説明

作業車の運転部構造

【課題】 荷物の運搬、レジャー、軽作業、などの多目的に利用することのできる作業車の運転部構造において、着座スペースを横方向に大きく確保しながら、不用意に操作具に触れるおそれなく乗降することができるようにする。
【解決手段】 運転部における座席22の横外側に手すり30、および、操作具34,38,39を配備し、側面視で手すり30の下側にこれら操作具34,38,39が位置するよう構成してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷物の運搬、レジャー、軽作業、などの多目的に利用することのできる作業車の運転部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
上記作業車としては、例えば、特許文献1に開示されているように、運転部における座席の横外側に手すりを設け、運転部への乗降を容易に行えるように構成されたものが知られている。
【特許文献1】特開2005−178782号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この種の作業車においては、運転用の各種操作具の他に、付属装置を操作するための操作具が装備されており、各種の操作具を座席の前方に集中して配備すると、運転中に不用意に触れたり、誤って操作するおそれがあり、取扱い性が低下する。
【0004】
この種の作業車は、車体の左右幅が小さい上に、二人乗り仕様に構成することが要望されているので、乗用車のように運転席と添乗者が座る助手席との間に操作具類を設けることが困難となる。例え、運転席と助手席との間に無理に操作具類を配備したとしても、座席幅が小さくなって窮屈になるのみならず、添乗者が乗降時などにおいて不用意に操作具に触れるおそれも高くなる。
【0005】
本発明は、このような点に着目してなされたものであって、着座スペースを横方向に大きく確保しながら、不用意に操作具に触れるおそれなく乗降することができる作業車の運転部構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、運転部における座席の横外側に手すり、および、操作具を配備し、側面視で前記手すりの下側に前記操作具が位置するよう構成してあることを特徴とする。
【0007】
上記構成によると、乗降時に手や身体が操作具に近づいても手すりに先に当たることで、手や身体の操作具への接触を避けることができ、手すりが操作具を不用意な接触から守るガード部材として機能する。
手すりの下方空間がデッドスペースとなっているので、操作具や操作具に付属する部材の一部を手すりの下方空間に入り込ませて配備することで、手すりの設置スペースと操作具の設置スペースを一部共有することができ、その分、座席設置用の横幅スペースを大きく確保しやすいものとなる。
【0008】
従って、第1の発明によると、窮屈な着座を強いられることなく、かつ、不用意に操作具に触れるおそれなく、乗降することができる作業車の運転部構造を構成することができる。
【0009】
第2の発明は、上記第1の発明において、
前記操作具の一つが、車体後部に装備されたダンプ荷台をダンプ操作する前後揺動操作可能な操作レバーである。
【0010】
上記構成によると、エンジンをかけたまま車体を停止して乗降する際に、手すりで守られた操作レバーに誤って触れることがなく、ダンプ荷台を不用意にダンプ作動させてしまうようなおそれがなくなる。
【0011】
第3の発明は、上記第2の発明において、
前記操作レバーを中立位置に係止保持するロック部材を前記手すりの下方空間に入り込ませて配備してある。
【0012】
上記構成によると、操作レバーに属するロック部材の設置スペースと手すりの設置スペースを一部共有することができ、その分、座席を設置する横幅スペースを大きくするのに有効となる。
【0013】
第4の発明は、上記第1〜3のいずれか一つの発明において、
前記操作具の一つが、エンジンの回転速度を調整するハンドアクセル操作具である。
【0014】
上記構成によると、エンジン回転速度を任意の高速状態に保持しておくことが可能となり、例えば、エンジン動力で駆動される油圧ポンプから送出された圧油でダンプ荷台昇降用の油圧シリンダを作動させる場合や、油圧ポンプから送出された圧油を取出して、付設された油圧駆動型のインプルメントを駆動するような場合に、エンジン回転速度を高速状態に保持して、油圧ポンプから圧油を十分に送出するように使用することができる。
【0015】
第5の発明は、上記第1〜4のいずれか一つの発明において、
前記操作具の一つが、左右後輪用のデフロック機構を入り切り操作するデフロック操作具である。
【0016】
上記構成によると、デフロック操作具の操作で左右後輪用のデフロック機構を入り(デフロック)状態に保持しておくことが可能となり、急傾斜の登坂やぬかるみの多い走行地などでは、デフロック状態に維持して左右の後輪を等速駆動することで、後輪の片スリップによって蛇行することなく走行することができる。
