を発現する。
【0014】
トンネル障壁であるバリア層を構成する材料の結晶配向性が良好でないと電子の散乱により磁気抵抗効果(△MR)が低下することが分っている。したがって、高い△MRを維持するためには、バリア層を構成する材料の結晶配向性を改善する必要がある。また、グラニュラ膜を用いたGIG素子の素子抵抗は、グラニュラ膜のバリア層の比抵抗及び強磁性体微粒の粒径及び分散状態に依存する。本発明者らは、これらの点に着目し、スパッタリング成膜におけるプラズマ干渉状態を最適化することにより、(111)配向を有するMgOバリア層で、MgOの結晶配向性、MgOと強磁性体の組成比、強磁性体の粒径などを最適化できることを見出し本発明をするに至った。
【0015】
すなわち、本発明の骨子は、スパッタリング成膜におけるプラズマ干渉状態を最適化して、(111)配向を有するMgOバリア層で、MgOの結晶配向性、MgOと強磁性体の組成比、強磁性体の粒径などを最適化することにより、高い磁気抵抗効果を維持しつつ、より低抵抗を実現する低抵抗グラニュラ膜を得ることである。
【0016】
スパッタリング成膜においてプラズマ干渉状態を最適化するためには、基板とターゲットとの間の距離、強磁性体用ターゲットのシールド構造、放電出力、及び基板公転数などを最適化する必要がある。なお、マグネトロンスパッタリングのMgOターゲットのマグネットは、ターゲット表面の漏洩磁束密度を考慮して作製することが望ましい。
【0017】
MgO配向性が(111)配向であるようなMgOグラニュラ膜の作製には、ターゲット面上での漏洩磁束密度が図2に示すようにすることが好ましい(ターゲット径=8インチφ)。また、強磁性体用ターゲットのシールド構造については、図1に示すように、強磁性体に対するプラズマ状態をMgOに対するプラズマ状態から分離できる構造であれば良い。また、基板公転数については、比抵抗、△MRなどを考慮すると、3rpm〜12rpmであることが好ましい。
【0018】
このような方法により、(111)配向を有するMgOバリア層を形成した低抵抗グラニュラ膜は、(111)配向を有するMgOがフッ化物系の絶縁体に比べて比抵抗が4桁程度低いので、高い磁気抵抗効果を維持しつつ、より低抵抗を実現することができる。
【0019】
次に、本発明の効果を明確にするために行った実施例について説明する。
(実施例)
図1に示すマグネトロンスパッタリング装置を用いてタンデム式で基板上にグラニュラ膜を形成した。このとき、バリア層の材料としてMgOを用い、強磁性体としてFeCoを用いた。基板−ターゲット間距離を85mmとし、放電出力をFeCo 120W、MgO 1000Wとし、基板公転数を5rpmとした。このような条件でプラズマ干渉状態を最適化することにより、グラニュラ膜のバリア層においては、(111)配向のMgOが形成された。また、グラニュラ膜における強磁性体/MgOの組成比は25.7原子%であり、強磁性体微粒子の粒径は2nm〜5nmであった。
【0020】
この実施例のグラニュラ膜をX線回折法により測定した。その結果を図4に示す。図4から分るように、MgO(111)にピークが見られ、バリア層が(111)配向のMgOで構成されていた。また、このグラニュラ膜の複数のサンプルについて、△MR及び比抵抗を求めた。その結果を図5に示す。図5から分るように、実施例のグラニュラ膜は、△MR=10.2%で、比抵抗=4E4μΩ・cmであり、高△MRで低抵抗のものであった。このようなグラニュラ膜をGIG素子に用いることにより、素子抵抗が10kΩ以下となり、より広い分野の非接触センサに適用することが可能となる。
【0021】
(比較例1)
図1に示すマグネトロンスパッタリング装置を用いてタンデム式で基板上にグラニュラ膜を形成した。このとき、バリア層の材料としてMgOを用い、強磁性体としてFeCoを用いた。基板−ターゲット間距離を85mmとし、放電出力をFeCo 170W、MgO 1000Wとし、基板公転数を7rpmとした。このような条件を用いることにより、グラニュラ膜のバリア層においては、(100)配向のMgOが形成された。また、グラニュラ膜における強磁性体/MgOの組成比は25.8原子%であり、強磁性体微粒子の粒径は2nm〜5nmであった。
【0022】
この比較例1のグラニュラ膜をX線回折法により測定した。その結果を図3に示す。図3から分るように、MgO(100)にピークが見られ、バリア層が(100)配向のMgOで構成されていた。また、このグラニュラ膜の複数のサンプルについて、△MR及び比抵抗を求めた。その結果を図5に示す。図5から分るように、比較例1のグラニュラ膜は、△MRが5%以下であり、高△MRで低抵抗のものではなかった。
【0023】
(比較例2)
図1に示すマグネトロンスパッタリング装置を用いてタンデム式で基板上にグラニュラ膜を形成した。このとき、バリア層の材料としてMgF2を用い、強磁性体としてFeCoを用いた。基板−ターゲット間距離を105mmとし、放電出力をFeCo 250W、MgF2 400Wとし、基板公転数を11rpmとした。また、グラニュラ膜における強磁性体/MgF2の組成比は25.8原子%であり、強磁性体微粒子の粒径は2nm〜5nmであった。
【0024】
このグラニュラ膜の複数のサンプルについて、△MR及び比抵抗を求めた。その結果を図5に示す。図5から分るように、比較例2のグラニュラ膜は、△MRは10%に達するが、比抵抗が1E8μΩ・cm以上であり、高△MRであるが高抵抗のものであった。
【0025】
本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。例えば、上記実施の形態で説明した数値や材質については特に制限はない。また、上記実施の形態で説明したプロセスについてはこれに限定されず、工程間の適宜順序を変えて実施しても良い。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の低抵抗グラニュラ膜を製造する際に用いるスパッタリング装置の一例を示す図である。
【図2】基板−ターゲット間距離と漏洩磁束密度との間の関係を示す図である。
【図3】(100)配向のMgOのX線回折チャートを示す図である。
【図4】(111)配向のMgOのX線回折チャートを示す図である。
【図5】グラニュラ膜の△MR及び比抵抗を示す図である。
【符号の説明】
【0027】
1 チャンバ
2 ターゲット取り付け台
3 バリア層用ターゲット
4 強磁性体用ターゲット
5 下部シールド
6 上部シールド
7 載置台
8 基板
9 シャッタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(111)配向を有するMgOバリア層と、前記MgOバリア層中に分散された強磁性体微粒子と、を具備することを特徴とする低抵抗グラニュラ膜。
【請求項2】
MgOターゲット及び強磁性体ターゲットを備え、基板に対してMgO及び強磁性体をスパッタリングするスパッタリング装置において、プラズマ干渉状態を最適化した状態で、前記基板上に(111)配向を有するMgOバリア層と、前記MgOバリア層中に分散された強磁性体微粒子と、を含む低抵抗グラニュラ膜を形成することを特徴とする低抵抗グラニュラ膜の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の低抵抗グラニュラ膜を用いてなることを特徴とするGIG素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−283847(P2009−283847A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−136799(P2008−136799)
【出願日】平成20年5月26日(2008.5.26)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】