この場合、乗降する際に、手すりで守られたデフロック操作具に誤って触れることがなく、デフロック操作具を不用意に操作してしまうようなおそれがなくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1および図2に、多目的の作業車の側面および平面がそれぞれ示されている。この作業車は、前半が低く後半が高い段違い状に形成された車体フレーム1の前後に、独立懸架された左右の操向自在な前輪2と、独立懸架された左右の後輪3とが装備されるとともに、車体フレーム1の後半部下方に原動部4が配備され、車体フレーム1の前後中間に運転部を構成する運転キャビン5が設けられ、かつ、車体フレーム1の後半部上方に油圧シリンダ6によって後部支点p回りに上下に揺動されるダンプ荷台7が配備された基本構造を備えている。
【0018】
原動部4は、車体フレーム1の後半部下方に防振状態に連結支持したマウントフレーム8に、前後に直結されたエンジン9とミッションケース10を搭載して構成されており、図3に示すように、エンジン動力がミッションケース10で変速された後、後部デフ装置11を介して左右に取り出されて後輪3に伝達されるとともに、ミッションケース10から車体前方へ向けて取り出された変速動力が前部デフ装置12に軸伝達された後、左右の前輪2に伝達されるようになっている。
【0019】
後部デフ装置11にはデフロック機構11rが装備されて、運転キャビン5の内部足元に配備されたデフロックペダル13に連係されており、デフロックペダル13を踏み込み操作している間だけデフロック状態がもたらされて、左右の後輪3が等速駆動されるようになっている。
【0020】
前輪2への伝動系、および、後輪3への伝動系にはそれぞれ多板式のブレーキ14,15が装備されている。前輪用のブレーキ14は、内装されたピストン(図示せず)を油圧操作で変位させることで摩擦板の圧接操作を行うよう構成され、図4に示すように、後輪用のブレーキ15はブレーキ操作レバー16を油圧式の操作シリンダ17によって揺動操作して、内装されたカム(図示せず)を回動することで摩擦板の圧接操作を行うよう構成されている。前輪用のブレーキ14および操作シリンダ17は、運転キャビン5の内部足元に配備されたブレーキペダル18によって操作されるマスターシリンダ19に配管接続されており、ブレーキペダル18を踏み込んでマスターシリンダ19から圧油を送出することで、前輪用のブレーキ14が操作油圧の大きさに応じて前輪2を摩擦制動するとともに、操作シリンダ17が退入作動して後輪用のブレーキ15が操作油圧の大きさに応じて後輪3を摩擦制動し、ブレーキペダル18の踏み込みを解除することで操作油圧が消滅して前後のブレーキ14,15が制動を解除した状態に復帰するよう構成されている。
【0021】
運転キャビン5は、その左右に揺動開閉可能なドア21を備えており、この運転キャビン5の内部後方に、左側を運転席、右側を助手席とした二人掛け用の座席22が配備されている。図5に示すように、座席22の前方左側には操縦ハンドル23と変速レバー24が設けられるとともに、その足元に前記ブレーキペダル18と加速ペダル25が設けられている。
【0022】
図3に示すように、加速ペダル25は、ミッションケース10に装備した静油圧式無段変速装置(HST)26と、エンジン9に備えられたアクセル装置27に機械連係されており、加速ペダル25の踏み込みに連れて静油圧式無段変速装置26の増速操作とアクセル装置27の加速操作が行われ、加速ペダル25の踏み込みを解除すると、静油圧式無段変速装置26の零速状態(停止状態)への復帰とアクセル装置27のアイドリング回転速度への復帰がなされるようになっている。
【0023】
図5〜図7に示すように、座席22の左右両横外側にはパイプ材を屈曲してなる手すり30が立設固定され、運転席側(車体左側)の手すり30の下方近傍に、駐車レバー31とその他の操作具が設けられるとともに、操作具類の後方上部におけるキャビン後壁部には、開閉可能なカバー28で蓋されたヒューズボックス29が配備されている。
【0024】
駐車レバー31は座席22に最も近く配備されており、図4に示すように、後輪用のブレーキ15におけるブレーキ操作レバー16にワイヤ連係されている。駐車レバー31を上方に引き上げ操作してラチェット爪32で係止保持することで、左右の後輪用のブレーキ15を制動作動させての駐車が行われ、駐車レバー31の先端に備えた解除ノブ33を押し込んでラチェット爪32を退避させながら、駐車レバー31を押し下げ揺動することで制動解除を行うようになっている。
【0025】
駐車レバー31の横外方箇所に、操作具の一つとして操作レバー34が前後に揺動操作可能、かつ、手すり30より上方に突出しない状態で配備されている。この操作レバー34は、ダンプ荷台用の油圧シリンダ6を作動制御する切換えバルブ35に連動連結されており、操作レバー34を後方に操作することで油圧シリンダ6を伸長作動させてダンプ荷台7を上昇(ダンプ)させ、操作レバー34を前方に操作することで油圧シリンダ6を短縮作動させてダンプ荷台7を復帰下降させ、操作レバー34を前後中間の中立位置に操作することで油圧シリンダ6を固定するよう構成されている。
【0026】
この操作レバー34の左横側には、金属板材からなるロック部材36が前後向きの支点r周りに回動可能に設けられている。このロック部材36は、操作レバー34の操作径路に重複するロック作用位置と、操作径路から左外方に退避したロック解除位置とに反転回動可能となっており、ロック解除位置のロック部材36は手すり30の下方空間に入り込むように配置されている。図5に示すように、操作レバー34を中立位置に操作した状態でロック部材36をロック作用位置に切換え回動することで、ロック部材36に形成した凹部37に操作レバー34を係入固定し、操作レバー34が中立位置から前後に操作されることを阻止する。
【0027】
操作レバー34の後方に、他の操作具として上下に押し引き操作されるハンドアクセル操作具38とデフロック操作具39とが前後に並べて配備されている。ハンドアクセル操作具38とデフロック操作具39は共に上下に押し引き操作式に構成されており、操作頻度の高い後方のデフロック操作具39が操作頻度の低い前方のハンドアクセル操作具38よりも高い位置に配備されている。
【0028】
ハンドアクセル操作具38は引き上げ位置に摩擦保持されるようになっており、前記アクセル装置27の図示されないアクセル操作機構に、加速方向への操作が可能に接当連係されている。通常、ハンドアクセル操作具38は押し下げ位置に操作されており、この時、アクセル装置27は上記のように加速ペダル25の踏み込み具合に応じて任意に加速および減速操作される。ダンプ荷台7を作動させる際に、ハンドアクセル操作具38を引き上げ保持してエンジン回転速度を高く維持しておき、ミッションケース10に装備した油圧ポンプ40の出力を高めておく。
【0029】
デフロック操作具39も引き上げ位置に摩擦保持されるようになっており、デフロック機構11rとデフロックペダル13との連係機構に連動連結されている。通常、デフロック操作具39は押し下げ位置に操作されており、この時、デフロック機構11rにデフロックペダル13を踏み込み操作している間だけデフロック作動する。急傾斜の登坂やぬかるみの多い走行地などでは、デフロック操作具39を引き上げ保持しておくことでデフロロック機構11rをデフロック状態に維持し、後輪3の片スリップによって蛇行することなく走行することができる。
【0030】
〔他の実施例〕
(1)図8に示すように、前記ハンドアクセル操作具38とデフロック操作具39とを操作レバー34の後方において左右に並べて配置してもよい。この場合、操作頻度の高いデフロック操作具39を機体内側、操作頻度の低いハンドアクセル操作具38を機体外側に配置すると使い勝手がよい。
(2)図8に示すように、油圧ポンプ40から送出された油圧を作業用動力(PTO動力)として利用できるよう構成した機種においては、油圧ポンプ40と油圧取り出しポート41との間に開閉バルブ42を介在させることになり、この開閉バルブ42を操作する押し引き式の操作具43を前記操作レバー34の前方箇所に設けて実施するとよい。この作業用動力を取り出して油圧駆動式のインプルメントなどを駆動する際には、ハンドアクセル操作具38を引き上げ保持して、油圧ポンプ40の出力を高めておく。
(3)前記手すり30を前向きの片持ち状に構成して実施することもできる。
(4)上記実施例では運転キャビン付きの運転部5を搭載した仕様の機種を例示しているが、日除け(キャノピー)だけを装備した開放型の運転部5を搭載した仕様の機種に本発明を適用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】作業車の全体側面図
【図2】作業車の全体平面図
【図3】伝動系の平面図
【図4】ブレーキ系の構成図
【図5】運転部の平面図
【図6】座席横の操作構造を示す側面図
【図7】座席横の操作構造を示す斜視図
【図8】別実施例の操作構造を示す平面図
【符号の説明】
【0032】
5 運転部(運転キャビン)
7 ダンプ荷台
9 エンジン
11r デフロック機構
22 座席
30 手すり
34 操作具(操作レバー)
38 ハンドアクセル操作具
39 デフロック操作具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転部における座席の横外側に手すり、および、操作具を配備し、側面視で前記手すりの下側に前記操作具が位置するよう構成してあることを特徴とする作業車の運転部構造。
【請求項2】
前記操作具の一つが、車体後部に装備されたダンプ荷台をダンプ操作する前後揺動操作可能な操作レバーである請求項1記載の作業車の運転部構造。
【請求項3】
前記操作レバーを中立位置に係止保持するロック部材を前記手すりの下方空間に入り込ませて配備してある請求項2記載の作業車の運転部構造。
【請求項4】
前記操作具の一つが、エンジンの回転速度を調整するハンドアクセル操作具である請求項1〜3のいずれか一項に記載の作業車の運転部構造。
【請求項5】
前記操作具の一つが、左右後輪用のデフロック機構を入り切り操作するデフロック操作具である請求項1〜4のいずれか一項に記載の作業車の運転部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−94179(P2008−94179A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−276264(P2006−276264)
【出願日】平成18年10月10日(2006.10.10)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】